リリス
アダムがエヴァと一緒になる前の最初の妻
リリス (Lilith) は、ユダヤの伝承において男児を害すると信じられていた女性の悪霊である。リリトとも表記される。通俗語源説では「夜」を意味するヘブライ語のライラー(Lailah)と結びつけられるが、古代バビロニアのリリートゥ(後述)が語源とも言われる。
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伝説
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ユダヤ教
メソポタミア
旧約聖書ではエドムの荒廃について書いている『イザヤ書』34:14に言及がある。
荒野の獣はジャッカルに出会い 山羊の魔神はその友を呼び、לִּילִ֔ית lî-lîṯ,は、そこに休息を求め 休む所を見つける。
イザヤ書の成立は前6世紀ごろで、この時期はむしろバビロニアの妖怪リリートゥが言及されている時期と一致している。ブレア (2009)によると、リリスはヨタカである。
七十人訳聖書は、リリスをオノケンタウロス(onokentauros)
ヒエロニムスはリリスをラミアと翻訳した。
リリス(לִּילִית, リリト Lilit)は夜の生物であった。古代メソポタミアの女性の霊リリートゥがその祖型であるとも考えられている。
ユダヤ教の宗教文書タルムードおよびミドラーシュにおいては、リリスは夜の霊であり、創世記にある最初の女とされ、そのリリスの子どもたちはヘブライ語でリリンとも呼ばれる。
アダムと別れてからもリリスは無数の霊たち(シェディム)を生み出したとされ、13世紀のカバラ文献では悪霊の君主であるサマエルの伴侶とされた。
現代ではリリスは女性解放運動の象徴の一つとなっている。
最初の女としてのリリス
アダムがエヴァと一緒になる前の最初の妻の根拠は、聖書の創世記の1章27節に記述がある
神は自分のかたちに人を創造された。すなわち、神のかたちに創造し、男と女とに創造された。
And God created man in His own image, in the
image of God created He him; male and female created He them.
כז וַיִּבְרָא אֱלֹהִים אֶת-הָאָדָם בְּצַלְמוֹ, בְּצֶלֶם אֱלֹהִים בָּרָא אֹתוֹ: זָכָר וּנְקֵבָה, בָּרָא אֹתָם. 27
後の第2章21節で神はアダムの肋骨からエヴァを作っているので、1章27節の女性とは別であるという解釈です。
リリスは8世紀の書物「ベン・シラのアルファベット」に記述されているように、
中世初期のラビたちによっての創作とされていたが、死海文書の発見でユダヤ教の初期から認知されていた可能性が高まっている。
リリスがアダムの最初の妻であるとした中世の文献は『ベン・シラのアルファベット』で、8世紀から11世紀ごろにかけて執筆された(著者不詳)。それによれば、アダムの最初の伴侶となるはずであったリリスは、アダムと対等に扱われることを要求し、同じく土から造られたのだから平等だと主張してアダムと口論となった。
「彼女は『私は下に横たわりたくない』と言い、彼は『私はきみの下になりたくない、上位にしかいたくない。きみは下位にしかいてはならないが、私はきみより上位にいるべきだ』と言った」
リリスは神の名を叫んで飛び出し、紅海沿岸に住みついた。
後の盲目の悪魔君主、当時の大天使であるサマエルや牛・羊・人の3面キマイラ・アスモデウスと交わり、子を産み落としていた。
アダムは神に、リリスを取り戻すように願った。そこで3人の天使たちが彼女のもとへ遣わされた。セノイ(en:Senoy)、サンセノイ(en:Sansenoy)、セマンゲロフ(en:Semangelof)という3人の天使たちである。天使たちは紅海でリリスを見つけ、「逃げたままだと毎日子供たちのうち100人を殺す」と脅迫したが、リリスはアダムのもとへ戻ることを拒絶した。神はリリスの下半身を蛇に変え、生まれてくる子供のうち100人の命を奪うという宿命を背負わした。するとリリスは自ら身を投げたが天使たちがリリスを蘇生させて救う。天使たちに「わたしは生まれてくる子どもを苦しめる者だ」、ただし「3人の天使たちの名の記された護符を目にした時には、子どもに危害を加えないでやろう」と約束したのである。
