アトピー性皮膚炎

 

皮膚の上層部にできるかゆみを伴う慢性的な炎症のことをいいます。

かゆみのあるじくじくした発疹が皮膚の表面にできます。発疹がよく出る部位は、手、上腕部、ひじの内側、膝の裏などです。我慢できないかゆさのため、身体をかいてさらにかゆくなるという悪循環を引き起こし症状が悪化します。

また、かいたことによってできた皮膚の裂け目から細菌が身体に侵入すると、感染症を引き起こすこともあります。

 

どんな人に多いの?

気管支喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎のうちどれか、あるいは複数の疾患を持つ人

アレルギーと関係がある免疫物質のIgE抗体を作りやすい体質の人

免疫細胞が敵ではないものを敵だと判断してしまい、闘ってしまっている人

 

原因

原因は何でしょうか?

強力なホルモンのような働きをする細胞膜でできるエイコサイノドです。

骨格に炭素原子を20もつ物質です。(ギリシア語でeikosiは20を意味します)

このエイコサノイドには大きくわけて2種類あります。ちょうど交感神経、副交感神経、あるいはホルモンのインスリンやグルカゴンのように互いに拮抗しあうことが多いのです。

人が「闘争」状態の時には、ケンカができるように、ケガをしても大事に至らないように血管は収縮し、血はすぐにが凝固できるようにし、炎症(実はこれが傷を癒す作用があります)を起こします。

たしかに、戦う時にはこの収縮性のエイコサノイドは有効に作用しますが、日常生活の体にとっては、これは大変な負担になります。この闘争心がアトピーをはじめとしたアレルギー症候群をうみだしやすい環境を作り出しています。

ですから、できるだけ「穏やか」な気持ちでいることが、大切です。もし仕事で戦闘状態でいなければならないときは、一時間に5分は休憩を取り、心を落ち着かせることがまず初めにしなければならないことです。

 

良性(弛緩)エイコサノイドの作用:血管拡張、血小板凝集抑制、抗炎症、がん抑制、アレルギー症状寛解

悪性(収縮)エイコサノイドの作用:血管収縮、血小板凝集促進、炎症増強、アレルギー症状増悪

収縮性のエイコサイノドがじょちょうされるのは、過剰なアラキドン酸がプロスタグランジンやロイコトリエンへと代謝(変化)して、細胞膜で収縮作用を促してしまうからです。

ですから、一言でいうと、最近のアレルギー疾患は、細胞膜に過剰に蓄積されたアラキドン酸が要因です。

その原因が、「油と余分なタンパク質」、と「リンパ球Th1細胞に対するTh2細胞優位」です。

この二つが、最も重要な問題であり、これを解決することがアトピーの完治につながります。

 

治療法

皮膚に炎症がおきないようにする、という簡単なことです。

ではどうすればいいのか?

アトピー性皮膚炎は血液の中にある分解されていないタンパク質であるペプチドが、皮膚に押し出される過程で免疫作用が異物だと判断してしまい、免疫細胞が攻撃して炎症を発生させることから起こります。自分と他人を区別するセンサーは外界と内界の境界線である表皮に集中しています。

ですから、栄養を減らすのが手っ取り早い方法です。

まずは、過剰な油とタンパク質を摂取しないようにすることです。

油が問題

アトピーにはT型とW型のアレルギーが関与しているといわれています。

問題は、なぜ最近になって急にアトピーを筆頭に、喘息、花粉症といったアレルギー性疾患が増えてきたかということです。 これは、せいぜい20年〜40年の出来事です。

 こんなわずかな期間に、ヒトのDNAの変化によっての体質変化はおこりえません。

一般的にいわれているアレルギー体質とは、私たちの細胞膜に異変がおこったためにおきた現象です。

特に植物油に多く含まれるリノール酸から代謝されてできたアラキドン酸が、 細胞膜を構成しているリン脂質に過剰に蓄積し、悪影響を及ぼしているのが原因です。

したがって、その異変は、基本的な遺伝子レベルでおこっているのではないので、よほどのことがないかぎり、時間をかければ、もとの状態に修復することができます。

過剰なリノール酸と消化しきれないタンパク質を取り除きさえすればいいからです。

基本的には、実に簡単なことなのです。 難しくしているのは、極端なアンチ・ステロイドを主張するが栄養学にはまったく無知な医師たちと、それに迎合する無責任なマスコミと、 それをうまく利用する頭のいいアトピー業者たちなのです。

