てんかん(癲癇、Epilepsy

 

大脳の神経細胞(ニューロン)の過剰な活動によって引き起こされる反復性の発作が生じる疾患の総称で、脳波検査ではそのような過剰活動が検出されるものをいいます。

神経学の歴史を紹介したMcHenry Jr.博士の著書によると、「てんかん」の歴史は古代ギリシャの医師ヒポクラテスの著作にまで遡るものであり、その後、いつの時代の医学論文にも「てんかん」についての記述があります。シェークスピアのオセロの第4幕にも、将軍がてんかん発作を起こした、という症状を詳しく述べた台詞があります。

一方、「てんかん」の原因については不確かな諸説があったものの、本質的なことは闇の中でした。その後、19世紀中ごろ、ジャクソン(Hughlings Jackson)博士の「大脳の神経細胞の過剰なエネルギー発射によっててんかん発作は発生する」という考え方が、てんかん研究の一大転換期を迎えるエポックとなりました。運動を司る大脳の一部が過剰に興奮することによって手や足が痙攣し、次第に全身の痙攣に発展してゆく発作タイプを、彼の名をとってジャクソン発作(Jacksonian March)と言っています。

また、20世紀中ごろには、脳外科医のペンフィールド(Wilder Penfield)博士が、手、足、顔などの体の各部位の運動や皮膚感覚を司る大脳の場所(中枢局在)をイラストで発表し、発作のタイプによって、大脳のどの場所が過剰に興奮しているのかをはじめて明らかにしました。非常に難治性であり手術が必要な場合は、脳外科治療が行われますが、日本のてんかん治療を専門とする脳外科医らが集う会は、彼の名を冠しペンフィールド記念懇話会として始まり、現在は日本てんかん外科学会となって発展しています。

因に、「てんかん」という日本の言葉は中国医学の用語の一つであり、19世紀のイギリス人医師で、てんかんを研究していたモーズレー(Henry Maudsley)博士が著した書物を、明治初期に日本語に訳した出版本の中にはじめて記載されたといいます。現在でも、ロンドンの南部にはモーズレー病院があり、てんかんに対する外科治療の20世紀の先駆けとなりました。

現在、てんかんの患者人口は約100人にひとり、といわれており決して稀な病気ではありません。多くは薬物療法や発達の過程でコントロールが良好になり軽快してゆきますが、しばしば薬物治療に抵抗性の難治性てんかんになってしまう場合もあります。特に就学や就労に際して困難が生じることも多く、てんかんの克服は切実な医療的な研究課題です。

 

「キリストの変容」(ラファエロ・サンティ画、 1518-20バチカン美術館蔵)
右下の半裸の子供はてんかんの症状を表している。また聖書にもてんかんとみられる例がいくつか書かれている

 

てんかんの概念と歴史

てんかんは古くから存在が知られる疾患のひとつで、古くはソクラテスユリウス・カエサルが発病した記録が残っており[、各国の疫学データでは発症率が人口の1%前後となっている。昔は「子供の病気」とされていたが、近年の調査研究で、老若男女関係なく発症する可能性があるとの見解も示され、80歳を過ぎてから発病した報告例もある。

てんかんは特に全般発作時の激しい全身の痙攣から、医学的な知識がない時代には狐憑きなどに代表される憑き物が憑依したと誤認され、時に周囲に混乱を起すことがあり差別の対象となることがあった。

てんかんの定義

WHOによる定義によるとてんかん(epilepsy)とは『種種の病因によってもたらされる慢性の脳疾患であり、大脳ニューロンの過剰な放電から由来する反復性の発作(てんかん発作、seizure)を主徴とし、それに変異に富んだ臨床ならびに検査所見の表出が伴う』とされている。この定義は「大脳皮質の過剰な発射ではない」、「反復性でない」、「脳疾患ではない」、「臨床症状が合わない」、「検査所見が合わない」ものは「てんかん」から鑑別するべきだという意味が込められている。日本神経学会のてんかん治療ガイドライン2010では『てんかんとは慢性の脳の病気で、大脳の神経細胞が過剰に興奮するために、脳の症状(発作)が反復性(2回以上)に起こるものである。発作は突然起こり、普通とは異なる身体症状や意識、運動および感覚の変化が生じる。明らかな痙攣があればてんかんの可能性は高い』と記載されている。

大脳ニューロンを由来としない不随意運動はてんかんではない。例えば脊髄性ミオクローヌスや下位ニューロン障害の線維束攣縮などはてんかんではない。また経過が慢性反復性でなければならないことから、薬物中毒の離脱期におこる痙攣はてんかんではない。これらの痙攣に関しては急性症候性発作で述べる。

 

てんかん発作およびてんかん症候群の分類

てんかん(epilepsy)が上記定義された病名である。てんかんの一回ごとの発作をてんかん発作(seizureまたはepileptic seizure)という。てんかん発作は痙攣(convulsion)であることが多い。痙攣とは全身または一部の筋肉の不随意かつ発作的収縮を示す症候名である。不随意運動のミオクローヌス、他の症候では失神との鑑別が必要な症候である。痙攣(convulsion)は必ずしもてんかんではない。例えば何らかの誘因がある発作、1回だけで反復のない孤立発作、急性の全身疾患や頭部外傷直後などに関連して起こった急性症候性発作ではてんかんとは診断されない。誘因のある発作の代表例がラム発作といわれるもので、アルコール中毒患者が風邪をひき、飲酒をやめたためおこる発作である。これらの発作は皮質機能が一過性に障害されたときに起こる正常脳の自然な反応として考えられている。何らかの誘因する原因、機会がないにもかかわらず反復して2回以上かそれ以上起こったてんかん発作があってはじめててんかんと診断することができる。

てんかん症候群という言葉は毎回随伴して起こる徴候、症状の組み合わせや病因、誘因因子、発症年齢、重症度および慢性化傾向などに特徴づけられる症候群である。脳波・臨床症候群(Electroclinical syndrome)とも言われ、若年ミオクロニーてんかんやWest症候群Lennox-Gastaut症候群などが有名である。

国際抗てんかん連盟(ILAE)から1981年度てんかん発作型分類と1989年度てんかん、てんかん症候群国際分類がよく普及している。てんかん発作型分類は2006年度に改訂され、てんかん、てんかん症候群国際分類は2010年度に改訂されたが新分類普及は遅れている。分類に実際に関してはてんかん治療ガイドライン2010の外部リンクを参照とする。

 

 

 

1981年度ILAEてんかん発作型分類[編集]

この発作型分類は発作症状と脳波所見の忠実な対比から成り立つ。この分類では発作型および脳波変化が一側半球の部分に局在する部分発作(partial seizures、近年は焦点性発作、focal seizureともいう)と臨床症状が最初から両側半球が巻き込まれたと考えられる全般発作(Generalized sezures)に分類される。部分発作(焦点性発作)はさらに意識が障害されない単純部分発作と意識障害がある複雑部分発作、さらに部分発作から全般性強直間代発作に進展する二次性全般化の3種類に分類される。全般発作は最初から両側半球巻き込まれた症状のみられる発作であり、欠神発作、ミオクロニー発作、間代性発作、強直性発作、強直間代性発作、脱力発作に分けられる。

1989年度ILAEてんかん、てんかん症候群分類[編集]

