私が「ある」と思ってしまう理由

http://pacha21.com/buddha/IamHere.htm

はじめに

メンタル・エネルギーの流れに名前をつけた　　認識の前では無力な「わたし」

断片を繋ぐことで生まれた「わたし」　　　　　錯覚された連続性と同一性を常識は必要とする

対象のエネルギーと同化してしまうため　　　　物質、物質エネルギー、メンタルエネルギーとの同化

意識と心も物質エネルギーがあってはじめて存在する

心路citta vithiが作り出した「わたし」

　確定心と速行心が主観性を作り上げる

　bhavangaに戻る回数が増えるため　

cittaの生滅スピードが早すぎるため

瞬間のものを連続することで実体があると幻想する　　　　

釈尊の指摘と覚り　　一瞬を常在と錯覚する心路のメカニズム　　　

　「生」と「滅」は認識できるのか？「生・住・滅」のうちに「住」しか認識できないメカニズム　　

　aniccaの多層性

Sōtapanna道へのaniccaの理解

心所cetasikaが作り出した「わたし」

　心所cetasikaのmanasikāra「喚起」が原因の場合

　心所cetasikaのcetanā「統合」が原因の場合

　心所のvedanā「タグ付け」が原因の場合

心所のsaññā「一般化」が原因の場合

有身見を「無我」と誤解して預流果になれない理由

　伝統的誤謬

　無我思想の特徴

　翻訳が原因　　魂（attā）と無我（anatta）の定義

主格があることを前提にした生き方　　　（The Manuals of Dhammaの見解）

コラム

メンタル・ボディ

アニッチャ体験　　消える「さえずり」

永遠不滅は変化しないので何とも繋がりがない？

オウム真理教の無我の正当性と無我思想の欠点

私説　　２つの無限と「わたし」

明治文化人の自己意識との出会い

宇宙と自己意識

わたしが作成されるプロセス

わたしの力　attāはいかにヒトを凶暴にするのか

わたしの破壊のメリット

わたしによって生じた全能の神

非我の覚りとkamma

過去のkammaはどのように無効になるのか

参考資料

いつも間違えている「わたし」　　　

自己ってなんじゃ？

間違える理由とは？　　　　　意識のメカニズム

自己は幻想なの？

自由意志って本当にあるの？

はじめに

「わたし」が存在することを前提にして社会は成り立っています。

しかし、生きている時に「わたし」を感じない時空があちこちにあることはみんなが経験していることです。

なにかに夢中になっている時、

感覚を追いかけている時、

考えるのを止めた時、

本を読んでいる時、

寝ている時、

驚いた時、

禅定、

これらにはどんな関係性があるのでしょうか？

そこには因果関係はあるのでしょうか？

何か法則性はあるのでしょうか？

そこで、「私なんかはない」ことを前提にしてみることで、今まで考えたことのない世界を垣間見てみようというのが今回の試み（エッセイ）です。

「私」は固定したものではなく、対象に合わせて変化する体験をすることで、「主体の意識」を大切にする生き方をすることができます。

すると、無我に騙されないで、「わたし」にこだわるのではなく、あるTPOでは大切な欠かせないものであり、より軽く柔らかく楽に生きるために必要不可欠であることが実感できるかと想います。

ないんだけど、あるのが「私」。

「生・住・滅」の世界では有無という二元論は通用しません。

その時にどこに同化しているかで「顔」がかわります。

私が「ある」と思ってしまうのはなぜ？

エネルギーの流れを編集するものに「わたし」という名前をつけた

どうやって「わたし」という自覚が生まれるのでしょうか？

それは眼耳鼻舌身意という感覚器官の働きによってです。「わたし」があるわけではなく、これらの６つの感覚器官の働き方によって、虹や蜃気楼のように見えてくるのが「わたし」です。

雨の後や、暑いときに、虹や蜃気楼が見えのであって、それら自体が実在するわけではなく、メカニズムによって起こるものなので、「認識の錯覚」と呼ぶこともできるものです。

別の角度からアプローチしてみます。

物質エネルギーと物質エネルギーとの接触からメンタル・エネルギーの流れが起こり、それを認識と呼びます。

たとえば、ボールとが皮膚にぶつかるエネルギーを、メンタル・エネルギーは痛さを感覚します。

つまり認識とは単なるメンタル・エネルギーの流れでしかありません。

この認識の主語が「私」ではなく、「知る機能」そのものだということを説明してみます。

上記のような「知る（認識する）機能があるもの」を心があるもの、すなわち生命と私たちは呼びます。

生命と呼ばれるためには認識機能が必要です。認識機能がなければ生命とは言えません。

次に生命について熟慮してみると、

認識する機能はずっと休みなく続いているので、それらを私たちは仮に「生命」と呼んでいるにすぎません。

換言すると、認識があるから「生命」と呼ばれるものがあるのであって、「生命」というものがあるわけではありません。

他の見方をすると生命が対象を認識しているのではなく、対象に反応するエネルギーの流れを「私」（生命）と仮に呼んでいるにすぎません。

知る機能が勝手に世界を認識してしまってエネルギーが発生しているので、これらの断片を繋げ合わせる核を仮に「私」と名付けてるのです。

たとえば音の波動エネルギーが耳の鼓膜の振動エネルギーに転換され、それが神経を介して電気反応と化学反応として脳に伝達され、認識されます。

この認識し続けてしまう現象の数々を繋ぎ合わせることで、「自分という実感」の錯覚が生まれているにすぎません。

つまり、はじめに繋ぎ合わされた数々の現象（連なる認識というメンタル・エネルギーの流れ）があり、それらを統合する「編集機能」が浮かび上がってきて、それを「私」と呼ぶことにしているのです。

２つのエネルギーの流れを「わたし」と呼ぶ　　制御している核などはない

この世には、ただ肉体という物質の流れと心という認識の流れがあるだけで、それを「私」と呼んでいるにすぎないことを理解してみます。

「私」とは自分自身の体と心もコントロールすることもできないモノです。

コントロールするための核にすることができない証拠は、健康の維持と心の願望も叶えることができず、老化、病気、死を避けることができないことからわかります。

たとえば『これこそ多摩川である』という核になる部分などあるのでしょうか？

どこを探しても、ただ水の流れがあるだけです。つまり、多摩川は一つの流れの事で、流れを支配している核はありません。

同様に物質と心の流れがあるだけ、これらをコントロールする司令官がいるわけではありません。もし司令官を想定するのであれば、常に物質と心の流れに翻弄されているだけです。

「わたし」は認識の前では無力である

たとえば、テレビのスイッチが急に入ると、そこから音と映像が流れ出す。するとそれを「自分」の意思に関わらず、勝手に認識してしまいます。

自分に力があるのならば、「海は見るが雲は見ない（認識しない）」と強く決心すれば、それぐらいのことならばコントールできそうな気が少ししますが、それは不可能です。

いくら自分が認識しないように試みても無駄です。

このようなケースでは、まずは認識があり、それによって自分がある、ことを実感します。

自分は無力である、という実感でもあります。。

自分は認識を選択することができず、6感覚器官を介して入力される信号をただ認識するだけです。

このようにみると、自分とは物事の働き、すなわちエネルギーの流れでしかありません。

しかし、認識し続けてしまっている現象の数々を繋ぎ合わせることで、「自分というの実感」、すなわち錯覚が生まれてしまっているにすぎません。

マインドも実体はない

実は、マインドと呼ばれる意識にも実体はありません。

しかし、「私には自分独自のマインドがある」と感じる（錯覚する）理由は、

私たち一人一人が独自の方法で外の世界を経験し、外部からの感覚入力について自分の感情や認識（例えば、同じ人を見たときの愛や怒りなどの違う反応）を持っているからです。

なぜなら、私たちが持っている一連の傾向（性格、習慣）に基づいて、感覚入力を知覚して評価する「独自の方法体系」が各自によって異なるからです。

意識は、５感覚器官を介した信号が体内に入力された時に生じます。

たとえば、、スプーンでグラスを叩くとどうなるか考えてみます。

さて、その音はどこから来たのですか？グラスの中からですか？　　いいえ。

スプーンの中から音はしましたか？　　　　　　　　　　　　　　　いいえ。

スプーンがガラスにぶつかった結果、音が出ました。スプーンがグラスにぶつからない場合、音はありません。

物質と物質が接触し、それを「知る」すなわち、認識する時に、意識が生まれています。

知らないうちにイメージ変更されている私たちの意識

「マインド」と私たちが大雑把に呼んでいるものは、上座部仏教でいうviññānakkhandha識蘊のことです。

これは「知る機能」であるcittaが自動反応回路化する最後の9段階目にあたるもので、これを経典では汚れたcittaと表現しています。　　　上座部仏教における心の９段階

それは入力された信号をそのまま認識するのではなく、表層意識が気が付かないうちに、色蘊でのイメージ化、受蘊での３種類のタグの付着、想蘊での過剰一般化と判断、そして行蘊で限定されたの出力の結果の影響を受けて認識させられているからです。一言でいうと各自の経験という偏見に彩られたようにしか私たちは理解することができないというわけです。

「繋ぐ」ことで生じる「わたし」　　連続性と同一性を前提にする社会の常識

たとえば、思考というにはこのような意識（識蘊）で組み立てられるものなので、これも実体はありません。

ですから、思考の連鎖のように2つのものを繋ぐのが思考の特徴なので、この繋ぐという行為でこの世に連続性と同一性も錯覚されます。

静止画を繋ぐことで映画のように連続的な動画であるように見えます。

すべての種類の個別のスナップショットのような感覚入力が同時に「マインド」に来ると、連続した映画を見るように、私たちは連続したマインドがあるように感じます。

また、屋根瓦を繋げることで瓦は同じものとなりますが、実際はどんな精密機器を使ってもこの世では同一のものはありえません。

たとえば炭素にしても同じ分子に見えますが、原子核の中性子と原子はそれぞれ崩壊時間が異なるので、同じ分子さえも存在しません。

このような連続性と同一性は社会の常識の基盤として重宝しますが、実際のありのままの姿ではありません。

対象のエネルギーに「わたし」を同化させているため　　　　　　

物質エネルギー　　　　　　　

物に私を同化させていると、所有物や所有権を自分の分身かのように過剰な執著を持つ

体に私を同化させると、身体の機能や見栄えに人一倍の関心と努力を費やす

メンタル・エネルギー　メンタルにはエネルギーがあるのか？　メンタル界の構成要素とは？

自我とは大異熟心mahāvipāka-cittaに私を同化させたもの。　　　

大異熟心mahāvipāka-cittaとは、五感一意（6感覚器官）を介して感じたことについて「考える」と異熟心というkammaになり、その行為の結果vipākaのことです。

大異熟心mahāvipāka-cittaとは、過去世の行為kammaの結果vipākaが転生した現世での心で、一生涯分の心の能力や性格を決めたもの。これを基準にして思考を繰り返しているのが自我です。

自己とは「五蘊」に私を同化させたもの

自己とは、自分とも呼ばれる主体のこと、すなわち「わたし」のことです。つまり私とは五蘊のことです。

五蘊とは生命体の心を色受想行識の５つに分別したもので、これがわかると苦しみから離れることができます。

特に特徴的なのは自分のもっているカルマ、すなわち行sankhāraです。自分の言動によって作ったカルマの積み重ね、すなわち自動反応回路の総和sankhārakkhandaです。また個々のイメージの総和rūpakkhandha、一般化された知識の総和saññākkhandha、体験された感覚の総和vedanākkhandhaが、社会の一般的レベルでいう「自己」に相当します。

釈尊の風　五蘊篇　　　　心のメカニズム　　人類史の発見

認識システムと五蘊　そこからの離脱法

色rūpaと色蘊rūpakkhandha

受vedanāと受蘊vedanākkhandha

想saññāと想蘊saññākkhandha

行sankhāraと行蘊sankhārakkhandha

識viññānaと識蘊viññānakkhandha

本来の自己とは、色界の心所に私を同化させたもの

禅宗でよく言われる「本来の面目」のこと、「空劫以前の自己」や「父母未生以前の本来の自己」とも呼ばれる。

色界の15の心所は、善心・・・よい心、異熟心・・・生まれ変わりの心、唯作心・・・はたらきだけの結果を生まない心に分類される。

カミなる自分とは、無色界の心所に私を同化させたもの。

無色界の12の心所は善心・・・よい心、異熟心・・・生まれ変わりの心、唯作心・・・はたらきだけの結果を生まない心に分類される。

覚りの自分とは、出世間の心所に私を同化させようとすると「わたし」が消えてしまったこと。

涅槃nibbānaの8の心所　　　　エネルギーと時空がない世界　　「わたし」があるとは想わない境地。

lokuttara-citta 出世間心

magga-citta 4　　　道心

sotāpatti-magga-cittaṃ, sakadāgāmi-magga-cittaṃ, anāgāmi-magga-cittaṃ, arahatta-magga-cittañ ceti,

imāni cattāri pi lokuttara-citta-kusala-cittāni nāma.

預流道心、一来道心、不還道心、阿羅漢道心、というこれら４つが出世間善心と呼ばれる。

phala-citta 4　　　果心　p40,32

sotāpatti-phala-cittaṃ, s-phala-cittaṃ, anāgāmi-phala-cittaṃ, arahatta-phala-cittañ ceti,

imāni cattāri pi lokuttara-citta-vipāka-cittāni nāma.

預流果心、一来果心、不還果心、阿羅漢果心、というこれら４つが出世間異熟心と呼ばれる。

ソターパンナSōtapanna、サカダーガーミsakadāgāmi、アナーガーミanāgāmi、アラハンarahat

アートマン（真我）とはbhavangaに私を同化させたもの

アートマンとは梵我一如の「我」のことで、外とは遮断されて熟睡している意識の状態　　　

bhavangaとは知る機能である心路が始まる時や２つの心路の間にあるcitta（心）のこと。

この2つは同じもの、つまりアートマンとはbhavangaのことです。

外から見ると光ですが、中は暗闇で、沈黙として体現されます。

Bhavanga（「bhava」+「anga」、ここでの「anga」は「の一部」を意味します）は、生命体の特定の「bhava」、を表します。

マインドがbhavanga状態にあるとき、私たちは何も「感じません」。また眼がそれ自体を見ることができないように、マインドはそれ自体の状態を「見る」ことができません。

また、深い眠りや意識がないときは、完全にbhavanga状態です。

マインドは通常bhavanga状態にあります。

対象の5つの物理的な感覚（cakku、sōta、ghāna、jivhā、kāyaindriya）のいずれかを介すると、bhavanga状態は解除されます。

心は物質に依拠している　　物質がなければ心はない

上記のような「知る（認識する）機能があるもの」のことを心があるもの、すなわち生命と私たちは呼びます。

つまり、心とは「知る機能」である、ということです。

知る機能がはたらくと意識が立ち上がります。

そして意識は物質に依拠しているので、物質の変化が「知る機能」の回転になります。

論蔵によると、この回転とは17のcittaによる心路citta vithiが回転することで、対象を認識するシステムのことです。

色、声、香、味、触などの物質エネルギーが感覚器官にぶつかることで、対象を認識しようと意識が立ち上がります。すなわち認識する心（citta）とは物質に基づいて働きます。

心（citta）が基盤としている物質エネルギーがhadaya vattuと呼ばれるものです。

このhadaya vattuの中で心は活動します。

たとえば電気はいつでも電池という物質の中に生まれるように、心（知る機能）のエネルギーは身体の物質エネルギーに依拠しています。

物質エネルギー（身体）がなければ心は何も知ることはできません。

すでに身体自身で外の世界を認識して勝手に反応しており、身体自身は心が働く物質エネルギーになっている。

H₂Oに生命（生命＝知る機能＝認識機能＝心）はないが、外界によって氷、水、水蒸気と勝手に反応して姿を変える。

この反応は認識の結果なのか？認識とは呼ばないのか？認識を介さない反応があるのか？心があるのか？認識機能をもつものが生命だという定義が間違っているのか？

H₂Oには反応の選択をできないので心があるとはいえないが、生命体は反応の選択肢がある場合には心の想saññāによって比較判断し、識viññānaによって反応を選択している。

心路citta vithiのメカニズムによって「私」があるように感じてしまう理由

心路の確定心が認識を主観的にさせる

ヒトの認識のプロセスである心路をみると、感覚として受け取る入力信号をそのままに受け取るのではなく、8番目の確定心が瞬間的に判断するということは、その機能を見れば明らかです。

また実際の認識となる速行心の機能を見ればわかるとおり、各自の過去のデータと印象と概念と自動的に結びついて判断されたり結論付けられたりすることから、各自が思考や条件反射をする以前の認識の段階で偏見や誤解が含まれるのは明らかです。

対象に対する判断が客観的な事実ではなく、認識する人の主観に依拠するのは心路によって認識プロセスが行われるためです。

したがって、自他（特に自分）の意見に固執する理由がないこともこの心路システムが明らかにしています。

bhavangaに戻る回数が増えるため　

認識できる物質の中で最も速く変化するのは光ですが、１つの光子を認識するために少なくても17の心の回転が必要です。これからcittaのスピードを概算すると、秒速30万（299792458） m/sの光が目の前の1センチを通り過ぎる時間は、約3000万分の1秒でその間に17回のcittaの生滅があるとすると、これを17等分すると、約5億分の1秒となります。

また他の計算式では

10⁻²×4秒（静止画が動画として見える間隔）×10⁻⁶秒（脳の処理速度）÷17（心路のcitta数）≒10⁻⁹ 秒×4/7

とすると1つのcittaは10⁻⁹ 秒（10億分の1秒）で生滅します。

cittaが生滅することでヒトは対象を認識します。

その認識は心路citta vīthiと呼ばれる17回のcittaの生滅を繰り返すことで行われるのだが、そのたびにbhavangaという「元の自分」に一度戻ってから繰り返されます。

ちなみにこの沈黙の中で活動を休止している「元の自分」がインド哲学の梵我一如の「我」のことです。

心路citta vīthiを使う回数があまりにも多くなると、戻る度に「自分」という実感があるので、この状態がずっと続くと、「自分がいる」という誤解が生まれる、と推察されます。

cittaの生滅が早すぎるため

また、光や音よりも早く変化していく「citta」は周囲と比較することで、相対的に「変化していない実体」として感じられてしまい、cittaが認識の核になるので、常に「中心」すなわち「主体である自分」を基準にするという実感を持ってしまいます。

そして、これらの実感から「変化しない自分」や「永遠の我」がここにあるのだ、というところまで勘違いをするケースもあります。

音の場合のcittaの処理速度

1秒間に音が4000万回（40メガヘルツ）変化しているとヒトは音として認識できます。

しかし変化する回数が速くなると、その変化を捉えられなくなります。

この時の計算式は？

実体があると幻想する原因　　　　物質と心を混濁したまま統合するため

心路citta vīthiの構造からして生命体の認識は、一連の「静止イメージ」で「目の前の動的世界」を体験します。

つまり、10億分の17秒の静止信号の連続でこの「動き」を把握します。

そして、瞬間的に消えるこの「静止信号」を補填する記憶や未来予測を混合したあとに統合してイメージ化（パターン認識）することで実体のあるもの（永続的な世界）と誤謬することも可能になります。

このプロセスを論蔵Abhidhammaでは以下のように説いています。　出典？

マインドは外界を静止画のようにして一連の「気づきの瞬間」としてとらえます。

これらを視覚化してみると、それらは来るとすぐに、去っていきます。

では、私たちのマインドはどのように外の世界を「恒久的」と見なすのでしょうか？

また、特定の状況をどのように「良い」または「悪い」と判断するのでしょうか。

2人が同じものを見ても、1人はそれを「良い」と認識し、もう1人は「悪い」と認識する場合があるように、多くの場合において1つのモノを別のモノのように認識します。

ここには良い悪いの判断は各自の傾向と経験と現状把握の能力によること、また、瞬間を重ねることで１つの恒久的な連続体としてとらえられることを示唆しているように解釈できます。

私たちが外界をみるとき、それらを常に見ていると思っていますが、実際にはいくつかの瞬間的イメージを静止画（スナップショット）として見ているだけです。

聴覚も同じように、通常、1分あたり100〜160語、1秒間に約2単語、１文字あたりでは0.1秒ほどで、理解しています。次々と新たな音が入ってくるので、常にほんの一瞬で文脈全体を想定して理解しているのです。

つまり、私たちのすべての感覚入力と意識は、流れる感覚のごくわずかな痕跡であり、マインドはそれを継続的で安定した体験として作り上げます。

具体的には

物質のレベルでは、あらゆる感覚信号は、固定化された静的な一瞬のイメージとして入力され、

マインドのレベルでは、その信号をつなげて、まるで流れている一体のイメージとする経験を構築し、

智慧（微細元素）のレベルでは、２つを混同することなく分別することで、波動としてとらえて直観し、

ダンマdhammāのレベルでは、波動を形成している粒子を一瞬で「知る」ことになります。

喩えてみると、物質界は固体、マインド界は液体、精神界は気体、天界はプラズマのようなものです。

固体の物質が悪くて、液体のマインド界が良いというものではなく、マインドのレベルには、天の霊的存在のカミだけではなく、餓鬼であるpetas（幽霊）もいます。

パーリ語ではこの微細な世界を「manomaya kaya（mana心+maya成り立つ）」とよび、エネルギー体であるマインドの世界として解釈します。

私たちの肉体は、「身体的な喜び」だけでなく、さまざまな体の病気や痛みを介して、エネルギー体や霊的レベルの状態を知るためにあります。

その体の違和感によって、マインドや智慧やダンマのレベルの不調和を察知することができます。

釈尊の指摘と覚り　　　一瞬を常在と錯覚する心路citta vīthiのメカニズム

仏教史の中では、阿羅漢（31領域からの離脱者）に到達するのに最も時をかけなかったのは修行者のバーヒヤBāhiya Dārucīriyaである、とされています。　　

udāna 1.10　　　　　　　　　　　　　　　https://suttacentral.net/ud1.10/pli/ms　　

『自説経』パーリ仏典経蔵小部の第3経　　https://suttacentral.net/ud1.10/jpn/taikan

釈尊がサーヴァッティのジェータ林のアナータピンディカ（長者）の園地にいる時に、スッパーラカの海岸に樹皮行者のバーヒヤが滞在していました。

釈尊が彼にかけた言葉は

“ditté ditta mantan bhavissati.” “suté suta mattan bhavissati”, “muté muta mattan bhavissati”, “viññāté viññāta mattan bhavissati”

でした。　

ditti：[f.] light　光

mantan 　痕跡

bhavissati：[bhavati の fut．] 相違ない

Suta　　聴覚、音、リスニング、

muta　　味覚、匂い、

viññāta　　顕在意識　viññānaのこと

意味は 「見られるものはほんの一瞬だけの痕跡である」（そして同様に）「聞けるものも、匂いも、意識も、ただの一瞬の痕跡である」です。

内容は、

ヒトの心は連続する世界を感じるようになっているが、実際にはほんの一瞬でしかない痕跡を心が何度も重ねて繰り返すことによって、いつまでもそこにあるかのように認識しているにすぎない、と説いています。

一瞬しかないものが連続して存在しているかのように感じられるのは、ヒトの認識システム、すなわち心路citta vīthiのメカニズムに起因する錯覚であることを示唆しています。

対象の物質エネルギーだけが「生」「住」「滅」ではなく、私たちの感覚器官も「生」「住」「滅」の流れの中であり、この２つは接触したほんの一瞬のエネルギーを、これまた「生」「住」「滅」の流れの中にある私たちの心が感覚信号として感知しました。このような状況にも関わらず、あたかも「住」だけが継続している実体があるかのように判断して、認識して、すなわち錯覚して生きています。

つまり、このように実体があると認識されるのは、対象の物質エネルギーの「住」と主体の感覚器官の物質エネルギーの「住」がたまたま重なった瞬間（接触）をメンタル・エネルギーとして感知しただけで、それ以外の「生」と「滅」の状態は感覚されることがないからです。　詳細の確認を考察中

ところが物質とメンタルのエネルギーを混同することで、それが瞬間の重なりではなく、一つの連続しているエネルギーの塊として認識しているのが原因です。

また２つを混濁せずに２つの重なりで見れば、自分自身も実際には一瞬の痕跡でしかありません。

この世でしようとしていることはその消え去る一瞬を実体だと信じて大切に（事実、リアル、執着）しても、自分が望むように努力して、世界を実体と見せることができるのは短い時間だけであって、長期にわたるとそのような状態は維持できません。

気づいてはいても実体があることを前提とした世界を基盤にして努力してきたが結局の所、その実りはなく「わたし」はただ無力な存在でしかなく、あまりに虚しく苦しい。　

「わたし」のいますべきことはこのいくら努力を続けても結果に裏切られ続ける馬鹿げた世界観から離れて、実際にある涅槃nibbānaの価値観で生きることである。

という解釈です。

「生」と「滅」は認識できないのか？　　　考察すべきテーマ　

花は常に変化している（生・住・滅）＝実体がない、と仮説してみる

現象の「生」の瞬間と「滅」の瞬間は認識できない、と17ステップの認識システムは説明できるか？

つまり「無常」の認識は不可能である。その理由をアビダンマは心路を使って説明しているのか？

感覚信号と感覚器官との衝突のエネルギーがhadayavatthuで17回振動するのか、それとも10億分の1秒ごとに新たな感覚信号と感覚器官との衝突エネルギーを得ているのか？

ヒトが認識できるのは「住」のときだけで、生と滅の時には心路citta vithiの五門どころか有分心に接触する力がないので心は感知することができず、有分心の状態になっているので、対象があることに気が付かない。

モノ（花）の「住」の刹那をcittaが捉え（2つの物質エネルギーがぶつかり）、それから5〜16のcittaで対象を認識しようとするが、cittaは物質の刹那よりも遥かに速いので、速行心が機能している9〜16の間に、花が「滅」に移行していることは稀である。

