時を友だちにする こちらが無理していたことが、むこうからなにもしなくても助けてくれる
糀 味噌 醤油 酒 酢 だし みりん
酵や熟成など微生物と酵素にお願いする方法が色々あります。
糀 米コウジ 鍋一つで作るシンプル糀
これが作れると、味噌、醤油、どぶろく、塩麹、甘酒、べったら漬け、三五八漬けなど次々といろなものがつくれます。糀は砂糖が貴重だった頃の甘味ですので、今でも砂糖を足す代わりに使うと利用法が格段に増えます。
店で買うと一キロ2000円、自分で作ると楽しい上に300円でできちゃいます。100グラムならば30円。
鍋の三分の一に米を入れて、水に漬けて、炊く。専門家は炊いてだめで蒸すように指導していますが、売るものではなく、自分で使うものならば問題がありません。蒸した方が、より水分の少ない麹ができます。
はじめのポイントは鍋。鍋の底が厚かったり、複層になっているものが焦げつきが少なくて良いです。
次のポイントは芯まで柔らかく炊くこと、それでいてできるだけ少ない水分でパサパサの方が良い。
米はくず米やタイ米の方が水分の少ない米が炊けることが多いです。2,3度試してみると、中までちゃんと炊けていてなおかつ水分の少ない炊き方ができてくると思います。水分が多くても使えるので、そのまま続けてください。
次に炊けた米に麹菌を入れます。前回作った麹を入れるのですが、初めての場合は下記のような粉状の麹菌か近くの店で売っている麹をほぐして入れます。 量の目安は米一キロごとに種麹5グラム、慣れてくれば、2グラムぐらいでもできます。
鈴木こうじ http://www.suzukikoujiten.com/10.html
Kozi-za http://www.koji-za.jp/item/tanekoji.php
櫻井麹店 http://www.sakura-jp.info/syouhinitiran.html
ポイントは全体に振り撒いて混ぜること、とその時の炊けた米の温度です。
ものの本やHPには40度ぐらいに米がさめた時に入れるのが多いですが、私は間違えて80度で入れてしまったことがありますが、できました。ただ、熱で何割かの麹が死んでしまったため、保温の時間を数時間長くしなければなりませんでした。 60度ぐらいならば体験レベルでは問題はありません。(顕微鏡レベルではデータを持っていないのでご存知の方がいればご一報お願いします)
次に保温です。ポイントはずばり温度です。30度から40度ぐらいで48時間、保温します。ベストは33度ぐらいでしょうか?別に30度以下や45度以上になってもできますが、菌が活発に増えなく時間がかったり、他の菌が元気になる可能性が増えます。
いろいろな保温法がありますが、私は鍋をそのままタオルや毛布で包むのが簡単でいいと思います。それをダンボールの中に入れます。そして40℃から50度に暖めたお湯を500mlから2リットルぐらいのペットボトル4本をダンボールの隅に入れて、その上から布団などをかぶせて保温します。一日に2度、ペットボトルを電子レンジなどで暖めて保温を続けます。一日たったら、蓋を開けて様子を見てください。白いカビが生えていますか? 麹菌が順調に増えていたら、独特の麹の香りがするはずです。この時に大きく掻き混ぜて、麹菌が間違いなく、全体にいきわたるようにします。 24時間後からは温度を保ちながら中の水分を減らすのがコツです。蓋にタオルなどをはさんで、ペットボトルを替える時などに新しいタオルにして交換するのも、いいでしょう。水分の少ない麹の方が保存性が高いです。
ただ水分が多くても、できてから早めに使えば問題ないので、面倒な方は蓋を開けたりしなくても出来上がります。 水分がある麹と水分が少ない麹の菌の割合の違い(顕微鏡レベル)を知っている方がいらっしゃいましたらご連絡ください、補記します。
二日(48時間)たてばできあがりです。温度が低くてまだ菌が少ないように感じるならば、また何時間か保温を続けてください。
出来上がった麹に5%から10%の塩を好みで足して混ぜれば、塩麹の完成です。
味噌
糀が作れるようになったら、次は味噌作りにチャレンジ。味噌は素人が作っても失敗しづらく、その家にいる菌が味噌の味を深くしてくれるので、手前味噌といわれるほど、各家にそれぞれの味がある。
味噌作りで大切なのは塩の量だけです。完成する総量の8%から12%が塩の適量だと思います。(0%から20%まで作ってみましたが)
後は豆と糀を混ぜ合わせれば、もう出来上がっています。材料も大豆の代わりに黒豆やひよこ豆でもできますし、糀も白米だけではなく、玄米でも発芽米でもタイ米でもくず米でもできちゃうし、麦麹も豆糀でも大丈夫だし、これらの糀を全部混ぜてミックスするのだってありです。時にはこれに雑穀やジャガイモなど好きなものも加えてみるのも楽しいです。 この項目の最後に私がよく作る味噌とその時のコツを書いておきます。
