釈尊の風　　　三相篇　　　　パーリ語と翻訳

簡単にナナメに読むには

長いエッセイなので、関心があるところだけに目を通すには

本論である三相の無常、苦、無我（行、法）の誤訳については、　　　P3〜P5

仏教の基準点、そして仏教が理解されにくい理由　　　　　　　　　　仏教の基準　世界観の前提

パーリ語文法入門とキーワード　　　　　　　　　　　　　　　　　　別ファイル

パーリ語経典入門については 　　　　　　　　　　　　　　　　　　別ファイル

パーリ語の頌歌については　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　別ファイル

目次

はじめに　方丈記　　日本の仏教

三相　　意味の違い　多層解釈　アプローチ　　

anicca

dukkha

dhamma

anatta

仏教の前提　　仏教の基準　世界観の前提

おわりに　　　前文　個人的関わりの経緯

コラム

誤謬について

上座部仏教に伝わったもの　　　　　　

大乗仏教に伝わったもの　

五蘊とはなにか？　　　　

三相とはなにか？

三相についての誤訳　2018

サングラスをした男の喩え

正しさという迷路　　　考えるのではない、感じろ

伝統的誤謬の理由 段階的「わたし」の混同

誤謬の原因　　　　リンク集　

因果関係の範囲の詳細　　　　　　修行の順序　　　Sotāpannaへの道

AIの捜索範囲の限界　　ヒトの気まぐれを予測する　　　　

主体（わたし）とは何か？　宇宙の構成要素と内的心理器官に関する創造原理

パーリ語の必要性

パーリ語とマガダ語

Namo Tassa　Bhagavato Arahato　Sammāsambuddhassa の意味

釈尊の時代にはいなかった大日如来

ありのままの現実をみることができない「無明」の力

無明を消すには無明があるという事実を見守っているだけ

解脱後のブッダの最初の言葉とは？　　

はじめに

方丈記　鴨長明

原文

行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。

現代語訳

川の流れは途絶えることはなく、（しかもそこを流れる水は）先程の水ではない。川のよどみに浮かんでいる水の泡は、一方では形が消えてなくなり、一方では形ができたりと、そのままの状態で長くとどまっている例はない。この世に生きている人とその人たちが住む場所も、また同じようなものである。

英文　(Yasuhiko Moriguchi, David Jenkinsの訳)

The flowing river never stops and yet the water never stays the same.

Foam floats upon the pools, scattering, re-forming, never lingering long.

So it is with man and all his dwelling places here on earth.

英文（南方熊楠の訳）

Of the flowing river the flood ever changeth, on the still pool the foam gathering, vanishing, stayeth not. Such too is the lot of men and of the dwellings of men in this world of ours.

ある日本仏教の解釈

川の流れの光景を、そして、泡の生まれては消えていく様子を、常に変化し続ける「諸行無常」の表われとして受け止める。

そして、「わたし」が泡であるかぎり、すぐに消えていく運命であるので、この世は「一切皆苦」となり、そこから解放されるためには、泡を基準としている自我から離れ、川そのものになることで「諸法無我」の境地に至ることができる。

という解釈をして、これが仏教であると思う人が世界中にいる。

たしかに日本にはこのような仏教がある。

しかしここには釈尊の教えがちゃんと伝わっていないのではないか？

このような解釈は釈尊の意図とは違うのではなかろうか？

そんな疑問が浮かび、上記のような解釈はなにか変だなと感じ、ミャンマー、タイ、インドに来て調べてみることにした。

すると、「諸法無我」というなんだか悟ったような素晴らしい境地の意味合いなどはもとからなく、これは「我でコントロールすることはできないので、人はただ無力でしかない」という意味であるのを、学者たちが誤訳して、その誤訳が伝統になっているに過ぎないという結論に達した。

また、「諸行無常」のパーリ語の原文の「無常」は「自分の望むように維持できない」という意味であり、「一切皆苦」の原文は「ヒトの頭で考えたことはすべて苦しみを生み出してしまう」という意味である。

（後述のパーリ語経典との対比で詳細について説明します。）

仏教に関心がない者ならば、ただの誤訳であろうと、それほどの意味はないかもしれないが、これらの解釈の違いは仏教関係者、特に指導者と修行者にとっては仏教の根幹の問題である。

この「諸行無常」「一切皆苦」「諸法無我」は「三相」と呼ばれ「この世の特徴（性質）」を表し、この３つをしっかり理解して、煩悩（渇望、嫌悪、無知）を滅することで解脱する、というので仏教では一番肝心なところである。

この誤訳によって修行者は迷いに入り解脱することができなくなって久しいという論者もいる。

三相はセットで使われるので、一つにまとめた表現は、例えば、

「yadaniccam tam dukkham、yam dukkham tadanattā」

SN 22.15 Yadaniccasutta SN 22.15 それが、無常であるなら」の経 Samyutta Nikāya (Anicca Vagga),

というものがある、意味は

「aniccaの性質はdukkhaにつながり、dukkhaの性質はanattaの性質につながる」

この表現は、経蔵の相応部にあるAjjhattanicca Sutta (SN 35.1), Bahiranicca Sutta (SN 35.4),Yadanicca sutta (SN 22.15)をはじめ多くの経典（sutta）にある。　　　　　　　　

原文のパーリ語を日本の伝統的解釈によって翻訳すると、従来ではaniccaとは無常、dukkhaとは苦、anattaとは無我　と訳されていたので、

「無常の性質は苦につながり、苦の性質は無我の性質につながる」

というなんだが哲学的で高尚に見えないこともないが内容を論理的に説明できず、意味不明な筋の通らないものになる。

これをパーリ語から直接に翻訳すると

「この世の性質とは、自分の望むように常に維持することはでき無いので、ヒトの望みは叶えられず苦しみとなり、この世にいるかぎりは、我（の意識）で思うようにコントロールすることはできないので、人はただ無力でしかない」

つまり、これは涅槃への誘いでもある。

パーリ語の原文の経典と伝統的な日本語（漢字）の解釈との間にあまりにもギャップがあるのに驚く。

そしてこの誤訳はこれからも続くであろう、というわけは「誤訳が起きる理由」として後述する。

解釈に違いがあるのは当たり前のことで、「教え」が宗教組織になれば色々と違いが出てくるのは必然であり、キリスト教やイスラム教でも同じような歴史を歩んでいる。

「イエスの教え」が異端者パウロという矛盾を通してカトリックになり、文明という隔離を通してプロテスタントになり、預定論（predestination）という理論を通して資本主義になり、ユートピアという理念を通して社会・共産主義になり、都市生活を通して大脳皮質中心主義というリベラルになったように。

