スノー・イン・ザ・サマー

ウ・ジョーティカ（Sayadaw U Jotika）著

魚川祐司訳

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◎総目次

解題 …3

読者へのお願い（ミャンマー版へのビルマ語序文） …6

内容目次 …7

感謝のことば …8

ウ・ジョーティカ師についてのイントロダクション …10

第一章：心と気づき、そして瞑想 …15

第二章：孤独 …44

第三章：親としての愛と導き …66

第四章：生、生きることと死ぬこと …69

第五章：学ぶことと教えること …85

第六章：価値と哲学 …101

第七章：友情、人間関係、慈愛の念 …129

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解題

本書は、ミャンマーのテーラワーダ僧侶、ウ・ジョーティカ師（Sayadaw U Jotika）

の著作、“Snow in the Summer” の全訳です。本文の「感謝のことば」に記されてある

とおり、本書はウ・ジョーティカ師の私信を集めた書簡集なのですが、その内容は多く

の人々の共感を呼ぶところとなり、結果として、「サヤドー・ウ・ジョーティカ」とい

う名前を世界的に有名にした、師の主著とも言うべき作品になっています。

ウ・ジョーティカ師の英語著作には、他に『自由への旅（“A Map of the Journey”）』、

『ネガティブなことへの対処法（“Dealing with Negativity & Aggravation”）』、そして

『許すこと（“Forgiveness”）』などがあり、これらは全て邦訳が完了して、訳者のサイ

ト（http://j.mp/18KUo1U）でPDF ファイルが無料公開されています。師の経歴等に

関しては、本書の「ウ・ジョーティカ師についてのイントロダクション」や、『自由へ

の旅』の解題等に詳しく述べられていますので、そちらをご参照くださいませ。

本書の英語原文はウェブ上にも公開されており、ダウンロードして読むことが可能で

す（例えば、http://j.mp/18KVCtZ）。ただし、本訳書の底本としては、2011 年にミャ

ンマーで出版された新装第二版の書籍を使用しています。もちろん、こちらが加筆訂正

を施された、最新版になるからです。

ただ、ウェブ版とミャンマー書籍版を対校してみると、前者にはあって後者にはない

記述がしばしば見られ、しかもそれが重要な一文であったりもするので、ミャンマー版

のみを読み進めていると、意味の通りにくいところも散見されます。ウ・ジョーティカ

師ご本人に確認したところ、これは検閲の危険を考えての削除だということでしたので、

本訳書では、ミャンマー版で削除されている記述のほとんどを、ウェブ版より補って訳

してあります。原則としては、削除されている文章を元の箇所にそのまま挿入する形で

処理していますが、中にはミャンマー版で大きく書き換えられていて自然な挿入が不可

能であったり、また明らかな文意の訂正などもありますので、その場合は、新版である

底本の記述のほうに従っています。

内容についてですが、本書はテーラワーダのウィパッサナー瞑想に関する理論的な解

説書であった『自由への旅』などとは異なり、仏教やテーラワーダの教理というよりは、

むしろウ・ジョーティカ師自身の思索を（元は公開を前提していない私信であったとい

うこともあって）包み隠さず披瀝した著作になっています。本書の言葉を引いて言えば、

「人間であって、それ以上でも以下でもない」（p.113）生身で等身大の師の姿が、その

まま顕わになっているのが本書であって、ゆえに「仏教の解説書」を求めている人々に

とっては期待外れの著作ということにもなりかねませんが、同時にそうした叙述であっ

たからこそ、洋の東西を問わず、世界中の人々の心を掴むことができたのだとも言える

であろうと思います。

4

こうした本書の性格については、ウ・ジョーティカ師自身も大いに自覚的で、ミャン

マー版への序文には、「受け入れがたいこともあるかもしれないが、どうか速断しない

でほしい」旨を、ビルマ語で率直に記されています。訳者としても、ミャンマー版で削

除されている記述の中には、かなり刺激の強い意見も含まれていますし、（検閲だけが

問題だったのではなくて）中には師の考えが本当に変わったがゆえに削除されている記

述もあるのではないかと思えました（とはいえ、改訂されたミャンマー版でも、当地の

人たちにはまだ相当に独特の立場であると感じられる内容になっていると思いますが）。

ただ、ウェブ版の差し替えは未だ行われていませんし、何より、世界中の人々の心を捉

えたのは、原版に表れているウ・ジョーティカ師の真情であると思われますので、本訳

書では上述のとおり、とくに取捨選択は行わず、ウェブ版の記述はそのほとんどを、可

能な限り挿入して訳すようにしてあります。

本書はいわゆる「仏教書」というよりは、テーラワーダ僧侶という立場をもった一人

の人間が、1985 年から1995 年にかけて、多様な文化の狭間に身を置きながら、徹底

的に瞑想し思索し表現した過程を記した著作です。そのように理解した上で本書に対せ

ば、読者はそこから、自分自身が自由になるために「考えるきっかけ」を、多く得られ

るのではないかと思います。

そのような性質の本書ですから、翻訳に際しては、何よりも明晰にわかりやすく、そ

してできれば文学的に、師の意を体した美しい日本文に仕上げるよう努めました。もち

ろん全てが意図どおりにいっているわけではありませんし、翻訳によって原文の豊饒な

含意が損なわれていることがあったなら、その責任はもちろん訳者である私にあります。

また、本書は引用が非常に多い著作になっていますが、ミャンマーでの作業ゆえ、多

くは邦訳を参照し得ませんでした。良寛や寒山の詩なども引用されていますが、出典が

未詳のものもあります。誤訳や典拠の指摘などありましたら、ぜひお知らせいただけれ

ばと思います。

パーリ文の解釈に関しては、他の訳書と同じく原英文のとおりに従っています。なお、

原書のほうにはウェブ版、ミャンマー版ともにパーリ語とビルマ語の用語集が付されて

いて、仏教用語などの解説が為されているのですが、あまり詳細なものでもなく、また

邦訳してしまえば不必要なものも多いので、全て本文と脚注で一括処理することにして、

本訳書には収録いたしませんでした。

最後になりますが、本書はこれまでの訳書と同様に、訳者がウ・ジョーティカ師より

直接、翻訳の許可をいただき、師の希望に従ってウェブ上で無料公開・頒布を行なって

いるものです。個人的なご利用、また引用に関してはご自由にしていただいて構いませ

んが、著者・訳者の著作権が放棄されているわけではありません。

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また、これもいつもと同様ですが、翻訳へのご意見・ご質問は常に募集しております。

訳者のサイト（http://neeken.net/）から、メール、ツイッター、ニコニコ生放送など

のメディアを通じて、皆様の声を届けていただければと思います。

2013 年12 月 魚川祐司

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読者へのおねがい（ミャンマー版へのビルマ語序文）

外国在住の信徒たちへ返信した書簡の中から、ふさわしいものを選んで、信徒の一人

が本にするべく準備をし、外国で出版しました。

その本をミャンマーの信徒たちも読みたいということで、フォト・コピーをつくって

いた。しかし読みにくいという声もあって、本にしたいという要望を、しばしば受けて

いたのです。

そこで、英語が読める信徒たちの要望を満たすために、この本を準備したわけです。

外国の信徒たちに書き送ったものの抜粋ですから、抄出というかたちになっています。

文章も、親しい信徒のところにあけすけに書き送ったもの。一部には、ミャンマーふう

にはそぐわないものもあるでしょう。これについては、ミャンマーの読者が理解して受

け入れてくれるであろうと期待しています。

収録されている手紙は、1985 年から1995 年くらいのあいだに書いたものです。

私の見解や解釈の一部には、読者としては受け入れられないものもあると思います。

私には、真実を自由に探求したいという本性からの思いがある。読者の側の自由につい

ても、尊重いたします。

この本の中には、考えるきっかけが多くあることでしょう。考えてみてください。軽々

に受け入れることなく、また軽々に否定することもないようにと、申し上げたいです。

サヤドー・ウ・ジョーティカ

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内容目次

本書は、ミャンマーの仏教僧侶であるウ・ジョーティカ師が、10 年から15 年前に、

友人や生徒たちに向けて書いた書簡の抜粋を、編纂したものである。これらの書簡は、

下記の章タイトルに示されるようなテーマごとに集められている。

感謝のことば p.8-9

ウ・ジョーティカ師についてのイントロダクション p.10-14

第一章：心と気づき、そして瞑想 p.15-43

第二章：孤独 p.44-65

第三章：親としての愛と導き p.66-68

第四章：生、生きることと死ぬこと p.69-84

第五章：学ぶことと教えること p.85-100

第六章：価値と哲学 p.101-128

第七章：友情、人間関係、慈愛の念 p.129-148

要するに、読者は本書を開いて、どのページから読みはじめても構わない――特定の

順番で読む必要はないのである。

8

感謝のことば

親愛なる友人たちへ

ついにウ・ジョーティカ師の意義深く美しい本を、私たちはここに手にした――本書

には彼の心からの思いと深い経験が、実に素晴らしい仕方で、言葉に表現されている。

本書は私たちの内の何人か、つまり師の法友に、80年代から90年代の前半にかけて、

彼が書き送った書簡から編纂されている。

この年月のあいだずっと、私たちと付き合い、また返信をしてくれるにあたって、師

が示した無限の忍耐強さと慈しみに、私たちは深い恩義と感謝を感じている。彼の導き

と助言によって、私たちの人生は変わった。彼は私たちに探求し問う勇気、自分自身で

ある勇気、真実そのものによって物事を解決する勇気を、与えてくれたのである。

それらの書簡に裨益された私たちは、自然なこととして、皆が利益を得られるように、

それらを他の人たちとも分かち合いたいと考えた。そこで私たちは、他の人たちが読め

るように、書簡の抜粋の編纂と編集の許可を師に求めたのである。これらの私的な書簡

を出版する許可を与えることで、一部の人から誤解され批判されるかもしれないリスク

を自分が抱えるであろうことを、師は知っている。しかし、これらの書簡を分かち合う

ことで、利益を得られるであろう人々への大きな慈悲の思いから、彼は同意されたので

ある。

私の意見を言えば、誰かが師のありのままの心にふれ、師の内奥の思考、感覚、理解

を私たちと分かち合った時、それは師が私たちに与えられる、もっとも素晴らしい贈り

物であると私は信じている――師は私たちの内に、素晴らしい確信と信頼を置き入れて

くれているのだから。そしてこの贈り物、この分かち合いは、師のような繊細で深い心

から出たものである時、ますます価値あるものとなる。

親愛なる友人たちよ、本書は非常に個人的な本であり、私としては皆さんに、ここに

含まれる言葉を生み出した心を大切にして、正しく理解するために、これを手の中で優

しく扱っていただきたい。その一つの理由は、師が私たちの手紙に返信するために、大

きな労力をかけていることを、私が知っているからである。かつて私が彼をミャンマー

に訪ねた時、彼は私に、何事であれ書き物をする前には、まずそれについて非常に注意

深く考えることにしている、と言われていた。これは、言葉が読者の心に刻み込まれ、

深い印象を与え得るように、可能な限りシンプルな語と簡潔な文によって自分のメッセ

ージを伝えたいと、師が望んでいるからである。この点に関して師は思った以上の成功

を収めていると私は信じるが、それは実際にお読みになれば、おわかりいただけること

であろう。

また、チッタパラ・ポール・バーネットにも、私の善哉

サードゥ

と感謝を表明したい。彼女は

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私がつくった最初の編集版をフィル・トンプソンに見せ、そこでフィルはチッタパラが

読めるように、それを適切な形にタイプさせた。それが、皆が読めるように書簡を編集

したいと考えていた、私たちの親しい友人であるバーバラ・ハッスラッハーの手元に至

ることにもなったのである。よいカルマのしからしむるところか、師はバーバラがちょ

うど編集作業を終えた時、メルボルンに滞在中であったので、最後の読み返しと編集を、

師は行うことができた。ポールとバーバラとフィルの忍耐強さと、善良な心がなかった

ならば、本書が日の目を見ることは全くなかったであろう。

最初の編纂作業のために、師の書簡を直ちに、そして進んで提供してくれた、ブルー

ス・ミッテルドルフ、メーダナンディ尼、そしてジョン・ホワイトローブにも、心から

の感謝を捧げたい。

師に対する私たちの感謝の気持ちを、表現しきれる言葉はない。もしそんな言葉があ

ったとしても、言葉だけでは、私たちの謝意を示すには不十分だ。

こうして私たちは、この困難ではあるが意義深い道――この道を行く者に必要とされ

るのは、目覚めを遮る全ての障害を取り除くために、自分の心と意識を精査する非常な

勇気と誠実さ、そして明晰さである――を進む方々に、師の優れた波動と智慧を、お届

けすることができるようになった。

最後になるが、私たちは本書の出版によって得る福徳を、世界の平和および、とくに

抑圧と暴力によって苦しみ亡くなっていった全ての衆生に向けて、捧げたいと思う。彼

らが善趣に生まれ変わり、また苦しみの終わりに到達することができますように。

全ての衆生が、元気で、幸せで、平和でありますように。

1998 年8 月

ペナンにて

H.ゴー

10

ウ・ジョーティカ師についてのイントロダクション

――自伝ふうに――

表現の必要性というのは実に大きなものです。それは私たちの成長のために大切なこ

と。表現する機会が全くなかったならば、創造的な思考は失われてしまいます。ええ、

これもまた一つの執着ですね。私には、それを強いて手放すことができないのですが。

何度も私はペンをとって書こうとし、そして何度もペンを置きました。言葉にしがた

いなにものかが、私の心の中にあるのです。

私が説法をしているのだとは思わないでください。私はただ、私にとって真実である

ように思われる、自分の個人的な見解（感覚、観測）を表現しているだけです。

私の言ってきたことの多くが、容易に誤解される可能性のあるものだということはわ

かっています。誰かが私の言葉を、私の意図に反して使うこともあり得るでしょうね。

手紙によって、私の言いたいことを本当に明らかにすることはできません。たとえ話を

したとしても、それはやはり私にとってはたいへん難しい仕事になるでしょう。しかし

とにかく、私は自分の見解を表現しようと試みた。私の言ったことは、他の偉大な著作

と同じではないかもしれない。あなたが私に同意してくれることも、期待してはいませ

ん。私の言葉は、普遍的な真理ではないのですから。それらはただ、1986 年10 月時点

での、私の意見にすぎない。私は変わっていく人間です。他のどんなものにだってなり

得る。間違いについてはお許しください。

私はいつも、腹を立ててばかりいる人間なのですよ。信じていただけるかどうかはわ

かりませんけどね。まあいつか幸せになるでしょう。

私のことについてお話ししましょう。私は1947 年8 月に、ムスリムの家庭に生まれ

ました。そうしてローマン・カトリックのミッション・スクールで教育を受けた。この

世に存在するほとんどのことに関して読書しましたよ。いかなる制度宗教も信じていな

かったので、若い頃には共産主義者だと言われたものです。いま私は、制度宗教を信じ

ているか？ ええ、答えは誰にもわかりませんね。私は19 歳の時から比丘（僧侶）に

なることを考えていましたが、そうなる代わりに、私は大学に進学した。そこでの教育

は実に不満足なものでしたね。そこで、私は自分で勉強をしたのです。そうして、私は

ほとんど全ての人が、地位や、お金や、感覚的な楽しみを追いかけていることを知った

――実に皮相的だったのです。

それで私は、教育というのは時間をかけるほどの価値はないのだと判断した。残りの

人生を、そんなふうに生きてゆくことはできなかったのです。娘たちのことはとても深

く愛していましたが、私は家族を残して去った。この競争社会に、私の居場所はありま

せん。比丘として森の中に住むことこそ、私にとっては最上の生き方です。それが、私

の気質に合っているのです。

ええ、私の祖母はシャン族です。彼女は長く、安らかな人生を送り、80 歳くらいで

11

亡くなりました。私はその時、14 歳でしたね。私たちはとても親しかった。彼女のこ

とは、頻繁に思い出しますよ。

私はシャンの人たちのことも好きです。とても円熟した人たちなんですよ。メイミョ

ー1の周辺には、シャン族の人たちがたくさんいる。私たちのいたイェー・チャン・オ

ー村にも、一部が住んでいましたね。イェー・ンゲーという村もありましたが、そこの

人たちはほとんどがシャン族で、彼らはシャン語を話していました。シャンの老女たち

の中には、私の祖母のような人たちもいます――もの静かで、安らぎに満ちていて慈愛

に溢れ、素朴で我慢強く、満ち足りており押し付けがましくなくて、そしてとても親し

みやすい人たちなのです。現代的な都市の中で、そんな人たちに出会うのがどれほど稀

なことか。お金持ちの人たちは疑り深い。人々は自分のお金が目当てなんじゃないかと、

彼らは考えるのです。

私の家族関係について質問をされましたね。よかったとはお世辞にも言えません。家

族の中で、私が好きなのは姉だけです。彼女は私のことを理解はできませんでしたけど、

愛してはくれています。

ええ、「私はあの家族に属していると感じたことは一度もありません」。私は家族の中

に迷い込んだ、よそ者のようなものでした。ひょっとしたら、姉にはいつか会いに行く

でしょう。両親と私の関係は、愛憎半ばするものでした（いまは二人とも亡くなってい

ます）。家庭の中で、私はたいへん孤独だった。あなたが自分の家族との関係について、

どのように感じているかは知っています。大丈夫ですよ。私たちは愛と理解を、他の場

所で見つけられる。あなたが何をしようと、そして何が起ころうと、私は常に、あなた

の父親、兄弟、友人、カウンセラー等々でいるつもりです。

私は二つの異なった文化――つまり東洋と西洋――の境界線に生きています。ミャン

マーに生まれ、西洋式の学校で教育を受けた。あらゆる異なった種類の宗教にも接しま

した――仏教やキリスト教、ユダヤ教にヒンドゥー教にイスラム教ですね――。そして

また、哲学を通じて唯物論にも接した。結果として、私は何も真面目に信じることがで

きなくなりました。西洋の心理学――フロイト、ユング、アドラー、カール・ロジャー

ス、R.D.レイン、ウイリアム・ジェイムズ、その他たくさん。そして西洋の哲学――

ソクラテス、プラトン、アリストテレス、ヘーゲル、カント、ニーチェ、キルケゴール、

バートランド・ラッセル、ウィトゲンシュタイン、ベルグソン等々。――人をすっかり

混乱させるには十分ですね。私は電気工学を学び、ブラックホールのことを含む、先端

の科学理論に関しても読みました。

それでわかったのは、何事についても人が確実に知っていることがどれほど少ないか

ということです。知るべき最も重要なことは、自分自身の心である。ええ、私は自由を

欲しています。そしてこのことは、最初の時点から確認しておかなければなりません。

私の自由は売り物ではない。

1 ミャンマーはマンダレー管区にある町。現在はピンウールィンとも呼ばれる。

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一つの場所にあまりにも長く住み続けると、自分が牢獄にいるような気持ちが私には

します。ミャンマーの伝統的な表現に従えば、私はライオンなのです。山に棲むライオ

ンのように、山地を歩き回っているような気分が本当にする。ああ、自由……。私はあ

らゆる制限、拘束、束縛を許すことができません。私の自由を束縛するような愛着でさ

え、私の好むところではないのです。

人々は私に愛着をもち、私はそれを、自分の自由を脅かすものと見る。私は自由を愛

しますし、それをいかなるものとも交換することはできないのです。私は心の自由も愛

しているのですが、それゆえに、いまはますます、心の自由を束縛するものについて観

察しています。

三蔵の文献2はたくさん読んできましたけれど、何かを自分で見出した（あるいは見

てとった）時、それは私が新たな発見をしているようなものなのです。そうした単純な

真実を自分自身で発見するということ――それはなんという大きな喜びでしょう！

エウレカ！

ただ本で読んだからという理由で、何かについてわかっているかのように語る人たち

に、私は我慢ができません。といっても、時には自分自身が同じことをやっているのに

気づくのですけどね。私がそうすることは、どんどん少なくなってきてはいますが。

山に棲むライオン、私はそれです。孤独ではあるが、もうさみしくはない。私は独り

で生きることを学んできました。時に自分の最も深い理解を表現したいと思うことはあ

るのですが、いかに聞き、理解し、評価すべきかを知っている人を見出すのは難しいこ

とです。多くの場合、私は聞く側にまわる。人々は、私に話をしたがりますから。

思うに、依存することなく自由であること（身体的にも精神的にも）は、私の最も強

い願望です。自由には、異なった形式と段階がある。

どのような犠牲を払っても、私は自分の本性に従わなければならない。友人たちを、

がっかりさせねばならないこともあるでしょう。実に多くの人々が、実に多くのことを

私に期待しています。彼らの私に対する期待を、私が満たせる／満たしたいと思うとい

うことは、どうにもあり得そうにないことです。私が目指しているのは自分自身の自由

であって、同調することではないのですから。

私はカール・ユングの、『思い出、夢、思想』3をずっと読んできました。彼の考えの

一部には、実に興味深いものを感じます。彼が自分自身について言ったことのいくつか

は、全く私自身のことも表現しているのですよ。ですからその文章をいくらか引用して、

あなたにもお見せすることにしましょう。「子供の頃、私は自分が孤独であると感じて

いた。いまもそうだ。というのも、私はある種の物事について知っており、時にそれを

わずかに表現せざるを得ないこともあるのだが、他の人たちはどうやらその種のことに

2 原文はPitakas。PiTaka は漢訳に「蔵」と言い、仏教の典籍を収載した全集のこと。経・

律・論の三蔵（ti-piTaka）で構成される。

3 邦訳に、『ユング自伝―思い出・夢・思想』（1、2 巻。河合隼雄訳。みすず書房）がある。

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ついて何も知らず、またほとんどの人は、知りたいと思ってもいないからである」。

孤独というのは、自分の周囲に誰もいないことから来るものではなく、自分にとって

重要であると思われる物事についてコミュニケーションがとれないこと、もしくは他者

が認められないと感じるような見解を保持していることから来るものです。誰かが他の

人よりたくさんのことを知っていたら、その人は孤独になる。しかしながら、孤独とい

うのは必ずしも人付き合いと相反するものではありません。孤独な人ほど人付き合いに

敏感な存在もありませんし、人付き合いが上手くいくのは、各個人が彼／彼女の個体性

を心に留めて、自身と他者を同一化しない時だけだからです。

私は自分に課されていて、選択の余地を残してくれない「内的な法」に、従わなくて

はなりません。もちろん、常にそれに従うわけではありませんけどね。完全な一貫性を

保って生きることなんてできるでしょうか？（「再生について語ること――私の場合、

それはまず第一に、自分の生をもたらしたものを理解したいという、どうにもならない

衝迫であったに違いない。それは私の本性における、最も強力な要素なのだから。」）

「私はまた、人は自らの内に自然と展開する思いについて、それを自身の現実の一部

として受け容れなければならないことを理解した。正／不正のカテゴリーは、もちろん

常に存在するのだが、それらは拘束的なものではないから、二番目の地位に置かれるの

である。思いが現実に存在しているということのほうが、それらに関する私たちの主観

的な判断よりも大切なのだ。とはいえ、それらの判断もまた、抑圧されてはならない。

そうした判断もまた現実存在する思いであって、私たちの全体性の一部なのだから。」

（ですから、何事についてもマインドフル4であってください）。

「情念の業火をくぐり抜けてきていない人に、それを克服することは決してできない。

いま情念の炎に焼かれていなくても、それは同じ家のすぐ隣の部屋に存在していて、い

つでも出火して家を焼いてしまう可能性があるのである。投げ出したり、顧みなかった

り、思い出すべきなのに忘れていたりする時にはいつでも、私たちが無視していたもの

が、力を増して戻ってくる危険があるのだ。」

（自分の情念に乗っかってしまわないように。それにマインドフルであってください。

私にとって、「くぐり抜ける」ということは「行動化する（act out）」ことを意味しま

せん。それは気づいていること、マインドフルに経験することを意味するのです。）

「実際、私たちの『進歩崇拝』には、未来に関する子供じみた夢を、もっともっとと

私たちに押し付けてくる危険があり、それはこの崇拝が私たちに過去から抜け出せと強

いるほどに激しくなる。進歩、つまり新しい方法や装置による改革は、もちろん最初は

印象的なものだけれども、長い目で見れば疑わしいものであり、いずれにせよ大きなし

っぺ返しを受けるものだ。全体として見た場合、それは人々の満足もしくは幸福を、増

大させるものでは決してない。そうではなくて、それは存在の味をごまかすための甘味

料なのであり、例えば通信の高速化といったものは、生のテンポを不愉快な形で加速し

4 mindful, 気づきを保った状態でいること。名詞形はマインドフルネス（mindfulness）。

14

て、これまでにはなかったほど、時間を足りなくさせるのである。」（ですから、可能な

限りシンプルに暮らしてください。）

「私は電気なしでやってきたし、だから暖炉の番をして自分自身を暖めている。夕方

になると、私は古いランプに火を灯す。水道はないから、私は井戸から水を汲む。薪

を割り、そうして私は食事を作る。そうしたシンプルな行いこそが、人間をシンプル

にするのである。それにしても、シンプルであるというのは、なんと難しいことだろ

うか。ボーリンゲンは、耳に聞こえてきそうなほどの静寂に包まれており、私は適度

に、自然と調和しつつ生きている。形容しがたい静けさが、あたりに満ちている。

ボーリンゲンの塔では、何世紀もの時間を同時に生きているような感じがする。この

場は私よりも長く存続するだろうし、その所在とあり方において、遥か昔のものたち

を指し示している。現在を示すものは、この場所にはほとんどない。16 世紀の人間

がこの家に引っ越してきたとしても、彼にとって新しいものは、灯油ランプとマッチ

だけだろう。その他の点では、彼は何の苦もなく、ここでの振る舞い方がわかると思

う。死者の邪魔をするものは、ここには何もない。電灯もなければ電話もないのだ。」

（カール・ユング）

引用したいところはまだまだたくさん残っていますが、この辺でやめておこうと思い

ます。死ぬほど退屈に違いありませんからね。私は自分を、ある意味では反逆者である

と思っています。人生を通じてずっと、私は一人の反逆者でした。私の夢は、山の奥深

くに住んで、人々や喧騒から離れ、必要最低限のものだけで、静かに穏やかに暮らすこ

とです。

私は泣くか？ そうですね、私のような年老いた僧侶に、まだ流す涙があるなどとは、

誰も信じてくれないでしょう。私の本性は、ゆっくりと燃える残り火のようなものなの

です。炎を出すことはないけれど、それでもやはり燃えている。私は完璧ではありませ

ん。私は裁くことはしたくない。私がしたいのは理解です。

私はよりいっそう不完全になりつつある。だから私は、他者を裁く人たちを恐れてい

ます。私は放っておいてほしい。僧侶というのは、誰にも何事にも執着してはならない

と人は言います。しかし、私にはそれはできない。私は単に僧侶であるばかりではなく、

同時に人間でもあるのです。私は何者かになろうとしているわけではない。私はただ、

何であれ自分の人生や意識や心に起こっていることを、理解するために最善を尽くして

いるだけなのです。名声も評判も必要ない。私が死ねば、後には何も残らないでしょう。

15

第一章：心と気づき、そして瞑想

私の理解するところでは、気づき（マインドフルネス）の瞑想とは、何か（落ち着き

や禅定1、あるいは洞察智2など）をつくり出すものではありません。それはむしろ、何

であれその瞬間に起きていることを、非常にシンプルな仕方で、明らかに観ることなの

です。落ち着きや洞察智を目指すこと、もしくはそれをつくり出すことは、私たちのあ

るべき場所からはじめようとすることです。すると私たちは、現実の自分の居場所から

出発しなかったがゆえに、いま自分たちがいるところに、常に戻ってきてしまうことに

なる。あるいはこのように言うこともできるでしょう。気づきとは、完全に内的なコミ

ュニケーションである、もしくは、人生（の諸問題）が、その根底において理解された

ものが瞑想である、と。

したがって、自分が「抱えているもの」を解きほぐすことや、様々な問題（神経症や、

あるいは別のこと）に取り組むことと、気づきの瞑想とのあいだには、何らの違いも認

められるべきではありません。

私にとって、カウンセリングをすることと瞑想の指導をすることには、あまり大きな

違いはありません。つまり、人間のことはわかっていないけれども、書物の知識ならば

多くもっている人というのは、瞑想の教師（もしくは、カウンセラー）ではなくて、学

者なのです。公式にしたがって人々を教え導く者は、教えるべきではありません！

ほとんどの西洋人たちは、ただ自分の抱えているものを解きほぐすためだけに、多く

の助けを必要としているのです。そのためには、俗人の先生が非常な助けになり得る…。

この点を私はずっと昔に理解して、いまではますますこの問題に身を入れています。ア

メリカにいた時でさえ、私が人々と関わる仕方は、まず第一に、彼らの人生、彼らの抱

えているもの、彼らの問題を理解して、どこで彼らが立ち止まってしまっているのか観

ることでした。彼らが自分の問題を、明らかに観る手助けをするのですね。瞑想のかん

、、

どころ

、、、

は、一にかかって解きほぐすこと――内的もしくは外的な結び目を解きほぐすこ

となのです。

全ての人に対応できる、決まりきった公式などというものはあり得ません。人はそれ

ぞれがユニークなのです。ですから、教師には柔軟性が必要とされる。ブッダ自身も、

異なった人々には、それぞれ異なった指導を与えました。

私の理解するところでは、瞑想の教師というのは、非常に敏感でなくてはなりません。

彼（彼女）は、自分自身をとても深く理解していなければならない。彼は自分自身の結

び目に、気づいていなければならないのです。人々と接する上で、たいへん創造的であ

ること。全ての人を、より深い仕方で理解すること。指導においては優しく忍耐強くあ

ること。向いていないと悲しい気持ちにさせてしまいかねないような、進歩をせかした

1 concentration パーリ語のjhAna, samAdhi の訳語として使われる。

2 insight パーリ語のJANa の訳語として使われる。

16

り要求したりするような態度をとらないこと。教師は、生徒が現在どこにいるかを理解

していなくてはなりません。おわかりでしょうが、私たちは自分のあるべき場所ではな

くて、現実の自分の居場所から出発しなくてはならない。ですから、教師は生徒の現在

地を把握して、彼／彼女が自分の現にいる場所からはじめることができるように、指導

をしなければならないのです。

これまで多くの人によって教えられ実践されてきたような瞑想には、限界があります。

というのも、彼らは瞑想というものを適切に理解しておらず、またそれを自分の人生か

ら離れた何かであるかのように、実践しようとしているからです。

本当の気づきの瞑想とは、全てを含むものです。私たちの精神的・肉体的生活のどの

部分も、気づきから取りこぼされてよいものはありません。私たちの生の全ての側面が、

よく理解されなければならないのです。

真の実践とは自然で、動的で、生き生きしていて無限であり、時と場所を選ばず行じ

られるべきものです。専門化され断片化されたアプローチというのは、私には受け入れ

難い。専門化され、規格化されたアプローチは、有害であると私は感じはじめています

（私はそれを行うように、自身を強制し制限することが、決してできませんでした）。

私にとって、瞑想とは何か特別なものではありません。それは、私の教育的経験の一部

なのです。

全てが実に些細なことであるように私には見えます。狂ったゲーム。意味もなく急げ、

急げと。どうしてそんなにも、たくさんやることがあるのでしょう？

私が自分のためにできる最上のことは、マインドフルであることです。あなたの心（人

生）を覗いてみて、それで自分がどれほど人々や書物に依存しているか観てください。

自分がどれほど簡単に退屈してしまうかということも。あなたは、ただマインドフルで

あるだけで、他に何もすることなく、退屈とともに生きることができますか？

何もしないでいるということは、実際のところ簡単なことではありません。そのこと

は、あなた自身の経験からおわかりだと思います。何もしていない時、あなたの心には

何が起こるでしょう？ それを注意深く観察してみたことがありますか？ 退屈とい

うのは耐え難いものです。そこで私たちは何かやることを探そうとする。退屈から逃げ

出そうとするのです。数日間、何もしないでいることを、ちょっと試してみてください。

何もしないということは、簡単なことではありません。「何もしないこと」をしよう

とするなら、あなたは行なっている。何かを達成しようとするのなら、あなたは行為し

ているのです。そして、エゴ（我）というのは強力なものです。何もしないでいたなら

ば、あなたは無意味で空虚に感じてしまうでしょう。

何もしないということは、心がエゴから自由になっている状態のことです。反応する

ことなく行為すること。つまり、行為はしても、それを行う人はいないという状態です。

そして、何よりも大切なことは、見返りを期待することなく、健全な行為を行うこと。

理解というのは、急いでわかろうとしない人に与えられるものです。理解は果樹のよ

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うなもの。果物が熟れるのには時間がかかります。誰かが実をつけるよう、果樹に強制

することはできないのですよ。

退屈から逃げ出す代わりに、それと深く向き合うことができたならば、あなたはそれ

を越えたところに、ある種の覚醒の感覚、緩みのなさ、人生と明晰さを、見出すことに

なるでしょう。そうしてはじめて、心がはたらくようになるのです。ほとんどの場合、

私たちは諦めて、自分をどんどん忙しくする。忙しいと、自分が役に立っていて、重要

だと感じられます。何もしていないと、役立たずだと感じて恥ずかしくなる。中には、

忙しいことを鼻にかけている人たちもいますね。

心には、常にある種の鈍重さがある。私たちは、興奮させてくれるもの、ある種の刺

激剤を必要としています。会話であるとか、読書であるとか、旅行であるとか……、そ

れによって、心を目覚めさせておくのですね。それがなかったら、心は半覚醒の状態の

ままです。こうした刺激剤に頼ることなく、常に目覚めたままでいられるように、心を

訓練することができたならば、あなたは新しい種類のエネルギーを、見出すことになる

でしょう。常にマインドフルであることによってのみ、そこに至ることができるのです。

リトリート（瞑想合宿）の最中であろうがそうでなかろうが、常にマインドフルであ

ることが大切です。リトリートに参加することは役に立ちます。しかし、心の明晰さを

保つためには、実践し続けることが非常に大切なのです。それをしなかったら、心の覚

醒度は再び下がってしまう。流れに逆らって泳ぐようなものですね。持続的な努力をし

続けなければ、下流に流されてしまうのです。

瞑想における努力というものは、自転車に乗る訓練をしている際の努力に似ています。

最初は、力を入れ過ぎて転んでしまう。そうした後に、反復練習によって、自転車の上

で安定するためにちょうど必要なだけの力を入れられるようになり、そうすることで、

前に進むために多くの力を割くことができるようになる。あなたは実際にやってみるこ

とで、このことを学ぶのです。私が思うに、最も大切なことは持続性です。もしあなた

が気づきとは何であるかを学んだのなら、ますますマインドフルになってください。マ

ンドフルであり続けることによって、あなたはリラックスしつつ、ちょうどいい力のか

けかたでマインドフルであるにはどうすればいいかを学びます。もうちょっと力をかけ

る必要があると思ったなら、やってみて、それがあなたの心（気づき）にどういう影響

があるかを観察してみてください。そうすることで、気づきを保つためにはどうしたら

よいかを、あなたは学ぶことでしょう。マインドフルでない時には心が落ち着いていな

いということも、わかってくると思います。

私は身体的にも精神的にも、自由で安らぎに満ちていたい。だから私は、人を自由で

安らぎに満ちていない状態にするものを、見てとろうとするのです。自分を拘束してい

るものを、見てとることができればできるほど、自由になるチャンスはより増えます。

では拘束しているものとは何かと言えば、その答えは実にシンプル――執着とプライド

です。ただ、それが表に出ている時に観察するのが最も重要なのであって、それらにつ

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いて、ただ考えるだけであってはいけません。

忙しくはなりたくない。忙しくあることは、人生を無駄遣いする生き方です。忙しい

と、状況にひどく巻き込まれてしまいますから、心の中で何が起こっているのか、見て

とることができなくなります。マインドフルでなくなってしまうのですね。ですから、

私は忙しい教師にはなりたくない。絶対にです。このことは、何度でも申し上げます。

瞑想から最上の成果を引き出したいと思うなら、それを誠心誠意やってください。人

生で、他にやりたいことなんて一つもないかのように行うのです。気を散らされないよ

うに気をつけて！

泳ぐことを学ぶためには、水に入らねばなりません。岸に座って、泳ぎを教えてくれ

るよう人々に頼んでいても無益です。最小限の知識を得たら、あなたは水に入って、自

分自身に泳ぎ方を教えることができるのです。

自分にとって適切な対象を一つ（あるいは二つ）選び、それらについて持続的にマイ

ンドフルであってください。持続性が、最も大切なポイントです。

考えることによって、心が幸福になることはあり得ません。コントロールしようとす

ることなく、思考を観察してください。それらを明らかに見ることができた時、思考は

止まります。思考というのは、実に大きな重荷です。

最も大切なことは、あなた自身の心に気づいていることです。そしてまた、何かをす

る時の自分の動機に気づいていること。人々は自分が何かを話したり行ったりする際の

動機にたいていは自覚的でありませんし、そして自覚的になった時には、多くの場合、

それらを正当化してしまいます。

気づきの実践（瞑想）とは、六つの感覚器官3に起こっている全てのことに、目覚め

た瞬間から寝入る直前の一瞬まで、常に気づいていることです。ただ座っている時だけ

が、瞑想実践なのではありません。

そして、さらにもっと重要なことは、自分が執着している幻想や観念、フラストレー

ションや孤独、また他にも感じていること全てについて、それが弱いものであれ強いも

のであれ、気づきを保ち、そして理解をすることです。

もし何らかの手法（例えば、言葉で気づきを入れること）が上手く役に立つのであれ

ば、どうぞやってください。それを長く、そしてしっかりと実践してみて、自らその長

所と短所を全て理解するようにするのです。

瞑想とは、最高のクサラ（善行為、健全さ）です。

あなたがマインドフルで賢明であれば、決して負けることはありません。

理想は、常にマインドフルであることです。

独りでいる時、私は幸せです。話すことは退屈。宇宙へと漂っていくという、私の感

覚についてはお話ししたことがありますね。物事は（そして人々も）、私への影響力を

3 six sense bases 直訳すれば「六根」のことで、眼・耳・鼻・舌・身・意の六つの感覚期

間を指す（仏教の文脈では、「意」も感覚器官の一つに含む）。

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失ってゆく。この感覚についてお話しすることは難しいです。心がずっと軽くなってい

るのを感じるのですよ。

感情を、つまり心の動揺を、あまり真面目に受け取り過ぎないでください。そして、

それを正当化しようともしないこと。

あなたはあなた自身の人生を生きていて、その時に自分にとって正しいと思われたこ

とを、何であれ行う権利があるのです。もし間違ったら、そこから学んでください。

ミスを犯して問題が起こったら、その問題をよく見つめてみましょう。不平を言った

り、（自分や他人を）非難したりすることなく、また逃げ出すこともないように。つま

り、自己を正当化したり、その問題について動揺してしまわないようにするのです。一

切の抵抗をすることなしに、問題を観察することができたなら、あなたはそれを非常に

素早く簡単に、克服する（乗り越えて成長する）ことができます。私自身は、いまはそ

のことが比較的上手くできるようになってきていますね。

関係性というのは、とてもフラストレーションの溜まるものです。何度も申し上げま

したね、私は独りになりつつあると。ですから、あなたが「私は自分の内面に退避する

のです」と言われたことも、非常によくわかります。異なった状態へと変化させようと

することなしに、心を本当に綿密に観察すれば、そのことによって、あなたの心の結び

目は解かれるでしょう。ただし、ただ結び目を解くためだけに、心を観察しようとはし

ないでください。そのことによって、葛藤を引き起こしてしまいますからね。ただ無我

を見てください――あなた自身の心の中に。

いつか私は去って、どこかに独りで住むのだろうと思います。宗教には飽き飽きして

きているのですよ。いまは心の準備をしているところです。

先月は、いつもより多く瞑想していました。独りでいることは実に素晴らしい。読書

したいと思うことはますます減っています。いまは自分の心をもっと読みたい。書物か

ら深いことを学ぶことは、私はありません。自分の生（自分の心）を明らかに見た時の

み、私は何かしら深いことを学ぶのです。

人間にとっては、人間性を一般に理解し、そして彼／彼女の特殊な心のあり方を理解

することが、最も実りのあることです。

ここで行っていることは、私にとって非常に大切なことですから（つまり、自分の心

を掘り下げることですね）、十分な理由がない限り、それを中断したくはありません。

実際のところ、私はもっとずっと人里離れた場所に行って、そこに一人で住み、中断さ

れることなく常に瞑想していたいと思っています。他のことで、煩わされる価値のある

ものなんてありません。あなたは読み、書き、議論し、たくさんのことを考えてきた。

それでもなお、あなたは迷っているのです。もう十分ではありませんか。

このようにはっきりとシンプルであることによって、心の執着は相当に減じます。私

の心は、いまとても執着から離れて明晰になっている。他のことに、心を逸らされたく

はありません。

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それで、あなたは迷っていることについては迷っていないのですね？ 一部の人たち

は、自分が迷っていることを知りません。そのことを考えるには、彼らはあまりにも多

忙であり、言わば狂ってしまっています。私があなたに言えることがあるとすれば、あ

まり考え過ぎずにマインドフルでありなさい、ということです。ご存知のように、考え

過ぎることは、より大きな迷いのもとですから。

病気の時にマインドフルであることができたなら、とても深く有意義なことを学ぶこ

とができます。あなたは自分がどれほど孤独であるかわかりますし、全てがどれほど無

意味であるかもわかるでしょう。最悪の事態に至ったなら、私たちは本当に独りになっ

てしまいます。

私はこの孤独を、ますます深く観察しているところです。私たちに近づき、私たちを

理解できる人たちはとても少ない。それぞれの人のあいだには、大きな誤解の深淵が存

在しているのです。

気づき（マインドフルネス）は、私たちの本性の一部です。それは容易に育成され得

る。

彼女に、自分の思考と感情にどうやって気づくかを説明できますか？ コントロール

するのではなく、ただシンプルにありのままに、心に気づいておくことです。お喋りや

独り言、あるいは対話が、心の中で進行している。コメントしたり、判断したりなども

していますね。

気づきというのは、生（生活）の一つのあり方です。どこにいようと何をしていよう

と、私たちはそれをマインドフルにやらなければならない。考えることは、気づきの大

きな障害です。私たちは、そのことにマインドフルでなければなりません。実際のとこ

ろ、思考に気づいていることはとても大切なのです。心を、責めたり裁いたりすること

なく観察してください。それを、あなたの所有物ではなくて、それ自体として存在して

いる一つの物事として見るのです。

瞑想においては、何であれ眼前に現れてくるものを、気楽に自然に対象としましょう。

最も大切なポイントは興味をもつこと。楽しくやるためには、瞑想は面白いものでなけ

ればならないのです。瞑想を行うにあたっては、そこに何かしらの満足がなければなら

ない。何かがひとたび退屈になったら、それに対してはネガティブな態度で接すること

になってしまう。この種のネガティブな態度をもって、その行為を続けていたら疲れて

しまいます。「サッダー（信）＝エネルギー」だと、あなたはおっしゃいましたね。そ

のとおりです。実践において信があれば、行うためのエネルギーが得られるのです。

ですから、「膨らみ・縮み」よりも心を観察するほうに興味があるなら、そうしたら

いいのです。心というのは、人生で最も興味深い現象です。

足を前へと進めつつ、マインドフルでもあってください。どうしたら状況が改善する

のかと考えれば考えるほど、あなたはますます不幸になります。頭にあるのは、いつも

未来のための計画ばかり――「よい家に住めば、私は幸福になるだろう」。「もしこうし

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たら、私は幸せになるだろう」だけが存在していて、「いま私は幸せだ」が、どこにも

存在していないのです。計画も改善も、もう十分ではありませんか。

「成ること」が、私たちの生を圧倒しています。そこに「あること」が欠けているの

を、私たちは見ようとしないのです。「あること」なしに、「成ること」がどうして可能

でしょう？ ただ、この瞬間に起こっていることを、改善しようというつもり

、、、

をもつこ

となしに、観察するようにしてください。

あなたの苦闘と痛みが、私にはわかります。あなたがブッダのよい弟子であるために、

ベストを尽くそうとしていることも知っている。それはとても難しいことです。五戒を

守ることでさえ、簡単なことではありません。

ええ、預流道果4なんて何ほどのこともないと、考えている人たちもいますね。誤っ

た見解をもたない（それから解放される）こと、および儀礼や儀式（迷信）を克服する

ことが、いかに並々ならぬことであるのかが、彼らにはわからないのです。そして、ダ

ンマ（仏法、真理）の実践が解放と幸福へと導き得る唯一の実践であることが、はっき

りと理解できるようになることも。羨望（嫉妬）を全くもたなくなること、他の人々の

成功を喜ぶこと、自分の持っているものを何であれ他者と分かち合うこと、自分の実践

に関する全ての疑い（それが正しい道であるか否か）を克服すること、それらがなんと

並々ならぬことであるのかも、彼らは知りません。自分の歩んでいる道に疑いをもって

いないことは、なんという安らぎであることか。

たいへん忙しい生活を送っている人にとって、気づき（サティ）を実践することが、

どれほど困難であるかは理解できます。私も百％マインドフルであるわけではないので

す。不必要な活動を減らすことができるなら、そうしたほうがよいでしょうね。私たち

は心に指図されて走り回り、心がそうせよと命じたことを行っている。しかし、心をよ

り綿密に観察してみれば、それが私たちに信ぜよと命じたことを全て信じる必要はなく、

心が命じたことを全てそのとおり実行しながら、狂人のように駆け回る必要もないこと

がわかるでしょう。

何かを成し遂げようとする者は、自己を制限しなければならない（ゲーテ）

私たちはどうでもいいことを追い求めて、実に多くの時間を無駄遣いしています。ブ

ッダは “appakicco（義務や責任を少なくすること）” と言いましたね。

自己をより注意深く制限すれば、より深い気づきを育てることができます。日常生活

においてマインドフルであることができなければ、人生の理解を育むことはできません。

人生の理解とダンマの理解は、並行して進むものです。まずは自身の日常生活を有意義

に、正気を保って生きることを学んでください。

4 テーラワーダ仏教における、悟りの最初の段階のこと。この段階に達すると、有身見、疑、

戒禁取という、三つの煩悩が落ちるとされる。

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あなたほどダンマに深い興味をもっている人を、私はほとんど知りません。ほとんど