(*栄養学にうとい、自然派を標榜する医師はアトピーにも玄米食をすすめます。他の病気には玄米食はいいかしれませんが、アトピーには禁忌です。玄米をちゃんと噛み砕かないと、「消化不良」になり、未消化なものが腸管を通過して血液中に取り込まれてしまい、肌に噴出したものに対して細胞が攻撃をしかけるわけです。すなわち炎症です。玄米には想像以上のタンパク質と脂分があり、それが体にとっては異物となり、免疫細胞が炎症を起こして無力化してしまうからです。)

リノール酸はサフラワー油(べに花油)、サンフラワー油(ひまわり油)、大豆油、コーン油、コットンシード・オイル(綿実油)、 ゴマ油、落花生油、小麦胚芽油、月見草油、グレイプシード・オイルといった植物油に多く含まれる不飽和脂肪酸です。

このリノール酸がコレステロールを下げ健康にいいといわれ、大量に消費されるようになりました。 特に1960年代、つまり半世紀以上前、動物性脂肪のバターやラードをやめて、植物油やマーガリンにしようという「リノール酸」神話が生まれたのです。

その神話は1991年に発表されたフィンランドの研究で、完全に崩れ去りました。

しかし、今でもその神話が尾をひいており、アメリカ国立予防衛生研究所の脂質栄養学の専門家ウイリアム・ランズ教授によると、現代工業化先進国の人間のリノール酸摂取は、 必要量の10倍にもなっています。日本人の場合、多少それよりもましですが、日に2グラムで十分なところをその5倍はとっているのです。

 

天然に存在する脂肪酸は偶数個の炭素元素をもつ直鎖型をしており、二重結合をもたない飽和型と、一つかあるいはそれ以上の二重結合をもつ不飽和型に大別されます。

そして、不飽和型の脂肪酸は、不飽和結合のある位置によって、オメガ3系列の不飽和脂肪酸とオメガ6系列の不飽和脂肪酸に分けられます。前者のオメガ3系列の不飽和脂肪酸は、魚、フラックスシード・オイル(亜麻仁油)、シソ油、エゴマ油(ゴマ油とは違いますので注意してください。エゴマはシソ科に属します。シソ油とほぼ同じとみなしてけっこうです)などに多く含まれるα-リノレン酸です。

後者のオメガ6系列の不飽和脂肪酸はサフラワー油(べに花油)、サンフラワー油(ひまわり油)、大豆油、コーン油、コットンシード・オイル(綿実油)、ゴマ油、落花生油、小麦胚芽油、月見草油、グレイプシード・オイル、ナタネ油などの植物油が多く含むリノール酸です。

オメガ3系列のα-リノレン酸から良性エイコサノイドが、オメガ6系列のリノール酸からアラキドン酸を経て悪性エイコサノイドが代謝されます。これがキーポイントです。

 

アトピーを治すのに一番大事なことは、オメガ3の油を増やし、オメガ6系不飽和脂肪酸とのバランスを適切なものにすることなのです。

このバランスが悪いのは、先進国の中流階級や後進国の上流階級で、心・血管系を中心としたいわゆる生活習慣病をはじめ、がん、糖尿病、アレルギー疾患、それにリウマチなどがはるかに多く、かつ重症になっている理由の一つです。

 

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オメガ3とオメガ6の簡単な代謝経路

 

Q質問 : ナタネ油などは古くから日本でも天ぷらなどの料理に使用されてきていましたが、なぜ近代になってそれが原因でアトピーや病気がふえたのでしょうか?