1989年度のILAEのてんかん、てんかん症候群および関連発作性疾患の国際分類は1985年度の分類を改定したものである。発作分類が「現象の記載」であるのに対しててんかん、てんかん症候群分類は「概念の規定」であるという考え方で作成された。四分法分類を特徴としている。てんかん発作が部分発作である局在関連(部分、焦点)てんかん、最初から全般性発作をもつ「全般てんかん」に二分される。もうひとつの二分法は脳腫瘍など病因の明確なてんかんを症候性てんかん、遺伝素因が想定され年齢依存性がみられる以外に病因がみあたらないてんかんを特発性てんかんと区分している。特発性てんかんはおそらくチャネル病ではないかと考えられている。症候性と推定されるものの現時点では病因が特定できないてんかんを潜因性と区別されることもあるが曖昧な概念であり用いられない傾向がある。

四分法分類であるため特発性てんかんは全般性てんかんだけではなく部分てんかんもあり、症候性てんかんも部分てんかんと全般性てんかんがある。この4分類では症候性部分てんかん以外は原則的に年齢依存性に発病する。局在関連てんかん(部分てんかん)を示唆する徴候には病因となるような既往歴、前兆、発作起始時、発作中の局所性運動ないし感覚徴候、自動症などがある。ただし欠神発作でも自動症が認められることがある。特発性全般てんかんでは25歳以上での発症は稀であり、他の神経症状は認められない。これを示唆する徴候は小児期(思春期前まで)の発症、断眠やアルコールでの誘発、起床直後強直間代発作あるいはミオクロニー発作、他に神経症候がない発作型である失神発作、脳波で光突発反応、全般性の3Hz棘徐波複合あるいは多棘徐波複合などがある。症候性全般性てんかんを示唆する徴候は非常に早い発症、頻回の発作、発症前からの精神遅滞や神経症候、神経症状の進行や退行、広汎性の脳波異常、器質的脳形態異常などがある。

局在関連てんかんと全般てんかんという分類はペンフィールド1954年の著作にさかのぼることができる。ペンフィールドはてんかん発作分類を焦点性大脳発作、中心脳発作、大脳性発作に分類し、これらの発作が症状としておこる疾患をてんかんと定義した。中心脳系とはペンフィールドにより提唱された両側脳半球を対称性に結合し脳機能を統合する構築をいい、高位脳幹で視床中脳をふくむ構築とされ、現在の解釈では脳幹賦活網様体から視床に至るヒトの覚醒に関与する部位と考えられている。中心脳発作という用語自体はてんかん発作国際分類には残されていない。てんかん、てんかん症候群分類は抗てんかん薬の第一選択の目安をつけるのに重要である。

てんかん発作の症状

部分発作

部分発作では大脳ニューロンの過剰放電が起こる部位(発作焦点)に応じて大脳皮質機能局在に基づいた症状がおこる。運動発作、感覚発作、自律神経発作や精神発作が知られている。意識障害を伴わない部分発作を単純部分発作、側頭葉などに発作焦点をもち意識障害を伴う部分発作を複雑部分発作という。発作焦点が前頭葉皮質の運動領野にあると部分発作として痙攣が生じうる。

単純部分発作

単純部分発作は焦点局在部位によって、運動徴候をともなうもの自律神経症状をともなうもの体性感覚症状あるいは特殊感覚症状を伴うもの精神症状を伴うものに分類される。一次運動野(中心前回)に発作焦点がある場合は対応する片側顔面、上枝、下肢に痙攣が生じる。間代性痙攣は筋の過剰な収縮と弛緩をある程度規則的に反復するガクガクとした痙攣である。過剰筋収縮が持続し、肢を伸展、即ち突っ張るような、あるいは屈曲位を持続するのが強直性痙攣である。強直性痙攣から間代性痙攣に移行するのが強直間代性痙攣である。発作焦点から始まった局所的な大脳ニューロンの過剰放電が一次運動野にそって波及すると、例えば顔の片側に始まった痙攣が同側の手指から前腕、上腕と波及していくことがあるジャクソンマーチという。痙攣した後に痙攣した肢が一過性に麻痺することがありトッドの麻痺という。前頭葉眼球運動野に発作焦点がある場合は眼球、頭部が病巣の対側に回旋するような向回発作が生じる。また補足運動野に発作焦点があると焦点と対側の上枝を伸展挙上しこれを見上げるように眼球と頭部をむける姿勢発作が起こることがある。

 

 

運動発作名

発作焦点

焦点性運動発作

一次運動野

Jackson型発作

一次運動野

向回発作

前頭葉(側頭葉、頭頂葉)

姿勢発作

補足運動野

音声発作

補足運動野

 

感覚発作名

発作焦点

体性感覚発作

一次体性感覚野

視覚発作

後頭葉

聴覚発作

側頭葉聴覚野

嗅覚発作

側頭葉内側

味覚発作

側頭葉内側

回転性めまい発作

頭頂・側頭葉移行部

 

 

 

その他、側頭葉内側を発作焦点とする自律神経発作、側頭葉を焦点とする精神発作が知られる。自律神経発作は上腹部不快感、嘔気、嘔吐、発汗、立毛、頻脈、徐脈などの自律神経症状をきたす発作であり多くは大脳辺縁系のてんかん焦点に起因する。精神発作は既視感、未視感、恐怖感、離人感などの多彩な症状がある。側頭葉のてんかん活動に起因すると考えられている。精神発作は単純部分発作単独で出現することはむしろ稀であり大部分は複雑部分発作の最初の症状として出現する。

単純部分発作の発作時脳波は対応する皮質機能局在領野に始発する局在性反対側性発射であるが頭皮上から常に記録できるとは限らない。発作発射(seizure discharge)は棘波の律動的発射の場合もあり、それより遅い種々の周波数の突発性律動波であることもありうる。臨床上単純部分発作であっても発作時あるいは発作間欠時に脳波上に焦点性突発波がみられない場合は少なくない。単純部分発作の間欠期の脳波は簡単にいうと局在性反対側発射である。

正常な脳が何故、てんかんを起こさないのかという問いかけに対して、2007年現在、薬理学では次のような解答が出されている。正常な中枢神経にはニューロンのシグナル活動を微調整する機構が備わっている。それはイオンチャネル不応期GABA作用性の介在ニューロンによる周辺抑制という機構である。

部分発作が発生するには電気活動の亢進による細胞レベルでの発作開始周辺ニューロンとの同期脳の隣接領域への伝播という3つのプロセスがある。発作開始時はある一群のニューロン内部で発作性脱分極性変位(PDS)がおこる。この脱分極は200msに及び、これが発生するとニューロンは活動電位を非常に早く連続的に発生するようになる。局所的な放電の場合、周辺抑制のため焦点に閉じ込められた放電が無症状に終わる。周辺抑制を乗り越えるにはGABA抑制作用の低下、ニューロン発火の増加による細胞外カリウム濃度の上昇、NMDAチャネルの開口などが考えられている。周辺抑制を乗り越えると同期放電が出現し症状が出現する。この時の同期放電が十分に強いと隣接領域へ同期発火が伝播する。この伝播が前兆として知覚される。そして、皮質領域を結び付けるU fiber、視床皮質投射線維を介して全般化することがある。

周辺抑制が認められる場合は発作は起こらないと考えられている。これらの機構が破綻(はたん)することにてんかんの原因があると考えられており、実際一部のてんかんではナトリウムチャネルの異常が指摘されている。

複雑部分発作

複雑部分発作は意識障害を伴い、あとに健忘を残す発作である。単純部分発作ではじまり、途中から意識障害を起こす場合と最初から意識障害を伴う場合がある。精神運動発作とほぼ同義であるが一部重ならない点もある。複雑部分発作はふつうは側頭部あるいは前頭、側頭部の皮質、皮質下領域(嗅脳、辺縁系を含む)の一側性または両側性の損傷によっておこる。側頭葉てんかんとの関連が重要である。

