胸痛と冷たい水
現代医学は治すことが目的なので、治療法はわかるが、病気の原因はまだよくわかっていない、ということが多いと感じます。
ですから、原因は本人で探していくしかありません。
胸痛と冷たい水の関係はどうなのでしょうか?
冷たい物を飲むと心房細動(心臓の動き)に影響を与える、という実例は多く上がっています。
私の場合は、冷たいビールを一気飲みすると、心臓がギュッと痛くなり、数分は静かにするようにしています。
ですから心臓が痛い場合に、冷たいものを飲むと痛みに変化を与えることがあるのかなと思います。
ただ、冷たいものを取ることで心臓の鼓動に影響を与えすぎてしまい、悪化するケースもあると思うので、
できるだけ、日常生活で不整脈や狭心症の症状が出ないようにすることが一番なのかなと思います。
そこで、
1冷たい水が胸痛に効くという体験とそのメカニズムの可能性、
2次に狭心症のメカニズム、
3そして、具体的にどうすれば痛みがおさまるのか?どうすれば狭心症を予防できるのか?
について考えてみました。
1「冷たい水を飲んだらよく不整脈が止まる。」といった場合に、
もしかすれば「冷たい水を飲むために行った行動」が不整脈を止めているのかもしれません。
例えば、
*冷たい水を飲むには台所まで歩いて行く
*古い冷蔵庫を使っているので、息を止めて力一杯扉を開く
*氷を素手で取ってコップに入れる
*蛇口の位置が低いので前屈みの姿勢で水がコップに溜まるまで待つ
*コップの水を一度に全部飲む(その間息を止めている。)
等々、不整脈を止めるのに関係しそうな付随運動だけでもこれだけあります。
これらは、「冷たい水を飲む」という「思い込み?」の陰に隠れて意識されないことが多いのです。
(「冷たい水を飲んでも不整脈が止まらなくなった。」と慌てて受診された方によくよく話を聞いてみると、その時は奥さんに冷水を運んでもらっていた例もあるそうです。)
私の個人的推測では、冷水が直接に心臓の鼓動に影響を与えている可能性が高いと思いますが、冷水は両刃の剣だと思うので、できれば冷水以外の方法を用意しておくことが安心につながると思います。
実際に胸に痛みがある場合には、ドキドキの仕方を冷静に観察したり、どの様にして不整脈が止められるのか確かめる機会だと思っていただけると、不快な自覚症状も少しは和らぐかもしれません。
冷たい物を飲むと心房細動
冷たい水やお茶をがぶ飲みすると、心臓病や脳出血になる恐れがあるという。
一体、どういうことなのか? 「医者のいらない暮らしがしたい」などの著書もある漢方相談「百済診療所」の丁宗鐵院長に聞いた。
60代のMさんは、ちょっと動くと動悸がして、脈が乱れるのを感じるようになった。
しかし、これまで狭心症や不整脈といった心臓の異常を指摘されたことはなく、思い当たるフシがない。
不安になって、丁院長の診療所を受診した。
問診後、思いもよらぬ診断結果に耳を疑った。「水の飲み過ぎが原因」だというのだ。
「一般に“水を飲むことは脱水を予防し、血栓をできにくくして、脳梗塞の予防になる”といわれていますが、あれは間違い。Mさんのように、水で動悸がちになり、狭心症の症状が出ている人は決して少なくありません。
私の診療所には、そんな患者さんがよく来ますよ」
水が狭心症を引き起こすとは、にわかには信じられないが……。
「大量に摂取された水は、主に小腸で体に吸収されて、血液として体を循環します。
余分な水は最終的に尿として排泄されますが、それまでは一時的に循環血液量が増える。
血液循環をコントロールする心臓には大きな負担で、よりたくさんの血液を循環させるために、血圧を上げたり、脈を速くしたりします。
この影響で動悸などの症状が出ることがあるのです」
血圧と脈拍の上げ幅には個人差があるが、血圧なら10〜20oHg、脈拍なら20回程度上がることはよくあり、冷たい水ほど影響は大きいという。
