釈尊の風　　縁起篇　　輪廻エネルギー変換のメカニズム

目次

はじめに　　　勘違いされた縁起説

縁起とはなにか？

Paticca-samuppādaの意味

paccayāの意味 　　kammaは決定論的ではない

具体的な内容

条件と生起　　　

詳細　パーリ語と英語と漢字　　

漢字で書かれた語句の解釈が現代人と釈尊の教えとの違い

伝統的解釈の問題点　　　　学問と救済のアプローチの違い

これまでの解釈の矛盾と誤謬　　　

解釈での争い、エネルギーについての誤謬、漢字の影響、マインドと物質

他の縁起説に対して考慮していないので、修行実践が偏る傾向　　　自分の中に光が見つけられないため

縁起に関する原典のパーリ経典

種類の違い

３種類のはじまり　　善・悪・中立　　

縁起の解釈と時空の範囲　　　　前世・現世・来世　　　　

四諦と縁起

具体的な修行の実践方法　　

新説

エネルギー　　　メンタルはエネルギー　　意から生じるエネルギーと物質

深層意識と表層意識

宇宙創生

参考資料

24の縁起説

コラム

誤解されてきた縁起

上座部仏教　縁起をよく理解していないブッタゴーサの解釈を基準にしたため

大乗仏教　　五蘊の解釈の違いにより、縁起の解釈が変わってしまったため

現代人　漢字で書かれた語句の解釈が釈尊の教えとは違うから

条件が整うときだけ

原因と結果の間の「直接リンク」ではない

常に気づいていなければならない理由　　　Ānāpāna/Satipatthānaの鍵

汚れ、色、輝き、と貪瞋痴

心の純粋さ、そして誤解

パーリ語とサンスクリット語による解釈の誤謬

viññānaとは汚されたcittaのこと

citta知る機能と意識viññānaのプロセス

10億分の1秒

支（ステップ）の数がいろいろある縁起説

釈尊が菩提樹の下で縁起説を悟ったのか？

３つのタイプの条件　paccayā

24の因果関係　　Patthana　　『発趣論』

『阿毘達磨倶舎論』

六因五果四縁（六因四縁）

niyama　（決定）　　　５つの法則　　　因果関係

縁起説との関わり方　　救済なのか？学問なのか？

無明とは何か？

釈尊は、縁起説Paṭicca samuppādaは海溝のように深く、あらゆる状況に適用できると説いた。出典？

縁起説がより2000年にもわたり研究されてきたのも、真のダンマdhammaは隠されたかのようにあまりに深いからである。

１0億分の１秒の認識プロセスから「生命体」の生まれる過程、そして31領域の転生プロセスに至るまで「この世界」を説明するのに使われている。

なぜならば「この世のすべて」は、原因と条件によるエネルギー転換の基本原理に則しているからである。

はじめに

2000年以上にわたって誤解されたままであった縁起説。

釈尊の教えに少しでも近づこうとするのがこのエッセイの目標である。

釈尊が悟りを得て、解脱できたのは「縁起」というこの世が成り立っている法則を体感したためだと言われている。

つまり縁起を理解し、そのプロセスを理解してこの世の法則を体感して、このプロセスを止めることで悟ることができるというのが、釈尊の最も重要な教えの一つである。

最も重要だという根拠は以下の経で、釈尊が菩提樹の下でアラハンの境地を得た時の心情を謳っている、と推定されている経だからである。

Khuddakanikāya　Dhammapada　　Jarāvagga　法句経

Dhammapada, XI. 8 & 9 (153 & 154)
Anekajāti saṁsāraṁ, sandhāvissaṁ anibbisaṁ; Gahakāraṁ gavesanto, dukkhā jāti punappunaṁ. Gahakāraka diṭṭhosi, puna gehaṁ na kāhasi; Sabbā te phāsukā bhaggā, gahakūṭaṁ visaṅkhataṁ; Visaṅkhāragataṁ cittaṁ, taṇhānaṁ khayamajjhagā.	存在のサイクルの中で無数の誕生を通して 私はこのサイクルの製作者を探していますが何も見つけることなく、ただ走ってきました。 そして何度も何度も、新しい誕生の苦しみに直面しました。 ああ、創造主よ！今、あなたは見られています。 あなたは私のために再び家を建てることはありません。 すべての梁（桁）は壊れています、 家の棟木（梁）は粉砕されています。 心はサンカーラという回路から解放されました。 付着するものが滅尽する道に至りました。
Aneka-jati 　　　多くの（様々な）　誕生 sansaram　　　　　　再生サイクル sandhavissam 　　　？ anibbisam　否定＋発見　見つけることなく gaha karakam 　家＋作る者 gavesanto 探す、探求する punappunam　　　　何度も何度も Ditthosi　　　　　見つける、見られる diṭṭho：Seen； met with，found Puna 　　　　　　再び　　さらに geham 　　　　家 na 　　　　　否定形 kāhasi　 karotiの未来形 karoti　 does；makes；build　建てる Sabba 　すべて te phāsukā　　　垂木，たるき bhagga：[pp．of bhañjati]　　破壊せる gahakūṭaṁ　　　棟木 visaṅkhataṁ　　粉砕される Visaṅkhāragataṁ visaṅkhāra　[vi-saṅkhāra] 離行作（=湼槃） gata[pp．of gacchati] arrived at； 達する having come to a condition.　　　状態になる cittaṁ　　　　　　　　心の taṇhānaṁ 　　　　　付着するもの khaya　　　　　尽滅，滅尽 majjhagā [majjha+gamu+kvi]中間の，中正の道	Through countless births in the cycle of existence I have run, not finding although seeking the builder of this house; and again and again I faced the suffering of new birth. Oh housebuilder! Now you are seen. You shall not build a house again for me. All your beams are broken, the ridgepole is shattered. The mind has become freed from conditioning; the end of craving has been reached.

悟りと縁起

縁起で説かれるように「無明」を根本としたプロセスで物事を進めると「苦しみ」が生じるので、この流れを止めることによって、人は苦しみを止め、４段階の涅槃を体感し、最後には解脱できると釈尊は説いている。

Sutta Nipāta 2.1　Ratanasutta　　　英訳

経蔵小部Khuddaka Nikāya経集Sutta-nipāta 2小Cūḷa-vagga宝経Ratana Sutta

Ratana Sutta, Sutta Nipata, II. 1.
Khīṇaṁ purāṇaṁ nava natthi sambhavaṁ, Virattacittāyatike bhavasmiṁ; Te khīṇabījā avirūḷhichandā, Nibbanti dhīrā yathāyaṁ padīpo	過去の条件付の反応が消去され、新しい条件付の反応が生成されない場合、 心はもはや未来の誕生を求めません。 朽ちた種はもはや渇望を生じません。 このような賢明な人々は、このランプのように消えます。
Khīṇaṁ 　　　　尽きたる，滅されたる puranam 　　　前の、昔の、以前の navaa 　　　　新しい natthi 　　　　なし，非存，無 sambhavam　　発生，生起，生成 viratta 　　　　離脱、離貪の、脱執着 citta 　　　　　意識、思考、マインド ayatike　　　　 ayati：To go bhavasmim.　　 存在　bhava Te 　　　　　　それら　三人称複数 khina-bija 　　　朽ちた（衰退した）種 avirūḷhi 　　　成長しない　再生の消滅 chanda　　　　欲 Nibbanti 　　　涅槃に至った dhīrā 　　　　賢者 yathayam 　　の如く padīpo 　　　　ランプ	When past conditioning is erased and no fresh one produced, the mind no longer seeks for future birth. The seed consumed, cravings no more arise. Such-minded wise ones cease like [the flame of] this lamp. Khīṇaṁ purāṇaṁ nava natthi sambhavaṁ, Virattacittāyatike bhavasmiṁ; Te khīṇabījā avirūḷhichandā, Nibbanti dhīrā yathāyaṁ padīpo Idampi saṅghe ratanaṁ paṇītaṁ, Etena saccena suvatthi hotu.

ダンマと縁起

ダンマとはなにか？

この世を構成する一番根源的なエネルギー。

普遍的な自然の法もその一部である。

涅槃nibbāna以外ではdhammāがあまねく存在する。

法とは法則、原因に対応した結果がきまっているもの、つまり因果関係のこと。

「釈尊のダンマBuddha Dhamma」とは「仏法」のことで、「苦」に関わる因果関係のことを指す。

釈尊は苦しみとそれからの解放だけについて語ってきた。

解脱してからこの世を去るまでの45年に渡り、1日５つ、計84000の講話を説いてきた釈尊。

苦からの解放する因果関係を縁起説と明言してきた。

この縁起説がダンマである。

象跡喩大経Mahāhatthipadopama-suttaとは、パーリ仏典経蔵中部に収録されている第28経　英訳

Mahāhatthipadopama Sutta (MN 28)
“Yō Paṭiccasamuppādam passati, so Dhammam passati. Yō Dhammam passati, so Paṭiccasamuppādam passati”	Paṭiccasamuppādaをみた者は Dhammaをみる。 Dhammaをみた者は Paṭiccasamuppādaをみる。
Yō 　　　　　　誰でも　who whoever passati 見る、認識する、理解する so　　　　　　　彼、それ、これ	One who sees Paṭiccasamuppāda sees the Dhamma. One who sees the Dhamma sees Paṭiccasamuppāda.

誤解されたままの縁起説

今では３つの原因からはじまる縁起説のうちの１つしか伝わっておらず、後の２種類が忘れ去られているので、ニッバーナ（涅槃）に至る道がわからなくなっているという現状がある。

また、伝わっている唯一の縁起説（貪瞋痴を条件と原因とするプロセス）の翻訳がちゃんとしていないために、多くの誤謬を生み続けてしまっている。

このエッセイでは他の２種類の縁起説を紹介しながら、その解釈や意味や漢字の翻訳について、そして縁起説を理解することで瞑想のコツを考察する。

よく知られている12のステップを説いている縁起説（十二支縁起）の他にも支の数の異なるいくつかのバリエーションがあるが、後代になって、縁起説の解釈の仕方も、限定されてきたので、その他の可能性についても考察してみる。

原因の種類と解釈の種類

善・悪・中立から始まる３種類の因果関係

悪エネルギー（無明）からはじまる

善エネルギーからはじまる

エネルギーがないものから始まる

１阿羅漢

２因果の結果を察知するエネルギーのない意識 （五識pañcaviññāna　とmano viññāna）

縁起説の時間軸の範疇　　　

時間や空間や論理性を基準にすることで、多種の解釈の仕方があり、

伝統的解釈である

１三世（過去世・現在世・未来世）の関係性　　　　　個体輪廻　　集団生命流動体

２現世の関係性

３一瞬の同時進行の関係性

は基準を時間軸に揃えることで、それぞれの特徴がわかりやすくなる。

また縁起説を拡大解釈して、この宇宙（涅槃nibbāna以外のすべての領域）の「エネルギー転変の法則」と解釈することで、

宇宙創生の神話的時間　　　　　　　　　　　400億年　宇宙輪廻　　　

大銀河系、銀河系、太陽系、地球　　　　　　100億年　星の生滅と再生

性向gatiの作成プロセス　　　　　　　　　　１生涯における心の浄化と汚染プロセス

無意識、潜在意識、表層意識　　　　　　　　意識の多層性

起承転結　　　　　　　　　　　　　　　　　aniccā無常と願望の限界

という解釈もあるので、コラムなどで後述する。

Paticca-samuppādaパーリ語の意味

漢訳された縁起（説）はパーリ語から由来している。

原語のPaticcasamuppādaとは「pati」+「icca」＋「sama」+「uppāda」）のことで、

「pati」+「icca」とは、「pati」は拘束、結合、「icca」は好みを意味し、

「喜んで何かと結びついている」、または「それを好きになることで何かに愛着を持つ」という意味である。

それが起こると、Samuppāda=「sama」（同じまたは類似した同様なもの）+「uppāda」（生成、出生、誕生）する。

つまり、同様または類似した品質または種類のものが具象化するということで、一言でいうと「似たものが現れ出てくる」という意味である。

したがって、samuppādaとは、存在（具象化したもの）に導くことであり、言い換えれば、束縛を促進するためのパターン化（汚れ）の因果関係を作り上げることを意味する。

原因（kamma）が存在する場合、変化（結果）に適した条件が揃えば、対応する変化（結果）になる可能性は高くなります。このような因果関係が縁起説（Paticcasamuppāda）のため、原因（kamma）は決定論的ではない。

つまり、どのような強力な原因があろうと、条件が整わなければ、結果が生じるとは限らない、ということである。

このようにPS（Paticcasamuppāda　縁起説）の重要な点は、結果（もし発生した場合）が原因に繋がる可能性があり、それは、「条件」が選択されたためである、という見方ができる。

“Pati ichcha”が“sama uppāda”に導くということ、つまり、愛着を持つと、それが似た性質を持つ新しいものを出生に導くということである。

別の見方をすれば、原因が結果をもたらす場合、それらは同様の性質を持つことを表現しているのが縁起説である。

kammaをまずは原因と訳したが、これはサンスクリット語のカルマのことで、漢字文化圏では「業」と訳されているものである。

そこからいろいろな解釈や誤謬が重なる歴史があるが、

私説としては、釈尊が体感したことは、この宇宙のエネルギーが転換していく順序と道筋であり、そこからの離脱法だと感じているので、kammaを宇宙にあまねくエネルギーと理解することが、釈尊の体感したことに類似していると推察している。

したがって、kammaをエネルギー、縁起説をエネルギー転変の法則と解釈することで、これまで理解しづらかった伝統的解釈や難解であった部分が体感しやすくなることがある、と感じているので、一度試してみるのはどうかとこのエッセイ（探検）を書くことにする。

縁起とはなにか？

釈尊が苦しみからの解放を目指して修行している時に、明らかになったこの世の因果関係の法則のこと。

ポイントは原因があると結果が生まれるのではなく、条件が揃わないといくら原因があってもそれは結果と結びつかない、ということである。

たとえば、リンゴの種があっても、それは太陽（光、温度）、雨（水、湿度）、土壌（根のはれる場所）という条件が整わないと発芽せず、大きな木に成長することも花を咲かせることも、リンゴの実をつけることもない、ということである。

つまり涼しく、水分がなく、袋の中に種があれば、種は微生物や紫外線などによって朽ちるまで保管できるということでもある。

涅槃（nibbana）以外のすべてのものは、原因から生じたものであり、生じるものである。

概要　性質　関係性　　　

paticcasamuppāda（縁起説）は、人生の瞬間、前世と来世、とすべての出来事を説明します。

すなわち、ある原因によって、決まった結果があらわれるという法則があることを示しています。

原因と結果という2点をつなげることで、この世に秩序があることを理解し、自分のマインド（意思や想い）によって、マインドと物質の現象が変化することを確認できる教えでもあります。

またこの縁起という法則を知ることで、苦しみの原因を知ることができ、苦しみから離脱することができます。

釈尊の誕生する前から、苦しみの原因にはヒトの煩悩（貪瞋痴）が原因であることはわかっていたので、それを意識的に抑圧する方法を多くの賢人が試してきましたが、奥底に抑圧することで煩悩は一時的に抑圧されますが、条件が整えばそれはまた表面に吹き上がってくるものでした。

苦しみはモノに執着してしまうことが理由であることはわかっていたので、その原因になる感覚の快楽をできるだけ避けることしか解決策がありませんでした。

しかし、それでも苦しみから解放されるという方法はわかりませんでした。

しかし、感覚の快楽とその再現を強く望む渇望との間にあるミッシングリンクを釈尊が発見しました。

それがvedanāと呼ばれる「感覚」が六感と渇望の間にあることに気づき、その感覚には９つの特徴ある信号があり、そのうちの２つを付加することが苦しみにつながっていることを釈尊は発見しました。

受vedanāと受蘊vedanākkhandha

人類史における大いなる発見です。

なぜならば苦しみから離脱できるかどうかはこの発見によって決定されるからです。

これらの信号とは、快・不快・どちらでもない、という３つの種類があります。

たとえば、Tシャツに付いているタグのように、これを見れば素材が綿かポリエステルかがわかるので、洗濯をする時には、素材に応じた洗剤の種類や水の温度や乾燥方法にすることができます。

ヒトのすべての感覚にはこの3種類のタグが付加されることが発見され、そのタグによってヒト（生命体）は反応や反射をするようにプログラミングされています。

たとえば、

快のタグがついているものには、好み、渇望し、近づき、

不快のタグがついているものには、嫌い、嫌悪し、離れ、　　

どちらでもないタグがついているものには、無関心であるか、関心があっても、好きでも嫌いでもなく、感情的な反応はしません。

このプロセスは無意識と呼ばれる中層意識で行われており、この強い好き嫌いをベースにして自動反応アプリケーションが作成され、私たちはこれにしたがって行動するようにプログラミングされているので、自分で作成したものであるのに、逆にそれらに、まるでロボットのように操られて毎日を暮らしている、と言えないこともありません。

このアプリケーションには大きく分類すると「弱・中・強」の3段階があり、これは感覚データが入力される時にいかに生死や損得や効率的であるかどうかによって区分けされます。

生死に強く関わるものであれば、それは強いアプリケーションになり、小さな入力データであったとしても強く反応をおこします。

行sankhāraと行蘊sankhārakkhandha

そこで釈尊はこのプロセスを意識化することで、自動反応アプリケーションの強度を自分で操作できるようにしました。

これを簡潔に法則として詳細が理解できるように説明したのが縁起説（Paticca-samuppāda、略してPS）です。

認識システムと五蘊　そこからの離脱法

釈尊の風　五蘊篇　　　　心のメカニズム　　世紀の発見

原因と結果の法則があるのに、それが理解しにくい理由

　

論蔵（Abhidhamma）では、この世界が「マインド（心）がベース」であり、マインドと物質的現象の両方が驚くべきスピードでいかに変化しているかを説明しています。

意識から物質が生まれるプロセス　三蔵の教え

この「変化」はランダムではなく、「原因と条件」すなわちPaṭiccaSamuppādaによって決定されていると説いています。

そうはいっても原因は複数であり、それらは前世やその前の輪廻転生を通しての諸原因だというのでただ驚くばかりで、法則がわかってもなんの役にもなりそうではありません。

しかし、法則が分かることで、役に立つもこともいろいろとあります。

たとえば、原因があったとしても、条件（パーリ語で「paccayā」）が現れる（揃う、整う）までは、その結果（効果）は現れません。

身の回りのことでは、マッチ棒は火を起こす可能性があります。しかし、硬い面に擦りつけて加熱（摩擦熱）しない限り、火は発生しません。

爆弾は爆発して多くの破壊を引き起こす可能性があります。ただし、トリガーされるまで爆発しません。

私たちは皆、悪い習慣（自動反応プログラム）を持っていますが、対象（絵、音、匂い、感触、または想い）によってトリガーされるまでそれらの習慣は形になって現れることはありません。

これらのことから、連なるエネルギー転換の鎖から離れる可能性の「場」があることを推測することができます。また表面に現れる事柄の底流にはエネルギーの転換という見えない流れがあることを仮定することもできます。

科学の因果関係の範囲とブッダの縁起との違い　

縁起説が原因と結果の間の「直接リンク」ではないことを理解すれば、多くの事柄を明確になります。

良い/悪いkammaを作ったからといって、それらすべてが結果（因果関係kammavipāka）につながることを意味するわけではありません。

結果には原因が必要です。しかし、結果につながることがない原因はあります。

適切な条件がなければ、原因（kamma）は自動的に結果（vipāka）をもたらすことはできません。

paccayāの意味

例えば、一粒の松の実には、新しい木を作成するために必要な原因（成分）が含まれています。

しかし、種（松の実）がそこにあるからといって、木は存在しません。

種子が涼しく乾燥した場所にある場合は、長期間その状態を保つことができます。または、種が燃えたりつぶれたりしても、木が生えなくなります。

原因が対応する効果をもたらすには、適切な条件が存在する必要があります。それがpaccayā「条件が揃うと現れ出る」という意味です。

そのような適切な条件が存在する場合、原因は対応する結果をもたらします。したがって、何らかの結果がもたらされると、「paccuppanna」と呼ばれます。

つまり、適切な条件（paccayā）によって生まれたもの（uppanna）だからです。もちろん、そこには根本的な原因がなければ何も始まりません。

上記の例では、地面に種をまき（原因）、水、栄養素、および日光（適切な条件）を提供すると、種子が発芽して木に成長する可能性があります。

コラム　３つのタイプの条件　paccayā

kammaは決定論的ではない

原因が存在する場合、変化に適した条件であれば、対応する変化（結果）になる可能性は高くなります。

このように、kammaは決定論的ではありません。

しかし、PSの重要な点は、結果がもし発生した場合には、そこには原因だけではなく、「条件」が選択されていた（揃っていた）ことです。

これが“Pati ichcha”が“sama uppāda”に導く、ということです。

つまり、愛着を持つ（Pati ichcha）と、エネルギーがそこに集中的に照射されるために、対象が類似した別のエネルギー体に変換される（sama uppāda）、ということになります。

次に、過去の行為の結果にどのように苦しみ、新しい原因を作っているのかを見てみます。

つまり新たな苦しみの燃料を追加しているのかについてです。

十二因縁 Chain of conditioned arising の具体的な内容

Paticca-samuppāda（パーリ語）pratLtya-samutpDda（サンスクリット語）

仏教の開祖釈尊がインドのブッダガヤの菩提樹下で悟ったといわれる「原因と条件」の真理。

条件が整うと、この世のすべてのものは、あるもの（原因）によって現れるもの（結果）があるという法則。

突然に何かが現れたり、無から現れたり、偶然に現れるのではなく、そこには理由、すなわち因果関係があるということである。

詳細なステップごとに説かれるようになったのは釈尊の死後しばらくたってからだというのが定説である。

はじめは少ないステップ（支）で表現されていたが、後に５、６、９、10、12、24など多くのバリエーションに増えていったというのが文献学による定説である。

コラム　支（ステップ）の数がいろいろある縁起説

一番良く知られているのが十二支縁起あるいは十二縁起や十二因縁とも呼ばれるもの。

生老病死という四苦で言い表される苦の存在は，無明ではじまり老死で終わる以下の12の契機によって成立するとみる「条件と因果の法則」である。

Paticca-samuppada Sutta 　　　Samyutta Nikaya, XII (I). 1　　　パーリ経典　相応部12.1

	パーリ語	用語	英語	内容
1	avijjā	無明	ignorance	aniccā,dukkhā,anattāを常時において体感していないこと 貪瞋痴の状態で言動をおこすこと
2	saṅkhāra	行	reaction	学習された感情パターン、思考パターン　 アプリケーション　　自動反応回路
3	viññāṇa	識	consciousness	エネルギーを生む意識　　kamma viññāna エネルギーとはdhammā、、カルマの種、 未来を生む考え 「希望と夢」も含まれる。 これらは、52のcetasikāの複雑な組み合わせ
4	nāma-rūpa	名色	mind and body	メンタル・エネルギーが物質として具体化する
5	salāyatana	六処	six senses	感覚器官が対象を探索する機能を持つ（認識説明のPS） 意、視、聴、嗅、味、触　 脳、目、耳、鼻、舌、体 三世にわたるPSでは、受精卵
6	phassa	触	contact	内部rūpa（saḷāyatana）と外部rūpaとの接触を意味 感覚の信号が身体とではなく、無意識と結ばれること
7	vedanā	受	sensation	感覚信号のデータに嫌悪もしくは渇望のタグが付加される ９つのタグがあるが、メンタルの近遠のどちらに限定 somanassa 喜もしくはdomanassa憂
8	tanhā	愛	craving & aversion	tanhāはattachment付着、すなわち愛着 貪欲または憎悪が結びつく、という意味 渇望と嫌悪に区分された自動反応アプリケーションの作成 という解釈は間違っている。
9	upādāna	取	attachment	「upa近く」+「ādāna引っ張る」よって、 Upādānaは対象を「引っぱって近くに置いておく」 ことでエネルギーを集中照射させる マインドはārammana（対象）を引き寄せて、そこにエネルギーを注入する
10	bhava	有	the process of becoming	エネルギーが入る容れ物　　物質エネルギーの集合体　　　 枠組の中にエネルギーがあるが、カタチはまだない 3世のPSでは再生を何度か繰り返すメンタル体のこと
11	jāti	生	birth	具体化　　　　この世で形になる 誕生、出現、出生、具象化、物質化
12	jarā-maranam	老死	ageing & death	変化の連続、生・住・滅を繰り返す メンタルと肉体の苦しみの継続

概要

この表はこの世のすべてを説明し尽くそうと試みられて書かれた法則の一部である。

これが一番有名な縁起説であるが、それは一般的にこれを縁起説と習ったためであり、お寺の和尚さんや大学の教授や博士課程取得レベルでもそのように思われているのが現状である。

教えたのは大学の教授であり、寺院の法主であり、上座部仏教であり、中国語に翻訳された経典である。

しかし仏教の基本である三蔵を読めば明らかにように、上記の表は縁起説の中で、「Akusala（悪）-Mūla（根本）Paticca（好みとの結びつき）samuppāda（同様の生起）」と呼ばれるもので、「貪瞋痴」を根本原因にした時にかぎって起こる「条件と原因の法則」である。

これ以外にも解脱に至るためには重要な２つのタイプの縁起説があるので、それらについては後述する。

このAkusala-Mūla Paticca samuppādaをどのように日本語に翻訳されているのかをまだ知らないので、仮に「根本悪縁起説」ということにする。

これは執著による価値基準を中心に据えた時に起こる「条件と原因の法則」を12のステップごとに解き明かしたものである。

これを理解することで、修行を実践する時に何を注意しなければならないのかを論理的に把握することができる。

使わている語句も「ヒトの認識のプロセス」に合わせたものになっているので、底流にあるエネルギー転変の法則として解釈することが可能であるのならば、私説では宇宙創生や星の生滅・再生などにも適応したものであると考察している。

根本悪のすべてについて把握することを目的にした法則なので、複数の切り口によって「この世」を多面的に解釈しようとされている。

わたしがいまのところ理解している私説には5つの解釈のアプローチがある。

そのうちの3つは伝統的解釈を基盤にエネルギー転換からの視点を加えたものである。

3段階の一瞬の思考プロセス

3段階の現世での法則

3段階の時空次元　　　前世・現世・来世

３段階の宇宙誕生

3段階の多層意識

パーリ語とサンスクリット語と英語と漢字

解釈の多層性　　　　　サンスクリット語から英語への翻訳と解釈、、漢字の影響

縁起説を漢字で表された伝統的な仏教用語で理解しようとしてきたことにより、この縁起説が理解できなかったという歴史がある。

そこで、まずは「内容」をみて概要を摑み、

次にパーリ語をみて、語源を理解し、

それから英語をみて、理性（学界）ではどのように分類して呼称しているのかを一瞥して、

最後に漢字をみて、より深い層における熟慮をこころみる。

パーリ語での意味

	パーリ語	語源	内容
1	avijjā	a否定形 +vijjā　智慧　paññāとの違いは？ 全体性の把握 三相、四諦の理解と実践 貪瞋痴の覆いがない明澄	苦しみの原因をいつも体感していないこと 「三相」を体感していないこと 貪瞋痴からはじまっていることへの無知 四諦を知らない 釈尊の風　三相篇
2	saṅkhāra	saṅ添加＋khāra行動 付加されたものとはエネルギー この文脈での具体的なものは貪瞋痴 abhisankhāraつまり強いsankhāra	学習された感情パターン、思考パターン　 自動反応回路　　 輪廻を継続させるものの蓄積 kammaの種を生成する強いsankhāra
3	viññāṇa	vi分離、区分、否定 ＋ñāṇa　智慧　全体智、知識、 vijjā とñāṇaの相違性は？ 分離されてしまった知識	kamma viññāṇa エネルギーが埋め込められた意識 カルマの種になるエネルギー この文脈では無意識（中層意識・深層意識）で待機する学習された意識
4	nāma-rūpa	nāmaマインド＋　rūpa物質 rūpaを重力のあるエネルギーと解釈すると、意識エネルギー	メンタル界と物質界とのリンク 物質（具体化）と名前（一般化）の接点 未来の計画（メンタル界）の青写真（物質界） 過去の強い記憶（メンタル界）のエネルギー化 ウパニシャッドの概念から取り入れる
5	salāyatana	sal六 +āyatana «ā+yata+yu．āya+tanu+a．āyata+nī+a» 「目的のために感覚能力を使用する」 感覚器官（indriya）を意図的に使用するとindriyaはāyatana（意向）になる。	対象物を探求する感覚器官 ココロ、視、聴、嗅、味、触　の6つの感覚器官indriyaではなく、たとえばcakkayatana（目を基盤としてしまう）と manayatana（マインドを基盤としてしまう）であり、abhisankhāraを行う意向に転変したもの
6	phassa	phassa [phusa+ṇa．phusatīti　感触　 接触、感覚 単なるphassaでなくsamphassa 意図的な（汚れた）接触、感覚	探求する器官が対象と出会うことで得る感覚 自分の性向gatiによって接触するものが決定する。 この性向と対象が結びつくことでsan（付加された）感触が生成する
7	vedanā	vēdanā＝ve＋danā シンハラ語の辞書では（「veema 存在being」+「danaveema 気づいて情報にする」）は、「イベントが発生したことを認識する」という解釈もある。　 ミャンマー語の辞書vedi知る＋yu結合　知る時に（タグを）結合する機能があることを意味　仮説	感触の感覚データに2種（近遠）の内の１つのタグが付加されているもの　 受vedanāは感覚や情感ではない 翻訳には語源の底流を把握しているケースも多いので何を「受」したのか？ 近・遠のタグを「受ける」ことで、検索子や回路作成時の構成要素になるから。
8	tanhā	tan場所+hā　融合・溶接・結びつき　　　 対象に付着するもの 付着したもの、粘着するもの	近遠のタグによって自分のマインドが対象に関心を向けたので、対象とマインドが溶接されて結びつくこと。 愛着、付着、結びつき Tanhāは、貪欲、憎しみ、無知によって「この世の物事に執着している」こと。 多くの場合、「渇望」と誤って翻訳されている。 渇望と嫌悪に区分された自動反応アプリケーションの作成ではない
9	upādāna	upā近くに＋ādāna 掴む・取得・保持　　 近くに置いておく、という意味で 対象を掴み続けている行為 upādāna “upa” 　　　close “ādāna” 　　keep “keeping it close in the mind.	結びついたものを近くに掴み続けることで、 対象に集中的にエネルギーを照射できる状態 執着　　 自動反応アプリケーションを保持することで、無意識のうちに対象に依存している状態
10	bhava	bhava　　 枠組みしかないエネルギー体 31領域の１つで変化する魂　 人間と動物の場合は再生（誕生）を何度か繰り返すメンタル体	掴み続けることでマインドのdhammāエネルギーがbhūtaエネルギーに転換し、それらが枠組みはあるがカタチにはまだなっていない物質エネルギーとして保管されている状態 　 意識から物質が生まれるプロセス
11	jāti	jāti　　　出生 エネルギーがカタチに転換 意識エネルギーのbhūtaが物質エネルギーのdhātuに凝縮される	ヒトの場合はメンタル体がdhātuで構成されて具体化すること 誕生とは、この世でカタチになること 無色界ではdhammāがgatiに 色界ではgatiがbhūtaに転変すること
12	jarā-maranam	jarā　老化　 maranam　死去	ヒトの場合は肉体とメンタルの苦しみの継続

時間軸を現世だけにして解釈すると

	パーリ語	内容
1	avijjā　　 saṅkhāra	貪瞋痴と共に行動することで、これまでに体験して学習されたデータが 感情パターンと思考パターンとした自動反応回路として働きだし、
2	saṅkhāra viññāṇa	saṅkhāraのパターンを経過したエネルギーは エネルギーを持つ意識として生成され、
3	viññāṇa nāma-rūpa	viññāṇaが堆積すると、 メンタルとしての意識は物質エネルギーに転換されて「カルマの種」となり、
4	nāma-rūpa salāyatana	nāma-rūpa（カルマの種）が集まると、 感覚データを探求するエネルギーになり、
5	salāyatana phassa	salāyatanaと対象のエネルギーはお互いを引き寄せ合い、 貪瞋痴が根本にあるエネルギーと接触して感触し、
6	phassa　 vedanā	phassaの感触エネルギーは、 快・不快・どちらでもないのどれかのタグが付加され、
7	vedanā　 tanhā	タグの付いたvedanāエネルギーは マインドに付着するモノとなり、
8	tanhā　　　 upādāna	tanhāが拠り所になると、 掴んで離さないことで、集中的にマインドのエネルギーが照射され、
9	upādāna　　 bhava	upādānaが繰り返されると、 枠組みの中にエネルギーが堆積して 設計図の青写真のような回路や繊細なエネルギー体（gandhabba）を生み出す
10	bhava jāti	bhavaにエネルギーが充填されることで、 エネルギーは具現化しててカタチを持つようになる
11	jāti jarā-maranam	jātiしてエネルギーからカタチになったものは、 カタチの宿命として必ず劣化し、いつか壊れることになり
12	jarā-maranam dukha	この劣化と故障が起きることで、 メンタルと肉体の苦しみは継続する

漢字への翻訳　　　　十二因縁

翻訳時代の語義を推察すると、現代用語の意味とは異なり、どの字源も語源もパーリ語の意味と類似し、翻訳者のパーリ語と漢字の造詣の深さに驚く。

現代漢字から12支（3相、５蘊、４諦、８聖道も）の内容を説明する学説は多いが、あまりに表層的なものが多いのは、まだ仏教学の歴史が浅いためであり、近い将来に内容の解釈を変更する大きな変化があろう。

