意識集中と自動反応回路

サマタ瞑想とヴィパッサナー瞑想  サマタ瞑想の限界

 

 

「自然な呼吸に意識を向ける」というマインドフルネスを実践してみると、心の中に次から次へと考えごとが浮かんできては消えていきます。そして時には、いつの間にかその考えごとにとりとめもなく巻き込まれてしまっている、ということに気づきます。

 

心の意識が呼吸から離れてはまた呼吸に戻る、ということを何百回も繰り返していると、しだいに呼吸に対して意識がそこ(呼吸そのもの)に留まっている時間が長く安定したものなっていきます。

 

この呼吸そのものとその感覚は自分の身体で「いま、ここ」で繰り広げられている現象であり、現在そのものでる、ということが分かってきます。

一方、心に浮かぶ「考えごと」の全ては、過去の記憶と未来の空想を組み合わせたものだ、ということも分かってきます。

 

また、その考えごとが的確なデータや論理性で成り立つものならば「考えごと」に意味があるかもしれませんが、殆どの「考えごと」とは表層的なデータと部分的な法則性と一時的な論理性から成り立っている統計的なものや概要的なものです。

また多くのケースでは、それらのデータ自体も偏ったものであれば、それらを統合した論理性は誤解や曲解や解釈を生み出すだけなので、いくら考えても適切な解決策が生じることはありません。

 

現在の「いま・ここの感覚」に夢中になっている、すなわち、過去や未来についての考えごとをしていない時にはヒトの心が苦しむことはありません。

このようなことがわかると、心の苦しみの原因はこの「考えごと」と「集中」に深い関連性があることがわかってきます。

 

 

 

また、この「いま・ここの感覚」に対して意識を集中させる状態を続けると、ヒトの認識のメカニズムが徐々に体感できるようになります。

別の瞑想法である「作成した自動反応回路(条件反射、感覚、感情、思考の回路)を弱体化するヴィパッサナー瞑想」を続けていると、考えごとの基盤になっている回路と体の感覚とには関連性があることがわかります。

心の安穏を維持しながら体の感覚に意識のスポットライトを当てることで、浮かんできた考えごとが再生される度にその回路の基盤が弱体化していく、というものです。

そしてトラウマのような回路と体の感覚を知覚することが簡単にできるようなると、その変化から自分の心の状態を察知することもできるようになります。

 

たとえば、呼吸が早くなったり、心拍性が上がったり、血脈が激しくなる時に、考えごとが次々と連鎖の渦を巻き始めます。

対して呼吸が少なく、心拍と血脈が穏やかな時には、考えごとに囚われることが減少します。

換言すると呼吸が浅い時には自分が考えごとに操作されており、呼吸が穏やかな時には自分が考えごとを操作している、ということです。

 

これは怒りや憎しみのときにも起こる現象なので、心の苦しみから逃れるときにも有効です。

ヴィパッサナー瞑想を練習すると、ほんの小さな「火種」くらいの状態でも素早く気づけるようになり、以前は気づくことができなかった「火だるま(思考が連鎖する)」に巻き込まれなくなります。 

この瞑想で火種が起こり、観察することでただ消えゆくさまを知覚できるようになるからです。

 

具体的には、

心の苦しみの原因である「自動反応回路」が発動するときがわかれば、心の中の苦しみを、呼吸や体の感覚の変化を通じて感じられるようになります。

心身がどんな状態であろうとも「平静に、ただ静かにあらゆる喜怒哀楽の現象を観察する」ことができるようになり、これまでは刺激信号に対して大きく反応して、次々と反応し続けるスパイラルに巻き込まれていたのが、「ありのままの刺激に対する必要最小限の反応」へと変化していき、苦痛が少しずつ減っていくことを経験します。

 

マインドフルネスでは、「苦しみも喜び」も本来は自然の摂理に従って変化し、やがては去ってゆくものであり、

生成と消滅を繰り返しであることを観察することを可能にしてくれます。

すなわち、「苦しみの中にいる人」から「苦しみを観る人」へと変わっていくのです。

急に苦しみがすべて消えるわけではありませんが、この変化が大事なはじめの一歩となります。

 

換言すると、心を持つ生命体は自動反応回路に操作されていることに気づくことができない状態から、自動反応回路があることに気づき、その回路のインプットとアウトプットがある過程に穏やかに寄り添うことが可能になります。

具体的には怒りに我を忘れたり、悲しみに沈み切ったり、憎しみが消えない状態から、私は怒りや悲しみや憎しみを感じていることを穏やかに自覚する状態に移行していきます。

 

この過程を繰り返し体験することによって過去に作成した自動反応回路が弱体化していきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集中とは?

集中とは、一つの物事に没頭し、外から受ける刺激を無視してしまう精神状態のことです。この状態に入るには、他の多くのことを無視しなければなりません。そして集中力とは、集中できる力のことを言います。

 

集中力は、ビジネスシーンにおいてももちろん重要です。困難な仕事に取り組み、創造的に考え、効率的に仕事をするために集中力は不可欠なのです。集中力があれば、物事をよりよく、より早く終わらせることができ、燃え尽き症候群を防ぐことも可能です。こういった集中力のメリットを得られることで、達成感をもって一日を終えることができます。

 

 

 

 

集中力が続かないのはなぜ?主な原因と対処法

そもそも、なぜ集中力は切れるのか?集中力が持続しない要因として、人間の脳の構造やメカニズムとの関連性が挙げられます。というのも、人間の脳は “集中しにくい造り” になっているのです。

集中力が持続しないことを悩む前に、本来人間の脳は勉強や仕事などに対して、“集中しにくい造り” である点を知っておくべきです。

 

脳の中で、「本能」「自律神経」「記憶」などの感覚的思考をつかさどる「大脳辺縁系」は、人間の生存本能に結び付いています。そのため、まわりで何かしらの異常が生じれば、即座に察知して自身を守れるよう、各所に注意を向けられるのです。一方でそのメカニズム自体が、集中力が持続しない要因になる場合もあります。

 

近年の情報化社会により、現代人はテレビやスマホ、その他のさまざまな媒体から、常に多くの情報を受け取ります。このような状況において、まわりに注意を向けずに一点集中する姿勢は難しいでしょう。

 

 

 

 

現代の職場では、集中力が途切れがちです。ここでは、集中できない人にありがちな 4 つの理由と、その解決方法をご紹介します。

 

[集中力が続かない原因 1] マルチタスクをしようとする

人間の脳は、生物学的、神経学的にも、ひとつのことに集中できるように構造されており、マルチタスクをこなせません。例え、マルチタスクをこなしているように見えても、実際は脳が、瞬時にタスクを切り替えているだけなのです。

 

一見、マルチタスクは効率がよさそうですが、一日中タスクを切り替えながら、仕事をこなしている場合、所要時間が 40% 長引き、ミスも 50% 増えると言われています。また、日本におけるビジネスマナーでは、電話やメールに対する素早い対応が求められるので、タスクの切り替えが増えてしまい、かえって集中力が切れ、業務効率が下がるという、負の連鎖につながるのです。

 

マルチタスクが可能であるというのは幻想です。

1 つの作業からもう 1 つの作業へとすばやく切り替えることを繰り返しているだけであり、切り替えのたびに時間とエネルギーが余分に失われます。そのため、1 つの作業に集中するほうが、ほぼどんな場合でも確実に効率的なのです。1 つの作業に集中し、それが終わってから次へ移ることで、無駄な切り替えコストを払わずに済みます。”

SAHAR YOUSEF 博士、カリフォルニア大学バークレー校、認知神経科学者

 

【集中する方法: フォーカスタイムを設ける】

一日中さまざまなタスクをこなすのではなく、特定のプロジェクトに集中するための時間を確保しましょう。集中時間を確保する方法として、タイムボクシングとタイムブロッキングという 2 つの方法があります。

タイムボクシングとは、タスクにかかる時間を予測し、そのタスクを完了するために必要な時間を確保する時間管理法です。タイムボックス (時間区切り) 中は、その時間が過ぎるまで他のタスクを無視します。

タイムブロッキングの概念も同様ですが、1 つのタスクに時間を割くのではなく、似たようなタスクをまとめて、1 つのタイムブロックですべてを完了させます。たとえば、メールに返信するための時間を確保するといった具合です。

 

いずれの方法をとるにせよ、フォーカスタイムを確保し集中力を持続させるには、以下のコツを参考にしてください。

 

カレンダーでタイムブロックを設定する。インスタントメッセージアプリで、「サイレント」「フォーカスブロック中」などのステータスを設定すると、同僚に集中モードに入っていることを知らせることができます。

 

気が散る原因を取り除く。メールやインスタントメッセージの通知をオフにして、作業に使わないアプリケーションやウィンドウを閉じます。スマートフォンは引き出しの中など目につかない場所に置いて、電話やメールに反応したくならないようにしましょう。

 

作業が終わったら、休憩をとる。できればパソコンから離れて、ストレッチや散歩など体を動かすことをおすすめします。気持ちをリフレッシュすることがポイントです。

 

 

[集中力が続かない原因 2]  受信トレイを監視してしまう

メールやメッセージングツールは仕事に欠かせないものですが、その誤用は職場で混乱を引き起こし、人々をバーンアウト寸前の状態に追いやっています。チームのコミュニケーションをまとめるどころか、情報がさまざまなアプリやグループに散らばってしまうため、サイロ化が生じています。

 

これらのツールはコミュニケーションに使用するものであり、規模の大小を問わずプロジェクト管理に使うものではありません。プロジェクトをメールやメッセージングツールで管理すると、通知のやり取りが延々と続いたり、情報が散らばってしまうため、集中力が途切れやすくなってしまうのです。

 

それにも関わらず、ナレッジワーカーの 80% が、受信トレイやその他のコミュニケーションアプリを開いたまま仕事をしていると回答しています。多くの人が、メッセージにすぐに返信しなければならないというプレッシャーを感じていますが、絶え間なく受信トレイを監視していると問題が発生します。作業を行いながら通知をチェックしていると、常にタスクを切り替えることとなり、新しいメッセージが受信トレイに入ってくるたびに仕事の勢いを失ってしまうのです。実際、仕事が中断された後に集中力を取り戻すのに、20 分以上かかることもあります。もし、2 時間の間に 3 回受信トレイをチェックしてしまっては、集中できたはずの時間の半分を失うことになるのです。

 

このように集中力を削ぐ通知があると、フロー状態やディープワーク (気が散らずに集中でき、難しい仕事をより速く、より効果的に達成できる精神状態) に入れなくなります。

 

 

電子書籍をダウンロード: ワークマネジメントとは?チームがワークマネジメントを必要とする理由

私の知り合いの多くは、従来の定時勤務から働き方が変わったと言います。会議や電話、メールのやり取りの合間に、15 分、30 分、45 分という小さな時間を確保し、その時間内に仕事をこなしているのです。”

SAHAR YOUSEF 博士、カリフォルニア大学バークレー校、認知神経科学者

 

集中する方法: メールやメッセージの返信をまとめて行う

2016年に MIT が行った研究によると、メールをまとめてチェックする人は、通知に頼ってメッセージに返信する人に比べて生産性が高いと報告されています。一日のうちに、メールやメッセージをチェックする時間を決め、まとめて処理することで To-Do リストの重要タスクを完了していく際に邪魔が入るのを避けられます。

 

メッセージやメールを処理する時間を確保する。できれば、午前と午後に 1 回ずつ、30 分のタイムブロックで始めてみてください。適切な頻度は仕事の内容によって変わります。たとえば、アカウントマネジャーの場合、顧客と緊密に連絡をとるために、もう少し頻繁にメッセージをチェックする必要があるでしょう。

 

通知をオフにする。どんなコミュニケーションアプリを使っていても、通知を一時停止するか、「サイレント」モードをオンにしておけば、アイコンやバナーが画面上に表示されることはないので集中力も続くでしょう。絶対に集中力を保ちたいときは、メールやメッセージのアプリを完全に閉じてしまいましょう。

 

都合のいい時間帯をチームに知らせる。好みの連絡方法をチームと共有し、通常メッセージに返信できる時間帯を知らせておきましょう。あなたがマネージャーである場合は、直属の部下にも同じことをするようにすすめてください。チームが Slack などのインスタントメッセージングアプリを使っている場合は、集中しているときやチャットができるときを示すステータスを設定しましょう。

 

 

