アスペルガー症候群

 

概要 Wikipedia抜粋と加筆

興味の面では、特定の分野については驚異的なまでの集中力と知識を持ち、「空気を読む」行為が苦手、細かい部分にこだわる、感情表現が困難といった特徴を持つ。新聞のスポーツ欄にある野球選手の打率を毎日覚えてしまうなどの驚異的な記憶力を示すこともあるが、「電話をかけながらメモが取れない」「券売機で切符が買えない」など一般人が出来る普通の行為ができない障害を持つこともある。

なお、世界保健機関・アメリカ合衆国・日本国などにおける公的な文書では、自閉症とは区別して取り扱われる。精神医学において頻用されるアメリカ精神医学会の診断基準 (DSM-IV-TR)ではアスペルガー障害と呼ぶが、アスペルガーを「障害」や「症候群」として取り扱うことへの反論は根強く、DSM-5ではアスペルガー症候群の名称をなくし自閉症スペクトラム(autism spectrum disorder)に統一された。

ギリシャ語のautos-(自己)と-ismos(状態)を組み合わせた造語で、スイスの精神科医、オイゲン・ブロイラーが「統合失調症患者が他人とコミュニケーションができない症状」として使用した。

Spectrum ラテン語specere(見る)+-Dre-um=見えるもの

他者の気持ちの推測力など、心の理論の特異性が原因の1つであるという説もある。特定の分野への強いこだわりを示し、運動機能の軽度な障害が見られたりすることもある。しかし、カナータイプ(伝統的な自閉症とされているもの)に見られるような知的障害および言語障害はない。

知能は平均以上で、学校の成績も良かったアスペルガー症候群を持つ成人が、職場では適応障害を起こすことがしばしば見られる。これはコミュニケーションの特異性(空気を読むことが出来ない、会話が一方通行になりがち、あいまいな指示が理解できない、白黒はっきりつけたがる、一般人の持つ常識が備わっていない)、同時並行に複数の業務をこなすことができない、急な変更にうまく対応できない、細部に注意が集中し全体像把握が苦手等のためである。以上の性質からアスペルガー症候群を持つ成人は、接客やチームワークを必要とする仕事には元来向いていない。アメリカの大部分の調査結果によると、アスペルガー症候群の成人の75-80%はフルタイムの仕事に就いていない。 アスペルガー症候群を持つ成人に必要な職場での支援は、スケジュールや手順を明示する、指示代名詞を使わない、複数のことを同時に頼まない、ジョブコーチをつけるなどである。

 

特徴

コミュニケーション上の主な特徴

アスペルガーの人は、多くの非アスペルガーの人と同様か、またはそれ以上に強く感情の反応をするが、何に対して反応するかは常に違う。彼らが苦手なものは「他人の情緒を理解すること」である。

例として、教師がアスペルガーをもつ子供に(宿題を忘れたことを問いただす意味で)「犬があなたの宿題を食べちゃったの?」と尋ねると、その子は押し黙ってしまう。この時、その子は自分は犬を飼っておらず、普通犬は紙を食べないことを教師に説明する必要があるのかどうかを考え、教師の表情や声のトーンから暗に意味していることを理解できないのである。教師がこの子は宿題のことをうやむやにしようとしている、反抗的である、と考えたりしてしまう場合もある。

上記の例のように、アスペルガーをもつ子供は、言われたことを額面どおり真に受けることが多い。成長の上で問題となるのは、親や教師が励ますつもりで「テストの点数など、さほど大事ではない」等、きれい事ばかり言ったり、反対に「テストで点数を取れなければ、何も買いあたえない」等、現実的なことばかり言い聞かせること、つまり極端な教育をすることである。結果的に持つべき水準からかけ離れた観念を持って行動してしまう危険性がある。

彼らは、“大人の発言には掛け値(誇張)がある”という疑いを持ちにくく、持ったとしても、はたして掛け値がどのくらいなのかを慮ることが困難であるため、発言者の願望を載せて物事を大げさに表現すると狙った効果は効き過ぎることになる。

アスペルガー症候群の人間は、それ以外の人々がモラトリアムを経由して獲得できると言われる「自我同一性」の獲得が困難とされる。自分が過去から連綿と続いている存在であるという認識を持つことが出来ず、中庸の考えを持たない為、極端で観念的な思考に走りやすい傾向がある。被害妄想、対人恐怖などを起こすこともあり、統合失調症と誤解されるような病的な精神状態になってしまうこともある。精神に混乱をきたし、自分の世界に引きこもる、その混乱を周囲に対する怒りに置き換える、などの傾向を見せる。

非自閉症の人(NT:neurotypical, 典型的な精神の人)は、他者の仕草や雰囲気から多くの情報を集め、相手の感情や認知の状態を読み取ることができる。この能力が自閉症の人には欠けており、他者の心を読むことが難しい(心の理論の欠如)。 そのような、仕草や状況を読み取れない人は他人が微笑むようすを見ることはできても、その微笑みがなにを意味しているかが理解できない。多くの場合、彼らにとって「行間を読む」ことは、困難ないし不可能である。最悪の場合、対人コミュニケーションにおいて、表情を読みとることができない。つまり、人が口に出して言葉で言わなければ意図していることが何かを理解できないのである。しかし、彼らはボディーランゲージなどを通して相手に伝えることは可能である。とはいえ、この種の能力差は、健常者から深刻な障害をかかえるケースにまでわたってスペクトラム状(連続体)に分布している。したがって、アスペルガー症候群に分類されるケースにおいても、表情や他人の意図を読み取ることに不自由のない人もいる。また、彼らはしばしばアイコンタクトが困難である。ほとんどアイコンタクトをせず、それをドギマギするものだと感じる場合が多い。その一方で、他人にとって不快に感じるくらいに、じっとその人の目を見つめてしまうようなタイプもいる。アイコンタクトなどにおいて、相手から発せられるメッセージを理解しようと努力しても、この障害のために相手の心を解読しそこねることが多い。例えば、初対面の人に挨拶をする際に、社会的に受け入れられている通常の手順で自己紹介をするのではなく、自分の関心のある分野について一人で長々と話し続けることもある。

他人に自分の主張を否定されることに強く嫌悪感を覚えるという人もいる。このことは学校などで学習上の大きな障害となる。例えば、教師が生徒にいきなり答えさせ、生徒:「これは○○だと思います」、先生:「 違うよね、これは××だよ」というように、否定して答えやヒントを教えるような方法は、アスペルガーの人には相当な苦痛やストレスとなる。しかし、多くの成人は、忍耐力のなさと動機の欠如などを克服し、新しい活動や新しい人に会うことに対する耐性を発達させている。

これらのことは子供時代や、大人になってからも多くの問題をもたらす。アスペルガーの子供はしばしば学校でのいじめの対象になりやすいとの指摘がある。理由として彼ら独特の振るまいや言葉使い、興味対象、身なり、そして彼らの非言語的メッセージを受け取る能力の低さを持っていることが主な原因とされる。彼らに対し、前述の言動やアスペルガー症候群という病気自体が理解できず、アスペルガー症候群患者に対する嫌悪感を持つ人が多いとされている。このため教育の場である学校において、今後はサポート体制の確立や自立の支援、他の子供への理解を深めさせる、といった総合的な支援策が必要になるという指摘がある。

「アスペルガー症候群」という一つのカテゴリーであっても、人によって障害の度合いは千差万別である。例えば、学校の友達とうまく話せたり、話をうまくまとめられるなど、至って軽度な場合もある。また、上手く話せず、それでもよい友達に巡り会えたから必死で耐えているというように、自閉度が中度–重度なこともある。この障害は、カナータイプの自閉症などと違い、一見「定型発達者」に見えるために、周りからのサポートが遅れがちになったりすることが問題となっている。

限定された興味や関心

アスペルガー症候群は、興味の対象に対して、きわめて強い、偏執的ともいえる水準での集中を伴うことがある。例えば、1950年代のプロレスや、アフリカ独裁政権の国歌、マッチ棒で模型をつくることなど、社会一般の興味や流行にかかわらず、独自的な興味を抱くケースが見られる。しかし、これらの対象への興味は、一般的な子供も持つものである。両者の違いは、その異常なまでの興味の強さにある。アスペルガー児は興味対象に関する大量の情報を記憶することがある。

また一般的に、順序だったもの、規則的なものはアスペルガーの人を魅了する。これらへの興味が物質的あるいは社会的に有用な仕事と結びついた場合、実り豊かな人生を送る可能性もある。例えば、コンピューターに強い興味を持って取りつかれた子供は、大きくなって卓越したプログラマーになるかもしれない。それらと逆に、予測不可能なもの、不合理なものはアスペルガーの人が避ける対象となる。突然のアクシデントや、論理的に話し合いのできない感情的な人間なども、その例である。

彼らの関心は生涯にわたることもあるが、いつしか突然変わる場合もある。どちらの場合でも、ある時点では通常12個の対象に強い関心を持っている。これらの興味を追求する過程で、彼らはしばしば非常に洗練された知性、ほとんど頑固偏屈とも言える集中力、一見些細に見える事実に対する膨大な(時に、写真を見ているかのような詳細さでの)記憶力などを示す。ハンス・アスペルガーは、彼の幼い患者を『小さな教授』と呼んでいた。その13歳の患者は、自分の興味を持つ分野に網羅的かつ微細な、大学教授のような知識を持っていたからである。

臨床家の中には、アスペルガーの人がこれらの特徴を有することに全面的には賛成しない者もいる。たとえばWing Gillberg はアスペルガーの人が持つ知識はしばしば理解に根付いた知識よりも表層だけの知識の方が多い場合がある、と主張している。しかし、このような限定はGillbergの診断基準を用いる場合であっても、診断とは無関係である。

