蕁麻疹  hives

 

メカニズム

ヒスタミン

原因と種類

治療法

アナフィラキシーショック

 

 

 

参考資料

ステロイド

アドレナリン

アレルゲン免疫療法

 

 

 

 

蕁麻疹の仕組み メカニズム

 

蕁麻疹は異物が皮膚内に入った時に、それを分解するために起こる症状です。

 

血液は酵素を運ぶ赤血球と免疫作用を持つる白血球、そして血漿という液体からできています。

 

「異物」が表皮内に混入した時に、血管の周りにあるマスト細胞(mast cell、肥満細胞)からヒスタミンやロイコトリエンを放出して、血管を拡張して血漿成分を血管の外に出し、血漿成分の免疫システムが異物(タンパク質)を分解します。

 

はじめに血管が一時的に膨らみ血流量が増え(このため皮膚の表面は赤く見えます)、

血液の中の血漿と呼ばれる成分が周囲に滲み出た状態(このために皮膚の一部が盛りあがります)になります。

強い痒みが生じるのは、掻くことでより血流量を増やし、血漿成分を外に出し、異物を分解するためです。

したがって、掻くほどに腫れは拡がります。

これが蕁麻疹とよばれる症状です。

 

 

かゆみのメカニズム

からだにはかゆみを皮膚から脳まで伝える脊髄神経(かゆみ伝達神経)があり、それが活性化するのはNPTX2というタンパク質が原因です。

 

NPTX2neuronal pentraxin 2)は、神経から放出された後、次の神経の細胞膜にあるグルタミン酸受容体をクラスター化し、その神経活動を高める働きがあるので、かゆい皮膚を何回も引っ掻くことにより、感覚神経でNPTX2が増え、それが神経の中を通って脊髄へ運ばれ、かゆみ伝達神経に作用して、さらにかゆみを生むという仕組みです。

 

 

ヒスタミンとは

マスト細胞の顆粒の中にあるヒスタミンは、炭素、水素、窒素でできている「活性アミン」と呼ばれる物質です。

このヒスタミンは脳の中にも存在し、目を覚ましている状態を維持することや記憶力に関わる神経伝達を担っており、

食欲を抑制する働きもあります。

したがって、抗ヒスタミン薬を飲むと、ヒスタミンの機能が低下するので、

眠くなって注意散漫になったり、食欲が増加したりすることが知られています。

 

 

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「蕁麻疹」という漢字の語源は、日本に自生しているイラクサの名前「蕁麻(じんま)」からきています。

この植物は、茎や葉に細かい棘を持ち、基部にヒスタミンや蟻酸が含まれた嚢がありますが、棘に触るとこの嚢が破れて皮膚につき、痛みやかゆみを引き起こします。

このことから、イラクサが引き起こす発疹を蕁麻疹としたのがはじまりといわれています。

 

 

 

原因と種類

かゆみを引き起こすヒスタミンが、体内に放出されることで蕁麻疹が起きます。

特定の食物、薬品、植物などに対するアレルギーや他の疾患が関与しているものもありますが、

ほとんどの場合、直接的な原因は特定できません。

 

蕁麻疹の発症や悪化の背景因子としては、ウイルス・細菌感染、疲労・ストレス、食物、運動発汗、日内リズムなどが知られていますが、複数の原因が重なって発症することもあり、特定は困難です。

 

 

蕁麻疹のタイプとその特徴

蕁麻疹の症状の出方や重症度はさまざまですが、発症メカニズムの違いによって、大まかに

「突発性の蕁麻疹(直接的な原因なく症状が現れる)」

「刺激誘発型の蕁麻疹(特定の刺激やアレルギーによって症状が引き起こされる)」

それ以外の特殊な蕁麻疹

3つに分けて考えることができます。

 

分類

種類

原因・特徴

突発性の蕁麻疹

急性蕁麻疹

慢性蕁麻疹

原因が特定できない  6週間以内

原因が特定できない  6週間以上

刺激誘発型の蕁麻疹

アレルギー性蕁麻疹

物理性蕁麻疹

コリン性蕁麻疹

食べ物、薬剤、花粉、ダニなど

摩擦、温熱、寒冷、日光、圧迫など

発汗   汗腺を刺激するアセチルコリンに由来

特殊な蕁麻疹

 

 

 

 

突発性の蕁麻疹…これといった原因が特定できない蕁麻疹。大半の蕁麻疹がこのタイプに属します。

症状が続く期間の長さによって、「急性蕁麻疹」と「慢性蕁麻疹」に分けられます。

急性蕁麻疹…最初の症状が出始めてから6週間以内のもの。子どもでは、感冒や上気道感染(いわゆる風邪)に伴って発症する傾向があります。

慢性蕁麻疹…症状が6週間以上続いているもの。夕方から夜間にかけて症状が出やすく、悪化しやすい傾向があります。発症メカニズムや要因は不明で、症状が数か月〜数年続くケースもあります。

 

刺激誘発型の蕁麻疹…特定の刺激が加わることによって起こる蕁麻疹です。

刺激が加わる頻度によって、1日に何度も症状が出ることもあれば、しばらく症状が出ないこともあります。このタイプには、主に「アレルギー性蕁麻疹」、「物理性蕁麻疹」、「コリン性蕁麻疹」などがあります。

アレルギー性蕁麻疹…食物、薬品、植物などに含まれる特定物質(アレルゲン)に反応して起こる蕁麻疹です。通常、アレルギーの原因物質を食べたり、それらに触れたりした数分後〜12時間後に症状が出ます。

物理性蕁麻疹(機械性、寒冷、温熱、日光など)…皮膚に対する機械的な摩擦や、寒冷・温熱刺激、日光照射などによって引き起こされる蕁麻疹。機械的刺激によって起こるものを「機械性蕁麻疹」、寒冷刺激によって起こるものを「寒冷蕁麻疹」、温熱刺激によって起こるものを「温熱蕁麻疹」、日光への暴露によって起こるものを「日光蕁麻疹」と呼びます。

 

刺激誘発性は2種類に分類できます。

アレルギー性蕁麻疹

食べ物やダニ、ホコリ、花粉などのアレルゲン(アレルギーを起こす物質)が原因となり発症します。

非アレルギー性蕁麻疹

熱さや寒さ、身の回りの環境といった身近なものに起因します。

 

 

一般的には、経口摂取によって引き起こされるアレルギー性のケースが多いとされていますが、

多くの場合、原因の特定が非常に難しく、アレルギー性、非アレルギー性を問わず約70%の蕁麻疹は原因不明です。

原因の特定ができているケースでは、日常生活上にある身近なものであったり、珍しいパターンであったり、

いくつかの要因が組み合わさっていたりします。

 

 

たとえばエビを食べると毎回、蕁麻疹を発症するというのであれば、エビが原因となり、

血液検査の結果、エビアレルギーによる蕁麻疹と特定することができます。

しかし、原因が分からないケースでは治療に難渋することがあります。

 

 

 

 

治療法

 

蕁麻疹体質は治りますか?

蕁麻疹の原因によります。アレルギー体質についてはよくなる場合、変わらない場合とさまざまです。

食物が原因になっている場合、卵などはよくなることがありますが、甲殻類、ソバなどは治りにくいことがあります。

特発性蕁麻疹は原因不明ですので、再発を繰り返すことがあります。

遺伝性の蕁麻疹もありますので、治るかどうかは原因にもよります。

 

蕁麻疹のおさまる時間はどれくらいですか?

数分から数時間で症状がおさまり、多くは24時間以内に治ります。

反対にいうと、24時間以上症状が続けば、蕁麻疹でない可能性があります。

ただ、ある個所にでてから別の個所にもでてきて、24時間で移動したように見える蕁麻疹がでることがありますが、

その個所での症状は24時間以内に消失します。

 

 

蕁麻疹の原因になるものは今後、食べられないのですか?

食べたいものが食べることができなくて辛い、という声もよく耳にします。

蕁麻疹の原因になる食材については、基本は遠ざけることです。

ただし、食材によっては、経口免疫療法という継続的に経口摂取することで、食べられるようになる場合もあります。

極少量ずつ摂取することで、異物として拒否するのではなく、それに慣れることで、過剰に反応しなくこともあります。

 

 

原因が分からないタイプの蕁麻疹の場合は、日常的な生活環境を見直しましょう。

例えば疲労や精神的ストレス、食生活や衣服による締め付け等が、症状の悪化に関与していることもあります。充分な休息と栄養をとり、ストレスのない生活を心がけましょう。

 

蕁麻疹の症状が出てしまった時は、患部を掻かないようにしましょう

掻けば掻くほど、かゆみが広がり、湿疹化してしまう恐れがあるからです。

どうしてもかゆい場合は、濡れタオルなどで患部を冷やして、一時的にかゆみを抑えましょう。

ただし、寒冷刺激による蕁麻疹(寒冷蕁麻疹)の場合は、冷やすと症状が悪化するので、冷やさないようにしてください。

 

蕁麻疹の症状に対しては、主に抗ヒスタミン薬の内服治療を行います。

かゆみのために、掻いてしまい、患部が湿疹化した場合は、ステロイド外用剤を併用して患部を治療します。

 

 

 

 

アナフィラキシーとは?

急速に起こる全身の強いアレルギー過敏反応のこと。

アナフィラキシーショックとは。アナフィラキシーによって血圧低下や意識障害を伴う場合のこと。

 

アレルギー反応があっても全員がアナフィラキシーを起こさないように、

アナフィラキシーが必ずアナフィラキシーショックまで進むとは限りません。

 

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アナフィラキシーは非常にまれなできごとです。

例えば一般のワクチン接種では100万回に1回程度、医薬品では10001万回に1回前後です。

 

 

アナフィラキシーはなぜ起きる?

異物が体内に入ることが原因になります。

アレルギー反応は、異物が人体に入り込んで起こります。

食べる、刺される、注射する、が代表的ですが、花粉症が鼻の粘膜で起こるように、傷口や粘膜などへの接触でも起こります。

 

人体の警報システムが過剰反応する誤作動

人体には、侵入者が入ったときの警報システムが備わっていますが、

この反応が必要以上に大きすぎると不都合が起こります。

アナフィラキシーは、警報システムが誤作動してしまった状態ともいえます。

とくに、IgEというタンパク質が大量のヒスタミン放出を促し、血管の拡張や水分漏出を引き起こす反応がよく知られています。

 

 

アナフィラキシーになると、どうなるの?       じんましん+ABCD 

じんま疹+(ADのどれか)でアナフィラキシーかどうか判断しやすくなります。

 

原理としては、ヒスタミンの作用で全身の血管から水分が血管の外に漏れてしまうことによる症状が主です。

じんま疹:目や唇も腫れ、鼻水も出る

花粉症と同じことが急速に起こり、目や鼻で分泌物が増えます。

目が赤くかゆみが出て、くしゃみや鼻づまりも起きます。

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A 気道:ノドが腫れて息が詰まる

 のどの粘膜が急速に腫れるため、喉がつまったように感じたり息が苦しく感じます。

B 呼吸:くしゃみがセキ、息が苦しい

 咳や呼吸困難を感じるようになり、喘息の発作のようにゼイゼイします。

C 循環:立ちくらみ、動悸、顔面蒼白

 血管の中から大量の水分が外に逃げ、同時に誤った警報が全身に広がるため、動悸が続いたり血圧が低下したりします。

D 下痢:下痢、腹痛、嘔吐

 血管から水分が外に漏れることで腸の粘膜も腫れ、下痢や腹痛を起こします。

 

アレルゲンにさらされた後、数分から数時間以内に急速にこれらの症状が表れるのが特徴で、

腹痛、嘔吐などの消化器症状を伴うこともあります。

また皮膚症状を伴わなくとも、アレルゲンにさらされた直後に平常時血圧の70%未満まで急速に血圧が低下することも。

気道狭窄や不整脈、動悸や失神などのショック症状によって、場合によっては死に至る危険性があります。

 

 

 

蕁麻疹、どう対応すれば良い?