 [集中力が続かない原因 3]  長時間のオンライン会議

認知神経科学者の Sahar Yousef 博士によると、対面での会議よりもビデオ通話の方が、集中するのにかなりの脳の力を使うそうです。実際、2020年に Microsoft が行った調査では、オンライン会議では 30 分でビデオ疲れが発生し、それを超えると集中力が低下することがわかっています。逆に、対面で話しているときは、通常 45 分から 60 分は集中力を保つことができます。

 

ビデオ会議は、実際には生理的な負担が大きく、注意力を維持するために神経を使う必要があります。一日の終わりに、体が疲れていて、注意力が完全に失われているのは、あなたのせいではなく、脳が過負荷状態になっているからなのです。”

 

集中する方法: オンライン会議を計画的に行う

30 分以内など、会議の時間を短くし効率的に行うことが、ビデオ疲れを軽減する最善の方法です。ここでは、集中力を切らせることなく会議を成功させるためのコツをご紹介します。

 

そもそも会議が必要かどうかを考える。ステータスレポートや非同期アップデートが、電話と同じかそれ以上の効果を発揮することもあります。さらに、非同期アップデートを行うと、チームは重要な仕事に集中する時間を確保できます。

 

議題を共有し、出席者が事前に読んでおくべき資料を用意する。議題があれば、トピックからトピックへと効率的に移ることができ、重要な内容を見逃すことがありません。また、事前に資料を共有しておくことで、出席者は議論をしたり解決策を提案したりする準備ができます。

 

チームの好みを考慮する。チームメンバーがいつ会議をしたいか、また、通常、集中して作業をしている時間帯はいつかを聞いてみましょう。たとえば、午前中に集中したい人が多い場合は、午後に会議を行うようにしましょう。

 

会議を数分早く終わらせる。連続で会議に参加すると、誰もが精神的に疲れてしまいます。会議と会議の間に数分間の休憩を挟むと、脳がリセットされます。特にこの時間にスクリーンから離れると効果的です。

 

ビデオ会議でカメラをオフにするか、画面上の自分の顔を付箋で隠す。ビデオ通話中に自分の顔を見ると、顔の認識を司る脳の部分が活性化し、集中力が余計に削がれてしまいます。「自分の顔を見るために全身鏡を持って会議室に入ってきた人がいると想像してみてください。ビデオ通話で自分の顔を見るのは、基本的にそれと同じことなのです」と Yousef 博士は言います。

 

 

 [集中力が続かない原因 4]  明確性の欠如

仕事中に集中力が続かない原因は、行う作業そのものの明確性が賭けているからかもしれません。仕事が明確であれば、どのような目標に向かっているのか、自分の役割の責任は何か、どのように仕事の優先順位をつけるべきかがわかります。しかし、明確でなければ、仕事の優先順位をつけたり、何がスコープ内で、何がスコープ外であるかを判断することは困難です。その結果、いくつものプロジェクトや複数のタスクに同時に気をとられたり、チャットやメールのような小さなタスクに没頭してしまったりしまい、集中力が切れてしまうのです。

 

明確さを欠くことは、よくあることです。Asana の調査によると、ナレッジワーカーの 29% が、タスクや役割が明確でないことが原因で過労を感じています。

 

何が重要かを明確にすることで、何が重要でないかを明確にすることができます。”

CAL NEWPORT 氏、『大事なことに集中する - 気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』の著者

集中する方法: 明確な目標を作り、それを伝える

明確な目標は、羅針盤のようなものです。何が重要で、何を優先させるべきかを判断するツールです。たとえば、四半期ごとの目標として「Instagram のエンゲージメントを向上させる」というものがあり、短期的な目標として「Instagram に週 10 回投稿する」というものがあるとします。この目標を達成するためには、邪魔の入らない時間帯を、メールの返信に費やすのではなく、SNS のコピーの作成や計画に使うことにしましょう。この例では、目標を立てることで、重要な仕事に集中でき、重要でない仕事に振り回されるのを防ぐことができます。

 

目標を明確にするには以下のような方法があります。

 

目標に向けた進捗状況を把握する。目標は、日々の仕事に明確な目的を持たせることができるため、強力なモチベーションとなります。ただし、目標を効果的に活用するには、自分の仕事に結びつける必要があります。そのために、一日の終わりや一週間の終わりなど、定期的に進捗状況を確認し、更新する計画を立てましょう。

 

毎日の MIT (最重要タスク) を設定する。毎日、達成したいことを 13 個書き出してみましょう。そうすることで、集中力が高まり、書き出したタスクが完了したら退社できるようになります。これは燃え尽き症候群を防ぎ、長期的に集中力を維持するための秘訣です。Yousef 博士がこの方法を自分の研究室で試したところ、個人の生産性が 28% 向上し、燃え尽き症候群が 42% 減少しました。

 

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毎日の仕事につながるチーム目標・企業目標は何かを明確にし、パフォーマンス向上を目指しましょう。Asana なら、各指標の達成度や達成状況を一目で把握し、チーム全体でシェアできます。

 

 

効果的な目標を設定する方法

集中力を高める方法: 6つのコツ

集中力を高める方法

ここまで、集中できない 4 つの主な理由と、それらを回避する方法を紹介してきましたが、それでも集中できないときはどうしたらいいのでしょうか?そんなときは、集中力を高めて生産性を最大化するために、以下の 6 つのコツを試してみてください。

 

1. 集中するタイミングを脳に知らせるきっかけを作る

Yousef 博士によると、人間の脳には記憶があります。ある環境と特定の刺激 (きれいな机に座って文章を書くなど) が組み合わされると、脳は認知的な関連づけを行い、その刺激を記憶し将来的に期待するようになります。つまり、次に作業スペースを片付けて机に向かって文章を書くと、脳はそのタスクに集中するようになるという仕組みです。

 

集中できないときは、認知的な関連づけをして、脳に集中するタイミングを知らせてみましょう。いくつかのアイデアをご紹介します。

 

ロウソクを灯す

コーヒーや紅茶など、特定の飲み物を飲む

特定のジャンルの音楽を聴く

リモートワークの場合は、通勤服など、特定の服を着る

机の上を整理する

オフィスやコーヒーショップ、家の中の仕事用スペースなど、特定の場所に行く

 

2. 体内時計を利用する

一日の中で最も生産性の高い時間帯には、個人の生物学的特性が影響している可能性があります。ノーベル賞を受賞した研究によると、人にはそれぞれ「クロノタイプ」がありり、これは一日のエネルギーレベルの変動を決定する、あらかじめ設定された概日リズムです。自分のクロノタイプを知っていれば、ピーク時に集中ブロックを予定し、エネルギーが不足して注意力が低下したときのために、難易度の低いタスクを取っておくことができます。多くの人は以下の 3 つのタイプに分類されます。

 

朝型の人: 自然と早朝に目が覚め、一日の始まりに最も生産性を感じます。このタイプの人は、朝一番にクリエイティブな仕事に取り組み、午後はあまり負荷のかからない仕事に充てるとよいでしょう。

 

二相性の人: 集中力のピークは午前 10 時から午後 2 時の間で、昼間に一度エネルギーが低下します。夕方にはエネルギーが回復することがあります。昼食前に大きなタスクに集中するか、午後のスランプの後、一日の終わりに集中しましょう。

 

夜型の人: 起床時間が遅く、午後遅くから夕方にかけて最も生産性の高い仕事をすることを好みます。午後型の人は、あまり知力を必要としない仕事をして一日を始め、午後の遅い時間帯をフォーカスタイムにあてましょう。

 

3. タスクを 1 つのツールに集約する

記憶を頼りにタスクを管理していると、記憶するために貴重な脳のスペースを使ってしまいます。しかし、やらなければならないことをすべて 1 か所に書き出しておけば、その分の精神的なエネルギーをタスクの完了に集中させることができます。これは、David Allen 氏が提唱する GTD (Getting Things Done) 手法のコンセプトのひとつで、集中力を高める方法として効果的です。仕事の優先順位をつけるために、まずすべてを把握しましょう。

 

タスクを記録する方法も重要です。紙のリストを使ったり、複数のオンラインツールを使い分けたりするのではなく、1 つのプロジェクト管理ツールですべてのプロジェクト情報とタスクを整理してみましょう。そうすれば、仕事をする場所で、アクションアイテムを追跡し、共有することができます。

 

 

4. 時間管理戦略を試す

適切なタイムマネジメント戦略は、マルチタスクを避け、自分がどのように時間を使っているかを把握することで、集中力を高める方法として大いに役立ちます。どのような方法を選択するかは、好みの働き方によりますが、ここではいくつかの方法をご紹介します。

 

ポモドーロテクニック: 物事を終わらせるために長時間集中する必要はありません。この方法では、25 分という短時間の作業セッションと 5 分の休憩を使用します。セッションごとに 1 つのタスクに集中して取り組むことができるので、精神的な疲労を軽減できる上、集中力も高まります。

 

タイムブロッキング: タイムブロッキングとは、一日のすべてのパーツを作業のグループに振り分けてスケジュールする時間管理戦略です。自分の一日を取り戻し、自分がどのように時間を使っているかを把握したい場合に役に立ちます。

 

タイムボクシング: タイムボクシングでは、「タイムボックス」を作り (時間を区切り)、一定の時間内に特定のタスクを終わらせることを目指します。この方法は、マルチタスクをしたり、通知をチェックしたりするのが苦手な人の役に立ちます。

 

カエルを食べてしまえ:

これは、他の仕事をする前に、最も困難な仕事にまず取り組む方法です。

作家のマーク・トウェイン氏の名言に「生きたカエルを食べねばならないなら、朝一番に食べてしまえば、その日はもうそれより悪いことは起こらない」というものがあります。

 

パレートの法則: 80 20 の法則としても知られ、20% の行動からおよそ 80% の成果が生まれるという法則です。生産性に関して言えば、他のタスクよりも影響力が大きいタスクがあるということであり、それらに集中すれば、自分の影響力を最大限に高めることができるということです。

 

5. 自分自身の健康を優先する

体と心の健康に気を配ると、効果的に集中力を高められます。心身ともに健康であれば、思考が明晰になり、ストレスにうまく対処できる上、燃え尽き症候群を防ぐこともできます。

 

個人の健康状態はさまざまな要因に左右されますが、睡眠不足や運動不足、偏った食事はマイナス要因です。そういった場合は、生活習慣を見直してみましょう。十分な睡眠をとること、軽いトレーニングをしたり散歩をするなど、体を動かす時間を確保すること、健康的な食事をすることなど、まずは基本的なことから始めます。低レベルの不安を感じても、集中力は低下します。ストレスを感じたら、一息ついてリラックスできる時間を取ってください。友人と話したり、散歩に出かけたり、マインドフルネス瞑想をしたりしましょう。

 

そして最も重要なことは、自分に猶予を与えることです。常に集中し続けられる人はいません。一日や一週間のうちに集中力が変化するのは当たり前です。

 

 

6. 集中力を切らさないための環境を作る

重要なタスクを細かいタスクに分割したら、今度は集中力を持続するための環境づくりも欠かせません。作業場のデスクやイスの位置、道具の置き場所にも気を配ります。

 

また、「スマホは集中力を妨げる存在である」との研究結果も発表されており、できるだけ見える位置にスマホを置かない点も、最大のポイントです。

 

しかし、クライアントや上司からの連絡が来た場合、重要事項の連絡である可能性も否めません。その際に活用できるのが、スマホの「VIP 機能」です。VIP 機能とは、特定の人をリストに追加し、メール内の VIP フォルダに振り分けられる便利な機能です。通知音や通知方法も設定できるので、スマホを気にせず、より集中力を持続する環境づくりが実現できるでしょう。

                                                            

 

脳神経科学者がすすめする「バッチング」とは?