アスペルガーの児童および成人は、自分の興味のない分野に対しての忍耐力が弱い場合が多い。学生時代、「とても優秀な劣等生」と認識された人も多い。これは、自分の興味のある分野に関しては他人に比べてはるかに優秀であることが誰の目にも明らかなのに、毎日の宿題にはやる気を見せないからである(時に、「興味のある分野であってもやる気を見せなかった」という報告もあるが、それは他人が同じ分野だと思うものが本人にとっては異なる分野だからだと思われる。例えば、数学に興味があるが答えが巻末に載っている受験数学を自分で解くことに興味が相対的に変化し、日本語の旧字体に興味はあるが国語の擬古文の読解問題には興味が持てない、など)。ノートやテスト用紙に文字を手書きすることを、快く思う子供、またそうでない子供もいる。一方、学業において他人に勝つことに興味を持ったために優秀な成績を取る人もおり、これは診断の困難さを増す。

感覚

アスペルガーの人は他の様々な感覚、発達、あるいは生理的異常を示すこともある。その子供時代に細かな運動能力に遅れをみせることが多い。特徴的なゆらゆら歩きや小刻みな歩き方をし、腕を不自然に振りながら歩くかもしれない。手をぶらぶら振るなど(常同行動)、衝動的な指、手、腕の動きもしばしば認められ、チック症を併発している場合も多い。

アスペルガーの人は感覚的に多くの負荷がかかっていることがある。音、匂いに敏感だったり、あるいは接触されることを好まなかったりする。例えば、突然大きい声でまくしたてられたり、頭を触られたり、髪を触られるのを好まない人もいる。音に神経質過ぎて不眠を訴える人も多い。これが子供の場合、教室の騒音が彼らに耐えられないものである場合等、学校での問題をさらに複雑にすることもある。 別の行動の特徴として、やまびこのように、言葉やその一部を繰り返す反響言語(エコラリア)と呼ばれる症状を示す場合がある。

宮尾益知はアスペルガー症候群の感覚面での特徴として、「ちょっとした態度や言葉で著しく傷つき、それがトラウマとなりやすい」「幻覚や妄想じみたこだわりを見せる傾向がある」「過去のトラウマから、第三者にとってはちょっとしたことでもフラッシュバックを起こして大騒ぎをする」「大変まじめで、それゆえに壊れやすい」という見解を出している。

併発しうる疾患

睡眠障害

近年では、アスペルガー症候群を含む発達障害と睡眠障害との関連性が発見されてきた。睡眠障害といっても、ナルコレプシーや睡眠時無呼吸症候群などの先天的な障害ではなく、睡眠相後退症候群や非24時間睡眠覚醒症候群などの概日リズム睡眠障害、不眠症、過眠症などの後天的な障害のことである。毎日の睡眠は、脳を整理・形成する働きを持っており、脳の働きや思考メカニズムが定型発達者とは異なるアスペルガー症候群の場合、睡眠障害は非常に起こしやすい二次障害である。睡眠障害は、一度なるとどんどん悪化してしまう傾向があり、難治性であるために、睡眠障害を起こさないように就寝や起床の時間を規則正しく生活することが重要であるとともに、症状が見られた場合は早急に治療をすることが必要である。睡眠外来で診てもらう時は、アスペルガーなどの発達障害をもっていることを申告することが望ましいだろう。

なお、日本で唯一「子どもの睡眠と発達医療センター」を設置している兵庫県立リハビリテーション中央病院の三池輝久医師は、「幼児期の睡眠こそが、潜在している発達障害の発症を左右させる原因である。」との、全く逆の展開も発表している。

精神疾患

一部のアスペルガー症候群の人は、その特異性から他者とコミュニケーションがうまくいかずに、頻繁にイライラしたり落胆することが多い。このような状況が長年に渡って続くことにより、二次障害としてうつ病などの精神障害を引き起こすことが確認されている。

うつ病 - ASの少なくとも60%に認められる

不安

強迫神経症 - 不安が原因となる摂食障害

精神病と統合失調症

このような二次障害を予防するためには、アスペルガー症候群に定型発達者と同じコミュニケーション方法を望んだり、興味の対象を無理に広げさせたりしないことが重要である。アスペルガー症候群の人はほとんどの場合が、自分の行動が自分の意思によるものだということを強く認識している場合が多く、それを否定されると多大なストレスが伸し掛ることが多いのである。

身体的な疾患  神経炎、免疫不全 胃腸障害 てんかん

原因

抗うつ薬、特にSSRIを妊娠中に使用することは、母体のうつ病を考慮しても、子供が自閉症スペクトラムになるリスクを増大させる。

バルプロ酸ナトリウムを妊娠中に使用することは、母体のてんかんを考慮しても、子孫が自閉症や自閉症スペクトラムになるリスクを増加させる。

生理学的特徴

2012年の京都大学の神経化学研究チームの発表によると、アスペルガー症候群の者は対人相互作用などに強く関係する上側頭溝・紡錘状回・扁桃体・内側前頭前野・下前頭回などの脳全体に占める割合が、通常人と比べ相対的に低いことがわかった。

誤診問題

他の精神疾患と誤診される可能性があるとの意見や報道がある[25]。誤診されやすいものとして統合失調症、スキゾイドパーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害、強迫性パーソナリティ障害、ADHD、ナルコレプシー、びっくり病が挙げられている。

治療薬

2015年現在、治療薬や症状を緩和する薬として、正式に承認されている薬は存在しない。 うつ病や不安障害といった二次障害を含めた症状を軽減する薬として、抗うつ薬、抗精神病薬、気分安定薬などを処方する場合がある。

研究段階としては、オキシトシンを投与が効果があるという研究があるが、まだ臨床では認められていない[29]。双極性障害に処方される非常に使い方の難しい薬(最適治療量と中毒量が近い)ではあるが、炭酸リチウムには認知を改善する(自分を客観的に見られるようになる)作用があり、人格障害でもアスペルガー症候群でも作用するという。また、自閉症と同様の治療として漢方薬での治療[30]や、鍼治療による治療[31]もある。アフリカ睡眠病の治療薬として開発された、スラミンなども自閉症向けに研究されている[32]

アスペルガー症候群の援助

アスペルガー症候群の人は、現代社会に対し、非常に適応しにくい困難さをかかえている。あちこちで衝突が起こり、引きこもりになっていることも少なくない。自分自身に強いコンプレックスを抱え、二次障害でうつ病を発病したり、自殺志願を持つ人も決して少なくない。そういうアスペルガー症候群の人に援助をする必要が急がれている。発達障害者支援センターなどをはじめ、少しでもアスペルガー症候群の人が社会で暮らしやすいよう、地域活動支援センターやデイケアなどの設備を整える必要が早急に問われている。最も必要なことがこの障害を理解し、受け入れる環境的素地を作り上げることである。

2012年現在、関連書籍が多数発売されたり、主にNHKでアスペルガー症候群についての番組や特集が組まれることが増え、社会認知はある程度は進んだと言える。しかしながら、身体障害やダウン症候群など、目に見える障害ではなく、またアスペルガー症候群の人と実際に話してみても、障害を持っている人間とはわからない場合も多く、外見もごくごく普通であることがほとんどなので、自らカミングアウトしない限り、「変わり者」程度の認識しか持たれないケースが多く、これが障害を抱える本人にとっての苦痛になっている。他人とのコミュニケーション能力の障害ゆえ、対人関係での衝突や確執が多く生まれることがあり、これもまた障害を持つ本人に苦痛を与える大きな要因となっている。相手が理解をしてくれない限り「変な奴」と見られ、いじめの対象になったり、周りから嫌われたり、仕事上の足手まといのような存在に思われることもあり、非常に難しい障害であると言える。また、場合によっては本人が、障害そのものに大変なコンプレックスを抱いていることもある。それ故に定型発達者と同じように、無理矢理外に出ようとすることもある。 当然ながらこれは、自分自身を肉体的・精神的に追い詰めることでもあるため、場合によっては、それがうつ病などの二次障害を発症する原因になってしまう可能性もある。

大きな問題は、この障害に対する福祉制度がまだ未熟であることにある。2005年に発達障害者支援法が制定され、障害者自立支援法に発達障害も範疇に入ることが2010年代に入って決められた。また、アスペルガー症候群の人も精神障害者保健福祉手帳を持てることにはなっているが(自治体の裁量で持てない場合もある。発行基準は一元化されていない)、働くことや他人との関わりに困難を抱えている人は多い。ただ、行政の側でも発達障害を持つ人を雇った企業へ助成金を支給するなどの取り組みは行なわれている。しかし、働く意欲のあるアスペルガー症候群の人が、対人関係や精神衛生上の問題をクリアした上で就労できる時代にはまだなっていない。

アスペルガー症候群を持つ人に対する支援の成否は人によって異なる。例えば、「この人にはこう支援して人生がうまくいくようになった」というケースがあった場合でも、それが他のアスペルガーの人に当てはまるとは限らない。人によってどういったところにハンデがあるかは千差万別だからである。「障害」だからと一律に皆を福祉で養おうとすると、働く意欲や、労働の中での他者との良好な人間関係や、収入など、実りある人生の可能性を奪ってしまう場合も有り得る。発達障害を抱えながらも、周囲のサポートを得て一般企業で働いている人たちは多い[34]。しかし、働きたいのに働けない人、またつまずくのが怖くて社会に出られない人も多くいる。その人その人に合ったきめ細やかな対応、社会の中での居場所の確保が求められている。

アスペルガ−症候群が苦手もしくは不可能とされる職業は接客業、多様なメニューに対応する調理人、受付常務、様々な作業を担当する事務、コミュニケーションが大事な営業や勧誘業、などの器用で効率よく場の空気を読んで、臨機応変な対応をする常務はなどが苦手とされる。すなわち世の中に存在するほとんどの仕事が苦手である。