したがって、殆どのcittaは「住」を捉えているので、対象物に実体がある、という誤解に陥る。

もし本当にモノに実体がないのならば「生」や「滅」の瞬間も認識できるはずなのに、認識できるのは「住」だけで、実体がない瞬間を認識できないならば、実体があると仮定するのが論理的な思考法である、とする人たちが世界の学者たちの主流である。

もし本当に実体がない（生・住・滅）のであれば、こうして、実体がないものを実体があると前提することから誤謬が始まる。

視覚で対象の「住」しか捉えないものを実体があると判断することが前提となり、

何事に対しても、このパターン認識を基盤として、各自が世界を理解する誤解が成立する。

また、この「実体が無いものを有る」とする一面的な見解が、深層意識の不安とこだわりの執着に繋がっていくと仮説する。

マインドはこの執着で新たな自動反応アプリケーションが累乗的に付加され続けることにより、輪廻転生の中だけで生きることになる。

しかし、Aが証明されないからといってA‘を仮定した世界を前提にするのは論理的とはいえない。

実体がない瞬間を認識できないとしても、実体があると仮定するのは表層的論理性ともいえない。

ここが現代の学問が誤謬の積み重ねになる原点である。

実体がないことは証明されなくても、実体があることを前提にすることを肯定するのは学者のすることではない。

それは政治家や法律家などの常識を作ったり実践する人たちの仕事である。

事実は「ある」でも「ない」でもなくわからない、である。

常識は「ある」ことで話を進めますが、これも利便性のためであり事実はわからないのでよろしくです。

そして真理は「ある」でも「ない」でもなく「生・住・滅」である。

第一の覚りは、「私や世界がある」と思っていたのに、それがそうではない、ということが分かること。

これが分かると、「ある」ということの認識の内容が、それまでの俗世間の認識の内容とは完全に異なるものに変化する。つまり「ある」ことを断定するのではなく、便宜上で受け入れるだけで、事実や真理はそうでないことを認識して生きるということである。

aniccaの多層体験

無常aniccaには多くの実感があります。

常に変化し続ける、というのはどのような体験なのでしょうか？

この世界を「見たくない」というのは底流にある「怒り」が具象化したものなので、そこには無常の智慧はない。

「俗世間の快楽は微々たるもので飽きてしまった。限界がわかったら無意味なものだ」というのが欲界の智慧。

「眼耳鼻舌身に頼る喜びは限定されていて不自由で本当にばかばかしく無意味だ」という腑に落ちる納得が禅定の智慧

無常そのものを体験できなくても、概念だけを徹底的に叩き込んで、無上に基づいて考えるようになればそれは智慧のある生き方になる。

無常の概念とは、この世のものは「生まれては、住まい、消え去っていく」性質であることを知ること。

実践では、ヴァイブレーションとは生まれて消えているということなので、振動の波の中で暮らす

体を構成する細胞は生・住・滅をくり返しています。

さらに、細胞を構成する分子はもっと早く、生・住・滅をくり返しています。

さらに、分子を構成する原子はもっと早く、生・住・滅をくり返しています。

さらに、原子を構成する素粒子はもっと早く、生・住・滅をくり返しています。

さらに、素粒子を構成するBhūtaはもっと早く、生・住・滅をくり返しています。

さらに、Bhūtaを構成するSuddhātthakaはもっと早く、生・住・滅をくり返しています。

さらに、Suddhātthaka を構成する四大元素はもっと早く、生・住・滅をくり返しています。

真理は「ある」でも「ない」でもなく、ただ「生・住・滅」である。

科学　計測できる世界

事実　計測できる世界　＋　認識できる世界

常識　認識できない世界を排除して、認識できる世界だけの因果関係を基盤にして作った社会のルール

概念とは、この世のものは「生まれては、住まい、消え去っていく」のが性質であることを知ること。

実践では、ヴァイブレーションとは生まれて消えているということなので、振動の波の中で暮らす

真理　「ある」でも「ない」でもなく、ただ「生・住・滅」である。体感するまでは信仰、もしくは指標。

　　　それを実体験で確認して体現するのがアラハンへの「道」

私　　認識できない世界を排除しないで、認識できない世界の因果関係を熟慮して頭の隅に置いておく

　　　その因果関係が可能かどうかは瞑想と観照contemplationをして追体験を試みる

Sōtapanna道へのaniccaの理解　　私説　足りないことは？瞑想してまたわかったら付記する。

前提はaniccaとは常に「生、住、滅」と変化し続けるのがこの宇宙の自然摂理であることを再認識する。

第1歩目は「自分が望むことを保てるのは一時的なことで長期でみると維持することができない」ことを自覚して生きること。

第2歩目は、31領域の輪廻転生の視点から、心も物質も結局は溶解していくもの、儚いもの、「ある」ではないもの、摑まえることができないもの、空しいもの、虚しいもの、流浪するものであることを認識して、そこでは何をやっても自分は無力であることを実感すること。

第３歩目は「わたし」を同化させていた体、心、五蘊、魂などから１つ１つ離れていくこと。

そして「実際にはこれまで信じていた「わたし」は「ある」ときもあり、「ない」ときもあり、「生・住・滅」と流れるエネルギーのことを「わたし」と呼んでいたんだ」と確信すること。

第4歩目は静穏な気持ちで物質と心の変化に気づき続け、自身がエネルギーの流れになることで、概念や一般名詞を基準にしなくても暮らせること。

そして「わたし」が涅槃nibbānaに瞬間的に戻ることを体感する。

幻想を生む心所cetasikaの働き　　　誤解する仕組み　　　

論蔵Abhidhammaには52のメンタルの要素（心所）から89種の意識の状態が生まれる、と記述されています。

citta心を白いキャンバスに、cetasika心所を絵の具に例えて意識を完成された絵画に喩えることができます。

この絵具の中にはヒトの認識にとっては幻想と呼ばれるもの作り出すものがあります。

心所cetasikaのmanasikāra喚起が原因の場合

私たちの心は一瞬ごとに変化しているのが「ありのままの事実」であるのに、「わたし」がずっとあり続けている（永続的存在）ように感じるのは、心所cetasikaのmanasikāra（喚起）とcetanā（統合）によって生み出されるからです。

manasikāraは慣習的仏教用語で作意、意味は注意力だと異訳や誤訳されていますが、その機能を細やかに体感すると過去の体験を呼び起こすはたらきを持つことから、喚起と呼ぶのがふさわしいのではないか、と言われています。世界が「永続的であるかのようにみせる」のは、この心所のはたらきがあるからです。

manasikāra は過去に学習したデータとつながって、それらを要因にした未来予測を現在のマインド（citta）に持ち込みます。

たった一瞬の古い記憶（想い出）を喚起して、「堅実で継続的な経験の知覚」「ghana固定されたsaññā（[sandati の pp] 流れ」にします。

物質では常在するものはありませんが、「静止信号」のデータは、メンタル界に永久的に記録されており、それらは「nama gotta」と呼ばれます。

ただそのデータがメンタル界でカタチ（想い出された記憶として再現されたもの）になると、物質エネルギー同様に生まれては消え去っていきます。

またメンタル界のnama gottaは永久的ですが、新たなデータが作成され修正版は増加し続けます。

心所cetasikaのcetanā 「統合」が原因の場合

私たちの周りにある対象が必ずしも速く変化しているのではなく、桁違いに速いのは、私たち自身の心のはたらきのスピードです。

私たちの「見る」経験とは、100万分の1秒単位で構成されているデータパケットでしかなく、実際に見ているのは10億分の１秒の速行心が７回連続しているだけです。

たとえば、ある対象を0.１秒間見るとします。本人はその間はずっと対象を見ていると思っていますが、訓練をしていない多くの人は、0.001秒の静止したスナップショットを100倍に引き伸ばしていることには気づかずに「見ている」と本人は認識しています。　

つまり実際の静止画を見た0.001秒みただけなのに0.1秒「見ている」という感覚にまとめ上げられてしまっていることに気づいていません。

このまとめ上がるという働きをしているのは心所のcetanāです。

cetanāは慣習的仏教用語で「思」、機能は「意思」と異訳もしくは誤訳されていますが、はたらきの内容をよく体感してみると、それは「分析や解析したものを編集して一つにまとめるはたらき」なので「統合」になります。

分析した個々のケースをそのままにしておけばいいのですが、cetanā統合は「citta（知るはたらき）をまとめる」機能なので、せっかく分析したものを統合してしまいます。

メリットはコスパとタイパの効率化と利便性です。デメリットはありのままを把握できなくなって、私たち自身で創り上げたイメージの世界で生きていることに本人が気づかないことです。　

こうして統合することで抽象度を１つ上げて次に他のデータと結びつけて自動反応回路化を図ります。

たとえば、この時に善悪や好き嫌いや快・不快などの「近づきたい・遠ざかりたい」とラベリングしたものや一般名詞という概念と結びつけて「まとめる」ことで、すぐに意識が善悪と反応できるアプリケーションを多数作り出してきました、そして今もそうしていますし、未来もそうします。

たとえば、同じ信号が入力されても、それに対応するアプリケーションは環境や条件や時間や空間や各自において異なるものが用意できていれば、ある時は「良い」cetasika（心所、この文脈では心の印象）が結果となり、他の時には「悪い」cetasikaが結果となります。そして今度はそれらをパーツとしてまた新しい「善悪」の自動反応回路を作成することが続けられます。

このようにmanasikāra（喚起）とcetanā（統合）のはたらきにより、マインドが察知した入力信号を固定化してパターン認識するようになると、一時的信号を永久的と幻想化してしまい、間違い続けることの原因の１つになります。

たとえば、懐中電灯を円を描くように回し続けるとまるで１つの「光の輪」のように見えます。

瞬間ごとには、光は別の位置にありますが、十分に速く回して動かすと、光は連続したリングの形をした「合成画像」として表示されます。

また、壁にかかった絵を見続けても、それは静止画なので何も変わったことはありませんが、噴水を見ると、噴水は毎秒何兆もの水粒子が上下して動き続けているのが、確かな形がある一種の立体物のように見えます。

これは心所のmanasikāra（喚起）とcetanā（統合）が働いて、過去のデータを「喚び起こし」て「まとめ上げ」て、マインドの認識を「決まった形の外観」になるように構築しているからです。

こうなると、cittaは個々の水粒子に気づいてそれらを「見る」ことはせず、「確かな形があるもの」として把握するようになります。　

これは見るだけではなく、聞いたり、味わったり、嗅いだり、触ったり、考えたりするときに起こるプロセスと基本的には同じものです。

論蔵Abhidhammaでは次のように自分の心や現象を解釈します。

（大脳皮質によってまとめられたデータのパケットを）脳は定期的（1秒間に100回ほど）にマインドが機能するエネルギー体のhadaya vatthuに送信します。

その際の振動によって心路citta vithiが発生し、マインドは（心所のmanasikara（召喚）とcetana（統合）のはたらきによって）それらを編集して、私たちに「この世」を体験させます。

すべての動物にもこの編集機能があります。

たとえば犬は基本的に私たちと同じように対象を静止画として認識します。

アリも食物を探すために動きながら内外信号を編集処理しています。　アリは活動範囲や特定の匂いを知っており、巣に戻る方法も覚えています。そのすべての情報はアリの小さな体にはなく、メンタル体にnama gottaとして記録されていると、論蔵では解釈しています。出典？

心所のvedanā受が原因の場合

また心所のvedanā受と saññā想も幻想を生む要因の１つです。

どのcitta（心）にもあるvedanā受という心所は、内外の情報に対して、近づくか離れる、もしくはどちらでもないというタグ（印、サイン、マーク）を付加します。

このタグは自分の過去に経験したデータを潜在意識で検索する時のソートになります。

また、条件反射や感情パターンや思考パターンが作られる時には、このタグの付いたデータを部品として使って、自動反応アプリケーション（パターン回路）が作成されます。　

臨場感の高く緊張のある体験をするほど、強い回路が作られます。

修行者はできるだけこの回路が弱くするために、心を常に静かに安らかに保つことを心がけます。

すると、自動反応回路は柔軟性のある弱体化したものに徐々に上書きされて、分解しやすいものになります。

心所のsaññā想が原因の場合

認識プロセスの次の段階である想saññāの心所は、タグのついた信号が一般化されるプロセスになります。

一般化とはこの世に1つしかないモノを似ているということを根拠にして似ているモノたちを「カゴ」にまとめて投げ込んで、それに名前をつけて（ラベリング）同一化すなわち一般化してしまうことです。

この一般化によるメリットは、記号化（言語、シンボル、イメージ）することで処理するときに効率と利便性と即時性が格段とよくなることですが、デメリットはこの「カゴ」を基準にして言動してしまうと、具体的な現象や心が常に生まれては消えることがこの世の基本原理であることを忘れてしまい、固定化されてしまった概念を基準に思考をしてしまうことです。

そこからはじめる認識プロセスは「この世のあるがままの姿」から離れてしまい、想saññāが作り出した一般化によって他との比較と判断が自動的にされるので、それを基にした観念の世界の住人になってしまいます。

ですから日常生活で「知るはたらきである心」を使うということは、はじめから「ありのまま状態」から離れてしまうことになってしまっています。

これらが想saññāのはたらきのメリットと限界になります。

有身見

「私があると思ってしまう理由」のエッセイに相応しいテーマが有身見です。

Sōtapanna預流果になって取り除かれるはじめの煩悩が「有身見」です。　

ですから、理解することは大事な内容なのですが、有身見には多くの解釈があるので整理してみます。

肉体を「私のもの」とみなす

真我や「わたし」や自己が実体だと思う

不変の自我がある

無我が理解できていない

自分の感覚や経験を正しいと思いこむ

自分と他人を同じよう扱わない

メンタル・ボディが永遠にあると考える

多くの解釈があり、それぞれが矛盾しているので本来の意味を理解するには少し手間がかかります。

ウィキペディアでは

有身見（巴: sakkāya-diṭṭhi） 　五蘊を自己とみなす見解であり、五悪見のひとつとされている。

有身見は「恒久的な存在、魂（attā）が存在するという、蘊の信条」であり、仏教の魂（attā）が存在しないという無我（アナッター）の立場に反しているからだ、

という解釈をSri Lanka Tripitaka Projectはしています。。

その根拠を—パーリ仏典, 中部 2.Sabbāsava Sutta, をSri Lanka Tripitaka Projectは提示しています。

人々の持つ悪見は、どのように不適切に形成されるのか。...人々はこのように不適切に考える。

私は過去に存在したのか？ 昔の私は誰だったのか？

私は将来も存在するのか？　将来の私はどうなっているのか？

これは私であるのか？　これは私ではないのか？

私は何なのか？　私はどうなっているのか？　私はどこへ行くのか？

このような間違った方法で考えるものは、これら6つの見（diṭṭhi）に至る。

私は自己を持っている

私は自己を持っていない

私の自己と知覚しているものは、それが自己である

私の自己と知覚しているものは、それは自己ではない

自己がないので、私の自己は分からない

これこそが私であり、私の自己は一貫している

比丘たちよ、これらは見の棘、見の荒野、見の湾曲、見の束縛、見の足枷と呼ばれている。

AttāとAnattā

Attāは「自己、自我、主格、魂の本質」を意味します。

Anattā（na+attā）はattāの否定形なので「非自己、非自我、魂の本質の不在」を意味します。

anattā という言葉は、次の3つの解釈を伝えるために使用されています。

(1)　 Asārakaṭṭhena-anatta. — 　　　本質や実体がないため、それはAnattāと呼ばれます。[a否定+sāraka実体がある+aṭṭhena理由により]

(2) 　Asāmikaṭṭhena-anatta.—　　　　所有者や君主がいないため、それはAnattāと呼ばれます。

(3) 　Avasavattanaṭṭhena-anatta.— 　他人の意志に屈しないため、それはAnattāと呼ばれます。

通常の意味でのAttāは、本質または実体を意味します。anicca（無常性）の特徴を認識できない生命体は、存在を構成する5つのグループの物理的およびメンタル的現象の瞬間的な発生と消滅を識別できないために、次のように主張します。

「体のグループ（色蘊）は本質であるので、Attāである、また 感覚のグループ（受蘊）は本質であるので、Attāである。また知覚（想蘊）グループは本質であるので、Attāである。また形成グループ（行蘊）は本質であるので、Attāである。 また意識グループ（識蘊）は本質であるので、Attāである。」と。

この種の考え方は「魂があるという信念」として知られています。

Attā-diṭṭhi （自己、自我、主体、主格についての誤った見解）、Sakkāya-diṭṭhi（主体、主格信仰）、Attānudiṭṭhi （主体、主格信仰に従った誤った見解）、Attavādupādāna （自我信念への執着）は、異なる名前ですが同じ状態を示す語句です。

主格とはself, personality, ego,のことで、パーリ語のAttā で、日本語での生命、個、魂、または主格のこと。

「私」という独立した存在がある、これが有身見　　　　　無我思想のヒトたちの解釈

有身見という煩悩は、「貪欲（欲）」でも「瞋恚（怒り）」ではなく、「愚痴（無知）」「見（邪見）」のカテゴリーに属する煩悩です。

ほんの一瞬でも、「無常」「無我」を知識としてではなく、体験として納得した時、「有身見」という邪見（因果の道理を無視する誤った考え方）は消え、「ああ、実際には“私”は実在しないんだ！」という理解と共に「無常・無我」という智慧が現れます。

『「私」という独立した存在がある。』という錯覚のことを指す煩悩です。

というのがSri Lanka Tripitaka Projectや無我を大切にする人たちの解釈です。

有身見はパーリ語ではsakkāyadiṭṭhiで、sat実体　+kāya体系・システム　+　diṭṭhi見解、なので

「実体としてのシステムがある」とする見解のことになります。

kāyaは「体」と訳されることが多いですが、素粒子を持たいない色界の生命体はkammaja kāyaとcittaja kāyaとutuja kāyaで構成されていますので、kāyaは肉体そのものに限定されるのではなく、枠内では因果関係が成立している体系やシステムと呼ばれるカタチあるもの、と理解できます。

このような解釈であると、肉体だけではなく、自我や自己や魂やメンタル体を実体（不変で確固たるもの）と考える見解も含めることができます。

これまでは、「実体として何かがある」「本当のシステムを求めたい」「真の私を求めたい」「確固たる生き方がしたい」「永遠でありたい」と思い、勉強したり修行したりして「無常」と戦っていたが、世の中すべての物質界とメンタル界は常に変化する性質のものだと実体感することで、このような戦いには意味がないことが分かり、無常を認め、それを基準にした生き方を得る境地がSōtapanna預流果です。

すべてのものは変化するものだと実感する、と言うのは容易ですが、言った本人の行動を見るとそうではないことを私たちは経験しているので、完全に無常を認める言動を実践するのは並大抵のことではありません。

解釈の誤解により修行がすすまなかった話は周りによくあります。修行を50年積み重ねても結果が出ず、その原因がはじめの一歩であると気づくいた時の心境を文字にするのはたやすくありません。

ですから、慎重に考慮していきたいと思います。

まず伝統的誤謬を見て、次に本来の解釈を考察していきます。

伝統的誤謬は日本だけではなく世界の仏教アカデミズムの中で継承されている「無我思想」と、もう一つはパーリ語経典の誤訳によって「永久に継続する魂は存在しない」と理解して、これを釈尊の教えとしていることです。

日本語版ウィキペディアに記載されているのは、

「sak (存在する) + kāya (身体) + diṭṭhi (見) であり、五悪見のひとつとされている。

一般的には「各個人の信条」や、単純に「自己視点」とされ、「恒久的な存在、魂（attā）が存在するという、蘊の信条」である。仏教では魂（attā）が存在しないという無我（アナッター）の立場を取るためである。」

また、英語版のGoogleで「sakkāyaditthi」で検索すると、

sakkāyaditthiを「自己幻想」や「パーソナリティの信念」などがあり、つまり「自己または私が存在するという信念」や「無我思想」との関連性で説明されているサイトが多いことがわかります。

そして、このような解釈が「無我」の存在という概念に結びついて、一部の大脳中心主義のエリートに支持されているのだと推察します。

誤謬の原因はシンプルです。

先に信望している「無我思想」があり、それを補完しそうな語句や概念や経を寄せ集めて作り上げたからです。

ではどのようにそれを作り上げていったのでしょうか。

まずは無我思想の根拠、そして魂の解釈について考察してみます。

世界で体験されていて重宝がられる無我体験とは何を指すのでしょうか？

「わたし」が消える体験を4つのタイプに大まかに別けてみます。

1　思考から離れて、感覚に関心が移り、私が感じられない時　　　　知らない香りや味を調べている時

2　無我夢中になっていて、私の存在を忘れている時　　　　　　　　本を読んでいる時、ゲームをしている時

3　複数の人たちの言動と同化させることで私の存在が消える時　　　神輿を担いでいる時、会場でのウェーブ

4　禅定の状態に入った時に対象と同化して私が消えてしまった時　　サマタ瞑想で禅定状態になる時

ここでは仏教の話なので、無我体験は4番目の禅定体験を中心に話を進めます。

禅定とは対象を１つに決めて、それに集中していると、対象に呑み込まれるように一体化する境地のことです。これはアブラハム教やヒンドゥー教やアニミズムでの儀礼でも見られる現象です。梵我一如、忘我体験、神秘体験、変成状態とも呼ばれるものです。

確かにどれもが無我の体験ですが、この「有身見」はパーリ語からの直訳ですが誰が誰に対してその意味を伝えようとしているのでしょうか？

三蔵の中でsakkāya-diṭṭhiはどのような文脈で使われて、何を意味しているのでしょうか？

上座部仏教の仏徒たちは涅槃nibbānaの第１段階であるSōtapanna預流果に至るために修行をしています。

そしてSōtapannaになるとはじめに消失する煩悩がsakkāya-diṭṭhiです。

しかし、このSōtapannaになるためには無我（禅定）を経験をするのは必須の条件ではないことは、Sōtapannaを経験した人たちに聞いてみれば明らかなことです。

上記の「ああ、実際には“私”は実在しないんだ！」という体験は他の宗教や大乗仏教の禅定の経験であって、上座部仏教のSōtapannaになるための条件ではありません。

もしSōtapannaが禅定体験をすると、「私は実在する、とは言えない。しかし実在しない、とも言えない。なぜならば私は対象に呑みこれるようになって思考ができなくなったので、私が不変である、ということはできません。しかし今こうして禅定体験について話している時は、実際に私は実在していますので、実在しない、というわけにもいきません。」

このようにsakkāya-diṭṭhiを無我思想と関連付ける解釈はSōtapannaや上座部仏教徒からみると誤謬となります。

なぜならば誤解に基づく解釈が横行すると、修行者にとっての弊害になるからです。

次は、「魂（attā）が存在しないことを無我（アナッター）」と定義している誤謬についてです。

まず前段の「恒久的な存在、魂（attā）が存在するという、蘊の信条」というのは

魂（attā）を恒久的な存在として解釈しています。

そして「蘊の信条」の意味を私は解釈することができません。

五蘊との関係性を示唆したいのでしょうか？ご存知の方、教えて下さい。

ここでの問題は永遠の魂であるサンスクリット語のatmaの概念を拡張解釈して仏教にも利用したり、attāを魂と解釈している点です。

attāは魂ではなく「本質を持っている」という意味であることの詳細は後述の「anattaの誤訳　パーリ語とサンスクリット語の違い」で説明します。

三相はこの世界の特徴を表しているので、anattaを「本質も真実も実質も存在しないこの世の性質」と訳すほうが適切です。

釈尊の時代にも、「魂」の考え方について2つの相反する意見がありました。

ある派は、不変の「魂」（ātma）を信じて、キリスト教やイスラム教と同じように人が死ぬと魂が天国か地獄に行くと考えていました。

それに対して「魂はない」（anātma）と考え、人が死ぬと後には何も残らないと主張する派があり、今日の唯物論的見解がありました。

釈尊はこれらのどちらでもなく、生命体には永続的に関連づけられた「魂ātma（soul）と呼ばれる死後にも存在する核なるもの」や「死後には消滅するがそれまでは変化しない自己（self）と呼ばれる意識」といったものはなく、心と物質の両方は絶えず流動状態にあるので、「変わらない魂」や「変わらない自己」などはない、と説きました。

ただし、生命体は外部刺激への対応の仕方は選択できるので「自己（self）と呼ばれる意識」はあるので「自己（self）はない」というのは間違えであるし、

繰り返される再生サイクルの閉じた輪の中で行われているメンタル体やエネルギー体の移り変わりをある文化圏の人々によっては魂（soul）と呼ぶこともあるので、「魂はない」というのも間違っている、と指摘しました。