A回答: 昔のナタネ油と現在のナタネ油は天と地ほどの違いがあります。昔のナタネ油にはエルカ酸(エルシン酸と誤訳されていますが、この名前もよく使われます)が多く含まれております。この油は心臓に悪いということで、アメリカあたりでは問題視されていますが、それはオスのラットの心筋に壊死をおこすという1955年のカナダの研究からであって、ヒトには安全です。このエルカ酸が多い分だけ、昔のナタネ油にはリノール酸が少なかったわけです。

 現在、多く出回っているのは、本来の菜種を品種改良して、エルカ酸含有量が2%未満しか含まない菜種にしたものからとった油で、いわゆる、キャノーラ油です。これが、エルカ酸を含む古来からのナタネ油とくらべて、いったいどれほど健康に良いのか?あやしいものだと、思っています。ナタネ油にはエルカ酸が含まれているからこそ、天ぷらに使ったときに、カラッとしたあげ心地があったのです。

 天ぷらは江戸時代にようやく庶民の口に入るようになり、屋台などで普及していたようですが、当時は現代と比べて圧倒的に油や獣肉の消費量が少なかったと推測されます。 また、現代は、天ぷらなど、油が使われていることがはっきりわかる食品だけでなく、いわゆる「うまみ」、「まろやかさ」、などを出すために、インスタント食品などに隠れて、 かなりの量の油が使用されています。ですから、リノール酸摂取の絶対量は、現代のほうが非常に多いのです。 江戸時代の屋台での天ぷら料理くらいであれば、むしろ健康に良かったかもしれません。リノール酸も、過剰摂取はいけませんが、当然、ある程度は必要です。

 

過剰なタンパク質

タンパク質はポリペプチドに分解され、さらにアミノ酸にまで細かく分解されてから、腸管から吸収されます(タンパク質→ポリペプチド→アミノ酸:このアミノ酸の段階で吸収)。

しかし、過剰のタンパク質摂取のため、アミノ酸にまで分解されず、分子量1万以上のポリペプチドが残る場合があります。 その場合、腸管膜が健康であれば、小腸粘膜の上皮細胞に取り込まれ、そこで分解された後に吸収されます。

しかし、乳児の場合や、体調を崩したときや、精神的ストレスが長引いたときなど(脳と腸は密接につながっています)、ポリペプチドが腸管粘膜から粘膜下組織に侵入し、血液中に入ってくることがあります。ポリペプチドはアミノ酸ではありませんので、消費されることなくジャンクとして体の中に残っていきます。

牛、豚、羊にはアラキドン酸が多量に含まれています。つまり、現在、世界中に蔓延しようとしているアトピー性皮膚炎の最大原因の一つは、要約すれば、肉食による過剰なタンパク質摂取とアラキドン酸の増加です。

とりわけ反芻胃をもっていない豚と鳥の肉にはアラキドン酸が多く含まれていますので、これらも悪性エイコサノイドの材料を多く提供していることになります。したがって、できるだけ肉食をさけることです。

 

現在の日本は、昔からの伝統的な食事から、タンパク質と油の多い西洋式の食事にかわってきています。しかし、アジア人のDNAはわずか50年という短期間には、その食生活に対応できません。狩猟民族の欧米人の胃酸や消化酵素は長年の肉食に適応して、特に動物性タンパク質を消化する能力は、農耕民族のアジア人より高いと推測されます。

したがって同じ分量の動物性タンパク質を摂取した場合、アジア人の方がアミノ酸にまで分解されないポリペプチドをより多く残してしまう結果になり、そのためにもアトピー症状がひどくなります。

理想は、「身土不二(しんどふじ)」です。意味は、身体と環境(特にこの場合は、その土地で採れた食物)は不可分であるということです。人にとっては、自分の足で歩いて行ける範囲、つまり三里四方あるいは四里四方で採れたものを食べ、それが健康に良いということです。

その気候、風土、生活習慣に合わせて、食事内容は変わるので、その個性的な食事が各民族の健康を維持してきました。

したがって、アトピーを本気で治そうと思うなら、伝統的な食事にもどり、洋食に多い肉・乳製品はとらないことです。動物性の脂肪・タンパク質は日本人のアトピーを悪化させます。良質のアミノ酸をとるには肉に限るという栄養学の教授は大勢いますが、理論的には動物性タンパク質であろうと植物性タンパク質であろうと分解されれば同じアミノ酸になってしまいます。

