量子のもつれ 光速 

 

『量子もつれは奇妙だが遠隔作用ではない』ScienceNews 2016/1/27

20160128  ScienceNews 量子もつれquantum entanglement エンタングルメント Albert Einstein ベルの不等式 重ね合わせの原理 波動関数 スピン 隠れた変数 遠隔作用 量子力学 Charles Bennett

 

 

前のハロウィンの2週間ほど前、オランダの物理学者たちは、アインシュタインが「奇妙な遠隔作用」と呼んだ現象の実験的証明を持って物理世界をもてなした(treated)

 

これは、量子エンタングルメント(量子もつれや絡み合いとも訳される)として知られるこの奇妙な現象を実証した実験としては初めてのものではない。しかし今回の実験は、エンタングルメントがそんなに奇妙なものではないと判明することを期待する懐疑派のものたちによって指摘されていた抜け穴を塞ぐことになった。判決は下され、奇妙さが勝利したのだ。エンタングルした粒子の一方の性質を測定することで、もう一方の粒子を測定した場合の結果を明らかにすることができる。これは他方の粒子がどれほど離れていても成り立つのだ。

 

アインシュタインはこれが気に入らなかった。しかし、彼の異議の趣旨も、この実験が明らかにすることも、誤った広め方をされてきた。この結果をポピュラーメディア(例えばなんとか「タイム」とか「タイムズ」などの名前の新聞やニュース雑誌)を通じて読んでいるとしたら、メンインブラックに出てくる記憶消失機が欲しくなるかもしれない。あなたはミスリードされているからだ。

 

例えばあるニュース雑誌に書かれたい記事は「アインシュタインは光速について誤っていた」と叫ぶ見出しを掲げていた。さらにある主要な新聞は、この新たな実験は「遠く離れた物体同士が瞬時に互いの振る舞いに影響を与えることを証明した」と報じた。だが実際にはアインシュタインは光速について何も誤っていないし、エンタングルした物体は瞬時に互いに影響を与えたりはしない。量子物理の一線の研究者であるIBMのチャールズ・ベネットはアインシュタインが犯した誤りは、エンタングルメントを奇妙な遠隔作用と特徴づけたことだという。「それは奇妙ではあるが、遠隔作用ではない」と彼は述べている。

 

また、アインシュタインはエンタングルメントを信じていなかったとか、それを理由に量子力学は誤りであると考えていたと誤って報じられることもあるが、実際にはアインシュタインはエンタングルメントがありえないことだとは主張していない。

 

彼は観測可能な事柄についての量子論的記述は正確であると信じていた。彼はただ、エンタングルメントは量子論で考慮されていない隠れた「自然の本質」の存在を示唆していると考えていただけである。

 

よって、アインシュタインは量子力学が誤りであると考えていたのではなく、不完全であると主張していたのだ。

 

しかし、最新の量子エンタングルメント実験はそうではないと示している。オランダの実験のみならず、より最近報告された別の2つ実験も、量子力学にはエンタングルした粒子の性質はすべて含まれていることを実証している。

 

もちろん、これにはまだ謎がある。物理学者たちはエンタングルメントに関して何十年にも渡り議論してきた。彼らは物理的世界の性質に関する理解のために、それが何を意味し、そしてどんな帰結があるのかということについて、あらゆる種類の見方や説明や議論を提出してきた。

 

しかし、その主題につい書かれた記事の多くは混乱したものである。一線の量子物理学者たちは、エンタングルメントがなぜそのような作用のしかたをするのかについての議論はあれど、どのように作用するかということについては、優れた理解を得ている。

 

だが、エンタングルメントが複雑な現象であることは認めよう―言っても量子物理である―だから大抵の記事で書ききれる量では説明できない。なのでまずはエンタングルメントとは何か、そしてなぜアインシュタインはそれを好ましく思わなかったのかということからはじめよう。

 

エンタングルした粒子は量子波動関数として知られるある数学的表現を共有する。この数学的対象は、特定の観測の結果がどうなるか予期する助けとなるものは何も提供しない。しかし、ひとたび片方の粒子が測定されると、同一の測定に関してもう一方のとる結果を知ることができる。それが例え遥か彼方の研究室にあったとしてもである。

 

粒子は互いに相互作用したり、同一のソースから放出された場合などにエンタングルしうる。角運動量ゼロのある粒子(パイオンとしよう)から2つの光子が放出されたとしよう。2つの光子のスピンの和はゼロでないといけない。よってもしある物理学者A(彼女をアリスと呼ぼう)が片方の光子を測定しスピンが+1であったとすれば、彼女は瞬時に、別の物理学者B(ボブ)がもう一方の光子を測定すればスピンは-1となることを知る。

