心療内科の薬の減らし方について

抗うつ剤の減薬・断薬の方法   ver. 1.0

 

 

1.最近の心療内科の薬処方の傾向

日本の精神科医療は収容主義から地域の中で元気に過ごす事を応援するように変化しており、薬を出し過ぎる「多剤大量処方」はもはや時代遅れと言われます。

“薬物療法のみに頼らない治療”を目指し

@西・東洋医学不問の心理療法、

A認知の歪みを修正する認知行動療法

B副作用の少ない漢方外来等を積極的に実施などがあります。

 

2.なぜ薬を減らす必要があるのか?

薬の乱用・依存など多剤大量処方が長く続いた場合、症状が本来の病気によるものなのか、薬の副作用なのかさえ既に見分けがつかなくなり、本来の状態が変化し、さらに悪化してしまう場合もあります。こういった状態を断ち切り、適切な薬を適量服用するように変えていくためには、「正しい薬の減らし方」を理解した医師の診察が何より必要となります。

 

3.薬の減らし方のポイント

何より大事なことは“薬を減らすこと”そのものではなく“症状が改善した状態のまま薬を減らしていくこと”です。“薬を減らすこと”だけを気にしすぎると、思わぬところで症状のぶり返しがあり、かえって薬の量が増えてしまったり、減らすことのできるタイミングが先に延びてしまうことがあります。そこで、疾患や症状によって減薬のコツが異なりますので、主要な薬と疾患について薬の減らし方のポイントは、

 

(1)薬全般

@薬を増やす時も減らす時も体がびっくりしないよう少しずつ!

 

(2)睡眠薬、抗不安薬

@複数薬を服用の場合、薬の種類を減らす!

A薬の錠数や、容量を減らす!

B服用している薬を中止しやすいタイプの薬に変更!

C効果が十分に得られるようになれば頓用(定時ではなく、症状が現れるごとの服用)に変更!

 

(3)抗うつ薬、抗てんかん薬、抗精神病薬

@服薬を開始する時は効果が出るまでじっくりと!

A中止は焦らず慌てず良くなり十分に時間が経ってから!

B痛み治療薬として使用する時は症状が改善して十分な期間(3か月以上)経過後、無理ないスピードで減量・中止!

Cその他の疾患で使用時は症状に合わせて減量・中止!

 

(4)漢方薬

@色々な症状や疾患に、西洋薬との併用や単独で使用!

A西洋薬を中止するために、症状がぶり返しにくくするため、漢方を一時的に追加し、最後に漢方薬を中止!

 

 

 

抗うつ剤を適切に減薬していくために

抗うつ剤をやめていく時には、注意しなければいけません。急に減薬をしてしまうと、離脱症状が出てしまうことがあります。

 

無理をして薬を減らして調子が悪くなってしまうと、以前よりも薬の量が増えてしまう方もいます。

抗うつ剤を減らしたいと思われたら、必ず主治医に相談してください。

 

薬に頼らないことをかかげ、減薬を極端にすすめる医療機関や医師がいますが、そういったところは精神科医でないことが少なくありません。

悪質な場合はサプリメントや自費診療などをすすめ、営利的なケースもあるため、ご注意ください。

 

 

 

それでは、抗うつ剤を減らしていくには、どのようにすればリスクが少ないでしょうか?

また、調子が悪くなってしまったら、どのようにすればよいでしょうか?

 

薬を減らして調子が悪くなる3つの理由

薬を減らして調子が悪くなってしまうのは、大きく3つの場合があります。

 

1 症状の再発・再燃        薬で抑えられていた躁鬱の症状が再発

2 離脱症状            常用していた薬を使用しないことによる体の反応

3 薬が減ったことへの不安感    想像によるメンタルの不安

 

薬を減らして調子が悪くなると、多くの方が@の症状の再発・再燃を心配されます。

ですが、多くの場合がAの離脱症状や、Bの薬への不安感であることが多いです。

 

Aの離脱症状とは、慣れていた薬が身体から急になくなることで起こる症状です。

薬をしばらく継続して使用していると、薬の量を減らしたり服用を中止したりすると、現状に身体が慣れずに様々な不調が出てくることがあります。

薬を減らして1〜3日ころから2週間の間にみられることが多いです。

 

Bは薬がなくなってしまうことで、いろいろとネガティブな空想して不安になってしまい、調子を崩してしまうことも少なくありません。

長く薬を服用していると、薬が減ってしまったという変化がメンタル的に不安になってしまうのはやむを得ないことです。

 

少しずつ自信をつけていくことが大切になります。

 

もちろん、症状の再発・再燃の可能性もあります。

十分に病気が落ち着いていない時に薬を減らしてしまうと、心の支えがなくなってしまって、調子が悪くなってしまうことはあります。症状の経過をみながら、どちらが原因かを考えていきます。

 

 

減薬のタイミングは大丈夫ですか?

