バイパス手術

 

どんな手術も必要な時がある。 が、成功しても前に比べると機能が落ちたり、背負い込んでしまう不都合なことも必ず起きる。

それでも手術をしなければならないことは多々ある。

ただ、その前に、まず出来ることを先にして、それでもダメなときに、手術をするのが良いと思う。

 

バイパス手術の後になりやすい病気としては、閉塞性動脈硬化症(ASO: arteriosclerosis obliterans)がある。主に下肢の、主に大血管が慢性に閉塞することによって、軽い場合には冷感、重症の場合には下肢の壊死にまで至ることがある病気。

 

また、手術に関わるリスク

1 最も血液の流れが多い心臓を手術するゆえに出血も多く輸血が必要となる。現在の医学で判明しているウィルス類についてはチェック済みの最良の血液及び血小板は用意したが、今の医学では不明のウィルスによる病気が将来発病するリスクがある。

2 縫い合わせる血管の内径は1.5ミリという細さであり血流を止めて顕微鏡を通しての縫合とならざるを得ず、いったん心臓を止めての手術であるゆえに再度動かした時に動くかどうかあるいは止める以前の心臓の力まで回復するかどうかのリスクがある。

3 心機能が低下中に肺・肝臓・腎臓などの血流、血圧が低下することによってこれら臓器の機能が低下し感染症を引き起こすリスクがある。

4 いったん人工心肺につなぎ再度元の心臓と肺につなぎ換える過程で血流・血圧の変化により脳の血管の破裂が起こりバイパス手術は成功しても身体の麻痺などが残るリスクがある。

 

次に手術の前に何ができるかを考えたい。

手術が必要な理由は、冠動脈の狭窄、閉塞による血流量の低下です。すると機能も低下して、最後には人は死んでしまいます。植物に水を与える量が減るとだんだんと弱っていくように。

人間の体の中の細部を繋いでいるのは血管です。血管の循環が各器官が気持ちよく活動できる最低条件だからです。上水道と下水道がない家はすぐに住めなくなってしまうように。 水がなければ生きていけないし、立ち小便してもそれを分解してくれる大地も体の中にはありません。植物でも管が少しでも傷つけば枯れてしまいます。動物では血管に血が流れ続かないと生きていけません。

 

では何故、閉塞が起きるのかという仕組みを再確認し、それを改善するという、ことをシンプルに考えてみます。

 

一言でいうと閉塞とは管が詰まりがちになることです。水道管で言うと、管が錆びたり、管にモノがこびりついたりして、管の径が細くなっていくことです。そこですることは二つ。一つは掃除、そして一番大切なのは何がこびりついているのかを知って、そしてそれを、管に流さないという基本中の基本です。

 

掃除は後にして、まずは何が詰まりやすいものなのか?

それは脂質、タンパク質などです。具体的にはコレステロールやアテロームです。

 

コレステロール (cholesterol) とは、炭素と水素と酸素の化合物で出来ている脂質で分子式は C27H46

Description: http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/48/Carotid_Plaque.jpg/230px-Carotid_Plaque.jpg   Description: http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/f1/Atherosclerosis%2C_aorta%2C_gross_pathology_PHIL_846_lores.jpg/220px-Atherosclerosis%2C_aorta%2C_gross_pathology_PHIL_846_lores.jpg 

左 頚動脈内膜剥離術で採取されたアテローム斑の標本   内外の頚動脈へ分岐が認められる

右 アテローム動脈硬化    動脈を切り開いたところ

 

食品中に含まれるコレステロールおよび各種脂肪酸の量 (食品 100 g あたり)

食品名   (kcal) コレステ 脂肪酸

卵黄          387     1400     9.22      11.99    5.39

するめ(乾物)334       980       0.6         0.12      0.89

たたみいわし    372       710       1.53      1.41      1.35

ピータン            214       680       3.06      8.19      1.64

あんこうきも    445       560       8.3         18.44    8.38

すじこ      282     510       2.7         4.02      6.18

うずら卵            182       490       4.24      5.36      1.79

鶏全卵      151     420       2.64      3.72      1.44

バター      745     210       51.44    20.9      2.43

えび          83        170       0.06      0.04      0.08

マヨネーズ       670       150       6.85      36.5      22.99

鶏肉(皮を含む              200       98          3.9         5.83      1.97

豚肉          225     71          5.06      6.42      1.41

 

最新研究 血管は若返る!