一方、得意とされる職業は、画家、彫刻家、工芸家、陶芸家、写真家、建築家などの美術家。作詞家、作曲家、編曲家などの音楽家。小説家、漫画家、詩人、映画監督、脚本家、放送作家などの作家。その他、フラワーアーティスト、ヘアメイクアーティスト、ファッションデザイナー、ゲームクリエイター、フリーライター、評論家など。これらの職業はコミュニケーション能力が必要ない場合もあり、スピード重視や臨機応変といった概念もあまりない。また通常では理解しがたい行為、行動、発想、こだわりはアーティスト(芸術家)にとっては逆に長所になる可能性があり、うまい具合にシナジーを発揮する可能性もある。

民間レベルではアスペルガーなどの発達に凹凸を持つ当事者たちが気軽に集まって話をしたり、色々なイベントを行ったりする場所づくりが進んでいる。就労支援や啓発活動なども2010年代に入って以降行われるようになった。

ICD-10 にの F80 から F89,F90 から F98 当たる発達障害が精神障害の一部として制度上併記され、市町村の保健所などで、専門医による診断書を提出の上で、症状や他の発達障害・疾患との合併など総合的な状態を熟慮し精神保健福祉手帳が交付されるケースが近年増加してきたが、保健所で所定の書式による診断書の提出で、障害者サービス受給者証、もしくは自立支援医療受給者証の交付も行われており、これにより一般的な障害者福祉サービス(家事援助、行動援護など)を受けることが出来る。障害者福祉サービスには就労移行支援の利用も含まれ、就労移行支援訓練所を利用することにより原則2年間まで職業訓練を受けることができる。利用に当たっては、障害者サービス受給者証、自立支援医療受給者証、精神保健福祉手帳のいずれかが必要である。

また、金銭面の管理が極めて難しく、社会生活に支障をきたしている場合、 判断能力が十分でない人が地域で自立した生活を送るための日常生活自立支援事業における、各地の社会福祉協議会が行う援助事業サービスに「権利擁護」があり、利用者はそれぞれ、以下の必要な援助を受けるための契約を協議会と結ぶ。福祉サービスの利用援助、苦情解決制度の利用援助、住宅改造、住居の貸借、日常生活上の消費契約や住民票の届出ほか行政手続に関する援助など、日常的なお金の管理(預金の払い戻し・解約・預け入れなど)金銭管理などの権利擁護の制度を使用するケースもある。これらの福祉サービスは、他の発達障害においても診断の上で関係機関に申請し、認定されれば利用できるのは同様である。

疫学

アスペルガー症候群は性別との相関関係があり、4倍程度男性に多い。アスペルガー症候群の者は全人口の1%程度とされるが、男性の1.6%、女性の0.4%はアスペルガー症候群と言う計算になる。知的障害を伴わない自閉症である高機能自閉症とアスペルガー症候群には強い遺伝的な要素がある。G.R.テロングとJ.T.ダイアーは高機能自閉症の人がいる家族の3分の2が、一等親血縁者か二等親血縁者にアスペルガー症候群の者がいる事を発見した。

Sarah Cassidyらによる、英国の患者を対象とした臨床コホート研究による報告によると、アスペルガー症候群を持つ成人では、一般成人の9倍以上の自殺リスクがあり、社会的孤立や排除、失業等で二次的うつ病の危険因子を生ずることが多く、自殺リスクを低減するための適切なサポートが必要であると言う。

 

東大生

知能が高いこととの関連に関しては、日本において東京大学の学生にアスペルガー症候群が多いとする元東大大学院生三味線芸人の男性の指摘があり、男性によれば東大生の25%に「発達障害の疑いがある」というもので20162月にネット上で話題となった。男性が東大在学時代にもっとも驚かされたのが大学の「自閉症スペクトラムに対する重厚なサポート体制だった」とし特に工学部の学生はすべてがアスペルガー症候群だったとも述べている。これら指摘に対しては、男性の主張は大学院に在籍した際の体験が加味された「見方」とする見方がある一方、現役も含めた東大生らからは肯定的な反応が寄せられているという。また、実際に東京大学が発達障害を持つ学生の支援に力を入れているのは事実で、2010年には「コミュニケーション・サポートルーム」という発達障害の学生をサポートする専門機関を立ち上げており、開設シンポジウムでは主催者側の東京大学学生相談ネットワーク本部が、「東大が多くの発達障害の人を抱えるのは事実」、「支援室開設は発達障害と共に生きる東大としての第一歩」と語り、また全学生に向け対人関係技術を身につけるためのセミナー開催するなどしている。

アスペルガー症候群を持つ成人が周りに大きな影響を与えることが有る。カサンドラ症候群というのは、アスペルガー症候群の夫(パートナー)と情緒的な相互関係が築けないために妻に生じる、身体的・精神的症状である。

 

社会と文化

アスペルガー症候群の著名人

自閉症スペクトラムの診断基準を満たす著名人は多く、研究者や偉人に対する「変わり者の天才」というステレオタイプの形成を助けてきた。ただし、アスペルガー症候群のような高機能な自閉症の存在が知られるのはここ数十年、特に一般に認知されてきたのは1980年代以降であるため、その多くは残された記録から見た専門家による推測であり、正式な診断ではない。疑いがあるが、診断されなかった者たちについて残された記録をもって推測することの是非について論争が絶えない。

アスペルガー症候群の診断を受けている事を公表している著名人

学者

テンプル・グランディン[44]

リチャード・ボーチャーズ[45]

バーノン・スミス[46]

樋口康彦[47]

音楽家

スーザン・ボイル[48]

クレイグ・ニコルズ[49]

レディホーク[50]

コートニー・ラブ[51]

南雲玲生[52]

金田ゆうじ[53]

堀川ひとみ[54]

映画監督、俳優

スティーヴン・スピルバーグ[55][56]

パディ・コンシダイン[57]

ダリル・ハンナ[58]

ダン・エイクロイド[58]

作家

市川拓司[59]

ニキ リンコ[60]

ダニエル・タメット[61]

泉流星[62]

プログラマー、ハッカー

エイドリアン・ラモ[63]

ブラム・コーエン[64]

画家、漫画家

スティーヴン・ウィルシャー[65]

沖田×華[66]

タレント

倉持由香[67]

アスペルガー症候群の特徴を題材にした作品

モーツァルトとクジラ

アスペルガー症候群である主人公と、自閉症を持つ女性との恋愛を描いた映画。

ストーカー

写真屋で働く主人公が、好意を持った一人の客にストーカー行為をしていくうちに、その女性の夫が浮気をしている現場の写真を入手してしまい暴走していく映画。主人公の性格を描く際に、アスペルガー症候群の特徴が基にされた。

音符と昆布

味覚障害を患いながらもフードコーディネーターとして働く主人公の前に突然現れた、アスペルガー症候群の姉との姉妹愛を描いた映画。

メアリー & マックス

いじめられっ子の孤独な少女と、アスペルガー症候群である孤独なおじさんの、20年間にわたる文通の物語。

ウルトラ I LOVE YOU!

主人公が見合いで出会った男性に一目惚れをし、それ以降、本人や周りの迷惑を考えずにストーカー行為をしていく映画。主人公がアスペルガー症候群である設定でストーリーが作られた。

恋する宇宙

天体に関して人並み以上に詳しいアスペルガー症候群の主人公と、童話作家を目指す女性との、切ない恋愛を描いた映画。

マイネーム・イズ・ハーン

アスペルガー症候群の主人公が、信仰する宗教の違う女性と結婚するも、それが原因で子供は差別を受けて命を落としてしまう。絶望し妻に責められた主人公が旅に出る物語。

ソーシャル・ネットワーク

ハーバード大学在学中にFacebookを創設した、天才マーク・ザッカーバーグの物語。

なお、ザッカーバーグ本人は自身がアスペルガー症候群であると公表していない。映画は、彼がアスペルガー症候群であるという前提で監督が制作した。

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

アメリカ同時多発テロ事件で父親を失った少年が、対人関係に問題をもつアスペルガー症候群の疑いを持ちながらも、知らない人との交流を重ねていく上で立ち直っていく物語。

シンプル・シモン

物理とSFが大好きで、気に入らないことがあるとすぐドラム缶にこもってしまうアスペルガー症候群の主人公が、唯一の理解者である兄の恋愛をぶち壊してしまい、新たな兄の彼女を作るまでの話。

 

犯罪

一部の少年事件の加害者がアスペルガー症候群だと報道されたことが挙げられる。しかし、アスペルガー症候群の人物が犯罪を起こしやすいというデータは確認されておらず、鑑別所や少年院の中の該当者は2%程度とされている。また、犯罪を起こしたケースについても、対人コミュニケーションスキルの不足から、当人が世の中の仕組みをよく理解できていないことによって軽微な犯罪が引き起こされてしまったケースがほとんどである。

アスペルガー症候群を持つとされる犯罪者

アスペルガー症候群を含む精神障害者の犯罪率は健常者の3分の1と極めて低い。ただ、定型発達者と同様に、多くの事例の中には、後述のような特異なケースも存在する。一部のアスペルガー症候群の人が、一部の健常者と同様に、反社会的な行動をとることがあると考える人々もいるが、充分な検証はなされておらず、アスペルガー症候群が事件を誘発した背景の一つなのか、周辺事情に過ぎないのか、判断はきわめて難しい。また、心身の成長と共に、前述の症状が消えて行くケースも見られる。

アスペルガー症候群が初めに大きく取り上げられたのは、2000年(平成12年)の豊川市主婦殺人事件である。「人を殺してみたかった」という供述は社会を震撼させた。昭和大学教授の加藤進昌は「近年は調書漏洩事件を含め、アスペルガーの診断がやや安易に乱発されている。ただし、アスペルガー障害が犯罪に直結するというような理解は誤りであり、いくつかの動機が理解しがたい「突き抜けた」犯罪で、その障害特性との関連が注目されるという意味である。」と指摘している。