 

この時点でも、アインシュタインにとってなんの問題もない。この実験は手袋の組を分け、片方をアリスに、もう一方をボブに送ることに比べ、特別不思議なことはないように思える―アリスが右手ならボブは左手を受け取る。しかし、エンタングルメントはそれほどシンプルではない。どちらの粒子も測定されるまで確定したスピンを持ってはいないのだ。つまり、その「手袋」には、受け取り人のもとに向かう途中確定した利き手がないのだ。

 

これはミトンを送ることに近いかもしれない。そしてもしアリスがそれを右手にはめれば、それは右手用の手袋に様変わりし、ボブが左手にはめれば、左手用の手袋に変わる。もし右手にはめようとすればミトンのままだ。アインシュタインは、手袋の利き手は何らかの物理法則によって事前に決定されていなければならないと主張した。彼はアリスの選択が、ボブの手袋が手に合うかどうかに影響を与える可能性があるということにまごついた。

 

しかし、これこそが実際の実験で確立されたことなのだ。

 

 

量子もつれとは何か [ 古澤明 ]

典型的な実際の実験では、光子は偏光(光の振動方向)の未確定な状態で用意される。偏光フィルター(サングラスのレンズなど)は、ある偏光角のみを通し、他の偏光をブロックする。

 

フィルターをピケット・フェンスと考えれば、縦に偏向したフォトンは2つのスラットの間を抜けていく。しかし、フェンスを90°回すと、縦偏向した光子はブロックされ、今度は横に偏向した光子が通過するようになる。

 

エンタングルした光子の組を用意し、アリスとボブに送るとする。もしアリスが自分の光子を測定した結果縦偏光であったとすると、瞬時にボブの光子は横偏光であることを知る。このシナリオでは、アリスは自分のフィルターを縦に向け、光子がそれを通過し、その背後にある検出器がカチッと音を鳴らして光子が到達したことを記録したとする。もしボブがフィルターを横に向けていれば、同じようにボブの検出器も音を鳴らしたが(左手手袋)、もし縦にしていれば、音はならなかった(ミトン)

 

トリッキーなのはアリスの光子は横偏向でもありえたということだ。それは測定されるまでどうするか「決断しない」。アリスが常に検出器を縦にするとしよう。実験を何度も何度も繰り返し、常にまったく同じ量子状態のエンタングルした光子を送れば、アリスの検出器はいつも音を鳴らすわけではない。光子が縦偏向でありフィルターを通って検出器にあたる場合もあれば、そうでない場合もある。アリスが検出するまで光子は決まった偏向を持たない。ボブについても同じだ。だがひとたびアリスが測定を行えば、ボブの測定結果も確定する。

 

ここがエンタングルメントの解説において、多くの混乱が立ち込めるところだ。あなたが「ニュー」と「ヨーカー」がタイトルに付く雑誌で読んだことがあるかもしれないこととは反し、アリスの測定が「瞬時に」ボブの光子に影響を与えるわけではない。いかなる信号も送られることもないし、いかなる影響も伝達されない。アリスにわかるのは、ボブが先に光子を測定したのかもしれないということだけだ。実際、測定がほぼ同時に行われれば、どちらが先に測定が行われたかを言い当てる客観的な方法は存在し得なくなる。(光速に近い速度で飛行する宇宙旅行者から見ればボブの測定が先に見えるかもしれないが、別の方向に飛行する旅行者はアリスが先に見えるかもしれない)

 

ポイントは、もし量子力学が正しければ、エンタングルした粒子のどちらもフィルターを抜ける(そして検出器で記録される)まで偏向の向きがわからないということだ。しかし、アリスもボブも結果を先に予測することは出来ないとはいえ、片方の運命を知ることによりもう一方の運命も明らかにされる。

 

アインシュタインは、量子の数学には何かが欠けていると感じた。

 

アインシュタインは1947年、友人であるマックス・ボルンに充てて「この理論は、現実は奇妙な遠隔作用の存在しない時間と空間の中で表現されるという物理学の発想とは調和しない」と記している。

 

アインシュタインは後に、量子力学は自然界を正しく記述していると強調している。「私はこの(量子)理論は物理学の知識の重要で、ある意味では最終的な進歩を表しているということを否定しない」と1948年にボルンに充てた原稿に記した。アインシュタインはただ、最終的には、量子力学と合わさり、エンタングルした粒子のすべての可能な測定値から「現実の」値を選び出すより深い理論が発見されると信じていただけなのだ。彼が求めていた理論というのは、彼の言葉で言えば「異なる空間部分に現れる物理的存在の独立性を」受け入れるものであった。

