ロンドンの幻     白いポコポコ

 

 

「ちみもうりょうよ、悪霊たちよ、よこしまな者どもよ、

くるがいい、むかってくるがいい」

と酒にうかれたある深い夜に両手をあげて叫んだら、あいつら本当にあらわれやがった

白く肌ざわりのよさそうな円球が体の奥底からポコポコとぼくの口を通ってあらわれでたのには驚いた

どれも透き通るオパールのような輝きを持ち、くちなしの芳香を漂わす

揺れるたびに美しい善良とみえんばかりのゆるやかなメロディーに乗って宙を舞う

われた

突然なんの前触れもなく

爆竹のように次々と円玉が割れた、全部あらわれやがったよ、ついに

それにしても恐れいったよ、おまえたちはてっきり地獄の先から顔を出すかと思っていたら

自分の体から、それも俺の向かっていこうとする先にある「美」から次々と顔を出すとは畏れ入った

 

おまえたちは一時の休みも与えることなくむかってきやがる、たいしたバイタリティーだよ

ある時はアラベスクの絨毯の上を裸でのたうちまわせて世界中を飛遊させる

ある時は青白く心を沈め「生」の遠い向こう側にある海中都市に連れていく

ある時は手淫の嵐の中でサキャバスの暴力的快楽の奥深くへと導く

ある時は鏡のナルシズムをやさしく撫でて骨抜くように甘く語りかける

ある時はあらぬ夢を垣間見せて血を熱く一度に煮えたぎらせる

 

闇のメリー・ゴー・ラウンドは凍える夜中をつんぬける

 

 

ロンドン

ロンドン時代はイギリス博物館とルネッサンス絵画専門の図書館に毎日通うの日課だった。

みんなに料理を作るのが条件で私立高校の学部長の家の屋根裏を貸してもらい、朝から晩まで勉強をしていた。

一枚の絵から画家の思想や時代背景をシンボリズムなどをつかって理解するイコノロジーとエリアーデの宗教学と人間のサガと神話や神秘学から見る人間歴史学に夢中になっていた。

大学で比較宗教の講座や魂とは何ぞや?という講座をとりながら気に入った教授のゼミに参加したりしていた。生徒たちも占星術師やシュタイナー学者や小説家や神秘主義者や有閑マダムやファンタジスタや洞窟にこもってナッツなど火を使わないものしか食べない集団や変なのが多かった。