しかし、これらの歴史は自らの内側にある闇にスポットライトを当てて、それを明らかにしょうと試みているが、実際にしていることは体感するための実践をやめ、知性を使って現象を分析・統合することで生じる新しい解釈に変容した。これは、長い目で見てみると、行き止まりの道をまた新しく作っているにすぎない。

この闇に光を当てる行為、すなわち分析・統合することによってオリジナルの教えが歪曲される歴史は、当然のごとく釈尊の教えでも行われた。

上座部仏教はブッタゴサによってオリジナルを離れ、大乗仏教はナーガルジュナによってオリジナルを離れた。

唯識思想はアサンガとヴァスバンドゥによってオリジナルを離れた。

参照）

Asanga 無著は小乗で出家し、マイトレーヤ（弥勒）菩薩から大乗の空思想を学び、唯識思想を流布した。

Vasubhanudhu世親は説一切有部の僧だったが、兄無著に導かれて大乗に転じ，華厳，涅槃，法華，般若，維摩，勝鬘などの論書や唯識思想に関する解説書を80歳まで著作した。大乗成業論，仏性論，弁中辺論は彼の作。　

そこには時代や地域や環境の必然性があったのだろう。だから離れると言うよりも具体化したとう言うこともできる場合もあるだろう。もしくは表面的には離れたように見えるのは、深層ではオリジナルに戻ることができた場合もあるだろう。

このようなケースとは違い、学者という「わかりやすさ（分析・統合）」というエンジンに「善意」というガソリンが注がれると、深層でオリジナルと交流・交感することはなく、表層のカタチがTPOに適応して変わるだけである。　

本人たちに悪気などはなく純粋な善良な勤勉な仏教徒である。だから離れてしまうのである。オリジナルは各自の善悪にこだわり続けるものではなく、自分の内に作成してしまった自動反応回路を弱体化・削除することである。

この論理的矛盾については「仏教の基準点」で後述する。

この世にベターな状態を提供できるというナイーブで善良な思考と行動は、この世の自然の法則に「無明」の覆いをかける。正覚した者でさえ、いやだからこそ、たとえば釈尊が一生を通してしたことは、この世にベターな状態を与えることではない。　

求める人にただ「道」を指し示し、その方法を伝えるだけである。それはこの世に戻る方法、すなわち輪廻転生の内を彷徨うのではなく、そこから離脱する方法である。　

そして、その「道」を実際に歩くのは時代と地域に関わらず、本人ただ一人である。

「自分の仕事は自分でしなければならない。

真理を知った者は道を指し示すことはできるが、

閉じた輪から解放できるのは瞑想を実践する自身でしかない」

「法句経」からの引用　　Dhammapada, XX. 4(276)

パーリ語

Tumhe hi kiccam atappam,

akkhataro tathagata.

Patipanna pamokkhanti

jhayino mara-bandhana

これまでの日本の伝統的な漢字を使った訳とパーリ語の原語を並列して違いを確認する

代表的な仏教の概念をパーリ語の原典を通して理解することで、本来の意味をみんなで感じていきたい。

言葉を比べるのでもなく、定義するのでもなく、腑に落ちるように文脈で理解しようとする試み（エッセイ）である。

仏教の主要テーマである、

三相（諸行無常、一切皆苦、諸法無我）

法

五蘊　　　　　色・受・想・行、識

十二支縁起

四聖諦

涅槃

預流と阿羅漢

捨

念

について経典の中のパーリ語と並列して考察する。

すべてを扱うには１つのエッセイでは多すぎるので、はじめの「三相」だけにスポットライトを当てるものになる。

三相（さんそう）　 ti-lakkhaṇa ティラッカナ　別名は三法印　　Three marks of existence

lakkhaṇa「相」とは一面とか見方とかaspectという意味で、tiは３を意味するので、

ti-lakkhaṇaとは、涅槃からみた「この世の３つの性質」のこと。

仏教では具体的には「無常、苦、無我」の3つのことで、この三相をいつも実感していることが解脱に至る道であるといくつかの経典では説かれている。出典？

たとえば、法句経（ ダンマパダ）の20章に「道の部」Khuddakanikāya Dhammapada Maggavaggaがあり、

その中に有名な節があり、以下のように訳されている。

諸行無常　（一切の行は無常なり）

一切皆苦　（一切の行は苦なり）

諸法無我　（一切の法は無我なり）

これを智慧を持って観るとき、ヒトは苦から厭い離れる。

これが清浄への道である。

しかし、この翻訳、そして解釈が原文のパーリ語とは全く違っており、それによって過去の行者たちは清浄への道に至れなかったのではないかという、仮説を提案する。

私（たち）は一文字ずつの意味を深く理解しないでこの節を理解した気になっている。

仏教用語の誤訳、そして意味の捉え違いが1500年前からあり、その誤謬をそのまま現在まで踏襲してしまっているという問題である。より正確に言うと、中観派が確立する以前から上座部仏教は大乗仏教的解釈の三相に影響を受けていると推察される。釈迦の死から100年後ごろのアショーカ王（前3世紀）のころ、仏教教団は上座部theravādaと大衆部mahāsaṃgītikaとに分裂し、以後、分派が繰り返され、北伝の伝承では上座部系11部派と大衆部系9部派が成立した。

この時にはすでに、釈尊の意味したこと、三蔵として記述されたオリジナル、部派の解釈の間では差異があった。

私たちは釈尊の意味したことがわからないが、三蔵を通して推察することはでき、実践することで自動反応回路を弱体化してその精度は高めることは可能で、預流果をはじめとする聖なる道を歩むことで、釈尊の真意に近づいていけると考える。

原文のパーリ語は

Sabbe saṅkhārā aniccā'ti yadā paññāya passati

Atha nibbindati dukkhe esa maggo visuddhiyā.

Sabbe saṅkhārā dukkhā'ti yadā paññāya passati

Atha nibbindati dukkhe esa maggo visuddhiyā.

Sabbe dhammā anattā'ti yadā paññāya passati

Atha nibbindati dukkhe esa maggo visuddhiyā.