の人々は、自分自身の心の状態にすら気づいていない。私たちには必ず、よい（健全な）

心の状態と、悪い（不健全な）心の状態が存在しています。この両方の心の状態に気づ

いていることが、為すべき第一の、そして最も重要なことです。私たちには本当の意味

で心をコントロールすることなどできはしない。だから、それは無我なのです――。そ

うした悪い（不健全な）心の状態をつくっているのがあなたではないことを、観察する

ようにしてください。

心の性質、即ち、ローバ（貪り）、ドーサ（反感）、モーハ（錯誤）、マーナ（比較）、

イッサー（嫉妬）、マッチャリヤ（吝嗇）、クックッチャ（心配、後悔）などの性質を理

解すること。そしてまた、サティ（気づき）、サマーディ（集中）、パンニャー（智慧）、

メッター（慈しみ）、カルナー（哀れみ）等々5を理解することは、ある悟りの段階を達

成することや、煩悩を除くことよりも大切です。先に来るのは理解することなのであっ

て、克服することは、然る後に自然に起こる（続く）のです。ですから、何であれその

瞬間に起こっていることを観察するのに、どうか積極的に取り組むようにしてください。

まずはその性質を観るのです。

ローバやドーサ、等々があるからといって、あなたが動揺してしまったら、心が乱れ

てドーサ（反感）が出てしまっているがゆえに、それを明らかに観ることはできないで

しょう。その動揺している状態も、また観察の対象です。罪悪感をもつことなく、また

それに何の手も加えようとすることなしに、あなたが自分の心を進んで見つめることが

できた時、はじめて煩悩を、はっきりと観ることができるのです。するとそれは、あな

たに及ぼす力を失う。暴露されてしまったから――白日の下に晒されてしまったからで

す。

貪りやプライド、怒りなどを、どうか非難しないでください。あなたはそこから、実

にたくさんのものを学ぶことができるのです。煩悩についてよくよく知らなければ、成

長することはできません。明晰な心でそれらを観察することができた時、はじめてあな

たは、その真の性質、とりわけその無我‐性を学ぶことができるのです。

瞑想における最初の、そして最も重要なステップは、精神的（ナーマ）と物質的（ル

ーパ）の現象に同一化しないことです。この段階で克服されているのは、ナーマルーパ

（名色）のプロセスとの同一化であって、それ以外の何かではありません。なぜ人々は

動揺してしまうのでしょう？ それは彼らが、ナーマルーパに同一化しているからです。

ですから、貪欲や情欲、執着やフラストレーション、怒りやプライド、等々がある時に、

最も大切なポイントは、それらを個人に属するものとして受け取らずに、一つの自然現

象として観察すること。そうした煩悩を、克服しようとはしないでください。

5 パーリ語および一般的な漢語訳は以下のとおり。lobha（貪）、dosa（瞋）、moha（痴）、

mAna（慢）、issA（嫉）、macchariya（慳）、kukkucca（悔）、sati（念）、samAdhi（定）、

paJJA（慧）、mettA（慈）、karuNA（悲）。

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腹を立てることは、自我による仕掛けの一つです。腹を立てている人（アッタ、我）

というのは、存在しているのでしょうか？ 腹を立てることは、単に自然現象の一つに

過ぎません。腹を立てることというのは、自我の昴進です。心が腹を立てておらず、観

察している心のほうに同一化が存在していなければ、つまり、平静さ（捨）が保たれて

いるならば、心は貪り等を興味と落ち着き、そして明晰さを保って注視することができ、

それをありのままに――つまり、素早く過ぎ去り、実体のない、自然現象として――観

察することができるのです。同一化によって、あらゆる煩悩はより強いものとなります。

同一化が存在しなければ、それらはさほどに強力なものではありません。預流者6はま

だ貪りや怒り等をもっていますが、しかし、そこにナーマルーパとの同一化は存在して

いない。不還者と阿羅漢だけが、貪りと怒りから自由になっているのです。ただし、マ

ーナ（慢、比較）から自由になっているのは阿羅漢だけです。

自分が音楽を楽しんでいるからといって腹を立てるならば、それはあまりに要求過多

というものです。あなたは多くを求め（期待し）過ぎている。しかし、楽しんでいる心

を観察し、それを平静さとともに注視したならば、その時はじめて、あなたは事態をあ

りのままに観ることができるでしょう。腹を立てること（これはドーサです）は、貪り

やプライドの近い仲間です。「私は瞑想者だ。だから貪りやプライドは心に生じるべき

ではない」と考えるから、あなたは腹を立ててしまう。どんな種類のものであれ、貪り

や楽しむ気持ちが起こったら、「どうか留まって、君のことを学ばせてくれ」と、代わ

りに言うようにしてください。そうした気持ちは、本当に凄いものなのですよ。貪りと

いうのは最高の魔術師です。それが様々な快感を、帽子から出してみせる仕方を学んで

（観察して）ください。心は貪りにすっかり騙されているものだから、私たちはそれを

魔術師ではなく、自分自身であると見なしているのです。

心というのは油断のならないものです。心は変化を求め、何か異なるものを求める。

それは娯楽を、刺激を渇望しています。退屈は大問題。それが、ほとんどの人々がやっ

ていることですね――次々と異なる形の、刺激を追いかけ続けること。

注意しておかないと、私たちはひどく独りよがりになってしまうことがあり得ます。

私たちは瞑想者だったり、仏教徒の実践を行っていたり、ダンマ（仏法）を知っていた

りしますからね。つまり、私たちは何が善いことで何が悪いことかを知っているという

わけです……。これもまた、マーナですね。

心にマーナがある時は、それを進んで明晰に観ようとしてください。心から、マーナ

を追い払おうとはしないこと。明晰に観るということが、とても大切なのです。それ以

外のことは、自ずから勝手に起こるでしょう。阿羅漢になった時、はじめて人はマーナ

から自由になれるのです。謙遜を、修行しようとはしないでください。すれば強いられ

た謙遜になってしまう。ただ、マーナ（プライド、うぬぼれ）にマインドフルであるよ

6 sotāpanna 悟りの第一の段階に達した人のこと。第二の段階は sakadāgāmin（一来者）、

第三の段階は anāgāmin（不還者）、最後の段階がarahant（阿羅漢）。

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うにするのです。心を明らかに観たならば、あなたは自然に謙虚になる。自分が謙遜を

修行していると、感じることはないでしょう。意識的にそうしようとはしていないけど、

慢心することが減るのです。

心の健全／不健全な状態の直接的な効果を理解することなしに、ダンマの価値を本当

の意味で知ることはできません。いかなる形の宗教的な実践であれ、表面的に従ってい

るだけでは、深く永続的な結果をもたらすことは決してありません。六つの感覚の門を

通じた経験の全てに対する、心の反応を理解することがとても大切ですが、とりわけ重

要なのは、観念とそれに対する執着がもたらす影響を知ることです。

心の健全（クサラ）／不健全（アクサラ）な状態を、あなたは理解しました（してい

ます）か？ これは実践において最も基本的なことだと私は思います。私は、善い／悪

いという言葉を、クサラ／アクサラに関して使いたくはありません。理解というのは、

それについての本を読んだり、あるいはそれについて考えたりすることで得られるもの

のことを言っているのではありませんよ。私の言う理解とは、クサラとアクサラを、実

際に直接的に見ることです。心が健全な時と不健全な時で、その性質がどう異なるかを

観察してください。

こうした性質の相違を非常に明らかに見ることがあると、状況（環境）がどうであろ

うと、心を不健全な状態にしておくことに価値はないという理解に、私は至ります。困

難な状況に対処するには、（不健全な心の状態を伴わない）適切な仕方というものがあ

る。智慧というのはこのことです。いかなる状況でも、不健全な心の状態を伴わずに生

きていくために、その智慧を得るために、私たちはまず、あらゆる状況に対して、つま

り私たちが目にしたり耳にしたりして知覚する全てのことに対して反応を続けている

心に、はっきりとマインドフルでなければならないのです。

怒り、欲望、疑い、慢心といった、不健全で不快であり、美しくも望ましくもないも

のであっても、それを変化させたいと望むことなく、何であれいま心に起こっているこ

とを観察すること。そして、（落ち着きや静けさ、歓喜や明晰さ等の）心に起こってい

る何であれ快いことを、それにしがみつくことなく、より長続きさせようと試みること

もなしに観察すること。これらのことが、とても大切です。

心が状況をコントロール下に置こうとした瞬間に（いま起こっていることに反抗した

り、邪魔したり妨げたり、もしくは、それをつくり出したり、生み出したり、あるいは

長続きさせようとしたりすることです）、それはバランスを失います。

反抗することが反感（ドーサ）であり、しがみつくことが執着（ローバ）です。

しかし、反抗するなということは、敢えて積極的になるということではありませんし、

また、しがみつくなということが、敢えて消極的になるということを意味するわけでも

ありません。ただシンプルに観察することが気づき（マインドフルネス）です。巻き込

まれずに観察すること。

私たちは何かをすること、何かをつくり出すことに慣れきっていて、だからシンプル

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に観察するとはどういうことかがわからないのです。私たちは物事をコントロールした

がっている。物事に関わりたいと思っているのです。だからトラブルに巻き込まれる。

「関わるな、コントロールするな」と、私は言いたいわけではありませんよ。そうした

ら、関わらないように、コントロールしないようにと、あなたは試みてしまうことにな

るでしょうからね。それは結局、またコントロールしようと試みることです。ですから、

あなたがコントロールしようとしていたなら、シンプルにそのことに気づいてください。

気づきがなかったら人生は皮相的なものになると、わたしはますます理解できるよう

になりました。気づきは人生に、深みと意義を与えてくれます。

これは理解し難いことなのですが、人々は幸せになりたいと言いますね。しかし、な

らばなぜ、彼らは本当にマインドフルであることに興味をもっていないのでしょう？

おそらくそれは、彼らが幸せというものはどこか他の場所に、つまり、感覚的快楽や欲

しいものを得ること、また何者かになることや、何か重要な地位を占めることや、何ら

かの快い感覚などのうちにあるものだと、考えているからに違いありません。

人々（あなたや私）は、興奮すること、何か刺激になるもの（知的に、ですね。私に

とっては）を欲している。時に私たちは休みたくなります。刺激を与える物事に疲れて

しまうのですね。すると私たちは、気づきを実践して、心を鎮めておきたくなる。読ん

だり話したり、考えたり計画したりすることに、私は本当に疲れてしまって、燃え尽き

てしまうことが時々あります。そうなると、私は心を、全てそうした物事から別の方向

へと向けかえる。その種の物事が、いかに無意味で、いかに不必要か、よくよく見て取

ることができますからね。そうした時には、ただシンプルにマインドフルであることが、

とても簡単なのです。だから、私はいつも燃え尽きていたいと思いますよ。燃え尽きた

と感じて構わないのです。シッダールタだって、出家した時には燃え尽きていたのです

から。

この世界には、つまらない計画というものが実に多いのですよ。「我々の最高の洞察

は、もともとそういう気質があって、そうなるように方向づけられていない人々によっ

て聞かれたら、愚かで、そして時には犯罪めいて聞こえるに違いないし、またそうある

べきなのだ」（ニーチェ）。

車やラジオをチューニングするように、身体と心をよくチューニングされた状態に保

っておくことはとても大切です。よい状態にある時に、はじめてそれらは敏感になって、

振動や周波数や信号を、適切に検知できるようになるのですから。

ですから、物事が私たちの身体と心に、どのように影響するかを学ぶことはとても大

切です。食べ物、天候、運動、会話、読書、感覚的快楽、全てが私たちの身体と心に影

響を与えます。そしてまた瞑想も。瞑想によって、心はより敏感になる。

心は過去や未来に住したがるのです。それは現在にはほんの少し接するだけで、そこ

に留まりたがらない。心は常に、気を散らすものを探しています――テレビを見たり、

ラジオやカセットを聞いたり、食べたり、話したり、喫煙したり、読書したり（ええ、

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忘れていました――読書もですね）、そういったことですね。私たちは本当に、気づき

を保っておくこと（マインドフルネス）が好きなのでしょうか？ ええ……、そうです

ね……、いや……、ハハハ。私たちが皮相的であることに、疑いはありません。

私たちは、気づきを痛み止めとして用います。人生があまりにも辛くなった時に初め

て、私たちは静かな場所に行って瞑想したいと思う。そうでなかったら、私たちは気を

散らす物事に、すこぶる満足しているのです。

人は怒りから完全に自由であることはできません。十分な理由があれば、それはやっ

て来る。私たちにできることは、怒りの存在を観ることだけです。腹を立てている時に、

あなたがどれだけ自分自身を傷つけているか観てみてください。何事についてであれ、

腹を立てる価値などないのです。マインドフルになりましょう。怒りをただ怒りである

と観察して、「私の怒り」と捉えないようにするのです。

怒るべきではない、とは言わないでください。現実的であることはとても大切です。

私たちには理想がある。しかしながら、その理想に到達することは決してないかもしれ

ません。これは、理想をもってはならない、ということではありませんよ。言いたいの

は、私たちは自分の能力の限界（キャパシティ）に意識的でなければならないというこ

とです。ですから、アップダウンがあるからといってがっかりしたりはしないでくださ

い。可能な限り、マインドフルであるよう試みるのです。ベストを尽くしてください。

かつての私は、自分に欠陥があること（完璧でないこと）を申し訳なく（恥ずかしく）

思っていたものです。ある場合には、それは他の人々が私に投影した、非現実的な期待

でした。そして知らず知らずのうちに、私も彼らが自分に期待した役割の内に、滑りこ

んでいたのです。そんな役割を果たすことは不可能であり、また危険ですらある。そう

した状況下では、自分が不適格だと感じさせられてしまいましたから。しかし、いまや

私は、自分自身であることを学びました。

時にはそうすることが辛いかもしれないけれど、どうかマインドフルであってくださ

い。マインドフルであるなんて不可能だと思う時こそ、マインドフルであることが最も

大切な時なのです。

落ち着きを失っている時に瞑想することは、より大切です。心が狂気を帯びてしまっ

て、瞑想するなんて不可能だと思える時――それこそが、瞑想のための最も大切な時間

です。

『大念住経（マハーサティパッターナ・スッタ）』でブッダは、“VikkhittaM vA cittaM

vikkhittaM cittanti pajAnAti（心が落ち着きを失っている時は、心が落ち着きを失ってい

ると知る）” と言っています。それ以上のことは、求められていないのです。

ブッダは、欲望や怒りを感じていることに罪悪感をおぼえなければならないとは言っ

ていません。いま自分の心に起きていることを、あなたは知っている。そこで自分に嘘

をつかない。あなたにできることはそれだけなのです。ですから、ただマインドフルで

あることだけを心がけて、自分を責め立てるのはやめること。受容と誠実が、最も大切

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なことなのです。

心の現状をただ知っているならば、それで十分です。それ以上のことを何かしようと

したならば、そのことによって、よりいっそうのフラストレーションをためてしまうこ

とになるでしょう。コントロールは存在していない、それが無我（anattā）ということ

です。SarAgaM vA cittaM sarAgaM cittanti pajAnAti（心が貪欲になっている時は、心が貪

欲になっていると知る）……PajAnAti（明らかに知ること）、それだけであって、それ以

上ではありません。落ち着いて安らぎに満ちた心を常に保っておくことは、毎日とても

たくさんの人々と接する人にとっては不可能なことです。

ある種の仏法の本を読み、そして／あるいは、ある種の法話のテープを聴くことで、

人がどれほど後ろめたい気持ちになり得るかということを、私は知っています。理想が

高過ぎるのです。私たちはそこには到達できない。誰のことも傷つけていないのであれ

ば、私たちは感覚の楽しみを享受することに罪悪感をおぼえる必要はないのです。感覚

の楽しみを享受するということがいかなることであるかを、観察するようにしてくださ

い。

SukhaM vA vedanaM vedayamAno sukhaM vedanaM vedayAmIti pajAnAti（心地よい感覚

を享受している時は、私は心地よい感覚を享受していると知る）。罪悪感の余地がどこ

にありますか？ 人生を楽しむたびに罪悪感をおぼえることを、誰が教えましたか？

もう十分です！

マインドフルネス（気づきを保っておくこと）が自身にできる最上のことであると、

私たちは知っていますが、それでも私たちは、実によく気を散らされるのです。私たち

は、刺激されたがっている。

心を注視して、それが何をしているのか観察してください。心を理解すれば、あなた

の問題のほとんどは消えてしまいます。問題のほとんどは、心がつくるものですからね

――それらはあなたの心の外では、現実性をもたないのです。

あなたにできる最上のことは、心のいまある状態を、自身を責めたり正当化したりす

ることなく、それを違った状態にしたりそこから逃げ出そうとしたりすることなく、ま

た後ろめたく思ったり恥ずかしく思ったりすることなく、認めて、気づいて、知ること

です。

心をただ心として見て、「私の心」だとは見ないこと。それが「善」だろうが「悪」

だろうが、アナッター（無我）として観るのです。それは十分な条件があったから起こ

ったのであって、それ自身に基づいて起こっているのではないことを観てください。存

在者ではなく、私ではなく、私のものではないのです。キレーサ7（煩悩）というのは、

たいへん興味深いものですよ。

期待というのは、落胆の源泉です。それ自体としては、期待は心から落ち着きを失わ

せさえします。

7 kilesa, パーリ語で「煩悩」の意。

28

時に私は、落ち着きや安らぎや快活さといった理想をもつことで、人はますますフラ

ストレーションをためてしまうのではないかと思うことがあります。

世俗から離れて生活をしている人は、平静さを保つことができるでしょう（私は違い

ますけどね）。しかし人々（思慮が足らず、わがままで、あなたを利用しようとしてい

る人々）と接した瞬間に、平静さを保つことは難しくなることがわかると思います。

落ち着きは深い洞察を育てるために必要です。それは動揺の反対物。一定の落ち着き

を保つことに、何も間違いはありません。しかしながら、落ち着きに執着することには

注意してください――この執着は危険です。落ち着きは心を明晰にしてくれる。それは

心をリフレッシュし、気づきを保つこと（マインドフルネス）を助けてくれます。

ヨーニソー・マナシカーラ8（賢明な思慮）は、クサラ（心の健全な状態）の直接原

因です。ヨーニソー・マナシカーラがなかったら、クサラは存在し得ません。アヨーニ

ソー・マナシカーラ（賢明でない思慮）は、アクサラ（心の不健全な状態）の原因です。

私たちは毎日、自己暗示を行っています。しかし、私たちのほとんどはそのことを知

りません。それらのうちのいくらかはポジティブなものだし、いくらかはもちろんネガ

ティブです。暗示（suggestion）というのは、態度（attitude）にごく近いものです。

知るべき最も大切なものは、あなた自身の心です。

あなたが直接経験している唯一のものは、あなたの心であり、それはあなたの思考、

感覚、態度などを含んでいる。それ以外のものは全て推論です。手を見て自分がその形

や色を観察していると考える時でさえ、そこでは多くの段階が踏まれています。あなた

は手の形や色をどのように観察するのでしょうか？ 形とは何でしょう？ そして色

とは何でしょう？

ある友人が私に語ってくれたところでは、彼は瞑想していて音に気づいた際、最初は

音をどこか距離のあるところからやって来るものであるかのように経験していたそう

です。後によりマインドフルになった時、彼は音を耳の中に、耳の中で起こっているも

のとして経験した。それからさらにもっとマインドフルになった時、彼は音が心の中で

起こっているのを経験したのです。心がなければ、音は存在し得ません。

マインドフルネスの代わりになるものはありません。あなたは、「私の問題の多くは、

もしこの実践を続ければなくなってしまうであろうことを、私は知っています」と言わ

れましたね。私たちはしばしば、「もし、もし、もし…」と言います。私たちに、本当

にそのことを実行させないでいるものは何でしょうか？ なぜ「もし」なのでしょう？

まるで私たちは、自分の問題をなくしてしまいたくはないかのように見える。あるいは、

私たちは本当には、自分たちにそれが可能であると信じてはいないのです。だから、「も

し」と言っておいたほうがよい。そうしておけば、希望をもち続けておくことができま

すから。もし本当にそれをやってみて成功しなかったら、私たちはもう希望をもつこと

ができなくなるでしょう。だから、本当には飛び込まないほうがよいのです。ただ希望

8 yoniso manasikāra, 漢訳では「如理作意」ともされる。

29

しておくのがよい。実際にはやらずにいれば、いつも「私はできる」と言えますから。

これが、心の仕掛けるトリックの仕組みなのです。希望がないと感じてしまうことから

自分自身を守るために、それは決して、何事も誠心誠意やろうとはしないわけですね。

他人を納得させるために、なぜ私たちはこんなにも一生懸命になるのでしょう？

私がアメリカから戻った時、多くの人たちが、アメリカには仏教を信じている人たち

がたくさんいるのかと尋ねてきました。西洋人たちがブッダの教えを実践していること

で、彼らはとても嬉しくなったのです。しかしながら、彼ら自身は、本当に実践を行っ

ているわけではない。西洋人たちが実践を行っていたり、仏教徒になったりすると、彼

らはどうして嬉しいのでしょう？ 他人が自分の信じているものを信じると、なぜ嬉し

いと感じるのでしょう？

私たちは何も確実には知らないけれど、

ただ自分が苦しんでいることは知っている。

落ち着きを失ってしまわなければ、

私たちは答えを見いだせます。

答えをもっているというプライドが、

私を盲目にしている原因なのです。（サヤドー・ウ・ジョーティカ）

何であれ、自分が望むことを行ってください。瞑想してもいいし、僧侶になってもい

いし、懺悔の行を修してもいいでしょう。自分にとっていちばんよいことを、あなたは

知っていますからね。それでも何かあなたにアドバイスをするとすれば、私はこう言う

ことになる。「マインドフルであってください」。

リラックスの瞑想を実践してください。とてもシンプルなものですよ。楽な姿勢で座

るか、あるいは可能なら横になる。そして額からはじめて身体全体を調べてゆき、緊張

していたり、鈍い痛みを感じている全ての箇所をチェックするのです。不快な感覚を感

じていることに気づくようになればなるほど、あなたは筋肉をリラックスさせることを

学んでゆき、緊張や痛みはゆっくりと消えてゆく。身体の全ての部分を、例外なく観て

いってください。身体の内部さえもです。とてもゆっくり、がまん強く、指先やつま先

まで降りてゆき、前も後ろもやりましょう。何度も繰り返し行うのです。

僧侶になる前に、私は瞑想に関するたくさんの本を読んできました。ですから私は、

それについては全て知っていると思っていた。そうして僧侶になって一年ほどした後に、

私は「いまはじめて、瞑想の何たるかがわかった」と思いました。それから僧侶三年目

になると、「いまになってはじめて、私は本当に瞑想の何たるかがわかった

、、、、

」と思った。

ことはそんなふうに進んでいくのです。

若い頃、私は探検家に関する本をたくさん読んで、未踏の地がもうどこにも残ってい

ないということにがっかりしました。しかし、心理学的な世界を知って以来、私はこれ

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が、多くの人々によって探索されてきた空白地であるということがわかったのです。多

くの人が、適切な道具なしにこの世界へと戻ってゆき、そうして道に迷ってしまう。私

には、適切な道具があります――マインドフルネスですね。

時に私は、多くの宗教的な人々がマインドフルネスに関するいちばん簡単なことさえ

知らないのに驚いてしまいます。ある人々は、いつでも・どこでも・何をしていてもマ

インドフルネス（気づきを保っておくこと）を実践することが可能だというのは、初耳

だったと言っていました。多くの人々が、瞑想とは座っている時だけに実践すべきもの

だと思っています。そして、瞑想している時は何もしてはならないとも。彼らはそうし

ている時だけ

、、

が瞑想の時間だと思っていて、つまりは人々と関わっている時に自分の心

を観察することには積極的でないのです。

日常生活において、多くの人々が座る瞑想を実践していますが、彼らは自分たちの欲

望や願望、怒りや憎しみ、プライドや羨望や嫉妬を観察してはいません。多くの瞑想者

は、日常生活や人々との交渉、また人々と会話している際に自然に起きてくる煩悩を、

誠実に注視することの大切さを知らないのです。私は話している時にマインドフルであ

ることを大いに強調しています――その時が、人々が最もマインドフルでない時ですか

ら。

ほとんどの瞑想者が、瞑想するための決まった時間を設けています。彼らは瞑想の対

象を選んでいるのです（初心の段階で、そうすることは構わないのですが）。選ぶとい

うことは、排除するということです（彼らは何かを排除している）。瞑想とは、包括に

関わるものでなければなりません。私の理解するところでは、人々はまず、自分の煩悩

を意識するよう努めなければならないのです。

BhAsite sampajAnakArI hoti（マインドフルネスの実践者は、マインドフルに話す）。話

すことは、私たちの人生の大きな部分を占めています。話している際にマインドフルネ

スを育てることは、とても有益ですよ。簡単なことではありませんが、不可能なことで

もありません。話したいと思っていることにマインドフルでありましょう。そして、話

している時には、唇の動きや、また声のトーンや大きさ、他にも何であれ話すことに関

わることに、マインドフルであってください。

沈黙こそが、応答の中で最も聖なるものである時がある。（ユージーン・ケネディ）

他人か自分自身を益し得ることだけを話しなさい。無駄なお喋りは避けること……。

（ベンジャミン・フランクリン）

人生の中で最も辛い経験は、関係性から生じてきます。ですから、人々と関わる時に、

マインドフルであることはとても大切です。私たちは、関わりをもっている人たちに対

する自分の態度に、意識的でなければならない。何に対するものであれ、自分の態度を

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注視することはとても大切です。正しい態度を保っていなければ、私たちはたくさんの

問題を生み出してしまうことになる。自分の態度を観察していない瞑想者の多くは、明

らかに多くの問題を引き起こしています。

私は車に乗っている時や、人々と話している時、物事を行っている時に、マインドフ

ルであるように努めています。マインドフルネスを実践するためのよい機会となるのは、

忙しい時です。自分が教えていることを実践しているのですよ！

マインドフルであることは、私が自分のためにできる最上のことです。マインドフル

ネスをマインドフルネスのために実践することができれば、あなたはマインドフルネス

を、よりよく理解することができるでしょう。

人々は、葛藤する願望や欲望でいっぱいになっています。ほとんどの人は、自分が本

当にしたいと思っていることを知らないのです。彼らは自分の心をあちらへこちらへと

変化させる。非一貫性がルールなのです。心は葛藤する感情に満ちています。

樹の影が長く伸びて、日が傾いてきています。黄昏時の風が涼しい。ここは本当に静

かで、安らぎに満ちています。まるで梵天（brahmA）の世界に住んでいるよう。単純さ

と満足、節度（saMvara）とマインドフルネス、思慮深さと忍耐、慈しみとあわれみ、

そして心と身体についての理解、それらが、ここでの生活をそのように安らぎに満ちた

ものにしているのです。

私は退屈を感じることが全くありません。いま私は安らぎに満ちた生活をしていて、

森の中で安らぎに満ちた死を迎えられたらと願っています。私は自分の心を注視する。

物事はやって来ては去ってゆく。永続するものは何もありません。最悪のことでさえ、

長くは続きません。だからそれらがやって来ても、次の瞬間には消えてしまうであろう

ことを私は知っている。そうしたことどもを消し去るために、私は何もする必要がない

のです。そうした最悪なことどもを、私は顕微鏡で何かすごく興味深いものを見るかの

ように、観察してみたいと思いますよ。しかし、何であれ生起していることに心の焦点

を合わせた瞬間に、私に見えるのはそのかすかなひらめきだけです。それで、その対象

は去ってしまう。「どうか留まって、君のことをよく見せて」と、私は言いたいのです。

結局のところ、私たちは古い知り合いなのですから。しかしながら、彼らは綿密に精査

されることを恐れている。だから私が常に一緒なのはマインドフルネスです。私はマイ

ンドフルネスを注視する。自分がマインドフルであることにマインドフルなのです。気

づきの気づきですね。

最も大切なことは、マインドフルであることです。思考が止まってしまうくらいにマ

インドフルになると、人生の全体が見えてきて、問題がどこからやって来るのかわかっ

てくる。あなたの問題は、あなたの心から来るのです。「あなたの問題は、あなたの心

からやって来る」と言っても、私が何を言おうとしているのかはわからないかもしれま

せんね。でも、あなたが自分の心を本当に深く理解する地点に到達すれば、その時にお

わかりになると思います。

32

智慧は業（kamma）を克服することができるのです。

マインドフルネスについて私がずっと昔に気づいたもう一つのことは、それは継続的

に実践されなければならない、ということです。僧侶として、あるいは在家仏教者とし

ての戒を守り続けることについても同じこと。私はリトリート（瞑想合宿）のあいだは

戒を守ってマインドフルであり続けるけど、リトリートが終わったらそうするためにベ

ストは尽くさない、と言うとしたら、それはダンマ（仏法・真理）に忠実ではないので

す（女性と結婚している時に、浮気するようなものですね――面白い喩えじゃありませ

んか？）。関係性が偽物になる。本当の喜びを得ることはできないし、本当に真剣にな

ることすらできなくなるのです。ええ、私のものの見方というのはこうしたものですね。

人は常に、自分のやっていること（戒やマインドフルネス）に真率で（忠実で、浮気を

せずに）いなければならない。そうでなかったら、自分のやっていること、あるいは自

分自身に、敬意を払えなくなってしまう。そしてこの敬意がなかったら、あなたの行為

は、楽しく、満足がゆき、よい結果をもたらすものにはならないでしょう。

私たちは、心と呼ばれているプロセスのかなりの部分に気づいていません。そしてま

た私たちは、（過去生を含めた）過去の経験や感覚や決定の大部分を忘れてしまってい

る。しかしながら、そうしたことどもは私たちの考え方や感じ方に大きな影響を与えて

います。そのように、私たちがあまりしっかりと気づいていなかったり、あるいは忘れ

ていたりするのだけど、それでも私たちの心の一部であるような部分のことを、私は無

意識の心と読んでいます。他によりよい言葉がありませんからね。

私は自分の心の暗い側面にますます気づくようになってきています。私が受容的にな

ればなるほど、それはますます己を明かすようになってきて、私はよりリラックスして

くるのです。

私たちはコミュニケーションする際に言葉を使う。しかし、言葉というのは意味の実

に曖昧なものです。

多くの物事が、私にとっては重要性を失ってしまいました。多くの物事が、もう気に

ならなくなっているのです。そのことによって、私は自分の心や人生で何が起こってい

るのか、そして心が本当には何をやっているのかということを、より自由に観察できる

ようになりました。

私たちの苦しみのほとんどは、自分自身が創りだしたものです。心というのは偉大な

魔術師ですよ。自分が創りだした苦しみで自分が苦しみ、自分が創りだした楽しみで自

分が楽しむ。自分の創りだした蛇に自分が噛まれて、その毒のせいで苦しんでいるので

す。心が自覚してこれほど多くの苦しみを創りだすのをやめさえすれば、90％の心の痛

みは、もうなくなってしまうでしょうね。

私はここに、自分自身の意識と心により深く入っていくための時間を、より多くとる

ためにやって来ました。私は自分自身のことを、もっとよく知りたいのです――私の意

識と心の内で、葛藤している全ての動機や欲望や願望や理想を観るために。私は心の全

ての暗い隅や亀裂、這いまわっているものやこそこそと歩きまわる蜘蛛、サソリや毒蛇、

全てのライオンや鷲、等々を知り尽くしたい。それらを追い出したいからではありませ

ん。私はただ、自分の心の善友に、親切で理解のある友達になりたいのです。そうした

ことどものことをよく知らない限り、彼らは私を安眠させてくれませんからね。

私は、私のことを本当の姿とは違う何かしらのタイプの人間として捉える人たちのこ

とが好きではありません。しかし、これは避けられないことです。世界中の人が、みな

誤解されている。彼らが私のことを正しく理解したならば、それはそれで、私は腹を立

ててしまうでしょう。

あなたがどこに住んでいて、誰と付き合っているかということはとても大切です。あ

る種の場所や人々は、心を気分の悪い状態にしてしまう。そして常に気分の悪い状態で

いるということは、心にひどいダメージを与え得るのです。私たちは実にかすかな形で、

周囲の人たちから影響を受けています。

私はますます、人々や組織から距離をとるようになっています。人は「助けてあげる」

と言いながら、他人を自己の権力拡大のために利用します。

誰であれ怪物と戦うものは、その過程で、自分自身が怪物にならぬよう注意しな

ければならない。（ニーチェ）

いまに至るまで、私は自分の心を長い年月にわたって注視してきました。ですから、

私は自分の心のことをとてもよく意識しています。私は心が、どれほどバカで、思慮が

なく、愚かで、悪ふざけをするものであり得るかを知っている。しかし、私はそのこと

を意識していますから、心にさらわれてしまうことがないのです。

私は自分が本から学んだことを、ほとんど忘れてしまいました。私は、あまりたくさ

んのことを覚えておきたくないのです。でも、私は自分自身と自分の心、自分の精神状

態や、自分に関する全ての悪かったり愚かだったりすることをたくさん知っています。

私は人々から、そうしたことどもは恥ずかしいことで、そのような思考を抱いてしまう

ことを後ろめたく感じるべきだと教えられてきました。私は彼らを信じることを拒絶し

た。私たちはみんなそうした思考を抱いているのに、私たちのほとんどがそれを否定す

ることを、私は知っています。私は人々に、自分に関する全てのことを話そうとは思い

ません。私はよいことであれ悪いことであれ、自分に関する全てのことを受け容れるの

です（抵抗はしません）。

受け容れない限り、私たちは何も変えることができない。（カール・ユング）

自分自身を理解し受け容れることで、私の心は平安になり、リラックスします。私は、

ただ私のあるがままで構わない。私は私の心を、拒絶することなく、裁くことなく、抵

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抗することなく、否定することなく、観察し続けてゆきます。私が本当によく知りたい

と思う一人の人間は、私自身なのです。

私は自分の心が空っぽになっていて、はっきりと明るく、そして学ぶことに負担をか

けられていない状態が好きです。私は何も証明する必要はないし、何も防衛する必要は

ないし、何も布教する必要はありません。

私は若いころに、愚かなことをたくさんしました（まだ時には、愚かなことをしてし

まいます）。それについては話すこともできないのですが、そうした行為を忘れないよ

うには努めています。自分がやったことの記憶は、心の中に浮かんでくる。私はそれに

抵抗はしません。痛みを感じはするけれども、ひどく動揺してしまうこともないのです。

過ちは誰でも犯します。人が過ちを犯してしまった時に、心に何が起こるかというこ

とについて、私はたくさんのことを学んできました。――罪悪感でどれほど心が焼ける

ような思いをするか。心がどれほど過去を（誤って）忘れようとするか。そしてとくに、

心がどれほどその人を、人生におけるよいこと（例えば愛や尊敬、献身や名誉や洞察智

など）に自身が値すると感ずることから、（誤って）遠ざけておこうとするか。私は自

分自身を許します。その時の状況や条件を考えれば、どうして私がその行為をすること

を避けられたでしょうか？ それでも私は、残りの人生のあいだずっと、罪悪感を感じ

続ける必要があるのか？ ありませんとも！ 私は自分の過ちから学び、それらを繰り

返さないようにベストを尽くします。それ以上に、私にできることがあるでしょうか。

ありませんね。

真実を受け容れることによって、心は自由になります。

私は全てにおいて賢いわけではありません。時に私は、とても愚かです。心に気づき

を保っておくこと（マインドフルネス）が、私のコンパスです。過ちを犯してしまった

時は、私の心のマインドフルネスが、いつも私に、自分がトラブルに巻き込まれている

ことを教えてくれます。

自分自身をただありのままに、深く理解することなくしては、本当の意味でのスピリ

チュアルな成長はあり得ません。一時的な平安や幸福感は、たいへん励みになるもので

す。しかし、そのことだけによって人間の変容がもたらされるということはないのです。

意見が合うと安心できます。

ええ、人々が偏見のない心でいないからといって、私も腹を立て続けていることがあ

るかもしれません。しかし、もうそんなことはしたくありませんね。私には彼らを変え

ることはできませんし、彼らに責任をもっているわけでもないですから。自分に可能な

のであれば、私は彼らを助けるでしょう。ほとんどの人々は、自分の心や自分の人生に、

何が起きているのかを知りません。彼らは知っているつもりだけど、実のところは違う

のです。たいていの人が、ひどく重い条件付けを課されています。この条件付けを克服

するためには、とんでもない量の気づきと誠実さが必要ですよ。あなたは条件付けられ

ているし、私も条件付けられているのです。私たちは、自分が条件付けられているとい

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うことを知っているでしょうか？ 私たちの思考や反応のほとんどは、条件付けられた

反射です。ですから、まずは自分自身のことに取り組みましょう。条件付けられている

状態から自分自身が自由になった時、はじめて私たちは、他者の条件付けを解除するた

めに、何らかの助けができるのだと私は思います。自分自身が動揺してしまっているあ

いだは、「助けてあげる」と言いながら、他者を傷つけてしまうことになるでしょう。

自己欺瞞ですね。時にその自己欺瞞はあまりにも完璧なので、自分でもわからないこと

すらある。自分を守りたいがゆえに、自分の弱いところに盲目になってしまうのです

（自己欺瞞）。私たちは、幸福であるために自分を騙す。自分の弱点を観ることは、時

には辛いことがありますから。

あらゆる過去の記憶や未来の心配を、心に持ち込まないようにしてください。各々の

瞬間を全てマインドフルに生きるのです。未来のことは、未来が何とかするでしょう。

学んでゆくにつれて、私たちは自分の執着や欲望、夢想や願望から抜け出してゆきま

す。夢から醒めるということは、落胆と関わっていますから最初は辛い。しかし、後に

はそのことによって、心が自由になるのです。より現実的になるのですね。人生はおと

ぎ話ではない。「彼らはそれからずっと幸せに暮らしました」ということは、現実の人

生にはないのです。

真誠であり続けるためには、私たちは変わらなければなりません。きつくなり過ぎて

しまった皮を脱ぎ捨てる蛇のように、私たちは自分の大好きな夢を脱ぎ捨てなければな

らない。きつ過ぎて息ができなくなったと愚痴をこぼす代わりに、より楽に自分が呼吸

をできるようにするために、私たちは古い皮を脱ぎ捨てて、新しい皮を育てなければな

らないのです。しかし、その新しい皮を再び脱ぎ捨てる時が来たら、ためらってはなら

ないということも覚えておかねばなりません。いつだって、古い皮を脱ぎ捨てるという

のは辛いことです。新しい皮は環境と接することに耐えられるほど、まだ十分に強くな

っていないので、自分がとても脆弱で、ひどく感じやすい状態になってしまいますから

ね。

私はますます、心理的に独立するようになりました。私はさみしいと感じません。

「心の深い奥底の状態に、どうしたらマインドフルに／注意深くなれますか？」。感

覚を感じるといいでしょう。感覚にマインドフルになって、ことが表面化するのを忍耐

強く待つのです。無理強いはしないこと。心を柔らかく保ってください。

幸福とは、穏やかな心であることです。完全にマインドフルであって、私という思い

や感覚がなくなってしまうくらいになること。この幸福は、過去や未来に関する全ての

思いが起こらない時――「私」もなく、昨日もなく、明日もなく、計画もない時――に

やって来ます。そのような時間を離れた状態において、この至福を経験する「私」は存

在しません。そこにあるのは、ただ幸福だけです。本当の幸福には理由がない。（私と

いう感覚がなくて）本当に幸福である時、「私は〜だから幸福だ」とは言えないのです。

幸福になろうと一生懸命に頑張ったら、失敗するのは確実です。本当の幸福は、招かず

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してやって来るものですから。

思考が止まってしまうところに至るまで、心にぐっと近づいて観察することができま

すか？ 思いが存在せず、有るものにただ気づいている時、心は安らぎに満ちています。

考えることによって、心が安らぐことはあり得ません。解決し得ない問題というのは存

在するものですが、その種の問題に対処する最高の方法は、それらについて考えないこ

とです。ぐるぐると考え続けていたら、あなたはただ疲れきってしまうだけ。私たちの

ような教育のある人間たちは考え過ぎてしまう。そのことを、認めなければなりません。

私たちは考えることに溺れ過ぎてしまわぬように、自らを律しなければならないのです。

読むことや話すことや、その他全ての気晴らしは、人を気づきの欠けた状態にしてし

まいます。（何であれ）その種のものをあまりに利用し過ぎる人は、それをやっていな

いと、空虚で落ち着かず、退屈した気分になってしまう。言い換えれば、彼らの心はそ

うした刺激物がないと、とても鈍くなってしまうのです。

思いの一つ一つが、心を疲れさせ引き裂いてしまう。考えることは重荷であり、拷問

です。それについて考えることによって、あなたは自分が幸福になるための道を見出だ

せると思っている。どれほど長いあいだ、そうして自分を騙してきましたか？ そして

いつまで、そうして自分を騙し続けるつもりですか？ 考えるのはもう十分です！ た

だ現在起こっていることを、考えることなしに観てください。

多くの物事が、私にとっては重要性を失ってしまいました。そのことによって、私は

自分の心や人生に起こっていることを、以前よりもずっと自由に観ることができるよう

になっています。

考えている心（a thinking mind）は観ることができません。思考は盲目です。観る

ことが思考を排除する。本当に観るということは、ラベリングすることではありません。

考えれば考えるほど、ますますぐるぐると同じところを回ることになる。思考を本当に

明らかに観ることができれば、それは必ず止まります。

私が考えているのではありません。思考というのは、それ自体で回っているものなの

です。それはあたかも、永久機関のようなものです。

考え過ぎないこと。そして行為をし過ぎないこと。瞑想が可能であるためには、忙し

過ぎず、会話し過ぎず、睡眠に耽り過ぎず、孤独を楽しみ、感覚の六つの門に気づいて

いて、食を節制する必要があります。

最近の瞑想の調子はどうですか？ 考えることをやめ、ラベリングすることすらやめ

てしまい、心が注意と気づきを伴った完全な静寂へと至った時、あなたは刹那に滅して

ゆく自然の姿、物事の夢に似た本性を観察します。

箱のなかに、古新聞がいくらかあります。それを読みはじめて、私は自分の心を注視

しました。気散じですね！ 娯楽。時間つぶし。無益なものです。

人々は娯楽と情報に没頭していて、心を人生における真正で大切な物事から逸らして

いる。自分自身の心と自分自身の人生を学ぶほうがずっと価値があるのですけど、ほと

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んどの人々はそれをすることを恐れています。その代わりに、彼らは自分自身を忘れた

がる。自分自身から逃げ出しているのですね。己に直面するだけの勇気がないのです。

あるいは、彼らは怖がっている。自分自身について考え過ぎたら狂ってしまうだろうと

恐れているのです。でも、私は考えなさいと言っているわけではありません。私は注視

しなさいと言っているのです。ええ、自分自身について考え過ぎたら、それは狂ってし

まうでしょう。

人々は自分が空虚で役立たずだと感じています。その感覚を覆うために、彼らは自分

を忙しくしておこうとする。忙しいと、自分は重要な存在だと感じるのですよ。

あなたは何をするべきか、誰が告げることができるでしょう？ 私ではありませんよ。

あなたは自分自身で、それを見出さなくてはならない。私があなたに言えることは、マ

インドフルであって、シンプルな生活をしなさい、ということだけです。多かれ少なか

れ、あなたはもう実践されていることだと思いますけどね。私たちには、全てを手にす

ることはできません。私たちは選択をしなければならず、その他のことは、手放さなけ

ればならないのです。

望むことが少なければ、背負うものも少なくなります。

渇望や執着、および情欲や貪欲がドゥッカ（dukkha、苦）の源泉であり、そしてそこ

から抜け出す唯一の道は徹底的な観察であることに、私は疑いを抱いていません。抑圧

し、そして／あるいは、表出することには、いずれにせよ大して価値はありません。深

く理解することが大切なのです。

タンハー（taNHA、渇愛）、マーナ（mAna、慢、プライド）、ディッティ（diTThi、邪見、

誤った見解）はパパンチャ（papaJca、戯論、障碍）です。それらは実に多くの不必要

な活動の原因であり、輪廻（saMsAra）を長引かせる原因であり、そして人々が実践を

行って、解放に至ることを遅らせる原因でもある。パパンチャは精神的と物質的の現象

を拡張し、人々を忙しく、気を散らされた状態に保つのです。

私はヴィマラ・タカールの、「瞑想という生き方」という記事を読んだことがありま

す。以下、そこから私の大好きな部分をいくらか引用しましょう。

……自ら見出し、発見しようとする生来の情熱に欠けていたならば、その人には

瞑想的な生き方をする素養がないということになるでしょう。瞑想とは生の全体的

なあり方であって、部分的もしくは断片的な活動ではないのです。……生とは西洋

的なものでも東洋的なものでもありません。……真の探求者に興奮はない。あるの

は深みをもった強さであって、浅い熱狂的な興奮ではないのです。……そうして、

この観察している状態が起きている時間に浸透しはじめます。食事を作っている時

であれ、会社に行く時であれ、あるいは話している時であれ、この観察している状

態が、起きている時間に行われる全ての活動に浸透しはじめるのです。……観察し

ている状態が保たれると、感受性が高められて、朝から晩まで、以前よりもずっと

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覚醒している状態になります。……心の活動に注意を集中して、あなたの生き方の