発酵期間は数日から数年まで。一般的に糀の量が増えれば発酵期間は短く、豆が多ければ発酵期間は長くなります。もうこれだけで味噌は完成なのですが、いくつかの豆知識を。
まずは豆と糀の割合で特徴や名前が変わります。
米味噌 米を直接麹にして作った味噌
大豆10+米麹 6⇒仙台味噌
大豆10+米麹 7⇒越後味噌
大豆10+米麹 8⇒信州味噌
大豆10+米麹10⇒江戸味噌
大豆10+米麹20⇒京風味噌
大豆10+豆麹10 ⇒八丁味噌=赤味噌
大豆10+麦麹 ⇒麦味噌=田舎味噌
袱紗味噌⇒白味噌と赤味噌を混ぜ合わせたもの。
あわせ味噌⇒越後と信州や 東京と仙台など2種類以上混ぜ合わせたもの。
味噌の種類は多数ありますが、大別すると普通みそとなめみそ(径山寺みそなど)に分けられ、一般に味噌といえば前者の方を指します。
種類 |
色・味の分類 |
通称 |
主な産地 |
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米みそ |
甘みそ |
白 |
白みそ、西京みそ、府中みそ、讃岐みそ |
近畿、広島、山口、香川 |
赤 |
江戸甘みそ |
東京 |
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甘口みそ |
淡色 |
相白みそ |
静岡、九州 |
|
赤 |
御膳みそ |
徳島 |
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辛口みそ |
淡色 |
信州みそ、白辛みそ |
長野、北陸、関東 |
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赤 |
赤みそ、仙台みそ、津軽みそ、越後みそ、佐渡みそ、加賀みそ、北海道みそ、秋田みそ |
北海道、東北、新潟、北陸、中国 |
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麦みそ |
甘口みそ |
麦みそ |
九州、中国、四国 |
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辛口みそ |
麦みそ、田舎みそ |
埼玉、中国、四国、九州 |
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豆みそ |
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豆みそ、八丁みそ、三州みそ、名古屋みそ、三河みそ |
愛知、岐阜、三重 |
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調合みそ |
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調合みそ |
愛知、静岡 |
種類 |
製造方法 |
米みそ |
煮た大豆に、米こうじ(米でつくった糀)と塩を混ぜて発酵させます。 |
麦みそ |
煮た大豆に、麦こうじ(大麦又ははだか麦でつくった麹)と塩を混ぜて発酵させます。 |
豆みそ |
豆こうじ(大豆でつくった糀)に、塩を混ぜて発酵させます。 |
調合みそ |
米みそ、麦みそ又は豆みそを混ぜる。 |
コラム
熟成中の味噌の中で起きていること。
糀の菌であるAspergillus oryzaeなどが生産した酵素のプロテアーゼやアミラーゼが米や豆のデンプンやタンパク質をブドウ糖、麦芽糖、ペプチド、アミノ酸に分解します。
アミノ酸は味噌の味の中心となる成分で、ブドウ糖や麦芽糖は甘味を与えると同時に、酵母や乳酸菌の栄養源となります。
塩に強い乳酸菌Pediococcus halophilusなどが増殖し、乳酸などの有機酸が生成されpHが下がります。この乳酸により原料臭が消失し、塩なれがよくなります。
pHが下がり、酵母の生育しやすい状態になると、Zygosaccharomyces rouxiiやCandida属の耐塩性酵母が増殖し、糖分からアルコールや微量の有機酸、エステルを、アミノ酸から高級アルコールを生成します。これらは味噌の香味形成に重要な役割を果たします。
私の基本 関東で作るときは江戸みそを作ることが多いです
材料は
鍋で作った水分のある糀
煮豆
塩
糀と煮豆の量は見た目で同じぐらいなので1対1の割合です 塩は10%ぐらい
道具は
容器
ミキサー
掻き混ぜるヘラ
豆を煮る
硬さは親指と薬指で挟んで潰れるぐらいまで煮ます。圧力鍋ならば圧がかかってから弱火にして10分ほど、その後に毛布に包んで1時間ぐらい。 毛布などを使わないのならば、圧がかかってから弱火にして20分ほどでしょうか?