（Dhammapada　20　Maggavaggo　　277、278、279）

パーリ語　　　　　意味

Sabbe 　　　　　一切、全て　　正確には欲界・色界・無色界でのすべてであり、出世間界は含まれない。

yadā　　　　　　　の時に、whenever

paññāya 　　　　　智慧

passati　　　　　　見る； 見出す，知る　　find, understand,

atha 　　　　時に、また、そこで、さて、然るに、それにも拘わらず、或はまた and, but, then, now

nibbindati　　　　厭う　厭離す

esa 　　　　　　　これ、その人

maggo 　　　　　　道

visuddhiyā　　　　清浄

解釈

Sabbe saṅkhārā aniccā　　は　　一切行は無常なり．　　　諸行無常

sabbe saṅkhārā dukkhā　　は　　一切行は苦なり　　　　一切皆苦

Sabbe dhammā anattā 　　は　　一切法は無我なり．　　　 諸法無我

と理解されることがパーリ語仏教経典の専門家（例えば中村元氏）の中でも多い

参考現代語訳　　　　　　　　　スリランカ上座部による解釈　　　Sri Lanka Tripitaka Project

「一切の形成されたもの（行,サンスカーラ）は無常である」（諸行無常）と

明らかな智慧（パンニャー）をもって観るときに、ひとは苦（ドゥッカ）から厭い離れる。これが清浄への道である。

「一切の形成されたもの（行）は苦（ドゥッカ）である」（一切皆苦）と

明らかな智慧をもって観るときに、ひとは苦から厭い離れる。これが清浄への道である。

「一切の事物（ダンマ）は無我（アナッタ）である」（諸法非我）と

明らかな智慧をもって観るときに、ひとは苦から厭い離れる。これが清浄への道である。

また

『因果関係によって作り出されたすべてのものは無常であると智慧によって見るとき、人は苦しみをきらい離れる。これが、人が清らかになるための道である。』という訳をウェブサイトではよく目にする。

参照　青空文庫　　　　　　　法句経　第二十　道の部　　　　　　　　　

二七七　總て造作ざうさせられたる物は無常なり、と、慧にて知るときは是に由つて苦を厭ふ、是れ淨に到る道なり。

二七八　總て造作せられたる物は苦なり、と、慧にて知るときは是に由つて苦を厭ふ、是れ淨に到る道なり。

二七九　諸法は無我なり、と、慧にて知るときは是に由つて苦を厭ふ、是れ淨に到る道なり。

しかし、これらには致命的な誤訳（表層的解釈）が重なっている。

伝統では

saṅkhārā　　　　　　行い

　　　　　　　　　　と解釈されているが、

　　　　　　　　　　ヒトの大脳と五感覚器官を使った認識機能を通過した全てのもののことを意味する。

　　　　　　　　　　ヒトの想い、考え、感じたことすべてがサンカーラである。

　　　　　　　　　　したがって、Sabbe saṅkhārāの範囲はヒトの想うことすべてになる。

　　　　　　　　　　（具体的には感覚のタグ、評価・判断する歪んだ想saññā、条件反射する自動反応回路）

aniccā　　　　　　　無常　非永続性

「一瞬一瞬に全てのものが生まれては消えてゆく」　

と「宇宙の法則」のような解釈がされてきたが、

Aniccaを含めた三相とは、大脳の限定された認識力によるだけでは、現状の悲惨さを本人はなかなか気づけない性質のことなので

「この世には本人が見たいように現象を観つづけることができる物事は何ひとつない」

という意味である。

dukkhā 　　　　　　苦、苦しみ、苦悩と解釈されているが、

　　　　　　　　　　これ以外にも、完全ではない、取るに足りるものではない、満足できるものではない

　　　　　　　　　　といった解釈がある。これらは涅槃からこの世を評価した視点になる。

上座部仏教のオフィシャルサイトにもこのように記されている。

dhammā 　　　　　多くの階層にわたる言葉なので一般的には、釈尊の教え、仏法、宇宙の法則とされるが、

語尾がāと複数形であるので、ここでは、「あらゆるモノの構成要素」の意味であって、

範疇はまだ物質とも呼ばれない、この世の物質エネルギー界の構成要素である。

メンタル界のjavana cittaによって生じるエネルギー現象であるので、

もはやメンタル界には属さない、というのが私見である。

宇宙の法則や釈尊の教えとしてのdhammaではない。（後述のパーリ語の文法を参照）

anattā　　　　　　　無我、非我、no-selfと訳されており、自我を離れた境地と解釈されることもあるが

　　　　　　　　　　三相とは、大脳を使用した分析・編集・統合による認識力だけでは、現状の悲惨さを気づけない性質のことなので

「自我」ではコントールできない、つまり、どうすることもできない、力がない、意味がない、

無駄である、無力である、という実情がこの世の特徴であるanattāである。

パーリ語	伝統的訳語	伝統的解釈　　表層	原語の他の意味　　　深層
saṅkhārā	行	行い 因果関係のあるもの	思い、想い、カタチづくるもの、 自動反応プログラム、アプリケーション 詳細別記
aniccā	無常	永遠のモノはない　永続しない、 はかない、一時的なもの 「一瞬一瞬に全てのものが生まれては消えてゆく」	本人が感じたい（見たい）ように現象を感じ（見）つづけることはできない 詳細別記
dukkhā	苦	苦、苦しみ、苦悩 完全な状態ではない	満足できる状態ではない 望むとおりにはならない
dhammā	法	釈尊の教え 宇宙の法則、自然の法則 法	複数形なので、釈尊の教えとしてのダンマではない。 物質の構成要素エネルギー 詳細別記
anattā	無我	我が消え去った状態 自我がなくなった状態。 利他的な状態 悟っている状態	自我ではコントールできない。 自我は何もできず、意味がない。 無力である。 「自分」には力が無い。 自我はその場でのカタチであり、仮象である。

三相の誤訳の改善はあちこちで研究が進んでいる。その解釈は英文では以下のような例がある。

Nothing in this world can be maintained to one’s satisfaction (anicca).

When one strives to achieve that, it leads to suffering (dukkha). However, many people try to gain “happiness” by resorting（助けを求める） to immoral deeds, and then end up in the apāyā. That is how one becomes genuinely（真に） helpless.

Striving to achieve the impossible (i.e., seeking happiness in worldly things), only leads to suffering. Thus, one’s efforts are not only unfruitful, but one becomes helpless in the rebirth process (anatta).

By　 Lal Ariyaratna Pinnaduwage, Pure Dhamma website.　