他の部分を排除してしまうことは無益です。瞑想というのは存在の全体、そして人

生の全体に属しているものです。あなたがそこで生きていようが、生きていなかろ

うが同じこと。言い換えれば、瞑想とは身体的なものと心理的なものの全てに関わ

っているものなのです。……ですから、精神的な活動の小さな領域から、私たちは

瞑想を、意識の広い領域へと連れ出してきました。そこにおいて瞑想は、あなたの

立ち方や座り方、一日を通じて、あなたが言葉にしたり身体に表したりする全ての

仕方に、関係づけられるのです。あなたが望もうと望むまいと、存在の内的な状態

は、あなたの振る舞いに表現されるのですからね。……このように瞑想と生の全体

的なあり方を相互に関係づけることが、全体的な変容の道を歩むために、最初に必

要とされることなのです。……常に言語化を続けることが、瞑想の道における最大

の障害物のうちの一つであることに気づいている人は、私たちのうちにほとんどい

ません。……生というのは同質的な全体を形作っているものなのであって、それを

断片化することは決してできないのです。……この逸脱もしくは破れ目に気づくこ

とは、それ自体が一種の観察です。（ヴィマラ・タカール）

断片化あるいは特殊化された人生へのアプローチは、上手くいくことがありません。

オールラウンドな理解が、必要とされているのです。身体において、全ての部分は他の

全ての部分と関係付けられている。人生においても、それは同じことです。即ち、人生

における全ての側面は、他の全ての側面と関係付けられている。人生の経済的、感情的、

知的、社会的、そしてスピリチュアルな側面は、全て互いに関連し合っている。それら

を別々にしておくことはできません。別々にしておこうと試みたら、あなたの人生は満

たされず調和を欠いたものになってしまうでしょう。葛藤や分裂、麻痺が起こることに

なるのです。

ブッダが自分の足や手、そして鉢をとても丁寧に洗ったというのを読んだことがあり

ますか？ 彼の行いは、全てスピリチュアルなものであった。これが本当のスピリチュ

アリティー（霊性）です。それは、あなたの人生の全ての側面に関わりがある。ですか

ら、あなたの話し方、服の着方、他人との関わり方、食べ方、眠り方、笑い方――全て

あなたの行うことは、あなたの心の反映なのです。

「非常に深い瞑想経験」という時に、人々は何を言おうとしているのでしょう？

預流者とは何か？ 誰かが預流者であるかそうでないかを、誰が告げることができる

でしょう？ 預流者と凡夫のあいだに違いはあるのか？ その違いは何か？

あなた自身が答えてください。わざわざ私に言う必要はありません。

どうしたら深いところまで届く思考ができるか？ そのためには、穏やかでマインド

フルな心が必要です。疲れていたり落ち着きを失っていたりはしておらず、物事が明晰

に見えている心ですね。大切なのは、明晰に見えているということです。

39

内的なものであれ外的なものであれ、私たちはみんな葛藤をもっています。助けにな

るのは、明晰な気づきと智慧だけです。

よりポジティブなことを考えるよう努めてください。考えることは、たいへん大きな

力をもっています。そして、自分をより快活にしてくれるようなものを周囲に置くこと。

本は心を穏やかで晴朗に、快活にしてくれるようなものを読みましょう。一部の本は、

心を憂鬱にさせてしまいます。そして、自分についても他者についても、あまり多くを

期待しすぎないこと。

気づきの瞑想を二年間実践した後、私は気づきの実践に関するマハーシ・サヤドーの

本を読み、自分の経験してきたことのほとんどが、彼が本で言っていることと合致して

いることを知りました（これは私にとって驚きであり、喜びでしたね）。十分に長く実

践してから、ニャンジン（洞察の段階／進行）に関する本を読んだほうがいいでしょう

ね。とはいえ、ニャンジンは帽子の羽飾り（自慢の種）ではありませんが。

預流者は五戒を破ることはないでしょう。これは、ブッダが繰り返し述べていること

です。

ブッダが教えたことに関する、いくらかの基本的な知識は必要です。よい先生からダ

ンマに関して聞いたことがなかったら、それを正しく実践することはできません。どの

程度のパリヤッティ（ダンマに関する理論的な知識）が必要なのか？ それが問題です。

五比丘（paJcavaggi）――五人の僧侶のグループは、転法輪経（Dhammacakkapavattana

Sutta）と無我相経（AnattalakkhaNa Sutta）を聞きました。そして、それで彼らには（悟

りに到達するために）十分だったのです。シーラ（戒）は必要ですよ。それがなかった

ら、自分自身に安らいでいることができませんから。シーラは瞑想を助け、瞑想はシー

ラを助けるのです。

あの国で、あなたはあらゆる種類の人々を見るでしょう。ある人たちは真摯であり、

またある人たちはダンマを理解している。しかし、彼らのうちの多くが、全く道を失い

混乱してしまっている。ヒンドゥーやら禅やら、チベット仏教やらテーラワーダやら、

また西洋の心理学やら。ある人が言うところでは、それはアメリカのヒン・レイ・オー

（多くの食材が入ったミャンマーのカレーの一種）です。あらゆる種類のものが混ぜあ

わされ、ごった煮になっている。完全なものは、どこにもないのです。ダンマについて

何も知らなければ、あなたはさらにもっと混乱してしまうことでしょう。そこに訪ねて

行って、探してみてください。人生は実験の連続です。そこであなたが幸せであるかど

うかは誰にも言えませんが、多くの自由、つまりあなたが自分の人生を自分の仕方で生

きる自由は、見出されるだろうと思います。他人が彼らの人生を生きる仕方については、

何を言えることがあるでしょうか？ それは彼らの人生なのです。全ての人は、多かれ

少なかれバーラ（bāla、愚か者）です。あなたのダンマの理解と実践だけが、あなたを

守ってくれるのです。

ええ、マインドフルになればなるほど、その人はますます柔らかくなります。彼はより

敏感になる。痛みにより

敏感になり、不幸により

敏感になり、無意味により

敏感になるのです。そういう人が、意味が無いことに苛々しやすくなることはあり得ます。

あなたは、この世界が自分の心が不健全な状態にあることに気づいてすらいない人た

ちで溢れていることを、腹立たしく思うことがあるかもしれない。そして彼らは、人生

（振る舞い）に対する自身の態度を共有することを、あなたに期待すらするのです。時

にあなたは、人々がダンマを評価しないだけではなくて、それを実践する人たちを笑い

ものにすらすることを、とても悲しく感じることがあるかもしれない。彼らはわざと、

あなたに面倒事を仕掛けることさえあるのです。こうしたことは、僧侶のあいだですら

起こります。ですから、人々のことを理解して、彼らを許してあげてください。ウペッ

カー（平静さ）は、とても安らぎに満ちたものですよ。

ある人たちは、なぜ彼らが人間関係においてこんなに簡単に苛立って（腹を立てて）

しまうのかと、私に訊いてくることがあります。答えは、彼らがあまりに多くの無意味

を、もう許すことができなくなっているから。彼らは雑談したり噂話をしたりすること

に、あまり多くの時間を浪費したくないのです。以前は、彼らも雑談や噂話、時間潰し

や政治について語ることを楽しんでいました。いまは、ほんの少量しかそれらを許せな

いのです。自分が話していることにマインドフルになると、彼らは口の中に嫌な味を感

じる。彼らは自分の品位が落ちていると感じ、相手がそれを汲み取ってくれないと腹を

立ててしまうのです。彼らは、場合によっては無作法にすらなってしまうかもしれない。

ですから、この種の心の状態にはとてもマインドフルになっておかねばなりません。

人々のことを理解して、許すのです。

「瞑想してサティ（マインドフルネス）を保てば保つほど、私はますます、このどう

しようもなく狂った世界から逃げ出したくなります」。それができたら素晴らしいでし

ょうね。でも、変わってしまう前に寛容になってウペッカーを育てることを試してみて

ください。さもなくば、あなたは燃え尽きてしまうでしょう。

「あなたはいつも、私たちのことを助け、理解しようとしてくれます。でもあなたは、

理解してもらう必要はないのですか？」。ええ、私は理解してもらう他人を必要とはし

ていません。でも、そうしてくださるなら感謝するでしょう。誰かを理解するというこ

とは、そんなに簡単なことではありません。私は本当に他者を理解しているわけではあ

りませんが、そうしようと努力はしています。自分自身を理解しようとするだけで、十

分に大変です。自分自身を理解していなかったら、どうして他人を理解できるでしょ

う？ そして、自分自身を理解するためには、あなたは自分自身に、全く誠実であらね

ばならないのです。

自分自身に誠実であるということは、本当に難しい。私たちは自分自身に、常に嘘を

ついています。私は偽善者である。そのことを直視するのは辛いことです。

ひょっとしたら、あなたは私も一人の人間であって、それなりの愚かさを有している

存在であるということを、忘れていらっしゃるかもしれない。私は自分が完璧であると

41

は思わないし、完璧になりたいとも思いません。私の望んでいることは、私の中の現実

を、直視するということだけです。

自分の欠点を見た時でも、私は興奮したり、腹を立てることはありません。それらを

除去するために急ぐこともしない。私には、それらを除くことはできないのです。私が

ただ望めることは、それらが現実にどうあるかを観ることだけ。そしてほとんどの場合、

観察を行っている時でさえ、私はそれらを歪曲してしまっています。心は物事を歪曲す

るのが大の得意です。自己欺瞞ですね。ほぼどんな時でも、私は自分自身を騙している。

私は自己欺瞞を観察することを、ますます学びつつあります。自己欺瞞を観察しても、

私が本当に腹を立ててしまうことはありません。

マインドフルネスがなかったら、私の人生は、悪い冗談になってしまうでしょう。

避けられないことを受け容れることは、心の平安のためにとても大切です。

本当の無常（anicca）というのは、物語のレベルを超えたものです。新聞で何かを読

んで無常を理解するというのは知的な話。無常を本当に観察した時、それはあなたが直

接の現在において経験しているものなのです。そこに思考はありません。手紙で全てを

書くのは難しい。言わなければならないことはたくさんあるのに、紙幅は実に少ないで

すから。

結局、私が言ってきたことというのは本当に大切なことではないのです。大した問題

ではない。ひょっとしたら、相当に無益なことでもあるかもしれません。言い残したこ

と、言えなかったことのほうが、私にはより大切に思えます。獲物を駆り立てようとし

て、ただ藪の周りを叩いているようなものですね。

心が落ち着いている時は、心に書きたいことが何も浮かびません。

真実を知りたいなら、

君にそれを教えよう。

友よ聞きなさい、

私の愛する神は内にあるのだ。（カビール）

人々は観念を創りだし、その観念が牢獄になる。しかし、その壁を透視することので

きる人は、それを越えてゆくことができるのです。

あなたが瞑想に習熟していれば、どんな服を着ているかは問題になりません。それが

何のためにあるのかを知っていれば、ラベルにはあまり意味がないのです。しかし、人々

はラベルや包装に執着する。戒をいくつ守りたいと思うかは、あなたが決めることです。

一つか二つの適切な対象を決めて、それに継続的にマインドフルであってください。

継続性が、もっとも大切なポイントです。考えることで、心が幸福になることはあり得

ません。コントロールしようと望むことなく、思考を注視してください。あなたがはっ

きりと観たならば、思考は止まることでしょう。

42

私は、さらに真剣に瞑想するつもりです。私の心はあまりにも多くの世俗的な事柄で、

あまりにもいっぱいになってしまっている。あまりにも多く、旅をして話をしすぎまし

た。いま私は、再び静穏でありたいと思っています。考えることは、実に大きな重荷で

す。私は、開けた海に浮かんだ小舟に乗っているようなもの。たった一人で、連絡用の

無線もない。ただ、私にはコンパス（マインドフルネス）があります。

思考が根源的なところまで至ってくると、誤解されたくなくて沈黙するか、あるいは、

実際のところはさほどに興味のないことを口にしたりもするでしょう。あなたは自分の

言いたいことに近接したことを言うのだけど、それは人々があなたの趣旨を理解しない

ような仕方で語られる。時には、人々が自分の言っていることを理解しないのを嬉しく

思うこともあるでしょう。なぜ自分の考えを表現したいと思うのか？ これも一つの執

着です。その執着を手放せば、静寂と平安があることでしょう。

人々や状況に抵抗し続けることは、そうしたことを軽く考えるだけであっても、精神

的なストレスを引き起こして、長期的には疲れきってしまうことの原因になり得ます。

心を注視して、現実的な状況と想像的な状況に対して、どれほどの反応が進行してい

るか観察してください。心のストレスを観るのです。

常に抵抗したり反応したりしなくて済むような場所に住んだほうがいいでしょうね。

あなたは独りで暮らしたほうがいいかもしれない（孤独に耐えることができればです

が）。

深く感じれば感じるほど、ますます自分の感じたことには沈黙していなければな

らない。（ウィトゲンシュタイン）

語り得ぬものについては、沈黙していなければならない。（同）

ある種の経験は言語によって伝達されるかもしれないし、また別の経験――より

深いもの――は、沈黙によって伝達されるかもしれない。そしてまた、沈黙によっ

てさえ伝達され得ない経験というものもある。（エリ・ヴィーゼル）

私は独覚（a silent Buddha）9であることができればと思います。誤解されることは、

あまりにもフラストレーションのたまることです。

ほとんどの人々は、真実を観察／受容するだけの勇気をもっていません。彼らは自分

たちを幸せにしてくれるであろう何かを求めている。真実というのは、時に恐ろしいも

のです。本当ですよ。夢から覚まされるというのは怖いことなのです。

あなたがしがみつけるものは何もない。ダンマでさえです（ところで、ダンマって何

でしょうね？）。存在するのは、観察し理解すべきものだけです。ほとんどの人々は、

9 悟りはしても、教えを説かない覚者（ブッダ）のこと。

43

何かしがみつけるものを探している――理想の一揃いや目標、方法論や共同体、セクト

や秩序、何であれ、自己が同一化できるものですね。

孤独を積極的に受け容れることができない限り、友人関係が本当に意味するところを

理解することもできないでしょう。ほとんどの人たちにとって、友人関係とは孤独を克

服するための一つの手段です。孤独を掘り下げてください。可能な限り独りで暮らして、

自分がそれでも構わないと感じられるかどうか観るのです。

孤独に本当に対処することができるなら、そうした場所に住むのはよいことでしょう。

よい友人が得られて、そうした安らぎに満ちた場所を分かち合うことができるなら、な

およいだろうと思います。ただ、その対価は高すぎると、私は思います。

あなたが自分の好きなことをやっていて、いまはより幸せであることを望んでいます。

マインドフルネスは、常に実践していますか？

44

第二章：孤独

私の内面の深いところには静けさがあります。そこに入っていった時、私は本当の孤

独と平安を見出す。そこから出てくると、澄明でリフレッシュした感じがするのです。

洗われて清められたと感じるのですね。そうすると、私には全てがより鮮明に観える。

自分がどこにいて、どこに行こうとしているかがわかるのです。

私は独りでいるという特権を重んじる。（カール・ロジャース）

孤独は掘り下げられるべきです。身体的な孤独についても、精神的な孤独についても

ですね。身体的な孤独というのは独りでいること。人々と会うのを避けるべきだと、私

は言いたいわけではありません。そうではなくて、私が言いたいのは、私たちは独りの

時間をもつべきだということです。精神的な孤独というのは、何事についても考えず、

ただ注意と気づきを保っていること。何事についても考えていない時は、私たちはぐっ

すりと眠っているか、あるいは元気がなくて眠いのに違いないと、考えている人たちも

いるのですが。

孤独において私たちは、自分自身とよくコミュニケーションすることができるのです。

静かで独りでいるときには、私たちは自分自身により誠実になる。

孤独は私のスピリチュアルな実践の基礎です。孤独に強く惹かれることは、私が九歳

の時からはじまっています。その時から、私は丘へと独りで長い散歩に出るようになり

ました。重要な決断をする時は、私は静かな場所に、独りで長い散歩に出ます。独りで

安らぎに満ちた状態である時は、私が私自身の最高のアドバイザーです。穏やかで安ら

ぎに満ち、孤独である時に自分自身から得たアドバイスは、人生における困難な時に、

ずっと私を導いてくれました。私には強い、「静寂への欲求」があるのです。

何も言うことがない時に、語るよう私を説き伏せることのできる人は誰もいません。

人々は、孤独の重要性を理解していません。彼らは、何らかの楽しみを与えてくれた

り、どうにかして自分たちを刺激してくれることのできる誰かと一緒にいたがる。刺激

を渇望しているのです。自分を刺激してくれるものが存在しなければ、彼らは退屈して

しまう。身体的に独りでいる時でさえ、彼らは本を読んだりテレビを見たり、ラジオや

カセットを聴いたり、自分が過去にしたことや、これからすることを考えたりします。

考えずにいることを、彼らは生産的だとは決して思わないのですね。

あなたの得る最も大切な学びは、あなた自身です――それは孤独の中で学ぶもの

（エリカ・ジョング）

45

智慧は孤独の中で実を結ぶもの。

孤独は充電です。

生は私の心の深い静寂より流れ出てくる、

定義することの不可能なもの。

それ以外の全ては、付随的なものです。（サヤドー・ウ・ジョーティカ）

私は日の出とともに起きた。幸せだ。歩いた。幸せだ。森や丘を歩き回り、谷を

さまよい、読書し、何もせず、庭仕事をし、果実を収穫し、家のことを手伝う。そ

して幸せが、どこにだってついてきたのだ。――特定の対象を指示することのでき

ない幸せが、それでも全体的に私の中に住していて、それは片時も私を離れること

がなかったのだ。（ルソー）

私はいま、M にいます。一週間前にここに着きました。静かでいい場所です。シン

プルなのですよ。ここには大きな檀家（dāaka）がいない。いるのは村人たちと農夫

たちだけです。シンプルな場所にシンプルな人たち。入り組んでいるのは、私の心だけ

です。

鳥がたくさんいる。彼らの声を聴くのは好きです。風が木々のあいだを走り、心をな

だめて落ち着かせてくれる。慌ただしく騒がしい街とは大違いです。まるで異なる世界。

大きな街と重要な大人物たちには、心をとても乱されてしまいます。

ここでは瞑想することがずっと易しい。私には大きな野望はありません。ただシンプ

ルに暮らして明らかに見たい。私には世界を変えることはできません。誰のことも、私

自身でさえ変えることはできないのですが、注視することであれば可能です。賢明であ

れば、私は何事についても誰についても、腹は立てずにただ注視するでしょう。世界を

背負って立とうとする私は、いったい何者なのでしょうか？

沈黙のオアシスからのみ、私たちは自分の内的な智慧のコップから、深く飲むこ

とができるのです。（スー・パットン・トール）

時に私は、本当に語り合うことのできる友人がいたらと思うことがあります。多くの

人が、私のところにやって来ることを好みます。どこに行こうと、そこには私に会いに

来る人たちがいる。ひょっとしたら彼らは、マインドフルネスを実践することで、刺激

を受け、励まされ、活気づけられたかもしれない。あるいは少なくとも、扇情的で過激

で、挑発的な人の話を聞く時の単調な感じからは、一時的にでも救われたでしょう。こ

こには、私にとって本当に意味のあることを共有できる人は誰もいません。少なくとも、

私は自分の思いを自身の内に留めておいて、安らいで暮らすことは学びました。

46

平安、沈黙、孤独。これらは結局のところ一つのことなのだ。世界とその喧騒は

視界に入らず遠くにある。森と畑、太陽と風と空、大地と水、全ては同じ、沈黙の

言葉を語っている。（トマス・マートン）

ええ、世界は狂っています。しかし、私にそれについて何ができるでしょう？ 何も

できません。なぜ世界の狂気に腹を立てて、時間とエネルギーを無駄遣いしたりするの

ですか。

雨がしとしとと降っていて、風はありません。心が落ち着きます。木々は去年よりも

ずっと高くなっている。数年後には、ここに立派な森ができるでしょう。森林省が、私

に八エーカーの土地をくれたのです。安いものでしょう、ねえ？

よい湧き水とよい気候。食べ物も十分です。ほとんどが菜食ですね。必要なものは全

てあります。充実した多くの時間も。

私は自分自身であることが好きだ。年をとるにつれて、他の何よりもそのことが

好きになった。考えるべきことや取り組むべきことが、実にたくさんあるのである。

（グウェンドリン・ブルックス）

人々がやって来て、私の邪魔をすることはありません。ときどき数人が、寺の境内を

掃除するためにやって来ます。私には網戸のついた蚊の入って来ない部屋があって、そ

こにはベッドと安楽椅子、本と薬に、紙とペンがある。ああ！ 私が不幸を感じる要素

がそこにあるでしょうか？

美しいグラスで、ポット一杯のよいお茶を飲みます。味も香りも素晴らしい。おかげ

で私は、生き生きと敏感になります。たった一人のお茶会。雨は強くなってきています。

私の知る限り、ここは混乱していない唯一の場所です。食料（米）はあらゆるところ

で不足していますが、ここは大丈夫。いまは午後一時十五分くらい。とても静かです。

コオロギと、牛の鈴の音が聞こえるくらいですね。僧侶たちは、自分のクティ（小屋）

で瞑想しています。

どんな場所も完璧ではありません。ここは十分によいところです。ここの人々、そし

て僧侶たちも私には親切にしてくれます。僧侶たちが病気になれば、私は彼らの面倒を

みる。彼らは私を医者だと思っているのですよ。薬を手に入れるのが、とても難しいの

ですけどね。

この森には、三つの森林僧院があります。私のいるところが、最も人里離れている。

訪問者が来ることはほとんどありません。満月の日に、数人が奉仕に来るくらいですね。

私たちにはあまりたくさんのものは要りませんから、必要なものは全てもっているので

す。私には何冊か読みたい本があるのですが、どれも手に入りません。たぶん、私は自

分の知的な刺激に対する渇望を、手放さなければならないのでしょうね。

47

ある一日は、別の日とほとんど同じです。夕方には、私たちは経行をする。ここでは、

物事が大きく変わることはありません。まるで時間が止まってしまったか、スローダウ

ンしてしまったかのよう。外の世界は喧騒の中にありますが、ここは静かです。為すべ

きことは何もなく、重要なことは何もないかのように感じられます。全て、あるいはほ

とんど全ての問題が、想像上のものであるように見える。自分の問題のうち、どれほど

多くが想像上のものであるのかということを、私たちが知ってさえいればと思います。

自分自身を知るためには、人は時々、自分の思いと独りで向き合う必要がある。

（リチャード・トライアンフォ）

相変わらず平和です。ここにはたくさんの鳥たちがいる。ちょっとした病気が時々あ

るのを除けば、何の争いも問題もない。私は健康です――ここ四ヶ月は、何も不満を言

うことはありませんね。私は自分の面倒を見ることを学びつつあります。野菜をたくさ

ん食べて油分を減らし、砂糖はほとんどとらないこと。穏やかであることは、健康にも

とてもいい。この場所は、どうやら私にとって最高のようです。

ここでの生は、とても安らぎに満ちて穏やかです。争うことはない。ここには組織は

ありませんからね。私もまた、多くの人や物事に、執着することがますます減っていま

す。

人は母体の中で、他者との生を生き、それを耐える。しかし、そこを離れて産ま

れ出てしまえば独り、本当に独りなのです。（マリア・イザベル・バレノ）

今日は曇り。こぬか雨が降っています。静かですね。小鳥たちは歌っていますが。乾

いた葉がそこらじゅうにあって、木々は覆いをなくしたその腕を、雨を迎えて差し上げ

ています。暑くて乾燥していても、何の問題もありません。私たちは自分の葉を全て落

とし、最初の雨が落ちてきたら、新しい葉を育てるのです。

寒くなってきています。冬が来たのですね。朝の気温は華氏58 度1。ここ数日の、空

は綺麗に晴れています。軽くて柔らかい雲が、地平線の近くにいくつか見えるくらい。

空気は涼しくて爽やかです。満月の夜は、本当に美しくて穏やかですよ。

「孤独というのは、豊かに独りでいることだと、定義することができるでしょう。」

昨夜は独りで散歩に出ました。心配や気がかりがどこにあるでしょう？ そんなもの

はどこにも見出せません。そうしたものは単なる想像なのだと、私は思います。

孤独は私たちの内に原型を生み出し、未知で危険な美――詩を生み出す。

（トーマス・マン）

1 おおよそ摂氏14.4 度。ミャンマーの冬は乾季で雨が降らない。

48

いまは早朝、四時四十五分ごろです。鳥たちが歌っている。境内には数百匹くらいい

て、彼らはとっても機嫌が良いように見えます。近ごろはとても暖かいですから、鳥た

ちは水浴びをしたがる。ですから、私は二つのテラコッタ（陶製）の鉢に水を入れて出

してやって、鳥たちが水を飲んだり浴びたりできるようにしました。彼らが水浴びして

いるのを見ると、とても嬉しくなります。本当に楽しんでいるように見えますから。米

も毎日与えていて、食べ物と水を求めて、たくさんの鳥たちがやって来ます。食べ物も

水も、彼らはただで貰いに来ているのではありませんよ――彼らは私のために歌い、心

配するな、瞬間ごとに生を享受せよ、考えすぎて心を混乱させることなく、人生をあり

のままに受け容れて、常に死への準備も怠るなと、私に教えてくれているのです。

ゲーテは、「人は毎日、少なくとも、ちょっとした歌を聞き、よい詩を読んで、見事

な絵を鑑賞し、そしてもし可能であれば、数語の道理にかなった言葉を語るべきだ」と

言っています。私はゲーテが大好きです。彼はとても創造的だった。自分自身を創造し

たとでも言うべきでしょうか。

彼の言葉に付け加えて、友よ、私はこう言いましょう。「人は毎日、少なくとも、鳥

の歌声を聞き、よい引用文を読んで、美しい景色を鑑賞し、そしてもし可能であれば、

数語の慈愛に満ちた言葉を語るべきだ」と。

人々は人生が困難だと言う（容易だなんて、誰が言ったんでしょうね？）。しかし、

それでもあなたは明るくあるまま、人生から多くのことを学ぶことができます。そして

もしそうしたいと思うのであれば、この輪廻から抜け出すこともできるのです（それは

一つのメリーゴーラウンド？）。

私はいま、ここの私の小さなチャウン（小屋）の、ベランダに座っています。とても

静か。遠くの木から、一対の鳩がクークーと鳴いているのが聞こえます。木々を通り抜

ける風の音も。いまは午後四時くらい。お湯を浴びた後に、しばらくの休息をとってい

ます。

時に私は、山の中に洞窟を見つけて、そこで独りで暮らすことを考えることがある。

しかし、本当の満足をもたらすものなんて、何もありませんね。

私は穏やかで安らぎに満ちた生を送りたい。私は自分自身を、全ての責任から解放し

てきました。私が欲しいのは、平安と自由と、生に関する深い理解。私は支持者や弟子

をもつこと、そして評価や名声に関心がありません。

孤独を一定期間きちんと実践すると、自分自身との深い永続的な繋がりが育てら

れる。私たちはその繋がりを、孤絶――自身や他者との――を緩和するために用い

ることができるのだ。（ジャン・ジョンソン・ドランテル）

あなたには、私の生き方を理解していただきたいのです。シンプルで、穏やかで、安

らかで、所有というものをほとんどしない。どんな仕方であれ自分が得たものを、私は

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ほとんど放棄します。ですから、必要な物をあなたに告げていないならば、それは本当

に必要がないということなのです。物をほとんど持たずに暮らすということは、私の心

にとってはずっと易しいことです。私の友人は、良寛やソローやゼノンといった良書た

ち。そして、律（vinaya, 僧侶のルール）が私の先生です。

あなた（私）は、自分が完全にリラックスして寛ぎ、心理的に自由であって、他者の

期待から解放された場所、つまり、あなた（私）が本当にあなた自身（私自身）である

と感じられて、誰かを喜ばせるために語ったり振る舞ったりする必要のない場所で、暮

らさなくてはなりません。

考えたり働いたりしている者は常に独りだ。彼を望むところにいさせてやれ。

（ヘンリー・デイヴィッド・ソロー）

私は独りで生きることを学びました。時に私は、自分の最も深い理解を表現したいと

思うことがあります。しかし、どう耳を傾け、どう理解し、どう評価すべきかを知って

いる人を探すのは困難です。ほとんどの場合、私は聞き手ですね。人々は、私と話をし

たがりますから。

森へ散歩に出かけました。とても静か。誰に会うこともなく。鳥たちだけが、明るく

歌っていました。人間は陰気ですよ。

私は自分自身を、世界から切り離そうとしなければなりません。

高く登れば登るほど、旅人と出会うことはますます少なくなる。ああ登山家さん、あ

なたは独りであることに耐えられますか？

何であれ本当に作るに値するものを制作するには、孤絶が必要とされる。孤絶と

強い集中の必要性によって、芸術家はほとんど非-社会的な状態になる……。彼ら

は社会から切り離されるかもしれないが、独りではないのだ。

（ウィリアム・サローヤン）

私は芸術家？ ある意味では。

私の人生は、なかなかシンプルで安らぎに満ちています。ここマハーミャインには、

私たち三人の僧侶がいる。みんな満足していて、自分自身の心とよく触れ合っています。

心で何が起こっているかを知ることは、正気を保つ唯一の道です。私は一日に数時間

本を読み、たくさん瞑想し、夕方には散歩をして、友人たちと語り合います。ここはと

ても静かですよ。私は鳥とコオロギの歌声を聞いている。人々は、とても親切でフレン

ドリーです。

でも、私は常に幸せであるというわけではありません。時に私は、自分の子供たちを

もっと助けてやれないことで、とても悲しい気持ちになることがある。しかし、私は還

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俗するつもりはありません。私は僧侶として森で生活することが、本当に好きなのです。