このエッセイをお読みの方のなかには、自分の意志で減薬をしようと思われている方もいらっしゃるかと思います。

ですが焦ってはいけません。本当に減薬しても大丈夫なタイミングでしょうか?主治医の先生に確認してください。

まだ薬を減薬するには早い段階で減薬してしまうと、再び症状が悪化してしまって、治療が長引いてしまうこともよくあります。

薬を減らしたい気持ちはよくわかるのですが、本当に減薬しても大丈夫なタイミングで減薬するようにしましょう。

 

一般的には、調子の底を脱して、元の調子に戻ってきたら「寛解」といういい方をします。

この意味は、「全治とまでは言えないけれども、病気が落ち着いて穏やかなこと」を意味します。

ここから「回復」といわれるまで病気が安定するには、およそ6か月〜1年ほどかかります。長い方では数年になります。

 

抗うつ剤などの抗うつ剤は、セロトニンを整えることで効果を発揮します。

元の調子に戻ってきてからも、脳内のセロトニンのバランスが落ち着くまでには時間がかかります。

また、日常生活でのいろいろなストレスから守ってくれます。

治りたての時期は余裕があまりありませんので、本当に自分の力でストレスをやり過ごせるようになるまでは、薬は支えになります。

 

 

抗うつ剤はどれくらい続ければいいの?

どれくらい服用を続ければよいのかということについて、明確な答えはありません。

 

どのような病気であっても、少なくとも良くなってから半年ほどは続けたほうが良いかと思います。

その後は、「何とかなる」という本人の感覚を大事にします。

この感覚は、「自己効力感self- efficiency」と呼ばれ、これがあることがとても大切です。

また不安が強い方は、長く治療を続けた方がよいことが多いです。不安はなかなか拭えません。

しっかりと根底から不安を消し去るには時間がかかります。

落ち着いてから半年以上たち、「何とかなる」という感覚がある時は、減薬を検討してもよいかも知れません。

 

減量のペースはゆっくりと

減薬をしていく時は、「ゆっくりとしたペース」が基本です。

症状の再発を防ぐという意味では、少しずつ薬のサポートを減らしながら様子を見ていった方が確実です。

もともと心配性であったり、不安が強い方は、ゆっくりと薬を減らすようにしましょう。

離脱症状に関しても、身体から薬が減っていくスピードがゆっくりであればあるほど、離脱症状は生じにくくなるのは、身体が薬の効用から離れるのに慣れていく時間のプロセスがあるためです。ですから、離脱症状のことを考えても、ゆっくりと減薬をしていくのが適切です。

 

 

 

少量ずつ薬を減らしていく過程が順調であっても、いざ最後の薬を止めようとするとなかなかやめられない方もいます。

抗うつ剤を断薬するための4つの方法

薬の減薬は比較的スムーズにいく方が多いです。いけるところまで減薬して、「さぁ、最後の薬をやめましょう」となると、調子が悪くなってしまう方もいます。

 

この最後の1錠がどうしてやめられないのでしょうか?

これには、「プラセボ効果」が関係していると仮説できます。

どの薬も、発売されるまでに臨床試験を行います。その試験では、偽物の薬と本物の薬をわからないようにしてデータをとります。その上で差が出たら、科学的に間違いなく効果があったと分かります。

このような試験をすると、偽物の薬でも34割くらいの方には効果がでてきます。

心と体は相関関係があり、薬を飲んでいるという安心感が、身体の安定につながるからです。このような効果を、「プラセボ効果」といいます。

自分では意識していなくても、プラセボ効果が働くことはあります。それではどのようにして具体的に断ち切ればよいのでしょうか?