蕁麻疹の場合は患部を掻かずに湿った布巾などで冷やす

それでも蕁麻疹が拡がる場合は抗ヒスタミン剤

アナフィラキシー、どう対応すれば良い?

アレルギー反応で呼吸がしづらい場合は吸引ステロイド剤

それでも治まらない場合は、アドレナリンを太ももに筋肉注射

はじめから呼吸困難と立ちくらみなどがある場合は直ちにアドレナリン注射をしてから、ステロイド吸引。

 

 

アドレナリンはマスト細胞からヒスタミンの放出を抑え、血管から水分の漏れを減らし、気管支拡張の促進する作用があります。

つまり蕁麻疹の逆作用なので、アナフィラキシーに最適な治療薬なのです。

エピペンというカートリッジ式薬剤には筋肉注射用のアドレナリン(別名エピネフリン)が入っています。

アドレナリンはわれわれの体内にある副腎髄質というところで作られるホルモンの一種です。

 

アドレナリンによって皮下の血管は収縮するが、骨格筋の血管は逆に拡張し吸収が早くなるために、エピペン注射部位は 「大腿外側に筋注」します。

 

エピペンを打つと、ほてり感、心悸亢進(心臓がドキドキすること)などの症状が起こりますが、あくまでも一時的です。

15分程度で元の状態に戻ります。

 

 

予防/治療後の注意

再発を予防するためには、症状を引き起こす要因となるものを避けることが大切です。

退院時にはアドレナリン自己注射を処方し、再度アレルギー反応が起きたときの対処方法を指導します。

原因によってはアレルゲン免疫療法が予防に有効なことがあります。

財布などにアレルギーを示すカードを入れて携帯するなどして、万が一再発したときに他人に伝えられるよう備えることも大切です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考資料

アドレナリンとステロイド

アナフィラキシーの基礎

 

 

ステロイド

ステロイドは、もともと体内の副腎(ふくじん)という臓器でつくられているホルモンで、このホルモンがもつ作用を薬として応用したものがステロイド薬(副腎皮質ステロイド薬)です。

 

外用薬(塗り薬)だけでなく内服薬や注射薬などもあり、さまざまな病気の治療に使われています。

 

ステロイド外用薬の作用には、炎症を鎮める作用(抗炎症作用)のほか、次のようなさまざまな作用があります。

抗炎症作用               炎症を促す物質の産生を抑える。

細胞増殖抑制作用              炎症反応を引き起こす細胞の増殖を抑える。

血管収縮作用           炎症部の血管を収縮させることで、患部の赤みを鎮める。

免疫抑制作用           抗体の産生を抑制して、免疫機能を低下させる。

 

 

ステロイド剤が臨床的に応用されるようになって、ちょうど60年という長い年月が経過しようとしています。

初めて、ステロイド剤の効能が認められたのは、1948年のことです。

それから2年ほどの間に、各種の膠原病、血液疾患、気管支炎喘息などへ適応症は急速に拡大し、すぐれた臨床効果のあることが明らかになりました。

しかし、一方では数々の重篤な副作用が報告されるにおよび、抗炎症作用が強く、副作用の少ないステロイド剤を求めて研究開発が強力に進められたのです。

その結果、はじめの10年間に各種の合成ステロイド剤が相次いで出現したが、電解質作用を除くことが出来た以外、副作用防止にはみるべき成果があがりませんでした。

そこで、ステロイド剤は「両刃の剣」であるとか「麻薬」であるとか称せられるようになり、臨床医もステロイド剤は出来る限り使いたくないと考えるようになってきました。

 

ところが1980年代頃から、再びステロイド剤に対する関心が高まってきました。

この理由の一つとして、多くの非ステロイド性抗炎症剤等が出てきたのですが、どれを取り上げてもステロイド剤以上の効果を期待することができず、しかも非ステロイド性抗炎症剤にもかなりの副作用があるという点をあげることが出来ます。

 

副作用のために消えていく医薬品が多い中で、ステロイド剤は重篤な副作用があるにもかかわらず60年たった今でも臨床的にすてがたい医薬品として存在し続けているのです。

これは、ステロイド剤の臨床的な有用性が副作用という欠点を凌駕がしているからです。

とはいっても、副作用の問題は解決したわけではありません。従来からの副作用を克服しても、別の新しい副作用が出現するなど問題はつきません。

この厄介なステロイド剤を巧みに使いこなして、臨床的手腕を発揮している医院・医療機関も多いと思いますが、ステロイド剤の使い方はやはり難しいと言わざるをえません。

 

 

ステロイド剤の作用

ステロイド剤は医薬品として用いられていますが、本来は体内で生産されるホルモンです。臨床的観点からステロイド剤に期待されているのは、抗炎症作用、抗アレルギー作用、後退産生抑制作用といった作用です。

 

投与されたステロイド剤は、細胞内に取り込まれますが、細胞内ではステロイドに特異的なレセプター(受容体)と結合しステロイド・レセプター複合体がつくられます。

このレセプターの存在は、細胞内におけるホルモン作用の発現に必要な条件であり、レセプターの存在は細胞ではホルモン作用が発現しません。

 

ホルモンの作用は、レセプターの数と、ホルモンとレセプターの結合親和性によって決定されます。

現在、臨床的に使用されている合成ステロイド剤はいずれも天然型のヒドロコルチゾンよりも生物学的活性が強いのですが、その理由として血中半減期の延長のほかこのようなレセプターに対する親和性の増強があげられています。

例えば、デキサメタゾンの場合、ヒドロコルチゾンの約30倍の強さを持っていますが、レセプターとの親和性はヒドロコルチゾンの約8倍であり、自分の副腎皮質ホルモンの生産抑制の強さである血中半減期は約3倍です。

 

中枢神経系に対する作用

クッシング症候群の第一例は、精神病院においてみつけられたと言われます。

これほどグルココルチコイドの中枢神経系に及ぼす影響は大きいのです。

その強さには、個人差がありますし、また症状の現れ方も人によってことなります。

この作用機序の詳細は不明ですが、脳内の各所にステロイド受容体が存在し、視床下部はもちろんのこと、海馬、扁桃、大脳皮質にも多く集まっています。

 

内分泌系に及ぼす影響

下垂体・副腎皮質系には、ステロイド剤を投与するとACTHの分泌が抑制され、副腎皮質からのヒドロコルチゾンの分泌が減少する仕組みが存在しています。この作用点としては、視床下部と下垂体の両者が考えられています。

ステロイドは、視床下部に作用してCRHの分泌を抑制するとともに、下垂体にも作用して直接的にACTHの分泌を抑制します。ステロイドの作用機序としては早く作用するもの、ゆっくり作用するものの2つが考えられていますが、早い場合は数分以内に作用が発現するので通常の蛋白合成を介する作用とは別個のものとみなされています。

なお、ステロイド剤はACTH以外の下垂体ホルモン、性腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、成長ホルモンの分泌も抑制します。そのため、ステロイド療法中は、女性で無月経や月経不順、子供の場合は成長の抑制がみられることがあります。

 

代謝作用

(1)糖代謝を中心として

ステロイド剤は、グルココルチコイドと呼ばれているように、その代謝作用の特徴は血糖値の維持と上昇です。

すなわち、グルココルチコイドを投与すると、まず肝以外の組織、たとえば脂肪組織、皮膚、リンパ組織におけるブドウ糖の細胞内への取り込みが抑制されます。これに続いて、脂肪組織では中性脂肪の合成が抑制され、脂肪分解が亢進、血中に遊離脂肪酸が放出されます。このプロセスとして、カテコラミン等の脂肪動員ホルモンの作用を増強すると考えられています。

その他の組織では、血中にアミノ酸が動員されます。こうして動員された遊離脂肪酸とアミノ酸は肝に集められ、一部はエネルギー原として用いられ、他はブドウ糖の合成に利用されます。肝で合成されたブドウ糖は一部グリコーゲンとして蓄えられるが、残りは血中に放出され血糖値を上昇させます。

以上のようなグルココルチコイドの糖新生作用はインスリンによって拮抗され、大量のステロイド剤を投与した時はインスリンの分泌が亢進します。

インスリンに対する感受性の強い顔面や身体には脂肪が沈着して、満月様顔貌や水牛肩を呈し、一方、四肢や方ではステロイドの作用で皮膚の筋支持組織の委縮がおこり、皮膚に深い溝が出来るためしわしわが出来ます。

(2)脂質代謝

ステロイド剤を長期投与していると、肝に動員されてきた脂肪酸を材料として中性脂肪やコレステロールの合成が亢進し、高脂血症をきたします。ステロイド剤による食欲亢進から来る過食も同じく高脂血症を助長します。

(3)骨に対する作用

ステロイドによる蛋白異化亢進、骨芽細胞の抑制(骨形成の低下)、腸管からのカルシウム吸収抑制、尿中カルシウム排泄増加、ビタミンD活性化阻害によってカルシウム負平衡となる結果、二次性副甲状腺機能亢進症、ひいては骨吸収の亢進というメカニズムで骨粗鬆症をおこします。

(4)電解質作用

現在使用されている合成ステロイド剤は電解質作用が弱くなっているので、ナトリウムの貯留やカリウムの喪失は少ないのですが、プレドニゾロン大量投与中やヒドロコルチゾンを使用している時には低カリウム血症やナトリウム貯留に基づく浮腫をきたすことがあります。

 

抗炎症作用のメカニズム

ステロイド剤の抗炎症作用は強力でしかも広範囲に及びます。これがステロイド剤の特徴でもあり欠点でもあります。

現在、抗炎症作用のメカニズムは全て明らかにされたわけではありませんが、この方面の研究は格段の進歩を遂げています。

抗炎症作用のメカニズムを理解しておくと、ステロイド剤適応の決定、投与方法の選択、副作用の早期発見に有用です。

 

(1)リポコルチンの産生とその作用

ステロイド剤によってマクロファージや白血球から産生される抗炎症性の蛋白をリポコルチンと呼んでいます。

リポコルチンはステロイドの作用によって産生が増加するのですが、通常補蛋白合成過程に基づくものとみなされており、ステロイドの抗炎症作用が効果発現に2〜3時間を要する原因と考えられています。リポコルチンはホスホリパーゼA2の作用を阻害することによって、プロスタダランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンの生成を抑制します。これらのケミカルメジエーターの生成過程においてホスホリパーゼA2によるアラキドン酸の生成は律速段階になっており、重要な反応なのです。これをステロイドホルモンが抑制するので、ステロイドホルモンの抗炎症作用は強力で広範囲に及ぶわけなのです。

今まで、ステロイドの抗炎症作用として炎症局所における血管透過性の更新や血流増加の抑制作用が重視されていましたが、これらはリポコルチンによるケミカルメジエーターの産生抑制に基づくものと考えられます。

 

