炎症とは何?
炎症反応は、一般的には体に悪いようなイメージがあると思いますが、それは間違っています。組織の修復には炎症が不可欠であり、その反応なしに傷ついたものが治ることはありません。
炎症を引き起こす原因には、体の外からの有害な刺激によるものと、体の中で生じる問題の2つがあります。外からの要因には、熱や強い圧迫、針で刺すといった「機械的刺激」などがあります。その一方で内の要因には、免疫システムの異常によるアレルギーや、代謝の乱れで起こる痛風(つうふう)などがあります。
整形外科に通う患者さんの多くは、外からの有害刺激、特に機械的刺激による痛みがほとんどです。背骨や骨盤の問題から、体のある一カ所の筋肉や関節に過剰な力が加わることで、組織が傷つき炎症が生じます。
そして、その過剰な力が持続して加わり続けるか、何らかの原因で炎症反応がスムーズに進まないと、組織の損傷は治りません。症状が長期に及ぶと、最初は純粋に傷の修復のために生じた炎症による疼痛だったものに、徐々に脳の影響が加わり複雑化します。
そのため、組織の損傷による疼痛は、早期に過剰な力を取り除き、炎症をスムーズに終わらせ、症状を長期化させないことが大切になります。
炎症反応について
炎症反応の目的は、傷ついて壊死(えし)した細胞を取り除くことと、損傷した組織を修復することです。この2つの目的を達成するために、さまざまな細胞や化学物質が関わり、傷ついた組織を治します。
組織が損傷すると、組織を構成している細胞にも傷害が生じます。そして、その細胞は最終的に壊死します。こうして壊死した細胞は、組織が修復するときには必要ないため取り除かれます。
そのときに働くのが「白血球」と呼ばれる免疫に関わる細胞です。白血球は、壊死した細胞を食べて消化します。そして、その細胞が白血球によって破壊されるときに、細胞内に含まれていた化学物質が流出します。この化学物質は、周囲の細胞にさまざまな反応を引き起こします。
また、炎症には、血管の反応が欠かせません。組織が損傷すると、周りの血管も傷害されるため、出血が起こります。そのため、受傷直後は止血が必要となるため、血管が収縮して血流を止めようとする反応が起こります。
一時的な血管の収縮に続いて、今度は血管の拡張が起こります。これによって、腫脹(しゅちょう)や熱感などの、炎症に特有の症状が出ます。
また、白血球が損傷部位に集まるためには、血管が広がった後に、血液内から組織の中に移動する必要があります。組織と血液内は、血管の壁で仕切られています。そのため、反応の過程で生じた化学物質の働きによって、血管の細胞間にある結合部分が開き、白血球が血管を通過できる状態になります。
そして、既に述べたように、白血球は損傷が起こった組織の中に入り、壊死細胞を除去します。その後、白血球は自ら消滅するか、血液と共に不要物質を排泄する働きをもつ「リンパ」と呼ばれるものを通って、その場を去ります。
このような過程で炎症反応は終わります。
炎症反応による疼痛は、血管の収縮や拡張などの反応を引き起こすために発生した化学物質によって引き起こされます。このような理由からも、炎症による痛みは、組織が治るために不可欠なものだといえます。
以上のことから、炎症によって生じる痛みや腫れ、熱などの症状は、組織が治る過程で起こるものだといえます。そのため、これらの反応は体にとって必要不可欠なものです。
Danger Signal(危険信号)に体が反応して炎症が始まる
炎症は、異物や死んでしまった自分の細胞を排除して生体の恒常性を維持しようという反応と考えられます。例えば細菌やウイルス(一種の異物です)が体の中に侵入しようとした時に、さまざまな細胞などの生体内成分がその排除に働いた結果が炎症性反応です。それらの反応の中には、予め体の中に用意されている直ちに働く成分による反応と、やや時間をかけて一旦その異物の構成成分を解析してから強力に攻撃する時に後から作られる成分による反応があります。
前者の反応が開始するのに重要な成分として、ヒトには存在しない細菌やウイルスの構成成分を認識するセンサーが、あらかじめ体の中に存在することが、最近になって分かってきました。
そのセンサ-が感知する細菌やウイルスの構成成分による刺激のことをDanger Signalと呼んでいます。細菌やウイルスが体の中に侵入すると、そのセンサーが感知し防御反応が始まるのです。
なお、細菌やウイルスの構成成分のことをPAMPs(pathogen-associated
molecular patterns; 病原体関連分子パターン)、またPAMPsを認識するセンサーのことをPRRs (pattern-recognition receptors:パターン認識受容体)と総称しています。