次の章からは具体的な例や、経典の中で使用されている実例をみて、伝統的な解釈や訳では、経の意味が通じない実例を列挙してみる。

行　　saṅkhārā

「諸行」は、すべての行い、すべての因果のあるもの、と解釈されてきたが、

これではsaṅkhārāが何を意味しているのか、わからなくなってしまう。

saṅkhārāとはヒトが「ありのまま」の姿を視ることができないようになってしまったフィルター装置のことを意味する。

この諸行Sabbe saṅkhārāの範疇は、涅槃nibbāna以外すべてである。

したがって、対象をパターンによって認識する世界、換言すると４大元素bhūtaで構成されている欲界、微細元素tanmātrāで構成されている物質エネルギーの色界、物質の最小単位にも至らないdhammāで構成されている無色界までの枠組なので、解脱した後の出世間界は含まれない。

サンカーラの具体例としては、以下のようなものもある。

次の実験でAとBの色が違って見えるのは、

「チェス盤とは白と黒の市松模様である」

「影は比較的暗い」

という毎日の生活の中で学んだパターンを無意識のうちに使っているので同じ濃度の色には見えなくなる。

このような無意識の思考パターンがサンカーラの一つの特徴である。

サンカーラはその文脈に応じて、さまざまな意味合いがあるので、慎重に区別する必要がある語句である。

そこで、組成物やフォーメーションや形成するもの、形成されたもの、と訳されたり、十二支縁起のキーワードになっている。

たとえば、上座部仏教Theravādaの三蔵tipitakaである、律蔵vinaya-pitaka（僧の規則）、経蔵sutta-pitaka（仏の説教）、および論蔵abhidhamma-pitaka（哲学および心理学）の中のSankhāraを英語文書ではフォーメーションと訳するものが多い。

日本の辞書や辞典やウィキペディアでは、意識を生じる意志作用、意志形成力、心がある方向に働くこと、などと書いてあるがこれでは意味がわからないのではなかろうか。

いろいろな意味や解釈があるが、通底する共通点は「パターンで認識することで、眼の前の事実を「あるがまま」ではなく、「自分が見たいように」因果関係を作ってしまい、この関係を中心に据えることで、その因果関係は存在し、存在させているプログラム」ではないか、と私は考察している。

上の図を「ありのまま」に見ることできないのは「チェス盤とは白と黒の市松模様である」と「影は比較的暗い」という自分の頭の中にある一般化のパターンを「過剰に（ありもしないのに、間違って、虚像、嘘）」眼の前にある絵に当てはめてしまっている結果である。

上座部仏教でフォーメーションというのは「組成物」という意味であり、分離させたモノを統合した集合体であることから、数々のパターン認識の集合体、という意味で理解できるのでなかろうか。

もっと正確に言うと、全体性ではなく、部分で捉えた情報はすべてサンカーラであるので、五感とマインドを使った通常の認識システムを使ったものは、全て断片的なものの集合体でしかないので、これは「ありのまま」の状態とは呼ばず、無意識の内に「自分が感じたいように」編集してしまった後の情報である。

分析した後に統合したあらゆるものは、その人の好みによって編集されたものなので、各自が自分だけに通用する独自の解釈をして、みんなこの世に生きている。

詳細に関心がある方は五蘊の「行」、　縁起の「行」のエッセイを参照してください。

釈尊の風　五蘊篇　　　　心のメカニズム　　人類史の発見

釈尊の風　縁起篇　　　　この世とあの世を繋ぐ宇宙の法則　

どんな対象であろうとも、それを視る者のマインドの中にフィルター装置やプログラムがあると、その影響で色眼鏡をつけたままで見てしまうので、「ありのまま」の姿を現すことがない。

視覚によって認識する時にはこれまでの生涯で学んできたこのプログラムを使うことになるので、特別の訓練をしない限り、ヒトは大脳を使って認識することは全てsaṅkhārāの影響で、ありのままの姿が観ることができなくなっていることを意味する。

Sabbe saṅkhārā（諸行）とはこのようなsaṅkhārāによって生じた（影響を受ける、関わりを持つ）すべてのことを意味している。

すべて（Sabbe）とは、ヒトの感じることと想うことのすべてが範囲となる。すなわちその人にとっての全宇宙である。

「あるがままにみる」に至る練習を積まない限り、ヒトをはじめとする心がある生命体は、対象を固定化して捉え、法則で分析し、一般化して、段階的にバイアスをかけることで「知る」ことができる。

ありのままに認識できない科学的理由と対処法

五感器官と大脳を使用する認識プロセスはこのようにプログラミングされているので、その創出された経験を「仮の真実」として、社会ルールを積み上げている。

これらの表層的事実（学問、辞書、肩書、組織、システム）を基準にすることで効率的利便性が高まるので、

Sabbe saṅkhārāという語句には、すべてのものは「ありのまま（深層の真実）」には認識できていない、という意味を示唆している。

　

無常　aniccā

Sabbe saṅkhārā aniccā

伝統ではaniccāが無常である、と説かれている。　　　　　

その他の伝統的解釈は

「永遠のモノはない」　「一時的な、はかなさ」

「一瞬一瞬に全てのものが生まれては消えてゆく」

とされているが、これまでにこの解釈のために解脱できるメソッドがちゃんと機能してこなかった、と指摘がある。

インド学者による誤謬の背景

https://puredhamma.net/historical-background/misinterpretation-of-anicca-and-anatta-by-early-european-scholars/

私は18世紀以降の翻訳の問題だけではなく、大脳を鍛えた者による仏典の理解や翻訳が「正しい」と組織に受け入れられたことが問題だと思っているので、釈尊の時代には少なかったとはいえ、入滅後には誤訳が伝統的に受け入れられた組織が増えるのも自然の摂理であると考察する。