血管の内側にコブのようなふくらみ(=プラーク)ができる「動脈硬化」。
これまでは、プラークを「大きくならないようにする」ことはできても、「小さくする」ことはできないと考えられてきました。
しかし、最新の研究ではそれが変わってきています。
実際の患者さんの血管の中で、いわば「血管若返り」といえる現象が起きることが分かってきたのです。

狭心症を患った、ある患者さん。
血管内視鏡」という最先端の検査機器で、心臓の血管の中を直接見てみると、血管の壁が黄色く変色していました。
コレステロールがたまり、動脈硬化を起こしていたのです。
しかし、治療を続けて1年半、再び内視鏡検査を受けたところ、なんと壁の色が健康な白色に!
超音波エコーを使った検査でも、動脈硬化が改善していることが分かりました。

動脈硬化を改善する方向へ進める主役となる物質は、“善玉コレステロール”です。
コレステロールの話で必ずといって良いほど出てくる、善玉・悪玉という言葉。
2つのコレステロールには、一体どんな違いがあるのでしょうか?

善玉・悪玉って何が違うの?

コレステロールは細胞を包む膜(=細胞膜)の材料で、すべての細胞に含まれています。
でも、細胞の中のコレステロールは善玉でも悪玉でもありません
いわば、ただのコレステロール

実は、善玉・悪玉と呼ばれるのは「血液中を運ばれているとき」だけなのです。

血液中でコレステロールを運ぶのは「たんぱく質」です。
たんぱく質には、大きく2種類あり、肝臓から細胞へと新しいコレステロールを配達するものと、
細胞から古いコレステロールを回収して肝臓へ捨てに行くものがあります。
いわば配達トラックと回収トラックです。
この、配達トラックと積み荷のコレステロールをあわせて悪玉コレステロール”と呼び、
回収トラックと積み荷のコレステロールをあわせて善玉コレステロール”と呼んでいます。
積み荷のコレステロールそのものは同じ
運んでいるトラックと、運ばれていく方向が違うだけなのです。

ですから、卵などの食品に含まれているコレステロールにも善玉、悪玉という区別はありません
私たちが食べた後、吸収されたコレステロールが血液中を運ばれるとき、善玉になったり悪玉になったりするのです。

さて、配達と回収はどちらも人体にとって大切な働きです。
なぜ、配達は悪玉回収は善玉と呼ばれているのでしょうか?

驚きの“善玉”効果

食生活のバランスが崩れたりして、配達トラックが血液中に増え過ぎると、血管の壁の中にコレステロールが入り込んでしまいます。
すると、白血球の一種であるマクロファージがやってきてコレステロールを食べ、掃除しようとします。
しかし、マクロファージにはコレステロールを分解する力がありません
食べ過ぎたマクロファージは死んでしまい、どんどん血管の壁の中にたまっていきます。
こうしてできるのがプラークなのです。
配達トラックは増えすぎると動脈硬化を起こしてしまうので、“悪玉”と呼ばれているのです。

一方、回収トラックは、細胞から余分なコレステロールを回収する役割なので
善玉”と呼ばれます。
でも、これまではプラークを小さくする程の力はないと考えられていました。
ところが最近では、それができるということが分かってきたのです。
回収トラックは、いったん進んでしまった動脈硬化を改善してくれる、まさに“善玉”コレステロールだったのです。

それでは、回収トラックを増やすにはどうしたら良いのでしょうか?

善玉を増やす方法 大公開!

善玉を増やす方法を聞きに、ある大学の女子学生グループに会いに行きました。
この年代の“善玉コレステロール”平均値は、およそ65mg/dl
ところが彼女達はほとんどが90mg/dl以上100mg/dlを越える人も少なくありません。
実は、彼女達は陸上の長距離選手。毎日のように朝晩2回のランニングをしていたのです。

善玉を増やすには「有酸素運動」が有効です。ランニング以外の運動でも大丈夫。
1日に歩く歩数が多ければ多いほど、善玉の値も高くなることが分かっています。

ところで、運動で“悪玉コレステロール”値を下げようとしている方は多いですが、運動には悪玉を低下させる直接的な効果はないことが分かってきました。
運動しているのにコレステロールが下がらない」とお悩みの方も、ガッカリすることはありません。
悪玉が下がらなくても、善玉が増えれば回収する力が上がるので、動脈硬化を改善する方向に向かうと考えられています。

男女で違う!コレステロールの危険度

コレステロールで悩む60代のご夫妻。
3年前の“悪玉コレステロール”値は妻178mg/dl 夫143mg/dl でした。
基準値は140mg/dlですから、妻はかなり高い値です。
そこで、2人の血管が、どのくらい動脈硬化しているのか、血管の硬さを測る検査や、超音波で頸(けい)動脈を見る検査(頸動脈エコー)などで詳しく調べてみました。
すると、妻はほぼ正常でしたが、夫はかなり動脈硬化が進んでいるという結果!
夫の方がコレステロール値が低いのに、どうしてこんな結果になったのでしょうか?