(2)その他の作用機序

ステロイドはケミカルメジエーターであるブラジキニン、セロトニンの作用を抑制することも明らかにされており、プラスミノーゲン、アクチベーターの阻害作用も認められています。

 

免疫系に及ぼす影響

今まで、ステロイドと免疫の関係は、ステロイドによる免疫系への影響、特に抑制作用という一方的なものであったが、最近の研究によって免疫系が逆に下垂体・副腎系を刺激することやリンパ球がACTHを産生することなども明らかになってきており、ステロイドと免疫との関係は神経内分泌系と免疫系の複雑なネットワークの中で考えなければならなくなりました。

 

(1)インターロイキン−1の産生抑制

炎症や免疫反応においてまず最初に重要な役割を演じるのはマクロファージです。マクロファージに抗原刺激が加わると、インターロイキン−1(IL−1)が産生されTリンパ球を活性化します。ステロイドは、マクロファージに作用して、このIL−1の産生を抑制します。

ステロイドが炎症巣への白血球の集積を抑制することは、以前からしられていました。この場合、IL−1に内皮細胞への白血球粘着を促進する作用のあることがわかってきており、ステロイドの白血球集積抑制作用にはIL−1分泌抑制を介する機序も働いているものと考えられます。

 

(2)インターロイキン-2の産生抑制

ステロイドはインターロイキン−2(IL-2)の産生を抑制します。

IL-2は免疫反応系の中心ともいうべきサイトカインであり、Tリンパ球自身の増殖因子として作用し、Tリンパ球を増殖させ、ヘルパーTリンパ球、キラーTリンパ球などへ分化させます。このようにして分化増殖したヘルパーTリンパ球は各種のサイトカミンを産生し、免疫担当細胞の増殖分化を誘導します。結局、ステロイドは、IL-2の分泌とその作用を抑制することによって、免疫反応の過程を全面的に抑制することになります。

なお、IL-2NK細胞や抗体依存性キラー細胞の活性化にも必要であるといわれているので、ステロイドによるIL-2分泌の抑制はこのような細胞の活性を低下させる影響を与えます。

 

 

 

ステロイドの副作用

@感染症誘発、増悪

ステロイドには免疫抑制作用があるため、感染症にかかりやすくなります。プレドニゾロン換算で20mg/日以上の中等量以上の使用から問題になることが多いです。その場合は感染予防のための抗菌薬や抗ウイルス薬の内服を併用。

 

細菌感染はステロイドを開始してから比較的早期に起こり、一方ウイルスや真菌感染は長期治療時に起こるとされています。ステロイド投与中は発熱や炎症反応が抑制されるため、感染症の症状がわかりにくく、発見が遅れがちです。

 

A消化性潰瘍

ステロイドによる胃酸分泌の増加と潰瘍の治癒阻害(消化器の壁には常に小さな傷ができ、通常は自然に修復されますが、ステロイドにより治りが悪く)によって消化性潰瘍ができます。

 

非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)との併用によりさらにリスクが上昇。

 

胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカー、胃粘膜保護薬を併用して予防します。

 

消化性潰瘍の症状は投与初期から起こり、症状は、心窩部痛(みぞおちが痛い)、悪心(おしん)、嘔吐、吐血、タール便(黒色便)などです。これらの症状がある場合はすぐに主治医に相談してください。

 

 

B糖尿病あるいは耐糖能異常

糖尿病の発症には 遺伝因や肥満などの因子も関連するため、ステロイドを使用した人全員が糖尿病を発症するわけではありませんが、血糖値はあがりやすくなります。

 

ステロイドにより、糖の取り込みが低下し、糖新生(肝臓で糖が作られる)の亢進が起こり、さらに食欲増進効果があるため食事量が増え、結果として血糖値が上昇。

 

ステロイドによる高血糖は、空腹時血糖よりも食後の高血糖(特に午後〜夕方)にみられることが多いです。ステロイドを高容量、あるいは長期間使用する時は、定期的に血糖測定を行い、血糖値が上昇してきたら糖尿病内科の先生に介入をお願いします。

 

ステロイドによる高血糖も、糖尿病の治療に準じて経口糖尿病薬あるいはインスリンを使用しての治療です。

 

ステロイドの減量、終了により血糖値も改善していく人が多いですが、もともと糖尿病の発症しやすい素地があった人は、そのまま糖尿病を発症し、ステロイドの治療が終わっても糖尿病の治療を継続しなければならない場合もあります。

 

 

C動脈硬化、脂質異常症

ステロイドにより肝臓で、VLDLの合成が亢進します。

 

VLDL Very-low-density lipoprotein:超低密度コレステロール)は超悪玉コレステロールとも呼ばれ、密度が低いため血管壁に侵入しやすく、肝臓で吸収されないため血液中に長くとどまって酸化。動脈硬化の直接的な原因です。

 

また、ステロイドには脂肪分解作用があり、血中の遊離脂肪酸が増加。対策として、食事療法(脂質を減らす)、脂質異常症治療薬(HMG-CoA還元酵素阻害薬など)を使用するなどを行います。

 

参考文献:ステロイド薬を用いるときに気をつけるべき脂質代謝異常 山川 研   The Lipid vol.23 No.1 2012-1(79)

 

 

D高血圧

ステロイドにはNa(ナトリウム)を貯留する作用(アルドステロン作用)があり、それによって体内の水分が多くなり、血圧が上昇します。塩分制限と通常の降圧薬で治療していきます。

 

 

E骨粗鬆症

ステロイドによる骨吸収が増加し、腸管からのカルシウム吸収低下、骨形成の低下などにより骨密度が低下し、骨粗鬆症を発症します。特に閉経後の女性は要注意です。

 

プレドニゾロン換算で5mg/日以上で3か月以上内服を続けるとリスクが上がります。その場合はビスホスホネートの予防投与を。しかし、完全に予防できるものではありません。

 

また、ステロイドは特発性大腿骨頭壊死症のリスク因子です。特発性大腿骨頭壊死はさまざまな原因により大腿骨の股関節を形成する部分(大腿骨頭といいます)の血流が低下し、壊死が生じます。

 

壊死しただけでは症状はありませんが、壊死した大腿骨頭が体重を支えきれなくなり、潰れてしまうと痛みが。その場合は手術によって人工骨頭を入れるなどの治療が必要となります。

 

ステロイドの治療中、歩くと足の付け根が痛いなどの症状があればすぐに主治医に相談しましょう。

参考文献:http://www.twmu.ac.jp/IOR/diagnosis/kougenbyo/ctd-complications/avn.html

東京女子医科大学 膠原病痛風リウマチセンターHP

 

 

F白内障、緑内障

ステロイドの長期使用の副作用として、白内障と緑内障があります。自覚症状があらわれにくいため、ステロイドを長期内服している場合は、半年に1回は眼科で検診を受けるほうがよいでしょう。

 

高齢で、もともと軽度の白内障がある場合や眼圧が高い場合は必ず眼科で診てもらいましょう。この場合も治療は通常の白内障、緑内障と同じように行います。

 

 

G副腎不全

健康な人の体内で作られるステロイドホルモン(コルチゾール)は1日にプレドニゾロン換算で約5rです。そのため、プレドニゾロン換算で10r/日を半年服用すると副腎がステロイドホルモンを作らなくなり、副腎不全の状態に。

 

ひどい場合は副腎そのものが委縮して、もとに戻らなくなりステロイドホルモンを作れなくなります(二次性副腎不全)。その場合は病気が治っても、自力でステロイドホルモンを作れなくなるため、ステロイドの内服をやめられません。

 

 

H精神障害

高容量のステロイド(プレドニゾロン換算で40r/日以上)で精神障害のリスクが上がるといわれています。短期間の大量投与早期では、多幸感、躁状態、不眠が多く、長期投与になってくるとうつ状態になることも。

 

ステロイドの減量により精神症状は改善することがほとんどです。この場合も精神科の先生に介入をお願いし、精神症状に合わせて抗精神病薬や抗うつ薬を使用し、治療を行っていきます。

 

 

Iその他副作用

にきびができやすくなる(ステロイドざ瘡)

多毛になる

顔が丸くなる(満月様顔貌、ムーンフェイス)

皮膚萎縮、皮下出血、紫斑

食欲亢進

体重増加

月経異常

多尿、多汗

不眠

浮腫

低カリウム血症

などさまざまな副作用があります。

 

 

<副作用発現時期>

比較的早期から出るもの

数時間から(大量投与時)              数日から(中等量以上)

・高血糖・不整脈              ・高血圧・不整脈・高血糖・精神障害・浮腫

 

 

中〜長期から出るもの

12か月(中等量以上)  3か月以上(少量でも)

・感染症(細菌)・無菌性骨頭壊死・満月様顔貌・脂質異常症・消化性潰瘍・緑内障・精神障害・高血糖     ・感染症(ウイルス、真菌)・二次性副腎不全・満月様顔貌・消化性潰瘍・脂質異常症・動脈硬化・白内障・緑内障・骨粗鬆症・高血糖

 

ステロイドは自己免疫性疾患などの進行を抑えるためや、命にかかわるような強いアレルギー反応(薬疹など)の治療にかかせない薬ですが、多岐にわたる副作用があり慎重に使用されるべきです。

 

短期間、少量であっても必ずステロイドの使用に精通した医師の監督のもと、使用するようにしてください。

 

勤務医をしていたとき、糖尿病内科の先生から「糖尿病で紹介されてきた患者さんが、アトピー性皮膚炎でずっとステロイドを飲んでいるようです。現在、皮膚炎はないようですが、内服をやめてもよいでしょうか、一度診察をお願いします。」という相談を受けました。

 

アトピー性皮膚炎があり、かかりつけ医から、セレスタミン®(ステロイド配合錠)の投薬を約20年間うけていたのに、患者さん自身はステロイドを内服しているという認識は薄く、「これがよく効くから、いつも出してもらっていた」、とおっしゃっていました。

 

アトピー性皮膚炎はありましたが、外用で十分コントロールしていける程度であり、皮膚科としては、現在の症状はセレスタミン®の内服は中止可能と判断しましたが、すでに副腎でステロイドを作れなくなっており、中止できない状態となっていました。

 

糖尿病科、内分泌科の先生と一緒に、少しでもステロイドを減量していこうと苦労して治療。その人が糖尿病になったのも、長年のステロイドによる影響が否定できないと糖尿病の先生はおっしゃっていました。

 

繰り返しになりますが、ステロイドは諸刃の剣です。作用や副作用をよく知らずに、安易な服用はやめましょう。最近は個人輸入などインターネットで簡単にステロイドの内服薬を購入できますが、絶対にやめてください。

 

ただし、治療によってはステロイドの使用がどうしても必要な場合もあります。医師がステロイドを使用するのは、メリットがデメリットを上回ると判断した場合です。

 

副作用を恐れるあまり、ステロイドが必要な場面で使用できないと本末転倒。治療の時期を逃してしまうと、疾患によっては取り返しのつかない後遺症が残ることもあります。

 

短期間の使用(2週間以内)であれば、副作用はそれほど問題になりません。蕁麻疹でステロイドを使用する場合、蕁麻疹診療ガイドラインでもできるだけ短期間(2週間以内)にとどめるように推奨しています。

 

 

ステロイドが効かない場合

ステロイド以外の選択肢としては、ゾレア®(オマリヅマブ)という抗体製剤(生物学的製剤)があります。肥満細胞を活性化するIgEをブロックするお薬です(抗IgE抗体)。