	パーリ・ 漢字・英語	内容
1	avijjā　　　　 無明 ignorance	「無」は、行為の「ある」前提をなすのが「ない」という状態。 「明」は、暗くてはっきり見えないもの（所）をはっきり見えるようにする 智慧という明かりを灯し続けていない限り陥る状態　 「無」「仮借。もと象形の字で、舞う人の形。舞のもとの字である。有無の“ない、なし”の意味に用いるのは、その音を借りる仮借の用法である」白川静『常用字解』 ［考察］ 無は舞う人の形で、否定詞に用いるのは仮借というのは、字形と意味が全く分裂している。 無は初めから否定詞であって「舞う」という意味では使われていない。 しかし言葉という視点から見ると、無と舞は同源の語である。 『釈名』に「武は舞なり」という語源説がある。逆に「舞は武なり」も成り立つ。 武は「無いものを求める」がコアイメージである。 王力は巫と舞を同源とする（『同源字典』）。 藤堂明保は武・巫・舞・無・馬・摸などが同源の単語家族を構成し、「探り求める」という基本義があるという（『漢字語源辞典』）。 miuag(舞）という言葉は巫・武と関係がある。 巫（シャーマン）は舞うことによって神に幸いを求める人である。 武は力によってむりやり領土や物（戦利品）を求めようとする行為である。 これらの行為の前提をなすのは「無」である。 こちらに無いからこそ他から求めようとする。 シャーマンは踊ることによって無いものを求める。 「おどる舞」⇄「ない無」は巫という語では可逆的な関係のイメージである。 舞は「無（音・イメージ記号）＋舛（限定符号）」 無は人が両手に羽飾りを持っている人の姿。 舛はステップを踏む両足の形。 したがって舞は何かを求めるためにダンスをするので、無い物を求める（目的）とダンスをする（結果）という一連の行為の前半に視点を置けば「無い」の意味、後半に視点を置けば「舞う」の意味が実現される。 「明」 「会意。もとの形は朙に作り、囧と月とを組み合わせた形。囧は窓の形。窓から月明かりが入りこむことを明（朙）といい、“あかり、あかるい、あきらか、あける、あかす”などの意味となる」　　白川静『常用字解』 ［考察］ 囧（窓）＋月（つき）→窓から月明かりが入り込むという意味が明にあるだろうか。 意味とは「言葉の意味」であって「字形の意味」ではない。 �@原文：靡明靡晦―『詩経』大雅・蕩 　明るい時（昼）も暗い時（夜）も �A原文：東方明矣―『詩経』斉風・鶏鳴 　東の空が明けたよ �@は光が差して明るい意味、 �Aは夜が明けるという意味 これを古典漢語ではmiăng（呉音でミヤウ、漢音でメイ）という。 二つの字体がある。甲骨文字には明と朙がある。金文では朙だけ。古文では明。篆文では朙。白川は朙だけを取り上げ、明を無視している。 まず明について。日（太陽）と月という明るい天体を組み合わせて、「あかるさ」という抽象的な概念を暗示せる。 次に朙について。「囧（窓を描いたイメージ）＋月（限定符号）」。 「明かりを取り込む」「明るくなる」というイメージを表す。 したがって朙は月の光が暗い所を照らして明るくする状況を暗示させる。 語源的に見ると、miăng（明）という語は名・命・鳴などと同源である。 これらは「分からないものを分からせる」というコアイメージをもつ 明は「あかるい」「あかるさ」を意味するが、その深層構造には「暗くてはっきり見えないもの（所）をはっきり見えるようにする」というコアイメージがある。 これが解明・説明の明。また、道理をよく見分けて賢い意味に展開する。 これが賢明・聡明の明。
2	saṅkhāra 行 reaction	行は「まっすぐな筋をなす」十字路の図形　　 ２本の線を交差させる図形→回路 意図的な行いは、「貪瞋痴」を根源としたものになってしまう。 この思考が悪であるという論理が一般的に理解されづらい。 理由は思考回路は対象の変化に対応するのではなく、過去につくったパターンを当てはめるからであり、それが過剰な貪瞋痴となる。 「行は、十字路の形。人の行く所であるから、“いく、ゆく” の意味となる。行は行くことから、ひろく行為すること一般をいう」白川静『常用字解』 考察 意味は文字の形から出るというが、事実は「ゆく」を意味する言葉があって、これを視覚記号化する際に「行」という図形が作られた。 「みち」と「ゆく」は古典漢語では両方とも同じくɦăngという音で呼ぶ。 �@原文：行有死人　尚或墐之―『詩経』小雅・小弁 　道に死人があると　穴を掘って埋める人もいる �A原文：我獨南行―『詩経』邶風・撃鼓 　私はひとり南方に行った �@はみちの意味、 �Aはゆくの意味で使われている。 行は十字路を描いた図形である。 なぜ「おこなう」の意味や行列などの意味に転じるのか。 道の機能は目的地へまっすぐ到達させることであり、その形態は「まっすぐな筋をなす」である。 物事をおこなうという行為は筋道を踏んで進行させることである。
3	viññāṇa 識 consciousness	「識」は、物事を区別して見分けること 識とは表層意識だけではなく中層と深層の意識も含む 「形声。音符は戠しょく。戠は戈に飾りをつけた形で、標識とするの意味があった。標識によって識別して知ることができるから、識は“しるし、しるす” の意味から、“しる、わかる”の意味となる」　　　　　　白川静『常用字解』 ［考察］ 意味をどう図形化したか、その工夫を考えるのが漢字の見方である。 �@原文：三爵不識　矧敢多又―『詩経』小雅・賓之初筵 　三杯の酒で意識がなくなれば　もっと飲ませることはない �A原文：默而識之。――『論語』述而 口には出さず心に記す �@は物事を見分ける（しる）の意味、古典漢語ではthiək（呉音でシキ、漢音でショク） �Aは心に記す（記憶する）の意味である。tiəg（呉音・漢音でシ）という。 これらをともに識という視覚記号で再現させる。 識は「戠ｼｮｸ（音・イメージ記号）＋言（限定符号）」。 戠の左側は音になっているが、古い字体では杙の標識の図形である。 武器の戈で目印（標識）を打ちつける図形で「見分けるための目印」の記号。 識は言葉という記号を用いて物事を区別して見分けることを暗示させる。 他と区別して見分ける意味をもつthiəkの表記する。 コアイメージは記す（書き記す）、さらに心に記す意味に展開する。 「しる」の意味には知もあるが、知は物事の本質を直観的にしることだが、 識は他と違う何かのしるし（特徴）を捉えて、他との違いを識別してしること。
4	nāma- rūpa 名色 mind and body	名とは見えないメンタル界を指すことで、そこにあることを示すこと。 色は陰陽の物質エネルギーによってカタチが現れること。 「名」 「夕は肉の省略形。口はᆸで、祝詞を入れる器の形。子どもが生まれて一定期間すぎると、祖先を祭る廟に祭肉を供え、祝詞をあげて子どもの成長を告げる名という儀礼を行う。そのとき、名をつけたので、“な、なづける”の意味となる」『常用字解』 ［考察］ 字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。夕（肉）＋口（祝詞を入れる器）→祝詞をあげて子どもの成長を告げる儀礼という意味を導く。「名」という儀礼から、子どもにつける「なまえ」の意味になったという。 「肉」と「器」の組み合わせというきわめて舌足らず（情報不足）な図形から、「祖先を祭る廟に祭肉を供え、祝詞をあげて子どもの成長を告げる儀礼」という意味が出てくるだろうか。たいだい祝詞とは口で唱える言葉、いわば聴覚言語である。これをどうして、なぜ、器に入れるのか。聴覚的な言葉を視覚的な文字に写し換えて、これを帛や木片（簡）に書写して、器に入れたのであろうか。なぜこんなややこしいことをなぜする必要があるのか。祖先への祈りは口で言うだけで十分なのではなかろうか。 こんな「名」の儀礼が実際に存在したのであろうか。証拠がないし、想像の域を出ないだろう。 また命名儀礼があったとすれば「名」という言葉があったからこそ命名儀礼という意味も生まれたのではないか。言葉よりも儀礼が先にあったというのは理解しがたい。 意味とは「言葉の意味」であって字形から出るものではない。字形の解釈と意味は同じではない。意味は言葉の使われる文脈からしか出てこない。図形的解釈と意味を混同するのは白川漢字学説の全般的特徴である。 �@原文：多識於鳥獸草木之名。―『論語』陽貨 　［詩経を学ぶと］鳥獣草木のなまえをたくさん知ることができる �A原文：君子疾沒世而名不稱焉。―『論語』衛霊公 　君子は死ぬまで名声が上がらないのを嫌う �B原文：猗嗟名兮　美目清兮―『詩経』斉風・ 猗嗟 　ああ何ともすばらしいことよ　目がすがすがしくて �@は物につけられる名前の意味、 �Aは評判・誉れの意味、 �Bは名高い、優れている意味で使われている。 古典漢語ではmieng（呉音でミャウ、漢音でメイ）。視覚記号として名が考案された。 符牒が「なまえ」である。これは言葉でもあるから、名は言葉の意味もあり、また言葉を写す文字の意味もある。また「なづける」という動詞の用法も生まれた。 �A人は名が世間に知られることを願望するのが常である。ここから、多くの人に知られて評判になること、名声・名誉という用法が生まれる。 �Bまた、名が広く知られることから名高いという意味が生まれる。 物につけられるなまえをなぜmiengというのか。 董仲舒（漢代の哲学者）は「鳴きて命施す、之を名と謂ふ。名の言たるは鳴と命なり」（『春秋繁露』深察名号篇）と述べている。 鳥が鳴くのは自分の名を呼ぶことだから、名・鳴・命は同源の語という解釈である。また劉熙（後漢の語源学者）は「名は明なり。名実分明ならしむるなり」（『釈名』釈言語）と述べている。 名分と実体を明らかにするものが名という解釈である。 いずれにしても古人は名・鳴・命・明が同源とした。 藤堂明保は名・命・鳴・冥・脈・覓・買・売などを同じ単語家族にくくり、これらはMEK・MENGという音型と、「かすかで見えない、わからぬ物をわからせる（ない物をあるようにする）」という基本義があるとした（『漢字語源辞典』）。 「説文に“名とは命なづけるなり。口＋夕の会意。夕は冥なり。冥にして相見えず。故に口をもって自ら名づくるなり”とある。夕は三日月であって、暗い夜を表す。暗くて見えない時、名前を口で告げて相手に知らせる。わからない時に、その存在をわからせるのが名である」と述べている。 「な」がないものは存在しないに等しい。「な」をつけることによって、その物の存在が明らかになる。だから物につける「なまえ」をmiengというのである。 したがって名ははっきりと分からない物になづけることによって、その物をはっきり分からせることを暗示させる図形である。 「色」 「会意。人と卩とを組み合わせた形。卩は跪く人の形であるから、人の後ろからまた人が乗る形で、人が相交わることをおいう。色は人が相交わるときのような感情の高揚する意味に用い、むっとして怒った表情になることを気色ばむのようにいう。高揚した感情は表情、顔いろに表れるので、顔いろの意味となる」白川静『常用字解』 ［考察］ 意味とは「言葉の意味」であって字形に属する概念ではない。意味は言葉の使われる文脈から判断し理解するものである。 �@原文：少之時、血氣未定、戒之在色。―『論語』季氏 　若い時は血気がまだ落ち着かないから、性欲を戒めとする �A原文：賢賢易色。―『論語』学而 　［妻に対しては］賢明さを大切にし、容色は二の次とする �B原文：令儀令色　小心翼翼―『詩経』大雅・烝民 　姿・顔色はうるわしく　心細やかに恭しい �@はセックスの意味、 �Aはセクシーな姿（容色、色気）の意味、 �Bは顔に現れた様子（顔色）の意味で使われている。 古典漢語ではsïәk（呉音でシキ、漢音でソク）という。視覚記号として色が考案。 色は卩（跪く人）を上下に配置した図形である。これは男女がセックスをする姿を暗示させる。色情・好色の色が最初の使い方（すなわち意味）である。 これから�A�Bの意味に展開する。�Bから外に現れた物の様子の意味（景色・特色の色）、また、外に現れるいろ（カラー）の意味（色彩の色）を派生する。
5	salāyatana 六処 six senses	旧字体は「處」で猛獣のトラが一箇所に止まって獲物を捜す様子。 虎と几とを組み合わせた形。虎が几（腰かけ）に腰かけている形である。虎は虎の皮を身に着けた人で、戦争に先だって、虎の皮を着けて戯・劇などの戦勝を祈る模擬儀礼を行うことがあったが、その儀礼を行う人が腰かけている形である。いかめしく装って腰かけていることを処という。それで“おる、聖所におる”の意味となる」 白川静『常用字解』 �@此邦之人　不可與處　―『詩経』小雅・黄鳥 �A遵海濱而處。　　　　―『孟子』尽心上 �@はある場所や状態に身を置く意味、 �Aは腰を落ち着けて住まう意味で使われている。 処は「几＋夂」に分析する。几は小さな坐具の形。 夂は下向きの足の形で、降りる動作に使われる限定符号。 処は足を止めて床几に腰を下ろす情景を設定した図形。 虍はトラがじっと落ち着くことを暗示させる。 「（ある場所に）腰を落ち着ける」「定着する」
6	phassa　 触 contact	觸とは一所にくっついて離れないことで意図的な感触のこと。 正字（旧字体）は「觸」である。 「形声。音符は蜀。蜀は牡の獣の形で、虫の部分は牡の性器の形である。牡の獣が角で相争うことを触という。角のある獣が争うとき、角をふれ合って闘うので、“ふれる” の意味となる」白川静『常用字解』 ［考察］ なぜ「争う」の意味になるのか。なぜ「触れる」の意味になるのか。 蜀を牡の獣の形とする根拠はない。蜀にそんな意味もない。 �@原文：羝羊觸藩。―『易経』大壮 　雄羊［の角］がまがきに触れる �A原文：兔走觸株、折頸而死。―『韓非子』五蠹 　兎が走ってきて株にぶつかり、くびを折って死んでしまった �@は一点にくっつく（ふれる、さわる）の意味、 �Aは一点を突いてぶつかる意味である。 これを古典漢語ではt'iuk（呉音でソク、漢音でショク）という。 觸は「蜀ｼｮｸ（音・イメージ記号）＋角（限定符号）」 蜀は目玉の大きな虫を描いた形である。 蜀については『説文解字』に「葵中の蚕なり」とあり、『詩経』の「蜎蜎者蜀」という詩句を引用している。蠋はアオムシやイモムシのことで、蝶や蛾の幼虫である。この虫はある種の木の葉にとりついて、食べ終わるまで離れない習性がある。 これから「一所にくっついて離れない」というイメージが捉えられ、漢字の造形に使われる。 したがって觸は角のある獣が角を一点にくっつけて（角で一点を突いて）ふれる情景を設定した図形である。
7	vedanā　 受 sensation	感覚信号にタグ情報を受ける（授ける） 「受」 「会意。𠬪ひょうと舟とを組み合わせた形。𠬪は爪と又とを組み合わせた形で、爪と又は手であるから、上下の手を合わせた形。舟は盤の形。盤の中に入れたものを、上の手は与える手、下の手は受ける手である。それで上の手からいえば受さずける、下の手からいえば受うけるの意味となる」白川静『常用字解』 ［考察］ 舟を「盤に入れたもの」とするのは突飛で、どう見ても「ふね」であろう。 　原文：彤弓弨兮　受言藏之―『詩経』小雅・彤弓 　反り返った赤い弓　どうか受けてしまいなさい 受は受け取る意味で使われている。 これを古典漢語ではdhiog（呉音でズ・ジュ、漢音でシウ）という。受は甲骨文字・金文では「爪＋舟＋又」の字体であった。 舟はその構造から「外枠をめぐらす」「枠で周囲を囲う」というイメージがある。 これはまた「囲いの中に入れる」というイメージにも展開する。 爪は下向きの手、又は上向きの手である。AからBに物を与える際、上の方から下の方に物を手渡して、相手の手の中に物を収め入れる情景を設定した図形が受である。この行為はA→Bの方向ならば与える（さずける）ことになり、A←Bの方向ならばもらう（うける）ことになる。「うける」と「さずける」は同じ行為の方向の違いだけである。
8	tanhā　　　 愛 craving & aversion	愛とは、切ない思いで胸がいっぱいに詰まりふさがり、足をひきずる様子から、 対象に対して思いがいっぱいになっている状態 「［旡＋夊］と心とを組み合わせた形。 立ち去ろうとして後ろに心がひかれる人の姿であり、 その心情を愛といい、‘いつくしむ’の意味となる。 国語では‘かなし’とよみ、後ろの人に心を残すことをいう」白川静『常用字解』 夊は足や夂とは違い、ひきずる足である。すたすたとは歩けない足、重そうにとどまりがちな足である。 漢字の字源は六書で説き、会意とはすでにできている二つの文字をA＋Bと組み合わせる手法。 ［考察］ 㤅は存在するが［旡＋夊］は存在しないので字形の解剖を間違えている。 正しい解析は「㤅＋夊」である 㤅は「旡＋心」 旡は既を表し、既は食べ物の前にひざまずいて後ろにのけぞる人の姿である。食べ物を腹いっぱい食べ尽くしている情景が既であり、「もうすでに」の意味をもつ。 旡と既の根底にあるのは「いっぱになる」「中がいっぱいに詰まる、ふさがる」であり、恋愛の愛もまさにこの「いっぱい詰まる、ふさがる」というのがコアイメージである。切ない思いで胸がふさがるというのが愛の意味である。 心乎愛矣　遐不謂矣　　　　『詩経』小雅・隰桑 切なく思う胸のうち　告げないではいられません 切ない思いで胸が詰まる（一杯になる）ことが愛の意味である。
9	upādāna　　 取 attachment	「取」は、内側に引き締める行為 「又は手の形。戦場で討ちとった者の左の耳を、討ちとった証拠として手で切り取ることを取という。敵の耳を切り取るの意味から、すべての物について“とる、うばう” の意味となる」白川静『常用字解』 ［考察］ 戦場で敵を殺して耳を切り取り戦功の証拠としたというのは事実のようだが、耳を切り取ることは聝ｶｸ（=馘）といい、「取」とはいわない。取の用例を見てみよう。 �@原文：取彼狐狸　爲公子裘―『詩経』豳風・七月 　キツネとヤマネコを狩り取って　公子の皮衣を作ります �A原文：鴟鴞鴟鴞　既取我子―『詩経』豳風・鴟鴞 　フクロウよ　フクロウよ　お前は私の子を取った �B原文：倬彼甫田　歲取十千―『詩経』小雅・甫田 とても大きく広い畑は　毎年の取り入れ一万石 �@は物をつかんで手にとる（捕まえる）の意味、 �Aは奪いとる意味、 �Bは取って自分のものにする（取り込む）の意味 古典漢語ではts'iŭg（呉音でス、漢音でシュ）を代替する視覚記号として取が考案された。 手で物をつかむ際には指を内側に折り曲げる。この形状から「内側に引き締める」「縮める」というイメージが捉えられる。ts'iŭgはこのコアイメージをもつ言葉で、束・族などと同源の語である。 取は「耳＋又（手の動作を示す限定符号）」と分析するが、耳は何か。 敵の耳を切り取るという意味ではなく、単につかみ取ることを表そうとした図形。 耳をつかむとはどういうことか。耳は獲物の耳である。 「獣を捕獲する場合には、必ずその耳を執って始めて噬齧の患がない。今でも獣を捕える場合には耳を捕える。そこからこの取字ができた」　加藤常賢『漢字の起源』
10	bhava 有 the process of becoming	「有」とは、枠の中にモノ（エネルギー）を囲うこと マインドの意思がエネルギー体（dhammā）となり、カタチのある有がうまれる。 「会意。又と月とを組み合わせた形。又は右手の形で、月は肉の形。有は祭肉を手に持って神に供える形で、神にすすめるの意味となる。有が侑のもとの字である。有は祭肉を手に持つ形であるから、“もつ、たもつ、ある”の意味に用いる」『常用字解』 ［考察］ 又と有は同音であるから形声のはず。白川漢字学説には形声の説明原理がなく、形声でも会意的に説くのが特徴であるが、言葉の深層構造が見えなくなる。 有・右・友はすべて「又」に深層構造を解明する鍵がある。 �@原文：采采芣苢　薄言有之―『詩経』周南・芣苢 　摘むよオオバコ　手にとって囲う �A原文：南有喬木　不可休息―『詩経』周南・漢広 南にのっぽの木があれど　木陰がなくて休めない �B原文：有朋自遠方來、不亦樂乎。―『論語』学而 　遠方から友がやってきた。何と楽しいことではないか �@は枠を囲って物をしまい込む意味、 �Aはある空間に何かが存在する意味、 �Bは予期せぬことが起こる意味で使われている。 これを古典漢語ではɦiuəg（呉音でウ、漢音でイウ）という。 有は「又ﾕｳ（音・イメージ記号）＋肉（限定符号）」 又は右手の「枠を作ってその中に物を囲う」というイメージ、また「中の物を周囲から囲ってかばい助ける」というイメージを示す記号となる。 肉は肉と関係があることを示す限定符号。 したがって有は肉を枠の中に囲い込む情景。 意味は上の�@で、保有・所有の有である。「もつ」という意味ではなく、「たもつ」に近い。 意味はコアイメージによって展開する。「枠の中に物を囲う」というイメージ。 枠（ある一定の空間）を中心的視座に置くと、ある空間に何かが存在するという意味が生まれる。これが上の�Aである。有益・有名の有である。このような熟語の文法は「益有り」「名有り」のように「有＋ある物」の形式になる。正確に言えば「A有B」という形。有名とはある人（場所や空間）に名が存在する（知られている）ということで、Aは場所主語、Bは補足語で、Aは省略されることがある。 一方、「枠の中に物を囲う」という事態を時間の流れという視座に置くと、気づかないうちにある枠（空間）の中に物が現れて存在するようになるという意味が生まれる。これが上の�Bである。 予期せぬうちにひょっこりと出現してそこにあるという意味である。有事という熟語はこれである。予期せぬ事態が起こることを有事という。 上記の『論語』の文章を「朋有り、遠方より来る」という読み方もあるが、これでは「私には友人があるが、彼が遠方からやって来た」と解釈されかねない。予定された訪問ではなく、予期せぬハプニングということに主眼がある。
11	jāti 生 birth	「生」は汚れがなくすがすがしい（清らかに澄み切っている） 生成、再生、誕生、発生、生起 「象形。草の生えている形。草が発芽し、生長することから、人が“うまれる、そだつ、いきる、いのち” の意味となる」白川静『常用字解』 ［考察］ �@原文：乃生男子　載寢之牀―『詩経』小雅・斯干 やっと生まれたのは男の子　取り上げてベッドに寝かせる �A原文：梧桐生矣　于彼朝陽―『詩経』大雅・巻阿 　アオギリが生えたよ　あの山の東に �B原文：未知生、焉知死。―『論語』先進 　まだ生も知らないのに、どうして死が分かる �@は子をうむ、うまれる意味、 �Aは草木がはえる意味、 �Bは生命を得て生存する（いきる、いのち）の意味で使われている。 これを古典漢語ではsïeng（呉音でシヤウ、漢音でセイ）という。 語源について。生は青と同源の語である。 生命が誕生したばかりで新しく生き生きしている状態から発想された言葉がsïengで、「汚れがなくすがすがしい（清らかに澄み切っている）」がコアイメージ。 字源。生は「屮＋土」がドッキングした字である。屮は草の芽の形であるので、生は土の中から草の芽がはえて出てくる情景を設定した図形である。 意味は上の�@、�A、�Bへ展開するが、そのほかに、無から出てくる意味（発生の生）、新鮮で生き生きしている（なま、き）の意味（生気・生鮮の生）、未熟なもの（まだ修行・勉強の途中にあるもの）の意味（学生の生）などがある。 日本語では「うむ」「はえる」「いきる」「なま」「き」は別語であるが、古典漢語ではこれらすべてを生がカバーする。
12	jarā- maranam 老死 ageing & death	「老」は、固くてスムーズに動かない 「死」は細かく分かれてばらばらになって分散する 老化、死去 「会意。耂と匕かとを組み合わせた形。耂は長髪の人を横から見た形で、長髪の垂れている形。匕は人を逆さまにした形で、横たわっている死者の形。この字の場合は死に近いという意味を示している。長髪の年老いた人を老といい、“おいる、おいぼれる、としより”の意味に用いる」　 白川静『常用字解』 ［考察］ 匕が死者なら、老でも同じでないと矛盾する。なぜ「死に近いという意味」といえるのか？ �@原文：及爾偕老　老使我怨―『詩経』衛風・氓 　共白髪までと誓ったのに　老いた私に怨みが残る �A原文：召彼故老　訊之占夢―『詩経』小雅・正月 　訳知りの長老を呼んで　見た夢の判断を問う �@は年を取る（おいる）の意味、 �Aは年寄り、年長者の意味で使われている。 これを古典漢語ではlog（呉音・漢音でラウ）という。 語源について藤堂明保は、老は牢や留のグループ（瘤・溜など）と同源で、「固く囲む、丸く固まる」という基本義があるという（『漢字語源辞典』）。 「固くてスムーズに動かない」というコアイメージ。 骨組みが固くなって動きが悪くなるまで年を取ること 字源については象形文字とするのが近年の通説である。老の甲骨文字から、髪が長く腰の曲がった人が杖をついている姿と解釈できる。 690「死」は拾い集めた残骨を拝み弔うことから「死ぬ」の意味が出たか？ 「死」 「会意。歹と人（匕）とを組み合わせた形。歹は死者の胸から上の残骨の形。古くは死体を一時的に草むらに棄て、風化して残骨となったとき、その骨を拾ってほうむることを葬という。拾い集めた残骨を拝み弔う形が死で、“しぬ、ころす” の意味となる」 白川静『常用字解』 ［考察］ 字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。歹（胸から上の残骨）＋人→残骨を拾い集めて弔う→死ぬという意味を導く。なぜ胸から上の残骨を拾い集めるのか。残骨とは何か。肉がとけて骨だけが残ったものか。それなら「死者の骨」だけでよいはず。 胸から上だけ残った骨を拾い集めて拝むのが死とは奇妙である。 　原文：穀則異室　死則同穴―『詩経』王風・大車 　生きている間は夫婦になれなくても　死んだら同じ穴に入りましょう 古典漢語ではsier（呉音・漢音でシ）という。 古人は「死は澌ｼ（細かく分かれる、尽きる）なり」と語源を捉えている。 藤堂明保は死・四・西・洗・洒・遷・細・私などは同源の単語家族で、SER・SENという音形と、「細かく分かれる」という基本義があるという（『漢字語源辞典』）。 語源的に探求すると、古典漢語では死という現象を「細かく分かれてばらばらになる」 「分散する」というイメージで捉えていたと考えられる。 「歹＋匕」　歹は関節の骨の下半部分で、ばらばらになった骨を示している。 匕は人と同じ形。 したがって死は人がばらばらの骨になる状況を暗示させる図形である。

漢字の字源や語源は常用漢字論―白川漢字学説の検証をまとめたものである。

ウェキペディア、中村元氏解釈、伝統的解釈とその解釈の問題点

	パーリ語	用語	伝統的解釈	問題点、内容、新解釈、新訳
1	avijjā	無明	無知 過去世の無始の煩悩 煩悩の根本が無明 迷いの中にいること。	気づいていない潜在意識によって ありのままの事実が感知できない状態 「貪瞋痴」に気づいていない
2	saṅkhāra	行	潜在的形成力、志向作用。 物事がそのようになる力 ＝業	インプットを決まったアウトプットにパターン化させる回路。 インと「まっすぐな筋をなす」アウトをつなげる自動反応回路で、多種の要因と条件を配慮しない合理性のこと。 これを作成することで、アウトプットのエネルギーは一点に集中する。
3	viññāṇa	識	識別作用、選別	エネルギーを含んだkamma viññānaのこと これが集積するとエネルギーの種になる。 識とは表層意識だけではなく中層と深層の意識も含み、物事を区別して見分けること。 分けられないものを分けたことで「決めつけ」が起こり、アウトプットとしてエネルギーが一点に集中する。
4	nāma-rūpa	名色	名称と形態	メンタル界と物質エネルギーのリンクである、カルマの種kamma bījaのこと エネルギー物質dhammāで構成される。 意識が物質エネルギーに転換されることを意味している。
5	salāyatana	六処	眼耳鼻舌身意の6感覚器官 六入（ろくにゅう）ともいう	感覚器官はindriyaでāyatanaではない。 āyatanaとは対象を探してしまう活性化した感覚器官のエネルギーのこと 虎が獲物を狙う様子
6	phassa	触	六つの感覚器官に、それぞれの感受対象が触れること。 外界との接触	対象を追い求める器官エネルギーと対象が、一所にくっついて離れないこと。 意図的な感触、すなわち「貪瞋痴」のエネルギーを持つ接触。
7	vedanā	受	感受作用	対象イメージ（色蘊）にメンタルの近遠どちらかのタグがつけられる。 somanassa 喜もしくはdomanassa憂
8	tanhā	愛	渇愛、妄執	対象に付着・粘着するもの tan所+hā　融合　　 つけられたタグによって関心（エネルギー）が向けられ、対象に対して思いがいっぱいになっている状態
9	upādāna	取	執着	対象を内側に引き締め、掴んで離さないために、エネルギーが強く照射されている状態。
10	bhava	有	存在。生存	枠の中にモノ（エネルギー）を囲うこと。 マインドの意思がエネルギーとなり、カタチはないが、枠組みの中にエネルギー体ができる。 存在という意味は不明である。
11	jāti	生	生まれること 生成、再生、誕生、発生、生起	カタチとなって顕出する。 汚れなく清らかに澄み切ってすがすがしい。 無から生まれたのではなく、物質エネルギーが物質に変換した。
12	jarā-maranam	老死	老化、死去	形をもったものは生滅の変化のプロセスが伴い、 固くてスムーズに動かなくなり（老）、 細かく分かれてばらばらになって散る（死） 老化と死去

出典　　　経蔵　論蔵

発趣論　Patthana Dhamma　　　　論蔵の第7論。

順三法発趣、順二法発趣、順二法三法発趣、順三法二法発趣、順三法三法発趣、順二法二法発趣、逆発趣、順逆発趣、逆順発趣　「五部」の内の、第3番目の「部」

分別論　Vibhaṅga　Paṭiccasamuppādavibhaṅga　　論蔵の第2論　縁行相分別（Paṭiccasamuppāda-vibhaṅgo）

律蔵大品 自説経Udāna　1 Paṭhamabodhisutta　パーリ仏典経蔵小部の第3経

釈尊は縁起を認識して仏となったという伝承も、経典にはある。

長部　大品第十四経「大本経」、

相応部　因縁相応第六五経「城邑経」、

相応部　因縁相応第四経「毘婆尸仏経」〜第十経「釈迦牟尼経」

Saṁyutta Nikāya 12　1. Buddhavagga　1. Paṭiccasamuppādasutta 　　経蔵の相応部

Paticca-samuppada Sutta, Samyutta Nikaya, XII (I). 1	条件づけらえた発生の鎖の法則　　　　縁起説
Anuloma:	順方向：
Avijja-paccaya sankhara; sankhra-paccaya viññanaa; viññana-paccaya nama-rupam; nama-rupa-paccaya salayatanam; salayatana-paccaya phasso; phassa-paccaya vedana; vedana-paccaya tanha; tanha-paccaya upadanam; upadana-paccaya bhavo; bhava-paccaya jati; jati-paccaya jara-maranam-soka-parideva- dukkha-domanassupayasa sambhavanti. Evame-tassa kevalassa dukkhakkhandhassasamudayo hoti.	無知を基盤として、反応が生じます。 反応の基盤により、意識が生じます。 意識の基盤により、心と体が生まれます。 心と体の基盤で、六感が生まれます。 六感の基盤で、接触が生じます。 接触の基盤で、感覚が生じます。 感覚の基盤で、付着が生じます。 付着の基盤で、愛着が生じます。 愛着の基盤で、エネルギー体が発生します。 エネルギー体の基盤で、誕生が起こります。 誕生の基盤で、老化と死が起こり、 悲しみ、嘆き、肉体的および精神的苦痛、数々の苦難とともに。 したがって、この全体の苦しみが生じます。
jara-maranam　　老いと死 soka悲しみ-parideva嘆き-dukkha苦 -domanassupayasa 苦悩 sambhavanti　現れる Evameこうして-tassa　これの kevalassa　　すべての dukkha苦しみの　+kkhandhassa　塊、一塊、集まり samudayo 現れる	Chain of Conditioned Arising Forward Order: With the base of ignorance, reaction arises; with the base of reaction, consciousness arises; with the base of consciousness, mind and body arise; with the base of mind and body, the six senses arise; with the base of the six senses, contact arises; with the base of contact, sensation arises; with the base of sensation, craving and aversion arise; with the base of craving and aversion, attachment arises; with the base of attachment, the process of becoming arises; with the base of the process of becoming, birth arises; with the base of birth, ageing and death arise, together with sorrow, lamentation, physical and mental sufferings & tribulations. Thus arises this entire mass of suffering.
Patiloma: Avijjaya tv’eva asesa viraga-nirodha,sankhara-nirodho; sankhara-nirodha viññana-nirodho; viññana-nirodha nama-rupa-nirodho; nama-rupa-nirodha salayatana-nirodho; salayatana-nirodha phassa-nirodho; phassa-nirodha vedana-nirodho; vedana-nirodha tanha-nirodho; tanha-nirodha upadana-nirodho; upadana-nirodha bhava-nirodho; bhava-nirodha jati-nirodho; jati-nirodha jara-maranam-soka-parideva- dukkha-domanassupayasa nirujjhanti. Evame-tassa kevalassa dukkhakkhandassa nirodho hoti.	逆順： 無知の完全な根絶と停止によって、反応は止まります。 反応が停止すると、意識が停止します。 意識が停止すると、心と体は停止します。 心と体が停止すると、6つの感覚が停止します。 6感覚の停止により、接触は停止します。 接触が停止すると、感覚は停止します。 感覚の停止すると、渇望と嫌悪感の付着は停止します 渇望と嫌悪感の付着が停止すると、愛着は止まります。 愛着がなくなると、エネルギー体が停止します。 エネルギー体が停止すると、出生は停止します。 出生、老化、死が停止すると、悲しみ、嘆き、肉体的および精神的苦痛、数々の苦難が止まります。 したがって、この全体の苦しみはなくなります。

縁起に関する原典

象跡喩大経Mahāhatthipadopama-sutta　パーリ仏典経蔵中部第28経　　英訳

「縁起をみる者は法をみる。法をみる者は縁起をみる」

“yo paṭiccasamuppādaṁ passati so dhammaṁ passati; yo dhammaṁ passati so paṭiccasamuppādaṁ passatī”

釈尊の12支縁起について記す経典　　　12支縁起はブッダの悟りか？　　

自説経Udāna　1 Paṭhamabodhisutta　　パーリ仏典経蔵小部の第3経

ウルヴェーラー村の菩提樹の下で７日間、結跏趺坐したままの姿勢で成道し、その後に内観した12支縁起。

律蔵の大品Mahā-vagga 1.23.10　　Mahākhandhaka　1. Bodhikathā　Pli Tv Kd 1

大釈迦牟尼瞿曇SN12　1 Buddhavagga　10Gotamasutta　　英訳　

ブッダが12支縁起を証得することで悟ったと記す相応部Saṃyutta Nikāya経典SN12

往観で順観　　　生を縁として老死、有を縁として生がある

虚構に執著する者たち　　この世が縁によって成り立っていることに「執著」する人は理解することが難しい

『聖求経』Majjhima Nikāya 　26Pāsarāsisutta 　経蔵中部第26経　　英訳 The Noble Search

釈迦が、比丘たちに向かって、聖なる道（仏道）の探求について、自身の修行時代や2人の師（アーラーラ・カーラーマ、ウッダカ・ラーマプッタ）に言及し、後半は梵天勧請のエピソードが記されている。

Ālayarāmā kho panāyaṁ pajā ālayaratā ālayasammuditā. Ālayarāmāya kho pana pajāya ālayaratāya ālayasammuditāya duddasaṁ idaṁ ṭhānaṁ yadidaṁ—idappaccayatā paṭiccasamuppādo. Idampi kho ṭhānaṁ duddasaṁ yadidaṁ—

「執著を好み、執著を楽しみ、執著を喜んでいる人々には、これを縁とすること（縁起）の道理は見がたい。」

執著Ālaya　　ものを蓄える場所、貯蔵庫　　　　　経験して蓄積した慣習、言語という根源的慣習を含む

Tassa mayhaṁ, bhikkhave, etadahosi: ‘adhigato kho myāyaṁ dhammo gambhīro duddaso duranubodho santo paṇīto atakkāvacaro nipuṇo paṇḍitavedanīyo.

takka：�@ m．[Sk．tarka] 思索，思択，理論，推論 takkāvacara 推論の範囲，尋思の境

mayhaṃ，人稱代名詞第一人稱我amha單數s [amha+sa]

bhikkhave, etadahosi　 比丘たちよ、私に、この〔思い〕が起こりました

adhigato：Having attained or arrived at，attained，acquired

gambhīro：Deep，unfathomable； profound，abstruse； full of meaning or import，important，weighty

duddaso：Difficult to see； difficult to perceive or understand； ugly

duranubodho：Difficult of comprehension

santo：Being； good； wise

paṇīto：Accomplished； excellent，eminent，exalted； sweet，nice

atakkāvacaro：Beyond the range of thought，unthinkable

nipuṇo：Clever，skilled，sharp，intelligent； delicate，subtle，abstruse

paṇḍitavedanīyo[paṇḍita　 wise　+　vedanīya　 feeling]

胎生学的解釈を裏付ける経典

増支部Tika-nipāta3集「大品」Aṅguttara Nikāya3　7 Mahāvagga　61Titthāyatanasutta　英訳

大縁方便経経蔵長部第15経　　Mahānidāna-sutta,　　　英訳

三世両重説の胎生学的解釈

輪廻における入胎とその後の発達過程についての教説。

たとえば名色は、胎内での胎児の成長の５段階を表し、六処は６つの知覚機能がそろったことであるという解釈「佛教學セミナー100号」宮下晴輝

大念処経MahāsatipaṭṭhānasuttaDīgha Nikāya 22 長部第22経　　英訳Mindfulness Meditation

縁起の解釈　　　出発点、時間軸、意識、

因果の解釈

縁起とは因果の関係性を表した法則である。

原因と結果の関係性を科学や哲学ではどのようにみているのだろうか？

また、科学の因果性と仏教の縁起説はどこが違うというのか？

現在哲学の因果論

ビリヤード台の２つのボールの衝突という原因とそれらのボールの速度が変化するという結果には、時間差は認められず、それらは同時に起こる。

このように原因と結果とはおよそ分離することはできない一体のものであり、原因→結果ではなく、原因＝結果なのである　　　　

須藤靖「科学を語るとはどういうことか」

科学の因果性は物質エネルギーの範囲までを扱っており、

哲学の因果性はメンタル界の範囲までを扱っている。

対して

仏教の因果性は、メンタル界と物質エネルギーを含めた範囲の中で生じる原因と結果の関係性を扱っている。

科学の因果関係とは統計上の確率的な平均値でしかない　　　ブッダの縁起との違い　

共時性と因果性　　意識は現象に影響し、偶然の一致は微細レベルでの因果なのか？　ユング、パウリ

もっと正確にいうと、アブラハム教は魂も範疇に入れた因果関係を扱っているのに対して、仏教は魂だけではなく霊も範疇に入れた関係性を扱っている。

上座部仏教と大乗仏教の縁起説の解釈は後述のコラムに詳細があります。

種類

条件が揃うことで縁のあるものが生まれてくるプロセスを法則として釈尊は説き、それは多くのバリエーションがある。

区分するには、「原因」が善・悪であったり、カルマの中立を基準にしたり、

縁起説が適用できる時間軸の範疇の違いで分類することで解釈も変わる。

ステップの数による分類

原因の3つの分類　　　中立　　根本善　根本悪

時間軸による分類　　　10億分の1秒　から400億年

ステップの数による分類

縁起説は五支縁起を原型にしており、そこから縁起の根源をさらに深掘りしたもので、

元になっている五支縁起は、渇望⇒執着⇒生存⇒誕生⇒老死である。

３，５，８，９，10、12、24といろいろなケースがある。　　　　

コラム　　支（ステップ）の数がいろいろある縁起説

原因による分類

PSプロセスを「原因」によって3つのカテゴリに分類する

１　良くも悪くもない中立の原因　

このPSプロセスは、感覚にkamma vipākaが信号としてインプットされることで因果関係を生み出すもの。

他の2つがabhisaṅkhāraを生成し、カルマ・エネルギーを蓄積するのに対して、

この中立のPSプロセスは、manō saṅkhāraが自動的に生成するメカニズムはあるが、エネルギーは瞬間的に消滅するので、残存するカルマ・エネルギーを生成しない。

しかし、中立的なkamma vipākaであろうとも、マインドに感覚信号がインプットされるので、その後に善悪を原因とするPSプロセスにつながることが多いので、その時に新しいカルマ・エネルギーを生成する可能性が高い。

２　良い原因

kusala-mūlaPSプロセスと呼ばれる。

根本（mūla）が善（kusala）であることから始動する。

八聖道を歩むことで最終的に涅槃nibbānaに至る、「良いkamma」エネルギーを蓄積するもの。

kamma vipākaがそのような「良いPS」プロセスにつながるようになるためには、訓練をする必要がある。

これはSatipaṭṭhāna/ Ānapāna / Vippasana瞑想を実践することによって可能になる。

３　悪い原因

akusala-mūla PSプロセスと呼ばれる。一般に知られている縁起説のこと。

根本（mūla）が悪（akusala）であることから始動する。

再生プロセス（輪廻）を拡張する新しいkammaを生成する可能性がある。

このプロセスは一瞬で発動するが、マインドフル（Satipaṭṭhāna/Ānapāna）であれば、そのプロセスに気づくことで途中で停止することも練習によって可能になる。

中断するポイントは10箇所あるが、実質的には2箇所で可能である。

河の流れの譬え

この世に生まれるとは、急流の河の上で小舟に乗せられるようなものだとする。

河の流れとは上流から下流へと次々にエネルギー転換していく法則のことをいう。

これを言葉で具体化して説明しているのが縁起説である。

この河の流れの中で、段階的ステップや選択肢の可能性がある。

そのまま流れに乗る

小舟をフェリボートに改造する

筏をつくる

筏を作って岸や中洲に至る

起承転結でいうと

河の流れにいることに気づき、

小舟を頑丈な船にして

船の限界を知り、河の流れから離脱するために筏を作り

筏を漕いで岸に至る

このような譬え話の中で

河の流れが根本縁起、

船を作ることは根本悪縁起

筏を作るのが根本善縁起

岸に至った後が中立縁起となる。

ただ岸に至る前でも感覚認識の流れだけならばそれは中立縁起なので、

岸に至った後の中立法則とは未知のものではなく、

私たちが瞬間ごとに体験しているごく当たり前のことである。

だが日常では、その後に根本悪縁起が起動してしまうので、中立縁起を持続させるには、訓練が必要となる。

それが筏を作ること、すなわち根本善縁起であり、具体的には八聖道（八正道ではない）である。

	PSサイクル	原因	サイクル停止	大脳皮質・思考	kammaの生成・蓄積
1	中立 avyākata 善悪はない　　 不善不悪	Kamma vipāka 6感覚器官を介した入力信号により「意識した感覚認識」	できない	善と悪のどちらでもない中立の脳幹の意識反応 大脳辺縁系の近遠のタグ情報 は関わる 大脳皮質が作り出す「思考」には関わっていない	kamma的中立abhisaṅkhāraは生成しない manō saṅkhāraだけ 「taṇhā」が付加されないのでkammaの生成がない。
2	根本善 Kusala-mūla	alobha, adosa, amoha （非貪・非瞋・非痴）	できる	大脳皮質を使用する思考が関わる	good kammā punnabhi（価値ある、道徳的、健全な、有益な）
3	根本悪 Akusala-Mūla	lōbha、dōsa、mōha （貪瞋痴）	できる	関わる	bad kammā apunnabhi（無価値、不道徳、無益）

	PS	欲・願望	エネルギー	因果の結果への執著	javana citta
1	中立	ない	生成しない	アラハンの境地後も、kāma vipākaは発生するが執着はしない。	関わりはない
2	根本善	Nibbanaへの欲求chanda	生成する	結果に執著する	関わる
3	根本悪	dhātuへの欲望 kāmachanda欲情	生成する	結果に執著する	関わる

3つのPSサイクルのステップ

	中立	根本善	根本悪
1	（kamma vipāka paccayā saṅkhāra）	kusala-mula paccaya sankhara;	Avijja paccaya sankhara;
2	saṅkhāra paccayā viññāṇaṃ,	sankhara paccaya vinnana;	sankhra paccaya viññanaa;
3	viññāṇa paccayā nāmaṃ,	vinnana paccaya namarupa,	viññana paccaya namarupam;
4	nāma paccayā chaṭṭhāyatanaṃ,	namarupa paccaya salayatana,	namarupa paccaya salayatanam;
5	chaṭṭhāyatana paccayā phasso,	salayatana paccaya phasso,	salayatana paccaya phasso;
6	phassa paccayā vedanā,	phassa paccaya vedana,	phassa paccaya vedana;
7	vedanā paccayā bhavo,	vedana paccaya cittapasado,	vedana paccaya tanha;
8		cittapasada paccaya adhimokkho,	tanha paccaya upadanam;
9		adhimokkho paccaya bhavo,	upadana paccaya bhavo;
10	bhava paccayā jāti	bhava paccaya jati,	bhava paccaya jati;
11		jati paccaya jara, maranan,	jati paccaya jara, maranam, soka, parideva, dukkha, domanassupayasa sambhavanti.
12		eva me tassa dhammanan samudhayo hoti	eva me tassa kevalassa dukkhakkhandhassasamudayo hoti.