実は、動脈硬化の進行は男女で大きな差があるのです。
女性ホルモンには、“悪玉コレステロール”値を下げる作用をはじめ、血管を保護する様々な効果があります。
そのため、40代までの間、女性の血管は男性よりはるかに若く保たれています。
女性ホルモンの値が下がってくる 50才前後になると“悪玉コレステロール”値が急上昇して、男性より高くなることも多いですが、動脈硬化はすぐには進みません。
いわば“若さの貯金”があるのです。
一般に女性の血管は男性よりも10才若いと言われます。
この違いがひと目で分かる表がありました。

コレステロール値が最も大きく影響する病気は心臓病です。
そこで、およそ1万人の日本人を19年間調査した結果をもとに、「コレステロール値」と「心臓病」の関係を示す表が作られました。

Description: 10年後の冠動脈疾患死亡のリスク評価チャート

出典:NIPPON DATA80 (一部改変)滋賀医科大学 上島弘嗣名誉教授

女性は同年代の男性に比べて、はるかに危険度が低いことが分かります。
しかし、喫煙高血糖など他の危険因子がある場合、女性でも危険度は高くなります。
特に、血糖値が高い場合は男性よりも危険になる場合もあるので注意が必要です。

 

 

コレステロール常識クイズ

“悪玉コレステロール”値を抑える上で肝心なのが食事です。そこで食事に関するクイズを出題しました。

 

1. コレステロール値を気にする人はイカやタコを食べない方がよい?

答えは「×」。イヤやタコにはコレステロールが多く含まれるため、あまり食べない方がよいといわれてきました。しかし、“悪玉コレステロール”を下げる「タウリン」が豊富に含まれていることなどから、現在では、それほど気にしなくてよいといわれています。

 

2. オリーブオイルをたくさんとると、動脈硬化を防げる?

答えは「×」。確かにオリーブオイルには血管の保護や、悪玉を下げるなどの働きがあるのは事実です。でもカロリーという点では、摂り過ぎてしまうと内臓脂肪がたまったり、太ったりということで、二次的に脂質異常症に悪い影響を与えるので注意が必要です。

 

3. 卵にはコレステロールが多く含まれる?

答えは「○」。1日のコレステロール摂取量は、300ミリグラム以下が目標。卵1個はおよそ250ミリグラム。でもこの300ミリグラムという目標はあくまでもコレステロール値が高い人の場合、健康な人は特に気にする必要はないということです。

 

 

 

悪玉コレステロールと善玉コレステロールの両者の違いはコレステロールを体内輸送する際における、コレステロールと複合体を作るリポタンパク質の種類によるものであり、コレステロール分子自体の違いではない。

肝臓から末梢へのコレステロール輸送は 悪玉(LDL が担当し、組織(おもに遅筋)から肝臓への輸送は善玉(HDL)が担当する。その役割の違いから LDLコレステロール複合体(LDLコレステロール)は「悪玉コレステロール」、HDLコレステロール複合体(HDLコレステロール)は「善玉コレステロール」と呼ばれることがある。

 

悪玉の数値の出し方

LDL = 総コレステロール値HDL中性脂肪値 20%

 

中性脂肪値は直近の食物の摂取や内容により大きく変動するため、血液検査前は、影響を排除するには 1216時間の絶食が必要である。このやり方のLDL は実際に直接 LDL を測定する方法に比べてLDL値が大きい。

 

ヒトで体内の全コレステロール量はおよそ 100 - 150g ほどである。殆どが細胞膜に取り込まれたものであるが一部が代謝循環している。体内で循環しているコレステロールの50%ほどが血流中に存在している。体内を循環するコレステロールのおよそ20%25%が肝臓で合成される。皮膚においても肝臓に次ぐ量のコレステロールが産生されている。

 