後者の、やや時間をかけて起こる反応は、いわゆる免疫反応(獲得免疫反応)です。この反応で異物を排除する成分としては、抗体(特に抗原特異性が高い効率的に攻撃できるタイプの抗体)などが良く知られています。なお、この獲得免疫反応は、しばしば炎症と分けて説明されることが多いかと思いますが、病気と関係する獲得免疫反応は、炎症反応の一種と考えると理解しやすいと思います。
体の中にもあったDanger Signalとなる成分
細菌やウイルスの構成成分をDanger Signalとして感知するPRRsに関する研究が盛んに行われた結果、ごく最近になってそれらのPRRsがもともと私たちの体の中にある成分にも反応することが明らかになってきました。
例えば、通常は細胞の中に留まっているある種の成分が、細胞が死んで細胞外に出ると、それを体内のセンサーがDanger
Signalとして感知し、炎症反応を引き起こすことが分かってきました。このような炎症については、細菌やウイルスの成分が引き起こすこれまで知られていた感染性の「炎症」と区別して、非感染性の「自然炎症」と呼ぶことがあります。
そのような炎症を引き起こす体の中にある成分をDAMPs(damage-associated
molecular patterns; ダメージ(傷害)関連分子パターン)と総称しています。
このように、体の中の成分も炎症を引き起こすのであれば、いつでも体の中で炎症が起きてしまうことになりますが、、通常はそのようなことにはなりません。しかし、種々の非感染性の慢性炎症を伴う病気では、その「自然炎症」が病気の重要な原因となっていることが予測されます。しかしながら、それらの病気と「自然炎症」との関連性については、まだ十分には明らかとなってはいません。
以上の自然免疫系の反応を下の図に示します。
(A) 感染症のときの自然免疫系の反応
細菌やウイルスからは、PAMPsが放出され、免疫系細胞のTLRなどのPRRsに結合して、自然免疫応答を刺激し、炎症や獲得免疫系の活性化が起こり、最終的に感染症から回復して組織が修復されます。
(B) 非感染症の場合の自然免疫系の反応
細胞がストレスにさらされたり、傷害された時にも、感染した時と同じようなイベントが起こります。そのような細胞からは健常であれば細胞内に隠れていた分子(DAMPs)が放出されます。それらDAMPsは免疫細胞のPRRsや特別なDAMPs受容体に結合して、炎症性サイトカインの放出を促進したり、組織へ免疫系細胞を遊走させて、炎症を起こします(自然炎症)。その過程に関与する免疫系細胞も、樹状細胞(DC)やマクロファージ(MΦ)のような抗原提示細胞、T細胞(T)や好中球(PMN)など感染時とほぼ同様です。DAMPsは獲得免疫系も刺激し、自己免疫反応や組織修復にも関与します。
PAMPs ( pathogen-associated molecular patterns; 病原体関連分子パターン), DAMPs (
damage-associated molecular patterns; ダメージ(傷害)関連分子パターン),
PRRs ( pattern-recognition receptors: パターン認識受容体), TLR (
Toll-like receptor; Toll様受容体)
異物反応Foreign body reaction
とは、体内に侵入した異物に対して起こる自然免疫系に属する炎症反応の一種である。異物巨細胞が見られることを特徴とする。
概要
異物反応とは、体内に侵入した異物の周辺で起こる一連の免疫反応のことである。生体内に異物が侵入すると周辺に炎症が発生するが、特に異物の表面には貪食細胞が集積する。1週間以上にわたり炎症が継続すると、異物表面に線維組織が形成され異物を生体から隔離する(被包化)。この時、異物表面にはマクロファージおよびこれが合一した異物巨細胞が見られる。
機構
体内に異物が侵入すると補体系が活性化され、アナフィラトキシンが生成される。アナフィラトキシンは肥満細胞の脱顆粒を促し、炎症を引き起こす。この時放出されるヒスタミンには貪食細胞に対する走化性を持つ[2]。誘導された貪食細胞は異物表面に吸着するが、異物が10μmより大きい場合はマクロファージは異物巨細胞へと合一する。吸着したマクロファージおよび異物巨細胞は、異物表面に細胞膜で囲われた微小環境を形成し、ここに活性酸素種などを放出することにより異物の分解を試みる。また、これらの単球系細胞はTGF-βを産生し、線維芽細胞によるコラーゲンの産生を促す。