私は本性として、隠者なのだろうと思います。本当に言うべきことをもっている友人た

ちと話をするのは好きです。そしてまた、瞑想に多くの時間を使うことも好きですね。

そうしたことがなかったら、人生は一つの雑事になってしまうでしょう。

「独りで生きることが冒険であるか困難であるかは、ひとえにあなたの態度と決断に

かかっています。」

今朝の日の出はすごく美しかった。光が雲間から差し込んでくる。私の生きている世

界は、なんと神秘的なのでしょう！ まさにこの場所に、十分美しい諸物がある。もち

ろん、それはしばらくのあいだしか続かないのだけど、それで構いません。あなたは人

生で、この神秘を感じますか？ 全て私たちの周囲にあるものは、偉大な神秘です。私

は偉大な神秘であり、あなたは偉大な神秘である。またある意味では、とても聖なるも

のでもあります。

私はとんでもない畏敬の念とともに生きています。全てはなんと素晴らしいのか！

人々は人生がひどいものだと言う。ある意味で、それは本当ですね。でも、同時に人生

はなんとひどく素晴らしいのでしょう。時に私は、自分が生きているということによっ

て、とても活力を与えられ、とても幸せに感じることがあります。私は長く幸福な生を

送ることを、楽しみにしていますよ。つい最近、私は人生を新たに生き直すことを学ん

だのです。私の人生は、はじまったばかりなのですよ。私は自分自身と自分の人生、あ

なた、娘たちと彼女らの母親、そしてここの友人たちに、正しく感謝するようになって

きています。そしてまた、青空や白い雲、木々や鳥たちにも。私は本当に人生に惚れ込

んでしまっているのです（私はあたかも、異教徒になりつつあるようですね）。そう、

私は生を憎んでいない。苦はもちろんあります。それは構いません。その苦は私が人生

に支払うべき対価です。私は人生に本当に感謝していますよ。それがこれまで私に与え

てくれた、全ての痛みと喜びに感謝していますし、それらが今後、さらにやって来るで

あろうことも知っています（私が仏教を教えることは可能なのでしょうかね？）。

「いかにして孤独とともに生きるかを学んだ人たちだけが、自分自身と人生について、

知ることができるようになるのです。」

私の小屋の近くに竹林があって、そこに十五本くらいの新しい芽が生えてきています。

美しくて大きくて太い、可愛らしい若芽たちですね。私は毎日それらを見ていて、すご

く順調に育っているので、とても嬉しくなるのです。彼らは私の親族です。ただ愛して

いるのですよ。

一杯の朝鮮人参のお茶を飲む。味はすごくいいですね。ただ素晴らしい。カップもと

ても美しいです。緑がかった茶色でざらざらしている。日本の茶碗に惚れ込んでしまい

ました。LSD を飲んだことがあるか？ いえいえ、人生でLSD を見たこともありませ

ん。私は全くしらふ

、、、

ですよ。ひょっとしたら、朝鮮人参のお茶で酔っ払っているのかも

しれませんが。

51

送っていただいた詩集、『寒山詩（The Cold Mountain Poems of Han-Shan）』を落

手しました。これは実に好きです。あなたは、私がどんな種類の詩が好きかご存知なの

ですね。私は良寛が好きなのとちょうど同じように寒山が好きです。両者とも、まさに

ここで私の近くにいる。彼らの詩はしょっちゅう読みますよ。実際のところ、私は彼ら

の詩を生きているのです。以下は、私の大好きな寒山の詩です。

ひとたび寒山に住めば、全てのことに決着がつく。

さらに、ここには心を機能停止させてしまう雑念もないのだ。

暇な時には、私は石壁に詩句を書きつける。

運命の趣くまま、その行くところに私は身を任せる――

私は舟を繋ぐことはないのだ。2

朝鮮人参茶をもう一杯。ああ、なんと素晴らしい！

よく晴れています。鳥たちはすごくはしゃいでいて、互いに大きく声をかけあってい

ます。彼らは本当に生を楽しんでいる。人間とは違いますね。人間たちは陰気で、不満

足で、愚痴っぽく、不活発で、そして多くが鬱々としています。私は人生で、鬱々とし

た鳥なんて見たことがありませんよ！ 私は鬱々として感謝に欠けた人間たちよりも、

鳥たちから学んでいます。

ちょうど散歩から帰ってきたところです。暖かい日光と涼しい風を感じるのは、とて

も素敵なことですね。自然の中で、自然とともにあることです。

ジョギングに行きたいなあと思います。私はずっと運動をしてきました。筋肉はかな

り強くて、エネルギーを発しています。いまは体重が増えてきてしまいましたね。脂肪

を燃やすために、もっと運動をしなければなりません。

三杯目の朝鮮人参茶。どんな億万長者が、こんな楽しみを味わうことができるでしょ

う？

あなたからの手紙は、十回以上読みました。私には、読んで考える時間があります。

私は、あなたが言おうとされていることを知りたいのです。そのことは、続けていくつ

もりです。私は友人のことを、とても深く理解したいと思う。私は人生の全てを、自分

自身と友人たち、そして家族と娘たちを理解しようと試みるために使うつもりです。そ

れが私の優先事項。それ以外のことは、必要であればやるでしょう。自分自身と自分に

親しい人たちのことを理解しなかったなら、私は自分の人生を成功だとは見なさないで

しょうね。

いま私は、外的な物事についての単なる情報や知識を重視してはいません。内的な世

界が、実に豊かで素晴らしいのですから。

「自己刷新は、常に静かにはじまるものです」

2 「一住寒山萬事休／更無雑念掛心頭／閑於石壁題詩句／任運還同不繋舟」

52

「孤独のうちに、私は自分がともに暮らしている人たちへの認識を再定義します。」

私が自分に近しい人たちを、理解し正しく認識すればするほど、ますます私の人生は

意義深いものになります。この真実を見出すのに、私には長い時間がかかりました。

人生は四十歳からはじまると言われる。私にとって、これは真実ですね。その意味で

は、私はとても若いのです。やる気に満ちているのですよ。私は、自分自身の仕方で感

じるようになりはじめています。私は自分の人生と私に近しい人々、自分が住んでいる

世界と、そして一般に全てのもののありようを、正しく認識し評価する。人々が私を気

遣い、助けてくれたら、それに感謝します。彼らの助けと親切を正しく認識し評価して、

それらに感謝するのですね。以前は、そうしたことを当たり前だと考えていたものでし

た。

自分の人生を呪うことなんて、どうしてできるでしょう？ 人生は無意味だと愚痴を

言うことなんて、どうしてできるでしょうか？ 人生は不思議に満ちている。わくわく

することだらけなのです。死ぬときには、心に感謝を抱いて死にたいですね。敵意では

なくて。

私と考えを分かち合い、気遣ってくださり、ありがとう。

こうして手紙を交わし合うことができて、私は本当に嬉しいのです（郵便サービスに

も感謝ですね）。これはとても貴重なことですから。私の人生で、深い意味をもってい

る人たちというのは数人しかいない。あなたはその一人です。知り合いになってから、

どのくらい経つでしょうね？ 十年。あなたのことを、より近しく感じるようになって

いますよ。私はあなたに、自分のばかげた考えや感じ方を全て話すことができるし、そ

れであなたが私のことを裁いたりはしないだろうということも知っています。私はます

ます、人間的になってきているのですよ。

私は自分の子供たちとその母親を、前よりももっと愛しています。私がますます無関

心になっていないというのは実に不思議なことですね。よい僧侶というのは、執着をも

ってはならないのだから。つまり、私はよい僧侶ではないわけです。証明終わり。まあ、

いずれにせよ私は一人の人間です。悪い人間ではないと思っていますけどね（そう願い

ます）。どうぞお気になさらずに。私はあなたが、この愚かな僧侶を理解してくださる

ことを願っているのです。

今日の日没はすごく美しい。雲が金色に輝いています。言葉ではとても言い表せない。

私は野生の呼び声を聴く。最終的には、私は自分が生まれついての隠者であることを、

受け入れなくてはなりません。世界については、私は十分知っている。そちらのことは、

放っておくつもりでいます。

君は私が人々から離れることで、自分を貧しくしていると思っている。しかし、

私は孤独のうちにおいて、自分のために絹製の網、もしくは蛹を織ってきていて、

そうしてまるで妖精のように、より高次の社会に適応した、より完璧な生き物とし

53

て、まもなく生まれてくることになるのだ。（ヘンリー・デイヴィッド・ソロー）

残りの人生を、幸せで満足して過ごせる場所は見つけましたか？ 私はまだそうした

場所を見つけてはいないのだけど、いつか見つけることができればとは願っています。

全ての場所は、一時的なものだと私は思います。静かで人里離れた一時的な場所をもつ

のがよいのでしょうね。願って、願って、願っておきましょう。

中国の絵がお好きだと言っていましたね。私も好きです。中国の絵のプリントをお持

ちでしたら、いくらか送っていただけますか。私は古い（伝統的なスタイルの）日本の

絵も好きです――滝のある大きな山と、小屋に農場。シンプルな木製か竹製の小屋です

ね。日本庭園は実にシンプルで安らぎに満ちています。砂利の小道といくつかの木か石

のベンチ、花をつける低木と、もちろん竹やカエデや桜の木をいくらか使って、自分で

小さな日本庭園を造ることもできますよ。小さな池か川を、どこかに配置するのです。

庭を造るには、たくさんの時間がかかります。ですから、鉢か箱で何かを育ててもいい。

ミニ庭園ですね。箱の中か家の隅で、苔を育てたっていいんです。

毎日ただ会社の仕事だけをしていたら、退屈してしまうに違いありません。何か創造

的なことを、行う必要があるのです。

中国の寺院の絵を、とても楽しく見ています。もっと深い山の中に入っていって、シ

ンプルで静かな村の近くで暮らしたいですね。いつか実際にそうするかもしれない。こ

の世界は、ますます狂ったものになってきています。不快と不満足が山火事のように燃

えていて、広く遠くへ延焼しつつある。まるで伝染病のようですね。満足とシンプルさ

を尊ぶ古の叡智を、評価する人はほとんどいない。西洋化が流行りなのです。

昨夜から雨が続いています。陽は差さず、代わりに雲が覆って寒い。私の小さな炭の

ストーブが、ゆっくりと燃えています。食後には、砂糖入りのお茶を飲みました。耳栓

をして、ずっと寒山の詩を読んでいます。以下に気に入ったものをいくつか。

かつて寒山にやって来て

それから三十年、ぐずぐずここに居続けた。3

占いを行って、人里離れた地を住処に選んだ。

天台、これ以上に言うことはない。

猿たちが冷たく霧のかかった谷で鳴き、

草門には絶壁の色が混ざっている。

葉を拾って松に囲まれた小屋を覆い、

池を掘って小川を引く。

いまや私は、世界から離れて何事も行うことに慣れてしまった。

3 「一向寒山坐／淹流三十年」

54

蕨を採って、残りの年月を過ごしてゆく。4

寒巌は、深く入るほどなお美しいが、

この道を行く者は誰もいない。

白雲が絶壁にかかり、

緑の峰で、猿が独り鳴いている。

他に何の仲間が必要だろうか？

私は自分がしたいようにやって年をとってきた。

顔かたちは年月にしたがって変わったけれども

心の真珠はしっかりと保っている。5

賢者よ、お前たちは私を振り捨てた。

愚者よ、私はお前たちと同じことをする。

私は賢者にも愚者にもなるまい。

今後は、互いの話を聞くのはなしにしよう。

夜が来れば、私は明月に向かって歌い、

明け方には白雲とともに踊る。

この声と手を鎮めて、白髪を乱しながら、

棒のように固く座っていることなどできようか。6

私も、自分がしたいようにやりながらここで暮らしています。朝は托鉢に行き、一日

分の食事を午前八時にとる。歩いて座って、読んで考えて瞑想する。ここに住んでいよ

うと、どこか他のところに住んでいようと、これが私の人生を通じてやりたいことです。

「他人の意見の奴隷になってしまうことは、現代社会における二枚舌の大部分の原因

だ」。誰が言ったのかは覚えていませんが、私はこの言葉が大好きです。この二枚舌は、

実に高くつきますよ。

私は自分の執着を観察して、それらをますます手放すことを学びつつあります。諸々

の執着は重荷です――私、私の、私のもの。強い執着がなかったら、あなたは静かな場

所で暮らすこともできるでしょう。

こうした詩を読みますと、思い浮かべる光景があります。時には想像の中で、私はあ

なたを森へと長い散歩へ連れて行って、その静けさや木々、鳴禽類やヤマシギなどの

様々な鳥、そして、次から次へと色々なものに腹を立てている人々のあいだで暮らして

4 「卜擇幽居地／天台更莫言／猿啼谿霧冷／嶽色草門連／折葉覆松室／開池引澗泉／已甘休

萬事／采蕨度殘年」

5 「寒巖深更好／無人行此道／白雲高岫閑／青嶂孤猿嘯／我更何所親／暢志自宜老／形容寒

暑遷／心珠甚可保」

6 出典未詳

55

いては決して感じられない安らぎ――動物と自然との非言語的な関係――を、ご紹介し

ています。

私はブッダのことを、とてもたくさん考えます。私は、深いサマーディ（禅定）に入

って座っている、葉書サイズのブッダの絵を持っているのですよ。彼は、根が枝から下

がっている、大きく年経たバニヤン（ベンガルボダイジュ）の木の下に座っている。傍

には何羽かの兎がいます。そしてその近くには、蓮が花盛りになっている、大きな古代

の湖があります。その遠くの湖岸には、大きな森と山がある。月――満月ですね――が、

ちょうどその山の上にかかっています。湖上にはさざ波が立っている。周囲は静かで、

安らぎに満ちています。そして、そこでブッダ、私の先生は、完璧な静けさのうちに座

しているのです。貪りも憎しみも、プライドも羨望も嫉妬も妄念もない――平安の完全

なシンボルです。彼の顔は柔らかく白い光を発して輝いており、身体中が全く柔らかで

リラックスしていて、どこも緊張することなく完璧に安らいでいるのです。そして私、

私はほど近いところの別の木の下で座っている（しかしながら、絵には入っていません）。

安らぎに満ちていますよ。そうすることを選ばれるなら、あなたもここに参加すること

が可能です。

想像というのは、大きな力をもっています。安らぎに満ちた状況を想像した時は、あ

なたの心も安らかになる。他方で、恐ろしい状況を想像することにより、あなたは自分

自身を死ぬほど怖がらせることもできるのです。あなたには選択権があるのだから、穏

やかな状況でブッダの傍で瞑想するといった、安らぎに満ちたイメージを選びましょう。

全てのディテールを想像するのです。自分が深い山の中にいると想像してください。涼

しくて静かなところに。あなたはブッダの近くにいて、とても落ち着き、静かで、安全

で安心だと感じており、塵労からは解放されている。

心を落ち着かせてくれるような詩を、いくつか集めておきましょう。小さなノートに

それらを綺麗に書き写して、常に持ち歩けるようにするのです。

午後九時半、短い散歩からちょうど帰ってきたところです。月がとても明るい。昨日

が満月の日だったのですよ。今夜は月が真円で、冷え込んで霧がかっています。雨は止

みました。まるで地上のものではないみたいに美しい。

散歩からちょうど帰ってきたところです。木々のすぐ上に、明るい月がかかっている。

涼しいですね。私は12×8 フィートの小屋に、独りで住んでいます。他に二人の僧侶

が、ほど近くの別の小屋（クティ）に住んでいます。彼らはよい瞑想者ですよ。

私の小屋の近くには、小さな池があります。たくさんの水棲昆虫が、そこで泳いだり

潜ったりしている。夕方にその池の近くに立って、水にいる昆虫を見るのが私は好きで

す。昨日は二匹のオタマジャクシを見ましたね。ここには電気がありません。ですから、

私はこのエア・メールを蝋燭の光で書いています。蝋燭の光は好きですね。ここではと

てもリラックスした感じがする。人々は、私にとても親切です。私がこのあたりにいる

と物事がよくなると、彼らは信じているのですよ。

56

数日のあいだ、病気をしていました。食べ物は人々が持って来てくれて、医者が来ま

した。たいした病気ではありませんでしたよ。みんな私のことを心配しすぎている。私

は、心から私を愛してくれるたくさんの人々のあいだで、生活しているのです。

必要な物は全てあります。何か要る時には、お知らせしますよ。私は何でも、節約す

るのに慣れているのです。無料で豊富にある雨水でさえ、私は控えめに使います。それ

が習慣になってしまっているのですね。かつては辺鄙な村に住んでいて、そこでは全て

が、水さえも、不足していましたから。

昼寝をして、起きてから散歩に行きました。曇っていて、もうすぐ雨が降りそうです。

雷鳴が聞こえる。もう一週間、降り続いています。農夫たちは喜んでいますね。鳥たち

も嬉しそう。彼らは歌い、大きく声をかけあっています。一羽のヒヨドリが、水盆で水

浴びしている。生が続いてゆきます。

「こうした全ての忙しないあり方よりも、遥かに豊かで深い生き方が存在する。急く

ことのない晴朗さと、平安と力に満ちた生が。」

人生はこうあるべきという自分自身の意見のために、私はさんざん腹を立てることに

なりました。ですからいまは、自分に可能なことだけを行って、それ以外のことは放っ

ておくことに決めたのです。人々は意見の違いで互いに争っている。彼らは戦わせてお

きましょう。私はそれに参加しません。彼らに自分の心を乱されることを、許すつもり

はないのです。

今日の空模様はとても美しい。深く青い空に白い雲。にわか雨が時々降って、遠くで

ゴロゴロと雷が鳴っています。とても静か。私には必要な物が全てあります。読む本と

食べ物と素敵な小屋。人々は私を放っておいてくれる。私が不幸になる理由はありませ

ん。

不満足は病気です。人々は、自分が自分自身を不幸にしていることを見ようとしませ

ん。貪りやプライドや羨望。多くの人々が、ミャンマーを離れたがっています。私は、

オアシスのようなこの場所にいる。寺院に来ると、幸せに感じるという人たちもいます

ね。人々は、互いに攻撃的になるよう強いている。彼らは、幸せが外側にあるものでは

ないということを見ていないのです。

フランシスコ・サレジオは、「あなたは私に、周囲の人間が皆せかせかと動き回って

いる時に、私がいかにして落ち着きを保ち、心を乱さずいられるのか、と尋ねます。お

教えできることなんてあるでしょうか？ 私はこの世界を、かき乱すためにやって来た

わけではないのです。それは既に、十分かき乱されてはいませんか？」と言っています。

あらゆる煩悩を伴い歩いているならば、どこへ行こうと、あなたは不幸になるでしょ

う。どんな状況でも、常に何かしらの不都合はあるのです。人々は、互いに罪をなすり

つけ合う。「私は不幸だ。それはこいつのせいだ」。私たちが自身の過ちを見ようとしな

いのは、実に不思議なことですね。

色鮮やかな夕日。丘の頂上から、みんなでそれを見ています。淡い黄色から深く輝く

57

赤へと、色がゆっくり変ってゆく。時に私たちは自然の美しさを忘れてしまう。代わり

に自分の問題で、頭がいっぱいになってしまうのですね。私たちのほとんどは、自分の

創った世界の中に住んでいる。そこには問題が溢れているのです。

早朝、日の出前です。すごくたくさんの鳥たちが歌っている。寺院の中は安全ですか

ら、ここには多くの鳥が住んでいます。私は彼らを見に行って、いつもその声を聞いて

います。彼らのことは、ますます好きになってきていますね。鳥たちは大変な生を生き

ている、ように見える。にもかかわらず、彼らは明るく、依存的でないのです。それに

大きさと色と形も色々。どれほど長く眺めていても、興味を失うことは決してないです

よ。ジョン・ミューアのカワガラスに関する記述を覚えていらっしゃいますか？ 私は

ミューアの本を、何度も繰り返し読みましたよ。彼は凄い人です。贅沢のことなんか全

く気にかけない人だった。車さえ持っていませんでしたからね。それで自然への膨大な

愛とともに暮らしていた。彼は私が好きなアメリカ人の一人です。

自然は私にとって、不思議に満ち溢れたものに見える。私はそこに、自分を浸し

てしまいたいのだ。石の全てや植物の全て、一つ一つのものがみな生きているよう

に思えるし、形容できないほど素晴らしく感じられる。私は自分自身を自然に没入

させ、その本質そのものへと言わば這い入ってゆき、そうして、およそ人間の世界

からは遠ざかるのだ。（カール・グスタフ・ユング）

毎朝私は、道を下って托鉢に行く。寺院の近くには、七つくらいの家しかありません。

たいていは、野菜や芋、豆とご飯をもらいますね。食べられるよりも多くもらいますよ。

シンプルな（加工されていない）食べ物は健康にいい。ほとんどの場合（病気の時を除

けば）、私は一日一食です。ここは天候もいいです（暑すぎません）。自分用の結構な小

屋もある。読む本もあり、身体を温めてくれる袈裟と毛布もあり、健康を保ってくれる

薬とビタミン剤もある。旅行はめったにしません。たぶん一年に一回くらいですね。必

要なものを提供してくれる檀家も何人かいます（そして、私には必要とするものがほと

んどありません）。そんなわけで、私は何事についても不満を言う必要が全くないので

す。

時間は十分あります。勉強や瞑想をするために必要なだけの時間がいくらでもある。

私は急ぐことは全くありません。

人々と付き合いたくないというわけではないけれど

私にとっては、独りで生きるほうがよりよいのだ。7

うら寂しい四畳の庵

一日中、誰も目に入らない。

7 「世の中にまじらぬとにはあらねどもひとり遊びぞ我はまされる」。ほか出典未詳。

58

窓下に独り坐す

ただ落ち葉の音だけが響き続けている。

夕方になったら、庵にどうぞ

虫の音を聴きに

秋の畑もお見せしましょう。（良寛）

人生がどれほどシンプルであり得ることか。なぜ人々は、自らあれほど大きな重荷を、

生み出し続けているのでしょう？

人々は忙しすぎて、鳥が歌っているのも耳に入りません。鳥たちの歌を鑑賞するすべ

を、彼らは知らないのです。

私は鳥や木や雲が大好きです。森の中を散歩するのが、お気に入りの運動ですね。ダ

ンマに関する本を読んで、瞑想するのも好きです。ただ、説法するのは好きではありま

せん。ですから、私がダンマについて何も教えなかったとしても、どうか許してくださ

い。

そうしようと思えば、自分が贅沢に暮らせることは知っています。でも、私はシンプ

ルに暮らすことを選びました。たぶん私は、愚か者なんでしょうね（もしくは、日本語

にいわゆる大愚8でしょうか）。

私は自分の名前を自ら大きく（あるいは、騒々しいものに）するつもりはありません。

大先生には、なりたくないのです。私の最も強い願いは、自分の人生を、穏やかに、静

かに、シンプルに、そしてそのほとんどを独りで、生きることです。私は講義というも

のをしません。そう望むなら、人々が私のところに来て話をするのは構いません。時に

は、彼らに瞑想を勧めることもあります。ただ、それで実践するつもりになったなら、

彼らは瞑想センターに行かなければなりません。

早朝。たくさんの鳥たちが歌っています。彼らはすごく愉快そうに見えます。太陽を

出迎えて、新しい一日を新しい（新鮮な）心ではじめるのです。彼らは心理的な重荷や

罪悪感を、昨日から持ち越したりはしない。未来について心配したりもしません。それ

はなんと素晴らしいことでしょうか！ 人々は自然との親しい関係を失いつつある。そ

の代わりに、彼らはテレビで自然を見るのです。

森へと散歩に出て、色々な種類の鳥が歌っているのを聴いてきました。私は深い森に

住んで、鳥や鹿や、あらゆる種類の動物、そして木々や小川や雲や空、雨や霧とも、友

達になりたいと思いますよ。森に住んでいた時は、兎やリスやトカゲたち、そして一羽

の孔雀と、友達になっていましたね。

道なき森には楽しみがある。

さみしい岸辺には歓喜がある。

8 良寛の号が大愚である。

59

無人の境に社会がある。

深い海の傍ら、音楽が轟々と鳴り響く。

私は人よりも自然を愛する。（バイロン卿）

私もたいへん元気です。毎日歩いていますよ。散歩によって、身体が健康でエネルギ

ッシュになるのです。歩いた後は、心もぐっとリラックスしますね。必要なものは全て

あります。ここは穏やかですよ。心配も気がかりもない。毎日が同じように過ぎてゆく。

月々が足早に去ってゆきます。一年だって、さほど長いとは思えません。年齢を重ねる

ほどに、ますます安らかでありたいと、私は願っています。

雄鶏が時を作っています。あの声を聞くのはすごくいいですね。大きくて黒い、森の

カラスが二羽やって来ました。彼らは私を恐れないのですよ。すごく近くまでやって来

て、私を正面から見つめるのです。

心の真の平穏と完全な平安、つまり地上における最上の健全な祝福は、ただ孤独

の中にのみ見出されるものであり、そしてまた永遠の摂理として、深い隔絶のうち

にのみ存するものである。（アルトゥール・ショーペンハウアー）

雨がもう六日間降り続いています。すごく穏やか。雨が止むたびに、私は短い散歩に

出ます。人々から離れて、森へと長い散歩に出たいものですね。いまの人々は、とても

不安がっている。私は彼らの心を受け取るのです。彼らを穏やかで柔らかい状態にする

ように、ベストは尽くします。彼らはミャンマーの状況にとても腹を立てている。まる

で世界中が、貪りや怒り、羨望や嫉妬やプライドで、燃えているように見えます。

私たち自身のうちに平穏を見出すことができないなら、他のどこにそれを求めて

も無益である。（ロシュフコー）

私の小屋の前ではトカゲが木に登り、小屋の後ろでは鳩がクークーと鳴いています。

私は安楽椅子に座っている。私の人生について、それ以上に何が知りたいですか？

早朝六時くらいに、私は托鉢に出かけます。それで一日分の食事を、七時から七時半

のあいだにとる。それからしばらく散歩をします。その後は座って鳥たちや木々を眺め、

瞑想をする。読むのによい本があれば、読むでしょう。時々は人が訪ねてきます。二、

三人ですね。多くのことが話題にのぼりますけれども、いつも話はダンマに戻って来ま

す。午後にはパーリ語の授業のために、若いシャン族の僧侶がやって来る。夕方には、

森へ散歩に出るのが習慣です。森の中はとても安らぎに満ちていますよ。人々から離れ

ると、私の心は落ち着きます。鳥たちや木々が、穏やかな仲間ですね。翌日も、ほとん

ど何も変わりません。

60

私が耽溺してしまっているのは、ただ読書だけです。

カッコウが鳴いている。実に柔らかく甘い声です。これを聴いていると、明るく幸せ

になるのですよ。

我が人生は、古い破れ寺のようなもの

貧しく、簡素で、ひっそりしている。（良寛）

私は、この忙しく、騒がしく、狂った世界の外側に住んでいます。あまり忙しくなり

すぎないでください。あらゆる不必要な活動を減らすのです。休憩をとり、リラックス

して瞑想するだけの、十分な時間を確保すること。

人々は、森へ行ってしばらく瞑想するための時間を見つけるべきです。森へ入るたび

に、私はとてもリラックスする。人混みの中で暮らすことは、自然なことでも健康なこ

とでもありません。もっと自然と触れ合いながら、生活しなければならないのです。少

なくとも、街を出て山の中にある神殿などを訪ねること。そして、時々は瞑想すること

です。

孤独を選ぶということは、共同体の拒絶であるというよりはむしろ、ある種の経

験や真実は通常の意識にとってはあまりに異質なものなので、個人はそうした経験

をするために人々から離れなければならない、ということを認識することである。

（キャロル・P・クライスト）

どこに住んでいようと、私はあるとても異質な社会を生きています。私は異質な心を

もっていますからね。お金や娯楽や伝統といった、人々が気にかける物事を、私は気に

かけない。鳥や動物や木や雲のほうが、私にはより親しく感じられます。私は人々と、

彼らの苦しみを理解します。彼らは盲目的に、誤った道を下っていっている。彼らには

共感的に同情します。彼らの心には、静かなスペースがないのですよ。受け売りの意見

でいっぱいになっているのです。それでますます、ロボットのようになってゆく。

私はどれほど、全体的で、知的で、油断なく目覚めていて、感受性豊かで、教条的で

なく、常に学び成長している人間に会うことを求めていることでしょうか。

独りでいることが、いかにさみしくないことであり得るかを最終的に見出すのは、

なんと素敵な喜びであることか。（エレン・バースティン）

私は、あまりにも長いこと森に住んできました。ごみごみして騒がしく汚れていて、

人々がとても欲深である場所に、私は住みたくありません。若い時に読んだ詩を思い出

61

しますよ。「うぬぼれた世界よ、さようなら。僕は家に帰らせてもらう」9。

シンプルに調理された、野菜と豆をたくさん食べるのが私は好きです。かなり前に、

野菜と豆を食べないと自分の調子がよくなくて、また肉を多く食べると病気になること

に私は気づきました。ビタミンとミネラルのサプリメントをいくらかとると、消化がよ

くなります。野菜をたくさん食べなかったら、確実にビタミンとミネラルの欠乏症にな

り、疲労や消化不良や貧血を引き起こす。玄米が手に入ればと思いますよ。ここの人た

ちは、みんな白米だけを食べている。白米は、デンプンに他なりません。

今年はここにいるつもりです。暑いけれども、ここは安らぎに満ちていますよ。心が

涼しくある限り、身体は暑いままにさせておきましょう。多くの人たちが、この寺に来

るととても安らかな気分になると言っています。

シキチョウが

木に止まり

ひたすら歌い続けている。

私は夕日を眺め

あなたのことを考える。

夏の夕べ

私たちの人生はなんと異なっていることか。

にもかかわらず

私たちには共有しているものがある。

私たちが出会ったのはなんと不思議なことか。

そしてその記憶は

私たちが死ぬまで持続する。

心は手を伸ばして

別の心に触れたがる。

それがすごく怖いのはなぜでしょう？

鳥とセミのシンフォニー。

これ以上に素晴らしい音楽があるでしょうか？（サヤドー・ウ・ジョーティカ）

この僧侶の精神生活を、誰が想像できるでしょうか？

9 Ralph Waldo Emerson “Good-Bye”

62

いまは夕暮れ時で、私は外で竹林の側に座り、あなたに手紙を書いています。たくさ

んのマイナ鳥たちが互いを呼ばわり、この一日について語り合っている。ええ、彼らは

たいへんな一日を過ごしているに違いありません。気候は日を追うごとに、すごく暖か

くなってきている……。実に美しく素晴らしい世界に、私たちは住んでいます。

ひどい喉の感染症で、一週間、体調不良でした。気温は低い。木々は古い葉を落とし

ています。五週間のあいだ旅行をして、人々と会って話をした後、再び静かな場所で独

りでいるのは、本当にいいものです。人々は実にマインドフルでなく、落ち着きがない。

彼らが混乱していて物を知らないのには、本当にぐったりきます。

先月は忙しかったですよ。訪問者や僧侶たちと、議論や質疑応答をしていたのです。

僧侶や在家の人たちは、まるで私が全ての答えを知っているかのように、やって来ては

質問する。ええ、私の知っていることはお話ししました。一部の人たちが、有意義な生

を送ることに本当に興味を抱いているのは嬉しいことです。

私がここで、こんなに安らぎに満ちて暮らせる理由の一つは、ここに組織も取締役会

もないからです。人々が調和して働くことは可能だと思いますか？ 私はそうは思いま

せん。組織（寺院の）が調和して動いているのを、見たことがないのですよ。ですから

私のモットーは、「平安を求めるなら、組織から遠ざかれ」です。

ここでは実に静かで穏やかな生活を送っていますから、時に私は、これほど多くの時

間をどうしていいかわからないことがあります。だから私は、友人たちに手紙を書き、

少々の読書をし、瞑想する。言うべき切実だったり重要だったりすることは何もありま

せんから、手紙を書くのは易しいことではないのです。

「サヤドー、私は本当に安らぎに満ちて自然な生活をすることができると思います

か？」と、あなたは質問されましたね。できますよ、あなたが本当にそう望むなら。た

だ、移行期間はとても重要です（それは簡単ではありませんからね）。忙しすぎる生活

を続けてきて、私たちは豊富な時間をどうしていいかわからなくなっている。時には、

自分が何も生産的なことをしていないと思うこともあるかもしれない。世界中が苦しん

でいる時に、こんなに穏やかで気楽な生活をすることで、自分を利己的であると思うこ

ともあるかもしれません。あなたは、自分が何かしら世界に対して責任があると感じて

いますからね。何もせず、静かに、何者としてでもなく、何らの責任も持たずに生きる

ことは容易ではない。とくにあなたにとっては――苦しんでいないと、あなたは罪の意

識を感じてしまいますからね。

私が住んでいるのは一面の緑の世界

どの道を眺めても、目に映るのは緑だけ

世界のなんと美しいことか

私は世界に深く惚れ込んでいる。（サヤドー・ウ・ジョーティカ）

63

これほどの幸福と平安を得るために、私は何をしてきたのでしょう？

僧侶は何ものも愛してはならず、全てのものに、まるで魅力を感じなくなるべきだ、

と言う人たちもいます。私は自分が全てのものに魅力を感じなくなってはいないという

ことを、申し訳なく思ってはいませんね！ 私は人生の多くのものを愛していて、それ

らに感謝していますし、実に多くの素敵なことが人生に起こったのを、とても嬉しく思

っています。もちろん人生にはいくらか悪いこともあった／あるけれども、それは構い

ません。

（クティの）天井が出来上がりました。まるで床が、逆さまになったように見えます。

とても小ざっぱりしていますよ。良質のチークの木で作ったので、長持ちすると思いま

す。おかげで部屋が涼しくなるし、雨の時の騒音も減る。この天井はとても気に入って

います。そのままにしておいて、色を塗る気はないんですよ。このチーク材の木目と色

が、ただの白よりずっと趣があって美しいのです。

日を追うごとに、私はますます「大愚」になっています。書物から学んだことをどん

どん忘れ、より人生から観察し学ぶようになっているのですよ。生は私にとって最高の

書物です。私の心は、よりシンプルで開かれたものになりつつある。私は説法をしませ

ん。

ええ、木々は私の友人であり、仲間であり、教師です。私は彼らと長いこと暮らして

きて、彼らのことが大好きなのですよ。

自分の意識から得られる洞察を経験しようとするのであれば、明らかに私たちは、

自身に孤独を与える必要がある。（ロロ・メイ）

ここはとても安らぎに満ちています。今年は雨が多い。私の小屋の近くの小さな池は、

満水になっています。今日は晴れ。実に美しい。あなたがここにいらっしゃったら、と

思いますよ。

涼しくなりつつあります。朝夕には霧が出る。月が明るいですね。ヨタカがノックす

るような音を立てている――タク、タク、タク、タク、タク、タク。遠くの村から、犬

の吠え声が聞こえる。いいですね。

私は竹林の近くの小屋の外で、同じ古い安楽椅子に座っています。いまは午後二時。

涼しくなってきていて、北風が吹いています。雨は止みました。空には雲が全くなく、

とても、とても青いです。牛の首についた鈴の音と、ヒヨドリのお喋りが聞こえる。そ

して、全ての歌の中で最高のもの、私の耳に最も心地よいものも響いてくる。なんでし

ょうか？ 木々を渡る風の音です。私は木々や鳥たち、雲や空、日の出や日の入り、月

や星とともに生きています。なんと素晴らしく、美しく、安らぎに満ちた世界に暮らし

ていることか。私は詩を生きているのです。

ここで起こることは、全てほとんど同じです。いつものように、U.H.S がやって来る。

64

彼は私たちに、毎日玄米をくれるのですよ。時間がまるで幻想のようです。

創造的な企てには、身体的・精神的なスペースが必要とされる。プライバシーと

孤独と時間が欠けていたら、それは窒息してしまうのだ。群衆の中で独立している

ことは容易ではないし、一日もしくは一生涯の散乱した残骸の中で、独自の思考を

追求するのは不可能である。……最後に、創造的な生に必要とされるのは、自由で

開かれており、予測不可能なことが起こり得ないほど論理的で効率的では決してな

いような環境である。（ジュディス・グロッチ）

私はここで静かに安らかに暮らしていますが、これは決して偶然の出来事ではありま

せん――私はそのために、必死の努力をした。これは努力の問題であって、単に善業に

よることではないのです。私は静かに安らかに生きることを選んだ。毎日私は、静かに

安らかに生きることを選んでいます。それは不断の選択であって、強い決意、手放すこ

とを必要とするのです。二兎を追うことはできません。

私はある場所を見つけました。そこはとても安らぎに満ちた場所ですよ。クニもなけ

れば国家もなく、政府も宗教も裁判もない。そこにはしょっちゅう行っています。いつ

か私はそこへ行き、そのままずっと住むでしょう。

竹林のささやき声

言葉に頼らず理解する者は

その意味を知るだろう

聴きなさい！

チン丘陵のソーに旅してきました。とても異質な世界に行ってきましたよ。異なった

生き方をして、異なった価値観をもった人々と会ってきたのです。彼らは必要最低限の

ものしか所有していませんでしたが、とても幸福な人々でした。心理的な問題がないの

です。あの山々は――ああ！ 雄大でした。山は私にとって、とても深い意味をもって

います。私は山に帰り、より長いこと、そこで暮らすつもりです。大きく近代化された

街に住んでいる人たちは、みんな狂っている。それがジョン・ミューアの百年前に言っ

たことで、私は彼に同意しますね。山について言いたいことはたくさんありますが、い

まは時間がありません。山での私の旅に関する全てについては、追ってお話しすること

にしましょう。

あなたの内には、いつでもそこへと引きこもって自分自身になることのできる、

静けさと聖域が存在している。（ヘルマン・ヘッセ）

65

私は以前よりも、シンプルな生き方をいっそう愛しています。私たちには、そんなに

多くのものが必要でしょうか？ 何ヶ月ものあいだ、私はとても忙しかった。すぐに帰

りたいですよ。あの場所でのみ、私は静かに安らかに暮らすことができる。常に忙しく

しているのは、好きではありません。

どこへ行こうと、私たちは自分の心の古い習慣を伴っています。

幸せというのは実にシンプルなものです。幸せになろうとしていない時に、あなたは

幸せなのですよ。本当の幸せは作られるものではなく、組み立てられるものではなく、

所有できるものではありません。私はどうしてこんなに幸せなのか？ ご覧なさい、自

分が幸せだと、あなたはなぜそうなのか知りたがる。これが心というものの性質ですよ

――常に「なぜ」を知りたがるのです。

何事についても、私は強い欲望をもっていません。心は落ち着いています。私は豊富

なメッター（慈しみの念）を感じている。親愛なるあなたのもとにも、私の持っている

全てのよいものが存在していればと願っています。

私は自身に、何かをするよう強制したいとは思いません。私は自分の本性が、何であ

れその自然なコースへと容易に入ってゆくままに任せているのですが、それは常に、ポ

ジティブな方向へ行くものだとわかりました。私の生き方は、私の本性に本当に合って

いるのです。

独りでいることによって、私たちには自分の内的なリズムに再び耳を傾け、内的

な自分自身を抱擁するためのスペースが与えられる。（パトリシア・ホーリハン）

66

第三章：親としての愛と導き

娘たちの住んでいるところから、昨日、戻って来ました。彼女たちと十六日間過ごし

ましたよ。何年も顔を合わせなかった後に久しぶりに会ったので、本当にすごく嬉しか

ったですね。彼女たちの私に対する愛といったら、仰天するほどです。関係は実に打ち

解けたもので、私は大喜びしました。これが本当の慈しみの念ですよ。私が密かに望ん

ではいたけれども、決して得られないと思っていたものですね。かつての義父や前妻と

の関係も、実にフレンドリーなものですよ。私たちは人生とダンマについて多くを語り

合い、また娘たちの教育についても議論しました。私にとって、本当の教育とは何であ

るかということを話したのです。娘たちが人生について学ぶことを援助するのに、参加

するのは嬉しいことですね。

長女はとても知的で、感受性と表現力に豊かです。彼女が私に向ける目は、私の心を、

メッター（慈しみの念）で震わせますよ。彼女たちを抱き締めたいと切望します。いま

や私は、僧侶であることで自分が払っている犠牲を理解しました。娘たちに対する愛で、

ほとんど狂ってしまっているのです。マインドフルネスだけが、大馬鹿をやって笑いも

のになることから、私を救ってくれました。いまも昔も、私は優秀な俳優なのです。

彼女たちの住む街にある寺に、私はしばらく滞在していたのですが、そこに会いに来

た時に、彼女が泣きました。私も胸が詰まり、涙は流さずに泣いていた。胸が張り裂け

そうに感じましたよ。何と言っていいのかわからなかった。街を離れる列車に乗る前に

も、彼女は駅で泣きました。私は彼女たちの人生にコミットするつもりです（既にそう

しています）。心を開くための道具は必要ない――娘が、既にそれを大きく開いてしま

いましたからね。私は彼女が人生について深く理解し、生の喧騒の中で、それでも安ら

かに生きていくこと、即ち、この乱雑なもの、生と呼ばれる無意味で辛い現象を、安全

に過ごしていくことを願います。彼女が私を必要とする時には、いつでも私は彼女の側

にあるつもりです。

娘と私は、たくさんのことについて話をします。一緒に本を読むのですよ。私たちは、

互いをとてもよく理解できる。彼女はよい教育を受けたがっています。深くて有意義な

ことを学びたいのですね。私はいつも、どうしたら彼女を助けられるかと考えています。

私にとって、いま人生で最も大切なイベントは、子供たちと一緒にいることです。私

は扶養者ではありませんが、とてもよい友人であることはできる。

私は娘に、たくさんのことを教えています。彼女はずいぶん読書をする。本を読むこ

と、考えること、そして瞑想することも好きなのですよ。私たちは、とても打ち解けた

関係になっています。本当の友人なのですよ。私は彼女の父であり、教師であり、友人

です。子供たちのことは、ますます愛するようになっていますね。私は子供たちとよい

関係を保ちたいし、彼女たちの（心理的な）助けになりたいと思います。彼女らの健康

と幸福と教育が、私の最大の関心事ですよ。

67

娘はチッタ・アヌパッサナー（心随観）をやっています。彼女はますます、自分の思

考と（精神的な）感覚に気づくようになっている。興味がそうであるように、彼女の人

格も、私のそれにとてもよく似ていますね。私は自分自身のことに関心はありません。

私が気にかけているのは、娘たちのことだけです。彼女たちがますます、自分の心に気

づくようになったらと願っていますよ。心というのは巧妙な仕掛けです。それは変化、

何か違うものを求めていて、退屈はしばしば大きな問題となる。心は娯楽と刺激を渇望

しているのです。それが、ほとんどの人々がやっていることですね――多様な刺激を追

い求め続けること。

私はマグウェーで、ニ、三ヶ月を過ごす予定です。娘が、心と人々、人間関係、いか

にして適切に話し、いかにして聞くか、そして何よりも正しい態度1を、より深く学ん

でいくことを手助けするつもりです。ミャンマーの教育水準は、ずっと低いものでした。

そして、いまのそれはとても不安定です。子供たちは何を学んでいるのか？ 相互に無

関係な情報を教えられ、彼らはあっという間にそれを忘れてしまう。そして、性格と人

格を改善する方法については、教えられることがありません。そちらのほうが、科学的

な事実よりも大切なことなのですが。

父親ではあるが扶養者ではない。ええ、私はそれを、教師であり友人でありカウンセ

ラーであることによって、埋め合わせるつもりです。最も必要とされているものは何で

しょうか？ 自分のことを深く理解し、無条件に愛してくれる他者ですね。娘たちに私

が与えられる最高のものは？ 私の心の全てです。娘は、私に愛されていると感じると

言っていました。彼女は私の愛を感じているのです。嬉しいですね。

条件が許す限り、できるだけ多くの時間を、私は娘たちに割くつもりです。次の機会

がいつ来るかはわかりませんが、成長してゆくにつれて、互いに会う機会はますます増

えてゆくだろうことを、私は願っています。自分にできる全ての形で、彼女たちを助け

たいと思いますよ。

娘たちは、昨日の夕方に発ちました。私の心には、ぽっかりと穴が空いています。深

い感情がある。いまになっても、説明のしようがありません。娘たちへの現在の愛と比

較したら、以前には誰のことも愛したことなんてないと言えてしまう。私の心が、こん

なに開かれたことはありません。娘たちの一方は、私が再び、あまりにも長いこと遠く

へ行ってしまうだろうことを心配して、すごく痩せてしまいました。それを見て、長い

こと遠くへ行ってしまうことなんてできるでしょうか？ 彼女を不幸にすることは、一

切するつもりはありません。「私は何も気にしない。私はお父さんのことを愛している

の。お父さんにはしょっちゅう会いたいし、手紙を書きたい。私のことを、ずっと愛し

ていてほしいの。お坊さんだから、お父さんは私たちには無関心なんだと、私は長いあ

いだ考えていて、とても悲しかったのよ」と、彼女は言っていました。

彼女はいつも私に会いたがっているし、それは私も同じです。ええ友よ、私は一人の

1 yoniso manasikāa（如理作意、right / wise attitude）のこと。

68

人間なのです。アメリカにどれほど長く滞在するかは、彼女に決めさせようと思います

よ。娘に再び悲しい思いをさせることは、決してしないつもりです。彼女の幸福以外の

ことは、何も気にしません。アメリカに行くとしたら／行った時、どのくらい長く滞在

すべきかを、彼女に尋ねてみました。「一年もいれば十分でしょう」というのが、娘の

答え。もうちょっと長くいても、たぶん彼女は許してくれるでしょう。私は彼女のこと

を、騙したくはありません。娘に対しては、完全に誠実でいたいのです。少なくとも一

人の人に対して――彼女に対して――は、自分を守らずにいたい（進んでそうするよう

にしたい）のですね。娘はとても無邪気で、自分を守ることがありません。彼女に対し

ては、私も同じように接するしかないでしょう？ 私の心は、娘たちへの愛で満たされ

ています。目下のところは、それ以外のことに関心がありません。本も読みたくないし、

誰かと話したくもないのです。娘のことを、私は独りで考えていたい。父に対する彼女

の愛は、信じがたいものです。こんなに小さな女の子に、こんなに強いメッターがある。

いちばん良かったのは、娘との関係が改善されたことです。私は娘と、本当に打ち解

けて話すことができる。彼女も私に対して、とても打ち解けていて誠実なのです。これ

は本当に素晴らしいことですよ。愛しており、また愛されている。彼女は考えることが

かなり成熟していて、感情的にとても安定しており、親切で現実的です。彼女は私と同

じタイプの心の持ち主ですね。私たちは、互いをとてもよく理解しています。

私は娘たちに、自分の愛の全てを与えます。それが私の、豊富に与えられるたった一

つのものですから。私は彼女たちと話し、彼女たちの言葉に耳を傾け、彼女たちととも

に笑う。娘たちと再会するのを、楽しみにしていますよ。

娘と私は、互いの意識（心）を、とてもよく理解しています。あたかもテレパシーで

コミュニケーションしているようにさえ思える。彼女は私がどう感じているかを正確に

知っており、私も彼女について同じように知っています。私たちは、互いの心を直観的

に理解しているのですね。私たちは最高に愛し合い、わかり合っている父娘になるでし

ょう。いつの日か、私たちはともに静かで安らぎに満ちた場所に住んで、私は彼女が、

自分の心を深く理解する手助けをしたいと思います。私は彼女の最高の友達。彼女には、

私の学んだあらゆることについて、私の知っていることを全て教えるつもりです。長生

きがしたいですね。長く生きて、娘と長いあいだ一緒にいられるようにしたい。彼女に

対する愛は、私が人生で経験した中で最も深い愛です。それは深い理解に根ざしている。

そこには一切の疑いやためらい、一切の留保やふり

、、

がないのです。

69

第四章：生、生きることと死ぬこと

この生において、為すべき最も大切なこととは何でしょうか？

人生全体を考えることで、自身を悩ませることのないように。自分に降りかかる

ことが予想され得る、あらゆる多様なトラブルを、思考が一度に抱きかかえてしま

うままにさせないこと。そうではなくて、毎回自分自身に、「ここにある、耐えら

れず、我慢の限界を超えたものは何だろうか？」と尋ねよう。君は告白するのが恥

ずかしくなってしまうだろうから。（マルクス・アウレリウス）

生は困難に溢れています。それでも、生を嫌わないでください。人生は、学び成長す

るための機会です。あなたは学ぶための授業を受け、そうして智慧を育ててゆく。深く

学習しなかったら、また学ぶことに戻って来なければなりません。あなたが正しい態度

と適切な見方を有している限り、経験されている全ての困難は、たいへん意義深いもの

なのです。あなたは他者が意義深い生を送れるように援助しなければならないし、あな

たを助けてくれるであろう他者も存在します。私たちには、ある程度の業（カンマ）の

繋がりがあるに違いない。私たちは、互いに助けあうことになるのです。ですから、こ

うした全ての困難を、どうか無意味だとは考えないでください。私たちは、ぐるぐる回

っていてはならない。私たちは、通過して行かなければならないのです。

人生において、物事が完璧であることは決してないでしょう。完璧であることは期待

しないほうがよい。私は完璧ではないし、決してそうなることはない。そして私は、そ

のことを期待することもしません。

私を殺してしまわないものは、私を強くしてくれる。（ニーチェ）

それに伴う全ての痛みや落胆、絶望や後悔にもかかわらず、私は生を、興味深く意義

深いものだと思います。

「傷ついた時というのは、しばしば、その傷から抜け出すと、新しい思想や新しい可

能性が浮かんでくる時である。」

「喜びというのは、悲痛の容量が増えるのと同程度だけ増えるものである。」

自分には他の全ての人たちと同じようにネガティブな側面があり、悪魔的なもの

が潜在的な形で善きにつけ悪しきにつけはたらいていて、自分はそれに無関係だと

言うことも、それなしで生きることもできない、ということを理解することは、そ

の人にとってかなりの利益である。そしてまた、自分の成し遂げたことの大部分が、

この悪魔的な衝動が生み出した葛藤そのものに結びついていることを見て取るよ

70

うになるのも、同様に有益なことだ。経験の場というのはこうしたものであって、

人生は善と悪が混ざったものであり、純粋な善などというものは存在しない。潜在

的な形で悪が存在していなければ、善もまた存在しないであろう。人生は悪を離れ

て善を為すことからなるのではなく、悪の代わりに善を為すことからなるのである。

（ロロ・メイ）

困難がなければ、人生というのは実に皮相的で退屈なものでしょう。

苦しみ、学び、成長してください。

私はたくさん苦しんできたし、いまも苦しんでいます。ただ、私は落ち着き、尊厳を

保って苦しんでいる。私は苦を人生の一部、とても重要な一部として受け取っているの

です。苦しむことがなかったら、私は何事についてもどうして学ぶことができるでしょ

う？ ただ、私は苦しんでいる時にも落ち着いたままでいる。私が深く苦しんでいると、

誰が信じてくれるでしょうね？ 私は、苦が存在すべきでないとは思いません。苦が存

在しているからには何かが間違っているのだ、とは考えないのです。苦を除去しようと

すべきだとも考えない。私は苦を克服しようとはせず、ただ苦を意義深いものにしよう

としているのです。私は苦を深く理解しようとする。抵抗はしません。鬱々としたり、

落ち着きを失ったりもしない。私がただ望んでいるのは、自分が苦と人生を理解できる

程度に賢くあるということだけです。

強い苦しみを感じるたびに、私は苦しみの対象から離れること（detachment）へと

一歩を進めます。苦が手放すことを教えてくれるのです。サムダヤ（集諦、即ち渇愛）

がドゥッカ（苦）へと導く1。なんとシンプルで、なんと真実であることか。

私たちは、たいへんな人生を送っています。だからこそ私たちは、気楽に生きている

人たちよりも多くのことを学ぶことができる。私の人生も、とてもたいへん。ともあれ

私は、人生が好きなのですよ。私は相当たくさんのことを学んできました。とても深く、

感じて、観て、学ぶことを。マインドフルであれば、苦によってあなたは物事をとても

深く観ることができるようになります。私は、気にかかることの何もない人生を生きた

いとは思いませんし、表面的に生きたいとも思いません。そうではなくて、私は人生と

苦に関して、全てのことを知りたいのです。

ほとんどの人たちが、彼らの生を、とても表面的に生きています。彼らはある社会に

生まれ、生まれついた社会の価値観を生きる。その社会に、捉えられているのですね。

自分自身の価値を創造し、それを生きようとするためには、あなたは自分が人生から何

を得たいと思っているかを、至極はっきりさせておく必要があります。自分自身の価値

（判断）を創り出したとしても、あなたはそれを精査し続け、それが現実的であるかど

うか、またそれがあなたの心にどのように影響を与えているかを、観察しなければなり

1 samudaya は「原因」の意。samudaya-sacca は「集諦」と訳され、「苦の原因に関する

真理」のこと。仏教においては一般に、苦（dukkha）の原因を無明、渇愛であるとする。

71

ません。

人生を生きるということは芸術行為です。そこに公式は存在しない。あなたは常に油

断せず、創造的でなければならない。ひとたび創造性を失ってしまえば、死んでいるの

と同じこと。生きていくことに創造性が宿るのは、実に稀なことです。人々がロボット

のように振舞っているのも不思議はありませんね！ 彼らが喜びを感じていないのも

不思議はない。

上がり下がりは誰にでもあります。大切なのは、それらを客観視することです。

一度に一瞬だけを、人生として受け取りましょう。考えすぎて、心を混乱させないこ

と。人生をありのままに受け容れ、そして、いつでも死ぬ準備もしておく。人生は厳し

いと言われます。それは働く必要のない人たちにとっても同じように厳しい。しかしそ

れでも、あなたは明るくあって、人生から多くのことを学ぶことができます。そしても

しそうしたいと思うのであれば、あなたはこの輪廻から抜け出すこともできるのです

（それは一つのメリーゴーラウンド？）。

私はドゥッカ（苦）が、全く好きではありませんよ。あなたは好きですか？ ここの

生はとてもシンプルです。そして私は、それをさらにもっとシンプルにしたいと思って

いる。

落ち着いて、待機し、忍耐強くあってください。何であれ、その時に可能なことを行

うのです。永続するものは何もありません。物事は変化する。あなたが落ち着いて明晰

であれば、おそらく良いほうに変わるでしょう。しかし、もし落ち着きを失ったり、狂

ったように走り回ったりすれば、状況を混乱させてしまうことになります。

過去に私に起こった全てのことが、私を現在の地点へと連れてきてくれました。いま

この瞬間に、私は意義深く安らぎに満ちた生を送っていますから、過去については問題

ないと感じられます。私は自分自身と全ての人を許しますし、彼らの全てが私に対して、

もしくは私のために行ったことについて感謝しています。彼らが私に対してよくしてく

れたら、私は僧侶になろうと決断しなかったかもしれない。いま私は彼らのことをずっ

とよく理解していますし、彼らのよい徳性を評価しています。

私たちは、あたかもまだ小さな男の子や女の子であるかのように傷ついてしまう。避

けられないことを受け容れるのは、心の平安のためにとても大切です。

私は人生に、たいへん感謝しています。それは私に、すごくたくさんのことを教えて

くれた。もっと多くのことを学べるように、長生きしたいと思いますよ。老年になって、

はじめて学べる種類のことは存在しますからね。

人生はとても大切なものです。私たちが自分の生を生きる仕方、人々と関係する仕方

は、私たちのダンマの実践の反映です。

あなたがどこに住んで、誰と付き合うかということは、とても重要です。ある種の場

所や人々は、心のムードを悪くする。そして、常に悪いムードでいることは、心に本当

のダメージを与え得るのです。あなたは周囲の人々から、とても微細な形で影響を受け

72

ています。

人生は、それほど悪いものではありません。時にそれは、本当に安らぎや幸福に満ち

たものであり得ます。とはいえ、もう一度やりたいとは思いませんけどね。私は、自分

自身と他者と生を、より深く理解しようと試みています。理解することが、私の人生に

おいては主要なことなのですよ。物事に対する渇望は減っていて、おかげで私の心は、

より軽くなっています。とはいえ、まだ読書に対する渇望はあるのですけどね。何か偉

大なことをしたいという望みはありません。ただ最小の痛みと最大の理解をもって、自

分の人生を生きようとしているだけです。

私は自分にできることをやっています。何事も、真面目に受け取りすぎることはない。

全て生起したものは消滅するのです。本当の意味で私が望んだように起こる物事は何も

ありません。ですから、あまり心配しすぎたり、物事が自分の望むように起こるべきだ

と求めたりはしないほうがいいのですよ。とくに他の人々に関しては――彼らには彼ら

自身の心がありますし、彼ら自身の好みがあるのですから。

私の人生には、実にたくさんのことが起こってきました。人々は物事を真面目に受け

取りすぎて、それが悩むに値しないことを知らないままに、ひどい苦しみを味わってき

ています。

あなたには、私に関しては何が起ころうと構わないのだということを、ご理解いただ

きたいのです。私は全てを手放すことができます。年をとるにつれて、死が近づいてき

ているように思えます。友人の多くが既に亡くなりました。二人は肝臓の病気で、一人

は白血病で、もう一人は心臓発作、そして他の一人は交通事故で亡くなりました。私の

母は、私の知らない原因で亡くなっています。私も死ぬ。いつ、どこで、どうやってか

はわかりませんが。全ては過ぎ去ってゆく。何事であれ、執着しすぎるほどの価値はあ

りません。

私の人生に起こった全てのことから、私は何かしらを学んでいます。そんなわけで、

いま私は、全ての経験に対して開かれているのですよ。

人生における全ての状況／経験は、それがよいものであれ悪いものであれ、学習の機