他の解釈　　幸福を求めることは実りがある

もう一つの有身見の解釈は「sakka」と「sath」は「良い」または「実りがある」を意味し、「kāya」は「kriya」すなわち「行動」を意味し、diṭṭhiは（間違った）見解を意味として理解するものです。

sath ＋「kāya」が“sakkāya”なるのは、韻を踏む時に次に来る単語の子音を重ねるというパーリ語の文法の特徴です。

つまり、sakkāya diṭṭhiとは「もの」を獲得する行動、すなわち「幸福を求める」ことは良いことで実りあるものだという間違った見解、を意味しています。

三相（anicca、dukkha、anatta）を本当に理解すると、この間違った見解はなくなります。

私たちが行うことで「この世」の永続的な幸福につながることは何もないことに気づきます。

世界の仏教アカデミズムと解釈が異なる、経典を参照してみます。

sakkāyaの定義は、Sakkāyapañhā Sutta (SN 38.15)にもあります。

「sakkāyaとはpañcupādānakkhandhāである。」

sakkāyaとはpañcupādānakkhandhā （pañca+ upādāna+ khandha）、すなわちpañcakkhandha（五蘊）をupādāna （保持）しようとする、ということです。

upādāna とは「保持する機能」「近くに掴んでおく機能」のことです。

パーリ語のupā近くに＋ādāna 掴む・取得する、に由来します。

漢字では「取」、英語ではattachmentと翻訳されています。

（英語のattachmentはtanhāに対応するので適切な訳ではない、という理解がこの10年ほどで広がっています）

したがって、 upādāna とはマインドがārammana（対象）を引き寄せて、そこにエネルギーを集中照射させることで、縁起説では次の段階である「枠組みができあがったエネルギー体」すなわちbhavaが形成されることで、その次の段階では「誕生」を起こす原因になります。

pañcupādānakkhandhāは四諦の第一の真理で苦の根本原因で五取蘊と訳されているものです。

Pañcupādānakkhandha (PUK　五取蘊) は、六感のいずれかを介して感覚対象 (ārammaṇa) を掴むときに発生します。五蘊を掴み続けていること（渇望、執著）が、凡ての苦しみの根源であることを指摘しています。

つまり、間違った見解とは、五蘊を掴み続けていること（渇望、執著）で、五蘊を基準にして価値判断をすることです。

したがって、sakkāyaとは、五蘊を実体（基準）にしていることを意味します。

（そして五蘊の色蘊rūpakkhandhaをメンタル界のイメージの集積ではなく、物質界の肉体として解釈する者も現れてきます。ここで、sakkāya ditthi とは「私は自分の体です」という見解であることと結びつけて、体を何よりも美しく保つ必要があるという間違った見解のこと意味するという解釈に繋がっていきます。）

生命体には「本当の本質」すなわち変化しない実体（ātma「魂」）がないことがわかると、sakkāya ditthiの間違った見解はなくなります。

涅槃nibbānaの第1段階であるSōtapannaでは「自分は実体を持つという間違った見解」だけを取り除きます。

換言すると、自分と関わる「自己」や「魂」が不変で永続的なものであるという間違った見解だけです。

しかし、間違った認識は除去されず、涅槃nibbānaに至る前と変わらず、認識の間違えは継続されます。

例えば、道徳的な生活を送るだけで永続的な幸福が達成できるという信念は、それが不可欠な条件であってもそれだけでは結果と結びつかないので間違っていますがこの認識はSōtapannaになっても存続します。

しかし、次の『「自己」をātmaと呼ばれる「魂」と理解する認識（saññā）』は、以下で説明するようにTipitakaによるsakkāyaditthiではありません。

それは私たちが前世から現世まで連らなっているsaññā（認識）です。

「間違った見解（ditthi）」と「間違った認識（saññā）」とは異なります。

では、どんな見解は除去され、どんな認識は除去されないのでしょうか？

それはNiyata micchā diṭṭhi（確立された間違った見解）のみが除去されます。

micchā diṭṭhi悪見は10種類ありますが、共通点は31領域ある「この世」の本質的な特徴を理解していないことです。

たとえば、因果関係の存在、善悪の影響、輪廻（前世・来世）の世界に対する無知です。

この31領域に実体と呼べるものはなく、あるのは因果関係で決められたaniccaの「生・住・滅」の世界なので、この世界が「ある」とも「ない」とも言えないことです。

本質的な特徴を理解していないために、次の3つの主な間違っている世界観を持つ可能性があります。

（i）原因なしにすべてが生まれた　　　　（ahētukaditthi）。

（ii）良い面も悪い面も効果を生まない　（akiriya ditthi）。

（iii）死後はない　　　　　　　　　　　（natthika ditthi）。

具体的な10のmicchā diṭṭhi悪見は以下です。

（1）他に与えることでkammicの恩恵がない、

（2）「借り」を返済する必要がない（他の人があなたのためにしたことに対して）、

（3）聖なる人とabhiññāの力を持つyogisを尊重することの恩恵がない、

（4）原因kammaは結果vipākaを持たない　　

（5）母親の面倒をみるというkammicの恩恵がない

（6）父親の面倒をみるというkammicの恩恵がない

（7）この世界は存在しない「natti ayanlōkō」

（8）Paralowaは存在しない「natti parōlōkō」　　死と誕生の間の世界　　冥界

（9）oupapātikaの誕生はない（即時の完全な形態の誕生の否定）　動物と人間界以外は完全形態

（10）前世を見ることができる聖人やヨギは存在しない。

対して、削除されない認識とは、上記に含まれていない知識や観念のすべてです。

閑話休題

「自己」すなわち「わたし」という生来から感覚はmāna cetasikaに深く埋め込まれた概念です。

Asmi mānaと呼ばれるmānaの構成要素は、涅槃nibbānaの第3段階のAnagamiでも残っており、mānaはSōtapannaの段階ではなく、アラハンの段階ではじめて取り除かれます。

また、論蔵の 2.3.2.13.1. Dassanenapahātabbadukaには、

「sakkāyadiṭṭhiとは何ですか？」という問いに対して、

「ダンマによる指導を受けておらず、聖なる者と接しておらず、経に精通しておらず、規律がよくない人は、以下の誤った見解を持っています。

『私は私の体です。私の体は私です。私の体は私の中にあります。（含まれています）』

私たちの感情とその初期反応は、私たちの個性やgati（傾向、性質、習慣パターン）を反映しています。　

外部からの感覚入力に対する初期反応は、自分の性格と感覚入力の種類の両方に依拠します。

さらに、「固定されたマインド」などはありませんので、非常に急速に変化します。

人生を振り返れば、溺愛や怒りがある時に貪欲や嫌悪にマインドが引きずられていたという経験があるかと想います。

「道」を進むにつれて、こうした極端な揺れは少なくなり、それが最終的にNibbana（涅槃）につながるniramisa sukha（両端から離脱している喜び）を体感する鍵となります。

私たち一人一人は決まったマインドを持っていません。

つまり、「独自の」saññā、vedanā、sankhāra、viññānaが生成するものはないということです。

何ものでも「私のもの」とみなす認識を持つならば、それがSakkāya ditthiです。

Sakkāya ditthiとは、「私は私の体です」と「私」と「対象物」を同化させてしまうことです。

そしてまた、「私は私のvedanā」、「私は私のsaññā」、「私は私のsankhāra」、「私は私のviññāna」と「私」とマインド（cittaとcetasikaと意識と回路）を同化させてしまうことです。

Sakkāyaditthiを削除するためのより良い方法は、「これらの実体と想われるすべてのものは「わたし」とみなされる価値はない」ということを深く認識することです。

１つ１つが実体ではないことを確認することも大事ですが、それぞれが価値のないものだとわかれば、それらにたいする渇望も幻想もなくなります。

体は劣化し、vedanāは苦の原因となり、saññāは幻想であり、sankhāraは繰り返す回路であり、viññānaは汚れてしまっています。

マインドが何であるかを理解するために、釈尊は、プロセスを一つづつ理解することによって、マインドがどのように発生するかを段階的に分析しました。

それが釈尊が自分自身を「Vibhajjavādi」と呼んだ理由です。Vi＋bha＋ja＋vādi

「Vibhajjavādo kho ahamettha、māṇava; nāhamettha ekaṃsavādo..」　　　　　Subha Sutta (MN 99)

「若者よ、私はVibhajjavādi（与えられたプロセスを部分に分割することによって多くの側面から分析する者です）、私はただ一つの側面に基づいた固定観念を持つことがない」。

「わたし」とマインドを同化する誤りを知って、涅槃nibbānaを一瞬経験してSōtapannaになったとしても、繰り返しになりますが、「わたし」という認識はアラハンの段階でのみ霧散することを知っておくことは大切です。

anattaの誤訳　　　　パーリ語とサンスクリット語の違い 　　

パーリ語のanattaをサンスクリット語に翻訳した時に「anātma」として翻訳してしまったことからも誤謬が生じました。

Anattaの反義語である「atta」のさまざまな用法を調査して、「anatta」が「no-self」（無我・非我）と誤って翻訳されていく理由を確認してみます。

まずはパーリ語attaの本来の単語から始めます。

パーリ語にはattāとattaという単語あります。

二つは違う意味の単語で、最後のaの母音が長音āか短音aに違いがあります。

まず、「attā」は「人」を意味するために使用されている単語で、このattāを否定する「人がない」という表現はないので、attāの反義語はパーリ語に存在しません。

つまりattāの反義語として、anattaが使用されたことは一度もありません。

「attā」の「人」とは、英語の「I」にあたり、「私」「主体」「自分」という意味でのみ使用されています。

自我や自己を表すパーリ語の同義語には“mama“や “asmi”や“mē“があります。

次に「atta」には2つの意味があります。

1つ目の意味は日常的に使われている「自分自身」のことで、英語でいう「myself」にあたります。

2つ目の意味は「コントロールしている」または「本質を持っている」という意味であり、この意味の反義語が三相（この世の３つの特徴）のanatta(“na” + “atta“) になります。

したがって「anatta」の反義語は「atta」であり、「attā」ではありません。

また、パーリ語には「attha」という単語があり、これは文脈により、真実、避難所、意味深い、という意味です。　

“anattha“は“attha”の反義語なので、「真実ではない、頼り（避難所）にならない、意味がない、不利益」という意味を示唆してます。

また、パーリ語には「nātha」という単語もあり、これは「唯一の避難所」を意味し、Nibbānaの別の呼び名です。

よって「nātha」を得るとはNibbānaに至ること、つまり閉じた輪（再生プロセス）から離脱することです。

「nātha」の反義語は「anātha」で避難所（価値あるもの）がないことを意味ので、この世に避難所を見つけようとすることは、本当に意味がなく無力であることを示唆しています。

したがって、パーリ語のatta（artha） / anatta（anartha）

は、「意味がある/意味がない」「力がある/無力である」「本質がある/本質がない」、「真実/偽」、「有用/役に立たない」という対語の関係にあります。

attaと anattaは、釈尊の教えの基礎となる大切な深い概念であり、anattaという言葉は、「真実も本質も実質もない」という常に深い意味で使用されてきました。経典の中で実際どのように使われているのかを後述します。

このような anatta を本質という意味のattaの反義語ではなく、人や我や自己の意味を持つ“attā”の反義語として解釈して翻訳してきたのがアカデミズムの重大な間違いでした。

三相からわかるように、anattaとは、この世には本質も真実も実質も存在しないことを示す、この世の性質を表現しています。

サンスクリット語のātma とanātmaについて

次に、サンスクリット語のātmaは「魂」を基本的に意味し、この魂とは消滅を迎えることなく、最終的にはアブラハム教の「創造主の神」に相当する「Mahā Brahmaマハー　ブラフマー」と融合します。

Anātma(魂は存在しない)はサンスクリット語では無我と訳される場合もありますが、釈尊によって使われたことはありません。

釈尊の時代にも、「魂」の考え方について2つの相反する意見がありました。（前述）

�@不変の「魂」（ātma）を信じて、アブラハム教と同じように人が死ぬと魂が天国か地獄に行くと考えていた。

�A「魂はない」（anātma）と考え、人が死ぬと後には何も残らないと主張する、今日の唯物論的見解があった。

釈尊はこれらのどちらでもなく、生命体には永続的に存在する「魂（soul）と呼ばれるもの」や「自己（self）と呼ばれる意識」だけの存在といったものは実在せず、実在しているのはマインドと体の両方が絶えず流動状態であり、「変わらない魂」や「変わらない自己」などはない、と説きました。

ただし、生命体は外部刺激への対応を選択できるので「自己（self）と呼ばれる意識」はあるので「自己（self）はない」というのも、31領域にわたるエネルギー回路（kamma bīja　カルマ因果の種）や集合意識や系統発生の意識などは継続されるものはあるので「魂はない」というのも、どちらも間違っている、と指摘しました。

「anatta」を「無我」もしくは「非我」という誤った解釈に固執している人は、それが頑な声明であることが理解できる経は多くあります。

その一つであるPatama Adhamma Suttaの最初の節（AN 10.113 in the Paccorohanivagga）は、

「Adhammō ca、bhikkhave、veditabbō anatthō ca; dhammō ca veditabbō atthō ca“

ですが、もし問題の単語anatthōを「無我」と訳すと以下のような文章になります。

「比丘よ、ダンマに反することは「無我（非我）」につながり、ダンマは「我（自己）」につながることを理解されるべきである。」

という意味をなさない文章になります。

「無我」の代わりに「意味がない/無力である/本質がない/偽/役に立たない」

「我」の代わりに「意味がある/力がある/本質がある/真実/有用」にすると、筋が通った文章になります。

コラム

メンタル・ボディ

メンタル・ボディが永遠にあると考えるのもsakāya ditthi（有身見）です。

bhavaが永遠にあると考えるのもsakāya ditthi（有身見）です。

メンタルボディが存在しますがbhavaの間でも劇的に変化します。

またbhavaはしばらくの間deva界または人間界にあったとしても、次のbhavaはapāyas（下位4領域）にあり、劇的変化を起こしているかもしれません。

31領域の長いスパンでみれば、私たちの肉体、メンタル体、bhavaと「私のもの」とみなすに値するものは何もありません。

アニッチャの体験　　　　変化し続ける世界に身をおく

鳥のさえずりを聞いている。

その鳴き声は50メガヘルツ前後の波なので、一秒間に50万回も変化する波動である。

その変化にスポットライトを当てていると、突然とさえずりが消えてしまう。

音は聴こえるのだが、さえずりは聞こえなくなるのだ。

さえずりはどこにいったのか？　

ある波動の連続をパターン化してさえずりと名付けて一般化していたのであって、音だけに意識を集中することで、過去に学習したさえずりのパターンと、実際の「いま・ここ」にある音の波動は一致しておらず、学習したパターンを想い起こしても対象の波動とはシンクロしないので、さえずりが消えた、と感じることになる。

つまりさえずりとは記憶にあるパターンであったのだ。

つねに変化し続けている音を聴いている時には、自分の感受性も一箇所に留まることなく自由自在に揺れている。

そこには基準となる固定された我はいない。主体はなく、過去のことを想い出すこともない。

しかし、音はちゃんと聴こえている。

これが有身見が消えていく時の体験である。

変化し続けるものにスポットライトを当てることを基準にすることで、主体の我が世界の基準ではないことに気づくプロセスである。

こうしてニッバーナの第一歩目である預流果に入ることになる。

この無常の体験を「無我」とよぶ人もいる。

永遠不滅は変化しないので何とも繋がりがない

永遠に全く変化しないモノとは、他者から何も影響を受けないもの。

触っても焼いても何も変化しないならば、それは永遠不滅のもの。

もしそのようなものを仮定すると、この永遠不滅のものは、何ものとも関係を持つことがないので、連絡を取ることもできない。

なにかが変化するからはじめて反応があるのだから。

すなわち変化するならば、それは「絶対的な永遠」とは言えなくなる

しかし、変化するのがカタチではなく機能であれば、絶対的な永遠は他者との交流が可能でなのではないか？

涅槃nibbānaは永遠不滅だが、この世にある。

オウム真理教の無我　　　　上祐

大乗仏教での縁起の法の拡張　「一切は空」

『般若経』などの大乗仏教では、「一切は空」（一切の事物は空である）として、実体的な存在は何一つないとした。ここでの「空」とは、固定的な実体がない、という意味の仏教用語である。そこで、「人」も無我だし、「法」（＝事物）も無我である、と説かれた。

なお、ここでの「我」とは永久不変の本質という意味で、「無我」とは永久不変の本質が「無い」ことであり、固定的な実体がないこと＝空と同じ意味となる。

そして、この空の理論の大成は、ナーガールジュナらによって果たされた。

ナーガールジュナは、「あらゆる存在が、縁起によって成立している（すなわち相互に依存しあって存在している）」と明確に論じた。そして、「あらゆる存在を表現する言葉自体まで、縁起によって成立している」とした。

こうして、すべての事物において、独立の実体（＝自性）を完全に否定して、「すべては空であり、無自性である」ことを徹底した。

これに関連して、仏教には「諸法無我」という教えがあるが、これは「すべての仏陀の教えには、私はない」という意味では決してない。それは「すべての存在・事物には、永久不変の本質はない、実体はない」という意味である。

そして、人の意識の対象となる「もろもろの事物」については、それらが「無我」であることを瞑想する。

すなわち、あらゆる事物は、他から独立した固定した実体がなく、永久不変の本質を有さない。これについては、まさに縁起の法が説くところである。

それらに実体があるように感じられたとしても、それは、五感や言葉に基づく日常的な思考によって、実体があるように錯覚しているにすぎない。

「五蘊無我」の場合は、瞑想の対象が、「私」を構成している五蘊＝色・受・想・行・識になる。

すなわち、私の「肉体」「感覚・知覚作用」「イメージ・表層作用」「行為の結果の潜在的な形成力」「意識・識別・認識作用」である。

そして、その５つのそれぞれについて、無常であり、苦しみであり、固定した実体がなく（空）、永久不変の本質を有さない（無我・非我）ことを瞑想するのである。

オウム真理教の解釈のどこに正当性があるのか？

無我をあらゆる事物は、他から独立した固定した実体がなく、永久不変の本質を有さない、と解釈するのは既存の大乗仏教の無我の解釈が誤謬を重ねているのに対して、正当性がある。

オウム真理教の解釈のどこに誤謬があるのか？

『般若経』では、「一切は空」（一切の事物は空である）として、実体的な存在は何一つないとした。

ここでの「空」とは、固定的な実体がない、という意味の仏教用語である。

そこで、「人」も無我だし、「法」（＝事物）も無我である、と説かれた。

上記のオームの思想は以下である。

あらゆる事物は、他から独立した固定した実体がない、すなわち「空」。

あらゆる事物は、永久不変の本質を有さない、すわなち「無我」。

「諸法無我」とは「すべての存在・事物には、永久不変の本質はない、実体はない」

「人」も無我で永久不変の本質や固定的な実体が「無い」

「私」を構成しているものは、無常であり、苦しみであり、固定した実体がなく（空）、永久不変の本質を有さない（無我）。

オームの瞑想の実践内容とは？

彼らの定義は一面的であるが、ここでは彼らの定義に従って話をすすめる。

「法」（＝事物）

固定した実体がなく（＝空）

永久不変の本質を有さない（＝無我）　

彼らの定義の「我」が何を指すのかはわからないが、無我の否定として解釈すれば、

永久不変の本質を有するもの（＝我）、と仮定しておく。

要約すると、

「すべての存在・事物には、永久不変の本質はない、実体はない」＝「諸法無我」＝「空」＝「無我」である。

「私」を構成しているものは、無常であり、苦しみであり、「空」であり、「無我」である。

無我とは永久不変の本質を有さないことであり、人も永久不変の本質を有さないので無我である。

という主張であり、

「一切は空」ということから「私（我）」も人も空として捉え、無我という思想に結びついていった。

これが地球に拡がっている無我思想だが、

「法」（＝事物）に固定的な実体がない、という考え方には多くの一般の人々が同意するだろうが、

一切の事物に実体がない、という考え方には同意できない人もいるだろう。

自己と呼ばれる「私」を構成しているのは五蘊と呼ばれるもので、無常であり、苦しみである、

という主張にも、

一般人は同意しなくても、仏教徒は同意する人が主流であろう、特に上座部仏教では。

彼らの解釈が一面的なところが2箇所ある。

「私」と人には永久不変の本質を有さない、という主張である。

しかし、「私」は必ずしも五蘊と同化しているのではなく、

大異熟心mahāvipāka-cittaと同化している自我、

有分心と同化している「我」

色界心所と同化している「本来の面目」と、永久不変の本質を有さない、という主張はここまでは通用するが、その後の、

出世間の心所と同化している聖人（涅槃nibbānaを体感した人たち）

と「私」は同化して永久不変に姿を変えるプロセスなので、

常に無常でも苦しみなのではない、特に最終段階のアラハンにおいては。

また、

人は永久不変の本質を有さない、とあるが歴史を見ればこれまでに多くのソータパンナsōtapanna、サカダーガーミsakadāgāmi、アナーガーミanāgāmi、アラハンarahatを輩出した。

彼ら、彼女らは人でありながら明らかに永久不変の本質があるから、涅槃nibbānaの境地を体感し、この無常の31領域に戻ることがなくなる存在になった。

たしかに、無我思想が支持されるTPOはある。

たとえば、自分勝手な自我（mahāvipāka-citta）から自己（五蘊を基準にしたcitta）への脱却、

自己（五蘊）から色界の心所（rūpa　cetasika）のあるcittaへの脱却

と精神の成長の初期における部分では、無我の主張は支持された。

しかし、無我思想には自分の言動に対する責任や他者からのコントロールを許すという問題を積み残し、概念だけが先行してしまう集団を生み出す危険性については考慮されていなかった。

また、無我思想は涅槃の出世間心（lokuttara-citta）への脱却は無我思想では収まりきらない。

釈尊の教えは各自の深層意識にある自動反応回路を除去するための修行だが、無我にスポットライトを当ててしまうと、第1禅定で我は対象に呑み込まれ、第４禅定に至ると表層意識において「我」は消え去るが、先達の体験したとおり中層意識と深層意識には「我」の根は残存し、禅定していない時には根から我の芽を伸ばし始める。

つまり、これはもう釈尊の説いたものではなく、バラモン教、現在のヒンドゥー教の簡潔バージョンになっている。

段階的に自動反応回路を取り外すプロセスを踏むのではなく、中途にある段階にスポットライトを当てて修行すると本人は一時的な無我の状態になるが、抑圧された「我」の根が残っているのは本人には明らかなことである。

しかも、その禅定の境地に至る者も殆どない（試してみた1万人に1人だという説もある）中で、本人は無我の疑似体験したと信じこんでしまい、深層意識にある自動反応回路に操作されて、理論だけを振りかざして他者を判別できるのが、「空」の危険性である。

ここでの自動反応回路に多いケースは、コンプレックス、社会からの過小評価に対する怒り、自分の正しさを認めない社会への憎しみなど、結局は他者からの評価とナルシズムから発する社会への不満を隠して優越感を味あうための隠れ蓑としての無我思想を大義名分としている。

オウム真理教のように他者を殺しても結局は「空」なので将来において対象者が悪業を積み重ねるのならばポアすることも選択することが対象者そして社会にとって有益だとする言説や言動に結びついていった。

「一切は空」という段階にとどまっている思想にはこのような限界がある。

対して「一切は空」であるが、そこにはスポットライトを当てる危険性を熟知していた釈尊はこの「空」から離脱する方法を慈悲あふれる言動で説いた。

この無我思想の欠点は

「私」を大事にしないケースがあることである。

固定した実体がないという自然の摂理の事実に「私」を含めてしまい、優先的にそこにスポットライトを当ててしまうと、「私」が一歩一歩進むしかないことの大切さを軽視し、自分の足で歩くのを止めて、心地よい車に乗って世界をわかったような気になる人になる。

出口から入って中身がわかったような顔をする者や、小説の評論を先に読んで内容を読まな者のように、カタチとしての表面的な結果を大事にするが、プロセスがわからない人たちである。

「私」に囚われている人たちがそれを熟知しているので、あえて無我思想を主張してしまうのである。

そして無我思想の根本的欠陥は、物質（物質エネルギー）と心と意識（主体）の分別ができていないことである。

まるでデカルトや現代都市生活者のように、「物質と心」は分別しようとするが、本人（意識の主体）を置き去りにして話をすすめることを前提にしていることである。

すなわち、本人（意識の主体）のことには関心がないので世界観から除去して、世界を３つに分けて説明するのではなく、物資と心の２つに分けて、世界を語り始めることである。

意識の所在を尋ねれば、心の一部と答えるが、心と意識の主体との関係性を説明することが曖昧となる。

無我思想を使う人は「一切が空」で逃げてしまうが、瞑想者が探求しているのはその「空」がいかに「物と心と意識」に分かれていったプロセスであり、これによって瞑想の正誤が問われるからである。

これはインド哲学からみると、2500年以上の遅れである。

すべてが空である、固定した実体がないことがわかって何になるというのだろうか？

こんなことは物理学者でも知っていることである。

またもし解脱を目指すというのならば、輪廻という実体を前提にしなければそこから抜け出す修行の意味がなくなる。

心が作成するカルマ（エネルギー）は姿を変えながらも来世に繋がり永遠の存在であることが修行者にとっては問題なのであって、カルマも当然一切に含まれるので空なのであろうが、どのように解体したら、輪廻から離脱できるというのであろうか？

一切に実体がないことを説くだけでは、カルマは実体があるかのように輪廻に生命体を縛り付けたままである。

必要なのは自分の意思に関わらず反応してしまうアプリケーション装置の扱い方である。

これを弱体化、削除、上書きするしかないのに、知性で途上の真理の１つがわかっても自分の言動にどのように影響するというのか？

ニヒリストになって天から下界を眺めるとでも言うのか。

いや目指すのは無我なので自分のしたことや下界を見ることもなく真綿に包まれて夢心地を夢想しているのだろう。

しかし結果は御存知のとおりの悲惨な状態である。

付録

私たちが想像できるものの中で２つのものには実体があると仮説する。

それは涅槃nibbānaとdhammāである。

涅槃nibbānaはこの宇宙の外側にあるエネルギーの存在しない領域なのに対して

Dhammāはこの宇宙そのもの（内側）にあるエネルギーの根源である。

Dhammāは法とも訳されるが、この宇宙の時空のある所に永遠に無限に湧き上がる重力を持たない振動する物質エネルギーでもある。

この物質エネルギーから4大元素、ダークマター、微細粒子が形成されて、この宇宙の物質が構成される。

エネルギーは物質化されて縮小し、その物質が高密度になると爆発してエネルギーは減少するため、無限のエネルギーが湧き上がっても宇宙は拡がり続けるわけではない。

この無限の涅槃nibbānaとdhammāが重なることで、この宇宙に生命と物質が誕生した。

この生命と物質は確かに「空」ではあるが、生命は31領域の輪廻で、物質はビッグバンとビッグ崩壊で、流動性の中で繰り返し続ける。

これを釈尊は三相（aniccā,dukkhā,anattā）としてこの宇宙から離脱する方法を説いた。

対して、「一切は空」と説くナーガルジュナは、この永遠に繰り返される苦しみからの離脱方法はどのように説いたのであろうか？

釈尊亡きあと600年が経ち教えを曲解していた当時の仏教に対しての反論は的を得ており、心身の分別レベルを自性の手前（ブッディ、アハンカーラ、マナス）まで上げたが、釈尊の説いた涅槃nibbānaよりも下がった状態であることは今日知られることである。