患者は発作中に話しかけても応答することはできない。発作の持続時間は23分程度である。多少なりともまとまっているものの、適切な目的性を欠く一連の動作、表情、行動などが不随意的、無意識に生じることがあり自動症とよばれる。代表的なものは、舌なめずりや舌打ち、もぐもぐと口を動かす、ごくんと飲み込むなど口部自動症である。その他、顔や身体をなでたり、こすったり、衣服をまさぐったり、手をもんだりなどの身ぶり自動症もある。自動症は複雑部分発作中あるいは発作後もうろう状態に認められ、患者本人はその記憶がないか、あっても断片的、部分的である。てんかん活動が基底核に伝播することで発作起始側と対側上肢にジストニア肢位をきたす。約80%は発作起始焦点が側頭葉にあるが、隣接部位から側頭葉へのてんかん活動の伝播でも生じる。前頭葉に起始焦点のある複雑部分発作は側頭葉起始発作と比較すると発作持続時間が短い、激しい自動症をきたす、発作頻度が多いなどの特徴がある。

側頭葉てんかんでは発作発射が側頭葉皮質、島などの皮質から辺縁系(海馬、扁桃体)にいたる投射路を限局性に侵襲すると単純部分発作、すなわち精神発作(錯覚、幻覚)などが出現する。これを外側側頭葉発作という。発射が辺縁系に広がると複雑部分発作とくに自動症を伴うことになる。これを扁桃体・海馬発作という。複雑部分発作の発作間欠期の脳波は一側性あるいは両側性の、ふつうは非同期性の焦点があり、焦点はふつうは側頭部あるいは前頭部に出現する。発作時脳波は一側性の、あるいは両側性の発射で広汎性あるいは側頭部、側頭・前頭部に焦点性に出現する。

二次性全般化[編集]

二次性全般化発作は部分発作から二次的に全般化した発作であり、主に現れる発作は強直間代発作である。二次性全般化発作は単純部分発作から強直間代発作が起こる場合、複雑部分発作から強直間代発作が起こる場合、単純部分発作から複雑部分発作を経て強直間代発作となる場合の3パターンが考えられる。単純部分発作か複雑部分発作か明確に区別できない場合もある。

全般発作[編集]

全般発作は最初の臨床的徴候が、発作開始時に両側の半球が侵襲されていることを示す発作である。意識は障害されることがあり、この意識障害が発作開始時の症状であることもある。運動現象は両側性である。発作時脳波像は発作開始時両側性であり、これはおそらく両側半球に広汎に広がっているニューロン発射を反映している。全般性てんかんはてんかんの国際分類では特発性で発症が年齢依存性のもの、潜在性あるいは症候性のもの、症候性のものの3つに分かれる。特発性で発症が年齢依存性のものには欠神てんかん、若年欠神てんかん、ミオクロニーてんかん、大発作てんかんなどが含まれる。症候性のものにはウエスト症候群レノックス・ガストー症候群、ミオクロニー・失立てんかん、ミオクロニー欠神てんかんが含まれる。てんかん発作の国際分類では全般発作は欠神発作(定型、非定型)、ミオクロニー発作、間代発作、強直発作、強直間代発作、失立発作に分類できる。本稿ではてんかん発作の分類に従い解説する。

欠神発作[編集]

欠神発作の純粋な型は突然始まり数秒から30秒ほど持続し、突然終了する。それまで行なっていた諸活動の中断、空虚な凝視、場合によっては短時間の眼球上転が認められる。患者が話をしていれば話しは中断され、歩行中ならばその場に立ちすくみ、食事中ならば食物が口に運ばれる途中で止まる。発作中に話しかけると場合によってはぶつぶつとつぶやくことはあるが普通は応答できない。欠神発作には6つの亜型があり、意識障害だけを示すもの、意識障害に自動症をしめすもの、ミオクロニー要素を伴うもの、脱力要素をもつもの、強直要素をもつもの、自律神経要素をもつものが知られている。各亜型は単独も複合もある。いずれの発作型でも普通は発作中は規則正しい左右対称性の3Hz棘徐波複合が出現する。24Hz棘徐波のことや多棘徐波複合のこともある。異常悩波は両側性である。発作間欠期はふつう基礎律動は正常であるが、棘波、棘徐波のような突発波が出現することもある。脳波異常は賦活されやすく過呼吸で容易に誘発される。また睡眠やPentetrazolbemegrideでも誘発できる。非定型欠神発作は定型欠神発作よりも顕著な筋緊張変化を伴うことが多く、発作の起始、終了が突然ではないという特徴がある。脳波も定型失神発作よりも多彩である。小学生では授業中の集中力の低下と間違われることもある。

 

ミオクロニー発作ミオクロニー発作はミオクロニーけいれんと間代発作に分けられる。

ミオクロニーけいれん

ミオクロニーけいれんは、突然起こる短時間の衝撃様の筋収縮で全般性のこともあり、顔面、体幹、1つあるいはそれ以上の肢、個々の筋あるいは筋群に限局することもある。この発作は急速に反復することも比較的孤立して出現することもある。ふつうは意識を失わないがときに12秒の意識消失を伴うことがある。ミオクロニーけいれんは単独で起こることもあるが、同時に全般強直間代発作をもつものも多い。ミオクロニーけいれんの発作時脳波としてふつうは多棘徐波あるいは時に棘徐波や鋭徐波が出現する。発作間欠時にも発作時と同様に突発波が認められるため、脳波上突発波が認められても発作が起こっているとは限らない。ミオクロニーけいれんは外的刺激によって誘発されやすい。突然の音響、睡眠で誘発されるが光刺激に対して特に敏感である。ミオクロニー発作をおこすてんかんには乳児良性ミオクロニーてんかん、若年ミオクロニーてんかん、ミオクロニー欠神てんかん、ミオクロニー失立てんかん、乳児重症ミオクロニーてんかんが知られている。乳児良性ミオクロニーてんかんは12歳に起こり睡眠初期に全般性棘徐波の短い群発が認められる。若年ミオクロニーてんかん(衝撃小発作)は思春期に起こり発作間欠期、発作時は周波数の速い全般性棘徐波あるいは多棘徐波である。光過敏性であることが多い。ミオクロニー欠神てんかんでは小児欠神てんかんと同様な両側同期性、対称性の3Hz棘徐波が出現する。ミオクロニー失立てんかんでは最初は47Hzの律動の他は正常であるが不規則性棘徐波あるいは多棘徐波を示す。乳児重症ミオクロニーてんかんでは全般性あるいは一側性の間代発作、ミオクロニーけいれんをもち、脳波は全般性棘徐波、多棘徐波、焦点性異常、光過敏性を示し極めて難治性である。

間代発作

間代発作はミオクロニーけいれんが律動的に反復するものである。発作時脳波は10Hz以上の速波と徐波、場合によっては棘徐波であり発作間欠期には棘徐波あるいは多棘徐波が出現する。

ミオクローヌスてんかん

ミオクロニー発作と区別が必要な用語である。初期はミオクロニー発作と区別がつきにくいがミオクローヌスてんかんは症候群であり、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症の若年型がこの症候群を呈する。ミオクロニーけいれん、全身性けいれん、認知症などを示す。

強直発作[編集]