しかし、肉をとらないベジテリアンも注意しなければいけないことがあります。野菜類には肉と違ってアラキドン酸の含有率は非常に少なく、α-リノレン酸のほうがはるかに多く、それはそれでいいのですが、問題はα-リノレン酸の絶対量です。

これが野菜からだけでは、少ないのです。

そして、もし魚も食べないという厳格なベジテリアンであれば、当然、α-リノレン酸の絶対量が少なくなります。そして、穀類や豆類から脂肪を補う場合、これらにはかなりのリノール酸が含まれています。

さらに、サラダをたくさんとるときにドレッシングやマヨネーズを使うと、いっきにリノール酸が増えてしまいます。したがって、魚も食べないベジテリアンはサプリメントで積極的にα-リノレン酸を補う必要があります。。

 

オメガ3

アトピー性皮膚炎の根治療法は、まず食事をできるだけ野菜や果物の多いものにかえ、特に牛肉、豚肉、マトン、鶏肉といった高タンパク質でアラキドン酸を多く含むものを避け、サフラワー油(べに花油)、サンフラワー油(ひまわり油)、コーン油、大豆油、ナタネ油といったリノール酸の多い油を料理に使わないということです。

炒め物にするより、蒸し焼きや、水炊きにするという、ちょっとした工夫がアトピーを改善してくれるのです。

そしてオメガ3の不飽和脂肪酸の摂取を意図的にもっと増やし、オメガ3とオメガ6の比率をできるだけ、ω3:ω6=1:2〜3に近づけることです。

こうすることによって、良性のエイコサノイドが増え、アトピーのみならず、がんさえ含めた多彩な病気の予防になり、また治療にもつながるのです。

オメガ3のα-リノレン酸は背中の青い魚に多く含まれます。しかし、マグロ、カツオ、サバ、サンマ、イワシなどの青魚は、特に重症のアトピー患者にはあまりすすめられません。 なぜなら、魚油はヒスチジンという必須アミノ酸を多く含んでおり、それは痒み(かゆみ)をおこすヒスタミンの前駆物質であるからです。 そして、ヒスチジンは亜鉛を体外に排泄する作用があります。亜鉛は皮膚にとって非常に重要なミネラルです(しかし、だからといって、亜鉛も摂りすぎてはいけません)。

したがって、痒みの非常に強いアトピー患者は、症状が軽快するまでは、青魚は積極的には摂らないほうがいいかもしれません。しかし、そういったものを食べて痒みが増さなければ、まったく問題はありません。肉、ハム、ソーセージ、チーズなどよりずっとましです。そして、アトピーが治っていくにつれて、青魚を食べても痒みはでてこなくなります。

α-リノレン酸を確実に摂るには、フラックスシード(亜麻の種)がおすすめです。

コーヒーミルを持ち合わせていない人は、よく噛んで食べるという方法もありますが、それはお勧めできません。なぜなら、種は小さいうえに皮がけっこうかたく、かなりの種が噛み砕かれずにそのまま飲み込まれてしまうからです。その場合、フラックスシードは何の効果もありません。また、フラックスシードは粉末にすると、すぐに摂ってください。つまり、一回ごとに粉末にするのが面倒くさいといって、2〜3日分、まとめて粉末にするようなことはしないでください。すぐに酸化されるからです。

このフラックスシードを粉末にして摂るというのが面倒な人たちは、すでにフラックスシードから圧搾されてできたフラックスシードオイル(亜麻仁油)があります。

便利さからいえば、フラックスシードオイルですが、できるなら、そのもとになるフラックスシード(種)そのものを粉末にして摂ったほうがいいでしょう。なぜなら、フラックスシードにはオイル以外に、リグナン(抗腫瘍作用などがある)や植物繊維がふんだんに含まれているからです。

オメガ3系列のオイルはすぐに酸化されますので、炒め物に使ってはいけません。くれぐれも注意してください。

また、サラダのドレッシングにはフラックスシードオイルや紫蘇油(シソ油)を使ってください。決してマヨネーズや普通のサラダドレッシングを使ってはいけません。

 