ナーガルジュナ（龍樹）の論理性「テトラレンマ」

ナーガールジュナ龍樹　　空　　中論

「中」とは何か？

サーンキヤ学派の特徴

ナーガルジュナの根本的な誤謬は「空七十論16　自性があれば消滅することはない」とあるように、

自性を常住かつ不変不滅だと定義したことである。

確かに常住かつ不滅ではあるが、自性から物質、心、自意識が生じたので不変ではない。

私説　　２つの奇跡と「わたし」

私説なので思い切っていきます。　　深い瞑想を重ねるたびに改訂版を出します

nibbāna　 manō lōkaを存在させる始まりなき始元　　　開いたカタチがあるとそこに知る機能が芽生える

dhammā　 rūpa lōkaを存在させる始まりなき始元　　重力がなく自転し続ける力が時空にある処に芽生える

透明の世界nibbānaが旅をしている時に、エネルギーの世界dhammāを見て驚いた。

この世は常に生まれては消え去るものなのに、dhammāだけは永遠にあり続けるのを見たからだ。

2人だけは永遠という共通した性質なので、相手の悲しさと喜びをお互いが理解できたので、nibbānaはdhammāを見つめた。

こうしてエネルギーのない無限のnibbānaは無限のエネルギーである dhammāを見つめることで、

dhammāは3つのタイプのカタチを創造することになった。

閉じた器、開いた器、スクリューの付いた器である。

閉じた器は物質エネルギーになり、開いた器はnibbānaが拠り所にすることでメンタル・エネルギーになり、スクリューの付いた器はnibbānaが拠り所にすることで生命となった。

この宇宙にできたカタチはdhammāの無限エネルギーによって支えられ、生命は無限の涅槃nibbānaが拠り所となり支えられている。

閉じたカタチはそのままだったが、開いたカタチには生命がそこで暮らすことになった。

生命はカタチの成長と変化を喜び愛し、時に同化するほど思い入れて親しみを持って接していた。

それらは永遠と楽しさと全能に満ちているとnibbānaとdhammāは思っていた。

しかし、無限の涅槃nibbānaと無限のdhammāの子どもたちであるカタチと生命は繰り返し続けるという点では無限だが、個々のカタチは「生、住、滅」の有限の存在となり、苦しむことになった。

生命はカタチの性質を連続し、心地よく、生命の思うがままにカタチを変えることができると想っていたのに、そうではなかったので、大いに苦しんだ。

これをみた透明の世界nibbānaとエネルギーの世界dhammāも大いに悲しんだ。

この苦しみを良しとしなかった4者、すなわちnibbānaとdhammāとカタチと生命は、永遠に回帰する苦しみの世界で暮らす生命たちにそこから離脱する方法を授けた。

dhammāの力を使ってnibbānaの元に至る道である。

使者は涅槃nibbāna自身でもある「わたし」である。

涅槃nibbānaはエネルギーのあるところならどこでもその中に入ることができ、そこにスクリューを宿すものであれば、ダンマdhammaの普遍エネルギーの力を得て「生命」となり、すべての生命は涅槃nibbānaの残り香である「わたし」がいる。

この宇宙では涅槃nibbānaが粗い粒子の物質を拠り所とすると肉体、微細な物質エネルギーを拠り所とすると「わたし」、dhammāの集合体四大元素を拠り所にするのが魂、と呼ばれる。

こうして涅槃nibbānaがカタチの中にいるので仮の姿である「わたし」は存在する。

存在をただ認めるだけでないのは、最終的にはそこから離脱して、元の涅槃nibbānaに戻るためである。

「わたし」は、物質に支えられている体、物質エネルギーに支えられている心、dhammāに支えられている魂と順番に離脱して、元の涅槃nibbānaに戻る道を進むことになる。

元のnibbānaに至る道

思考を分析してそれらの限界を再認識する。

思考を構成した意識を分析してそれらの限界を再認識する。

表層意識にある認識パターンの領域の狭さ（メンタルや素粒子以下の因果関係を排除）と誤りからくる不確かさ

深層意識にある思考パターンの領域の狭さ（微細世界の因果関係を排除）と誤りからくる誤謬

自動反応回路化してしまった不正確な意識の現実を再認識する。

→思考の連鎖から逃れる方法を学ぶことで、この２つに操作されるのではなく、道具として使いこなす。

生命とカタチが同化する苦しみを自覚する

苦しみも喜びも回路であることを自覚する

「わたし」は涅槃nibbāna自身であり、使者であることを自覚する

→体の感覚を静穏な心で「生・住・滅」の現実に気づき続けて、自動反応回路を解体する

明治文化人の自己意識との出会い

どの時代にも当たり前に自己意識はあった。しかし庶民が自己意識だけを価値基準の中心にすることはなく、カラダからのメッセージも重視して暮らしていた。

腑に落ちる

腰が据わる

胸がつかえる

断腸の思い

肝に銘じる

腹を決める

ところが幕末に欧米の圧倒的な軍事力を目の前にして、富国強兵が求められた。

それには意識をたんと使って精進しなければならない。

「いのち」よりもカタチが優先される。

体の中にあるカミよりも、組織を統一するカミが求められた。

自然の摂理よりも、意志による効率やスピードを選択した。

そして、なんでもかんでもアタマの自己意識を基準にしろという風潮が春一番のように吹き荒れた。

あまりに露骨なたくらみだったので、これをオブラートで包むキレイゴトが必要だった。

カラダが無い者には理念にしか、頼り依存するしかなかった。

ちょうどカラダと自然に劣等感を抱く人々に時代はスポットライトを当てた。

するとそのような人々が次々と生まれてきていた。

病人、インテリ、都市生活者、女子供、機械利用者、植民地拡大推進者、毛唐、先進国人、金銭依存者

このような躰体の聲が聴こえにくい人に白羽の矢は向けられた。

頭でっかちの知識人、カラダが未発達な乙女、学問に憧れを持つ百姓、都会に住む職人と商人、決まった給料を受け取る職業人、アタマを優先させようとする若い学生、体力のない病人たちに。

こうして合理性、耽美、遍く愛、純潔さ、正義、ナルシズム、平等、公平、自由、完璧性が祭壇に飾られ、カタチさえない幻からこの世を見詰める人で溢れかえる。

自然の摂理の因果関係は逆さまになり、先に結果を見て原因を考えるという奇術が常識となった。

こうして学問が普及する。

夏目漱石は自己にこだわり窃視症と慢性胃炎を患い、

平塚明子は「孤独の旅路なり我が二十年の生涯は勝利なり」「わが生涯のシステムを貫徹するためなり」と叫び、

樋口奈津は偏頭痛を抱え肺結核でこの世をさり、

藤村操は華厳の滝に遺書を残し、

管野壽賀子は人柄よりも略奪者の打倒を選択した。

宇宙と自己意識

宇宙の中で、ヒトに意識が存在するという事実は、根源的な意味を持つのであろうか？

自己認識は生物を通じてこの世に生み出され、この「わたし」は「宇宙の意識」について注目している。

「私たちは、ここに存在している。」ということに人類は異常ともいえる関心を傾けてスポットライトを当て続けている。

自己意識は「宇宙の意識」の表層を理解できるかもしれないが、「宇宙の意識」の深層は理解することはできない、私の体験では。理由は自己意識にはできることとできないことがある。これが自己意識の限界である。その外側にある範囲外の領域には他のアプローチで近づくしかない。

宇宙と自己意識の関係性については面白い事例が多い。

「いま、この瞬間」に関心を向けると、過去や未来、そしてその間にある現在という時間の枠組みが外れてしまい、ただ、「いま」だけの中に「わたし」はいて、それに気づいている内に二つは融解して「わたし」も消え去ってしまうという現象が起きる。

このプロセスの途中に、「いま」と自己意識と宇宙が繋がっている感覚を体験することになる。

因果関係からは解き放され、時間との結び付きとも切り離され、ただこの「いま」に宇宙と自己意識がある。

深い安心感と深い喜びと深い悲しみがともなう。

幸福感ではない、大事な人が亡くなったりした場合などの時として不幸であるにもかかわらずだからである。

これも証明はできないが二つの間を体験し続けると、体や精神の病が治癒しているケースもある。

新しく細胞が生まれ、同じ数の細胞が消え去っていく。ただそれだけである。だからすべての病気は過去と未来のもであって、「いま」のものではない。「いま」の宇宙と自己意識は何事ととも結びつかず、しまいにはこの両極さえもが一つに溶けていってしまう。

自己は幻想なのか？　　　自己意識以外のセンサーはあるのか？

脳科学では、人間は宇宙で特権的な地位を占めてはおらず、そして「世界を見つめる」非物質的な魂を持っているという観念は幻想に過ぎないと告げている学者が多い。

自分は「対象物を見つめている観察者」だけではなく、実は永遠に盛衰をくり返す宇宙の事象の一部である、とういうことを一度でも体感すれば、自己・自我・「わたし」・主体という幻想から大きく解放される。

それには自己意識以外のセンサーをつかってこの世と交流する体感をする必要がある。

生物界には植物や微生物のように脳のない生命体は数多くいるが、それらは脳以外のセンサーを使って他者との交流や交感や交換をしている。それによって重力、光、湿度、接触、を感知し、その刺激に対して反応している。

酵母菌が糖を吸収して二酸化炭素とアルコールを排出するのも交換だし、植物が二酸化炭素を吸入して酸素を排出すことによって炭素を吸収するのは動物でいう摂食運動である。

感知して反応するということは表層意識である感性や理性がなくても、他の方法で信号を受信して発信していると抽象度を一つあげた表現を使うと言い換えることができる。

地球上における38億年の生命体の進化（変化）を見れば、外部を内部に取り入れる消化器系器官を持つ生命体が発生し、次にそれを体内で平衡させる循環器系器官を持つ生命体が発生し、最後に感覚器官とその信号を処理する神経系器官を持つ生命が発生した。

また昆虫や脊椎動物の卵という一つの細胞の発生を見ると、始めに内胚葉が消化器系器官となり、次に中胚葉が循環器系器官となり、最後に外胚葉が神経系器官に発達していく順序である。

どの生命体も脳を使わなくてもサバイバルしてきた事実がある。脳がなくても環境と交流をしている事実がある。

自己意識を持っていなくてもちゃんと繁栄している植物や微生物や動物がいる。

彼らは自己意識とは違うセンサーを使ってこの世と交流している。

これらを無意識や非意識との交流と仮定して話を進めてみよう。

意識（感性）、自己意識（理性）、無意識（智性）、非意識（魂性）と意識にも層の違いがあることが分かると各「自分」の正しさは全体の中では１／４でしかないことが分かるから、いくら自己意識が嫌がってみても、これを体感した時点でもう謙虚になってしまっている。こうなると社会通念（アタマ）の謙虚さに体験（カラダ）の謙虚さが付け加わったことになる。

どんなモノもその構造によってこの世の変化を捉える媒体が違い、方法が違い、それによって他の感覚を体感することはできない。匂いを聴くことはできないし、音は視ることはできない。視覚は電磁波、聴覚は空気の振動、嗅覚は分子、味覚は分子結合、触覚は圧力という媒体が必要なように。各器官はその構造の特質によってこの世の変化を捉えるしか方法がない。（音に色が付いている共感覚だって条件反射で結びつけているのであって聴覚が音を視覚しているのではない）

脳もまた同じで、脳の構造の特徴で捉えることの変化でしか、この世を察することができない。

脳は脳が感じることができることしか感じないのだから。言葉を変えれば、脳はそれ自身が見たいものしか見えないのだ。

脳は電気信号を使って「分ける」ことで、この世の変化を把握しているので、脳を使う限りは、この世はその姿を分類可能な一面でしか「顔」を見せることができない。区分されたカタチ（物理的・観念的・言語・シンボル・区切りがあるモノ）こそが、脳という器官の唯一の把握方法だ。だから脳が把握したこの世は、二項対立のあるカタチを媒体（ベース）にする「意識」によって把握され、この世のものは何でも同じ構造でしかないように想定しまいがちだ。

これが脳ができることだ。脳は脳のできることでしかこの世と交流するしかない。

だからといって、この自己意識（脳）にあまりにもスポットライトを当てすぎて、内臓が行っているこの世との交流のコミュニケーションに目を塞いでしまっているのは本末転倒だ。

まずは赤ん坊がたどってきたコミュニケーションの順番どおりに始めてみるのが楽しい。

聴覚、触覚、口覚、視覚の順番に。（嗅覚がいつ頃始まるのかについては諸説ありまだ確定されていない。）

また一度は、視覚や聴覚を塞いでみるのはどうだろう？それでも感じる感覚でこの世にいることで、他との交流ができているという体験を積み重ねることにより、新たなセンサーが始動し始めるのを静かに待つのがいい。

この時に自己は幻想ではなく実体であるが、それは全体の中の一部でしかない体感があるだろう。

だからもし自己意識のセンサーだけを使ってこの世と交流しているのならば、その自己意識の形成した世界観は全体性から見れば単なる幻想でしかない。

これについては第四章でもう一度、触れてみたい。

attā-diṭṭhi の形成され方

次のような見解を持つ人もいます。

「存在を構成する5つのグループが存続する限り、老朽したり溶解したりせず、生命体は存続する限り、老朽したり溶解したりすることはありません。 生命体は衰退、死、溶解することなく100年または1000年まで生き、その期間の間、生命体の本質または実質である存在を構成する5つのグループは老朽も溶解もしない。」 と。

この見解は魂があると信じる妄想です。

たとえば、木鉢の本質または物質は、鉢という可変性のある概念ではなく、木そのものであると理解している人もいます。

しかし、この考え方では物質レベル以前の真実を突き抜けておらず、この木片が膨大な数のaṭṭhakalāpa- rūpaで構成されていることを識別することができていません。

Aṭṭhakalāpa-rūpaとは、純粋な８つの微細エネルギーを意味し、構成要素は(1) 拡張の要素、(2) 流動性または凝集の要素、(3) 運動エネルギーの要素、(4) 運動の要素、( 5) 色の要素、(6) 匂いの要素、(7) 味の要素、(8) 栄養の要素、です。）

つまり四大元素とそれらに類似した4元素の計8つの元素です。

したがって、彼らは木鉢の本質または物質が木であることを表面的にしか理解していないことになります。しかし、中にはこのレベルを突き抜けて、木の本質や物質とは物質グループの集合体にすぎず、これらもまた因果的に条件付けられた発生と消滅を繰り返す物理現象であることに気づく人もいます。

たとえば、鉢の形をした木片には拡張の要素（pathavī-dhātu）が顕著であり、これらの空間占有する形状の要素は間違いなくpathavī-dhātu（拡張の要素）の究極の真実であり、「木」そのものではない、と認識しています。

同様に、その性質の種類や３次元の立体に顕著に見られる凝集状態は、āpo-dhātu (凝集要素)の特徴です。 その形状に見られる熱の状態は、tejo-dhātu (運動エネルギーの要素) の特徴です。 そして、その形状に見られる運動の状態は、vāyo-dhātu (運動の要素) の特徴です。 これら4つの要素は、4つの主要な根源、すなわち四大元素 (Mahābhūta) として知られています。

同様に、その木片の色は vaṇṇa (色の要素) です。 匂いはgandha（匂いの要素）と呼ばれます。 味はrasa（味の要素）と呼ばれます。 そしてその栄養素はojā（栄養の要素）と呼ばれます。 このようにして、一部の賢明な人々は物質レベルの真実を突き抜けて、8要素を認識しています。

「元素レベルがないままに物理現象だけが先行して、木そのものが存在することはない。そしてもし木が存在しないなら、究極的な意味では木鉢はどうして存在できるであろうか？」という認識があります。

私たちが普段「鉢」と呼んでいる木片が、風や日差しにさらされたり、棒で打たれたりすると、木に含まれる物理現象が変化し、呼び名が変わり、たとえば木クズになります。

したがって、現象の中には、衰退するもの、溶解するもの、条件によって再び発生するもの、増加するもの、減少するもの、そして正常のまま残るものなどがあります。

このように理解すると、これらの物理的要素を離れて木だけが存在しないことが明確に理解されます。

さて、木そのものが究極的な意味で存在しないのに、どうやって木が鉢の本質や実体を持つことができるのでしょうか？ 瞬間的に生じては消えていく物質の集合体は、どのようにして木の本質や物質となるのでしょうか?

ここでいう、一般的に使われている「鉢」という語句は、一般的に使われている「生命体」という語句の使い方に対応します。木に含まれる物質の集合体は、存在を構成する 5 つのグループに対応するアナロジーです。

メンタルのグループには、形がありません。 物体が体のどこかに触れると、意識が生じ、すぐに消えます。 bhavaṅgasotā、つまり「潜在意識の流れ」は、心（heart）の中で絶えず生まれては消えます。

Attā-diṭṭhiのデメリット

すべての間違った見解、悪なるメンタル的要因、悪なるkammaの根本原因はAttā-diṭṭhi です。 これらのpāpa-diṭṭhi間違った見解が生命体の生命連続性にある限り、そこには、pāpa-diṭṭhi、pāpa-dhamma、pāpa-kammaも存在します。 そして、過去の世（存在）で行った意志的な行為、現在の存在で行っている行為、そして将来の世（存在）で行うことの継承者となるのです。

生命連続性にpāpa-diṭṭhiなどが付随する限り、本人は「地獄行きの人」、「悪を行う者」、「kaṇha（暗黒）領域の住人」、「andhabāla（愚者）領域の住人」と呼ばれることになります。このattā-diṭṭhi が止むと、これら3つすべてがあらゆる種の悪とともに消滅します。

attā-diṭṭhi を根絶できない生命体は、pāpa-diṭṭhiの継承者となるのは どうしてでしょうか?

それはattā-diṭṭhi （主格が基盤である信念）を公言する生命体は、多くの宇宙生滅サイクルや輪廻転生の中で、保持してきた数え切れないpāpa-diṭṭhiを取り除くことができないからです。

Attā-diṭṭhi を伴った生命連続性を持つ生命体は、これらのpāpa-diṭṭhiに適応した結果で、間違いなく下位界へと引きずりこまれます。このAttā-diṭṭhi を払拭できない限り、来世ではこれらのpāpa-diṭṭhisの犠牲者にならざるを得ません。

そして、将来の世（存在）で、起こり得るあらゆる種の誤った見解を公言し、機会があるかもしれないあらゆる種の「悪なる行為」を実行し、重大なkammaを犯すでしょう。

現世においても、attā-diṭṭhi を公言する人は一般的に、誤った見解を公言し、悪なるメンタル的要素を取り込み、悪行を行う傾向があります。

Attāはいかに人を凶暴にするのか

「変化しない永続的な魂がある」という信念を持ち、悪なる行為の傾向がある生命体は、絶え間なく生まれ変わる輪廻をさまよわなければなりません。

魂の信念を消滅させることができた瞬間、純粋さと高貴さが確立され、あらゆる危険から解放されて輪廻転生の中を平和に（下位4領域に転生することなく）さまようようになります。

なぜ魂の信念が悪なる見解、悪なる考え、悪なる行為の根本原因であり、なぜこの信念の破壊がこれらを停止する根源となるのでしょうか？

王についての譬え話をしてみます。

ある王は自分の王権、プライド、威厳に大きな愛着を持っていました。王としての地位と栄光を保つために、彼はあらゆる悪なる考えと悪なる行為をその力で行使しなければなりませんでした。自分の王としての権力と栄光に強い執着を持っているならば、あらゆる種の悪なる考えを抱き、あらゆる種の悪なる行為をして自分を守らなければなりません。

しばらくして、その王は自分の王としての義務と栄光の短所や欠点に気づくことになります。すると、その時から、彼の王権への執着は薄れ、王位を放棄してsamaṇa（熱passionを消そうと努力する人） になりたいという強い願望を持つようになります。そして、彼は王権と栄光を維持し保護するために必要なすべての邪悪な行為から遠ざかろうと心に決め、今後は邪悪な行為を控えるようになります。

さらにしばらくすると、彼は家庭生活を離れ、samaṇaの生活に入るとします。samaṇaになっても、彼は自分の心と体、つまり存在の五つの構成要素（五蘊）を、本質や実体があって自分に属する魂であると誤解しています。このように、彼は存在の五つの構成要素を自分の魂であると妄想し、それに執着しています。彼がこの魂の信念に執着し、それを取り除くことができない限り、間違いなく、必要に応じて悪なる考えを抱き、悪なる行為を行うことによって自分の魂を守ることになるでしょう。

Sammāとしての生活をする時点で、彼は存在を構成する5つのグループの欠点と悲惨さに気づき、洞察力の智慧を通して、存在を構成する5つのグループには本質も実体も存在しないと正しく見て、魂は存在しないことがわかり、魂への執着もなくなります。

その瞬間から、彼はいかなる邪悪な考えも抱かず、いかなる邪悪な行為も行わず、徳によってのみ魂と意志は保たれるでしょう。

彼は自分を守るために徳の道から決して外れることはないでしょう。実際、徳の原則を守るために果敢に自分自身を犠牲にするでしょう。

上記の譬えが、魂の信念がすべての悪の根本原因であり、この信念の破壊が悪の停止の起源であることの理由です。

sakkāya-diṭṭhiの悪　

sakkāya-diṭṭhiの悪は、極めて深く、広範囲に及びます。

akusala-kammaを犯し、必ずAvīci地獄に生まれ変わるのではないかという見通しに非常に動揺し、心配している人は、akusala-kammaを「attā（自己）」（の一部）に変えてしまい、「私は確かに悪いことを犯した。確かに間違いをした」などの執着心に非常に悩まされます。そのような生命体がanattaの特性（anatta pariññā）を完全に理解して覚り、「私は確かに間違いを犯した」などの考えの執着を捨てることができれば、その生命体にとっては、そのkammaはもはや結果を生み出す力を持つことはできません。

しかし、実際には生命体はそのような考えの執着を捨てることはありません。

いわば、そのkammaはその生命体に付き従うことを望まず、結果を生み出すことも望みませんが、その生命体が「それは私が犯したkammaだ」と考えること、すなわち、そのkammaを「私」が所有するという事実によって、kammaは「私」と関係を持ち、その結果が生じることが強要されます。

この強制的な所有行為のために、そのkammaは結果を生み出す義務が生じるのです。sakkāya-diṭṭhiを持つ世俗の人々は、これ程までに惑わされ、道に迷います。

すべてをkammaのせいにして殺人を続ける者はどのようにして浄化していくのか？

殺人者本人がkammaを変えることができる唯一の者だが、それをしないのは、すべきことをしない責任放棄であり、ましてや原因をkammaだけのせいにしているのは単なる悪業を積み重ねているに過ぎない。

残りのakusala-kammaについても同様です。sakkāya-diṭṭhiを強制的に所有する行為のために、akusala-kammaは、生命体がどこに生まれ変わろうとも、輪廻の中で生命体に付き従い、結果を生み出します。

生命体は、akusala-kammaの結果に圧迫され、それによって大きな苦難を味わっている最中でも、akusala-kammaを捨てられないことに気づくでしょう。

これらの生命体は、そのような akusala-kammaを「私が犯した akusala-kamma」とみなし、kammaによって生じた結果によって地獄で苦しんでいる最中でも、それらを保持します。生命体はそのような akusala-kammaを捨てさって放棄できないため、これらのkammaは結果を生み出しざるを得ません。

kammaは結果を生み出し続けるために、生命体は地獄からの解放を達成することができません。これ程までにsakkāya-diṭṭhiは深く邪悪で正道をはずれているのです。

同様に、生命体は病気、老齢、死の危険を非常に恐れます。しかし、そのような恐怖を抱きながらも、彼らは「私は過去に何度も病気にかかり、老齢に苦しみ、死に苦しんだ」という思いを通して、過去の病気、老齢、死の出来事に執着します。そのため、彼らはそのような恐ろしい現象さえも手放して捨てることができないのです。そして、手放して捨てることができないから、病気、老齢、死の現象は、いわば本人の意志に反して、付きまとい、抑圧を引き起こし続けます。このようにして、病気、老齢、死の現象が現れざるを得ないのです。これ程までに、sakkāya-diṭṭhiは深く邪悪で正道をはずれているのです。

この現世においても、外的および内的な危険に遭遇し、病気や疾患にひどく苦しめられると、生命体は「痛みを感じる、傷つく、焼けるような感覚に苦しめられる」といった思いをして、これらの病気や疾患に執着し、それに囚われてしまいます。

この囚われる行動は、後に病気や疾患から逃れることを妨げる束縛です。このsakkāya-diṭṭhiの束縛が強いため、生命体は無始の長い輪廻の中で、今日に至るまでこれらの病気や疾患を切っても切れない仲間としてきました。

このように、sakkāya-diṭṭhiは現時点で生命体をひどく苦しめている病気や疾患にさえ執着し、支配されるのです。たとえ、それらの大きな危険や苦しみが、生命体に付き添うことをいわば望まなかったとしても、そのままでいることはできず、sakkāya-diṭṭhiの引力によって、世（存在）から世（存在）へと絶えず付き添わざるを得ないのです。

来世でも、「私たちは病気や苦しみを経験するだろう、私たちは老いに遭遇するだろう、私たちは死に遭遇するだろう」といった考えによって生じる執着は、sakkāya-diṭṭhiの行為です。それは、病気、老い、死という将来の出来事を現在の瞬間から取り込んで、生命体に縛り付けます。

したがって、この束縛行為が消滅されない限り、生命体が将来それらの可能性に遭遇することは確実です。

これ程までに、sakkāya-diṭṭhiは深く邪悪で正道をはずれているのです。

Attāのせいで本当の幸福はない

Attā-diṭṭhi から抜け出せない限り、たとえ自らを創造神であると宣言する偉大なBrahmāになれたとしても、pāpa-diṭṭhiからから抜け出すことはできません。過去世で生命連続性の中で生じたもの、現世で生じたもの、そして来世で生じるであろうものによって、転生するときは必ずより下界に生まれ変わることになるでしょう。

したがって、ちょうど大海原に生息する魚や亀と同じように、彼らはkaṇha（黒色、邪悪）界の単なる住人にすぎません。 彼らは「智慧の目」を持たないため、andhabāla愚者界の住人なのです。

過去の不健全なkammaのせいで現在は下位領域に生まれ変わっている生命体であっても、来世で過去の健全なkammaが熟したとき、自らを全能の神と宣言する偉大なBrahmāになるかもしれません。　したがって、もしAttā-diṭṭhi が生命連続性の中に潜在しているならば、輪廻転生を彷徨う中で幸福を見つけることができず、Saṇsāra（輪廻転生）からの逃げ場を見つけることはできません。

Attā-Diṭṭhi（主格Personalityが基盤であるという見解）のデメリット

主格が個々の基盤であるという信念のせいで、生命体は輪廻をさまよわなければなりません。

この生命連続性には、さまざまな誤った見解、邪悪なもの、kammaが潜在しています。これらの不健全なメンタル的要因のために、次のようなことが顕著に生じます。

pāpa-diṭṭhi（誤った見解）、pāpa-dhamma（邪悪、悪なる習慣）、pāpa-kamma（不健全な行為）

(1) 四つの下界での転生、および

(2) さまざまな不健全な自発的行為。

生命体は、これらの悪いメンタル的要因のために、さまざまな存在領域をさまよいます。輪廻の過程で、四つの下界のアリでさえ、時には、Ābhassara界, Subhakiṇha界, Vehapphala界、無形界などの高次のBrahmā界に生まれ変わることもあります。これらの高次のBrahmā界に転生する機会はありますが、寿命が尽きたり、功徳が尽きたりすると、四つの下界に生まれ変わらなければなりません。これが宇宙の規則です。

論蔵のVibhaṅga「分類」 に以下の節があります。

“Ukkhittā puññatejena, kāmarūpagatiṇ gatā; Bhavaggatampi sampattā,puna gacchanti duggatiṇ.”

