腸内細菌が脳を操る
This Is Your Brain on Parasites: How Tiny
Creatures Manipulate Our Behavior and Shape Society
キャスリン・マコーリフKathleen
McAuliffeの『心を操る寄生生物』 神経寄生生物学の先端科学者たちに取材
あなたの心を、微生物たちはいかに操っているのか?
微生物などの寄生生物は、私たちの脳神経に影響を与え、感情や行動を操っている。
たとえば、気分や体臭、人格・認知能力を変えたり、空腹感・体重もコントロール。
ネコやイヌからうつる寄生生物が、交通事故や学習力低下の要因になりうることも明らかに。
また、人々の嫌悪感に働きかけ、道徳や文化、社会の相違にまでかかわる。
その脳を操るワザは、あっと驚くほど巧妙だ。こうした操作力を逆利用して、うつや不安、ストレスを和らげる療法も開発中。
感染症への警戒から嫌悪は生まれる 養老孟司
寄生生物は我々の体の健康を脅かすばかりではなく、精神にも甚大な影響を及ぼす。 池田清彦『週刊文春』
●キャスリン・マコーリフ
サイエンスライター。『ベスト・アメリカン・サイエンス・ライティング』にも選ばれている。
●西田美緒子(訳者)
訳書は、ペネロペ・ルイス『眠っているとき、脳では凄いことが起きている』、
ジェンマ・エルウィン・ハリス編著『世界一素朴な質問、宇宙一美しい答え』、
フランク・スウェイン『ゾンビの科学』など多数。
はじめに: マインドコントロールの達人
第1章: 寄生生物が注目されるまで
第2章: 宿主の習慣や外見を変える
第3章: ゾンビ化して協力させる
第4章: ネコとの危険な情事
第5章: 人の心や認知能力を操る
第6章: 腸内細菌と脳のつながり
第7章: 空腹感と体重をコントロールする
第8章: 治癒をもたらす本能
第9章: 嫌悪と進化
第10章: 偏見と行動免疫システム
第11章: 道徳や宗教・政治への影響
第12章: 文化・社会の違いを生み出す
2005年から微生物調査がはじまった。
100兆個の微生物 体重の90%はあなたではない。
消化を助け、ホルモンを作る セロトニンなど 気分をつくる 感情を作る
イライラ 落ち込み
ヒトの闇と微生物との関係
無菌マウス 危険な状態に無防備で出て行く 警戒するセンサーがない 母性剥奪マウス 子供を食い殺す
好奇心がない 積極性を失う
菌が欲しい 男女の恋 細菌を取り込む本能?
嫌悪学のすすめ
好きなものと嫌いなもの
なぜ、それを嫌うようになったのか?
感染症から離れるためのセンサー 感染症の警戒 ペスト、天然痘(アメリカインディアンの90%が死亡)
スペイン風邪
妊娠初期に、免疫力は低減されるので、菌が多いところ、違う菌が嫌いになる。
プロゲストロン
人種差別に影響か?
体が頭より先!
2014年エボラ出血熱
フェイクニュース メキシコでエボラ熱が流行。メキシコ人がアメリカに入ってくる。
これらに影響を受けた人を選挙に利用したトランプの政策 壁をつくる。
旧市民が新市民に対する差別用語 ゴキブリ、 ダニ、しらみ、 感染症に対する恐怖
視覚とイメージで操る 印象操作
アップと繰り返しで洗脳できる
歓喜、悲しみ、ミサイル発射の繰り返し
2012年ニューヨーク選挙 相手のポスターにゴミのにおいをつける
トランプ ゲロと寄生虫をよく比喩に使う
ルーズでいい日本人
例
キュウチュウ アリを通して羊に入る アリが草の天辺に顎でしがみついている
食物連鎖を利用する
ハリガネムシ 自殺するこおろぎ 水を目指す虫 メスと出会いたいために月夜の晩に自殺させる 水の中でないと交尾できない。
蚊に取り付いたマラリア原虫 ダイエットさせる細菌 食欲を削ぐ ストローをつまらせて、次のヒトに向かわせる。
クモに取り付くハチ
エメラルドゴキブリハチ ゴキブリを巣に連れていき、足からゆっくりたべる。
冬虫夏草 アリの体内に侵入し、菌を伸ばし、蟻を殺す植物(キノコ)
トキゾプラウマ ドーパミンを増大させているのではないか?
インフルエンザ 症状が出る2日、3日前に人ごみを歩きたくなる? 風邪をひく直前に社交的になる。
性感染症 発症の直前に性欲が強くなる
浮気 虫の仕業 寄生生物のせい
トキソカラ ヒトの脳に棲み付く 犬や猫から感染
腸の中に
腸内細菌が人の感情やら行動などに関与するのか?
腸内細菌が人間の感情や行動に関係している!?
脳に関与する腸内細菌
腸内細菌が脳内ホルモンのセロトニン(幸福に関与する物質)やドーパミン(やる気に関与する物質)に関係している。
しかしこれらはほんの1つで、腸内に100兆個以上生息している腸内細菌たちはまだまだ脳に関係してきます。
生物を洗脳する細菌
梅毒トレポネーマは梅毒の原因とされる病原菌です。
梅毒トレポネーマに感染すると、この病原菌はヒトの脊髄や脳内に侵入し、うつなどの精神障害を引き起こします。
トキソプラズマ・ゴンディは、ネズミの脳に侵入して猫に対する恐怖心を取り除きます。
そうなると、ネズミはすぐに猫の前に姿を表すので、簡単に猫の餌になってしまいます。
猫がウンチをするたびにトキソプラズマ・ゴンディがばらまかれるので、この生物にとってネズミに感染して操ることは生存戦略に適しているのです。
狂犬病ウイルスに感染した犬は衰弱して死ぬのではなく、極度に攻撃的な振る舞いをし、別の犬に噛み付きます。
そして、狂犬病ウイルスを拡散させていくのです。
蟻を洗脳するキノコをご存知でしょうか?