ココナッツオイルはどうでしょうかという質問があります。ココナッツオイルの60%を占めるのが中鎖脂肪酸で、分子構造が長鎖脂肪酸(先に述べた、α-リノレン酸、リノール酸、アラキドン酸などは長鎖脂肪酸です)の半分ほどの長さの脂肪酸です。消化や吸収経路が、長鎖脂肪酸とは違っていますので、長鎖脂肪酸の4〜5倍速く分解され短時間でエネルギーになります。しかし、エイコサノイドの代謝とは関係がありませんので、アトピーに対する効果については、ほとんど関係がありません。つまり、アトピーを改善させようとして摂っても無意味ですが、ココナッツオイルを摂ったからといって、アトピーが悪化することもないということです。

 

 

 

 

 

 

リンパ球Th1細胞に対するTh2細胞優位

Th1細胞、Th2細胞とは免疫に関係するリンパ球です。ここで、図を見てくだされば、Th1細胞、Th2細胞の人体における位置づけが見通せるでしょう。白血球の一つであるリンパ球がさらに分化した細胞です。

Description: リンパ球Th1細胞に対するTh2細胞優位

Th1細胞はキラーT細胞の分化や働きを助けたり、マクロファージも活性化し、細菌やウィルスなどの異物を攻撃、破壊して感染を防ぎます。 またB細胞にIgG型抗体を産生させ、U型アレルギーやV型アレルギーをおこさせます(U型アレルギーは免疫性溶血性貧血や重症筋無力症など、V型アレルギーは血清病や糸球体腎炎などです。)
Th
2細胞はB細胞にIgE型抗体を作らせます。IgE型抗体はアレルゲンとくっついて、肥満細胞を刺激します。そこで、肥満細胞はヒスタミンやロイコトリエンを放出し、アレルギー症状を惹起させるのです。

そのため、Th2が増えればT型のアレルギー(花粉症、気管支喘息、食物アレルギー、アトピーなど)を悪化させます。
Th
1細胞とTh2細胞は、免疫全体のバランスをたもつために、それぞれ異なるサイトカインを出して、お互いに牽制しあっています。しかし、アレルギー疾患をもつ人はTh2がTh1よりも多くできてしまうのです。ちなみにTh1/Th2の正常値は8〜12です。

また、50年前は、非常に多くの人たちが寄生虫をもっており、そのため、Th1Th2のバランスの崩れが、今よりずっと少なかったです。

 

衛生仮説

1989年イギリスのStrachan博士によって提唱された説で、抗菌グッズに囲まれたクリーンな生活環境はアレルギー疾患を引き起こしやすくするのではないかということです。

それを2万人に近い人間を20年以上に渡り追跡調査し、疫学的に立証したのです。

これを衛生仮説(Hygiene Hypothesis)と名づけて発表したのですが、当時はまだ医学界がTh1細胞、Th2細胞に対する理解が不十分だったため、広くは受け入れられませんでした。

しかし、現在は最も説得力ある学説の一つとして認められつつあります。

兄弟姉妹が多いほど、そして下の子供になるほどアレルギー疾患が少ない。つまり、幼いときに細菌やウイルスに感染すれば、アレルギー疾患にはかかりにくいと、疫学的に証明したのです。

その理由は、生活水準や衛生環境の向上によって幼少時の感染が減少したためだとしたのです。この説はその後多くの研究者によって確かめられています。

たとえばツベルクリン反応陽性率とアレルギー疾患発症率が反比例することや、麻疹にかかった子供は、かからなかった子供よりアトピー症状を発症しないことなどです。A型肝炎、ピロリ菌感染などでも同じことがいえるのです。

また、農家の子供は喘息になりにくいことはよく知られています。

オーストリア、ドイツ、スイスの、同じ地域の農家と農家でない家の児童を、彼らが寝ていたマットレスから採取したほこりより測定したエンドトキシンへの暴露濃度と喘息の発症率の関係を調べたところ、エンドトキシンへの曝露が大きいほど、児童が喘息をもつ可能性は小さかったのです(こんなことを証明されると、ダニのつかない布団を売っているアトピー業者さんは困ってしまいますね!)。