コツははじめから蓋をしないで、開けたままにして、熱すると出てくる泡をすくってあげることでしょうか。理由はこの泡が圧力鍋の蒸気口に詰まるのを防ぐためです。この泡の成分はサポニン呼ばれるもので、水にも油にも溶ける性質を持つ配糖体です。近頃は動脈硬化予防などで評価されているようです。 少し、苦味があり泡立ちが良いので、私は取っておいてビールを作るときにホップ替わりに入れたりします。
煮込む時間は鍋ならば3時間から8時間ほどでしょう。
器具も気温も違うので、各家庭で試してみて、まだ硬ければもう少し煮ればいいし、柔らかすぎれば次回は煮る時間を短くして調節してください。
コラム
お湯よりも蒸気
昔は大量に作るときは蒸籠で何段にも重ねて蒸して調理することが多いようでした。
理由の一つは大きな鍋が必要ないこと、次々と作業を続けていけること、効率が良いこと、一つの熱源でまかなえることで薪が少なくてすむことなどです。
今でも糀を作るときや餅をつく時は、蒸籠を使う地方が多いです。
数年前に佐賀で餅つきに参加した時も一族から近所の人の分のもち米が必要なために朝からずっと、蒸籠を天井高く積み上げ、アルファ化されたものから順番に取り外して、杵でつき、一番上にまた水につけてあったもち米の蒸籠を積んでいました。大阪城を作る時もそばもこうやって、蒸されていました。昔の効率の良い大量生産の方法です。
煮豆を潰す
ミキサーやフードプロセッサーにかけて粒が残っているのから、完全に残らないのまで、好きな潰し具合にしてください。ミキサーが回りにくい時は煮汁を足してあげると、よく潰れます。耳たぶぐらいの柔らかさを目指しましょう。ドロドロでも味噌ができないことはないです。
糀と塩を混ぜる
塩分10%の味噌を作る場合は 糀と煮豆を足した量の10%の塩をはかり、その約7割を糀に混ぜます。後の3割は最後に上に敷き詰めますので、横に置いておきます。
コラム
なぜ糀に塩を混ぜるのか? 豆に塩はダメなの?