 

飲まない日を少しずつ増やしていく

抗うつ剤が半錠まで減ると、そこからさらに1/4などと減薬してもあまりかわりません。

それよりは少しずつ飲まない日を増やしていって、自信をつけていく方が断薬できます。

まずは1日おきで服用してみるようにしましょう。

その後に、2日とばし、3日とばし・・・と増やしていって、1週間に1回だけ服用するなどにしてみましょう。

ここまでの過程で自信がついて、断薬できる方がほとんどです。難しい場合は、調子の悪いときだけ頓用(症状が現れるごとに服用)にしてみます。

 

生活習慣や自律訓練法など「薬の代用」を意識する

薬に頼らない方法を見つけるのも手です。生活習慣を意識することで、心身の状態はよくなります。

運動などから見直していきましょう。

また、自律訓練法などの自己暗示のリラックス方法を身につけるのも手です。

身体の緊張状態とリラックス状態を知って、自分でリラックス状態を作れるようにしていきます。

自律訓練法に関心があれば連絡下さい。

このように、抗うつ剤だけでないもう一つの「不安を減らす」柱をみつけていきましょう。

 

 

漢方薬に置き換える

漢方薬に切り替えていくのも方法です。漢方薬は生薬ですので、抵抗が少ない方も多いかと思います。

身体にあう漢方薬をみつけて、まずは抗うつ剤と併用して試していきます。

よい実感があれば、抗うつ剤から漢方薬に置き換えてしまいます。漢方薬でしたら、減らしていく時も負担が少ないからです。

うつや不安の方には、体質などを考慮しながら、加味逍遥散や加味帰脾湯、当帰芍薬散や抑肝散、補中益気湯などに置き換えることが多いでしょう。

 

 

やさしい安定剤に置き換える

やさしい安定剤に切り替えるのも1つの方法です。

例えばセディールは安定剤の分類がされますが、セロトニンを増やす作用があります。

抗うつ剤と似た働きがあります。それでいて安定剤のなかでも最も副作用が少ないものです。

このように、やさしい安定剤に置き換えていくこともあります。

 

 

 

離脱症状が出てしまったときの対処法

離脱症状には、「めまい・頭痛・吐き気・だるさ・しびれ・耳鳴り」といった身体症状、「イライラ・不安・不眠・ソワソワ感」といったメンタル症状が認められます。

また、抗うつ剤などのSSRIに多いですが、「シャンビリ感」といって、金属音のようなシャンシャンという耳鳴りがし、電気が流れたようにビリビリとしびれた感じがすることがあります。

 

このような離脱症状が起こってしまったら、どのようにすればよいでしょうか?

離脱症状がみられたときの対策は大きくは2つしかありません。

慣れるまで耐えるか、元に戻すかです。

自己判断で減薬した場合は、元に戻してください。

 

 

まとめ

薬を減らして調子が悪くなるのは、「症状の再発・離脱症状・薬を減らした不安」のどれかです。

本当に減薬してもよいタイミングですか?

落ち着いてから半年以上たっていて、「何とかなる」と思えているなら減薬を検討するタイミングです。

ただし、もともと心配性な方は、焦ってはいけません。主治医に確認しましょう。

抗うつ剤は、少しずつ減薬してくことが基本です。

最後の1錠が、なかなかやめられません。断薬するには以下の方法があります。

 

飲まない日を少しずつ増やしていく

生活習慣や自律訓練法など、心の不安を減らす方法を身につける

漢方薬に置き換える

やさしい安定剤に置き換える

離脱症状が起きてしまったら、慣れるまで耐えるか、元に戻すかです。

 

 

 

 

 

 

 

 

クエチアピンQUETIAPINE を減量するとどんな副作用がでますか?

投与量の急激な減少ないし投与の中止により、不眠、悪心、頭痛、下痢、嘔吐等の離脱症状があらわれることがある。 投与を中止する場合には、徐々に減量するなど慎重に行うこと。

中枢神経抑制剤 アルコール 中枢神経抑制作用が増強することがあるので、個々の患者の症状及び忍容性に注 意し、慎重に投与すること。

https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00058102.pdf

 

 

クエチアピンの1日最大量は?

通常、成人は1回クエチアピンとして25mg12または3回服用することから開始し、状態に応じて徐々に増量され、1150600mg2または3回に分けて服用します。 年齢・症状により適宜増減されますが、最大量は1750mgまでとなっています。

https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00061019#:~:text=%E9%80%9A%E5%B8%B8%E3%80%811%E6%97%A5%E6%8A%95%E4%B8%8E%E9%87%8F,750mg%E3%82%92%E8%B6%85%E3%81%88%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%93%E3%81%A8%E3%80%82

 

 

クエチアピンの重大な副作用は?