会です。

不確実性を受け入れて、それとともに生きられるということは、成熟の確かなしるし

です。私たちはしばしば、未来を確定させたがる。何事であれ、起こることは起こって

しまうのですよ。

人生について知る前に、「それはよくない」と私たちは言う。人生の生き方について

学ぶ前に、私たちはその克服の仕方を知りたがる。頭でっかちで心がなければ、人生は

無味乾燥なものになります。私はただ、あなたが自分の人生で何をしたいのかというこ

とを、あなたに知っていただきたいのですよ。人生を通じて自分が本当に幸せだと感じ

るための助けとなる何事かを、死ぬまで行ってください。

73

私は三つの宝を心に抱いている。

第一は測り知れない愛。

第二は倹約。

第三は、敢えて導こうとしないこと。（『道徳経』）2

ええ、世界は狂っています。私がそれについてできることが何かあるでしょうか？

何もありません。なぜ世界の狂気に腹を立てることで、時間とエネルギーを無駄遣いす

るのですか？

ご存知のとおり、「不正なこと」は喜びよりも多くの痛みをあなたに与えます。何が

起ころうとしているか、ずっと私は知っていましたけれども、あなたに伝えるすべがあ

りませんでした。快楽を求めるなら、あなたはそれに伴う痛みも受け入れなくてはなり

ません。痛みを欲さないのであれば、快楽を追うのをおやめなさい。煩悩は人生を複雑

にします。貪りと渇望と執着がなければ、あなたはシンプルな生を送ることができる。

僧侶になれと言うつもりはありません。それがあなたにとって、厳しすぎることは知っ

ています。ただ、少なくともあなたは、シンプルに生きる俗人であることはできる。あ

なたの中には、葛藤する渇望がある。二つの干し草のあいだで動けなくなっている、こ

とわざのロバのようなものです3。まず何よりも、自分の心を深く理解してください。

あなたは自分の人生を、どのように生きたいと思っていますか？ あなたは人生におい

て、何に最も価値を置きたいと思っていますか？

何事においても、満足というものは全く存在しない。それでも私たちは、「もし……

なら、私は幸せだろうに」と考えるのです。満足を求めるということは、痛みを求める

ということです。このことを深く理解することで、私たちは手放すことを学ぶことがで

きる。心理学的な説明は全て結構なものですよ（私は心理学の本を読むのが好きです）。

しかし、その読書が私たちの執着や伴っているものを直視し、それを手放すことに導く

のでない限り、それは平安には繋がりません。平安が欠けているならば、私たちはまだ

混乱し不幸なのです。知的な理解は、十分なものではありません。それは説明してまた

説明し、そうして問題は積み上がってゆく――説明に終わりはないのです。

「本当に、私は知らないのです」と、あなたは何度もおっしゃった。それは本当の気

持ちだと思いますよ。本当の意味で私たちが知っていることが何かあるでしょうか？

私も、本当に知らないのです。でも、私は非常にゆっくりと前進しています。急いでは

いません。私は自分自身にも他人にも、あまり期待し過ぎてはいないのです。私は失敗

をして、その失敗から学びます。

どうしていいかわからない時や混乱している時に、あなたは本当の意味で観ることを

はじめているのです。それは新しくはじめるための機会なのですよ。不確実性というの

2 「我有三寶。持而保之。一曰。慈。ニ曰。儉。三曰。不敢爲天下先」（『老子』第六十七章）

3 “ビュリダンのロバ（Buridan’s ass）” のこと。

74

は不快なものですが、それは心を敏感で注意深い状態にもしてくれます。どうしたらい

いのか？ 考え過ぎることなく、自分の心の深いところを覗いてください。心を不確実

性に開いたままにしておくのです。あなたはいま、「わからない心」をもっている。そ

れはあなたが成長するプロセスの一部であって、あなたをまどろみから覚ましてくれる

ものなのですよ。

混乱していることで、あなたが悲しい気持ちになっていないことを願います。人生と

いうのは奇妙なものなのですよ、少なくとも私にとっては。

人生というのは変化の連続です。決定的なことも、確実なことも存在しない。私たち

は常に生きることや人と関係することの新しい仕方を実験しながら、生きるための完璧

な場所や、完璧なパートナーが存在するに違いないと考えている。自分を騙し続けてい

るのですね。その種の虚構がなかったら、どれほど恐ろしいことでしょうか！ しかし

ながら、成長してますます幻想から離れてゆくにつれて、私たちはゆっくりと、この世

界に完璧な場所は存在せず、完璧な友人も、完璧な教師も、完璧な僧侶も……、存在し

ないということに気づきます。この世界に、完璧なものは何もありません。私は完璧で

はないし、決してそうなることもない。ブッダは完璧であったと言われていますけどね。

あなたが確実に知っていることは何かありますか？ 私たちの人生が、どれほど思い

込みでいっぱいであることか。見せかけの虚構だらけです。私たちは、思い込みの上に

立っているのですよ。思い込みを全て取り除いたら、私たちが依って立てるものは何も

ありません。あなたは自分が何のために生きているのか、本当の確信がありますか？

ある？ それは何ですか？

信条、希望、思い込み。もう十分です！！ それらがなければ、心は軽くなる。そう

したものは重荷ですよ。その種のものがない時に、人は存在しているものにより注意を

払うことができるのです。

ご存知のように、何か意義のあるもののために生きていなければ、人生は無意味です。

あなたは何のために生きていますか？ 真理、愛、政治的な理想、祖国のため？ 答え

るのは難しいことがわかると思います。違いますか？

その問いに答えをお持ちなのだとしたら、例えばそれを真理としましょう、あなたの

毎日の生活は、その答えを支持してくれる何らかの証拠を示してくれていますか？ 友

よ、私たちはかくも道を失ってしまっているのです。私たちはどこにも向かっていない。

舵のない小舟のように、漂っているのです。

人々が人生を生きている仕方というのは、全く驚くべきものですよ。人生に何らの方

向も目的も意味もなく、メッター（慈愛の念）も相互理解もない。人生とは、なんと凄

まじい支離滅裂であることか！

一部の人たちは、どこへも向かうことなく、ただ漂っています。彼らには方向も目的

もない。道を失っているのです。彼らは人生を理解しておらず、人生の意味を理解して

おらず、サンサーラ（輪廻）の性質を理解していません。

75

ここにはダンマを生きて実践するための、あらゆる機会をもっている人たちがいます。

しかし、彼らは時間を無駄にしている。自分が持っているものの価値は、失うまでわか

らないのです。

私はあなたが日常生活をどのように生き、日々をどのように使っているかに興味があ

ります。あなたの生き方が、あなたのインスピレーションの源であるに違いありません

から。

U Dh. からの手紙を受け取りました。西洋で比丘（僧侶）として暮らすことの困難

を、私に伝えてくれています。瞑想ができないのだそうです。あまりにも多くのことが

周囲で起こるのだと言っている。ええ、それはわかります。

多忙にならないでください。リラックスする時間を多くとること。多忙であることに

ついて、ブッダは “Appakicco ca sallahukavutti”――多忙にならず、シンプルに生き

ること――と言っています。多忙であることは、狂気への道です。

自分自身を注意深く制限すれば、あなたは人生のより深い理解を育むことができるで

しょう。人生の理解とダンマの理解は、相補って進むものです。まず何よりも日常生活

を意義深く、正気で生きることを学んでください。

最も大切なことを行ってください。有益なことで実行可能なことはたくさんあります。

しかし、私たちは自分を制限して、最上のことを行わねばなりません。

友人の一人は、「あなたはとても才能がある」と、私に言いました。しかし、私は自

分の才能の奴隷にはなりたくない。たくさんのことを行うことが可能であっても、私は

自分を制限します。私はこれまでの生で、たくさんのことを行ってきました。しかしこ

の生では、私は意義深く生きることを学ぶつもりです。人生の意味を学ぶつもりなので

す。

自分がほとんど全てのもの（男、女、金持ち、貧乏人、教養人、権力者、等々）であ

ってきたということを、人は深く理解するべきなのです。なぜこの生でも、同じことを

しようとするのですか？

何かしらの方向や目的をもつために、私たちは人生において、ある種の理想をもつこ

とが必要です。しかしながら、理想に狂ってしまってはいけません。最高の理想という

のは、常にマインドフルであることですよ。

非現実的な自己イメージは、とても危険なものです。

まず何よりも、自分の心を深く理解してください。あなたは自分の人生を、どのよう

に生きたいと思っていますか？ あなたは人生において、何に最も価値を置きたいと思

っていますか？

「人生を可能な限りシンプルにするにはどうしたらいいですか？」。心を可能な限り

シンプルにしてください。そうすれば、人生はシンプルになります。無知と手を携えた

貪りこそが、人生をこれほど複雑にしてしまっているのです。周囲のほとんど全ての人

たちが、ひどく欲深で拙速で複雑な人生を送っている時に、シンプルに生きようとする

76

ことは、簡単なことではありません。彼らに追随しないでいるためには、優れた智慧と、

強い心が必要とされる。知らず知らずのうちに、あなたは自分が失敗者ではないことを

示すためには何をしたらいいのかと考えてしまうし、自分が成功者であることを示すこ

とができるなら、何だってやろうとしてしまうでしょう。他人が自分のことをどう思っ

ているかを考えずに生きていくことは、とても難しいのです。

あなたは自分の人生を、お金を稼いで消費することに使う必要はないのです。それが、

ほとんど全ての人たちのやっていることですけどね。

何かを買いたいと思った時は、「私は本当にそれが必要なのか？」と、自分自身に尋

ねてください。単に役に立つからという理由で、物を買ったりしないこと。役に立つも

のであれば、この世界には山のようにあるのです（役に立たないものも、山のようにあ

りますね）。自分が持っているものを、最大限に利用すること。紙は木からできている。

木々を大切にしているならば、紙を無駄遣いしないでください。

時間はたいへん貴重なものです。私たちは実に多くの時間を、本を読んだり、話をし

たり、あちらこちらへ行ったりして、単に暇つぶしのためだけに無駄遣いしている。退

屈／倦怠が大問題なのです。だから娯楽がこれほど重要になっているのですよ。心は変

化を求めている。一つの対象に留まっていられないのです。

長年のあいだ、私は哲学や比較宗教学、仏教、科学、政治学、心理学、文学、詩につ

いて読んできて、自分の人生を生きる上でのある種のガイドライン、生きる目的になる

ものを見出そうと試み、また従うべき何かしらの普遍的な公式を見つけようとしてきま

した。そして、そのように読書をするほどに、ますます私は、宗教的な理想や政治的な

理想が、人間性に対してずっと大きな害を引き起こすということを知っていったのです。

宗教的な戦争や政治的な戦争が、そのことを示していますね。実に皮肉なものですよ。

彼らは人々を幸福にすることを語っているのに、創り出しているのは不幸だし、愛を語

りながら、互いの姿を見ることも耐えられない。そして団結と統一を語りながら、代わ

りに亀裂と派閥を創り出すのです。

いま私は、自分で考えています。私が自分の人生をどう生きたいか、何のために生き

たいかを見出すのは、私の責任です。もし失敗をしたならば、その責任は私に帰属し、

他の誰を責めることもできません。私は自分の価値判断や、行う選択に確信をもつこと

はできない。私は常に注意をしておいて、己の思考が己の人生にいかなる影響を与えて

いるかを、観察しておかなければならないのです。これは簡単なことではありません。

私は高度にマインドフルであり敏感であって、かつ自身に対して絶対的に誠実である必

要があります。

自分の生き方について完全な責任を取るということは、簡単なことではありません。

ほとんどの人たちが、この責任を宗教的そして／あるいは政治的指導者に委ねているの

も、不思議なことではありませんね！――自分の幸不幸に責任を取ってくれる、誰か他

の人を求めているのですよ。

77

私は追随者ではない。もしそうだとしたら、私は自分の人生に完全な責任を取ってい

ないことになるでしょうから。指導者でもありません。もしそうだとしたら、私は他人

の責任まで取っていて、彼らから自身の責任を奪っていることになるでしょうから。私

は一人の友人であり、永遠に一人の探求者です。

私は誰に対しても何事に対しても、心を開いておきたいのですよ。どのくらい上手く

できているかはわかりませんけどね。これまで私は六年ほど、ほとんど世間と交わらな

い生活をしてきました。いま私は、より多くの人々と、自身を触れ合わせたいと思って

います。人々とともに暮らすことを学んだならば、そこからたくさんのことがわかると

思うのですよ。これは私にとって、大きな挑戦になるでしょうね。「遠ざかってしまっ

た人々は貢献することがない」。これはそのとおりです。

あなたの人生で最も優先順位の高いことを教えていただけますか？

私は何者かになろうとはしていません。ただ私の人生と私の精神、そして私の心に起

こっていることを理解するために、ベストを尽くしているだけです。

ほとんどの物事が、私にとっては重要性を失ってしまいました。私はそれらに、何も

投資してはいないのですからね。私の態度が変ったことを、理解しがたいと思う人たち

もいるかもしれません。私は彼らと彼らの問題を理解しますが、それをあまり真面目に

受け取ることはできないのです。例えば、友人のU. Dh は、彼の寺院に戒壇（シーマ

ー、結界）をつくろうとしていることについて書いてきました。私はそうしたことども

に、全く興味を失ってしまっているのです。人々が自分についてどう思うかということ

さえも気になりません――それらは単に、誰かの心を束の間よぎる思いに過ぎませんか

らね。その思いを、邪魔しようとも思いませんけれど。

自分にできることをやってください。ただ、理想に届くことは決してないということ

も覚えておくこと。完璧でないからといって、責められるいわれはありません。私自身

は、人々が自分に期待していることについて、思い煩うことが減ってきました。自分が

彼らの期待に沿えなくても、気にしないということです。自分自身について、ますます

はっきりわかってきているように感じますよ。私には私自身の価値基準があり、それに

ついて、誰かが私に同意すべきだとは思いません。自分の理解や洞察を他の人々と分か

ち合うことは、私にはできませんよ。ほとんどの人々は、伝統に縛られていますからね。

人々とぶつかり合っているのは退屈です。人々からの尊重や評価や報酬を求めるのは

牢獄ですよ。私はいい奴であるためにベストを尽くしてきました。つまり、全ての人を

幸せにしようと試みてきたわけですが、そこで私は、自分が誰かを幸せにすると、常に

それを幸せに感じない誰かが存在するということに気づいたのです！ そんなわけで、

私は全ての人を幸せにすることに失敗しました。いま私は、ただ一人だけを幸せにしよ

うと努めています。その一人とは、つまり私ですね。これさえも、常に可能というわけ

ではないのですが。

私は周囲の人々をよりよくしようと試み、世界の問題に解決策を見出そうと試みてき

78

ました。心に大きな哲学的問題を抱えていたわけです。数年前に、一人の友人が、私は

「神」ではないとわからせてくれましたよ。彼は正しかったと思います。私は世界に責

任を取れない。私は世界を担うべきではないのです。それ以来、私は世界を肩から下ろ

しました。ですからいまは、それについて為すべき何の義務も担ってはいません。私は

一日一日をシンプルに、穏やかに、「生きる歓び（joie de vivre）」とともに暮らしてい

ます。

「この浮動する世界に生きる人々のことを考えると、どこかで何かが間違っているに

違いありません」――それは、彼らの頭の中の問題だと私は思いますよ。

私にとって、ある一日はその他の日々と全く同じです。新年が来ることについて、私

は幸福でも不幸でもありません。ですから、「新年おめでとう（Happy New Year）」と

言うよりも、私は「毎日おめでとう（Happy every day）」と言いたいですね。そんな

ことが、もし可能ならばということですけど。誕生日についても同じです。誕生日に、

自分がより幸せに感じなければならない理由はわかりません。人々が、私に「誕生日お

めでとう」と言うのは構いませんけどね。

ある一日は、他の一日と同じです。時に私は、今日が何日だとか何曜日だとか何月だ

とかいうことを、忘れてしまうことがある。数週間も、カレンダーを見ないこともあり

ます。時は気づかぬうちに過ぎてゆく。日々は静かに消えてゆきます。この生も、あっ

という間に終わるでしょう。でも、心配することはありません。この先にも、生はいく

らでもありますから。ですから、ゆっくり気楽にやってください。どうしてそんなに急

ぐのですか？

この洞察は、私に大量の（心理的な）エネルギーを与えてくれます。私を油断のない

状態にしてくれるのですね。私は知られざる領域を旅する探求者です。注意散漫でいる

ことは、私にとっては受け入れがたいこと。私は常に観察を鋭くして、自分の位置を常

に確かめ、いつも自分の動きの一つ一つに注意を払い、そして常に調整を行っています。

「私には目的がありません。自分がさみしいのだと理解するのには、しばらく時間が

かかりました」。ええ、その点に関しては、あなたは孤独ではないと思いますよ。目的

がなくてさみしい人なら、何十億人と存在しています。彼らのうちのほとんどはそのこ

とに気づいておらず、残りの人は、そのことを否定するか、何か（仕事や感覚的快楽な

ど）で覆い隠していますね。

私が頼ることができて、私の孤独を理解してくれるであろう人は誰もいないというこ

とを、受け容れるのは難しい。でも、小鳥が私に言いましたよ。「人生はそうしたもの。

あらゆる過去の記憶や、あらゆる未来の心配を、心に抱えておかないように。一つ一つ

の瞬間そのものを、マインドフルに生きなさい。未来のことは、未来が何とかするだろ

うよ」。

「私は道に迷っています」と言われましたね。あなたはどこに行こうとしているので

すか？ どこにも行こうとしていないのであれば、道に迷うということはあり得ません。

79

あなたは、あなたのいるところにいるのです。ええ、冗談ですよ。あなたがどう感じて

いるのかはわかりますし、多くの人たちが同じことを言うのも聞いたことがあります。

ミャンマーの人たちでさえ、一部はそのように感じているのですよ。私たちは人生を変

えたがっている。けれど、私たちは何が欲しいのでしょうね？ お金でも名声でも権力

でもなく、何かそれらを超えたもの。一切何も欲しがらないほうが、もっとよいのでは

ありませんか？ でもそうしたら人々は、あなたにはやる気が欠けていて、祖国や人類

に、何も貢献していないと言うでしょうね。社会は私たちに何かを欲し、何かを行うよ

う要求する。さもなくば、役に立たない怠け者だというわけです。ただ静かに座って、

劇を見守るのは難しい。ただマインドフルでいることは難しいのです。

私はここで、「何もしないこと」をたくさんしています。それは素晴らしいことで、

人々はただそのためだけに、私をサポートしてくれます。文化に感謝、そしてそれを可

能にしてくれた、ブッダにも感謝ですね。

「敢えて他者に先んじないこと」。私はこれが好きですね。

人々はますます、私を賢明な僧侶であるかのように見るようになっています。私には、

それが重荷として感じられることもある。彼らは私が、時には愚かであることを許して

はくれないでしょう。誰も周りにいない時はすごくいい感じです。私は欠点がないわけ

ではないし、完璧であることを熱望してもいません。自分が愚かであることを、許して

やっている時のほうが気が楽です。よい評判というのは牢獄ですよ。

人々のことを、より深く理解しようとしてください。親切と理解をもってのみ、あな

たは人々に近づくことができるのです。さもなくば、彼らはあなたと人生を分かち合っ

てはくれない。親切でもなければ理解もしてくれず、代わりに裁いて責める人に、自己

を開示するのは危険ですからね。人々の心の内に入ることができれば、多くの人々が内

面の深いところで苦しみながらも、それを覆い隠すことを学んできたことがわかるでし

ょう。

人々に親切であってください。ただ、彼らを喜ばせようとはしないこと。天使になろ

うとはしないでください。まともな人間であるだけで十分にたいへんなのです。いい人

であり過ぎるということは、最終的には、人に厳しくなり過ぎるということであるかも

しれません。

私はいつも、人々に自分の限界を告げています。たとえそれが、ダンマに関すること

であってもです。私たちが限界を設けているから、ここは静かで穏やかなのですよ。人々

は毎日訪ねて来たがりますが、私たちは、「だめです！ ごめんなさい」と言うのです。

結局、自分が何をしたいのかということは、あなたが決めなくてはならないのです。

誰もあなたのために、あなたの為すべきことを決めることはできません。あなたは私の

人生を生きることができないし、私はあなたの人生を生きることができません。大人で

あるということは、たいへんなことですよ。私たちは、誰にも頼ることはできません。

自身に依ることが最上なのです。

80

どの人もどの場所も、完璧ではありません。完璧な場所や完璧なコミュニティ、ある

いは完璧な先生は、どこにも見つけることができないのです。

私は多くの人々を知っていますけれども、U I. を除けば安らぎに満ちた人に会った

ことはありません。彼は教養人ではありませんが、安らぎに満ちた生を送るためには、

どうしたらいいかを知っているのです。

私たちは全てを知っているわけではない。だから時には失敗をすることもある。過去

に自分の行なった誤った行為について、私たちは残りの人生を通じて罪悪感を抱えたま

までいるべきだとは、私は思いません。

自分自身を許して下さい。自分が新しい人間になるのを許すこと。

私たちは、自分自身をあれやこれやの種類の人間であると確認する。私たちを知って

いる他の人たちも、私たちのことを、これこれの種類の人間であると確認します。しか

しながら、あなたが何者であるかということは、常に変化していますね。あなたは、十

年前のあなたと同じ人間ではない。かなり変ってしまっています。あなたは常に変化し

ているのです。自身が変化し、別の人間になることを許して下さい。

人生は一つの実験であり、一つの冒険です。それは危険を伴うもの。リスクは取りつ

つも、決断は静かな心からやって来ることは忘れないでください。

若い頃は、人生は数学の公式のようなものだと思っていました。年をとったいまは、

人生は一つの詩のようなものだと見ています。

私は自分の人生を、耐えられるものにするためにベストを尽くしています。私は時に

至福のうちにあるけれども、時には絶望のうちにある。

あなたは私にドゥッカ（苦）があるとはお考えにならないでしょう。私の人生が、終

わりのない至福だとお考えですか？ 苦中の苦ですよ。種類は違う苦ですけれど、それ

でもやはり苦ではあります。私はそれに耐え、それに取り組んでいる。私は対価を支払

わなければならないのです。私は苦しんでいるけれど、愚痴を言うことはありません。

私は自分の苦、落ち着いて観察された苦に、値する存在でありたいのです。

本当に満たされている生に、広告は要りません。あなたの生が本当に満たされている

のなら、それを証明する必要は感じないということです。

「ここアメリカで道に迷ってしまうことはとてもたやすい。忙しさに迷い、信じがた

いほどの娯楽と情報の洪水に迷う……様々に気を散らすものの中で、迷ってしまうので

す」と、あなたは言われましたね。正しいと思いますし、私はそのことを、とても危険

だと思います。忙しい人生というのは表面的な人生ですよ。忙しすぎたら、自分の感覚

や思考を理解するための時間すらなくなってしまう。私の父はビジネスマンでした。と

ても多忙だった。彼は私たち、つまり彼の子供たちにとって、よくわからない人のまま

亡くなりました。私は彼の精神的、感情的、心理学的な人生について何も知りません。

彼はワーカホリックだった。だから私は、多忙にはなるまいと決めたのです。私の知っ

ている懸命な人たち、賢明な物書きや詩人たちのほとんどは、多忙ではない／なかった。

81

彼らは静かで穏やかな人生を生きています／いました。彼らは自分の認知度や名前、名

声や金や贅沢などを気にかけない。人々が成功と称しているものは実に表面的です。

もちろん、生活のためには稼がなくてはなりません。しかし、自分の時間の全てを使

って狂人のように駆けまわり、本質的でないことをやたらとたくさん行うのは狂ってい

ます。自分自身について知ることすらなく、深く内面を見る時間もない。常に外側ばか

りを見つめていて、そのほうがより重要だと考えているか、もしくは外面を見るのが習

慣になってしまっているからです。すごく愛していると自分で言っている人のことを、

知ることさえもありません。

アメリカの男性たちのあいだで抱かれている不適応の感覚について、あなたがおっし

ゃったことはわかります。私自身も、アメリカにいた時にそのことには気づいていまし

た。この（いわば）病は、ミャンマーの発展途上地域に住む部族の人たちのあいだには

ほとんど見られません。裕福な家庭出身のミャンマー人は、同じ問題を抱えていますね。

思うにその原因は、人々が彼らにあまりにも期待をし過ぎていて、また成功のモデルが

あまりにも固定的で狭く、物質的でステレオタイプで、またつまらないからでしょう。

あたかも全ての人に適用される、唯一の正しいモデルが存在するかのようなのです。あ

なたの人生は、あなた自身のやり方で生きてください。あなたのことを本当の意味で気

にしている人なんて、そもそも存在するでしょうか？

気楽に行きましょう。究極的には、重要なことなんて何もないのです。

この不完全な世界で安らかに生きることを、あなたが学ばれることを願っています。

八月五日に、満三十九歳になりました。ミャンマーの数え方だと、四十歳の年になり

ますね。髪はとくに側面が、灰色になりつつあります。また頭頂のほうは薄くなりつつ

ありますね。老齢の確かなしるしですよ！ そこから逃れることはできません。若い頃

には、老いるということがまるで非現実的に感じられましたけどね。あっという間に、

私は死ぬでしょう。しかし、それは構わないと感じています。

死ぬということの、何が問題なのでしょう？ それは生の非常に重要で不可欠な部分

です。死ななかったら、恐ろしいことでしょうね。

もう四十年生きたら、自分の心に何が起こるだろうかと考えます。いまの自分と同じ

くらい愚かかもしれないし、あるいは……。ええ、私も年を取っています。多くの髪を

失い、残ったのは頭頂の禿と白髪だけ。あっという間に私は死ぬ。いまは背中に断続的

な痛みがあり、指の関節も痛みます。関節炎でしょうか？ それも人生の一部です。不

満はありません。残りの人生を、私は自分のやり方で、本当の意味で精一杯生きてゆき

たいと思います。その後のことは、わかりません。

私は年老いつつある。それは疑いありません。私が言いたいのは、いま自分は年を取

っていて、そのことを、私は自分の人生の生き方を通じて本当に感じ取ることができる

ということです。

私はただ人々のことを見たり聞いたりしているだけではありません。私は彼らのこと

82

を、心で感じています。彼らがどれほど暖かいか冷たいか、柔らかいか硬いかを、私は

知っている。彼らのことを嗅いでもいます――彼らが綺麗かそうでないか、ふり

、、

をして

いるかそうでないかも知っていますよ。

年を取ることのよい面は、心がより成熟し、より執着から離れてきていることですね。

ドゥッカ（悩み）に値するものは何もないということを、私は知っている。私には住む

場所があり、十分な衣服がある。毎日、十分な食べ物も得ています。体調も悪くない。

私は十分なだけ持っていて、そのことを知ってもいる。よい友人も何人かいます。一日

中、瞑想することもできる。忙しいことは全くありません。それで、あなたは私の生き

方を羨ましいと思いますか？ 私は問題なくやっています。老いは深まっていますけど

ね。自己のイメージに執着することが少なくなって、何者でもないことを楽しんでいる。

深夜

冬の雨の音を聞く

若い時分を思い起こす―

あれはただの夢だったのか？

本当に若かったことがあったのだろうか？（良寛）4

もうすぐに、あなたも自分自身に、同じことを問うようになるでしょう。

いま私は、自分の親切心をより表に出すようになっています。まるでこの老僧の心が、

老境にあってより大きく成長してきているかのよう。心肥大――病気ではありません

よ！ とはいえ、私には全ての人を愛することはできません。愛している人たちのこと

は、本当に深く愛しています。私が心から愛している人たちはたくさんいて、中にはそ

れを感じている人たちもいます。

自然な死を迎えることは構いません。大切なことは、いかにして安らぎに満ちた意義

深い生を送るのかということです。死ぬことは構わないのですが、苦しみたくはないで

すね。私たちは全て、いつかは死ななければならない。それはいまかもしれません。私

たちが全員死ぬということは、百％確実です。そのことを理解して、私たちは本当に賢

明に生きなければならないし、どうでもいいことを行ったり、重要でないことを考えた

り心配したりして、時間とエネルギーを浪費してはならないのです。

死ぬことは、それほど悪いことではありません。実際に大変なのは、死ぬ際の痛みの

ほうです。執着ゆえに、私たちは死を悪いものだと考える。死ぬ時には、自分にとって

愛しいものを、全て置いていくことになりますからね。いかにして安らぎに満ちた生を

送るかということを学んでこなかった人は、人生からあまり多くのものを学んでこなか

ったのです。人生を通じて死を否定し続けて生きることは、未成熟な心の確かなしるし

です。否定できないことは、受け容れたほうがよいのですよ。

4 出典未詳。「いにしへを思へば夢かうつつかも夜は時雨の雨を聴きつつ」か？

83

はい、私は死についてしょっちゅう深く考えます。私は死にかけたことが二回ある。

その観点から生を見ると、私たちが時間を無駄遣いしていることは実に明らかです――

愚かにも地位や所有や賞賛や承認を追い求めて、「もう十分」ということが決してない。

私は死を間近に見たことがある。しかし、それがどんなふうであったか、他人に語るこ

となんてできるでしょうか？ 自分が全てを失いつつあり、それを構わないと感じた時、

私は全てを手放しました。そこで私は、自分の持っている最も貴重なものが、生の深い

理解であることを知るのです。ええ、いつかあなたに、このことに関する全てをお話し

しましょう。

私はなかなかよくやっていますよ。ただ年齢を重ねつつ、自分の失敗から学んでいま

す。私は安らぎに満ちた生を送るために、ベストを尽くしているのです。

執着が苦に繋がるということを、私は繰り返し見てきました。この法則が外れること

はありません。執着には注意してください。欲望はあなたに、それが満たされれば幸せ

になるだろうと信じこませる。しかし、欲望を満たすことに終わりはないのです。私た

ちは、いつか自分が幸せになるだろうと考えている。いつか、いつか……、そして、そ

の「いつか」は常に繰り延べられるのです。「私は（いま）幸せである」と言えるなら

ば、あなたは幸運ですよ。

気づきと智慧を保っているなら、年を取ることもそう悪くはありません。健康には気

をつけてください。疲れる前に休むこと。長く健康な生を送れるように、どうか身体は

大切にしてください。互いに年を取った時、私たちにはもっとたくさん、分かち合える

ものがあるでしょう。年を取るにつれて、私たちがますます打ち解けて、フレンドリー

になっていくよう願っています。本当の分かち合いと思いやりですね。私は人生にとて

も感謝していますよ。それは私に、実にたくさんのことを教えてくれました。もっと学

べるように、長生きしたいと思います。老境に入って、初めて学べる種類のこともあり

ますから。

人々には、為すべきことがあまりにたくさんありすぎるので、ほとんどの場合、彼ら

は死人のことは忘れます。

私たちは、自分たちが重要だと思う。それは妄想です。

私たちは、人々のためにしてあげたことを彼らが覚えていてくれるだろうという期待

をすることなしに、自分にできることをするべきです。

私たちは、他者の人生の中で重要な位置を占めたいと思う。他者の人生において、な

くてはならない存在だと感じ（信じ）たいのですね。

あなたは、人々に親切にしようと頑張りすぎる。

あなたは、他人の実践のことを気にかけすぎる。それをし続けている限り、心が安ら

かになることはないでしょう。

「他者に愚かである自由を与えるということは、スピリチュアルに成長するための、

最も重要で困難なステップのうちの一つです」。そのとおりですね。

84

何であれ自分の行いを、気遣いと注意をもって行ってください。少しのことを、丁寧

にやるほうがよいのです。

純粋な動機というのは稀です（それはほとんど不可能ですね）。

私たちが自身の利己的な動機を否定すればするほど、より大きな害を、私たちは無私

の犠牲の名の下に、自身や他者へと及ぼすことになります。

闇を否定するということは、危険を否定するということ。

承認は明るみに出し、

否定は闇に閉ざす。（説者不明）

しばらくのあいだであれば、私たちはふり

、、

をすることができる。しかし、真実は時々

顔を見せるのです。

85

第五章：学ぶことと教えること

関係性や経済的な安定、「誰か私の面倒を見てくれる人」、あるいは誰かに求められる

ことを渇望することにより、あなたは盲目になります。

あなたの反応が、あなたを燃え尽きさせてしまう。観察して手放してください。反応

しなくなったことで、私の人生はましになりました。ずっと忍耐をしてきたのですよ。

あまりにも早く結果を得ようとすることは、進歩の過程を妨げることがあり得ます。

正しいことを行って、忍耐強く待ってください。私は今年ずいぶん変ったと言いました

ね。それは、もう結果についてはあまり真面目に考えなくなったからです。

自分が孤独であることを受け容れることができ、そして自らの足で立つことができる

までは、健康で意義深い関係を他者と結ぶことはできません。依存的で搾取的で操作的

な関係は、意義深いものではなく、長続きもし得ません。よい人間関係というものは、

たとえ家族のあいだであっても非常に稀です。

私たちは、何が善いことかを自分が知っていると思っており、そして何が善いことで

あるかを自分が知っていると思うから、私たちは自分を善いと思うことができるのです。

自分がどれほど悪いかを知らない限り、私たちは現実的にはなれません。あなたは常に

マインドフルでいますか？ ほとんどの時間を、あなたは「人々がどれほど悪いか」を

考えることに使っているのです。

私は苦を意義深いものにします。

私は自分の生の理解が、より現実的なものになってきていることを嬉しく思います。

私たちはみな、多かれ少なかれ理想主義的なのです。

あなたは辛い思いをしている。そして自分の辛い思いを表現することができないから、

あなたは抑うつ状態になるのです。

ほとんど全ての人々は、何かしらの形で自己評価、つまり自分が人として重要だ

という感覚を、形成し、あるいは守っています。

善性というのは私たちに要求をするものだし、人々がシンプルに善を愛するとい

うナイーヴな信条は、私たちが最初に抱く幻想の一つです。

加えて言えば、無垢というのは無力であることの条件である。無垢について議論

する際の問題の一つは、この無力であることが無垢な人によってどれほど利用され

ているのかという、その程度を確定することに存するでしょう。問題は、「無垢で

あることは生きるための戦略として、どこまで利用されているのか？」ということ

です。（ロロ・メイ）

私は無垢ではありません。即ち、私は自分が善でもあり悪でもあることを知っている。

私はあまりにも長い期間、あまりにもたくさんの人たちと話してきました。それで私の

86

心の速度は上がっている――速く考え、速く喋っているのです。この速度は実によくな

い。おかげで私は、落ち着きを失ってしまうのです。

しかし、いま私はこの場所にいる。ここは静かで安らぎに満ちています。私は自分の

心の深みにある静けさと繋がらなければならない。世俗の物事をあまりに気にかけすぎ

てしまうと、人生の本当に意味に対する関心は減ってしまいます。私は何のために生き

ているのか？

独りでいることは私にとって、自分の内奥の存在と繋がるために不可欠です。自分自

身と繋がることがなかったら、どうして他者と繋がることができるでしょう？ 自分自

身と繋がらずにいることが、他者と繋がらないことの原因になっているのであって、そ

れがほとんどの人がさみしく感じている理由です。

公人というのは多くの時間を人と接するために割かなければならないものであ

るが、それでも彼は、隠れることを学ばなければならない。いつでも人と接する状

態でいるならば、彼は接することができてもそうするに値しない人になってしまう

だろう。（エルトン・トゥルーブラッド）

今日はいい天気です。木々の丈は高くなっていて、ここはすっかり陰になっている。

竹林にはたくさんの、大きく、健康で、美しい芽が出ています。彼らの成長は速い。す

ごく力があるのです。成長するための力をもっている。

鳥たちが歌っています。遠くの木々から、鳩がクークー鳴くのが聞こえる。小鳥たち

はチーチーとさえずり、別の鳥は実に甘い口笛のような音を立てる。彼らはとても陽気

ですよ。そして木々のあいだを渡る風――これが心を落ち着かせてくれるのです。美し

い蝶が一匹、ひらひらと飛び回っています。

クラシック音楽は好きですか？ 若い頃には、たくさんのクラシック音楽を聴きまし

たよ。そのうちのいくらかは、まだ覚えています。こんなクラシック音楽に関すること

を言われるなんて、変な感じがするかもしれませんね。モーツァルト、ショパン、シュ

ーベルト、シュトラウス、ベートーヴェン、ラフマニノフ、等々。いい録音のものを手

に入れてください。音楽というのは一種の言葉です。実に詩的で深みがある。ショパン

のノクターンが手に入るなら、聴いてみてください。人生に関する全てを、教えてくれ

ると思います。

選り好みをしない人たちにとって

偉大な道は困難なものではない。

愛することと憎むことがともになくなれば

全てが明々白々なのだ。（僧璨）1

1 「至道無難。唯嫌揀擇。但莫憎愛。洞然明白。」（『信心銘』）

87

思考は山ほど問題をつくるけれども

しかしそれは、いつも問題を解決しようともする。

想像上の問題と、想像上の解決策が

連鎖して終わることがない。

ただある

、、

ということができれば

そこに問題は存在しない。

「なる」ことを欲した時に、

そこに問題が生起する。

ただ「ある」ということが、

どうしてこんなにも難しいのか？

「なる」ということが

どうしてこんなに大切に思えるのか？

そう、それは私たちが

「なる」ことがよりよいと考えるから。

ただ「ある」ということに、

私たちは腰を落ち着けることが決してできない。

だから私たちは、いつまでも家なき子です。

家なき子だから、私たちは家を探す。

しかし、私たちは間違った場所で家を探しているのです。

家というのは「ある」ことであって

「なる」ことではありません。

登っては下り

ぐるぐると回る。

マインドフルでなくなればなくなるほど

ますますあなたは混乱してしまいます。（サヤドー・ウ・ジョーティカ）

ユングの『思い出、夢、思想』を、また読んでいます。この本については、いちど手

紙をくださったことがありましたね。本書の33〜4 頁、そして44〜5 頁を、お読みに

なっていただければと思います。私もまた、二人の異なった人間であるという感覚を、

非常に強くもっています。かなり幼い頃から、それを感じていましたよ。両親は私の身

体を産んでくれましたけど、私は両親よりも、ずっと、ずっと年老いている。私はT.T.

にこのことを話しました。そうしないと、彼女は私のことを理解できなかったでしょう

からね。はじめ私には、自分がある種のことをなぜ行うのかわかりませんでした。「年

長の私」に気づいた時に、それがわかるようになったのです。「年長の私」は、人生が

とても短いことを知っている。そのあいだに為されるべき物事があるということです。

88

深く理解することは、「安いスリル」よりもずっと満足のいくことです。意義深い人生

を生きることが、最も大切なのですよ。

私は娘たちを教育するつもりでいます。教育するというのは、彼女たちに、人生、心、

関係性、コミュニケーション、正しい態度、意味、成熟、苦しい努力、そして何よりも、

自分自身の心に気づいていること（マインドフルネス）を、教えるということです。

T.T. は、とても上手に自分の心を観察していますよ。だから彼女の人生は、どんどん

よくなってきています。私たちはとてもよい友達ですよ。S.S.もまた、ますます自分の

感情と感覚に気づくようになってきています。彼女も「ボディ・スキャン」2をやって

いますね。

心の中の、解決されていないこと全てに対して忍耐強く接し、それらが鍵のかか

った部屋か、もしくは全く知らない外国語で書かれた本であるかのように、問い自

体を愛そうと試みるよう、あなたにはできる限りお願いしたいと思います。いまは

与えられ得ない答えを、探そうとはしないでください。そうしたら、あなたは答え

を生きることができなくなるでしょうから。大切なことは、全てとともに生きるこ

とです。いまは問いを生きてください。そうしたらおそらく、いつか遠い未来に、

あなたはそれに気づきさえすることなく、答えの内を、己の仕方で生きていること

でしょう。（ライナー・マリア・リルケ）

美しい一節じゃありませんか？ 実に微妙で実に深い。

何事を為すのであっても、正しい態度はとても大切です。正しい態度とは何であるか

を、見出そうとしてください。

結果にあまりこだわりすぎずに、正しいことを行うこと。

私はどうしようもなく永遠に、一人の学生なのです。私が教師になることは決してな

い。ただ、自分の学んだことを分かち合うことには積極的ですが、それは教えることと

同じではありません。

竹の子は健康によくないと言われましたね。おっしゃるとおりだと思います。だから

私は、竹の子を避けています。それは（少なくとも私にとっては）健康によくないと、

私は判断した。とはいえ、竹の子を非難することはしません。竹の子を憎んではいない

し、好きだけれども、私は竹の子を避ける。彼らに欠点があるとは思わないのです。私

は友人たちに、竹の子は消化がしにくくて、胃腸の弱い人たちには合わない、というこ

とを言いました。

一部の宗教的指導者や教師たちは、知的な誠実さを欠いています。彼らは他者を、自

分たちの宗教へと改宗させたがっている。彼らは自分自身が実践していなかったり、信

仰していなかったりする物事を教えていて、あらゆる問いに対しては、全て答えを持っ

2 身体の感覚を頭頂から爪先まで感じていくウィパッサナーの一種。

89

ているかのようなふりをしている。絶対的な誠実さがなかったら、ありのままが見える

ことはあり得ません。不誠実は心を曇らせてしまう。私はグルやら老師やらが見せるシ

ョーには幻滅しました。それは職業、つまり生活の手段の一つになってしまっている。

誰であれ他者を回心させることに熱心な人は、やっかい者になり、嘘つきになってし

まう。弟子を欲しがる人たちは、誰であれ俳優であり、つまりショービジネスの中の人

です。世界は大きなショーの興行を行いたがっている、グルたちで溢れています。

旅をしなくても行ける場所があるでしょうか？ そんな場所をつくることはできま

すか？

ほとんどのグル／教師たちの教授の技やアプローチにも、だいぶフラストレーション

が溜まっています――みんな頭で考えたことで、本からの知識でいっぱいなのです。

人々を回心させることを、あまりに求め過ぎている！

ダンマというのは、あなたの人生を生きることのうちにあるのであって、書物の中に

あるのではありません。あなたの人生、つまりこの瞬間のあなたの経験を理解していな

いのなら、どれほど大量の書物の知識をもっていようと、あなたはダンマを理解してい

ないのです。人生を理解することなしにダンマについて語るのは、単なる知的なゲーム

です。

一部の人たちは、物事の仕組みに関する全ての理論を知ったならば、それで全てのこ

とがよくわかると思っています。なんと真実から遠い話か。

どんな理論も自然の仕組みを説明することなんてできません。あらゆる理論的な説明

は、断片的なものです。

ダンマの実践に関する私の理解は、ほとんどの教師たちと大きく異なっていますから、

彼らと一緒にやっていくことは、私にとっては難しいのです。どのサヤドーとも、本当

に心を開いて語ることは、私にはできません。同じ理由で、誰か他の人のために通訳を

することも、私にとっては難しいです。私は独りで立っている。自分の実践が深まれば

深まるほど、ますます私には、自分と他の僧侶たちとの距離が開いていくのがわかるの

です。時にはもう実践については全く語りたくなくなることがありますよ。私は教師に

なることは決してないでしょうし、自分としては、それでよいと思っています。私は救

世主ではありませんが、ただ数人の友人たちのためであれば、助けになれることもある

かも知れない。

自分の頭で考えず、書物によって語り、疑いをもたず、本に書いてあることは全て信

じるような人と話すのは退屈です。ただ話すことでさえ……退屈ですね。彼はいい人で、

とても無垢ではあるのですけど。私は無垢であることを、失ってしまいました。

地図を見る人は、実際の景色とはずいぶん違う観念を思い浮かべます。地図というの

は有益なものです。それがなければ、あなたは道に迷ってしまう。とはいえ、あなたは

実際に旅をして、地図の中にある場所が本当にはどのようであるかを知るための探求を

しなければならないし、そうしてみると、両者は関連してはいるものの、ずいぶんと違

90

って見えるのです。

教師になるための準備としていちばんよいのは、ダンマに関する自分の理解を深める

ことだと私は思います。ダンマへの深い関心をもっていれば、発見を続けるための十分

な推進力を得ることができるし、しばらく休むということも決してありません。底の硬

い岩盤にたどり着くまで、決して満足することはないでしょう。ご存知のように、サー

サナ（ブッダの与えたもの、仏教）が衰微する理由の一つは、行学ともに未熟な教師が、

ダンマを教えることなのです。

あまりに急いで教師になろうとし過ぎることは、実践の上での大きな障害になり得ま

す。教師になりたいのであれば、あなたは創造的であらねばならない。事実を学んで、

それをただ伝えるだけでは十分ではない。あなたは人々と、彼らの人生、彼らの問題、

彼らのキャパシティや性向を理解し、その上で彼らが理解できるような仕方で話して、

そうしてはじめて、相手と関係を結ぶことができるのです。彼らが自分の問題をダンマ

的な（dhammic）観点から理解できるように助けてあげてください。彼らが自分の人

生、自分の経験の内にある現実の本当の性質を観察できるように、彼らをゆっくりと導

いてあげるのです。そのことができるようになるためには、あなたは自分の人生と自分

の経験、自分の問題、痛み、幸せ、喜び、希望、つまり実際のところは自分の人生のす

べての側面を、まずは理解しなければなりません。そんなわけで、まずは自分自身を理

解しましょう。それから他者を助けるのです。

あなたはまた、ダンマが普遍的なものであることも理解しなければならない。それは

決して、時代遅れになることはありません。それは全ての文化に適合するものです。

多くの西洋の教師たちが、より多くの人々の心に届くためにと、彼らの生き方に合わ

せて、ダンマを歪めていることを私は耳にしてきています。歪んだダンマというのは、

全くダンマではありません。彼らは真実を生きる十分な勇気がないか、あるいは健全な

意識と不健全な意識のことを、理解していないのです。そんなわけで、真実を受け入れ、

真実を観察し、真実を実践して真実を語るためには、たくさんの勇気が必要です。真実

を教えるか、そうでないならむしろ何も教えずにいたいですよ。優柔不断な教えは駄目

です。しかし、まず私は自分自身にとっての真実を観て、それを生きなければなりませ

んね。

真理は相対的なものではない。普遍的な真理というものが存在します。

本当の無常（anicca）というのは、日常意識のレベルを超えたものです。新聞で何か

を読んで無常を理解するというのは知的な話。無常を本当に観察した時、それはあなた

が直接の現在において経験しているものなのです。そこに思考はありません。手紙で全

てを書くのは難しいですね――言わなければならないことはたくさんあるのに、紙幅は

実に少ないですから。

私の語ってきたことがあなたにとって意義深いなら、私としては満足です。私は売り

物ではない。私は買われたり雇われたりはしたくありません。私は人や組織のために、

91

働く従業員ではありたくない。私は自由に活動する人間でありたいのです。これをプラ

イドであるとは思いません。これは私の自尊心です。

アメリカでカウンセリングを行ったことで、一部の人たちが私をどのように判断し、

どのように語ったかは覚えています。私は高校時代からカウンセリングをやっていまし

たよ。より多くの知識と智慧をもてばもつほど、よりよいカウンセラーになれるのだと

私は思います。その人がカウンセリングの天分をもっているのでない限り、彼をカウン

セラーにならせることはできません。それは芸術家であることに似ていますね。人々と

人生とその問題に、深い関心をもっている場合にのみ、あなたはよいカウンセラーにな

ることができるでしょう。

ダンマの教師とよいカウンセラーのあいだに、どんな違いがあるでしょう？ そこに

大きな違いはないと、私は思います。ともに同じ人間の問題に取り組んでいますからね。

よいダンマの教師は、よいカウンセラーでもある。ブッダは最高のカウンセラーであっ

たと、私は理解しています。友よ、どう思いますか？

人生に対する断片的なアプローチや特殊化されたアプローチは、上手くゆきません。

必要とされているのは、全体的な理解です。身体においては、全ての部分が、他の全て

の部分と連関している。人生についても同じことです。あなたの人生の全ての側面は、

他の全ての側面と連関している。あなたの人生の、経済的、感情的、知的、社会的、そ

して霊的な側面は、全て連関しているのです。それらを分けておくことはできません。

分けておこうとしていたら、あなたの人生は満たされないものになるでしょう。そこに

は調和がなくて代わりに葛藤がある――分裂です。麻痺ですね。

何であれ自分が本当にはやりたくないことはしないでください。私たちは自分が本当

にはやりたくない物事をすることに、大量の時間を浪費してきました。義務のため、誰

かを喜ばせるため、「アーナーデー」（申し訳ないと思う）から――もう十分です！

私は年老いつつある。あなたもです。無駄遣いする時間はありません。

人々の迷信と愚かさを理解するということは、私の教育的経験の一部です。とはいえ、

他人の欠点について考えることで腹を立てていようと思うなら、残りの人生全てをそう

し続けていられることは確実です。それは実に簡単なこと。では、私はそうしたいのか？

それが問題です。その時の私にとって、それは重大な問題でした。ドーサ（反感）とい

うのは辛いものです。

人々の愚かさについて語ることに、あまり多くの時間を無駄遣いしないようにしまし

ょう。そして、自分の煩悩に、よりマインドフルでありましょう。

世界を変えようと期待しないこと。盲目的な衝動は、盲目的な行為に繋がります。

私たちは人々が宗教的である（因習的で心を閉ざしている）と腹を立てますし、人々

があまりにも懐疑的であっても（これも心の閉ざし方の一つの形です）腹を立てます。

彼らは気づきの実践（マインドフルネス）を試してみようとさえしない。人々が、私た

ちがちょうど望んでいるようなあり方になるのはいつのことでしょう？

92

私自身の限界を観察すること。私にとって、自分がどこに固着しているかを観察して、

そこから身を離すのは大変なことです。「人々は固着している」と、あなたは言われる。

自分がどこに固着しているかを明らかに観察した時に、はじめてそこから身を離す可能

性が生じるのです。

人々は、自分が何をやっているのかを知っているかのように振る舞っている。彼らは

本当に、自分が何をやっているのかを知っているでしょうか？

自己欺瞞。時にそれはあまりに完璧すぎて、自分がそうしていることすら知らずにい

ることがあり得ます。自分自身を守るために、あなたは自分の弱点に盲目になるのです。

私たちは、自分を幸せにするために自分を騙す。自分の弱点を見ることは、時には辛い

ことなのです。そうするためには、多くの勇気と誠実さ、そしてマインドフルネスが必

要です。

ご存知のとおり、私は心理療法に深い関心をもっています。それがどれほどの助けに

なるかということを知っていますからね。よいセラピストであり、同時に気づきの瞑想

のよい実践者でもあるような人は、大きな助けになるものです。彼／彼女は、人が自分

の「荷物」に気づくのを助けてくれます。

ご存知のとおり、私は人々に深い関心をもっています。私は二十年近く、カウンセリ

ングをやってきました。これは私の本性ですね。職業ではありません。西洋諸国におけ

る心理学的な問題に関しては、たくさんの本を読んできました。私が全ての問題を解決

できると言うつもりはありませんが、それらを理解することはできます。理解する意志

をもっているのですね。それぞれ異なった問題を抱えている多くの人たちと私は関わっ

てきて、彼らが自分自身を理解する手助けをしてきました。

あなたには優れた徳性がたくさんあります。しなければならない唯一のことは、それ

らを育てることですよ。ダンマを理論的に理解し、実践もすれば、あなたは多くの人々

を助けることができ、同時に自分の人生をより意義深く生産的にすることもできるでし

ょう。表現すべき何かを抱えているけれども、それができなかったと感じていません

か？ あたかも、宝物庫をもっているのに鍵は見つけられなかったかのように？

自分自身と自分の生き方を本当に肯定できている時、はじめてあなたは、本当に他者

を助けることができるのです。ですから、自分の心と深く繋がることが、とても大切な

のですよ。心の中の物事を非常にはっきりと観察した時、はじめてあなたは、自分自身

と調和して生きる道を見出せます。内的な調和があるなら、何でも行って構いません。

人を助けても構いませんし、あるいはただ何もせずにいてもよいのです。

人を助けてダンマを西洋にもたらす旅には、どうか乗り出さないようにしてください。

まずは自分自身に安らいでいることです。自分の限界と煩悩を理解すること。自分が平

穏で意義深く生きることを学んだ上で、それから他者が同じように生きられるよう助け

ることを考えてください。

他者のことや人助け、西洋におけるダンマや、また西洋におけるダンマの毀損を気に

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かけ過ぎることは、自分自身の無意味な存在から逃避するための、一つの通路になり得

ます。

誰であれ仏教をアメリカに移植しようとしている人たちは、これまでのところ仏教を

あまりよく理解してきていません。種を手に取り、それを新しい大地で育てていかなけ

ればならないのです。

思うに、人（東洋人であれ西洋人であれ）の行うべき最も大切なことは、マインドフ

ルである上に、さらにもっとマインドフルであることです。西洋においてダンマがいか

なる形をとるべきかということは、マインドフルネスに決めさせましょう。

ダンマは人生において学ばれるべきものであって、学校やリトリート（瞑想合宿）で

学ばれるべきものではありません。リトリートというのは速習講座ですよ。

何もせずにいて、そのことを幸せに感じることは可能でしょうか？ 私はその問いの

答えを探そうとしています。

何もしないでいることは、簡単なことではありません。人生における主要なことが為

すことであるアメリカにおいてはとくにそうです。近しく親しい人たちからのサポート

がなかったら、安らぎに満ちた場所で生活して、ただ瞑想していることは困難であるに

違いありません。それをするためには、たいへん強い心が必要とされる。しかし、もし

それが自分のしたいことであると確信できるなら、他人がそれについてどう考えるかと

いうことは忘れてしまいなさい。ただ前進して実行するのです。ブッダはそうしました。

もし／いつかあなたが安らぎに満ちた家を見出すことができたなら、そのことを伝えて

ください。

あなたに瞑想する時間があるとわかって嬉しいです。アメリカのような国では、人々

は実に多くのことを行い得ますし、気を散らすものも実にたくさんありますから、瞑想

することは簡単ではありません。人はあれやこれやのことを行っているうちに年を取り、

何事にも本当の満足を見出すことができないのです。

私はただの、ぶらぶらしている人間です。

私は多忙になりたくありません。多忙であることは、無駄の多い生き方です。多忙で

ある時は、状況にあまりにも巻き込まれてしまうので、自分の心に何が起こっているの

かを観察できない。マインドフルでなくなってしまうのです。ですから、私は多忙な教

師にはなりたくありません。あなたの希望は尊重しますよ。あなたは私に、アメリカに

来て欲しいという。しかしなぜですか？ 教えるため？ 多忙になるため？ 何を教え

るのですか？ 私が読んできたことですか？

パーリ語のテキストは、実に多くの明晰な指示と手引きを含んでいる、非常に優れた

宝物庫です。ほとんどの偽物のグルたちの法話や書物に見られるような、曖昧模糊とし

たものはありません。アメリカ――あれはグルの国ですね。

パーリ語をいくらか学ばれるのもよいと思います。さほど難しくはありません。一年

もあれば、残りの人生のあいだずっと、自分で経典を読めるだけのパーリ語を学べるで

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しょう。もし教師になられるつもりであれば、独りで実践するだけでは十分ではありま