 

ゾレア®は注射薬しかなく、内服薬はまだありません。医療機関で1か月に1回、両肩に1本ずつ注射します。

 

もともとは喘息の薬として使われていましたが、2017年からは蕁麻疹の薬として使われるようになりました(2020年より重症のスギ花粉症でも保険適応に)。

 

ゾレア®は非常に効果が高く、ステロイドのような副作用もないため慢性で難治性の蕁麻疹の患者さんにはとてもよい薬ですが、抗体製剤であるため値段が高いのと、注射をずっと継続しなければならないのが患者さんにとっては負担です。

 

また、ゾレア®でも効果がない人、はじめは効果があっても次第に効果が減弱してくる人も。IgEがあまり高くない蕁麻疹の人には、ゾレア®であまり効果がみられないことがわかっています。

 

gEが高くないタイプの蕁麻疹には、ネオーラル®という免疫抑制剤が効くとされていますが、 ネオーラル® は免疫抑制剤です。

 

蕁麻疹に対しての使用は、ステロイド同様に慎重に行う必要が。また、ネオーラル®にも高血圧や腎機能障害などの副作用があるため、使用は短期間にとどめるよう推奨されています。

参考文献:日本皮膚科学会 蕁麻疹診療ガイドライン 2018

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アドレナリンadrenaline、英名)

別名エピネフリン(epinephrine)は、副腎髄質より分泌されるホルモンであり、薬物である。

また、神経節や脳神経系における神経伝達物質でもある。

 

 

ストレス反応の中心的役割を果たし、血中に放出されると心拍数や血圧を上げ、瞳孔を開きブドウ糖の血中濃度(血糖値)を上げる作用などがある。

 

「生体内で合成される生理活性物質」という捉え方と、「医薬品」という捉え方の違いから、生物学の教科書・論文では世界共通でアドレナリンと呼んでいるのに対して、医学においては世界共通でエピネフリンと呼ばれている。

ただし、欧州薬局方では「アドレナリン」が採用されているほか、日本でも医薬品の正式名称を定める日本薬局方が20064月に改正され、一般名がエピネフリンからアドレナリンに変更されている。

 

 

生理学的効果

交感神経が興奮した状態、すなわち「闘争か逃走か (fight-or-flight)」のホルモンと呼ばれる。

動物が敵から身を守る、あるいは獲物を捕食する必要にせまられるなどといった状態に相当するストレス応答を、全身の器官に引き起こす。

 

運動器官への血液供給増大を引き起こす反応

心筋収縮力の上昇

心、肝、骨格筋の血管拡張

皮膚、粘膜の血管収縮

消化管運動低下

呼吸におけるガス交換効率の上昇を引き起こす反応

気管支平滑筋弛緩

感覚器官の感度を上げる反応

瞳孔散大

痛覚の麻痺

勃起不全

興奮すると分泌される。例えば喧嘩になった時に分泌されて、血まみれや骨折の状態になっても全く痛みを感じないといったケースもある。

 

医療用途

アドレナリンは心停止時に用いたり、アナフィラキシーショックや敗血症に対する血管収縮薬や、気管支喘息発作時の気管支拡張薬として用いられる。

有害反応には、動悸、心悸亢進、不安、頭痛、振戦、高血圧などがある。

 

心停止の4つの病態、すなわち心室細動、無脈性心室頻拍、心静止、無脈性電気活動はいずれも心マッサージは必要であるが、そのうち前2者は除細動が、後2者に対してはアドレナリンが第1選択として長く使用されてきた。

 

アドレナリンの投与法は、その時の病態や個人差による感受性の差があるので一律には決められないが、アナフィラキシーショックの場合は筋肉注射や皮下注射では1回投与量は0.20.5mlであり、原則0.5ml以下を守るべきである。

血圧等vital signを見ながら数秒毎ないし数分毎の追加も考慮しなければならない。代謝は速やかなので、1回投与量および必要による複数回追加の配慮、これが治療のポイントである。筋注か皮下注かによる臨床上の大きな違いはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『蕁麻疹治療ガイドライン 2018

Step    第2世代抗ヒスタミン薬の内服

非鎮静性(頭がぼーっとする、眠くなるなどの症状がでにくい)の第2世代の抗ヒスタミン薬の内服で治療を開始します。効果がある場合は一定期間内服を継続。

 

効果が十分でない場合は医師の指導のもと、通常の2倍量まで増量が認められています。また、種類の違う薬を2種類組み合わせて内服することも。

 

Step    H2拮抗薬、抗ロイコトリエン薬など補助的治療薬の追加

抗ヒスタミン薬は通常はH1(ヒスタミン1)をブロックしますが、ヒスタミンには他にもいくつか種類があり、H2(ヒスタミン2)受容体は主に胃の壁細胞に存在し、胃酸の分泌を担っています。

 

H2ブロッカーは胃酸の分泌を阻害し、胃潰瘍や胃炎の治療薬として使用されますが、蕁麻疹にも効果が。

 

保険適応はありませんが、抗ヒスタミン薬(H1ブロッカー)で効果不十分な場合は、H2ブロッカーの追加をするようにガイドライン上でも推奨されています。

 

また、ロイコトリエンは蕁麻疹でヒスタミン(即時型)に続いて起こる遅延型反応の際に放出されるケミカルメディエーター(化学物質)であり、蕁麻疹の膨疹(ぼうしん)形成と持続に関与。

 

抗ロイコトリエン薬は喘息に保険適応がありますが、H2ブロッカー同様に蕁麻疹には保険適応はありません。ですが、抗ロイコトリエン薬も蕁麻疹のガイドライン上では、抗ヒスタミン薬のみで効果が十分に得られない場合は、追加を検討するよう記載があります。

 

Step   ステロイド薬の内服、生物学的製剤(抗IgE抗体)、免疫抑制剤

抗ヒスタミン薬にStep2の補助的治療薬を使用しても強い症状が続く場合は、内服ステロイド(プレドニゾロン換算0.2mg/kg/:体重50kgで1日PSL10mg)により症状を抑制できることが多いです。

 

しかし、ステロイド内服薬は蕁麻疹に効果があったという報告も効果がなかったという報告もあり、長期的予後に関しても有用性が確立されていません。

 

そのため、ガイドライン上でも症状が重篤で、抗ヒスタミン薬とStep2の補助的治療薬だけでどうしても抑えられない場合に限り、かつできるだけ短期間にとどめるように推奨されています。

 

ステロイド内服以外の選択肢として、ゾレア®(オマリヅマブ)という抗体製剤(生物学的製剤)も。

ヒスタミンは肥満細胞から放出されますが、この肥満細胞を活性化させるIgEをブロックするのがゾレア®(抗IgE抗体)です。

 

ゾレア®は注射薬なので医療機関で1か月に1回、両肩に1本ずつ注射します。もともとは喘息の薬として使われていましたが、2017年からは蕁麻疹の薬として使われるようになりました(2020年より重症のスギ花粉症でも保険適応に)。

 

ゾレア®は非常に効果が高く、ステロイドのような副作用もないため慢性で難治性の蕁麻疹の患者さんにはとてもよい薬ですが、抗体製剤であるため値段が高く、2021年現在5,8294/月 3割負担で17,488 これに別途診察代などがかかります。

 

ある程度時間が経つと代謝されて体外から排出されて効果がなくなってしまうため、注射を継続する必要があります。

 

ただ、最低3ヶ月継続すると、あとは内服薬のみで症状が抑えられるようになる人も多いため、重症の慢性蕁麻疹の患者さんに、まずは3か月試してみましょうと案内しています。

 

しかし、IgEがあまり高くないタイプの蕁麻疹ではゾレア®でも効果がみられないことがあります。

 

代わりに、ネオーラル®という薬剤が効くとれさていますが、免疫抑制剤であり、また、高血圧や腎機能障害などの副作用もあるので、蕁麻疹に対しての使用は慎重に行う必要があります。

 

『体表面積30%以上に掻破(そうは)せずにいられないほどの強いかゆみを伴う膨疹に覆われる急性蕁麻疹で、早期に症状は沈静化する必要がある場合は、抗ヒスタミン薬に加えて数日以内のステロイドの内服または注射を併用』とガイドラインには記載されています。

 

急性蕁麻疹では初期治療にステロイドを併用することで、より早期に症状を消失させることができるという弱いエビデンスがありますが、これを否定する報告もあり、まだ意見が分かれているところです。

また、蕁麻疹を伴うアナフィラキシーショックではステロイドが点滴されますが、直接的な効果はなく、ショックからの症状の回復や、『半日程度経過して起こりえる症状の再燃(second attack)』を予防する目的で使用されています。

 

アナフィラキシーは生命にかかわる重篤な状態ですが、その場を乗り切れば、治療を完了でき、通常、ステロイドの副作用が問題になることはありません。また、急性蕁麻疹でも数日間のステロイド使用が、副作用を生じることはほとんどないと言われています。

 

なお、外用のステロイドに蕁麻疹を抑制する効果はありません。

ステロイド外用剤は、蕁麻疹の膨疹を掻いてしまい、湿疹病変を作ってしまった時に使用します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関電救急ジャーナル集

6-1:アナフィラキシー治療に関するエビデンスUPDATE

JOURNAL TITLE    Evidence update for the treatment of anaphylaxis. Resuscitation 2021;163:86-96.

 

アナフィラキシー治療にアドレナリンは有効か?

アナフィラキシーの第一選択薬としてアドレナリンを推奨する(強い推奨、中程度のエビデンス)。

 

国際的なガイドラインでは、アドレナリンがアナフィラキシーの第一選択薬とされているが、裏付けとなるエビデンスはヒトにおける観察研究、動物モデル、疫学的研究、薬物動態研究などに限られている。2020年にEAACIが行ったシステマティックレビューでは死亡率などの重要なアウトカムに対して、アドレナリンを投与した場合としなかった場合との比較研究はなかった。致命的なアナフィラキシーは稀であり、その約80%はアドレナリンを要さずに改善するが、重篤な反応を予測することはできないため、すべてのアナフィラキシーを生命を脅かす可能性があるものとして扱わなければならない。アナフィラキシーの約 10%はアドレナリンの単回投与では奏功せず、36557件のアナフィラキシーによるシステマティックレビューとメタ分析ではアナフィラキシーの2.2%2回のアドレナリン投与に反応しないことが示されている。27の研究のシステマティックレビューとメタ分析(2758名の患者、二相性反応5%)ではアドレナリン投与が二相性反応の発生に関与しないことが示されている (pooled OR 0.91, 95% CI 0.6-1.4)EAACによる2020年のシステマティックレビューでも、2件のケースコントロール研究が報告されているが、アドレナリンが二相性反応を予防するかについては言及しえなかった。

 

アナフィラキシー治療におけるアドレナリンの最適な投与タイミングは?

アナフィラキシー症状を認めた、または疑われた場合、アドレナリンは早期に投与されるべきである(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。

致死的なアナフィラキシーを含むケースシリーズでは、院外でのアナフィラキシーに対するアドレナリンの早期投与が転帰の改善に関連することが示唆されているが、軽症/非アナフィラキシー反応へのアドレナリンの先行投与がアナフィラキシーへの進展を予防するというエビデンスはない。二相性反応に関して、2020年のJTFPPでは8件の後向きケースシリーズがあり、うち3件ではアドレナリン投与の遅れによって二相性反応の発生率が高くなることが示された。430例のアナフィラキシー反応を対象とした前向きコホート研究では、アドレナリン投与の遅延(症状発現後30分以上)が二相性反応の高い発生率(OR 3.39, 95% CI 1.1310.18)に関与し、2020年にJTFPPは、早期のアドレナリン投与により二相性反応の発生率が低くなる傾向があると結論づけた。

 

アナフィラキシー治療におけるアドレナリンの最適な投与経路は?