この急激な血圧上昇がさらなる危険な病気を招く。
「脳出血が怖いのです。脳出血の一番の危険因子は高血圧ですが、さらに急激な血圧上昇が重なると、非常に危ない」
脳出血は日中にのどをうるおしたときや、食事中などにも発症するが、そうしたケースの一部は水が引き金になっている可能性があるという。
大量の水を飲むとヤバイ人には、タイプがある。
「夏風邪をひきやすい、汗が出にくい、血圧が高い、食欲がない、高齢、病み上がり、といった人が水を大量に飲むのはよくありません。
飲むなら、常温の水か温かいお茶を食事と一緒に1杯か2杯飲めば十分です。
のども渇かないのに、無理に1リットルも2リットルも飲むのは非常に危険」
本当に必要な水分は、暑いときに温かいお茶を飲みたいかどうかで判断できる。
その状況で飲みたくなければ、まったく飲む必要はないという。
2 虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)のメカニズム
「心筋梗塞」や「狭心症」をまとめて「虚血性心疾患」といいます。
「虚血」とは「血がない状態」を意味します。つまり心臓に十分血がいきわたっていない状態が「虚血性心疾患」です。
心臓の筋肉(心筋)に血液を送り酸素と栄養素を供給する冠動脈が、動脈硬化等で狭くなったり、血管がけいれんを起こしたりすることで、血液が十分に心筋にいきわたらなくなったとき、心臓は酸欠(虚血)状態となり、胸痛等の症状としてあらわれます。
虚血状態になった心臓は…?
心筋に血液や酸素がいきわたらなくなり…
心臓が悲鳴をあげています。胸が苦しくなって痛みや絞めつけられるような症状が出ます。症状は軽いものから激しいものまでいろいろですが、どことはいえない広い範囲に症状を感じるのが特徴です。
全身に血液を送るポンプの機能にも影響が
虚血の状態が長く続くと、心臓を収縮させる心筋の動きが悪くなるので、心臓のポンプ機能にも影響が出てきて、息苦しくなる等「心不全」の症状があらわれてきます。
重症になると血圧が下がり、危険な不整脈が出ることも
重症になると、血圧が下がってショック状態となり、全身が虚血状態になってしまいます。
また、心筋の「心臓の電気信号」を伝える働きにも障害をきたし、「心室細動」という命にかかわる不整脈を起こすことがあります。
虚血性心疾患(1)狭心症
血液の需要と供給のバランスがくずれて起きる心臓の酸欠状態
運動時等、普段より酸素を必要とする状況では、心臓は血流量を増やして対応しようとします。ところが血液の通り道が狭くなる(狭窄)と、血液の供給が間に合わなくなり、心臓が酸欠状態になって、胸痛(狭心痛)が起こります。症状は一時的で数十秒から長くても10分くらいで自然におさまります。
多くの場合、冠動脈の動脈硬化によって生じた冠動脈の狭窄が血流を障害することが原因となる。
狭心症の種類
症状の起こり方によってわかれる
労作性狭心症
運動したり、重いものを持ったりした時に、心臓に負担がかかり起こります。運動時や歩行時、駅の階段をのぼるとき等に出現し、休むと症状がおさまります。
「階段をあがると胸が締め付けられるように痛くなる」「重いものを持上げたり、坂道をあるくと胸が苦しく痛む、静かにしていると楽になる」というときには労作性狭心症を疑います。痛みは圧迫感、絞扼感、灼熱感などと表現されます。痛む部位は前胸部、みぞおち、肩、頸などです。歯や喉が痛むこともあります。痛みの続く時間は短く、多くは数分までです。
階段をあがったり、力仕事をしたりするとき(労作)には、心臓から体内に血液をたくさん送り出す必要があり、心筋の働きも増加します。このときに冠動脈に狭窄があると心筋への充分な血液の供給ができなくなります(心筋虚血状態)。こうして起こるのが労作性狭心症です。
