瞑想の精神医学   安藤治

 

第五章 瞑想はどのような精神状態をもたらすのか     瞑想体験の発達的諸段階のモデル

 

 

ダニエル・ブラウン1986の瞑想体験の発達的諸段階のモデル

準備期

論理的訓練

a 一般的準備 態度の変化

瞑想

 

b 特別な準備 内面的変化

 

 

c 進んだ段階での準備 行動変化

 

身心的訓練

a 身心への気づきの訓練

 

 

b 呼吸と思考の制御

 

 

c 意識の流れの再構成

集中的

介助対象あり

a 外部対象への集中

瞑想

 

b 内部対象への集中

 

 

c 種を認識する技術

 

 

d 精神を停止させる  知覚の統合

 

介助対象なし

a 光の流れをすばやくつかむ

 

 

b 光の流れの観察  過ぎゆくままにまかせる

 

 

c 光の流れのバランスをとる

洞察的

一般的瞑想

a 視点を繰り上げる

瞑想

 

b 技術  サマーディの変容

 

 

c 現れては過ぎゆくサマーディ

 

究極瞑想

a 通常の知覚と究極的意識の相互関連性

 

 

b 究極的意識の相互関連性と悟りとの関係

 

 

c 回顧

 

 

 

 

準備期瞑想

論理的訓練

a 一般的準備 態度の変化

  瞑想の時間を持つことで、日常生活に対する反省

 

 

b 特別な準備 内面的変化

  不快な感情や心地よい感情、思考、イメージ、記憶が現れるので、

それらに気づき、観察する。

 

 

c 進んだ段階での準備 行動変化

  戒律により習慣、仕事、遊び、食事、睡眠に注意深く吟味する

 

身心的訓練

姿勢の保続

体と意識の分離

a 身心への気づきの訓練

  身体に生じるランダムな活動をすばやく察知する

  安定した姿勢により活動は制御される

  身体をめぐるエネルギーの流れを感じとれるようになる  

 

 

b 呼吸と思考の制御

  乱れる呼吸や思考の流れに気づくだけで、落ち着くことを学ぶ

  日常の思考回路が減少し、黙想的思考回路が現れる

 

 

c 意識の流れの再構成   脱構築された思考

  対象の感覚的刺激を絶って、他の意識の顕れ方を学ぶ

  意識の内容ではなく、意識のプロセスへスポットライトを当てる

  内面的世界に深い関わりを持ち、外部的世界によって揺るがない

集中的瞑想

介助対象あり

a 外部対象への集中

  ある対象へ凝視を続ける  マントラ 経典 曼荼羅

  意味は剥ぎ取られ、色や形だけが映るようになる  

  カテゴリー化、識別化といった能力が取り払われる

 

 

b 内部対象への集中

  身体の微細なエネルギーの流れや、カミのイメージにスポットライト。

 

 

c 種ニミッタnimittaを認識する技術

  知覚属性の情報が集束したもの

 

 

d 精神を停止させる  知覚の統合

   認識プロセスをするマインドを停止させ、揺らぎが止まるまで続ける

  これがサマーディと呼ばれる新たな微細な感覚の扉

  知覚の底にある「光の流れ」を開いた

 

介助対象なし

a 光の流れをすばやくつかむ

  新たな意識である光の流れを掴み取る練習

  知覚のベースになっていた自己が次第に崩れ去っていく

  もはや「私」はなく代理の自己が残されているだけ

 

 

b 光の流れの観察  過ぎゆくままにまかせる

  「私」を作り上げていた「活動」が光の流れを認識するのを妨げる

  活動を「過ぎゆくままにまかせる」訓練をする

  光の流れは新しい仕方でそれ自身を現す

 

 

c 光の流れのバランスをとる

  見方を変えることによって、現象も変わる

  見方の切り替えによってバランスを取らなくてはならない

洞察的瞑想

一般的瞑想

光の詳細分析

a 視点を繰り上げる

  サマーディに影響を与えている偏見が是正されていく

  実体はない 相互に依存している 不変

 

 

b 技術  サマーディの変容

  サマーディをマインド?に戻す技術

  思考や感情にスポットライトを当てながら生起消滅する過程に気づく

 

 

c 現れては過ぎゆくサマーディ

  存在の生起と消滅の過程を目の当たりにして、これを宇宙にも適応する

  瞑想者と精神と宇宙の相互のつながりを知るに至る

  現象は個別の因果関係によってではなく、相互作用の網の目の中で生起消滅

 

究極瞑想

サマーディ保持

a 通常の知覚と究極的意識の相互関連性

  差異は相互関係性によってはじめて姿を現してくる

  モノの根底に隠されている相互活動と認識をつなげることを学ぶ

  サマーディの誘惑に溺れないで瞑想を続ける練習

  一つの世界(相互作用)が光の流れに変化を与えていることを知る

  これが意識に変化を生み出していることを知る

あらゆるものは因果関係・カルマの法則の中にいることを知る

カルマを断ち切ることも知る

 