以下に挙げるものは、主に社会に大きな影響を与えた凶悪事件である。

200051 豊川市主婦殺人事件

精神鑑定がなされ、1回目の鑑定では「分裂病質人格障害か分裂気質者」と出されたが、「犯行時はアスペルガー症候群が原因の心神耗弱状態であった」と出された2回目の鑑定を認定し、20001226日に名古屋家庭裁判所は医療少年院送付の保護処分が決定した。2回目の鑑定医師団には児童精神医学の専門医が鑑定団の一人として加わっていた。アスペルガー症候群は先天性の発達障害であり、知能と言語能力に問題のない自閉症の一種である。対人関係の構築に困難があるため、二次的な障害として社会生活に対する不適応がみられることがある。

この事件は、文部省(当時)に広い範囲における高機能自閉症児に対する早期の教育支援が必要であることを認識させ、後に特別支援教育として制度化されることになった。

200371 長崎男児誘拐殺人事件

加害者の補導後、加害者がアスペルガー症候群との診断を受けたことから、西日本新聞は、「加害少年は自閉症」と1面トップで報道した。これに対し、日本自閉症協会は、「自閉症に対する偏見を助長しかねない」「自閉症と事件に因果関係はない」と抗議声明を発表。特に全国にあるアスペルガー症候群の子をもつ保護者の会の反発は強く、各報道機関に「アスペルガーという名称を使用しないでほしい」と要望する出来事まで起きた。一方、アスペルガー症候群への理解を深めるための本が出版されたり、「自分はアスペルガー症候群」と名乗る人が出たりして、社会的な関心が広まったという側面もある。

2011725 平野区市営住宅殺人事件

大阪地裁は「アスペルガー症候群の影響を考慮すべきでない」「可能な限り刑務所に服役させることで社会秩序維持に役立つ」とし、検察側の求刑懲役16年に対して懲役20年の判決を言い渡した。これに対し一部の障害者団体は「無理解、偏見に基づく判決だ」と非難している。その後、2013226日に大阪高裁(松尾昭一裁判長)で開かれた控訴審では一審判決を破棄し、懲役14年を言い渡した。裁判長は「一審は(発達)障害の影響を正当に評価しておらず、不当に重い」と指摘した。

佐世保小6女児同級生殺害事件、宇治学習塾小6女児殺害事件の犯人もアスペルガー症候群を持っていたとされる。

海外の例では、有名なハッカーであるゲイリー・マッキノン[76]、サンディフック小学校銃乱射事件の犯人であるAdam Lanza[77]、サンタバーバラ乱射事件の犯人であるElliot Rodger[78]などはアスペルガー症候群を持っていたとされる。

歴史

「精神保健の歴史」も参照

1944年にハンス・アスペルガーは「小児期の自閉的精神病質」という題で4例の子どもについての論文を発表した。前年の1943年にはアメリカの精神科医レオ・カナーが早期乳幼児自閉症に関する論文を発表し、カナーの論文がその後、長く英語圏で影響を持つようになり、アスペルガーの論文は顧みられることが少なかった。日本ではアスペルガーの論文は比較的早く紹介されたが、イギリスやアメリカの影響が強くなり、忘れられがちとなった。

英語圏では1981年にイギリスの児童精神科医のローナ・ウィングというがアスペルガーの業績を再評価したことがきっかけとなり、広く知られるようになった。ウィングは多数例から、自閉症とは診断されていなくても、社会性、コミュニケーション、想像力の3つの面で同時に障害をもつ子どもたちがいることに気づいた。当時は、自閉症の診断は言語による意思疎通が限定されており、対人的関心が非常に乏しい子どもに対してのみ行われ、言葉による意思疎通が可能か、一方的でも対人的関心がある場合は自閉症とは診断されなかった。ウィングは三つ巴の障害を持ちながら自閉症と診断されない子どもたちの一部が、アスペルガーの報告した症例に似ていることからアスペルガー症候群の診断名が適切であると考えた。

1981年以降は、世界的にも注目されるにいたり、国際的な診断基準であるICD-10やアメリカ精神医学会の診断基準(DSM-IV)にもその概念が採用された。

1944 - オーストリアの小児科医ハンス・アスペルガー(Hans Asperger)によって「自閉的精神病質」と初めて報告されたが、第二次世界大戦のため、その論文は戦勝国側では注目されていなかった。

1981 - イギリスの医師ローナ・ウィング(Lorna Wing)がアスペルガー症候群の発見を紹介[79]

1989 - 社団法人日本自閉症協会設立

1990年代になり世界中で徐々に知られるようになった。しかし、日本ではドイツ精神医学の影響が強かったことから、ローナ・ウィングの紹介以前に知られていた[80]

1992 - 世界保健機関 (WHO) の「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」に診断基準が初めて掲載される (ICD-10)

1994 - アメリカ精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル」に診断基準が初めて掲載される (DSMIV)

2000 - 豊川市主婦殺人事件。文部省(当時)に広い範囲における高機能自閉症児に対する早期の教育支援が必要であることを認識させた。

2003 - 長崎男児誘拐殺人事件。出版などを通じて社会的な関心が広まった。

2005 - 発達障害者支援法施行

2005 - 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)施行

2006 - 障害者自立支援法施行

20134 - アメリカ精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル」から、アスペルガー症候群の分類が消える見通しが発表された。

発症の原因については自閉症#原因を参照のこと。近年、脳の先天的な機能障害と理解されるようになった。

20134月、障害者自立支援法改正により、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

内山 登紀夫  大妻女子大学人間関係学部、よこはま発達クリニック

監修Lorna Wing M.D. Consultant Psychiatrist, The centre for social and communication disorders, London

20027

 

定義は一つではありません

 大きくわけてアスペルガー症候群の定義は二つあります。一つはウィングらが提唱しイギリスを中心にヨーロッパで主に使われているアスペルガー症候群の概念、もう一つはDSM-IVICD-10などの国際的な診断基準で定義されているアスペルガー症候群(これはICD-10の呼び方でDSM-IVではアスペルガー性障害と呼ばれます)の概念です。本書はウィングらの考え方を基本にして書かれています。日本やアメリカではDSM-IVの考え方を採用する専門家もいます。ICD-10DSM-IVのアスペルガー症候群は認知・言語発達の遅れがないこと、コミュニケーションの障害がないこと、そして社会性の障害とこだわりがあることで定義されます。ウィングの考えではアスペルガー症候群も3つ組の障害があることで定義されるので、当然コミュニケーションの障害も併せ持つことになります。

 ですから同じ子どもが国際的な診断基準を適用すると自閉症であり、ウィングの基準で考えるとアスペルガー症候群となることも少なくないのです。あるクリニックではアスペルガー症候群と診断された子どもが別の病院では自閉症と診断されることはありうることです。

 

アスペルガー症候群と類似あるいは同じ意味の障害

 高機能自閉症、高機能広汎性発達障害などはアスペルガー症候群とほとんど同じ意味で使われることがあります。高機能自閉症とは知的な発達が正常の自閉症のことです。高機能自閉症とアスペルガー症候群が同じなのか異なるかについては研究者によって意見が異なります。ウィングは、少なくとも臨床的には区別する必要はないとしています。本書でもアスペルガー症候群と高機能自閉症を区別しないで使います。本書でアスペルガー症候群について書かれていることのほとんどが高機能自閉症についても当てはまると思ってください。広汎性発達障害という呼び方はICD-10DSM-IVの呼び方で、広義の自閉症と同じ意味です。アスペルガー症候群も高機能自閉症も広汎性発達障害に含まれます。なおDSM-IVの自閉性障害とICD10の自閉症とはほとんど同じ意味で使われます。他者への関心が極端に乏しく、こだわりが強い、いわゆる典型的な自閉症のことを指して「カナー型の自閉症」ということがあります。「非定型自閉症」「特定不能の広汎性発達障害」といった場合は自閉症の症状が典型的には現れていないが、自閉症の症状のいくつかが明らかに存在する場合を指します。「自閉症スペクトラム」はウィングが提唱している概念で、3つ組の障害が発達期に現れる子どもたちを総称しています。広汎性発達障害とほぼ同じ意味ですが、より広い範囲の概念です。

 

自閉症とはどこが違ってどこが同じなのでしょうか

 自閉症とアスペルガー症候群はひとつながりのもので、どこかで厳然と二つに分かれるものではありません。幼児期には典型的な自閉症の特徴を持つ子どもが思春期になるとアスペルガー症候群の特徴が目立ってくる場合もあります。強いて区別して言えばアスペルガー症候群の子どもや大人は一見して障害があるようには見えないことが多いのです。話もできるし勉強なども人並み以上にできることがあります。人前で独り言を言ったり常同運動をしたりすることは稀です。一見自閉症にみえない自閉症といっても良いでしょう。

 

 教育や援助の方法で大切なことは3つ組の障害をもっているかどうかです。アスペルガー症候群と自閉症、そしてそのどちらの特徴も持っている場合も合わせて3つ組の障害があれば自閉症スペクトラムと総称することをウィングは提唱しています。アスペルガー症候群でも自閉症でも3つ組の障害があれば、教育や援助の方法は共通しているのです。

 

アスペルガー症候群なら誰でもある特徴

 アスペルガー症候群にも自閉症にも「3つ組の障害」がみられます。以下、「3つ組」について説明していきましょう。

 

独特の人付き合い(社会性の問題)