ではaniccāがなぜ、「永遠のモノはない」もしくは「一瞬一瞬に全てのものが生まれては消えてゆく」

という解釈ではいけないのであろうか？

別に悪くないし、そこを入口として始めるには良い解釈である。

三蔵の文脈の中でaniccāの解釈は、

「本人が感じたい（見たい）ように現象を感じ（見）つづけることができるようなものは何一つこの世にはない」が適切ではないか、とされているのには以下の理由がある。

「一瞬一瞬に全てのものが生まれては消えてゆく」と

「本人が感じたい（見たい）ように感じ（見）つづけるものは何もない」

は一見すると同じことを意味しているが、違いは接し方（見方、アプローチ、スポットライト、把握法）である。

前者の「一瞬一瞬に全てのものが生まれては消えてゆく」とは客観的事実を述べている視点であり、主体のマインドの状態に関わらず、実際に起きている事実を語っている。

後者の「本人が感じたいように感じつづけるモノ（現象）は何もない」とは主観的事実を対象にしている視点である。

何が違うのか？

後者のaniccaの解釈は本人が感覚器官と脳を使って対象を感じる限りは無意識のうちに常に本人が感じたい（見たい）ように現象を感じ（見）つづけてしまっているという事実を、そしてこれがとんでもない勘違いや誤解であることを示唆している。

そしてこの状態から離脱するには、客観的事実を語るカミさま（人工衛星・AI・大脳皮質）のような悠長な態度では誤謬を修正するには効果がない。

しかし、後者のような解釈であれば、私が、あなたが、今すぐに対応しなければならない悲惨な状態に置かれていることに気づき、自分の中にある勘違いをさせる回路を見つけ、各自がそれらを取り除く実践の動機になる。

また後述の「仏教の基準」で述べているように、感じるということは主体が現象を感じるだけではなく、主体と現象が一体になることであるので、前者の解釈だとこの一体感は表現されていないが、後者は主体が変化し続けることと現象が変化していることとの関係性を示唆している。

このような主客一致の視点を持たないで、日常状態の感覚器官と大脳の働きでaniccāを解釈すると、無常は事実として、自然（宇宙）の法則として、捉えられる。

この世の性質であり特徴であるAniccāという現象を、「わたし」（主体）と分離させて客観的対象として捉えているからである。

こうなると、「わたし」は対象を常時「気づき」続けることで一体になることはなくなり、一人酒でも飲みながらふんぞり返って無常を感じることが可能になる。

そしてこれが社会から評価されて、もてはやされるのだから、自己（自尊心、自己愛）の笑いは止まらないのも理解できる。

科学の視点であるので大いに利用すべきであるが、仏教関係者は釈尊の視点ではないことだけは明確にすべきである。

それに対して後者の解釈であれば、「わたし」は自らのマインドによってこの世を「ありのまま」に感じていれていないことに絶えず気づき続けることで、「わたし」と「対象物」が本来？の関係性を保っていられる機会を得ることになる。

本来とは、地球上にいる他のあらゆる生命体のように神経管に過剰に依存することなく、すなわち過去のパターンや未来の妄想で物事を評価・判断するのではなく、「いま・ここ」を生きることで、現在に寄り添い、時に判断することを意味する。

仏典を理解したり訳したりするのには大前提がある。

それは、釈尊の教えは常に実践を促し、行動する言葉であるので、客観的と勘違いされている人工衛星の視点で物事を語る解釈や翻訳や読み方ではなく、主客の一致の視点で、常に自分の体・感覚・マインド・思考に気づき続けることで、繰り返される閉じた輪からの解放を促すものでなければ、それは釈尊の言葉とも仏教ともいえない。

釈尊の言葉はつねに各自のメンタルに語りかけているのであって、社会の言う客観性（人工衛星の視点、学問、辞書の定義、AI）とはただの便宜上のルールであって、各自のもつ回路によってバイアスがかかるので、各自の認識や観念や理解に客観性は存在しないことを前提にしている。

「無常」と漢字に訳された、常に変化し続けるものに対応するパーリ語はviparināma（vi+pari+ṇam+e）、すなわち「予期できない変化」が相応しい、のではないか。

またはaniyata[na+niyata]不定、不確実、もしくはaddhuvan [na+dhuva]　不安定、不堅固的にあたる。

パーリ語での理解　対語、反義語

転法輪経 経蔵小部経典 経集 南伝24、『ブッダのことば』(岩波文庫・中村元訳) SN 56.11. 法の輪の転起の経

SN56.11 Dhammacakkappavattana Suttaの中で、釈尊はaniccāの意味、そして本来のaniccāの性質が苦しみを導くことを説いている。

“yam pi iccam na labhati tam pi dukkham“

yam 　　　　　　 届く、　reach check

pi 　　　　　　　　 also：and also； even so； but； however？

na 　　　　　　　　　否定形

labhati 　　　　　　得る　gets； obtains； attains　　

tam 　　　　　　　　苦　　To be distressed in body or mind 　　

　　　

望むものが得られないとことも苦しみである。

“icca” とは「自分の想定や希望を満足させる」ことであり、“anicca” の対語にあたり、

その能力（得ることがない）がないので、dukkhaが生じる。

という意味になる。

aniccaは「na」+「icca」すなわち「希望するものが得られる」icchの否定形naである。

つまり、aniccāとは、私たちが好きな（望む）ことを保つ力がこの世には存在しない、ことを意味している。

ここでのポイントは「anicca」の特質は対象物やrūpa（物質）にただ存在するのではなく、aniccaは私たちのマインドの中と結びついたところに存在する、ということである。

釈尊が法句経の道の章　（Dhammapada　20　Maggavaggo　277）で

「Sabbe saṅkhārā aniccā」と説いた時のaniccaはヒトの体だけを指しているのではなく、すべてのsankhāraおよびsankataに適用される。

Sankhāraとはヒトが大脳と5感覚器官を使って認識したことにより思考パターン化された全てのもの、

Sankataとは大脳の認識機能を使って認知された全てのもの、

つまりパターン化にスポットライトを当てるか当てないかの視点が違うだけで同じモノを指している。

また、ヒトに認識されるこの世のすべてのものはsankataであり、そうでない唯一なのは、nibbana（涅槃）だけでしかない。

参考）「sankata」はサンスクリット語で「危険」や「困難」や「有限」を意味する。

「この世で自分の満足感を保つものは一つもない」ということを実感できているだろうか？

これについて深く考えると、「Sabbē sankhāra aniccā」がもう少しは明らかになるかもしれない。

この世には、私たちヒトの生涯というスパン（例えば100年）では分子崩壊を起こさない多くの外部対象物がある。例えばダイヤモンドのように。

盗難や紛失や破産などで「私の好み（望み）」どおりにダイヤモンドを保持できない場合もあるがそのような出来事に出合わなくても、私たちが死ぬ時には、対象物であるダイヤモンドもしくは自分の体自身のいずれかが失われている。つまり、私たちは満足のいくとおりの状態を維持することができないという事実には変わりがない。