Ukkhittā 　　　　　 [pp．of ukkhipati] taken up，lifted up　　挙げられる、引き抜く、排除する

puññatejena　　　　 puññatā：Meritoriousness，merit，good works　　徳行

kāmarūpagatiṇ 　　　感覚界Kama realmと 色界physical realmの趣、癖、状態、習慣

gatā　　　　　　　 gata：[pp．of gacchati] gone； moved； walked；arrived at； having come to a condition.

Bhavaggatampi 　 bhavagga：[m．] the highest point of existence or of the universe

sampattā　　　　　[pp．of sampāpuṇāti] reached； arrived； come to； attained　到達した

puna 　　　　　　　 puna：[ind．] again．

gacchanti 　　　　　 [gamu+a+anti]　　　go　　行く

duggatiṇ　　　　　 Distress，suffering，state of punishment　　　　　　悲惨な世界

健全な意志的行動によって条件づけられた生命体は、感覚圏、形態圏、さらには微細物質圏のNevasañña-nāsanñāyatana（知覚でも非知覚でもない圏）に生まれ変わります。

それでも、寿命が尽きるか、功徳が尽きると悲惨な存在領域に生まれ変わります。　　

誤った見解、悪なるメンタル的要因、悪なるkammaは生命体の継続に伴うものであるため、もし偉大なBrahmāになったとしても、世俗的な領域の住人なのでPuthujjana（世俗）のままです。

空に投げ上げられた石が重力によって地面に落ちるように、生命体は4つの下界に生まれ変わる傾向が常にあります。

それらの生命連続性は地獄のメンタル的要素を多く抱えているため、「無常の生命体」です。この生命連続性には悪なるメンタル的要因が伴うため、悪なる行為をする運命にある悪なる心を持っています。悪なるkammaが蔓延する領域にいるので、ほとんどの生命体は「智慧の目」を持たない領域を住処とします。

次の疑問は、なぜ偉大なBrahmāさえもこれら 2 つの領域に存在するのかということです。

なぜならば、それらは永遠と主格の存在を信じている、つまり「私はある」と公言しているからです。

Attā-Diṭṭhiの破壊のメリット

(a) 地獄での転生がなくなる

生命体がpāpa-diṭṭhiなどの根本原因であるAttā-diṭṭhi を根絶することができたとき、過去に生命連続性に付随し、現在にも付随し、そして来世にも付随するだろうメンタル的現象は完全に破壊されます。そして過去世において、現世で行われている、そして来世で行われるであろう、健全な自発的な行動の継承者となります。

ひとたび生命体がAttā-diṭṭhiを追放すると、下位界に導く間違った見解、悪なるメンタル的要因、悪なるkammaはすべてAttā-diṭṭhiとともに消滅します。 もはや下位界に生まれ変わることはなく、来世で下位界の支配から逃れることになります。それらはもう悪なる行いをしないので、永遠にあらゆる悪から解放されます。

(b) 涅槃Nibbānaの達成

pāpa-diṭṭhiなどを含む煩悩の完全な消滅、そして、悪なるkammaの完全な消滅してもまだ残っている存在のグループである五蘊が、Sa-upādisesa-nibbāna、すなわち超世俗の領域、または聖者の領域と呼ばれるものです。

(c)　死のない世界

Sa-upādisesa-nibbānaとは、pāpa-diṭṭhiなどの煩悩の消滅しても、まだ存在グループである五蘊が残っている状態で、今後の宇宙サイクルにおいても損なわれたり、破壊されたり、劣化したりすることはありません。

この状態は永続的かつ永遠で変わることも、朽ちることも、溶解することも、消えることも決してありません。 この状態には「溶解の瞬間」がないため、Amataと呼ばれます。 [a-mata，Sk. amṛta] 不死，甘露、涅槃

(d) 　出所（根源）の不明性　Unoriginatedness

このような煩悩と根本原因であるAttā-diṭṭhiの消滅状態を達成した人は、この消滅状態が将来も決してなくならないことがわかるでしょう。 Pāpa-diṭṭhi などがマインドに再び現れることはありません。下位界に導く悪事を完全に控える状態が衰退することもなく保たれます。もうこの世に生まれ変わることはありません。

煩悩が消滅したこの状態は、Amata-dhātu（死も転生もない状態）でAsaṅkhata-dhātu （創造されていないもの、根源のないもの、涅槃）と呼ばれます。

(e) 　Sotāpannasが発生する領域Planes

マインドの中でAttā-diṭṭhi が消えたSa-upādisesa- nibbānaに達した人々はPuthujjana（世俗人）の段階を過ぎ、 聖なる者の次元に存在し始め、その超世俗的な領域の住人になります。

Attā-diṭṭhi を根絶したSotāpannasは天界と人間の間の輪廻転生を７回だけ経て、最終的に涅槃に達することになります。

しかし、これらの生まれ変わる人々、すなわちBrahmā界を通過する人々の一部には、uddhagāmi-puggala（より高い段階を通過する生命体）になっているため、数に制限はありません。

彼らは何百、何千、何十万もの世（存在）と宇宙生滅サイクルにわたってBrahmā界の間を通過するかもしれません。 しかし、彼らは決して下界に生まれ変わることはなく、またDeva界や人間界を通過することもありません。

過去と現在の健全なkammaによって条件づけられた聖なる者たちは、幸福な存在の道を進んでいきます。将来においても、彼らは健全な自発的行為のみを行うであろうし、不健全な自発的行為を行うことなど夢にも思わないでしょう。pāpa-diṭṭhi、pāpa-dhamma、pāpa-kammaの根本原因であるAttā-diṭṭhi は、それらによって完全に消滅しています。

Attā-diṭṭhi を払拭した人々は、現世のkammaの継承者になります。 彼らは幸福な存在の道に導く健全なkammaを持っており、その過程のみに縛られています。 彼らは高貴なDhammaを授けられると、聖なる者になります。 健全で純粋なkammaが溢れている存在領域にいるため、その領域の住人になります。 彼らは四聖諦を覚る「智慧の眼」を持っているので聖なる者となります。将来どのような存在でさまよっても、彼らにはariyapaññā （聖なる者たちに関わる智慧）が与えられているのでAriya（聖なる者たち）です。 Attā-diṭṭhi を払拭できていないPuthujjanaの段階を越えることでAriya、すなわち「超世俗の住人」になります。

全知の仏陀の時代のSāvatthi（コーサラ国の首都）, Banārasa, Vesālī（Licchavi国の首都）, Rājagaha（マガダ国の首都）では、Attā-diṭṭhi を払拭した後に、Sotāpannaとなった多くの世帯主がいました。

Brahmāの王Sanaṅkumāraは、かつて、数え切れないほどの聖なる者たちが存在したことを明らかにしました。

仏陀の在世中にSotāpannaとなった多くの人々は、現在、６番目のDeva界にたくさんいます。

これらのSotāpannaはuddhaṇsota-puggala　｛uddha：[adj．] upper； upward、　puggala：'individual'，'person'｝（人生の流れを上に向かって進んでいる人々）なので、決して下界に生まれ変わることはありません。

Jāti-khetta (転生の領域) 内の 1 万の宇宙には、何十億もの、数え切れないほどの数（100万の10乗）の、Sotāpannaである Cātumahārājika Devas [Cātu 4 + maharaja 王]がいます。 他の5つのDeva界や、Brahmaparisajjā 界などのBrahmā界にも、計り知れない数のSotāpannaが存在します。 これらのSotāpannaはuddhagāmi-puggala（人生の流れを上に向かって進んでいる人々）であり、決して低い次元に生まれ変わることはありません。

パーリ語の経典に次のような節があります。

「比丘たちよ、これらは幻覚の4つのケースです。この4つとは何しょうか？

非永続的なものを永続的なものとみなすことです。

苦しみであることが良いことであるとみなすことです。

自分ではないものが自分とみなすことです。

醜くて攻撃的なものはが美しくて有益なものとみなすことです。」

これらが、認識、感覚意識、錯覚した意見が幻覚である４つのケースです。

ここでいう「無常」という表現は、「名前と形態」³³という語句に要約される、本質的に永続的ではないメンタル的および物理的な事実と状態を意味します。

「名前と形態」を「生命体」や「主体」という観点から見ることによって、人は非永続的なものを永続的なものとして認識します。 なぜならならば、「生命体」や「主格」は単なる概念に過ぎないからです。

そして、私たちが知っているように、概念には、過ぎ去ったり、動き回ったりする属性はありません。

悲惨な事実に陥りやすい、単にメンタル的と肉体的な現象を大切にして心地よいとみなすことは、ヒトは病気（苦しみ）を幸福として、醜く不快なものを美しく有益なものとみなすことです。

「生命体」とは単なる「概念」です。自然界にはそれに相当するものはありません。

そのような実際には存在しないものが実際に存在するとみなされると、その結果、単なる「名前と形態」が存在の本質とされます。そして、それが生命体の自己であるだけでなく、生命体そのものであると考えることによって、人は自己ではないものを自己とみなすようになります。

Anattanisaṃsa　　anatta自己に実体がない+ ni否定+saṃsaya疑念

Anattaの覚りから生じる利点の簡潔な説明

the Venerable Mahāthera Ledi Sayadaw, Aggamahāpaṇḍita, D. Litt.著

anattaの特性を覚ることによって生じる利点をここで示します。

anattaの特性をはっきりと認識できれば、人はsotāpatti-magga（流れを得た者の道）の知識の段階に達し、そこではatta-diṭṭhi（自我の妄想）またはsakkāya-diṭṭhi³（「主体」があるという信念）（注釈3　文明社会でいう「自己アイデンティティ」）が完全に根絶されます。

Attāによって生じた Issaranimmāna（すべては神によって創造される）の見解

このAttā-diṭṭhi によってIssaranimmānaの見解が生じるのは事実です。偉大なBrahmāは、このAttā-diṭṭhi のせいで、自分がどこから来たのか、そしていつBrahmā界から落ちるのかわからず、自分自身が永続的で、不変で、永遠であり、変化することがなく、永遠のものとして残ると考えてしまいました。

「私はBrahmā、大いなるBrahmā、征服者、他者には征服されない者、すべてを見渡し、全ての力を持ち、支配者で、創造者で、優れた者で、全能者で、 すでに静寂を実践し、いま、そしてこれから存在するすべての父である。」 と。

時折、彼はより短い寿命を持つBrahmāsの領域に現れ、「私は永遠である。私は全能である。私はあなたたちすべてを創造した」と言います。

より期間が短いBrahmāたちは、彼の言葉を聞くと、彼を信じ、この見解の支持者となります。 Devaの次元や人間の世界に生まれ変わる生命体については言うまでもありません。

このIssaranimmānaの見解を支持する人々は、Issaranimmānaを自分たちの創造主である神とみなしています。その偉大なBrahmāが語った言葉を機に、この見解がこの世に誕生しました。

anattaの覚りと過去のkamma

atta-diṭṭhiとは、生命体に絶えず付きまとう古いakusala kammaの頭、つまり長です。sakkāya-diṭṭhiがある限り、古いakusala kammaは燃えるように強くなります。生命体は6層のdeva界で神々またはSakkaとして幸福と繁栄を享受しているかもしれませんが、4つのapāya-lokasに永遠に注意を向けていなければなりません。同様に、生命体はrūpa brahmaとarūpa brahma界で幸福と繁栄を享受しているかもしれませんが、4つのapāya-lokasに永遠に注意を向けていなければなりません。

ヤシの実は、ヤシの木のてっぺんに付いていても地面に落ちる傾向が常にあります。接合部がしっかりしている限り、ヤシの実は木に残りますが、そこが弱くなると、必然的に地面に落ちます。同様に、atta-diṭṭhiに悩まされているdevasとbrahmāsは、生命力である「接合部」が無傷である限り、devasとbrahmāsの場所にいる機会を得ています。しかし、生命力である「接合部」が切断されると、ヤシの実のように必然的に下層の場所へと降りていきます。確実にそうなります。なぜならば、生命体のメンタル構造に常にあるsakkāya-diṭṭhiは、その内部に無数のakusala kammaを集めるため、それらはMeru山よりも大きな重荷になるからです。

saṇsāraと呼ばれる長く始まりのない輪廻を通じて生命体に永遠に付き従ってきたすべての古いasakula kammaは、それらの頭であるsakkāya-diṭṭhiが完全に消えるとすぐに完全に消滅します。

sakkāya-diṭṭhiが完全に消滅すると、前世や前世界サイクルから生命体に付きそう古いakusala-kammaは言うまでもなく、現世で犯した殺人や窃盗などの無数のakusala-kammaと、その結果として生じる傾向は完全に消え去ります。

そのような生命体はシラミや虫の攻撃を恐れる機会は残るかもしれませんが、無数の過去のakusala-kammasの結果を恐れる機会はもう残っていません。

anattaの理解と将来のkamma

人間、deva、brahmāは、そのメンタル構造にsakkāya-diṭṭhiを具えており、今日は善良で徳の高い生命体であるかもしれませんが、明日、明後日、来月、来年、あるいはその後の人生において、母殺し、父殺し、阿羅漢を殺すという大いなるpāṇātipāta（殺生）-kamma、あるいは盗みなどのadinnādāna-kamma [adinna与えられていない+ādāna取得]など、無数のduccaritaを犯す可能性があります。今日はBuddha Sāsanaの範疇で生活しているかもしれませんが、明日、明後日には、Buddha Sāsanaの範囲外となり、Sāsanaの破壊者となることさえあるかもしれません。

しかし、anattaの特性をよく理解し、メンタル構造から完全にsakkāya-diṭṭhiを根絶した人間、deva、brahmāは、sakkāya-diṭṭhiを取り除いた瞬間から、夢の中でもduccaritaやその他のakusala-kammaを犯さなくなります。ただし、彼らはその後も多くの世（存在）と多くの世界サイクルの間、輪廻を続けるかもしれません。sakkāya-diṭṭhiから解放された日から、涅槃に達する最後の世（存在）まで、彼らは継承する世（存在）と継承する世界サイクルの間、永久にそして継続的にBuddha Sāsanaの傘下に留まります。彼らにとって、Buddha Sāsanaが消えたいかなる世（存在）もいかなる世界ももはや存在しません。これは、将来のkammaに関係がある限り、sakkāya-diṭṭhiの消滅から生じる利点です。

過去のkammaがどのように無効になるのか

sakkāya-diṭṭhiが消滅した瞬間に、どのように無数の過去のkammaが無効になるのかは、次のように説明できます。

強い絹糸でつながれた無数のビーズがあるとき、 1つのビーズを引っ張ると、他のすべてのビーズは引っ張られたビーズに従って影響を受けます。しかし、絹糸が外されると、ビーズの1つを引っ張っても他のビーズは影響を受けません。なぜなら、それらの間にはもはや執着attachment（関係性の絹糸）がないからです。

sakkāya-diṭṭhiを持つ生命体は、過去世と過去の世界サイクルの間の一連のkhandhaに対して強い執着を抱き、それらを「私」に変換して暮らしています。 「過去世や過去の世界サイクルで、「私」は何度も人間、神、brahmāであった」と考えることで、本人はsakkāya-diṭṭhiという糸を獲得してしまっています。したがって、過去世や過去の世界サイクルで犯した、まだ結果を生んでいない無数の過去のakusala kammaは、その生命体がどこに生まれ変わろうとも、それに伴うのです。これらの過去のakusala kammasは、強い糸で繋がれて結び付けられたビーズに似ています。

しかし、短い期間の１回の座禅でも、anattaの特性をはっきりと認識し、sakkāya-diṭṭhiを取り除いた生命体は、rūpaとnāmakkhandhaが結合した連続体としてではなく、生じて消える別々の現象として認識します。糸のような「私のatta」という概念は、もはやありません。本人のkhandhaは、糸が抜かれた数珠の列のように見えます。本人は、過去に犯したakusala-kammaが「「主体」」でも「生命体」でも「私」でも「私のkamma」でもなく、一瞬のうちに生じては消えるものであることをはっきりと認識しています。そのため、これらの過去のakusala-kammaはsakkāya-diṭṭhiが消えるとすぐに完全に消えます。

ここで、akusala-kammaだけが消えることに注意してください。過去のkusala-kammaはsakkāya-diṭṭhiが単に消えただけでは消えません。arahatta maggaの段階に達し、taṇhāが完全に根絶されたときにのみ、kusala-kammaも完全に消えます。

参考資料

いつも間違えている「わたし」　　　

自己ってなんじゃ？

間違える理由とは？　　　　　意識のメカニズム

自己は幻想なの？

自由意志って本当にあるの？

自己ってなんじゃ？

似た言葉には自我、自分、主体、主観、自己意識、自意識、わたし、セルフ、などと、詳しく見れば違いはあるけど、少し離れてみると、どれも大体似たよう意味です。

自分自身とは、さまざまな感覚の印象と記憶を統合し、私の人生を「管理し、自由意志で選択をし、一つのものとしてここに存続しているものです。

自分　　　　　　　　　　その人自身　　　一人の中に４つ（もしくは30兆）の自分がいると筆者は説く

アイデンティティー　　　自分（エゴ）視点の自分定義集　　自分が自分であるためのもの

自我　エゴ　　　　　　　自分視点の自分が考える自分　　自我が強いとは、外から自分を見ずに自己中心的。

パーソナリティ　　　　　他人から見た自分の性格　　キャラ（クター）　　社会の中での役割・仮面

自己　セルフ　　　　　　他人からみた自分も取り入れた自分　　　　他者からの視点を含めた「わたし」

わたし　　　　　　　　　自我と自己の両方　割合は各自の自覚によって変わる

主体　　　　　　　　　　自我、自己、わたしのこと　対義語は他者、また文脈により対義語は客体

主観（クオリア）　　　　自分視点の感覚　　例）科学的な700nmの波長では説明の意味がない赤色の感覚

例えば、自分は女だけど「男っぽい」と、周囲（他人）から言われたとします。

自分の中（自我）では「自分は女だ」と思っていても、周囲の目を通す（自己）だと「男っぽい」のです。

もし生物的に女なのに「私は男だ」と社会的な観点は一つも取り入れずに本気で「自我」で思い込んでいるとしたら、性格（パーソナリティ）が分裂している状態で性同一性障害の傾向があります。

自我（エゴ）は自己（セルフ）を動かして他者とかかわるため、他者と直接にはかかわることはない。

他者との直接の交流はパーソナリティが担当するので自己（セルフ）はそれらの指揮官。　

自己(セルフ)とはキャラではなく自分自身が本当に感じることを集積したもの。

ちょっと大袈裟に定義しましたので、異論がある方はぜひご指摘ください。一緒に考えていきたいと思います。

参照　自己と主観（クオリア）

感情がない自己は現実感がなくなる

ヒトは緊急時に痛みや恐怖を感じなくなる時があります。ライオンに腕を食いちぎられたリヴィングストンや戦場の兵士やレイプにあった女性やてんかん発作にもこのようなことが起こる場合があります

緊急時には、前部帯状回が極度に活性化します。これが扁桃体の情動中枢を抑制あるいは一時停止するために、不安や恐怖などの情動が一時的に抑制されます。しかし同時に、前部帯状回の活動性は、極度の覚醒と警戒を生み出し、その後に必要になるかもしれない防御反応に備えます。

このメカニズムが脳障害や脳内の化学物質のバランスによって誤って誘発されてしまったらどうでしょうか？

強く警戒して世界を見ているのに、情動的な回路が機能しない状態です。

この状態を意識（わたし）はどのように解釈するのでしょうか？

「この世界は現実ではない」という現実感の喪失。

もしくは「私は現実ではない」という離人症のケースです。この状態を体験している間は本人には皮膚電気反応がありません。

自己は感情、空間、時間との関係の中にあるものであり、この関係性が上手くいかないと、離人症・統合失調症・自閉症という症状となって現れます。

自己とは、絶えず、「空間性」を了解（時間化・意識化）することによって成り立っている（吉本隆明『心的現象論』）とも言えますが、その「了解」がうまくいかないと、「自己」は統一されず、意味不明の自己が積もっていくだけで、まったく「自己」とは感じられなくなってしまいます。

自閉症者も、見た映像は記憶に残るのだが、それがいつのものか、他のこととどうつながるのか、はわからないと言いいます（たとえば、ニキ・リンコや東田直樹の作品）。

ここでいう了承とは空間性と時間性を結びつけるもので、良くいうと客観性の獲得です。

しかし瞑想の世界では、「いま、この瞬間」に焦点を当てるために、過去と未来の間にある現在は、全てにつながる「今」というパラダイムシフトが起こり、この二つ（空間性と時間性）が結びつかなくなるので、大脳皮質は主導権を失います。

すると、「自己」がいかに作られたものであり、そこに基準を置かないことで体感できることがあります。

観察者

この観察者は私にとって説明がまだ難しい概念です。

というのもこの観察者はTPOによって性格や機能が変化するからです。

観察者が

「見詰めている」時は、自己意識で対象を観察する者となり、

「見守っている」時は、意識で対象を保護するものとなり、

「寄り添っている」時は、前意識で対象と同調しているモノとなり、

「溶けている」時は、深層意識で同一化していてカタチがなくなっています。

観察者はカタチも深さも密度も変化してしまうのです。

観察者によって、この世の見え方が違います。

「見つめている」や「見守っている」時はこの世を恐怖の目で見ています。これはエゴの観察者なので、嘘をついてでもいかに自分が傷つかないですむか、いかに自分が得をすることを目的としています。必要な観察者ですが、これだけだと表面だけで内側にある面白くて楽しくて柔らかくて緩んでいて温かい世界には入っていけません。

「寄り添っている」やその先にある「溶けている」時は、この世を包み、そして同時に包まれている緩んだ目で観ています。神仏観とも言われるそうです。

この世で自分が何かを得る場所と思うのか、この世を自分が与える場所とみるのか、の違いとも言えます。

分析する者と共鳴する者の違いです。

この世に自分を含めない傍観者なのか、この世に自分を含める実動者かの違いです。

部分性の囲いを大切にする自意識と全体性の体感を大切にする深層意識の違いです。

「見つめている」観察者ができることは少なく、いかに自分を守るか、いかに自分が得をするか、だけです。

それに比べて「寄り添っている」観察者は与える方法がいくらでもあり、この歓びが原動力になります。

世界に自分が含まれると感じられると、では世界のために自分ができることは何なのだろうか？という観察者も加わります。

繰り返しになりますが、まずは「見つめたり」「見守っている」観察者からはじめるのが大切で、「寄り添ったり」「溶けたり」するのはその後です。

「見つめている」自我の観察者は自分自身をモニター（観察）しています。自分の認識や記憶や行動をモニターして、それらをまとめ（統合）ていなかったら個々の記憶や認識や判断は一つの整合性がない分裂したままなので、本人はこの世に多重にいるように感じるでしょう。