  1. アナフィラキシーの初回アドレナリン投与には筋肉内投与が推奨される(強い推奨、非常に低いエビデンス)。
  2. アナフィラキシーに対するアドレナリンの静脈投与は、熟練者が使用する周術期を除いて推奨されない(グッドプラクティスステートメント)。このような状況では、アドレナリンはボーラス投与ではなく、持続静脈投与が望ましい(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。
  3. いかなる投与経路でもアドレナリンの投与は臨床的な反応に応じて段階的に行う(強い推奨、非常に低いエビデンス)。

アナフィラキシー患者へのアドレナリンの投与経路を比較した試験はない。EAACI 2020のシステマティックレビューでは筋肉内投与とボーラス投与を比較したケースシリーズにおいて、ボーラス投与ではアドレナリン過量投与の発生率が13%増加、心血管イベントの発生率が8%増加したとされている。アドレナリンの過剰投与では頻脈性不整脈、重症高血圧、心筋梗塞、脳卒中を引き起こす可能性がある。

 

アナフィラキシー治療におけるアドレナリン筋肉内投与の至適量は?

アドレナリンの筋肉内投与は成人(12歳以上)では0.5mg6-12歳では0.3rで行うべきである(強い推奨、低いエビデンス)。

上記の投与法の安全性と有効性は、20年以上前から臨床現場で確立されている。国際的なガイドラインでは小児の投与量は0.01mg/kg(最大500マイクログラム)を臨床的な反応に応じて調整することが推奨されている。放射線科医を対象とした研究ではアドレナリン自動注射器(AAI)を使用するとアンプルから手動で注入する場合に比べて、投与までの時間が平均70秒短縮され、投与ミスも減少した。大半のAAIによるエピネフリン投与量は最大0.3mgであり、12歳以上に対して最適の用量を投与するために、新たなシリンジを用いて追加投与すべきである。

 

アドレナリンによる初期治療に抵抗性のアナフィラキシーに対してアドレナリンの追加投与は有効か?

  1. 初期治療に抵抗する患者では5分ごとにアドレナリンを投与すべきである(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。
  2. 適切な量のアドレナリン(IM または IV)を 2 回投与したにもかかわらず、アナフィラキシーの呼吸器または心血管系の症状が持続する場合、難治性アナフィラキシーとしてアドレナリンの静脈内投与を行うため、緊急に専門医に応援を求める(強い推奨、低いエビデンス)
  3. 低用量のアドレナリン静脈投与は、難治性アナフィラキシーの治療に有効かつ安全であると思われる(弱い推奨、非常に低いエビデンス)

アナフィラキシー反応の約10%では単回のアドレナリンの筋肉内投与が奏功しないが、98%では最大3回の筋肉内投与に反応する。ピーナッツによるアナフィラキシーにおいて、単回のアドレナリンの筋肉内投与は呼吸器症状には有効であるが、1回心拍出量を改善する効果は限定的である。難治性アナフィラキシーのケースシリーズと動物モデルからのエビデンスでは、アドレナリンに対する反応不良はアドレナリンの不十分な投与量と適切な用量分布を確保するための循環予備能が不十分であることが示唆されている。アドレナリンの筋肉内投与後の吸収は二相性であり、最初のピークは5-10分以内に発生し、国際的なガイドラインではアナフィラキシーが持続する場合、アドレナリンの筋肉内投与を5-15分毎に繰り返すことが示唆されている。犬のアナフィラキシーショックモデルでは、低用量のアドレナリン静脈投与は筋肉内投与や静脈内ボーラス投与に比べて優れた血行動態を示し、ヒトのアナフィラキシーのケースシリーズでも低用量のアドレナリン静脈投与は有効とされ、オーストラリアおよびスペインのガイドラインでは、難治性アナフィラキシーの治療法に含まれている。第二選択の血管作動薬に関してはドーパミン、ドブタミン、ノルエピネフリン、フェニレフリン、バソプレシンの優位性は明らかでない。ASCIA2020 ガイドラインではアドレナリンの静脈内投与が無効な場合のみ、他の血管作動薬を検討することを推奨している。

 

輸液

静脈内輸液はアナフィラキシーの補助的治療として有効か?

  1. 血行動態が悪化しているアナフィラキシーの場合は静脈内に晶質液を投与すべきである(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。
  2. アドレナリンによる初期治療に抵抗性のアナフィラキシーに対して、薬物分布を改善する補助手段として、急速輸液(晶質液)の投与が推奨される(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。

観察研究や動物モデルから得られたエビデンスでは、アナフィラキシーショックは静脈系の拡張と体液の漏出によって発症し、さらにAllergic mediatorsが心機能を低下させる可能性も示唆されている。500-1000mlの晶質液投与は単回のアドレナリンの筋肉内投与よりも静脈還流を回復させる効果が高く、アドレナリンの循環にも寄与して症状緩和を早める可能性がある。

 

抗ヒスタミン薬

抗ヒスタミン薬はアナフィラキシーの治療に有効か?

  1. アナフィラキシーの初期治療に抗ヒスタミン薬を使用しないことを提案する(弱い推奨、低いエビデンス)

- 抗ヒスタミン薬は、アナフィラキシーの呼吸器症状や心血管症状の治療に有効でない。

  1. 抗ヒスタミン薬は、アレルギー症状の一部として起こる皮膚症状の治療に使用することを提案する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。

- 抗ヒスタミン薬の使用によってアナフィラキシーの呼吸器・心血管系の管理(アドレナリンと輸液)を遅らせてはならない。

アナフィラキシーの治療に抗ヒスタミン薬を使用することを支持するRCTは存在しない。H1抗ヒスタミン薬はその鎮静作用によりアナフィラキシーの症状を混乱させ、静脈内へのボーラス投与では低血圧を引き起こす可能性もある。最近のガイドラインでは、抗ヒスタミン薬は治療のsecond/third-lineに位置づけられ、その使用により初回および追加のアドレナリン投与の遅延が懸念されている。また、抗ヒスタミン薬は二相性反応の発生を抑制しないとされ、欧州のアナフィラキシーレジストリに報告された9171件の分析では、抗ヒスタミン剤の投与は二相性反応の発生と有意に関連(OR 1.5295% CI 1.14-2.02)しており、これも抗ヒスタミン薬の使用がアドレナリン投与を遅らせたことによるものと考えられている。データは限られるが、アナフィラキシーの皮膚症状の緩和にはH1およびH2抗ヒスタミン薬の併用がH1抗ヒスタミン薬単独よりも効果的とされる。

 

ステロイド

コルチコステロイドはアナフィラキシーの治療に有効か?

  1. アナフィラキシーの治療にコルチコステロイドをルーチンに使用しないことを提案する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。
  2. コルチコステロイドは、基礎疾患である喘息やショックを治療するための第三選択薬として使用することを提案する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。

コルチコステロイドの主な作用は急性期ではなく晩期の炎症反応を抑制することであり、吸収速度が遅いこととその作用機序を考えると理論的にコルチコステロイドがアナフィラキシーの急性期治療に有用とはいえない。2012年のCochraneのシステマティックレビューではアナフィラキシーへのグルココルチコイド使用に関する十分なエビデンスがなく、その後のシステマティックレビューでもコルチコステロイドが二相性反応を防ぐというエビデンスがないことが確認された。コルチコステロイドは難治性アナフィラキシー(2回のアドレナリンの筋肉内投与の投与後も治療が必要)やコントロール不良な喘息に伴うアナフィラキシーでは有益かもしれないが、難治性アナフィラキシーの管理においても補助的手段であり、アドレナリンや他の血管作動薬を優先する。

 

Β2アゴニスト

吸入β2アゴニストはアナフィラキシーの治療に有効か?

  1. β2アゴニスト(サルブタモールなど)は アドレナリンの筋肉内投与後にアナフィラキシーによる下気道症状の補助的治療として有用であるかもしれない(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。
  2. アナフィラキシーの呼吸器症状が持続している場合、β2アゴニスト(吸入または静脈投与)をアドレナリンの代替として使用してはならない (強い推奨、非常に低いエビデンス)

β2アゴニストは臨床現場で広く使用されており、ほとんどのガイドラインでアナフィラキシーの第二選択薬として取り上げられているが、アナフィラキシーの緊急治療においてサポートするエビデンスは限られており、上気道閉塞を予防または緩和するものでもない。

 

経過観察

アナフィラキシー患者の入院期間はどのくらいか?

アナフィラキシー後の患者の退院には、以下のリスク階層化によるアプローチを提案する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。

二相性反応はアナフィラキシー症状が最初に消失した後に再発することをさすが、一過性にアドレナリンに反応したアナフィラキシーの遷延との区別が困難な場合もある。欧州のアナフィラキシーレジストリの分析では二相性反応の頻度は4.7%と報告され、3分の1が初期症状から12時間以上経過していたとされる。救急外来を受診したアナフィラキシーの前向きケースシリーズでは、315例中55 (17%)が遅発性に症状の悪化を認め、うち29(9.2%)がアドレナリンによる治療を要した。アナフィラキシー後の最適な経過観察時間は不明であり、2014年に行われた分析では、死亡例の2.5%がアレルゲン暴露後6時間以上経過した後に発生した。2020年のJTFPPでは、より重篤な初期症状(OR 2.11, 95% CI 1.23-3.61)または1回以上のアドレナリン投与(OR 4.82, 95%CI 2.70-8.58)が二相性アナフィラキシーに関連したとするメタ分析をもとに、重篤な初期症状を持つアナフィラキシー患者では経過観察時間の延長を推奨している。一方、二相性反応の95%1時間以内に捕捉できたとする2019年のメタ分析をもとに、軽症の低リスク例では1時間の経過観察が妥当としている。

 

 

アナフィラキシー消失から
2
時間経過(早期退院)

症状改善後、
最低6時間の経過観察

症状の消失後、
少なくとも12時間の観察

※以下をすべて満たす場合

発症後30分以内のアドレナリン単回投与に対して、5-10分以内に反応

症状の完全消失

未使用のアドレナリン自動注射器(AAI)を所持し、その訓練を受けている

帰宅後の十分な監視

2回のアドレナリンの筋肉内投与

または二相性反応の既往

3回以上のアドレナリン投与が必要

重度の喘息を併存、または重度の呼吸障害を合併

アレルゲンを継続的に吸収する可能性がある(例:徐放性薬品)

患者が深夜に来院した場合や悪化した場合に対応できない可能性がある

救急診療を受けることが困難な地域



 

 

 

 

 

エピネフリンの併用禁忌

ハロペリドールなどの抗精神病薬の添付文書にはアドレナリン(エピネフリン)投与について併用禁忌との記載がある。
一方,World Allergy Organizationの「アナフィラキシー診療ガイドライン(2011年)」には精神疾患への言及はあるが,エピネフリン併用禁忌に関する記述はまったくない。
一般臨床医はこのような状況にどのように対応すべきか。たとえば,抗精神病薬服用患者にアナフィラキシーが発生した場合の対応など。 (北海道 U