数秒程度の比較的短時間の強直状態が起こる発作であり、意識はふつう障害されるが回復ははやい。ふつうは眼球や頭部が一側に偏位し、胸部の強直けいれんで呼吸が停止することがある。乳幼児期てんかんに多く、代表疾患はウエスト症候群とレノックスガストー症候群である。ウエスト症候群は発作時は低振幅速波ないし脳波の脱同期、間欠期はヒプスアリスミアが認められる。レノックスガストー症候群は発作時は20Hz前後の速波性同期波や漸増律動が認められ間欠期は鋭徐波が多少とも律動的な発射で出現する。

強直間代発作[編集]

強直間代発作にて特発性全般性てんかんによるものと症候性全般性てんかんによるものとがある。部分発作が発展して二次的に全般化して強直間代発作を示すこともある。従来は部分発作の二次性全般化による発作も強直間代発作とし、部分発作の症状を前兆として扱っていたが、国際分類では二次性全般化はあくまで部分発作として扱い、最初から全般性にはじまる強直間代発作と区別している。患者の一部は発作に先立ち形容しがたい予告を体験するが、大部分の患者ではなんら予告症状なしに意識を失う。突然急激な強直性筋収縮が起こり、地上に倒れ、舌を噛んだり、失禁したりする。チアノーゼが起こることもある。その後間代けいれん段階に移行する。間代けいれん後、筋弛緩し意識障害となる。発作時は10Hzあるいはそれ以上の律動波が強直期の間は次第に周波数を減じ振幅を増やし、間代期になると徐波によって中断されるというパターンをとる。発作間欠期には多棘徐波あるいは棘徐波、鋭徐波発射が認められる。全般強直間代発作だけを持つ患者では他の発作型に比べて突発波の出現率が最も低く、1952年のギブスの検討では安静時22%、睡眠時46%にしか突発波は認められなかった。

脱力発作[編集]

脱力発作とは筋緊張の突然の減弱が起こるものである。部分的で頭部が前にたれ下顎がゆるんだり、四肢の一つがだらりとしたりする場合もある。すべての筋緊張がカタレプシー様に消失して地上に倒れてしまったりする。これらの発作が極めて短い時は転倒発作という。意識は消失するとしても短い。持続が長い脱力発作では律動的、連続的に弛緩が進行するという形で進行する。欠神発作の症状として起こることもある。発作時脳波は多棘徐波、平坦化あるいは低振幅速波が出現する。発作間欠期は多棘徐波が出現する。

てんかんの診断[編集]

てんかんの診断は「てんかんか否かの診断」、「てんかん発作型の診断」、「てんかん症候群の診断」3ステップからなる。

てんかんか否かの診断[編集]

てんかんの症状は痙攣を含めた一過性の神経症状である。「てんかんか否かの診断」では意識障害をきたす多くの疾患、転倒、外傷、一過性の運動、感覚症状、低血糖、多くの痙攣をきたす疾患の鑑別が必要である。意識消失、痙攣発作として受診する患者の3大疾患がてんかん発作、失神、非てんかん性心因発作でありfitsfaintfunnu turnsの頭文字から3Fといわれる。

 

失神

失神では意識消失が短く、通常は1分以上続くことはない。低血圧が原因の場合は目の前がだんだんと暗くなるといった特徴的な前兆が認められる。意識の回復が速やかで発作後のもうろう状態、頭痛、筋痛がない。舌咬、尿失禁がない。不整脈によるアダムス・ストークス症候群を疑った場合は心電図や心臓超音波検査が必要である。

 

非てんかん性心因性発作

ヒステリー発作、偽痙攣(pseudoseizure)、心因性発作などということもある。心因性発作はてんかん患者の535%のも認められるとされている。薬剤無効の発作の35%ていどが心因性発作ともいわれている。痙攣と心因性発作の鑑別点を以下にまとめる。ある発作が心因性と診断できたとしても同一個人のすべての発作が心因性と診断することはできないため注意が必要である。首の規則的な反復的な左右への横ふり、発作の最中に閉眼している場合、発作中に泣き出す場合、発作出現に先行して1分以上の閉眼や動作停止を伴う擬似睡眠状態が出現する場合は心因性発作の可能性が高い。また発作後血中のプロラクチン濃度が上昇している場合は痙攣であった可能性がある。偽痙攣では発作時に脳波が正常である。

痙攣

心因性発作

頭部の動き

しばしば肩峰に引っ張られるように動く

しばしば左右にふる(中央を超えて左右にふる)

四肢の動き

通常は同調率で動く

しばしばバラバラに動く

骨盤の動き

通常ない

しばしば前後に動く

瞳孔

散大、対光反射消失

正常

開眼操作に対して

通常抵抗なし

しばしば抵抗する

頭位変換眼球逃避

なし

あり

アームドロップテスト

通常回避なし

通常回避

腹筋の緊張

あり

なし

開口していることが多い

ぎゅっと閉じている

発作中に話す

絶対にない

しばしばある

痙攣後もうろう状態

あり

しばしばなし

痙攣時の記憶

なし

しばしばあり

舌咬症

舌縁でみられることが多い

舌先で多い

尿失禁

ありうる

ありうる

便失禁

ありうる

通常なし

急性症候性発作

急性症候性発作(acute symptomatic sezure)はてんかん発作ではあるが慢性疾患であるてんかんとは異なる。国際抗てんかん連盟(ILAE)では「急性症候性発作とは急性全身性疾患、急性代謝性疾患、急性中毒性疾患、急性中枢神経疾患(感染症、脳卒中、頭部外傷、急性アルコール中毒、急性アルコール離脱など)と時間的に密接して関連して起こる発作である」と定義している。急性疾患と同時に痙攣が一回だけ起こることが多いが、急性疾患が再発した場合は痙攣が再発したり重積となったりする。抗てんかん薬の内服が長期に及ぶことは少ない。すなわち、原因となる状態が改善すれば発作は起こらなくなるため抗てんかん薬の治療は不要となる。脳炎、脳外傷、脳出血など急性症候性発作および後遺症としてのてんかん両者を引き起こす可能性がある疾患ではいつまで治療するべきがの判定が難しい。

原因

脳血管障害

脳血管障害から7日以内に起こる発作

中枢神経系感染症

中枢神経系感染症の活動期に起こる発作

頭部外傷

頭部外傷から7日以内に起こる発作

代謝性

電解質異常、低血糖、非ケトン性高血糖、尿毒症低酸素脳症子癇など、全身性疾患に関連して起こる発作

中毒

麻薬や処方薬、アルコールなど

離脱

アルコールや薬物の離脱時

頭蓋内手術後

頭蓋内脳外科手術の直後に起こる発作

脱髄性

急性散在性脳脊髄炎の急性期に起こる発作

多因性

同時に起きたいくつかの状況と関連した発作

一過性脳虚血発作(TIA)

一過性脳虚血性発作では局所性の神経脱落症状を伴うのが通常なので鑑別は容易である。しかし、TIAの運動症状として不随意運動を来す場合は鑑別が難しいこともある。トッドの麻痺と脳梗塞の麻痺の鑑別は脳波、MRIで鑑別する。

一過性全健忘

過呼吸発作

熱性痙攣

熱性痙攣は通常は生後3ヶ月から5歳までの間に発熱に伴って生じるものであり、中枢神経の感染に基づくものではない。短期間の単発性の熱性痙攣がほとんどであり、医療機関受診時には治っていることがほとんどである。 発熱と痙攣が持続する場合は髄膜炎の可能性もあり髄液検査が必要となる。

 