モニターして数々の行動を合理的に辻褄の合うように束ねることで、自分も社会も安定して安心して暮らすことができます。統合する能力がなく、その場その場での判断で良いとしたら、白昼夢のような状態で人を殺しても自分の行動に責任が取れないことになってしまいます。アメリカでは実際に白昼夢で嫁の両親を殺害したが無罪になった判例があります。このようなことが頻発してお互いを恐れて暮らさなくてもよいように、自己は自分自身をモニターする大切な役割を担っています。

ちなみに、これまでの神経学者のデータの積み重ねによると、前頭前野の左半球を中心にした部分に観察者がいるらしいですが、信じますか？

TPOによる観察者の特徴

	脳	層	自	機能	器官	みる
１	大脳新皮質	表層	自己・ペルソナ	思考・法則	神経管	視る　観察
２	大脳旧皮質	表層	自我・主観	反応・意思	五感器官・筋肉	見る　眺める
３	大脳辺縁系	中間層	自動的・機械的	条件反射	循環器系器官	看る　診る
４	脳幹	深層	自分	反射	消化器系器官	みる　内観・観照

みる

見るには、視覚でものをとらえる。見物・見学する。調べる・検討する・判断する。読んで知る。経験する。試す。占うなど多くの意味がある。

基本的には「見る」

ほかの「みる」を総合していますが、中心となる概念は、意識的に見ているものではなく目に入っていて視覚的に認識していること、みえていることをさします。

「観る」　　映画や芝居、スポーツなどの観賞、観光など周囲を見渡す場合に用いる。じっくり見る場合

「視る」　　注視してじっと見る意味で「注視」「凝視」、みなすの意味で「軽視」「敵視」

「診る」　　「脈を診る」「医者に診てもらう」のように、病状や健康状態を調べる意味

「看る」　　「看病」や「看護」の熟語があるように、世話をするという意味

「覧る」　　一通り眺める意味、

「監る」　　監視する意味、でといった表記もある。

「試る」　　試す意味　　試るは「みる」、「こころみる」と読む場合は「試みる」と書く。

「見つめる」は、対象から視線をそらさず、その物をじっと見続けること、凝視することを意味し、多くは、意識や思考も対象に集中した状態を表す。

「眺める」は、一点に集中せず、視野に入ってくるもの全体を広く見る意味で使われる。

眺めるの方が、ぼんやりとした印象を与えるため、視覚的には一点を見ているものの、意識や思考が他にある状態には「眺める」が多く使われる。

英語の場合は。

主にSee, Look, Watch, Contemplateの4つ。

見ている集中度の度合としては、「See＜Look＜ Watch」

【See】は「見える」

seeの場合、目に映る、見える、といった意味で、特に意識して見よう、としている訳ではなくそこにいたら見えているもの、などに使用します。

ですので「見」の漢字が一番近い概念ですが、「見る」より「見える」という意味合いになります。

ちなみに、偶然知り合いと会った時などもこのseeを使います。

【Look】は「見る」「視る」

lookの場合は対象に自分の意志で視線を向ける、目に映す場合に使用します。

日本語では「見る」か「視る」に対応すると言えそうです。

視線だけでなく、探す（looking for）場合や意識を対象に向ける場合もlookとなります。

【Watch】は「観る」

watchの場合、動くもの、変化のあるものをしばらく見ている、目で追いかけている場合に使用します。

観察の「観る」が一番近いかも。

【Contemplate】は　瞑想して内観することを

ラテン語contemplDtus (con-十分に＋templum吉凶を占うための天空の開けた場所＋-Dtus -ATE1占いの場所で十分観察する）

ヒルガードの「隠れた観察者」　

ヒルガードは、古典的な「隠れた観察者」の実験を通して、これが通常の人にも存在するという可能性を示した。

被験者に催眠下で暗示を与える。「これから大きな音をたてますが、私があなたの右肩に触れるまでは、あなたには何も聞こえません」次に大きな音をたてて被験者が無反応であることを確かめる。 さらに被験者に「催眠中でも観察しているあなたがいて、声が聞こえています。この私の声が聞こえていれば、右人差し指を上げてください。」と指示する。（実際に指が持ち上がる）被験者が突然「大変です。私の指が誰かにより動かされました。なにか変なことが起きているようです。音が聞こえるように戻してください。」検者が被験者の右肩に触れ、催眠が解ける。
このHilgard の実験は、解離や人格の分離という現象の奥深さを表している。

(Hilgard, E. R. (1994). Neodissociation theory. In S. J. Lynn & J. Rhue (Eds.), Dissociation:　Clinical and theoretical perspectives (pp. 32–51). New York: Guilford Press.)　

神経の論理 Neurologic

意識と無意識が別々に働き、そしてそれらが相互作用することで自我が形成されている。

アイデンティティーを構築するプロセスを、脳が視覚を生み出すプロセスのアナロジーとしてみてみる。

視覚経験は、形、色、大きさ、速度、方向といった幾つかのパーツによって分離され、脳の異なる部位で計算され、それから融合されて、一つの視覚体験が構築される。

同様に、自我の経験も自伝的記憶、感情、感覚、思考や行動のコントロールといった幾つかのパーツで構成され、異なる脳領域で扱われ、最終的には合体して統一された外界の経験を作り出すのではないだろうか？

どちらも、二つのシステムに依存している。無意識と意識のシステムである。　

意識的なシステムによって私たちは自我を経験する。苦痛や喜び、行動する意志、と自我は心身を故意に制御している。

そして一方で、無意識のシステムが作り出した物語を自我は体験している。

無意識が自我という物語の隠れた作者である。意識的自我のまとまりのない経験の断片をかき集め、必要があれば新たな情報を補足し、人生の物語を編纂する。

無意識のシステムが自我を構築する。

さらに自我を維持して保護し、そのためには解離（Dissociationとは、無意識的防衛機制の一つで自分が自分であるという感覚が失われている状態）を利用して有害思考や記憶を無意識のうちに排除さえする。

なぜ意識と無意識はそこまでするのか？

アイデンティティーの何がそこまで尊ばれているのか？

答えの一つはサバイバル。

個人の物語を持つことで、「洞察する」という武器をヒトは手に入れた。

もし自分という軸がないと、できないことは一杯ある。

例えば、自身の意図を理解したり、推論や決断を熟考したり、目的や願望と一致する行動を取ったりするのも「自分」という軸があることによる。アイデンティティーを持つことで、自身の性質をよりよく理解し、周囲の世界における自身の位置を明確にすることができる。

また、内生的endogeny（心の中に、ある感情や考えなどが生じることENDO- 「…の中に」+-GENY「発生」）な生物は、アイデンティティーを軸にして自分の生存だけではなく家族や仲間を守ることに力を注ぐ。

確かに、「自分」を軸の中心にすることで多大なメリットがある。ただ同時に、メリットというのは弱点や盲点や欠点というデメリットを産み出す。特にメリットに依存してしまい、それを当たり前としてしまった時にデメリットが顔を覗かせる。

いつも間違えている「わたし」　　　

その理由とは？　　　　　意識のメカニズム

これまでに見てきたように、脳は常に間違い続けているのだから、これらの情報をベースにしている「わたし」も間違え続けていると考えるのは当然ではないだろうか？

脳が勝手にいろいろと修正したり、空白を埋めたり、一面のデータから全体を創作したり、幻覚を感じたりすることは、ｆMRIで脳の電磁波を測定したデータから推論されている。そしてこのような神経学の仮説はこれからも毎日のように積み重ねられている。

では、今のところどのようなことが仮定されているのだろう？

間違え続けているのには意味がある。

一つ目は、初めから間違え続けるように「わたし」は作れれている。

二つ目は、間違え続けることで、経験値を高めて次のステップに進む推進力になるから。

一つ目のメカニズムの説明を試みる。

実験室や医療機器を持たない人でも、「わたし」がなぜ間違い続けるのかを説明することはできる。

それは自己意識は以下のようにメカニズムを持っているからだ。

まず認識とはどのようなプロセスなの？

それは暗闇の中で懐中電灯を照らすようなもの。

まずは、スポットライトが当たったところだけが範囲になる。

するとスポットライトの当たった光と当たらない暗闇の二つに分かれる。

当たった所だけを分析して、これまでの経験で作ってきた「籠」にそれを振り分ける。

これができたら「分かった」ということ。分別、弁別、理解、知ると同じ意味。

つまり認識できたということ。

英語のcognition ラテン語源のco- (= together) gnoscere (= to know)

だから理解できたということは、分類できた、ということでしかない。その本質や機能を体感しなくても、籠に分けさえすれば知ったことになり知識とされる。床を這っている小さな黒いモノがクロアリだとわかった時のように。そして、そのクロアリの今の目的や気持ちがわからないままであるように。

認識できているということは、意識できているということ。そして自己意識・・・。

意識できたのはいいですが、これまでに「脳の間違い」を見てきたように意識だけでは、その奥にある無意識は気が付かないようにできています。気がついたら、刺激に対する反応のスピードは落ちるし、大まかに把握するという効率も低下してしまうからです。

次にこの意識を自己意識に変えるにはどうしたらいいのか？

それは外部から入ってくる情報・刺激・信号を遮断するために、外部との連絡口を閉じることです。

すると意識の中の流れが固定化されるので、意識がしたいように、それらを好きなようにつなぎ合わせて法則・一般化・名詞化・数式化することができます。これが自己意識の持つ武器です。未来予測の確定率を大幅に上げることができます。しかし、これが通用するのは安定性のあるTPOの中だけの、限定された区域内だけですが。

例えば床の黒いアリはよく見るとエゾアカヤマアリであることが認識（分析・指し示し）されると、このアリの特徴であるギ酸を10cmも飛ばす能力があるという一般の法則を、目の前の個体にも適用させてまいがちになります。自己意識化のメリットは一般化することで特徴を簡潔に把握を一瞬にすることができ、未来予測（確率・統計）も行うことができることです。しかしデメリットも多く、目の前のモノは特殊でユニークでこの世に一つしかない個体なので一般の法則が通用するとは限らないことです。例えば目の前のアリがギ酸を飛ばすことができるとしても、それは成長期のときだけかもしれないし、オスだけかもしれないし、昼だけかもしれないし、湿度が高い時だけかもしれません。それなのに一つの法則を発見したからといって、それをすべての個体のすべての状況や時空に適応させてしまうという間違いを自己意識は遂行してしまいがちです。

これで認識から意識、そして自己意識の流れはわかったと思いますが、このどこが間違いなのでしょうか？

この３つの「識」のそれぞれの段階で問題があります。

認識　そもそも分けることに問題ありです。この世には「分けられない」「分からないこと」があります。

意識　これは意識のまだ気が付いていない無意識が認識できないだけではなく、つねに錯覚に囚われています。

自己意識　これは常に融通無碍・臨機応変に変化するモノを固定化しないと発動できないというのが問題です。

まずはじめの認識のレベルでですが、そもそもスポットライトを当てることに問題があります。スポットライトがオンにされると当然ながら明るいところと暗いままのところができます。この分けることが一番はじめの間違い続ける原因になっています。もともとは分けることができなかった暗闇という「大きな一つのモノ」を光の輪で範囲を決めてしまいました。ライトを当てた方からみると偶然のことかもしれませんが、暗闇側から見れば、無理矢理で強引で痛みの伴う行為です。分けないことで成り立っているものが、分けられてしまうのですから。

分けられないことで機能しているものが、分けられることで機能が変化してしまいました。全てが溶解しており、時に波のように蠢いていた暗闇が光によって、二つに分断され、光が当たっているところでは、なんでも二項対立するのが基本ルールの世界になりました。一つのケーキを二つに切ると、二切れのケーキは左右・大小・多少というように比較される者同士になってしまうように。

これは光側から見れば区分であり、知ることであり、分かり易くなるという、当たり前のことですが、闇側から見れば引き裂かれることであり、働きが破綻することであり、無理であり、無茶であり、暴力であり、偏見であり、差別であり、一方的であり、ありがた迷惑であり、間違いであるということになります。

また、そもそもスポットライトが当たっていないところはなにも「分かって」いません。

そして、光が当たっていて分かるところにしても、それは目隠しをされて象の尻尾だけを触っているのかもしれません。こうして「わたし」は間違え続けるしかありません。　　　　　　　　参照エッセイ　常識の限界

次は意識のレベルです。第二章で具体的な例を見ていきますが、意識というのは無意識（潜在意識）によって支えられており、無意識の働きがなければ意識が成り立っていません。もっといえば、生物の殆どの運動は無意識によって司られており、意識が休んでいても無意識だけで生命維持ができるほどです。例えば意識を使わなくても自動的に行動に移している情動、条件反射、反射の運動のように。または、睡眠時や脳障害による植物状態の患者のように。そして時には隣りに座っている恋人との会話に夢中になって、よく知っている道ならばそれほど意識せずに車を運転している時のように。

また他の問題は身近な例では、錯覚、錯視、錯聴などの現象です。五官からの信号が感覚となって脳に伝わってくるのですが、これが、無意識にとって都合の良いように知らないうちに勝手に情報が書き換えられてしまっています。

これも「わたし」が間違え続けている原因です。

最後の自己意識のレベルが間違え続けてしまうのは、「閉じる」ことに起因します。

外界からの刺激を遮断しないと自己意識は発生できないので、まずは「閉じる」ことから始めます。

「閉じる」こと流動的な世界を固定化させることによってしか、それを分析して法則（一般化）することができないのです。しかし、この世は常に変化し続けているので、閉じてしまうことで、二つの問題がでてきます。

流れているものを固定化させてしまっている問題と、この世の変化し続ける世界よりも常に遅れてしまう問題です。

固定化してしまったことで、過剰一般化と過剰具象化が起きてしまいます。

「膜」をつくって「閉じる」ことで、その内部に因果関係という法則を見つけることができ、それをパターンとしておぼえて（過剰一般化）して、未来に適用する（過剰具象化）ことができるようになります。

この見つけた法則とは、ある特殊のTPOの時にだけにしか通用することができません。

しかも根源的な問題点は、この法則は「閉じた」時にだけ通用するものなので、常に変化するこの世には通じないことも多々起こります。閉じ込めることができないものは法則・一般化にもできないので、それらに対しては対処できず、それが意外に一杯あります。これらは法則の通用する範囲外の領域なのですから。そして正確にいうと範囲外がこの世のマジョリティーであると言う意外な事実を見つける人もいるでしょう。

例えば、高等教育を受けた人は光合成の法則を知って、植物が酸素を供給すると思い込み、植林運動を推し進めたりする行動の割合が増加してしまうように。

これも意識や自己意識の特徴をよく表している過剰一般化の事実です。確かに植物は二酸化炭素を吸収して酸素を供給し、この光合成の法則の基になる葉緑素を持っているのですが、これは太陽と風と湿度と気温の条件が重なっている時のある特定のTPOの時にだけしか起こらない現象です。それなのにこの特殊環境のもとでしか起こらない法則をこの条件の範囲外にでも適応させてしまって判断し、なおかつ行動を実行してしまいます。

まあ一言でいうと自己意識とは、効率と予測を優先させるために、独断的で、断定的で、大雑把で、粗く、横着で、横柄で、怠惰にならざるを得ない一面があります。

法則を持ち出してこの世を認識しようとする自己意識は、この世の変化に対応する愛に欠けた認識方法だとも言えます。相手の様子をうかがい、相手に委ねて、「待つ」ことはせずに、自己意識の中で作られた法則をもとに判断と実行を行ってしまうからです。相手のためだといいながら、実はそれは自己意識のためであることは少なくありません。現代の都市生活をしているインテリと呼ばれる人の認識システムは、このように法則を一般化することをベースにしている傾向があるので、いくら知識（固有名詞）の量はあっても中身には正確性が伴わないことがあまりに多いということをよく自覚し、その上でインテリや自分の自己意識とお付き合いするほうがスムーズにコトが運ぶかと思われます。

植民地政策、ある種の医療機関、ある種の教育、ある種の商売、ある種の平和運動などに内包する「正義や理念」があれば一度は吟味してみるのも面白いことでしょう。

内容が重複してしまいますが、違う例えを最後にもう一つ使ってみます。

この世は常に変化している、休むことなく。

どこまでも区切りがなく、ずっと絶えなく。

しかしこの変化し続けるモノとそれを含んだカタチ無きモノを意識はとらえることができません。そこで、これらの変化をビデオの１コマのように止めることで、はじめて認識できるようになる。だから、意識はこの世の変化にいつも遅れてしまうし、その認識と判断は常に過去の状況に準じたもので、新たな「今」のものではない。　そこで、ベイズ統計のように常に常にデータの更新を必要とするのが自己意識（判断）の宿命です。　　　　

そして問題は次の自己意識。

「囲む」という瞬間芸で、外から入ってくる情報（電気刺激）を一旦止めて、時空や状況という条件を閉じて結びつけて固定化させて、それを分析して、その中に因果関係という法則を見つけ、それをパターンとしておぼえて（過剰一般化して）、未来に適用する（過剰具象化）。

これが自己意識のできることなんだけど、メリットは未来予測の確率が高まるということで、デメリットは法則外のものがいつもあるので、それに対しては対処できず、それが意外に一杯あること。意識の枠に閉じ込めなかったものはどれもが法則外。そして時空と状況の条件に少しでも変化が出たものも法則外。だから正確にいうと法則外がマジョリティーであると言う事実。

法則では解決できない場合に脳はどのように反応しているんだろう？

いつでもなんでもかんでも意識でとらえるほど、「わたし」は暇じゃないし、生真面目でもない。「わたし」はある時にある場所であることにしか関心を向けようとしない我儘な性質とできるだけ無意識に任せてしまってサボろうする怠け者の性質が本性です。

蛇足だけど、怠けることとは脳に依存しないことなので、生命体や宇宙にとっては大切なこと。特に病気の人や、社会的エリートや、理知的な人や、自己をアピールする人や、文章や音楽を多用する人や、精神病の人や、言語・法則に依存している人や都市生活者にとっては。

話を戻して、法則では解決できない場合に脳がなにをするのかというと、新たな情報の無視と、過去の記憶の再利用と、分かった気持ち（レッテル貼り）になってやり過ごすのと、条件反射にしてしまうのと、無意識の瞬間的自動修正。

常に遅れてしまうということは、常に更新しないと目の前の現実を把握することができないという事が起きてしまいます。

有名なモンティ・ホール問題は、自己意識は常に更新され続けないと2倍の確率で未来予想が外れてしまう例です。

もし毎瞬間ごとに情報を更新していないのならば、脳でこの世は把握ができないという実例です。

モンティ･ホール問題

ここに、3つのドアがあります。

どれか1つには、ドアの向こうに豪華賞品があり、それ以外はハズレ（空）です。

どのドアの裏に豪華賞品があるかは、司会者のモンティは知っています。

参加者は、まず、3つのうち、どれか１つを選び、司会者のモンティに伝えます。

モンティは、それを受けて、残りの2つのドアから1つ、空のドアを開けます。

そして、あらためて参加者に、どちらかを選ぶように伝えます。

今、参加者が、ドア�@を指定しました。

モンティは、残りのドア�A と ドア�B から、ドア�Aを開けました。

参加者は、ドア�@ か ドア�B をあらためて選ぶことになります。

どちらが確率的に有利でしょうか？

１．ドアが３つあります

２．その中に　当りが１つ、ハズレが２つ　あります

３．あなたは、ドアをひとつ選べます　

４．あなたが選んでいないドアを司会者が開けます

５．開けられたドアは　必ず「ハズレ」です

６．あなたは、ドアを選びなおす権利があります

７．選びなおさない権利もあります

問い・・・あなたはドアを選びなおしますか？　　選びなおした方が、勝率が上がると思いますか？

「選びなおさない」派の気持ち

・残った　どちらのドアも　確率的には　1/2　なので、直感を信じる

・もし、選びなおして「ハズレ」ると、後悔する

「選び直す」派の気持ち

・選びなおした方が勝率が上がるから

・ドアを開けられた時点で、確率が変動するから

解説の例

豪華賞品のある確率は、各ドアとも1/3 ずつです。

つまり、参加者が選んだ以外のドアは、2/3でした。

その内の、一つが無くなったので、選んだドアが1/3、そうでないほうが2/3です。

直感的に、分かりづらいかもしれません。

その場合には、ドアの数を増やせば、納得がいきます。

ドアが1000個あった場合に、選んだドア以外から、モンティが、998個の空のドアを開けたとします。

残った２つのうち、どっちに豪華賞品がある確率が高いかは、直感的に分かりますよね。

自己意識と時間または歴史　　間違える理由のポジティブな意味

二つ目の間違え続ける理由は、間違えることにプラスの意味がある、ということです。だからわざと間違えているのではないかという推論です。

そもそも分けることができないものまで分けてしまうという間違いをおかし、次には分かれたものを対立させることが「空」からカタチが生まれる宿命ではないでしょうか？

分けないかぎり「空」はカタチにならないし、カタチになったのは分けたことによるので、この世のカタチのある世界では相反することで成り立っているという考え方です。

対立を解消させて元の「一つ」に戻ることも大切ですが、このカタチある世界を活性化させるには、自己の本性である「分化」をさせ続ける機能と同調します。この世を活性化させるのが「わたし」の役目のようです。

この世にいること、すなわち存在そのものが間違え続けることだとも言えちゃいます。

でもそのお陰で、二つ目のポイントである、「目（記憶と感覚器官と意識）」を開けているだけで、自己意識という推進力が永久機関となって「時」を産み出して、二次元であった波動を三次元の螺旋へと導いているという解釈はどうでしょうか？

この世の存在と自己意識と宇宙意識（宇宙誕生の前からあるだろう）は「同じ調べ」があると考えることもできます。

自己意識には時間を産み出し、歴史を急速に進める力と、それを肯定する力がある、という仮説を、また第四章で関係する話を進めていく予定でいます。

自己に一貫性があるかのように思ってしまうわけ

そのほうが、生存するのに効率的で便利であるから、というのはどうでしょう？

そしてなんでも自己を中心にして記憶したり、決断したり、想像するように、ヒトはプログラミングされているとも。

自己を中心にすることで枝葉のように階層的に世界を把握することでコントロールすることができます。

これが一貫性のメリットです。

ただし、自己の価値観に強い一貫性を持たせてしまうと、TPOが変われば今度はその強い一貫性が逆に害になってしまい、この世を把握する邪魔になってしまいます。このような場合は解離を起こして一貫性から逃れたり、自己は幻想であると主張して一貫性を投げ捨てるのではないかと思います。

無意識よりも後からくる自由意志　freewill

以下は神経外科医ベンジャミン・リベットが行った実験です。

10分以内の自分の決めたタイミングで指を動かすように指示をします。すると被験者が指を動かそうと意識した瞬間と、実際に指が動き出した瞬間はほぼ一致していたにもかかわらず、指が動く0.75秒以上前に、脳波の電位変化があらわれました。

主観的体験としては自分の意志で指を動かしていると感じるのに、指を動かそうという「意志」を自覚する一秒近くも前に、脳波でモニターされる脳内事象が発生しています。

脳の指令が一秒も前から出ているのなら、意志が動かしていると言えるのでしょか？まるで実際に取り仕切っているのは脳で、「自由意志」は事後の合理性をもたせ、自己を納得させるための妄想や言い訳のようです。　

脳から生じた信号が指に届くまでに0.75秒の遅延時間が生じています。まるでテレビの衛星放送のインタビューの間のように。

これにはどんな根拠があるのでしょうか？

意志という主観的感覚をあえて遅延させ、脳の指令と同時ではなく、指による指令の実行と同時にするようにしたのはどういう意味があるのでしょうか？

もし意志が脳内事象に伴っているだけの随伴現象だとしたら、なぜ進化はシグナルを遅らせて、動きと同時になるようにしたのでしょうか？

意志という主観的感覚は、私たちの動きに伴う影のようなもので、私たちを動かす原因ではないのでしょうか？

ここにパラドクスがあります。

実験が示すところでは、自由意志は錯覚です。自由意志よりも脳の事象のほうが0.75秒（100m競争では7mぐらいの差のある「長い」時間）も先行しているのですから、自由意志が脳内事象を起こしているのではなく、後から自由意志がそのことに気づくという順序です。

この遅延にはなんらかの機能を持っているはず、と考えることもできます。どんな意味があるのでしょうか？

まずは無意識から始まっている。それに遅れて自由意志が起動する。

これはなぜか？

私の仮説では、自己意識を中心にして一貫性を保つことが、記憶、自己管理、モニターには有効で必要なので、普段の生活では自由意志で操ったと思うことが、自己維持のサバイバル機能を活かす時には効率のよい視点になるためではないか？この無意識の働きを受け入れるために意識は間違え続ける、というのが今のところの解釈です。

閉じないと思考はできない　しかし目の前の事実は常に変化して開いている

モンティ・ホール問題で自己意識による法則のパターンを適応するには常に更新を続ける必要があることを考察しました。

その理由は実は自己意識とは外周（周囲の環境）と遮断されないと発動できない、からでした。

自己意識が何かについて考えるときに、外からの情報を遮断して、自分だけ（自己意識）の思考の世界に入ることが必要だ。そうしないと絶えず五感から入る刺激によって、思考を続けることができなくなるから。

例えば、ゲームや本や仕事や想像で夢中になっている時に、周りの音や人の声が聞こえてこないことがある。この「閉じて」いる状態が、自己意識の特徴だ。

このように閉じないと自己意識が発動されないが、目の前の現実は常に変化する「開いた」世界。

思考する時には閉じることで「わたし」を作り出す必要があるが、思考が終われば、思考した内容も単なる「仮のモノ」として接して扱い、これを絶対に正しいとする固定化したドグマ（教義・教理）とはせず、閉じた両端を開放して、また開いた世界に戻ることが必要となる。もしどうしてもドグマが好きな人ならば、この世は「常に変化し続けている」ということをドグマにするのがいいだろう。