体内における貯蔵について述べると、コレステロールを貯蔵するための特別な形態は存在しない。

コレステロールの過剰による高コレステロール血症も問題となる場合も多い。

遺伝による末梢組織での LDLコレステロール受容体機能の抑制という因子もあるが、食事によるコレステロールの増大は各個人で抑制することができる。

脂質代謝異常も発現していると考えられ、そういった糖・脂質の複合的な代謝異常という意味が血液にとってよくはない。

 

コレステロールの体外排出

ヒトにおけるコレステロールの排泄は、肝臓でコレステロールが水酸化されて胆汁酸を生成し、胆嚢からビリルビンとともに胆汁として分泌される。その際にコレステロールの一部が胆汁酸と複合体を形成して十二指腸に排泄される。

胆汁の中のコレステロールは胆汁酸により分散安定化されているが、胆嚢で胆汁が濃縮される際に何らかの原因で遊離しコレステロールの結晶が成長すると、胆嚢あるいは胆管においてコレステロール胆石症の原因となる。

食物繊維を多く含む食事は食物繊維が胆汁酸を吸着するのでコレステロールや他の脂質も巻き込んで排泄される。それゆえ、脂質吸収を抑制するのに役立つと考えられている。

 

寿命とコレステロール

一般に血中コレステロール量は加齢により変動し、通常は60歳代まで徐々に増大する。またヒトにおいてはコレステロールレベルの季節変動が認められ、冬季には平均よりも高くなる。

また、高コレステロール血症が循環器疾患を引き起こす危険因子であるので、血中コレステロール値の大小で寿命が影響を受けると考えられてきた。すでに米国で大規模な疫学調査 MRFIT (multi risk factor intervention) が実施されている。その結果は予想に反して、コレステロール値は高すぎても、低すぎても寿命を短縮するというものである。結果として血中総コレステロールが 180200mg/dL が最も死亡率が低下することが判明した。

 

 

 

 

 

冠動脈バイパス手術

 

 1.虚血性心疾患とは? 

 心臓は全身に血液を送るポンプとしての働きをするが、心筋が絶えず収縮をすることによって心臓内に取り込まれた血液が全身に送り出される。心筋が収縮をするためには、それに見合った酸素と栄養分の供給が必要であるが、心筋は冠状動脈を通過する血液からこれらの供給を受ける。

 冠状動脈は左右二つの冠動脈から成り立っている。右冠動脈は心臓の下壁および後壁の一部に血液を供給する。左冠動脈は心臓の前壁・中隔を潅流する左前下行枝と後壁・側壁を潅流する回旋枝に分かれる。右冠動脈・左冠動脈前下行枝・左冠動脈回旋枝のそれぞれが約3分の1ずつの領域をカバーしている。 

 

(1)

 

 狭心症;冠状動脈に動脈硬化のための病変が生じると、心筋への血流の供給が減少し、心筋の収縮力が減弱することによって息切れの原因となったり、心筋の痛みを生じる原因なったりする。このような状態を狭心症と呼ぶが、この病態においては症状が間歇的に現し可逆性がある。 

(2) 

 急性心筋梗塞;冠動脈内の血栓形成などにより突然、冠動脈の血流が途絶した場合には心筋梗塞となり、永続的な心筋の障害が生じる。狭心症と異なり心筋梗塞の場合には胸痛が遷延し、広範な梗塞の場合には、ポンプ失調のためにショック状態になることもある。 

 

2.冠動脈バイパス手術の適応

 手術の適応は、臨床症状・運動負荷試験・心臓超音波検査・冠動脈造影・左室造影などの検査を総合的に検討することによって決定される。

 冠動脈造影において、左冠動脈主幹部に50%以上の有意狭窄、心機能の低下した3枝病変、左冠動脈前下行枝に70%以上の高度狭窄を有するなどの所見が認められた場合は手術の適応となる。

 その他内科的な薬物治療においてコントロール不良な症例やステントなどによる経皮的冠動脈内カテーテル治療が困難と思われるような症例は1枝・2枝病変であっても手術の適応とされることがある。(図1)

1:急性冠症候群の症例における冠動脈造影左冠動脈主幹部90%狭窄(

 

3.冠動脈バイパス術の症例数

 冠動脈バイパス術の症例数は、日本全国で約20,000件が施行されており,日本人5500人に1人の割合でこの手術を受けていることになる。

 

4.冠動脈バイパス手術の実際

 冠動脈に狭窄をきたし狭心症や心筋梗塞の原因となっている動脈硬化性病変の末梢側にバイパスを作成して、心筋への血流を増加させることが冠動脈バイパス手術の目的である。バイパスに用いられる血管はグラフトと呼ばれ、血液が不足している領域の心筋に豊富な血液を供給する。