糀には糀菌のAspergillus oryzaeだけではなく、他の多くの雑菌も一緒に繁殖しています。そこで塩を混ぜることで塩に弱い菌を全部殺してしまおうというわけです。実はその時に糀菌も死んでしまいますが、糀菌が作った酵素があるので、米や豆を糖分やアミノ酸に分解してくれます。こうしておかないと、糀の中の菌が異常発生することがあるからです。
フィリピンで味噌を作った時に、塩を潰した煮豆に混ぜて作ったのですが、次の日の朝に見てみると、味噌がムース状になって容器から溢れかえっており、びっくりした事があります。 これも糀に塩を入れる塩切りをしていなかったため、糀の中の雑菌が煮豆の熱の力を借りて、たった一晩で倍ぐらいに発酵してしまったためでした。
やっぱり先人の経験がちゃんと塩切りという知恵として伝わるには、意味があるのでした。
味噌団子を作る
塩切り糀と豆のペーストをよく混ぜたら野球かソフトボールぐらいの大きさの団子を作ります。理由は空気の入らない塊にするためです。 空気が入ると好気性の菌が活発になって、私たちが求める味とは違う味噌ができてしまうからです。
できあがったら、それを容器の底の端から丁寧につぶしながら入れていきます。投げつけてもいいです。大切なのは空気をできる限り入れないようにすることです。
仕上げ
容器に詰めたら上を平らにならします。そして一晩おいてから、その上に残しておいた塩をふりかけます。そしてその上にサランラップを隙間なくかぶせ、蓋をすれば出来上がり。
一晩おくのは煮豆が熱を持っているので、そのまま蓋をしたりラップをしたら、一晩経つと水蒸気でびしょ濡れになり、カビを増やす環境を作ってしまうからです。
サランラップを敷くのはカビ対策です。カビが好きなのは適度な湿度と温度と空気です。味噌作りでは好気性の微生物の繁殖を抑えたいので、容器の上の部分に空気が直接当たらないようにラップを敷きます。
保管
直射日光が当たらりにくいところで数日から数年、熟成発酵を待ちます。白味噌だと数週間から、江戸味噌だと一年、赤味噌だと2年ぐらいです。
途中で蓋を開けてみるとカビがついてことがよくあります。匂いを嗅いでみて嫌いでなかったら、そのまま味噌の中に入れてしまってください。表面につくカビは空気が好きなカビで増殖したものなので、中に入れると空気がないため、そのうち消えてしまいます。安全面ではカビが生えたことで問題はありませんが、カビが発生したことにより、味や匂いは変化してしまったので、自分の嫌いな味や香りならばその部分は捨てたほうが良いです。
コラム
カビが生えていれば安全だと思え!?
全部で6万種のカビのうち人間に害があるのは100種類ほどであり、特に気をつけたほうがよいのは黄変米にあるカビ毒であるアフラトキシンだ。
その100種類ほどのカビ毒にしても、少ない量であれば急に病気になるようなものはまだ発見されていません。アフラトキシンとオクラトキシンには発癌性がありますが、今のところ他にはまだ発見されていません。
わが国のような温帯地域では、アフラトキシン(発癌性カビ毒)産生カビに当たる確率は低く、万が一、アフラトキシンを食べてしまったとしても、黄疸を伴う急性肝障害(致死率の高いアフラトキシン中毒)を引き起こす可能性はほとんどない。なぜなら、アフラトキシンによる急性食中毒が発生するのは、かなり高濃度のアフラトキシンB1を少なくとも数週間以上にわたって食べ続けた場合に生じているからである。アフラトキシンB1の慢性毒性については、ヒトの疫学調査の結果から、「体重1kgあたり1 ng/日の用量で生涯にわたり経口暴露した時の肝臓癌が生じるリスクは、B型肝炎キャリアーで0.3 人/10 万人/年、B型肝炎非キャリアーでは0.01 人/10万人/年(不確実性の範囲0.002〜0.03 人/10万人/年)」と推定されている。
元来ヒトの体は有害なものが入って来た時、解毒や排泄で健康を保つしくみが備わっているので、他のカビ毒であっても、1、2回の微量摂取で健康を害する心配はない。
しかし、現実に健康被害の心配がほとんどないからといって、食品にカビが生えてもいいというわけではない。食品は「安全性」と同時に「高度な品質」が求められる。「カビ」は「異物混入」として食品衛生法においては販売してはならないものとなっているだけではなく、衛生管理の指標とも見なされている。