 アスペルガー症候群の人の人付き合いの特徴を一言で述べれば、人の中で浮いてしまうことが多いということでしょう。幼児期には一人遊びが中心です。他の子どもと遊ぶことは少なく、遊んでも年長の子にリードされたり、年少の子と同レベルで遊ぶことが多いのです。つまり同年齢の子どもと対等の相互的な遊びをすることがとても難しいのです。

 

正直すぎる子どもたち

 接し方のルールがわからず無邪気に周囲の人に対して迷惑なことをしてしまうことがあります。例えば太った友人に対して素直に「太っているね」と言ってしまいがちです。その言葉が人を傷つけるということには少し鈍感なのです。年配の先生に向かって「おばあさん先生おはようございます」と明るい大声で挨拶する生徒もいます。私たちが注意しなければならないことは、こういった言動をする場合にも彼らには悪意はないのです。ただ社会的ルールがわからず素直に「本当のこと」を言ってしまうのです。正直すぎる子どもたちと言っても良いでしょう。

 

 子どもでも大人でも社会生活には暗黙のルールがあります。暗黙のルールがわからないために他の子どもから嫌われたりいじめられるアスペルガー症候群の子どもが多いのです。子ども同士で教師や大人に内緒のいたずらをしたり、大人の悪口を言い合う、こういった楽しみは貴重なものですし、わざわざ口に出して確認する必要もない子ども同士の間の秘密のことです。こういった暗黙の秘密がわからず、大人に問われるままに子ども同士の秘密を話してしまうのです。ここでも友人を裏切ったという認識も悪意もないのが特徴です。

 

同年齢の子どもと波長があわない

 幼児期には他の子どもと遊ぶことより一人遊びを好む子どももいますが、多くのアスペルガー症候群の子どもは成長するにつれて他の子どもに関心を持つようになります。ただ同年齢の子どもとの付き合いは苦手で年長の子どもにリードされて遊んだり、年少の子どもを指図して遊ぶことを好みます。その場を「仕切りたがる」ことも特徴の一つで他の子どもが自分の思い通りに遊んでくれている間は遊べますが、自分の思い通りに動いてくれないとかんしゃくをおこしたり一人遊びに戻っていったりしがちです。

 

積極的すぎることもある

 アスペルガー症候群の子どもの人付き合いの問題は積極的すぎるという形であらわれることがあります。異性を好きになることもあります。皆の前で「○○ちゃん大好き」と大声で叫んでほっぺにキスしようとする小学生もいます。小学生になればこういうことは恥ずかしいと思うのが普通ですが、アスペルガー症候群の子どもは羞恥心を感じるのが遅いようです。誰彼かまわず、質問を浴びせかけることもあります。初対面の人に向かって「家族は何人ですか?体重は何キロですか?身長は何センチですか」とやつぎばやに質問したり、電車や飛行機の話など自分の関心のある話題を一方的に話しかけたりするのです。相手が困惑していたり迷惑がっていても気がつかず、自分にとって関心のあることは相手にとっても関心のあることだと思ってしまうことがこういった行動の一つの理由です。

 

コミュニケーションの問題

 アスペルガー症候群の人の話し方はちょっと変わっています。話すことができないわけではありません。おしゃべりなアスペルガー症候群の子どもも沢山います。でも話し方が少し変わっています。一言でいえば会話のやり取りが長続きしないのです。

 

話し方が回りくどい、曖昧が苦手、細かいところにこだわる

 アスペルガー症候群の子どもは話し方がとても回りくどいことがあります。「今日はどうやってここに来ましたか?」の質問に対して「朝8時3分に家を出ました。それから市営バスの10番に、バス停から乗りました。ちなみにそのバスは低床型の青いバスでした。10番のバスを__駅前でおりて、そこから__線の準急に乗りました。×駅で急行に乗り換えて__駅の3番線の後方のホームでおりて云々」といった具合です。どれが大事な情報でどれが枝葉末節かうまく選べないのが一つの理由と思われます。あまりくどくど言われると、言われる方はからかわれているのかと思いがちですが、そうではなく本人は一生懸命なのです。

 曖昧な聞き方をされると意味がつかめないようです。久しぶりにあったので「最近どう?」と何気なく聞くと「どうって、何のことですか?元気かという意味ですか?勉強のことですか?友人関係のことですか、それとも家族との関係を聞いているのですか?」などと細かく聞き返されることがあります。その場で何が話題になっているか、言外の意味を汲み取ることが苦手なのでどうとでもとれる曖昧な質問には答えることが難しいのです。問いかけはなるべく具体的にする必要があります。

 

大人びた難しい言葉、場にそぐわないほどの丁寧語を使う

 子どもなのに「ちなみに」「ところで」「逆にいえば」「おそらくは」などといった大人びた言葉を使うことがあります。今日の昼ごはんは何を食べましたか?と聞かれて「米飯と魚肉それと緑黄色野菜」と答えたり、手伝って欲しいという意味で「援助が必要です」と言う子どももいました。クラスで配布されたプリントを集めるときに「没収します」と言うなど間違った言葉の使い方もみられます。家族や同級生に対しても「ですます調」の丁寧語や文章体で話したり、テレビのアナウンサーのように正確すぎる話し方をすることもあります。丁寧語の中に不自然なほど乱暴な若者言葉が交じりこむ小学生もいました。兄の影響で乱暴な言葉を覚えたのですが、全体は丁寧語でしゃべるので非常な違和感があります。本人はあまり違和感を感じていないのです。基本的にアスペルガー症候群の子どもは友人同士の会話よりも、テレビや本などから会話を学ぶことの方が得意のようです。そのために、こういった現象が生じるのだと考えられます。辞典で覚えた難しい熟語やことわざを不自然なほど頻繁に使うこともあります。「やめて」という意味で「それは言語道断だから断固拒否します」とか「せいてはことを仕損ずると言いますから、そんなことをしたら弱り目にたたり目です」といった具合です。男の子なのに女の子のようなしゃべり方をしてからかわれる子どももいます。先生に指されて答えられず「あら、私こまっちゃったわ」といったようにです。母親と一緒にいることが多いため、母の言い方をそのまま模倣しているのかもしれません。大抵の子どもは男女の言葉の相違を理解してそれぞれの性別にあった言葉使いをするのですが、アスペルガー症候群の子どもはそういった使い分けが苦手です。

 

一方的でわかりにくい話し方

 アスペルガー症候群の人は自分の関心があることを、相手の興味におかまいなしに一方的に話す傾向があります。自分の関心のあること(機関車やコレクションなどの趣味のこと)で頭が一杯だったり、関心のあることは他の人より知識が豊富なので話しやすい、相手の反応をモニターせず相手が迷惑そうな表情をしていても気がつかないことなどが関係しているのでしょう。話が飛びやすいのもアスペルガー症候群の人の話し方の特徴ですが、これも相手に理解しやすいようにという配慮が苦手なために、自分の関心の赴くままに話題が変わっていくのかもしれません。話し相手の予備知識を考慮していないため唐突な印象を受けがちです。

 

言外の意味を汲み取ることが苦手

 言葉の裏の意味を理解することが難しいことが多いです。家に電話がかかってきて「お母さんいますか?」と聞かれ「はい、います」と答えます。そのままだったので相手が「お母さんを電話に出してください」と言うと「お母さんはいますが、今家にはいません」と答えました。最初の質問に対して子どもは母がいるかどうかについて答えたつもりなのです。慣用表現も混乱の一因になります。「先生に叱られてお母さんは耳が痛かった」と言われて、親切にも鎮痛剤を持ってきてくれたりします。「今日のご飯はお鍋にするね」と伝えると、あわてて「スパゲティがいい」と言った子どももいます。その子は実際に料理が出されるとおいしそうに食べて、食後に「これが鍋を食べたっていうことなの?」と確認をしました。

 皮肉やほのめかしの理解も難しいようです。よく学校の先生が「そんなことしたら幼稚園の子だよ」と注意しますが、本当に幼稚園にいくのだと思って不安になったり、幼稚園にいけるんだと思って喜んでしまったりします。「そんな子はうちの子じゃありません」と叱られて戸籍を調べようとした子どももいます。困った行動をしているときに「それはちょっとね・・・」と言われて、ちょっとねの後の言葉を延々と待っていたりしがちです。

 

言葉の間違った使い方

 アスペルガー症候群の子どもは一見正しく話しているようにみえても、よく聞くと微妙な文法的に間違った話し方をすることがあります。助詞がところどころ抜けたり不正確な使い方だったり、受身文で混乱したり、「そこ、ここ」「もらう、あげる」「いく、くる」など視点の違いで異なった言葉を使う表現を間違えたりしがちです。あるアスペルガー症候群の子どもは良いことを聞いても悪いことを聞いても「なあんだ」とつまらなそうな表情で受け答えをしていました。「なあんだ」という相槌はどのような場合でも使える表現だと覚え間違いしていたようです。

 

思考を言葉に出す

 小さな声でひとり言を言ったり、考えていることを声に出して言うことがあります。また相手の言ったことを小声で繰り返した後に返事をする人もいます。

 

分かりにくい話し方,訥々とした話し方,駄洒落を好む

 会話の内容よりも「音声」の方に関心があって、やたらと語呂合わせの駄洒落をいう人もいます。

 

しゃべるほどには理解していない

 アスペルガー症候群の子どもはよくしゃべるし、難しい言葉も知っているので、言葉を理解する能力も高いのだろうと思われがちです。でも、話すことより人の話を理解することの方が苦手な子どもも多いのです。子どもの理解力の範囲内で話しかけるように注意しないと、本当はよくわかっていないのにわかったつもりになってしまう子どもがいます。言葉そのものの理解が乏しいことも多いのですが、相手の話以外のことに気がそれてしまい、話の筋が追えないこともあります。注意が相手の言葉よりも、相手の身に付けているアクセサリーとか相手の髪型などといった、その場では本質的でないことに気がとらわれたりしがちなことも一因です。また、相手の話が「見えなく」なったときに聞きなおしたり、さりげなく確認したりといった「会話の技術」も未熟なことが多いのです。