バッチングとは、似たタスクをまとめて一度に片付ける手法です。似たタスクごとに分ける際には、「深いタスク」と「浅いタスク」に、大きく分けるのが一般的です。「深いタスク」とは、高い集中力が必要な難しい作業を、「浅いタスク」とは、すぐに終わらせられる簡単な作業を指します。例えば、メール返信などは「浅いタスク」に分類し、メールが来るたびに返信するのではなく、まとめて返信するやり方です。結果的に、タスクの切り替えを防ぎ、より集中してタスクに取り組めます。

 

また、まとめたタスクをこなすタイミングに関しても、「深いタスク」は、1 日の中で集中力が高まっている時間帯に、「浅いタスク」は集中力が低下している時間帯にこなすと、より効果的でしょう。

 

似ている手法として「タイムブロッキング」があり、1 日のうち、一定の時間をブロックして、集中的に作業をこなします。例えば、メールの返信時間をブロッキングするなど、バッチングとは若干異なる手法です。

 

バッチングによる仕事への効果

2016年、マサチューセッツ工科大学で実施された研究では、「メールを受信したら、リアルタイムで対応する」グループ、もう一方は「1 日数回メールをチェックし、集中してなるべく速く返信する」グループの 2 組を比較しました。その結果、後者の生産性がアップし、体内のストレス値も低下していました。したがって、人間の脳は一点集中する姿勢が、最も適しているとわかります。

 

バッチングの活用により、業務効率が向上し、最終的には会社の生産性や収益性の改善にもつながるでしょう。しかし、バッチングは日本のみならず、全世界で共通して「身に付かない技術」として知られています。その背景には、脳の働きが関係しており、人間の脳は「集中する必要がない」と、自身に指令を出しているのです。

 

集中力を高めて仕事の生産性を上げる

集中力が持続しない要因は、本来人間の脳が集中しにくいメカニズムでできているからです。また、人間の脳はマルチタスクも苦手で、効率よく見えても生産性は上がりません。集中力を高めるには、似たタスクをまとめてこなす「バッツチング」や「タイムブロッキング」など、この記事で紹介した手法を試してみてください。

 

集中力とは、単に仕事をこなすだけの能力ではありません。常に気が散る状態を避け、自分の時間の主導権を握り、燃え尽き症候群から身を守るためのスキルでもあります。仕事は時に目まぐるしく混沌としていますが、客観的に捉えるようにして、精神的エネルギーをどこに使うべきか優先順位を決めましょう。

 

 

 

 

 

 

 

マインドフルネスとは

マインドフルネスとは「心身、そして人生の充実の技法」

具体的には、うつの再発予防、ガンの痛みの緩和、皮膚疾患による苦痛の減少、依存症(タバコ、アルコール、薬物、ギャンブルなど)の治療、幸福感の増加、不安の減少、睡眠の改善、注意力や集中力の向上、心の安定や落ち着き、優しさや思いやりが高まる、などの効果がこれまでの研究で明らかになっています。

 

また、自殺願望のある人がマインドフルネスの実践を続けたところ、「悪い記憶」ばかりだと思っていた過去の自分の人生の中に、それ以外の「良い記憶」があることにもだんだんと気づいていき、それとともに自殺願望が減少した、というような研究もあります。

 

さらに最近ではグーグル社やフェイスブック社など、主にアメリカのIT関連の有名な企業で職員研修の主要なひとつとしてこのマインドフルネスが用いられ、社員の心身のメンテナンスや仕事のパフォーマンスの向上に役立てられています。

 

このようにマインドフルネスは、心身が健康な人にとってもそうではない人にとっても役に立つ、ある種の「万能薬」のように世の中に受け止められ、静かながらもブームを迎えているのですが、果たしてそんな都合の良い方法が本当にあるのでしょうか。

 

実際のところ、マインドフルネスはそのやり方を身につけさえすれば自分ひとりでもできる、こころと体のセルフケアの技法です。

 

マインドフルネスのエクササイズを少しでもしてみればおそらくすべての人が体験することですが、基本の瞑想すなわち「自然な呼吸に意識を向ける」ということをまず行ってみると、こころの中に次から次へと考えごとが浮かんできては消える、あるいはいつの間にかその考えごとにとりとめもなく自動的に巻き込まれてしまっている、ということに気づきます。

こころがそのように呼吸から離れては戻し、離れては戻す、ということを続け、しだいにこころが呼吸に留まっている時間を長く安定したものにしていきます。

 

 

マインドフルネスの瞑想を続けていくと次第に、心の中の苦しみを、呼吸や体の感覚の変化を通じて感じられるようになります。

心身がどんな状態であろうとも「平静に、ただ静かにあらゆる現象を観察する」ということができるようになり、これまでは大きく反応してきたさまざまなものごとに対する反応が、「ありのままの刺激に対する必要最小限の反応」へと変化していき、苦痛が少しずつ減っていく、という理解です。

 

人生は苦しみに満ちています。マインドフルネスが広がるきっかけの一つとなった、有名な本は、邦題では『マインドフルネスストレス低減法』となっていますが、その原題は Full Catastrophe Living (筆者訳:災難に満ちた人生)です。逃げようとすればするほど追いかけてくる犬と同じように、目を背け、逃れよう逃れようとすればするほど苦しみはどこまでも追いかけてきます。しかし、マインドフルネスには、そのような現実を一旦はしっかりと認めて受け容れた上で、その「災難」にしっかりと向き合って克服する術が詰まっています。

 

 

 

 

 

集中力を高める仕組みとその実践法! 脳の4部位を活性化するマインドフルネス

 

目次

Q そもそもマインドフルネスって何?

Q マインドフルネス呼吸は現代人になぜ必要?

Q 呼吸が集中力を高めるメカニズムとは?

Q 呼吸で高められるという「EQ」って何?

 

 

Q そもそもマインドフルネスって何?

行動を変えるには、考え方(認知)を変えないとダメ。これがダイエットなどでもおなじみの行動変容論。しかし最近では、考え方を変えるだけでは不十分で、最上流にある「注意」を変えなくてはならないという主張が出てきた。そのための方法論が、マインドフルネス。

 

「マインドフルネスとは、どこに注意を向けるかのトレーニング法。

注意をいまこの瞬間に向け、感情の乱れをコントロールする手法です」

 

マインドフルネスのベースは瞑想。先駆者であるマサチューセッツ工科大学のジョン・カバット・ジン博士は禅やヨガを研究し、1979年に瞑想を用いたストレス軽減法を開発。90年代後半にうつ病の治療の一つとしてマインドフルネスの方法論が確立されて、現在の隆盛につながる。

 

瞑想は古代仏教や禅に起源を持つ。マインドフルネスはそこから宗教性をばっさり切り捨て、テクニックのみを抽出して科学的根拠(エビデンス)のある方法として洗練させたもの。

マインドフルネス的な瞑想は調身(姿勢)、調息(呼吸)、調心(集中・観察)という3要素に収斂されており、ことに深くゆっくりした呼吸を重視している。

 

瞑想を構成している3つの要素とは?

瞑想というと難しく聞こえるかもしれないが、その宗教性を取っ払ってしまうと、極めてシンプルに整理できる。突き詰めると姿勢、呼吸、集中・観察という3要素からなるのだ。

Q マインドフルネス呼吸は現代人になぜ必要?

ノートパソコンやスマホを持ち歩くのが当たり前となり、メールや電話がひっきりなしに入る現代人は、外界からの絶え間ない刺激に振り回されて落ち着く暇がない。思考はばらばらに拡散して考えがまとまらず、イライラやストレスが募って心は乱れっぱなし。マインドフルネスは、そうした状況に悩むビジネスパーソンの救いだ。

 

筋肉が伸び縮みするように、心も大雑把に分けるとストレス(緊張)とリラックス(弛緩)という振り幅があり、適度なストレスは心にもプラスになるので、適度にリラックスすると心身のパフォーマンスが最高に高まる「ゾーン」に入る。

 

緊張と緩和のマトリックス

ほどほどのストレスとリラックスがある状況が理想。ビジネスパーソンはストレスフルでリラックスが足りないから、マインドフルネス呼吸で弛緩する習慣が大切だ。

ゾーンに入るために重要なのは呼吸。速く浅く息を吸うとストレスが加わり、ゆっくり深く息を吐くとリラックスしやすい。

 

「リラックスしすぎるベテラン選手は、本番前にあえて速く浅く息を吸って緊張感を高めてゾーンに入ります。ストレス度が高い現代人はリラックス度が低いので、マインドフルネス呼吸でゆっくり深く息を吐いて弛緩し、ゾーンに入ります」。

 

 

Q 呼吸が集中力を高めるメカニズムとは?

ぼんやり散歩中に突如アイデアが閃くことがある。その際、脳内では海馬、内側前頭前皮質、内側側頭葉、後帯状回といった部位が同時活性する状態(デフォルト・モード・ネットワーク)となる。

 

「それはいわばマインドレスな状態。経験や記憶がランダムに交叉して、アイデアが生まれます。でも、マインドレスでの思いつきを形にするには、マインドフルネスで集中力を高めなくてはならないのです」。

 

 

集中力には(1)継続的集中力、(2)選択的集中力、(3)実行集中力、(4)切り替え能力という4つがある。

 

継続的集中力は、狭い意味での集中力。特定のものに集中を持続させる力をいう。

選択的集中力は、さまざまな情報から価値あるものを選び、注意を向ける力。

実行集中力は、複数のタスクに集中力をバランス良く分散させる力。

切り替え能力とは、マルチタスクをこなす際、あるタスクから別のタスクへと軽やかに集中を切り替える能力である。

 

集中力の4要素とそれに関わる脳の部位。

心理学によると、集中力には4つの要素がある。さらに脳科学の発達により、4要素には異なる脳の部位が関わると判明した。 『瞑想の効果とそのメカニズムに関する科学的な解説』(campus for H)より作成

この4つは脳の異なる部分が担う。

継続的集中力は前頭葉視床、

選択的集中力は前頭頂皮質、

実行集中力は前帯状皮質、

切り替え能力は前頭前野だ。

マインドフルネス呼吸をすると脳のこの4部位が一緒に賦活化。集中力がトータルに底上げされる。

 

 

Q 呼吸で高められるという「EQ」って何?

欧米のエグゼクティブには、マインドフルネスに夢中になる人が増えている。なぜなら、マインドフルネスが組織を機能させるうえで不可欠だとわかったからだ。

 

キーワードはEIEmotional Intelligence)。EIは共感性の高さを表し、自己や他者の感情を知覚し、自らの感情の乱れを抑えて意欲を高める能力を指す。EIを数値化したものはIQに対してEQ(心の知能指数)と呼ばれる。

 

仕事は誰か一人で行うものではないから、上に立つエグゼクティブには人間関係の巧みなマネジメントが求められる。

 

EIはダニエル・ゴールマンという人が書いたベストセラーを契機に広まりましたが、どうすればEIが高まるかがずっとわからなかった。それがマインドフルネスだと発見したのが、グーグルのエンジニアのチャディー・メン・タンです」。

 

 

呼吸によりEIが向上する仕組み。

前頭前野と前帯状皮質は別名・社会脳とも呼ばれており、自己のみならず他者への気づきを向上させる。同時に情動を制御している扁桃体の過度な興奮が抑えられるので、冷静な行動が取れる。

『瞑想の効果とそのメカニズムに関する科学的な解説』(campus for H)より作成

 

呼吸を整えて瞑想をすると、脳の前頭前野や前帯状皮質と呼ばれる部分が元気になり、自己と他者への気づきが増える。さらに情動を司る脳の扁桃体の余計な興奮にブレーキがかかり、自己コントロール力が向上。組織全体の仕事力も上がるのだ。

 

マインドフルネス呼吸の4つの実践法

 

1. デスクワーク時代の正しい呼吸姿勢をマスターする。

姿勢が悪いと深く正しい呼吸は続けられない。瞑想でも姿勢を重視するが、「床で坐禅を組んでいた昔と、椅子に坐ってデスクワークをしている時間が長い現代では、正しい呼吸姿勢は当然異なる」

 

坐禅では、お尻に坐蒲を敷き、両足の甲を反対の太腿に乗せる結跏趺坐を組み、両膝とお尻の3点で骨盤を床で固定し、脊柱をまっすぐ伸ばす。

それに対して椅子での正しい呼吸姿勢のポイントは3つ。

 

まずは椅子の高さを調整。両肩にぐっと力を入れてからストンと落とし、肘を90度曲げて小さく前へ倣え≠したときに前腕が床と平行でデスクに乗るのがベスト。

 

 

椅子に坐るときの呼吸姿勢の作り方。

現代人の大半は猫背で肩が上がっているから、肩に一度力を入れてから脱力して肩を下げる。そこから小さく“前へ倣え”をした肘の角度がキープできるように椅子の高さを調整する。疲れにくい坐り方と目線を定め、呼吸を行う。

次は坐り方。椅子に深く腰掛け、骨盤を立てて坐骨で坐り、脊柱の真上に頭を乗せる。座面が緩やかに前傾し、太腿と体幹の角度が100度以上に開くと血液やリンパの流れが妨げられない。

 

座面がフラットな椅子なら、お尻にタオルを敷けばOK。最後に視線。デスクワーク中なら、その姿勢で軽く5度ほど視線を下げたとき、PCのディスプレイの上から3分の1のラインが視線の先に来るのが理想。ノートパソコンなら、外付けディスプレイを活用するといい。

 

2. 雑念から自由になる集中瞑想から始める。

ラン初心者がいきなりインターバル走をやっても続かないし、効果も出ない。同様にマインドフルネスも簡単なものから段階を踏んで行うべき。

 