参考文献
“Dorland's Medical Dictionary for Health Consumers”. 2014年6月6日閲覧。
^ Anderson, James, M.; Rodriguez, Analiz; Chang, David T. (2008), “FOREIGN BODY REACTION TO BIOMATERIALS”, Seminars in Immunology 20: 86--100
^ Tang, Liping; Jennings, Timothy A.; Eaton, John W. (1998), “Mast cells mediate acute inflammatory responses to implanted biomaterials”, Proceedings of the National Academy of Science of the U.S.A. 95: 8841--8846
異物巨細胞: Foreign Body Giant Cell、FBGC)
は、複数のマクロファージが合一した食細胞である。インプラント等の生体中の非分解性異物を除去するために、慢性炎症に伴って形成される[1]自然免疫系の細胞である。細胞内の核は配置に規則性を持たない。
概要
生体中の異物(自己組織由来でない物質)は通常マクロファージが貪食することによって除去されるが、異物がおよそ5μmより大きい場合には貪食することができない[2]。この場合炎症が慢性化することとなり、これに伴って分泌されるサイトカインの刺激によってマクロファージが合一し異物巨細胞が形成される。
貪食
複数のマクロファージが合一することにより、単独のマクロファージでは貪食することのできない大きさの異物を貪食できるようになる。また、異物表面に接着した巨細胞は、異物との間に活性酸素種やMMPのような酵素などを放出することによって異物の分解を促進する[3]。
治癒への寄与
異物巨細胞への合一を促進しない基材上ではマクロファージはインターロイキン(IL)-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインの産生を継続する。一方、巨細胞へと合一するとこれらの産生は抑制され、代わって抗炎症性サイトカインであるIL-10、IL-1ra などを産生する。このことによって、異物巨細胞は炎症の鎮静化に寄与しているものと考えられている[4]。
線維化の促進
その一方、異物巨細胞はTGF-βやPDGFも産生することが知られており、これらは筋線維芽細胞によるコラーゲン産生を促進することから、巨細胞が筋線維芽細胞を介した異物の被包化 (encapsulation) に寄与しているものと考えられる[4]。
特徴
合一したマクロファージの数により様々な大きさを持つ細胞で、多い場合には数十にもなる多数の細胞核を含む。細胞質はよく発達しており、核は細胞質の中央付近に互いに重なりあって存在する。
細胞表面にはインテグリンα3β1[2]が見られる。
形成
培養系では液性因子としてはIL-4[5]、-13[3]、接着タンパクとしてはフィブロネクチンやビトロネクチン[4]により合一が誘導されることが知られている。逆に、オステオポンチンは合一を抑制する[6]。
合一が開始する際には、CD44およびCD47の発現が増加し、各々合一と多核化に寄与する。また、少なくとも一つのマクロファージで樹状細胞特異的膜貫通タンパク質 (DC-STAMP) が必須である[3]。
組織が損傷を受けると、直ちに『炎症』が生じ、その中心的役割をなす血管反応がスタートします。これは、次の3つの過程からなります。
@血管内径の変化とそれに伴う血流量の変化
A血管透過性の亢進と滲出液の形成
B細胞成分の血管外への遊走と細胞性滲出物の形成
その後、次の2つの過程をたどります。
C白血球による貪食
D炎症の終焉
では、これらの『炎症』の5つの過程を、詳しくみていきましょう。(^^)
@血管内径の変化とそれに伴う血流量の変化
組織損傷は、血管の破損と出血を伴うため、その直後から止血のための反応が生じます。
まず、血管が破損されると、その血管内皮細胞も損傷されます。すると、血管内皮細胞から、エンドセリンとよばれる化学伝達物質が分泌されます。このエンドセリンによって、破損した部分とその周囲の血管が、一過性に収縮します。
損傷された血管内皮細胞からは、血小板活性化因子も分泌されます。すると、それによって活性化された血小板が、破損した血管に集まり、凝血塊(血の固まりが集まったもの)を作ります。そして、この凝血塊によって、血管の破損された部分が塞がれ、止血されることになります。