 

ジェスチャーや表情、距離のとり方などの言葉以外のコミュニケーションの問題

 これまで主に言葉を使ったコミュニケーションの特徴について述べました。でもコミュニケーションは言葉だけで行うわけではありません。何気ない仕草やジェスチャー、表情、視線の向け方、相手との距離など言葉以外の要素もコミュニケーションに重要な役割を果たします。このような言語以外のコミュニケーションを非言語性コミュニケーションといいますが、アスペルガー症候群の人は非言語性のコミュニケーションも独特のことが多いのです。

 私たちはしゃべりながら自然に体を使ってジェスチャーでも表現しています。幼児期や小学生くらいの子どもで言葉でコミュニケーションできるようになると、言葉だけでコミュニケーションをはかり、自然な体の動きがみられないことがあります。また視線の合い方も独特で、相手の顔をみないで話したり、逆に相手の顔をしげしげと見つめすぎて奇異に思われたりします。思春期以降になるとジェスチャーが大げさすぎて目立ってしまうこともあります。ある若い女性は質問に答えた後で、「ウッフ」とまるで字を読むかのように声を出して笑った後で首を横に傾げます。自然に出ると可愛らしい振る舞いなのですが、あまりに芝居じみてとってつけたようなので不自然に感じてしまいます。またある青年は家で料理を作る時の様子を聞かれて、「パンがこげないようにトースターを見張ってます」と言いながら、強い日差しの中で遠くを見るように、てのひらを目の上にかざしました。思わず笑ってしまったのですが、なにがおかしいのか本人はよくわからない様子でした。

 

コミュニケーションというキャッチボール

 人と人とが会話をする様子は、言葉や仕草、視線などをボールにみたて、ボールを受け取っては投げるキャッチボールの場面にたとえられます。アスペルガー症候群の子どもはコミュニケーションのキャッチボールが苦手です。言葉はあるので投げることも受けることもできなくはないのですが、相手とキャッチボールを楽しむことが苦手なのです。キャッチボールができない時に、周囲が「ふざけている」「やる気がない」とか、「協調性がない」といった視点で判断するのは全く不適切です。相手の意図を推測したり、相手の反応に応じてこちらの動きを調節していくといったコミュニケーション能力の障害なのです。もともとコミュニケーションが苦手なのですから、緊張した情況だとふだんのようにはしゃべれなくなったり、逆に自分の関心のある分野の話題を饒舌に話したりします。このような場合もおおもとにあるのはコミュニケーションの障害なのです。

 

想像力の障害

 想像力の障害はこだわりやふり遊びの少なさ、融通の利かなさという形で現れます。早い場合には1歳前から、モビールや風にゆれる木の葉をベッドから何時間も眺めて笑う、たまたま母親が池に石を投げ込んでできた波紋をみて、何度も石を投げるように要求して波紋を見続けるといった行動が現れます。その他にも踏み切りで電車を延々と見続ける、空中に文字や模様を描くことに熱中するなどの行動がみられます。特定のビデオの同じ場所を繰り返しみたり、他の遊びにはめもくれずテレビゲームのみに熱中し、攻略本などで完全に裏技などもマスターするなども一種の「こだわり」とみなされます。

 

 ごっこ遊びやふり遊びが少ないことも特徴です。ふり遊びには自分がもし○○だったらと想定するための想像力が必要ですし、ごっこ遊びには相手に合わせて柔軟に遊びのストーリーを変えていくことが要求されます。相手のある遊びでは相手の行動は予測できませんし、予想外にことが起きるから楽しいともいえます。しかしアスペルガー症候群の子どもは柔軟性に乏しいために予想外の事態を嫌い、複数の子ども相手のごっこ遊びを避けることがあります。

 アスペルガー症候群の子どもが示す想像力の障害は次に述べるようなコレクションや反復的行動、融通のきかなさに繋がっていきます。つまり想像的な遊びが乏しく、他の子どもとの相互的な遊びを楽しむのが難しいとしたら、一人遊びが増え、同じことの繰り返しが楽しみになっていくわけです。

 

コレクション

 アスペルガー症候群の子どもは色んなものを集めたがります。電車や飛行機のミニチュア、カードといった一般的なものから、トイレのブラシやコンビニのレシートといった風変わりなものまでさまざまです。小学生以上になると、ある種の情報を集めることに熱中することが多いようです。あるアスペルガー症候群の中学生は、各地の高層ビルを巡り、そのエレベータの製造会社と型番などをノート型のコンピューターにインプットすることを楽しみにしていました。

 アスペルガー症候群の人は機械的記憶力が優れていることが多いので、語学や歴史、地理、コンピューターなど反復練習が効果をあげる科目で優れた成績をとることがあります。学校などで友人や教師の名前、誕生日、クラスの配置や教室の広さなど細かく覚えていることがあります。沢山の情報を集めることでなんとか予想外の事態を避けようとしているのかもしれません。友人の名前や誕生日を覚えているからといって対人的関心が強いとは限りません。ある幼稚園児はクラスの友人の名前と誕生日、星座などをすべて暗記して、欠席や遅刻などについてもいちいち教師に報告していましたが、誰とも遊ぼうとはしませんでした。友人に付随する事実(情報)に関心があったので、遊び相手としての友人にはほとんど無関心でした。

 

パターン的行動、生真面目すぎて融通が利かない

 興味の対象として「パターン」があります。朝起きたら必ず雨戸を開けるといった目立たない習慣のようなパターンもあります。雨が降っていても雨戸を開けたがったら、それはパターンです。一日の行動パターンを完全に決める人もいます。毎朝の通学電車では同じホームの同じ場所から、同じ時間の同じ号車に乗ることに決めていたりします。

 融通が利かないことも学校生活で問題になります。時間割の変更や突然の教師の欠勤という事態で不安を感じたりかんしゃくをおこしたりします。あまりに規則に厳格なために、遅刻した同級生に延々と注意をしたり、修学旅行などで消灯時間をかたくなに守り、他の生徒の顰蹙をかったりすることがあります。パターンを好むということは反復を厭わないことでもあります。ある語学好きの大学生は「語学は何度反復しても怒られないし、反復すればするほど成績も上がるので大好きだ」と語っていました。

 

ものまね、テレビ・ビデオへの興味

 アスペルガー症候群の子どもの多くはものまね遊びが得意です。一見ごっこ遊びに似ていますが、一人で遊ぶことが多かったり遊びの内容が反復的でテレビの場面などのコピーになっていることが、他の多くの子どものごっこ遊びと違うところです。実際にテレビアニメの主人公に「なりきって」しまう子どもも少なくありません。ただしアスペルガー症候群の子どもの場合は相手の子どもの反応にあわせて自分の言動を柔軟に調整するのが苦手なので、多数の中でのごっこ遊びは長続きせず、一人でテレビの場面を再現するような遊びかたになります。テレビ番組では医学物などのドキュメンタリー番組、ドタバタ系のバラエティ番組を好みます。フィクションではSF番組、単純な勧善懲悪ものを好むことが多く、人間関係の複雑さがテーマになるようなストーリー性のある番組を好むことは少ないようです。読み物も図鑑や辞書などが好きなことが多いのですが、小学校も高学年になると歴史ものやSF、医学もの、刑事ものなどを好むようになります。より年長になっても、人間関係の心理のあやがテーマになるような小説を好むことは稀です。

 

常同運動

 重度の自閉症では、体を前後にゆする行動(ロッキング)、興奮した時にジャンプをすることを繰り返す、手をひらひら目の前にかざすなどの行動がみられます。アスペルガー症候群の場合はそういった行動は目立つことはあまりありませんが、幼児期、試験前などのストレス情況や人目の無いところでは同様の常同行動がみられることがあります。

 

「3つ組」以外のアスペルガー症候群に良くみられる特徴

 以下の領域の特徴はアスペルガー症候群に必発ではありませんが、アスペルガー症候群の人が示すことが多い特徴です。

 

不器用

 アスペルガー症候群の子どもの動作はぎこちない印象を与えます。三輪車のペダルをうまくこげなかったり、小学校に入っても自転車の補助輪がとれない、ボール遊びが苦手、お箸が上手に使えない、など運動が苦手なことが多いのです。歩き方や走り方もどことなくぎこちなく、家の中を歩いてもあちこちぶつかったりします。小学校では体育が苦手なことが多く、バランスをとることが苦手で平均台をうまくわたれなかったり、ドッジボールなどのボール遊びに参加できなかったりします。手先が不器用で工作が下手だったり「みみずのはったような」字を書くこともあります。このような不器用さは知的な能力とは平行せず、成績優秀な中学生でもお箸で食べると食べこぼししたりします。もっとも特定のことに関してはとても器用なこともあります。お箸はうまく使えないのに、テレビゲームのコントローラーはとても素早く正確に操作したりできる子どももいます。運動は全く苦手なのにピアノは上手に弾いたり、読めないような字を書くのに絵はとても上手に描けるなどです。このような不器用さは模倣能力の乏しさや、模倣するときの注目点が一般の子どもと異なることなどが関係しているようです。

 

音や光、味などへの過敏さ

 アスペルガー症候群の子どもは感覚刺激に対して敏感なことがあります。敏感さは聴覚、視覚、味覚、嗅覚、温痛覚などのいずれの感覚の敏感さもありえます。もちろん一人の子どもがすべての領域に敏感さをもっているわけではありませんが、アスペルガー症候群の子どもは(大人も)感覚の敏感さを持っている可能性について周囲の人が考慮しておく必要があります。過敏なことが多いのですが、逆に鈍感なこともあります。アスペルガー症候群の人の感覚的な問題は敏感さと鈍感さが共存することです。痛みや熱さに対して鈍感な場合は怪我や火傷に気づかないことがあるので注意が必要です。