 

b 究極的意識の相互関連性と悟りとの関係

  観察するものと観察されるものが不可分の状態である

  観察の目は観察することとそれ自身へと向けられる

  対象はありのままの姿を顕す

  妨害するのは期待、疑い、判断、カテゴリー化する思考、微細な精神活動

  悟りのはじまり  あらゆる現象や活動がなくなっていく「停止」

  残されたものは「無」

  不可分の観察者と現象によって生起していた状態は

変化した観察の目によって、永久にはっきりと分離される

何ものにも干渉を受けなくなったあるがままの状態が姿を現してくる

カルマは生じない 永久に揺らぐことのない変容、悟りの成就

瞑想者は宇宙との相互連関のなかにあり、干渉されない深い平穏と不動

 

 

c 回顧

  悟りの観点が失われることによって起こる認識の歪みを根絶していく

  日常生活の中で悟りをいかに安定させていくかを学び続ける

 

 

 

 

第六章 瞑想に危険はないのか?   副作用と落とし穴

 

準備期瞑想

1思考・感情の氾濫

内的意識に現れる強烈な衝撃、幻覚、大きな感情の揺れに引き込まれる瞑想者は瞑想を維持できなくなる。

妄想的思考、絶え間ない不安、頭痛や消化器系の不調などの身心的症状の現れ

2抑圧の解除

不快な体験や身体の痛みの浮上

精神病を体験した人の症状の再発

3現実からの疎隔

長期瞑想から日常生活に戻る時に、思考プロセスがとまり決断ができない状態になる。

自己、身体、環境に対する現実感の喪失を特徴とする離人症と類似している。

4魂の暗夜  ファン・デ・ラ・クルス1542-91

生の全てが意味を失い、苦悩や絶望や抑うつ感にさいなまれる。

自殺に追い込まれるものではない。

5スピリチュアル・アディクション

スピリチャリティへの強い欲求には、本質的に自己の責任の放棄という要素が含まれているために、外的対象に依存しがちになり、中毒に至る傾向が常に強く潜在している。

現実の社会生活からの逃避や魔術的な解決を求める傾向

6信心のはらむ罠

自分たちの信念こそが真実に近づく唯一の正しい道だと主張し、他の集団を排斥する傾向を強く持つ

特殊なプライドを持ってしまって自分を特別な人間だと思いこむ傾向

スピリチャリティは弱い自我が自己評価を高めるために用いる道具になる。

罪の意識や恐怖から実践された場合、罪から逃れるための形式的な儀式になってしまう。

 

集中的瞑想

1感情の激発

長期のリトリートにおいてはよく見られる。

身体の一部が突然に動き出す、急に脊髄が燃えるように感じる、身体の強烈な痛み、色の光に襲われる、喜悦を伴う体の震えなどが数日間から数年間にわたって持続する。

このような場合は、あわてることなく、エネルギーの発現に尊敬を持って接しながら、その体験に執着せずに正しい瞑想を続けることが重要とされる。

また瞑想をいったん離れ、適度な運動や、マッサージや、大地に触れる身体作業に精を出したりすることが推奨される。

クンダリーニの覚醒に相当するものだと考えられる。

 

2知覚の変容

瞑想者体験に不安を抱いて恐れて抵抗するたびに体験のなかに引き込まれてつかまってしまう。

 

3シュード・ニルヴァーナ 偽涅槃

強烈な幸福感

 

4禅病

白隠禅師「夜船閑話」

内観の法   大量の酸素の導入が可能な 丹田呼吸法  

軟酥の法   頭上のバターが溶け落ちることをイメージするヴィパッサナー瞑想

トランスパーソナルのケン・ウィルバーが発達論的精神病理論でFulkrum8として説明している。

統合・同一化の失敗が引き起こしたのが禅病であり、詳細は、微細レベルの構造が浮上しても、それを自己に統合できないまま解離している状態で、二元論的認識として対象として眼の前に現れることになる。

元型の断片が幻覚として出現し、これを不快と条件付けると嫌悪となる。

臨済宗の公案とは、非論理的な質問が師によって与えられ、その答えを探し出すという修行法である。

論理的思考を行き詰まらせて停止させることによって、微細レベルのの意識モードの浮上を促進させる。

ウィルバーの提唱する自己実現レベルを完全に通過せずとも霊的レベルに至る成長の過程が存在するのではないか?

 

 

洞察的瞑想

スピリチュアル・エマージェンシー

ホトロピック・ブレスワーク       グロフ夫妻

 

1シャーマン的危機

シャーマンの旅  シャーマンが病気の治療やその共同体への奉仕として行う儀式の中で行う、変性意識状態のことで、さまざまな悪魔や霊たちと出会い、試練をくぐり抜けながら死と再生を体験し、洞察と力を携えて、再び共同体の人々の前に戻ってくる。

 

2クンダリニーの覚醒

エクスタシー的感覚や恐怖を伴った肉体的、精神的、霊的体験に次々と襲われ、日常生活に支障をきたす。

 

3合一意識(統一意識)のエピソード

エイブラハム・マズローの至高体験Peak Experience

カミとの融合による永遠性の感覚や深々とした精神の落ち着き、強烈な喜び

 

4刷新プロセス renewal process

ジョン・ペリーは実験で破壊や死のイメージを与えるとやがてそれは終息し、続いて復活のイメージが現れることを観察した。

 

5憑依状態

体験した本人に大きな治療的効果をもたらすことがある。

 

6サイキック・オープニング

体外離脱体験

チャネリングなどの霊媒的行為

テレパシーや予知能力