上の表の用語の解説

中立PSサイクル

viññāṇa paccayā nāmaṃ,　　

namarupaでないのは、

「nāmarūpa」の生成には、kammaを実際に実行するjavana cittaが関わるのだが、

この中立PSサイクルではマインドはkamma（カルマ・エネルギー）との関わりはないので、javana cittaが生起しないことから、識viññānaが物質エネルギー化されることはない。

したがって、カルマのエネルギーがあるイメージ（kamma viññāna）を作成しないので、namarupaではなく、ただのメンタル界にある抽象化されたままのnāma（一般化された記号）である。

つまりviññāṇaは「エネルギーの種」ではなく、経験の後にすぐにエネルギーを持たない記録namā gottaになる。

nāma paccayā chaṭṭhāyatanaṃ　　　　　　

chaṭṭhāyatanaṃ　と salayatanaとの違いは、

chaṭṭh（6番目の）āyatana （感覚器官の捜索するエネルギー）とは、対象を求める感覚器官がマインドだけであることを意味する。

対してsal（６つの）āyatana（感覚器官の捜索するエネルギー）は、対象を求める眼、耳、鼻、舌、体感、マインドのすべてを指す。

nāma paccayā chaṭṭhāyatanaṃとは、nāmaすなわち記録が、マインドに表れ出る（マインドの探索エネルギーに転換される）ことを意味する。

8と9番目のステップがないのは、このサイクルの根本がkamma vipākaであり、kammaが中立、すなわち対象を照射し続けるエネルギーがないため、渇望や嫌悪という執着するエネルギーが付着することがなく、そのためにそこから生起するものは善でも悪でもないエネルギーがない中立したものになる。

中立avyākataとは、エネルギーが持続しないことを意味する。

根本善PSサイクル

根本悪PSすなわち一般的縁起説とこの根本善PSサイクルの違いが表れるところは、

cittapasadi　　　意識の静けさ　　喜びの感覚、マインドの軽快さ

Adhimokkho　　　エネルギー密度が高いところから離脱してエネルギー密度が低い方へ向かう方向性。

最終的には密度のない世界に至る

adhi-：接頭辞 上に，ついて，増上.

mokkho：離脱　Release； Arhatship，nirvāṇa

saddha （true faith） のピークの時に生じる「解決」のことで、これは対象の状況が変化することで解決するのではなく、マインドが現象の対象からエネルギー密度の低い方向に離脱することで、対象の問題と関わらないことから起きる解決である。

10ステップ目のbhava →jati　で生じるのは Sotapanna, Sakadagami, Anagami

したがって、密度の粗いdhātu、bhūta、gatiではなく、宇宙の根本構成要素であるdhammāエネルギーが生じ、

最終的にはそこからも離脱する。

āsavā（渇望）を削除すると

akusala-mula Paṭicca samuppādaの７ステップ目の「vedanā paccayā taṇhā」が機能しなくなる。

代わりに、「vedanā paccayā cittapasadi 」となるkusala-mula Paṭicca samuppādaサイクルが動作する。

kusala-mula Paṭicca samuppādaサイクルには、執着がないのでakusala-mulaPSの９番目のステップである「upādāna paccayā bhavo」ステップがない。

したがって、アラハンが死ぬ直前にマインドがつかむ対象の「bhava」はない。

また、アラハンは多くの未使用のkamma Bīja（良いものも悪いものも）を残すことになるが、アラハンのマインドはそれらを掴もうとする欲求（āsavā ）を失なっているので、種が残っていても発芽することができない。

つまり、「jāti」すなわち出生（誕生）の基盤になるエネルギー体自体がないので、31領域に転生することが不可能になる。

根本悪PSサイクル

5ステップ目のphassa（一箇所にとどまる）は正確に記述するとsamphassa、すなわちsam（貪瞋痴）のあるphassa

12ステップ目　　　　したがって、肉体とマインドの苦しみが生じる

中立のプロセスの詳細　　 avyākata Paṭicca Samuppāda

因果関係の法則は意識を持つすべての生命体に共通するものなので、このサイクルは釈尊やアラハンでも止めることができない。

因果関係（kammāvipāka）から縁起説を見ると、三蔵経典Tipitakaではこのタイプの縁起サイクルをavyākata と記している。

Avyākataとは「kammā（原因）の中立」を意味しており、新しいkammā（原因）を生成しない。

avyākata（abyākata）とは「kusala またはakusalaとして指定されていない、つまりkammaの中立」を意味する。

cf.　 avyākata　　善悪に属さないもの　　'amoral' 　　 'kammically neutral'

[a否定-vyākata，Sk．avyākṛta]

vyākata：[pp．of vyākaroti] explained； declared； answered．説明された、明記された、答えられた

avyākataについて下記の三蔵で語られている。

論蔵の『分別論Vibhaṅga』のAbyākata Niddesaのセクション2.112.11.1.1.1. Cakkhuviññāṇacitta

経蔵小部　　Paṭisambhidāmagga　1 Mahāvagga　1.1. Ñāṇakathā

経蔵小部　　Mahāniddesa　Aṭṭhakavagga　14. Tuvaṭakasuttaniddesa

論蔵の『論事』Kv 13.9　Kathāvatthu　Mahāpaṇṇāsaka　Terasamavagga 「Dhammataṇhāabyākatātikathā」

Kv8.9、11.1、14.4、14.8など

論蔵の発趣論Patthana 4.4 Paṭṭhānapakaraṇa 4.4. Kusalattika, Āsavaparāmāsagocchaka

3.2、3.4、3.10、4.2、4.3、4.5、4.6、4.7、19.1、23.35など

論蔵の『双論』Ya 1.2.1　Mūlayamaka　2 Niddesa　1Mūlavāraniddesa

論蔵の『界論』Dhātukathā　2 Niddesa　14 Cuddasamanaya Vippayuttenasaṅgahitāsaṅgahitapadaniddesa

この中立プロセスにはabhisaṅkhāraを生成するjavana cittaの関わりがない。

Kamma vipākaは、kamma的には中立であるが、そのKamma vipākaに基づいて、次に来る心路citta vithiで、新しいkammaを生成する可能性はある。

この両方のカテゴリ（エネルギーを生まないkamma vipākaとエネルギーを生むkamma generation）の関係をPaṭicca samuppāda（PS）で説明すると、

過去に作成した「カルマの種」のトリガーがひかれる（顕出する条件がすべて揃った）ことによって現れたkamma vipākaは、6つの感覚器官ではなくマインドの感覚器官だけで感覚信号としてマインドに察知される。

この認識過程（心路citta vithi）では、関心というスポットライト、すなわちマインドのエネルギーをその信号に照射しないので、「taṇhā」が付加されることなく中立PSは終了する。

しかし、それが関心の強いものであれば、次には一連で17ステップのjavana cittaがある認識過程が始まり、新しいkammaにつながってしまうため、終わりのないプロセスの中でループを繰り返すしかない。

コラム　　10億分の1秒

このループから離脱するのが涅槃nibbānaの「道」であり、４段階ある最後のアラハンに至るまで脱することができない。

アラハンの境地の後も、そのようなkāma vipākaは引き続き発生するが、それらにアラハンは執着しないので、新しいkammaが生成されることはない。

中立PSから根本PSへ移行するメカニズム

この循環プロセスは、3つのステップがある。

１　見る、聞く、嗅ぐ、味わう、身体とphassa（接触）したもの、そして「意識したもの（dhammā）」が頭に浮かぶ。

これらは「ただ起こる」のではなく、ある理由（原因）があったために起こったものである。

具体的には、林の中を散歩しているときに出会う風景、繁華街に行った時に出会う店々、図書館に行った時に出会う本々、夢の中で出会うさまざま出来事などである。

それらの原因はkamma vipākaであり、そこにはまだ思考（非貪・非瞋・非痴、貪・瞋・痴）が関わることもないので、kammaエネルギーはなく「結果としての意思」vipāka cittaすなわち「善と悪のどちらでもない中立の意思」avyākata cittaと呼ばれる。

すなわち大脳皮質が作り出す思考には関わっていないことを意味している。　

２　次に、各自が持っているāsava渇望、anusaya煩悩、gati性向に基づいて、本人のマインドが自動的に感覚入力の信号にスポットライトを当てるので、その感覚入力によって次のPSプロセスが作動する。

この感覚の対象を三蔵ではarammanaと呼んでいる。

これはPSサイクルは認識回路の中で10億分の1秒の単位で発生するので、その初期発生を意志によって制御することはできない。

manō saṅkhāraは心路citta vithi内で自動的に発生するが、javana cittaは発生しないので、まだ中立PSサイクルである。

３　もし対象物に愛着や嫌悪を抱くと、その感覚入力について意識的に考えること（vacī saṅkhāraの生成）によって、これまでに体験したタグの付いている色蘊のイメージ、そして一般化された想蘊の概念のイメージを組み立てて回路を作り、パターン認識をすることである。

認識システムと五蘊　そこからの離脱法

具体的には言語化、意思、思考、思想、感情化するということで、これらの共通点は自分が作るパターンに対象を当てはめることである。

回路による認識は、出口が１つなので、そこにエネルギーが一点集中して、新しいkammaの生成を開始する。

その新しいkammaは、言語活動と身体的行動を介してkāya saṅkhāraを生成し始めることで、より強くなる。

これらの3つのステップはすべて、私たちが新しいkammaの蓄積を開始したことを察知する（頭に浮かび上がらせる）前に開始されるのは、心路citta vithiが非常に高速であり、すべてがたった1つのcittavīthi内で発生するためである。

しかし、気を付ければ、数秒以内にそのような「動き回っているもの」を「キャッチ」して、apunnābhi saṅkhāraだけを止めることは可能である。

止めるのは不道徳な自動反応アプリケーションだけであって、punn ābhi saṅkhāraすなわち道徳的な思考は止める必要がない。

しかし、そのためには、そのような感覚入力に対する「自動応答」を注意深く監視する必要がある。

これがいわゆる「マインドフルネス」である。

練習すれば、すぐに「キャッチ」して、悪い考え/言語活動/行動を止めることができるようになる。

私たちがそれを続ければ、時間の経過とともに、自動反応回路であるsaṅkhāraが弱体化し、私たちのgatiはより良く変化し、「悪いこと」への愛着は自然の法則（ダンマ）に従って消え去っていく。

使うものは発達し、使わないものは退化するのである。

まず「悪い習慣」（喫煙、薬物、過食など）でマインドフルネスの効果を各自がまず試し、その効果を確認してから、他のdasa akusala（10の悪習）に適用してみる。

縁起説のステップを実感することで、マインドも体も常に変化し続けるという事実を再認識し、主体と現象に執着する根拠も理由もないことを認識しながら体感するので、マインドが望む状態が長期間に渡って保ち続けることはできないことを何度も繰り返して体験することで、三相であるTilakkhanaを把握できるようになる。

これが、Sōtapannaステージへの道である。

この中立のPSプロセスは、Visuddhimagga（清浄道論）を含む現在の上座部のテキストでは説明されていないが、もちろん三蔵（Tipiṭaka）にはあり、論蔵のPaṭicca Samuppāda Vibhaṅgaで説かれている。

日本語では、論蔵の中の『分別論Vibhaṅga』の６番目にある。

（Abyākata Niddesaのセクション2.11は、全体の上から約4分の3ところにある。）

論蔵ではこのPSプロセスをAbyākataと表記されているが、辞書などではavyākataと表記されるのが一般的である。　　　　なぜ表記がavyākataに変わったのか？

avyākataの意味は「kammaの中立」で、善と悪のどちらにも属さないものである。

現在、日本語でのavyākata PSプロセスを説明するテキストやインターネットサイトをまだ見ていないが、そのうちに現れるであろう。

感覚とは中立なのか？

2.11. Abyākataniddesa　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　niddesa義釈　　分析的解説

2.11.1.1.1. Cakkhuviññāṇacitta

“..vipākaṃ cakkhuviññāṇaṃ uppannaṃ hoti upekkhā sahagataṃ rūpārammaṇaṃ, tasmiṃ samaye saṅkhāra paccayā viññāṇaṃ, viññāṇa paccayā nāmaṃ, nāma paccayā chaṭṭhāyatanaṃ, chaṭṭhāyatana paccayā phasso, phassa paccayā vedanā, vedanā paccayā bhavo, bhava paccayā jāti, jāti paccayā jarāmaraṇaṃ. Evametassa kevalassa dukkhakkhandhassa samudayo hoti“.

この節の最初の部分は、「対象物をただ見ること（rūpārammaṇaṃ）が、中立的な不苦不楽の境地（upekkhā ）を伴う（sahagataṃ） 視覚意識の結果（vipāka cakkhu viññāna）を生み出すとき」と翻訳できる。

このただ「見る」ということは中立的なvēdanāであり、この視覚データはまだ好きも嫌いもないただの結果（vipāka）、すなわち中立のものでしかない。

それに対して、五感の中で触感だけは、

kamma vipāka（皮膚や内臓に対する刺激）によって、体の感覚（kāya viññāna）が直接に3種類のタグの1つを選択して、sukha、dukhaもしくは中立的な vēdanāを生成する。

たとえば叩かれたり、マッサージを受けたり、腸のうねりという刺激があれば、受蘊にあるデータを参照するという回路を介さずに、快・不快・どちらでもないというタグを瞬間的につけている。

他の5種類の感覚入力は、受信時には、中立的な感覚（upekkha vēdanā）のみを生成している。

これは重要なポイントで、見たり、聞いたりするすべての出来事は、各自のgati（性向・方向性）に基づいて「良い感情もしくは悪い感情」を生み出すアプリケーションを生成するので、すぐに感情を発生させる。

ただ非常に速いためにそれを認識することはできない。

たとえば、同じ曲を聞いたときに、「良い感情」を生み出す人もいれば、「悪い感情」を生み出す人もいる。

また、同じ政治家を見ても、支持者は「良い気持ち」、反対派は「悪い気持ち」、その他の第三者は「中立的などちらでもない気持ち」が引き起こる可能性がある。

事前に計画されていない限り、「見るということ」をはじめとして、すべての感覚からの信号入力は、中立であるkamma vipākaを始点としてPSサイクルが開始される。

たとえば、映画を見に行くことは意図的な行動であるので、カルマが中立なPSではない。

この場合、中立のPSサイクルの始発点は「行こうと思ったこと」の瞬間だけである。

すなわちkammavipākaとして頭に浮かんできた瞬間だけで、これは記憶のdhammāエネルギーが心の感覚器官であるmanaindriyaと接触した瞬間である。

繰り返しになるが、重要なことは、良い対象物もしくは悪い対象物を見ることであっても、見るという感覚データ入力自体は中立（upekkhā（不苦不楽のタグ）sahagataṃ(繋がっている、共にある) rūpārammaṇaṃ（視覚の対象物））である。

「良いか悪いか」というのは、対象物にある価値観ではなく、主体（自分）のgatiにのみ依存している、という相対的なものである。

この最初のcakkhu viññāna（眼識）とは単なる「見る」ということで、喩えると、カメラで写真を撮るようなものである。

同様に、sota viññāna（耳識）は単なる「聴く」ことであり、ghāna viññānaは単なる「嗅覚」であり中立的なものなので、それらが「良い、もしくは悪いvēdanā」であるかどうかは、個人の過去の経験によって異なる。

マインドにイメージが提示されると、そのイメージはすぐに自分の渇望、高評価、低評価（つまりgati）と照合されて、manō saṅkhāraが自動的に生成されて2番目のviññāṇaを生成することになる。

こうして、この2番目のviññāṇaは、gatiを組み込んだviññāṇaであり、1つ目の眼球を介したcakkhu viññāṇaではない。

もちろん、cakkhu viññāṇaもマインドに登録されるので、このプロセスに意識的になれば、再認識する時にはデータとして利用することができる。

“tasmiṃ samaye (その時)

saṅkhāra paccayā viññāṇaṃ, viññāṇa paccayā nāmaṃ, nāma paccayā chaṭṭhāyatanaṃ, chaṭṭhāyatana paccayā phasso, phassa paccayā vedanā, vedanā paccayā bhavo, bhava paccayā jāti, jāti paccayā jarāmaraṇaṃ. Evametassa kevalassa dukkhakkhandhassa samudayo hoti”.

これが中立のPSのプロセス、すなわちkamma vipākaを原因（始点）とするavyākata PSである。

このPSプロセスは、akusala-mūlaおよびkusala-mūlaPSプロセスとは異なるのはどこであろうか？

上記のabyākata PSの青い部分が違いである。

まず、「avijjā paccayā saṅkhāra」で始まらない。

avijjāで行われるkammaはなく、ただのkamma vipākaではじまる。

つまり善悪の基準になる貪瞋痴の有無に依らないので、kammaエネルギーがないkamma vipākaから開始される。

saṅkhāra paccayā viññāṇaṃ

このsankhāraとはmanō saṅkhāraのことで、vacīやkāya sankhāraのabhisankhāraではないので、カタチになってもすぐに解体して消滅する回路である。

対して、abhisankhāraは強い回路なので、カルマの種を生み出すkamma viññānaを生み出す。

しかしmanō saṅkhāraはすぐに消え去るvipāka viññānaにエネルギー転換されるだけなので、カルマの種、すなわちnāmarūpa物質エネルギーに転換することはありえない。

次に、viññāṇa paccayā nāmaṃでは「nāmarūpa」にはならず、「nāma」である。

「nāmarūpa」の生成にはjavana cittaによるエネルギー照射で対象のイメージにエネルギーが与えられるのだが、この中立のvipākaサイクル（avyākata Paṭicca Samuppāda）では、マインドによるエネルギー照射は実行されないので、対象は物質エネルギーに転換されず、メンタル界の微細なnāmaである。

javana cittaについては、コラムの「10億分の1秒」で、一連の17段階の意思行程については表を使って説明する。

概略は以下のように、

マインドが対象を認識するメカニズムは、8ステップもしくは17ステップの段階を経ることによって得られる、と三蔵では記述されている。

この一連の認識プロセスは心路citta vithiと呼ばれ、各ステップは10億分の１秒で次のステップに移行される。

次の17ステップはカルマエネルギーを発するとき（根本善・根本悪PS）の心路citta vithiである。

0　Bhavanga　　　　　　　　　　　　　　　　無意識B

1　AtītaBhavanga（Past Bhavanga）　　　　 過去の無意識AB

2 Bhavanga Calana (Vibrating Bhavanga) 　（振動する無意識）BC

3 Bhavanga Upaccheda　　　　 　　　　　　（捕獲された無意識）BU

4 Pancadvaravajjana　　　　　　　　　　　（感覚の扉　意識）PD

5 Cakku Vinnana　 　　　 　　　　　　　　（眼球の扉の知覚意識）CVもしくは、他の4知覚意識のどれか

6 Sampaticchana　　　　　　　　　　　　　（受けとる意識）Sam

7 Santīrana　　　　　　　　　　　　　　　（調査する意識）San

8 Vottapana　　　　　　　　　　　　　　　（決定する意識）V

中立のPSのときは、8段階目で終わり、それ以降にはステップが進まず、また0段階に戻るのが特徴である。

根本縁起は次の9番目から17番目までのプロセスがある。

9-15 Javana　　　　　　　　　　　　　　　 （迅速な7段階の意識）J　　

1617 Tadarammana　　　　　　　　　　　　 （意識の登録）T

phassa paccayā vedanāではメンタル・イメージであるnāma（dhammā）がマインドの感覚器官であるmanaindriyaで結合したエネルギーとなり、それが近遠のタグの１つを引き寄せる。

どのタグがつくかは本人のその時の心の状態、学習してきた性向gati、学習した受蘊と想蘊の過去のデータによる。

接触した時に受蘊vedanākkhandhaにある過去の体験でタグをつけたデータと、想蘊saññākkhandhaにある視覚概念と今回の感覚（たとえば視覚）データを照応させながら、対象物が好きか嫌いかどうかを自動的に認識しているのかどうか？

vedanā paccayā bhavoでは、たとえば、アルコール依存症のgatiがない人で受vedanāで「近」のタグがつかないので、ただビール瓶を見るだけなので、ここでavyākata PSプロセスは終了する。

阿羅漢をはじめとする修行者だけがakusala-mūlaPSプロセスを経験しないのではない。

感覚のインプット信号（対象ārammana）に興味を持っておらず、それと結びつくgati（性向、習慣、クセ）を持っていないと受vedanāや行sankhāraの影響を受けないので、庶民であってもakusala-mūlaPSプロセスは作動されない。

つまり、執著がない対象に対しては、心路citta vithiの９ステップ以降には進まないのである。

中立PSの心路citta vithiは8ステップであるが、

6番目は Sampaticchana　　　　　　　　　　　　　　（受けとる意識）Sam

7 番目は Santīrana　　　　　　　　　　　　　　　　　（調査する意識）San

であり、

マインドが感覚入力データ（色蘊によって変換されたメンタル・イメージ）を6段階目で受け取り、次の７段階目で自分のgatiと照合させている。

照合するものがなければそこで中立PSは終了するが、

データとgatiが繋がる場合があると、これが8番目の Vottapana（決定する意識）となり、以降の９から17ステップに移行することになる。

これが、

tasmiṃ samaye saṅkhāra paccayā viññāṇaṃ, viññāṇa paccayā nāmaṃ, nāma paccayā chaṭṭhāyatanaṃ, chaṭṭhāyatana paccayā phasso, phassa paccayā vedanā, vedanā paccayā bhavo, bhava paccayā jāti, “の意味である。

たとえば、アルコール依存症のgatiを持つ人は、好きなアルコールを見ると自分の好きなビールの瓶を見た場合には、その瓶を手に取る体勢（bhava）になっている。

bhava paccayā jātiでは、瓶の栓を抜いてビールを飲んで、その瞬間にアルコール依存症者に一時的になります、換言すると依存者として「生まれ（jāti）」る。

こうしてアルコールに向かうgatiがあると、「bhava paccayā jāti」のステップから、avyākata PSプロセスの後にakusala-mūla PSプロセスが新しい実行される。

そして、「一瞬だけ生まれる」ことで、新しいakusala-mūlaPSプロセスを開始する。

その「照合（マッチング）」に基づいてavijjāを根本とし行動する「決定」は、一連の17段階の思考プロセスの内の8番目のvotthapana（V）cittaで起こる。

新しいakusala-mūla（もしくはkusala-mūla）PSプロセスが開始すると、javana cittaでkammaの生成を開始する。

もし本人が対象物に愛着がある場合には、この最初のcitta vīthiが終了すると、またakusala-mūlaPSサイクルが起こり続ける。

このプロセスの状況を意識できる0.1秒以内の間でも、すでに数10万回のakusala-mūla PSサイクルが実行されている可能性がある。

そして、それぞれのサイクルがその度に、過去のサイクルを強化して、エネルギーを蓄積する。

このように中立のavyākataPSに続いて、新しいakusala-mūlaPSプロセスが開始される可能性があり、それが起動すると、新しいkammaが生成される。

アラハンでも同様のavyākata PSを体験するが、gatiを取り去っているので、受vedanāは常に捨upekkhāのタグなので、その後にakusala-mūlaPSプロセスにつながることはない。

このcittaの高速処理を遅くするには、低速処理の大脳新皮質を使用することで、これらのakusala-mūlaPSサイクルの始動を停止させることは可能で、貪瞋痴に関わる意思・言語活動と行動を中止することができる。

これがSatipaṭṭhāna/Ānapāna/vipassana瞑想によって育成できることであり、瞑想を実践する理由である。

詳細は「具体的な修行の実践方法」の章に記述する。　

kammaを生成するタイプの縁起説

kammaを生成しない中立タイプに対して、kammaを生成するタイプの縁起説が2つある。

この２つのPSサイクルは訓練によってプロセスは止めることができるもので、原因が貪瞋痴であるakusala-mulaバージョンと原因に貪瞋痴がないKusala-mulaバージョンである。

kammaを生成するには6つの根本的な原因がある。

それらはlōbha、dōsa、mōhaおよびalobha、adosa、amohaの６つである。

この6つの根本原因により、この世界が生まれている。

kusala-mula（根本善）PS とakusala-mula（根本悪） PSは、私たちの行動（sankhāra）がどのように新しいkammāの生成につながるかを説明している。

akusala-mula PSは、lōbha、dōsa、mōhaに起因する悪いgatiにより、apayas （地獄界・餓鬼界・動物界・阿修羅界）つまり dugatiで生まる。

dugati　　悪い性向、傾向、流れ、習慣

du-：�@ = dur- pref．[Sk．duḥ，duṣ] 悪き，難き．�A cf．dvi ニ，二の.

そして、もし、もっとよい領域で生まれたとしても苦しみにさらされる。

これら3つの根本的な原因で行動、言語・意思活動、意識作用が行われると作動する。

そして、31領域の上位であっても、根源に貪瞋痴があるときの心路citta vithiでは、苦しみにさらされることになる。

alobha, adosa, amohaによる良いgatiのために、残りの「良い領域」すなわちsugati （そして、世俗的な喜びも経験します）で生まれる。

kusala-mula PSは、これら3つの根本的な原因で行動、言語活動、思考が行われたときに作動する。

。

時間軸の範疇によるPSの分類

上座部仏教では、Buddhaghosa（Visuddhimagga内で）はuppatti PSのみを記述しているので、pavutti PSの解釈が少ない傾向がある。

「誕生」を意味するuppattiの PSは、メンタル体がどのように31領域で輪廻転生を繰り返されるのかについて説明している。

対してpavutti（またはpravurti）PSは現世におけるエネルギー変換のプロセスについて説明している。

たとえばIdappaccayatā Paticca Samuppādaもその１つである。

根本善のプロセスKusala-mula

原因と結果が良く（ニッバーナに至る方向）、プロセスを止めることができるタイプの縁起

縁起説paticca samuppada（PS）のKusala-mulaバージョンは、三蔵（Tipitaka）にあるにもかかわらず、

（たとえばVibhaṅga　Paṭiccasamuppādavibhaṅga　　論蔵　分別論　縁行相分別）

現在の上座部仏教（Theravada）のテキストには記載されていない。

これは、Buddhghosaが清浄道論（Visuddhimagga）を書いて以来、上座部のテキストはTipitakaではなく彼の本を重要視したからである。

それは、Nibbanaを達成するためのPSプロセスが1500年以上にもわたって言及されていないことを意味する。

隠されているかのようにNibbanaに至る実践方法が長い間知られていなかったのは、科学がまだ未発達なため、対象の範疇が物質エネルギーの領域にとどまり、マインドの領域にまだ光を当てるまでに至っていないため、理性の限界を熟慮する段階に至っていないために、このKusala-mulaバージョンにスポットライトを当てる機会が少なかったためだと推察する。

特に人口密度が低いところから高いところへ移動したり、その変動率が高いところでは、関心のスポットライトは貪瞋痴を原因とする機会と回数が増加し、

上昇志向の強いTPOや

15世紀の植民地時代から20世紀までの人々は理性に対しての幻想が強くなるTPOで暮らしていたので、

貪瞋痴を原因とするPSに心路citta vithiがより多く使われる。

Kusala-mula PSとは、dasa akusala（10の悪） から離れlobha, dosa, moha（貪瞋痴）がない状態、すなわちalobha, adosa, amoha （非貪・非瞋・非痴）を根本（原因）とすることからで始動するPSプロセスである。

仏教（三蔵　パーリ語仏典）では

alobha, adosa, amoha（非貪・非瞋・非痴）で行動することによって育まれた「良い性向（gati）のために、「良い領域」すなわちsugati（幸福な喜びの状態）で生まれる。

Kusala-mūlaPSサイクルは、「良い結果」をもたらす3つの根本的な原因で行動、言語・意思活動、意識活動が行われるときに動作する。

āsavā煩悩を削除すると

「vedanā paccayā taṇhā」のステップがあるakusala-mula Paṭicca samuppādaが機能しなくなる。

代わりに、「vedanā paccayā adhimokkho」を使うkusala-mula Paṭicca samuppādaサイクルが動作する。

kusala-mula Paṭicca samuppādaサイクルには、執着がないので「upādāna paccayā bhavo」ステップがない。

禅定で色界、無色界のbhavaを作成しているのではないか？

したがって、アラハンは多くの未使用のkamma bīja（良いものも悪いものも）を残すことになるが、アラハンのマインドはそれらを掴もうとする欲求（āsavā ）を失なっているので、種があっても発芽することはない。

kusala-mulaサイクルの手順は次のとおりである。

kusala-mula paccaya sankhara;

sankhara paccaya vinnana;

vinnana paccaya namarupa,

namarupa paccaya salayatana,

salayatana paccaya phasso,

phassa paccaya vedana, 

vedana paccaya cittapasado,

cittapasada paccaya adhimokkho,

adhimokkho paccaya bhavo,

bhava paccaya jati,

jati paccaya jara, maranan, eva me tassa dhammanan samudhayo hoti“

ここでは、akusala-mula PSにはない用語を青色にしている。

この法則は、三世（前世・現世・来世）という長いスパンだけではなく、現世の一瞬の法則でもある。

すなわち、「今」に焦点を当てたpavutti PSと過去世から未来世までの法則であるuppatti PSの両方について説いている。

pavutti PSとuppatti PSについての詳細は後述

cittapasadi　　　意識の静けさ、マインドの軽快さ

Adhimokkho　　　　saddha （true faith） がピークになった時にする「決定」すなわち「解決」の意味。

また、マインドがNibbanaに決定的に引き付けられることを意味する。

結果としての存在、すなわちマインドの状態とマッチしている「bhava」である。

adhi-：接頭辞 上に，ついて，増上.

mokkho：離脱　Release； Arhatship，nirvāṇa

最終的には密度のない世界、すなわち涅槃nibbānaに至る

「解決」とは対象の状況が変化することで解決するのではなく、マインドがエネルギー密度が高い対象からエネルギー密度の低い方向に離脱することで、対象の問題と関わらないことから起きる「解決」である。

「pati + ichcha 　　sama uppada」とは、「向けた関心に、エネルギーが変換されること」、換言すると、関心のある経験を「体験して生きる」こと、を意味する。

それがpatisandhiでの再生である場合、適切な「bhava」がkamma nimitta（特相　エネルギーの特徴）に従って選択される。

しかし、遠い過去に獲得されたかもしれない「apayagami」すなわち「下位４領域への因果の種」は、Adhimokkhoの結果として、最前線で表出する機会がないので、最下層の4領域での再生することは妨げられる。

誕生は条件が揃うと、老いと死、したがって、dhammāエネルギーの消滅が生じる。

いかなるAriya聖なるモノでも、31の領域のいずれかにいる限り、腐敗と死に至る対象になる。

kusala-mulaはalobha, adosa, amohaで行われた行為であり、当事者は31領域内のすべてのものに対して渇望も嫌悪も無知もないので何も望みがなく、31領域への執著を自動的に拒否しています。

こうしてkusala-mulaは条件が揃うと、punnabhi sankharaを蓄積させていく。

punnabhi sankharaは条件が揃うと、punnabhi vinnanaに転変する。

このpunnabhi vinnanaは、kamma bhavaとして蓄積され、pavutti paticca samuppada （現世のbhavaのエネルギー堆積）は、uppatti paticca samuppadaでは「良い転生」につながる良いnāmarūpaの生成につながる可能性になる。

そのsankharaは kusala-mula の行為で生成されたため、「pati + ichcha 　sama uppada（関心を向けたもののエネルギーが同種のものに変換されること）」によって、kusala-mula vinnana のみが発生します。

このkusala-mula vinnanaの特徴は、Nibbanaへの欲求です。（欲求chandaで欲望 kāmachandaではありません）

chandaは本能と訳すこともでき、

kāmachandaは細胞と心が常に変化を求める本能であるのに対して、

chandaは霊が物質エネルギーから離れることを求める本能。

punnabhi vinnanaは条件が揃うと namarupaに転変します。

namarupaはvinnanaに応じて生成されます。

人はnamarupaに応じて考え、心と体は徳ある行為に適応します。

死亡時には、patisandhi vinnanaは再びkusala-mula vinnanaになるので、Sotapannaは下位4領域での出生が回避され、Anagamiでは下位11の領域（kāmaloka）の出生が回避されます。

２つのメカニズムの違いは？

Anagami のbhavaはdhātuではなくbhūtaで構成されるが、punnabhi vinnanaとnamarupaはSotapannaとの違いがあるのか？

namarupaは条件が揃うとsalayatanaに転換します。

salayatana（六感覚器官が対象を捜すエネルギー）もnamarupaに応じて転変します。

それらは徳ある行為のみを目的として調整されます。

転生では、それに応じて感覚能力が生まれます。

salayatanaは条件が揃うと、phassoに転変します。

これは単なる「phassa」であり、「Akusala-Mula Paticca Samuppada」のような「san phassa」すなわち貪瞋痴のある接触ではありません。

６感覚器官はNibbanaを探求するために、非貪・非瞋・非痴な対象と一箇所にとどまるエネルギーに転変します。

つまり、具体的にはdhammaを学び、dhammaを実践します。

phassaは条件が揃うと、vedanaに転変します。

このような相互作用を通じて、人は、dhammaとの接触、真の知識、理解を楽しみます。

この感覚においては渇望sōmanassaや嫌悪 dōmanassaではなく、nirāmisa sukha、nirāmisa dukha、nirāmisa upekkhaのタグが付きます。

vedanaは条件が揃うと、cittapasadiに転変します。

cittapasadiとは意識の静けさのことで、一種の喜びの感覚、そして心の軽快さです。

cittapasadiは条件が揃うと、adhimokkhoに転変します。

Adhimokkhoは通常、saddha （true faith） がピークになった時の「決定」または「解決」と翻訳されます。

この解決や決定とは、強いエネルギーの照射により、対象は物質エネルギーの次元から離脱することで、善悪を判断する枠組みがなくなり、問題提議そのものが消えてなくなることも含まれるでしょう。

ここでは、マインドがNibbanaに決定的に引き付けられることを意味します。

このときのマインドの状態は極めて静かで、熱はなく、澄みきったものです。

adhi-は接頭辞でadhipaticすなわち力が加わり増大して、強大である増上という意味。

mokkhoの語源はmokkha [Sk．mokṣa＜muc] で、release； freedom； deliverance解放、救出、離脱

文字通りに訳すと上位への離脱です。

adhimokkho（決心）は条件が揃うと、bhavaに転変します。

上位へ離脱したエネルギーは、枠組みの中にマインドの状態とマッチしたエネルギーとして堆積して充満したエネルギーである「bhava」になります。

「pati + ichcha、 sama＋ uppada」によって、マインドの関心でエネルギーの変換を体験して「生きる」ことを意味します。

それがpatisandhiでの転生である場合、次の転変では適切な「bhava」がkamma nimittaに従って選択されます。

遠い過去に獲得されたかもしれない「apayagami」すなわち「下位４領域の因果の種」は、上位の強い「bhava」のために最前線に来る機会がないので、下位4領域での転生は妨げられます。

bhavaは条件が揃うと、誕生jati に転変します。

適切な生成（Sotapanna, Sakadagami, Anagami）は、適切なエネルギー体（bhava）の結果です。

誕生は条件が揃うと、老いと死に至ります。これがdhammāエネルギーによって構成されているものの宿命です。

いかなるAriya聖なるものでも、31領域のいずれかにいる限り、腐敗と死の対象にもなります。

しかしSotapanna, Sakadagami, Anagamiは Nibbanaに到達する運命にあるため、dukkhaとのつながりは示されていません。

根本悪のプロセス　　　akusala-mula PS

akusala-mula PSは、3つの根本的な原因である貪瞋痴で行動、言語・意思作用、意識作用が行われたときに作動します。

このときのsankhāra paccayā viññānaの意識viññānaとは kamma viññānaであって vipāka viññānaではない。

将来の苦しみ（jarā、marana、soka paridēva dukkha dōkha dōkhaassouāsāsam bhavan’ti）は、akusala-mūlaPSの発生が停止すると止まります。

将来の苦しみはすべて、再生がなくなると終了します。

つまり、「bhava paccayā jāti」のステップが停止すると、

「jāti paccayā jarā、marana、soka-paridēva-dukkha-dōmanassupāyasā」のステップも停止するからである。

jāti （つまり出生、出現、顕現）がある限り、苦しみは終わりません。

akusala-mūlaPSは、avijjāとtanhāの2つの主要なターゲットに取り組むことで終了できます。

avijjāを削除する必要がある理由は明らかです。

avijjāがない場合（つまり、4つの高貴な真理である「四聖諦」を理解している場合）には、akusala-mūlaPSも開始されません。

しかし、sankhāraを生成するこれらのさまざまな連結は、各自のgati（性向や傾向で習慣を作り、転生プロセスを助長するエネルギーとなるもの）に基づいて動作する「kammā生成」PSサイクルによって行われます。

しかし、gati（閉じた輪である輪廻に留まる習慣）に基づいている「kammā生成」PSサイクルは制御することができます。

理由はgatiは感覚の出来事に対する私たちの反応として生じるものなので、この反応を変えることでgatiも変化し、その結果、kamma生成PSサイクルを使用する回数が減少するからです。

これが、Satipatthāna/Anāpāna瞑想を実践して、感覚の反応を意図的に変える理由です。

十分に強い近遠（好き・嫌い、快・不快）の感覚入力があると、avijjāの状態が人の心に発生します。

たとえば大好きな料理を食べたり、嫌いな人と同席したりすると。

だからといって、「avijjāに固定されてしまっている人」はこの世にはいません。

avijjāが生じるかどうかは、特定の感覚入力とその人、より正確にはその人のgati（性向、方向性、習慣）に依存しています。

私たちは道徳的に行動する人を「道徳的」と通常では呼んでいます。

しかし、それは「道徳的な人」が不道徳な考えを生成しないという意味ではありません。

6つの感覚のいずれかを介して「誘惑的な感覚信号」が入力された場合、彼/彼女はavijjā から始まるakusala-mūlaPSが開始されます。

同様に、過去に犯した行動によって犯罪者とラベル付けされた人が危険にさらされている人を見て、徳のある行動をすることもあります。

これが、釈尊が「不変の自己」はないが「自己がない」こともないと言った理由です。出典？

確固たる主体があって、それが常に判断や行動の基準になっている、ことはない。

換言すると、ヒトは多層のレベル（無色界のgati、色界のbhūta、欲界のdhātu）で自動反応回路を作成しているので、それらを経路とする入力信号は処理されて、決まった信号を出力するので、これらの自動反応回路が「自己である」というのは間違えだけれど、

「自己がない」と言ってしまえば犯罪者の自己責任の根拠はなくなるし、社会の法という表面的で一面的ではあるが、便利なシステムを否定して代用するシステムもないので、「自己ではないけれど、変えることも可能ではあるが、普段は基準にしているパターン（自動反応回路）」はあります。

そこで「自己がない」と言い切ると、それを過剰一般化して自分勝手に都合の良いように解釈して運用する輩も現れてくるので、「自己がない」と言い切る必要はない、ということになります。

この自動反応回路を上書きしないと、いくら刑に服していても、また理性で抑えようとしても、同じ入力信号があった場合には同じ出力信号を発する可能性があります。

ある信号が入ってきた瞬間に何が起こるかは、どの種類のPSサイクルが「トリガー（起動）」され、どのavijjāが原因となり、どの自動反応回路が使用されるのかによって異なります。

Avijjāにはmōha（道徳的に盲目）のレベルからaniccaの性質を知らないというレベルまで幅広くあります。

「道徳的」と考えられる人でさえ、誘因が十分に誘惑的だった場合には、mōhaと共に行動してしまい、ひどく不道徳な行動をとることがあります。

なぜならば対象の誘惑に飽きたり、本当に意味がないものだと深く体験していなかったりすると、喜びに思えるのはたった一瞬でしかなく、次の一瞬からは永続的に続く苦しみであることがわかっていないからです。

簡潔にいうと、つまらないものを魅惑的だと勘違いして生きてしまっているからです。

その喜びは一方的なもので、逆の立場になれば自分ではその喜びを受け入れることができなかったり、自分とは違う環境で暮らす者にとっては苦痛であることがわかっていないからです。

たとえば、ありがた迷惑だったり、安易な文明的メリットの援助などです。

すべての感覚入力は、因果関係kammā vipākaを介して送られてくる、という考え方をすることもできます。

始まりのない閉じた輪を通じて、私たちは大小の「無限の量」の因果関係kammāvipākaを蓄積してきました。それぞれの「見る出来事」や「聴く出来事」はkammā vipākaによるものです。

これらの感覚の出来事のほとんどに本人は気付くことさえありません。

たとえば、車で旅行すると、その結果として、何百万の対象が窓越しに見えますが、「注意を引く」ものはごくわずかです。

これらのわずかな出来事のみが、「kammā生成」PSサイクルの開始につながります。

そして「kamma生成」PSサイクルのたった1回の開始によって、そこから多くの「フォローアップ」PSサイクルが開始されています。　

たとえば、散歩していると、（kammāvipākaによる）本当に気に入っている家が見えることがあります。その家に惹かれて（tanhāを形成して）、そのような家を建てることを考え始めるかもしれません。

すると次に、友人の持つ素敵な家を思い出し、その友人について考え始めるかもしれません。

突然、より強力な「kammā生成」PSサイクルを開始させてしまうことで、kamma bījaを作成し、それらが新たなkammāvipākaにつながります。

これがwheeling process、すなわち回り続けるシステムです。

「kammā生成」PSサイクルが生み出す数え切れない「カルマの種」が燃料となって、閉じた輪がまわり続けるのを支えています。

換言すると、

現在の「結果vipāka」は過去に作成した「原因のエネルギーkammā」と条件によって導かれ、この「vipāka」が新たな「kammā」を作成する、という悪循環は、私たちを無限の再生を繰り返す輪廻転生sansaraとなります。

これが苦しみの「世界」を永続させるプロセスでありシステムです。

釈尊はこれを

“kammā vipākā vaddanti, vipākō kamma sambhavō, tasmā punabbhavō hōti, evan lokō pavattati“

と表現しています。

つまり「kammāはvipākāを導き、次にvipākāはkammāを導き、よって再生（punabbhavō）を導きます。それが世界（存在）が維持されている仕方です」。

「sambhava」は「san付加する」+「bhava枠組みのあるエネルギー」、つまり「もっとエネルギー（存在）を追加させる」という意味です。

また、「lōka」は世界のことで、「pavatta」は「維持する」という意味です。

ポイントは、少なくともSōtapannaの段階に到達しない限り、ヒトはmōha（道徳的に盲目）のレベルにおいてavijjāとして行動する可能性があり、4つの最下位の領域（apāyas）での誕生がありえるkammā bhavaを生成するかもしれないkammā（sankhāra）を生成することです。

換言すれば、まだSōtapannaの段階に達していないすべての人は、トリガー（内外の信号）に応じて、pancanīvarana（５つの障害、具体的には渇望　憎悪、怠け癖（眠気）　移り気　疑い）が「マインドを覆い」、強力なakusala-mūla PSサイクルを発動する可能性がある、ということです。

　

たとえば、渇望kāmaccanda nīvaranaがマインドを支配した状況下では、「良い道徳的背景」を持つ人々がレイプを犯してしまったという話を聞くことがあります。

これはchandaが「 icca +anda」であることに由来します。iccaは好きで、andaは盲目なので、kāmaccandaは「kāmaすなわち感覚の喜びによって盲目にされる」ことを意味します。

道徳的な人であっても、ベッドにいる配偶者と浮気相手の姿に激怒して犯された殺人の話を聞くことがあります。

これはnīvarana（障害）の２番目にあるvyāpada（憎悪）が道徳的な人のマインドを覆ってしまったからです。

これらの2つが最強のnīvaranaですが、他の3つも不道徳な行為につながるケースがあります。

thina middha (怠惰), uddacca kukkucca （落ち着かない状態）、vicikicca （aniccaの性質を知らないために賢明でないことをする傾向）によって、対象の変化にちゃんと対応しないことが起因になります。

Sōtapannaの段階に達すると、これらのpancanīvaranaの一部が永久に除去されます。

また他の一部の要素は、弱体化して障害が低減します。

たとえば渇望や憎悪とは、対象の一部だけを見て発する感情であり、それに伴う苦痛や誤謬や決めつけがあるので、全体性に気づけば、「過剰な」好き・嫌いには意味がないことを体感することになるでしょう。

それが、apāyas での再生につながる可能性のある強力なakusala-mūla PS サイクルがSōtapannaに対しては発動されない理由です。

magga phala（実のある道、すなわちSōtapanna、最終的にはアラハンに至る道）によってgatiは変化します。magga phalaの質が高いほど、より多くの変化がgatiに起こり、最終的には消滅します。　

最後に、新しいkammaの生成を開始する別の仕方があります。

これは、「私たちが楽しい行動に着手するランダムな思考を思い浮かべる」ときです。

たとえば、何かをしている時に突然と、昔に見た映画のことや、将来の旅の計画について考え始めたりすることがあります。

これらはdhammā（エネルギーのあるkamma bījaやエネルギーのない記録nāma gotta）がマインドの感覚器官であるmana indriyaに接触すること、すなわち“manañca paṭicca dhammē ca uppajjati manōviññāṇaṃ“によって始まります。

これらも因果関係kamma vipākaの経験です。

ですから、これらは偶然ではなく、過去に作成したkamma bījaによって起きた結果の一般的なケースです。

いずれの場合も、そのような「新しいkamma」を見守って、常に気づいている必要があります。

この訓練がĀnāpāna/Satipatthānaの鍵となります。

時空間軸の範囲による解釈の種類

縁起説Paticca-samuppādaが通用する「時空の範囲」とはどこまでなのでしょうか？

この範囲によって、すなわち枠組みを決めることで縁起説の解釈がいろいろと変わってきます。

私説では縁起説とは、この宇宙のエネルギー変換を言語化したものだと考えているので、涅槃nibbāna以外のすべての時空に通じる法則であると思いますが、私見はエッセイの最後にして、まずは伝統的な解釈、つまり時空間の範囲を狭めて紹介します。

縁起説概念の３パターンの伝統的な解釈

１　時間的因果関係　　　　　時間軸に沿った異なった時点間における因果のみであり、因と果は反転しない

２　論理的因果関係　　　　　同時的な因果も認められるが、因と果の関係は論理的に確定している。

３　空間的相互依存関係　　　時間軸を欠いた空間的な相依相関の関係であり、因果関係ではない。

どれも極端な関係を抽出して、分類したものなので、縁起説はこのように分類できるものではない

１　時間的因果関係では因と果は反転しないとあるが、そうでないものもある　出典先？

蘆束経相応部経典 因縁篇12・67　Saṁyutta Nikāya 12　7. Mahāvagga　67. Naḷakalāpīsutta

２　論理的因果関係では因と果は論理的に確定しているとあるが、縁起説には省略や中立や根本善PSがある

３　空間的相互依存関係では時間的因果ではないとあるが、時間軸を欠いた空間はこの宇宙には存在しない。

したがって、このような分類そのものが無理なものなのだが、極論を使うことで、縁起説の解釈の幅を拡げるために使用されたのではないかと推察する。

部派仏教の相互依存を説く教え

アビダルマ（論書）の「6因４縁５果」と呼ばれる縁起説では、相依の関係論になる。

６因の１つ「倶有因」はとくに「互為果倶有因」は互いに果と為（な）る、相互依存の関係である。

最初期の縁起説　　　

１有情数縁起　　　　　　

有情が迷いの世界に流転する、その流転のすがたを説く縁起説

２一切法因縁生の縁起　　

迷いの生にあっては、すべては種々様々な条件によって条件づけられて存在するもの、

即ち条件に依存するものばかりであって、条件を離れて、条件と無関係に存在するものは一つもない

説一切有部は専ら１が教示され、ナーガルジュナにおいて２が仏説として復活したと舟橋は主張する。

赤沼智善、舟橋一哉「佛教學セミナー第３７号」

科学の因果関係とは統計上の確率的な平均値でしかない　　　ブッダの縁起との違い　

時間軸でいう観点を同じにして並べることで、それぞれの特色が際立つと思うので、

このエッセイではいろいろな時間軸の範囲によって解釈が多様性になること、つまり解釈が異なることを見ながら、その底流においては、エネルギー変換の法則であることを見ていきたい。