 

音への敏感さ

 音への敏感さがアスペルガー症候群の最初の兆候のこともあります。ちょっとした物音で不安がり泣いてしまうとか、工事現場の騒音を嫌がって外出を拒否する、幼稚園の運動会のピストルの音でかんしゃくをおこしてしまうなどです。人ごみや混んだレストランなどざわざわした騒音は苦手なことが多いようです。電車の中では騒音をがまんするだけで手一杯で、とても話などできないと言う大人のアスペルガー症候群の人もいます。コインで黒板やブリキ板などを擦ると「キーキー」と耐えがたい音がしますが、同じような辛さを色々な音に対して感じているようです。

 音への敏感さが特定の音を好むという形で現れることもあります。電車のガタンガタンという音を熱中して聞き続けたり、放映のないチャンネルのザーというノイズを聞くことを好んだりすることもあります。エンジンの音で車種を、モーターの音で電車の種類を区別できる子どももいます。音感に敏感でほんのわずかな音程のずれでもわかる子どももいますが、こういう子どもにとっては学校の音楽の時間に調子はずれの合唱に参加したりすることはとても苦痛に感じることでしょう。

 

視覚的敏感さ

 敏感さが視覚に現れると、特定のマークやロゴにこだわったり、教えもしないのに文字やアルファベットなどを幼児期に覚えてしまうことが多いようです。揺れる木の葉を見続ける子どもは興味のレパートリーが狭いとも言えますし、視覚的な敏感さがあるといっても良いでしょう。強い日差しが眩しくて、サングラスをかけて対応していることもあります。

 視覚の敏感さが文章を読むときに現れると、学習や仕事に支障をきたすこともあります。あるアスペルガー症候群の女性は、何かに注意を向けると内容より表面が気になってしまうと訴えます。例えば文章を読むと漢字の複雑な形に注意がむいて文字のカーブの形などにうっとりと見入ってしまい、内容を理解するまでに時間がかかります。年少の子どもでも「麒麟」や「檸檬」などの複雑な漢字に強い興味を示すことがあります。話相手の表情がちょっとでも険しいと、それだけで怒っていると判断してしまい不安になる子どもも多いのです。

 

味覚の敏感さ

 味覚の敏感さは偏食につながります。極端に敏感な場合は特定の銘柄の特定な物しか食べないことがあります。A社のレトルトカレーは食べるのにB社のは食べないといったこともあります。学校で給食の時間に残さず食べるように指導されるのが苦痛で、登校できなくなることも少なくありません。偏食というと「わがまま」とみなされやすいのですが、アスペルガー症候群の子どもにとっては、われわれがおいしいと感じる味がとてつもない味に感じていることがあり、偏食の矯正を給食の時間の目標にしないほうが良いでしょう。偏食の一部はいわゆる「食べず嫌い」で、食べ物の「見た目」への敏感さが原因のこともあります。このような場合は調理の方法で見た目を変えることで食べることができるかもしれません。

 

嗅覚の敏感さ

 嗅覚が敏感な場合には香水や整髪料の臭いを嫌うことが多いようです。他の人の体臭や口臭に敏感で、それを我慢できずに社会参加の妨げになったり、悪気はないのですが、はっきりと相手に指摘するために傷つけてしまうことがあります。学校や会社などのトイレを使えないとか、塩素消毒の臭いが苦痛で体育のプール指導を嫌がるなどの行動もみられます。自分から訴えない子どもも多いため、嗅覚過敏が関係した行動は見逃されがちです。

 

触覚的な障害

 ツルツルした表面が滑らかなものを触ったり、ぬいぐるみなどの感触が好きでいつも持ち歩いて撫でていることがあります。シャツのタグのあたるのが嫌でタグを取ってしまったり、きついズボンを嫌がってゆったりしたズボンをはきたがったりすることがあります。

 他人に触られることや抱きしめられることを嫌がることもあります。アスペルガー症候群の赤ちゃん時代のことを聞くと「抱くとそっくりかえって嫌がった」と報告されることがありますが、もしかしたら触覚への過敏性の最初の表現かもしれません。大人は子どもが良いことをすると頭を撫でますが、良い事をするといつも頭を撫でられるので、そのうち良い事をしなくなった子どもがいます。子どものようすを良く見ていれば、喜んでいるかどうかわかるのですが、子どもの反応をみないで機械的に頭を撫でているとこういうことがおきます。耳垢をとることや散髪をとても嫌がり、寝ている時にやろうとしても起きてしまうような行動も触覚過敏が関係しているようです。

 

痛みに対する反応

 痛みに対する反応が過剰で、注射などに異様なほどの恐怖心を覚える子どもがいます。大学生のアスペルガー症候群の大学生で、注射の痛みで涙を流す人もいました。反面、痛みに対してまったく無頓着といった場合もあります。

 

学習の問題

 アスペルガー症候群の子どもの成績はさまざまです。かなり優秀な成績のこともあれば全体に学習が苦手なこともあります。多くの子どもは普通学級で学んでいますが、小学校も高学年になると普通学級での学業継続が難しくなり特殊学級に転籍することもあります。社会や理科などが好きで図鑑などから詳細な知識を得ていることも珍しくありません。漢和辞典やことわざ辞典などで沢山の熟語やことわざを知っている子どももいます。一部の知的に高いアスペルガー症候群の人は大学にも進学します。理系にいくことも文系にいくこともあります。大学で自主的に研究計画や実験計画をたてることは難しい人が多いようです。

 

字を書く問題

 不器用さの項でも説明しましたが、字を書くのが苦手な子どもが多いようです。まず字の書き方が乱雑で「みみずのはったような」字をかくことがあります。全体的な成績は悪くないのに中学生になっても「わ」と「ね」、「シ」と「ツ」などの区別で混乱したり、簡単な漢字を覚えられないことがあります。「偏」と「旁」の位置が逆転したり、いわゆる鏡文字を書く子もいます。文末の「は」と「わ」の混同なども時にみられます。

 

算数の問題

 独特の計算の方法をとることがあります。アスペルガーの原著にも、47-15473を足して50にし15を引いてから3を引く方法をとる男児の例があげられています。機械的な計算はできても、文章題になると難しいことがあります。筆算は得意でも暗算は苦手な場合や、計算のみだと暗算が得意でも、問題を聞いて解くときにはとても苦労する場合もあります。驚くほど正確に計算できる場合もあり、何年も先までカレンダーの曜日を計算できたりする子どもがいることはよく話題になります。

 

その他の心理学的問題〜心を読むこと

 日常、大人はもちろん子どもでも相手の気持ちを読みながら暮らしています。相手が自分を騙そうとしているとか、本当は喜んでいないのに喜んだふりをしている、そういう相手の意図を読むことで日常の生活が成り立っています。このように相手の気持ちを読む能力は通常では4−5歳くらいから芽生え始めるといわれています。アスペルガー症候群の子どもは相手の言ったことをそのまま単刀直入に受け止めてしまいがちです。そのため騙されやすかったり、利用されたりしやすいのです。

 

注意の問題

 アスペルガー症候群の子どもでは注意の集中や配分に問題があることがあります。配分に問題があると、あることをしている時に声をかけても気がつかなかったりします。ゲームに集中しているときに声をかけても振り向かないことは一般の子どもでもよくありますが、アスペルガー症候群の子どもではそれが極端な形で色々な場で生じがちです。私たちは、何かに集中している時でも非常ベルの音には気がつきます。何かに集中していても、何%かの注意は他に向けられているわけで、そうでないと危なくて都会では生活できないでしょう。アスペルガー症候群の子どもはそういった注意の配分が苦手で、あることに集中すると別のことには気がつかない傾向があります。あることをしていて別のことに注意を移行することも苦手なことがあります。前にやっていたことをいつまでも頭の中で考えていて新しいことがお留守になってしまうのです。

 

計画をたてること

 自分で物事を計画して、複数のことがらを連続して実行していくことが苦手なことが多いのです。ある程度周囲がプランを立ててあげないと、一人で複数のことを連続して実行していくことは難しいようです。よく子どもの自主性を尊重する教育と言って、何もこちらで準備しなくて子どもの自由にさせるやり方が一部で推奨されていますが、このやり方はアスペルガー症候群の子どもには合いません。

 

アスペルガー症候群の子どもとの接し方

 援助の基本方針はまずアスペルガー症候群を理解するということです。アスペルガー症候群の子どもは社会性、コミュニケーション、想像力の3領域に障害があります。困った、不適切な行動、風変わりな行動をとったとしても、「わざとやっている」とか「ふざけている」とかとらないで下さい。そのような行動の多くはアスペルガー症候群特有のハンディキャップのために生じているのです。以下に述べるのはアスペルガー症候群の子どもとのつきあい方のいくつかのコツです。

 

予測しやすい環境

 アスペルガー症候群の子どもは予測できないことや変化に対して苦痛を感じることが多いのです。どこで何が予定されているかということをなるべく前もって伝えましょう。言葉だけでなく文字(年少の場合は絵や写真)で伝えるのが効果的です。つまりスケジュールを予告することが大切なのです。現実の生活では予定どおりにいかないことも沢山あります。予定外の出来事やスケジュールの変更も、できるだけ本人にわかるようにたとえ直前であっても明確に伝えることが大切です。

 