著しい血糖値上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行う。

https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/11/1179042F2034.html#:~:text=%E8%91%97%E3%81%97%E3%81%84%E8%A1%80%E7%B3%96%E5%80%A4%E4%B8%8A%E6%98%87%E3%81%8B%E3%82%89,%E8%A6%B3%E5%AF%9F%E3%82%92%E5%8D%81%E5%88%86%E3%81%AB%E8%A1%8C%E3%81%86%E3%80%82

 

 

 

 

参考資料

 

精神疾患全般に関する減薬・退薬に関する著者の基本方針

 

まず向精神薬は長期処方となる場合が多いので多剤・大量処方は、重篤な副作用や依存形成の恐れがある為、単純処方を心掛ける必要がある。急性期に多剤・大量処方となった場合でも、病状が安安定すれば速やかに減薬し、処方を単純化すべきである。

減薬・退薬に関しては本人の意向、再発症状の重篤性、現在の社会適応レベル等を総合的に判断して実施する必要がある。たとえば、良質な睡眠が取れずに日中活動に支障を来した患者が、薬物服用によりQOLが改善し満足している場合は、敢えて退薬を勧める必要はなかろう。また病気が完治した事を証明したいと退薬を希望する統合失調者に、同病は不治の病との私見により「統合失調症は一生涯の服薬が必要」との自説を押し付ける事も問題であろう。服薬継続のメリットとデメリットを患者に十分示し、出来るだけ本人の意向に添う形で減薬・退薬問題に取り組む治療者であるべきであろう。

 

以下疾患別に述べる。

 

1)神経症関連(不安障害、パニック障害、身体化障害、適応障害を含む)

依存が問題となるので常用量以上の処方は避ける。症状に頓服薬で対応する事は症状に注意が向きがちとなる為、極力避ける。薬物中断して症状が再燃しても個人レベルの適応問題(自傷・他害などの重大な問題行動でない)の場合、病状が安定すると自然に服薬を忘れるので、それで症状が再燃しないならば受診せず服薬中断しても良いと告げる。薬を飲んでいる方が不安なく、快適と感じているならば継続服薬すれば良いとの指針を示す。

 

2)気分障害関連(抗うつ薬、気分安定薬、抗精神病薬)

@ 単極うつ病

初発うつ病の場合は病状が安定して社会生活が円滑に営める状態となり、6カ月程度症状が安定した時期が持続すれば、「その時点から段階的に減薬を試みて退薬を目指す」との指針を示す。

 

A 双極性障害及び単極躁病

単極うつ病と比較して明らかに減薬退薬は困難である。これらの疾患では抗うつ薬、気分安定薬、抗精神病薬を併用処方する場合が多いので、本人の再発予防にもっとも有効な薬物を最終的には単剤とし、その薬物を「統合失調症の断薬プログラムに準じた方法での退薬」を指針として示す。

 

3)統合失調症関連

(分裂病治癒者のカルテの記述をその後の実践を踏まえ、改訂して記述)

統合失調症も短期精神病のような予後良好疾患から減薬・退薬困難な重症例まで多様な疾患群である事を認識し、一律な対応をしないように心掛ける事が肝要である。LAIlong-acting injection:持続性注射剤)は減薬・退薬を想定している場合は使用すべきではない。

薬物減薬は急性期には迅速(1~2週間毎)に、症状安定期では緩徐に減薬(数カ月単位)する。多剤処方であれば、主剤を最終的には単剤とし、さらに最少単位剤型とし(たとえばリスペリドン錠であれば3210.5mgと最少用量錠剤まで減薬)、その後断薬プログラムに導入する。

退薬を行う際の前提は、寛解状態の一定期間の持続である(1~3年)。初発例では短期間の寛解期間で退薬が成功する場合が多いが、再発例ではより長期間の服薬継続を要する。最少量まで減薬し、そのまま退薬するよりも、断薬プログラムに導入後、退薬を行う方が退薬成功の確率が高まる。断薬プログラムとは隔日服薬、3日に1回服薬、週1回服薬を各期36カ月程度経て、完全退薬する方法である。減薬・断薬プログラム期間中は再発症状に注意を払い、特に不眠は再発症状の前駆症状であるとの認識を持つ事が重要である。

治癒基準:「完全退薬後何年間再発がなければ治癒と判断するか」の問題は、諸説あるが、筆者は3年間再発がなければ治癒(leveling off)と考えている。

 

※ 西川 正:分裂病治癒者のカルテ. 星和書店, 東京p1-164, 2002.

社会医療法人 清和会   精神科診療のポイント