ユダヤ人の伝統では、生後8日以内の男子と生後20日以内の女子はリリスに害されるおそれがあるとされ、妊婦と新生児を守る護符にはこの3人の天使の名が刻まれた
『ベン・シラのアルファベット』の背景と目的はよくわかっていないが、聖書とタルムードの英雄たちの物語集成であり、民間伝承を集めたものなのだろうが、キリスト教やカライ派などの分離主義運動に反駁するものでもあった。内容は現代のユダヤ教徒にとっても攻撃的なものなので、これは反ユダヤ主義的な諷刺であるとさえする説もある。このテクストは中世ドイツのユダヤ教神秘主義者たちに受け入れられた。
『ベン・シラのアルファベット』はこの物語についての現存最古の資料だが、リリスがアダムの最初の妻であるという概念は17世紀ごろヨハネス・ブクストルフ(en:Johannes Buxtorf)の『タルムード語彙集』(en:Lexicon Talmudicum)によってようやく広く知られるようになったに過ぎない。
というのがユダヤ教の表向きの見解です。
しかし、紀元前6世紀にはすでにまとめられていた、という説が支持され、死海文書からもリリスについて言及している箇所が発見された。
ユダヤの伝承
新生男児の割礼のとき、リリンから守るために首のまわりに3つの天使の名前が書かれた護符(後述)を置くという風習がある。この伝統は、リリスが中世の文筆家による創造ではなく、より初期のヘブライ神話にも存在していたという議論に重みを与える。また、ヘブライには、リリスが男児だけを狙うので、この妖怪を騙すために男の子の髪を切るのをしばらく待っておく、という風習もある。
死海文書
『賢者への歌』(4Q510-511)のなかの言及であり、そしてもう一つはA・バウムガルテン(A. Baumgarten)によって発見された『男たらし』(4Q184)における、おそらくそれらしい引用である。
そして、私、指導者は、神の栄光ある輝きを、全ての破壊の天使たち、私生児の精霊たち、悪霊たち、リリス、叫ぶもの、そして[砂漠に棲むもの……]を震え上がらせ、恐れさせるために、唱える。
この典礼文書は「イザヤ書」34:14と近縁関係にあり、超自然的な敵対存在への注意を喚起するとともに、リリスがよく知られていた存在であったということも教えてくれる。しかし聖書のテクストから区別されるのは、このくだりがいかなる社会-政治的な議題においても機能しないということであり、むしろ『悪魔払い』(4Q560)や『悪霊を追い払う歌』(11Q11)と同様の役割を果たしており、呪文によって構成されている。
「こうした精霊たちの力に対して義人たちを助け、守る」ために利用されたのだ。
4Q184の『男たらし』は前1世紀か、おそらくはもっとさかのぼるこの詩歌は、危険な女性について述べ、続いて彼女との遭遇に注意するように言っている。従来は『箴言』の第2章と5章にみられる「よその女」のことだと思われていた。
彼女の家は死へ落ち込んで行き
その道は死霊の国へ向かっている。
彼女のもとに行く者はだれも戻って来ない。
命の道に帰りつくことはできない。
— 『箴言』2章18-19節
彼女の門は死への門であり
その家の玄関を 彼女は冥界へと向かわせる。
そこに行く者はだれも戻って来ない。
彼女に取り憑かれた者は穴へと落ち込む。
— 死海文書4Q184
箴言における「よその女」という表現はクムランにおいては「男たらし」となっている。
箴言に表現されている女性は遊女で、対照的に、死海文書における「男たらし」は、特に禁欲的なクムランの共同体にとっては縁のなかった社会的脅威(つまり遊女)の表象ではありえない。
となると、死海文書は箴言におけるイメージを利用して、より広い意味での超自然的な脅威、すなわち女の悪霊リリスを詳述したのではないかと考えられるのである。
タルムード
タルムードにおいてリリスは翼と長い髪を持つとされているが、これは現存する最古の言及(ギルガメシュ叙事詩)にまで遡る。
ラビのユダはサムエルを引用して「もしも流産がリリスのようであったら、母親は誕生によって穢れている。なぜなら子供であるが翼があるからである」
— ニッダー篇24b