てんかん発作型の診断

発作型の診断は1981年度ILAEてんかん発作型分類で行われる。てんかん発作を医師が診察室で観察できることは極めて稀である。そのため病歴と脳波を中心に発作型の診断をすることになる。

本人からの病歴

単純部分発作や全般発作でもミオクロニー発作では意識が保たれているので患者が発症の症状を通常はきちんと述べることができる。感覚発作、自律神経発作などの多くは二次性全般化するため、部分発作の症状を前兆(アウラ)として感じる。前兆に関しては腹部にこみ上げてくるような感じや、以前見たことのある風景が勝手に頭にうかぶといった症状を改めて問いただすと明らかになる場合も多い。すなわち、前兆を当たり前と思い述べない患者が一定数存在する。既往歴としては外傷、脳炎、脳血管障害など既往、熱性痙攣の有無が特に重要である。すでにてんかんと診断されている場合は発症年齢、持続時間、回数、症状、局所徴候(半身痙攣、トッド麻痺など)、治療経過などを聴取する。てんかんの家族歴は特に強調されているが遺伝歴のあるてんかんは約1割程度である。

 

目撃者からの病歴

どのような発作であったのか目撃者から述べてもらう。強直間代発作は通常6090秒であることがビデオ脳波モニター検査で明らかになっている。はじめててんかん発作を目撃した人は12分間の発作を5分位に感じていることも珍しくない。可能ならば発作を録画して医療機関に提出する。強直間代性痙攣の経過を示す。ますは意識消失に伴う突然の痙攣がおこる。これは開口、開眼と眼球上転、上枝は外転挙上し肘は屈曲位で前腕は回内する。次に強直相であり、通常持続は1020秒ほどである。四肢は伸展し、呼吸筋の強直により、肺からの空気が閉鎖した声帯を通って強く呼出される際に叫び声をあげることがある。呼吸停止とチアノーゼが認められることがある。間代相の持続は30秒前後が多い。間代性痙攣の感覚は次第に長くなり終焉する。咬舌はこの時期におこる。自律神経症状として頻脈、血圧上昇、瞳孔散大、流涎、発汗過多がみられる。深い吸気をもって間代相は終わる。間代相がおわると回復期になる。このとき呼吸は再開し、対光反射も回復する。痙攣後の意識障害が持続する。

てんかん症候群の診断

年齢、てんかん発作型、検査所見をもとにてんかん症候群の診断はされる。ウェスト症候群、レンノックス・ガストー症候群、小児良性部分てんかん、小児欠神てんかん、若年性ミオクロニーてんかん、内側側頭葉てんかんなどが有名である。

てんかん重積(status epilepticus)

国際抗てんかん連盟(ILAE)によるとてんかん重積とは「発作がある程度の長さ以上に続くか、または短い発作でも反復しその間の意識の回復がないもの」と定義されている。実際には510分程度発作が持続するか、2回以上の発作が起こりその間に意識が完全に回復しない場合にてんかん重積と診断している。動物実験では発作が5分続けば脳損傷が起こるとされているため早期治療が重要である。治療抵抗性のものが34割あり、1ヶ月以内の死亡率は739%である。てんかん重積には痙攣性発作が持続する全身性痙攣性てんかん重積(generalized convulsive status epilepticusGCSE)と非痙攣性てんかん重積(non convulsive status epilepticusNCSE)が知られている。

てんかん重積の治療ではますは発作(痙攣、意識障害、行動異常)をとめる。発作が治まれば維持療法をおこなう、発作が治まらなければ次の治療に移行するという流れになる。てんかん治療ガイドライン2010ではフローチャートでまとめられている。

 

気道確保、酸素吸入

てんかん重積は放置すると低酸素脳症をおこすため、まずは気道確保と酸素投与が必要である。

初期薬物投与

末梢静脈確保ができない場合はジアゼパム10mgの筋注やジアゼパム10mg注腸、ミダゾラム10mgの口腔粘膜投与や点鼻などが行われる。血管確保ができているのならばビタミンB1(アリナミンFなど)100mg投与した後に50%ブドウ糖50mlの投与を行う。その上で成人ならばジアゼパム10mgを呼吸抑制に注意しながら2分くらいかけて静注する。小児では0.30.5mg/Kg程度の投与である。ジアゼパムは生理食塩水やブドウ糖に混ぜると混濁するため希釈せずそのまま静注する。510分で発作が治まらないようならばジアゼパム10mgの追加投与またはフェノバルビタールかミダゾラムの静注を行う。ジアゼパム単独の発作抑制時間は20分程度とされているため、フェニトイン(アレビアチンなど)やホスフェニトイン(ホストイン)を22.5mg/Kgの投与を行う。

全身麻酔療法

初期薬物投与を行なっても治まらなければ脳波をモニタリングしながら全身麻酔療法を行う。バルビツール酸系薬ではチオペンタールチアミラールが好まれる。ベンゾジアセピン系であるミダゾラムのほか、プロポフォールも用いられる。てんかん重積の34割が全身麻酔療法が必要とされる。

非痙攣性てんかん重積[編集]

非痙攣性てんかん重積も、全身痙攣性てんかん重積と同じく意識障害や異常行動が一定期間以上続くか2回以上の発作の間に意識が完全に回復しない場合にそのように診断するが、脳波上で発作波が持続していることを確認することが重要である。発作の出方は欠神発作重積、単純あるいは複雑部分発作重積、潜在性てんかん重積である。基礎疾患はてんかん以外に脳炎、血管障害、脳腫瘍、代謝性脳症でも発症するの。脳波異常が持続している場合は全身痙攣性てんかん重積と同様に治療を行う。

てんかんの検査[編集]

脳波[編集]

脳磁図[編集]

画像検査[編集]

CTMRI拡散テンソル画像PETシンチグラフィNIRS脳計測装置SPECTMGEなどがおこわなわれる。

血液・尿検査[編集]

血液・尿検査もてんかんの診断に欠かせない検査である。

 

医療機関での主な対応

まず、患者の前に来たとき、痙攣が持続しているのかしていないのかを確認する。痙攣発作はたいていは数分で消失するが、なかには数十分続く痙攣重積というものもある。痙攣中は呼吸が満足にできないので、持続すると低酸素脳症を起こす恐れがある。そのため痙攣を止める必要がある。痙攣発作中の患者にはまずBLSACLSのアルゴリズムに従い救命を行う。低血糖心室細動の診断もこの時に行う。低血糖ならば50%ブドウ糖20ml2A(40ml)を静注し、心室細動ならば電気的除細動を行う。次に考えるのはヒステリーによるもの(偽痙攣という)であるかだが、これは経験的に診断することが多い、疑わしければアームドロップテストなどを行うこともある。偽痙攣が否定されれば真性痙攣の治療となる。

ごくまれに、ホリゾン20mg投与しても痙攣が治まらない場合がある。この場合はアレビアチンの点滴を開始する。これでも止まらなければテグレトール50100mg1A500mg含まれているので注意)静注したり、フェノバール(100mg/A)1A筋注したりすることもある。これでもダメなら、気管挿管し、低酸素を防ぎ専門医に相談するべきである。アレビアチン(フェニトイン)は2A以上でないと効果がないと言われている。この薬はナトリウムチャネルが不活化状態から回復する頻度を減らす作用がある。よく用いられる抗てんかん薬であるデパケン(バルプロ酸)もこの作用を有しているがこちらはカルシウムチャネルにも作用する。