自己意識で理解したものは、常に「仮りのモノ」だという自覚が現実と柔軟に対応・呼応するには必要だ。

自己意識に至るまでのプロセス

ところでもう一度、自己意識にいたる必要不可欠なモノの順番を考えてみてください。

生物史の系統発生の歴史や地球史でもいいし、自分のカラダを見つめてみるのもいいかもしれません。

自己意識は脳がなければ発生しません。では脳の活動を維持するために、絶え間ない血液の流入が必要です。10分ほど血の流れが止まっただけで脳は壊死します。脳梗塞が身近な例です。

そしてこの循環器系の内臓を支えるのが、消化器系の内臓です。外部とエネルギーを交換することで生命体は現状を維持することができます。

そして当たり前のことですが、脳そのものも実は神経管という内臓の一部でしかないということです。

ですから自己意識があってからカラダがあるのではなく、まずはカラダがあって、次に神経系器官があり、その次にそこから発動する自己意識が活動する時が「時々」あることがわかると思います。例えば寝ている時や脳梗塞で寝たきりになっている人や植物状態の人は、自己意識はありませんが、そんな時でもカラダは間違いなく機能しています。

過去35億年の生物史の変化も内胚葉から発達した消化器系器官、次に中胚葉から発達した循環器系器官、そして最後に外胚葉から発達した神経系器官の順番です。この逆ではありません。

自己意識のできないこと（限界）と他のセンサーの有無？

この自己意識のメリットは一つのものを二つに分けことなので、常に二者択一の答えを求めてしまいます。

しかし、「生命」のような問題に対処するには、別の基準も並列して思考する必要があります。

一言でいうとカラダの考え方、二言でいうと循環器系の波の思考法と、消化器系の溶解の思考法の導入です。

波の思考法とは、栄養分を体全体に伝える時に使うやり方で、血流は血管を通してオンとオフの二つに分けて循環させるのではなく、心臓の収縮･拡張の機能にしたがって、波の力で全体に伝えるものです。

次の溶解の思考法とは、胃腸が食物を消化するように、異物を溶かすして自分の一部にするプロセスの思考法です。全てのものは分けられることなく融解しており、なおかつこれらを吸収するのは「自分」ではなく、「他人」である腸内微生物によってでしか自分自身の一部にならないという体内の事実を基にした思考法です。

「分ける思考法」だけではなく、これらの二つがに新たに加わることで、踏みにじる者と踏みにじられる者という関係から、どちらも必要でありどちらの立場にもなれる流動性を得たり、すべてのモノがつながり影響しあっている踏みにじる者と踏みにじられる者が一体になる実感が生まれてくるのだと思います。

「文明と野生」の問題から見れば、学問だけを重要視したり、自然への回帰を実践するだけではなく、一年は365日あるのですから、その中で自分に合った配分を見つけて応用するということです。また一日は24時間もあるのですから、6時間は自己意識を基準にして仕事や学問をし、6時間は神経系と筋肉と骨を基準にして洗濯･掃除･食事・散歩をし、6時間は循環器系器官を基準にして、団欒・のんびり・呼吸法をしながらボーとしたり・瞑想し、6時間は消化器系器官を基準にして、ゆったりと休んだりして、全体でバランスをとることです。

現代及び将来の人間の叡智と気楽さと勇気と欲望と願いと諦観と安心と実践によって、進む方向が決まっていくのでしょう。

自己という病

自己はカラダを傷めつける。

自己にスポットライトを当てていると血液もエンザイム（酵素）も脳に使われてしまい、内臓への養分がおざなりになってしまう。

自己は緊急時の秘密兵器だ。

トラから逃げたり、キジを捕まえる時のために。

思考する時のために。

ゆったり気持ちよくボーとしていられない時のための非常手段だ。

「わたし」の弱点は、発動している時は、外敵に弱いところ、外の世界を遮断しているから。

もう一つの弱点は「わたし」に依存しちゃうと、カラダが弱まり病気になったり、この世のことを勘違いしてしまって、この世界が滅びる方向に先導してしまう。

自己意識をなだめて、安らぎを与える

ヒトは意識によって行動を選択する機会が多くあります。しかしこの意識が働きすぎると、血の流れは交感神経が影響を与える器官を中心にして、その結果としてモノの捉え方や理解の仕方に偏りができてしまいます。緊急事態にはこの自己意識の発動が効率的であり効果的で良いのですが、交感神経の活動がおさまり副交感神経が活性化しないと免疫細胞やホルモンや酵素（エンザイム）が生成されません。緊張を強いられる時間が終了したらできるだけ早くリラックスすることが体には必要です。

４つのパート

自己意識以外にも脳には他の機能もある。

複雑化した脳を簡単に分類してみると、脳には4つのパートがある。

		部位	機能	把握方法	関連器官	場所	人口密度	目的
１	潜在意識	脳幹	いのち・反射	融解	消化器系器官	小屋	過疎	種の保持
２	潜在意識	大脳辺縁系	情感・条件反射	波動	循環器系器官	村	疎	個の維持
３	意識	旧皮質	感覚・運動	因果関係	感覚器・筋肉	市	密	効率性
４	意識	新皮質	一般化・言語	法則	自己意識	大都市	過密	合理性

この４つの脳が並列に同時に連動して、ヒトは体感し、判断し、行動する。

脳はなぜ間違え続けるのか？　　　意識レベル・脳機能・器官・密度には目的（美学）の違いがあるから

この間違えるということが重要で、悪いばかりではなく、これがあるために生命は生きていける。

４つのパートはどれも特徴も方向性も正しさも目的も違い、いつも同じ方向を向いているわけではないので、いつも間違え続けるしかない。

合理性、効率性、「個」の生命維持、「種」の保持とどれも目的も違うのだから仕方がない。

間違えるのが嫌だとなると、判断や行動が単一化して、外界の変化に対応できない、ロボットになってしまう。

どこか一つを基準とすると、そこから見れば、他の３つのパートは間違っているので、これが間違え続ける理由だ。そしてこの間違え続けるおかげで、次々と変化する環境に対応することができる。

重要なのはこの事実を大脳が認知することで、サバイバルの確率が上がる。逆に脳が間違え続けていることに気が付かないと、その生命体のサバイバルできる確率は低下する。もしくはサバイバルしないという選択を選ぶこともできない。

次々と変化するTPOに合わせることができるモノはサバイバル能力が高く、安定した優等生タイプである。

また、一つのパターンに依存するものは、当たりハズレが大きい、ギャンブラーのタイプである。

どちらも面白い。

サバイバルでどちらが正しいという正解はない、明日だれが交通事故に合うかわからないように。もっというならばサバイバル自体が第一優先されるものかどうかもわからない。もし第一優先されるものであったとしても「個」のサバイバルが「種」のサバイバルと相容れない場合は多数ある。またその「種」のサバイバルによって、他の種が滅ぶ可能性が増大する時に、その種にとっての第一優先は、その他の種や地球や宇宙にとっては、望ましくないことだけは確かである。

サバイバルという大義名分は、「閉じた範囲の中だけ」にしか通用しない法則でもある。

自己は幻想である

脳の中には、自己に相当する単一の存在はないという意味で、自己は幻想にすぎない。

神経プロセスがDNAやクレスプ回路の生化学的メカニズムのようにわかれば、自己とは何かということに一つの答えを提供することができる。

自己とは、人格に一貫性や連続性や安定性を付加して、より効率よく機能できるようにするための組織原理ではないか？

自己は驚く程の持続性を持っていることは、オリヴァー・サックスの説が参考になる。「心の視力―脳神経科医と失われた知覚の世界」「音楽嗜好症（ミュージコフィリア）− 脳神経科医と音楽に憑かれた人々」

クレプスサイクル【Krebs cycle】

クエン酸回路とも言われ、糖質や脂肪酸やアミノ酸などが代謝の結果，最終的に分解されて二酸化炭素を生成する循環的な代謝回路。好気的代謝に関する最も重要な生化学反応回路であり、酸素呼吸を行う生物全般に見られる。アミノ酸などの生合成に係る物質を生産し、効率の良いエネルギー生産を可能にしている。

自己意識は幻？　　　カラダも借りモノ　　

経験を積むと勘違いが減っていく。

それでも「普通の老人」になるのが如何に難しいことか。

勘違いが減った分だけ、勘違いが取り除かれて後に残った考えのパターンをいまだ正しいと思いこみ、それに固執して頼ってしまうからだ。

間違いを見つけると、それを取り外せば後には正しいもの残っていると思いこんでしまう、のも自己意識のクセである。

間違いと思って取り外した内にこそ、幾分かの正しさがあるのに。

少なくなった分だけ、残りの部分には勘違いの濃度が濃くなったにすぎないのに。

これまで見てきたように、私たちの脳は次々と誤謬を重ねている。

錯覚で、無意識の自動修正で、無意識の創作で、無意識の辻褄合わせで、過去に学習したパターンの使い回しで、感情と体の反応を結びつけた条件反射で、過剰一般化で、法則で。

そしてこれらのデータを土台（ベース）にして「わたし」が成り立っている。

だったらこんな「わたし」ほど頼りにならないものはない。

10人で次々と行った伝言ゲームの成れの果てのほうが、自己意識よりもまだ確かなのかもしれない。

じゃあ自己意識なんか一切信用できないから捨てちゃえばいい、という時もある。

でもこれがないと他者とどころか独り言さえも言えなくなってしまう。

そこで、大切な幻としてゆったりと付き合うというのもいいと思う。

自分というもの全ては、意識という自分で成り立っていると思いたがってしまうのが自己意識が陥りやすい習性だ。

実態は自分（自己意識）はなにもしていなくて、この世ではなんでもかんでもが借りものでしかなく、自己の実績の多くも実は他力でしかない。

例えば消化。

意識が直接的に関われるのは咀嚼の回数ぐらい。

収縮したり蠕動している胃腸だって回数を意識して動かしているんじゃない、彼らに任せているだけ。

それに食べたご飯を消化しているのも自分ではない。それは腸にいる微生物さんたち。

土地だって自分のものじゃない、生きている間だけ地球から借りているだけ。所有権をフランス人が言い張ったのはたった300年前の話で人類史からみればまだ未完成な「分け方」でしかない。

この体だって、この世にいる時だけの借り物で、後にはこれらの元素を字義どおりに元に還すしかない。

喩えてみると、「自分」とはちょうど干潟のようなもの。

満ちていた潮は自分のものではなく、そこいらにある「空」が満潮であっただけ。

ナーガールジュナの「空」とは「いのち」の根源、カミ、すべてを産出し消滅させるもの、大いなるもの。

この世の常に変化するものとは、「いのち」、カミの息吹、魂、新陳代謝、だと言い換えることもできるでしょう。

前半の人生にいただいた「潮」を後半は元に還していることの充実感と感謝を覚えるひと時がある。

「真実」にはカタチがない。カタチがあるモノは真実ではない。あえて真実を言葉で表そうとしたら、「そうであって、そうでないもの」という矛盾したややこしいものになってしまう。

ほかの言い方でいうと、モノではなく心臓が同調する消え去る波形。

二つの隙間にある「あいだ」こそが真理の隠れたる居場所だ。

「いま」の力を使って、その隙間に染み込んでいくには私たちの熟練の技術によってでしか方法がない。その時に初めて「真実」「真理」を垣間見る、いや垣間に体感する瞬間がある。

意識と無意識と潜在意識の相違点

意識に関しては色々な分け方があるので、少し説明が必要だと思います。

有意識と無意識、顕在意識と潜在意識、表層意識と深層意識、個人的無意識と集団的無意識、前意識、変性意識などなど。

共通点はどれも意識を基準にして話が始まっているということ。この文章だって意識によって書かれているのだから仕方がない。

この地球上のものは植物やゾウリムシのように意識のないもののほうが圧倒的に多いのだから、無意識を基準にしてこれを生命体の常識として話を進めたいのだが、まずはヒト科の常識に沿って話を進める。

まずは図を使って区分してみる。意識は区分して定義することしかできないから。

意識のモデル図

　

唯識は仏教の八識のモデル図

上の図を見てもわかるように、各業界が好きなように、潜在意識や無意識をはじめとしたその他の意識層を都合の良いように使っている。

だから、先に答えだけを言うと、無意識や潜在意識にまだ統一された定義はなく、これからもないだろう。

個人の成長においても、前意識・無意識・潜在意識・イド・末那識・アラヤ識に気づいていくと、そこは意識の一部へと変わっていくのだから。

そこで各文脈によって意味の内容を把握するしかない。

無意識の意味

無意識には、二つの違った意味がある。

「意識がない状態unconscious」と

「心のなかの意識でない或る領域」（前意識Vorbewussteと無意識Unbewussteのレベル）。

「意識がない状態unconscious」にも二通りの使われ方がある。　

一つ目は大脳の働きがほとんどない状態で、脳梗塞や損傷や植物状態で完全に活動がない状態から、睡眠中などのほとんどない状態までがある。

二つ目は「気づかない」という状態だ。例えば、図書館で本を読んでいると、最初は本の文章の内容と、周りの人の声の両方が意識されている。しかし、読書に集中しくいく内に、周りの音はきこえなくなる。そして、ふと何かで読書に対する集中力が中断されると、周りの声が急に聞こえて来る。声はずっとしていたのだが、読書に集中していたため、声に「気づかなく」なっていた状態だ。

ヒトは非常に多数の感覚刺激や意味の刺激を受けつづけているが、その多くは意識していない。しかし、記憶に関する心理学の実験からは、「意識していない・気づいていない」感覚刺激や意味の刺激として大脳が感受し記憶に刻んでいる量は膨大であることがわかっている。

次に「心のなかの意識できていない或る領域」とは。

意識には対象が必要だ。対象がないと意識は起動しない。

意識の「識」とは、「対象の総体」がある「領域」のこと。何かを「意識している」、何かに「気づく」とは、対象が「意識の領域」に入って来ることだ。意識に昇って来ることで対象化される、ということだ。

しかしその対象に「気が付かなかった」らどんなことになるのだろうか？

膨大な量の記憶は、電気信号を通じて神経細胞（ニューロン）に書き込まれて形になり、再生される時にはまた電気信号となって引き出される。この個々のニューロンは孤島の集団のように存在しているのではなく、グループとして繋がって保存されている。そこには、感覚・意味・感情・本能・好き嫌い・快不快といろいろな要素のホックのような「手がかり」がついていて、これらにひっかかると記憶は再生されるので、「わたし」はこれを再体感することができる、仮定されている。

ところが、記憶の中にはこのホックがついていないものがあり、一生涯において二度と「意識の領域」に昇って来ないものも膨大な量ある。これらは「意識の外の領域」にあるという仮説がある。

「意識の外」と言っても、科学的には、大脳の神経細胞ネットワークのどこかに刻まれているのであり、「意識の外」とは、意識の検索に引っかからないということで、ある時に過去の事項と類似性の高い経験をした時にはこの過去の出来事の詳細を急に思い出したという体験をしたことがある人も多いだろう。

このような普段は「意識できていない領域」も無意識の第二の意味になる。

無意識の存在

意識が対象とするものは、経験や学習によって得た記憶・知識以外に、生得的または先天的に備えていたものがある。それらをなんと呼ばれるものか？

本能、隠されている「知識」、遺伝子の配列のように「構造」を持つものetc。

その一つの例は、「言語」であり、ノーム・チョムスキーの生成文法は、人間の大脳に、先天的に言語を構成する能力あるいは構造が備わっていることを主張する。

子供は成長過程で、有限数の単語を記憶する。単語は、単語が現れる文章文脈と共に記憶される。しかし、子供の言語生成能力は、それまで聞いたことのない文章、つまり、まだ記憶には存在しない文章を言葉として話す。

それではどこからこのような文章が湧き出るのか？

これらが「無意識の領域」だと彼は言う。

チョムスキーの考えた普遍文法の構造は、無意識の領域に存在する整序構造である。言語の自然な生成や言語の流れの生成は、意識の外で、すなわち意識の深層や無意識の領域で、言葉と意味をめぐる整序が行われているというのだ。

（チョムスキーは無意識とか深層意識という表現を後になって避けたが、言語の先天的な構造性の主張の変化はない。　「無意識」という用語は、定義が曖昧で、通俗性が高く、恣意的な意味で使用される危険性が大きいので、使用することに対する消極的な傾向がある。）

このように、意識の外の領域に記憶や知識や構造があり、意識と影響を及ぼしてあっていることは、科学的に実証されているので、いろいろなデータを次の章で具体例を見てみよう。

広義の無意識

「意識でない領域」に関しては、様々な解釈が行われている。

催眠状態での意識状態や、宗教的な儀式や薬物摂取で生じる「変性意識（変成意識）」なども、通常の意識でない状態である。

また、このような広義の変成意識などの他に、サブリミナルなどの「意識でない状態・領域」が考えられてきた。これらを含む無意識については未解明な領域であり、心理学の分野や脳科学の分野や他の分野等で研究が続いている。しかし、「意識でない領域」の存在は確実であるとしても、主観的に把握されるそのような領域について、客観的な記述や説明が行えるかというと困難である。

これだけ話題になるテーマであるが、フロイトやユングやトランスパーソナル心理学の理論における「無意識」は、彼らが理論的に想定した構造の存在を実証する方法はまだ見つかっていない。

意識と記憶

ヒトには意識するものに、過去の記憶、目前の感覚、見えない空想がある。

過去の経験である記憶を再生するには、ある体験から想起される言葉や知識などを媒介として内的なイメージとして過去の情景（視覚的・聴覚的・嗅覚的・味覚的等と創作されたストーリー）が思い出される。

記憶は日常的に再現されており、複雑な手順を必要とする作業でも、その一々の手順を「意識しない」で、自動的に行われている。例えば、自動車に運転の時のように、アクセルの微妙な踏み具合を一々記憶を辿っているわけではなく、「カラダ」で覚えている。このような記憶を手続き記憶Procedural memoryもしくは非陳述記憶と認識学では呼ぶ。

しかし、何かを思い出そうとして、確かに知っているのに、どうしても思い出せないというようなケースがある。

思い出そうとして、努力が必要な記憶は、「滑らかに流れて行く意識の領域」には、想起が成功するまでは、存在しなかったことになる。このような記憶は「現在の意識領域」の外、前意識 (ドイツ語Vorbewusste)と呼ばれる、通常は意識に昇らないが努力すれば意識化できる記憶が貯蔵されている「無意識の領域」にある。今の科学では証明されていないので仮説とされているが、ｆMRIを使ってホック（他の事項との関連性）の大小や有無の実験はできると思う。

記憶	意識領域
	精神分析学	分析心理学
短期記憶 作動記憶	意識	意識
長期記憶	前意識	前意識
深層 長期記憶 深層構造	無意識	個人的 無意識
	（未定義）	集合的 無意識



記憶	意識状態
	覚醒状態	深睡眠
短期記憶 作動記憶 長期記憶	有意識	無意識 意識喪失
	フリンジ
長期記憶	深層意識	深層意識

主格があることを前提にした生き方

（注：Attā-diṭṭhi （自己、自我、主格についての誤った見解）、Sakkāya-diṭṭhi（主格信仰）、Attānudiṭṭhi

（主格信仰に従った誤った見解）、Attavādupādāna （自我信念への執着）は、異なる名前ですが同じDhammaです。）

主格とはself, personality, ego,のことで、パーリ語のAttā で、日本語での生命、個、魂、または主格のこと。

魂への信仰 (attavāda) の 4 種類があると言われています。

魂への信仰とは、アニミズムの理論、永続的な自我の教義、不変の生命体があるという主張（sakkāyadiṭṭhi）として説明されています。この見解にとらわれている人は、この絶えず変化する世界を永続的な基礎すなわち不変の本質（sāra）の観点から見ています。

Attāはいかに人を凶暴にするのか

（変化しない永続的な）魂があるという信念を持ち、悪なる行為の傾向がある生命体は、絶え間なく生まれ変わる輪廻をさまよわなければなりません。 彼らが魂の信念を消滅させることができた瞬間、純粋さと高貴さが確立され、あらゆる危険から解放されて輪廻転生の中を平和にさまようようになります。

「なぜ魂の信念が悪なる見解、悪なる考え、悪なる行為の根本原因であり、なぜこの信念の破壊がこれらを停止する根源となるのでしょうか？」と疑問に思う人もいるかもしれません。

このように答えられるかもしれません。

たとえば、ある王は自分の王権、プライド、威厳に大きな愛着を持っています。 王としての地位と栄光を保つために、彼はあらゆる悪なる考えと悪なる行為をその力で行使しなければなりません。 たとえ王であっても、自分の王としての権力と栄光に強い執着を持っているならば、あらゆる種の悪なる考えを抱き、あらゆる種の悪なる行為をして自分を守らなければなりません。 しばらくして、その王は自分の王としての義務と栄光の短所や欠点に気づくことになりました。その時から、彼の王権への執着は薄れ、王位を放棄してsamaṇa になりたいという強い願望を持つようになりました。 そして、彼は王権と栄光を維持し保護するために必要なすべての邪悪な行為から遠ざかろうと心に決め、今後は邪悪な行為を控えるようになります。

さらにしばらくすると、彼は家庭生活を離れ、samaṇaの生活に入ります。samaṇaになっても、彼は自分の心と体、つまり存在の五つの構成要素（五蘊）を、本質や実体があって自分に属する魂であると誤解しています。このように、彼は存在の五つの構成要素を自分の魂であると妄想し、それに執着しています。彼がこの魂の信念に執着し、それを取り除くことができない限り、間違いなく、必要に応じて悪なる考えを抱き、悪なる行為を行うことによって自分の魂を守ることになるでしょう。

Sammāとしての生活をする時点で、彼は存在を構成する5つのグループの欠点と悲惨さに気づき、洞察力の智慧を通して、存在を構成する5つのグループには本質も実体も存在しないと正しく見て、魂は存在しないことがわかり、魂への執着もなくなります。

その瞬間から、彼はいかなる邪悪な考えも抱かず、いかなる邪悪な行為も行わず、徳によってのみ魂と意志は保たれるでしょう。

彼は自分を守るために徳の道から決して外れることはないでしょう。実際、徳の原則を守るために果敢に自分自身を犠牲にするでしょう。

上記の例えから、魂の信念がすべての悪の根本原因であり、この信念の破壊が悪の停止の起源であることがわかります。

AttāとAnattā

Attāは「自己、自我、主格、魂の本質」を意味します。 Anattāは「非自己、非自我、魂の本質の不在」を意味します。 anattā という言葉は、次の3つの解釈を伝えるために使用されます。

(1)　 Asārakaṭṭhena-anatta. — 　　　本質や実体がないため、それはAnattāと呼ばれます。

(2) 　Asāmikaṭṭhena-anatta.—　　　　所有者や君主がいないため、それはAnattāと呼ばれます。

(3) 　Avasavattanaṭṭhena-anatta.— 　他人の意志に屈しないため、それはAnattāと呼ばれます。

Asārakaṭṭthena-Anatta: 妄想的に存在を構成する5つのグループをAttāと妄想しています。

経典に示されている3つの解釈のうち、最初に「Asārakatṭṭhenanatta」という語句について説明します。

通常の意味でのAttāは、本質または実体を意味します。 存在を構成する5つのグループの物理的およびメンタル的現象の瞬間的な発生と消滅を識別できないために、anicca（無常性）の特徴を認識できない生命体は、次のように主張します。

「体のグループ（色蘊）は本質であるので、Attāである、また 感覚のグループ（受蘊）は本質であるので、Attāである。また知覚（想蘊）グループは本質であるので、Attāである。また形成グループ（行蘊）は本質であるので、Attāである。 また意識グループ（識蘊）は本質であるので、Attāである。」と。

この種の考え方は「魂があるという信念」として知られています。

attā-diṭṭhi の形成され方

次のような見解を持つ人もいます。

「存在を構成する5つのグループが存続する限り、老朽したり溶解したりせず、生命体は存続する限り、老朽したり溶解したりすることはありません。 生命体は衰退、死、溶解することなく100年または1000年まで生き、その期間の間、生命体の本質または実質である存在を構成する5つのグループは老朽も溶解もしない。」 と。

この見解は魂があると信じる妄想です。

木鉢の本質または物質は木であると理解している人もいます。 しかし、彼らは真実を突き抜けず、この木片が膨大な数のaṭṭhakalāpa- rūpa⁸で構成されていることを識別することができません。

（注釈8 　Aṭṭhakalāpa-rūpaとは、純粋な８つのグループを意味します。構成要素は(1) 拡張の要素、(2) 流動性または凝集の要素、(3) 運動エネルギーの要素、(4) 運動の要素、( 5) 色の要素、(6) 匂いの要素、(7) 味の要素、(8) 栄養の要素、です。）

したがって、彼らは木鉢の本質または物質が木であることを表面的にしか理解できません。

しかし、中には真実を突き抜けて、木の本質や物質とは物質グループの集合体にすぎず、これらもまた因果的に条件付けられた発生と消滅を繰り返す物理現象であることに気づく人もいます。

彼らは次のように認識しています。つまり、鉢の形をした木片には拡張（形状）の要素が顕著であり、これらの拡張（形状、空間占有）の要素は間違いなくpathavī-dhātu（拡張の要素）の究極の真実であり、「木」そのものではありません。

同様に、その性質の種類や３次元の立体に顕著に見られる凝集状態は、āpo-dhātu (凝集要素)の特徴です。 その形状に見られる熱気または冷気の状態は、tejo-dhātu (運動エネルギーの要素) の特徴です。 そして、その形状に見られる支持または運動の状態は、vāyo-dhātu (運動の要素) の特徴です。 これら4つの要素は、4つの主要な根源、すなわち四大元素 (Mahābhūta) として知られています。