またアメリカのボストン市内に住む生後2〜3ヶ月の500人の乳幼児を対象に追跡調査したものでも、エンドトキシン濃度が高いほど、赤ん坊は生後1年間、湿疹の発生率が少なかったのです。

つまり、簡単にいえば、ある程度、非衛生的な環境で育った子供の方が、アトピーになりにくいということなのです。

まさにそのとおりであり、チベットやインドネシアやラオスの元気な子供たちにはアトピーは皆無です。

*エンドトキシンとは細菌がもつ毒素の一種。グラム陰性菌が壊れて、その細胞壁の構成成分であるリポ多糖体が遊離し、毒性を発揮します)。

一般的にいって、新生児期にはTh2細胞優位なのですが、その後、細菌、ウイルス、細菌がだす毒素などに接し、Th1細胞が優位になり、Th1/Th2はバランスのとれたものになっていきます。

つまり健康に成長していくには、微生物からの適度な刺激がなくてはならないということなのです。

泥とたわむれ、野山をかけずり回る時期が必要なのです。ところが無菌室とまではいきませんが、それに近いような環境で、しかも少子のために過保護に育てられると、Th2細胞優位のままになってしまうのです。

そして、アトピーを筆頭に喘息、花粉症などにかかりやすくなってしまったのです。

また、乳幼児に過剰に抗生物質が使われ、悪いバクテリアのみならず無害なバクテリアも十把一からげに一掃されてしまうと、その後のアレルギー発症頻度が高くなります。 本当に賢い親たちは直感的にそれを知っており、ある程度子供を突き放して、抗生物質もできるだけ使わないで成長を見守ってきたのです。

 

Th1/Th2バランスの是正

すでにバランスが崩れてしまったリンパ球をもとにもどす手段を今、講じなければ、アトピーは治らないのです。

そこで、世界中の研究者がしのぎをけずって新しい治療法を探しています。その最先端が樹状細胞dendritic cell (DC)です。この細胞は未分化のT細胞を、種々の刺激により、Th1細胞やTh2細胞へと分化させるのに大きな役割を果たしているのです。

このTh1細胞あるいはTh2細胞への振り分け機能を解明すれば、アレルギーに対する根治療法が確立されるかもしれません。しかし、今のところまだだれもその偉業ともいえる発見を成し遂げてはいません。しばらくは他の手段に頼らざるをえないのです。

 

治療薬

@    メガ-3不飽和脂肪酸

フラックスシードやフラックスシード・オイルです。アラキドン酸から代謝されてできるプロスタグ ランジンE2は、未分化のT細胞をTh2細胞に分化させる作用があります。。

このアラキドン酸カスケードと拮抗するのが、オメガ3系統の油なのです。フラックスシードは自然がくれた最高の贈り物です。

 

A乳酸菌(ヨーグルト、ぬか漬け、キムチ)

乳酸菌の種類に注意してヨーグルトを選んでください。 また、乳酸菌の分類については専門家の間でも、乳酸菌とビフィズス菌を別に分類したり、あるいは乳酸菌の一種としてとりあげたりして、混乱があるようです。

しかし、いずれにせよビフィズス菌がメインになっているヨーグルトは、現在のところ避けたほうが無難です。

その理由は、ビフィズス菌は種類によっては、アトピー治療に重要なビオチンというビタミンを消費してしまうからです (ラベルに注意してください。「ビフィドバクテリウム」という文字はビフィズス菌を示します)。

そこで、乳酸桿菌「ラクトバチルス」系がすすめられます。ラクトバチルス・パラカゼイかラクトバチルス・アシドフィルスがいいでしょう。

スウェーデンのビョルグステン博士らによっても乳酸桿菌が腸内に多い子供はアレルギー疾患にかかりにくいことが報告されています。 グラム陽性菌である乳酸桿菌はTh1細胞を誘導し、Th1/Th2の比率を正常に戻してくれるのではないかということです。

また「ぬか漬け」や「キムチ」もいろいろな種類の乳酸菌を含んでいますが、特に乳酸桿菌が 多いのです。 したがって、アトピーには非常にいい食材なのです。

 