せん。そして、ブッダの教えを自分で読むことができるということから得られる自信は、

言葉で表せないほどのものです。他人の翻訳に頼らずに済みますから、大きな安心感が

あるのですね。いずれにせよ、翻訳というのは全て不十分なものです。

暮らしが変われば、物の見方も変わります。文化の異なる場所に住めば、あなたが学

ぶことも変わってくる。自分の育った文化でさえも、違って見えるようになるのです。

あなたの目は、以前より鋭くなる。これまでは気づかなったことに、目が行くようにな

るのです。価値観も変わる。硬さがとれて、より寛容になるのです。異なった環境によ

って、あなたは注意深くなります。それはあなたの本性の、異なった側面を呼び起こす。

自分の持っているものの中で、慣れ親しんだ場所では使っておらず、それを持っている

ことすら知らなかったものを、使うことを余儀なくされるのです。ですから、異なった

国、異なった文化、そして異なった人々と暮らすことは有益です。

書物は私の最高の仲間です。それは私の人生を豊かにしてくれ、自分が住んでいる世

界に関する、より深くて広い理解を与えてくれます。目が見える限り、読書は続けると

思いますよ。読書をし、瞑想をし、森を散歩し、時には何人かの人たちと話して、シン

プルで静かな生活を送り、心配事を何ももたない。これが、残りの人生を私が生きてゆ

く仕方です。どこに住んでいようと同じことですね。

昨日の夕方には、小学校の子供たちと話しました。ある子供たちは詩を暗唱し、また

ある子供たちは私に質問をした。一人は私に出家した理由を尋ねました。彼らの質問に、

私は自分の最善を尽くして答えましたよ。自分の子供時代について、彼らに語りました。

夕方にはたくさんの人々が訪ねてきました。ほとんどが教養ある人たちです。彼らに

は言いたいことがたくさんあり、質問したいことがたくさんある。私たちは二時間半、

話をしました。ええ、いまは人々が瞑想に興味を持たないことに不平を言うわけにはい

きません。私たちは、グループ・カウンセリングを行ったのです。人々はグループの中

で彼らの人生についてシェアを行い、私は自分の人生と経験を彼らとシェアしました。

たくさんの人たちが、私と話すためにやって来ます。驚くべきことは、彼らのほとん

どが二十代か三十代で、すこぶる若いということです。毎夕、私たちはグループ・ディ

スカッションを行っています。昼間には瞑想者の話を聞いてアドバイスをします。多く

の人が瞑想と仏教について深く知り、学ぼうとすることに積極的であることには、とて

も励まされる思いがしますよ。彼らの中には、よい瞑想者もいます。ですから、ここ最

近は忙しいですね。でも幸せです。

私は人々と会って話をすることを厭いません。自分がよい友人であり得る（ある）こ

とを、とても嬉しく思いますよ。彼らのために費やす時間は無駄ではない。私にとって

旅をすることは不便なことですが、その甲斐はあります。人々は、私のために実に多く

のことをしてくれる。だから私は、彼らに何事かを返したいと思うのです。私が彼らに

与えられるものは、メッター（慈愛の念）と理解と、そしていくらかのアドバイスだけ

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です。そんなわけで、彼らが私のところに来られないなら、私が彼らのところに行くつ

もりです。

多くの人たちが、私に会いにやって来ます。ほとんどが新顔ですね。いまでは彼らが

何を探し求めているのかわかりましたよ。彼らはよい友人と、自分に理解できる仕方で

自由に議論できる教師を探し求めているのです。私はそのギャップを、ある程度は埋め

たいと望んでいます。

朝に私は、人々の家を訪ねます。彼らの家で食事をとって、彼らのドゥッカ（苦）に

耳を傾け、何であれ私が適切だと考えたアドバイスをする。この世界には、実に多くの

ドゥッカがあります。避けられないことを受け容れるのは、心の平安のためにとても大

切です。

もし／いつか私があなたのところに行くことがあれば、それはただあなたの話に耳を

傾け、あなたとあなたの友人の幾人かと、語り合うために行くのです。私は教師ではあ

りません。ただの友人／兄弟です。私は人々に実践をさせることはできない。しかし、

もし彼らが実践を行っていて、私のアドバイスを求めるのであれば、喜んで手助けしま

す。

教師の役割というのはドゥッカに溢れています。私はいつも、自分がある役割にうっ

かりはまってしまっていないかどうか気をつけています。私は人里離れた簡素な森林僧

院で暮らす、ただの比丘（僧侶）であれば十分に幸せなのです。

書物から学んだことは、ほとんど忘れてしまいました。私はあまりたくさんのことを、

覚えていたくはありません。私は自分の心が空っぽになっていて、はっきりと明るく、

そして学ぶことに負担をかけられていない状態が好きです。私は何も証明する必要はな

いし、何も防衛する必要はないし、何も布教する必要はありません。

人々は、葛藤する願望や欲望でいっぱいになっています。ほとんどの人は、自分が本

当にしたいと思っていることを知らないのです。彼らは自分の心をあちらへこちらへと

変化させる。非一貫性がルールなのです。

あなたは自分がとても繊細であることを知っていますか？ ご存知でしょうが、繊細

な人たちはそうでない人たちよりも多く苦しみ、同時に、より深く学びもするのです。

「あなたは多くの人たちを信用していますか？」と質問されましたね。信用するとい

うことは、人々が何であれ自分にとって害のあることを行わず、また自分を利用するこ

ともないだろうと確信しているということです。その意味では、私にはかなり多くの信

用している人たちがいると言えますね。

阿羅漢は、自身を他者と比べることなく生を送ります。これは阿羅漢以外には不可能

です。「あるものとないものを比べる」ことを私たちがしなかったら、より安らぎに満

ちた世界になるのは確実でしょうね。しかし、そうなったら私たちの生き方も、いまの

それとはずいぶん違ってくるでしょう。

私たちは自分の人生を、山ほど抵抗しながら生きています。生に抵抗し、死に抵抗し、

96

痛みと喪失に抵抗し、そして愛に抵抗する（ええ、本当にそうなのです）。受容するこ

とは実に難しい。子供たちは、そんなふうではないのですけどね。成長するにつれて、

私たちはこの抵抗を学ぶのです。

あなたのことを考えると、あなたの人生がどんなふうになっていっているのか、少し

心配になります。不確実であることが、最も疲れますね。私のいちばんの気がかりは、

あなたの健康です。健康であれば、どれほど大変でも、なんだってやることができる。

たくさん歩くようにしてください――そうすると体内の血液の循環が保たれます――

速すぎもせず、遅すぎもしないペースで歩くこと。肺や胃といった身体の調子がおかし

かったり、よく眠れなかったり、目眩がしたりする時は、いつも私は普通の速度で数時

間歩きます。それが、いつでも身体によい影響を及ぼすのですよ。何かの感染症に罹っ

ている時でさえ、こうするとより早く治ることに、私は気づきました。

ふだん私とU. I. は、夕方に数時間歩きます。ほとんどの場合、私たちは心の性質に

ついて話をします。時には、人々が人生において何に最も価値を置いているか、そして、

それが彼らの思考と感覚の中でどのような形をとっているかについて、語り合うことも

あります。

全てのこと、全ての人、そして全ての場所について、よい面もあれば悪い面もありま

す。ある場所や人に関して悪い面を見る時には、私たちはそのよい面のほうも忘れては

なりません。私たちは、一面だけを見がちです。腹を立てた時には、私たちは悪い面を

誇張する傾向があり、喜んだ時には、私たちはよい面を誇張する傾向がある。

順応性は、生きてゆくためにとても大切です。固まっていることは、とても危険。自

分自身の誠実さを除いた、他の全てのことには妥協しましょう。

「私はすごく変ってしまいました」と言われましたね。ええ、そのプロセスはまだは

じまったばかりです。古い自己イメージにしがみついていなければ、その変化はどんど

ん続いてゆきます。常に変化し成長してゆくと、あなたは自分が新しい人間になったよ

うに感じるでしょう。そして自分が若返ったようにも感じると思います。古いものは常

に年老いていて、新しいものは常に若いのです。

学ぶというのはなかなか辛いことです。そして、本当のことを認めるのもまた辛い。

しかし、そうしてはじめて、私たちは成長します。

物事を明らかに見て、それを自分の中に取り入れるには、そこから多少の距離をとる

必要があります。自分の経験に、あまりに感情的に巻き込まれてしまっていたら、それ

を理解することはできません。

自分の限界を理解してください。あなたにできることはそこまでなのです。

私は自分を、分類の棚に入れたくはありません。それはあまりにも限定的なことです

からね。私は名前やラベルから自由でありたい。私は私がそうであるものです。カテゴ

ライズされる必要はありません。“category” という言葉の語源をご存知ですか？ そ

れはラテン語とギリシャ語から来ている。ラテン語ではcategoria、ギリシャ語では

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kategoria で、意味は非難、咎めです。また、それは一種の予言でもある。即ち、

kategor(os) と言えば、それは告発者、断言する者の意です（kategor(ein)は、「告発す

る・断言する」、文字通りには、反対意見を公に言う、という意味になります）。

そんなわけで、カテゴリー（人々を決めつけること）は、ますます私にとって意味の

ないものになってきています。例えば「仏教徒」とか――それもまたカテゴリーですね。

私はそれが肯定的なものであれ否定的なものであれ、決めつけられることが好きでは

ありません。

私の心は、善悪やそれに類似のものを含むカテゴリーから、ますます自由になってき

ています。私は現象のありのままの性質を、それに名前を付けることなく観察したい。

私は自分のことを、誰も誤解しないことを望んでいます。なぜ名前を付けることが、そ

んなに重要なのでしょう？ 場合によっては、名前を付けるということは悪名で呼ぶこ

と、つまりは非難と同じことです。

私がもう一つお話ししたいのは、期待についてです。自分の期待が実現可能であると

いうことが、私たちにどうしてわかるでしょう？ なぜ私たちには期待することが必要

なのか？ なぜ、ありのままとともに生きることができないのか？ 熱望／期待をする

と、人々は気分が良くなるのです。高尚で善いことを期待（熱望）する時、人は自分が

善い人間であると考える。熱望や期待は自己欺瞞であることもあります。それらが落胆

の原因になることも、またあり得ますね。

人が阿羅漢になると、彼／彼女は見解と意見を克服すると、ブッダは言っています。

私たちは見解と意見で、どれほどいっぱいになっていることでしょうか。にもかかわら

ず、私たちは何事にも確信をもつことができないのです。私たちはただ会話を積み上げ、

言葉を積み上げる――ペラ、ペラ、ペラ。

私には事実と観念が山と積まれているのに、それでも私はさらに知ろうとしています。

私の心は過密状態ですが、それでも最も意義深いもの、私が学んでいることの本質は、

言葉で直接的かつ肯定的に、伝えられることは不可能なのです。

私は世界が表面的であることを知っていますし、自分がそれについて何もできないこ

とも知っています。時には私自身が表面的であることもある。気づきが欠けていたなら、

人々に表面的である以外のあり方がどうして可能でしょう。

あなたが送ってくださった歴史書を読んでいます。『ルネサンスのヨーロッパ

（Renaissance Europe）』。人類に関するより広く深い理解を得るためには、歴史を読

むことがとても大切です。観念や理想がどのように変わるのか。人々がどのようにドゥ

ッカ（苦）を創り出すのか。人々は常に変化する見解や意見に、どのように執着するの

か。見解や宗教、そして国籍に同一化することで、実に多くのドゥッカと対立が創り出

されます。自己イメージによって、分裂と孤独が創り出される。

気づいていますか？ 誰かが何かを書く時には――ご存知のように、彼らはそれを、

考える意識（thinking mind）か、あるいはどこか別の場所でそれについて読書したこ

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とに基づいて書いていますよね？ そして、彼らがそれを自身の経験と心から書いてい

る時――あなたにはその違いがわかりますか？

自分の問題がどこから来るのか、本気で考えてみたことがありますか？ そして、い

まのこの状況において、問題の根源を無視する罠が、自分の中にどのように巣食ってい

るのかということも？ どんな痛みにも、どんな悔恨にも、どんな後悔にも？

他人の気持ちを思いやることができますか？ 他人の立場になってみて、彼らがどう

感じているか思いやることができなければ、その結果はどうなるでしょう？

自分が持っているかもしれない自己イメージを、観察してみたことがありますか？

理想化されたイメージ、偶像化されたイメージ、現実的なイメージ、異なった人たちに

見せる異なったイメージ。合わせていくつあるでしょう？ それら全てを、どうしたら

調和させられますか？ どのようにして、それらを一つの自己イメージにするのでしょ

う？ 唯一の自己イメージなんてものは存在するのでしょうか？ だとしたら、この

「大きな自己」とは何者でしょう？ 自分が誰といようがどこにいようが、そしてどん

な状況や環境であろうが、同一で一定の自己イメージを持っている人に、会ったことが

ありますか？

人々があなたにレッテルを貼りはじめた時、あなたはそのレッテルを信じて、彼らが

あなたについて言うことに沿って生きはじめますか？ あなたに関する彼らの知覚は、

どのくらい正しくて、どのくらい間違い、誤り、歪んでいるのでしょう？ またあなた

が他者の内に見ているものも、どのくらい間違い、誤り、そして歪んでいるのか？

悪を憎む多くの人たちが、自身も多く悪質である傾向に気づいたことはありますか？

なぜでしょう？ 私は他者の内の悪のみに注意していて、自身の内のそれには注意しな

い人たちをたくさん見てきました。彼ら自身の悪、彼らはそこから逃げているのです。

他者を公然と非難することで、自分が悪質だと考えるその人たちよりも自分が優れてい

ると彼らは感じ、そうしてこの優越感によって、彼らは自分が全く悪質ではないという

誤った感覚を与えられる、と言ったら正しいでしょうか？

嘘つきは何でもできる。この主張に同意しますか？ 誰かがあなたに嘘をついたら、

あなたはどう感じますか？ 真実とは何だと思いますか？ ある人が真実を逸脱した

時、彼／彼女が失うものは何でしょう？ 嘘と自己欺瞞の生を送ることで、人は何を得

るのでしょうか？ 幼児的な段階に居続ける――感情的、心理的、精神的に――ことで、

人が獲得するものは何でしょう？ そういう段階に居続けることに、何か本当の永続す

る喜びと満足があるのでしょうか？

二つのはっきり分かれた極端な人格を備えた人と、どうやって付き合いますか？ 一

つのペルソナは親切で思いやりがあり、他方のそれは、冷たく無情で、操作的で、我儘

で思慮や配慮に欠けていて、非理性的で、コントロールと抑制が効いておらず、破壊的

なのです。そんな人たちと会ったことがありますか？ 私はそうした人たちを何人か見

てきて、どのように付き合ったらいいのかわかりませんでした。

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言葉というのは意味と伝達においてとても曖昧なものです。多くのことが、言葉を使