カビはペニシリンなどの抗生物質,ジベレリンなどの植物ホルモンそのほか生理活性物質はもはや人間生活に欠くことはできない。このほか,発酵食品の酒・みそ・しょうゆはコウジカビの働きによるものだし、その他に、ケカビ,クモノスカビ,アカパンカビ,ベニコウジカビを使った食品が多くある。鰹節にもカビの脱水作用が利用されている。またチーズ製造にもアオカビやシロカビが多く使われている。約3万種をくだらないカビの研究調査によって有用菌の開発が進められている。
微生物は縄張り争いをしているので、カビが一面に生えるということは、他の微生物にとっては住み辛いということ。ということは食中毒を起こす下記の細菌にとっても繁殖するのは難しいということだ。
表1 わが国で指定されている食中毒微生物
細菌: サルモネラ属菌(Salmonella)
ぶどう球菌(Staphylococcus aureus)
ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)
腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)
腸管出血性大腸菌
その他の病原大腸菌
ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)
セレウス菌(Bacillus cereus)
エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)
カンピロバクター・ジェジュニ/コリ (Campylobacter jejuni/coli)
ナグビブリオ(Vibrio cholerae non-01)
コレラ菌(Vibrio cholerae 01)
赤痢菌(Shigella)
チフス菌(S.Typhi)
パラチフフA菌(S.Paratyphi A)
その他の細菌
エロモナス・ヒドロフィラ/ソブリア (Aeromonas hydrophila/sobria)
プレシオモナス・ジゲロイデス (Plesiomonas shigelloides)
リステリア・モノサイトゲネス (Listeria monocytogenes)
醤油づくり
豆と麦と塩と水だけで、できちゃいます。
味噌同様、簡単にできるのでだれにもお勧めです。
今回も気にするのは全体の水の量に対しての塩の量だけです。後はちょっとぐらい量が違っても旨い醤油ができちゃいます。
大まかに言うと、煮豆と麦を糀の力でアミノ酸と糖分に分解して美味しくしちゃおう、という簡単なことです。途中で空気中にある微生物のおかげでアルコール発酵も加わってよい香りがしちゃうという仕掛けです。
必要なのは
材料
大豆 3キロ
小麦もしくは小麦粉 3キロ
塩 2キロ
水 10リットル
糀菌 少々
道具は
鍋
掻き混ぜるヘラ
ビニール袋2枚か3枚
だけです。
まずは
大豆を煮ます
私は味噌の煮豆同様に圧力鍋を使います。味噌に比べて柔らかい煮豆にしたいので圧がかかってからの時間を長めにします。15分から25分ぐらいでしょうか。 それから圧が抜けるまで毛布にくるんでおきます。親指と小指に挟んで潰れるぐらいが目安です。
麦を焙煎する
その間に麦を軽く焙って、焦がさないようにしながら、芯まで火を通します(アルファ化させます)。
少し冷めてきたらフードプロセッサーなどで粒を砕いていきます。
小麦粉の場合は焙らなくそのままでも使えます。
麹づくり
煮豆と焙った麦を鍋の中でかき混ぜます。
そしてこれに麹菌を入れます。豆専用の麹もありますが、前に米糀を作ってあれば、それを片手いっぱい程取って、一緒に豆が潰れないように、ゆっくりと丁寧に混ぜます。
そして米麹作りと同じように温度を30度前後で二日間(45時間から48時間ほど)キープします。40度を超えると納豆菌が元気になる温度ですので要注意です。もし納豆の匂いが強くなっても大丈夫、温度を下げて、そのまま続けてください。水と塩を混ぜて、一年ほどすると納豆の匂いがなくなってきます。