Bキノコ

キノコ類がTh1/Th2のバランスを是正してくれます。また、ササの葉エキス、フコイダン、キチン・キトサンなども効果があるようです。

これらに共通するのは、細胞壁に含まれ最含まれているβグルカンや硫酸化多糖類といった高分子多糖類です。これが免疫系を調節してくれるのです。

以前、キリンの子会社が販売していた「キリン細胞壁破砕アガリクス」が、発がん性ありということで、販売中止になったことがありました。それは熱水抽出が不十分でアガリチンという物質が分解されずに残っていたせいだといわれています。

漢方薬でキノコを処方する場合、時間をかけて煎じます。ですから安全なのです。

したがって、キノコの高価なサプリメントを購入することができなければ、スーパーで売られている安いシイタケ、シメジ、エリンギ、マイタケ、キクラゲなどで自家製キノコスープをつくってください。

漢方と同じように、時間をかけてゆっくりと煮込まなければいけません。特に干しシイタケには豊富なビタミンDが含まれていますから、ダシにも積極的に使われるといいでしょう。

 

C梔子柏皮湯(ししはくひとう)

これは山梔子(さんしし:クチナシの皮)、黄柏(おうばく:キバチの皮)、それと甘草(かんぞう)を混ぜてつくった漢方薬です。この漢方薬はTh1/Th2のバランスを是正する作用をもっています。

しかし、Th1/Th2のバランスが正常であったり、逆にTh1が優位のアトピー患者さんが現実にはおられます。このような場合は、この漢方薬は無意味です。また、一ヶ月間服用して何ら改善のきざしがない場合は止めたほうが賢明です。

また、漢方薬は「証」という、漢方医学の面から見た体質によって、同じ症状でも使う薬が違ってきます。そして、この「証」を見極めるのがけっこう難しいのです。

したがって、かなり漢方医学に精通した医者に処方してもらうべきです。インターネットでも購入できますし、一ヶ月分が3000円前後と安いのですが、しろうと判断は禁物です。

また、医王湯とも呼ばれる補中益気湯(ほちゅうえっきとう:人参、朮、黄耆、当帰、陳皮、大棗、柴胡、甘草、升麻、 乾生姜)や、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう:人参、朮、茯苓、甘草、当帰、川芎、芍薬、地黄、黄耆、桂皮)は、よく 抗がん剤使用中の副作用軽減のために使われますが、Th1細胞も増加させます。

 

参照 エイコサノイド

良性エイコサノイドの作用:           血管拡張、血小板凝集抑制、抗炎症、がん抑制、アレルギー症状寛解

悪性エイコサノイドの作用:           血管収縮、血小板凝集促進、炎症増強、アレルギー症状増悪

良と悪はどちらも必要なもので、良きを選択し、悪きを排除するものではありません。

 

前者に属するプロスタグランジンE1は血小板凝集抑制や血管拡張作用を有し、高血圧や心・血管系の病気を防ぎ、後者に属するトロンボキサンA2は、逆に血管収縮作用や血小板凝集促進により心・血管系の病気を誘発しやすくします。

しかし、注意してほしいのは悪性エイコサノイドも、人にはとても必要なものです。たとえば指を不注意によって傷つけた場合、もしトロンボキサンA2の血管収縮作用や血小板凝集促進作用がなければ、出血は止まらず、たいへんなことになります。

また闘争する時は、悪性エイコサノイドが優位のほうが有利です。 争いに勝って自分のDNAを残すには、闘争の瞬間には、血圧は高めであるべきで、傷を受ける確率も高く、血液は凝固しやすくなくてはいけません。 ちょうど交感神経と副交感神経のようなものです。

ところが、この闘争状態が、アレルギー、高血圧、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、喘息、リウマチといった慢性疾患や生活習慣病、ひいてはがんなど、つまり、ほとんどの病気は悪性エイコサノイドと深くかかわりあっています。現代の生活は闘争が多すぎるのでしょう。

今度は逆に、良性エイコサノイドのプロスタグランジンE1だけが過剰に存在すれば、血圧は非常に下がり、ヒトはショック状態に陥ります。つまり大切なことはバランスなのです。