したがって、nicca / aniccaを「永続的/非永続的」と解釈して、「すべてのものが非永続的である」のだから「ダイヤモンドは非永続的である」のだが、この文にはどのような価値や意味があるのだろうか？

何百万年も生きているのであればダイヤモンドの分子崩壊も見られので、永続性がないことを指摘するのは、少しは意味のあることになるかもしれない。

永続性が原因で苦しみが発生した場合、永続性は自然の事実としての法則であり、変更ができないため、苦しみの発生を止めることはできない。

例えば愛する子供の死は、一度起きた事実は永遠に続くことなので、苦しみは止められるものではない。

苦しみを止めるために必要なことは、外側にある現象の真実（変えることのできない事実）を語ることではなく、自分のマインドを変えることである。

大事なポイントは「心の回路」による苦しみであり、そんなことを少しも気に留めない宇宙の性質のことである。

したがって、外側にある対象が無常であることにスポットライトを当てるのではなく、内側にある自分の心の回路の不備にスポットライトを当てなければ、aniccaを表層でしか理解していないことになる。

このようなことから、nicca / aniccaの解釈は無常にとどまらず、「満足を維持できる/維持できない」という解釈もすることで、次の段階のaniccaの性質を知ることにつながっていく。

段階的aniccaの性質

「普通の方法ではどんな努力をしても満足が長く続かず、全ては無駄になる」と言われても、ヒトは無駄な努力を続けようとする。

しかし、人工衛星からの高みの見物ではなく、マインドの中でプログラムされてしまっている「Nicca（満足を保持できる）の誤った認識回路」を「いま・ここ」で除去することで、将来の人生におきること、そして再生プロセスで生じる苦しみを止める方法がある、と釈尊は断言する。

その方法とは、「いま・ここ」で自分の中に「anicca」を実際に体感しているかどうかが一つの指標となる。

次に、同じ質問がvedana、saññā、sankhāra、そしてvinnanaに対して繰り返される。

それらのどれもが私たちが満足できるように維持することはできない。つまり、それらもすべて自分のマインドの中にあるaniccaであることを体感する。　　　　　　　SN 56.11. 法の輪の転起の経　SN56.11 Dhammacakkappavattana Sutta

こうして、物質エネルギー界とメンタル界は常に変化してしまうので安心できる時空はなく、自分の満足を維持するためのすべての努力は水の泡になるので、私たちはこの世（輪廻という再生プロセス）の中では何もすることができず無力であるしかない。

こうしてすべては苦しみに至ってしまう。

これがanicca、dukkhā、anatāの体感である。

「無常」（非永続性）はパーリ語の「aniyata」または「addhuvan」が相応し、

三蔵（Tipitaka）の中では「jīvitaṃ aniyataṃ maraṇaṃ niyatam」などいくつかのsuttaで使われている。

意味は「人生は永遠ではない（非永続性）が、死は永遠である」出典？

釈尊は、私たちがこの世界に戻ってくる（転生輪廻）理由は、「この不満足な性質」を認識していないという事実だと説いている。

出典　　律蔵大品1:1:6:28　　　　DN2 Sāmaññaphalasutta DN2沙門たることの果の経 経蔵長部『沙門果経』

「この世の特徴（システム）を打ち破る」、つまりこの世で幸福を達成し、その幸福を維持できるという誤った認識を私たちは持っている。このような間違った思考は「nicca saññā（常在の思考回路）」と呼ばれる。

どんなに苦しんでも、私たちは常にそれらを乗り越えることができると考え、それを行い、そして、死んでいく。

「自分の望みは達成できる」という「決めつけ」がある限り、将来の苦しみから逃れることはできない、と釈尊は説いた。

解決策は、苦しみに関する最初の真実（Dukkha Sacca苦諦、解消できる苦しみ）の中にある。

必要なことは、長期的に見れば何事も満足できるように維持することができない、というこの世のanicca の性質を完全に理解して体感し続けることである。

ただこれだけの「気づき」（知覚の変化）で、これまでに重荷をいかに背負っていたのか知ることになるかもしれない。

経典の中のanicca

他の経（sutta）の中にもaniccaの意味や解釈を調べてみると

Girimananda Sutta (AN 10.60) では、aniccaをより深い意味で説明している。

釈尊はこの経をアーナンダ長老に届け、長老は病気のために痛みがあるGirimanandaのためにこの経を詠唱した。

「アーナンダ、すべてのサンカーラの（正しい）認識とは何ですか？」

「アーナンダ、すべてのサンカーラに実質はなく、肉のない骨のようなもの。尿や糞を好むようなものです。」

「アーナンダ。このようにすべてのサンカーラを無常として理解（概念化）しなさい」

Katamā cānanda (ca Ananda), sabbasaṅkhāresu aniccā saññā?

Idhānanda (Idha Ananda) bhikkhu sabbasaṅkhāresu aṭṭīyati harāyati jigucchati.

Ayaṃ vuccatānanda (vuccati Ananda), sabbasaṅkhāresu aniccā saññā.

「sabba」は「すべて」 経典では「一切の生命」に限定されるようだが、まだ完全な確認を終えていない。

「Atti」は「骨」

「Hara」は「実質」のことで、「harāyati」は否定形なので、実質がない、という意味。

「vuccati」 はvacの受動態で、「言われる」ということ。

「ayaṁ」は「これ、この」

「Jee」は「尿」、「goo」は「糞便」

「icca」は「好き」、したがって、「jiguccati」は、「尿や糞が好き」　「尿や糞が好きなのと同じです」という意味。

abhi sankhāraは「強いサンカーラ（自動反応回路）」

このように、すべての（abhi）sankhāraは糞便のようなものとして扱われるべきだ、と説いている。

この経では、釈尊はsankhāraのスポットライトを当てることでaniccaの特徴も説いている。

サンカーラは肉のない骨や尿や糞のように実質がなく、決して望みを持ち続けるようなものではないので、価値のないものを大切にしている自分に気づくことができ、この認識を基準にして暮らすことができれば病が治ることを示唆している。

つまり、この世の本質を理解すると、サンカーラ（思考回路、言語活動、行動）は評価されるべきものではないことに気付くであろう。

なぜならば、誰もが満足を維持することはできず、最後にはそれらが苦しみになるからである。

ここでもaniccaをただ「無常」と解釈すると「サンカーラは無常である」という意味のない（当たり障りのない）内容になってしまう。

この文脈のaniccaは「実質がないだけではなく、満足を維持することもできず、苦しみに導くもの」という意味である。

もう1つの重要なポイントは、釈尊が「anicca saññā」について語っていることで、saññā（一般化の基になる認識システムのパーツ）とは、ヒトの認識を成り立たせているマインドの働きの一つであり、五蘊の一要素で、心所cētasikaの1つである。