[女性による呪いについて詳述するなかで]バライタ(Baraitha)においてこう教えられた。彼女はリリスのように髪を長く伸ばし、獣のように水を漏らして座り、彼女の夫に長枕のように仕える。
— エルビン篇100b
すでに『男たらし』で暗示されているが、タルムードにおける特徴的なリリスについての言及は、その不潔な肉欲であり、ここでは男性たちが寝ているときに性的に彼らに近づくために女性の姿をとる女悪魔についてのメタファーとしてまで拡張された。
ラビのハンナが言うには、「人は[誰もいない]家の中で一人では寝られない。そこで寝るものはリリスに押さえつけられる」
— シャバト篇151b
しかしながらタルムードに見られるもっとも個性的な認識は、エルビン篇の最初のほうにある。そこには何世紀にも渡って続くリリス神話を不注意にも運命付けた責任がある。
エレアザルの子、ラビのエレミヤはさらに述べた。「アダムが禁止されていたこの年月[エデンの園を追放されてからの130年]の間、彼は亡霊、男の悪霊、そして女の悪霊[または夜の悪霊]をもうけた。聖書に『アダムは百三十歳になったとき、自分に似た、自分にかたどった男の子をもうけた』[創世記5:3]とあるからである。
つまり、ここまでの間、彼は自分に似た、自分にかたどった子供をもうけなかったということである。彼は130年の間断食し、130年の間妻との関係を断ち、130年の間イチジクの衣を着ていた。[ラビのエレミヤによる]この記述は、彼が偶然漏らした精液について参照したときのものである。」
— エルビン篇18b
エルビン篇18bとシャバト篇151bを『ゾーハル』の「彼女は夜に徘徊し、人の息子たちを悩ませ、彼ら自身を穢すようにする」(19b)を比較すると明らかなのは、タルムードのこのくだりがアダムとリリスが一緒になるのを嫌っているということ示唆している、という点である。
カバラ
カバラの文献である13世紀の『左方の流出について』によると、リリスはサマエルの妻である。
その他、彼女はアダムの妻ということになっている(『ヤルクト・レウベニ』(Yalqut Reubeni)、『ゾーハル』1: 34b, 3: 19[3])。
カバラでは下半身が蛇の裸の女性として描写されている。
創世記3章1節の蛇はルシファーが変身したものだという説が有力だが、リリスだという解釈もある。
サキュバスとリリスは同一視される。
眠っている男性を誘惑して、悪霊の子供をなす。
リリスは他の悪魔と違い、終末の時まで死ぬことも消滅することもない。
この力は大海の覇者レヴィアタンだけ。
Livyatan旧約聖書(『ヨブ記』『詩編』『イザヤ書』など)で、海中に住む巨大な聖獣として記述されている。
神が天地創造の5日目に意思のない生き物として造りだした存在で、同じく神に造られたベヒモスと二頭一対(ジズも含めれば三頭一鼎)を成すとされている(レヴィアタンが海、ベヒモスが陸、ジズが空を意味する)。
ベヒモスが最高の獣と記されるのに対し、レヴィアタンは最強の獣と記され、その硬い鱗と巨大さから、いかなる武器も通用しないとされる。世界の終末には、ベヒモス(およびジズ)と共に、食物として供されることになるらしい。
語源
ヘブライ語のリーリース (לילית) とアッカド語のリーリートゥ(līlītu)は先セム語の語根 "LYL"(夜)からきた女性形ニスバ en:nisba 形容詞であり、字義的には「夜の」つまり「夜の女性的存在」になる、と一般的に言われている。
しかし何人かの学者は語根LYLをもとにした語源論を否定し、リーリートゥの起源は嵐の妖怪である、と考えた。この説は楔形文字文書によっても裏付けられている。
対応するアッカド語の男性名詞リールー(līlû)にはニスバ接辞が存在せず、むしろシュメール語のキスキル=リラ(kiskil-lilla)と比較されている。
アッカド神話
キスキル=リラ
リリスは、シュメール語の『ギルガメシュ叙事詩』序に見える女性の妖怪
キ-シキル-リル-ラ-ケ ki-sikil-lil-la-ke4 と同一視されてきた。
リリスの現れる箇所はS. N. クレイマーの訳によると、
竜がその木の根元に巣をつくり、
ズー鳥が頂で若鳥を育て、
そして妖怪リリスが中ほどに住処を作っていた。
(中略)
それからズー鳥は若鳥とともに山地へ飛んでいった
そしてリリスは、彼女の住処を壊して荒野へと逃げ帰った
ヴォルケンシュタインは同じ部分を次のように訳している。