胸痛を治めるには、まずは安静にします。座って、シャツのボタンをゆるめて、呼吸を楽にします。病院でニトロ製剤(舌下錠)を処方されている場合には、ニトロを口に含みます。ニトロには冠動脈を広げて心臓の負荷を減らし、心筋虚血を改善する作用があります。ただし、ニトロは血圧も下げるので、倒れても差し支えないように、座った状態で口に含みます。そうすれば数秒のうちに楽になるはずです。
安静時狭心症(血管れん縮性狭心症・異型狭心症)
深夜や明け方の就寝中等、安静にしていても起こります。血管のけいれんや血管内に血のかたまりができて冠動脈の血流が減ったときに起こります。
「夜、就眠中、ことに明け方、胸が苦しく押さえつけられたようになる」という発作があります。これを安静時狭心症といいます。安静にしていて起こるためにこういうのですが、このことのほかには、痛みの性質や部位などは労作性狭心症の場合と同じです。
多くの場合、冠動脈が一過性に痙攣(けいれん)を起こして収縮し、血流を一時的に途絶えさせるために起こる狭心症であり、攣縮性狭心症ともいいます。冠動脈の攣縮もまた、動脈硬化の進行過程にみられる現象といわれています。
この場合もニトロ製剤がよく効きます。ニトロは冠動脈の攣縮をほどいて広げるからです。ほかにカルシウム拮抗薬もよく効きます。
病状によってわかれる
安定狭心症
どのくらいの動作で発作が起きるかをある程度予測できます。安定した狭心症です。
不安定狭心症
安静時狭心症が新たに発症した、発作の回数が増えてきたり、発作止めの薬がきかなくなったり、軽い動作で発作が起こるようになった等の状態です。
※不安定狭心症は心筋梗塞になりやすい状態です。このような症状があるときはすぐに医師に相談してください。
「狭心症発作が次第に頻回に起こるようになり、労作時ばかりでなく、安静にしていても起こる」というようなときには、不安定狭心症といいます。急性冠症候群ともいいます。
心筋梗塞の前触れです。発作が繰り返し起こっている間に、大きな発作にいたらない前に心筋梗塞ができ上がってしまう(心筋が壊死してしまう)こともあります。
救急車が必要です。ニトロで収まるならば、ニトロを使用してみてください。
虚血性心疾患(2)心筋梗塞
血管が完全につまり、その先の心筋が壊死する
血管の内側にたまったコレステロールのかたまり(プラーク)に何かの拍子で亀裂が入ると、そこをかさぶたのように血液のかたまりが覆っていきます。このかたまり(血栓)が血管を完全に塞いでしまうと、その先の心臓の筋肉には酸素が届かず細胞が死んでしまいます。これを心筋梗塞といいます。いったん死んでしまった心筋は元には戻りません。
心筋梗塞を疑ったらすぐ救急車を!
·
冷や汗や吐き気を伴う非常に激しい重い胸痛が20分以上続く
·
硝酸薬(ニトログリセリン)を舌下(舌の下において、なめて溶かす)あるいは噴霧(スプレー容器を使用)しても痛みがおさまらず20分以上続く
·
顔面が蒼白になり、苦しいが、からだを動かすのもつらい
·
けいれんを起こしたり意識を失ったりする(危険な不整脈が出たとき)
※ 高齢者や糖尿病の方は激しい痛みを感じないこともあります。
心筋梗塞の治療
再度、血液が流れるようにするために、いったん途絶えた心筋の血流を回復させること(再灌流療法)が行われます。
※心筋梗塞の救命は治療開始までの時間が鍵となります。その時間が短いほど死亡率は下がると報告されており、来院から90分以内にカテーテル治療を行うことが理想的です。
狭心症と心筋梗塞の違い
狭心症と心筋梗塞の大きなちがいは、心筋が回復するかどうかです。狭心症では心筋は回復しますが、心筋梗塞では心筋が死んでしまうので回復することはありません。
|
狭心症 |
心筋梗塞 |
心筋の状態 |
虚血にさらされても生きている |
一部の心筋が死んでいる |
血管の状態 |
冠動脈の狭窄のため血液が流れにくくなった状態 |
血栓で冠動脈が完全につまった状態 |
どのようなときに起こるか |