 心拍動下バイパス手術(OPCAB 近年は人工心肺を使用せず、心臓を停止させずに冠動脈のみを固定して血管吻合を行う手術が主流となっている。

 冠動脈を固定するスタビライザーや周辺の機材が改良され、心臓の前面の血管 (図2) のみならず,後面の血管 (図3) においても安全に正確な血管吻合が可能になり積極的に採り入れられている。
従来は冠動脈バイパス手術の適応がないとされたハイリスクの患者においても、合併症発生率を低く抑える手術を可能にした。

 

 

2:スタピライザーを用いた左前下行枝への
心拍動下冠動脈バイパス手術

 3:スタピライザーを用いた左冠動脈回旋枝への
バイパス手術

 

3)冠動脈バイパス手術に用いられるグラフト

A

内胸動脈;胸骨裏面の左右の肋軟骨接合部を縦走する直径2mmほどの動脈である (図4)。内胸動脈は冠動脈やほかの末梢血管と比較すると動脈硬化の非常に少ない血管である。バイパス後遠隔期における開存率は他のいずれのグラフトよりも優れており、10年で約90%とされている。

B

大伏在静脈;下腿から大腿の内側を走行する皮下の静脈である。静脈グラフトの最大の欠点は、バイパス術後10年での開存率が5060%であるとされており、若年者に使用した場合には長期成績に問題がある。

C

右胃大網動脈;胃の下側を走行している血管で。胃壁に向かう分枝を切離すると20cmの長さのグラフトとなる (図5) 。バイパス後遠隔期の開存率は約7080%と左右内胸動脈には劣るものの第3の動脈グラフトとして重用されている。

D

橈骨動脈;前腕の血管には橈骨動脈と尺骨動脈があるが、両者は肘部で分岐するが手掌内で再度交通している。剥離をして遊離グラフトにすると20cmほどの長さになる。遠隔期の開存率からすると内胸動脈と大伏在静脈の中間的位置にある。

 

 

4:グラフト造影右内胸動脈ー左前下行枝

5:グラフト造影右胃大網動脈ー右冠動脈後下行枝 

 

5.術後合併症 

(1) 

術後出血; 冠動脈バイパスの吻合部、あるいはグラフト採取部位から術後出血を認めることがある。再開胸止血術を必要とする術後出血の発生頻度は約1%である。 

(2) 

術後心機能障害; 術中バイパスされたグラフトに良好な流量が得られない場合などは周術期心筋梗塞の原因となる。
さらにバイパス手術後の約0.5%の症例において冠動脈攣縮のために心筋梗塞がおこることがある。

急性心筋梗塞のために緊急手術をおこなった症例では、心筋ダメージのために術後心機能低下や心室性不整脈が遷延することがある。術前から心機能の低下していた症例では、バイパス術後も心機能の改善を認めず心不全から離脱できない症例もある。 

(3) 

脳梗塞; 上行大動脈に石灰化や肥厚病変が認められた場合には、上行大動脈での手術操作が術後脳梗塞の原因となりうる。従来、脳梗塞の発生頻度は12%とされていたが、心拍動下冠動脈バイパス手術の導入以後は減少している。 

(4) 

腎不全・肝機能障害・呼吸機能障害; 術前より腎機能障害・肝機能障害・呼吸障害を有する症例は、これらの臓器障害が悪化することがある。 

(5) 

術後感染症; 手術侵襲による免疫力の低下のため、約1%の症例で術後感染症がおこることがある。術後創感染は感染巣の深さ(皮下・胸骨骨髄・縦隔心嚢内)によって症状が異なる。 

 

6.術後短期成績 

 待期的冠動脈バイパス手術の成功率は約99%であり、12%の手術危険率が想定されている。
2007
年の日本胸部外科学会での集計では、心拍動下冠動脈バイパス術の手術死亡率(病院死亡率)は予定手術において0.7%1.2%)であったのに対して、緊急手術の手術死亡率(病院死亡率)はで4.1%(5.9%)と明らかな差が認められた。

 人工心肺使用下冠動脈バイパス術ではさらに傾向が顕著であり,予定手術における手術死亡率(病院死亡率)は1.2%1.9%)、緊急手術の手術死亡率(病院死亡率)は7.0%(10.1%)であった。
 手術危険率を高くする術前因子としては、高齢者(80才以上)、女性、左室心機能低下症例、緊急手術、再手術、末梢血管病変、腎機能低下(透析治療)、呼吸不全などがあるとされている。 