伝統的な縁起の解釈であるuppatti PS やpavutti PSを簡潔に分類すると、

uppatti PSが長いスパンの時間軸において、エネルギーが変換する関係について説いているのに対して、

pavutti PSは短いスパンの時間軸において、エネルギーが変換する関係について説いている。

換言すると過去世から未来世までの法則であるuppatti PSと「今」に焦点を当てたpavutti PSの違いがある。

仏教界用語としては、

uppatti PS　『阿毘達磨発智論』、遠続縁起、分位縁起の胎生学的な３世両重

pavutti PS　『識身足論』『品類足論』刹那縁起の因果倶時説（同時的縁起説）、連縛縁起　

uppattiとは「誕生」を意味しており、意識をもつメンタル体がどのように31領域で輪廻転生を繰り返されるのかについて説明している。

対してpavutti（またはpravurti）とは「行為」を意味しており、現世におけるエネルギー変換のプロセスについて説明している。

Pavutti，[fr．pa+vṛt，cp．Class．Sk．pravṛtti] happening，proceeding行為,行動,手順

たとえば現世におけるgatiの変化の仕方を説く、Idappaccayatā Paticca Samuppādaもその１つです。

uppatti PS

uppatti PSには過去と現在、現在と未来の2つの鎖が説かれている。

無明から有bhavaまでの過去と現在、そしてbhava以降の現在と未来。

	過去因→現在果	現在因→未来果
原因	無明・行	有
結果	識・名色・六処・触・受・ 愛・取・（有）	生・老死

今生にも過去・現在・未来がある。

接触まで過去（潜在意識）、受vedanā（感覚）からが現在、愛tanhāからは未来。

aniccā vijjā ñānaを確立できれば、愛tanhāがなくなるので未来（エネルギー）もなくなる。

つまり、受vedanāで、近遠（好き・嫌い、快・不快）ではなく、捨upekkhāのタグをつけることができると、

以降の愛tanhāに繋がらなくなるので、いかに受vedanāが鍵になるのかがわかる。

過去	識・名色・六処・触
現在	受
未来	愛・取・有・生・老死

cf．三世両重（の）因果

		過去因→現在果	現在因→未来果
原因	惑	無明	愛・取
原因	業	行	有
結果	苦	識	生
結果	苦	名色・六処・触・受	老死

cf　　3段階の次元　　前世・現世・来世

	順番	12支	内容
前世	1〜5	無明、行、識、名色、六処、	エネルギーによって作られたgatiという性向、方向性
現世	6〜10	触、受、愛、取、有	そのgatiによって起こる枠組みの中のエネルギー充填
来世	11〜12	生、老死	エネルギーがカタチになることで老朽し、消滅する

具体的にuppatti PSをステップごとに説明すると、

私たちが生まれるとき、親の子宮内の単一細胞として始まります。

そして胎児が乳児、それから成長して、物質、非物質（メンタル）の両方の「モノ」を獲得し始めます。

それらが知識、物質的なもの、友人、配偶者、子供、名声などです。

これらの「モノ」を取得する一方で、新しい性向（gati）を取得したり、前世の生活からもたらした性向を強化したり、弱体化させます。

これらはすべての瞬間にpavutti PS（現世の縁起）に従って行われます。

「pati + ichcha samauppāda」、つまり、私たちは好きなことをして、同類の結果を得ることになります。

無知に条件が揃うと、サンカーラに転変します

sankhārā=「san付加したもの（貪瞋癡） +khāra　 粗く激しい行動」すなわち貪瞋癡による行動、この文脈では悪いkammaによる行動）

これらは本当のabhisankhāra、つまり強いsankhāraのことで弱いsankhāraであるmano sankhāra（想い）は含まれません。 abhiは「強い」という意味です。

私たちが死ぬとき、manōmaya kaya（メンタル体）は性向gatiと渇望āsavasの情報が埋め込まれた「因果の種」だけを次世に伴い、残りの「因果の種」は死体に残ります。

これがこの人生での私たちの基本的な「最終結果」です。

ある種のbījaが残る理由は構成要素がgatiレベルではなくbhuta、dhatuレベルの因果の種であるためなのか？

「因果の種」の1つ（現世または前世からの）が次の世を引き起こし、その種にあるgati とāsavasに基づいてさらに多くの種を獲得していきます。したがって、サイクルは永続するのです。

sankhāraは条件が揃うと、新しいbhava（存在）のエネルギー、すなわちpatisandhi viññānaに転変します。

patisandhi viññānaとは再結合する意識という意味で、次世の体で再生する意識のことです。

この新しい生命のviññānaは、それを生み出した「因果の種」の性質に従って生じます。

その「因果の種」が悪意のある行為によって得られた場合は、そのviññānaは「pati + ichcha samauppāda」に一致します。

もしそれが愛情のこもった優しさで行われた寛大な行為の種であれば、それはBrahmaのviññānaなのかもしれません。

したがって、メンタル体といっても31領域によって異なります。

たとえば動物のviññānaの基本レベルは人間のものとは非常に異なります。

人間が動物として転生した時、viññānaの基本レベルは下方に大きく転換するので、たとえば瞑想の徳を理解して自ら瞑想をする認識力はありません。

これがviññānaは生命から生命へと移動される、と言うのが正しくない理由です。

viññānaは条件が揃うと、nāmarūpaに転変します。

新しい人生の「nāmarūpa」の性質は “pati+ichcha sama uppāda“に基づいています。

新しい生命体とは、niraya（地獄）の生命体やBrahmaの生命体です。

nāmarūpaは条件が揃うと、salāyatanaに転変します。

このステップでsalāyatana（6感覚器官が活性化して対象を探求するエネルギー）に転変します。

欲界の生命体は6感覚器官を介する信号を受信するのに適していますが、色界のBrahma には3感覚（目、耳、心）のみの信号を受信できます。

理由は嗅覚、味覚、触覚の信号はどれも粗大な粒子なので、色界ではそのような粗大な粒子を感知できないからです。

salāyatanaは条件が揃うと、phassōに転変します。

ここでのphassaとは実際にはsamphassaです。

感覚エネルギーと対象エネルギーが一所にとどまっている状態です。

これが、この「Akusala-mūlaPaticcaSamuppāda」がアラハン（およびほとんどの場合の他の聖人Ariyas）には適用されない理由です。

アラハンは「samphassa」を生成せず、「san」なしの「phassa」のみを生成するからです。

（san）phassaは条件が揃うと、vēdanāに転変します。

外界との相互作用のエネルギーは、さまざまな種類の感情（vēdanā）のエネルギーにつながります。

９種類あるすべてのvēdanāがこのステップで付加するのではありません。

sanのないただのphassaによる因果関係kamma vipakaはsanのあるvēdanāを付加しない、ということです。

ここでは、samphassa（ "samphassa ja vēdanā"）によって発生するvēdanāのみに転換します。

そのような「samphassa ja vēdanā」はgati とāsavasに依存しています。

私たちは、「sampajanno」になることによって、「悪い習慣」を取り除くことで、まさにこの人生においてこの部分のvēdanā （苦しみ）を取り除くことができます。

sampajañña： [sampajāna-ya]　清澄な智慧paññā　　　仏教用語の正智

受vedanāと受蘊vedanākkhandha

tanhā（粘着エネルギー）は条件が揃うと、upādāna（近づけて照射されるエネルギー）に転変します。

死の瞬間、最後のcitta vīthiで、死直前のkamma nimitta（エネルギーの特質）を感知します。

これはマインドの最前線に来た強力な「因果の種」の性質を表していて、通常では視覚もしくは音としてです。

たとえば、銃殺である場合には、次の出生で「因果の種」は銃を見たり、その音を聞いたりすることかもしれません。

したがって、新しく生まれてくる生命体は銃殺された時と同じ苦しみや憎しみが起こり、同じような性向gatiであるため、その人はその状況を自動的に受け入れる（upādāna）ことになります。

upādāna（照射されたエネルギー）は条件が揃うと、 bhavō（エネルギー体）に転変します。

把握したkamma nimittaに応じて、それに一致するエネルギーが充填されると、人間、動物、devaなどのメンタル体になります。

これは枠組みはあるけれども、カタチにはまだなっていないエネルギーの塊です。

bhava は条件が揃うと、jāti（新生）に転変します。

その後、bhavaに一致する誕生が始まります。

31領域に対応するbhavaがあり、各領域にも無数のエネルギー体があります。

もし一番エネルギーが充填されたbhavaが人間の領域である場合には、人間としての誕生が起こります。

ここにbhava と jātiの違いがあります。

選択された「人間のbhava」の持続時間は、その「因果の種」のkammic energyが使い果たされるまで続きます。

したがって、その「因果の種」に千年の生命の可能性がある場合、現在の生命が終了しても、次の誕生はまだ人間の領域にあります。

これはanantariya kamma、すなわち非常に強力な他の種類のkammaエネルギーに関わらない限りにおいてです。

たとえば自分の親を殺すのはanantariya kammaなので、人間の領域に転生することはありません。

またAnāgami またはArahantの段階に達した場合は、その人は人間の領域で生まれ変わることはありません。

なぜならばもうbhavaがなくなっているからです。

jātiは条件が揃うと、「老いと死と、悲しみ、嘆き、肉体的およびメンタル的苦痛、数々の苦難」が生じる。

誕生は必然的に腐敗と最終的な死をもたらし、これがdukkhaの起源です。

31領域のどこで生まれたとしても、年を取り、老朽し、最終的に死に至る「苦」があることに、かわりはありません。

その間に、特に人間の領域以下では、あらゆる種類の苦しみを経験します。

老化と死は確実です。そして、死亡すると、輪廻転生サイクルが再開します。

これらがuppatti PSについての説明です。

pavutti PS

現世つまり自分の生涯に何が起こるのかについては、pavutti PSが説明する。

cf．「Akusala-Mula Pavutti（Pravurthi）Paṭicca Samuppāda」とはTipiṭakaのidappaccayāta Paṭicca Samuppādaのこと。

akusala：a. [a-kusala] 不善の.

mūla：根，根本　　　

Pavutti，[fr．pa+vṛt，cp．Class．Sk．pravṛtti] happening，proceeding行為,行動,手順

Idappaccayātā Paṭicca samuppādaとは

「Idappaccayātā」の「ida」は「ここ」を意味し、「paccayā」に最も近い日本語は「条件」、英語のconditionである。

したがって、Idappaccayātā Paṭicca Samuppādaとは、この瞬間に存在する条件に基づいて、「pati icca」が瞬間的に「samauppāda」にどのようにつながるかを説明している。

cf.「idappacayatā」の「ida」と「paccayā」の間に追加された「p」は２つが組み合わさることを意味している。

同じように「dammacakka」と「pavattana」を組み合わさると『転法輪経』Dhammacakkappavattana Suttaの「Dhammacakkappavattana」となる。

増支部AN 10.62　Aṅguttara Nikāya 10　7. Yamakavagga　62. Taṇhāsutta

「比丘よ、最初の原因となる無知は、これまでに無知がなく、その後に生じたように見られるものではない。無知は、条件が整うといつでも発生する」

「Purimā, bhikkhave, koṭi na paññāyati avijjāya: ‘ito pubbe avijjā nāhosi, atha pacchā samabhavī’ti. Evañcetaṃ, bhikkhave, vuccati, atha ca pana paññāyati: ‘idappaccayā avijjā’ti.」

つまり、avijjā（無知）とsaṅkhāra（想い、言語作用、行動）に基づいて、現在の人生でjātiがどのように発生するかについての説明です。

jātiは来世の転生に限定されているのではなく、現在の生活の中で、さまざまなjāti（カタチになるもの）が発生します。

Jātidhammādi Sutta Dasaka (SN 35.33)

IdappaccayāPaṭiccaSamuppādaの「nāmarūpa」とは、主に、特定の目標を達成するために「期待」（viññāna）するときに作成されるメンタル界の「イメージ」を指します。

考えて計画を立てる（つまり、マインドの中で多くのnāmarūpaを作る）ほど、その対象物に対する将来の期待（つまり、そのためのviññāna）はより強くなります。

ここでは、PaṭiccaSamuppādaプロセスが逆方向に実行されます（「nāmarūpa paccayā viññāāna」）。

これは「aññamañña Paṭicca samuppāda」と呼ばれます。

aññamañña [añña-añña] 他と他という意味なので、「相互依存」と訳されています。

釈尊はこのフィードバックのためにviññānaとnāmarūpaの両方が強くなると述べました。出典？

それらはお互いに依存し、お互いを育みます。

それについて考えるほど、viññānaとnāmarūpaは強くなります。

Paṭicca Samuppādaのステップは、一方向に流れるだけではありません。

それらは前方と後方に実行することができます。

Sāriputta尊者（舎利弗）は、viññānaとnāmarūpaの相互依存関係を「2つの束の干し草が互いに寄りかかって、他のサポートなしにお互いを支えているようなものだ」と喩えました。

蘆束経　　相応部経典 因縁篇12・67　Saṁyutta Nikāya 12　7. Mahāvagga　67. Naḷakalāpīsutta

性向や習慣がつくられるプロセスを説明する縁起説　　idappaccayātā　PS

人生の間に特定の習慣やbhavaやgatiをどのように作成しているのかを説明する。

具体例として、ティーンエイジャーがアルコール依存症になるプロセスをみてみる。

最初はティーンエイジャーは、飲酒に熱中している他のティーンエイジャーのグループと友好的になることから始まる。

当初の本人は呑み会に加わることに消極的かもしれないが、無知avijjāのために飲酒グループに加わって飲み始める。

もし親しい友人や家族がそれを知ったならば、飲酒だけではなく、そのようなグループと付き合うのは無知avijjāの悪い結果であることを理解させることができ、防ぐことができたかもしれい。

この縁起説サイクルはこのように「avijjā paccayā sankhārā」で始まる。

有害な結果になることを知らないため、ティーンエイジャーは飲酒グループで飲み始める。

sankhārā=「san付加したもの（貪瞋癡） +khāra　 粗く激しい行動」すなわち貪瞋癡による行動、この文脈では悪いkammaによる行動のこと。

本人が飲酒活動に関わるほど、彼は飲酒について考え、その活動の「考え方」つまり認識viññānaを育む。

これがsankhārā paccayā viññāānaである。

本人がお酒が実際に好きになり始め、他のことをしているときでさえ飲酒のことを考え始めるようになる。

これがviññāna paccayā nāmarupaの段階である。　　

この場合のnāmarupaとは、そのviññānaに関連付けられているメンタルのイメージのことで、この文脈でのnāmarupaは、楽しみたい「もの」と「概念」の両方のイメージのことを指す。

具体的には特定のアルコールボトルの名前と形、通常飲む場所、一緒に飲む友達などの一連のイメージである。

本人は次の「呑み会のイベント」を考え、そのシーンを頭の中で視覚化するようになる。

そして、本人の6感覚器官からの信号が「関与」し、nāmarupa（イメージ）が現実化する。

6つのindriya（感覚器官）は「āyatana」になる。

「āyatana」とは「出入する機能」のことで、感覚は覚醒しており、求めている刺激にすぐに反応する準備が整っているエネルギーのことである。

この文脈では飲酒に関連する行動に深く関わるエネルギーである。

本人のマインドは次の「呑み会」（どこで、いつ、誰と、など）をしばしば考えるようになる。

本人は前段階のnāmarupaに従って、āyatana（呑み会に関する情報にすぐに反応できる状態）となった6つの感覚すべてを使用して、「呑み会」に必要な準備をする。

これがnāmarupa paccayā salāyatanaである。

salāyatanaとは6つのāyatanaのこと。

この段階では目は単に物理的な眼球ではなく「見るもの」、すなわち「良い飲み物」や「チャットするのに良い友達」などと、関連の情報を積極的に取得するエネルギー体になる。

次のsalāyatana paccayā phassaの段階では、6つのāyatanaは関連する感覚の対象と一所にとどまる（接触）ことを積極的に行うようになる。本人の眼は好きな飲み物や話をしたい人などと一体になっている。

ただし「salāyatana paccayā phassa」のphassaとは標準の縁起説ステップで提供されている「uddesa」すなわち短縮バージョンにすぎない。

実際にはただの接触phassaではなく、「貪瞋癡の伴った接触samphassa」であり、これが信号に快・不快のタグを付ける「受」vedanāに導く。

つまり“(san)phassa paccayā vedanā“である。

本人はすべての感覚接触で本人にとって良い、しかし長いスパンから見れば不道徳な感覚を経験することになる。

そのような本人にとっては「良い感情」のために、さらに愛着を抱くことになり、

vedanā paccayā taṇhāの段階になる。

taṇhāとは対象に粘着するエネルギーのことである。

粘着しているものは近遠（好き・嫌い、快・不快）の思いがあるエネルギーである。

そしてtaṇhā paccayā upādānaの登場となる。

upādānaとは、タコが8本の足で獲物を掴むように、対象物を引き寄せることで集中的に照射されるエネルギーを意味する。

このケースでは、ティーンエイジャーは飲酒の体験をもう一度したいと強く望み、その想いに普段の想像力が侵食されている状態である。

換言すると、本人がこの出来事を経験しているとき、本人のマインドは完全にそれだけに夢中になっていて、他のことには気がまわらない状態になっている。

本人はその後に起こる、いかなる悪影響の結果を考えてはおらず、そのようなことを考えることの重要性に気づくこともない。

次のステップがupādāna paccayā bhavoである。

酔っ払う状態が、本人のマインドにますます染み付いていく。それは本人にとって大事なエネルギーになっているので、酔っ払う経験を再びしたいと強く望むようになり、それらは習慣となる。

こうして、性向が繰り返され、強度化と固定化がされると、習慣というルーティーンになり、決まったパターンの出力は一箇所に集中するので、そこに生存エネルギー（dhammā）が堆積し、枠組みの中にエネルギーが充満されるbhavaが形成される段階となる。

この習慣が非常に強くなると、輪廻の縁起（uppatti Paṭicca samuppāda）のプロセスを介して、動物としての新しいbhavaにつながってしまう可能性もでてくる。

今生の縁起（pavutti PS ）では、枠組みの中のエネルギーが充填されて、それかカタチになって現出（誕生）した「bhava paccayā jāti」である。

「bhava」すなわち「業kammaの種」が枠組みの中で完全に満たされたことで、それが密度を持ちカタチになったので、この文脈では「酔う状態の準備」は整えられた。

後は、本人が必要とするのは、友人からの招待状や、街のバーの光景というインプットだけで、すぐに飲酒の機会を得ることができ、アウトプットの泥酔を得ることになる。

こうして、あらゆる機会に酔うことになる。

そして、他のすべてと同じようにどのような出生も腐敗と苦しみを受けることになる。

「jāti paccayā jarā、marana、…dukkhakkhanda samudhayō hōti」の段階である。

1回の呑み会だけならば、アルコールの中毒は大きな頭痛と二日酔い以外は何も残さず終わるかもしれない。

しかし、問題は形成してしまった習慣に「捕獲」されてしまったことである。

何度も飲酒を繰り返すと、習慣となった回路はさらに強化される。

この習慣が実行されるごとに、エネルギーをもつ認識kamma viññānaはより多くの燃料となって、bhava（枠組みの中で充満するエネルギー）に蓄積し、酩酊と習慣はより強くなる。

上記の縁起説サイクルは、呑み会が終了しても、まだ結果には達していない。

意図的に慎重にこのサイクルを停止しない限り、サイクルは繰り返し発生する可能性がある。

なぜならば、「全体性」の回路を理解していないので、この結末の悲惨さを体感しておらず、作ってしまった自動反応回路をいまだ弱体化したり解体したりしてはいないからである。

停止する方法はDhammaを学び、良い習慣を身につけ、「sampajannō」になることである。

sampajānōとは、修業によって得られた強化された智慧によって、間違ったこと（san　貪瞋癡）から離脱した（聖なる）行いを実践することを意味する。

sampajañña：n．[sampajāna-ya] 正智、正心、意識的

Saṁ-　　【接頭辞】共，集，合，正，同時

pajama　　深思的，智道的、智慧paññā　（thoughtful，mindful，attentive，deliberate，

停止しなければ、アルコール依存者が悪い習慣を続けることになり、そのエネルギー（bhava）を経て、悪い結果が生まれjāti続ける。

つまり、より頻繁に泥酔することが増えることとなる。

人が泥酔しているときは良識のない動物のように振る舞う傾向があり、長期的な結果として動物として転生する可能性が増加する、とアビダルマ仏教では考える。

この段階まで来てしまうと、縁起サイクルが作動するのに呑み会に参加する必要さえなくなる。

たとえ机に座って勉強していても、悪い習慣の縁起サイクルはマインド内で作動する。

たとえばmano sankhārā（想いのパターン回路）とvacī sankhārā（言語と意思の作用のパターン回路のvitakka思惟/ vicara継続計画）を開始しており、飲酒の認識回路viññānaを作り出し（および強化）して、イメージnāmarupa（場所、友人、アルコールボトルなどのビジュアル）を生み出し、残りのサイクルが自動的に稼働する。

つまり、salāyatana、samphassa、vedanā、taṇhā、upādāna、bhava、jātiを繰り返す。

したがって、このような多くの縁起サイクルが稼働し、回路bhavaすなわち習慣が積み重なるにつれて飲酒の頻度が増加する。

エネルギーの容れ物であるbhavaすなわち習慣を作るモノが強くなるほど、それを破壊するのは難しくなる。

このような状況で状況を改善する時には、悪い習慣に取って代わる、良い習慣で代行するのが効果的である。

心が安らかになっている時には悪い習慣が生みだす結果について熟考することができ、

良い習慣を身につけることはマインドを悪い習慣から遠ざけることになる。

泥酔する習慣を続けていると、「酩酊の認識回路viññāna」は回数を積み重ねることで堅固になり、強化される。

この回路が死ぬ瞬間cuti-patisandhiに堅くて強いままだと、本人の人間のエネルギー体bhavaは、輪廻の縁起サイクルを介して、次の転生のエネルギー体uppatti bhavaにつながる可能性がある。

このような新しい認識エネルギーkamma viññānaは、動物界での転生を引き起こす可能性になる。

「過去世・現在世・未来世」のuppatti PSと

「現世」のpavutti PSの縁起をみてきたが、

この時間軸の範囲は、長さと短さの両方の方向に拡張することができる。

時間軸の最小の範囲でのるエネルギーの変換する関係について三蔵は説いている。

それが「この瞬間（10億分の1秒）」の縁起説である

心路citta vithiという17ステップある一連のマインドのエネルギー変換を、縁起によって解釈する。

一瞬の思考プロセスの3段階

過去に学習した無意識の因果関係　　　　　　　　　１〜３　　　無明、行、識

各自の学習や習慣によって現出する因果関係　　　　4から８　　名色、六処、触

新たに作り上げるエネルギーの因果関係　　　　　　９から17　、受、愛、取、有　生、老死　　　　　　　

1 Atīta Bhavanga (Past Bhavanga) 　　　　　　　　　　　AB

2 Bhavanga Calana (Vibrating Bhavanga) 　　　　　　BC

3 Bhavanga Upaccheda (Arrest Bhavanga) 　　　　　　　BU

4 Pancadvaravajjana (Sense-door adverting consciousness) 　　　　　PD

5 Cakku Vinnana (eye-door perceiving consciousness) - for example CV

6 Sampaticchana (Receiving consciousness) 　　　　　　　　　Sam

7 Santīrana (Investigating consciousness) 　　　　　　　San

8 Vottapana (Determining consciousness) 　　　　　　　　V

9-15 Javana 　(Energy consciousness)　　　　　　　　　　　 　　　　　J

16, 17 Tadarammana (Registering consciousness) 　　　　　　　　　　T

10億分の１秒については後述のコラム10億分の1秒の根拠を参照していほしい。

四諦と縁起

四諦と縁起

Saṁyutta Nikāya 56　2. Dhammacakkappavattanavagga　11. Dhammacakkappavattanasutta

Dhamma-cakkappavattana Sutta, Samyutta Nikaya, LVI (XII). ii. 1.	四諦
Jati’pi dukkhm; jara’pi dukkhm; vyadhi’pi dukkhm; maranam’pi dukkham; appiyehi sampayogo dukkho; piyehi vippayogo dukkho; yam’p’iccham na labhati tam’pi dukkham; sankhittena pañc’upadanakkhandha dukkha.	誕生は不完全であり、老いも不完全です。 病気は不完全であり、死も不完全です。 不快なものと関わるのは苦しみです。 快いものと離れるのは苦しみです。 欲しいものを手に入れないことは苦しみです。 要するに、5つの集合体への執着が苦しみです。
	Birth is suffering; ageing is suffering; sickness is suffering; death is suffering; association with the unpleasant is suffering; dissociation from the pleasant is suffering; not to get what one wants is suffering; in short, attachment to the five aggregates is suffering.

仏教で説く四つの真理。四聖諦ともいう。

仏教の開祖である釈尊は，ブッダガヤーの菩提樹下でこの四諦の真理を悟り、それを十二因縁という縁起の法で表したといわれる。

四つの真理とは

苦諦 我々すべての存在は生老病死などの苦に悩まされる苦的存在であるという真理

集諦(じつたい) 苦を生ずる原因は渇愛に代表されるこころの汚れ(煩悩)であるという真理

滅諦 煩悩を滅した状態は寂静なる涅槃(ねはん)であるという真理

道諦 涅槃に導く道は，八聖道などの実践行であるという真理

これら四つの真理のうち，

前の二つは，集諦があるから苦諦があるという迷いの世界における因果関係を、

後の二つは，道諦があるから滅諦があるという悟りに向かう過程での因果関係をそれぞれ表しており，

仏教の縁起説(縁起)を十二因縁とは異なった側面から表現したものである。

4つの真理に３つのプロセスがある。

これが縁起の条件が揃うとエネルギー変換されてカタチが変わることになる。

苦諦　　有→生→老死

集諦　　受→愛→取

滅諦　　無明→行→識

道諦　　名色→六処→触

苦諦では、有（枠組みにエネルギーが充填されたことで）→生（カタチが誕生し）→老死（苦が永続すること）

集諦では、受（近遠のタグをつけることで）→愛（対象に接着して）→取（集中的にエネルギーを照射すること）

滅諦では、無明（輪廻のエネルギー）→行（パターン化して捉える）→識（エネルギーを意識になる）

道諦では、名色（エネルギーを持つ因果の種）→六処（対象を探し）→触（一体になる）

つまり、

滅諦の縁起を滅することでエネルギーのない領域に離脱することができるので、

道諦の縁起は根本悪ではなく根本善であるので、そのための方法が八聖道である。

具体的な修行の実践方法　　

「いま・ここ」が聖なる「場」

私たちは「いま・ここ」でしか体感できない。

感覚を使い、過去を現在にする闘いの場。

感覚が無明に覆われていると、苦が作り出す世界で生きるしかない。

智慧が無明の覆いを剥ぎ取る。

「いま・ここ」のこの瞬間だけで生きると縁起が理解できる。

まず「悪い習慣」（依存、薬物、過食、憎悪など）がなくなることをマインドフルネス（気づき）で試して、

その力と効果を確認できたら、次には他のdasa akusala（10の悪行）に適用させる。

縁起の「条件と原因の法則」を理解することで、三相であるTilakkhanaを把握できるようになっていく。

これが、Sōtapannaステージへの道。

無明avijjāの定義は、四聖諦を理解していない、ということ。

四聖諦を理解するには、「世界の真の性質」、つまりこの世の3つの特性であるanicca、dukkha、anattaを体感する必要がある。

anicca、dukkha、anattaを簡潔に言うと、次の意味になる。

この世界には、長期的に私たちの満足を維持できるものはない（anicca）。

したがって、満足を得るための多くの闘争の後に、私たちは苦しむことになる（dukkha）。

したがって、これらの闘争はすべて無駄であり、誰もが無力である（anatta）。

より表層的な意味では、anicca、dikkhha、anattaとは「この世界」の非常性の性質の現れである。

上記の3つの特性は、人間の領域だけに当てはまるのではない。

たとえば、人間界以上の領域（欲界のdeva、色界と無色界のbrahma）では苦しみが少ないが、どの31領域でも永続的な幸福を得ることはできない。

私たちは本当に無力である（anatta）。

この幻想的な幸福を求めるために、人為的なこと（特に、殺す、盗む）を行うと、苦しみに満ちたより低い領域に閉じ込められることになる。

したがって、avijjā（無明）の覆いは「本の知識」で追い払うことはできない。

「この複雑な世界の真の性質」を体感して、理解する必要がある。

私たちがそれについて知らされても、それを把握するのは簡単ではない。

なぜならば、私たちのマインドは、追跡不可能な最初（はじまり）から蓄積されてきた汚れに覆われているからである。

修行者ができること、そして、する必要があることは、

「saṅkhāra paccayā viññāṇa」のステップを止めるために、

まずは強力なvaciとkāya abhisaṅkhāraを停止すること。

これらが新しい強力なkamma viñña につながるからである。

Kamma viññāṇaは常に最初にmanō viññāṇaが発生し。その後に、行sankhāraを介して作成されるので、

この段階で「気づく」ことで、次のkamma viññaのステップにつながらないようすることができる。

その後に、そのmanō viññāṇaを生みだした習慣的に作成している「カルマの種」を創出しないようにする。

また習慣性を持つabhisankhāraがあればまずは弱体化させて、それから上書きをする。

具体的には、17ステップの心路citta vithiは処理が高速で止めることはできないので、低速処理の大脳新皮質を使用することで、これらのakusala-mūlaPSサイクルの始動を停止させることは可能で、貪瞋痴に関わる意思・言語活動と行動を中止することができる。

これがSatipaṭṭhāna/Ānapāna/vipassana瞑想によって育成できることであり、瞑想を実践する理由である。

呼吸を整え、心を落ち着かせ、5感覚は自分自身ではないことを確認し、心に浮かんでくる想いにゆったりと寄り添い、それらを肯定するも否定することもなく、ただ自分は「そのように感じているのだな」ということを改めて知り、また瞑想に集中し、また想いが現れてきても、同様に静かに穏やかにしている。

このような実践を繰り返し続けていると、自分の感覚する対象が5感覚のモノ（dhātu）から、心で感覚するモノ（bhūta）に移行していく。

すると、これまで気づかなかった、dhātuの生まれては消えていく変化にもだんだんと気づくことができるようになっていく。

そして、また瞑想に集中し、潜在意識から浮かび上がる過去の想いや未来の計画などが浮かんできては、同様に「そのようなことを感じているのだな」静かに穏やかに見守り、また瞑想に戻る。

穏やかに見守ることで、想いや計画に新しい近遠（快・不快）のタグがつかないようになっていくので、それにしたがって強い因果の種を作成しないようになっていく。

このような実践を続けていると、潜在意識から浮かび上がってくるものの強度と量が徐々に減少していく。

それにしたがって、自分の感覚する対象が過去や未来のことではなく、もっと微細なモノ（gati）に移行していく。

すると、これまで気づかなかった、bhūtaの生まれては消えていく変化にもだんだんと気づくことができるようになっていく。

この段階ではもう呼吸はしているのかどうかわからないほどになり、心は寂静の中にいるのでしょう。

こうしてgatiの生滅、そしてdhammāの気付きへとだんだんと進む。

どの段階でも必要なのが、寂しさを感じる静けさであり、クールさであり、安らかさであり、軽さである。

日常生活の中でも、穏やかな心境で自分の体、感情、心で起きているプロセスにスポットライトを当てる練習を続けていると、それらの変化を非常に早い段階でつかまえる、すなわち気づくことができるようになる。

まずは自分の行動、次に言語・意思作用、そして自分の想いにである。

「衝動的な間違った行動」、たとえば怒りや憎悪がカタチになって手に負えなくなってしまう前に停止させるには、初期段階でこのプロセスが発動していくことに気づくことである。

具体的には、このプロセスをただ察知しているだけで、プロセスは停止する。

なぜならば、このプロセスは気づかれないことによってエネルギー転換が続いていくので、察知というマインドのエネルギーが対象に照射されると、自動転換するエネルギー流動が止まるからである。

これが、Satipaṭṭhāna/Ānapāna瞑想はまず瞑想しやすい場所で練習して、それに慣れるようになれば、次は日常生活での状況でも適用させるのが、瞑想をする目的である。

つまり縁起のシステムを理解することで、

根本悪縁起akusala-mūlaPSを中断するには、対象に対してのエネルギーの照射を中止することが必要であり、そのためには、瞑想によって「気づき」の力を育成して強化することで、受vedanāのステップで近遠ではなく中立（捨upekkhā）のタグをつけること、

そしてそれができずに渇望・嫌悪のタグが付いた場合でも、エネルギーを照射しないためには、対象への関心を粗大さから微細さに向ける、関心の「温度」を下げる、対象へのスポットライトを当てる頻度を減らす、穏やかにする、呼吸を静かにする、血圧を下げる、思考を外側から内側へ向ける、自分の思考回路を分析し、そのように断した根拠のあやふやさ、もっと正確にいうと自分の誤謬を瞑想を通じて学ぶことができる。

熟睡している時間以外、すなわち意識のある時間では、感覚の変化に気づいている習慣をつけると、その後は時間とともに実践者のgati（性向・方向性・自動反応アプリケーション・習慣）はより良く変化し、結果が「愚かで自他に損害を与えること」をやめるようになる。

その後、私たちのマインドは清くなるにしたがって、buddha Dhamma(覚醒者の宇宙法則――仏法)をより深く理解できるようになる。

このような体験は特に最初の頃は段階的なプロセスとして自覚される。

あらゆる感覚器官を介するイベントは、因果関係kammā vipākaがもたらすavyākata PSが発動することから始まる。

この縁起プロセスは、私たちがただ見て、聞いて、嗅いで、味わい、そこから得られるデータで、プロセスが進行する。

しかし、私たちが経験するこのような感覚（vēdana）とそれに対する反応は、人によって異なり同じではない。

たとえば、同じ梅干しをみても、食べたことがある人は唾液が出るが、まだ食べたことのない人は何も反応しないように、同じ感覚入力であったとしても、各自に生成されるvēdanaは人によって異なる。

経験していないことも、まずはじめは中立の縁起ではじまることが多い。

なぜならば過去のデータを当てはめることができないからである。

ただ未知のことと恐怖とを結びつけた回路を強く太く作成している人は根本悪の縁起からはじまる。

AvyākataPSは一度開始すると、停止させることはできず、アラハンでさえこの因果関係kammāvipākaを避けることはできない。

kamma的中立の縁起ではabhisaṅkhāraは生成せずにシンプルなmanō saṅkhāraだけであるのでkammaは生成されないが、因果関係kammā vipākaによる見たものや聞いたものなどに応じて、そこに関心が粘着taṇhāすると、kammaが生成する「原因型の縁起PSサイクル」が新しく開始される場合がある。

最初のavyākata citta vīthiは10億分の1秒以内に消えさるものなので止めることはできないが、

気づいた時点ですぐに、その後に発動したakusala-mūlaPSプロセスを停止することは可能である。

たとえば、魅力的な対象を見ると、lōbha（貪欲）思考（apunn　ābhi sankhāra）が生成される場合がある。

また嫌な対象を見ると、憎しみに満ちた考えを生み出すかもしれない。（apunn ābhi sankhāra）。

道に迷っている人見ると、価値のある行為（道案内をする）につながる可能性のあるalōbha思考（punn ābhi sankhāra）を生成することがある。

すべての行動はavyākata PSサイクルによって開始される。

しかし、すべてのavyākata PSサイクルが、新しいkammāを生成する「kammā生成」PSサイクルにつながるわけではない。

たとえば、デパートで展示されている品物を見ていることを想定してみる。

多くの人はただひと目それを見ただけで、それ以上のことは考えない。

しかし、ある品物を好きな人は、それをもう一度見るであろう。

また、それを本当に望んでいる人で、お金を持っていない場合には、それを盗むことを考える可能性さえもある。

このように同じ場所、同じ対象物であっても、各自の性向・方向性・こだわり（gati）によって、各自の執着心は違い、発動するPSサイクルは違ってくる。

これらを理解し、体感する機会を増やすことで、自分の関心を物質だけではなく、物質エネルギーへ、具体的にはdhātu、bhūtaそしてgati、dhammāと領域を深く拡げることが、修行の目的となり、その結果、苦しみから徐々に離脱することになる。

より深い十二因縁の理解と実践

	パーリ語	用語	英語	内容
1	avijjā	無明	ignorance	宇宙の法則は無明であることを理解する 生命体の本能を理解する 苦しみの原因である貪瞋痴をいつも体感していること gati、anusaya、āsāvasが残存していることを理解する
2	saṅkhāra	行	reaction	貪瞋痴によって形成された多くの自動反応回路 学習された感情パターン、思考パターン　 無色界のgati、色界のbhūta、欲界のdhātuで構成
3	viññāṇa	識	consciousness	エネルギーを持ったviññānaは無意識で待機する 中層意識・深層意識に光を当てる
4	nāma-rūpa	名色	mind and body	メンタルは物質エネルギーに変換する 一般性が具体性とリンクする時空
5	salāyatana	六処	six senses	６感覚器官が対象を捜そうとするので、クールになって呼吸を整え、対象をみつけないようにする
6	phassa	触	contact	内部rūpa（saḷāyatana）と外部rūpaとの接触である 貪瞋痴があると無意識で結ばれることを認識する
7	vedanā	受	sensation	感覚データに近遠のタグが付加される 穏やかにして捨upekkhāのタグをつける必要がある
8	tanhā	愛	craving & aversion	関心があることは対象に粘着するので、 関心を持ち続けず、aniccāのモードに切り替える
9	upādāna	取	attachment	無意識の自動反応アプリケーションに依存してエネルギーを照射しているので、淡々とする心構えを養う
10	bhava	有	the process of becoming	具象化　　　アプリケーション→カタチ クールダウンして、エネルギーを枠組みから逃がす
11	jāti	生	birth	具体化　　誕生　　この世でカタチになる カタチの宿命を理解する
12	jarā-maranam	老死	ageing & death	メンタルと肉体の苦しみの継続

始めの6つが潜在意識

次の6つが顕在意識

感覚がある。これで渇望が始まった。

感覚器官と心地よいものが接触すると渇望が生まれる

ではどのように消滅させればよいのか？

生まれることがないことで渇望は消滅する。

６つの感覚器官をやめることで消すことができる

６つの意識をやめることで消すことができる

６つの接触をやめることで消すことができる

６つの感覚をやめることで消すことができる

sanna：サンニャーをやめることで消すことができる

サンヤッターナ＝サンカーラをやめることで消すことができる

タンハー渇望をやめることで消すことができる

思考の始まりをやめることで消すことができる

思考の継続をやめることで消すことができる

私説

縁起説をエネルギーが変換していく起承転結のプロセスの法則として理解する。

縁起説の時間軸の範疇　　　

長いスパンの時間軸において、エネルギーが変換する関係について説いているのに対して、

宇宙創生の時間　　　　　　　　　　宇宙輪廻　　　100億年×４　　出生、成長、成熟、消滅、再生・・・

大銀河系、銀河系、太陽系、地球　　星々の輪廻　　50億年×４　　　出生、成長、成熟、消滅、再生・・・

三世　前世・現世・来世　uppatti PS　　　　　メンタル体bhavaの輪廻　　　　集団生命流動体

現世　　　　　　　　　　pavutti PS

性向gatiの作成プロセス　　idappaccayātā　PS

一瞬の17ステップある心路citta vithi　

無意識、潜在意識、表層意識のPS　　　時間のない同時進行に見えるが潜在意識と無意識は過去の学習の結果

3段階の意識

深層意識　1〜5　　無明、行、識、名色、六処、　　　　　統合意識、概念意識

中層意識　6〜10　触、受、愛、取、有　　　　　　　　　　潜在意識

表層意識　11〜12　生、老死　　　　　　　　　　　　　　　表層意識

エネルギー変換からみた縁起　　　　宇宙全体のエネルギー保存の法則

物質、運動，位置，圧力，音，熱，光（電磁波），電気，化学，原子核

	パーリ語	用語	英語	内容
1	avijjā	無明	ignorance 電磁波E 運動E	エネルギーの発生　　 エネルギーの構成要素はdhammā エネルギーの力はdhammāが集まったもの×スピード 貪瞋痴の状態で言動をおこす 無貪・無瞋・無痴の状態で言動を起こす
2	saṅkhāra	行	reaction 　　 位置E	エネルギーを伴うものは時空と方向性をもつ 均等に発散されるのではなく「偏り」がある AからBへ移動する 運動エネルギーは通路（位置）エネルギーになる。 mc^2 ＝　E　＝　偏り 回路を作成する アプリケーション　　自動反応回路 学習された感情パターン、思考パターン
3	viññāṇa	識	consciousness 意識E	回路（偏り）ができるとそのアウトプットにエネルギーが集中し、 光が塊となる。 はっきりと光の塊と闇が対比する。 光は眩く輝き照らすことで、照らす存在となり、同時に照らされる存在もできる。 この２つの関係を「宇宙の意」とよぶ。 このエネルギーのギャップが「意」エネルギーに転換する。 エネルギーが意識に転変したものがkamma viññāna
4	nāma-rūpa	名色	mind and body 物質E	意識エネルギーが凝縮されると物質エネルギーに転変する。 １段階ずつ具象化が起こる。 Dhammā→gati gati→bhūta bhūta→dhātu dhātu→物質 kamma viññānaが積み重なってカルマの種が作成される。 未来を生む設計図　「希望と夢」も含まれる。 メンタル・エネルギーが物質エネルギーとして具体化する これらは、52のcetasikāの複雑な組み合わせ
5	salāyatana	六処	six senses　 引力E	物質エネルギーは対象物を求め捜すエネルギーになる。 質量はエネルギーをもち、他のエネルギーを求め引力となる。 エネルギーが感覚器官に照射され、対象を探索する機能を持つ（認識説明のPS） 三世にわたるPSでは、受精卵
6	phassa	触	contact 化学E	引力は他の質量と結びつき、そこで化学反応エネルギーに転換する。 内部エネルギーのrūpa（saḷāyatana）と外部エネルギーのrūpaとが接触反応を起こす。
7	vedanā	受	sensation 磁力E	化学反応エネルギーは磁力エネルギーに変換される 引き合うものと反発するものになる 原子を構成する陽子と電子にはそれぞれ正と負の電荷があり、中性子には電荷がない。 感覚信号のデータに近遠どちらかのタグが付加される
8	tanhā	愛	craving & aversion 電気E	磁力を固定化させると電気エネルギーに転換する 近・遠のタグが付いたEに意識（マインド）Eが照射すると、対象にエネルギーが吸収する 対象に次々とメンタル要因のエネルギーが付着する。 tanhāはattachment付着、すなわち愛着 貪欲または憎悪という電気EによってEが付着する。
9	upādāna	取	attachment 電気集注E	電気エネルギーを集中的に一点に凝縮させる 付着する状態になった対象に意識Eが一点に照射されて、対象のエネルギーが活性化する。 対象物を引き寄せる 「upa近く」+「ādāna引っ張る」 よって、Upādānaは「引っぱって近くに置いておく」 「近づき続ける」 マインドはārammana（対象）を引き寄せて、そこにエネルギーを注入する
10	bhava	有	the process of becoming 電気密度E	凝縮されたエネルギーを枠組みの中に入れて充填させると エネルギー体に転変する エネルギーが入る容れ物が物質エネルギーの集合体になる　　　 枠組の中にエネルギーがあるが、カタチ（可視化）はまだない 3世代のPSでは再生を何度か繰り返すメンタル体のこと
11	jāti	生	birth 核E	エネルギー体は元素に作用して熱エネルギーを持つ物質に転変する 核融合がおきる 具体化　　誕生　　この世で形になる エネルギーがカタチになる
12	jarā- maranam	老 死	ageing & death 核分解E	物質エネルギーは起承転結を経て消滅する その消滅エネルギーは宇宙エネルギーdhammāに還元される。 メンタルと肉体の苦しみの継続 エネルギーは変化しカタチは消滅する