自分の外側にある現象を過去に学習したパターンを介して主観的に把握するのではなく、私たちのマインドの中にある自分の認識パターンの方程式を客観的に見て、その限界をちゃんと理解する視点に立つことではじめてAniccaは認識できるのである。

これが常に釈尊が説いてきた教えであり、行動であり、方法論であり、救済である。

これは、人工衛星からみた統合的な視点で認識して終わりにするのではなく、自分の中に築き上げてしまった自動反応プログラムを解除する行動をただちに促すものである。

リンク

釈尊の風　五蘊篇　　　　心のメカニズム　　人類史の発見

認識システムと五蘊　そこからの離脱法

想saññāと想蘊saññākkhandha

五蘊の罠

上記のAniccaは現象を客観視する視点の認識ではなく、私たちの心の中の主観的視点に立った認識である。

阿羅漢に至るまでは対象を客観的に把握することができず、必ず自動反応回路を介した主観的把握になってしまうからである。

非永続性は、宇宙のあらゆるものの物理的リアリティーなので、科学者は、宇宙自体をはじめあらゆるものに永続性がないことはよく知っている。しかし、非永続性や無常を客観的によく理解したからといって、自分の中にある固定観念や偏りや不純物や色眼鏡やフィルターを取りぞくためにすぐに行動に移ろうとする物理科学者たちの話は聞いたことがない。

Aniccaを無常と解釈するのであれば、それをよく体感したとしても、自分のマインドの中に巣食っている自動反応プログラムを除去したり書き換えたりして、偏見や誤謬やバイアスを危機感と真摯さを持って修正しようとはしないのではなかろうか？

Iccha Sutta (SN 1.69) 　 SN1.69. 欲求の経

この経はanicca（na + icca）の反義語であるiccaについての明確な記述がある。

「この世に結びつけるものは何ですか？ どのように離れられますか？ どうすれば離脱を達成できますか？」

「この世はiccha（好み）に縛られ、icchaを失うことで自由になり、すべての束縛がなくなる」

“Kenassu bajjhatī loko, kissa vinayāya muccati;
Kissassu vippahānena, sabbaṃ chindati bandhanan”ti.

“Icchāya bajjhatī loko, icchāvinayāya muccati;
Icchāya vippahānena, sabbaṃ chindati bandhanan”ti.

「icca」という単語は「好き」を意味し、「nicca」と密接に関連している。「nicca」とは、満足するようにモノを維持できるという人の認識を意味する。niccaの前提があればiccaにつながる。またiccaがあることでniccaが生じる。

日常生活ではヒトは永遠の幸福をもたらすモノを信じることで、それらを保持することを好む。

このようにして、ヒト、そして他の生物も好きなものを強くつかまえて暮らしている。

この経では、「強い愛着」を強調するために、「icca」の代わりに「iccha」というより強い意味の単語を使用している。

Dhamma Cakka Pavattāna Sutta (SN 56.11) 　SN56.11. 法の輪の転起の経　ではAniccaの苦しみが、明示されている。

比丘よ、四聖諦の苦諦の真実とは何であるか？

それは、誕生は苦しみを生み、老いは苦しみであり、病は苦しみであり、死は苦しみであり、嫌なことは近づき苦しみになり、好きなものとは別れて苦しみになり、欲するものを得ることができないことは、ストレスであり苦しみである。要するに、五蘊の渇望が苦しみを作り出します。

Idam kho pana, bhikkhave, dukkham ariyasaccam:

jātipi dukkhā, jarāpi dukkhā, byādhipi dukkho, maraṇampi dukkhāṃ, appiyehi sampayogo dukkho, piyehi vippayogo dukkho, yampicchaṃ（yam pi iccham） na labhati tampi dukkhāṃ—saṃkhittena pañcupādānakkhandhā dukkhā.

この経に「欲するものを得ることができないことは、苦しみである」とある。

iccaは「好き」、最後の音節にアクセントを置いたicchaは「強いicca」すなわち「強い愛着」を示す。Aniccaの反義語

この句にはaniccaの特質がよく表さている。

非永続性（無常）のために苦しみは生じる、のではなく、愛着が否定されることが苦しみになる、という。

パーリ語　　　　　　　 　　訳

Idam 　　　　　　　　　 これ　　　Here，now，even？

kho 　　　　　　　　　　本当に　 indeed； really； surely；

pana　　　　　　　　 　 and； yet； but

ariyasaccam　　　　　 　四聖諦

pi 　　　　　　　　　　 also：and also； even so； but； however

api　　　　　　　　　　 and yet； still.　　　疑問形の文章の中？　　　また　いえども

jāti 　　　　　　　　　　誕生

jarā 　　　　　　　　　　老い

byādhi 　　　　　　　　　病気　　sickness，disease

dukkho, 　　　　　　　 　苦しみ

maraṇam 　　　　　　　　 死　　maraṇa：[nt．] death

appiyehi 　　　　　　　　不快な　賛成できないappiya：[adj．] unpleasant; disagreeable

sampayogo　　　　　　　 一体　Union

piyehi 　　　　　　　　　愛する　piya：[adj．] dear； amiable； beloved

vippayogo 　　　　　　　　別離　Separation

Yam　　　　　　　　　　　至る　　reach check

Tam . 　　　 　 ストレスになる　苦悩する　逼迫　　悲嘆　To be distressed in body or mind 　　

Pidukkhām 　　　　　　pi + dukkhām

labhati　　　　　　　　　得る　 gets； obtains； attains　　

saṃkhittena 　　　　　　つまり、要するに、in brief, in summary

pañcupādānakkhandhā 　　 五蘊の（無意識の）渇望

「jāti api dukkhā」は、「その人が好まないものが生まれると苦しみを引き起こす」という意味。

「jarā pi dukkhā」は（「好きなモノの」衰退が苦しみを引き起こす」という意味。

「maranan pi dukkhā」は「（好きなモノの）死が苦しみを引き起こす」という意味。

「.. appiyehi sampayogo dukkho、piyehi vippayogo dukkho」は、

「愛する人が去らねばならないことは悲しみをもたらし、また憎む人と一緒にいることも悲しみをもたらす」という意味。

「labhati」は「得るget」を意味するので、「好きなものが手に入らないと、それは苦しみにつながる」という意味。

Anattā Lakkhana Sutta (SN 22.59)　　　SN22.59. 無我の特相の経

は最初の経典の2週間以内に5人の修行者に届けられた2番目の経典で、釈尊が修行者に尋ねた質問とその応答である。

Taṃ kiṃ maññatha, bhikkhave, rūpaṃ niccaṃ vā aniccaṃ vā”ti?

