強迫神経症の治療 ー曝露反応妨害法ー
強迫神経症の治療は行動療法の研究により大きく進歩しました。強迫神経症の行動療法にはいろいろな技法を用いますが、その1つに曝露反応妨害法という治療法です。
曝露反応妨害法とは?
これまで、回避行動(さけること)や強迫行為(洗ったり、確認したり)によって不安を下げる という悪循環のパターン(強迫症状のしくみ、もう一つの 悪循環参照)を変えるための方法で、曝露法と反応妨害法を組み合わせたものです。
曝露法
苦手と感じて、これまで恐れたり避けたりしてきたことにあえて立ち向かうことです。
これは動物の不安というものは何もしないでも自然に減っていくという ことがわかっており、それを利用した治療法です。とても心配に思っていることが実際はそれほど心配するようなことではないということを実感するための治療です。
ただし大事なのはこれを不安が下がるまで続けて行うことです。
中途半端におこなうとかえってきつくなることがあります。正しい知識 をもっておこなう必要がありますので、必ず行動療法の専門家と相談の上行うようにしてください。
たとえば今まで出てきたA〜Dさんの例でいうと
A:汚いと思ったものをわざとさわる
B:心配でもわざと外出する
C:こわくても車の運転をする
D:読むのを避けていた本をあえて読む
などということをします。
厳密に言うと強迫観念を引き起こす先行刺激に不安がさがるまであえて持続的に直面する方法です。
恐れていることに直面することではじめは不安は上がることがありますが、持続的に直面すると必ず不安はさがります。これは、今までの研究でも証明されていることです。また、実際の治療においては、いきなり難しい(いやな、不快な)ことに挑戦するのではなく、できそうなことから難しいことへと段階的に挑戦していきます。
では、反応妨害法とはどんなものでしょうか。
反応妨害法 これまで不安や不快感を下げるためにしてきた強迫行為をあえてしないことです。 これはせっかく避けてきたことに直面しても、強迫行為をして一時的に 不安を下げてしまっては、なにもしなくても不安が自然とさがるという体験を得ることができないからです。暴露法をきちんと行うために使う場合も多く組み合 わせて使う場合が多い治療法です。 ただし大事なのはあらゆる強迫行為をしないようにすることが大事です。少しでも強迫行為をしてしまうと治療の効果が薄れ ることがあります。 どういう段階をふんで治療をすすめるかも大事なポイントです。やり方 をまちがうとどんなよい治療法でも効果はでません。 さて、今まで出てきたA〜Dさんの例で考えると A:さわったあとに手を洗わない
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これまでしてきた強迫行為をしないと、はじめは不安は上がることがありますが、強迫行為をしない状
態を持続すると必ず不安はさがります。これは、今までの研究でも証明されていることです。その大元になっている考え方とし
ては、人間(動物)には慣れがあるという考え方があります。下の図のように強迫行為をして
いる人は不安が自然と下がる前にほかの方法で一時的に不安を下げる行動をとるため、自然と不安が下がるという体験が得られなくなってしまうと考えられてい
るからです。
曝露法と反応妨害法を組み合わせると(すなわちこれが曝露反応妨害法)最も効果 が高まることがわかっています。つぎに進みましょう。
暴露反応妨害法 苦手と感じてこれまで恐れていたことにあえて立ち向かい さて、今まで出てきたA〜Dさんの例で考えると A:汚いと思う物を触ってそのあと手を洗わ ない などということをします。 |
さて、このような暴露反応妨害法を行っていくとつぎのようなことがおこってきます。
そして暴露反応妨害法を続けていくと
その結果強迫症状に支配されない自由な生活ができるよ うになります!
薬物療法ー
実際に治療を行う場合は薬物療法もよく使用されます。クロミプラミンとSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)という抗うつ剤の一種がその中心です。
クロミプラミンについては約40パーセントが有効という報告がありますが、薬物のみで治療してもうまくいかない例は少なくないようです。それよりも、薬 物療法と行動療法を併用することで、行動療法への導入がスムーズに進むという効果の方が大きいようです。ですから、薬物アレルギーや副作用がでて飲みにく いという方や薬を使うことに抵抗のある方には無理には使わない場合もあります。ただし、やはりその方が時間はかかる印象もあります。
また、新たな強迫性障害治療薬の開発も進められています。
最近話題のSSRI
最近話題になっているSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)という仲間の薬はクロミプラミンの作用と一部分は似た新薬です。欧米では前から使っており、効果があるとの報告もあり ます。日本でも平成11年(1999年)5月より厚生省の認可がおりて使用できるようになりました。SSRIの中にもいくつかの種類があり、現在では2種 類認可されています。
クロミプラミンに比べて副作用が少なく、一部のSSRIは日本で初めて強迫性障害 の治療に対して認可(強迫性障害の診断名で使用できる薬と認可)されました。
しかし、副作用が少ないとは言え、やはり副作用はあり、特に胃腸系の副作用(吐き 気、食欲低下等)が多いと言われています。
また、少量では効果が出にくいと言われており、ある程度の量を使わないと効果が出 てこないという報告もあります。
強迫神経症の実際の経過
Aさんの尿や便がついているのではないかという強迫観念と1時間以上の手洗いという強迫行 為はその後もさらに悪化の一途をたどり入院となりました。入院してまず、治療者と一緒にどのような物を触るのが苦手かを話し合い、苦手な物に順番をつける ことをしました。そして、これからが、本格的な治療です。苦手な物の中でも苦手さの程度が軽い物(たとえばドアのノブなど)を触ってその後手を洗わないと いう暴露反応妨害法を行いました。いくら程度が軽いからといっても、Aさんは最初は心臓が張り裂けんばかりに不安になりました。もっともこれは始める前の 話です。実際にそのものを触ってみると不安にはなりましたが、予想していたほどではありませんでした。そして、当然手を洗いたい気持ちは強かったのです が、時間が10分ほどたつとそういう衝動(手を洗いたい!)や不安も減りはじめ、30分たったころにはそれほど我慢しているという感じもなくなりました。 同じような治療をくりかえしていくと数日でものに触る前の不安がかなり軽くなりました。そのうち少しずつ苦手さの程度が高いものへ挑戦するようにしまし た。これも、次の段階にすすんだ最初は不安が高くても、続けて繰り返しなんども治療をおこなうことで次第と不安感が減ってきました。最終的には、以前病気 になる前のような、普通のトイレ、手洗い、入浴ができるようになり、約3カ月間で退院することができました。その後は活発な日常生活が送れており再発もし ておりません。
さて、あなたはどうでしょうか? 治療の行い方やかかる時間は、むろん個人差がありますが、大体の進み方は同じです。
このホームページを読んで治療をしてみようと思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、どのような治療法でも行い方を誤っては害になることもありま す。自己流では決して行ってはいけません。かならず一度専門家に相談しておこなう必要があります。