ただ、人は体のどこかを毎日のように傷つけるわけはなく、普通はトロンボキサンA2の血管収縮作用はさほど必要でなく、かえって高血圧、心筋梗塞などをおこしやすくするので悪性という呼称を使っているだけです。

この便宜上の分類が誤解を生むもとになっています。

 

細胞膜のレベルで定義すれば、病気とはエイコサノイドのバランスが崩れ、悪性のエイコサノイドが良性のエイコサノイドを慢性的にはるかにしのいだ状態であると、いいかえることができるかもしれません。

闘争している状態をできるだけ減らすのが病を遠ざける近道です。

 

まとめ

いったんアレルギー症状が発症してしまってから、土や泥やエンドトキシンと接しても、症状を悪化させるだけで遅すぎます。また、ヨーグルト、キノコ、漢方薬を摂ってもさほど改善しないという患者さんは現実には大勢います。

なぜなら、アトピーはT型とW型のアレルギーが関係しているとはいわれるものの、純粋なアレルギー疾患ではないからです。

そもそも、アトピーの診断基準は、「アトピー性皮膚炎は、増悪・寛解を繰返す、掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」であり、 アレルギー疾患とは定義されていません。おそらくTh1/Th2のバランスのくずれは、数割しか関与していないのでしょう。

したがって、特にアジアにおいては、まず「油と余分なタンパク質」を解決することが必須です。 そして、次が「Th1/Th2のバランスの是正」です。

元気のいい時には、アレルギーの原因である抗原やストレスと共生(飼い慣らす・慣れる)する練習をして、元気のない時には、アレルギーの原因からできるだけ遠ざかるという、相反する2つの戦略が効果的です。

ですからただアトピーを避けるために、床をフローリングにしたり、ダニのつかない布団を購入したり、アトピーに効くという遠方の温泉に行ったり、50万円もする高額な浄水器を取付けたり、無菌ルームをつくったりするのは、 あなたが大金持ちでないかぎり、最後の最後にしてください。その前にアトピーはきっと<9割>治っています。

 

免疫システムの過剰反応

体に外部から異物が入ってきた時にその異物を取り込んで飼い慣らすのが免疫です。異物との共生です。

免疫の主な働きは、異物を抗原として認識し、異物を無力化するために、抗体をつくることです。

抗体は抗原(異物)と結びついて抗原を無力化して排除する役割があります。この免疫システムが過剰に作用して害のないものにも抗体をつくることがアレルギーです。

アトピー性皮膚炎の場合は、血清中のIgE抗体が増えて異物に対する特異IgE抗体の値が高い場合が多いようです。症状には個人差があり、発症や悪化させる要因もそれぞれ異なります。

よく免疫システムとは、異物を排除する過程であると説明する専門書はありますが、現場である体内で実際に起きているのは排除ではなく、異物を無力化して飼い慣らし、自分の一部とする共生です。

 

アトピーが悪化する5つの外部的要因

<空気の乾燥>

春は特に空気が乾く時期です。乾燥すると皮膚のバリア機能が弱くなってしまうので、外部からの刺激を受けやすくなりかゆみが増すことがあります。

<気温の上昇>

気温が上昇すると汗をかきます。汗をかいたままにしておくと肌が不潔になり雑菌が繁殖して肌への刺激が増します。

<心理的なストレス、寝不足>

春は就職や引っ越しなどで環境が大きく変わる季節です。慣れない環境での精神的ストレスはホルモンバランスを不安定にさせアレルギー反応が出やすくなります。

<刺激を与えるものとの接触(花粉やダニ、ハウスダスト、衣類など)>

春に多く飛ぶのが花粉です。症状である目のかゆみや充血、鼻水などが肌に刺激をあたえアトピー性皮膚炎の湿疹を悪化させることがあります。

<食物>

乳幼児では食物アレルギーによってアトピー性皮膚炎が誘発されることもあります。

成人は個人差がありますが、アルコールや香辛料などの刺激物はかゆみを増すと考えられています。砂糖脂肪分もかゆみを悪化させることがあります。