また、活性化された血小板からは、セロトニンとよばれる化学伝達物質も分泌されます。このセロトニンは、エンドセリンと同様に、破損した部分とその周囲の血管を一過性に収縮させます。
このエンドセリンやセロトニンなどによる血管の一過性の収縮は、通常、数秒〜数分間持続します。この、血管の一過性の収縮も、血流を低下させたり、血管の破損部を小さくさせたりすることで、凝血塊を作りやすくし、止血に貢献していると思われます。
破損した部分とその周囲の血管は、一過性の収縮に引き続き、拡張が生じます。この血管の拡張は、組織が損傷されることで引き起こされる血液中の化学反応により生成されるブラジキニンとよばれる化学伝達物質や、ブラジキニンが組織内の肥満細胞を刺激することで生成されるヒスタミンとよばれる化学伝達物質などが作用することで生じます。
血管が拡張する結果、破損した部分とその周囲の血流量が増加します。この血流量の増加が、“発赤”や“熱感”といった、『炎症』の徴候を生じさせます。また、破損した部分とその周囲の血圧も高くなり、血液の水分が血管から染み出る、濾出という現象も生じます。しかし、この濾出は、次に説明する血管透過性の亢進によって、隠されてしまいます。この血管の拡張は、通常、数十分〜数時間持続します。
A血管透過性の亢進と滲出液の形成
血管の内側は、血管内皮細胞に覆われています。通常、水や水溶性物質、酸素や二酸化炭素は、血管の内外へ通過できますが、血漿タンパク質(血液に含まれているタンパク質)や細胞は通過できません。
しかし、『炎症』が生じると、ブラジキニンやヒスタミンなどの働きによって、血管内皮細胞が収縮します。すると、血管内皮細胞同士の接合部が開くことにより、物質が血管を通過しやすくなります。つまり、血管透過性が亢進します。その結果、タンパク質を含んだ血漿成分が血管の外に滲出し、“腫脹”という『炎症』の徴候が生じます。
B細胞成分の血管外への遊走と細胞性滲出物の形成
血管透過性が亢進すると、血管内の液体成分が減少します。すると、血液の粘性が増加し、血流速度が低下します。そのため、通常は血管の中心部を流れている細胞成分が、血管内壁側に集まる現象(辺縁趨向)が生じます。細胞成分の一つである白血球は、血管内壁を転がりながら血管内皮細胞に接着し、形を扁平化させて、血管内皮細胞の隙間から血管の外へ通過します。
白血球は、血液に含まれる細胞成分の一つで、主な役目は、血管外に遊出して、組織内に侵入してきた細菌や、異物などを、食作用によって細胞内に取り込み、消化分解して無毒化することです。白血球は、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球に分類され、それぞれ機能が異なります。
血管外へ出た白血球は、『炎症』が生じている損傷部位に向かって遊走します。この現象は、白血球が、損傷部位に出現しているサイトカインとよばれる様々な種類の情報伝達タンパク質に引き寄せられるようにして生じます。
C白血球による貪食
『炎症』が生じている部位に遊走した白血球のうち、最初に働き出すのは、好中球です。好中球は、組織に侵入した細菌や細胞の残骸を好中球内に取り込み、好中球内のタンパク質分解酵素や活性酸素によって分解、死滅させます。なお、好中球は、最終的にアポトーシスを起こし、マクロファージに貪食されます。
アポトーシスとは、細胞がある種の刺激を受けたときに、内在するプログラムによって自発的に死滅する現象です。
マクロファージは、単球が組織に移行して分化したもので、組織に侵入した異物、自己の死細胞、脂肪などを貪食する、大型の食細胞です。
好中球より少し遅れて、マクロファージが損傷部に集まり、アポトーシスを起こした好中球や、組織の残骸、細菌を貪食します。
D炎症の終焉
壊死した細胞の除去が終わると、『炎症』に関わった化学伝達物質は中和されていきます。また、血管拡張と血管透過性の亢進もみられなくなり、血流も正常に戻り、滲出していた血漿成分はリンパ管を通って回収されていきます。マクロファージは、不要となった炎症細胞(白血球や肥満細胞)を貪食し、自らアポトーシスするか、血漿とともにリンパ管を通って、その場を去ります。
このようにして『炎症』は終焉を迎えます。『炎症』の終焉は、組織損傷の場合は、通常、受傷後7〜10日でみられます。『炎症』の終焉は、同時に組織修復の始まりでもあり、特にマクロファージなどから分泌されるサイトカインが、その橋渡しの役割を担っています。このことからも、『炎症』は、生体防御反応として、不可欠なものであるといえます。