っては伝えることができません。多くの場合、人々は言葉をただ印象付けるために使っ

ているのですが、真実はそうした言葉からは遥か遠くにあるのです。

自身を徹底的に知るにはどうしたらいいでしょうか？ 自身のことを知らなかった

ら、他者のことを知り、そして他者が自分を知ってくれることを期待するのは可能でし

ょうか？

自分が特定のことを、なぜ、どんな動機で行うのか、沈思して自身に問うたことはあ

りますか？ あるいは、あなたをそうした行為へと引っ張る紐が存在していて、それら

が健全であるか不健全であるか、有害であるか有益であるかを考えてみることもなしに、

ただそうした物事を行っているのですか？ あなたは、有益であったり、幸福へと導い

たりはしない古い習慣や慣れ親しんだやり方をコントロールすることなく、そうした習

慣やむずむずする感覚に、コントロールされているのですか？

固定的な人格というものは存在するのでしょうか？ 人間というものは弱すぎて、よ

りよい方向へ変わる意志もなければ能力もなく、古い習慣ややり方の奴隷でいるしかな

いのでしょうか？ 変化することがなかったら、成長することもありません。

あなたにとって、許すこととは何ですか？ あなたは自身や他者を許していますか？

どれほどの不正があなたに対して行われてきましたか？ どれほどの不正を、あなた

は他者に対して行ってきましたか？

自分の欠点や弱さを直す価値はあると思いますか？ あるいは、自分の古い自己イメ

ージにあまりに執着し過ぎていて、変ってしまったら自我へのダメージがあまりに大き

いからと、そのままでいることのほうがよいのでしょうか？ 自身と他者に、実に多く

の不幸を生み出す原因となる、自己イメージと自我を手放すことの利益を、見て取るこ

とはできますか？

慈愛の念とは何でしょう？ それを日常生活における行為へと変えるにはどうした

ら？ 毎日の終わりに、自分が行った健全な行為と不健全な行為をともに、思い返すこ

とはありますか？ さらに不健全な行為を重ねることを避けようと、決心はしています

か？ あるいは、ただ気にしないことにして、仕返しのようにそのことを一切考えない

ようにするだけですか？

影の側面に落ち着かない思いがするのなら、あなたはそれを避け、そこから逃げ出し

ているのです。光がある限り、影があなたを決して離れることがないことに気づいてい

ますか？ それは常に、あなたについてきます。光自体が影や闇でないのはなぜか？

あなた自身の影から、あなたはどこまで遠くに逃げることができるのか？ この影――

あなたはそれのことを知らないのだけど、たぶんほんの少し、表面的にはちらりとその

姿を見たことがあって、とはいえ飛び込んでそれを調べるのは、あまりに辛くて恐ろし

いもの――のことを、考えてみたことがありますか？ ありのままを認めることを拒絶

していたら、自分の謎や問題を、解くことがどうしてできるでしょう？ あなたには、

100

そ___________れらを正しい名前で呼んで白日の下に曝し、そこから歩いて立ち去るだけの勇気があ

りますか？

常に油断なくいてください。何かをはじめるのは最初はとても難しいかもしれないけ

れど、何度か試みていると、それはどんどん簡単になってくることに気づいていますか。

気づき（マインドフルネス）の実践と同じことで、最初は心が古い上の空のあり方――

常に不注意なあり方――に執着しているので難しいのです。しかし、辛抱強く続けてい

れば、気づきがずいぶん自然になってくることがわかるでしょう。修練が完成に繋がる。

そう思いませんか？

人生における業のはたらきをどのように見ていますか？ それはブーメランのよう

に機能するものなのでしょうか？

あなたにとっては何が苦ですか？ あなたはどれほど多くの人に、苦を受けさせてき

ましたか？ あなたは過去に、他者に多大な苦を引き起こすような有害なことに、関わ

ったことがありますか？ 未来において、あなたは自分の利益のために、何か他者に多

くの不幸と苦を受けさせるようなことを行い、そこにたっぷりの言い訳と正当化を付す

つもりがありますか？ もし罪悪感が全くないのであれば、正当化する必要はあるでし

ょうか？

あなたにとって、人生の意味は何ですか？ 人生はあなたに何を求めている？ なぜ

あなたは、人生と呼ばれるこの存在に、いまあるのだと思いますか？ 動物や低位の存

在ではなく人間に生まれたことを、実に貴重な機会だとは思いませんか？

物事を行う際、あなたはそれを衝動に基づいて行っていますか？ それとも、まず結

果を考慮した後に、決断を行っている？

全ての人が、他者からの親切と理解、そして愛と共感的な同情を求めています。他人

にも同じものを快く与えることを、私たちはどれほど行っているでしょうか？

あとひと月のあいだしか生きられないとしたら、そのひと月のあいだに、あなたは何

をしますか？

死はあなたにとって、どんな意味と意義をもっていますか？ 苦と死を欠いていたら、

生は意義深く完全なものであり得るでしょうか？

あなたは苦――自身のそれと他者のそれ――から、どれほど多くのものを学んできま

したか？

あなたは毎晩夢を見ますか？ それを思い出すことはできますか？ どんなことを、

ふだんあなたは夢に見ますか？ 意識的な心が無意識的な心にどんな影響を及ぼして

いるかを、夢の中に見て取ることはできますか？

101

第六章：価値と哲学

「人はいつでもどこでも誰であっても、自分が選んだように行為することを好んでき

ていて、理性や利益が命ずるように行為することは、全く好んでいないのだ」。これは

ドストエフスキーが『地下室の手記』で語ったことです。いかがですか？

わが友、ヘンリー・デイヴィッド・ソローは言っています。「より正気を保った人で

あれば、社会において最も聖なる法とされているものに、なおいっそう聖なる法に従う

ためとはいえ、形の上では反対する立場にあることに、何度も気づくことであろうし、

それゆえ自分の道から外れない決意を、何度も試されてきているであろう」。

自分のことについて言えば、私は対立することに飽き飽きしてきています。私は自分

の生を、安らぎに満ちて送りたい。私は狂った世界に迎合せず、またそれと対立するこ

ともない生き方を見出したいのです。世界が自分で狂った道を行くのは好きにさせまし

ょう。私はそこから離れておくつもりです。

何であれ天下りに受け入れてしまったら、私は真実の熱心な探求者であるとは呼ばれ

得ないでしょう。たとえそれが、ブッダ自身の言ったことであってもです。私は何かを、

ただブッダへの敬意ゆえに（私はブッダに、最高の敬意を抱いています）信じることは

できません。私は自ら知りたいのです。

私は、ほとんどの人がいちいち自分で探すことなく簡単に信じているような単純な真

理を、自ら見出すために長い時間をかけています。簡単に信じてしまうというのは安っ

ぽいことです。

私は伝統に敬意を払っている。しかし、伝統の全てがよいとは思いません。それがど

んなに古いものであれ、私たちは伝統に問いを向ける勇気をもたなければならないので

す。

ブッダは言いました。「何かしらの発言を、単にそれが古い伝統であるという理由か

ら、正しい、もしくは誤っていると信じるなかれ」。

私たちは、ただ科学や哲学の内在的な論理のみにはよらず、同時に私たちの文化

の――というよりは、私たちの種全体の――現在の歴史的な位置によっても、自分

たちの諸価値に関する興味のありようへと、至らせる推力を受けているということ

を自由に認めるのも、私たちにとっては謙虚なことであろうと思う。歴史を通じて、

価値観というのは未決で疑わしいものとなった時のみ議論の対象となってきた。伝

統的な価値体系が、少なくとも思慮深い人々にとっては、全て上手くいかなくなっ

ているのが、私たちの現状である。（A. H. マズロー）

友よ、あなたは自身が思慮深い人です。いかがですか？ あなたには、何であれ伝統

的な価値を、信じることはできますか？

102

価値観なしに生きることは、私には不可能です。私は最高の価値を生きたい。だから

私は、知的で思慮深く、自尊心のある人間が生きることのできる最高の価値が何である

か知りたいのです。私は、たとえそれが美しく聞こえようと、非現実的で、非実際的で、

達成不可能な誤った価値を、生きたいとは思いません。

もう一つ私が学んだことは、自分自身とコミュニケーションすることです。私が本当

に、本当によくコミュニケーションすることができる唯一の人物は、私自身です。これ

はそれほど簡単なことではありません。全ての動作、フラストレーション、感覚、プラ

イド、退屈（とくに人々とともにいる時の。独りでいる時には、私は退屈を感じません

からね）への通路が、完全に開かれる（私にアクセス可能になる）のです。私は自分自

身へと、完全に開示されていると感じます。いま私は、自分を深く理解している。以前

には決して味わうことのなかった一種の気楽さを、いまは楽しんでいますよ。

私が何を見るかということは、私が何者であるかということに依存します。私がどれ

ほどよく見ることができるかは、私の目がどれほど優れているかに依存する。より高い

価値を、目にして理解したいと思うならば、私はそれに値することを全て行わなければ

ならない。私がそれに値するならば、私はそれを得るでしょう。

私たちの心の中では、ある種の内戦が続いています。私たちが、自分の（いわば）人

格を本当に成長させたいと思うのであれば、私たちは自分の人格の全ての側面を理解す

る仕方を見つけなければならないし、私たちの心の本性を、善悪ともに、尊重する必要

がある。この内戦を終わらせなければ、本当の成長はあり得ないのです。この戦いは、

私たちにあまりにも負担をかけていますからね。平安を得るためには、私たちはまず、

自身の心に起こっていること全てに、先入観抜きで完全な注意を払わなければならない。

したがって、マインドフルに生きることが、内的なものであれ外的なものであれ、自分

の条件を改善するために私たちができる、最も大切なことなのです。

内面に平安がある時にのみ、外面も平安になることでしょう。内的な平安が、外的な

平安の前提になるのです。私は自身に安らっている、本当に美しい人たちを何人か見て

きました。彼らの美しさは、彼らの内的な調和から発しているものです。彼らはふり

、、

を

していない。ありのままなのです。ふり

、、

をしているときには、あなたは分裂している。

調和していないのですね。その時のあなたは、他者の視線を集める不愉快な人です。自

分自身に関する何事も自分自身に隠していない人たちは、とても生き生きしています。

彼らは流れている。話す時には、イメージが彼らの心から流れてきます。彼らは気楽に、

喜びをもって話している。自分が本当に知っていることを語り、無意味なことを話すこ

とで時間を無駄遣いすることはありません。彼らは他者に、自分の知識を印象づけよう

としないのです。

「全て価値あることは、この心に由来しなければならない」。実に正しいですね。ご

存知のように、私はインテリでした。私は知識と論証に、あまりに価値を置き過ぎてい

た。あらゆるテーマに関する数千冊の本を読みました。しかし、いまはほんの少ししか

103

読みません。知識と論証には、まだ価値を置いていますけどね。おこがましいと感じる

ので、もう説法はできませんよ。代わりに私は、自分の学んだことを語って分かち合っ

ています。心はますます、開かれていっています。

諸々の理想は私にとって、いまはより重要性の少ないものになっています。私は公式

を生きているのではない。私は自分の心を、深く見つめているのです。「べき」と「べ

きでない」は、もう大切なことではありません。その代わりに、私は自分の心を信じて

います（私の脳は、理性的に過ぎるのですよ）。自分の心に気づいている時、私はより

生き生きとした気持ちになるのです。

私は裁くことを欲してはいません。私が欲しているのは理解です。私は完璧ではない。

ですから、裁くことを好む人たちは怖いですよ。私は放っておいてほしいのです。

私は人生において不健全なことをたくさん行ってきましたが、しかし自分や他人を責

めはしません。過去に不健全な行為を何もしていないということはあり得ない。いま私

はダンマの実践をしていますし、そのことを幸せに思っています。

私は規律訓練（discipline）が好きです。ですから、人々が正しいことを行わない時

は、彼らを叱らなくてはならない。ここミャンマーでは、私は人々を喜ばせるような特

定の仕方で振る舞わねばならず、また話す時には彼らが理解できるようなことを言わね

ばならないということを、私は知っています。私がラディカルであれるのは、一定の限

度内においてだけですね。場合によっては、彼らの価値観を受け入れることはできない

けれども、彼らを当惑させるであろうことは、何も言うべきではないこともあります。

人々と対立しても、いいことはありません。彼らを騙す意図をもって何かをやったり言

ったりしない限り、私は安らいだ心でいられます。私が言おうとしているのは、つまり

私は内面で本当に感じているとおりに振る舞ったり語ったりできないということです。

それがミャンマーなんですね。例えば、人々は私に会いにやって来て、私のことを、私

が腹を立てるような仕方で扱う。私がかつてムスリムであったことを、知っているから

です。しかし、かつてムスリムであった僧侶に会うことは、彼らにとって、素晴らしい

ことでもあります。彼らは私に、自分たちの信じている全ての物語を信じていることを

期待する。どうしろというのでしょう？ 私は微笑みます。

いかなる制度宗教も信じていなかったので、若い頃には共産主義者だと言われたもの

です。いま私は、制度宗教を信じているか？ ええ、答えは誰にもわかりませんね。

あなたはダンマから宗教臭を、どのようにして除きますか？ 私はここで、そのこと

を試みています。

そんなわけで、私は人々との付き合い方に関するはっきりした考えを得たいと思って

います。私は、私のことを実際の姿とは異なるある種の人間であると考える人たちのこ

とが好きではありませんが、これは避けようのないことです。世界中の人が、みな誤解

されている。彼らが私のことを正しく理解したとしたら、それはそれで、私は腹を立て

てしまうでしょうね。

104

愚かな人が組織の中で地位を得ることがどうしてあり得るのか、という点については

同意しますよ。愚かな人々に関するこの種の経験は、私にもふんだんにあります。私は

人々のことをよりよく理解することができますが、愚かな人、とくに自分のことをより

賢いと考えている愚かな人とは、議論をしたいと思いません。私はますます、人々や組

織から距離をとるようになっています。人助けについては、あまり考えることがありま

せんよ。人々は「助けてあげる」と言いながら、他人を自己の権力拡大のために利用し

ますからね。

誰であれ怪物と戦うものは、その過程で、自分自身が怪物にならぬよう注意しな

ければならない。（ニーチェ）

ある人がかつて、「何？ 偉大な人？ 私は常に、自分自身の理想を演じている人に

しか会っていない」（ニーチェ）と言ったようなもので、私の行為の実に多くは、世界

（人々）に自分が愚か者（役立たず）ではないことを示すためのものです。

私の変化はあまりにも速いので、翌年の自分の態度がどんなものであるのか、告げる

のが難しいことがあるほどです。先生や友人たちは、過去に居た場所（これまでずっと

居続けていた場所）に、引き続き座していることに私は気づく。彼らとは、健康とか天

気とか政府とかいった、重要ではない物事についてしか話すことができません。彼らに

とっては、真実の全体が、既に書物の中に示されてしまっているのです。私にとっては、

全てが問いに開かれている。多くの理想が非現実的であることを、私は見出してきまし

た。私は何を教えるというのでしょうね？

私の中で、変化はまだ続いています。それを妨げたくはありません。一つのことに幻

滅しては、また別のことに幻滅する。たぶん、それが学びなのでしょう――美しい夢の

中から、過酷な現実に目覚めること。

私の価値観はあまりにも変ってしまったので、人々と話すことも難しく感じられます。

私は自分の態度については、よりはっきりとさせておきたい。つまり、私はサヤドー（尊

師）の役割を演じることはできないということです。おまじないが、私を混乱へと駆り

立てているのです。

あなたは変わることが怖いですか？ そうでないことを望みます。もしあなたが変わ

ることを恐れているなら、あなたは私の友人であり続けることはできません。「私と同

族であり続けるためには、人は変わらなければならない」と、かつてニーチェが言った

ように。

私は変わることが好きです。それは冒険のようなもの。全ての冒険と同様に、それは

危険を孕んでいます。たとえよりよい方向へ変わることであっても、それはストレスに

満ちている。しかし、変化を楽しむことをひとたび学べば、あなたはそれを歓迎します。

そして、「次は何？」と尋ねるのです。

105

私たちは何かより上の段階の、異なったものでありたがる。なぜでしょう？ それは

私たちが十分によいものではないか、あるいは受容可能なものでないからでしょうか？

それはエゴやプライドのためでしょうか？

ある人は、「私は悟りたい！」と言い、またある人は「私は欲望、怒り、プライド、

疑いなどが、何であるのか知りたい」と言う。どちらが適切な態度でしょうか？

ほとんどの人々は人生に何らの方向ももっていませんが、それは彼らが聖書や東洋の

聖なる書物、あるいは科学や哲学といった、外側に方向を探し求めているからです。外

側の典拠から得た方向は、本当の方向ではありません。それは単なる気まぐれな方向で

あり、闇雲な方向です。ただし、外側の典拠は人が内的な方向を見出すヒントを与える

ことはできます。この内的な方向がなかったら、人は道を失ってしまう。聖典を読むこ

とや、聖者やグルやサヤドーに従うことによって得られるインスピレーションが、人に

本当の方向を与えることはあり得ません。この種のことを、私はあらゆる場所で見てき

ましたよ。

無意味さと盲目性、そして向かうべき方向がないことに絶望している人だけが、方向

を見出すチャンスを得ることができます。自分の現状に絶望することができるためには、

多くの知識と観察が必要とされる（シッダールタが、ブッダになる道へと踏み出す前の

心理状態ですね）。

多くの人々がダンマに関する本を読み、偉大な教師たちに従い、そして法話に耳を傾

けている。一部の人たちはダンマを教えることもできます。しかし私の見るところでは、

彼らには方向が欠けている。彼らはただ語られたことを繰り返しているだけで、常に二

番煎じであり、決して最初の語り手にはならないのです。彼らの内の一部は有名になり、

その名声を楽しんで、自分の成功を鼻にかけるようになる。それが彼らの転落です。こ

うしたことから、彼らに方向が欠けていることがわかるのですね。

人々の中には、ある教師に従って、何かしらの種類の瞑想を実践することで、より幸

せになる人たちもいます。しかし、そこに本当の深みはない。美しい観念や美しい理想

に興奮しても、それが長続きすることはないのです。一部の人たちは、ただ差異や変化

を求めているだけです。彼らは何でも手当たり次第に掴みますね――チベット仏教、禅、

ヨーガ、南方仏教等々と。

我々の最高の洞察は、もともとそういう気質があって、そうなるように方向づけ

られていない人々によって聞かれたら、愚かで、そして時には犯罪めいて聞こえる

に違いないし、またそうあるべきなのだ。（ニーチェ）

人々は騙されることを好みます。彼らに自分が執着している誤った観念を手放させる

ことは難しい。あなたが彼らのお気に入りの観念（夢、幻想など）を脅かすようなこと

を何か言えば、彼らは本当に腹を立ててしまいます。

106

人々は神話を信じるのが好きなのだと、私は思います。彼らにそれを信じることを放

棄させるのは、ほとんど不可能ですよ。彼らは子供のようなものです。何かしらの種類

のフィクションがなかったら、彼らは道に迷ったように感じてしまう。それがなかった

ら、彼らの人生は乾いた骨のようなものになってしまうのです。ですから、彼らのもと

から神話を取り去りたいと思うのであれば、代わりにその場所を占める別の何かを、彼

らに与えなければならないのです。

人々は年を取る、しかし彼らは、成長することはありません。

信仰とは、つまり本当のことを知ろうと欲しないことである。（ニーチェ）

知的な誠実さというものは実に稀です。教師が語る時、彼らは自分が確実に知ってい

るかのように語る。たとえ自分が、自分の話していることを経験したことがなくてもで

す。彼らは決して、自分の疑いを表に出すことがない。彼らは全く疑いをもっていない

のでしょうか？ そんなことがあり得るのでしょうか？

私は夢の中ではなくて、日光の大きく降り注ぐ中で生きてゆきたいのです。

あなたが自分の思考や恐れや疑いや怪しみを鎮めることができればできるほど、

ますます意志が、想像と直観とインスピレーションのより高い領域から、あなたに

開示されてくるだろう。（ケネス・ウィドラ）

独りでいて、あまり話さずにいる時は、私は別の世界を生きています。それはスピリ

チュアルな世界とでも言えましょうか。しかし、人々とあらゆる種類の世俗的な事柄に

ついて話をし過ぎている時は、私はまるで、感覚的で物質的で、狂った表面的な世界へ

と引きずり降ろされてしまい、耳を傾け応答し、会話に参加することを強制されている

ような感じがします。

誰か（誰だったかは忘れてしまいました）が、かつて私に語ったことですが、一部の

人たちがたくさんの宝石と金の装飾品を身にまとうのは、彼ら自身は無価値だからだと

いうことです。彼らはそうした装飾品を身につけた時にだけ、自分に価値があると感じ

られる。色鮮やかな石や輝く金属を所有している人たちもいますし、銀行に大金を持っ

ている人たちもいる。また一時的に大臣や大統領に任命される人たちもいます（こうし

た人たちが、どれほどいい気になっているか見てください）。もしこれを狂気と呼ばな

いのであれば、何が狂気であるのかわかりませんよ！ 人々が自身に価値があると感じ

られる（あるいは、他者に自身の価値を示すことができる）他の道はないのでしょうか？

例えば、僧侶や尼僧として出家するというような？ A. が「世界は辛いことだらけだ」

と言っていたのは覚えています。私はそれに、さらに付け加えたいですね。「世界はナ

ンセンスだらけだ！」

107

このナンセンスなドラマにどれほど巻き込まれまいとしても、参加しないわけにはい

かなくなってしまう。そんな立場になったことはありますか？ 人々（僧侶と在家者）

は「彼は阿羅漢で、遺灰が数珠の珠のサイズの球になった」などと言っている。まるで

それが、僧侶が阿羅漢であるかないかを示す基準であるかのようです。私は、こうした

全てのことから無縁でいたいですね（遺灰が球にはなったのかもしれない。だから何で

すか？）。

会話に「飲み込まれ」ないためには、マインドフルネスがふんだんに必要とされます。

私はもっと寡黙でいたいですね。そのほうが、私自身の心の平安のためにはよさそうで

す。

会話からナンセンスと見せかけと嘘を除くことができれば、話すべきことはあまりな

くなくでしょう。私は見せかけにはうんざりしてきています。見せかけが多すぎること

で、生が非現実的になっている。見せかけの人々は、見せかけの状況において見せかけ

の行為を行い、見せかけの人生を送っている。

道徳的な区別をするに際して繊細で如才ないと見なされていることに大きな価

値を置いている人たちには注意せよ。ひとたび彼らが我々の前で（あるいはより悪

ければ、我々に対して）過ちを犯すことがあれば、彼らは決して我々を許すことが

ない。不可避的に、彼らは我々の本能的な中傷者となり誹謗者となる。たとえ彼ら

が、我々の友人であり続けたとしてもである。（ニーチェ）

なんと正しい。見事な心理的洞察ですね。

私は、自分がますます、型通りでなくなってきているのではないかと恐れています。

私は人のほとんど歩まぬ道を進んでいるのかもしれなくて、そこでは私は独りかもしれ

ない。私は多くの友人たちの手を、放さなくてはならないのかもしれません。

数人の友人（僧侶もいれば、在家者もいます）に会いましたが、私が型破りなもので

すから、彼らとの会話は困難です。私はそのことを理解し、適応しようとしている。新

しい友人たちをつくり、古い友人の幾人かは、失うことになるでしょう。思うに、人は

ラディカルな人たちと、変化を恐れるものです。彼らは古く、慣れ親しんだ観念に安心

感を抱く。新しい観念は脅威なのです――心を変化させる人たちは、当てにできないと

いうことですね。

私は、人々が自分を受け容れてくれているということによって安心感を抱くというこ

とはありません。彼らが変化を受け容れられないのであれば、現在の場所に留まってい

ればよい。ただ、私は進み続けます。私は彼らに共感的な同情は抱くけれども、留まる

ことはできない。私の安心感は、それが属している場所、即ち、私の存在の中心にあり

ます。

私は自分が人類に属していると感じていますが、その中のどんなグループにも属する

108

ことはありません。私が自分自身に下す判断は、他の誰が私に下す判断よりも大切です。

私は自分が誰であるか知っているし、自分がどこに向かっているかも知っています。そ

れを知っていることで、私には勇気と安心感が与えられる。私こそが、私の人生の生き

方に関する責任者なのです。

一部の人たちが教えている仕方と、彼らが自分の人生を生きる仕方のあいだに、私は

多くの矛盾を目にします。そこに矛盾があるのはなぜでしょう？ これが私にとって、

一つの大きな、そして非常に興味深い問いなのです。

私には、実に多くの時間がある――生きるために働く必要がなく、養うべき家族もお

らず、大量の時間を食う感覚的快楽の享受も行いません。話す人もあまりおりませんし

（私が会話するのは一日に一時間か二時間です）、実際上の心配事もなければ責任もな

い。実に多くの時間がありますから、私は人生やその意味について多くのことを考えま

すし、それ以外に考えるべき重要なことが何もありませんから、それは私にとって、と

ても切実な問題になるのです。私は何を求めているのか？ それはなぜ？

私を絶望的な気分にさせる物事は、一部の人たちにとっては無意味で子供じみたこと

です。私には生活について心配することが何もありませんから、ほとんどの人々の関心

事を超えた物事について、私はとても真剣に考えるのです。

私はあらゆるドグマティズムを信じませんから、自分自身の答えを、自由に探してい

ます。

申し上げたいことは、時に私は、本当に絶望してしまうことがあるということです。

本当に燃え尽きてしまったと感じることもあります。そういう時には、私は基本的でシ

ンプルな物事へと降りて行って、人生を、あらゆる既成の価値判断を抜きにして、新し

く眺めてみます。そのように執着から離れ、安らぎに満ちて明晰な瞬間には、何事もあ

まり重要には見えなくなる。そうして、アニッチャ（無常）、ドゥッカ（苦、不満足、

精神的・肉体的な痛み）、アナッター（無我）、渇愛（欲望、執着、愛着）、ローバ（貪

欲）、ドーサ（瞋恚、反感）、そしてモーハ（愚痴、妄想）といった、いくつかの根本的

な真理だけが顕わになってくるのです。中でも最も悪いのは妄想ですね。観察する機会

をもたないのはあまりにも悪い――人生には、気を散らすものが多すぎます。

…人は道化を演じる必要のために、どれほど苦しまなければならなかったことか！

友よ、これは本当でしょうか？ あなたもまた道化を演じているのだからわかるはず

ですね。上記はニーチェが、シェークスピアに関して言ったことです。

ゆったり安らかに生きようとする人であれば、彼は自分の知っていることを全て

話したり、自分の見たことを全て評価したりしてはならない。（ベンジャミン・フ

ランクリン）

109

私が自分の心を本当に話したら、トラブルになってしまうでしょう。正直であること

は、簡単なことではありません。私はより正直で打ち解けてありたいと思いますが、ト

ラブルに巻き込まれたくはありません。私は沈黙を保つことを学ぶか、さもなくば隠者

にならなくてはなりませんね。

最終的に聖なるものは、あなたの心の高潔以外に何もない。（ラルフ・ワルド・エ

マーソン）

この超多忙で、超音速で、気を散らすものだらけで表面的な世界――そこに人類の多

数派が、正常でいられる望みはあるでしょうか？

人々は既製服のようになってきています――ステレオタイプで、安っぽくて長続きせ

ず、個々の独自性が欠けている。私は特別にあつらえられた物事（衣服）が好きですね

――ぴったり合っていて、センスと質を備えており（ええ、このことがとても重要です）、

長持ちするもの。

科学の本で、人工衛星について読んだことがあります。一部の人工衛星は地球の周り

を軌道半径を増しながら回ってゆき、回るにつれて、どんどん地球から遠ざかる。そし

て、もう地球を周回できなくなるあるポイントで軌道を外れ、重力の軛を断ち切って、

地球から離れるのです。私はその人工衛星であるような感じがします。その感覚は、非

常にしばしば、そして非常に強く感じられる。

時に私は、あまり話したくないと思うことがあります。ほとんどの場合、人々は時間

潰しのために話していて、伝えなければならない特別なことがあるから話しているわけ

ではありません。そしてまた、自分が深く感じていることを伝えようとした場合、そこ

には誤解の危険がある。笑いものになるのです。理解というのは実に貴重で、そして稀

な現象です。

「完全に健康な人間が一人も存在しないことは、ほぼ確かだろう」と医者は言う

かもしれないが、同じように、本当に人間を知っている人であればだれでも、「少

しも絶望しなかったり、心配や内的な葛藤や不調和、あるいは未知のものや敢えて

知ろうともしていないものへの不安、また存在におけるある可能性や自分自身に対

する不安を、密かに抱いていない人は一人もいないし、ゆえに、医者が体内の病気

とともにやっていくことを語るように、彼は病とともに歩きまわり、ひっきりなし

にその存在を知らせてくる霊の病を抱えてまわり、そして説明できない不安を切り

抜けてゆくのだ」と言うかもしれない。（キルケゴール）

「身体について、一日、二日……一年、二年のあいだ健康である人たちもいるのを私

は見ることができる。しかし誰かが、ほんの短いあいだのことであっても、自分は心に

110

ついて健康なのだと言ったとすれば、彼は愚者である以外の何者であり得るだろうか？」

とブッダは言いました（煩悩は病なのです）。

それで友よ、あなたは何者なのでしょうか？ あなたは心について健康なのか、ある

いは愚者なのか？（板挟みですね）。もしあなたが心について健康なら、あなたは愚者

なのです！

再度キルケゴールを引きましょう。「何かによって特色づけられるのは常によいこと

だ。私は最上のこととして、この深刻な時代において、ただ一人深刻でない人間として

指し示されることを求める」。これをどう思いますか？ あなたは笑いながら死にたく

はありませんか？

『無垢の終わり』（“An End to Innocence”, Sheldon Kopp）から、あなたに引用をい

くつか書き送りたいと思います。以下はその一つ。

偽物の無垢な人には別の系統も存在しており、彼らの主たる注意は自己の聖なる

イメージを維持することに向けられている。生存のための戦略としては、聖性とい

うのは他者が自己の純粋さにどれほど応えてくれるかという、自身の暗黙のうちに

も操作的な期待を保持しているのかもしれない。しかしそれでも、その主たる関心

は、自分自身の天使のような無垢を再確認し続けることにあるのだ。そうした人々

は常に、真実そうであるには善良過ぎる、という状態に至ってしまうことを、私は

見出す。

私はこのことについて、ずいぶん長いこと考えてきました。もう一つ引用しましょう。

「度を越えて善良な意図は、しばしば度を越えて悪質な行為に至る」。これについてど

う思いますか？ 「自分の愚かさの結果に悲しくなって、ノイローゼになった『真実そ

うであるには善良過ぎる無垢な人たち』の中には、心理療法を求めることになる人たち

もいる」。さて、私の観察は次のようなものです。ほとんどの場合、自分自身を助ける

ことができない人は、他者を助けることを大いに語る。おそらくは、彼らがそのことを

必要としているのです。人々が自分自身を助けることを助けてください。そうすること

で、彼らがあなたに助けてもらうことを、もはや必要としなくなるように。

人々は、本当のスピリチュアリティーが何であるのかを理解していません。彼らはス

ピリチュアリティーと信仰、盲信を取り違えています――私の存在は、スピリチュアル

な自由のためにある。

他者を助け（ダンマを配って）、人類に奉仕する（もしくは、人類を救う）ことが人

生で行うべき最も大切なことだと考えている人は、本当に大切で深遠なものが何である

かを知りません。知的な人間に行い得る最も大切なことは、己の人生を誠実に、真剣に、

強烈に生きて、自身の真の本性をより深く理解するために努力することなのです。人助

けは、二次的なことでなくてはなりません。

111

一つのことが、私に明らかになりつつあります。即ち、私は無意識のうちに、あらゆ

る知的な人たちに受け入れられて、また全ての人たちにとってあらゆる観点からして筋

が通っており、同時に実践可能で有益でもあるような生き方を、探し求めてきたのだと

いうことです。私は他の人たちの理解の仕方や思考の仕方を、あまりに気にかけすぎて

きたし、あるいはそれに敬意を払い過ぎていた。いまは、それが重要ではないことを、

私は理解しています。私は自分の行いを、全て説明する必要はありません。

既に以前から、私は自分の欲することを行っていました。しかし、私はそれを、他の

人々から筋が通って見えるような仕方で説明しようと試みていた。いま私は、自分のプ

ライベートな生活が、他者の関心事ではないことを知っています。私は自分の人生を、

それが己にとって満足のゆくものであるように、そして他者が私に為すべきだと考えて

いることには従わないようにして生きています（今後もそうするつもりです）。

沈黙は私にとって、人生を生きるに値するものとしてくれるような、癒しの源泉

である。（カール・グスタフ・ユング）

私はもう、あらゆる組織と関わりたくありません。やたらに多いお喋りに、ささいな

争い、競争と中傷。私はこうした全てのことを、超えたところにありたいと思います。

私は自分が組織人でないことを確信している。どんな仕方であれそうなりたくもありま

せんが、ただ私の道に来た人のことは、誰であれ援助するために最善を尽くすつもりで

す。

私には、自分自身を人間一般と同一視する癖があります。つまり、人類にとっての問

題は、全て私の関心事なのですね。それがよいことなのかそうでないのかはわかりませ

ん。ただ、そのようであることから、私は多くのことを学んできました。いまは、それ

がどれほど大きな重荷であったかわかります。なぜ私が、全ての問題を解決しようとし

なければならないのでしょう？（精神的には、私は問題を解決しようとする癖がありま

す）。全ての問題を解決しようとする私は何者なのか？ 私には、他者の問題を解決す

ることはできません。自分自身の問題が、既に十分ありますからね。私には何の問題も

ないと考える人たちもいます。ええ、彼らが抱えているような種類の問題ではありませ

ん。しかし、それでもやはり、私は私独自の問題を抱えています。独自の問題に対する

答えを見出そうと、私は絶望的な試みを行っている。ほとんどの人が、考えることのな

いような諸問題ですね。大部分の人々を満足させるような答えは、私にとっては、満足

のゆくものではありません。ほとんどの人たちにとって、全ての問題に対する全ての答

えは書物の中にある。しかし、私にとってはそうではないのです。

段ボール製の城、吹き飛ばされちゃった。

幻想を手放すことは、すごくたいへん。（サヤドー・ウ・ジョーティカ）

112

ささいな問題によって、心は忙しい（占領された）ままになります。

私は、ほとんどの人たちが欲しいと思うものを、多く得てきました。何かを得ようと

するたびに、それが自分の人生をより意義深いものにしてくれるだろうと私は思ったの

ですが、欲しいと思っていたものを得てしまうと、それは単に取るに足りないものに過

ぎず、ただの次に向かう足がかりの一つであって、また手放さなければならないものだ

と気づくのです。手放すことをするたびに、ある種の気づきが存在する。それは、手放

すものがなくなるまで続きます。

私が行ってきたことと、私が行っていることは、とても重要であるように私には思わ

れます。しかし、他の誰にとっても、それは何らの重要性も有しているようには見えは

しない。死んだ後には、私は忘れられることでしょう。たいしたことではありません。

私にとって最も大切なことは、深く満足のゆく意義深い人生、私にとっての意義深い人

生を、送ることなのです。

賞賛と非難は、私にとって、さほど重要なことではありません。ほとんどの場合、そ

れらには偏見が含まれていますからね。

多くのことが私にとって、いまやその重要性、その影響力、その支配力、その魅力を

失いつつあります。例えば政治とか、科学や技術の進歩とか、そしてまた宗教さえも。

人々が何を信じているかということには、驚いてしまいます。私には、人々は何かを

信じずに生きていくことはできないように見える。私が自分の人生を、あらゆる種類の

信条や期待（熱望）抜きで生きたとしたら、どんなふうになるだろうと思いますよ。あ

なたはそれを、想像することができますか？

忙しい、忙しい、忙しい。それも不必要に。全く狂っていて、全く無意味です。

あなたにとって本当に有意義なことを行わずに、人々があなたに期待していることを

行うというのは、何という浪費でしょう。あなたにとって本当に有意義で、深く満足の

ゆくことが何であるのか、あなたは知っていますか？

幸せであることだけでは、私にとっては不十分です。私はあらゆることを深く理解し

たい。それもただ考えることによってではなく生きることよって、つまり、理想ではな

くありのままの人生を生きることによって理解したいのです。

身体的には、私は多くのことについて確立された伝統に従っています（そうしなけれ

ばなりません）が、精神的には、私は独自の生を送っています。

この心の賢いコメンテーターは迷惑なものです（肉に刺さった棘のようなもので、悩

みの種ですね）。それは全ての現象に、脚注を付さねば済まないのです。

あなたは教えたいのですか？ あなたが人々に学ばせたいこととは何でしょう？

あなたは彼らに、どうなって欲しいのですか？ どのように、そのことを実行するつも

りですか？ でも最も大切なことは、いまあなたが、自分の人生をどのように生きてい

るかということではありませんか？

キルケゴールの『哲学的断片への結びとしての非学問的あとがき』を読んでいます。

113

驚くべきことですが、私はこの読書を楽しんでいますよ。彼のスタイルはすごく好きで

す。『死に至る病』も入手していますが、それはざっとひととおり読みました。また再

読してみるつもりでいます。実存哲学の、何かよい本はご存じですか？ 私はジャン・

ポール・サルトルは一度も読んだことがありません。本に関してはもう十分ですね。

『非学問的あとがき』から、一節を引かせてください。

ならば先に進もう。しかし、互いに騙し合わないようにはしようではないか。私、

ヨハネス・クリマクス（彼は本書を書いた時、この仮のペンネームを使用していま

した）は人間であって、それ以上でも以下でもない。そして私は、誰であれ自分が

言葉をかわす名誉を得る可能性のある者も、また人間であると見做す。もし彼が、

抽象的で純粋な思想における思弁的な哲学を敢えて語ろうとするのであれば、私は

彼と会話する努力を放棄しなければならない。というのも、その場合に彼は私の視

界および、全ての死すべき者たちの微弱な視界からも、一瞬で姿を消してしまうか

らである。（キルケゴール）

実に見事な表現！ まさに私が自分自身と他の人々について感じていたとおりです。

私は人間であって、それ以上でも以下でもない。ただ僧侶であるわけではないのです。

そして私も、言葉を人間と交わすことが好きです。

役割（それが僧侶であれ教師であれグルであれ、あるいはどんな種類の役割であれ）

を演じている人と話す時、私はどうにもまごまごした（discombobulated）感じがしま

す（ハ！ ハ！ 類語辞典から長い単語を見つけましたよ。意味は混乱してしまうとい

うことです）。

自身を何かしらの名前で呼ぶ時に、僧侶とかグルとか哲学者とか言うのは、とても限

定的で制限的だし、自由を奪われ束縛的に感じるものです。私は自由に語れるようにな

りたい。僧侶的な語りをしなければならないというのは本当に退屈なことです（私はブ

ッダに対して最も深い敬意を払っています。そのことは、どうか忘れないでください）。

そんなわけで、私はある板挟み、困難な状況の中にいる。こんにち、特に仏教の文化の

内においては、僧侶であるということは、僧侶のように振る舞うということです。自分

の心は、口に出すことがない。何か言う時には、僧侶が言うべきことを言い、人々が言

うだろうと期待していることを言うのです。そして聖典に書いてあることは、全て理解

し信じているふりをする。たとえ全てを理解していなくても、とにかく全てを信じるこ

とはするわけです。私にそんなことができるでしょうか？ 私はほとんどの僧侶たちと、

話をすることができません。彼らは彼らの言うべきであることを言い、心に本当にある

ことを言うことはしないでしょうから（たいていの場合、彼らの心には何もありません）。

友よ、私は適当なことを言っているわけではありませんよ。これは私が、とても強く感

じていることなのです。

114

「仏教徒（Buddhist）」という言葉は、新しく用いられているものです。古い時代に

は、sammA-diTThi-vAdI（正しい見解をもつ者）と言われていた。こんにちの仏教徒は、

正しい見解をもっているでしょうか？

私はあなたが、あらゆる悪を行うことができると思う。だから私は、あなたから

善を期待するのだ。（ニーチェ）

人々は空想をしたがる。彼らはマインドフルネス、つまり現在に気づいていることを

欲しません。現在には、空想の余地がないからです。

心を徹底的に観察して、自身に嘘をつかずにいることは、私にとっていま最も大切な

課題です。自分が何かを信じていない時は、それを信じようとする代わりに、自分が信

じていないということを明晰に観察するのが、私にとってはとても大切なことなのです。

私は自分がマーク・トウェインか、あるいは少なくともあなたのようなユーモアをも

っていたらと思いますよ。それがなかったら、人は生きていけない（気が変になること

から自分を守れない）ですからね。私は人類のことに、あまりにも真面目に対しすぎて

いるのです。人間は、理路整然と考えることができるのでしょうか？

一つお話しましょう。昨日、一人の僧侶が私に会いに来ました。彼は三十九歳です。

私とは長い知り合いですね。彼は私に、自分はブッダになることを強く望んでいると言

った。それだけではなくて、彼は自分がブッダになることを確信していると言ったので

す。私が彼の言うことを真面目に受け取らず、「それを確信できる人は誰もいないでし

ょう」と言ったら、彼は非常に腹を立てて、私に彼の言うことを信じさせようと、もう

二時間喋りました。彼は色々なところを回って、自分がブッダになる予定だと、あらゆ

る人に語って歩いていたのです。この種の誇大妄想は、ミャンマーでは稀ではありませ

ん。ハ！ ハ！ 怒るより笑ったほうがいいですね。ともに流されるのは、私にとって

は難しいことです。私もT. P. S.のように、「それは正しいのかい？」と言えればと思い

ますよ。

それに関しては誰も確実に真実であるかどうかを決められないような、そうした多く

の物事が、私にとってその重要性を失いつつありますから、自分にはますます語るべき

ことが少なくなっていることに、私は気づきました。現在において自分が経験している

ことが、ますます私にとっては重要になってきているのです。何事も成し遂げようとす

ることなしに、私は物事を、非常にシンプルに明らかに、観察することができる。いま

私は、自分に起きている物事を、より強く感じ取っています。

好むと好まざると、現在の現象が、私の有する唯一のものです。だから、それは私に

とって、より大切なのですね。あまり注意が逸れることなく、私は物事を、容易に観察

することができます。

115

人は多数派と一致したがる悪趣味を脱ぎ捨てなくてはならない。（ニーチェ）

（この考え方を）繰り返させてください。非常に実験的に、ためらいつつ、あくまで

仮のものとして。このことは容易に誤解されてしまう可能性がある。言葉というのは誤

って解釈されたり、拡大解釈されることがあり得ますからね。

人の（私の）最も重要な課題は、その人自身（私自身）のことを、よく理解すること

だと私は思います。即ち、人生に起こるあらゆることを、深く、単に哲学的にではなく

理解すること。何かを語ったり行ったりする際に、自身の動機と態度を非常に明晰に理

解すること。聞いたり見たりなどしたものについて、自分がどのように感じたかを歪曲

することなしに理解すること。誰かに騙されたり、自分自身を騙したりしないこと。誰

かに追従しないこと。単にそれが美しく響くからという理由では理想をもたず、自分自

身で、それが自然であり可能であるかということと、そして結果についても検討するこ

と。そして何かを行うことを引き受ける際には、自分の許容量を知っておくこと。以上

の全てのことを明晰に理解して、はじめて私は、他者を助けることができるのです。さ

もなくば私は自身を騙し、また人助けの名目で、他者をも騙すことになるでしょう。人

助けは、自己の権力を拡大する行為になることがあり得ます。私はこうした自己の権力

拡大行為を、あらゆるところで目にしますね。だから私は、このことを再度申し上げた

のです。自分の話を繰り返してしまったことをお許しください。

「明らかになってしまったことは、私たちの関心事であることをやめる」。これは誰

の言葉だと思いますか？（ニーチェです）

ある蛇の話をしましょう。昔々、一匹の蛇がいました。ある日、蜂が飛んできて蛇の

頭を刺し、そこからどうしても離れようとしなかった。蛇は蜂を取ろうとしたのですが

できません。その時、蛇は重荷を積んだ牛車がやって来るのを目にしました。そこで蛇

は蜂に言った。「思い知らせてやる」。蛇はわだち

、、、

のところへ行き、ちょうど牛車の車輪

の通り道に、頭を横たえたのです。車輪は通りすぎて、蜂は死にました。蛇は本当に、

蜂を罰することに成功したわけです。蛇の賢さがどれほどのものか見てください？ こ

の種の賢い人々であれば、世界に不足してはいませんね。

人が根本から急激に変わることはありません。変容は、瞑想を通じてのみ可能です。

またそうしたとしても、変わるには長い時間がかかる。アナッター（無我）を明らかに

観察する深い気づきが必要になりますし、それは困難な作業ですからね。だから私は、

あまり期待しすぎないことにしています。

バンコクについて書いてくださったことは、本当に衝撃的です。ヤンゴン（ミャンマ

ー）も、いつか同じようになるのでしょうか？ これは、近代化のために支払わねばな

らない対価ですね。私は山に住んで、シンプルな食事をし、シンプルな小屋に住んで、

綺麗な空気を吸い、物事をゆったりと行って、お金や地位の心配をせず、平日も週末も

なくて、華美でない生活をするほうがいいですね。

116

私たちは実に多くの賞賛と承認と敬意と愛を欲しているので、それらを得るためには

何をしたらいいかについて、とてもたくさん考えるのです。そのようにして、私たちは

自分が最も価値を置いていることのためではなくて、他者が最も価値を置いていること

のために生きることになる。自分が何に最も価値を置いているのかを見出して、その価

値を、可能であれば他者と対立せずに生きることは、とても大切です。私たちは価値を

創り出して、その価値を生きる。ですから、そうした価値が本当にそのために生き、あ

るいはそのために死ぬに値するものであるかどうか、見きわめることがとても大切なの

です。価値の中には人間の本性に内在的で、文化に依存しないものもあります。誠実さ

はその一つですね。まず何よりも、人は自分自身に誠実でなければならない。どの国に

住んでいようが、何の宗教を信じていようが、誠実さは本質的なものです。

「自分自身に完全に誠実であることが、人間の行い得る最高の努力です。」

B. に住むことはデーワローカ（天界）に住むようなものであるに違いない、と考え

る人たちもいます。そこではあらゆる感覚的快楽を享受できて、あらゆる贅沢品を手に

入れることができますからね。感覚的快楽も贅沢品も夢のように虚しいものだというこ

とを、理解するのは何と難しいことでしょう。

表面的な生活が機能しなくなった時、それは問いに付され、根本的なものへの呼

び声が生じる。（A. H. マズロー）

私が欲しいのはこんな友人です。頑なに、盲目的に、無差別に、ルールや公式のセッ

トに従わない人。よく注意していて、観察力の鋭い人。人生を知的に、賢明に生きてい

る人。年月の経過につれて、学んで成長している人。柔軟性のある人（つまり、状況を

理解していて、ふさわしく振る舞う人）。最も単純な真理でさえも、自分自身で見出す

ことを欲する人（歴史上、最も賢い人から学ぶのです）。何事も当然のこととして受け

取らず（ただし、正当な敬意は払いつつも）、代わりにそれを自ら見出そうと試みる人。

生き生きしていて無気力でなく、孤立することを恐れない人。

名声というのは、実にばかげたものですね――なんと虚しく、鬱陶しいものか。

何人かの友人から、人々が私について何と言っているのかを聞きますと、私は笑って

いいのか怒っていいのかわからなくなりますよ。何とおかしな、ばかげた話を人々は作

り出すのか。人は愚かで狂っています。このことに、疑いはありません。彼らは騙され

たがっているし、自分自身のことも、同様に騙しているのです。彼らは基本的にはいい

人で、単純な人なのだと思います。彼らは真実を信じることは望んでおらず、空想的な

物語を信じることに、あまりに積極的でありすぎるのです。なぜ人々は、空想的な物語

を信じることに、これほど積極的なのでしょう？ そうすることで、彼らは何を得るの

でしょう？

ウィリアム・バレットの『技術の幻想（The Illusion of Technique）』を楽しく読み

117

ました。論理的に考えることで真実を見出だせるのであれば、論理的に考えていると主

張するこうした哲学者たちの到達する結論は、なぜこんなにも異なっているのでしょう

ね？

ブッダは “Mānaya hetu” と言いました。意味は、「何か（観念）を、それが（哲学）

体系に一致しているからというだけの理由で信じてはならない」ということです。技術

や体系は人を惑わす。技術と体系は人の心が発明したものですから、自然はどんな体系

にも、厳密にはぴったり沿うことはありません。アビダンマ（仏教哲学）でさえも、自

然現象を本当の意味で、完璧に説明することはできないのです。そこには多くの点で欠

落がある。私はそれらを読み、理解しようと試みて、それらを実地に試した上で、また

そこからいくらかのことを学びました。あなたが西洋の哲学に落胆したことは知ってい

ます。私も西洋哲学には、満足がゆきませんでした。しかし、私はそこから、何事かを

学び取ることができると思います。

実存哲学のほとんどは、とても陰鬱なものです。それらは人生がどれほどひどいもの

であるかをあなたに告げますが、あなたが自分の人生を、どうしたら意義深く安らぎに

満ちて生きられるかを語ることはできません。ほとんどの哲学者は「頭でっかち」で、

頭が混乱しているのです。彼らがやっているのは、考えることだけです。彼らは幸せで

すらありませんし、そのうちの多くが発狂します。たいていの人はあまり考えることが

ありませんし、哲学を読むこともありません。それで彼らは、ほとんどの哲学者より幸

せなのです。こうした哲学を読めば読むほど、ますます私は、ブッダの教えの価値を深

く認識することになりますね。それはとても実践的で、有意義なものですから。

メッター（慈愛の念）、カルナー（あわれみ）、ムディター（共感的な喜び）、ウペッ

カー（平静さ）、シーラ（道徳）、サマーディ（集中）、サティ（マインドフルネス）、そ

してパンニャー（智慧）1――これらのことは、人生において本当に意義深く大切なも

のであり、人がこれらを育てれば、その人は人生を本当に変えることができます。

多くの仕方で、そして多くの人々にとって、哲学と科学は心をドグマティズムから解

放するために大いに役立ちます。哲学と科学のいちばん良いところはそれなのですが、

それらは同時に、人々の心に空虚なものを創り出しもします。人々は空っぽになって幻

滅し、道を失ったままで取り残される。しかし私たちはそのことで、哲学と科学を本当

に責めることができるでしょうか？ 哲学と科学は、私が自分の心を、両親の信じてい

る宗教から解放することを助けてくれました。ただ、それは私をどっちつかずの境界領

域（limbo）に取り残しもしたのです。いま自分の人生に意味を与えるのは、私の責任

です。

実存哲学を読むことは、ある仕方で、私が西洋人と彼らの問題、および彼らの考え方

と彼らの思考に欠けていること、そして彼らがいかにして己の問題を解決しようとして

1 mettA（慈）、karuNA（悲）、muditA（喜）、upekkhA（捨）、sIla（戒）、samAdhi（定）、sati（念）、

paJJA（慧）

118

きたかを、理解することを助けてくれます。ブッダの教えは、彼らを助けることができ

るのか？ どうやって？ 大部分のサヤドーの教え方は、西洋人にとって適切なのか？

適切でない？ それはなぜ？

他者を理解することは、自分自身を理解する上で大切です。

この世界は狂っていて、意味を絶対的に欠いており、偽物で見世物であって、思い上

がった一つのショーです。愚者はその罠にかかってしまう。虚しい栄光やら、偽物の所

有物やら。

引喩（Allusion）

私は自分が世界を改善し、人々を幸せにするために

やって来たようなふりをしている。

実際のところは、内面に空虚なものを感じているのだ。

私がどれほど醜いかを目にするのは恐ろしい。

この醜さを糊塗するために、何かの行為に着手する。

空虚で無意味な私。

この空虚さと無意味さを、

埋める何かを探し続けている。

自分はとうとう、人生を十分に満たしてくれるものを

手に入れたのだと思っていた。何か美しく意義深いものを。

よく観察してみて私は知った。それもまた空虚ではないか。

私は人々を教えたい。それはなぜ？

私自身だって惑っているではないか。

自分の惑いを隠すために、私は人を教えねばならず、

そして知っているふりをしなければならないのだ。

愛について語る。美しい大文字の言葉だ。

鷲のように上空を舞っている。

だが、私の心は怒りと欲求不満でいっぱいだ。

執着から離れたようなふりをして。

そして密かに、執着から離れていることで

有名になるのを求めているのだ。

少欲を語りながら、それでも贅沢を楽しんでいる。

贈り物をもらうことを、喜び鼻にかけている。

清浄と純潔を語りながら

自身の姿を目の当たりにする勇気はないのだ。

119

なんという偽善。

「あなたは美しい人だ。賢明で幸福なのですね」と人々は言う。

本当にそうだったらよかったのだが。

※

真理の探究者よ

どの小道もたどってはいけない。

全ての小道は真理の在り処、

つまりはこの場所へ続くのだ。（E. E. カミングス）

「私の仏教関係の繋がりは、かなりの部分が上手くゆかなくなりました。それは一部

には私の怠慢のせいであり、また一部には、私が通常の形式や組織に、大きく幻滅して

しまったせいです」。友よ、とてもよくわかります。私の状況も、あまり違いはありま

せん。僧侶たち、つまり僧侶であるかつての先生方や友人たちと会話をするのは、とて

も困難です。私は彼らのことを理解し、そして同時に、自分自身のことも理解しようと

しています。私は彼らにメッターとカルナーを抱いていますが、深い相互理解はありま

せん。私たちのあいだには深い懸隔があり、私は自分の深い思考や感覚や洞察を分かち

合うことのできる僧侶を、見つけ出せるであろうとは思っていません。知れば知るほど、

ますます知的には孤独になってゆくように、私には思われます。

まあいずれにせよ、私はもうそのことにあまり怒ってはいません。打ち解けていて、

裁かれることのないコミュニケーションは、まだ切望していますけどね。私はこの孤独

と、ともに生きることを学ぼうとしています。そうしなければなりませんからね。私は

自分のことを、星のように感じていますよ。他の星から、百万光年離れた星ですね！

あらゆる人が、絶望的に孤独なのだと私は思います。一部の人はより繊細ですから、そ

のことをより強く感じるのですね。

とはいえ、私は心には大きな自由を感じていますよ。ただ健全な思考と不健全な思考

が私のガイドラインです。不健全な思考は辛いものであり、また辛さの原因でもありま

すが、他方で健全な思考は穏やかなものです。正しい選択をした時は、私はリラックス

し、穏やかで幸せな気持ちになる。自分自身を騙していない時には、為すべき正しいこ

とが何であるのかを、非常にはっきりと見て取ることができるのです。しかし、心が穏

やかでなく、傷ついたと感じていたり、あるいは（他者を）傷つけたいと感じている時

は、自分にとって有益でないことを行ってしまう。そうして私は、たいへんな愚か者や

馬鹿者になってしまうのです。ですから、重要な決断をする前には、マインドフルでい

て落ち着いていることが、とても大切です。穏やかな気持ちでいる時には、私たちは正

120

しい選択をすることができます。

私たちは、とても張りつめた社会に生きています。私たちは引き裂かれている

……そこで私たちはみな、引き裂かれた自身を集めて統合することを学ぶ必要があ

るのです……少なくとも、その答えの一部は孤独のうちにあるのだと私は思います。

（ヘレン・ヘイズ）

孤独は瞑想の助けになります。内的な沈黙こそが、本当の孤独なのですよ。

沈黙は静穏と観想をもたらす自然的な環境である。沈黙の欠けた生は、プライバ

シーの欠けた生なのだ。（ノーマン・カズンズ）

「……乗り物（vehicle）は残っていません」。私たちに乗り物が必要でしょうか？

完全な形で（人生のいかなる部分も余すところなく）マインドフルネスを実践すれば、

それで十分に違いありません。

私は自分が、組織のメンバーには決してなれないだろうと思います。党派的なドグマ

に縛られることは耐えられませんからね。私は精神的に自由に生きたい。「他人の目か

ら見て」意義のあることを、私は決して成し遂げることがないかもしれませんが、それ

については構わないと感じています。しかしながら内的には、私は以前には感じること

のなかった種類の自由を感じている。このように言うことで、正式な意味での悟りのど

こかの段階を指しているわけではありませんけどね。

友よ、明晰で賢明であれば、あなたは安らぎに満ちた生を送ることができるのです。

どうして他人のことがそんなに気になるのですか？ あなたは自分が彼らに対して、責

任があると思っているのですか？

何事についてであれ、不幸でいる価値なんてないのですよ。私が常に幸福だと言いた

いわけではありません。ただ、何かに同一化してしまっている大きなエゴが存在すれば、

そこには不幸も存在するということはわかります。

再びあなたの言葉から。「私の言っていることはおそらく、私は自分自身の心の中で、

真の実践に忠実で、同時に西洋文化の奇妙な物質的要求も満たすような、いかなるバラ

ンスのとれた形のダンマの実践が、ここ西洋において確立され得るのかという大きな問

題に、決着をつけきれていないということなのだと思います」。これは大きな問題です

ね。まずはあなた自身で、この問題に対する答えを出してください。

人が己の実践において明らかに観察すべき、まず第一に、そして最も重要なことは、

不健全な思考は人を不幸にするという真実であると私は思います。不健全な思考を克服

しようという話ではありませんよ。そうではなくて、ただそれらをそのまま明らかに観

るのです。

121

人々は何を欲しているのか？ 彼らは幸福を欲しているのであって、痛みを欲してい

るわけではありません。ですから、何が不幸をつくっているのか観てみましょう。人は

不健全な思考こそが自分を不幸にしているのだということを観ることがない。ほとんど

の人にとって、そのことを受け入れることは難しいのです。彼らは感覚的快楽と自分の

欲しているあらゆるものが、自分を幸福にし得ると思っている。内的に幸福であれば、

幸せであるためにさほど多くのものは必要ありません。

禁欲的な理想を除いては、人の生は動物的で無意味なものであった。（ニーチェ）

最もスピリチュアルな人々は、最も強い人々である。（ニーチェ）

公衆の語る嗜好に対してたった一つでも譲歩してしまえば、思想家は最終的には、

自身の知的な高潔さを失ってしまうことになるかもしれない。（ニーチェ）

偉大な力は、偉大な自己統御の内に現れるのだ。（ニーチェ）

己の内奥の自己をどのように統制したらいいのか知らない全ての人たちは、

隣人の意志を自己の慢心に沿って進んで統制しようとするだろうから。（ゲーテ）

あなたの最も美しい幻想は何ですか？

ああ！ 美しい夢！ それらは私を幸せにしてくれ、私を養ってくれた。若い頃には、

夢は有益なものだったのです。いま私は、それらが夢に過ぎないことを知っています。

時に私は、自分が再び夢見がちになれたらと思いますよ。無知がもたらす無常の喜び！

でも、いいえ、そんなことは不可能です。私はこの山を、白昼に独りで登らなければな

らない。私は仲間を切望するけれども、でも悲しいことに、一人も得ることができませ

んでした。頂上に独りで登ることもできるように、私は自分の心と身体を、より強くし

なければならないのです。

私は孤独が何を意味するか知っています。いまはそのための準備をしているのですよ。

それが私の運命ですね。甘い、甘い孤独です。

私の実行してきた種々の訓練の中で、定期的に内的に孤独になる期間をとる習慣

以上に、私に寄与してくれたものはない。私たちは、道徳的な決断をする人生にお

ける偉大な時間において孤独でなければならないし、痛みと悲しみの中で孤独でな

ければならないし、老年と死に向かう過程において孤独でなければならない。孤独

の中で何を為すべきかを学び、その中でどんな仲間を見出すかを知るに至った人は

幸運である。何という剛毅、何という満足。（ウィリアム・サリヴァン）

122

友よ、自分自身と深く触れ合ってください。

私はますます、教えることに消極的になってきています。しかしそれでもまだ、テキ

ストに書いてあることは全て信じる正統な仏教徒ではなくて、知的で開かれた心の持ち

主と話をすることには興味があります。説教者のように、あたかも自分が何でも知って

いるかのように語る人の話を聞くのは最悪ですね。それはできない。

あなたの話を書いていただければ、私は読みますよ。理想の対立する戦場にいる人。

ユダヤ系アメリカ人の仏教徒。あまりにも多くのことを知っていながら、自分の人生を

どうしたらいいのかはわからない人。世界に笑劇（冗談）を見て取って、自分自身を含

めて何事も真面目に受け取ることができないのだけど、それが自身にとって真面目な問

題になってしまっている人。（これは私にとってもそうなのです。ただ、私は自分の心

に、もっとずっと自覚的ではありますが。）

手放してください！ 観察するのです！

「他人の親切を評価する代わりに、人々は彼のことを、ちょろくて愚かで使えるやつ

だと考えて、彼を操作しはじめます。なぜでしょう？」。それは彼らが、他者への敬意

を有していないからですよ。人々とよい関係を保つことを、学んできていないのです。

ひょっとしたら、彼らは敬意をもって遇されたことが、一度もないのかもしれません。

私たちはこうしたことを、書物ではなく、自分の経験から学ぶのです。彼らは互いに操

作し合っている人々、両親や配偶者と、暮らしてきたのかもしれない。

他者を操作しない人を探すことは、とても大変です。他者を信頼もしくは尊敬してお

らず、また自分自身のことも信頼していないから、私たちは他者を操作する。私たちが

互いに尊敬し信頼し合えていたら、互いに操作し合うことはないでしょう。操作は弱さ

と未成熟のしるしです。

生は神秘的なものです。

そのことを感じ取れない人は、喜びも驚嘆の念も、見出すことはありません。

生を説明し去ってしまおうとする人たちは虚しいものです。

彼らが成功することは決してない。

私は科学者であるよりは神秘家でありたいと思います。

神秘家の中には、同時に科学者である者もいるのですよ。

（サヤドー・ウ・ジョーティカ）

欺瞞（自己欺瞞）が、成長や洞察に繋がることはありません。真実を見たいのであれ

ば、あなたにまず必要なのは勇気と誠実さです。

私たちの一部は天使であり、そして一部は悪魔です。私たちが悪魔を否定すれば、そ

れは暗闇から私たちを脅かす。悪魔を白昼の下へ、出て来させるようにしてください。

フィクションとマーヤー（幻）と自己暗示は、人生をさらにもっと虚しくします。

123

私たちの社会――実に多くの、さみしく不安で空虚な人々をその内に含む――の

中には、愛を装ったあらゆる種類の依存がある。それらの中には、様々な形の相互

援助や互恵的な欲望の満足（それらは正しい名前で呼ばれれば、かなり健全なもの

かもしれない）から、個人的な取引の形式をとるもの、そして明らかに寄生的なマ

ゾヒズムに至るまで、種々のヴァリエーションが存在する。独りでは孤独と空虚さ

を感じてしまう二人の人間が、互いを孤独の苦しみから遠ざける一種の暗黙の取引

の形で互いに関係をもつことは、必ずしも稀に起こることではない。（ロロ・メイ）

悲劇的なことは、自身に関する現実と真実を見ることである。

容易に気が散ってしまう人は、次から次へと気づきを入れていくことに、心を専念さ

せておいたほうがよいでしょう。落ち着いてマインドフルである人は、何であれやって

来るものを、ただ観察することができます。

挫けてしまった時に、おかしくなっているのはあなたの態度なのだ。

（マイスター・エックハルト）

あなたに生きる目的が何もないのであれば、それはつまり、あなたが人生において何

事にも価値を置いておらず、中心がどこにもないということです。価値を置いている全

ての理想が、借り物であるということ。ある時点、例えばいまこの時に、依って立つこ

