腰痛と仙腸関節
骨盤は、背骨の一番下に付属する「仙骨」と、その周囲を囲む「寛骨」の大きく2つに分かれます。そしてこの二つの骨の継ぎ目の部分に当たるのが仙腸関節です。
仙腸関節は、関節とはいってもほとんど動くことがなく、一見すると身体を動かしたり支えたりするのに重要な働きを担っているとは思えない箇所です。しかしこの仙腸関節の不具合こそが、腰痛の根本的な原因の一つであり、その矯正が腰痛治療のポイントなのではないかとする考え方があります。
1.仙腸関節とは
仙腸関節は骨盤の「仙骨」と「寛骨」の間の関節です。関節といっても継ぎ目のようなもので、3〜5ミリの隙間しかあいておらず、靭帯によって強く結び付けられているためほとんど動きません。
ですが、骨盤自体は頭や背骨を下から支える土台であり、また足腰を動かす基軸となる重要な部分です。そのため骨盤がゆがんだり、水平な骨盤が加齢にともなって前に傾いたりすると、背骨や頭蓋骨など、上半身すべての骨にゆがみなどの影響を与えます。その結果、腰が曲がり姿勢が悪くなって腰痛を発症します。
つまり骨盤に異常が生じると、その影響で背骨(脊椎)にも異常が生じて腰痛が起こりやすくなるというわけです。
2.仙腸関節の機能異常が骨盤の働きを悪くする
以前から仙腸関節と腰痛との関連性については指摘されてきました。
例えば、一般的に出産後の腰痛には仙腸関節障害が多いと言われています。ぎっくり腰は仙腸関節の捻挫が原因であると言われることもあります。また、仙腸関節のゆがみやねじれが続くと慢性腰痛の原因になるという指摘もありました。
このように仙腸関節の不具合が腰痛の原因の一つであることは間違いないのですが、仙腸関節に変形や機能異常があれば必ず腰痛が起こるというわけでもなく、腰痛を引き起こす具体的なメカニズムも解明されていませんでした。
腰痛の原因としても治療のポイントとしても重要性はさほど高くないと思われていた仙腸関節ですが、実はこのほとんど動くことのない関節にズレや不具合が生じることで骨盤の機能が低下し、それが腰椎(腰の位置の背骨)の異常につながって腰痛が発症するのではないか、腰痛は腰椎などの異常によって起こるが、そもそも腰椎などに異常が起こるのは、仙腸関節に異常があるためではないかと考え、研究を始めたのが"腰痛のゴッドハンド"と呼ばれる「酒井慎太郎」先生です。
◆仙腸関節は腰への負担を和らげる
酒井慎太郎先生の持論では、仙腸関節は微妙に動く”遊び”の部分を持つことによって、腰椎の負担を下げるクッションのような役割を果たし、腰椎にかかる負荷を分散する重要な部分です。背骨の描く緩やかなS字カーブの形状も腰にかかる負荷を吸収・分散する働きがありますが、背骨と仙腸関節が連動して体の重心やバランスをコントロールしています。
仙腸関節に不具合が生じ、クッション機能の要であった僅かな隙間(”遊び”)がなくなってしまうと、逃げるはずの力が逃げていかないため、腰椎は上半身の全ての重みを一身で支えなければならなくなります。
腰に大きな負荷がかかるようになり、筋肉疲労による腰痛や、腰椎の変性による腰痛(椎間板ヘルニアなど)、さらには筋肉が固くなることで、身体の要である骨盤周辺の血流の悪化・代謝の低下を招きし、冷え、むくみ、肥満、生理痛、生理不順、不妊、便秘など、腰痛以外の不調が体のあちこちに現れてきます。
◆仙腸関節の異常はどうして起こる?
