GIST Gastrointestinal Stromal Tumor
消化管壁の下、筋肉層にある間質と呼ばれる部分から発生するため、「消化管間質腫瘍」と呼ばれています。
人口10万人に1人〜2人と言われています。
悪性腫瘍を総称してひらがなで「がん」と呼びますが、このひらがなの「がん」と漢字の「癌」は発音は同じでも別の意味を持っています。
「がん:キャンサー」は「癌腫:カルシノーマ」と「肉腫:サルコーマ」の2種類に分けられます。
癌腫は体の表面を覆う上皮細胞と呼ばれる部分から発生する悪性の腫瘍のこと。
肉腫は上皮の内側の筋肉や筋肉と上皮の間の結合組織から発生します。
GISTは、粘膜の下に腫瘤(しゅりゅう:こぶ、かたまり)状の病変を形成する粘膜下腫瘍の1つです。消化管壁の筋肉の間にある神経叢(しんけいそう)に局在する「カハールの介在細胞(Interstitial Cells of Cajal)」に分化する細胞から発生します。「カハールの介在細胞」自体は、広く消化管に分布し、消化管運動のリズムをつくったり、調節したりする大切な細胞です。
「カハールの介在細胞」に分化する細胞において、受容体型チロシンキナーゼを構成するタンパクのうち、c-kitまたはPDGFRα(Platelet-derived Growth Factor Receptor α:血小板由来増殖因子受容体α)の遺伝子が、機能獲得型の突然変異をすることで異常増殖の信号を出し続け、その結果、腫瘍を形成すると考えられています。
・なぜGISTになったのでしょう?
遺伝や生活習慣が直接の原因ではありません。遺伝子の突然変異のせいであることは解かっていますが、なぜこの変異が起こるのかはまだ解かっていません。
・手術で完全に摘出されたと言われましたが再発するのでしょうか?
する人もいますし、しない人もいます。腫瘍の摘出時のサイズ、発生した臓器、病理検査結果、などを基に慎重な再発リスクの判定が必要です。
・初発の術後のリスク判定で再発リスクが高かった場合、アジュバント治療(術後補助療法)として、イマチニブ(グリベック)の服用を勧められる事があります。
・アジュバント治療で効果が認められない(短期間で再発転移する、腫瘍が大きくなっている等)ケースでは、遺伝子解析を受けることが推奨されます。遺伝子解析を行うと遺伝子のどの部分に異常があるかが分かります。これにより現在服用中の薬や今後服用する予定の薬に効くタイプなのか、効きにくいタイプなのかがある程度推測できますので、服用する薬の変更時期や外科的介入のタイミングを計る判断材料になります。また、遺伝子解析の結果が、治験に参加する際の選考基準になることがあります。
・この後の治療はどうすれば良いのですか?
状況により一人一人違います。
悪性あるいは再発リスクが高いと診断された場合は、GISTを数多く診ておられる医師や施設(例えばGIST研究会に所属されている医師)を頼る事、腫瘍の遺伝子解析の結果を踏まえて先手を打って対処していく事、がGIST治療において重要になってきています。
薬物療法(抗がん剤治療)
切除ができない場合や再発のリスクが高いと判断される場合は、分子標的薬を用いた薬物療法を行います。分子標的薬であるイマチニブは、延命効果が高いことが臨床試験の結果として報告され、手術不能な患者さん、または再発した患者さんの第一選択薬となっています。また、再発高リスク群の患者さんを対象とした手術後の補助療法の臨床試験結果から、術後に3年内服した場合に無再発生存期間および生存期間が延長するということがわかりました。そのため、高リスク群および腫瘍破裂が認められる患者さんには、術後3年間のイマチニブによる薬物療法が推奨されています。
再発した場合、あるいは初診時に転移がある場合や腫瘍が進行して手術ができないGISTに関しては、イマチニブを用いた薬物療法が行われます。
また、イマチニブの効果が得られない患者さん、あるいは長期使用により耐性(治療による効果が弱まること)ができた場合には、同じく分子標的薬であるスニチニブが推奨されています。
さらに、スニチニブの耐性によって効果が得られなくなった場合には、レゴラフェニブの投与が推奨されています。
分子標的薬を用いた薬物療法においては、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢、浮腫、発疹、筋肉痛、皮膚の変色(黄色になる)や手のひら、足の裏の発赤・腫れ・痛み、血圧上昇などが起こることがありますが、症状を和らげる薬を用いたり、減量して投与をすることにより多くの患者さんでは治療を継続することが可能です。また、白血球の減少や血小板の減少、貧血などが起こることもありますが、同様に注意して行います。そして、これらのほとんどが一時的なもので、治療を終了すると順次改善していきます。
放射線治療については、骨転移などで痛みを和らげたり取り除いたりする効果はありますが、腫瘍の進行を遅らせる効果は認められていません。イマチニブなどの内服中に、一部の腫瘍のみが増悪した肝臓への転移に対してラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法などが行われることがあります。
内科治療 NPO法人GISTERS
GISTの成因としてc-kit遺伝子異常が発見され、臨床には異常なKITチロシンキナーゼ(c-kit遺伝子からできるタンパク質)を阻害するイマチニブが導入され、非常に高い治療効果を示しました。その後、イマチニブが効かない場合には、スニチニブが、スニチニブが効かないGISTにはレゴラフェニブが導入され、 GIST治療は近年大きく変わってきました。従来、長期生存がのぞめなかった疾患ですが、これらの薬剤の開発により、半数を超える方が5年を超える延命が可能となっています。希少な疾患であることもあり、エビデンスは少ない中で治療は行われます。従って、「GIST診療ガイドライン」に基づいた標準治療の実施が基本です。最も重要なことは、現状の内科治療では再発や転移したGISTを完全に治すこと(根治)は難しく、効果がある薬剤を、副作用をうまくコントロールしながらできるだけ休まず内服し、可能な限り長く効かせて治療を継続することが重要になります。これらの分子標的治療薬の副作用は、血液毒性、消化器毒性・肝毒性など従来の抗がん剤でしばしばみられる副作用とは異なり、皮膚毒性、循環器毒性、内分泌・代謝に関わる毒性など多岐にわたります。そのため、いろいろな職種の医療従事者から構成されるチーム医療体制が重要であるものの、経験の多い専門機関が少ないのが現状です。
最近では、これらの分子標的治療薬の効果とGISTの遺伝子異常との関係が明らかにされ、遺伝子診断に基づいた個別化医療もGIST治療では行われるようになっています。さらに、ガイドラインで記載されているように、イマチニブやスニチニブ、レゴラフェニブの効果がなくなった場合には、新薬の臨床試験への参加が“標準治療”として記載されています。従って、GISTの薬物治療は、イマチニブ、スニチニブ、レゴラフェニブ、新薬治験が標準治療とも考えられます。