発作が止まったら原因検索と外傷検索を行う。採血を行い血算(血球算定)、生化学検査を行い、アルコール濃度や抗てんかん薬血中濃度を測定する。また、動脈血液ガスにて代謝性アシドーシス(筋肉の収縮で嫌気性呼吸がおこるため)の有無を確認する。頭部CTや尿中薬物検査も行う。これらの検査で異常があれば症候性てんかんと診断され、異常がなければ真性てんかんである。

診断ができればそれに基づいて治療を行うことができる。原則として初発の痙攣では入院による精査が望ましい。てんかんで最も怖いのは痙攣後外傷である。危険を感じたらためらわず入院させる。しかし患者の希望によっては後日に脳波検査となる。てんかんは発作型によって治療薬が異なるのだが、この場合は抗てんかん薬の予防投与となる。それ以外の真性てんかんで受診となるケースとしては、コントロール不良の場合があり、これは非常に危険なので入院精査が必要である。怠薬の場合はアレビアチン投与後、服薬を再開する。今までコントロール良好であったのに痙攣した場合は、抗てんかん薬の増量を行い、かかりつけ医に受診させるという方法もある。症候性てんかんの場合は原因疾患を治療すれば完治できる可能性がある。可能ならば原疾患を治療し、抗てんかん薬の投与そして診断に合わせて後日専門医を受診させればよい。

てんかん発作の誘因[]

てんかん発作の誘因となるものが以下のように知られている。痙攣などてんかん発作は条件が重なればてんかん患者でなくとも起こりえる。またてんかん発作後はこのような誘因をできるだけ除去するのが重要と考えられる。

光刺激

1946 W. Grey Walter によって科学雑誌『Nature』で発表され、1秒間に 20-50 回程度の光の明滅で発生する。1997にテレビの子供向けアニメーション番組『ポケットモンスター』の放送中に激しい光の明滅効果により、多くの学童が光過敏性発作を起こし社会問題に発展した。詳細はポケモンショックを参照。

飲酒

大量飲酒でなくとも酔いから覚める際にてんかん発作は起こりやすくなる。またアルコール常飲者が断酒するとてんかん発作が起こりやすい。

身体的ストレス

過度の疲労、睡眠不足、感染症など急性疾患でもてんかん発作は起こりやすくなる。仕事以外にも、スポーツを行った事により起こすこともある。

心理的ストレス

発作が起るのでは等の精神的不安感、転校やクラス替えによる環境変化、勤務先での異動や仕事の内容など変化、旅行や電車・車移動における環境変化など他人の目からみれば些細なことでさえ発作を起こす場合がある。

他者の発作をみて誘発

月経周期に関連したホルモンの変動

 

薬剤

てんかん発作閾値を下げる薬剤がいくつか知られている。アルコール、バルビツール酸系薬、ベンゾジアセピン系薬物の離脱時、抗うつ薬(イミプラミン、アミトリプチン、軽微ながらSSRI)、抗精神病薬(クロルプロマジン)、気管支拡張薬(アミノフィリン、テオフィリン)、抗菌薬(カルバペネム系抗菌薬、抗菌薬とNSAIDSの併用)、局所麻酔薬(リドカイン)、鎮痛薬(フェンタニル、コカイン)、抗腫瘍薬(ビンクリスチン、メソトレキセート)、筋弛緩薬(バクロフェンなど)、抗ヒスタミン薬、ステロイドなどがてんかん発作閾値を下げるとされている。

難治性てんかん

てんかん発作を持つ人でもその7割以上は発作が完全に抑制されており、とくに問題のない健全な生活を営むことが出来る。適切な抗てんかん薬23種類以上の単剤あるいは併用療法で、かつ十分量で2年以上治療しても発作が1年以上抑制されず日常生活に支障がある場合は難治性てんかんと考える。Kwanらの報告では最初に使用した抗てんかん薬で発作が抑制される患者が47%、2剤目または3剤目になると13%、2剤併用では3%とされている。このことから23剤で投与効果がないときは難治性てんかんと考える。

治療

てんかんの治療のガイドラインとしては日本神経学会のてんかん治療ガイドライン2010のほか日本神経治療学会の高齢発症てんかんのガイドライン、日本てんかん学会のガイドラインが知られている。てんかん治療ガイドラインはてんかんを専門としない一般医を対象としているのに対して日本てんかん学会のガイドラインはてんかん専門医レベルを対象としている。主にのてんかん治療ガイドライン2010を念頭に記載する。

 

薬物療法

急性の脳損傷、代謝性要因、炎症、中毒、薬剤性などによる原因、誘因が明らかな急性症候性発作の再発率は310%程度と低く、原因、誘因を避ける事により経過観察が可能なケースも多い。誘因がはっきりしないてんかん発作は再発率が3050%と高く、各々の症例に応じて治療開始を検討する。初回発作後5年以内の再発率は35%であるが2回目の発作後1年以内の再発率は73%となるため一般にてんかんは2回以上の発作後に治療を開始する。個発発作でも神経学的異常(例えばtodd麻痺)、脳波異常ないしてんかんの家族歴陽性の場合は再発率が高くなるため治療開始を考慮する。また高齢者は初回発作後の再発率が6690%と高く、初回発作後に治療を開始することが多い。初回発作、再発1回目、再発5回目での治療開始でその後2年までは発作抑制率に若干の差があるが長期的にみると差はない。

抗てんかん薬の選択を左右する因子は発作型、てんかん症候群、年齢、性別、併存疾患、抗てんかん薬の効果と副作用、ガイドラインでの位置づけ、費用、保険適応などによって決定する。

部分発作

発作型

第一選択

第二選択

単純部分発作

カルバマゼピン、ゾニサミド、フェニトイン

バルプロ酸、クロナゼパム、トピラマート、ガバペンチン、フェノバルビタールなど

複雑部分発作

カルバマゼピン、ゾニサミド、フェニトイン

バルプロ酸、クロナゼパム、トピラマート、ガバペンチン、フェノバルビタールなど

二次性全般化

カルバマゼピン、ゾニサミド、フェニトイン

バルプロ酸、クロナゼパム、トピラマート、ガバペンチン、フェノバルビタールなど

部分発作の第一選択として推奨されるのはカルバマゼピンである。フェニトイン、ゾニサミド次いでバルプロ酸が考慮される。新規抗てんかん薬ではラモトリギン、次いでカルバマゼピンと同様にレベチラセタム、次いでトピラマートが推奨されている。

全般発作

発作型

第一選択

第二選択

欠神発作

バルプロ酸、エトスクシミド

クロナゼパム、クロバザム、ゾニサミド

ミオクロニー発作

パルプロ酸、クロナゼパム

ニトラゼパム、クロバザム、ゾニサミド、エトスクシミド

強直発作

なし

ゾニサミド、バルプロ酸、フェニトイン、クロナゼパム

強直間代発作

パルプロ酸

フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、ゾニサミド、クロナゼパム

全般発作抑制効果はバルプロ酸に優位性があるとされている。欠神発作にはエトスクシミド、ミオクロニー発作にはクロナゼパム、強直間代発作にはフェノバルビタールも考慮される。クロバザム、フェニトインも候補になる。症候性全般てんかんではクロナゼパム、ゾニサミドが考慮される。新規抗てんかん薬では強直間代発作ではバルプロ酸に次いでラモトリギン、トピラマート、次いでレベチラセタムが推奨されている。欠神発作ではエトスクシミドに次いで、ラモトリギン、ミオクロニー発作ではバルプロ酸に次いでレベチラセタムが推奨されている。カルバマゼピンやガバペンチンではミオクロニー発作や欠神発作が増悪するため特発性全般てんかんでは使用しないことが多い。