 

「私が知る物理現象について考慮するときも、その要求を放棄するよう思わせるものはどこにも見当たらない」と記している。

 

だがもし彼があと十年長く生きていれば、―ジョン・ベルというアイルランドの物理学者とその実験に触発され―考えを変えたかもしれない。

 

https://www.sciencenews.org/blog/context/entanglement-spooky-not-action-distance

 


【宇宙】「(1982年)アラン・アスペの実験」による“超光速現象”

 

麻丘東出 ( 50 兵庫 環境コンサルタント ) 

 

「(1982年)アラン・アスペの実験(※)」により、量子論の“非局在性”が確認されていますが、ここで重要なことのひとつに、このアスペの実験は“光子”そのものを用いた実験で、超光速現象が確認されたということです。

つまり、(アスペの実験が事実であれば)アインシュタイン相対性理論の核である「光速度不変の原理」→“光速は常に一定で、どんな現象も光速よりも早く伝わることはない”が崩れたことを意味します。

※アスペの実験 リンク


「21世紀物理学の新しい公理の提案リンク」より引用
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< ベルの不等式とアスペの実験 >
 アインシュタインが「量子論のいう遠隔怪作用のようなことは起こるはずない!超遠方に離れているもの同士の信号が瞬時に伝わるわけがない!」と量子力学を批判しつづけたことはあまりに有名です。(量子論派は「瞬時に伝わる」ことを主張)
この問題に興味をもった物理学者ベルは、もしアインシュタインらの主張が正しいならば、こういう式が成り立たなければならないとして「ベルの不等式」と呼ばれるある不等式を導きました。

 その不等式の正しさが実験で証明されればアインシュタインらの主張は正しい、つまり「量子力学はおかしい」となり、逆に不等式の破れ(不成立)が証明されればアインシュタインらは間違っている、量子力学はやっぱり正しい!となる。
量子力学の検証という意味をもつ式でした。

それのみならず、この不等式にはもう一つ重大な意味もこめられていました。
論文にあるように、もし量子論の主張が正しいならば、その理論は「ローレンツ(変換)不変にはならないであろう(※(投稿者の注記)ローレンツの公式:光速に近づくと時間が遅れ、質量が増大することを表した公式)とベルは予測しました。これは著者の石井氏も書くように「相対性理論の要請を満たさない」ということです。
もっとわかりやすく言うと、「すべての物理理論はローレンツ不変でなければならない!」という主張が特殊相対性理論の本質ですから、結局、ベルは、
「不等式がもし破れていれば、それは相対性理論が間違っていることを意味する」
ことを論文で述べたことになります。特殊相対論の検証という意味もこめられていたのでした。

 さて不等式の登場から約20年の歳月が流れる。運命の日がやってきました。
パリ第十一大学のアスペがついにベルの不等式を精密な実験により検証しました。(論文1982年)
結果はどうだったか。
 ベルの不等式の破れが証明されてしまったのです。
量子力学は正しかった。そして、それは相対性理論の追放を意味した・・。
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(引用終了)

 

 

アスペの実験は、とても難しい実験の一つです。装置の完成自体、6年もかかっているそうですから。
まず、二つの光子をカルシウムからSPSカスケードで放出させます。
SPS
カスケードでは、カルシウム原子核のスピンがJ=0J=1J=0となり、結果的にスピンが変わっていないので、角運動量保存則から、放出された二つの光子のスピンの合計が0となっていなければいけません。

よって、それぞれの光子の角運動量が個別にどうなっているかはわかりませんが、片方の光子の角運動量が決定されれば、もう一つの角運動量が自動的に決まります。

放出された光子は、ランダムに光子を振り分ける光学スイッチに衝突し、二種類の偏光分析器のどちらかに振り分けられ、これを通過して、計数管に入ります。

光学スイッチA←←←←←←Ca→→→→→→光学スイッチB
↓___________________↓
偏光分析器αかγに振り分け_______偏光分析器βかδに振り分け
↓___________________↓
計数管aまたはc_____________計数管bまたはd

偏光分析器α、β、γ、δは、セットされている角度です。
アスペの原論文通りだと、この知恵袋ではわかりにくいので、文字は変えてあります。
(たとえば、光学スイッチABは原論文ではCICIIと書いてあり、角度α、β、γ、δはベクトル表記でaba'b'になっています)