とのできる硬い地面がないのです。

……中心を外側から流用することは決してできない。

難しいことではあるが、私たちは自身と自身の存在する社会を受け容れ、自身へ

のより深い理解、および我々の歴史的な状況に勇気をもって直面することを通じて、

自らの倫理的な中心を見出さねばならない。

いかに愛するかを学ぶための最も建設的な出発点は、いかに私たちが愛せないか

を見ることである。（ロロ・メイ）

許すことは理解することです。

許すことは自由になること。

誰かを許すことができない時

あなたは縛られている。

無我を観察するならば

124

そこに許すべき人がいるでしょうか。（サヤドー・ウ・ジョーティカ）

以下、実に示唆に富むように思われる抜粋をいくらか引きます。

いまやよく知られた心理学的な傾向であるが、ある一つの態度や感情を抑圧する

時、私たちはしばしば、ちょうど正反対の態度を表面的に行う、もしくは装うもの

である。例えば、あなたはしばしば、嫌っている人に対してとくに礼儀正しく振る

舞う自分自身を、見出すことがあるかもしれない。

さらに言えば、私たちが己の憎しみや憤慨に開かれた態度で向き合わなければ、

それらは遅かれ早かれ、誰の得にもならない一つの結果、即ち自己憐憫へと、向か

ってゆくことになるだろう。自己憐憫というのは、憎しみと憤慨の保護された形な

のだ。

……己の憤慨に率直に向き合い、それを乗り越えることがなかったならば、本当

の愛にも道徳にも自由にも、決して至ることはできないのだ。

自由とは反抗ではない。

自由とはつまり開かれていることであり、積極的に成長しようとしていることだ。

それが意味するのは、柔軟でいて、より偉大な人間的価値のために、積極的に変化

しようとすることである。

……人は常に社会的な世界の中に生きており、そしてその世界が、彼の心理学的

な健康を条件付けている。

したがって、よい社会とは、それに属する人々に最も偉大な自由を与えるもので

ある――消極的・防衛的に定義される自由ではなく、さらにもっと偉大な人間的価

値を実現する機会として、積極的に定義される自由をだ。

自由とは、自身の発達に関わり得るという人の潜在的な能力である。自身を形成

できるということが、私たちに潜在する能力なのだ。

……自己に対する気づきが少なければ少ないほど、それだけいっそう、その人は

不自由である。

125

気づきがより多いということは、選択肢がより多いということです。だからより自由

なのですね。

自由とは、人が現実と人生を調和させる仕方に表れるものだ。

健康であることを責任をもって選ばない人に、健康を達成できるかどうかは疑問

である。

したがって、自由とは単に特定の決断に際して「はい」か「いいえ」を言うとい

うことではない。それは自身を形成し創造する力なのだ。

自由とは、孤絶のうちに生きようとすることではない。それが意味するのは、人

が自分の孤絶に向き合うことが可能であれば、彼は自身と世界との関係、とくに自

身の周囲の他者が形成する世界との関係の構造の中にあって、ある程度の責任をも

って行動することを意識的に選択することが可能であるということなのだ。

人は自身の基本的な決断を、自ら行わねばならない。

成熟した人間のしるしとは、その人の生が自ら選んだ目標をめぐって統合されて

いるということである。彼は自分が何を欲しているか知っている……

社会に伝えられた信条と伝統は、個人の生命力を抑圧する死んだ形で結晶化され

がちである。

したがって、本当に大切なことは、倫理と宗教において何が健康的なものである

かを区別し、個人の価値と責任と自由を減少させるのではなくて増大させる保障を

担保することである。それゆえ、自らの人生をそれをめぐって統合し得るような諸

価値を探し求めている現代人は、容易で単純なやり方など存在していないという事

実に、正面から向き合う必要がある。

……より正確に言えば、それは、自己に対する気づきの拡大と、成熟と自由と責

任感に向かって努力を重ねなければならないという全ての人間の必要と、ずっと子

供のままでいて、両親あるいはそれに代わる存在の保護下にいたいという人のもつ

傾向性とのあいだでの、葛藤なのではないか？

（この引用で言われているのは、「成長せよ！」ということですね）

126

個人の宗教とは、彼の意志を破壊し、その人を幼児的な発達段階に留め置いて、

彼が自由と個人的な責任の不安を回避することを可能にしてくれるものであろう

か？ それとも、それは彼の尊厳と価値を肯定する意味づけの基礎として、つまり

彼が勇気をもって自分の限界と通常の不安を受け容れる基礎ともなるが、また自分

の力と責任感、および仲間を愛する能力を育てる助けにもなるものとして、役立つ

ものなのであろうか？（ロロ・メイ）

他人の力の餌食になってしまうという問題は、面倒を見られたいという人の幼児

的な願望によっても、もちろん強化される。

幸福と成功は「善良であること」によって得られると人々は教えこまれてきてい

るが、後者は一般には従順であることだと解釈されている。しかしながら、既に示

してきたとおり、単に従順であることは、個人の倫理的な自覚と内的な強さの発達

を蝕んでしまう。長いあいだ外的な要求に対して従順であることによって、彼は倫

理的で責任ある選択をする、本当の力を失ってしまうのだ。このことは奇妙に響く

かもしれないが、そうした振る舞いを続けていると、その種の人々が善を遂行する

力と、またそれに伴う喜びは減少してしまう。

……倫理的な自律を譲り渡してしまった人は、それと同程度に、美徳と幸福を得

る力も放棄してしまう。彼が怒りを感じるのも不思議はない。

宗教の神経症的な用い方には、一つの共通点がある。それらは個人が己の孤独と

不安に直面することを避けるための、道具として使われているのだ。

……人間は自己の深みに基本的には独りでいる……究極的には独りで選択をせ

ねばならない必要性から、逃げ出して頼みにすることのできるものなどないのだ。

……絶望と不安は、むき出しに全てを顕わにした現実のそれらと向き合わない限

り、乗り越えることはできない。

成熟および、孤独の最終的な克服は、人が勇気をもって自分が独りであることを

まず受け容れた時に、はじめて可能である。

何の不安によって、私はいま権威の羽の下に駆け込みたいと願っているのか、そ

して、自分自身の何の問題を、私は避けようとしているのか？

127

私たちは宗教を、人生に意味があるという想定であると定義する。

宗教とは、何であれ個人が自分の究極的な関心事として受け取るものだ。

……心理学的には、宗教とは個人が自分の存在と関わる仕方として理解されるべ

きである。

しかしながら、個人がその価値を自ら肯定することができていない限り、即ち、

彼自身の内的動機、彼自身の倫理的な自覚が出発点とされていない限り、価値に関

してどんな議論をしようとも、そこに本当の意味での差異はあまりないだろうとい

うことを、私たちは強調しておく。

報酬として要求される愛というのは、全くもって愛ではない。

私たちは愛を、己の要求や犠牲や必要に応じて受け取るわけではなくて、自分自

身の愛する能力にだいたい応じて受け取るのだ。そして他方、私たちの愛する能力

は、それに先立って自分自身の足で立つ人間である能力に依存する。

私たちが真実を見ない理由は、私たちに十分な勇気がないからである。

自分が「元気づけられる」必要があるかという問いに「いいえ」と言うことがで

きている時、言い換えれば、自分は面倒を見られるべきであると要求しないでいる

ことができていて、独り立つ勇気がもてている時は、彼は権威ある者として語るこ

とができるのだ。

自分の人生を意識的に方向づけることができていればいるほど、それだけ彼は、

時間を生産的な利益のために使うことができるのである。真実を見ることのできる

能力は、それゆえ感情的・倫理的な成熟度にしたがう。そのように真実を見ること

ができていれば、彼は自分の言うことに自信が得られる。自分自身の信条に、抽象

的な原理や語り聞かされたことを通じてではなく、自分自身の心と経験から確信が

もてるようになるわけだ。

自己に対する気づきを欠いていればいるほどに、ますます彼は、不安と不合理な

怒りと憤慨の餌食になってしまうことになる。怒りは一般に、私たちが真実を見る

ためのより繊細な手段を使用することを封じ込めてしまうが、不安は常に私たちを

封じ込めてしまうのだ。

128

私は人生を通じて一人の学生であった。しかし、私は内から発する自分自身の普

遍的な真実を、私の自由の行使を通じてつくりだす。真実に関する私の知識は、真

実に対する私の関係なのだ。

成熟した愛を与え受け取ることのできる能力は、十全に満たされた人格を測るた

めに、我々のもつ最も健全な尺度である。

……最初に最も大切なことは、感情を正しい名前で呼ぶことである。そして、い

かに愛するかを学ぶための最も建設的な出発点は、いかに私たちが愛せないかを見

ることである。

しかし、孤独に打ち勝つために「愛」へと没頭するのであれば、その目的は、両

者がますます虚しく感じることによってのみ、達成されることになる。

愛というのは、既に述べたように、一般には依存と混同される。しかし事実とし

ては、あなたはただ自分が自立できる能力に応じてのみ、愛することができるのだ。

（上記のほとんどは、ロロ・メイの『人間の自己探求（Man’s Search for Himself）』2、

もしくは、カール・ロジャースの『学ぶ自由（Freedom to Learn）』3より引用）

2 邦訳に、『失われし自己を求めて』（小野泰博、小野和哉訳。誠信書房）がある。

3 邦訳に、『学習する自由』（畠瀬稔、村田進訳。コスモスライブラリー）がある。

129

第七章：友情、人間関係、慈愛の念

人の心の鍵は何でしょう？（理解）

人生において最も価値あるものは人間関係（友情）です。

人間関係が本物でなければ、人生も本物ではあり得ません。

人間関係は聖なるものです。

私があなたに差し上げられる最上のものは、私の友情です。

人間関係は、最も大きな喜びと、最も大きな精神的苦しみの源です。

私たちの人生の質は、周囲の人々と私たちがもつ関係性の質に大きく依存します。

よい友人をもつのは素晴らしいことです。カルヤーナ・ミッタ（善友、高貴／スピリ

チュアルな友人）がいなければ、人生は実に平板なものでしょう。

友人をもつということは、なんと稀なことか。

友よ、私に残っている友人は、あまり多くはありません。ですから、どの人であれ、

まだ残っている友人を、私は大切に思っています。

友人をもつということは、人生で最も素晴らしい経験の一つです。自身と世界に関す

るますますもって深い理解を育てることも、また実に素晴らしいこと。私にとって、理

解とは人生において最も満足を与えてくれることなのです。

私たちの友情に、時空の隔てはありません。

私には関わりをもつことのできる新しい友人がたくさんできました。私は彼らに何も

期待してはいません。ただ開かれた心で、自由に流れるようなコミュニケーションをす

るだけです。

ええ、私もまた、「ある種の誠実な仲間を求めるより深い渇望」をもっています。

あなたや彼、私の娘やかつての妻との関係を、伸び育ってゆくような関係にしたいで

すね。

人間関係というのは、たいていの場合、本当の意味で頼りになるものではありません。

ほとんどの関係は、ただのゲームです。誠実で開かれており、心のこもった真のもので、

操作することも支配することのない関係であり、そこには互いの尊敬と信頼があって、

非現実的な期待はない――そんな関係は可能でしょうか？

C. ロジャースの、『学ぶ自由』から引用したいと思います。

さらに言えば、私には読者を導きたいとか、あなたをこの分野の知識によって感

心させたいとかいう望みはない。どう考え感じ行うべきかなどと、あなたに指示す

るつもりもないのだ。ただ一つ私の思いつく解決策は、おそらく私は自身の何事か、

人間同士の関係における経験のうちの何事か、他者とのコミュニケーションにおい

て私であるとはどういうことであったかということから何事かを、あなたと分かち

合うことが可能だということである。

130

……人間同士のコミュニケーションというものは、部分的にしかほとんど達成さ

れ得ない。おそらく、あなたは他者から完全に理解されたと感じたことが一度もな

いであろうし、私も同じことである。しかし、ある瞬間に、自分のことを他者に本

当に伝えることができた時には、私はそれを、圧倒的に価値のあることだと感じる。

時にはしばらくのあいだ、他者に本当に近づいて、完全にふれあえたと感じること

があって、そういう時間のことは、実に貴重だと思うのだ。

なぜ他者の言葉を聞くことが私に満足をもたらすのか。その理由を、私は知って

いると思う。本当に他者の言葉を聞くことができた時には、私は他者とふれあうこ

とができるのだ。それが、私の人生を豊かにしてくれるのである。（C. ロジャース）

人は彼／彼女の心理的な成長のために、よい人間関係を必要とします。よい関係性は

人生の必需品なのです。よい人間関係の中にあって、人は学び成長する。よい人間関係

がなかったら、私たちはロボットのようなものです。悪い人間関係とともにあれば、私

たちは獣か、あるいはそれ以下の存在になってしまう。人々は他者とよい関係を結ぶこ

とができていないので、ますます非人間的になってきています。

人間関係は、私たちが心理的に成長する土壌となるものです。土壌の質が悪ければ、

私たちは上手く成長しなかったり、生育不全になってしまう。土壌の質がよければ、私

たちは上手く成長し、強く成熟することになります。よい人間関係を欠いていたら、本

当の心理的な成熟はあり得ません。だから私たちは、コミュニケーションが誠実であり、

スムーズであり流れるようで、またあらゆる種類の恐怖を含まないような人間関係を、

必要としているのです。悪い人間関係は、有害なものです。

誠実さと開放性、理解と気遣い、そして慈愛の念と忍耐があれば、人間関係は上手く

ゆきます。ほとんどの関係性は、自由な情報の流れ（開放性）、真の気遣い、互いへの

本当の尊敬、そして私たちは全て人間である（各人がそれぞれの不完全さと限界をもっ

ている）という理解を欠いているから、上手くゆかないのです。他人に多くを期待し過

ぎることもまた落胆の原因であり、それが（これは私の期待していた、あるいは受容で

きることではないと考えることで）拒絶に繋がります。

開放性とガードを下げること、それに誠実さとメッター（慈愛の念）と理解があれば、

人間関係はよいものになりますし、それがスピリチュアリティーや成熟を促進すること

にもなるでしょう。ほとんどの関係性は、しばらく経つと決まりきった作業（活気のな

い、停滞したもの）になります。

誠実さがなければ本当のコミュニケーションはあり得ず、本当のコミュニケーション

がなければ本当の人間関係はあり得ない。そして本当の人間関係がなければ、本当の人

助け（援助、教授など）はあり得ません。

あなたにはよい友人が一人（もしくは複数。可能であれば、そのほうがよい）必要で

す。友人のいないところで、人は暮らすことができません。しかし、友人とは何でしょ

131

うね？ それと、あなたは自分の気質に合った場所に住む必要もあります。

苦しんでいる存在にあわれみを抱くのは簡単です。しかし、その人とともに残りの人

生を過ごすことは簡単ではありません。

二人の人間が一緒に住んでいるというだけでは、愛としては十分ではありません。深

い相互理解が必要なのです。あなたが彼のあり方を変えることを望まずに、彼の全てを

受け容れることができるかどうか考えてください。そしてまた、いまのありのままの彼

のことを、尊敬できるかどうかについても。依存的な関係性は、上手くゆくことがあり

ません。

人間関係は、手段として用いられてはなりません。それは愛と理解、尊敬と正しい認

識に行き着かねばならない。誰も完璧ではないのです。時に人間関係は、それが正しい

態度に根ざしていない場合、愛憎のもつれに至ることがあります。

結婚やその他の人間関係を、問題を解決する手段として用いることがないように。人

はただ、ありのままの姿を互いに愛し、尊敬し、正しく認識（してそれに感嘆）するが

ゆえに、相互に関係を結ぶのでなければならないのです。そうでなければ、真の人間関

係はあり得ません。

恋に落ちるのは構いませんが、急いで結婚しようとはしないこと。ひとたび親密な関

係になってしまうと、人は変わるものですから。

誰かを本当に愛していると確信するには、一生涯かかります。干し草の山は派手に燃

えますが、その炎は少しのあいだしか続きません。燠火は見えないほどにしか燃えませ

んが、その炎は長く、長く灯り続ける

結婚は悪いものではありません。調和のうちに暮らし、互いにダンマの実践を助け合

っている夫婦を、私はたくさん見てきました。そういう事態は、実に稀ではありますけ

どね。

あなたのことを気遣ってくれる人を見つけるのは、実に稀なことです。愛する時は、

関係性が続くことを望まないようにしてください。輝く夕日がそこにあるうちは眺める

のです。ただ、それに執着してはいけません。

メッターには多すぎるということは決してありません。普通には、私たちは少なすぎ

るメッターしかもっていない。本当のメッターがあなたを不幸にすることは決してあり

ません。あなたを不幸にするのは、執着であり期待です。自分のメッターのお返しとし

て、メッターを期待することはできません。メッターは、取引できるものではないから

です。期待が存在しているならば、それは私利私欲だということです。愛されたいがゆ

えに誰かのことを愛するなら、お返しにメッターを得られなかった時、私たちは傷つく

ことになります。

感覚は去来し、願望も去来します――それらは去来するままに任せておきましょう。

やって来ては去る感覚や願望を、あまり真面目に受け取らないこと。ただ注視するので

す。それらをコントロールしようとせず、別のありように変えようと望まなければ、あ

132

なたがそんなに腹を立ててしまうことはないでしょう。コントロールしておこうという

願望によって、私たちは疲れきってしまうのです。私たちが苦しむのは、心があるから

ではありません。私たちは願望をもっていて、それらをあまりに真面目に受け取り過ぎ

てしまうから、苦しむことになるのです。

あなたと彼が、スピリチュアルな成長の旅において助け合う一生の法友（dhamma

friends）になれることを、私は願っています。観念と理想を他者に押し付けることは、

大きな対立の原因になる。裁くことや非難することも、あまり役には立ちません。それ

は孤独に繋がることがあり得ますからね。あなたは彼のことを変えられないし、彼はあ

なたのことを変えられないのです。相手が変わるべきだと期待することは、自由なコミ

ュニケーションを阻害します。人間関係において、期待はもたないほうがよいですよ。

分かち合うことと気遣うことは、既に十分な癒しの効果をもちます。そうすることが、

彼が自分のあらゆる感情から解放されることに繋がるでしょう。人々は自分の感情から

解放されたがっているのですが、他人から見下されるだろうとか、誤解されたり操作さ

れたりするだろうとか、自分の全てを知られてしまったら、色々なことを言われたり、

愛されないことになるだろうとか、普通でないと思われてしまうだろうとか、そういっ

たことを恐れてもいるのです。ですから、人々は自分の痛みや恐れ、落胆や切望を一生

のあいだ全て抱えて歩き、ずっと孤独なままでいながら、タフな人間であるふり

、、

をする

のです。しかし、裁いたり陰口を言ったりすることなく、全てを知った後でさえもまだ

愛してくれて、本当に気遣ってくれる人に会った時には、彼らの心は融けてしまう。

無条件の受容が、彼の必要としているものです。あなたは彼に、その種の受容を与え

られますか？ もし……なら結婚する。もし……なら結婚しない。この「もし」が本当

に恐ろしい、人を脅かすものなのです。

誰かが「愛してるよ」と言ってくれたら、私たちはすごく幸せになる。しかし、本気

でその言葉を信じているわけではないのです。私たちは常に心の中で、「彼／彼女が私

についてもっと知ったら、彼／彼女はもう私のことを愛してはくれないだろう。その時

のために準備をしておかねばならない。拒絶される準備が必要だ」という恐怖を抱えて

いる。私たちは完全な信頼をもってはいないし、常に不安定なのです。「愛してるよ」

と言う時に、私たちは本当に確信をもってそう言っているでしょうか？ そんなことは

実に稀ですね。

自分のことを本当に理解してくれる人と知り合うことは、実に稀なように思われます。

自分のことを理解してくれる人（あるいは少なくとも、理解しようと試みてくれたり、

共感しようとしてくれる人）が誰もいない時は、とてもさみしく感じられる。この五十

億の人々がいる世界に、孤独な人がどれほど存在していることでしょう？ 人と人との

あいだに、本当のふれあいというものは存在するのでしょうか？ 私たちは、本当に他

者にふれることが可能なのか？ あなたは、他者に自分をふれさせるつもりがあります

か？

133

多くの人々が私に、「あなたは私を理解してくれるたった一人の人です」と言いまし

た。その言葉を何度も聞いて驚きましたよ。そう言う彼らの口ぶりは、本当に胸を打つ

ようなものなのです。私は努力はします。人々のことを深く理解できればと、私は望ん

でいる。全ての人のことを、理解しようとは思っていませんよ――それは私にとっては

あまりに過大なことでしょうから。ただ少なくとも、私は自分の娘たちとその母親、そ

して親しい友人たちのことは理解したいと思っています。

あなたは誰かが自分を愛してくれることを欲する。にもかかわらず、自分が誰かを愛

した時には、あなたは自分が相手の愛に値すると感じないのです。自分がその愛に値す

ると感じるために、あなたは自分を犠牲にしなくてはならないのですが、その種の人間

関係は、決して安心できるものでも満足のゆくものでもありません。人間関係において

安心できること。それはただ、自身が成熟して安心している人たちにとってのみ可能な

ことです。不安と無価値の感覚を抱えている人たちは、人間関係において安心を感じる

ことが決してありません。

人は普通、自分のために犠牲を払った人のことを愛することはありません。相手が誰

であれ、借りのある状態は好ましいものではないからです。自分がどれだけ犠牲を払っ

たかということを相手に思い出させたりしてしまったら、ますますその傾向は強くなる。

おかしいですか？ ええ、人というのはおかしなものなのです。誰かのことを助けてあ

げた時は、事後にはそのことを忘れてしまうのがいちばんでしょうね。もし相手が覚え

ていたら、それは相手がいい人だったということです。しかし、もしあなたが自分がど

れだけのことをしてあげたかを彼らに思い出させたりしたら、彼らはそのことで、あな

たを憎むことになるでしょうね。

「彼のために自分を犠牲にすれば、彼は私のことをずっと愛してくれるに違いない」。

いいえ！ 自分を騙さないでください。

「私はあなたのことを、あなたが私にしてくれたことのゆえではなく、あなたが何者

であるかということのゆえに愛している」。

「私は彼のことを許すし、彼は私のことを許してくれる。それで、私たちは互いに愛

しあうことになる」。いいえ！ それはある種の取引です。

わたしはあなたに、彼が自分に本当のことを言っているのかと、常に疑心暗鬼になり

ながら人生を送ってほしくありません。そんな生き方をしていたら、あなたの精神的・

肉体的エネルギーは、全て吸い取られてしまうことになる。ええ、嘘つきには何だって

できるのです。私は自分が信頼できない人と一緒に暮らしたくはありません。私は過ち

を許すことはできますけれど、信ずるに値しない人と一緒に暮らすことはできません。

R. D. レインの『正気と狂気と家族（Sanity, Madness and Family）』を読んでみてく

ださい。自分に真実を語ってくれないであろう人たちと暮らしていると、気が狂ってし

まう可能性があるということがわかるでしょう。

人助けをするのは構いませんが、本当のことを言わない人と深い関係に入ってゆくの

134

は、全く負担の重いことです。「信頼も尊敬もできない人とは、十全で満たされた関係

をもつことはできない」。

あなたや私を含めて、人は愛されることを欲しています。しかし、愛されるために私

たちが何を行うかということはまた別の話です。

無条件に愛される。それが私たちの本当に求めていることです。しかし、私たちは自

身のことを、無条件に愛することができるでしょうか？

あなたは自分のことを愛していますか？ 奇妙な問いですね。私たちは、この問題に

ついて考えることがない。

理解するよりは愛することのほうが簡単ですが、両方がともに深まってゆけばなおよ

いですね。

依存的になったり所有的になったりすることなく愛することを、私たちは学ばなくて

はならない。純粋な愛（メッター）は、痛みを引き起こすことがありません。

本当のメッターが、人間関係には必要です。それがなければ、関係性に大した意味は

ありません。受容と理解と寛容は、メッターとともに現れる。私たちは完璧ではないし、

誰も完璧ではないのです。自身の不完全さを観察して、それを肯定できることは、私た

ちの幸福だけでなく、私たちの実践の進歩にとってさえ、とても大切なことなのです。

自身の不完全さを受け容れることができなければ、どうして他者のそれを受け容れるこ

とができるでしょうか？

人々が互いに可能な限りの自由を積極的に与え合って、あまり操作的になったり上か

ら振る舞ったりしなければ、調和を保って暮らしてゆくことができるでしょうね。

「慈愛の念の力、たとえそれが個人的なメッター、つまり特定の人に対するメッター

であっても、その力は人のスピリチュアルな生にどれほどの影響力をもち得ることでし

ょうか」。そのとおりですね。

本当の愛と深い理解は、いかなる感覚的な快楽や金銭よりも、ずっと大きな満足感を

与えるものです。さらに言えば、気づきと智慧に基づいた生き方は確実に、人生を生き

るに値するものにしてくれる。

誰かに対するメッターを、彼らが自分に親切にしてくれるだろうという期待をもって

抱くことはできません。あなたは幸福で安らかになりたい。そうであれば、同じ態度を

他者にも広げるようにしてください。他にやり方はありません。自身が自身に望む全て

のよいことを、他者にも同じように望むべきなのです。

私たちは多くの人々――もし可能であれば、自分の周囲の全ての人々――からのメッ

ターを必要としています。今日では、たいていの人がメッター欠乏症（mettā-deficiency

syndrome, MDS）に苦しんでいる。メッター（慈愛の念）、カルナー（共感的な同情）、

シーラ（道徳）、サティ（マインドフルネス）、そしてパンニャー（智慧）を欠いている

から、ほとんどの人が狂っているのです。彼らは贅沢品と新しい玩具に惹きつけられて

いて、それで自分の心の優れた徳性が見えなくなってしまっている――いわば、悪魔に

135

魂を売ってしまっているのですね。

自分を幸せにできる人を、あなたは見つけられると思いますか？ 自分をずっと無条

件に愛してくれる人を、見つけられると思いますか？

「私たちが他者を気遣うのは、自分自身を気遣っていることと同じなのです。私たち

皆が共有している存在に、深く敬意を払っているのですね」。エゴがなくて、全ての生

き物が関係していることを目の当たりにしている時に言うのであれば、これはそのとお

りです。

「あなた自身を傷つけることなしに、他者を傷つけることはできません」。ゆえに、

あなたが他者を助ける時は、あなたは自身を助けてもいるのです。つまり他者に対する

気遣いは、自身に対する気遣いでもある。このことを目の当たりにして感じるためには、

まず私たちは自分のエゴの感覚を失う必要があります。他者がいなければ、私は存在し

ない。誰も何物も存在しなかったらと、想像してみてください。その時のあなたは何者

なのでしょうか？ ですから、私たちの知っている人たちは全て、私たちの生に何らか

の仕方で影響を与えているのです。あなたはご自分が私に、私の人生に、どんな影響を

与えているか想像できますか？ 私があなたに、あなたの心に、あなたの人生に、どん

な影響を与えているか知っていますか？ それと同様の影響を、私も受けているのです

よ。あなたもまた、私の人生に大きな影響を与えています。あなたは多くの仕方で、私

の人生を豊かにしてくれました。

自分自身の心をもった女性は、自分自身の心をもった男性を愛することができます。

大人であって、心理的に独立しており、成熟していて、互いの個別性と自由を尊重して

いる二人の人物は、深くて長続きし、意義深くて成長に資する関係性を、結ぶことがで

きるのです。

私たちは奴隷を買うことができる。しかし、友情を買うことはできません。

恋愛に飲み込まれてしまっている時に、現実的になることはできません。恋愛という

のは非合理的なものです。それについて語ることができ、それを説明することができ、

それをもつ（感じる）ことさえできるがゆえに、私たちは恋愛を知っていると考える。

しかし、恋愛とはなんと不可思議なものでしょうか。私たちはそれを感じ、それによっ

て飲み込まれ、時には自分自身すら信じられなくなることもある。私が誰かのことを、

こんなに誠心誠意から愛しているというのは、本当に真実なのだろうか？ 私たちは常

にそんなふうに留保していて自分自身のことを信じることができないので、だから誰の

ことも信じることができないのです。

「私は君のことを、心の底から愛している。そして、君が私のことを愛していること

も知っている。そこには何らの疑いもない。これはもの凄いことだ。少なくとも私にと

っては、自分にそんなことが可能だと知ることが凄いのだ。そんなことは、一度も期待

すらしたことがない。全く知らなかったもののことを、どうして期待することができる

だろう？ だからこれは、驚きと言ったほうがより近い。私は本当に感謝しているよ。

136

感謝とは誰に？ うん、人生にだ」――快い痛みを伴う強いあこがれ。

誰かを心の底から愛したことがない（そして愛していない）ならば、あなたはまだ一

人前の人間ではないのです。あなたはただ潜在的に人間であるに過ぎない。

恋愛しているということは、つまり変性意識の状態にあることです。

恋愛は筋道だったものではない。それは理屈を超えたものです。

あなたは生き生きとして、感情に溢れています。そうしたことは、人生に時々起こる。

あなたの心がいまは開かれていると聞いて、私はとても嬉しいですよ。時には辛いこと

もあるかもしれませんが、それでもどうか、心は開くままに任せてください。私たちは

愛することを恐れ、拒絶されることを恐れている。真面目に受け取ってもらえなかった

り、操作されたりすることを恐れ、弱くなってしまって、時に自身が信じられなくなる

ことを恐れているのです。自分が誰かを本当に愛することができるということを、私た

ちは信じていないのですよ。

感情は全て、出てくるままに任せてください。自分の感情を書き留めて、無韻詩で表

現するのです。

結婚を急がないこと。彼女のことを、もっとよく知るようにしてください。彼女は一

人の人間であって、私たちの全てと同じく、彼女なりの欠点をもっています。人物の全

体を理解するよう努めた上で、そのゆえに彼女を愛するように。ただ彼女の部分である

とか、彼女に投影した自分自身とかではなくてね。

「彼女はとても誠実なんです」と言われましたね。それは最も大切な徳性です。誠実

さが欠けていたら、意義深い関係性はあり得ませんから。

「でも彼女は、すごく無理をして冷静さを保とうとしているんです」。あなたは何を

期待しているのですか？ 自分に首ったけになっている男に、彼女が首ったけになるこ

と？ もちろん彼女は、もっと注意深くあらねばなりません。きっと彼女にはある種の

経験があって、その時にも男性は彼女に首ったけになり、それで……。彼女はあなたを

愛することを、もっともっと学んでいったほうがよいのですよ。女性にとっては、賭け

るものはより大きくなりますからね。ただ愛だけで十分だというわけでもないのです。

ロマンチックな恋愛について、読んだり聞いたりしたことがあるでしょう。そのうちの

あるものは長続きしませんし、あるものは悲劇的な結末を迎えていますね。

「まるで神経に直接触れるような痛みです」。ええ、ええ、たしかに痛いのですが、

同時にあなたは、その痛みをなくしたいとも思っていない。それはとても貴重で、とて

も特別なことですよ。辛いことが、そのまま快いことでもあるのです。

女性に対する愛でさえも、スピリチュアルな経験になり得ます。スピリチュアリティ

ーは私たちの人生の全ての側面になければならない。そうしてはじめて、人生は美しく

意義深いものになるでしょう。

おわかりでしょうが、どのように心を開いたらよいか、どのようにガードを下げれば

よいか、他の人間を愛するにはどうしたらよいか、全ての因習を越えてゆくにはどうし

137

たらよいか、全ての限界を越えてゆき、超越したものを見出すにはどうしたらよいか、

といったことは、誰もあなたに教えることができないのです。

あなたがいま通過しつつあるものは、悟りの経験にいくぶん似ています。あなたはい

ま全く異なった世界にいて、そこには異なった価値観がある。あなたは異なった人間に

なってしまっていて、かつての自分と同じ人間になることはもうできません――変容は

不可逆なのですね。

「私は他者と、心と心でふれあうことに価値を置いています」。人々と心と心でふれ

あうことで、どのような感じがするかということを、私は知っています。ほとんどの人

間関係は、そこに双方向の（相互の）気遣い、分かち合い、ガードを下げること、誠実

さ、優しさ、繊細さ、そして真実で豊富なメッター（欲望ではなく）の流れを欠いてい

るから、上手くゆくことがないのです。それともう一つ、同じくらい大切な徳性がある。

即ち、他者を一人の人間として（性の対象としてではなく）深く理解することです。セ

ックスもまた、男女の関係性の一部ではあります。ですから無視されるべきではないの

ですが、それは本当に喜びを分かち合うことと調和的にあるべきであって、単に動物的

な欲望の充足であってはなりません。

私たちは愛について、あまりに多くのことを語ります。自分が何を話しているのか、

私たちは知っているのでしょうか？ 「私はもう現実とは何かがわからなくなったと、

感じられることも時にはあります」と言われましたね。現実とは何であったか、あなた

は知っていたのですか？ 現実について考えている限り、私たちはそこから切り離され

ているのですよ。現実と一つになっている時には、私たちはもう考えることがありませ

んから。

もしアドバイスを差し上げてもよろしいならば、自分がこの人生から本当に得たいと

思っているものが何であるのかについて、ゆっくりと時間をとって、自分の心を思いき

り深く理解してくださいと申し上げたいですね。人は次から次へと物事を行い、様々な

人間関係を出たり入ったりし続けることが可能です。人間関係に、あなたは何を期待し

ているのですか？ あなたが探し求めているものは何でしょう？ 自分の探し求めて

いるものがわからなければ、欲しがっていないものばかりが、手元に大量に残ることに

なります。

あなたが「心を基準に生きること」と言われる時に、言いたいことはわかります。私

が人々と関係を結ぶ際、そのほとんどについて、それらの人間関係を真正なものにする

何かが欠けているという強い欲求不満の思考を、ずっと私は抱えてきました。かなり多

くの場合において、私自身が、それを欠いているのです。だから長い目で見ると、物事

が上手くゆかない。何かが間違っているのです。しかし、いま私は、そのことに前より

もずっと自覚的になっています。でも、いくらかの人たちとは、友情がとても自然に起

こるのですよ。例えばあなたと関わることは、私にとってとても気楽なことです。

あなたがた二人が、互いに本当に心を開いて誠実であることを、私は望んでいます。

138

「それから彼らは、ずっと幸せに暮らしました」などということは現実存在しません。

何かしらの予想されていなかった問題が、常に起こってくるのです。私たちに必要なこ

とは、ただそうした諸問題を、知的に解決することだけです。

いくらか問題を抱えることは、必要なことですよ。困難な時期を、繊細さと忍耐をも

ってともに乗り越えた後は、あなたがたはより親密になり、互いをよりよく理解します。

この相互理解によって、関係性はより意義深く、長続きするものになるのです。愛だけ

では、十分ではありません。互いの気持ちや願い、夢や恐怖や望みなどを深く理解する

ことが、とても大切なのです。両親は私たちを愛している。なぜ私たちは、彼らと意気

投合することができないのか？

他の人間を愛するとはどういうことなのか、あなたが知ったのはとても幸運なことで

すよ。私には未来のことはわかりません。しかし、あなたの彼女に対する愛は、既にあ

なたの人生に、多くの深みと意義をもたらしていると私は信じます。そのことだけでも、

一つの生涯としては十分なことだと思いますよ。ほとんどの人たちが、心をこめて愛す

るとはどういうことかを知らないままに、生きて死んできたのです。それに関する歌で

あれば、彼らは歌っていますけどね。

ナイチンゲールは自分の胸を

刺で貫くのだと言われている。

彼が愛の歌を歌う時には

私たちもそうするのだ。

他に私たちが、どんな歌を歌うべきだというのか？（ハリール・ジブラーン）

彼女とあなたが、いまや親密だと聞けてよかったです。どうぞ生きている現実を、知

るようにしてください――彼女の心を、彼女の気持ちを、あなたとアメリカに適応する

ための彼女の困難を、そして彼女が心に抱いている葛藤がもしあれば、それのことも（ほ

とんどの人々が、葛藤を抱いています）。あなたは彼女の心の深みを本当に知っていま

すか？ 彼女であるということがどういう感じがするものか、知っていますか？ 彼女

があなたと結婚してくれなかったらどうしますか？

人間関係を本当の意味で成長に資して満足がゆき、永続して生き生きとしたものにし、

単なる決まりきった作業にしないものは何でしょう？

「私は彼女のことがすごく欲しかった……。しかし、いま私は何が欲しいのでしょう？」

と書いておられますね。この問いはたいへん重要なもので、誰もあなたに答えを与える

ことができないものです。答えを求めるためには、あなたは自分の内面深くを見つめる

必要がある。

心の結合――深く直観的な相互理解。非言語的なコミュニケーション。神秘的で、全

ての理屈を超えたもの。二人はこの輪廻の世界を、互いに愛し、気遣い、助け合いなが

139

ら、ともに巡ることになるという体認された知識。二人のあいだの理解はますます深ま

ってゆき、ついには二つの心は完全に透き通しになるに至ると知っていること。恐れも

なければ秘密もなくて、完全な信頼が存在しており、ゲームもロール・プレイングもし

ていなくて、ガードを下げた状態でいる。こうしたことは可能でしょうか？

彼女に自身のことを、全て語ってくれるよう頼んでください――彼女の子供時代、彼

女の両親、彼女の兄弟姉妹、彼女の願望、彼女の恐怖などについてです。「そんなわけ

で、おかしくなるほどの強い渇望は薄まりました」と言われましたね。そしてまた、「こ

れは単に、それが自ら薄まっただけでしょうか？ それとも部分的には、私が徐々に彼

女の愛情を獲得することに成功してきたからでしょうか？」とも。生というのは、これ

ほど大きな（感情の）強度とともに続いていくことはできません。そんなことになった

ら、あなたは燃え尽きてしまうことでしょう。ほとんどの場合、感情の動きというのは

ただシンプルなもの（であり、またそうあるべき）なのです。

全て自然にあるものは循環します。そのように強烈な感情を常に伴いながら、生き続

けることはできないのですよ。そんなことになったら、あなたの生存が危険に晒される

ことになるでしょうし、人生において行う必要のある普通のことも、できなくなってし

まうでしょう。強烈な感情というのは、エネルギーの消費量があまりにも大きいのです。

私は強烈な感情の価値を否定したり、あるいはどんな仕方であれそれが重要でないと言

ったりしているわけではないですよ。それは私たちに、「本当に生きている」とはどう

いうことかということを、かいま見させてくれるものです。そしてまた、強烈な感情は

私たちの価値観や、私たちの目標も変えてしまう。あなたの二番目の問いにもまた、肯

定的に答えることができますね。あなたは彼女の愛情を得てしまった。だからあなたは、

もうそれが得られないのではないかと心配する必要がなくなったのです。この心配のゆ

えに、あなたはおかしくなるほどの渇望を感じていたのですが、しかしそれがなくなっ

たからといって、あなたの彼女に対する愛が、以前より少なくなったというわけではあ

りません。この事態が意味することは、あなたの心が、いまはより安定したということ

です。熱く、燃えるような渇望（もしくは恋愛）は、長期的にはよいものではありませ

ん。温かく、時には涼しく（冷たくではありません）さえあるようなメッターのほうが、

ずっとよいものなのです。そちらのほうが、より当てになりますし、またより成長にも

資するものです。ええ、初めての子供ができれば、あなたはまたおかしくなってしまう

ことでしょう。私はそれを待つことにしますよ。

子供ができたら、私を彼／彼女の友達、仲間、遊び相手にさせてください。子供にと

ってのよい友人になる仕方を、私は知っています。彼／彼女が自然と人生、そして彼／

彼女自身について学ぶ手助けを、どうかさせてくださいね。

不健全な関係性には、決着がつけられねばなりません。変わらなければ、あなたは十

全に生きることができません。何であれ生きているものは、必ず変わらなければならな

いのです。変わらないことは死を意味する。ですから、友情を生きたものにするために

140

は、それは常に変化し続けなければならないのです。私たちのほとんどは、変化（知ら

ないものの内に入ってゆくこと）を恐れているから、生きている感じを得られない。リ

スクをとりたくないのですね。

人や物への執着を手放す前に、心の中にあるその執着を見つめてください。執着を理

解することは、とても大切です。ただ執着の深い理解によってのみ、心は自由になるこ

とができる。執着の性質を本当に観察することなしに、それを手放すことを心に強いて

しまったら、それはあっという間に戻ってきてしまうことでしょう。明らかに観察し深

く理解することは、執着を克服するためのたった一つの道なのです。強いられて執着を

手放しても、それは本当に執着から離れたことにはなりません。

ほとんどの人々は、自身の周りに不可視で貫通不能の殻を、傷つくことから自分を守

るために育ててきています。そうして彼らは、金や地位、感覚的快楽やドラッグ、アル

コールやセックスに満足を探し求めているのですが、それは主に、彼らに自分を愛して

くれて、より深く理解してくれる人がいないからです。心を開いてガードを下げること

を、極度に恐れているのですよ！

強いられた（あるいは人工的な）愛、共感的な同情、満足、謙遜といったものはあり

得ます。強いられた愛や謙遜の背景には、憎しみや恐怖やプライドが存在することもあ

り得るかもしれません（そしてほとんどの場合、実際にそれはあります）。憎しみや貪

欲、プライドといったものを観察することは、より大切です。見通すということは、そ

のまま切り開くことでもあり得るのですよ。

人々と関わる際には、私も類似の困難を抱えています。ほとんどの人々は、非常に表

面的であるように思われる。私は僧侶ですから、自分が許容できない人のことを避ける

ことができます。しかしながら、私たちは人間（社会的な動物）である。私たちは、独

りで生きることはできないのです。私たちは、ある程度の人間とのふれあいを必要とし

ている。その上で私たちは、ほとんどの人たちが実にマインドフルネスに欠けていて、

我儘で思慮が足りず、愚かで傲慢で嫉妬深い等々といった性質を有している、そうした

世界の中に住んでいるのです。

ですから、繊細で知的な人は、人々とのふれあいによって、必然的に苦しまなければ

ならないことになります。寛容と人々に関する深い理解が、とても大切です。時には自

分自身に、ブッダの語ったことを思い出させることも必要でしょう。“Puthujjano

Ummattako（狂った凡夫）”！

あなたは狂った人々と付き合っているのです。人々は年を取りますが、必ずしも成長

するわけではありません。だからあなたは、大きな子供たちと付き合っている。とはい

え人々から逃げ出すことはできませんから、智慧と親切心をもって彼らと付き合う仕方

を見つけようと試みてください。

他者との共通点が何もない時、あなたは彼／彼女と、何も分かち合うことができませ

ん。あなたは、自分がまるで異邦人であるかのように感じる。友人をもちたいのであれ

141

ば、彼らと自分のあいだに何かしらの共通点があるかどうかを見てください。あなたが

彼らに興味をもっているならば、彼らはあなたに、親近感を抱くでしょう。

裁くことなく、人々の話に耳を傾けることを学ぶこと。彼らの問題を、あなたが解決

する必要はないのです。心を開いて、親切であるようにしていてください。

人々と対立するのは疲れることであり、人々の尊敬や評価や好意を得ようと望むこと

は牢獄です。

もし可能であれば、愚者たち（bāā）と付き合うのは避けましょう。もし不可能なら、

彼らの誤った助言には従わないように気をつけつつも、彼らと対立はしないようにする

ことです。私たちは、愚か者の世界に住んでいます。もし愚か者と付き合うなら、遅か

れ早かれ、人はトラブルに巻き込まれることになる。ほとんどの人は、決して悪い助言

はしないブッダのことを、真面目に受け取ることがありませんね。

ええ、“asevanA ca bAlAnaM（愚か者と付き合うなかれ）” ということです。愚者を見

分けて避けること。ただし、彼らのことを考え過ぎて、自分を不幸にはしないようにし

てください。ただ毒蛇を避けるように、愚か者を避けるのです。しかし、人を愚者にす

るものとは何でしょうね？

よい友人を見つけることができたなら、その人とともに生きてください。見つからな

ければ、独りで生きましょう。愚者に友情はありません。

子供の頃から、人々は偽善者であることが大半だと、私は気づいていました。人々を

信じることが私には難しかった（難しい）のですけれども、私が好もうが好むまいが、

それが世の中のあり方です。それを受け入れるか、さもなくば離れてください。時には

偽善者でなく、真心をもった人に出会うこともある。そうした人々は実に稀ですから、

彼らは貴重なのです。

ほとんどの人々は、金や名声、地位や快楽などを追い求めている。僧侶でさえです。

真実と平安を、熱心に探して（求めて）いる人たちはほとんどいない。中には瞑想を、

麻薬の代わりに使っている人たちもいます。あなたはそれに腹を立てますか？ だとし

たら、あなたは残りの人生をずっと腹を立て続けていることができるでしょうね。

誠実だったり、真心をもっていたりなどする人たちが、まだ存在していることは嬉し

く思います。人々の明るい面を見るようにしてください。彼らは可能性としてそうあり

得たほど悪いわけではないのです。もっと悪かった可能性だってあるのですよ！

人は全て悪いのです。そのことを受け容れてしまった後は、全ての人についてそのい

くらかよい面を目にすると、私たちはそのことを本当に評価できるようになります。

あなたは同じ年齢の人たちの大部分よりも、心理的にずっと年を取っているように私

には思われます。だから、あなたは同年代のグループとは合わないのです。高度に知的

な人たちは、普通の人たちが行うのと同じことをする時に、辛い思いをするということ

をご存じですか？

あなたの価値観は、周囲の大部分の人たちの価値観と大きく異なっていますから、あ

142

なたは彼らと対立することになりますし、それはすこぶる自然なことなのです。まずは

問題の性質を理解することに努めましょう。時に問題を理解することは、問題を半分解

決してしまうことがあります。

あなたは何であれ自分の心の中にあるもの、とくに心配や気がかりを話すことのでき

る、信頼の置ける人のことを必要としている。私は、あなたが人の溢れた都市の中で、

孤独を感じているのではないかと思うことがあります。あなたは独りで、家族から離れ

て住んでいる。あなたのことを利用せず、あなた自身、そしてあなたの努力と痛みのこ

とを、理解してくれる人と親密になることが必要であると、あなたは感じていることが

あるに違いありません。

昨今では、家族以外に誰かを信頼することが困難であることは間違いないでしょう。

しかし、善良な人たちは世界のどこにでもいると私は思います。あなたがしなければな

らないのは、ただ彼らを見つけ出すことですよ。あなたの交際範囲に、親切で徳のある

人はいませんか？

あなたのいま過ごしている状況は、私にも似た経験がありましたのでわかります。最

も難しい部分は決断するところですね。痛みはしばらく経てば癒されます。私は長い年

月を、実に多くの恐怖や痛み、そして罪悪感とともに生きてきました。しかし、いまや

それらは単なる思い出です。私の物語については、いつかあなたにもお話ししましょう。

何であれ人間関係があなたにもたらしたダメージから回復するには、いくらかの時間

がかかるでしょう。よりマインドフルになり、よりリラックスしてください。あなたの

心は長いこと大きなフラストレーションに反応し続けてきましたから、学習してしまっ

た古い行動や反応の仕方を外していくには、大量の気づきと忍耐を必要とするのです。

それがどれほど長くかかろうと、自分自身に忍耐強く、親切であってください。変化は

強制され得ません。それは迎え入れられなければならないのです。あなたの人格も、ま

た変わってゆくことでしょう。

人に起こり得る最悪のことは、自尊心を失うことです。

「ミャンマーにはあらゆる優れた僧侶と人々がいるというのに、この穢れた場所には

どんな業が残されているのでしょう？」と、あなたは言われましたね。別の観点から見

れば、このように言うこともできるかもしれません。「カルヤーナ・ミッタ（高貴な／

スピリチュアルな友人）として、実に多くの優れた友人と優れた僧侶をミャンマーで得

られたということは、なんと素晴らしい業だろう」と。多くの人々は、世界に一人の友

人もいないのです。

無条件に愛されること、それが私たちの本当に求めていることです。しかし、私たち

は自分自身を、無条件に愛することができるでしょうか？

誰かの人生において重要であること。他者に差をつけられること。しかし、それは私

自身にとってみれば……。

彼／彼女自身を無条件に愛しておらず、心理的に独立していない人は、誰のことも本

143

当に愛することはできないし、実際、愛することはありません。愛することができるた

めには、私たちは自由でなければならないのです。

私は本当に誰かを愛しているのか？ ほとんどの場合、私たちが愛するのは、ひどく

さみしい思いをしているからです。もし私たちが誰かを愛し、誰かが私たちを本当に愛

することがあり得れば、私たちはさみしさを克服できるであろうと望みをかけている。

自分自身のさみしさを受容し、また他者のさみしさも受容することができない限り、私

たちは互いに本当の意味で出会うことはできません。私たちは各々が、徹頭徹尾さみし

いのです。自分のさみしさを受け容れて、それを隠したり逃げ出したり、克服の仕方を

探したりはしないようにしましょう。私たちは、常にさみしいままなのですよ。自分の

ことを忘れているほんの短いあいだだけは、さみしさは一時的に和らげられますが、そ

れがまた戻って来ることは確実です。私はさみしいですよ。以前のどの時点よりもさみ

しいです。私はますます、このさみしさを観察している。私たちのところに至り着いて、

私たちのことを理解できる人はほとんどいません。各人のあいだには、誤解という大き

な亀裂がある。

私には、私のことを愛してくれて尊敬してくれる友人たちがいます。しかし、彼らは

私が何者であるかを知らないし、人間として私のことを理解することもない。彼らには

わからないのです。私が何者であるかを知らないからといって、彼らを責めてはいませ

んよ。彼らは、彼らが私だと考えている、自分の作り出した投影を愛しているのですが、

それは誤ったイメージです。しかし、私は私が何者であるか知っているでしょうか？

私が私だと考えているものもまた、私の心の投影なのです。こうした問いに答えを出そ

うとすることなく、瞬間瞬間にマインドフルであったほうがよいでしょうね。マインド

フルネスだけが、私のたった一つの避難所です。

私は、人々がどれほどさみしいか知っています。あなたがどれほどさみしいかも知っ

ていますよ。私がどれほどさみしいかを、私は知っていますからね。私は自分の人生を、

静かに、穏やかに、そして独りで暮らす仕方を学んできました。しかし、誰かと本当に

心と心でふれあうことは、素晴らしいことだと思っています。

私はたくさん苦しんで、それで僧侶になっています。

私はもっと苦しんで、そうして人間になっています。

友人をもつということは何と難しいことでしょう。友人というのは、あなたを操作し

ない人であり、耳を傾け理解してくれる人であり、遮ったり気を逸らされたりすること

なく、話を聞いてくれる時間のある人であり、注意して繊細に、傾聴してくれる人のこ

とです。ほとんどの人々は、気が散っていてマインドフルでなく、そして不幸です。彼

らは自分の問題で頭がいっぱいになっているのですよ。

あなたが安らぎに満ちていなかったら、どうして人の話に耳を傾けることができるで

しょうか？

私は多くの人々を、とても親しく知っています。彼らは私に、かつて誰にも語ったこ

144

とのない、自分の人生や自分の感覚に関することを語ってきました。そしていくつかの

事例では、彼らは私に、それ以前には意識的に考えたことが一度もないことを語りもし

たのです。私がいくつかの点を明らかにするために、もっと問いを投げかけた時にはじ

めて、彼らは深く自分の意識／心を見つめはじめ、そして彼ら自身が驚いたことには、

そうすることで、以前には一度も観察したことのないものを、彼らは観察するようにな

ったのです。私たちは、実に上手く自分自身から隠れることができます。ほとんどの人々

は、分裂している。全体的ではないのです。もし全体的でなかったら、成長することは

できません。全体的であるためには、何ものも、どんな思考や感覚や観念も、それがど

れほど受け容れ難いものであるかもしれなくても（実際に受け容れ難いものであって

も）、否定したり拒絶したりしてはなりません。

そんなわけで、人々と接してきた自分の経験から、私は人々がさみしがっていること

を知っています。それは家族（一部の人の場合には婚姻などによる拡大家族）とともに

住んでいる人たちでも同じことです。さみしさというのは、ただ誰かの周囲にいること

で追い払えるものではありません。さみしさというのは、深い理解と受容のない時に存

在するものです。家族のメンバーでさえ、互いに相手のことを理解し受容するわけでは

ありません。裁いたり誤解したりすることは、家族のメンバーの中でさえも、実にたく

さん存在します。

問題の根源は、自身のことをその深みにおいて知ったり理解したりしておらず、自身

を受容していないことにあります。私たちはいつも、自身の側面のうちのいくらかを、

拒絶してばかりいる。私たちは自分自身のことを、無条件に愛し尊重することができる

でしょうか？

そんなわけで、あなたが自身のことを深く知らない限り（そして、それは容易なこと

ではありません）、この問題を解決する方法は存在しません。私たちが関係性を求める

のは、ほとんどの場合、さみしく感じているからです。さみしさを克服する手段として

の関係性というのは、上手くゆくことがありません。私たちはそれぞれが、誰かが自分

をさみしく感じないようにできるだろうと期待している。目的を果たす手段としての関

係性は、常に失望に終わります。さみしさから逃げること。これが、私たちのほとんど

が、ほとんどの時間を費やして行っていることです。私たちには、他のことをする時間

がないのです。

ひとたび自分自身と深くふれあえば、あなたの人生は新しい展開を迎えます。そして

そのために必要なのは、よい友人です。よい友人とは、深く彼／彼女自身とふれあって

いる人であり、彼／彼女自身を肯定する感覚をもっている人であり、物事をありのまま

に見ることを恐れない人であり、ほとんどの人が存在しないかのように振る舞う物事を、

見て取ることに慣れている人です。それはあたかも、海に深く潜行するようなもの。あ

なたはこれまでに想像もしたことがないようなものを目にします――ありそうにもな

い形や色をしているもの。あるものは美しいし、あるものはとても醜いですよ。

145

ルビーを探している人は、ダイヤモンドが目に入りません。というのも、それら（ダ

イヤモンド）には色がありませんからね。たとえ色がなくても、ダイヤモンドは輝くの

です（人工のダイヤモンドは、色をもっていますけれど）。

人々を助ける際には、自分にできる最低限のことをするのがよいです。あまりに時間

と労力を使い過ぎることなく助けることができるので、それで疲れたり、燃え尽きてし

まうことがありませんから。可能であれば（可能な時は）、あと少し多く、時には（た

だし常にではなく）やってみてください。自分にできる最大限のことをしていたら、あ

っという間に、もう続けられないと感じてしまうことになるでしょう。負担が過大にな

ってしまうのです。

「サヤドー、人々はおかしなものです。あなたが彼らに対して善良でいたら、あなた

に対して、彼らはまるでそれが当然であるかのように接してくる。人々に対しては、扱

いにくい態度で接しなければなりませんよ」。いいえ、人々に対して扱いにくい態度で

接する必要はありません。ただ、自分には何ができて、どこまでできるかという、明確

な制限が必要なのです。人々に対しては、自分の限界と、自分の望む一日の過ごし方を

伝えなくてはならない。もし伝えることがなかったら、どうして彼らがそれを知ること

ができるでしょう？ 人々があなたの必要としていることを、伝えられることなしに知

るだろうと期待しているのですか？ 彼らは自分が欲していることにより関心をもっ

ているのであって、あなたの欲していることに関心をもっているわけではありません。

ですから、あなたは彼らに知らせなくてはならない。要求しなければならないのです。

人々に自分の限界を伝えなければ、彼らはあなたにもっともっとと要求してきて、つ

いには利用されているとあなたは感じるようになり、フラストレーションとともに反応

するようになってしまうでしょう。そしてそうすることで、その人たちとあなたとの関

係性には、ひびが入ってしまいます。私はいつも、人々に自分の限界を伝えるようにし

ていますよ。たとえそれが、ダンマに関することである時でもです。

ですから、別の場所に行った時には、最初から直ちに限界を設定して、きっちりした

スケジュールを保つようにしてください。いい人であり過ぎると、最終的には人に厳し

くなり過ぎてしまいます！ 自分を合わせようと頑張り過ぎた対象の人々を、最後には

憎むようになってしまうのですね。家族を含めた全ての人々が、私たちに多くを期待し

過ぎており、また私たちの存在を当然のことだと考えているのです。

あなたがその人たちに力を与えない限り、誰もあなたに力を振るうことはできません。

人々があなたの心に影響を及ぼすことを、あなたが許して（力づけて）いるのです。あ

なたが彼らからもう影響を受けたくないと思ってしまえば、彼らは無力であり、あなた

に何の力も及ぼすことがありません。彼らには力があって強いのだと、あなたが考えて

いる限り、彼らはあなたに力を振るいます。彼らがどれほど怖がっていて、無力で依存

的になり得るのか、あなたにはわかりませんか？ あなたが王座に押し上げるなら、彼

らは王か女王のように振る舞うでしょう。しかし、あなたが地面に追い落とすならば、

146

彼らは他の人たちと同じように、無力で弱くて、怖がっていて依存的であり、そしてさ

みしい人たちなのだと、あなたは知ることになるでしょう。

己の自己イメージを手放して、己の防護（自己防衛）を取り除く時、私たちは、自分

が本当のところは何者であるかを目にします。私もあなたと、大して変わりはしないの

ですよ。

本当の力は、自己を理解することから来るのです。

力の本当の表現は、制限の内にある。（アリストテレス）

人々がある人に力を与えて大統領にする。だから大統領は力をもつのです。

人々に自分を利用させないこと。利用されている時は、これはある人が自分を利用す

るような人間であるかどうかを知るために払っている対価であると、自らに告げてくだ

さい。他にどうやって、そのことを確信できるでしょうか？

竹は強風が来ると揺らいで曲がります。責めるべきは誰でしょう？ 風でしょうか、

竹でしょうか？

私は良書をいくらか読み、友人たちに手紙を書いて、そしてマインドフルであろうと

努めています。私はここにいることを楽しんでいますよ――静かで安らぎに満ちていて、

美しい青空とうねる白雲に、鳥たちと木々もいる。私は不幸ではありませんが、娘には

とても会いたいと思いますね。彼女は私の人生の、中心になってしまいました。

そんなわけで、おわかりのように、いつも何かしらのこと（誰かしらの人）はあるの

です。ただ自分自身のために生きるのは難しいですよ。私たちは、そのために生きる何

か（理想）や誰かを必要としている。隠者でさえ、そのために生きる理想をもっている

のです。

友よ、いつかはあなたにお会いできればと思います。そのいつかが、いつになるのか

はわかりませんが。あなたは変化しているし、私も変化しています。だから、互いに異

なっていることがわかっても、がっかりはしないようにしましょうね。私はあなたが、

本当のあなた自身であれば構わないと思いますし、あなたも私のことを、同様に思って

くださるでしょう。

一つ私が確信していることがあります。それは、私は誰のことも変える力はもってい

ないということです。そうすることに、興味をもっていないのですね。私は決して、グ

ルになることはありません。私が何かになるとしたら、全くシンプルな人間になるでし

ょう。そしてまた、私は謙虚でもありたいと思います。

私は我々の友情を、とても大切に思っています。現時点では私にとって、手放すこと

の難しいものですね。私はメッターを保ちながら、執着を手放そうと努めています。

あなたは私の友人です。それは私が、自分の深い思いをあなたと分かち合うために、

十分な理由ではありませんか？ どうか自分にその価値がないなんて思わないでくだ

147

さい。私は、ただあなたが理解してくれればと願っているだけですから。

私はあなたとともに、十分に長く生きてきました。私は人々と長く関わってきた経験

から、彼らについて何らかのことを、自分が知っていると思っています。自分はあなた

のことを知っていて、あなたのことを何ほどか理解していると、私は思っている（私が

全く間違っているということはないでしょう）。あなたのことを信頼し、あなたのこと

を尊敬し、あなたのことを理解している友人が存在するということを、どうか理解して

ください。もしあなたさえよろしければ、私は自分の深い思いを、今後もあなたに伝え

続けるつもりです。

私が何らかの仕方で特別なのであれば、あなたもまた、ある仕方で、私の友人として

特別なのですよ。

私の心には、切望、ある憧憬がある。

私はあなたに手を伸ばしており、あなたが私に手を伸ばしていることも知っている。

しかし、私はあなたにたどり着けない。何かが私たちを引き裂いているのだ。

それは何か？

私の心には、一つの空虚があるように感じる。

私は生きているが、本当に生きているような感じはしないのだ。

それなしに、どうして生きていると感じられるだろう？

それなしに、どうしてあなたにたどり着けるだろう？

私たちは引き裂かれている？ しかし、私たちはそれを知らない。

本当に私たちを引き裂いているものは何であるのか？

最近になってはじめて、私は自分がそれを持っていないことに気がついた。

かつてはそれを持っていたのに

私はそれを失ったのだ。

私は自分がそれを失ったことを知らなかった。

しかし、何かが欠けていることは常にわかっていた。

私の人生に生はない。

まるで死んでいるように感じる。どんな犠牲を払っても、

私はそれを取り戻さねばならない。

それがなければ、生に生きる価値はない。

それを無視し、自分の身体と心を挙げて

あんな表面的な物事に向かっていた過去の自分は

どれほど愚かであったことか。

いま私の心は泣いている。

何という嘘を、私は生きてきたことか。

148

こんなふうに自分の人生をずっと生きてきたことは

どれほどの無駄遣いであったことか

なんという無意味！

私は自分の誤った条件付けを克服できるだろうか？

私にこの嘘を克服するだけの勇気があるだろうか？

私は健康で意義深い生を送れるだろうか？

再び本当の意味で健康になれるほど、私は健康だろうか？

再び本当の意味で全体的で完全な人間になれるほどに？

（サヤドー・ウ・ジョーティカ）

かつて私は、自分の理解と価値観が変化していることのゆえに、友人たちを失うので

はないかと恐れました。しかし、ゆっくりとですが、いま私はそのことを受け容れるこ

とができています。私は自分自身に真率でなければならない。

いまやそれは単なる作業になった。そこに強い感情の動きはもはやない。

それがかつてどんなふうであったか、私は覚えている。

そこには不確実性があり、そこには希望があった。

そこには、それが私にはやって来ないのではないかという不安があった。

そこには圧倒的な悲しみがあった。生は実に強烈なものだったのだ。

強烈な痛みでさえも、貫くような、打ち砕くような

心の痛みでさえも、実に、実に意義深いものだった。

少なくとも、それは私の人生にいくらかの意味を与えてくれた。

完全な明け渡しと完全な放棄と

完全な理解と完全な受容

二つを一つに統合することを望んでいた。

何か自発的なものであって、計画されたり計算されたりはしていないもの。

それを得た時、何かが欠けているように私は感じた。

欠けているものは何だろう。

私は知っている。だが、それを定義することはできない。

それは私たちが、単に夢見ることしかできないものであるのだろうか？

私の手の届かないところにある時には、それは完璧であるように見える。

私の手の中にある時には、何かが欠けてしまっている。

錯視。__