A

アナフィラキシーショックに陥った抗精神病薬投与中の患者に遭遇したとき,どのように対処するかという判断に関して,添付文書上はエピネフリン反転の機序により併用禁忌であるが,筆者はエピネフリンを使用する。

1]アナフィラキシーショックとは
アナフィラキシーショックは,体内に侵入したアレルゲンに対する,きわめて過剰なIgE抗体を介したI型アレルギー反応であり,血圧低下,喉頭浮腫を主徴とする重篤な病態である。数分〜数十分で全身性の蕁麻疹,血圧低下,喉頭浮腫が起こり,呼吸・循環障害に陥る危険性がある。
アナフィラキシーショックの治療は,循環不全と気道狭窄による呼吸不全に対処することで,治療薬のファーストラインはエピネフリンである。エピネフリンは,α受容体を刺激することで末梢血管が収縮し血圧を上昇させる。またβ受容体刺激作用により気管支拡張,心拍出量増加が起こり,全身のショック症状を改善する。

2]添付文書上の制限
エピネフリンは添付文書で大多数の抗精神病薬を併用禁忌としている。ブチロフェノン系薬剤(セレネース,トロペロンなど),フェノチアジン系薬剤(ウインタミンなど),イミノジベンジル系薬剤(デフェクトンなど),ゾテピン(ロドピン),リスペリドン(リスパダール)が禁忌として列挙されている。
また,大多数の抗精神病薬の添付文書にも,エピネフリンの作用を逆転させ,重篤な血圧降下の危険性があると記載され,抗精神病薬とエピネフリンは併用禁忌とされている。

3]併用禁忌の理由としてのエピネフリン反転
エピネフリンと抗精神病薬の併用が禁忌である理由は,エピネフリン反転(epinephrine reversal)という現象が起こる可能性があるからである。エピネフリン反転は,1906年にDaleによって,麦角アルカロイドをあらかじめ投与しておいたネコにエピネフリンを投与したところ血圧下降作用が生じたことで発見された。
エピネフリン反転は,α1受容体遮断薬投与後にエピネフリンを静脈内注射するとエピネフリンの血圧上昇作用が血圧下降作用に反転する現象である。エピネフリンはα1受容体に結合すると血圧上昇作用を示すが,β2受容体に結合すると血圧下降作用を示す(表1)。通常ではα1受容体を介した作用が優位のため,エピネフリンの投与により血圧上昇を示す。しかし,α1受容体遮断薬の存在下ではβ2受容体を介した作用が優位となり血圧下降作用を生じる(図1)。
抗精神病薬はドパミンD2受容体遮断作用により抗精神病作用を示す。薬剤間で程度の差はあるがα1受容体遮断作用があり,理論上はエピネフリン反転を起こすリスクがある。

4]臨床場面での実際の対応
しかし,(1)最近使用されている非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬ほどα1受容体遮断作用が強くなく(抗精神病薬の臨床的な受容体プロフィールは参考文献を参照),(2)抗精神病薬の至適投与量がエピネフリン反転を起こしやすいことの根拠が臨床的に乏しいことを考えると,アナフィラキシーショックが一刻を争う病態であり,これにエピネフリンが著効することから,筆者の私見として,抗精神病薬投与下のアナフィラキシーショック患者にもエピネフリンを使用するという回答になる。

5]代替方法はあるか
救急の場合はやむをえないとはいえ,添付文書上禁忌の薬剤の併用を推奨することはできない。なぜなら法的問題が生じる可能性があるからである。エピネフリンと抗精神病薬は併用禁忌である事実は存在する。
そこで考えられる代替療法であるが,アナフィラキシーショック時より広い概念で,抗精神病薬投与下で血圧を上昇させるためのエピネフリン以外の昇圧薬を以下に示す。まず,β2作用がないα刺激薬である塩酸フェニレフリン,およびα作用とβ1作用を有しβ2作用が弱いノルエピネフリンがある。これをもとにアナフィラキシー治療の組み立てを考えると,循環不全対策にノルエピネフリン,抗アレルギー作用にステロイドや抗ヒスタミン薬という組み合わせが考えられる。ただし救命処置としての即効性や確実な効果という面では明らかにエピネフリンに劣る。またバソプレシンやグルカゴンは交感神経を介さないので反転の問題はないが,アナフィラキシーショックに対する効果には疑問があり,さらに適応外使用という問題も発生する。
したがって筆者の意見は,このような救命の場では抗精神病薬投与下でもエピネフリンを使用するという回答になる。

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アナフィラキシー:アドレナリンとステロイドを直ちに

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)編集委員会

まとめ

結論:アナフィラキシーには直ちにアドレナリン、引き続きステロイドを使う

 

 

はじめに

COVID-19(いわゆる新型コロナウイルス感染症)用のワクチンの接種が進められています。

アナフィラキシーは、ワクチンの害反応として、まれとはいえ自発報告をもとにして100万回で5〜20[1]、医療従事者を対象にした日本の調査[1]を基にした厚生労働省(厚労省)の判断では65人、同じ調査を基にした本誌の検討で160[2]、米国の医療従事者を対象にした綿密な調査では270人でした[3]。詳細な調査では4000人から6000人に1人という大変高頻度の発症となっています[3,4]。治療を間違えば命にかかわる重大な害反応です。

世界人口(約70億人)の半分がワクチンを受けたとすると、約70万人がアナフィラキシーを起こすことになります。日本で、人口の半数6500万人が受けると1万人にアナフィラキシーが起こることになります。

アナフィラキシー経験者が急増

アナフィラキシーを経験したことのある人の割合が、最近増えてきています。小〜高校生でアナフィラキシーを経験したことのある児童・生徒の割合が、2004年には0.14%(約700人に1人)でしたが、2013年には0.48%(約200人に1人)と急増していました[4](図1)。食物アレルギー(2.6%→4.5%)やアレルギー性鼻炎(9.212.8%)も増えているなかで、特にアナフィラキシーの増加程度が著しいといえます。米国では成人も含めて1.6%がアナフィラキシーを経験しているとの報告もあり[5]、決してまれな反応ではありません。

図1:アナフィラキシー経験者が急増

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個々の薬剤や食物に対するアナフィラキシーは何万人に1人の頻度であっても、薬剤や食物は何千種類にも及ぶので、合計すると結構な頻度になるということでしょう。

このように、アナフィラキシーは、日常的に起こりうる薬剤による重大な害反応です。薬剤だけでなく、ソバアレルギーや蜂に刺されて起こるアナフィラキシーもあり[5-8]、適切な対処をしなければ、医療過誤事件にもなりかねません。死亡例では、起こりはじめから重篤であることもありますが、診断の遅れと、アドレナリン使用の遅れが大きく関係しています(後述)。

一方、1970年代にみられた誤った指針(ノルアドレナリンの推奨)は、最近の論説やガイドラインではさすがにみられなくなり、アドレナリンの使用が異口同音に推奨されています。これは適切です。

しかし、いくつかの点で、日本アレルギー学会のアナフィラキシーガイドライン[5]や重篤副作用疾患別対応マニュアル「アナフィラキシー」[6]それに世界アレルギー機関(World Allergy Organization: WAO)のガイドライン[7]には、不適切な記載が見られ、診断の遅れや、間違った治療が行われる可能性があります。本稿でこの機会に総点検しました。

アナフィラキシーの病態を理解し、速やかな診断と、適切な治療が行われ、救命可能なこの病態で、患者の命が失われることのないように願います。

アナフィラキシーとは

アナフィラキシー(anaphylaxis)は、Portier Richet1902年にクラゲ毒の代わりにイソギンチャクの毒素で研究中に観察した現象につけられたものです。初回(0日目と3日目と2度)には何の反応も起こさなかった量を22日後に3度目に同じイヌに注射すると、数分後には喘ぎだし25分後に死亡したと報告されています[9]この現象は、防御(phylaxis)に働かず、逆に重篤化したことから、「逆」を意味するanaをつけてanaphylaxis「アナフィラキシー」と命名されました。

その後、この反応は、1回目にイソギンチャクの毒素を接種されたイヌが感作されて起こるT型アレルギーであることが判明しました[10]。アレルギーの4つの型のうちのT型アレルギーは、1回目の接種で抗原に対するIgE抗体が体内にでき、これが2回目に接種された抗原と結合し、それがマスト細胞を刺激して反応を起こします。アナフィラキシーはI型アレルギーの中で最も重篤な反応です。

重篤な症状はマスト細胞の脱顆粒などによる

アナフィラキシーの重篤な症状は、基本的には、2つの仕組みで起こります。

  1. 脱顆粒:マスト細胞があらかじめ貯蔵していた炎症物質を含む顆粒を放出する(直ちに症状出現)
  2. 新たに炎症性物質を作り放出(詳細後述)

アナフィラキシーは、I型アレルギー反応で起こることが多いのですが、それだけではありません(註1)。アレルギーを介することなく、化学的刺激や、アレルギーによらない薬物過敏(オピオイドやバンコマイシン、造影剤、消毒剤など)、さらには、寒冷や山での滑落事故による擦過傷など、物理的刺激でも起こります[5-8]

1:喘息患者にみられ、アスピリンなど非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)の過敏による重症喘息発作はマスト細胞を介さないが、アナフィラキシーに含める分類[6]もある。また、極めてまれだが、マスト細胞を介さない、II型アレルギー(細胞傷害性)やIII型アレルギー(免疫複合体)でも起こる[11-13]

アナフィラキシーの症状

原因のいかんを問わず、アナフィラキシーの症状は、基本的にマスト細胞が刺激されて放出された顆粒や、新たに作られる炎症誘発物質によるものです。そして、後で詳しく触れますが、このようなマスト細胞の活性化を抑えて、脱顆粒と炎症誘発物質の産生を止めることが、治療に直結するので、特に重要です(註1のアスピリン・NSAIDs喘息以外の機序は極めてまれな例外)

アマスト細胞内にあらかじめ作られていた顆粒には、主にヒスタミンが含まれています。ヒスタミンは、激しいかゆみや浮腫を起こしますが、半減期は分単位[10]なので、新たな顆粒の放出を防ぐことができれば、比較的速やかに治まります。

一方、新たにマスト細胞内で作られる炎症誘発物質としては、ロイコトリエンDやプロスタグランジンがあります。これは5分から30分程度で出てきます。またTNFαやインターロイキン(IL-4などサイトカイン類が、時間単位で作られます[10]

マスト細胞は、体のあらゆる場所(粘膜下や結合組織)に分布していますが、臓器別の多さは人によって異なっています。アトピーで皮膚炎が出やすい人、花粉症で目にかゆみが起こりやすい人、鼻炎が起こりやすい人、気管支喘息の症状が出やすい人がいるのは、それぞれの臓器にマスト細胞が多くて反応しやすいからと考えると、理解しやすいでしょう。片頭痛もマスト細胞で起こりますが、これは頭や硬膜のマスト細胞が反応して炎症が起こるためです。

アナフィラキシーの症状も、人により強く出る部位が違います。これも、臓器別のマスト細胞の多さが関係しているでしょう。

アナフィラキシーの症状も蘇生時のA:airwayB:breathingC:circulationの順で重要です[8](1)

表1:アナフィラキシーの症状:命への影響の大きい順にABC

 

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AAirway気道:

最も重篤な症状は喉頭浮腫による気道(Airway)の閉塞です。喉頭部分(声帯のある部分)は狭いので腫れると気道が閉塞して、低酸素状態になり、意識消失やけいれん、ショックを起こします。この低酸素状態で起こるショックが最も重篤かつ危険で、死亡の最重要の原因となります。この状態では、患者は呼吸困難やゼーゼーといった呼吸症状を訴える間もなく呼吸が停止する [14,15] ので、経験のない医師には何が起こったのかわからないことがあります。

ジンマシンやかゆみ、発赤が出る間もない場合があります。この状態では、昇圧剤を使っても血圧は上がりません。アドレナリンを速やかに使い(できれば緩徐に静注し)、気管挿管して酸素補給が必要です。その後アドレナリンの持続点滴とステロイドが必要です。軽い症状は、声の変化(しわがれた声=嗄声)、のどが詰まる感じ、吸気性喘鳴(ヒーヒー)などです。

BBreathing呼吸:

呼吸器症状:喉頭以外の気管支に主に作用すると気管支喘息のような、咳と喘鳴(ゼーゼー)、呼吸困難、頻呼吸、低酸素性のせん妄、チアノーゼが起こります。上記(A)のように、喘鳴もなくいきなり呼吸困難と呼吸停止の場合もあるので要注意。

CCirculation循環:

血管の周辺で反応が起こり血管が拡張し、体液が血管外に滲みだし、血圧が低下し、頻脈になります。

DDerma皮膚・粘膜:

ジンマシンやかゆみ、発赤が起こります。急激な例では、ジンマシンや発赤が起こる前に、口唇や手指先のシビレ、チカチカするといった症状で発症することもあります。

EEntero-腸・消化管:

吐き気や腹痛、下痢、嘔吐といった症状になります。食べ物や内服薬剤でアナフィラキシーが起こるときには、まず、胃腸の粘膜が腫れて吐き気や腹痛が起こり、その後に下痢をし、次いでジンマシンが現れるといった順番で起こることがあります。

また、食べ物や内服薬剤の場合は、1回目は、こうした腹部の症状だけであったのが、2回目にはジンマシンまで出たけれど治まった。そして3回目に食べたり服用したりして、アナフィラキシーとなり、ショック状態となることがあります[13]

F)頭(脳、硬膜)にアナフィラキシーが起これば、頭痛やめまい、不安、突然の行動の変化、せん妄状態、あるいは重症例ではけいれんや意識障害になり、

G)心臓にアナフィラキシーが起これば、不整脈が生じたり心筋虚血が生じたりします。

H)その他:膀胱や、子宮など、あらゆる臓器でアナフィラキシーは起こりえます。

いずれにしても、命に関わるのは、喉頭が腫れて気道が閉塞し、低酸素症となって起こるショックです。低酸素によるショックには酸素が必要です。いくら昇圧剤を使っても無効です。十分に心得ておいてください。この点、ガイドラインは不十分です。

アドレナリンとステロイドで「元」を絶つ

アナフィラキシーの症状を起こしているのはマスト細胞の活性化です。出てきたヒスタミンによって下がった血圧を上げようとしても、次々にマスト細胞からヒスタミンが出てきます。だから、「元」を断たなければアナフィラキシーは治まりません。

脱顆粒などを起こすマスト細胞の活性化を断つにはどうすればよいのか。

マスト細胞の脱顆粒など活性化を抑制する主体は、アドレナリンβ2作用とステロイドです。マスト細胞の表面に、どちらの受容体も存在しています。

アドレナリンは、そのβ2受容体に作用して、秒単位でマスト細胞の活性化・脱顆粒を抑制します[16-18]。脱顆粒でヒスタミンの放出を抑制するだけでなく、ロイコトリエンプロスタグランジンの産生と放出も抑制します[16,18]

また、ステロイドもマスト細胞の表面の受容体に作用して秒単位、分単位で作用するとともに、マスト細胞内の核内遺伝子に作用して30分から時間単位でマスト細胞の活性化を抑制します[19,20]

だから、アナフィラキシー治療には、アドレナリンはもちろん必須ですが、それだけでなく、ステロイドも即座に使っておく必要があるのです。

ガイドライン[5,7,8]には、この「元を絶つ」という考え方が、基本的に希薄です。

図2:アナフィラキシーにβ2作用が必須の理由

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「元を絶つ」ためのアドレナリンβ2作用が重要なことは、次の点からも言えます。アドレナリンとノルアドレナリンのα作用(末梢血管収縮作用)およびβ1作用(心収縮力増強)はほぼ同じですから、アドレナリンのα作用(末梢血管の収縮)とβ1作用(心臓の収縮を強化)が重要なら、ノルアドレナリンもアナフィラキシーに効くはずです。しかし実際は全く無効です。だからノルアドレナリンにはないβ2作用こそが重要であることが明瞭です(図2)。

この点についても、日本のアナフィラキシーガイドライン[5,6] は、書き方が極めてあいまいです。

心停止後にアドレナリンを使用しても無効

マスト細胞による脱顆粒が進んだ状況では、循環状態をほとんど改善しない[21-24]ということも、「元を絶つ」ことの重要性を示しています。

アナフィラキシーで死亡の原因となるのは、もともとの反応が数分以内に起こるなど超重篤例であることと、アドレナリンの注射時期を失することが極めて重要です[22-24]。脱顆粒などを起こすマスト細胞の活性化を断つにはどうすればよいのか。

たとえば、アナフィラキシーの初期に、血圧が下がっていないからと、アドレナリンの注射をためらっていると、みるみるうちに血圧が下がり、呼吸停止することがあります。

アナフィラキシーによる死亡例では62%でアドレナリンが使用されていましたが、心停止前に使用されていたのは14%に過ぎなかったとの報告があります[23,24]。このほかにもアドレナリンの遅れが死亡につながったことを示唆する調査が何件か報告されています[24]

 

 

ステロイドもアナフィラキシーに必須

ガイドラインのもう一つの欠陥は、ステロイド剤に関する扱いの低さです。日本のガイドライン[5]では「作用発現に数時間を要し、二相性アナフィラキシーを予防する可能性があるが、その効果は立証されていない」、WAOのガイドライン[7]では、「ステロイド剤は、アナフィラキシーにおける持続症状(特に喘息患者)の予防や、二相性反応の予防を目的としてよく用いられているが、アナフィラキシーの急性管理に有益ではない、有害でさえあるかもしれないという証拠が増えてきており、日常的な使用は、議論となってきている。」と記載しています。

しかし、ステロイドがマスト細胞の受容体に結合し、核内遺伝子に作用して炎症誘発物質を抑制するまでの時間は数時間ではなく、早ければ30分程度です[19]。しかも、マスト細胞表面の受容体(遺伝子以外)にも作用して秒単位、分単位で脱顆粒を抑制する作用も有しています[19,20]

さらに、アドレナリンのβ2受容体に対する耐性[16,25,26] のためにアドレナリンの作用が減弱する1〜2時間後にステロイドの効果が強くなってくるので重要です(註2)。人の体内ではこれが自然の仕組みとして働きます。しかし、アナフィラキシーという特別の外的刺激に対しては、アドレナリンとステロイドが適切に作用するように使っておかなければいけません。

註2:危機に際して体はアドレナリンやドパミンを出して対処するが、体に過酷な興奮や闘いが続くと、体の各部位の虚血を招く。そのため、刺激を受ける受容体を減らして闘い続けないようにする。これをダウンレギュレーション(down regulation)という。高校生までの50分授業10分休み(最近は大学でも採用)は、ストレスの持続で体に虚血性の損傷をつくらないための工夫として合理的である。

観察研究からステロイドの再重症化防止は明瞭

日本のガイドライン[5,7]だけでなく、世界アレルギー機関(WAO)のガイドライン[7]でもステロイドの位置づけは高くありません。しかし、WAOが引用したレビュー論文[27]を、詳細に点検したところ、ステロイドは無意味と結論付けていた論文のデータ[28]は、むしろステロイドが再重症化を防いでいたことを如実に示していました。

発症から8時間以上入院を要したアナフィラキシーはきわめて重篤なアナフィラキシーで、240人中ステロイドを使用していなかったのは1人だけでした。したがって、重症化の要因はステロイド以外だったと考えられます(もともと重篤であったことが重要でしょう)。

一方、8時間未満で退院した(比較的軽症と考えられる)アナフィラキシー292人中、ステロイドが使われていた277(95%)では、再重症化は8人(3%)だけでしたが、ステロイドを使っていなかった15人(5%)では4人(27%)が再重症化していました。ステロイド不使用による再重症化の危険度は12倍でした(図3)[28]

図3:ステロイドはアナフィラキシー再増悪を防止

 

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グルカゴンはβ遮断剤使用例にも不要

アドレナリンとステロイドの適切な使用こそ重要

β遮断剤を用いている人における難治性アナフィラキシーで、グルカゴンが推奨されています[5-8]。しかし、世界的に認知されつつあるこの方法は、わずか1例ずつ2件の症例報告[29,30]が根拠です。このほか、日本語の文献も含めてもう1例ずつ[14,31]、合計4件の症例報告が検出できました。

それらを詳細に検討したところ、4例ともすべて、β遮断剤は心選択制、すなわちβ1選択性のβ遮断剤でした。アテノロール2[29,30]、ビソプロロール1例[14]、メトプロロール1例[31]です。これらβ遮断剤は、アドレナリンのβ2作用を阻害しませんから、アナフィラキシーで活性化されたマスト細胞のβ2受容体を介してアドレナリンは十分に効果を発揮します。

経過をよく検討すると、全例でアドレナリンの使用が不適切でした。うち3[14,29,30]は造影剤使用直後に血圧低下し、そのうち1[14]2分後に心停止が生じた超劇症例でした。アドレナリンを静注して、一旦は心拍が再開、もしくは血圧が一旦上昇しています。しかし、2[14,30]1015分間にアドレナリンを3アンプル(1mg×3)静脈注射が必要でした。1例[29]は、5分後には昇圧効果が消失したとしています。

アドレナリンの効果持続時間は静注した場合、数分以内と極めて短いため、これら症例では、絶対に持続点滴が必要です(註3[32-35])。ところが、3例とも持続点滴をしていません。2例[14,30]では、ノルアドレナリンやドパミンが持続点滴されただけで(註4[36,37])、再度血圧低下をきたしたためにグルカゴンが使用されたものです。

註3:イソプレナリンの効果持続時間は3分程度だが[32]、アドレナリンの効果持続時間は、それよりも短い[33]。また、通常のアナフィラキシーでは、アドレナリンの筋肉注射では5〜10分後に効果のピークがあり、40分程度は持続する[5,34]。しかし動物実験の結果から、いきなり心停止する超重篤例では、筋注や皮下注は効果がなく、1回の静注の効果は一時的で、持続点滴をしなければ効果がない[35]

註4:1例[14]では、その後アドレナリンを持続点滴しているが、0.02~0.08μg/kg/分と、重篤例に対する推奨用量(0.30.45μg/kg/分)[36,37]に比べて極めて少ない。いずれにしてもアドレナリンの使い方が不適切であった。なおこの例は発症から少なくとも2時間はステロイドが使われておらず、グルカゴン注射時期と、遅れて使用されたステロイドの効果が発現してきた時期が一致したものと推察される。