エネルギーの「場」の基盤はエネルギーがゼロである。

エネルギーは弾性と慣性があり、多様に変化するのだが、その１つとして磁性や圧力や熱がある。

これらのエネルギーが次のエネルギー形態に変化する時、

すなわちあるエネルギーが消滅する時に、次のエネルギーが発生する。

圧力エネルギーが消滅する時には、１hzの電磁波エネルギーが発生する。

この電圧値がプランク定数である。

このプランク定数を仏教ではdhammāと呼ぶ。

縁起説は台風の生滅のプロセスも解説している。

虚無というポテンシャルからカタチが生まれるプロセスと、カタチが「空」になるプロセスを段階的に顕している。

遍くdhammāエネルギーが渦をつくり、それが大銀河や台風や原子などのあらゆるレベルにも見ることができる。

この１hzの電圧値の渦がエネルギー源となり、宇宙は変化している。

宇宙創生の輪廻からみた因果関係

根本悪縁起は意識体に適応させたものなので、宇宙創生にはふさわしくない用語になるが、エネルギー転換のレベルにおいては、転換順序は同じである。

まずは意識体のエネルギー転換が宇宙創生とどのように対応しているのかみて、

いつか宇宙創生に相応しい用語に置き換えることにする。

	パーリ語	用語	英語	内容
1	avijjā　　 vijjā	無明 明	ignorance wisdom	新星爆発 エネルギーが発生する
2	saṅkhāra	行	reaction	生まれた光の塊は中心から周辺へ移動する 爆発エネルギーは運動エネルギーに変換される エネルギーは均等に拡がるのではなく、密度の高いところと密度の低いところができる。 自動反応回路アプリケーション
3	viññāṇa	識	consciousness	宇宙の「意」 密疎のギャップEが「意」エネルギーに転換される アウトプットにエネルギーが集中し、それを意識化したものが意識エネルギーであるkamma viññānaである。 kamma viññānaが積み重なってカルマの種が作成される。 エネルギーとはdhammāのこと
4	nāma-rūpa	名色	mind and body	意識が物質エネルギー化する 霧のようなエネルギー状態　　「無」の誕生
5	salāyatana	六処	six senses	宇宙卵 物質同士の引力によって物質エネルギーが集中する。
6	phassa	触	contact	内部エネルギーのrūpaと外部エネルギーのrūpaとが接触反応を起こす。 核反応爆発　　　新星（太陽）の誕生
7	vedanā	受	sensation	核Eは磁気Eに変換される 磁力エネルギーが発生する 近遠の傾向（タグ）が付加される 原子を構成する陽子と電子にはそれぞれ正と負の電荷があり、中性子には電荷がない。
8	tanhā	愛	craving & aversion	近・遠の傾向により、宇宙の「意」エネルギーと光Eが照射すると、対象にエネルギーが蓄積される。 対象に次々とメンタル要因のエネルギーが付着し、物質E化する tanhāはattachment付着
9	upādāna	取	attachment	付着する性質を持ったEに光Eが強く照射されることで、対象がエネルギー活性化する。 対象物を引き寄せる 「upa近く」+「ādāna引っ張る」 よって、Upādānaは「引っぱって近くに置いておく」「近づき続ける」
10	bhava	有	the process of becoming	物質エネルギーの集合体　エネルギーが入る容れ物　　　　 枠組の中にエネルギーがあるが、カタチはまだない メンタル体
11	jāti	生	birth	具体化　　惑星の誕生　　この世で形になる エネルギーかカタチになる
12	jarā-maranam	老死	ageing & death	物質エネルギーは変化し、カタチは消滅する　　　起承転結 安らぐことがない

コラム

誤解されてきた縁起

上座部仏教　縁起をよく理解していないブッタゴーサの解釈を基準にしたため

大乗仏教　　五蘊の解釈を省略したことにより、縁起の解釈が変わってしまったため

漢字文化圏　　　漢字で書かれた語句の解釈が釈尊の教えとは違うため

条件が整うときだけ

原因と結果の間の「直接リンク」ではない

常に気づいていなければならない理由　　　Ānāpāna/Satipatthānaの鍵

汚れ、色、輝き、と貪瞋痴

心の純粋さ、そして誤解

パーリ語とサンスクリット語による解釈の誤謬

viññānaとは汚されたcittaのこと

citta知る機能と意識viññānaのプロセス

10億分の1秒

釈尊が菩提樹の下で縁起説を悟ったのか？

３つのタイプの条件　paccayā

縁起説との関わり方　　救済なのか？学問なのか？

無明とは何か？

誤解されてきた縁起

3つの原因、そして時間軸の範囲による多くの縁起の解釈があるのだが、その中の一部だけを取り上げてきたから

一般的な縁起説以外にも、根本善PSサイクルと中立PSサイクルがあります。

中立PSサイクルはkammāvipāka（因果関係）から始まるので「vipāka生成」PSサイクルとも呼べます。

三蔵TipitakaではこのタイプのPSサイクルはavyākata PSと呼んでいます。

Avyākataとは「kammicalyの中立」を意味しており、新しいkammāを生成しません。

論蔵ではabyākataとも記述されています。

上座部仏教の縁起説の解釈

上座部には多くの部派があり、、それぞれの縁起説の解釈をアビダルマ（論書）にした。

客観世界や客観的現象まで説明しうる縁起説としては、説一切有部の〈六因・四縁・五果〉がある。

南方上座部では二十四縁も説かれた。

有力部派であった説一切有部においては、「十二支縁起」に対して、

『集異門足論』・『法蘊足論』・『施設論』・『識身足論』・『界身足論』・『品類足論』や『身論』など多種の解釈がある。

『識身足論』 「同時的な系列」と見なす解釈

『阿毘達磨発智論』Jñānaprasthāna　迦多衍尼子の「時間的継起関係」「過去・現在・未来」に分割して解釈

『品類足論』　「一切有為」（現象（被造物）、森羅万象）のありようを表す縁起の考え方

『阿毘達磨順正理論』Nyāyānusāriṇīは世親の『倶舎論』に対しての衆賢の反論であり、

時間単位による４つの解釈をする。

１刹那縁起　ほんの一瞬にすべて含まれる　　　　　因果倶時説（同時的縁起説）の原拠

２連縛縁起　十二支が順に連続して、無媒介に因果を成していく　　心身の途切れない変化　　　無常の相

３分位縁起　五蘊の有情の12境位　　過去世２因→現在世５果、現在世３因→未来世２果（３世両重）

４遠続縁起　間違いと感じられるほど長い時間を隔てて因果の連縛が続くという説

三世両重（の）因果
		過去因→現在果	現在因→未来果
因	惑	無明	愛・取
	業	行	有
果	苦	識	生
		名色・六処・触・受	老死

　　　

　　

説一切有部では、この分位縁起に立脚しつつ、十二支を過去・現在・未来の3つ（正確には、過去因・現在果・現在因・未来果の4つ）に割り振って対応させ、過去→現在（過去因→現在果）と現在→未来（現在因→未来果）という2つの因果が、過去・現在・未来の3世に渡って対応的に2重（両重）になって存在しているとする、輪廻のありようを説く胎生学的な「三世両重（の）因果」が唱えられた。

大乗仏教の縁起説の解釈

般若経典

初期の般若経典は、縁起する諸法の本質は「空」であるとし、個別の特徴を持たない（無相）としたので、縁起説の解釈がない。

龍樹

説一切有部が諸法に固有の性質（自性）を認めたうえで縁起や因果を説明することを批判した。

龍樹は、諸法は「空」すなわち無自性であるから縁起し、また縁起するから自性をもたず「空」であるとした。

龍樹は、『般若経』に影響を受けつつ、『中論』等で、説一切有部などの法有（五位七十五法）説を批判し、

有為（現象、被造物）も無為（非被造物、常住実体）もひっくるめた、徹底した相依性（そうえしょう、相互依存性）としての縁起、いわゆる相依性縁起を説き、中観派、及び大乗仏教全般に多大な影響を与えた。

パーリ経典の「名色」nāmarūpa

ナーマとルーパは互いに依存関係にあり、切り離すことができない。

パーリ仏典Saṃyutta Nikāya > Nidāna Saṃyutta> Buddhavagga>Vibhańgasutta　　

Saṁyutta Nikāya12　1Buddhavagga　2 Vibhaṅgasutta　 SN12.2

Katamañca bhikkhave nāmarūpaṃ? Vedanā saññā cetanā phasso manasikāro, idaṃ vuccati nāmaṃ. Cattāro ca mahābhūtā, catunnaṃ ca mahābhūtānaṃ upādāyarūpaṃ, idaṃ vuccati rūpaṃ. Iti idañ ca nāmaṃ, idañ ca rūpaṃ, idaṃ vuccati bhikkhave, nāmarūpaṃ

比丘たちよ、名色とは何か？　感情（ヴェダナー）、認識（サンニャー）、意思、接触、作意、これらをナーマと呼ぶ。 四大要素と、四大要素に依存するもの、これらをルーパと呼ぶ。 このナーマとルーパを名色と呼ぶ。

ナーガルジュナ「宝行王正論」

「ある」「ない」が空間的な関係性

「生ずる」「滅する」が時間的な関係性

「これがあるとき、かれがある。たとえば長があるとき、短があるように。これが生じるとき、かれが生じる。たとえば、灯火が生じるとき、光が生じるように（48）

一方また、短がなければ長は自体として存在しない。また灯火が生じなければ、光もまた生じない（49）」

ナーガルジュナの２様の縁起観

1「縁起の12支は不生起である」空七十論４節

「苦を結果としてもつ縁起の12支は生起したものではない。それは一刹那においても認められないし多刹那においても認められない」

「一がなければ多はなく、多がなければ一はない。したがって、存在（もの）は依存関係（因果関係）によって生じるのであって、個体としての存在（自相）のないものである」空七十論３節

という上記のような主張もしたが、

２　三世両重説　　中論26章

中論26章では、上座部の三世両重説を唱えている。

これを矛盾とみるのか、多層と把えるのかという疑問もあるかと思うが、

私は単純にTPOに合わせた見解だと推察する。

12支は生起したものではないという龍樹の理路

１　縁起は迷い（無明）を原因とする

２　迷いの条件は四顚倒（常・我・浄・楽の倒錯的認識）にある

３　しかし四顚倒はない（自己を含む世界のあり方は無常、無我、不浄、苦であるので顚倒は存在しない）

４　四顚倒がないから、そこから生起する迷いもなく、迷いがなければ諸行のはたらきは生じない

迷いは生成のはたらきに依存して生じ、生成のはたらきは迷いに依存して生じる。而してこの両者は実体として生起していない。

相依関係だからこそ実体性が否定される。

ある男は子供が誕生することではじめて父になり、生まれたものはある男が「父になる」ことではじめて「子となる」。即ち「父という概念」と「子という概念」とは相互に依存し、相互に存在を規定しあっている。

それゆえに「父」も「子」も実体としては存在していない。関係を表す徴表（しるし）に過ぎない。

これと同様に12支縁起も成立しないとナーガルジュナはいう。

唯識

唯識派では、縁起は「識の転変」の意味であるとし、阿頼耶識・末那識・六識が相互に因果となって転変することを指すとした阿頼耶識縁起が説かれた。

特に法相宗の基の『成唯識論述記』では、阿頼耶識からの諸法が縁起する頼耶縁起（らやえんぎ）が説かれる。

ヴァスバンドゥ世親　倶舎論　唯識論　　三枝充悳　横山紘一

如来蔵思想における縁起

現象世界を、真如（如来蔵）が縁に従って現れたものと見る真如縁起（如来像縁起）が如来像思想に見られる。

華厳宗・華厳経

現象世界をそのまま真如であると見る法界縁起（重々無尽縁起）が、中国の華厳宗において形成された。

華厳宗では縁起を、機縁説起という意味に解する。

この「機」は人間・衆生を意味し、「縁起」は人の素質の良し悪しに応じて説を起こすことを意味する。

これを縁起因分といい、さとりは、言語や思惟をこえて不可説のものであるが、衆生の機縁に応じるため、この説けないさとりを説き起こすことをさす。

『華厳経』十地品では唯心縁起が説かれる。

三界（欲界・色界・無色界）の縁起を一心（唯心）の顕現として唱える説（三界一心、三界唯心）。

空海・修験道

それぞれに性質と作用を持つ六大（地・水・火・風・空・識）が、大日如来の本質として実在し、また世間の生物や事物としても実在して、相互に無碍融通しながら万法に偏在しているさまを六大縁起と呼ぶ。

空海が法界縁起説をふまえて六大縁起説を大成した。

いつも無明であって、不道徳な行為を起こすのではない　　

無明の条件があるときに限ってサンカーラを生成する可能性がある、ということ

PS（縁起説）はBuddha Dhamma（仏法）の「原因と結果」（エネルギー転変）を説明しているため、ほとんどの人は「avijjā paccayā sankhāra」は「avijjāがsankhāraを引き起こす」すなわち「無知は悪いkammaを生成する行為を引き起こす」と考えています。

普通の人はavijjāを持っていますが、常にそれに応じて行動しません。

ほとんどの場合、人々は適切にすなわち道徳的に行動します。

ただし、avijjāでいる限り、時々avijjāとともに行動し、不適切すなわち不道徳なことをする可能性があります。

同様に、多くの人々は、「sankhāra paccayā viññāna」は「sankhāraがviññānaを引き起こす」すなわち「悪いkammaが対応する意識につながる」、などとPSサイクル全体を通して考えています。

しかし、

「条件としてavijjā（無知）の時に限って、sankhāraに転変する」

「sankhārāにすべての条件が揃うとviññānaに転変する」

と解釈する必要があります。

原因と結果の間の「直接リンク」ではない

PSが原因と結果の間の「直接リンク」ではないことを理解すれば、多くの事柄を明確になります。

良い/悪いkamma（sankhāra経由で生成）を行ったからといって、それらすべてが結果kammavipākaにつながることを意味するわけではありません。

適切な条件が揃わなければ、原因（kamma）だけで自動的に結果（vipāka）をもたらすことはできません。

常に気づいていなければならない理由　　　Ānāpāna/Satipatthānaの鍵

新しいkammaの生成をはじめるパターンの１つは、楽しい行動をはじめるランダムな想いが心の中に浮かんでくるときです。

たとえば、何かをしている最中に突然と、気になっている映画や、人気の料理店の情報や、頭に残っているメロディーや、先月に見たショーウインドーの商品のことなどです。

これらの想いは、道を歩いている時に気になっている旋律を偶然に聴くよりも多く遭遇します。

この心に浮かんだ想いの現象は経典にある

“manañca paṭicca dhammē ca uppajjati manōviññāṇaṃ“によって始まるものです。

これらの突然な想いは過去に作成した「カルマの種」が原因となり条件が揃うことで結果kamma vipākaとして現出しました。

ここまでは阿羅漢であろうとも止めることはできません。

しかし、その後の対応は修行している人としていない人では違いがあります。

修行している人は、

その後に発生する自動反応回路のsankhāraに操られるのではなく、そのような回路を弱体化させる行為を実践します。

それは、一瞬一瞬に気づき続けることです。

気づくというマインドのエネルギーが、自動反応回路の流れをそこで止めるからです。

たとえば怒りや憎悪のようなエネルギーが表出して感情に現れてくるのは、無意識の中で作動している自動反応回路を途中で遮断することができなかったからです。

回路は入力された信号を処理して決まった言動（たとえば暴言や暴力）をただアウトプットするだけです。

怒りや憎悪が悪いのではありません。

これらが悪いものだと思っているのならば、それは「思考の自動反応回路」による出力です。

怒りも憎悪も自分が嫌悪しているものを拒否する時に起こる反応なので、ごく普通のことです。

ただその反応が過剰（暴言や暴力）になることで自他により多くの苦しみを与えているものであるのならば、その回路を弱体化するのが苦しみから離脱できる方法です。

過剰に反応すると、回路はより強固になり、簡単に作動されるようにプログラミングされています。

ですから、その回路が動き出したら、できるだけ早くその流れを察知して、私はこの状況に嫌悪感を持っているのだということを冷静に気づくことができるようになっていけば、反射的な言動が徐々に弱体化されていきます。

心が穏やかな時には弱い回路しか作成できないからです。

好き嫌いの嫌悪感を持つことが問題なのではありません。

自動反応回路に心身にまかせて言動することが問題なのです。

ですから、まずは過度な熱い気持ちに気づくことから始めます。

嫌悪感自体を弱体化させるのは次のステップになります。

これは嫌なことだけではなく、過度な願望でも同じことです。こららの渇望があるときには、嫌悪と同様に、この対象に愛着する気持ちがあることに気づくことが大切です。

気づくことで、自動反応回路に操られることなく、ただ愛着があることを楽しむことができるからです。

こうして、場当たりで過去に作ってしまった因果関係や決めつけてしまっているルールなどの粗雑な回路をより微細な回路にしていきます。

また、因果が結びつきがあまりに狭いTPOでしか適応いていない回路が付着している場合は掃除してあげます。

こうして、気づいていることで、そのような「新しいkamma」が生成されていくことを見守っていることで、そのkammaは弱いエネルギーとなります。

そして最終的には、kammaは作らず、回路は操作可能で必要最小限ですむようになります。

これがĀnāpāna/Satipatthānaを実践している時に、本人が自覚していなくても行われている「心のメカニズム」です。

こうしてĀnāpāna/Satipatthānaを実践して、

より微細な世界（dhātu →bhūta→gati→dhammā）の変化に気づくことができると、自分の心に付着している回路をその段階ごとに掃除できるようになっていきます。

縁起を考えることの意義

この気づきのときに、自分の心の中や周辺のエネルギーの流れを体感することができ、それは縁起の順番どおりに起こるので、縁起を生きることで自分の心の流れを知る「道標」となります。

このような体感は、阿羅漢になっても行われている、と言われています。

縁起は考えるものではなく、感じ続けているものです。

汚れ、色、輝き、と貪瞋痴

仏教では汚れるとか汚染されるとか、黒いとか、暗いという表現をよく使います。

これはその時の各自のメンタルの状態がどれほど無明と結びついているかを示し、余分なメンタル要因が付着し続けいている状態を各自が自覚して、成長する指針とするためになされます。

無明	清濁	色	明暗	純	付着	心所	エネルギー
貪瞋痴がある	汚れている　汚染	黒い	暗い　　鈍い	不純	粘着	増大	付加するため
貪瞋痴がない	澄んでいる　清澄	白い	明るい　輝く	純粋	淡々	減少	剥離するため

心の純粋さ、そして誤解

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pabhassara citta

「pabhassara」　「pa」は何度も繰り返すことを、「bha」は「bhava」に由来し、「assara」は「参加しない」

（「sara」または「chara」は、「参加する」ことを意味します。）

繰り返し、枠組みの中にある物質になる直前のエネルギー体（bhava）に参加しない、という意味になります。

「pabhassara citta」は、汚染の8段階を経る前のその基本状態、すなわちcittaの純粋な状態です。

人のすべてのcittaはpabhassara cittaとして始まりますが、人の性向や環境や「道」に沿った進み具合に応じてさまざまな程度に汚染されていきます。

アラハンのcittaでさえ、常にpabhassara cittaであるのではありません。

それは「mānasan」のレベルまで汚染されます。

ただし、Arahant phala cittaはたった1つのcitta（認識プロセス）で終了します。

それがpabhassara cittaです。

ArahantがArahant phala samapatti（入定、達到）にいる場合、Arahantは自分が生きていることを知っていますが、外部の出来事を認識していません。

これは、animitta（無相）, appanihita（安止）, suññata （空虚、渇望の消滅）samādhiと呼ばれます。

それらはcittaの流れが止まるnirōdha samāpatti（第9禅定）とは異なります。

Buddha Dhammaでは、汚れは「暗い」と関連付けられ、純粋な状態は「明るい」または「輝く」と関連付けられます。

cittaの汚染のプロセスは、Pabhassara Sutta (AN 1.51)で述べられています。

一部の解説では、bhavanga cittaはpabhassara cittaであると述べていますが、これは間違っています。

Bhavangaは、「bhava」+「anga」に由来します。「anga」は「一部」ですので、bhavangaは「特定のbhavaに関連付けられている」という意味です。

Bhavanga は始まりの意識のステップ、bhavaはエネルギー体ですので２つは明らかに異なります。

動物もbhavanga 状態になります。

すべての生物には、各自のbhavaに依存するbhavanga citta があります。

Bhavangaとは意識による認識過程が始まる準備段階の「マインドの状態」の1つであるので、bhavangaの状態の時には、実行されているcitta vithiはまだありません。

たとえば、asaññaの状態にいる生命体（神経管を持たないもの、睡眠中、植物状態）はいかなる思考も経験しません。いかなる時も作動しているcitta vithなどは存在しません。

しかし、生命体の身体はそのbhavaに対応するbhavangaによって維持されています。

さらに、「anidassana viññāna」もviññānaの基本レベルのcittaとして誤って説明されることがあります。

anidassana viññānaはviññānaを「見る」ことはできないと説明しているだけです。

10億分の1秒

中立であるavyākataPSに続いて、akusala-mūlaPSプロセスが開始される可能性があり、そうなると新しいkammaを生成します。

アラハンもavyākata PSを体験しますが、その後のakusala-mūlaPSプロセスにはつながりません。

感覚からの信号（ārammana）に結びつくgatiを持っていないと、普通の一般の人でもakusala-mūlaPSプロセスが作動されないことがあります。

最初のavyākataPSと後続のakusala-mūlaPSプロセスの両方が同じcitta vīthi（五識のどれか、たとえばcakkhudvāra citta とその後にJavana cittaが続く17ステップ）の内で処置され、その時間は10億分の1秒しかかかりません。

そのような速いプロセスはブッダ以外の人間には識別できないと言われています。

しかし、それを研究して、そのメカニズムを理解する能力を人類は持っています。

このプロセスと経験するあらゆる現象とに整合性があると推論を考察してみます。

一見や一聞すると信じられない話を聞き、その可能性を推察するにつれて、ブッダの能力に驚きながら、まずは一度は試してみて（信じてみて）確認し、確認することができれなければ、その項目について信じることをやめるのが未知の世界を体験するときの私の流儀です。

間違えていると確認できるのであれば、それを受け入れなければいいのですから。

以下の表では、

目が「見るという出来事」（rūpa aramanna）を捕らえた時に開始される典型的な意思プロセスを心路citta vithiの各段階によってどのような順序で機能したかを説明しています。

0 Bhavanga　　　　　　　　　　　　　　　　　無意識　　　　　　　　　B

1 AtītaBhavanga（Past Bhavanga）　　　　　　過去の無意識　　　　　　AB　

2 Bhavanga Calana (Vibrating Bhavanga)　　　（振動する無意識）　　　BC

3 Bhavanga Upaccheda　　　　　　　　　　　　（捕獲された無意識）　　BU

4 Pancadvaravajjana　　　　　　　　　　　 　（感覚の扉　意識）　　　PD

5 Cakku Vinnana　　　　　　　　　　　　　　 （眼球の扉の知覚意識）CVもしくは、他の4知覚意識のどれか

6 Sampaticchana　　　　　　　　　　　　　　（受けとる意識）　　　　　Sam

7 Santīrana　　　　　　　　　　　　　　　　（調査する意識）　　　　 San

8 Vottapana　　　　　　　　　　　　　　　　（決定する意識）　　　　 V

9-15 Javana　　　　　　　　　　　　　　　　（迅速な7段階の意識）　 J　　

1617 Tadarammana　　　　　　　　　　　　　　（意識の登録）　　　　　 T

各citta vīthiの間では、マインドは「bhavaṅga 状態」にあります。

アクティブではなく、ただ宙を見つめている（実際には何も考えていない、すなわちアイデアに集中していない）場合、その人のマインドはbhavaṅgaの状態にある可能性があります（表のB）。

マインドがこのbhavaṅga状態から注意を引く視界に切り替わると、そのbhavaṅga状態から「脱却」し、新しい感覚入力に注意を集中させるには、3つの思考の瞬間があります。

4番目のPD cittaの段階で、マインドはそれが「眼球の扉」（cakkhu dvāra）から入ってくる信号を認識し、次の5番目のCV cittaでその映像をキャプチャーします。ここでavyākata PSプロセスが開始します。

“..vipākaṃ cakkhuviññāṇaṃ uppannaṃ hoti”にあたります。

次に、次の2つのcitta（「Sam」 samPaṭiccana、「San」 santirana）では、マインドがその画像（感覚入力データ）を自分のgatiと照合させるので、gatiがある場合にはそれに繋がることがあります。

これが、

“tasmiṃ samaye saṅkhāra paccayā viññāṇaṃ, viññāṇa paccayā nāmaṃ, nāma paccayā chaṭṭhāyatanaṃ, chaṭṭhāyatana paccayā phasso, phassa paccayā vedanā, vedanā paccayā bhavo, bhava paccayā jāti”

で説明されています。

その「照合（マッチング）」に基づいてavijjā（無明）で行動するという決定は、votthapana（V）cittaで起こります。

たとえば、アルコール依存症のgatiを持つ人は、好きなアルコールを見るとすぐにアルコールを引きつけられます。つまり依存症が「生まれます」。この「一時的に生まれ」ることで、以下で説明するように、新しいakusala-mūlaPSプロセスを開始します。

私たちは物事を見るだけでなく、同じ時間に他の考えを聞いたり、匂いを嗅いだり、味わったり、考えたりします。

マインドは、脳が送信する情報を10⁻⁹ second、すなわち10億分の1秒単位で処理します。

これがナノ秒ns（nanosecond）で光速が1フィート進む時間の単位になります。

（正確には、光は1ナノ秒の間に29.9792458センチメートル進む）

これは、脳が処理できるよりもはるかに高速なので、マインドは主に「脳からのデータを待っている」状態になります。

したがって、「感知速度」は比較的遅い脳の処理速度によって制限されます。

下記の現在の科学的研究によると、脳の処理はミリ秒ms（millisecond）10⁻³秒すなわち1000分の１秒単位で行われ、マインドより1000倍遅いことになります。

マインドは1つしかないので一度に１つの感覚信号処理しかできないが、それでも、すべての感覚入力の同時性を経験するのに十分な速さです。

これは、映画を見たときに起こるメカニズムと類似しています。

私たちは連続している映画を見ていると感じていますが、実際にはプロジェクターが静的な画像を毎秒約30〜60フレーム（実際には24フレーム）の速度でスクリーンに投影します。

各静止画像の継続時間は20〜30ミリ秒です。

しかし、この時間で連続する映画を見ていると認識するのには十分な速さです。

同様に、私たちのマインドは、すべて同時に見て、聞いて、嗅いで、味わって、触れていると知覚します。

しかし、各感覚イベントの時間は短く、脳から送信される各「情報パケット」は10ミリ秒の一塊で、マインドはその情報を一連の17cittaのステップであるcitta vithiで処理します。

ですから各cittaの処理時間は10億分の1秒未満になります。

すなわち10ミリ秒の情報パケットの間に100万回の心路citta vithiが流れたことになります。

このようにマインドによって処理される各「スナップショット」には、想像を絶するほど短い時間しかかかっていません。

上記の映像の例は、脳がデータを処理して動いているように見えるのに、最も遅いスピードは約20フレーム/秒であることを示しています。

映画では24コマ/秒、テレビ30フレーム/秒です。

1秒が1000ミリ秒なので、１フレームは約30ミリ秒となります。

MITの発見では、1フレームの認識に必要な最小時間は約13ミリ秒であるとされています。

Detecting meaning in RSVP at 13 ms per picture

https://mollylab-1.mit.edu/sites/default/files/documents/FastDetect2014withFigures.pdf

この基準をベースにして各citta　の処理時間を計算しています。

支（ステップ）の数がいろいろある縁起説

三支縁起説 渇愛(taṇhā)→所有(upadhi)→生老死、愁悲苦憂悩

MN. 28

Sn. 805　85

Sn. 1056

Sn. 1094

Ud. 3, 10

五支縁起説 渇愛(taṇhā)→取(upādāna)→有(bhava)→生→老死、愁悲苦憂悩

SN. 12, 53　79

八支縁起説とは、五支縁起説と「六処→触→受」とが結合した縁起説

「老死←生←有←取←渇愛←受←触←六処」「六触処の滅→触の滅→受の滅

→渇愛の滅→取の滅→有の滅→生の滅→老死の滅」

SN. 12, 24

DN. 1

九支縁起説とは、五支縁起説と「識⇔名色→触→受」とが結合した縁起説

大縁経（別名は大縁方便経、大因縁経）パーリ仏典経蔵長部の第15経

Dīgha Nikāya　15Mahānidānasutta　　1 Paṭiccasamuppāda　　　英訳 The Great Discourse on Causation

釈尊はクル国に滞在している際にAnanda尊者に請われて縁起について

アーナンダよ、生まれ、老い、死に、｛他の生に｝移り行き、再生説き、縁起を軽視しないように識と名色の因果性などについて忠告している。するであろう限り、命名の道（可能性）がある限り、語の解明の道がある限り、表示の道がある限り、知恵の領域がある限り、｛現世の生存という｝この状態を設けるために｛生死｝の円環が回転する限り、｛必ずそれがあるのだ、｝すなわち識別作用とともにある、名称と形態が」

“Tasmātihānanda, eseva hetu etaṁ nidānaṁ esa samudayo esa paccayo viññāṇassa yadidaṁ nāmarūpaṁ. Ettāvatā kho, ānanda, jāyetha vā jīyetha vā mīyetha vā cavetha vā upapajjetha vā. Ettāvatā adhivacanapatho, ettāvatā niruttipatho, ettāvatā paññattipatho, ettāvatā paññāvacaraṁ, ettāvatā vaṭṭaṁ vattati itthattaṁ paññāpanāya yadidaṁ nāmarūpaṁ saha viññāṇena aññamaññapaccayatā pavattati.

ettāvatā：adv．[ettāvat の instr．abl.] 　　これだけ，この範圍で.

adhivacanapatho 　the scope of language　　　　 [adhivacana同義語+patha道]

niruttipatho　　　 terminology　　　 [nirutti文献学+patha]

paññattipatho　　 description　　　　 [paññatti施設，概念+patha道]

paññāvacaraṁ　　 wisdom　　　　　　 [paññā般若+avacara境界]

vaṭṭaṁ 　　　　　　cycle of rebirths 　vattati 転ずる，起こる，存在する

十支縁起説とは、五支縁起説と「識→名色→六処→触→受」とが結合した縁起説

SN. 12, 59　　 SN. 12, 65

城邑経　　ブッダが菩薩だった頃に10支縁起の生起と消滅について述懐している経　SN. 12, 65

65. Nagarasutta　 Saṁyutta Nikāya 12　　7. Mahāvagga　　　　英訳　　

「城邑」の10支縁起説には、無明と行の支分がない。もし10支縁起を12支縁起の先行形態とみた場合、

「識⇔名色」の前に無明と行の縁起支が要請されることになったのか？

蘆束経　　相応部経典 因縁篇12・67　「識⇔名色」が相互に依存している様が、蘆の束に喩えられる

Saṁyutta Nikāya 12　7. Mahāvagga　67. Naḷakalāpīsutta

通常は「相互条件」と訳されているaññamañapaccayāには「前方および後方の条件」の意味もあります。

aññamaññaは [añña-añña] 他と他という意味なので、前と後ろ、後ろと前という関係なので、相互と訳されています。

つまり、PSサイクルのステップの多くは、前進だけでなく後退もします。

たとえば、「viññāna paccayā nāmarupa」のステップも、同じPSサイクルで逆方向に実行されます。

したがって、nāmarupaが生成され、特定のviññānaによって強くなる一方で、nāmarupaを育むことによってviññāna自体も強くなります。

つまり、「nāmarupa paccayā viññāna」のステップも同時に実行されます。これが「相互強化」です。

十二支縁起説とは、五支縁起説と「識→名色→六処→触→受」に無明と行の二支分が結合した縁起説

無明と行の二支分は苦の滅を説くために必要とされた。

自説経Udāna　1 Paṭhamabodhisutta　　パーリ仏典経蔵小部の第3経

ウルヴェーラー村の菩提樹の下で７日間、結跏趺坐したままの姿勢で成道し、その後に内観した12支縁起。

律蔵の大品Mahā-vagga 1.23.10　　Mahākhandhaka　1. Bodhikathā　Pli Tv Kd 1

大釈迦牟尼瞿曇SN12　1 Buddhavagga　10Gotamasutta　　英訳　　　　

ブッダが12支縁起を証得することで悟ったと記す相応部Saṃyutta Nikāya経典SN12

往観で順観　　　生を縁として老死、有を縁として生がある

citta知る機能と意識viññānaのプロセス

Cittaからviññānakkhandhaへ　　　　　　9段階の意思プロセスもしくは、9段階の汚染

cittaの「土台」

cittaには7つの普遍的なcētasika（メンタル要因、心所）があります。

cittaとcētasikaの関係は、味噌汁で喩えると、純水がcittaで出汁や味噌や具がcetasikaになります。

絵画で喩えると、白いキャンバスと絵の具の関係です。

白いcittaにいろいろな絵の具を使って絵画を作成していきます。

どのcittaにもある基本的なcētasikaは、Phassa（接触）、saññā（知覚）、vēdanā（感情）、cētanā（意図）、ekaggata（一点性）、jivitindriya（生命機能）、manasikāra（記憶）です。

これは、cittaの「土台」であり、どのcittaも10億分の1秒で処理されて次のステップに移行します。

そして、その短い時間の間に、他の多くのcētasika（良いものも悪いものも）がcittaに組み込まれます。

cētasikaが組み込まれていく具体的なケースを考えてみます。

cittaの汚染のプロセスは、Pabhassara Sutta (AN 1.51)参照。

９の段階　　　　母親に会う例　　　　　

１citta 　　　「知る」という機能

２manō　　　 　基準点をつくる　　　　　そこにあることを認識する

３mānasan 　　　情報　　　　　　　　　　想saññāと照合して、その人は自分の母親であることを確認する

　　　　　　　　　　　　　　　　　

アラハンはここまでの認識しかせず、、この先の過程には進みません。

このようなことは悪いgati、āsāvas、anusayaを減らし、最後に取り除くことによってのみ実行できます。

この点についてはKaraṇīya Mettā Sutta Khuddakapāṭha　9. Mettasuttaも言及しています。

cf　 Sutta Nipāta 1.8　Mettasutta　小部『経集』第1章 蛇（Uraga-vagga）8番目

４hadayan 「ハートに近い」かどうか　　　母親に関連している感覚の記憶とvēdanāのタグ

５pandaran 「パワーを追加する」　　　　愛した想い出を繰り返しさらに愛着を深める。

６manō manāyatanam

７mana indriyam (or manindriyam)　　manasikāra cētasikaによって自動的に行われます

８viññāna　　　　　　　　　　　　　anusaya、āsāvas、gatiのために非常に汚染されたcitta

９viññānakkhandha　　　　　　　　　11種類のviññānaを含むviññānakkhandhaの一部になります。

11種類とは過去、現在、未来、近、遠、繊細（sukuma）、粗雑（ōlārika）、好き（paneeta）、嫌い（appaneeta）、内部（ajjatta） ）、外部（bahidda）

nusaya、āsāvas、gatiだけでなく、過去の記憶や将来の希望なども取り入れています。

この9段階のポイントは、悪いgati（単にavijjāとも呼ばれる、相互に関連するanusaya、āsāvasなど）がある限り、想いが生じると段階的に汚染されるということです。

汚染とはメンタル要因のフィルターが次々と付着していく状態を指しています。

そしてその都度にエネルギーが付着して、最終的にはそのエネルギーが塊になって、物質エネルギーを生み出すことを汚染と呼びます。

このプロセスは想いが生じたときには制御ができますが、意思（4段階目）が始まるとその後は制御できません。

しかし繰り返して意思することは制御することができます。

cittaは想像を絶する速さ（10億分の1秒）で作動しているので、viññānaの段階、すなわち気づいた時には、すでに汚染されています。

釈尊は、cittaは世界最速の存在だと言っています。出典？

私たちが本当に経験を実感するのはviññānakkhandha ですが、「意思」をcittaと大まかに呼称しています。

汚れを減らすために私たちができることは、Dhammaを学び、次にAnāpānaとSatipatthāna瞑想を実践することで、avijjā（gati、āsava、anusayaのすべてに関連し、対象を実体と勘違いしているもの）を減らすことです。

パーリ語とサンスクリット語による縁起解釈の違い、もしくは誤謬

翻訳による誤謬　　　　サンスクリット語のPratītyasamutpādaとパーリ語のpaṭiccasamuppāda

パーリ語をサンスクリット語に一度翻訳してから英語にすることで仏教学会に多くの混乱が起きました。

縁起の解釈も同様に誤謬の良き例です。

また、サンスクリット語のPratītyasamutpādaにはヴェーダ起源の複数の意味があるので、混乱が落ち着くにはまだ時間がかかると思われます。

一方、パーリ語のpaṭiccasamuppādaはその語句自体が持つ意味がはっきりしています。

Paticcasamuppādaとは「pati」+「icca」＋「sama」+「uppāda」）のことで、

「pati」+「icca」とは、「pati」は拘束、結合、「icca」は好みを意味し、

「喜んで何かと結びついている」、または「それを好きになることで何かに愛着を持つ」という意味です。

それが起こると、Samuppāda=「sama」（同じまたは類似した同様なもの）+「uppāda」（生成、出生、誕生）です。

つまり、「関心（愛着）を持つことで、同様のものが具象化する」という意味になります。

対して、

サンスクリット語のPratītyasamutpādaのPratītyaは「依存している」を意味します。

この用語は、「確認、依存、起源を認める」という意味でヴェーダとウパニシャッドに現れます。

Rigveda の4.5.14と 7.68.6

Atharvavedaの19.49.8

Pratītyaの語源はpratiであり、ヴェーダ文献の広範にわたって現れます。

これは「真実を観察し、学び、納得させる」という意味で、根本的には「向かう、近づく、元に戻る」という意味です。

何でも、確信し、信じ、信用を与え、認めなさい、ということです。

他の文脈では、関連用語のpratitiは「何かに向かって、近づき、洞察する」ことを意味します。

Samutpādaは「上昇、生産、起源」を意味します。

ヴェーダ文献では、「一緒に湧き出て、発生し、形成し、通過する」ことを意味します。

したがって、Pratītyasamutpādaは、相互依存の共起、条件付きの発生、条件付きの創世として英語に翻訳されています。

dependent origination, dependent arising, interdependent co-arising, conditioned arising, and conditioned genesis

こうして英語やサンスクリット語の縁起は、相互依存の因果関係の一般原則を指します。

対して上座部仏教の伝統では、縁起は「好むものに向かうと同様なものが生成する」という因縁関係を指します。

このように翻訳によって意味が変わるのは、各言語にはそれ以前の字義や語義や原義や語源があるので、後世になると意味が変化していく習性が人類史にはあります。

viññānaとは暗くなった（汚れた）cittaのこと

Digha Nikaya（経蔵長部）の中のKevaṭṭa Sutta (DN 11)の有名な句があります

“Viññāṇaṃ anidassanaṃ anantaṃ sabbatō pabhaṃ..”