ステップ1で手始めに取り組みたいのは、もっともシンプルな集中瞑想である。

これは、雑念やイライラなどでカオス化している頭の中を整理するために、呼吸だけに意識を向ける瞑想。

思考が拡散してきたと気づいたら、呼吸数をカウントして意識をシフト。とりとめのない思考から自由になり、呼吸だけに集中して落ち着く。

 

それでも油断すると、やがて頭の中がカオス化しそうになるかもしれない。そのたびに、ピンチに陥った投手がマウンドを外すようにリセットし、改めて呼吸に注意を向けてみる。この繰り返しで集中力は高まる。

 

集中瞑想が呼吸を介して効果を発揮するループ。

思考が分散したと気づいたら、呼吸に意識をシフトさせて没頭する。思考の拡散を抑えて心を穏やかにカームダウンする。

瞑想や坐禅ではお腹が膨らむまで息を深く吸い込み、お腹が凹むまで息を吐き出す腹式呼吸が定番。

しかしマインドフルネス呼吸では、腹式呼吸でなくてもいい。

 

「瞑想を創成したチベットの僧院は高所で寒かったから、腹式呼吸でカラダを温める必要があった。でも、空調の効いた快適なオフィスや自宅ならその必要はない。慣れないと腹式呼吸を続けるのは大変ですから、ゆっくり深い呼吸を心がけるだけでいいのです」。

 

3. 暴君=感情を抑える観察瞑想を試す。

集中瞑想のハードルは低くて誰でもトライしやすいが、言ってみれば対症療法。イライラやストレスの源から気をそらして棚上げしているだけであり、根本的な解決にはなっていない。

ステップ2として試したいのが、観察瞑想。

 

頭が雑念やイライラに支配されていると気づいたら、安易に呼吸に逃げないで、あえて「あ、いまイライラしている自分がいるな」と言語化して、まるで第三者のような視点で客観視する。

 

「感情は脳の王様。イライラや怒りなどの感情を司る大脳辺縁系は進化的に古い脳であり、理性を司る大脳新皮質はその家来のような存在です。でも、王様は神様ではないから、暴君になることもある。それを家来である理性による言語化を通して抑え、感情に振り回されないように整えるのが観察瞑想です」。

 

呼吸と関係ない気もするけど、怒りなどの感情が爆発すると呼吸が乱れることからわかるように、呼吸が安定させて感情の自動反応回路を弱体化させる。

 

 

観察瞑想が感情を抑えるループ。

呼吸に逃げず、拡散する思考をあえて抑制しない。湧き起こる拡散思考に気づき、観察して「思考が拡散している」と言語化。規則正しい呼吸により理性で感情の爆発を抑える。

『瞑想の効果とそのメカニズムに関する科学的な解説』(campus for H)より作成

 

 

 

4. イチローも実践! マイクロバーストでゾーンに入る。

最後に取り上げたいのは、最新のマインドフルネスであるマイクロバーストエクササイズ。

 

脳は短時間で緊張をぐっと高めてから、一気に弛緩させると集中力が高まるゾーンに入りやすい。緊張と弛緩の落差(スパイク)が大きいほど効果的であり、それを意図的に作り出すのがマイクロバーストである。

 

イチローのルーティンが脳科学を研究して生まれたものか、あるいは試行錯誤の実践から生まれたものかはわからないが、パフォーマンスを高めるうえで実に理に適っている。

イチローも実践者の一人。打席でバットを向けたスタンドを凝視してから、手前に視線を移してバットを見る。

 

「天敵を発見したら即逃げる本能が残っているので、ヒトは遠くを見ると交感神経が優位になって緊張し、近くを見ると副交感神経が優位になって弛緩する。イチローは毎回この落差を作り、しかも近くを見るときに左手首につけたグレープフルーツの香りを嗅いでさらにリラックスしてゾーンに入るそうです」。

 

このエクササイズはデスクワーク中にも最適。30分以上坐り続けると血流が悪くなり、脳が酸欠に陥って疲労。創造性が落ちる。30分に一度は立ち上がって階段でも駆け上がり、血行を良くして脳に血液と酸素を送り込む。それから自席で正しく坐ってゆったり呼吸すると、緊張と弛緩のスパイクが作り出せるから、ゾーンに入って仕事の効率もアップする。

 

坐りっ放しは脳にも悪い。30分に一度は息が上がるくらいの速さで階段を20秒ほど駆け上がり、自席に戻って静かに小丹生。緊張と弛緩のスパイクを作り、脳に酸素と栄養を供給。

 

 

 

 

苦しみとは集中していること?  苦しいって、実は集中状態なの知ってた?

 

仕事や人間関係で「ああ、もうどうして!」って叫びたくなるような、苦しいときってあるでしょう?

そういうとき、実はあなたとても集中しているときです。

 

「苦しいときって、集中状態なんですよ」

苦しいときって、集中しているんだよそれなんて言われてもあんまりわかんないですよね。

どちらかというと気になっていろんなことに集中できないですもんね。イライラしたりもうやだもうやだってなってたり。

でもほら。ほかのことに集中できないくらい、苦しいことに集中しているじゃないですか。それよ、それ。

 

苦しいときっていうのは、とりあえずいま身体的な苦しさは除きます。頭割れるように痛いとか足ねんざして歩くたび激痛が「苦しい」のなんて本能ですから。あとほら首絞められて苦しいとか。そういう苦しさはなかったら命の危機に気づかなくて死ぬやつだから。そういう「生命に必要な苦しみ」じゃないやつね。つまりいらん苦しみのやつね。

 

たとえば、私は仕事に育児にいっぱいなのに旦那が何もしてくれなくて旦那の一挙一動にイライラするとか、仕事のやることが多くてつらいとか、彼氏となかなか会えなくて不安で苦しいとか、

 

まあそういう「ゔううぅーーっ」ってなる苦しいのことです。

ゔううぅーーっていうとき、人は集中しているんです。何にって?「受け入れたくない自分の状況」に、です。

 

苦しいときって「なんで」「どうしたらいいの」「こうならなくてもいいはずなのにどうして」って、言いたくなってません?

 

でも、どうしようもないのが余計に、苦しくなってません?

「見たくないのに・・・!見ちゃいけないと思うと、見たくなっちゃう・・・!」っていうやつだ。

「どうしようもないのわかっているけど・・・どうしようもないから余計に・・・どうにかしたくて気になっちゃう・・・!」みたいなことだ。

 

 

気になっているときって、そこから離れられなくなるくらい、意識がそこにくっついちゃっているんです。

苦しいときってほら、実は同じようなことをずっと考えてません??

何度も何度も繰り返し、同じイライラや不安や悩みのぐるぐるをやっていません??

 

「どうしてこうなっているんだ」とか「前はこうじゃなかったのに」「〇〇がこうしてくれたらいいのに」という「よかった過去」や「理想の未来」と比較していたり、

「こうしている場合じゃないのに」「自分はなにもできていない」と思いながら「今までもだめだった過去」「だめになりそうな未来、これからもだめな未来」を思い描いていたり。

 

そうしてどんどん、その「苦しさ」の中を掘り進むのです(ずぶずぶずぶ…)

 

このときの集中力はすごくて、ほかの人の言葉は全然入ってこないし、目の前にある状況のほかの側面も、全く見えなくなるんです。

 

こういうのって自分ではあまり自覚がないので気づきませんが、みなさんも自分の友達とかで、「ずっと同じことで悩んでるなこの人。こっちがなんかアドバイス言っても全然受け取られないし」って思ったことあるのではないでしょうか。

ね。すごい集中力。

 

 

この「苦しみって集中している状態」っていう心のしくみ。だからといって、苦しみを感じている人に”苦しいのはあなたがそれに集中しているせいだ”なんて言う人がいたらハリセンでひっぱたいていいよ。

人にそれをいうのは暴力だから。

 

 

 

 

事実を歪める脳のメカニズム    

 

人間の脳は、勝手に“歪んだ物語”をつくりだす。私たちはなぜ「苦しみ」をこじらせるのか?

 

・他人に言われた何気ない言葉が頭から離れない

・幸せな環境なのに、なぜか幸せを感じない

・未来に明るい展望が抱けず、すべてから逃げたい

 

こんな状況に、心当たりないですか?

 

「心配事の97%は起こらない」という研究結果が出ているにもかかわらず、私たちの“心配事”や“苦しみ”が絶えないのは、一体なぜなのでしょうか。

 

鈴木祐著『無(最高の状態)』より「苦しみの正体」と「苦しみから解放される対策法」について抜粋。

 

無(最高の状態)

#1 人間の脳は、勝手に“歪んだ物語”をつくりだす。私たちはなぜ「苦しみ」をこじらせるのか?

#2 苦しみのメカニズムは「痛み×抵抗」。世界一幸せな部族に学ぶ、“心の痛み”から逃れる方法

#3 の中だけで100から7ずつ引き算すると安定する。数分で気持ちが楽になる3つの処置法

 

 

私たちは、脳が作り出した「シミュレーション世界」を生きている

ヒトの脳は物語の製造機である。

こんな見解を、神経科学の分野でよく耳にするようになりました。

私たちの脳は物語を生み出すための器官なのだという考え方です。

 

この考え方では、私たちは次のステップで“現実”を体験することになります。

@ 周囲の状況がどう展開するかについて事前に脳が物語を作る

A 感覚器官が受け取った映像や音声の情報を脳の物語と比べる

B 脳の物語が間違っていたところのみ修正して“現実”を作る

 

たとえば、あなたが出勤のため玄関のドアノブに手をかけたとしましょう。

この瞬間、脳の島皮質(とうひしつ)という高次領域が「扉の向こうにはいつもの庭があり、普段どおりの日常が続くだろう」や「ドアノブは普段どおりに開き、私は駅に向かうだろう」などの物語を無数に作り出し、このデータをいったん目と目の間に位置する視床(ししょう)という場所へ転送。

 

続いてあなたが実際にドアを開くと、眼や耳から入った外界の情報が視床に送られ、ここで物語データとの比較が行われます。

 

もし物語が現実の情報と同じだったら、あなたの脳は外界から取り込んだ情報を使わず、最初に高次領域が産んだ物語をそのまま採用します。

 

つまり、眼や耳から入ったデータはほとんど使われず、脳が作った「扉を開いても普段どおりの日常が続く」というシミュレーションを、あなたは“現実”として体験するわけです。

 

本当に興味深いのは、私たちの脳の構造は、網膜からインプットされる生の情報よりも、高次機能が作った“物語”を格段に重視する設計になっているという事実です。

 

その結果、私たちはときに現実のデータを無視して、“物語”の方を真の現実として採用することがあります。

もっとも身近なのは「錯視」の事例で、次図の中心に並ぶ格子模様を、20秒ほど注視してみてください

 

 

そのまま画像の真ん中を見つめ続けると、周囲に散らばるバラバラのラインがつながり始めたのではないでしょうか。

しかし、再び画像を遠くから見直してみると、模様はすぐ元に戻ったはず。

これは神経科学者の金井良太博士が考案した作品で、「ヒーリング・グリッド」と呼ばれる有名な錯視現象です。

 

メカニズムを説明しましょう。

 

「ヒーリング・グリッド」の中央を見つめると、視界の大半は規則正しい格子模様で埋まり、周辺の途切れたラインの情報はほとんど脳に入ってきません。

 

すると、あなたの脳は少しずつ「中央が正確な格子模様ばかりなのだから、周辺にも同じパターンが広がっているはずだ」といった物語を想像し、頭のなかで組み上げた格子模様を、あなたなりの“現実”として提示します。

 

すなわち錯視とは、現実のデータ不足を脳が物語で強引に埋めた結果なのです。

 

 

“歪んだ物語”こそが、私たちを悩ませる「苦しみ」の起源

もちろん、これらの機能が平凡な日常の物語を生むだけなら問題は起きませんが、脳のストーリーテリング機能は昼夜を問わず働き続けており、なにか嫌なことがあった直後にも「この人に嫌われている」や「私は他人より不幸だ」といったマイナスの虚構を作り出し、それをあたかも唯一の“現実”であるかのように思い込ませます。

これが、私たちを悩ませる「苦しみ」の起源です。

 

例を挙げましょう。

 

誰か見知らぬ人と出会ったとき、あなたの脳はすぐに過去の記憶を引き出し、「この人は母親に似ているから良い人だろう」や「背が高いから怖い人かもしれない」といったような判断を1000分の1秒で下します。

 