惑わされない蛇は木の根元に巣をつくり、
アンズー鳥はその若鳥を木の枝で育て、
闇の娘リリスは住処を幹に作っていた
バーニーの浮彫
バーニーの浮彫, c. 1800
BCE - British Museum, ME 2003-7-18,1
上に引用したギルガメシュ叙事詩のくだりは、おおよそ前1950年ごろのバーニーの浮彫(ノーマン・コルヴィル・コレクション(Norman Colville collection))に当てはめられることがある。そこには脚が鳥の鉤爪になり、両脇にフクロウを従えた姿の女性が彫られている。
この同一視における重要なポイントは鳥の脚とフクロウである。この浮き彫りはおそらくギルガメシュ叙事詩の妖怪キシキルリルラケかその他の女神を表現したものだろうと考えられているが、実際のところリリスとの関係は希薄であり、おそらく欽定訳聖書におけるリリスの訳語 screech owl (キーキー鳴くフクロウ、あるいはコノハズクかメンフクロウ)にひきずられたものだろう。非常に類似した同時期の浮き彫りはルーヴル美術館に所蔵されている(AO 6501)。
メソポタミアのリリートゥ
これらの浮き彫りのあとにはおよそ1000年ほどの空白期間がある。次に現れるのは前9世紀ごろのバビロニア悪魔学からで、そこではリルと呼ばれる吸血鬼のような精霊が知られている。こうした妖怪は闇の時間帯にさまよい歩き、新生児や妊婦を狩り、殺す。アッカド語のリリートゥはアルダト・リリー(Ardat Lili)(サソリの尾を持つ狼)およびイドル・リリー(Idlu Lili)と三幅対をなす。上記のように、おそらくこれらの存在は嵐の精霊であり(シュメール語のリル lil、「大気」「風」に由来する)、「夜」との関連はセム語の民間語源説なのだろう。
初期シュメールの神話には、アダパが、南風の翼を破壊したという物語があるが、それ以来彼女(南風)は人類に敵意を抱くようになったらしい。この風は、神々の王エンリルの妻であるニンリル[注 3]と関連づけられている。ある神話の断片によれば、エンリルがニンリルを強姦し、その罰として彼はエレシュキガルの領地である冥界へと追放された。ニンリルは強姦のトラウマに苦しめられ、世界を放浪したのち、エンリルを追って冥界へ降り、男性への復讐を誓った。
シュメール神話からバビロニアのアッカド神話への移行における変化によって、風の女神ニンリルは、彼女の2人の召使(アルダト・リリーおよびイドル・リリー)とともにリリートゥ(-*ituはアッカド語の女性形接尾辞)になったのではないかと考えられる。
アルスラン・タシュの「リリス除魔法」(アレッポ国立博物館)と呼ばれている資料は、偽造ではないかと疑われているものの、もし真正なものだとすればだいたい前7世紀ごろの飾り板であり、そこにはスフィンクスのような怪物と牝オオカミが子供を食っている様子が描かれ、フェニキア文字でスフィンクスのような怪物をリリ(Lili)と注記している。
リリスとフクロウとの関連がいつごろに遡るのかについてはわからないが、おそらくこの鳥が吸血性の夜の精霊だとみなされたことによるものだろう。この習俗は古代ギリシアにおいて広まり、復讐の女神エリーニュスや夜の女神ヘカテーにそれを確認することができる。
母権から父権へ
母権社会 産む女性の力が大切
母権と父権が同等の社会 雨と慈雨の神バアルと妹であり妻であるアナトを信仰
父権社会 ユダヤ教社会 リリスが悪役に描かれる
近代の呪術・魔術
エルサレムのイスラエル博物館所蔵の18・19世紀のイランの新生児用護符は鎖につながれたリリスを描き、両腕の下には「鎖につながれたリリス」と書かれている。
黄金の夜明け団のカバラ体系では、リリスは「夜の女王にして悪霊たちの女王」とされ、生命の樹の第10のセフィラであるマルクトのクリファに位置づけられている[13]。アレイスター・クロウリーの『De
Arte Magica』ではリリスは4人のサキュバスの1人として登場する。他の3人はマハラト、ナマア、エイシェイト・セヌニム。
文学・映画・絵画
リリスの伝説に基づいた文学作品に、アナトール・フランスの「リリトの娘」、ジョージ・マクドナルドのロマン主義的幻想小説『リリス』などがある。
リリス (映画) - ロバート・ロッセン監督 1964年
ジョン・コリアのリリス ロセッティのレディ・リリス