ブルックリン  夜中のカーニバル

 

ドラムがこの世をさざ波だけにして

カタチは緩み

カラダの奥が鳴りはじめる

 

リズムが時をとめ

大地が足裏で目覚め

汗が光となり

勢いが暗闇を押し開き

まっすぐにつんぬける

 

波は廻りながら何層にもなって上昇し

星団の波々に熔けて

揺れ響く

 

こんな音と波があるんだ

この世に

 

みんながひとつになると

東の空が光の塊だ

 

 

 

ブルックリン

9月の第一土曜日と日曜日は、ヒロシの住むブルックリンでカーニバルがある。

ニューヨークのカリブのお祭りだ。

 

圧巻なのはドラム。 

スティールパン(Steelpan)と呼ばれるドラム缶から作られた打楽器だ。倍音の音階の響きが特徴。カリブ海最南端の島国・トリニダード・トバゴ共和国で作られた。

当時占有していたイギリス政府によりドラムの使用を禁止された黒人達が、いろいろな長さにした竹の棒を叩いて音を出すタンブー・バンブーを代用していた。しかしそれも禁じられた人々は、身近にあったビスケットなどの身近なカン類などを楽器として使用し始めた。そうした中、1939年に、ウインストン・スプリー・サイモンがぼろぼろになったドラム缶を直そうとしていた際、叩く場所によって音が違っていることに偶然気付き、スティールパンの元となるものを作り出したと言われている。さすがイギリス人、ドラムの凄さと怖さを知っている。

「ボート」と呼ばれるオープントレーラーの上で演奏しながら街を練り歩く。

大小100組以上ものバンドが参加して毎年盛大に行われ、大規模なバンドには100名ものスティールパン奏者が参加する。Trinidad All Stars  Exodus  Phase II Pan Groove など歴史あるバンドがある。

カツの師匠の○○さんが指揮するバンドもあるので、真夜中にブルックリン公園に行く。あちこちから人が集まり、地下鉄はラッシュアワーだ。だれとでも目が合うともうそれだけで気持ちが良くなる。

やっぱりカーニバル。

会場近くに行くと、あたりの信号機は全部止められ、車一台も中に入れないようされている。昨年は小競り合いがあったので、今年からは各コーナーを始めあちらこちらにお巡りさんの列がいる。それをぼやいている奴もいっぱいいる。

人がいっぱいでヒロシとカツともはぐれてしまった。

 

なんとなく気に入った一つのバンドについていった。

はじめは静かにしていたのだけど、その音に体が踊り、いつの間にかそのバンドの一番右端の先頭で踊り始めていた。

一番歩道に近いところなので、お巡りさんたちがまるでもっと静かにしろというように棍棒を持った手を拡げてプレッシャーをかけてくる。

そんな時は頭を振って踊る。汗が周りに飛び散り、お巡りさんも思わず後ずさり。

右の角は任せてくれ、暗闇を切り裂くのはオイラの役目だ。

この腹と頭の頂きを行き来している音の波。

天を仰ぐとこれらが星々に届いて震えてる。

 

シャツが汗で重たくなった頃、左肩を叩く手があった。

振り返ると太った黒人のおばさんが、いきなりギュッと抱きしめてくれた。

「グッドジョブ、次はあんたに聞いて欲しい音があるんだ」と言って、楽団の真後ろに導いてくれる。 

「この音を聞いて欲しいんだ。この音も喜ばせておくれ」と言って、群衆の中に消えていった。

 

なんだ、腹から大地に響く音だ。知らない音だ。でも心地いい。体の内から鳴る懐かしい音だ。

腹底から響き上がる音を足裏で大地につなげる。すると跳ね返ってくる共鳴音。

 

いつも理解されないのが当たり前で生きているのに、踊っているのを見ただけで、オイラをわかってくれて、なおかつこんなことまで伝えてくれる。言葉もひとつも交わしていないし、はじめて会ったのに。

おまけに私の妄想までシェアしてくれて、勝手に思い込んだ役目をたたえ、笑っている。

 

みんなが一つになっている。こんなことがここにもあるんだ。いくつもあるのにもう二度とない一度だけの時間。

それから陽が昇るまでずっと霞んだ視覚の中で嬉しくなっちゃってずっとスキップしながら大地を踏みしめていた。