仙腸関節の隙間は非常に狭いため、ちょっと強い衝撃が加わったり、悪い姿勢や生活習慣を続けたりしただけでも、関節の左右にある仙骨と腸骨が互いに乗り上げたり、ひっかかったりして動きにくい状態(遊びの部分がない状態)になります。
こうしたロッキング状態は、何かの拍子に自然に外れることもありますが、大抵はひっかかったままです。さらにその状態を放置していると、ロッキングしたままの状態で関節が固まってしまうことが多く、元の正常な状態に戻る可能性が更に低くなります。
<ロッキングの主な原因>
ロッキングが起こる原因は様々ですが、基本的に腰に負担をかける要因や生活習慣は全て当てはまると思って下さい。
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頻繁に前かがみや中腰の姿勢、または腰を反らす姿勢をとる
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座りっぱなしや立ちっぱなしなど、長時間同じ姿勢をとる
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スポーツや事故で腰に強い衝撃を受ける
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自転車に、お尻が痛くなるくらい長時間乗る
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「体育座り」をする習慣がある
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出産時 など
腰の疲れ・だるさ・コリ・張りといった違和感や不快感、または軽い痛みなどを感じている場合、仙腸関節にも小さな不具合が生じはじめている可能性があります。日頃から軽い痛みをごまかしていると、知らず知らずのうちに痛みを避ける動き方や姿勢をとってしまい、そういう無理な力のかけ方が仙腸関節のズレやひっかかりを生みやすくします。
仙腸関節のロッキングが進行しないよう、症状が軽いうちから早めに仙腸関節を治しておくことが大事です。仙腸関節は腰のストレッチを行ったり、腰に負担をかけないよう生活習慣改善を重ねたりすることによって動きやすくすることができます。
3.仙腸関節の不具合を矯正する「関節包内矯正」
<はじめに 〜 関節の構造>
仙腸関節をはじめとする、からだの様々な関節は「関節包」という袋に包まれていて、袋の中は「関節液」という潤滑油のような液体で満たされています。関節液があることで関節はスムーズな動きを実現できます。
仙腸関節のロッキングなどの異常を治す方法として、「関節包内矯正」があります。
これは、関節包の中にある関節の動きが悪くなっているものを正常な状態に戻す治療法です。
腰痛の治療の場合、ロッキングしてひっかかった仙骨と腸骨とを引き離し、"遊び"の部分(関節の隙間)がある状態に戻して、仙腸関節のクッション機能を取り戻します。
関節包内矯正は"手技"によって行います。
骨盤の仙骨の部分に手を当て、力を込めることでその位置を微妙に動かしていきます。痛みや衝撃はほとんどありません。仙骨の動きやすさには個人差があり、その程度に応じて"力の込め方"も微妙に変えていかねばならないため、関節包内矯正を適切に行うには相当な経験が必要です。ただロッキングを解除すればそれでいいというものではなく、個々人の腰痛のタイプや痛みの出方によって、仙骨を前後左右どれくらい動かせばいいのかが全部変わってきます。手技のコツは相当に修行を積み重ねないとなかなか体得できるものではありません。
◆仙腸関節を矯正する体操
関節包内矯正は特殊な技術を必要とする治療法であるため、これを受けられる施設は国内に数ヶ所しかなく、どこも常時予約でいっぱいの状態です。
そこで酒井氏が個人でも手軽に仙腸関節のケアを行えるように考案した矯正法があります。あくまで簡易的な方法ですので、関節包内矯正と同等の治療効果を得られるわけではありませんが、定期的に行うことで仙腸関節をほぐし、ゆるめていくことができます。
図@「固定したテニスボール」 図A「ボールを当てる位置(仙腸関節)」
お尻の割れ目を下から上へ指でなぞっていき、はじめに当たる硬い骨が「尾骨」です。尾骨から斜め上45度の直線上に仙腸関節があります。左右のお尻の真ん中(点線)よりやや内側です。
<準備物> 硬式テニスボール2個、ボールを固定するためのガムテープなど
<やり方>
1.
硬式テニスボールを横に2つピッタリとくっつけた状態で、ガムテープなどで固定します。ボールが上下左右に動かないようにしっかりと固定しましょう(図@)。
2.
ボールの上に仰向けに寝て、仙腸関節の位置にボールが当たるようにします(図A)。
「痛気持ちいい」ような感じがすれば仙腸関節が刺激されている証拠です。この状態で1分くらい動かずにいます。長くても3分以内にしましょう。これを朝晩一回ずつ行います。
<ポイント・注意点>
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枕は使わず、フローリングや畳など、なるべく固い床の上で行ってください。
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矯正の最中はなるべく体を動かさず、ボールの位置を変えるときは寝たままやらないこと。
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やりすぎると逆に腰を悪くする恐れがあるので、最大でも一日3回までにしてください。
ギックリ腰確実!にならないために、
まずは疲労を溜めすぎないこと。
そして同じ姿勢を取り続けないことが大切です!
・状況に応じたケアが必要
よく動かした後→冷やす&安静にする
長時間動かさなくて硬い→温める&少しずつ動かす