キノコに感染された蟻は脳を支配されて、キノコが生息しやすい場所まで移動し絶命します。
このように、他の生物を洗脳する菌たちは存在しています。
自分の生存のために他の生物を洗脳するなんてことは、自然界では当たり前のことなのかもしれません。
そうであるならば、腸内細菌は人間の脳にどういった影響を与えるのかが気になってきますよね。
好きな食べ物があると思いますが、それってなんで好きなのですか?
もしかしたら、あなたの腸内に住んでいる腸内細菌の好物かもしれませ。
腸内細菌は記憶力に関与
腸内細菌を持たない無菌マウスは、記憶障害があることがわかりました。(→Bacterial infection causes stress-induced memory dysfunction in mice)
腸内細菌を持つマウスと、腸内細菌を持たない無菌マウスの2つのグループに分け、どちらのマウスにも見たことのない物体を5分間見せ、そのあと物体を20分間取り除きました。
そして先ほどの物体と、新しい物体をマウスに見せました。
研究者の予想としては、先ほど見たことある物体にはあまり構わず、新しい物体に注意を向けると考えていました。
腸内細菌を持つマウスグループでは研究者の予想通りになりましたが、無菌マウスはどちらの物体も同じ時間をかけて調べたのでした。
つまり、20分前に見た物体のことを忘れてしまっていたのです。
腸内細菌にとっては、共生している生物が死んでしまうと自分たちも死ぬことになるので、その生物がより生存確率が高くなるようなプラスの影響を与えるはずです。
そのために腸内細菌たちは記憶力に関与する何かをしているのかもしれません。
この辺りの研究はまだまだ始まったばかりなので、詳細なことはこれから明らかになっていくでしょう。
BDNFに影響を与える
BDNF(Brain-Derived Neurotropic Factor)とは脳由来神経栄養因子にことで、うつなどの精神障害に関わるタンパク質とされています。
このBDNFに腸内細菌が関係していることがわかりました。(→The Intestinal Microbiota Affect Central Levels of Brain-Derived Neurotropic Factor and Behavior in Mice)
活発なマウスと臆病なマウスの2つの個性を持つマウスを使った実験になります。
マウスを高い台にのせて、そこから降りるのにどのくらいの時間がかかるかを測定しました。
活発なマウスは数秒で台から降りたのに対して、億劫なマウスは平均で4分ほどかかりました。
ここからが興味深い研究成果です。
臆病なマウスの腸内細菌を活発なマウスに移植すると、台から降りるのに1分あまりかかるようになったのです。
反対に活発なマウスの腸内細菌を臆病なマウスに移植すると、台から降りるまでの時間が1分ほど減ったのです。
このことから腸内細菌の移植によってBDNFのレベルが変化することを発見し、腸内細菌は宿主の行動に影響を及ぼすことが分かったのです。
腸内細菌はどのように脳に影響を与えるのか?
腸内細菌は栄養を食べると、短鎖脂肪酸に加えてたくさんの分子を作り出し、これらは血液に乗って全身をめぐるものもあります。
しかし、この分子の多くは『有毒』なので、腎臓で除去されて尿として体外に排出されます。
だから腎臓機能に障害がある人は、腸内細菌が作り出す有毒な物質を取り除くために定期的に人工透析を受けなくてはなりません。
腸内細菌が作り出す分子の一部は、ヒトの体内の化学伝達物質と似ているものがあります。
これらが小腸で吸収され腸の免疫細胞と相互作用したり、血液に吸収され脳に到達し行動に影響を与えたりします。
腸内細菌がなぜこのような分子を作り出すのかはまだ解明されていません。
ヨーグルトの力
マウスのような動物実験では腸内細菌が脳に影響を与えることはわかりました。
しかし、人間ではどうなのでしょうか?
2013年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の科学者グループがヒトの脳に腸内細菌はどのような影響を与えるのかを調べました。(→Consumption of Fermented Milk Product With Probiotic Modulates Brain Activity)
健康な女性12人に4種類の細菌を含むヨーグルトを毎日2回、4週間に渡って食べてもらいました。
比較としてプラセボ(細菌の入っていないヨーグルト)を毎日2回、4週間食べてもらいました。
そして実験前後でfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて脳をスキャンしました。
スキャンしたところ、細菌を含むヨーグルトを食べた女性と、細菌を含まないヨーグルトを食べた女性とでは
前頭葉、前頭前野、側頭葉で、脳活動に違いが見られました。
これらの脳部位は不安障害や痛み知覚、過敏性腸症候群に関係してくる部位になります。
この実験からわかることは、ただヨーグルトを1日2回、4週間食べ続けるだけで脳の活動が測定可能なほど変化するということです。
腸内細菌がマウスのうつ症状を軽減することが確認されていますが、ヒトにどれほど関係してくるかはまだわかりません。
しかし、ヒトに生息する100腸個の細菌たちが脳に影響することは確かなようです。
参考にした本『腸科学』