ペットボトルにお湯を入れたものと、毛布を幾重にして保温します。 途中から菌が作り出す熱で、温度が上がりすぎるので、そういうケースでは冷ますことも必要です。
麹と水と塩をまぜて完成
大きなビニール袋を2重か3重にして、その中に水、塩、そして完成した麹を入れてかき混ぜます。容器はなんでもいいのでダンボールでもいいのですが、何かのことを考えて、保水性の高いものが良いと思います。昔は陶器、漬物用の樽などを使っていましたが、今は発泡スチロールの箱の中に入っています。
保管
直射日光の当たらないところで9ヶ月から2年ほど発酵させます。
空気が入らないようにすれば菌が繁殖しづらく、そのまま放置しておけます。ただし、はじめの数ヶ月は発酵が進み、泡も出てくるので、密閉にしておくと、ビニールの隙間から外にモロミ(熟成前の醤油)が溢れてきてしまいます。どれぐらいビニールを塞いで、空気との接点を少なくするかは、さじ加減が必要です。
空気との接点が大きれば、水面に菌が発生します。伝統的な作り方では、一週間に一度ほどは掻き混ぜて、水面の菌は水中に、水底の麹や塩を全体に均等になるようにすることが必要です。
圧搾
熟成したもろみを布に入れて絞れば、生しょうゆと粕に分かれます。この醤油が生揚(きあげ)醤油です。
次に生揚醤油を加熱します。香味・色沢の調熟、殺菌、酵素の失活、熱凝固物の除去が行われます。醤油の香ばしい風味はこの火入で生まれます。
コラム
香気成分 粟長醤油HP参照
醤油には、300種以上の香気成分が含まれると云われており、バラやバニラ、バター、ヒヤシンス、コーヒー、リンゴ、パイナップルの香りなど、多くの香りが複雑に存在します。その中でも醤油の特徴香とされるのが4-ヒドロキシ-2-(or5)エチル-5-(or2)メチル-3(2H)-フラノン、別名ホモフラネオールです。高濃度では強烈な甘い芳香を示しますが、数百ppm程度では正に本醸造醤油の香りになります。そのほかにキャラメル香を有する4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン別名フラネオールや4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン別名ノルフラネオールなど醤油が有するキャラメル香の一部です。これらフラノン類は酵母によりペントースとアミノ酸から生合成されると共に、メイラード反応でも生成します。
また、4-エチルグアイアコールを代表とする揮発性フェノール化合物も香りに寄与します。4-エチルグアイアコールは木クレオソート臭・薬品臭などと表現されるような臭気を示し、醤油に独特な燻煙香をもたらします。揮発性フェノール化合物は、小麦由来のリグニン分解物やアラビノキシランの側鎖に存在するフェルラ酸などを用いて、上述のCandida属の後熟酵母が産生することが報告されています。これらの成分が多すぎると薬品臭が強くなり、醤油の価値が下がりますので、製品の品質管理をする上で揮発性フェノール化合物は重要な化合物となります。
そのほかの醤油のにおいに関与する成分としてはメチオノールやマルトールがあります。アミノ酸のひとつであるメチオニンが変化して生成するメチオノールは薬品臭に似た臭気を有していますが、魚や肉などに由来する生臭さを緩和する働きを示します。また、マルトールはマルトースなど糖類に由来し、醤油のキャラメル香に寄与します。
コラム
樽の中で起こっていること 粟長醤油HP参照
麹の麹菌Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae などから生産された酵素(プロテアーゼやアミラーゼ)にて、原料中のデンプンやタンパク質が分解されブドウ糖、麦芽糖、ペプチド、アミノ酸となります。
アミノ酸は醤油のうま味の中心となる成分で、ブドウ糖や麦芽糖は甘味を与えると同時に、酵母や乳酸菌の栄養源となります。しかしこれらの麹菌は、食塩濃度が高く酸素の少ないもろみ中では繁殖できず、約2〜3ヶ月で死滅し、その後は酵素だけが働いて分解が行われます。
しだいに耐塩性の乳酸菌 Pediococcus halophilus などが増殖し、乳酸が生成されpHが下がります。この乳酸により醤油の味に締まりが付きます。