心臓の仕事量(需要)と冠血流量(供給)のバランスがくずれて起きる(労作性の場合) |
心臓の仕事量とは関係なく突然発症することがある |
症状の特徴 |
短時間の胸痛:絞めつけられる、押さえつけられるような鈍い痛み(数十秒〜10分程度) |
冷や汗や吐き気、恐怖感を伴う耐え難い痛み(20分以上) |
安静にすると |
治る |
治らない |
硝酸薬の効果 |
原因となった労作を中止したり、硝酸薬の舌下錠を使用用たりすると症状がおさまる |
硝酸薬の舌下錠を使用しても症状はおさまらない |
顔色 |
蒼白にはならない |
蒼白になる |
血圧 |
上昇する |
降下する |
3 狭心症の予防と治療
実際に痛みを感じる時には安静にして痛みが去るのを待つしかないのですが、ニトロを吸引したり、
はじめは信じられないかもしれませんが、痛みに気づき、その痛みに寄り添い、この痛みは私自身ではなく、心臓から電気信号となって脳に伝達され、それによって痛みとして、表現されている、ことを気づいているだけで、痛みは減少していきます。
原因は、酸欠なので、これには心がけと物理的な方法が考えられます。
1 酸素をしっかり取り入れる深い呼吸の仕方を覚える。
平常心に素早く戻れる練習をする。 酸欠の時には気持ちが落ち着かない浅い呼吸のときなので。
2 動脈硬化を軟化させる。狭心症のもとは動脈硬化なのでこれを治せばもう大丈夫。
30秒でできるストレッチ 図書館で「ためしてガッテン「血管力」で若返る! 高血圧、動脈硬化を予防!」
食べ物に注意する 砂糖を減らして、マグネシウムを増やす。
https://www.youtube.com/watch?v=4jkgE8Cbkh4&t=5s
3物理的に狭窄を治す。 現代医学にお任せする手術です。
最後は薬です。
薬物療法
硝酸薬・カルシウム拮抗薬・交感神経ベータ遮断薬が代表的なものです。その他にアスピリンなどの抗血小板薬もよく使われます。つまり、血管の緊張をできるだけ緩め、心臓の負担を減らし、血液を固まりにくくしておくというのが基本です。
狭心症の薬
狭心症と診断されたら、生活習慣の改善と併せて薬による治療も行います。薬はその働きにより4種類に分類され、狭心症のタイプなどで使い分けます。
発作時の症状を鎮める薬
ニトログリセリンなど...舌下錠(舌の裏で溶かす薬)とスプレーがあり、発作が起きた場合に備えて携帯し、症状が出たらすぐに使用する。
症状を予防する薬
β(ベータ)遮断薬...心拍数を抑え、心臓の負担を軽くする。
カルシウム拮抗薬、硝酸薬...血管を広げる。
動脈硬化を改善する薬
スタチン...コレステロール値を下げたり、動脈硬化でできたプラーク(血管内壁のこぶ)を安定させる。
血栓を防ぐ薬
アスピリンなど...血を固まりにくくする。
参考資料
誤解されがちな動脈硬化
いったい「動脈硬化」とはなんでしょう。改めて問われてみると、なんとなくわかっているようで、本当のところはよくわからない、という方が多いのではないでしょうか。誤解も少なくありません。
動脈の変化は、中高年になってから起こるものだと信じている人が多く、これが最も誤解されている点です。
実は、ゼロ歳の時点ですでに主な動脈に「硬化」の初期病変がみられ、10歳前後から急に進んできます。30歳ごろになると、まさに“完成”された「動脈硬化」が現れるようになります。
生まれた時から一生つき合わねばならない血管の変化ですが、変化を起こし、進める「危険因子」を避け、食事、運動などに気をつければ、予防でき、進行を食い止めることもまた可能です。
生活習慣が欧米化したのに伴って、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心臓病が年々増えてきました。こうした病気の原因の大部分は、動脈硬化が進むことによって起こりますから、この変化を抑え、いかに若々しい血管を保つかは、現代人の健康法のイロハのイにあたる大切なことです。