この判断材料に使われるのは、私たちが子どもの頃から吸収してきたすべての体験です。

 

過去に得た知識と情報は脳内に個別の物語として蓄積され、その一部は、あなたの行動を導く“法律”のような働きをします。

 

いわば特定の物語が強制力を持った状態で、周囲の状況が変わるたびに、私たちの脳は複数のストーリーから適した物語を選び、その内容に沿って次の行動を決めるのです。

 

この「物語」とは上座部仏教でいう行蘊sankhāraのことで、私のいうアプリ、つまり自動反応回路のことです。

 

 

 

同じトラブルでも「苦しむ人」と「苦しまない人」がいる理由

歪んだ物語は自分自身にも牙をむきます。

たとえば、あなたの友人が急にそっけない態度をとってきたとします。

このとき、人間の脳はすぐに現状を説明してくれる物語を探し始め、その結果として「忙しい人は態度が冷たくなりやすいものだ」という無難な物語がピックアップされれば、単に「日を改めて連絡しよう」と思うだけ済むでしょう。

 

一方、ここで脳が「私は愛されない人間だからだ」という歪んだ物語を取り出したら話は変わります。

あなたの中には「嫌われたのではないか」や「何か悪いことをしたのでは」などの思いが浮かび上がり、いつまでも頭をめぐり続けるはずです。

 

要するに、同じようなトラブルにも苦しむ人と苦しまない人がいるのは、あなたのメンタルが強いか弱いかの問題ではありません。

脳内に作られた独自の“ストーリーライン”が適応か否かの問題なのです。

 

 

“歪んだ物語”の対策は「停止」と「観察」の2

・人間は“物語”の自動発生をピンポイントで止めることができない

・人間は“物語”によって行動させられる自分を認識するには訓練が必要となる

 

現代では神経科学および心理療法の研究が進み、臨床テストで良い効果が認められた対策が存在しています。

その対策とは、「停止」と「観察」の2つです。

 

「停止」の力で“物語”の強度を弱体化して、「観察」の力で“物語”を現実から切り離す。

 

「停止」

「停止」とは、脳のリソースを何かほかのことに使い、物語の製造機能そのものを止めてしまう方法です。

 

何らかの作業に意識を集中させることで“物語”が停止する現象は、すでに複数の実験で確認されています。

その代表的な手法として、もっとも有名なのは「詠唱(えいしょう)」です。

ご存じの通り、礼拝の祈祷文を一定のリズムと節に乗せて歌う宗教儀式のひとつで、短い聖句を何度もリピートするパターンや、聖歌のような複雑な構成の楽曲まで、いくつものバリエーションが存在します。

 

日本の祝詞や念仏も詠唱の一種です。

詠唱と「停止」の関係があきらかになったのは2000年代後半のこと。

 

たとえば、ワイツマン科学研究所の研究では、健康な男女に「ONE」という単語を何度も繰り返させたところ、安静時のベースラインと比べてDMN(※)の活動量が下がり、自己にまつわる物語の量も有意に減る傾向が認められました。

(※)デフォルトモード・ネットワーク:何もしていないときに活動を始める神経回路

 

詠唱と似た事例として、音楽もまた同じような働きを持ちます。

同じ音階や歌詞のくり返しが、やはり詠唱に似た効果をおよぼし、DMNがもたらす自己の感覚を消すからです。

音を聞きながら「この歌詞の意味は?」や「いまのコード進行にはジャズの影響があるのでは?」などと考えていたら、その曲を楽しめないのは容易に想像がつきます。

 

しかし、同じ歌詞やフレーズの繰り返しに身を任せることで思考の麻痺が起き、その曲を万全に楽しめるようになるわけです。

 

「観察」

「観察」は、文字通り、あなたの脳内に浮かぶ物語をじっくりと見つめる作業を意味します。

苦しみをこじらせる人の脳は、世界の小さな変化をすべて「自分ごと」として捉えがちなのです。

小さな問題が起きるたびに自分の問題として捉えていたら、心がすり切れるのは当然でしょう。

人前で失敗した過去のイメージ、嘘がバレたあとの恥ずかしい感情、「貯金が尽きたらどうする...」という思考など、すべてのネガティブな物語を科学者になったような気持ちで観察し続けるのが基本です。

何やら難しそうな印象があるでしょうが、「観察」の感覚そのものは誰でもすぐに味わうことができます。

 

試しにリラックスして座り、次の単語を声に出さずに読んでみてください。

リンゴ

誕生日

海岸

自転車

バラ

 

単語を読む間、あなたの心にどんな変化が起きたでしょうか?

 

リンゴや猫のイメージがそのまま浮かんだかもしれませんし、誕生日の思い出が心をよぎったかもしれません。

もちろん何の変化も起きないこともあるものの、それはそれで構いません。

この実験のポイントは、ごく平凡な単語に対して、あなたの内面がどう反応したかに気づくことです。

何度か単語を読み返してみて、脳裡になんらかのイメージや思考が浮かぶかどうかを眺めてください。

この感覚こそが「観察」です。

 

私たちが自己にとらわれるのは、脳が外界の脅威に過剰な反応を示したとき。

しかし、観察を続けた人の脳は脅威に反応しづらくなります。

つまり、観察のトレーニングによって、脳が作り出す物語を「これは現実ではない」と認識できるようになったのです。

不安・ストレス・怒り・孤独・虚無・自責...自らを解放する科学的メソッド

 

 

 

 

 

 

ダマシオの意識

【意識が及ぼす影響】苦しみと幸福の間で揺れる人間という存在       アントニオ・ダマシオ

 

言語や創造性をはじめとして、意識は生物としての人間らしさの根源にあり、種としての成功に大きく貢献したと言われてきた。なぜ意識=人間の成功の鍵なのか、それはどのように成り立っているのか? これまで数十年にわたって、多くの哲学者や認知科学者は「人間の意識の問題は解決不可能」と結論を棚上げしてきた。その謎に、世界で最も論文を引用されている科学者の一人である南カリフォルニア大学教授のアントニオ・ダマシオが、あえて専門用語を抑えて明快な解説を試みたのが『ダマシオ教授の教養としての「意識」――機械が到達できない最後の人間性』(ダイヤモンド社刊)だ。ダマシオ教授は、神経科学、心理学、哲学、ロボット工学分野に影響力が強く、感情、意思決定および意識の理解について、重要な貢献をしてきた。さまざまな角度の最先端の洞察を通じて、いま「意識の秘密」が明かされる。あなたの感情、知性、心、認識、そして意識は、どのようにかかわりあっているのだろうか。(訳:千葉敏生)

 

象は死を意識する

人間は苦と快に操られている?

 意識が人間に及ぼした特別な影響に関して、候補として挙げられるのが、一部の哺乳類が見せる他者の死への反応の仕方だ。このことは、たとえばゾウが行う葬儀の例を見ても明らかだ。間違いなく、仲間の苦痛や死といった結果を目の当たりにしたことで引き起こされる自分自身の苦しみの意識が、このような反応を形成するに至ったのだろう。

 

 人間との違いは、創意工夫の規模や、反応の構築に見られる複雑度や有効度だけだ。こうした例外的な事例は、反応の違いが特定の種に見られる意識の性質ではなく、その種の知的能力と関連している、という説を概ね裏付けている。

 

 意識が可能にする反応の有効性は、感情のネガティブな側面とポジティブな側面、つまり負の感情価(ヴェイレンス)と正の感情価の、どちらによって主に生じるのか? そう問うのは理にかなっている。

 

 痛みや苦しみ、死の認識は、幸福や快よりもいっそう大きな原動力になる、と私は思っている。宗教などは、この認識に基づいて発展を遂げたと言えるのではないだろうか。アブラハムの宗教(キリスト教、ユダヤ教、イスラム教)や仏教は、その最たる例だ。

 

 ある意味、歴史的な進化の観点から言えば、意識とは禁断の果実の一つであり、一度それを食べた者は痛みや苦しみを感じるようになり、やがては死との悲劇的な直面にさらされる。この見方は、進化の過程において、意識が感情、とりわけネガティブな感情の手によって生み出された、という考えと密接に符合する。

 

 悲劇の源としての死は、聖書の物語やギリシャ演劇において十分に確立され、今なお芸術活動に息づいている。この考えを見事に捉えた詩を書いたのが、20世紀の詩人のWH・オーデンだ。彼は人間を、残酷な皇帝に懇願する満身創痍の反抗的な剣闘士に見立て、「われわれ死すべき者が要求するのは奇跡だ」と述べている。

 

 彼が「必要とする」とか「要望する」ではなく「要求する」と書いたのは、彼が追い詰められ、けっして避けられない人間の崩壊を絶望の中で眺めていたことの証(あかし)だろう。

 

 オーデンは、「現実に起こりうるいかなることも、われわれを救えはしない」ことに気づいていた。この結論自体は目新しいものではない。実際、この結論は多くの宗教や哲学体系の創設の物語へと組み込まれているし、苦しみの中に生きる人々に手を差し伸べる教会の助言に従うよう、今でも世界中の人々を導いている。

 

 それでも、世の中に「苦」しか存在しなければ、つまり「快」の見込みのないただの苦しか存在しなければ、いったいどうなっていただろう? 苦しみの回避が促されることはあっても、幸福の追求が促されることはなかっただろう。結局のところ私たちは、ときどき創造力から自由を得る、苦と快の両方の操り人形にすぎないのだ。

そしてどの感覚にも快でも苦でもないタグが付加される

 

「意識」がこれほどまでに注目されるのは、何故なのか?

 脳科学、生物学、心理学、宗教学、哲学、ロボット工学、人工知能工学から、自己啓発やスピリチュアルやライフハックやマインドフルネスまで、本当に様々な分野で、「意識」は重要なテーマとされ、各分野で論文や書籍が出版されてきました。アントニオ・ダマシオ教授が専門用語を抑えてコンパクトに『ダマシオ教授の教養としての「意識」』で展開する解説は、細菌などの原始生物の生物学や心理学、神経科学を発展させた科学者たちの知見から哲学的議論、さらにはAIやロボット工学で展開される感情や意識の研究、果ては私たちの生きる宇宙の議論にまで広がっていきます。

 

 これほどまでに「意識」が注目されてきた背景には、実は特別な事情がありました。

 

意識すると、物的反応が、どうして心の反応に変わるのか?

その秘密とは?

 見たもの、聞いたこと、触ったもの、これらはすべて人間の体の外にあるものなのに、意識することで、どうして苦しみや悲しみ、幸福や心地よさのような心の体験の反応が起きるのか? 体の内外の物理的反応が、どのように心の反応に変わるのか? それらを論理的に説明することがとても難しいことと考えられてきたのです。意識の構造が明確でないことで、意識のしかたで人間の能力に違いが出てきてしまう原因がつかみにくいことも、関心が集まる要因となっていそうです。

 

 これまで数十年にわたって、多くの哲学者や認知科学者は「人間の意識の問題は解決不可能」と断言してきましたが、ダマシオ教授の見解は違います。複数の科学分野にわたる最近の研究成果が、意識とそれをもつ人間にとっての意義を理解する方法を与えてくれたと言うのです。

 

 

 

 

 

集中力のタイプについては、さまざまな見地から複数のタイプ分けがあります。例えば朝方か夜型か。クイックスタート型かスロースタート型か。エニアグラムという9つの性格タイプを応用する考え方や、コロンビア大学の研究に基づく8つのモチベーションタイプを応用する考え方もあります。

 

自分の集中力の傾向を知っておきましょう。

 

集中力0と注意力散漫は別物

集中力のメカニズムについてお話する前に、同じように扱われがちな注意力との違いを紹介します。注意力散漫というと、忘れっぽさや凡ミスなどを思い浮かべるでしょう。集中していなかったから注意力が欠ける時はあるかもしれませんが、イコールではありません。

 

集中力のメカニズムについてお話する前に、同じように扱われがちな注意力との違いを紹介します。

注意力散漫というと、忘れっぽさや凡ミスなどを思い浮かべるでしょう。集中していなかったから注意力が欠ける時はあるかもしれませんが、イコールではありません。

 

例えば車の運転に集中することは、単に車の操作を完璧にこなすことだけでなく、歩行者がいないかや信号が変わらないかなど周辺に注意を配ることも含まれます。反対に集中していて周りが見えないことがあるでしょう。仕事に没頭するあまり外が暗くなったことに気づかないなど。これは集中力はあるけれど注意力はない状態といえます。

 

脳科学から見るメカニズム

集中力に大切な部位「前頭葉」

思考の判断やモチベーションの生成を担う脳の部位が、前頭葉です。頭の前側。そのため、額のあたりをマッサージすると頭が働くなどともいわれます。脳にも休憩が必要で、例えば眠っている時は生命維持に関係する視床下部などを除いて脳の各部位も休息を取ります。

 

思考の判断やモチベーションの生成を担う脳の部位が、前頭葉です。頭の前側。そのため、額のあたりをマッサージすると頭が働くなどともいわれます。脳にも休憩が必要で、例えば眠っている時は生命維持に関係する視床下部などを除いて脳の各部位も休息を取ります。

 

集中力&やる気に欠かせない脳内物質「ドーパミン」

集中力ややる気を促すのが、脳神経伝達物質のドーパミン。学習や記憶、注意などに影響する物質ですが、特に作業記憶(ワーキングメモリ)に関与するとされます。ドーパミンは、前向きな未来に向かっている時や既に行動している時に出やすいそうです。

 

ドーパミンが脳内の扁桃体へと達すると、脳内の各部位へとさらに信号を送り作業記憶を強化しようとします。その結果やる気があふれ集中した状態が作られます。ご褒美を設定し、とにかく取り掛かって体を動かすなども有効といえそうですね。扁桃体は感情の中でも特に不安や恐怖に反応する部位。これは危険回避という本能のためですが、あえて負荷を与えることも有効かもしれません。

 

集中力の持続時間は何分?