ここでのanidassanaṃは「見えない」という意味です。

このViññānaとはnāma dhammā（メンタルの現象）でkammaカルマを持っています。

つまりメンタル界は「目に見えるrūpa」よりも微細で、意識viññānaとは未来を作るエネルギーのことです。

次のanantaの意味は「無限」なのでviññāna dhatuは無限ということです。

sabbatōは「あらゆる意味で/すべてのため」を意味します。

pabhaは「繰り返されるbhava」を意味します。

したがって、上記の句は、

「Viññānaは目に見えず、無限であり、すべての生命体の再生プロセスにつながる」

ことを意味しています。

viññānaとは暗くなった（汚された）citta（知る機能）です。

私たちの意識とは、純粋なcittaではなく、メンタル要因がいろいろと付着しているviññānaということです。

もっと正確にいうと、viññānakkhandha (五蘊のviññāna）を経験しています。

viññāṇaとは1つの「想い」のことで、cittā に入ってきたcetasikāによってカタチになります。

これらの束になっているもの、すなわち積み重なったものを、パーリ語でkhandhaと呼びます。

ですからviññāṇakkhandhaとは１つ１つの想いが積み重なり、全体的な結果が経験になったもののことです。

一般的には、cittaのことを「純粋な知る機能」としてではなく「意思」や「意識」や「経験」という解釈で使われています。

解脱した者でさえ、純粋なcittaが維持されることはなく、3段階目の「mānasan」の汚れた状態を毎秒ごとに経験しています。

アラハンは悪いgati（方向性）、anusaya（潜在的汚染）、āsavas（異常な渇望）を取り除き、cittaに「mānasan」の段階を超えて汚染させないことにより、再生プロセス、すなわち輪廻転生のプロセスを停止させました。

Karaṇīya Mettā Sutta　Khuddakapāṭha　9. Mettasuttaには、この解放についての示唆があります。

すべてのcittaが同じように汚染されるわけではありません。

cittaは、6つの感覚機能の1つが内外のrūpaに接触したときに心のプロセスが作動するので、cittaの汚染レベルは、その感覚入力が何であるかに依ります。

たとえば、おいしい料理を味わったり、魅力的なものを見たりすると、貪欲な考えが生じることがあります。

しかし、特定の対象物に私たち全員が同じ欲求を持っているわけではありません。

ある人が切望している料理や素材が、他の人にとっては嫌われている可能性があります。

たとえば納豆やドリアンのように。

また他の例えでは、ある人は一部の人には好かれても、他の人には嫌われるかもしれません。

保守やリベラルの党首のように。

そして実際には嫌いな納豆が近くにあったとしてもcittaが汚染されるわけではありません。

なぜならば同時に他にも多くの信号（情報）が周囲にあるので、納豆にスポットライトを固定させる必然性がないからです。

電車に乗って窓から通り過ぎる何十億の視覚対象物があっても、それは流れる風景としてとらえられていれば、9段階のうちの3段階目以前の汚染でしかありません。

すなわち次々と数十億のcittaが頭の中を流れていくので、そのレベルまでしか汚染されません。

しかし、目を引く物体を見る（スポットライトを当てる、関心を持つ、エネルギーを注ぐ）と、次の第４番目以降のステップに進むことになるので汚染のレベルはより強くなります。

幼児に生じるcittaがpabhassara cittaであると思っている人がいますが、それは間違いです。

勘違いする人は、まだ成長していないために悪行をしないので、純粋な精神であると考えているようです。

しかし、幼児のcittaにもanusaya（表に顕れていない欲求）があるためにすでに汚染はされています。

幼児の脳はまだ発達しきっていないため、成人のように世界を体験することはできず、自分自身を表現することも未熟です。

この世界を理解する能力と表現する能力がまだ発達段階であり十分でないことを、「純粋」と混同してしまっているゆえの誤謬です。

anusayaは、乳児、動物、色界のブラーフマ、などあらゆる生命体が常に持っているものです。

magga phalaに到達してはじめて、各自のanusaya（およびāsāvasとsamyojana（足枷））の一部が永久に除去されます。

Sōtapannaの思考は、一定レベルの汚染を超えては汚されません。ですから、Sōtapannaはapāyas（最下位の4領域）の再生につながる強力なakusala cittaを生成することはありません。

Anāgāmiステージに到達すると、すべてのkāmāsava（kāmā āsava　欲界のdhātuに対する渇望）は取り除かれているため、kāma lōka（欲界）の官能的な対象物に誘惑されることはありません。

もっと微細な領域（色界・無色界　具体的にはbhūta、gati、dhammāで構成されたもの）に関心が移り、粗大な対象（欲界　dhātu）には関心がなくなるためです。

したがって、Anāgāmiはkamma lōka（下位4領域のapāyas、人間界、6つのdēva界）のどこでも生まれ変わりません。

Arahantステージに到達すると、すべてのavijjā（およびすべての悪いgati、anusaya、āsavaなど）が取り除かれています。

4段階目のNibbānaに到達したため、31領域のどこにも再生（転生）することはありません。

釈尊が菩提樹の下で縁起説を悟ったのか？

上座部仏教のスマナサーラ氏は縁起説を悟ったと言っている。出典？

対して

「チベット「律蔵」および漢訳「有部律破僧事」によると、釈尊はすでにさとりを開いたあとで、しばらくたってから12因縁を観じたのであり、縁起説とさとりとの間に本質的な関連は存在しない」

中村元「ゴータマ・ブッダ」

なぜこれほどまでに縁起説と悟りとの関係性を否定するのか？

「ウダーナの1〜3という資料が添えられていたとしても、仏教学者の間では菩提樹下において釈尊が12支縁起の理法をさとったというような文は払拭されなければならぬ」三枝充悳（さいぐさ みつよし）「縁起の思想」

理由は縁起説の拡大解釈や過剰一般化の傾向がこの時代にあったためか？具体的には？

釈尊の覚りとは、この宇宙には安らぎがないことを実感し、エネルギーのない涅槃nibbānaに至る道を得たことである。

縁起説の内容はいかに輪廻転生が継続しているのかという「エネルギー連続の法則」ではあり、そこから離脱するためのヒントを与えてくれるが、解脱そのものの経験内容ではない。

「道」を歩む者たちへの指標を縁起説として与えてくれたと、私は理解している。

悟った後に十二縁起を観じた記述されている　

釈尊が十二支縁起説を悟ったとは記されていない

『律蔵』「大品」を一見すると、釈尊は十二縁起を覚ったかのようである。

しかし十二縁起の考察を行ったのは解脱の楽しみを味わった七日の後と記述されている。

そのことは、同様の記述を示す『ウダーナ』には、「その七日が過ぎてのちにその瞑想から出て、その夜の最初の部分において・・・」とある。

すなわち『律蔵』「大品」の仏伝が語る釈尊の覚りは、十二縁起ではないとも解釈できる。

まず覚りを開いて、七日の間、解脱の楽しみを享けて、それからその瞑想から出て、その覚りの眼をもって、もとにいた人間や世界のあり方を監察して、十二縁起を自覚した。

「もろもろの理法が現われる」とは、この十二支のことについて言っていると解される。

３つのタイプの条件　paccayā

paccayāの意味

Patthāna Dhamma（論蔵Abhidhamma piṭakaの書）は、結果をカタチにする24の条件paccayāの説明をしている。

cf.　patthanā：[＜pa-arth，Sk．prārthanā] 得ようとする、目指す、aiming at→　　発趣

縁起説はBuddha Dhammaの「原因と結果」を説明しているため、

「avijjā paccayā sankhāra」は「avijjāがsankhāraを引き起こす」と誤解している人もいるが、この解釈では釈尊の意図と違いがある。

普通の人は無明avijjāを持っている。しかし常に無明に応じて行動するのではなく、ほとんどの場合は道徳的に行動する。

ただし無明avijjāがある限り、時には無明avijjāとともに行動してしまい、不適切すなわち不道徳なことをする可能性がある、ということである。

つまり、

「avijjā（無知）があり、条件が揃うと、sankhāraが生じる」と「条件」がすべて揃った場合に限る」ことを理解（解釈）する必要がある。

３つのタイプのPaccayā（条件）

条件Paccayāには３つのタイプがある。

hētu paccayā　　　　　　　　　　　 hētu原因

anantara samanantara paccayā　　 [an-antara] 無空間の，直接 の[saṃ-an-antara] 無時間の，直接の

aññamañña paccayā　　　　　　　　　[añña-añña] 他と他，相互

「hētu paccayā」の条件とは、根本原因すなわちhētuなしでは何も起こらない、ということである。

たとえば、花火はその中にある火薬によって起こるが、誰かが点火をする必要がある。また花火が長期にわたって放置されていると劣化して、「原因」が消える場合がある。

これはほとんどの「因果の種」kamma seedsでも同様である。

したがって、根本原因がなければ、空に花火を見ることはない。それが「hētu paccayā」である。

「anantara samanantara paccayā」の条件とは、

anantaraは空間の近接状態、samanantaraは時間の隣接状態を意味します。

それらの時空の直接的な要因が整う（揃う）のが条件ということです。

例えは、種子の発芽。リンゴの種があるからといって、リンゴの木が現れることはない。リンゴの種は、涼しく乾燥した場所では長きにわたり発芽することなく維持されるが、水と空気と日光がある地面に植えると、芽が出てリンゴの木に成長する。

この場合の直接の時空の条件は、水、空気、日光である。

もちろん、花火の場合と同様に、リンゴの種子が長期にわたって放置されていると、その効力が失われ、木に育たない場合があるので、hētu paccayāは常にある存在している必要がある。

「aññamañña paccayā」の条件とは、互いに依存することを意味する。

たとえば、Viññānaとnāmarūpaは互いに依存している。

通常、「viññāna paccayā nāmarūpa」つまり「viññānaに応じてnāmarūpaが生じる」。

因縁はただ一方方向に流れるのではなく、Viññānaとnāmarūpaのようにお互いを行き来することで、痕跡が太く強くなり、次のsalāyatana（六処 six senses）は、信号が弱くても、量が少なくても受信できる力が強化される。

たとえば、死の瞬間のcuti cittaのviññānaは、次の出生時の時に一致するnāmarūpaを引き起こすので、憎しみに満ちた考えは、地獄界nirayaでの出生につながる可能性がある。

また逆にviññānaはnāmarūpaのタイプに依存（影響をうけて）している。

たとえば動物の意識エネルギーnāmarūpaでは、 禅定jhanaに入ることはできない。

特定の種類のnāmarūpaのみが、特定の種類のviññānaを「サポート」できる。

状況に応じて、24個のpaccayā （条件）のうちの1つ以上が同時に作用する。

24のpaccayāを説明している「Patthāna Dhamma」では原因と結果にはいろいろな関係があることを示している。

このような複雑さをすべて紐解くことができるのは正覚したブッダのみである。

しかし、釈尊のメッセージを理解するためにすべてを詳細に分析して紐解く必要はない。

三相のanicca, dukkha, anattaを理解するだけでSotapannaになることができる。

これらの条件についての情報を理解することで3つのメリットが有る。

最初に、Buddha Dhammaにsaddhā（信頼、信仰）を築くのを補助する。

「原因と条件と結果の関係」について深く探求している人は、この条件という要素を加えることで、私たちが経験していることが説明可能であることを実感する。

第二に、「すべての部分が全体像にうまく収まる」ことを知る満足を得ることができる。

ジグソーパズルのピースがはまるような喜びをもって全体像を理解することができる。

最後に、この「条件の知識」によって得られる「自己整合性」はBuddha Dhammaのどの解釈が正しいものであるかを選別するプロセスで重要な判断基準になる。

釈尊自身が指摘したように、一貫性のない解釈を破棄できるようになる。　出典？

24の因果関係　　Patthana　　『発趣論』

Paticca Samuppādaに関係する24の「paccayā」を説明している「Patthāna Dhamma」

は原因と結果には多層な関係があることを表している。

cf.　patthanā：[＜pa-arth，Sk．prārthanā] 得ようとする、目指す、aiming at→　　発趣

結果をカタチにする24のpaccayāすなわち「条件」があります。

私たちがこの因果関係を理解できているのは一部でしかない。

この複雑さをすべて理解しているのは釈尊のみである、とも言われている。

論蔵（分別説部の阿毘達磨）にて説かれる縁（paccaya）。

分別説部においては、縁には24種があるという説は、釈尊が成道されて後21日を経て四週間目になり、特に阿毘達磨（dhammaの性質）の考察を深める中で、「縁」をさらに熟慮して、分類したものであると伝えられています。

これは、パーリ三蔵の阿毘達磨蔵（論蔵）のうちの“Paṭṭhāna”（『発趣論』）において説かれているもので、その冒頭のPaccayuddesa（縁の総説）です。

この総説だけでは、縁にはこれこれのものがあるとただ列挙するだけであって意味が不明で、理解するのは困難です。

しかし、これにつづくPaccayaniddesa（縁の詳説）で、それぞれ如何なることを意味するのか説明がなされていきます（それでも簡略なもので、まだ判り難いものでありますが。）

ここで説かれる24縁は、パーリ語の律蔵に（Vinaya Pitaka, Parivārapāli, Khatinabheda律蔵（第四本）附随にあるKhatinabheda）一節があります。

しかし漢訳律蔵には、このような所説はまったく見当たりません。また現存するその他部派の論蔵（阿毘達磨）にも、24縁なる説は見当たりません。このようなことから、24縁とは、分別説部特有の阿毘達磨説であると思われます。

ではそれら24縁とは何を意味するものなのでしょうか？

これを紹介するのは分別説部の教学を知って置かなければ理解不能のものが多くあります。故にこれらを理解するにも説明するにも、深い理解が必要なので、その意義内容もわからないのに、紹介するのは責任の放棄ですが、このようなものがある、ということを伝えるが、今の私の限界です。

これは釈尊の教えの最高の表現と見なされる尊敬すべきテキストです。Patthanaは縁起説よりもはるかに詳細な内容で、すべての現象を条件付ける24の基本的な関係を説いています。

長い経であるため、ここではPatthanamatika（Patthana行列）のみを示します。 この24のリストは、時々個別に詠唱れます。

	パーリ語	内容	漢語	英語
1	hetu-paccayo,	根本の状態	因縁	root condition,
2	arammana-paccayo,	対象物の状態	所縁縁	object condition
3	adhipati-paccayo,	優位状態	増上縁	predominance condition,
4	anantara-paccayo,	空間の近接状態	無間縁	proximity condition,
5	samanantara-paccayo,	時間の隣接状態、	等無間縁	contiguity condition,
6	sahajata-paccayo,	共生状態	倶生縁	co-nascence condition,
7	aññamañña-paccayo,	相互状態	展転縁	mutuality condition,
8	nissaya-paccayo,	サポート状態	依止縁	support condition,
9	upanissaya-paccayo,	決定的なサポート状態	近依縁	decisive-support condition,
10	purejata-paccayo,	出産前の状態	前生縁	pre-nascence condition,
11	pacchajata-paccayo,	死後の状態	後生縁	post-nascence condition,
12	asevana-paccayo,	繰り返し/周波数状態	習行縁	repetition/frequency condition,
13	kamma-paccayo,	kamma状態	業縁	kamma condition,
14	vipaka-paccayo,	結果の状態	異熟縁	resultant condition,
15	ahara-paccayo,	栄養状態	食縁	nutriment condition,
16	indriya-paccayo,	資質の状態	根縁	faculty condition,
17	jhana-paccayo,	集中の状態	禅縁	concentration condition,
18	magga-paccayo,	「道」の状態、	道縁	path condition,
19	Sampayutta-paccayo,	結合の状態、	相応縁	association condition,
20	vippayutta-paccayo,	解離の状態、	不相応縁	dissociation condition,
21	atthi-paccayo,	存在の状態、	有縁	presence condition,
22	natthi-paccayo,	不在の状態、	非有縁	absence condition,
23	vigata-paccayo,	消滅の状態、	離去縁	disappearance condition,
24	avigata-paccayo’ti.	非消失の状態。	不離去縁	non-disappearance condition.

1. root or primitive causes (hetu paccaya)
Lobha (attachment), Alobha (anti-attachment), Dosa (aggressiveness), Adosa (anti-aggressiveness or embrace), Moha (ignorance) and Amoha (wisdom), by being the six root or primitive causes, give rise to all thoughts and feelings.

2. stimulative causes (arammana paccaya)
External objects and their effects, such as light and sounds, are ones of the causes of thoughts and feelings by stimulating a person's sensations.

3. dominant causes (adhipati paccaya)
A few mental aspects, such as wish (Chanda) and motivation (Vīrya), are believed to be possible dominant causes in Buddhist Psychology because each of them can profoundly dominate the rest of the mental aspects at one time.

4. subsequent causes (anantara paccayo)
Each step or process of a vithi, a mental procedure in Buddhist Psychology, happens in order. One of such steps is a subsequent causes that give rise to a following one.

5. continuous causes (samanantara paccayo)
This point is sort of emphasis of the continuity between two successive steps of a vithi.

6. Simultaneous or unitary causes (sahajata paccaya)
The pali word saha means "together" and jata means "rise (into existence)." Interpretations of this point can be in two main versions. In the more straightforward one, the causes that rise together and give rise to particular effects together are simultaneous causes. In the broader sense, according to Abhiddhamma, all the variety of physical or mental features are mere manifestations of a number of fundamental physical or mental principles, and hence all of the variety can be unified to a simple group just like the fundamental forces can be unified in electroweak interaction and grand unified theory.

7. inter-supportive causes (aññamañña paccaya)
In Abhidhamma, some mental and physical phenomena are inter-supportive causes that can give rise to one another. The relationship of the change of a magnetic flux and that of an electric field could be a good example for this.

8. responsible causes (nissaya paccaya)
If one or more processes or phenomena is attributed to a particular cause no matter whether the causality is direct or indirect, that cause is, in Abhidhamma, regarded as a responsible cause.

9. super-responsible causes (upa-nissaya paccaya)

10. pre-existing causes (purejāta paccaya)
A cause that has risen into its existence before an effect that it gives rise to, it is a pre-existing cause.

11. post-existing causes (pacchājā paccaya)
A cause that rises into its existence after a phenomenon that it later supports or maintains, it is a post-existing cause.

12. habitual cultivation (āsevana paccaya)

13. karma causes (kamma paccaya)
In Theravada Buddhism, the correct meaning of kamma or karma is basically the same as agency in humanism, a purposeful action. If a particular process or phenomena of a person is purposeful enough to cause a consequence (vipāka), it is called a karma causes.

14. consequence causes (vipāka paccaya)

15. nutritious causes (āhāra paccaya)
Nutrition that serves as fuel or raw material in physiology is nutritious causes.

16. controlling faculty (indriya paccaya)

17. jhāna – a relation specific to meditation attainments (jhāna paccaya)

18. path – a relation specific to the stages on the Buddhist path (magga paccaya)

19. association (sampayutta paccaya)

20. dissociation (vippayutta paccaya)

21. presence (atthi paccaya)

22. absence (natthi paccaya)

23. disappearance (vigata paccaya)

24. non-disappearance (a-vigata paccaya)

縁を24に分類したが、大きく分ければ4種になる、と分別説部はしています。その四種とは所縁縁・近依縁・業縁・有縁の4縁です。

興味がある人は『発趣論』に直接あたり、その意味を探ればよいでしょう。なおミャンマーでは『発趣論』は最重要視されている論蔵典籍となっています。

開眼供養

ミャンマーでは、仏像を新しく建立あるいは購入し、寺院の仏堂あるいは在家の仏壇に設置した際には仏前において、Anekajāti gāthā［生死流転偈］からこのPaccayuddesa［略説二十四縁］までの一連のパーリ語の経文を比丘が読誦します。ミャンマーにおける入仏式、開眼供養です。

これは、釈尊が大阿僧祇劫mahā asaṃkhya kalpa（無限に長い時間10⁵⁹年）という長きにわたって修行せられ、菩薩から釈尊へとなった直ぐ後に発せられたと伝承される言葉やその考察内容を、新しく迎えた釈尊像の前で唱えて辿ることによって、その像は開眼せられるという考え方に基づくものです。

ミャンマーには、これら一連の文句を比丘によって読誦してもらわなければ、その仏像は「真の仏像」として認識されぬような習慣があります。

また、寺院によってまちまちですが、早朝の勤行（朝四時半頃）の際にも日常的に唱えられています。

故にミャンマーでは十四歳の沙弥ですらも、この略説二十四縁の文句を含めた一連の経文は諳んじています。

十七〜八歳頃までにはパーリ語の文法書“Kaccāyānavyakaraṇa”ならびに“Abhidhammatthasaṅgaha”の全文を完全に素読（丸覚え）しており、具足戒を受ける二十歳前後までには『発趣論』の主要箇所そして律の「波羅提木叉（戒本）」を完璧に諳んじます。

旧暦の年の瀬せまる二月頃には、特に『発趣論』を一日二十四時間を一週間、比丘が代わる代わるずっと唱え続けるという習慣があります。

阿毘達磨不要論

このような縁の分類体系、阿毘達磨の神学的複雑な教学を、ただ複雑で難解なだけの知的遊戯、およそ仏教の本質とは無縁の形而上学であり、その実習にはまるで不要なものであると受け止める者が多くあると思われます。

しかし、ミャンマーでは僧侶だけでなく在家信者の間では、『発趣論』をはじめその他の阿毘達磨を学ぶことは仏教（分別説部）を学び、修行する上で必須・不可欠のものと考えられています。

阿毘達磨抜きに仏教は理解できるものではない、と。

その他の分別説部が伝わっているスリランカやタイなどの国では、阿毘達磨を充分に学習し理解している学僧は非常に稀で、僧侶の義務は経典の暗唱と読誦、そしてパーリ語の学習に留まるので、阿毘達磨を学ぶ者は少ない。

タイでは近代的合理主義的態度でもって仏教を理解しようとしたMahā nikāya（大派）のBuddhadāsaがいました。彼は大乗も熱心に学び、特に龍樹菩薩の説かれた空性（中観）、ひいては禅（特に六祖慧能）とチベット仏教の教えを積極的に取り入れましたが、阿毘達磨を仏滅後のサンガが創作した神学であって、いわば「仏教的でないもの」と見る向きがありました。

阿毘達磨を学ぶのは全く無意味で、涅槃を得るには不要のもの、害毒である、断じる傾向もあります。

しかし、仏教徒は三宝に帰依するものであって、その内の一つの僧宝すなわちサンガが釈尊の説かれた法を分析して整理し、また法宝の一として長く伝えてきたものをそのように扱う必要はありません。

阿毘達磨という言葉は、「勝れた教え」の意味であると伝統的に解釈されています。

阿毘達磨は原語ではAbhidarmaでAbhi（強い）+　dhamma(教え、法、摂理)という意味です。

そして、それはあくまで釈迦牟尼仏による仏説、あるいは大弟子によって略説された仏説である、というのが仏教通じての見解です。

阿毘達磨は仏教の重要な一部分です。そもそも、どのような形であれ仏教を紆余曲折を経つつも、今にまで伝えてきたのは基本的にその僧宝、そしてそれを支持する人々です。

また、分別説部の分別説部たる理由はその阿毘達磨にある、それは分別説部のアイデンティティです。

阿毘達磨の要は、法（存在、エネルギー）の分析と定義です。

エネルギーの構造を解明することによって間接的に苦を取り除くことを解明しようとしています。

阿毘達磨を学びだすと、いわば阿毘達磨気狂い（An Abhidarma buff）と揶揄されることもあります。

阿毘達磨を「教条」にしてしまうと問題がありますが、阿毘達磨を学ぶことで、「何故そのようになっているのか？」という疑問から現象の関係性を明晰にして、瞑想をより深くシンプルにします。

自分の経験を基準として、プラグマティズム（実用主義）的に対象を捉えるのは良いことですが、「経験」は、自分が選択するものではなく自分が「経験（知識）」に選択されるものです。

わたしたちが思っている「自分」は対象を選択しえるような確固たるものではありません。

分別説部では優れた綱要書、分別説部の教学大成書である“Abhidhammatthasaṅgaha『摂阿毘達磨義論』、

説一切有部ならば、『阿毘達磨倶舎論』をまず学んでみるのが瞑想をより深めるものになります。

論蔵　　　ブッダの実践心理学　　アルボムッレ・スマナサーラ

『阿毘達磨倶舎論』（あびだつまくしゃろん）は、ヴァスバンドゥ（世親）を作者として、4世紀-5世紀頃にインドで成立

サンスクリット原典の題名は Abhidharma-kośa-bhāṣya、略称: AKBh。

サンスクリット原典のほかに、2種類の漢訳本とチベット語訳本が現存している。漢訳本は、一方は真諦訳『阿毘達磨倶舍釋論』（略称『倶舎釈論』）22巻であり、もう一方は玄奘訳『阿毘達磨倶舍論』（略称『倶舎論』）30巻である。倶舎宗が伝統的に後者の玄奘訳を用いてきたため、玄奘訳に基づく呼称『倶舎論』が浸透した。

真諦訳は『旧倶舎』『旧訳』とも呼称され区別された。

20世紀にサンスクリット原典が発見されてからは、漢訳に依らない研究が行われている。

内容

因果関係の法則

多様に複雑な因果関係をなしている諸法を、因である点から六因、四縁に、果である点から五果に分類する（分別根本第二）。[33]

六因説

この六因説[注 7]は経典に明確な文言を用いて説示されている説ではない。恐らくは有部アビダルマにおいて構築された説である。この点については称友釈において詳説されるが[34]、『倶舎論』において世親が特に言及しないことは注目に値する。なお六因説の初出については『発智論』[大正蔵26巻920c]であると指摘されている[35][注 8]。

能作因（のうさいん, 梵: kāraṇahetu, 蔵: byed-rgyu） – ある存在（法、ダルマという）が生起するとき少なくともその妨げをしないという点で、他のすべての存在がその存在に対して原因としてのはたらきをもつこと。

芽に対する種のような結びつきの強い原因はもちろん能作因であるが、月が存在することに対してスッポンの存在は何も影響力もないことから月にとってスッポンは能作因である。

倶有因（くういん, 梵: sahabhū-hetu, 蔵: lhan-cig 'byung-ba'i rgyu） – 因・果が同時に生じ、相互に因となり果となるという同様な関係を持つときの因のこと。

たとえば二枚のトランプをお互いよりかからせて立たせた時に、お互いがお互いの倶有因であり士用果である。

同類因（どうるいいん, 梵: sabhāga-hetu, 蔵: skal-mnyam-gyi rgyu） – 現在の瞬間と同類の現象が後に果として生じる時の原因のこと。因が善ならば果も善、悪ならば悪、無記ならば無記と、その性質をともにしなくてはならない。

例えば、忍耐をしているある瞬間は、忍耐をしている次の瞬間の同類因となる。

相応因（そうおういん, 梵: saṃprayukta-hetu, 蔵: mtshungs-ldan-gyi rgyu） – 倶有因の一種で、心と心作用との間の関係についてのみ用いる。

遍行因（へんぎょういん, 梵: sarvatraga-hetu, 蔵: kun 'gro'i rgyu） – 同類因の特別な場合で、11種の遍行[注 13] およびそれと相伴う諸法 のこと。好ましくない感情や態度が、後の瞬間の好ましくない感情や態度を作り出す時の原因にあたるもの。

異熟因（いじゅくいん, 梵: vipāka-hetu, 蔵: rnam-smin-gyi rgyu） - 諸々の善・悪といった、（煩悩に関連する）業のこと。相互に時を隔てた異時点間の因果関係から、楽・苦などの果をもたらす。この果（異熟果）は、善でも悪でもない（「無記」である）ことから、異熟と呼ばれる。

四縁

因果関係の因について、上記の「六因」とは異なる分類のしかたをしたもの。

因縁（いんねん、梵:hetupratyaya,、蔵:rgyu-rkyen） - 六因のうち、能作因を除く五因（倶有因・同類因・相応因・遍行因・異熟因）をまとめたもの。

等無間縁（とうむけんねん、梵:samanantarapratyaya、蔵: dema thag rkyen） - 先の瞬間において生起していた心およびそれと相伴う心作用（前念）が過去に過ぎ去り、直後の瞬間に別の心・心作用（後念）が未来から生起し継承する（心相続）という因果関係の因。因と果が必ずしも同類でないことから同類因と区別される。前念と後念が無間（時間的な隔たりがない）であるときの前念をさして、等無間縁という 。次第縁ともいう。六因のなかでは能作因以外の五因のどれにもあたらないから、最も包括的な能作因に入れるほかはないが、能作因の示す弱い因果関係とは異なったものであるため、有力能作因と呼んで区別することもある。

所縁縁（しょえんねん、梵:ālambanapratyaya,蔵:dmigs-rkyen） - 心・心作用の対象（所縁）のことを所縁縁という。（説一切有部では対象のない心はありえないため）心・心作用は所縁がなければ生じないことから、因としては所縁縁となる（果としては、心・心作用そのものが増上果となる）。有力能作因に数えられる。縁縁ともいう。例えば「青」い物体は、それが「青」という特性を持っているという眼識を引き起こす。

増上縁（ぞうじょうえん、梵:adhipatipratyaya、蔵:bdag-rkyen）- 最も広義の縁で、ひろく能作因に相当する。もの・心一般に広く通じる原因であって、結果を望むことができるような縁となるものを総称したもの。他の物事が生ずることを助ける働きをする縁。

五果

増上果（ぞうじょうか、梵:adhipatiphalam、蔵:bdag po'i 'bras bu） - 六因のうち能作因に、四縁のうち増上縁・等無間縁・所縁縁に対応する果。増上は「力を及ぼすもの」の意。

士用果（じゆうか、梵:puruṣakāraphalam、蔵:skyes bu byed-pa'i 'bras-bu） - 六因のうち倶有因・相応因に対応する果（四縁のうち因縁の一部に対応）。因と果が時を同じくする関係になっている。士用は「男子の動作」の意で、因の力の強いのをそう例えたもの。

等流果（とうるか、梵:nisyandaphalam、蔵:rgyu-mthun gyi 'bras-bu） - 六因のうち同類因・遍行因に対応する果（四縁のうち因縁の一部に対応）。等流果は多くの場合自らまた同類因となって次の等流果を生ぜしめ、そこに因果の連鎖が続く。等流とは、因から「流れ出る」の意。

異熟果（いじゅくか、梵:vipākaphalam、蔵:rnam smin gyi 'bras-bu） - 六因のうち異熟因に対応する果（四縁のうち因縁の一部に対応）。異熟果は善でも悪でもない「無記」であり、異熟果自体が自ら異熟因となって再び異熟果を生じそこに因果の連鎖をなすことはない。

離繫果（りけか、梵:visaṃyogaphalam、蔵:bral 'bras） - 煩悩の止滅（すなわち涅槃）のこと。煩悩は「三世実有」の立場からは、なくなってしまうことはありえない。涅槃は、煩悩の拘束から離れる・解放される（離繫りけ）ことであり、正しい知恵の結果であることから果のひとつと位置づけられる。対応する因・果はない。

影響

ヨーロッパ

1820年代、ネパールにおいてブライアン・ホートン・ホジソンによって、ヤショーミトラの倶舎論註「スプタールター」の原文写本が発見された。これがパリに送られ、東洋学者ウジェーヌ・ビュルヌフの「インド仏教史序論」（1844年）の述作の一部となった。1917年に、チベット語訳倶舎論第1章本文が、ロシアのシチェルバツコイにより刊行された。その後、ロシアのO.ローゼンベルク、ベルギーのL.ド・ラ・ヴァレ・プサン、E.ラモート、フランスのS.レヴィ、オーストリアのE.フラウヴァルナー、H.V.ギュンターらによって研究されている。

中国

中国へは真諦三蔵（499年〜569年）によって初めて伝えられ（『阿毘達磨倶舍釋論』、567年に訳出）、その後、玄奘（602年〜664年）によって再度訳出される（『阿毘達磨倶舍論』、651年訳出）。『倶舎論』に対しては、神泰の『倶舎論疏』、玄奘門下の普光の『倶舎論記』、法宝の『倶舎論疏』などの注釈書が著されたが、神泰の『倶舎論疏』はほとんど散逸している。

日本

日本では、道昭が653年に唐に渡って玄奘に謁し、玄奘訳およびに神泰の『倶舎論疏』が日本に伝えられたことから、興福寺・元興寺を中心に研究が始まった。天平勝宝年間（749年〜757年）には倶舎宗が公式に制定され、南都六宗の一つに数えられた。858年、円珍によって、法宝の『倶舎論疏』や円暉の『倶舎論頌釈疏』が日本にもたらされ、比叡山・三井寺・東大寺で研究された[55]。徳川中期以降、倶舎学の学僧として、真言宗の周海、法住、快道、海応、信海、旭雅、浄土宗の湛慧、普寂、浄土真宗の法幢、宝雲、法海、竜温、法宣などが現れた。。

文献

櫻部建『倶舎論』大蔵出版、2002年。ISBN 978-4-8043-5441-5。

桜部建『倶舎論の研究 界・根品』（法蔵館、1969年、新装版2011年）

山口益・舟橋一哉『倶舎論の原典解明 世間品』（法蔵館、1955年、新装版2012年）

舟橋一哉『倶舎論の原典解明　業品』（法蔵館、1987年、新装版2011年）

小谷信千代・本庄良文『倶舎論の原典研究 随眠品』（大蔵出版、2007年）

桜部建・小谷信千代『倶舎論の原典解明 賢聖品』（法藏館、1999年）

桜部建・小谷信千代・本庄良文『倶舎論の原典研究　智品・定品』（大蔵出版、2004年）

櫻部建 ; 上山春平『存在の分析＜アビダルマ＞―仏教の思想〈2〉』角川書店〈角川ソフィア文庫〉、2006年。ISBN 4-04-198502-1。（初出：『仏教の思想』第2巻　角川書店、1969年）

Louis de La Vallé Poussin(1971). L'Abhidharmakośa de Vasubandhu, Institut belge des hates études chinoises, Bruxelles, 1971

Lodrö Sangpo (2012). Abhidharmakosa-Bhasya of Vasubandhu: The Treasury of the Abhidharma and Its Commentary (4 vols). Motilal Banarsidass Publishers (Pvt. Limited). ISBN 978-8120836075.

六因五果四縁（六因四縁）

説一切有部では縁について、まず経に説かれる四縁を分別して六因に開き、その果には五種あるとして、その関係を考察しています。

六因
No.	Pāli語	漢訳語	意味
1	kāraṇa-hetu 根拠、原因 reason	能作因	ある事物が成立するのに、その成立を妨げないもの（原因）。例えばAという結果がある時、A以外のすべてのものは、Aの能作因となる。これに二種あり。ある事物の成立に一切関わりのないものを無力能作因、その成立になんらか関わっているものを有力能作因という。
2	sahabhū-hetu 倶存、倶生 arising together with	倶有因	すでに結果としてある事物に対して、その存在を支えつつ併存するもの（原因）。これに二種あり。例えば三つの杖が他の一つの物を支えて立つように、複数のものが相依って原因となり、一つの結果を生じさせるのを同一果倶有因。三つの杖が支えあって立つように、それぞれの杖は互いに因と果となるのを互為果倶有因という。
3	sabhāga-hetu 同分、類似 being of the same division	同類因	原因の性質と結果の性質とが同様・相似である場合の原因。 この結果を等流果という。 同類因と等流果には因果同時はありえず、必ず時間的先後関係にある。
4	saṃprayuktaka-hetu	相応因	心王（心）と心所（心の働き）とが、同一の根・境に対して共に起こった時、それぞれ相互に資助しあって因果同時であること。それぞれ一方がその他に対して原因となる。倶有因のうち、特に心王と心所の関係に限って言われるもの。これに五条件あって五義平等という。一つは心王と心所とが同一の根（六根）を所依としていること（所依平等）、ニには同一の境（対象）を縁じていること（所縁平等）。三には同一の行相（表象）をなしていること（行相平等）。四には全く同時に起こっていること（時平等）。五には互いに体が一つであること（事平等）。
5	sarvatraga-hetu	遍行因	一切の煩悩が起こる原因、すなわち遍行惑を指すもの。同類因のうち特に煩悩についてを別出したもの。遍行惑とは、苦諦について迷う五見（身見・辺見・邪見・見取見・戒禁取見）・疑・無明、集諦について迷う邪見・見取見・疑・無明の総じて十一。
6	vipāka-hetu	異熟因	楽あるいは苦たる結果を引き起こす原因、有漏（煩悩）に基づいた善あるいは不善の行為。無記または無漏に基づく行為は異熟因とは決してならない。善なる行為をなしたとき、それは同類の善ではなく楽なる結果を生じるが、このように原因と結果との性質が異なることを異熟という。同類因に同じく、異熟因について因果同時はありえない。

五果
No.	Pāli語	漢訳語	意味
1	vipāka-phala	異熟果	善・悪の行為を原因として生じる楽・苦の結果。総じて無記（善悪の差別がない）であり、有情においてのみ生じる。異熟因による。
2	niṣyanda-phala	等流果	原因と同性同質の結果。同類因または遍行因によって生じる。
3	visaṃyoga-phala	離繋果	慧・道による煩悩の滅盡、涅槃という結果。
4	puruṣakāra-phala	士有果	原因の積極的作用によって生じた結果。倶有因もしくは相応因によって生じる。
5	adhipati-phala	増上果	有為法のうち、すでに生じたものを除く、今生じ、これから生じるもの全て。能作因によって生じる。

四縁
No.	Pāli語	漢訳語	意味
1	hetu-pratyaya	因縁	六因のうち能作因以外のすべて。（むしろ因縁をさらに分別し、開いて五因とした。）
2	samantara-pratyaya	等無間縁	先にすでに生じていた心・心所が縁となって次の心・心所が起こること。先に起こった心と心所とが滅して（過去に落ちて）、次には心・心所が生じるに間断ないことを等無間という。
3	ākambana-pratyaya	所縁縁	六根が六境に触れて六識が起こるように、心・心所の縁となる一切法。
4	adhipati-praatyaya	増上縁	能作因に同じ。最も広い意味で、ある存在を成立させている一切法（モノ）をいう。

沙門覺應（慧照）(Bhikkhu Ñāṇajoti)

niyama　（決定）　　　５つの法則　　　因果関係

Kamma niyama、　現世のエネルギー転換（因果関係）の結果

citta niyama　　　人の想いの影響力、

utu niyama　　　　地震、季節などの地球規模の影響力

bija niyama　　　　前世や来世にもつながっている因果関係、

dhamma niyama　　宇宙エネルギー法則の影響力

In Buddhist commentary (from the 5th to 13th ) we find the pañcavidha niyama, fivefold niyama which occurs in the following texts:

· In the Aṭṭhasālinī (272-274), the commentary attributed to Buddhaghosa on the Dhammasangaṅi, the first book of the Theravāda Abhidhamma Piṭaka;^[30]

· In the Sumaṅgala-Vilāsinī (DA 2.431), Buddhaghosa’s commentary on the Dīgha Nikāya;^[31]

· In the Abhidhammāvatāra (PTS p.54), a verse summary of Abhidhamma by Buddhaghosa’s contemporary, Buddhadatta.^[32]

· Abhidhammamātika Internal Commentary. (p. 58) The Abhidhamma-mātika is a matrix of abstracts for the Abhidhamma, with lists of pairs and triplets of terms from which the whole of the text can theoretically be reconstructed. The passage on the niyamas is from an internal commentary on the mātika associated with the Dhammasaṅgaṇī (the niyāmas don’t appear to be mentioned in the mātrix itself, but only in this appendix.); and was composed in South India by Coḷaraṭṭha Kassapa (12th–13th century).

· Abhidhammāvatāra-purāṇatīkā (p.1.68). Composed in Sri Lanka by Vācissara Mahāsāmi c. 13th century or Sāriputta c. 12th century. This text is a commentary on the text of the Abhidhammāvatāra Nāmarūpa-parichedo (ṭīka) so is technically a sub-sub-commentary. This commentary is an incomplete word by word commentary.

1. utu-niyāma “the constraint of the seasons”, i.e. in certain regions of the earth at certain periods the flowering and fruiting of trees all at one time (ekappahāreneva), the blowing or ceasing of wind, the degree of the heat of the sun, the amount of rain-fall, some flowers like the lotuses opening during the day and closing at night and so on;

2. bīja-niyāma “the constraint of seeds or germs”, i.e. a seed producing its own kind as barley seed produces barley;

3. kammaniyāma “the constraint of kamma”, i.e. good actions produce good results and bad actions produce bad results. This constraint is said to be epitomised by [Dhammapada] verse 127 which explains that the consequences of actions are inescapable;

4. citta-niyāma “the constraint of mind”, i.e. the order of the process of mind-activities as the preceding thought-moment causing and conditioning the succeeding one in a cause and effect relation;

5. dhamma-niyāma “the constraint of dhammas”, i.e. such events like the quaking of the ten thousand world-systems at the Bodhisatta’s conception in his mother’s womb and at his birth. At the end of the discussion Sumaṅgalavilāsinī passage the Commentary says that dhammaniyāma explains the term dhammatā in the text of the Mahāpadāna Sutta (D ii.12) (Cf. S 12.20 for a discussion of the use of the word dhammaniyamatā in the suttas)

In these texts the fivefold niyama was introduced into commentarial discussions not to illustrate that the universe was intrinsically ethical but as a list that demonstrated the universal scope of paṭicca-samuppāda. The original purpose of expounding fivefold niyama was, according to Ledi Sayadaw, neither to promote or to demote the law of karma, but to show the scope of natural law as an alternative to the claims of theism.^[33]

C.A.F. Rhys Davids was the first western scholar to draw attention to the list of pañcavidha niyama, in her little book of 1912 entitled simply Buddhism. Her reason for mentioning it was to emphasise how for Buddhism we exist in a "moral universe" in which actions lead to just consequences according to a natural moral order, a situation she calls a "cosmodicy" in contrast with the Christian theodicy.:^[34][35]

In Rhys Davids' scheme the niyamas become:

· kamma niyama: ("action") consequences of one's actions

· utu niyama: ("time, season") seasonal changes and climate, law of non-living matter

· bīja niyama: ("seed") laws of heredity

· citta niyama:("mind") will of mind

· dhamma niyama: ("law") nature's tendency to perfect

This is similar to the scheme proposed by Ledi Sayadaw.^[36] Western Buddhist Sangharakshita has taken up Mrs Rhys Davids conception of the niyamas and made it an important aspect of his own teachings on Buddhism. ^[37]

niyama : (m.) limitation; certainty; definition. || niyāma (m.), certainty; fixed method; regular order.