同様に、その木片の色は vaṇṇa (色の要素) です。 匂いはgandha（匂いの要素）と呼ばれます。 味はrasa（味の要素）と呼ばれます。 そしてその栄養素はojā（栄養の要素）と呼ばれます。 このようにして、一部の賢明な人々は真実を突き抜け、8要素を認識しています。

彼らが真実を突き抜けたとき、

「物理現象だけが進行して、木そのものが存在することはありません。そしてもし木が存在しないなら、究極的な意味では木鉢はどうして存在できるのでしょうか？」という認識があります。

私たちが普段「鉢」と呼んでいる木片が、寒風や温風にさらされたり、棒で打たれたり、槍で突き刺されたり、投げられたりすると、その木に含まれる物理現象が変化し、 新しいものに場所を譲り、生じたものもその場で消え去ります。

現象の中には、衰退するもの、溶解するもの、条件によって再び発生するもの、増加するもの、減少するもの、そして正常のまま残るものなどがあります。

このように理解すると、これらの物理的要素を離れて木が存在しないことが明確に理解されます。 さて、木そのものが究極的な意味で存在しないのに、どうやって木が鉢の本質や実体を持つことができるのでしょうか？ 瞬間的に生じては消えていく物質グループは、どのようにして木の本質や物質となるのでしょうか? こうして彼らは真実に到達します。

ここでいう、一般的に使われている「鉢」という語句は、一般的に使われている「生命体」という語句の使い方に似ています。 木に含まれるcntainedcontained誤字脱字物質的なグループは、存在を構成する 5 つのグループに似ています。 これらはアナロジーの関係です。

メンタルのグループに関しては、形がありません。 物体が体のどこかに触れると、意識が生じ、すぐに消えます。 bhavaṅgasotā、つまり「潜在意識の流れ」は、心（heart）の中で絶えず生まれては消えます。 潜在意識の流れは、新しい物体が接触したときにのみ断ち切ることができます。　sankhāraの弱体化のこと？

行sankhāraは意識で消し去ることができず、5感覚器官との接触がある時に心が安らかな状態があれば、潜在意識の流れが弱体化する。

13. Attā-Diṭṭhi（主格Personalityが中心であるという見解）の解説

(a) 主格が中心であるという信念のせいで、生命体は幸福な道と悲惨な道をさまよわなければなりません。

輪廻をさまよう生命連続性には、さまざまな誤った見解、さまざまな邪悪なもの、さまざまなkammaが潜在しています。これらの不健全なメンタル的要因のために、次のようなことが顕著に生じます。

(1) 四つの下界での転生、および

(2) さまざまな不健全な自発的行為。

生命体は、これらの悪いメンタル的要因のために、さまざまな存在領域をさまよいます。控えめに言っても、輪廻の過程で、四つの下界の犬や豚などでさえ、偉大なBrahmāになることがあります。時には、Ābhassara界, Subhakiṇha界, Vehapphala界、無形界などの高次のBrahmā界に生まれ変わることもあります。これらの高次のBrahmā界に転生する機会はありますが、寿命が尽きたり、功徳が尽きたりすると、四つの下界に生まれ変わらなければなりません。これが宇宙の規則なのです。

Vibhaṅga によると⁷—

（注釈7　 Vibhaṅga は「区別」、「分類」、「分布」と訳されています。 故Ñyānatiloka Mahāthera尊者は「Abhidhammaのガイド」の中で、次のように述べています。

「最初の 3 つの論文により、Vibhaṅgaはある程度、Dhammasaṅgaṇiの補足であり、同時にDhātu-Kathā (Abhidhamma論蔵の他の 2 つの本) の基礎となっています。これら 3 つの論文は、、すなわち仏教哲学の最も重要な3つのカテゴリーを真の理解を徹底的に探究することに貢献しています。これらの 3 つの論文は仏教哲学を真に理解して、最も重要な３つのカテゴリーの徹底的な探究に貢献しています。」）

“Ukkhittā puññatejena, kāmarūpagatiṇ gatā; Bhavaggatampi sampattā,puna gacchanti duggatiṇ.”

Ukkhittā 　　　　　 [pp．of ukkhipati] taken up，lifted up　　挙げられる、引き抜く、排除する

puññatejena　　　　 puññatā：Meritoriousness，merit，good works　　徳行

kāmarūpagatiṇ 　　　感覚界Kama realmと 色界physical realmの趣、癖、状態、習慣

gatā　　　　　　　 gata：[pp．of gacchati] gone； moved； walked；arrived at； having come to a condition.

Bhavaggatampi 　 bhavagga：[m．] the highest point of existence or of the universe

sampattā　　　　　[pp．of sampāpuṇāti] reached； arrived； come to； attained　到達した

puna 　　　　　　　 puna：[ind．] again．

gacchanti 　　　　　 [gamu+a+anti]　　　go　　行く

duggatiṇ　　　　　 Distress，suffering，state of punishment　　　　　　悲惨な世界

健全な意志的行動によって条件づけられた生命体は、感覚圏（領域）、形態圏、さらには微細物質圏のNevasañña-nāsanñāyatana（知覚でも非知覚でもない圏）に生まれ変わります。

それでも、寿命が尽きるか、功徳が尽きると悲惨な存在領域に生まれ変わります。　　

誤った見解、悪なるメンタル的要因、悪なるkammaは生命体の継続に伴うものであるため、もし偉大なBrahmāになったとしても、世俗的な領域の住人なのでPuthujjana（世俗）のままです。

空に投げ上げられた石や槍が重力によって地面に落ちるように、生命体は4つの下界に生まれ変わる傾向が（常に）あります。

それらの生命連続性は地獄のようなメンタル的要素をたっぷりと抱えているため、それらは「（無常の）冥府の生命体」です。彼らの生命連続性には悪なるメンタル的要因が伴うため、悪なる行為をする運命にある悪なる心を持っています。彼らは悪なるkammaが蔓延する領域に存在し、ほとんどの生命体は「智慧の目」を持たない領域の住人です。

kaṇha-bhūmi（悪なるkammaが満ち溢れている領域）とandha-bāla-bhūmi（愚かさによって盲目になっている生命体が「智慧の目」を持たない領域）とは何でしょうか？

上述のpāpa-diṭṭhi（誤った見解）、pāpa-dhamma（邪悪、悪なる習慣）、pāpa-kamma（不健全な行為）は、kaṇha- bhūmi とandha-bāla-bhūmiという2 つの領域に現れます。

次の疑問は、なぜ偉大なBrahmāさえもこれら 2 つの領域に存在するのかということです。

なぜならば、それらは永遠と主格の存在を信じている、つまり「私はある」と公言しているからです。

(b) 　Attā-diṭṭhiの力

すべての間違った見解、悪なるメンタル的要因、悪なるkammaの根本原因はAttā-diṭṭhi です。 これらのpāpa-diṭṭhiが生命体の生命連続性にある限り、そこには、pāpa-diṭṭhi、pāpa-dhamma、pāpa-kammaも存在します。 そして、彼らは、過去の存在で行った善良な意志的な行為、現在の存在で行っている行為、そして将来の存在で行うことの継承者となるのです。

生命連続性にpāpa-diṭṭhiなどが付随する限り、本人は「地獄行きの人」、「悪を行う者」、「kaṇha（暗黒）領域の住人」、「andhabāla（愚者）領域の住人」と呼ばれることになります。このattā-diṭṭhi が止むと、これら3つすべてがあらゆる種の悪とともに消滅します。

attā-diṭṭhi を根絶できない生命体は、pāpa-diṭṭhiの継承者となるでしょう。 どうしてでしょうか?

それはattā-diṭṭhi （主格が中心である信念）を公言する生命体は、多くの宇宙生滅サイクルや輪廻転生の中で、保持してきた数え切れないpāpa-diṭṭhiなどを取り除くことができないからです。

Attā-diṭṭhi を伴った生命連続性を持つ生命体は、知覚もしくは非知覚の領域に生まれ変わりますが、reborn in the Sphere of Neither-Perception Nor Non-perception,

これらのpāpa-diṭṭhiなどの適応した効果で、間違いなく下位界へと引きずりこまれます。このAttā-diṭṭhi を払拭できない限り、来世ではこれらのpāpa-diṭṭhisの犠牲者にならなければなりません。

そして、将来の世（存在）で、起こり得るあらゆる種の誤った見解を公言し、機会があるかもしれないあらゆる種の「悪なる行為」を実行し、母殺しなどのような重大なkammaを犯すでしょう。

現世においても、attā-diṭṭhi を公言する人は一般的に、誤った見解を公言し、悪なるメンタル的要素を取り込み、悪行を行う傾向があります。

(c) 　Attāによって生じた Issaranimmāna（すべては神によって創造される）の見解

このAttā-diṭṭhi によってIssaranimmānaの見解が現出するのは事実です。偉大なBrahmāは、このAttā-diṭṭhi のせいで、自分がどこから来たのか、そしていつBrahmā界から落ちるのかわからず、自分自身が永続的で、不変で、永遠であり、変化することがなく、永遠のものとして残ると考えてしまいました。

「私はBrahmā、大いなるBrahmā、征服者、他者には征服されない者、すべてを見渡し、全ての力を持ち、支配者で、創造者で、優れた者で、全能者で、 すでに静寂を実践し、いま、そしてこれから存在するすべての父である。」 と。

時折、彼はより短い寿命を持つBrahmāsの領域に現れ、「私は永遠である。私は全能である。私はあなたたちすべてを創造した」と言います。

より期間が短いBrahmāたちは、彼の言葉を聞くと、彼を信じ、この見解の支持者となります。 Devaの次元や人間の世界に生まれ変わる生命体については言うまでもありません。 (このIssaranimmānaの見解を支持する人々は、Issaranimmānaを自分たちの創造主である神とみなしています。その偉大なBrahmāが語った言葉を条件に、この見解がこの世に誕生しました）。

(d)　 Attāのせいで本当の幸福はない

Attā-diṭṭhi から抜け出せない限り、たとえ自らを創造神であると宣言する偉大なBrahmāになれたとしても、pāpa-diṭṭhiなどからから抜け出すことはできないでしょう。過去世で生命連続性の中で生じたもの、現世で生じたもの、そして来世で生じるであろうものによって、本人は転生するとき必ずより下界に生まれ変わることになるでしょう。

したがって、ちょうど大海原に生息する魚や亀と同じように、彼らはkaṇha（黒色、邪悪）界の単なる住人にすぎません。 彼らは「智慧の目」を持たないため、andhabāla界の住人なのです。

過去の不健全なkammaのせいで現在は下位領域に生まれ変わっている生命体は誰であっても、来世で過去の健全なkammaが熟したとき、自らを全能の神と宣言する偉大なBrahmāになるかもしれません。　したがって、もしAttā-diṭṭhi が生命連続性の中に潜在しているならば、輪廻転生を彷徨う中で幸福を見つけることができず、Saṇsāra（輪廻転生）からの逃げ場を見つけることができないことを心に留めておくべきです。

14. Attā-Diṭṭhiの完全な破壊から得られる利益

(a) 地獄での転生がなくなる

生命体がpāpa-diṭṭhiなどの根本原因であるAttā-diṭṭhi を根絶することができたとき、過去に生命連続性に付随し、現在にも付随し、そして来世にも付随するメンタル的現象は完全に破壊されるでしょう。 そして過去世において、現世で行われている、そして来世で行われるであろう、健全な自発的な行動の継承者となります。

ひとたび生命体がAttā-diṭṭhiを追放すると、下位界に導く間違った見解、悪なるメンタル的要因、悪なるkammaはすべてAttā-diṭṭhiとともに消滅します。 もはや下位界に生まれ変わることはなく、来世で下位界の支配から逃れることになります。それらはもう悪なる行いをしないので、永遠にあらゆる悪から解放されます。

(b) 涅槃Nibbānaの達成

pāpa-diṭṭhiなどを含む煩悩の完全な消滅、そして、悪なるkammaの完全な消滅してもまだ残っている存在のグループthe groups of existence五蘊のこと？が、Sa-upādisesa-nibbāna、すなわち超世俗の領域、または聖者の領域と呼ばれるものです。

(c)　死のない世界

Sa-upādisesa-nibbānaとは、pāpa-diṭṭhiなどの煩悩の消滅しても、まだ存在グループが残っている状態で、今後の宇宙サイクルにおいても損なわれたり、破壊されたり、劣化したりすることはありません。

この状態は永続的かつ永遠で変わることも、朽ちることも、溶解することも、消えることも決してありません。 この状態には「溶解の瞬間」がないため、Amataと呼ばれます。 [a-mata，Sk. amṛta] 不死，甘露、涅槃

(d) 　出所（根源）の不明性　Unoriginatedness

このような煩悩と根本原因であるAttā-diṭṭhiの消滅状態を達成した人は、この消滅状態が将来も決してなくならないことがわかるでしょう。 Pāpa-diṭṭhi などがマインドに再び現れることはありません。下位界に導く悪事を完全に控える状態が衰退することもなく保たれます。もうこの世に生まれ変わることはありません。

煩悩が消滅したこの状態は、Amata-dhātu（死も転生もない状態）でAsaṅkhata-dhātu （創造されていないもの、根源のないもの、涅槃）と呼ばれます。

(e) 　Sotāpannasが発生する領域、Planes

Sa-upādisesa- nibbānaに達した人々のマインドの中でAttā-diṭṭhi が消えた時以来、彼らはPuthujjana（世俗人）の段階を過ぎ、もはや世俗人の領域には入っていません。 彼らは聖なる者の次元に存在し始め、その次元の住人になります。

彼らは世俗的な段階を通過し、超世俗的な領域の住人になります。

Attā-diṭṭhi を根絶した人は天界と人間の間の輪廻転生を７回だけ経て、最終的に涅槃に達することになります。 (注: これは Sotāpannas を指します)　

しかし、これらの生まれ変わる人々、すなわちBrahmā界を通過する人々の一部には、uddhagāmi-puggala（より高い段階を通過する生命体）になっているため、数に制限はありません。

彼らは何百、何千、何十万もの世（存在）と宇宙生滅サイクルにわたってBrahmā界の間を通過するかもしれません。 しかし、彼らは決して下界に生まれ変わることはなく、またDeva界や人間界を通過することもありません。

過去と現在の健全なkammaによって条件づけられた聖なる者たちは、幸福な生存過程Happy Course of Existence（= magga?）を進んでいくでしょう。 将来においても、彼らは健全な自発的行為のみを行うであろうし、不健全な自発的行為を行うことなど夢にも思わないでしょう。pāpa-diṭṭhi、pāpa-dhamma、pāpa-kammaの根本原因であるAttā-diṭṭhi は、それらによって完全に消滅しています。

Attā-diṭṭhi を払拭した人々は、現世のkammaの継承者になります。 彼らは幸福な生存過程（「道」）に導く健全なkammaを持っており、その過程のみに縛られています。 彼らは高貴なDhammaを授けられると、聖なる者になります。 健全で純粋なkammaが溢れている存在領域にいるため、その領域の住人になります。 彼らは四聖諦を覚る「智慧の眼」を持っているので聖なる者となります。将来どのような存在でさまよっても、彼らにはariyapaññā （聖なる者たちに関わる智慧）が与えられているのでAriya（聖なる者たち）です。 Attā-diṭṭhi を払拭できていないPuthujjanaの段階を越えることで、Ariya、すなわち「超世俗の住人」になります。

全知の仏陀の時代のSāvatthi（コーサラ国の首都）, Banārasa, Vesālī（Licchavi国の首都）, Rājagaha（マガダ国の首都）では、Attā-diṭṭhi を払拭した後に、Sotāpannaとなった多くの世帯主がいました。

Brahmāの王Sanaṅkumāraは、かつて、数え切れないほどの聖なる者たちが存在したことを明らかにしました。

仏陀の在世中にSotāpannaとなった人々は、現在、６番目のDeva界に多く存在しています。

これらのSotāpannaはuddhaṇsota-puggala　｛uddha：[adj．] upper； upward、　puggala：'individual'，'person'｝（人生の流れを上に向かって進んでいる人々）なので、決して下界に生まれ変わることはありません。

Jāti-khetta (転生の領域) 内の 1 万の宇宙には、何十億もの、数え切れないほどの数（100万の10乗）の、Sotāpannaである Cātumahārājika Devas [Cātu 4 + maharaja 王]がいます。 他の5つのDeva界や、Brahmaparisajjā 界などのBrahmā界にも、計り知れない数のSotāpannaが存在します。 これらのSotāpannaはuddhagāmi-puggala（人生の流れを上に向かって進んでいる人々）であり、決して低い次元に生まれ変わることはありません。

パーリ語の経典に次のような節があります。

「比丘たちよ、これらは幻覚の4つのケースです。この4つとは何しょうか？非永続的なものを永続的なものとみなすことです。苦しみであることが良いことであるとみなされる。 自分ではないものが自分とみなされる。醜くて攻撃的なものはが美しくて有益なものとしてみなされる。」

これらが、認識、感覚意識、錯覚した意見が幻覚である４つのケースです。

ここでいう「無常」という表現は、「名前と形態」³³という語句に要約される、本質的に永続的ではないメンタル的および物理的な事実と状態を意味します。

「名前と形態」を「生命体」や「主体」という観点から見ることによって、人は非永続的なものを永続的なものとして認識します。 なぜならならば、「生命体」や「主格」は単なる概念に過ぎないからです。

そして、私たちが知っているように、概念には、過ぎ去ったり、動き回ったりする属性はありません。

悲惨な事実に陥りやすい、単にメンタル的と肉体的な現象を大切にして心地よいとみなすことで、ヒトは病気（苦しみ）を幸福として、醜く不快なものを美しく有益なものとみなします。

「生命体」とは単なる「概念」です。自然界にはそれに相当するものはありません。

そのような実際には存在しないものが実際に存在するとみなされると、その結果、単なる「名前と形」が存在の本質とされます。そして、それが生命体の自己であるだけでなく、生命体そのものであると考えることによって、人は自己ではないものを自己とみなすようになります。

「わたし」というのはどうやって自覚が生まれるのかというと、眼耳鼻舌身意という感覚器官の働きなんです。

別に「わたし」がいるわけじゃないんです。この感覚器官六つの働き方によって、虹みたいな感じで、蜃気楼のような感じで、見えてくるんですね、「自分」が。

暑いときに、あるカラクリがあって蜃気楼が見えるんであって、蜃気楼自体が実在するわけじゃないんです。カラクリがあって目の錯覚が起こる。

それで、眼耳鼻舌身意、六つ。それはこういうふうに観察します。

これから言う言葉の意味を理解して、冥想だということで、丁寧な気持ちで唱えてください。

まず、眼。

「眼」この眼は変化するもので無常です。

この眼はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものではありません。

わたしのものにならない眼に執着しないように励みます。

眼に入る色（しき）という見える対象は、変化するもので無常です。

眼に入る色（しき）という見える対象は、わたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない眼に入る色（しき）という見える対象に、執着しないように励みます。

眼に見えるものが触れることによって、眼の感覚が生じます。

眼の感覚は変化するもので無常です。

眼の感覚はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない眼の感覚に執着しないように励みます。

眼の感覚から眼識（がんしき）が生じます。

この眼識は変化するもので無常です。

この眼識はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない眼識に、執着しないように励みます。

眼識から思考妄想・愛着・怒りなどの煩悩が生じます。

この眼識から生じる煩悩は変化するもので無常です。

この眼識から生じる煩悩はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならないこの眼識から生じる煩悩に、執着しないように励みます。

（「眼」の章おわり）

「眼はわたしではありません」。六つの器官をまとめて、「わたし」という錯覚が生まれる。それを自分に言い聞かせちゃうんですね。「眼に見える対象も、わたしではありません」「わたしのものでもありません」。

眼は「わたしの眼」とは言えないんですね。眼は眼の勝手です。わたしに管理できない。だから物があったら眼識が勝手に生まれるんですね。「わたし」には赤いものを黄色いとみることができない。

だから、わたしの管轄外だから。管轄外のものは「わたしもの」じゃないでしょう。

そうやって感覚が、煩悩が、思考妄想が、生まれる。思考妄想も、そのように勝手に、無常で、「わたしではありません」と捨てちゃいますね。

次は「耳」です。

「耳」この耳は、変化するもので無常です。

この耳は、わたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない耳に、執着しないように励みます。

耳に触れる音は、変化するもので無常です。

耳に触れる音は、わたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない耳に触れる音に、執着しないように励みます。

耳に音が触れることによって、耳の感覚が生じます。

耳の感覚は変化するもので無常です。

耳の感覚はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない耳の感覚に、執着しないように励みます。

耳の感覚から耳識（じしき）が生じます。

この耳識は変化するもので無常です。

この耳識はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない耳識に、執着しないように励みます。

耳識から思考妄想・愛着・怒りなどの煩悩が生じます。

この耳識から生じる煩悩は変化するもので無常です。

この耳識から生じる煩悩はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならないこの耳識から生じる煩悩に、執着しないように励みます。

（「耳」の章おわり）

はい、次、ちょっと集中してください。

本当は眼が一番簡単です。

つぎの三番目は「鼻」。鼻の世界だけ考えてください。鼻と言うのはこの鼻（指さして）です。こちらの飾ってある花ではないんです。この、「鼻の世界」。そこに自我が生まれるんですね。でも無常ですから、そこに自我はありません。「そこにわたしはいません」ということで、思考を集中してみてください。

「鼻」

この鼻は変化するもので無常です。

この鼻はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない鼻に、執着しないように励みます。

鼻に触れる香りの対象は、変化するもので無常です。

鼻に触れる香りの対象は、わたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない鼻に触れる香りの対象に、執着しないように励みます。

鼻に香りが触れることによって、鼻の感覚が生じます。

鼻の感覚は変化するもので無常です。

鼻の感覚はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない鼻の感覚に、執着しないように励みます。

鼻の感覚から鼻識（びしき）が生じます。

この鼻識は変化するもので無常です。

この鼻識はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない鼻識に、執着しないように励みます。

鼻識から思考妄想・愛着・怒りなどの煩悩が生じます。

この鼻識から生じる煩悩は変化するもので無常です。

この鼻識から生じる煩悩はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならないこの鼻識から生じる煩悩に、執着しないように励みます。

（「鼻」の章おわり）

次は、自分の「舌の世界」。このように仏教では「世界」と言うんです。眼の世界、耳の世界……。そこは無常で変化する。

「わたし、わたし」とわれわれは、identify、自分だと勘違いする。自分ではありません。それをよく理解して六根にいったら、自分が消えちゃうんです。

「舌」

この舌は、変化するもので無常です。

この舌は、わたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない舌に執着しないように励みます。

舌に触れる味は、変化するもので無常です。

舌に触れる味は、わたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない舌に触れる味に、執着しないように励みます。

舌に味が触れることによって、味の感覚が生じます。

味覚は変化するもので無常です。

味覚はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない味覚に執着しないように励みます。

味覚から舌識（ぜつしき）が生じます。

この舌識は変化するもので無常です。

この舌識はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない舌識に、執着しないように励みます。

舌識から思考妄想・愛着・怒りなどの煩悩が生じます。

この舌識から生じる煩悩は変化するもので無常です。

この舌識から生じる煩悩はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならないこの舌識から生じる煩悩に、執着しないように励みます。

（「舌」の章おわり）

次に自分の体に集中してください。

「身」

この身体は、変化するもので無常です。

この身体は、わたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない身体に執着しないように励みます。

身体に触れる対象は、変化するもので無常です。

身体に触れる対象は、わたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない身体に触れる対象に、執着しないように励みます。

身体に対象が触れることによって、身体の感覚が生じます。

身体の感覚は変化するもので無常です。

身体の感覚はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない身体の感覚に、執着しないように励みます。

身体の感覚から身識（しんしき）が生じます。

この身識は変化するもので無常です。

この身識はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない身識に、執着しないように励みます。

身識から思考妄想・愛着・怒りなどの煩悩が生じます。

この身識から生じる煩悩は変化するもので無常です。

この身識から生じる煩悩はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならないこの身識から生じる煩悩に、執着しないように励みます。

（「身」の章おわり）

最後は、こころですね。仏教では「意」と言います。意識の意。

これはちょっと難しいかもしれませんけど、冥想する方々にとってはそれほど問題ではないと思います。

「意」

この意という認識機能は、変化するもので無常です。

この意という認識機能は、わたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない意という認識機能に、執着しないように励みます。

意に入る法というものごとは、変化するもので無常です。

意に入る法というものごとは、わたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない意に入る法というものごとに、執着しないように励みます。

意にものごとが触れることによって、意の感覚が生じます。

意の感覚は変化するもので無常です。

意の感覚はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない意の感覚に、執着しないように励みます。

意の感覚から意識が生じます。

この意識は変化するもので無常です。

この意識はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならない意識に執着しないように励みます。

意識から思考妄想・愛着・怒りなどの煩悩が生じます。

この意識から生じる煩悩は変化するもので無常です。

この意識から生じる煩悩はわたしではありません。

因縁によって変化するので、わたしのものでもありません。

わたしのものにならないこの意識から生じる煩悩に、執着しないように励みます。

（「意」の章おわり）

これは六根に関するヴィパッサナー冥想で、サマタ冥想にもなります。

お釈迦様の時代にも、お釈迦様はかなりいろんな経典で、いろんな方法で、このように、覚りに達しないお坊様たちを誘導するんですね。このくらい言ったら覚るというケースはたくさんありましたけど……。こちらは……ないでしょうね、おそらく（笑）。

しっかりと『実感的に』行けば、ものすごい智慧が現れます。

最後にお釈迦様のまとめた言葉を唱えます。

「一切の現象は無常であると智慧で発見するとき、苦に対して、輪廻転生に対して飽きるのです。これこそが解脱への道です」　(日本語訳)