この変化がどうして起こり、どのように進むのか? その「危険因子」は何か? 危険因子と食事療法や運動療法はどう関係するのか? 今回はこうした点を中心に考えてみましょう。
まず血管の構造と働きの話から始めましょう。
私たちの体は、血管を通じて血液が糖分や酸素など生活に必要なものを運び込み、その一方で、炭酸ガスや体内でできた老廃物を運び出して処理する仕組みになっています。
動脈も静脈も、基本的には「内膜」「中膜」「外膜」の3つの層からできています。
<図1>をご覧いただくとわかるように、血液と接しているのが「内膜」で、その表面は「内皮細胞」という細胞の層に覆われています。この細胞層は血液から必要な成分だけを取り込むフィルターの役目をしています。
動脈硬化との関係で特に重要なのは「内膜」と「内皮細胞」です。まずこの二つをしっかり覚えてください。
内膜の外側の「中膜」には、血管としてのしなやかな弾力性を保つための成分(平滑筋細胞など)でできた層があります。動脈には、心臓から血液が送り出されるときの圧力がかかりますから、この層は厚くなっています。一方、静脈は圧力の低い血流なので、この層は動脈ほど厚くありません。
中膜の外側を囲んでいるのが「外膜」の層で、ここには血管の外から細い血管を通じて栄養分などが運ばれてきます。
図1 動脈の仕組み
下の図は、外膜、中膜、内膜の表面の部分を削りとって、それぞれの下がどんな風になっているか分かるように描いたものです。
「動脈硬化」とは「動脈の壁が厚くなったり、硬くなったりして本来の構造が壊れ、働きがわるくなる病変」の総称です。もともと病理学で使う呼び方で、病名ではありません。
病理学では三つのタイプに分けていますが、一般に動脈硬化といえば「粥状動脈硬化」を指す場合が多く、ここではそれを動脈硬化として説明します。
「粥状」とは難しい表現ですが、「おかゆ」か「ヨーグルト」、もしくは「柔らかいチーズ」のような状態を思い浮かべてください。
この血管の変化は、内膜や中膜が比較的よく発育した動脈に起きやすいので、心臓を養う冠状動脈、大動脈、さらに脳、頚部、腎臓、内臓、手足の動脈などによく起こります。
内膜の中にコレステロールが蓄積し、次第に脂肪分が沈着して、血管が狭くなり、血栓、潰瘍をつくる原因になります。これが原因になり、狭心症、不安定狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、大動脈瘤、腎梗塞、手足の壊死などが起こります。
「硬化」はどう進むのか、その過程をご説明しましょう。
年齢が高くなるにつれ、内膜の中にたまったコレステロールを中心とした脂肪沈着は、やがて「脂肪斑」と呼ばれる状態になります。20〜30歳ごろから始まり、この「脂肪斑」などが大きくなり、血管の内側に向かって盛り上がってきますから、50〜60歳になると血管自体は狭くなってしまいます。
その結果、スムーズな流れだった血流と内膜の間に無理(ストレス)が生じ、内膜を覆っている細胞(内皮細胞)が壊れ、血の塊(血栓)ができます。この塊で血管が詰ると、急性心筋梗塞などの発作として、初めて症状が現れるようになります。
ですから、症状が自覚できるようになった時は、すでに20〜30年に及ぶ沈黙の「動脈硬化の進行」があったと考えなくてはなりません。硬化は無症状のまま進行することをしっかり覚えておいてください。
では、動脈の変化はどのように進むのでしょうか。
健康な人の血管の内膜表面を覆っている「内皮細胞」の層は、血液から必要な成分を取り込み、他の成分は入り込まないようにしていることはすでに説明しました。このほかに、血液が固まるのを防いだり、血液が内皮細胞にくっつかないようにしたりする大切な役目も果たしています。