集中力は3分しかもたない?

では、集中力が続く時間はどのくらいでしょうか。よく「人の話を聞くのは3分が限界」といわれますが、これは"長くは聞けない"ということを示すための数字のようです。多くの研究で立証されているのが、集中力は15分周期であること。さらに集中力を持続する限界は90分といわれています。

 

 

ハイパーフォーカスやゾーンとは

15分の周期で集中の波があり、長くて90分が限界とされる集中力。しかし時間を忘れるほどの集中を経験したことがありませんか。この超集中状態をハイパーフォーカスやゾーンなどと表現します。厳密に言えば違うのですが、ランナーズハイと似た状態です。

 

超集中状態は、トレーニングによって自らその状態を作り出せるといわれています。集中を阻む外的な刺激がなく、平静な心理状態であること、さらに姿勢や部屋の気温など、さまざまな条件が重なってゾーンに入ります。ホワイトノイズが効果的という説もあります。

 

 

集中力が続かない原因

日々さまざまな情報にさらされ、疲れがたまるようなライフスタイルだとストレスも激しいですよね。ストレスというとマイナスなイメージですが、そもそもは外的刺激により生じる変化をいいます。丸いボールを手で押すと凹みますよね。この凹みがストレスです。

 

すべてのストレスが悪いわけではなく、集中力を高めるのに効果的な場合もあります。しかし、ストレスが大きすぎる、または多すぎると、脳内は多くの信号をあちこちに出して混乱状態に。結果脳が休息を求めるようになり、集中するのが困難になってしまうんです。

 

睡眠不足は大敵

健康的な生活の維持に欠かせない睡眠。集中力の持続にも大切なポイントです。睡眠の量によるパフォーマンスレベルの変化の研究が多くあり、睡眠不足により集中力が低下することが報告されています。睡眠不足は脳の血流の悪化を招き、栄養が十分にまわらないことで前頭葉などの各部位の動きが鈍ると考えられます。

 

集中力を高めるためには環境づくりも欠かせません。デスクの周りが散らかっており、視覚的に情報が多いと集中できない原因になります。また、室内が暑すぎる、寒すぎる、うるさすぎるなど、気が散る要素も排除しましょう。疲れを感じない姿勢など、ゾーンに入るにも重要なポイントといえます。

 

集中力を上げるためのヒント1│時間の使い方に注意しよう

30分の集中力継続は25分+休憩5

先にご紹介したとおり集中は15分サイクルとされ、人によって差はあるものの90分程度が集中の限界とされます。断続的に集中の維持を長くするためには、適度な休憩が欠かせません。そこで良いとされるのが、25分作業+5分休憩の「ポモドーロ・テクニック」です。

 

ポモドーロ・テクニックとは、25分作業+5分休憩を4回ほど繰り返し30分ほどの長い休憩をとる時間の管理術で、生産性アップが期待できるとされています。約30分のサイクルで一度立ち止まることによりチェックと改善ができ、結果的にクオリティが上がる点もメリットです。

 

タイマーを使って勉強や仕事にメリハリを

25分は、集中していてあっという間の時もあれば、なかなか過ぎず長いと感じる時もあるでしょう。おすすめはタイマーの利用です。作業と休憩のどちらもタイマーをセットして、しっかりオンオフをつけましょう。ただ闇雲にやるのではなく、計画して実践し、休憩の都度やり方を見直すことが大切です。

 

1日のうち集中力が高まる時間、反対に集中力が低い時間を把握しておくことも効果的。諸説ありますが、起床から約3時間は頭が冴えて集中しやすいとされています。しっかり休んだ後だから頭も体も元気な状態です。また、午後の4時頃も集中しやすいといわれます。やる気が高まる時間です。反対に集中しにくいとされるのは夜です。

 

ランチの後に眠くなることがありますよね。お腹がいっぱいで眠いのかと考えがちですが、実は体内リズムに基づくホルモン分泌が関係しています。「アフタヌーンディップ」と呼ばれ、午後2時頃に誘眠作用のあるメラトニンが分泌されるために眠くなるのです。ガムを噛んだりコーヒーを飲んだりして対策しましょう。

 

集中力を上げるためのヒント2│食べ物&飲み物で集中力を高めよう

 

青魚の脂やナッツ類に含まれるDHAEPAは、集中力を高める効果があるとされています。ナッツは思いのほか高カロリーなので食べすぎに注意しつつ、11015gほどのナッツを食事に取り込むといいでしょう。こちらのメニューは、鯖缶とクルミ、そしてきゅうりを使った冷やし麺。さっぱりしたメニューで、きゅうりは熱を放出し利尿作用もあるので夏バテ防止にも◎

 

おやつはチョコレートを。カカオが集中力を高める効果が期待できるとされ、含有量が高いほど良いとされます。ガムは噛む行為が脳を活性化し、結果的に集中しやすい状態を作るとされますよ。

 

ハーブティーにカフェインは含まれる?コーヒーやお茶で集中力向上

集中が切れた時に効果的なアイテムとしてよく知られるのがコーヒーですよね。コーヒーに含まれるカフェインが脳を覚醒させ、コーヒー1杯(カフェイン約60mg)で数時間のパフォーマンスの維持を助けるとされます。ただし摂取のしすぎに注意。カフェインの過剰摂取はだるさややる気の低減につながってしまいますよ。

 

カフェインが多く含まれる飲み物がコーヒーですが、紅茶や緑茶、ハーブティーなどにも含まれますよ。紅茶がコーヒーの半分ほどのカフェイン量を含んでいます。コーヒーが苦手だったり、カフェインのとり過ぎが心配だったりする場合は、ほかの飲み物からカフェインをとると良いでしょう。

 

栄養ドリンクやエナジードリンクは効果あり?

栄養ドリンクやエナジードリンクは集中力向上につながるのでしょうか。滋養強壮のための成分やカフェインを多く含むこれらのドリンクは、一時的な脳の覚醒には効果があるようです。

 

集中力を上げるためのヒント3│五感から集中力UP効果を取り入れよう

音楽を聴く

集中には音楽も関与しているようです。まず、静かな環境で集中できる人とそうでない人がいるので、いろいろ試したほうがいいでしょう。適度に雑音があったほうがゾーンに入りやすいという説もあります。また、作業する時ではなく休憩に音楽を聴くのも効果的なようです。

 

脳波が関係?おすすめBGM曲はクラシックやピアノ

集中する時に出る脳波がα波。このα波は、やさしいクラシックやピアノなどを聴いている時に強く出るとされます。ヒーリング効果のありそうなメロディをBGMにしてみてくださいね。これらの音楽は休憩中のリラックス度を高めるのにも効果が期待できますよ。

 

絵や動画などの画像を見る

視覚情報が多いと気が散って集中できない可能性を紹介しましたが、反対に集中力を高める絵はあるのでしょうか。実は絵や画像、動画も音楽と同じで、適度な量が脳内への刺激となって効率を上げるようです。

 

青色の空、緑色の木々が最強壁紙?

色から見ると、集中力アップにおすすめなのが青です。鎮静効果により集中力を高めます。さらに重要なのが緑。緑の植物がある状態とそうでない状態とで作業した場合、植物があるほうが成果が高まったという研究報告があります。この画像は携帯の待受画像でもOKですよ。

 

アロマや香水の匂いをかぐ

嗅覚から集中力は高められるでしょうか。香りの効能を利用したアロマテラピーもありますから、集中力の維持にも力を発揮しそうです。休憩の時は違う香りを楽しむのも良さそうですね。

 

集中力を持続するおすすめ精油

集中力を高めたい時におすすめの香りが、レモングラスやペパーミント、ローズマリーです。精油系が苦手な場合は、香りポットやボディクリームなどで香りを感じるのも良さそう。

 

 

集中力を上げるためのヒント4│集中力が切れたら体を動かそう

筋トレで集中力だけでなく体力も養う

適度な筋トレは健康のために大切ですが、集中力などの脳の働きや心理状態にも影響するとされています。アメリカのジョージア工科大学の研究によれば、筋トレを行なうとなんと記憶力が10%もアップ。気分転換も兼ねて筋トレの時間を作ってみましょう。

 

ヨガストレッチで眠気も撃退

体を動かすならヨガもおすすめ。呼吸を整えて体の動きに集中するヨガは、腰痛や肩こりなどの体の不調、自律神経に良い効果があるとされます。さらに認定NPO法人日本ヨガ連盟によれば集中力や感情をコントロールする力もアップするとされていますよ。

 

マインドフルネス瞑想法で呼吸を意識

呼吸に注目するなら、瞑想の時間も有意義です。「マインドフルネス瞑想法」は、呼吸に注目し頭の中に浮かんでは消えていく雑念を受け流していく瞑想法。心を落ち着かせることで集中力が高まるとされます。

 

 

集中力を上げるためのヒント5│集中する環境を整えよう

椅子の座り方や姿勢を正しく

集中力を維持するために、座り方や姿勢も大切です。長時間座っていると腰や背中に負担がかかり痛くなりますよね。適度に運動を挟むことはもちろん、猫背や首が前にでるなどの悪い姿勢を改善することで集中力の持続時間が変わります。

 

部屋の温度や湿度もポイント

部屋の環境も大事ですよね。特に湿度の高さは、集中力に関係なく不快感の原因になります。望ましいのは、気温が25度前後、湿度は50%前後とされます。

 

 

子どもの集中力を上げるための年齢別ヒント

幼児の集中力はおもちゃでトレーニング

幼児の集中力を高めるのにおすすめなのは、おもちゃで遊びながらトレーニングを重ねる知育玩具です。自ら考え想像する力が身につき、それらが情緒の安定などと結びついて、集中力が育成できると考えられます。五感をフルに使えるおもちゃがベター。

 

小学生の集中力を高めるゲームや習い事は

勉強よりも体を動かして遊びたい、そんな年頃の小学生に集中力の持続を求めるのは時に難題。しかしゲームとなると凄まじい集中力を発揮する場合も。考え方によっては集中力はしっかり持っているわけですから、勉強に向かいやすい環境づくりが大切です。デスクや気温などの環境条件は先に紹介した条件と変わりませんので、子供部屋をチェックしてみて。習い事はピアノやそろばんなど手先を動かすものがおすすめです。

 

中学生・高校生の集中力を鍛える

勉強だけでなく友人との交流や部活動も活発になる中高校生。学校での授業時間が長くなり、難易度もぐんとアップ。集中力を保つためのモチベーションの作り方に悩む年頃でもあります。環境の整備などに加え、自分で工夫する意識が必要になります。自分はいつ集中しやすいのか、何が妨げになるのかなど模索し始める時ですから、そのサポートができるといいですね。

 

 

 

 

 

ストレスは成長のチャンス

「ストレス」とは、私たちの成長を後押ししてくれる

青砥瑞人氏:基本的に「ストレス」とは、我々をモヤモヤとさせたり、心苦しくなったり、不安を感じたり、そういったものをイメージされると思います。今、新しい科学の文脈では、このストレス状態が我々の成長を後押しさせてくれたり、あるいは思考力や集中力、記憶定着効率を高める作用もあることが知られていたりします。

 