 

 

 

 

冠動脈大動脈バイパス移植術は、虚血性心疾患に対し行われる手術的治療法である。

英名のcoronary artery bypass graft(またはgrafting)を略し、CABGとも呼ばれる。

目次 

1 概要

2 術式

2.1 人工心肺装置を使用する方法

2.2 人工心肺装置を使用しない方法

2.3 意見が分かれる項目

3 グラフトに用いられる血管

4 施術後の死亡率について

5 関連項目

6 外部リンク

 

虚血性心疾患は、心臓の筋肉(心筋)への酸素供給量が低下し、需要量を下回ることによって起こる。心筋への酸素供給量が低下する原因の一つに冠動脈の狭窄、閉塞による血流量の低下が挙げられる。冠動脈大動脈バイパス移植術は狭窄した冠動脈の遠位側に大動脈(または内胸動脈)から血管をつなぎ、狭窄部をバイパスすることで血流量の回復をはかる手術である。

術式

 

虚血性心疾患の治療方法としてはカテーテルを用いた経皮的冠動脈形成術(PCI)もあり、こちらは血管内治療と呼ばれ、いわゆる一般に考えられるような「皮膚を切開する手術」の必要がなく侵襲が低い(患者の体力的負担が軽い)。しかし、PCIが不可能な(もしくは危険で出来ない)病変があり治療に限界がある。 治療の流れとしてはまず血管造影を行い、PCIが可能な病変であればPCIを行い、不可能なものはCABGへと移行していくことになる。 手術は日本においては基本的に全身麻酔下で行われる。施設によっては硬膜外麻酔で行うところもあるが日本では一般的ではない(国情によって異なる)。手術の手順としては、開胸、バイパスに使う血管(グラフトと呼ぶ)の採取、グラフトの冠動脈への縫合、グラフトの大動脈への縫合、止血、閉創となる。このうちグラフトに用いられる血管と、グラフトの冠動脈への縫合に関しては何通りかの方法があるため後述する。

人工心肺装置を使用する方法[編集]

人工心肺による体外循環を使用し心臓を停止させて縫合を行う黎明期から施されている術式。

人工心肺装置を使用しない方法[編集]

従来、常に動いている心臓に太さ数ミリメートルの血管を縫いつけるのは非常に困難であった。しかし、近年スタビライザーという器具が開発され、縫合する部位のみ動きを止めることで心臓が動いている状態のまま手術することが可能となった。この術式を選択する医師も増えてきている。なおこの方法はオフポンプCABG(OPCAB=オプキャブ)と呼ばれている。

OPCABの利点・欠点

人工心肺を使用しないことで人工心肺使用時のリスクを回避できることである。また、動脈硬化がひどく人工心肺を使用できないような場合でも手術が行える。欠点としては心臓の動きを抑えることで心臓の働きが低下してしまうため、心臓の機能に余裕がない場合手術が行えないことや手術操作中に一時的に冠動脈の血流が減少し不整脈が生じる可能性があること、術者の技量が要求されることなどである。

意見が分かれる項目[編集]

CABGに関して、現時点で明確に定まっていない事柄に関して解説する。現在根拠となるデータを集めるべく各国で研究、調査が行われており、標準的な治療方法が確立するまでは時間を要する。

人工心肺の必要が無いことから悪影響が少ない(低侵襲)手術方法として期待されたOPCABであったが、確実性に疑問を持たれていることも事実である。人工心肺を使用した方が手術の合併症が少ない、グラフトの開存性が勝っているなど、優れた結果が出ているという報告もある。

グラフトに用いられる血管[編集]

 

静脈を使う場合(静脈グラフト)と動脈を使う場合(動脈グラフト)に大別される。静脈グラフトは古くから用いられていたが、長期間追跡調査したところグラフトが詰まってしまう可能性が動脈グラフトより高いことが分かった。動脈グラフトはグラフトの攣縮(れんしゅく)による血流の低下が問題とされてきたが、カルシウム拮抗薬など血管拡張薬の進歩により治療成績は改善してきている。

静脈グラフト

大伏在静脈

動脈グラフト

内胸動脈、橈骨動脈、胃大網動脈

内胸動脈にグラフトをつなぐ(延長する)場合もある。