最近になって、内皮細胞の層でさまざまな物質(生理活性物質)がつくられ、放出されていることがわかってきました。この細胞の役割は極めて大きいのです。
<図2>を見てもらいながら、話を進めます。心臓・血管に悪い影響を与える高血圧や糖尿病や感染などが刺激になって内皮細胞が傷害されると、血中の単球(白血球)が内皮細胞にくっつくようになります。さらにこの単球は内皮細胞の間から潜り込み、「マクロファージ」と呼ばれる状態に変身します。
血液中のコレステロールが多すぎると、この「マクロファージ」が“呼び寄せ役”になって、脂肪物質がどんどん取り込まれてたまり、内膜が厚くなってきます。時間の経過とともにこの“呼び寄せ役”自体も壊れて、先に説明したように「粥状」になります。
少し難しい説明になりましたが、「高血圧や糖尿病などが刺激になって内皮細胞が傷つけられると、その部分の血管壁の中に脂肪物質がたまって厚くなり、“おかゆ”のような状態になる」と覚えていただければ結構です。
図2 粥状硬化ができるまで
この“おかゆ”状の病変を「粥腫」といいます。粥腫のなかには、きわめて脂肪分に富んだものから、脂肪分が乏しく線維性成分が目立つものまで、さまざまなタイプがあります。
冠状動脈を断面でみたのが<図3>で、「粥腫」が次第に厚くなり、血栓ができるまでを示しました。
この病変部分がくずれる(崩壊・破綻)こと自体が、急性心筋梗塞の原因とされています。
崩壊の結果、<図3>のように血栓ができ、それが血管をふさいで急性心筋梗塞の起こることが、はっきりと確かめられてきました。不安定狭心症の患者さんでも冠状動脈で血液が固まってしまうことが認められています。
冠状動脈が詰ってしまうと、心臓の筋肉に酸素が十分に送られなくなり、心筋の細胞は壊死します。
予後の悪い不安定狭心症や急性心筋梗塞では、冠状動脈での「粥腫の破綻」と、その結果できた「血の塊」が原因であることが明らかになり、最近では「急性冠症候群」と呼ばれています。
とくに問題となるのは、破綻・崩壊しやすい不安定な“おかゆ”状病変です。その特徴として「脂質の占める部分が多い」ことなど、いくつかの点が病理学的検査や血管内エコー、血管内視鏡の検査結果からわかってきました。現在、この病変が破綻しないようにするいろいろな治療法の開発が期待できる段階まできています。
逆に「白みがかった脂質と炎症細胞が少なく、厚い被膜を持つ粥腫」は破綻しにくいといわれています。
では、“おかゆ”状病変の崩壊をどうすれば予防できるのか、何に気をつけたらよいのか……。それには、動脈硬化の「危険因子」についてよく知っておき、それらをなくす必要があります。
図3 冠状動脈の硬化はこう進む
動脈硬化の原因は一つではありません。
この変化を起こしたり、進めたりする条件を「危険因子」と呼んでいますが、その中には「男性であること」「齢をとること」のように、自分ではどうにもならないものから、「高血圧」「高脂血症」「肥満」「糖尿病」「ストレス」などのように、自分の意志次第でコントロールできるものもあります。
米・マサチューセッツ州のフラミンガムで、危険因子と心臓病の関係を明らかにするための疫学調査が行われました。その結果、<図4>のように、総コレステロールに高血圧、喫煙、耐糖能異常(糖尿病)、さらに心電図異常(左室肥大)が加わるにつれ、心筋梗塞や狭心症など“心臓事故”の頻度が高くなっています。
図4 危険因子が重なるにつれ“心臓事故は増えていく”
(フラミンガムでの調査)
コレステロール |
185⇔335 |
185⇔335 |
185⇔335 |
185⇔335 |
|
||||
耐糖能異常 |
0 |
+ |
+ |
+ |
|
||||
収縮期血圧 |
105 |
195 |
195 |
195 |
|
||||
喫 煙 |
0 |
0 |
+ |
+ |
|
||||
心電図左室肥大 |
0 |
0 |