「感動」というと、ポジティブなイメージがあると思います。感動をもたらすという文脈1つとっても、(例えば)映画を見ていて、最初のほうはごたごたして「あー、もう! ちょっと主人公、ちゃんとしてよ!」みたいな思いは、すごくストレス状態なんですね。うまくストレス状態を作っているからこそ、最後にハッピーエンドが来た時に、脳の中で差分の状態を作り出すことによって感動が生まれる。

 

 

最初からハッピーエンドでもなかなか感動しないのは、実はストレスが生み出している心の状態でもあるということが知られていたりします。実はストレスって、必ずしも悪いわけじゃなくて、我々の心の豊かさや成長にも寄与しています。

 

一般的には「ストレスがないほうが楽だ」と思うし、僕もそう思う時は当然あります。ただ、生物にとってストレス反応はすごく大事で、必要だから備わっている重要なメカニズムとして知られています。

 

不安の感情ってあるじゃないですか。不安になれば、それに伴ってストレスホルモンが作られていくんですが、不安(の感情)もめちゃくちゃ大事です。恐怖もそうです。(本当は)嫌ですよ、(そんな気持ちに)なりたくないですが。

 

例えば、駅でいきなりナイフを持った人が現れた時に、ぞくっとして恐怖や不安を感じますよね。それがあるから我々は、「その場から回避させよう」という脳のモードに入っていくことができるんです。不安や恐怖を感じられなくて、(ナイフを持った人に)てくてくと近づいていってしまったら、その人の生存確率は下がってしまうんですよね。

 

痛みの信号も同様なんです。痛みを感じて、それに伴うストレス反応があるからこそ、「痛みを受けないようにしよう」と思ったり、回避できるようになっていく。

 

痛みも不安も恐怖も、生きていくためにはマストな感情

実際に、痛みの感覚を受け取れなかったり、それに伴った不快感を内側で作れない人は、自傷行為をすることが多くなります。昔はそれをおもしろがってお金になっちゃうこともよくあって、やりすぎて痛みを感じないから、死んでしまうケースがあったりもしました。痛みの信号、不安の感情、恐怖の感情。どれを取っても、生物として生きていくためには必要な仕組みなんですよね。

 

そもそもストレスをネガティブなものと捉え、「避けなきゃいけない」と、悪として決めつけていくような状態。そういう(ネガティブな)体験をすることが多いので、そういった反応になってしまうのは致し方ないかなと思いますが、科学的に見たり、今の医学をちゃんと見ていけば、ストレスは必ずしも悪いものではない(と理解できる)。

 

スタンフォード大学の有名な実験で、「ストレスは悪だ」と思っている人と、「ストレスには実は成長因子があり、我々を成長させてしてくれるんだ」と思っている2つの対照群で実験したところ、血中に現れるストレスホルモンの合成具合から、ストレスからの回復具合がぜんぜん違うことが明らかになったんです。

 

(「ストレスは私たちを成長をさせるんだ」と)思っただけで、そんなに変わっちゃうんです。だけど、思いが違うということは、それに伴って自分の気分や内側の状態が違うということですから、細胞や分子レベルのミクロな存在で効果があるんです。

 

すごく抽象的な「思い」というものが、今はすごく科学されています。「ストレスには、成長にとっていい点もあるんだ」と心から思い込むことが、1つ重要になってきます。

 

「つらかったけど成長できた」という、強い記憶を持つことが重要

ここで1つポイントなのは、具体的な実験設計でいうと、1週間の中で3回、動画と合わせてメールが被験者に届くんですよ。「ストレスにはこういういい点があって、こういうポジティブなところがあるんです」って教えてくれるんですよね。それを認識できているからこそ、ストレスからの回復具合が高まった。

 

じゃあ、それを現実に落としこんで考えてみた時に、誰がメールで週3回、ストレスのいいところを教えてくれるんですか? ということですね。なかなかないと思います。重要な観点は、「ストレスが自分の成長を後押ししてくれる」という情報を、自分の脳の中にちゃんと持つことなんです。強い記憶の情報として、自分の脳の中にその情報を持つことが最も重要です。

 

これを意識することはなかなかなくて。みなさんも、自分が最も成長できた場面とか、成功できた場面を思い返していただくと、けっこういろんな葛藤があったり、苦しみながら乗り越えた時に大きな成長をしているなって、言われれば感じると思うんですよね。

 

さっき言ったように、「ストレスが後押ししてくれた」「大きく成長できた」というのが、それぞれの「点」として自分たちの脳には残っているんですが、同時発火でワイヤリングしてない人のほうが多いんじゃないかなと思います。これはもったいないですよね。

 

ストレス体験が実は(成長を)後押ししてくれたという経験は、誰しもが持ってると思います。同時に、脳の中に表現されない限りワイヤリングは形成しないので、「物理的にめちゃくちゃつらかったけど、それがあって成長できたな」ということを脳の中に刻んでいく。同時発火させていくモーメントを持つこと。「つらかったけど成長できた」という、強い記憶を持つこと(が大切)ですね。

 

記憶って、簡単に持つことができないんです。英単語を1個覚えるのにも、何回も書いて何回も発音して、初めて記憶になると思うんですよね。なんとなく無意識的に生きているだけで強い記憶が作られるかというと、よっぽど繰り返せばなるんですが、そうじゃない限り作られない。

 

過剰なストレス状態は、脳の機能を停止させてしまう

なので重要な観点は、「めちゃくちゃ苦しかったけど成長できた」ということを、意識的に脳の中でちゃんと向き合って、自分の情報として脳の中に書き込んでいく作業をすること。それによって、誰かがメールで「ストレスにはいい点があるよ!」と言ってくれなくても、自分の脳がストレスをポジティブに受け入れ、ストレスからの回復具合・成長度合いを高めてくれます。

 

過剰なストレスというのは、副腎皮質で作られるストレスホルモンの分泌量が多くなる状態。(ストレスホルモンが)脳に戻ってきて、リセプターがそれをいっぱいキャッチしちゃう状態です。その信号を受け取ると、人間の脳はモードががらっと変わっちゃうということが知られています。

 

「今、体の中には大量にストレスホルモンが作られているぞ!」となるので、それに合わせた脳のモードに切り替わっちゃう。そうすると、どういう変化が起きるかというと、おでこの裏側に「前頭前皮質」という脳の部位があるんですが、この機能がガタンと停止しちゃう状態です。ここ(前頭前皮質)を使っている場合じゃなくて、「戦うか・逃げるか」という脳のモードにがらっと変えていく。

 

太古の昔から、人間の脳ってそんなに大きく変わっていないですよね。昔は、生死を伴うようなことが多くあったわけです。すぐに逃げるか、あるいは戦っていくか、そういうモードに(脳を)持っていかなければならなかった。

 

そうなると、「考えている場合じゃないですよ」と、とにかく戦うか・逃げるかの状態(に脳が切り替わってしまう)。現代で生死に(関わるような事態に)なることは少ないけれども、それでも過剰なストレス反応によって前頭前野が停止してしまう。

 

 

これが、ビジネスシーンにおける我々のパフォーマンスをがくっと下げちゃう可能性があるので、過剰なストレス状態はケアしていく必要がある。

 

叱られて、また同じミスをする……悪循環に陥る前に

前頭前野の1つに「dlPFC」という脳の部位があります。意識的な注意であったり、思考を促すための脳の部位なんですが、ここが過剰なストレスによって止まっちゃうんですよ。「上司に怒鳴られた」とか、親に怒鳴られてビクビクしてる子どもが、目線が泳いでいるのを見たことはないですか? あれはまさに、Attentionがとれなくなっちゃっているんです。

 

ストレス過剰によって、前頭前野の機能が停止しちゃっていますから、意識的に注意を向けることをコントロールできない。怒っている人も怒鳴ってる人も、「相手のため」と思ってやってると思います。だけど、聞いてる側が言われてることにフォーカスできないし、そこに対して思考することもできないので、言われてる内容は右から左になっている状態です。

 

そうなると何が起こるかというと、叱られている内容と同じようなミスをまた繰り返していくという、バッドスパイラル(に陥ります)。そうするとますます怒られて、ますます(話の内容が)入らない。

 

こういったケースは、教育現場や人材育成(の現場でも)よく見ているんですが、マネージャー層やリーダー、上に立つ人たちは「伝え方」も大事です。怒ってる側もエネルギーを使って伝えているけど、伝え方によっては相手を思考停止状態、かつ注意もとれないような状態にしちゃうことによって、(伝えたい内容も)伝わらない。

 

(叱った相手が)同じミスをしてるということは、伝える側の問題である場合もあるぞ、ということは認識しなきゃいけない。怒っている人も、心理的安全でないストレス過剰な状態になっているからこそ、そういう伝え方になっているんです。これでは、なかなかお互いにいいパフォーマンスを導きづらいと思いますので、過剰(なストレス)はケアしていく必要があるかなと思います。

 

人間関係なので、「どっちかがこれだけすればいい」ということはなくて。脳をうまく活用していくという文脈において、どっちもが心理的安全な状態であることが非常に重要です。これだけ今、世の中で言われ始めているので、まずはお互いが認識することが前提になってくるといいなと思ってます。

 

怒りを抑えて部下に伝えることは、結果的に自分のためになる

その上で、上司側もエネルギーの使い道(が大切)だと思っています。怒りに任せて伝えていては、せっかく伝えようとしていることが伝わらなくなる。また伝える必要が出てくるのは、ますますエネルギーを使っちゃうのでもったいないですよね。

 

(怒りを)ぶちまけたくなっちゃうかもしれませんが、落ち着かせて伝えていくことは、自分のためでもあるんですよね。それによって聞く側も学習しやすくなるから、再発を防止しやすくなっていきます。それが上司側のメリットなので、その意識を持つことが大事です。

 

じゃあ、聞いている側はどうか? という話になってくるんですが、万人の上司さんが(相手を)気遣って言えるかというと、それも非現実的だと思うんですよね。

 

上司さんは上司さんで、いろんなストレスを抱えながらやっている可能性もある。(部下側も)「あいつが悪いんだ!」という身構えだけでは立ち行かないと思うので、そういう状況になった時に、受け手側も自分をどれだけ客観視できるのかは非常に重要ですね。

 

思考法というと、「こういうふうに物事を考えたらうまくいくんじゃないか?」という状態だと僕は認識しています。それは、意識的な取り組みなんですよね。うまくいっている人や成長しやすい人、成功している方々って、実はそれを意識せずともやっているような状態になっています。「常態化している」というのがすごくキーです。

 

「思考法」と言ってるだけでは、まだまだ自分の身になっていない状態ですね。脳的に言うと、セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(CEN)と呼ばれる、意識的にその状態を自分で作る脳を使っている。(あくまでも)思考法は入り口で、「自分はこういうふうにやろうかな」という最初のきっかけを導入していくのが思考法の重要性です。

 

それを繰り返し・繰り返しやっていくと、ミクロの単位ですが、使った脳の神経回路がちょっとずつ変化して、筋肉と一緒で太くなっていきます。そうすると、エネルギー的にだいぶ効率が良くなるんですよね。最初は神経細胞に電気信号が流れていくんですが、(神経が)細っちいと電気がどんどん漏洩していって、うまく(情報が)伝わらないんですよね。

 

だから、大きな意識をして通していかないと、次に伝わっていかない。それを繰り返して太くなっていくと、ちょっとのインプットでも漏洩する確率が低くなっていくので、あんまり意識しなくても情報が通っていく(ようになります)。

 

思考法を意識するだけでなく、常態化を目指す

自転車でも(同じですが)、最初は意識して「ああかな、こうかな」とやっていたことでも、知らず知らずにできるようになっているのと同じように、あらゆる思考法も「最初に意識的に導入する」というフェーズがない限り、新しいことの習得はできません。

 

最初のフェーズは持ちつつも、繰り返して強くすることによって、自分の一部にする。それは、細胞分子レベルで自分の脳内に書き込まれていく状態です。

 

できなかったけどできるようになる、できなかったけどできるようになった……という繰り返しの“同時発火”は、最初は意識しなきゃいけないです。繰り返して強い記憶になって、自然と「あぁ。またうまくいかなかったけど、これは成長の機会だ」という脳の反応に持っていく。

 

脳の中の「デフォルト・モード・ネットワーク」という部分が起動して、意識しなくても反応できているような状態(に持っていく)。多くの成功されている人たちは、「切り替えが早いな」とよく言われたりすると思うんですが、意識しなくてもその状態なんです。

 

ただ思考法的に意識してるだけではなくて、常態化して自分の一部になっているところを目指す。「意識だけでいい」と思ってしまったら、そこで終わってしまう可能性が高いので、意識して繰り返していくことが重要になってくると思います。