薬物療法の終結

日本てんかん学会では成人てんかんの薬物治療終結のガイドラインを公開している。最低でも2年間以上の発作寛解期の後に断薬や減薬は考慮する。 ポイントしては発作寛解期間の長短のみで断薬の是非を判断してはいけないこと。断薬すれば再発リスクは高まること。再発に関わる危険因子は症候性てんかん、精神神経学的異常、複雑部分発作、ミオクロニー発作、脳波異常などである。再発の可能性が最も高いのは減量中と断薬後1年間である。治療終結の決定は諸要件(特に危険因子の有無と質)を総合的に勘案し、患者ならびに患者家族の意向に尊重して個別に判断するべきである。

 

外科治療

てんかんの治療はかつては内科的治療が主体であったが近年は難治性てんかんに対して外科的治療も積極的に行われるようになった。 画像上明らかになるのは部分切除によって改善が見込める症候性部分発作をおこすてんかんである。難治性であっても特発性全般発作をおこすてんかんは外科的治療の適応とならない場合が多い。てんかんのおよそ1/3が薬物療法によってコントロールされない難治性てんかんである。とくに治療が見込める疾患としては海馬硬化症脳腫瘍、大脳皮質形成障害、脳血管奇形などが原因である場合である。一般的に、てんかん外科には数日間連続して脳波記録を行ったり、頭蓋内脳波を設置して記録できる脳波モニタリングユニットが必要であり、特定の施設で行われている。日本てんかん学会がホームページに施行施設を公表している[2]

手術方法の分類

皮質切除術

てんかん発作を起こしうる大脳皮質を部分的に取り除く事により、てんかん発作の発生を抑制できる。発作を起こす大脳皮質は、頭蓋内脳波モニタリング、MRI画像、脳磁図PETSPECT検査により同定する。同定した部位を切除することで発作の抑制または軽減が期待でき、かつ大脳皮質を切除した事による合併症が、患者にとって容認できうるものと判断された場合に行われる。

脳梁離断術

大脳の左右の連絡する脳梁を分断することにより、発作を消失または軽減させる。発作を起こす大脳皮質が広範だった場合や複数あった場合に適応になりうる。一般的には皮質切除よりも発作が消失する可能性は下がるものの、皮質切除が不適応だった場合にも適応しうる。後述の迷走神経刺激療法との選択をされることが多い。

 

手術療法の対象になりやすいてんかんの原因

海馬硬化症(内側側頭硬化症)

海馬硬化症は側頭葉てんかんの原因となることが多い疾患である。内側側頭葉の神経細胞の脱落とグリオーシスが起る疾患である。CA1を中心にCA3,CA4が硬化するのが特徴であるが海馬に限らず扁桃体など隣接する領域も硬化するため、海馬硬化よりは内側側頭葉硬化の方が名称としてふさわしい。MRIでは海馬の萎縮、内部構造の破壊、T2延長や側脳室下角の拡大が認められる。進行した場合は病側乳頭体、脳弓、側頭葉の非対称性委縮が認められる。内側側頭葉硬化症の場合、腫瘍や限局性皮質異形成などほかの症候性てんかんを起こす異常が認められる場合が多く注意が必要である。正常変異である海馬溝遺残や脈絡裂嚢胞が内側側頭葉硬化と紛らわしい場合がある。側頭葉てんかんでは典型的には胃部の不快感などの前兆の後に自動症を伴う複雑部分発作が生じるのが特徴である。

腫瘍

難治性てんかんのおよそ4%が腫瘍性病変が原因となる。てんかんを合併する腫瘍は側頭葉あるいは皮質、皮髄境界に存在することが多い。胚芽異形成性神経上皮腫(DNT)や神経節膠腫では特にてんかんの合併が多く、その他の腫瘍ではそれよりは少ない。

神経節膠腫

毛様細胞性星細胞腫

大脳皮質形成障害

神経細胞、グリア細胞の増殖、神経細胞の移動、皮質の層構造形成の異常によって生じる大脳皮質の形成障害のことである。神経芽細胞移動障害は病理形態の差から無脳回厚脳回症異所性灰白質多小脳回症裂脳症などと分類されている。

限局性皮質異形成

多小脳回など限局した大脳皮質形成障害と異なり独立した病理学的概念である。軽度の皮質の層構造の乱れから異型細胞が認められるものまで程度は様々である。MRI画像では脳溝、脳回の形成の異常、皮質/白質境界の不明瞭化、皮質の肥厚、皮質および皮質下のT2延長などが特徴とされている。乳児期発症の場合は髄鞘化の進行とともに明らかになる場合があり、繰り返し撮影することが必要である。

片側巨脳症

乳児期に始まる難治性てんかんである。大田原症候群などが有名であり、早期に機能的半球離断術が施行される。片側大脳半球の腫大、皮質の肥厚、脳回の異常が認められる。その他に病側の嗅索、脳幹、小脳の腫大、血管の拡張や患側あるいは両側の小脳foliaの異常などが知られている。拡散テンソルトラクトグラフィでは両側側脳室前角間の異常な白質の線維束が認められる。

皮質結節

その本態は過誤腫である。大脳皮質の脳回から皮質直下に位置する。髄鞘化が未発達な新生児や乳児ではいずれの画像でも高信号に認められる。髄鞘化完成後はT1WIではやや低信号から等信号、T2WIではやや高信号の限局性病変として認められる。

異所性灰白質

多小脳回

小さい脳回を多数認める病態である。顆粒状脳回であるため脳表は平滑にみえ、皮質は厚く、皮髄境界面はでこぼこまたは鋸歯状である。

迷走神経刺激療法(VNS)[編集]

難治性てんかんの治療法として選択できる。保険適応となった[3][4]。パルスジェネレータから、首の左側にある迷走神経に電極を巻き付け、一定の間隔で繰り返し電気刺激を送り、てんかん発作の回数を減らしたり、発作の程度を軽くする[5]

 

てんかん患者として知られる著名人

俳優

ヒューゴ・ウィーヴィング

ダニー・グローヴァー

音楽家

アダム・ホロヴィッツ(ビースティ・ボーイズ

リチャード・ジョブソン(ザ・スキッズ

ニール・ヤング

大江光

沢田泰司(元X JAPAN

イアン・カーティスジョイ・ディヴィジョン - ステージ上で発作を起こすこともあり、自殺の一因になった

 

ジョージ・ガーシュウィン - 多型性神経膠芽腫の最初の徴候として、めまいや短時間のブラックアウトと同時に、焼けたゴムのような臭いがしていたという。腫瘍を取り出す手術を受けたが6か月後に死亡した。

プリンス (ミュージシャン) - 幼少期にてんかん発作のためにいじめを受けた経験があり、1992年の楽曲"The Sacrifice of Victor" には自らのてんかんに触れた歌詞がある。

キース・リチャーズ - 2006年に木から落ちて外傷性てんかんを発症して以降、抗てんかん薬を使用[6]

芸術

エドワード・リア画家 - 子供の時に発症し、姉のジェーンも頻繁な発作に罹っていて早世したことから、遺伝からくるものだったのではないかと推測されている。彼は自身のてんかんを恥じて生涯周囲には隠していたが、自身の日記で各々の発作の様子を記していた。

フィンセント・ファン・ゴッホ (画家)

スポーツ選手

ピート・アレクサンダー(元MLB選手)

バディ・ベル(元メジャーリーグ選手)