安全で穏やかな環境

 アスペルガー症候群の子どもは騒々しい環境が苦手です。余分な刺激の少ない静かな環境の方が本来の能力を発揮できます。大声で叱ったりすることは逆効果です。できるだけ穏やかに接するようにしましょう。教師や親はできるだけ感情的にならず穏やかに冷静に話をする姿勢を持ちましょう。大人が感情的になってしまうと、アスペルガー症候群の子どもは大人が言いたいことよりも感情的になったということのみに気持ちが向いてしまいがちです。もちろん大人にも感情的になってしまう理由は十分あるのですが、子どもはその情況には無頓着で「怒られた」「拒否された」という気持ちのみが残ってしまうことが多いのです。子どもの行動が変化するには長い時間が必要です。困った行動は少しずつ、少しずつ改善していくのを目標にしましょう。時には発達するのを待つという姿勢も大事です。子どもにとって無理なことを強制するのはやめましょう。一人で乗り越えさせようとすると多くの場合、自信をなくしてしまうか自分の興味のあることしかしなくなります。

 

 アスペルガー症候群の子どもは非常にしばしばいじめの対象になります。学校の休み時間、登下校時など大人の目の届かないところでいじめられていることが多いのです。自分一人の力でいじめに立ち向かっていくことは不可能です。またいじめられていることを教師や親に告げない、告げようとしない場合も多いのです。できるだけ大人やしっかりした年長者の監督下におくことが必要です。

 

ルールや指示は明確にしましょう

 アスペルガー症候群の子どもにとって「暗黙のルール」の理解は困難です。ルールはできるだけ明確で、その子どもの能力の範囲内で実行可能なルールにしましょう。曖昧な指示や皮肉、言外の意味の理解を期待した指示は理解できないと思った方が良いでしょう。場に関係のないことをしつこく聞いたり話したがる場合には、「今この場ではその話はできない」とか「この話は5分で打ち切る」などと情況に応じて明確に伝えた上で、「いつどこでなら話をしても良い」という代替の提案をできるだけするようにしましょう。

 

できるだけポジティブに接しましょう

 アスペルガー症候群の子どもは否定的な言動に対して敏感です。記憶力も非常に良いことが多いので、後々まで尾を引きがちです。小学校の一年生の時に先生に叱られたことを覚えていて大人になってから唐突に教師の住所を調べて抗議の手紙を送ったりすることもあるほどです。アスペルガー症候群の子どもは思春期頃になると自分の言動が他の多くの子どもと違っていることに気づき、落ち込むことがあります。小学校などでも、どちらかというと教師や大人から叱責される行動をしてしまうことが多いので、もともと自信をなくしがちです。できるだけ長所をみつけて誉めるようにしましょう。

 

子どものこだわり、関心事は矯正するより何かに生かす方向で考えましょう

 アスペルガー症候群の子どもの関心事というのは大人が変えようと思ってもなかなか変わりません。でも自然に関心ごとが移っていくことは意外に多いのです。例えば電車に強い関心があれば、駅名から漢字を覚えるとか路線図から地理の勉強につなげていくとか、電車の構造から理科の勉強につなげていけないかなどと、子どもの興味を良い方向に伸ばすように考えてみましょう。

 大人を試すような行動をする場合にも冷静に対応しましょう

 

 わざとのように困った行動をして、教師や親がどこまで許容するか「試す」ように見える子どももいます。しかし、こういった行動は本当に「わざと」やっているわけではなくて「周囲が困る」ということの認識不足のことが多いのです。つまり相手の気持ちを理解することの障害から現れてくる行動なのです。やっていいことと悪いことを明白なルールとして、子どもが理解しやすいように文字や言葉で繰り返し冷静に穏やかに伝えていくようにするのが結局は一番の早道です。

 

アスペルガー症候群の原因は親の育て方ではありません

 アスペルガー症候群の原因はまだ解明されたわけではありません。しかし親の育て方、虐待、愛情不足などが原因ではありません。アスペルガー症候群の子どもは幼児期から漢字を覚えていたり、計算が得意だったりするために、親が教育熱心すぎて愛情に欠けると周囲から思われていることがあります。また正しく診断されていないことが多いために「わがままでしつけのなっていない子ども」とみられていることもあります。アスペルガー症候群の行動特徴の多くは、認知発達の偏りで説明がつきます。認知発達の偏りをもたらすのは何らかの脳機能の微妙な障害です。アスペルガー症候群の原因はおそらく一つではないでしょう。遺伝的要因や、妊娠中や出産時、出生後ごく早期の何らかの障害のために脳の特定の部分に障害が生じたのだろうと考えられています。

 

診断をめぐる問題

 アスペルガー症候群はいつも正しく診断されているわけではありません。一つの理由は精神科医や小児科医、臨床心理学の専門家の間でもアスペルガー症候群の概念は、日本ではまだあまり浸透していないことがあります。また日本の医療現場では健康保険制度上の問題もあって初診時の診察時間が短いことも一因です。アスペルガー症候群の子どもは短時間の診察室での面接や診察では障害特性が明らかに現れないことが多いのです。そのため「親の気にしすぎ」などとされ「正常」と診断されることもあります。また学習上の問題や不注意や多動性などの方が微妙な社会性やコミュニケーションの問題などより目に付きやすいために「学習障害(LD)」や「注意欠陥/多動性障害(AD/HD)」などと診断されていることも少なくありません。「こだわり」が目立つために強迫性障害として治療されていることもあります。

 

 成人期になって初めて診断が下されることも少なくありません。こういった人たちも、多くが専門医を受診しているのですが、「分裂型人格障害」、「単純型分裂病」、「ひきこもり」などの診断がつけられていることもあるようです。

 

青年期・成人期のアスペルガー症候群

 これまでアスペルガー症候群の子どもについて述べてきましたが、その多くが成人のアスペルガー症候群の人にもあてはまります。アスペルガー症候群は児童期に明らかになります。その特性は年齢によって微妙に変化はしていきますが。本質的には成人期まで継続してみられます。

 アスペルガー症候群の人が成人期になって初めて診断される場合も珍しくありません。成人期の診断は診察時に3つ組の存在が認められ、かつ幼児期から3つ組の障害が明らかであったかどうかを確認することで診断がつきます。したがって正確に診断するためには発達期のことを良く知っている家族の情報が必要になります。

 

アスペルガー症候群に関するQアンドA

1.アスペルガー症候群と自閉的な子どもはどう違うのですか?

 アスペルガー症候群は自閉症とひとつながりのものです。一般に「自閉的」といった場合、内気で自分の殻に閉じこもるといった印象があるでしょう。アスペルガー症候群は、そして自閉症も、内気とか内向的といった性格の問題ではありません。アスペルガー症候群、自閉症を含む自閉症スペクトラムは発達障害です。発達障害とは、生まれつきあるいは発達早期に脳になんらかの障害が生じたために、行動や認知発達の偏りを示す障害のことを言います。性格の問題とは関係ありません。

 

2.アスペルガー症候群の人は犯罪を起こしやすいのですか?

 アスペルガー症候群の人が一般の人と比べて犯罪を起こしやすいという証拠はなにもありません。アスペルガー症候群の子どもも大人も真面目で規則を頑なに守ることが多いのです。

 

3.どこで相談すれば良いのですか?

 児童精神科、小児神経科の医師がまず第一の候補にあげられるでしょう。ただアスペルガー症候群は専門家の間でも、まだ良く知られていない障害です。医師ならば誰でも良いというわけにはいかないようです。他には保健所、児童相談所、療育センター、教育相談所などにも専門家がいる可能性があります。地域の自閉症親の会などで相談してみて下さい。

 

4.アスペルガー症候群を治す薬はありますか?

 残念ながらアスペルガー症候群そのものを治す薬はありません。こだわりが非常に強いとかイライラが強い、夜よく眠れないといった症状には薬物療法が一定の効果を示すことがあります。精神科医や発達に詳しい小児科医に相談してみてください。

 

5.広汎性発達障害と診断されたのですが?

 広汎性発達障害に自閉症もアスペルガー症候群も含まれます。DSM-IVICD-10といった国際的診断基準の用語で自閉症、自閉症類似の障害を一括して広汎性発達障害といいます。知的障害を伴った重度の自閉症も、知的能力の高いアスペルガー症候群も含めて広汎性発達障害と呼びます。典型的ではない自閉症を非定型自閉症と呼ぶこともあります。もちろん非定型自閉症も広汎性発達障害に含まれます。

 

あとがき

 この小冊子やウェブ版を作ることになったきっかけは、東京都自閉症協会からアスペルガー症候群について広く知ってもらうために一般の人が読みやすいような小冊子を作って欲しいと依頼されたことに始まります。大変光栄なお話だと思いましたが、自分のような者には荷が重いというのも本音でした。もともとアスペルガー症候群に関わるようになったのは、日本自閉症協会の推薦を得て田中徳兵衛冠名ロータリー財団奨学金をいただきウィング先生のもとで勉強する機会を得たことがきっかけです。それで思い切ってウィング先生に監修をお願いしましたら快諾を得ることができました。

 

 本書は先ず内山が書いた草稿を鈴木正子さんが英訳して下さり、その原稿を内山と鈴木さんの共通の友人である英国のジョンマーク・ミッシェルさん(NHS小児科医:発達障害専門)とピア・ケリッジさん(ルートン市教育局社会的コミュニケーション障害部門責任者)に校正を依頼しました。校正原稿をウィング先生に読んでいただき、そのアドバイスに基づきかなりの加筆訂正を行いました。その原稿を再度日本語に訳し改変したものを、もう一度英訳しウィング先生の了解をいただきました。執筆の過程でアスペルガー部会の方々、専門家の先輩・友人からも貴重なご意見や励ましをいただきました。東京法規出版の鬼木さんには細かい注文に根気強く対応していただきました。多くの皆さんに協力を得て発刊の運びになり嬉しさもひとしおです。この小冊子とウェブ版がアスペルガー症候群の子どもや大人、そしてご家族の人にとって少しでもお役にたてることを願っています。