感覚でつながっているココロとカラダ
想い(記憶、空想、思考)と感覚でつくられる条件反射(サンカーラ)
フロイトの弟子のひとり、ライヒは、人間はいろいろなストレスを受けると、それが筋肉の緊張となって残り、精神的な障害の原因になると考えました。彼は、この筋肉の緊張を「性格の鎧」と呼んでいます。過去に受けたストレスが鎧のように筋肉の緊張となって残り、その人の性格を形成しているというわけです。
成人なら、誰でも多かれ少なかれ「性格の鎧」をもっており、体にさわってみると、その人がこれまで受けたストレスの程度がわかるといいます。ということは、体をほぐすこと、つまり鎧を破壊することがストレスの解消につながるということです。その方法がボディワークです。今世の中にあるボディワークのほとんどは、ライヒの理論から出発しています。
人生の歪みが、ライヒのいうように体のどこかにきている人は、瞑想をしても快い瞑想にはなりません。体の緊張をほぐす必要性はそこにあります。
現代人は運動不足で、バランスが悪くなっており、瞑想だけをやると、「好ましくない反応」が起きがちです。ですから、そういう反応が起こる人は、事前になるべく思い切り体を動かしましょう。ヨーガや気功法をきちんとやってみるとか、ボディワークをきちんと受けてみることをおすすめしたいと思います。
「性格の鎧」とは、筋膜が緊張して張っていて「奥には絶対入れさせない!」と主張しているカラダのことです。
からだをさわるとある程度その人のストレスレベルがわかり、体格やからだの状態から、その人の性格の傾向も推察できます。すなわち、からだの特徴が性格上の特徴になります。
瞑想中の脳
瞑想熟達者の脳を調べてみると、脳の頭頂葉の活性が下がっていて前頭葉の機能がオフライン状態になっているという研究報告があります。
脳の頭頂葉の働きは、視覚、聴覚、触覚、の情報を組み合わせることによって、”今ここに自分がいるという感覚”を生みだすことです。
つまり、頭頂葉の活性が下がっているということは、”今ここに自分がいるという感覚”が弱まっているということです。
興味深いのは、右頭頂葉にある”角回”(外的な自分と内的な自分を区別している場所)に電極を当て、働きを麻痺させると、体外離脱体験を引き起こされることが実験によってわかっています。
瞑想体験者が、身体の感覚がなくなったとか、宇宙と一体になったとか、自分が非局在化した(まんべんなく広く存在するようになること)とか、瞑想状態の感覚を表現することがありますが、頭頂葉の活性が下がった結果、引き起こされている体験であると考えられます。
さらに、前頭葉の機能がオフライン状態になるということは、前頭葉の高度な機能である、論理的思考、計画、感情および自意識の機能が働かなくなっている状態です。
また、前頭葉は感情や欲の源である原始的な脳、”辺縁系”と強く結びついており、
「記憶」+”今ここに自分がいるという感覚”=「自我」を、恐怖=不快という”接着剤”で強く結びつけるという働きがあります。
つまり、瞑想をして前頭葉をオフラインにした結果、「記憶」+”今ここに自分がいるという感覚”=「自我」をくっつけている”接着剤”が弱まり、自分が非局在化する。=自分がバラバラになる。
(難しい言い方ですが、瞑想体験するとわかる感覚)
という体験が起こるのだと考えられます。
つまり、自分がバラバラになるということは、生きるためのプログラムであるあなたが、武器を捨てた無防備な状態=深い変性意識状態であるということです。
このとき、生きるためのプログラムであるあなたが常に感じていた、敵が近づく=恐怖=不快=ストレス
から本当の意味で解放されていますので、普通の状態では感じることができないような、深い喜びや安らぎを感じることができるというわけです。
ここまでが、今まで説明してきたサマタ瞑想の瞑想状態であると考えられます。
そのとき、「記憶」+”今ここに自分がいるという感覚”=「自我」に組み込まれていた、「わかっちゃいるけどやめられない」=悩み も分解されてバラバラに感じられたとき、「悩み」を構成している”部品”は、実はどうでもいいようなただの”感覚”であったと気づきます。
実はこれがヴィパッサナー瞑想の原理だと私は考えています。
ヴィパッサナー瞑想の前にサマタ瞑想をして、深い変性意識になることで、感覚をバラバラにします。そうすると”悩み”もバラバラになります。
この時、無防備な赤ちゃんのような状態の脳であると考えられます。
ここからがヴィパッサナー瞑想です。
ヴィパッサナー瞑想は、サマタ瞑想よりも前頭葉を働かせて、全体的にバラバラになった感覚を観察することで、悩みのカラクリを学習します。
悩みのカラクリが本当の意味で分かるので、悩みが発生しなくなるということです。
言い換えるなら、しがらみから解放された、先入観のない赤ちゃんのような感じ方で世界を再学習し直すといったところでしょうか?