Source: Sutta: The Pali Text Society's Pali-English Dictionary

Niyama, (cp. Sk. niyama, ni+yam; often confused with niyāma) 1. restraint, constraint, training, self-control Miln. 116 (yama+); PvA. 98 (yama+).—2. definiteness, certainty, limitation DhA. III, 83 (catumagga°, v. l. niyāma); SnA 124 (niyāma); DhsA. 154; PvA. 166 (ayaṃ n. saṃsāren’atthi: law, necessity).—aniyama indefiniteness, choice, generality DhsA. 57; VvA. 16 (yaṃ kiñci=aniyame, i.e. in a general sense), 17 (same of ye keci); PvA. 175 (vā saddo aniyamattho=indefinite).—niyamena (Instr.) adv. by necessity, necessarily PvA. 287; niyamato (Abl.) id. DhsA. 145, 304 (so read). ‹-› 3. natural law, cosmic order; in Commentarial literature this was fivefold: utu-, bīja-, kamma-, ćitta-, dhammaDA. on D. II, 11; Dial. II. 8; DhsA. 272; trs. 360. (Page 368)

— or —

Niyāma, (Sk. niyama & niyāma) way, way to an end or aim, esp. to salvation, right way (sammatta°); method, manner, practice S. I, 196; III, 225 (sammatta°); A. I, 122; Sn. 371 (°dassin=sammatta-niyāmabhūtassa maggassa dassāvin SnA 365); Nd¹ 314 (°avakkanti); Nd² 358 (=cattāro maggā); Ps. II, 236 sq. (sammatta° okkamati); Pug. 13, 15; Vbh. 342.—niyāmena (Instr.) adv. in this way, by way of, according to J. I, 278; IV, 139, 414 (suta° as he had heard); DhA. I, 79; II, 9, 21; VvA. 4; PvA. 260; Kvu trs. 383.—aniyāmena (see also aniyāmena) without order, aimlessly, at random J. V, 337. (Page 368)

仏教との関わり方によって縁起説のアプローチが変わる　　　求道者と学者

苦からの離脱、それとも苦の究明なのか？

換言すると、救済なのか、それとも学問なのか？または

個人的修行なのか、それとも公的知識なのか？ということで、縁起説との接し方や解釈にも違いが起こる。

仏教は知識の対象として成立したのではなく、自分の苦しみとその除去を望むことによって成立した。

世界の様子について語るのではなく、自分のこころの様子にスポットライトを当てて、汚れや苦しみを取り去るためである。

知識は未知のことを知りたい、という欲求から始まるので学者と求道者の間ではアプローチや解釈にも違いが出てくる。

順観と逆観

無明から行sankhāraが生じる縁起を順観と呼ぶ。

逆に生がなければ老死がなく，無明がなければ行もないとみるのを逆観という。

このように12因縁は〈此れ有るが故に彼れ有り〉〈此れ無きが故に彼れ無し〉という基本的な縁起観にもとづいて，生死流転の因果構造を分析した結果をまとめた法則である。

しかもこの法則は自然法則とはちがって，最終的には無明を滅して生老病死という苦から解脱することを目指す実践的、つまり自分の意志によって結果が変わる法則である。　

順と逆、往と還

順観／逆観　縁起支の生起と消滅を示す。

順観は「１つが生じることで、何が生じるのか」

逆観は「１つを滅することで何が滅されるのか」

往観／還観　帰結から根源因と、根源因から帰結への因果を縁起支の連結に従って順次に辿る方向

往観は「心理過程をそのまま自然に辿る」

還観は「前者を反省し論理化した」経路　　　　　　三枝充悳

４つの説かれ方

１　往観−順観　　老死とは？生を縁として老死、有を縁として生がある　　　　　　　離脱できる理由を知る

２　往観−逆観　　老死の滅とは？生に縁って老死の滅、有の滅によって生の滅がある　離脱する手段を実践

３　還観−順観　　無明を縁として行があり、行を縁として識がある。　　　　　　　　説の知識を学ぶ

４　還観−逆観　　無明の滅に縁って行の滅があり、行の滅によって識の滅がある。　　説の論理性を学ぶ

２から３が導かれた

厳しい現状にいて修行する者は、２の往観−逆観　　老死の滅とは？生に縁って老死の滅、　木村

心地よい現状にいて知識として学ぶ者は、３還観−順観　　無明を縁として行がある。　　　宇井、和辻

往観が取り上げられなくなった理由

自分の感じている痛みよりも、なぜそのようなことが起こるのかという理論に人の関心が移ったため。

生きること対する危機意識（往観）が廃り、縁起説を自然の定理（還観）としてみることで、実践から達観を優先させることで、後代の三世両重説のような輪廻によって説明される縁起説が成立していったのではないのか？

逆観は苦の真剣な観察であり究明であり、手段を模索するときの指標である、

対して、順観は論理的帰結であり、時間的因果関係などの哲学や定理や法則の探求が入り込む余地がある。

各支分（無明、生、老死・・・）と縁起の法則そのものを区別したため。　　　三枝充悳

たとえば、法律（民法や刑法）と憲法との関係のように、憲法は法律をメタレベルで統制しているが、どちらも法であるので、この２つを区分（kategorisieren範疇化カテゴライズ）する結果として、理論化の所産である還観を基準にして始めることになり、次に逆観よりも順観が重視されるようになった。

つまり、概念を演繹できる事実を伝誦するために論理化と規定化する志向によって往観よりも論理化の所産である還観が重視された。

無明とは何か？　　　　この世でまた過ごしたい、と想うこと。

無知は、条件が整うといつでも発生する

Avijjā Sutta (AN 10.61)を参照

無明avijjāとは

「仏教が説く根本的な煩悩。明vijjāが正しい智慧、認識を意味するのに対し、無知はそれを欠いた状態で、真実や物事の道理についての無知を意味し、特に縁起や四諦などの仏教の教えを知らないことを言う」

「上座部仏教事典」

テーラワーダ仏教の無明

「存在が苦集滅道であることをまだ知らない」ことが無明。　　「ブッダの実践心理学6巻」スマナサーラ

相応部2因縁篇　12因縁相応2　分別　

Saṁyutta Nikāya 12Nidāna-saṃyutta　1Buddhavagga　 2Vibhaṅgasutta

英訳　Linked Discourses 12　1The Buddhas　2 Analysis

比丘たちよ、無明とは何であろうか？

比丘たちよ、苦について知らないこと、苦の集起について知らないこと、苦の滅尽について知らないこと、苦の滅尽に導く実践について知らないことである。比丘たちよ、これを無明と言うのである。

Katamā ca, bhikkhave, avijjā? Yaṁ kho, bhikkhave, dukkhe aññāṇaṁ, dukkhasamudaye aññāṇaṁ, dukkhanirodhe aññāṇaṁ, dukkhanirodhagāminiyā paṭipadāya aññāṇaṁ. Ayaṁ vuccati, bhikkhave, avijjā.

「世界は、無明があると知らず、行をする。仏弟子は無明をなくすための行をする。」

「四聖諦を知り尽くしたら、無明がないのです。従って、行（おこなうべきもの）も消えるのです。

これは解脱に達したという意味なのです」　　　　　　　　　　　　　「ブッダの実践心理学6巻」

ポー・オー・パユットー　　　タイの世界的高僧

無明とは、あるがままを知り見ること（如実知見）がないこと。

実相を覚知しない。世俗の教示に惑う。

生物の遺伝的な本能とヒト固有の言語によって自己と世界とを認識する本能についての無知。

この２つの本能がアイデンティティ（自分）とソシアリティ（世間）という虚構を作り出していることを知らないこと。

無知である故に、そうした虚構に執著し、盲目的生存欲を湧き立たせる。

この無知によって、ヒトは行為への意志に駆り立てられる。この行為を行という。

生物の遺伝的本能は体（細胞）の刺激、心の変化、体からの離脱の３つの欲求である。

貪瞋癡とは、心を基準にした時に感じる偏りであって、信号（刺激、情報）を強く求め、あるいは強く拒否し、あるいは無関心であることである。

この３つの偏り（本能）から離脱することで、すべての信号に反応するのではなく、「ただあることがわかる」という心の状態を得ることができる。

言語による認識による誤謬は、名色が一時的にリンクしているもの（概念）を実体として捉えることからはじまり、これが無明と呼ばれる。

名色とは行sankhāraを経過した識viññānaであるkamma viññānaのことであり、マインドがエネルギーを照射することで生じては滅する一時的なものである。

dhammāエネルギーが構成要素である「カルマの種」とも呼ばれ、条件が揃うと、カタチとなって顕れる。

無明と根本煩悩

「もし無明の因縁を、更にその本を求むれば即ち無窮にして、即ち辺見に堕し、涅槃の道を失せん。この故に求むべからず。もしさらに求めなば即ち戯論に堕せん。これ仏法に非ず」「大智度論」第90巻　ナーガルジュナ

無明のさらなる「本」を追究すれば、無知と根本煩悩の相互依存に突き当たる。

相依関係は無限に循環するため、これ以上遡及できない。

即ち無明が「本」であり、縁起の起源であり終極である。

このような起源や終極はこの世には存在しない、存在するのはヒトの頭の中だけ。

第一次縁起論争　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「縁起の本質　仏教論争」宮崎哲弥

木村泰賢　12支縁起を生命の生成と開展の過程と捉える　　

宇井伯寿　12支縁起を否定し、滅せられるべきもの　　　　非時間的な論理性と相依相待の可能性も視野

和辻哲郎　無明から明への劇的な転換の構造　　　　　　　非時間的な論理性と相依相待の可能性も視野

赤沼智善　迷いの生は条件に依存するものばかりであって、条件と無関係に存在するものは一つもない

誤読、ノイズの影響

木村泰賢　　　３世にわたる継時的因果

宇井伯寿　　　非時間的な論理性と相依相待の可能性も視野

和辻哲郎　　　非時間的な論理性と相依相待の可能性も視野

実際

木村泰賢　　３世両重の生死の規定ではなく、刹那生滅の法則を明らかにするのが縁起の目的　事実的世界観５

宇井伯寿　　始めは３世両重は説かれず、後世の論蔵家の考え　「十二因縁の解釈」

和辻哲郎　　非時間的な論理性と相依相待の可能性も視野

木村の無明と縁起説

１老死憂悲苦悩は人生の免れることの出来ぬ運命であり、これらが観察の出発点である。

２苦悩がある、のは生まれたからである。

生まれなければ苦悩はない、すなわち老死の条件として次に生の来る所以である。

では何故生まれるのか？こうして縁起的観察が始まる。

根底に意志があるがために認識活動は営みを得る。

認識は所詮、意志の目的を遂行する機関に外ならない。

これが識と行との関係である。行（サンカーラ）とは感情と思考のパターンのことで、身口意に活動を起こしめる回路である。

サンカーラはエネルギーであるカルマの種を創る回路で、その種は条件が揃うことで、意志として顕れる。

この意志の根本の由来が無明である。

回路によって出てきたただのパターンを判断の基準にしているからである。

根柢においては、無始以来の盲目意志によって生命活動がある。

この「生の盲目的肯定」（盲目意志）が無明である。「縁起の開展　下3節」

12縁起は必ずしも時間的順序ではなく、大部分は同時的依存関係を示したものである。「事実的世界観」

12支縁起を「心理的経過」として捉える。

仏教に影響を与えた先行思想としてサーンキヤ学派の「25諦　プルシャ（純粋精神）と24の実体」がある。

どうして無明に泥む凡夫は世界の真相を理解し得ないで「自然的立場」に泥むままで満ち足り、無知の状態から脱することができぬのか？

ブッダの到達した「法の真相」を覆い、それから凡夫を遠ざける「根本動力」は生命体の本能である。

本能とは遺伝的に受け継がれた行動の様式や能力のこと。

本能とは遺伝的な様式がこの世でカタチになることで、霊魂（霊我）がこの世の「生命」（自性）と交感する能力、そこから生じる、細胞が刺激を求め、マインドは変化を求め、霊は肉体からの離脱を求める力。

生物的本能と社会的疑似本能の言語の２つが、「自己と世界（主体と対象）」の原初的認知を形成し、直覚intuition

と実覚（受vedanāの快・不快）とを統整している。これらの本能が根本煩悩となる。

宇井の無明と縁起説

「結局予のいう仏陀の説または根本仏教の説は吾々の論理的推論の上に構成せらるるものであって、その外には到底判らないということに帰着するのである」「原始佛教資料論」

抑制の利いた理知的な姿勢を81歳の終生まで貫いた。

各支は下位の支に対して常に条件であって被条件となることはないし、上位の支に対しては被条件たるのみで条件たる事はない「因縁の解釈」

１　12の支分の連接は時間的因果関係ではなく、論理的因果関係を示している。

２　無明と老死以外は、下位の支分に対しての生起の条件であって、同時に上位の支分に対してそれは条件が揃うと生起した結果としてある。

３　これらは時間的遷移のなかで現象する時間的因果ではなく、論理的、同時的な因果なので、それぞれの支分はすべて現在に同時にあり、またそれ故、一挙に全体を表す。

４　従って局所をみれば、上位の支分と下位の支分は条件−被条件の関係にあり、それらの立場が自由に入れ替わったりはしないが、全体をみれば、条件が被条件になり、被条件が条件になる相依の様相を呈していると解し得る。

このような宇井の縁起理解は初期仏教のそれではなく、「中国華厳哲学」の「時々無碍、重々無尽」の縁起を説明しているに他ならない。「駒沢大学佛教学部論集第17号」松本史朗

アビダルマ仏教の4縁説における「増上縁」（すべての現象や行為は、全世界、全宇宙のあらゆる縁が間接的に関わって成り立つ）にも近い。

「元来、不知が不知として知られるのは、行によって成立する有為の世界（エネルギーがある）に対して無為（エネルギーもない世界）を認識せるより高き立場、言いかえれば「法に基づいて存在する世界」を超出しその法自身を観ずる「明」あるいは「般若」の立場に立つゆえんである」

つまり、自己を含む全存在をあらしめている法を観ずるメタレヴェルに立つ、という意味である。

全現象は、法という形式（カタチ）によって限定されると同時に、存在機制（しくみ）としての法そのものによってあらしめられる。

「存在者は了別されてあることによって初めて存在者として存在する。すなわち了別という形式によって存在者が成立する」「仏教倫理思想史」

智慧paññā意識を無為と解釈しているのが誤謬の原因ではなかろうか？

真我意識が無為というエネルギーのない世界なのであり、paññāの意識は根本自性を直覚で知るものである。

識が限定（行）して明を無明にする

和辻のいう「明あるいは般若の立場に立つ」とは世俗の対象レヴェルの実在性を「超出」し、さらに諸法をも対象として現観することができるメタレヴェルを獲得するということである。

これは、自己認識や存立規則をも含む全領域を対象化できるメタレヴェルのことである。

自然的立場を世俗の範疇に限られた真実（世俗諦）の立場と達観できるのは、智慧が明や般若といったメタレヴェルに達したからである。

「しかもこの限定せられた領域（無明）は、それが限定せられたものであると認識せられるときに消滅する。「何によって無明があるか？」と問うためには無明が認識せられていなければならず、その認識は明の立場において可能であるがゆえに認識せられたときにはすでにもう無明はない」

和辻が十分に説いていないのは「我ありと計する凡夫のみに苦がある」の「計する」の性格、それの根深さである。「輪廻転生考」松尾宣昭　　　これは肯綮に中（あ）たる。

無明を「見いだす」ことと「滅すること」は同時に起こる事象ではない。見いだすことは、始まりに過ぎず、「発心」である。そこから修行が始まり、見いだし続けることを心身に徹底的に定着させることができてはじめて、「無明を滅する」ことができる。

智慧の立場（philosophieren）が直ちに滅となって実現せらるるためには、単に認識ではなくして体現でなくてはならぬ「縁起説第１　２章　全集19巻」

哲学的思索に基づく認識では滅の世界には通達できず、体得を必須とすると和辻は明言している。

「我が本質なきものであると真に知られたならば、利己主義の立場は止揚さるるはずであるが、無我の考察は必ずしも我執の脱却を伴わない。ただ抽象的に無我を考えつつ、真実には我を実在するものと考えている場合がきわめて多い」「道徳の根拠づけ　第１篇3章」

Avijjā Sutta (AN 10.61)を参照。

無明と明解脱　　　増支部10集7双品61無明（PTS AN V.113- 南伝22下1-）

１　比丘たちよ、無明の最初は「これより前に無明はなかった、その後に無明が生じた」というふうに知られるべきではない。

　比丘たちよ、（私は）このように説く。しかし、「これに縁って無明がある」というふうには知られるべきである、と。

　比丘たちよ、また私は、無明に食（栄養）があり、食あらずということはないと説く。

　何を無明の食とするのか？

　（それは）五蓋であると説く。

　比丘たちよ、また私は、五蓋に食があり、食あらずということはないと説く。

　何を五蓋の食とするのか？

　三（身口意）悪行であると説く。

　比丘たちよ、また私は、三悪行に食があり、食あらずということはないと説く。

　何を三悪行の食とするのか？

　六根（眼・耳・鼻・舌・身・意）の非防護であると説く。

　比丘たちよ、また私は、五根の非防護に食があり、食あらずということはないと説く。

　何を六根の非防護の食とするのか？

　不正念不正知であると説く。

　比丘たちよ、また私は、不正念不正知に食があり、食あらずということはないと説く。

　何を不正念不正知の食とするのか？

　非如理作意であると説く。

　比丘たちよ、また私は、非如理作意に食があり、食あらずということはないと説く。

　何を非如理作意の食とするのか？

　信なきことであると説く。

　比丘たちよ、また私は、信なきことに食があり、食あらずということはないと説く。

　何を信なきことの食とするのか？

　邪法を聞くことであると説く。

　比丘たちよ、また私は、邪法を聞くことに食があり、食あらずということはないと説く。

　何を邪法を聞くことの食とするのか？悪人（正しくない指導者）に親しむことであると説く。

２　比丘たちよ、このように悪人に親しむことを成就すると邪法を聞くことを成就し、邪法を聞くことを成就するなら信なきことを成就し、信なきことを成就するなら非如理作意を成就し、非如理作意を成就するなら不正念不正知を成就し、不正念不正知を成就するなら六根の非防護を成就し、六根の非防護を成就するなら三悪行を成就し、三悪行を具せば五蓋を成就し、五蓋を成就するなら無明を成就する。

　このように、この無明に食があって［無明を］成就する。

３　比丘たちよ、たとえば山上に大いに雨が降り、雷が鳴るとき、水は低きに流れて展転して山岳渓谷に満ちる。山岳渓谷に満ちて小さな池に満ちる。小さな池に満ちて大きな池に満ちる。大きな池に満ちて小さな河に満ちる。小さな河に満ちて大河に満ちる。大河に満ちて大海に満ちる。このように、この大海に食があって［大海を］満たす。

　比丘たちよ、このように悪人に親しむことを成就するなら邪法を聞くことを成就し、間違った教えを聞くことを成就するなら不信を成就し、不信を成就するなら非如理作意を成就し、非如理作意を成就するなら不正念不正知を成就し、不正念不正知を成就するなら六根の非防護を成就し、六根の非防護を成就するなら三悪行を成就し、三悪行を成就するなら五蓋を成就し、五蓋を成就するなら無明を成就する。

　このように、この無明に食があって［無明を］成就する。

４　比丘たちよ、また私は、明解脱に食（栄養）があり、食あらずということはないと説く。

　何を明解脱の食とするのか？

（それは）七覚支であると説く。

　比丘たちよ、また私は、七覚支に食があり、食あらずということはないと説く。

　何を七覚支の食とするのか？

　四念処であると説く。

　比丘たちよ、また私は、四念処に食があり、食あらずということはないと説く。

　何を四念処の食とするのか？

　三（身口意）善行（妙行）であると説く。

　比丘たちよ、また私は、三善行に食があり、食あらずということはないと説く。

　何を三善行の食とするのか？

　六根（眼・耳・鼻・舌・身・意）の防護であると説く。

　比丘たちよ、また私は、六根の防護に食があり、食あらずということはないと説く。

　何を六根の防護の食とするのか？

　正念正知であると説く。

　比丘たちよ、また私は、正念正知に食があり、食あらずということはないと説く。

　何を正念正知の食とするのか？

　如理作意であると説く。

　比丘たちよ、また私は、如理作意に食があり、食あらずということはないと説く。

　何を如理作意の食とするのか？

　信あることと説く。

　比丘たちよ、また私は、信あることに食があり、食あらずということはないと説く。

　何を信の食とするのか？

　正法を聞くことであると説く。

　比丘たちよ、また私は、正法を聞くことに食があり、食あらずということはないと説く。

　何を正法を聞くことの食とするのか？

　善人（正しい指導者）に親しむことであると説く。

５　比丘たちよ、このように善人に親しむことを成就するなら正法を聞くことを成就し、正法を聞くことを成就するなら信あることを成就し、信あることを成就するなら如理作意を成就し、如理作意を成就するなら正念正知を成就し、正念正知を成就するなら六根の防護を具し、六根の防護を成就するなら三善行を成就し、三善行を成就するなら四念処を成就し、四念処を成就するなら七覚支を成就し、七覚支を成就するなら明解脱を成就する。

　このように、この明解脱に食があって［明解脱を］成就する。

６　比丘たちよ、たとえば山上に大いに雨が降り、雷が鳴るとき、水は低きに流れて展転して山岳渓谷に満ちる。山岳渓谷に満ちて小さな池に満ちる。小さな池に満ちて大きな池に満ちる。大きな池に満ちて小さな河に満ちる。小さな河に満ちて大河に満ちる。大河に満ちて大海に満ちる。このように、この大海に食があって［大海を］満たす。

　比丘たちよ、このように善人に親しむことを成就するなら正法を聞くことを成就し、正法を聞くことを成就するなら信あることを成就し、信あることを成就するなら如理作意を成就し、如理作意を成就するなら正念正知を成就し、正念正知を成就するなら六根の防護を成就し、六根の防護を成就するなら三善行を成就し、三善行を成就するなら四念処を成就し、四念処を成就するなら七覚支を成就し、七覚支を成就するなら明解脱を成就する。

　このように、この明解脱に食があって［明解脱を］成就する。　　（意訳：ナーギタ比丘。）

参考資料

Kusala-Mula Paticca Samuppada

Akusala-Mūla Uppatti Paticca Samuppāda

Viññāna Paccayā Nāmarūpa

Nāmarūpa Paccayā Salāyatana

Difference between Phassa and Samphassa

Pabhassara Citta, Radiant Mind, and Bhavanga

Aggañña Sutta (DN 27)　 起源経

業感縁起 ―分別説部（上座部）における十二縁起解釈

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

ここでは分別説部、世間で上座部と通称される部派ではいかに十二縁起が理解されているかを紹介します。

それに際して、ミャンマーの故Mogok Sayadaw［モーゴウ・セヤードウ］が、十二支縁起をヴィパッサナー瞑想の中に取り入れて、人々にこれを理解しやすいよう示していた図を日本語訳したものを示します。

四聖諦ではなく十二縁起をこそ瞑想の対象とするのは、五世紀中頃のセイロンにて分別説部の教理ならびに修道法を確立した大学僧Buddhaghosaの説に一応基づくものですが、十二縁起を初めからヴィパッサナーの対象とすることはモーゴウ・セヤードウに特徴的な手法です。

モーゴウ・セヤードウは、在世当時から人々に阿羅漢であるとすでに信ぜられていた高僧です（右の写真は大徳の死の直前数時間前のもの）。その死後、荼毘に付されたあと、その遺骨が不思議な様相を示したということもあり、これを羅漢の舎利として祀り、現在においても人々は大徳への篤い信仰をもっています。

余談ながら、Sayādaw［セヤードウ］とは、ミャンマーにおける高僧一般の敬称です。モーゴウ（Mogok）とは、モーゴゥッとカナ表記したほうがよりその発音に近くて良いのですが、ミャンマー北西部はシャン高原北西部の山間部の町の名です。大徳の僧名はVimala［ウィマラ］ながら、特にその地の人々が檀越［だんおつ］であったことからそう呼ばれます。

ミャンマーでは誰か高僧とされる人が出た時、その人の出身地や出身寺院などの名をもってその僧の通称とする習慣があるのです。

なお、モーゴウは、ミャンマーすなわち世界で最も良質なルビーの産出地として、世界的に名高い地です。

日本ではこの地をモゴクなどと呼ぶ者がありますが、これは日本の悪習たる、ただローマ字綴りに闇雲に従って実際の発音を全く無視した、誤った外国語カタカナ表記に基づくものです。現地でモゴクなどと言っても誰も理解出来ないでしょう。東南アジアの言語ではほとんど総じてそうであるように、ローマ語綴りした場合の最後の子音は、少々語弊のある言い方となりますが、発音されません（おおかた促音となる）。

余談次いでとなりますが、最近世界的に著名となり、といっても上座部界隈での話ですが、日本でもやや知られるようになってきたPa Auk［パ・アウ］についても、日本人には何故かこれを「パオ」などという、現地ならびに世界でも誰も理解不能の、日本語風に訛っているというのではなく、完全に誤った呼称をどこまでも強いて用いている人々があります。

ミャンマーでパオなどと言っては、シャン州中部に住む少数民族パオ族（Paoh）のことだと、あるいは思われてしまうでしょう。

さて、大徳が唱導していた独自のヴィパッサナーを教授する瞑想センターは、ミャンマー各地にその支部が多く建てられ、現在のミャンマーにおいてマハーシ系、ウ・バ・キン（レディー）系、パ・アウ系、スンルン系と数ある中でも、著名かつ有力なものとなっています。

大徳亡き後、彼の弟子らによって運営されている瞑想センターにおいては、瑜伽者はまず以下の図などを用いた十二支縁起についての講釈を受けなければならず、その理解を瞑想のなかにおいて用いる、という手段が取られています。余談ながら、今現在これを取り仕切っているAun San Sayadaw［アウン・サン・セヤードウ］曰く、「ミャンマーには数多く指導法・指導者があると言えど、自分たちの瞑想法が一番優れている」などと言っています。

この図はまた、ミャンマーにおいて著名なDhammakathika［ダンマカティカ］（説法師・論師）たちが、十二支縁起について在家信者らに説法する際にも頻繁に用いられています。故にこの図をもって、南・東南アジアには仏教国数あるとは言え、そのなか最も保守的・伝統的なミャンマーの分別説部（上座部）において正しいと認知されている縁起理解の図として可となるものです。

（原図はミャンマー語とパーリ語で描かれたものであり、またこれを英訳したものがあるが、以下はそれらを斟酌して日本語訳し、また原図は実に粗雑なものであるため、色使いなども含め若干見栄えを整理して改良したもの。以下の図に限り、商業以外の目的ならば、法楽寺の承諾を得ること無しに使用・転載して可。その際は出典先として当サイト名ならびにアドレス等を必ず明記すること。なお法楽寺サイトの著作権については、当該ページを参照のこと。）

この図では、部右側の外縁から四段目、色を薄いオレンジ色にしている段に、釈尊が説かれた十二縁起を順に描いており、まずここから着目しなければなりません。その内周部と外周部に、それが如何に解釈されているか、あるいは如何様に互いに連関しているかが示されています。

しかし、率直に言って原図、そして原図の構成を改変せずただ見た目だけをやや整理して日本語訳したこの表も、図表としてははそれほど洗練されておらず、少々分かりにくい点があります。無論充分に時間をかけ説明されればなるほど、とし得るのですが、視覚的・直感的理解は望めそうにないものです。

実際、ミャンマーの僧俗でも、説法でしばしば用いられているにも関わらず、この図が何を意味しているかを理解している人はごく限られています。

この図表が詳しく何を意味するか知りたい者は、分別説部の阿毘達磨を広く直接学ぶか、とりあえずその綱要書Abhidhammatthasaṅgaha（『摂阿毘達磨義論』）に当たるのが一番です。しかし、それは多くの人にとって取っ付きにくいものであるでしょう。ならば、この図を解説する原書もしくはその英訳本を読む必要があるかもしれません。

また二点、この図には不合理もしくは蛇足に思われる点も見られます。まず、輪廻は無始無終と言われるように始まりが無く（解脱しない限り）終わりも無いのですが、何故か上の図では転輪する縁起の輪の中に入っていく矢印が描かれています。

次に、過去世と現世、現世と未来世とが連関したものであることを示すための矢印が描かれていますが、これが過去から現在、現在から未来と一方向ならわかるものの、双方向の矢印となっている。

前者については、縁起の起点を一応示したものだと言い、後者はただその連関していることを示したものだと言いますが、これは視覚的・直感的に誤解を与えかねないもので、また特にこれを描く必要もないものだと考えます。

しかし、これについて今は一応、原図通りに改変せず、そのままとしています。

いずれにせよ以上の図から理解できるように、分別説部では、縁起を過去・現在・未来の三世にわたって理解すべきものとして捉えられています。

煩悩に基づいた業の果として「私」という存在があり、またその「私」による業が、死を超えて「私」を生じ苦しませる、というこの縁起理解は、別に分別説部に特有のものではありません。これは声聞乗の諸部派にほとんど通じて見られる縁起理解なのですが、これを現在一般に、業感縁起と呼称します。

これについて、よく発せられる問いは「なにが最初の原因であったのか？そもそもの初まりは何か。無明だというならばそれは恒常普遍のものか」という如きものです。

まず、世界の有限無限、始まりと終わり云々などについて、釈尊は考えるだけ無駄なことであるとして一切口を閉ざすという態度を取られています。しかし同時に、世界はいわゆる創造主などが創り上げたものでないこと、もしくは無因いわゆる偶然に起こったものでも無いこと等を説かれています。そのようなことから、輪廻は無始無終といって始まりも終わりも無い、とされます。

無明に基づくからこそ全ては生滅を繰り返すのですが、それは恒常不変のものではありません。

無明とは何か

ところで、この無明がいかなるものであるかについて、部派（あるいは学僧）によって見解がそれぞれ異なっています。

たとえば、無明とは、無明という独自の実体があるのだと見たり、あるいは無明とは智慧の無いこと一般とし、例えば煩悩すべてが無明であって実体は無いとしたりなど様々です。今ここでその縁起解釈を示している分別説部では、無明とは「智慧の無いこと」であるとし、特に「四聖諦についての無知である」と特定しています（『分別論』）。

しかし、説一切有部では無明とは「智慧で無いこと」としつつ、しかしこれは漠然と「智慧で無いこと一般」や「煩悩一般」を言ったものではなく、それらとは別の実体をもつものであるとし、それは「四聖諦・三宝・業因・業果についての無知」としています。具体的には説一切有部の心所説のうち、大煩悩地法の痴（moha）がそれであるとしています。

また、説一切有部から出た経量部はこれに反論し、無明という特定の存在はなく「悪慧」（煩悩と相応した慧）であると見ています。このように、それぞれ部派によって、無明という十二縁起の根本が一体何であるかについては、様々な見解が立てられてあります。

三世両重因果　―説一切有部における十二縁起解釈

次に、この項では分別説部（上座部）の縁起説を紹介するのが主ですので、これはあくまで参考までに、説一切有部での縁起理解・縁起説を紹介し、またこれを図示したものを以下に挙げます。

さて、説一切有部の諸師は、縁起を広く様々な角度から解釈し、以下のような複数の仕方で理解しています。これは彼らの阿毘達磨蔵の典籍『発智論』に対する注釈書『大毘婆沙論』巻廿三において見られるものです（大正27, P117中段）。

説一切有部における四種の縁起理解
No.	漢訳語	意味
	Sanskrit
1	刹那縁起 ［せつなえんぎ］	生命のある行為における、その着手（行動を起こそうと意思した時）から完了までの刹那（超短時間）に、十二支の縁起の過程がすべて備わると見る理解。
	kṣaṇika pratītyasamutpāda
2	連縛縁起 ［れんばくえんぎ］	十二支の各支が順に連接し、前支が因となって無間に果として後支が生じ相続していると見る理解。無間は瞬間的時間的にというのではなく、前支と後支との間に他のものが生じないとの意。
	sāṃbandhika pratītyasamutpāda
3	分位縁起 ［ふんにえんぎ］	十二縁起各支の体は五蘊であり、その各支の名の異なりは、その時々の五蘊において最も勢力の強い作用をもって名としたことによる、とする理解。
	āvasthika pratītyasamutpāda
4	遠続縁起 ［えんぞくえんぎ］	分位縁起が、過去世から現世、現世から未来世へと生死を超越し相続して果てしない、とする理解。
	prākarṣika pratītyasamutpāda

以上の様に、説一切有部では十二縁起を四種の仕方で理解していましたが、そのうち第三の分位縁起こそが、仏陀世尊の真意であると捉えています。

この分位縁起とはどういうことかと言えば、しばしば仏教の輪廻転生に関して議論される「何が輪廻するのか？」という問に対して、「輪廻するのは五蘊である」と云うものです。

しかし、世親菩薩はその著『倶舎論』の中で、『大毘婆沙論』に説かれるこれら四種の縁起説を挙げ、説一切有部では分位縁起こそが仏陀の真意とされたものとしていることを紹介しつつも、特に分位縁起について疑義・不審を唱えています。経説と阿毘達磨説とが異なっていることに対しての疑義です。

説一切有部は、経説ではなく阿毘達磨説を先として採っているのです。

そこで世親菩薩は、『倶舎論』の中で有部の説を紹介するだけではなく、自身の理解をも開陳しています。それは当然ながら有部の説と異なったものとなっていますが、その異なりはそれほど大きくはありません。いずれにせよ十二縁起は三世にわたって説かれたものと、阿毘達磨説ではなく経説（『縁起経』）に従ってこれを明かしています。この態度は経量部に同様のものです。

さて、以下に示す説一切有部における十二縁起の理解（遠続縁起）について、著名無名を問わず過去の仏教学者にはこのような輪廻を前提とした理解を釈尊の教えを貶めた理解だと盛んに批判する、いわば多くの断見論者らがありました。

その昔、多くの仏教学者らは盛んに阿毘達磨はその意たる「勝れた教え」などでなく、いわば仏教精神の本来（？）そして現実社会からも乖離した独断的僧院的な、ただただ煩雑で無価値なものとの見方が多かったようです。

その影響をモロに受けた仏教徒・仏教愛好者・趣味仏教の人は少なくなく、いまだに彼らの見解をオウム返ししている人も多く見られます。

しかし、見方を変えれば、これは非常に洗練された優れたものとなっています。また、大乗の徒についても伝統的にもその学習が必須とされ、声聞の阿毘達磨の学習抜きに大乗を理解することは、およそ不可能となるでしょう。

（以下に掲示の図についても、法楽寺の許可なしに使用・転載して可。ただし、条件は前掲の如し。）

この図は最外周の枠において釈尊の説かれた十二縁起の順を示しているために、まずこれを基準として見なければなりません。

有部では縁起の十二支を、これは分別説部と同様ですが、前際・後際・中際の三際すなわち過去・未来・現在にわたって説かれたものであるとします。過去に摂されるのが無明と行、未来は生と老死、現世はそれ以外の八支です。

また、縁起には十二支あるとはいえ、これを約せば惑・業・事（苦）との三つ過程、あるいは因果の二つをその本性とするとします。惑とは煩悩の総称で、無明・渇愛・取がそれです。業は行そして有。事［じ］は識・名色・六処・触・受・生・老死の七支で、惑と業に依って起こる事であるから事と言い、それはまた苦に他ならないことから苦ともこれを称します。

因果の二つに十二縁起を約す場合、因となるのが無明・行・渇愛・取・有の惑と業の五支、果となるのが識・六処・触・受・有・生・老死の七支です。

ここに示した図表のごとく、過去の煩悩（惑）に基づいた行いを因、現世の生（苦）はその果、そしてまた現世での煩悩に基づいた行い（業）が来世の因となって、来世における苦なる生死がある。あるいは、煩悩（因）によって苦なる生死（果）がある、というのがその縁起法解釈です。

また、この現世での生を基準とした場合、我々は無明そしてそれに基づく行為、その果を生じさせる力すなわち「行」を原因として、また未来際に苦としての生からの連環を引き起こしていく。

なんという恐るべき悪循環。苦しみの自転車操業ですが、娑婆の自転車操業ならいつか自壊して悲惨な終わりを迎え、あるいは自己破産してあらゆる商売から足を洗うという手もありますが、輪廻の場合終わりはありません。

娑婆での「絶対に潰れない」自転車操業は、ありえるならばある意味理想的業態ですが、ありえません。世界では諸大国政府とその国営銀行がこれを現実に営々と行って来ましたが、やはりそこは娑婆のこと。

最近は各国いずれもその限界が見え、その大きなつけを近い将来、世界各国まるごと払わなければならないでしょう。我々の生のある間に、現在の資本主義のありかたの崩壊を見ることがあるかもしれません。

ここでは悲惨な状態がずっと、波の高低こそあるものの途切れることなく続いていきます。しかし、まさにこれが人の営みというものを示したものでしょう。

如何にしてこれを止めるか、この悪循環を止め得るのか。それは、上図に白矢印で示したように、人生を苦として受け止め、その循環の構造を知り、そしてその根となっている根本の原因を除くこと。すなわち受から渇愛そして取という過程を取らないこと、無明にもとづく行為を起こさないことです。

さて、このような、三世にわたって十二支それぞれが互いに因となり果となっているという理解を一般に、これは特に説一切有部のそれについていわれるのですが、三世両重因果などと呼称します。

ところで、分別説部や説一切有部以外のその他部派が如何様に十二縁起を解していたかの詳細は、それら他部派の典籍が部分的断片的のみ、あるいはほとんど伝わっていないことによって、今や知ることが不可能となっています。

しかし、以上にわずかながら示したように、分別説部と説一切有部の縁起理解は、それほど異なったものとは言えず多く共通する点が見られます。日本では多くの仏教学者やその学徒らが勘違いしているようですが、十二支縁起を三世に渡るものとして理解していたのはなにも説一切有部に限ったものでありません。

中有 (Antarābhava) について

さて、ただ大きくは一点だけ、決して双方相容れられない点があります。分別説部が中有の存在を認めず、対して説一切有部はこれを認めている点です。

説一切有部では中有［ちゅうう］というものの存在を認めているので、ある人々（中般涅槃の不還）は死後の中有において解脱しうることを説いています。この、人には中有において解脱する者があることを示すために、説一切有部の縁起図においては、現世と来世との中間にある中有に白星を描いています。

（分別説部ならびに説一切有部の修道階梯についての詳細は“仏教の瞑想”の“五停心観”を参照のこと。）

これについての論争が世親菩薩『倶舎論』分別世品の前半において、比較的長々と展開されています。そこでは、結論から言うと、世親菩薩は中有を認めない部派らには、中有の存在を示唆する経説があるけれども、その主張の根拠となる経説と理証とが無いと断じています。

有部の中有説についてより詳しく知ることを欲する者は、この品（章）はまったく難解な云々に触れているものではないので、直接これに当たると良いでしょう。ここでの中有についての様々な議論は、おそらく現代の人にも相当に興味深く感じられるものと思われます。

なお、中有の存在を認めない部派とは、説一切有部の諸典籍（『大毘婆沙論』・『異部宗輪論』）によれば、分別論者、大衆部・一説部・説出世部・鶏胤部、化地部であるとされています。

対して、中有の存在を認めない分別説部では、その論書Kathāvatthu［カターヴァットゥ］（『論事』）にて、中有（antarābhava）を説く部派を、ここでは説一切有部の名は挙げられておらず正量部・東山住部の大衆部系の名が挙げ、攻撃しています。

ここで問題とされているのは、経説にある中般涅槃（antarāparinibbāyin）という語についての解釈です。

いずれにせよ、双方が経説に依拠してその存在の有無論を展開しています。故に、あとは経説の解釈について論理的に整合性があるかどうか、という問題となります。が、互いに実証出来ない事柄であるので、実質的決着がつけられるものではありません。

けれども、この中有についての有部の見解は、大乗に引き継がれて生きており、チベット・支那そして日本に通じて、中有があることを前提とした教義が各宗派において構築されています。

そして、これにまつわる社会習慣も、今なお存在しています。

余談となりますが、現在の仏教界では、中有は最長七七日（四十九日）と当たり前のように言われています。が、実際のところ当時の説一切有部の学匠たちでも意見が別れていました。実は、有部の正統説は「中有の期間は定まっていない（がそう長くもない）」で、必ずしも四十九日に限定されたものではありません。

さて、そもそも有部の中有に関する見解は、縁起法にそのまま関わっている事項でもあります。故に該当する箇所を直接読むことは、多くの有益な知識に触れる事となるでしょう。

解脱の機構　―「枯れ木」を理想とするメカニズム

伝統的に、その生において解脱に至り、死を迎えるまでを有余依涅槃［うよえねはん］と言います。

何故に「余依が有る涅槃」なのかと言えば、いまだ業果としての身体（六根）そして命（命根＝前世の業によって定まった寿命）が共にあるからです。そこには、いまだ老病死という果、肉体的苦を受ける余地がある。これに対し、終に命根盡き死を迎えることを、無余依涅槃［むよえねはん］と言います。声聞乗における究極の解脱です。すなわち、声聞においては、仏陀もしくは辟支仏paccekabuddha（縁覚・声聞・独覚）あるいは阿羅漢となって死を迎えることが、最高にして究極の平安とされます。

そうでなく、人が解脱に至らず、あるいは聖者の階梯に登らずして、ただ老いや病い、あるいは事故や自殺・他殺などによって死を迎えても、それは平安でもなんでもなく、新たな苦しみの門出でしかありません。

たとえ一生何事もなく平穏無事に、衣食住に差し障りなく、そしてほぼ健康にその生を全うしたとしても、それはそれでめでたいことであるとは言います。

が、しかしそれだけでは詮無くまた虚しいことである、と仏教では説きます。そしてそのようなあり方は、ほとんど全ての人の生死の様であると、仏教では見ます。

（別項“明恵上人の手紙”を参照のこと。）

話は変わって、ここからまったくの余談になります。これは大変面白いことに、東南アジアの仏教諸国において僧侶に対し「枯れ木の様だ」などと言うのは最高の褒め言葉の一つとなっています。

対して支那から日本では、「（悟りを開いたなどと言って）枯れ木の様になった僧侶など無価値」とする、これは禅の祖師らの言葉に基づいたものでしょうが、支配的思想があり、それは全く対照的です。同じく大乗を信奉するチベットでも、「枯れ木」は蔑みでこそありませんが、褒め言葉でもありません。チベットでは一部に、これは往時の禅宗でもそのような傾向があったのと同様に、エキセントリックな僧侶を何らか悉地を得た人だと見なすことがあります。

どのような譬えをもって賞賛の言葉としているかは、それぞれの涅槃観あるいは僧侶観というべきものの違いを端的に表していると言って良いでしょう。何故に南方において枯れ木のようになるのが良いとされるのかは、以上に見てきた十二縁起に基づくものだと言えます。

すでに上に触れたことの繰り返しとなりますが、ここでもう一度おさらいです。

身体が存在する以上、そしてその身体が五体満足でなにも機能不全がなければ、我々の五感そして心は正常に働いて様々の外界の刺激を感受します。これを仏教では受（vedanā［ヴェーダナー］）といいます。十二縁起では、受はその第七に挙げられます。

仏教では、受には大きく分けて楽（sukha）・苦（dukkha）・不苦不楽（adukkhamasuka）の三受あるとします。あるいは、楽と苦から精神的なものを別して喜（somanassa）と憂（domanassa）とし、これを加えて五受があるとします。

人が解脱するためには、縁起が順に生起して無限の連環を繰り返すのを止めるためには、自らが受けるところの感覚が楽であろうが苦であろうが、これをただ「受け止め」て頓着しない事。すなわち、いかなるものであれ感受したものに対して愛着・嫌悪いずれもしないよう、少しづつ訓練してくしかありません。