0 |
+ |
|
アメリカでは、高血圧を「サイレント・キラー(沈黙の殺し屋)」と呼んでいます。静かに忍び寄ってきて、やがては心筋梗塞や狭心症の下地になりかねないことを警告しています。
高血圧は、細い動脈の硬化を促すだけでなく、より太い動脈に生じる硬化も進める重大な危険因子です。塩分の取り過ぎや肥満で血圧が高くなっていくのは、皆さんよくご存じのことです。
動脈硬化が進みやすい血圧は「収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上の場合」で、血圧が高いほど脳梗塞や心臓病などにかかるリスクは当然、高くなります。
心臓のポンプ作用を反映する収縮期も、血管の抵抗性を示す拡張期の血圧も、同じように動脈硬化に影響を与えています。
血液中の脂肪が高い「高脂血症」も強い危険因子です。脂肪分のうち増えると動脈硬化を促すのは、総コレステロール、LDL(悪玉)コレステロール、高トリグリセライド(中性脂肪)血症、Lp(a)、レムナントなどで、反対に減ると動脈硬化を進めるのはHDL(善玉)コレステロールです。
厚生省の発表によると「総コレステロール値は220mg/dl以上、LDL(悪玉)コレステロール値は140mg/dl以上、またHDLコレステロール値は40mg/dl以下」になると、狭心症や心筋梗塞の合併が増えるとされています。
1日20本以上の喫煙者では、虚血性心臓病の発生が50〜60%も高くなります。喫煙は、がん、肺や消化器などの病気だけでなく、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症といった動脈硬化性疾患の発症を促す強力因子です。
さらに悪いことに、喫煙はほかの危険因子にも影響し、総コレステロール値、LDL(悪玉)コレステロール値を高め、逆にHDL(善玉)コレステロール値を下げますから、二重のリスクをもたらすのです。
喫煙で血が固まりやすくなり、血栓症を起こす危険も高まります。血管も収縮しやすい状態になります。動脈硬化の予防・治療にまず禁煙が必要なのはいうまでもありません。
喫煙者だけでなく、そばにいて、たばこの煙を吸わされる「受動喫煙者」にも健康被害を与えていることをよく知ってほしいのです。
肥満の程度を示す指標としてBMI(ボディ・マス・インデックス)があります。次の式で簡単に求めることができますから、時々チェックして正常体重にするよう努力してください。
BMI値=体重(Kg)÷[身長(m)×身長(m)]
例えば、体重65キロ、身長170センチの人ですと
65÷[1.7×1.7]で、BMI値は22.5となります。
日本肥満学会の基準では、19.8〜24.2は「正常範囲」、24.2〜26.4は「過多体重」、26.4以上は「肥満」としています。
肥満した人は血液中の脂肪が過多になりやすく、さらに高血圧、高尿酸血症、糖尿病などを合併しやすいので、ほかの危険因子にも大きな影響を及ぼしますから、あなどれません。例えば、肥満が進むと収縮期、拡張期とも血圧が明らかに上昇します。
糖尿病の発症には、遺伝的な素因も関係しますが、生活習慣、とりわけ過食、運動不足、飲酒など、心がけ次第で改善できる習慣が大きく影響しています。
患者さんには、首の動脈の肥厚、脳血管障害、虚血性心臓病、大動脈硬化、足の閉塞性動脈硬化症などが、糖尿病でない人に比べ高頻度に、しかも全身にわたって起こりやすくなります。
糖尿病になると、ほかの危険因子、とくに高血圧、高トリグリセライド血症、低HDL血症などがしばしば起こるようになります。
こうみていくと、危険因子は相互に関係しており、因子が増えれば雪ダルマ式にリスクが高まる反面、一つでも因子を減らせば、よい影響も雪ダルマ式に広がります。治療にも予防にも5つの危険因子を減らすことがいかに重要な意味をもつか、おわかりいただけたと思います。