そして耐塩性の酵母 Zygosaccharomyces rouxii が増殖し、糖分からアルコールや微量の有機酸、エステルを、アミノ酸から高級アルコールを生成します。これらは醤油の香味形成に重要な役割を果たします。
しだいに Zygosaccharomyces rouxii は消失し、代わりに Candida 属の耐塩性酵母(Candida versatilis など)が生育してきます。この酵母は後熟酵母と呼ばれ、醤油香気の代表成分4-エチルグアヤコールや4-エチルフェノールなどを生成します。
このほかにも数種の細菌が共同作用して、熟成が進につれてアミノ酸、有機酸、アミン、エステル、アルコールなどが増え、香味は複雑なものになっていきます。また、アミノ酸と糖分(ペントース)が反応して色素が作られ、時間経過と共に着色していきます。
このように、もろみ中ではかび・酵母・細菌および酵素の絶妙な連係プレーが行われ、約6ヶ月〜1年ほどの時間をかけておいしい醤油が出来上がります。従来これら乳酸菌や酵母は自然発生的に生育していましたが、近年は品質を一定にするため選択培養して添加する場合もあります。また、製麹や発酵・熟成は温度や湿度、酸素、時間の管理が非常に微妙で難しいため、手作りでは同質の醤油ができることはありません。
コラム
色が黒くなるわけ 粟長醤油HP参照
さて、醤油の特長の一つに、使用法のバリエーションが豊富であることが挙げられます。食材にそのまま掛けても良し、食材を漬け込んでも良し、汁やタレを作る際には組成の中心となりますし、煮物の味付けにも欠かせません。また、蒲焼や照焼きなどの調理法では、加熱することで一段と風味が増すと共に独特の「照り」が出て、食材を引き立てます。醤油が齎す香気は、醤油製造時、及び調理時の加熱により起こるメイラード反応により生成します。
メイラード反応は、還元糖をアミノ酸、ペプチド及びタンパク質などアミノ化合物の共存下にて加熱した際に生じ、香気とメラノイジンと呼ばれる褐色物質を生成する非酵素的反応です。その反応は、アミノ化合物と還元糖が縮合しシッフ塩基を経て不可逆的にアマドリ転位生成物を形成する初期段階、アマドリ転位生成物が(その多くは脱水反応を経て)分解し、ジカルボニル化合物、不飽和カルボニル化合物、フルフラール類などを生成する中期段階、中期段階で生成した化合物が更にアミノ化合物と反応したり、反応生成物同士で重合する最終段階に大別されます。メイラード反応は転位、脱水、開裂などが連鎖的に発生する複雑な反応系であることや、多くの反応中間体は活性が高く、分離同定が困難であることから現在に至ってもその全容は十分解明されていません。
メイラード反応に関しては、生体内においてアルブミンやヘモグロビンなどのタンパク質と血中グルコースが反応して糖化(グリケーション)が進行し、その産物であるAGEs(advanced glycation endoproducts:糖化最終産物)が糖尿病、老化現象、認知症、癌、高血圧、動脈硬化症などに関与していることが良く知られていますが、食品分野においては加工や貯蔵の際に生じる着色、香気成分や抗酸化性成分の生成などに関わる非常に重要な反応となります。醤油の発酵熟成中、若しくは火入れの段階でこの反応が生じ、メラノイジンが形成されることにより醤油は独特の赤褐色となります。また、上述のフラノン類も加熱によっても生成します。醤油の香気は、乳酸菌や酵母により作られた有機酸や各種エステル、アルコール類とメイラード反応による生成物が絶妙なバランスで存在して初めて成立するのです。
コラム
醤油の不思議 粟長醤油HP参照
醤油は複雑且つ繊細なバランスで成り立っています。醤油には五味(甘味・酸味・塩味・苦味・うま味)が揃っており、その複雑な組成から相乗現象、対比現象、相殺(抑制)現象、変調現象などの味覚の特殊現象が起こります。例えば、塩鮭に醤油を掛けると相殺現象により塩味が抑制されます。また、煮豆を作る際には醤油を入れると甘味が増すのですが、これは対比現象により甘味が強調されるからなのです。
普段何気なく使っている醤油ですが、その中には昔の賢人の知恵と微生物の有難さが詰まっているのです