人間は習慣性の動物、仏教的に言えば（自分で発生させた）業の暴風にエイエイと、行という爆流にグイグイと押され流されるように生きる存在ですので、いきなりこれを完全に止めることはほとんど不可能です。故に自分の行いをさまざまに制約し、漸次に条件付けしていきます。具体的にこれは、先ず戒を持ち、そして瑜伽の修習によってなしていきます。

しかし、四六時中瞑想するわけには人間いきません。そこで日々、我が心身の動きに注意を払って「よく気をつける」ことが最も肝要となってくるわけです。その訓練、それを修行というのですが、その方法は幾多も用意されています。その果てにあるのが解脱です。

さて、何故に南方で枯れ木が一つの理想とされるのかは、十二縁起の順観で説かれる「受→渇愛→取→有→生→老死」という過程に関係があります。なんであれ自分の好き嫌いを問わず感受したものに対して、さらに欲して求めよう衝動を起こさず、また執着しないことが、解脱の要件であるためです。

この生において焦点を当てるべきは渇愛の滅で、それは取りも直さず無明の滅に直結します。故に釈尊は、時として無明から始まる十二縁起を説かれず、渇愛から始めるいくつかの縁起支のみを説かれることもあった、というのが伝統的な見解です。

このようなことから、日常（六根がその対象に触れ、苦・楽・捨さまざまに感受が起こりつづけている）→平静である（あらゆる感受したものに対しての渇愛・取を制し抑えている）⇒無表情・無動作・無反応・無口である（有・業を制している）⇒修行ができて徳がある（常日頃よく気を付けている！）、という思考図式が、彼らの中で出来上がります。

先に受には三つあり、そのうちには不苦不楽すなわち「感受したものに何ら関心が払われないこと」があると述べましたが、これをまた別に捨（Upekkhā）とも言います。それはまた「無関心」を意味する言葉です。

仏教は感受したものがなんであれ、ただ不苦不楽のみの不感症となれなどと説く教えではありません。誰であれ、感受したものには間違いなく楽・苦・不苦不楽があります。好ましいものは好ましい、好ましくないものは好ましくない、として全く問題ない。

例えば比丘が食事の供養を受けたとして、それについて「美味しい」「不味い」「味がない」という感覚・感想があってしかるべきです。気持ちよければ気持よくてよく、苦しければ苦しくてよく、喜ばしければ喜んでよく、苦々しければ苦々しくしてよい。

ただし、そのような感覚を、感情に転化して増幅する必要はなく、またすべきではありません。そこで文字通り「受け止める」。それを動機としてさらに欲求せずあるいは嫌悪せず、これに執着しないこと、受から愛そして取という過程をとらないことこそが、最も肝要な点です。

そして、そのような態度は、先程挙げた三受あるいは五受のうちの捨とは異なるものです。分別説部では、そのような心の状態をtatra-majjhattatā（中捨）として、心所の中に挙げています。また説一切有部では、受のそれとは別物の心所たるupekṣā（捨）として挙げています。

しかし、これは結果的にですが彼らの社会においては、自分が感受しているものが楽であれ苦であれ、これを一切おくびにも出さないことこそが徳とされ、むしろブスッとしたりシラ〜ッとしたりするような無表情・無感動的態度をとることが賞賛されるにいたっています。

渇愛を起こさなければ取以下から連なる苦が滅びる、という十二縁起の逆観の教えに従った一つの結果と言えるでしょう。それは、その背景にある思想が別であるとしても、結果として古代ギリシャのストア派が理想として説いたApatheia［アパテイア］、すなわち超然として何事にも動ぜず無感動である境地・態度と同様のものです。

いずれにせよ、上に述べたような理由から、南方ではいわば「枯れ木」になることが一つの理想像とされ、賞賛の対象となっているのは事実です。実際、タイやカンボジア、ラオスの僧侶らは在家信者の前にあるときや写真を取る際に、枯れ木的ポーズを取る者が多くあります。しかし、そのほとんどが「良く気を付けている」からそうしている、自然にそうなっているというのではなく、あくまでポーズをとっているに過ぎません。

故に、下手をするとただの呆けた、悪い意味で「空っぽ」の表情となるか、無表情・無反応であろうとした結果、穏やかなどと言うよりむしろ、傲岸不遜な態度にしか見えないものとなってしまっていることがあります。

なんでも長短あるものですが、これは、伝えられるものをただ丸覚えし、とにかくコピーさえしていればそれでよいとする分別説部一般の価値観が、思考停止して度の過ぎた形式主義・教条主義となって表れている点の一つです。

これは彼ら個人が思い思いにそうしているのでなく、（「何故か」という理由を教えられること無しに）そのようにしなければならない、僧侶というものはそういうものなのだ、と教育され、沙弥から出家している者ならばなおさら、小さい頃から訓練され、もはや（その目的や内容と関しない）習慣となっていることによります。

そしてそれはまた、それら各国の在家信者たちが、そのような態度をとる僧侶をして「若いのになんと穏やかであろうか」「なんと平和的な生活でしょう」「俗世に住まう者とは次元の異なる、静かで尊い生活である」などとむしろ賞賛する、社会一般の傾向も手伝っています。

また一点、これも重要な点なのですが、そのような国々では僧侶は社会的に特別な存在であり、総体としてあくまで上位に位置しています。そのような中にあって、僧侶が在家信者に対して（一般的な意味で）愛想よく振舞い、（説法の場以外で）よく喋り、よく笑うことは、むしろ人々から批判対象となってしまいます。

特にタイでは、国家として僧侶を特別扱いする社会を構築しているのと同時に、であるからが故にか、社会が非常識と考える僧侶や破戒したのが明白な僧侶などを、（重戒を犯した僧侶は国法によっても罰せられますが）社会的な意味で血祭りにあげようとする傾向があります。これはもはや、タイ人の娯楽の一種とすらなっている、と言ってもいいかも知れません。芸能人のゴシップの類に近いものとなっています。

「僧侶は一般人と同様の生活を送ってはいけない」というと、これは寺院関係以外の日本人でも同様に考えている人があるでしょう。しかし、「僧侶は托鉢時などを除いて寺院の中に閉じこもって一般社会と極力関わるべきではない」となると、日本人ならばこれについて「ん？」となる人が多いでしょうか。

「その様であるから彼奴らを小乗と言うのだ」と叫びだしてしまう人もあるかもしれませんが、それは性急というものです。寺の中で閉じこもって非日常的生活を送る限り、在家信者はこれを尊敬して布施し、その生活を支える。というのが、それらの国での一般的感覚です。

しかし確かに、むしろこのような風潮がタイの比丘たちをさらに内向きにさせてもおり、僧院の中にあって自坊のドアに鍵をかけてしまえば何をやってもいい、と言っても限度はありますが実際やりたい放題に近い、というような態度にすらさせています。

先になぜ枯れ木が理想とされるかの理由を述べましたが、しかし彼らは縁起法を根拠として意識しそのようにしている、と言うよりむしろ、もはや社会のそのような要望にただ従っているだけという、いわば本末転倒となっている側面もあります。

しかし、その枠内では「一応」それで良しとされていることです。いずれの国や地域にも存在する、文化・習慣の異なりに属する問題でもあるでしょう。

このような本末転倒は何も南方の仏教だけに見られることではなく、日本の真言宗であろうが禅宗であろうが、また宗教に限らず、およそありとあらゆる文化的活動に見られることのように思われます。その枠内にある人でこの本末転倒を問題視し、原点回帰を志す者が現れたとき、その人がどこまで出来るかということに掛かってくる問題です。

実際、それぞれの枠内において、そのような志をもち実行しようとしている者、すでに実行している者があります。しかし、ここでまた問題となるのが、その現状を問題視するあまり、彼らが文字通りラディカル（Radical）となって排他的・攻撃的・急進的もしくは極端な教条主義になり、原点回帰のはずがあらぬ方向へと走ってしまうことがまま見られることです。

さて、ミャンマーも同様なことが言え、在家信者の前ではあまり喋らず前方下方の一点を見つめている（格好を取り繕う）ことが、「よく気を付けている」「念を保っている」「心一境性がある」証・理想とする点は変わりません。しかし、タイ等の僧侶と同じような（枯れ木的無反応な）態度を取る人は比較的少なく、ある意味愛嬌のある人のほうが多いようです。

これは、他国と比してミャンマーにおける僧の数が圧倒的に多すぎ、その他の国では考えられないほど朝から晩まで街のいたるところで見かけるため、ということもあるのですが（2011年結夏時点でおよそ55万人：人口比約１％）。

現在のスリランカでは、枯れ木などというのとは正反対に、太っていて尊大な態度をとることがすなわち徳がある、威厳や風格がある、裕福で健康である、とする（インド亜大陸にほぼ通じて見られる）社会通念があるためか、在家信者の前にあるときや写真を取るときなどは、例えば腕を組んで背をそらし顎をあげる、あるいは顎を引いてグッと視線を上げるなど、そのような態度を示す人が多い傾向があるようです。

このような背景を全く知らずして彼らと交流する機会を持った者、たとえば旅行者などが、「南方の小乗の僧というものは、なんと傲慢であることか」と怒り心頭に発し、帰国してから声高にその批判を始めてしまう人があるようです。

もっとも、外国人を相手にする機会の多い観光地辺りの寺などで住んでいる、あるいはそこらをウロウロしている比丘や沙弥などは、外国人相手には愛嬌を見せたほうが色々とメリットがあることを十二分に学習しているため、普段とまったく異なる態度で接することがあります。

故に、無愛想・無反応などではなく、むしろ「南方のお坊さんは非常に明るくて愛嬌がある」との感想を持って帰る旅行者もあるでしょう。

また、南方の比丘らから、日本など大乗の僧職の人々は非常に裕福であると認知されているため、その高額の布施や後援を期待して、頭では大乗を軽蔑し彼らを僧侶とはまったく見なしていないのとは裏腹に、彼らに対しては特に愛想よく振舞うことが、非常に多く見られます。

さて、それらの国の比丘といっても様々で、最初から還俗するつもりで数ヶ月の極短期間から十年ほど中学から大学を卒業するまで若い間だけ比丘をしている者と、生涯出家を志しているいわば本来的出家者とは本質的に異なり、その態度にも異なりがあります。

例えばタイやカンボジアなどには、数日間から数ヶ月間通過儀礼的・義務的に比丘あるいは沙弥となる、いわば「なんちゃって出家」「プチ出家」ではなく、すでに法臘五〜十歳を重ねていながら婚約者のある比丘というのがあります。彼らは比丘をしながらすでに世俗で何をするか、どのような仕事に就くかアレコレ考えています。むしろそのような種の者が多いようです。

スリランカには通過儀礼的一時出家、短期出家という習慣はありません。スリランカでは、僧の数がおよそ17,000から18,000人程度とその他の国に比して非常に少ないのは、そのような習慣が無いことも一因です。さてしかし、小さい頃から（多くの場合貧しさが原因で）家を出され、サンガに身を置いている若い沙弥や比丘らには、端から大学卒業とともに還俗するつもりでいるのがあり、実際に八割から九割方の大多数が還俗していきます。

若い頃に出家しサンガに身を置くことは、貧困社会にある彼らにとって安く教育を受ける手段に過ぎなくなっている側面があるのです。そして、それを彼らは（社会的世間体的にマズイという気はあるけれども）悪いともおかしいともなんとも思っていない。

結果、終生僧侶としてサンガに居残った者、すなわちスリランカの比丘の大多数が、還俗する機会を逸した、あるいはその機会の無かった、僧侶以外に出来ることがない者、現代的な意味での学などほとんどなく、つぶしが全く利かない世間知らずになっています。

これを問題視し、そのような者らを「サンガをただ経済的に利用し、その質を低下させている」と批判する在俗の人々も存しています。これは確かに事実で、彼らはある意味短期出家者よりもタチの悪いものと言えるのです。「結果的にサンガに残っている者」の多くが、いわばその昔の支那の宦官、あるいはインドのバラモンのようなものとなって、名聞利養をただ追い求めるだけの存在となっています。

しかし、その背景には貧困という深い闇が横たわっているので、この是非は他所からたやすく言い得るものではありません。

なお、これは、ポル・ポトによって僧侶がほとんど皆殺しにされ、サンガが壊滅したカンボジアでも、現在復興されているとはいえ似たような状況です。

ちなみに、儀礼的出家のある他の国々では、その期間にかかわらず還俗した者に対する蔑称はないようです。たとえば、ミャンマーにも通過儀礼的短期出家の習慣がありますが、そのような短期出家をdullabha［ドゥッラバ］と呼称して他の本来的出家者と区別します。

ただ区別するとは言っても、それはパーリ語の「得難い」という意味の形容詞で、いくらそれが短期間であってもその意味の通り「ありがたい」ものとしています。本来的出家者からすれば、そのような短期出家者は、その寺の壇越自身であったりその子息であったりするため、彼らは「お客さん」であり特別扱いされます。

短期出家という習慣の是非はおくとして、仏教への信仰がこのような通過儀礼を生み出し、そこに大きな社会的価値が認められているのす。

また、以前短期出家でなく、出家していた者が還俗して俗人になったのをミャンマー語でlu:thwek［ルードウェ］と呼びますが、そこに軽蔑の意は全く含まれていません。しかしながら、短期出家の習慣のないスリランカでは、かつて出家していながら還俗した者をHiraluwa［ヒラルワ］と呼びます。これは少なからず侮蔑の意が込められた言葉です。

さて、近年はまた一つ、面白い葛藤を見ることも出来ます。枯れ木が理想とされつつも、ミャンマーにしろスリランカにしろタイにしろ、ここ百年間ほどの各国で高徳とされた僧たちの現存する写真を並べて見ると一目瞭然なのですが、過去の大徳たちがほとんど細身で文字通り「枯れ木」的であるのに対し、近年の有名な僧侶というのは、どこでもブクブクとだらし無く太っているのが全体を占めるようになっています。

これらの国の僧侶らの間では、もはや痩せていることは決してその人の徳を示すことでなくなっています。

インターネットの世界的普及によって高度情報化社会となった現在、第三世界の人々が先進国での社会の暮らしぶりに間接的に触れ、自身らが物質的に非常に貧しいことを知った結果、むしろ精神まで貧しくなってしまい、拝金主義という霧がそれらの国に色濃く立ち込めるようになっているのです。

あるいは、農業国から工業国へなど、発展途上の過程においてしばしば見られる、異常なまでの投機熱を中間層が持ち始め、他者との競争に勝つための数々の不正が行われるなど、第三世界においても、すでに先進国各国に見られた伝統的道徳観や社会のあり方の急速な崩壊、変化が起こっています。

「衣食足りて礼節を知る」とは言いますが、物質的に豊かであれば精神的に豊かになれるに違いない、という幻想を抱いている人が多くあります。

（しかし、彼らがそのまま極貧の、将来の展望など全くない状態で良いわけなく、やはり満足な衣食と、なにより高度の教育が必要であることに変わりありません。社会がそのような過程を経ることは、人の世において必然的なことであるのでしょう。）

また、東南アジアなど第三世界の人々は自身たちの国のそれに比して心が豊かである、などという感想を抱いて帰る先進諸国からの旅行者、短期滞在者は多くあります。が、それもただ表層を眺めたのみの、幻想にすぎません。

この世はどこまでも娑婆（忍土）であり、人はどこまでも人です。

さて、確かに、托鉢など外を歩いているとき下を見つめてキョロキョロとせず多くの挙動をとらないこと、必要でないときには口を開かず寡黙であること、仏法に何ら関しない世間の話に華を咲かさない（無駄口を叩かない）こと、念を保って落ち着いていることなどは、、諸経典にて徳として賞賛され、またそうあるべきものとして説かれています。

模倣に終始することを良しとしているような者は、たいていまともに模倣すら出来ていないので論外です。例えばそれは、その安価さの故に第三世界に氾濫している、粗悪きわまりない支那や韓国のコピー商品の数々を見れば、たちまち理解できることでしょう。

けれども、最初はあくまで真似事に過ぎなくとも学に行にと修行を重ねていくうち、すなわち基礎からコツコツと学んだ教えを実践し、ひたすら繰り返してその経験を積み上げて理解していくうち、自然に必然的に理想とされる状態になっていくものです。

そのようにするのであれば、形から入ることは決して悪いことではありません。むしろ多くの職業や立場においてその外見・形が人を育てていくことがあるように、仏教の修行もまた同様のことが言い得ます。いずれにせよそこで肝要なのは、何故その形であるかを「理解すること」ですけれども。

しかしそこで、解脱を迎えた人がおしなべて「枯れ木」になるかというと、これは私が日本人であるからということもあるでしょうが、非常に疑問です。そういう人もあるでしょう。いや、仏陀ご在世にも実際にあったことが、諸経典からうかがい知れます。

しかし、誰もが全く同じようになる、同じようになるべきだ、というのはどうでしょうか。

声聞の教学からしても、このような見方・思想は、正しいものとは言えません。なんとなれば阿羅漢であったとしても、（これは言ってしまえば当たり前のことなのでしょうが、）ぞれぞれ能力に隔たりがあるだけではなく、性格や志向、その行動の傾向の異なりがあることが認められているのですから。

三河屋

日本仏教には新旧あわせて十三宗の宗派が存在しており、それらから派生した有象無象の新興宗教がそれこそ山のように存在し、それぞれが時としてまったく別のことを説いて、およそそれらが同一宗教に属するものとは思えないものとなっていることがあります。

上に縁起ならびに四聖諦は仏教の根幹だと述べましたが、これをさまざまに解釈し体得せんと、多くの道を様々に説き示したのが、それら部派・学派なるもので、日本の諸宗もその流れを組んで起こった、はずだったのものです。

大乗において「縁起即十二縁起」とはならず、阿頼耶縁起・如来蔵縁起・法界縁起など様々な縁起説が説かれて、それらは十二縁起よりも深遠なる教えであると位置づけられている場合があります。

しかしまず、根本的に縁起とは空と同義のものとされ、十二縁起が大乗のそれに対して低いものと位置づけられる場合があったとしても、無価値なものなどとは到底されていません。

ところが今の日本では、十二縁起と聞いて「縁起？あぁ、釈尊が最初に説いた、と“言われている”やつね」などととぼける者や、「釈尊は十二縁起など説かず、最初は四縁起等より簡単なものに過ぎなかった。十二縁起など後代の作り物、仏教教義が出来上がって後の創作物である」などと得々と言うものの「十二縁起という言葉は知っているけれど、その内容を説明しろとか、どうこれを解釈するかなどは言えない」などと言う人があります。

「我が宗は大乗に属するものであり、四諦十二縁起など声聞や独覚の教えであって、程度の低いものに過ぎない。対して我が宗では、そもそもお祖師様が」云々と鼻息荒く言うものの、その実その程度の低いと断ずるものを、頭の中だけですらも全く理解出来ておらず、（必然的に）その深淵にして崇高だと誇る「我が宗云々」のことをまるで理解していないという人も多くあります。

ひどいのとなると、いや、むしろこれが一般的なのですが「そもそも十二支縁起の一一が何か覚えていない」、「本で読んだことある程度で、やっぱり知らない」、「いやぁ私、物覚えが悪くてすぐ忘れてしまうのですよ。ハハハ」という、謙虚さからそう云うのとは異なる仏教者（僧職）が、これはおそらく在家の人が想像物出来ないほどの、驚くべき高比率で存在しています。

何故か。

日本の僧職者にとって仏教はいわば飯の種ですが、しかしそれも主として仏教的作法に基づく葬儀あるいは祖霊崇拝を専門とするのであって、そこに縁起が云々、四聖諦が然々などほとんどまったく関係がなくなっている為です。

故に飯の種ではあっても、面白いことにその本質となる縁起云々は専門の範疇に無く、知らなくても問題ない、人に説かなくとも何等差し支えない業態となっているためです。

また、「檀家に説いてもどうせ興味もないし、わかりもしない。実際のところ、私もわからない。衆人もわからないし、望んでもいない。であるからこれを学んで説こうとするだけ時間と労力の無駄」と、釈尊が説法を躊躇したのとはまるで異なる方向性で、大衆は愚であると、端から無駄であるとしている人も多くあります。これでは梵天の出る幕などありません。

日本仏教界全般が、仏教の看板を上げておきながら中身がまるで別ものとなっていることを、このように譬えることが出来るでしょう、それはあたかも三河屋のようなものであると。

しかし、もはや三河屋なるものすらも、コンビニの出現と普及によって社会から消えてなくなってしまったようです。故にまた進んでこれを譬えると、三河屋が消えてコンビニが出現してきたのと同様、日本の寺が三河屋からさらにコンビニへと変化し、僧職者のほとんどがコンビニの店員化しているようなものだ、と言えるでしょう。

ピコピコとレジを打つように、「葬儀導師料１５万円、助法僧５万円、院号３０万円、その他お車料・お膳料合計して６０万円になります」（地方地域によって相場は大きく異なる）などとよどみなく言い、これをあくまで布施として受け取るや、流れるような作業で葬儀屋という仲介業者の誘導のもとにモジャモジャと読経を開始。要所要所でポコポコチンチンと木魚あるいは鈴をならし、ジャンジャンゴーンと鐃や馨を叩いて、きっちり約四十五分から一時間以内にて「本日はまことにお悔やみ申し上げます。これにて葬儀一式、円満終了でございます」と相成ります。

商品の戒名は、戒名ソフトまかせであれこれ考えることなしに簡単に決定できる。寺に納められた骨や位牌の管理も過去帳という名の帳簿（最近はこれも檀家管理ソフト）で、その置き場所や日にち・持ち主等々なども整理され、いわば棚卸しも自由自在。葬式という日常のイベントは儀式として合理化され、状況に合わせて三十分でも一時間半でも自在に時間内に収められる、きわめて洗練されたものです。

しかし、ではそれらの背景を説明せよ、となるとほとんどの場合何も言えない。いや、実にいい加減なことを言い出す。

コンビニの店員がレジで商品を袋に詰め、合計料金を言って金を受け取り、レシートを渡すという一連の行為を、多数の顧客相手にスムーズにこなせるのと一緒です。しかし、彼らは売りさばいている商品の一一を由来・効用を説明する必要もないし、そもそも出来ない。

コンビニの場合、また客はそれを求めてもいない。そんなことをされると客は逆に困ってしまうでしょう。

コンビニについては、早くて便利という理由から、大きな需要があります。寺もそうした理由で一部から必要とされているところもありますが、しかしこれに関してコンビニと同じようなわけにはいきません。

寺の場合、コンビニのレジ打ちの如きことをするのを含め、さらに、そもそも売っている商品を逐一説明すること、またその商品の効用を示すことに価値があるものだからです。またコンビニのように全く不特定多数の者が顧客ではない。檀家寺でも信者寺であっても、相手はある程度特定された人々で、どこまでも三河屋的です。

そして実際、馴染みにしろ新規にしろ、その客の中には本来の商品であった上質な味噌をこそ求める人があります。いや、この三河屋は、積極的に三河の味噌の良さを人に宣伝し、薦めなけれなならない。

しかし、僧職の人や寺族一統に、「今の坊さんなんてコンビニの店員と同じようなもんでしょう？」などと言ってしまえば、「なんと非常識な、失礼な輩であるか」と怒りだしてしまう人が多いでしょう。プライドだけはその実に比して異常なまでに高いのです。コンビニは現代社会の役に十二分に立っているというのに。

日本の寺院がなぜ三河屋化し、そしてまたコンビニと化したかを、あるいは社会の要請によってそうなったのだ、と説明することも可能でしょう。「何故そうなったか？それは社会の需要と供給という観点からすれば一目瞭然なのだ」と。

確かに寺院のあり方というものは、経済的に社会に依存することを前提としているために、社会の経済的状況・人々の宗教的要求によってもそのあり方を変化せざるを得ないものです。しかし、何故そのようになったかの理由をいくら歴史的客観的に斯く斯く云々と説明したところで、それが彼ら僧職者がそのような状況で良いという釈明や根拠には全くならない。

僧職者・寺族の人がこの点についていかに客観的な言を振るったとしても、それは単なるおためごかしにしかならないでしょう。

けれども、そのような説明をもって充分な釈明・自身のあり方の根拠となっているつもりでいる者は、現実には多くあります。

衆寡敵せず。もはや日本の寺院というもののほとんどが、完全に「家族を囲うための、寺の形をした家」に過ぎなくなっている現在そして未来、このような状況が変化することはきっとないでしょう。

そのようなこともあって、今の日本社会において、その内容はともかくとしても仏教を世に説き示す役割を担っているのは、学術的にのみ云々しつつ、しかし何故か滔々と「説法」しだしてしまう一部の仏教学者・文献学者と、多くの仏教系新興宗教団体となっています。

漸々と寂れていく三河屋がある町に、化学調味料をたっぷり使った味噌専門店が新規に出店し、様々に宣伝広告を駆使して繁盛しているようなものです。

しかしながら、せめて僧職の人々は、いや、それだけなく多くの仏教系新興宗教をこそ信ずる人々も、自身が仏教徒であるとする以上は、せめて四諦十二縁起だけは、机の上だけでも確実に学び、さらに修めてこれを日々に念じ、その上で空を説くならばこれを確かに学び理解して説いて欲しいものです。

あるいは、あくまでそれらを全く踏まえた上で、さらに進んで華厳の重々縁起を世に示したければ世に示し、また例えば私はどうしても南無阿弥陀仏、あるいは南無妙法蓮華経と称えたいのだなどと言う人があれば、いくらでも称えればよいと思います。

自身が大乗の流に属する派を信仰しているからといって、これらを小乗の教えで低い劣ったものである、などと端から断じて顧みないようではいけません。

拙い例えですが、譬えば良い餅を求めてこれを作るには、まず良い餅米が必要であるようなものです。そして、その餅米を手に入れたとしても、それを米びつに後生大事に仕舞っておいても仕方がありません。それを上手く搗かなければ、餅になることは決してないでしょう。「いや、そんな面倒なことをせずとも、私は初めから老舗の餅屋に買いに行く」というのは、この場合通用しません。

または、家を建てるのに、その確かな土台・基礎を作ることがなければ、どれだけ「設計図上は」素晴らしいように思われる家であっても、建ちようがないようなものです。あるいは一時的にこれを建て得たとしても、それは砂上の楼閣に等しき虚妄にすぎません。なにより基礎こそが、まず最も重要なものであることは、あらゆることについて言い得るものでしょう。

算数すらまともに出来ない者が、なにやら難しげな数式がずらりと並んだ紙をただありがたがって神棚に飾ってただ崇め奉り、勉強そっちのけで「理解できるようになりますように」などと一心に祈るようなのを、愚かと思わぬ人があるでしょうか。

基礎的な技術や知識・経験を積み重ねることなく他所から剽窃し、これを元来我が物であったかのように言って、表面だけ豪盛にさも実があるかのように見せかける、現代で言えば支那や朝鮮の如きものを、一体誰が真から求めるというのでしょうか。

老い、そして死

日本には、僧侶が葬式自体に関わることを批判する人もいますが、僧侶が葬式に関係することは決して悪いことではありません。

世の中には捉え違いをしている人があるようですが、釈尊は「私（仏陀）の遺骨の供養に比丘たちは関わってはならない。比丘たちは出家した目的を目指してひたすらはげめ」などと言ったのであって、比丘が社会の人々の葬式に関わってはならない、などと説かれたことはありません。

また実際、そのような律の条項も一切ありません。ただ確かに、仏教の修行そしてその結果云々と葬式とは、まったく関係のないことではあります。

しかし実際、世界的にみた場合、多くの国・地域の僧侶らは、なんらかの形でそれぞれ葬式に関わっています。

その時こそ、僧侶は人の死を、世の無常なることを重ねて説くのです。

故に、人の死の場面に、出来るならばその死の前にも、僧侶が行って経を読むなり、（仏教の）様々な話をするなりすることは大変良いことです。人の死という場面は、それが葬式であったとしても、人がまさしく無常に直面する機会であるからです。

愛する人を失った悲しみに打ち震え、止めることの出来ぬ涙を流しつつ、「愛する人はもはや息を止め、体は冷たくなってもう二度と動くことはない。人は誰であり死に逝く者、私もいずれ必ず死ぬ」という、あまりに当たり前の、そして誰も本当に理解していない事実と真剣に対峙することも可能でしょう。

とは言え、死と向き合うのは病院までのことで、その遺族は葬式そしてそのそれに伴う社会的なあれこれに忙殺され、葬式時にそのような暇など全く無い、というのが大方の現状のようです。これは、社会全体が利便性合理性を追求し、商業主義的になりすぎた結果とも言えるかも知れません。町や村といった地域共同体が昔とはまったく異なる現在、しかし、その代替案はなかなか見出しがたいようです。

現代社会、特に日本では死というもの、さらには老いというものをすら覆い隠そうとする風潮がますます強まっていくようです。しかし、十二縁起というものを理解せんとするとき、まずもっとも重き意味を持つものがその最後支である老死です。

十二縁起は無明に始まるものではありますが、これを我が事として捉えるとき、いや、そもそも十二縁起は我が事として捉えなければただの知的遊戯に成り果てる可能性の大なるものですが、最後の老死すなわち我が人生の老死ならびに諸々の苦しみというものをいかに真剣に捉えるかということは、その人の縁起理解に大きく関わるものとなるに違いありません。

無常迅速　生死事大。

老死そして愁・悲・苦・憂・悩を契機としてこそ人は、仏陀が説かれた十二縁起を、まさしく法として理解していくことが出来るでしょう。生あるうちに訪れるのは老・病・死ばかりではなく、愁悲苦憂脳それぞれ海波のごとくやってきますが、それは多くの場合、喉元過ぎれば熱さ忘れてしまうものかもしれません。

私達は今まさいく老いていきつつある。いや、もうすでに充分老いている。そして様々に病み、あるいは徐々に、あるいは突如として死んでしまう。私の死はもう、すぐ目の前にある。

この当たり前の、いや、人が無意識に呼吸していることのような、まったく当たり前のものであるが故に普段すっかり忘れてしまうこの事実を見つめたときにこそ、たとえ初めは到底理解できぬものであったとしても、誰でもこの十二縁起の教えを聖なるものとして、四聖諦と不可分のものとして我が身に受け入れることが出来ようと私は信じます。

また少しでも多くの人が、この甚深微妙なる聖なる教えを、まさしく我が事として受け入れて、これをジッと見つめ、やがてこの束縛から解き放たれることを願ってやみません。

小苾蒭覺應（慧照）拝記

(By Bhikkhu Ñāṇajoti)

相応部経典 因縁篇12　第7・67　蘆束

〈　和　訳　〉

── このように私は聞きました。

ある時、尊者サーリプッタは、バーラーナシーのサールナート〈仙人堕処・鹿野苑〉に滞在していました。

その時、尊者マハーコッティカは、晡時〈夕方、申の刻〉に、宴坐〈瞑想〉から起って、尊者サーリプッタの許を訪れました。
そして、尊者サーリプッタと共に挨拶を交わして、一方の席に座り、そして次のように尋ねました。

老死

　「友、サーリプッタよ。
　　老死は自作なのてあろうか、それとも他作なのてあろうか、
　　あるいは自作にして他作なのてあろうか、それとも、自作でも他作でもなく無因生なのであろうか？」

　「友、マハーコッティカよ、
　　老死は自作ではありません、そして他作でもありません、
　　自作にして他作でもなく、そしてまた、自作でも他作でもなく無因生でもないのです。
　　〈老死はそれらのどれにも該当しません〉 生に縁りて老死があるのです」

生

　「それでは、友、サーリプッタよ。
　　生は自作なのてあろうか、それとも他作なのてあろうか、
　　あるいは自作にして他作なのてあろうか、それとも、自作でも他作でもなく無因生なのであろうか？」

　「友、マハーコッティカよ、
　　生は自作ではありません、そして他作でもありません、
　　自作にして他作でもなく、そしてまた、自作でも他作でもなく無因生でもないのです。
　　〈生はそれらのどれにも該当しません〉 有に縁りて生があるのです」

有

　「それでは、友、サーリプッタよ。
　　有は自作なのてあろうか、それとも他作なのてあろうか、
　　あるいは自作にして他作なのてあろうか、それとも、自作でも他作でもなく無因生なのであろうか？」

　「友、マハーコッティカよ、
　　有は自作ではありません、そして他作でもありません、
　　自作にして他作でもなく、そしてまた、自作でも他作でもなく無因生でもないのです。
　　〈有はそれらのどれにも該当しません〉 取に縁りて有があるのです」

取〈取取著〉

　「それでは、友、サーリプッタよ。
　　取は自作なのてあろうか、それとも他作なのてあろうか、
　　あるいは自作にして他作なのてあろうか、それとも、自作でも他作でもなく無因生なのであろうか？」

　「友、マハーコッティカよ、
　　取は自作ではありません、そして他作でもありません、
　　自作にして他作でもなく、そしてまた、自作でも他作でもなく無因生でもないのです。
　　〈取はそれらのどれにも該当しません〉 愛に縁りて取があるのです」

愛〈渇愛〉

　「それでは、友、サーリプッタよ。
　　愛は自作なのてあろうか、それとも他作なのてあろうか、
　　あるいは自作にして他作なのてあろうか、それとも、自作でも他作でもなく無因生なのであろうか？」

　「友、マハーコッティカよ、
　　愛は自作ではありません、そして他作でもありません、
　　自作にして他作でもなく、そしてまた、自作でも他作でもなく無因生でもないのです。
　　〈愛はそれらのどれにも該当しません〉 受に縁りて愛があるのです」

受

　「それでは、友、サーリプッタよ。
　　受は自作なのてあろうか、それとも他作なのてあろうか、
　　あるいは自作にして他作なのてあろうか、それとも、自作でも他作でもなく無因生なのであろうか？」

　「友、マハーコッティカよ、
　　受は自作ではありません、そして他作でもありません、
　　自作にして他作でもなく、そしてまた、自作でも他作でもなく無因生でもないのです。
　　〈受はそれらのどれにも該当しません〉 觸に縁りて受があるのです」

觸〈接触〉

　「それでは、友、サーリプッタよ。
　　觸は自作なのてあろうか、それとも他作なのてあろうか、
　　あるいは自作にして他作なのてあろうか、それとも、自作でも他作でもなく無因生なのであろうか？」

　「友、マハーコッティカよ、
　　觸は自作ではありません、そして他作でもありません、
　　自作にして他作でもなく、そしてまた、自作でも他作でもなく無因生でもないのです。
　　〈觸はそれらのどれにも該当しません〉 六処に縁りて觸があるのです」

六処

　「それでは、友、サーリプッタよ。
　　六処は自作なのてあろうか、それとも他作なのてあろうか、
　　あるいは自作にして他作なのてあろうか、それとも、自作でも他作でもなく無因生なのであろうか？」

　「友、マハーコッティカよ、
　　六処は自作ではありません、そして他作でもありません、
　　自作にして他作でもなく、そしてまた、自作でも他作でもなく無因生でもないのです。
　　〈六処はそれらのどれにも該当しません〉 名色に縁りて六処があるのです」

名色

　「それでは、友、サーリプッタよ。
　　名色は自作なのてあろうか、それとも他作なのてあろうか、
　　あるいは自作にして他作なのてあろうか、それとも、自作でも他作でもなく無因生なのであろうか？」

　「友、マハーコッティカよ、
　　名色は自作ではありません、そして他作でもありません、
　　自作にして他作でもなく、そしてまた、自作でも他作でもなく無因生でもないのです。
　　〈名色はそれらのどれにも該当しません〉 識に縁りて名色があるのです」

識

　「それでは、友、サーリプッタよ。
　　識は自作なのてあろうか、それとも他作なのてあろうか、
　　あるいは自作にして他作なのてあろうか、それとも、自作でも他作でもなく無因生なのであろうか？」

　「友、マハーコッティカよ、
　　識は自作ではありません、そして他作でもありません、
　　自作にして他作でもなく、そしてまた、自作でも他作でもなく無因生でもないのです。
　　〈識はそれらのどれにも該当しません〉 名色に縁りて識があるのです」

　「今私たちは、尊者サーリプッタの所説を、次のように知りました。
　　『友、マハーコッティカよ、名色は自作ではありません、そして他作でもありません。
　　　自作にして他作でもなく、そしてまた、自作でも他作でもなく無因生でもないのです。
　　　〈名色はそれらのどれにも該当しません〉 識に縁りて名色があるのです』と。
　　そしてまた、尊者サーリプッタの所説を、私たちは、次のようにも知りました。
　　『友、マハーコッティカよ、識は自作ではありません、そして他作でもありません。
　　　自作にして他作でもなく、そしてまた、自作でも他作でもなく無因生でもないのです。
　　　〈識はそれらのどれにも該当しません〉名色に縁りて識があるのです』と」

　「友、サーリプッタよ、これらの所説の義〈意味〉を、どのように理解すればいいのだろうか？」

蘆束の譬え

　「友よ、それでは譬えによって説明しましょう。
　　友よ、譬えば二つの蘆束 (あしたば) が互いに相依りて立っているとしましょう。
　　友よ、それと同じように、名色に依りて識があり、識に依りて名色があるのです。
　　そして、その名色に依りて六処があり、六処に依りて触があり、触に依りて受があり、
　　愛に依りて愛があり、愛に依りて取があり、取に依りて有があり、有に依りて生があり、
　　生に依りて老死がある　…… これらがつまり、全苦蘊の集なのです。　　　

　　友よ、もしそれらの二つの蘆束の中の一つを取り去れば、もう一方は倒れてしまいます。
　　それと同じように、名色の滅に依りて識の滅があり、識の滅に依りて名色の滅があるのです。
　　そして、その名色の滅に依りて六処の滅があり、六処の滅に依りて触の滅があり、
　　触の滅に依りて受の滅があり、受の滅に依りて愛の滅があり、愛の滅に依りて取の滅があり、
　　取の滅に依りて有の滅があり、有の滅に依りて生の滅があり、 生の滅に依りて老死の滅がある　
　　… これらがつまり、全苦蘊の滅なのです」

　「友、サーリプッタよ、希有なことです、友なる、サーリプッタよ、未曽有なことです。
　　これは尊者サーリプッタによって、よく説かれ説明されました！
　　私たちはまた、この尊者サーリプッタの所説を、これらの三十六事を以って、随喜するでしょう！」

『法師の比丘』・『法・随順法を行ずる比丘』・『現法涅槃に達する丘』と言うに適する比丘

　「友よ、もし比丘にして、老死の厭離・離貪・滅によって法を説くならば、
　　『法師の比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、老死の厭離・離貪・滅を行ずるならば、
　　『法・随順法を行ずる比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、老死の厭離・離貪・滅に取著することなく解脱するならば、
　　『現法涅槃に達する丘』と言うに適するでしょう。

　　友よ、もし比丘にして、生の厭離・離貪・滅によって法を説くならば、
　　『法師の比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、生の厭離・離貪・滅を行ずるならば、
　　『法・随順法を行ずる比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、生の厭離・離貪・滅に取著することなく解脱するならば、
　　『現法涅槃に達する丘』と言うに適するでしょう。

　　友よ、もし比丘にして、友よ、もし比丘にして、有の厭離・離貪・滅によって法を説くならば、
　　『法師の比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、有の厭離・離貪・滅を行ずるならば、
　　『法・随順法を行ずる比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、有の厭離・離貪・滅に取著することなく解脱するならば、
　　『現法涅槃に達する丘』と言うに適するでしょう。

　　友よ、もし比丘にして、取の厭離・離貪・滅によって法を説くならば、
　　『法師の比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、取の厭離・離貪・滅を行ずるならば、
　　『法・随順法を行ずる比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、取の厭離・離貪・滅に取著することなく解脱するならば、
　　『現法涅槃に達する丘』と言うに適するでしょう。

　　友よ、もし比丘にして、愛の厭離・離貪・滅によって法を説くならば、
　　『法師の比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、愛の厭離・離貪・滅を行ずるならば、
　　『法・随順法を行ずる比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、愛の厭離・離貪・滅に取著することなく解脱するならば、
　　『現法涅槃に達する丘』と言うに適するでしょう。

　　友よ、もし比丘にして、受の厭離・離貪・滅によって法を説くならば、
　　『法師の比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、受の厭離・離貪・滅を行ずるならば、
　　『法・随順法を行ずる比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、受の厭離・離貪・滅に取著することなく解脱するならば、
　　『現法涅槃に達する丘』と言うに適するでしょう。

　　友よ、もし比丘にして、觸の厭離・離貪・滅によって法を説くならば、
　　『法師の比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、觸の厭離・離貪・滅を行ずるならば、
　　『法・随順法を行ずる比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、觸の厭離・離貪・滅に取著することなく解脱するならば、
　　『現法涅槃に達する丘』と言うに適するでしょう。

　　友よ、もし比丘にして、六処の厭離・離貪・滅によって法を説くならば、
　　『法師の比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、六処の厭離・離貪・滅を行ずるならば、
　　『法・随順法を行ずる比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、六処の厭離・離貪・滅に取著することなく解脱するならば、
　　『現法涅槃に達する丘』と言うに適するでしょう。

　　友よ、もし比丘にして、名色の厭離・離貪・滅によって法を説くならば、
　　『法師の比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、名色の厭離・離貪・滅を行ずるならば、
　　『法・随順法を行ずる比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、名色の厭離・離貪・滅に取著することなく解脱するならば、
　　『現法涅槃に達する丘』と言うに適するでしょう。

　　友よ、もし比丘にして、識の厭離・離貪・滅によって法を説くならば、
　　『法師の比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、識の厭離・離貪・滅を行ずるならば、
　　『法・随順法を行ずる比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、識の厭離・離貪・滅に取著することなく解脱するならば、
　　『現法涅槃に達する丘』と言うに適するでしょう。

　　友よ、もし比丘にして、行の厭離・離貪・滅によって法を説くならば、
　　『法師の比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、行の厭離・離貪・滅を行ずるならば、
　　『法・随順法を行ずる比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、行の厭離・離貪・滅に取著することなく解脱するならば、
　　『現法涅槃に達する丘』と言うに適するでしょう。

　　友よ、もし比丘にして、無明の厭離・離貪・滅によって法を説くならば、
　　『法師の比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、無明の厭離・離貪・滅を行ずるならば、
　　『法・随順法を行ずる比丘』と言うに適するでしょう。
　　友よ、もし比丘にして、無明の厭離・離貪・滅に取著することなく解脱するならば、
　　『現法涅槃に達する丘』と言うに適するでしょう」と。