また、1例[29]では、アドレナリン1mg静注後5〜10秒後に血圧は80まで上昇したので、効果はあったのですが5分後に消失したため、効果が短いのはβ遮断剤のためと判断され、すぐにグルカゴンが静注されました。しかしこれも約30分後には無効になったためにグルカゴンを持続点滴して血圧を維持できた、というものでした。アドレナリンを持続点滴なしでは、アナフィラキシーが悪化するのは当然です。

もう1例[31]は、気管支喘息のために、抗インターロイキン-5モノクローナル抗体のメポリズマブを使用後のアナフィラキシーでした。アドレナリン0.3mgを3回筋肉注射し、途中でメチルプレドニゾロン125mgを静注して、ようやく、血圧が186/118、心拍77/分と改善しました。ところが、なおも喉が閉まる感じを訴えたために、グルカゴンが使われたものです。

このメポリズマブは、血中濃度がピークに達するのが静脈注射でも2〜3時間、皮下注射なら5日程度かかり、半減期が20日前後と極めて長い(添付文書)。そのため、抗原刺激が引き続き起こり、喉頭の閉塞感が持続するなどアナフィラキシー症状が持続したと考えられます。それに、血圧も心拍もβ遮断剤による影響は全く考えられない値(血圧186/118)でした。アナフィラキシーでした。アドレナリン0.3mgを3回筋肉注射し、途中でメチルプレドニゾロン125mgを静注して、ようやく、血圧が186/118、心拍77/分と改善しました。ところが、なおも喉が閉まる感じを訴えたために、グルカゴンが使われたものです。

結局、β遮断剤の使用のために難治であったという4例は、全例、アドレナリンやステロイドの使い方がよくなかったために難治になっただけで、アドレナリンとステロイド剤を適切に使っていれば(註4)、グルカゴンは全く不要の例ばかりでした。

もう1例[31]は、気管支喘息のために、抗インターロイキン-5モノクローナル抗体のメポリズマブを使用後のアナフィラキシーでした。アドレナリン0.3mgを3回筋肉注射し、途中でメチルプレドニゾロン125mgを静注して、ようやく、血圧が186/118、心拍77/分と改善しました。ところが、なおも喉が閉まる感じを訴えたために、グルカゴンが使われたものです。

もう1例[31]は、気管支喘息のために、抗インターロイキン-5モノクローナル抗体のメポリズマブを使用後のアナフィラキシーでした。アドレナリン0.3mgを3回筋肉注射し、途中でメチルプレドニゾロン125mgを静注して、ようやく、血圧が186/118、心拍77/分と改善しました。ところが、なおも喉が閉まる感じを訴えたために、グルカゴンが使われたものです。

グルカゴンはβ遮断剤過量にも補助的にすぎない

グルカゴンは、アドレナリンとは異なる部位に作用して、細胞内でエネルギーのもとになるc-AMPを増やし、アドレナリン様の作用をし、マスト細胞や血管平滑筋、心筋にも作用します[38]。しかし、β遮断剤過量状態に対しても、基本的な治療剤は、アドレナリンやイソプレナリン、バゾプレッシンであり、グルカゴンは、補助的な意味しかありません[39]

まして、中毒用量ではない通常量のβ遮断剤、特にβ1選択性のβ遮断剤は、アドレナリンのβ2作用には拮抗しないので、アドレナリンとステロイド剤を適切に使用すれば、グルカゴンは必要がありません。

抗精神病剤使用中でもアドレナリンを使用

アドレナリンは以前、ハロペリドールやリスペリドンなどの神経遮断剤(抗精神病剤)と併用禁忌になっていましたが、最近、アナフィラキシーの場合は禁忌でなくなりました[40]

抗精神病剤の過量中毒・循環虚脱型ショックの際には、アドレナリンは現在も併用禁忌です。実際に症例報告が最近でもあります[41,42]。これは、大量の神経遮断剤がアドレナリンのα作用に拮抗し、さらには、アドレナリンのβ2作用によって筋肉の血管が拡張するために血圧が下がるからです。この場合は、β2作用のないノルアドレナリンを使わなければいけません。

しかし、通常量の抗精神病剤を使っている人がアナフィラキシーになった場合は、ノルアドレナリンは無効です。どうしてもアドレナリンが必要ですし、常用量程度の神経遮断剤ではアドレナリンを使っても逆説的血圧低下はまず起こりません。ただし、気道の閉塞はなくなり、呼吸困難はないのに、血圧の戻りだけがよくない場合には、ノルアドレナリンが必要になる場合もありうるかもしれません。

実地臨床では

アナフィラキシーに対する治療の原則を、英国のガイドライン[8,43]を一部修正して表2に示します。。

アナフィラキシーは、薬剤による重篤な害反応です。不適切な治療では救命できない場合がありますが、適切な治療をすれば死亡を回避できます。

アナフィラキシーは、適切に速やかに診断し、直ちにアドレナリンを注射し、引き続きステロイドを忘れずに使用しましょう。

 

2:アナフィラキシーの治療の原則

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文献[8]を一部改変

 

 

 

参考文献(詳細)

  1. 厚労省、ワクチン分科会副反応検討部会料(2021-3-12
  2. 薬のチェック編集委員会、アナフィラキシー多発:6000人に1人、薬のチェック速報版No191
  3. Blumenthal KG, Robinson LB, Camargo CA Jr, et al. Acute Allergic Reactions to mRNA COVID-19 Vaccines. JAMA. 2021 Mar 8. PMID: 33683290
  4. 文部科学省:学校生活における健康管理に関する調査(2013)
  5. 日本アレルギー学会、アナフィラキシーガイドライン2014
  6. 重篤副作用疾患別対応マニュアル、アナフィラキシー, 2019
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アレルゲン免疫療法  allergen immunotherapy アレルギー症状を長期間和らげたり、治すことが期待できる治療法

 

減感作療法hyposensitization therapyとも呼ばれ、アレルギーの原因である「アレルゲン」を少量から投与することで、

体をアレルゲンに慣らし、アレルギー症状を和らげる治療法です。

アレルギー症状を治す可能性のある治療法と考えられています。

アレルギー症状のある疾患のうち、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息などに対してこの治療法が行われています。

 

アレルゲン免疫療法の特徴:

■アレルギー症状を治したり、長期にわたり症状をおさえる可能性のある治療法です。完全に症状がおさえられない場合でも、症状を和らげ、アレルギー治療薬の使用量を減らすことが期待できます。

■アレルゲンを投与することから局所や全身のアレルギー反応がおこるおそれがあり、まれに重篤な症状が発現するおそれがあります。

■治療は長期間(35年)かかります。正しく治療が行われると、初めてのスギ花粉飛散シーズンから症状を和らげることが期待されます。年単位で継続することで根本的な体質改善が期待できると考えられています。

 

多くのアレルギー疾患の治療が対症療法的であるのに比して、アレルゲン免疫療法はアレルギー疾患の作用機序に働きかけ、

根治を目標に治療が行われ、注目されています。

舌下減感作療法は、現在治療研究がなされており、在宅治療の可能な、安全な治療法への展望も見せています。

 

 

現在一般的な疾患:花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、ハチ毒アレルギー

研究中:食物アレルギー

適応拡大の可能性があるもの:食物アレルギーも含め一部のアトピー性皮膚炎、蕁麻疹、薬剤アレルギーなど

 

 

歴史

日本では漆器職人など漆を扱う職業の親方が、徒弟の舌下に少量の漆を置いて少しずつ量を増やす事で漆アレルギーを起き難くさせる、という事が経験則から慣習的に行われていた。

 

1873年、イギリスのCharles H. Blackleyは、『枯草熱あるいは枯草喘息の病因の実験的研究』で、

当時"hay fever"または"hay asthma"と呼ばれる、季節性の呼吸器疾患が花粉と関連していることを示した。

これはアレルギー疾患と、そのアレルゲンとの関係性を示した最初の学術論文の一つといわれている。

1911年、ロンドンのセント・メリー病院予防注射科の医師 L. Noonは『枯草熱に対する予防接種』を発表した。

これは、hay feverに対する未知の花粉に含まれる毒素に対して抗毒素を検討し発表したものであり、減感作療法の試みの起源であるという。

1943年、アメリカのM.H.Lovelessは減感作療法の研究で、血清中に阻止抗体(そしこうたい、blocking antibody)とよばれる、特定の他の抗体に対して阻害的に働く抗体を発見した。

一方で、鼻粘膜におけるIgGの量は変化がないことから、この遮断抗体の関与は疑問とする意見もある。

 

 

治療作用機序

アレルゲンに対する個々の反応には、発症することなく見逃す最少の暴露量が存在している。

ごく少量のアレルゲンを投与し、アレルギー症状を引き起こさないで見逃す暴露量を仕組み全体が「再調整」されるまで、徐々に投与量を増量して治療するそしてこのプロセスは特異免疫療法(とくいめんえきりょうほう、specific immunotherapy)とも呼ばれる。

 

反復して(必要最低限量の)アレルゲンに暴露させることで、アレルギー症状は減弱していくので、対症療法の使用も減少していく。

完全には解明されていないものの、アレルゲン免疫療法は免疫系の調整をしているという見解は受け入れられている。

この再調整により、IgE産生量が変化し、アレルギー反応が減弱し、調節T細胞の一種であるTh2細胞が増加する。

 

分子生物学的な機序は、アレルゲン特異的IgE産生の代わりにアレルゲンと結合し中和するアレルゲン特異的なIgG誘導が起こることで部分的には説明できる。

 

また、アレルゲン免疫療法は、Th2細胞やアレルギーに関与する肥満細胞に作用するIL-10の産生を増大させる。

IL-10を介してTh2はロイコトリエン産生を抑制し、ヒスタミン分泌を予防するように働く。

 

アレルゲンの存在下にCD14+細胞からTh1細胞を活性化するIL-12産生が誘導する働きを持つオステオポンチン産生が示されている。

 

皮下投与と舌下投与

アレルゲンの投与経路は、点眼をはじめ、さまざまな方法が試みられてきた。現在は主に皮下投与と舌下投与が代表的である。

 

花粉症に対し効果を実感するのは治療開始24ヶ月後であり、花粉症情報レベルが低い時期から始める。

3年目で効果が最大となる。

アレルゲン免疫療法が成功した後は、長期のアレルギー防止効果が見られ、それは35年かそれ以上になる。

アレルギー症状が再発したり、治療したアレルゲンとは別のアレルゲンに感作した場合は再びアレルゲン免疫療法をやり直すことができる。

 

皮下投与では治療用標準化アレルゲン抽出エキスを皮下注射器で投与する。

通常は上腕内側の肩と肘の中間のたるみのある皮膚組織に行う。

局部の不快感などを軽減するために、皮下投与の数時間前に抗ヒスタミン剤の服用を勧める場合がある。

 

極めて低い投与量から開始し、定期的(通常週12回)投与ごとに徐々に増量し、維持投与量に達する。

維持投与量到達には通常46ヶ月を要する。その後投与間隔は隔週〜隔月となり、通常は数年間継続する。

 

舌下投与は皮下投与に比べて安全・効果的・在宅治療が可能であり、少なくとも最初の季節の内に治療効果は現れるという 。プラセボ使用二重盲検法で調査した結果では有効性が認められている。

緩やかな増量は必要なく、通常初回投与から臨床投与量が与えられる。

千葉大学の岡本美孝教授は日本経済新聞の記事で「しっかりとした効果を得るために最低でも2年間、できれば3年間続けてほしい」と話している。