トニー・ラゼリ(元メジャーリーグ選手)

フローレンス・ジョイナー陸上選手

作家

フィリップ・K・ディック

フョードル・ドストエフスキー 

ビョルンスティエルネ・ビョルンソンノルウェー国歌の作詞者) - 晩年脳卒中に倒れた後、部分てんかんに罹った。

ギュスターヴ・フローベール[7]

宗教家

ピウス9(第255ローマ教皇

ジャンヌ・ダルク

ギュイヨン夫人(神秘主義思想家)

ジョセフ・スミス・ジュニアモルモン教設立者)

リジューのテレーズカトリック教会聖人

パウロ

アビラのテレサスペインローマ・カトリック教会の神秘主義思想家) - 慢性的な頭痛や一時的ブラックアウトに悩まされ、酷いときには4日間も昏睡状態に陥ることもあったという。

ムハンマド - 側頭葉癲癇が、彼に霊感を与えていた原因の一つである、という分析がある。

エゼキエル預言者

スウェーデンのビルギッスウェーデン聖職者

学者

ソクラテス哲学者

エマヌエル・スヴェーデンボリ科学者政治家神秘主義思想家

カール・グスタフ・ユング精神科医心理学者 - 幼少時、失神を伴う痙攣発作をたびたび起こしていた。[8]

アルベルト・アインシュタイン(理論物理学者[要出典] - 6歳の時に、家庭教師が自宅を訪れた際に発作を起こし、家庭教師に向かって椅子を投げつけた事がある。

南方熊楠博物学者生物学者民俗学者 - 14歳頃の時、精神的な病を発し、18歳の時、授業中にてんかん発作を起こし、明治22427日「夜癲癇発症」と、日記に記している[9]

君主・王族

カリグラ

ミカエル4東ローマ帝国マケドニア王朝皇帝

イヴァン5ロマノフ朝4代のモスクワ大公

ジョンイギリス王子)

ヴェストマンランド公エーリクスウェーデン王子)

フェルディナント1オーストリア皇帝ハンガリー王ボヘミア王

趙n(北宋神宗の九男)

永楽帝明朝3代の皇帝

政治家

ガイウス・ユリウス・カエサル

ハリエット・タブマン奴隷解放運動家)

エリザベス・モンロージェームズ・モンロー5アメリカ合衆国大統領夫人

アイダ・マッキンリーウィリアム・マッキンリー25代アメリカ合衆国大統領夫人)

ナポレオン・ボナパルト - 夜中に短時間しか眠らなかったというエピソードは、睡眠中に発作を起こすため連続した睡眠が得られなかったことに起因している。なお、彼は一般に「3時間しか眠らなかった」と言われるが、実際は昼寝をしていて、それを含めれば68時間に達していた(当時彼に仕えていた人の日記などからそう判断される)。

ウラジーミル・レーニン - 亡くなる最後の数ヵ月前に発病し、てんかん重積が原因で死亡した。ちなみに、その発作は50分間も続いた。

その他

ダニエル・タメット円周率暗唱のヨーロッパ記録保持者)

 

てんかんを取り扱った作品

大江健三郎静かな生活 - 作者が、自分の息子(大江光)をモデルとして書いた。伊丹十三により映画化もされている。

筒井康隆『無人警察』 - 短編集『にぎやかな未来』(角川文庫)に収録されている「文明批判」がテーマの短編SF小説。自動車を運転しているてんかん患者の脳波を検知する『ロボット警官』が作中に登場する。1993年、この作品が角川書店発行の高校国語の教科書に収録され、日本てんかん協会から同作品の削除もしくは他の作品に差し替えるよう抗議され、作者の筒井康隆は日本てんかん協会と数度交渉したが双方の主張は平行線を辿り、結局筒井は「断筆宣言」を発表し、全ての執筆活動を停止した。その後1997年に「自主規制撤廃に関する覚書」をいくつかの出版社と取り交わして断筆を解除した。

ドストエフスキー白痴 - 主人公のムイシュキン公爵が重度のてんかん持ちである。

 

福祉制度

19957月の、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)の改正に伴い、精神障害者保健福祉手帳の取得が可能となった。

また、障害年金受給もできるようになり、かっては、精神科医のみ診断書を書けたが、近年、脳外科医も年金申請の診断書を書けるように、制度、ならびに、診断書の注意文が変更された。

医者の中には、まだ、制度の変更を知らないものもおり、自治体等の窓口でも、てんかんが精神障害に認定されうる、障害年金の申請も可能なケースもある(年金の加入状況、受給要件による)ということを把握しておらず、申請に関する書類一式を渡さないといった問題も起きている。

年金の受給要件などは、年金ダイヤル、受給に関する相談は、最寄の年金事務所で問い合わせが可能。

年金事務所は、基本的に来所前提の相談なので、介助者がいない者は、申請する書類すら揃えられないこともある。

てんかん患者の自動車運転について

てんかん患者の自動車運転については旧道路交通法(昭和35625 法律第105号)において「次の各号のいずれかに該当する者に対しては、免許を与えない。(中略)精神病者、精神薄弱者、てんかん病者、目が見えない者、耳がきこえない者又は口がきけない者」と記されていた[10]。しかし、2002513日の道路交通法[11]および同法施行令[12]改正により、条件付きでてんかん患者が免許取得できる道が開かれた[13]

てんかん患者が運転免許を取得できる条件は以下の3つである[14]

てんかん患者への運転免許解禁以降、運転者の発作・急病が原因の交通事故も頻発している。2011年には254件発生しており、このうちてんかんによる事故はその28.7%を占める73件が発生している。同年のてんかんによる交通事故のうち、5件が死亡事故となっている[15]

また、上記3条件に合致しない、本来なら不適格とされる者の違法免許取得・更新も相次いでおり、2012年にはてんかんを隠して免許を取得・更新したとして逮捕者が出た[16]

てんかんを原因とした下記のような重大事故の発生により、運転に支障のある者が免許取得・更新時に虚偽申告を行った場合に罰則を設ける改正道路交通法が2013614日に公布された[17](実際の施行はここから1年以内)。てんかんを含む意識障害をもたらす病気に関係する改正の要点は以下の通り[18]

20131127日、従来の危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪の中間的な処罰を定めた「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(通称:自動車運転死傷行為処罰法)が成立した(施行は2014520日)。同法第三条2項により、自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気で人を負傷させた場合は最高12年以下の、死亡させた場合は最高15年以下の懲役に処せられる。てんかんは、政令によりこの「運転に支障を及ぼすおそれがある病気」に該当するとされた。これまでてんかん発作を原因とする致死傷事故は、自動車運転過失致死傷罪でしか裁けなかったが(持病は危険運転致死傷罪の要件とならないため)、同法により、より重い刑罰を科することが可能となった。

てんかん患者のうち、投薬によって発作がコントロール出来るのは7-8割とされ、全体の2-3割の患者は発作がコントロール出来ていない現状が報じられている。

 

てんかん患者への差別

他方、てんかん患者に対しては、2000年代以降も差別と受け取られる事例が報告されている。

例として、福岡労働局20127月に福岡県内の各高校に対し、翌2013に卒業予定の就職希望者について、てんかん患者は主治医の意見書をハローワークに提出するよう求めていたことが2014に判明した。前述の京都・祇園での事故以降、雇用側が警戒していることを受けてのものと見られているが、雇用での差別的取扱を禁じた職業安定法に抵触する可能性があるとして、厚生労働省が同労働局に是正指導したうえ、全国の各労働局にも再発防止を指示している。