一方、組織損傷が繰り返して生じる場合や、自己免疫異常による『炎症』の場合は、組織修復と同時に新たな『炎症』が始まるため、はっきりとした『炎症』の終焉は認められません。つまり、これが慢性炎症であり、その治療には難渋することが多いです。(>_<)
『炎症』の『痛み』
『炎症』の過程では、様々な化学伝達物質が生じます。この化学伝達物質の中には、『痛み』を生じさせるものがあります。『炎症』の『痛み』は、その化学伝達物質が、侵害受容器に受け取られることにより生じます。つまり、この化学伝達物質により、“疼痛”という『炎症』の徴候が生じます。
『痛み』を生じさせる化学伝達物質には、これまでの説明で登場した、セロトニン、ブラジキニン、ヒスタミンや、登場していないプロスタグランジンなどがあります。プロスタグランジンは、白血球、血小板、血管内皮細胞から、いくつかの化学反応を経て生じます。プロスタグランジンは、単独では『痛み』を生じさせませんが、ブラジキニンに作用して、『痛み』を増強させます。
これらの『痛み』を生じさせる化学伝達物質は、D炎症の終焉でも説明したように、壊死した細胞の除去が終わると中和されていきます。その結果、『痛み』は消失していきます。
がんと炎症
がんは、成長のために必要になる大量の栄養をまかなうために、炎症性サイトカインという物質を出して栄養豊富な血液を呼び込もうとするのです。サイトカインとは炎症が体内で起こっているということを知らせるシグナルで、体の中に何か異物が侵入したときに戦うための大切な仕組みです。
問題は、がんがこの炎症性サイトカインを大量に放出して、体中から血液を集め、自らが増殖するための栄養にするということです。
がんが炎症性サイトカインを大量に出すと、体のさまざまなバランスが狂ってきます。サイトカインは、体内に緊急事態が起こっているということを示すアラームなので、緊急事態に対応するために優先的に血液が呼び集められます。体内のさまざまなシステムが優先的に炎症の発生している箇所に対応するのです。
がんがこの炎症性サイトカインを大量に放出するということは、体をがん細胞の成長に適した体にしてしまうということです。がん細胞は極めて自分勝手な細胞であり、宿主である患者さんの都合などは考えません。がんにかかると、がん細胞がどんどん大きくなり、逆に患者さんはやせ衰えていくというのは、このような理由によるのです。
がん細胞の3つの性質
がん細胞の特徴は、「自己増殖」「浸潤」「転移」という三つの性質を備えていることです。
一つ目の「自己増殖」ですが、一般的に細胞はある法則性のもとに成長しますが、がん細胞は無軌道に増殖します。たとえば爪の細胞であれば爪の先という一方向だけに伸び、左右でたらめな方向に伸びたりはしません。
ところががん細胞は、規則的な方向性なしにどんどん増殖を続けて広がります。たとえば骨にできたがんであれば骨を壊してしまい、胃にできたなら胃の機能を損なってしまうのです。このように、無軌道に増殖を続けるというのが、がんのひとつの特徴です。
がん細胞の二つ目の特徴は、正常な細胞であれば接触した細胞同士が互いの領域を守り、相手との間に正常な細胞を作るのに対し、がんはそのように振舞わないということにあります。
たとえば爪にがんができた例を考えてみましょう。がん細胞は爪の範囲内で留まらず、爪に隣り合った皮膚にまで増殖していきます。このように、がん細胞には周囲との境界を侵していくという性質があります。この性質を「浸潤」といいます。
がんの浸潤が進行するとどうなるのでしょう。たとえば胃がんであれば、初期は粘膜表面にできることが大部分です。がん細胞が粘膜表面にある線組織に発生した場合、そこだけに存在しているのであれば、それほど大きな問題とはなりません。
問題は、がんが粘膜表面からどんどん深部に食い込んでゆき、粘膜だけではなく筋肉の層にまで浸潤してしまうことにあります。筋肉層には血管やリンパ管などがたくさんあります。血管やリンパ管にがんが食い込んでしまうと、がん細胞はその流れに乗って体のさまざまな場所に飛んでいきます。
すると、三つ目のがん細胞の特徴である「転移」が起こります。がん細胞が別の場所に移って新たな活動の場を広げてしまうのです。
がんは転移した先でさらに着床し、再び自己増殖を繰り返しながら再びその組織を浸潤していきます。するとまた血液やリンパ液などの流れに乗って新たな場所に転移します。
このようなサイクルによって、がんは非常に重要な臓器を侵してしまい、患者さんの命を脅かすような状況を作りだしていきます。がん細胞とは、このような三つの性格を備えた細胞なのです。