 

(「ストレスを武器にする組織の仕組みづくり」について)メンバーに「こういった仕事をお願いします」とお願いする部分もあるけれども、本人がやりたいと思っていることを探究させたり、学ばせる時間は常に持っています。

 

昔も注目されていたと思いますが、Googleさんでも「10パーセントルール(業務時間の10パーセントを「やりたい仕事」に使うこと)」を導入したり、ドーパミンを促せるような環境にしていくのはすごく重要です。

 

成功と失敗を「成長」につなげるための取り組み

うちの会社でも、プロジェクトにもならないし試作にもならない、実際に何の利益もあげないけれども、本人のやりたさで探究する時間をちゃんと確保させてます。

 

あとは、Slackを使いながらコミュニケーションすることが多いんですが、チームごとに「Everyday Growth」というチャンネルがあって。何をやってるかというと、1日の仕事の終わりに、チームごとにその日の成長を書き出すのがルールになっています。これが、思いのほか良くて。

 

多くの場合は、成長に注意を向けるのがすごくポイントです。理論でもわかってたんですが、今までは、成功か・失敗かという結果にとらわれる人がすごく多かったんですよね。成功や失敗に囚われるのは、脳的にいうと簡単なんです。なんでかと言うと、感情が揺れ動くところなので、注意を向けやすいんですよね。

 

ポイントは、「やったー」とか「がくーっ」ではなくて、成功と失敗をどういう学びにしていくのかが、本質的な成長には重要になってきます。

 

今言ったような、短期的な感情の揺れ動きだけに反応している状態は、「やったー」とか「がくー」という反応だけですが、これをいかに学びにしていくのかが、我々(の会社の中)でいうEveryday Growthです。失敗だろうと成功だろうと、そこから学べたことが常にやることとして決まるので、いちいち成功や失敗に囚われなくなります。

 

 

僕も今まで、メンバーの失敗を批判したり怒ったことは一度もなかったんです。ただそれよりも、仕組みを作った中でEveryday Growthをやると、失敗でも「成長」として一人ひとりがラベリングすると、僕や上の人たちは評価するという仕組みになっています。成功・失敗に囚われなくなって成長にフォーカスしていくので、仕組みとして取り入れてすごく良かったなと、個人的には思っている部分です。

 

根拠のない「なんとかなる」精神も、成長につながる

本日は、小難しい脳の話も含めてご視聴いただき、誠にありがとうございます。最後にみなさんにメッセージということなんですが、ストレスとは切っても切れない「希望」ですね。希望って「希(まれ)な望み」と書きますが、これは脳的には「根拠なしの自信」とよく言っていて、不確かさドリブンの探索機能の脳機能として定義されてます。

 

みなさんの周りにも、どうなるかよくわかんないのに、「なんとかなるんじゃない?」と言いながら、前のめりに行動していく人を見たことがあると思います。根拠なくいけるというのは、脳にとっては実は高等な脳反応です。我々は根拠のないことをやろうとする時、どうしても大きなストレスになっていって、ブレーキをかけてしまうんですね。

 

そうすると、可能性や新しいことがありそうだと思っても、やらないで終わってしまうことが多い。新しい発見、学び、自分をリッチにしていくという文脈では、どうしても新しいフィールドに挑戦していくことは必要になってくるかなと思います。新しいことって、最初から100パーセントうまくいくことはなかなか少ないと思います。

 

失敗してもやり続けていく中で、初めて自分の思い描いたところにたどり着くことができる。実際に心理学でも「ダニング=クルーガー効果(正しく自己評価ができず、過大評価してしまうこと)」が知られています。人間の能力は、自分の見積もりが不正確であるという言われ方をすることが多いです。

 

「優劣の錯覚」と言われていますが、自分の見積もりをちょっとよく見積もっちゃうことがあります。テストとかで「よしよし、70点はいけた」(と思っても)、開けてみたら50点しか取れてないとか、自分のことをすごくできた感じだと思っちゃうんです。

 

ポジティブに、自分を(高く)見積もっちゃう優劣の錯覚は、あんまりよくないこととしてとらわれることが多いんですが、統計的にそういった反応性が出るのは逆に意味がある、と最近は捉えられています。自分を高く見積もって、「なんとかなるんじゃないのか」と思わせるからこそ、新しい1歩を踏み出せる。

 

1歩を踏み出して、実際に現場に行ったり現実と向き合っていくと、自分のできなさや周りの批判に包まれやすくなるんですよね。そうすると、最初に持っていた希望がどんどんかき消されていって、継続することができなくなってしまう。なので、一番最初に芽生えた、希望を持ち続けることで、本質的な価値や、自分の思い描いたところにたどり着けるのかなと思います。

 

「根拠がなくても、根拠は作っていくものだ」と思いますので、自分の内側で湧いたちっちゃい希望を大切にしながら、前に進んでいただけるといいんじゃないかなと思います。詳しくはこれ(『HAPPY STRESS』)に書いてありますので読んでいただけたらなと思います。本日は、ご清聴どうもありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

脳の仕組み

 

脳には3つの情報処理ネットワークがある

私はよく講演やセミナーの場で、参加者の皆さんにこんな質問をしています。もしよければ、あなたもチャレンジしてください。

 

「自宅を出てから最寄りの駅までの道のりって、おそらく今まで何百回、何千回と歩いていますよね。その間に何本の電信柱があるか、覚えていますか?」

 

正確な本数が答えられる人には出会ったことがありません。ただ、毎日見ているわけですから、情報としては脳に届いているはずです。でも、覚えていない。これは注意を向けていないからです。

 

実は「意識して注意を向ける」「集中する」という行為には多くのエネルギーが必要で、脳を疲弊させます。私たちは無意識のうちに膨大な情報を受け取っているので、それらすべてに注意力を働かせようとしていたら、たちまちエネルギー不足になってしまうのです。

 

そこで、脳は省エネのために「いらないことには注意を向けない」という仕組みを築いてきました。

 

人間の脳には大きく分けて、3つの情報処理のネットワークがあります。

 

@デフォルトモード・ネットワーク……無意識に近い状態で、記憶や経験に準じてオートマチックに情報処理や指示出しをする

Aセントラル・エグゼクティブ・ネットワーク……自発的に意識を向けたときに活発に働く

Bサリエンス・ネットワーク……@とAの対極的なネットワークの切り替え役を担う

 

脳は1万年前と大きく変わっていない

電信柱の例で言えば、駅までの道を歩くとき、ぼんやり考えごとをしていても駅にたどり着けるのは、デフォルトモード・ネットワークが働き、経験と記憶に沿ってあなたを導いてくれるからです。

 

それでも途中で歩道が狭くなり、車が間近に通り過ぎていく場所や、赤になるとなかなか変わらない信号など、注意を向けないとネガティブな出来事が起きる危険性がある場所では、毎日、その道を通っていてもサリエンス・ネットワークが「!」とアラートを出し、セントラル・エグゼクティブ・ネットワークにバトンを渡します。これは私たちに危険を回避する本能があるからです。

 

話はいきなり壮大になりますが、私たちの脳は1万年前のホモ・サピエンスと大きく変わっていません。太古の昔、原野で暮らしていた私たちの祖先は、多くの生命の危機に晒される環境の中で生きていました。その環境下で生存競争に勝ち抜くため、生きるか死ぬかの重要な情報に注意を向けることを最優先事項とした仕組みが進化していったのです。

 

一方で、「お気に入りのパン屋のショーウィンドーに新作が出ている!」「この間、閉店した店で改装工事が始まった!」といったポジティブな変化に対してもサリエンス・ネットワークは反応し、好奇心を伴った形でセントラル・エグゼクティブ・ネットワークが働き始めます。

 

かなり簡略化していますが、いつも通る道を歩くとき、私たちの脳ではこんなふうに脳の情報処理ネットワークが切り替わり、注意を向ける対象を選んでいるのです。

 

 

私たちは目の前に見えている世界のうち、1000分の1ほどの範囲にだけ注意を向けています。当然ながら、あなたの家から駅までの間にある電信柱は急に倒れてきたり、動き出したりしません。生命を脅かすような危険な存在ではなく、喜びを与えてくれる情報も発信しないので、注意を向けられることもなく、記憶されることもなく、そこにあるのです。

 

一方、今のあなたのように、文章に注意を向けているときは、意識的に対象に注意を向けるセントラル・エグゼクティブ・ネットワークが働いています。

 

額の真ん中に人差し指を当ててみてください。その奥にある前頭前野をメインとした脳のネットワークで、私たちが意図したところに注意を向けたり、何かを考えようと問いを立てたりと、特定の場所に人間の意識を向かわせる役割があります。

 

ただし、セントラル・エグゼクティブ・ネットワークが働き、「意識して注意を向ける」「何かに集中する」という行為を続けるには、多くのエネルギーが必要です。脳にも大きな負荷がかかるため、時間が経つにつれて注意力はどうしても散漫になり、集中力は続かなくなっていきます。

 

ですから、もし、あなたが「自分は集中力が足りない」「どうしてすぐに気が散ってしまうんだろう?」と悩んでいるとしたら、自分を責める必要はありません。

 

脳の仕組みから言うと、注意力や集中力が続かないのは当然。意識して、さまざまな物事に注意を向けられる時間は限られているのです。

 

ただ、この限られた時間に注意を向け、学んだこと、体験したことはデフォルトモード・ネットワークでの意思決定にも影響を与えます。集中して学んだことは、私たちの経験、記憶として強く残るからです。

 

例えば、パートナーが妊娠し、出産・子育てのことを意識的に学び始めると、街を歩いていても妊婦さんや小さな子ども、ベビーカーに乗った赤ちゃんに注意が向かうようになります。あるいは、必要に迫られて英会話の勉強を始めた人は、通勤電車で聞こえてくる英語での会話や街頭で耳に入る洋楽の歌詞に、以前よりも意識が向くようになります。

 

 

この無意識の注意に気づくのは、サリエンス・ネットワークの役割です。デフォルトモード・ネットワークが受け取った情報――「あ!妊婦さんがいる」「赤ちゃんだ!」「英語の歌詞が聞こえる!」――に、サリエンス・ネットワークが反応。すると、セントラル・エグゼクティブ・ネットワークが注意の対象に意識を向けます。

 

「妊婦さんに席を譲ろう」

 

「赤ちゃんが笑っている。1歳くらいかな」

 

「あ、この曲の歌詞、こんな意味だったのか」

 

デフォルトモード・ネットワークが自然と反応し、サリエンス・ネットワークがそのシグナルに気づけるのは、それ以前にあなたが意識的に注意を向けた事柄が記憶として定着しているからです。

 

集中して学んだことは、あなたの中に深く残ります。一度、四則計算の方法を覚えればいつでも暗算ができるように、記憶が無意識の行動や選択を導いてくれるようになります。デフォルトモード・ネットワークは、あなたが経験してきた記憶や経験を土台に「記憶ドリブン」の行動や意思決定を導いてくれるのです。

 

記憶ドリブンを優れたものにすることがカギ

通勤や通学などで道を歩くとき、私たちはいちいちセントラル・エグゼクティブ・ネットワークを使って、意思決定はしていません。もちろん初めてその道を通るときは「まっすぐ進もう」「次の交差点を右に曲がろう」「次に通るときは、角にあるお店を目印にしよう」など、セントラル・エグゼクティブ・ネットワークを使った注意を向け、選択していきます。

 

 

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しかし、何回も同じ道を行き来するうち、行動と経験が脳の中で記憶され、定着し、記憶ドリブンが作られ、無意識でもスムーズに歩けるようになります。脳のパフォーマンスを高める観点で言うと、この記憶ドリブンをいかに優れたものにしていくかが大きなカギを握っているのです。

 

集中力の仕組みを知ってスムーズに集中できる感覚を養っていけば、その経験の蓄積が記憶ドリブンとなります。

 

すると、ストレスや疲れでセントラル・エグゼクティブ・ネットワークがうまく働かなくなり、注意力が散漫になったときも、記憶ドリブンに沿って働くデフォルトモード・ネットワークが必要な対応を取るよう、あなたを動かしてくれるようになるのです。この仕組みを仕事や学びに活用していくことができれば、集中力が高まります。

 

あなたの思い描いている理想の状態と、これからの行動を一致させ、役立つ記憶ドリブンを作っていきましょう。セントラル・エグゼクティブ・ネットワークで理想とする方向に注意を向け、行動し、デフォルトモード・ネットワークに好影響を与える記憶ドリブンを作っていくイメージです。ここに集中力を高め、人生を豊かにしていくヒントがあります。