変性意識状態、瞑想状態に入る方法に特化した”技術”があります。
今までサマタ瞑想とかヴィパッサナー瞑想とか、瞑想法を分けて説明してきましたが、じつは、深い変性意識になってその状態を感じるだけで、結構、悩みのカラクリがわかったりします。
私の推測ですが、深い変性意識状態になっているときに、脳のニューロンの最適化が行われていて、不快な記憶、感情に関連するニューロンのつながりが見直され、再編成されるのでは?と考えています。
瞑想をして深い変性意識になると、イップスを治すような働きが自動的に起こるのではないかと・・・。
たとえば、「職業性ジストニア」にかかったあるプロのピアニストの例を見てみましょう。
その症状は、ピアノを弾こうとすると指が思ったように動かなくなったり、けいれんするといった症状なのですが、ピアニストの脳を調べてみると手の指の感覚を担当する部分の体部局在性(ソマトトピー)が崩壊していたのです。
ちょっとわかりづらいので簡単に説明すると、親指、人差し指、中指、薬指、小指という風に脳の担当する部分が分かれていなければならないのに、それが崩壊してしまい、各指ごとの担当する部分がくっついてしまっているような状態です。
例えば、人差し指と中指の感覚を担当する脳の部分がくっついて、人差し指と中指の感覚の区別がつきにくくなっている状態です。
プロのピアニストですから、手の指の感覚や運動を担当する脳の部分が非常に発達していたはずなのにそれが崩壊してしまうなんて・・・。
なぜこのようなことが起こってしまうのか、まだよくわかっていないのですが、このピアニストの場合は治療法がありました。
それは非常に単純な方法なのですが、”数本の指を特殊な板に固定して、固定していない指を動かす訓練をする”というものです。これを「感覚リチューニング」といいます。
この練習をして、脳に指の感覚を再教育させることで、脳の指の感覚に対応する部分の各指の区分けを取り戻します。
それによって、このピアニストの「職業性ジストニア」が改善されたそうです。
今まで解説してきた、「イップス」や「職業性ジストニア」になる原因と、ピアニストの「職業性ジストニア」を治す方法「感覚リチューニング」は、
瞑想をして、
「わかっちゃいるけどやめられない」=悩み
を解消できる理由によく似ています。
何が似ているかというと、「わかっちゃいるけどやめられない」=悩みは、私たちの”脳が高度に発達しすぎたせいで起こる不具合”です。
「イップス」や「職業性ジストニア」も、脳の運動や感覚を担当する部分が発達しすぎて、限界を迎えておこる不具合です。
「わかっちゃいるけどやめられない」=悩みは、「あなた」をバラバラにすることで、「悩み」もバラバラにすることができ、「悩み」を構成している”部品”は、実はどうでもいいようなただの”部品”であったと学習する。=これが”悩みの解消”です。
ピアニストの「職業性ジストニア」を治す方法「感覚リチューニング」も、指の感覚を一本一本学習し直して、脳の指の感覚に対応する部分の各指の区分けを取り戻します。
つまり、”悩み”というのは「イップス」、「職業性ジストニア」のようなものであるともいえます。
私たち人類は、脳が高度に発達しすぎたせいで、脳が限界を迎えていて、必然的に”悩み”という「イップス」が発生してしまうのではないでしょうか?
そのことを私たち人類は何となくわかっていて、自然発生的に”悩み”を解消するための技術が生まれた、
それが、「瞑想」なのではないでしょうか?