光学スイッチAB間は、かなりの距離がとられており、この距離を光で通信すると、40nsかかる距離です。(原論文ではL/c=40nsと書いてあるだけですが、これから光学スイッチ間の距離は約12mと推察されます。結構大きな装置ですね。)
これは、カルシウム原子の励起状態の寿命(5ns)や、光学スイッチのスイッチングの時間(10nsとみつもられています)よりも長くなっており、万が一、相関が何らかの光速通信で行われている可能性を排除しています。

光学スイッチAでランダムに振り分けられた光子は、角度α、γにセットされた偏光分析器のどちらかを通って、計数管へ
光学スイッチBでランダムに振り分けられた光子は、角度β、δにセットされた偏光分析器のどちらかを通って、計数管へ入ります。

一応、これが装置のエッセンスですが、他にもコリメータとか、いくつか部品が入っています。

この装置を動かしたら、あとは、ベルの不等式の改良版CHSH不等式
(J,F.Clauser, M.A.Horne, A.Shimony, R.A.Holt
の頭文字です。おお!クラウザーさんだ!)

| cos2
(α−β)+cos2(β−γ)cos2(γ−δ)cos2(δ-α)| < 2

がどうなっているかを検証します。
これを計数管のカウント数に直せば

角度αの偏光分析器を通過した光子数をa
角度βの偏光分析器を通過した光子数をb
角度γの偏光分析器を通過した光子数をc
角度δの偏光分析器を通過した光子数をd

として

<ab>+<bc>+<cd>-<da>| < 2

となります。(これも文字や、式の表現方法を、原論文と少し変えてありますが、同じことのはずです)
計数管はacbdがそれぞれ同じ側にあるので

a
bが同時に反応
a
dが同時に反応
c
bが同時に反応
c
dが同時に反応

ということしかありえず、acが同時になることはないので<ac>というような相関はありません。

よって、左右の計数管の同時カウント数を調べて、

古典的相関なら
<ab>+<bc>+<cd>-<da>|-2 < 0

量子的相関なら
<ab>+<bc>+<cd>-<da>|-2 > 0

なので、どちらになっているかを調べます。(CHSH不等式の2を左辺に移項しました)
結果は 0.1±0.02 で、量子的相関があることがわかりました。

私自身は、この実験は、もちろんやったことはなく、論文や教科書でしか読んだことがありませんが、この実験の難しさは、やはりカルシウムからの2個の光子の放出だと思います。

同時にたくさんの光子の放出があると、量子相関のない二個の光子を見てしまうというミスの可能性があるので、放出量をぎりぎりまで抑えて、同時に時間分解能をあげて、コインシデンスを取りながら、”確かにPSPカスケードで同時に放出された相関のある二個の光子を見ているのだ”ということを示さなければいけません。

また、上記のように、この実験は、ns(ナノセカンド)の時間分解能を要求されるようなところがあるので、各機器の調整はそうとう大変だろうなと思います。

原論文A.Aspect, J,Dalibard, and G.Roger, Phys. Rev. Lett. 49 (1982) 1804)4ページしかなく、そこに盛り込めなかったいろいろな苦労があっただろうなぁ と想像がつきます。

 

 

 

 

ベルはアインシュタインの17年死後に、アインシュタインの主張である「予め量子はスピンの方向性がプログラミングされている」という説が間違えであることを実験で証明した。

ジョン・スチュアート・ベルJohn Stewart Bell, 1928628 - 1990101)は物理学者で、量子物理学の最も重要な定理のひとつであるベルの定理の提唱者である。

彼は北アイルランドベルファストに生まれ、1948クイーンズ大学を実験物理学で卒業した。その後、バーミンガム大学で原子核物理と場の量子論を専門として博士号を取得した。1960年にCERNの研究者となり、以後亡くなるまでそこに勤めた。1972王立協会フェロー選出。

1964年、"On the Einstein-Podolsky-Rosen ParadoxEPRパラドックスについて)"という題の論文を書いた。彼のその論文で、現在ではベルの不等式と呼ばれている結果を導いた。ベルの不等式は局所性と実在性と呼ばれる二つの仮定を認めた任意の理論に対して成り立つ不等式だが、同論文において量子力学では不等式が成り立たないことも示されており、局所実在性と量子力学が本質的に相容れないものであることを意味するこの結果は物理のみならず哲学の世界にも大きな衝撃を与えた。 その後、フランスの物理学者アラン・アスペはベルの不等式が成り立たないことを実験的に証明し、自然界において局所実在性が成り立たないことが示された。