“Aniccaṃ, bhante”.

“Yaṃ panāniccaṃ dukkhaṃ vā taṃ sukhaṃ vā”ti?

“Dukkhaṃ, bhante”.

“Yaṃ panāniccaṃ dukkhaṃ vipariṇāmadhammaṃ, kallaṃ nu taṃ samanupassituṃ: ‘etaṃ mama, esohamasmi, eso me attā’”ti?

“No hetaṃ, bhante”. 

「比丘たちよ、形態は、あるいは、常住ですか、あるいは、無常ですか」と。「尊き方よ、無常です」。

「それが無常であるなら、それは苦痛ですか、あるいは、安楽ですか」と。「尊き方よ、苦痛です」。

「それが、無常であり、苦痛であり、変化の性質であるなら、いったい、それは、『これは、わたしのものである。これは、わたしとして存在する。これは、わたしの自己である』とするのは健全ですか」と。「尊き方よ、さにあらず」。

aniccaの解釈は「無常」もしくは「本人の望む状況が維持できるものは無い」のどちらが文脈で意味が通るのかわかり易い例である。

またanattaの持つ性質である、ヒトは自分自身だと思っているもの（自分の体、五感器官による認識能力）でさえ管理する事ができない事実（無力）にスポットライト当てているので、苦しみとの関係も分かりやすい。

確かに、対象を完全にコントールできないのであれば、本人は自分の好きなように状況を維持することはできず（anicca）、これは閉じた輪の中で必然的に苦しみの対象になる。

「rūpaはnicca それとも aniccaか？」と、釈尊は最初の質問から鋭く切り込んでくる。

「rūpa（物質エネルギー）は各自が満足できるように保ち続けることはできますか、それとも満足できるように保ち続けることはできませんか？」

比丘は答えます。「ヒトの望むような状態を保つことはできません、尊者さま」

aniccaを理性（人工衛星から）の視点を使って従来の「無常」で解釈すると、

「比丘よ、物質エネルギーは永遠のモノなのか、それとも永遠ではないモノなのか」という問いになる。

たとえば、物質エネルギーを具体的なダイヤモンドにしてみると、ダイヤモンドは数百万年も形状を維持するのに対して、ヒトの生涯は比較して短いスパンなので、事実は「ダイヤモンドは永遠ではない」としても、個人の体験的にはこのように言うことができないし、言ったとしても確かめようもなく実感が伴わない言葉になる。

ヒトの通常の認識システムの限界と思考パターンと心情の視点もちゃんと含めて考慮すると、aniccaは「望むようにいくものは何もない」と意味で解釈でき、

「比丘よ、物質エネルギーはヒトが望む状態を保ち続けることができるのか、それとも望む状態を保つことができないのか」という、不可能なことをいつまでも成し遂げようとしている各自の思考パターンの修正を迫る釈尊の厳しい問いになる。

一度体験したことを無意識のうちに再現するだけで、ありのままの状態を見ようとしない脳とマインドの習性をちゃんと理解して、色眼鏡を外してもう一度、真っ直ぐに見ることを促している。

この時にモノ（物質エネルギー）は無常（諸行無常）なのであるが、釈尊が問うているのは、このような事実ではなく、このモノの無常を現実に見ることができない各自（ヒト）の認識システムの限界に強い自覚をもつことを促しているのである。

それも常に休むことなくこの事実を自覚し続けることでしか生命体は誤謬を重ね続ける、と釈尊は説いている。

モノが無常という法則は誰でもわかるが、必要なのは、瞬間瞬間の自覚である。

諸行とはすべての生命体のマインドの形態のことであり、aniccaとは認識システムの限界で通常では捉えることができない性質のことである。

つまり、できることとできないことを分かって、できることはできるように、できないことには、踏み込まない、ということである。

それなのにできない領域に踏み込んで、いかにもできるかのように振る舞うことを戒めている。

そのためには「主体が対象を見る」のではなく、「主体が対象に気づき続けていることで、見るのではなく寄り添っている」ことである。

より微細な領域では、対象の物質エネルギー（客体）だけではなく、主体のマインドも生じては消え去り、無力な存在として振動していることを自覚する。

これを「一体」になるという表現を使う人もいるだろう。

しかし、正確には「一体」になるのではない、というのも主体と対象とは融解して一つにはならないからである。

近くにいればいるほど、つながっているからこそ、2つは分離して影響を受けない、という関係になるからである。

（この最後の文章は真髄に近いので、また文章が矛盾しているかのように見えるものになってしまった。）

ところで、ここでいう「rūpa」は私たちの内部なのかそれとも私たちの外部のいずれなのか？

外側にある物質エネルギーとして捉えた時にはそれはヒトの満足を保ち続けるものに見える。例えば、先程の数百万年後に分子分解するダイヤモンドのように。

しかし、私の五感器官とマインド（意識）によって認識されたrūpaとして捉え直すと、突然と儚い存在になってしまう。

視点を理性だけではなく、自分の感覚も視点に加えることで、ダイヤモンドが長期にわたって私の満足を保ち続ける存在であったとしても、私たちは死ぬ時にはダイヤモンドへの満足をあきらめなければならないので、結局は「私たちの満足」を保ち続けるものは何もない。

2番目の質問は、

Yam pan aniccam dukham vā sukham vā ti?

「そのようなaniccaの性質をもつrūpaは苦しみもしくは幸福につながるのだろうか？」

-Dukham, Bhante.

（これに、比丘は答える。）「苦しみであります、尊者」

ここでもaniccaを従来どおりの永続的ではない、すなわち「無常」と解釈してしまうと、

「rūpaが永続的ではない（無常）場合、それが苦しみにつながる」

ということになる、がこれは一般化されるほど多くの場合で通用するものなのか？

例えば、rūpaが「頭痛」や「家族に害を与える人物」の　場合は、苦しみどころか喜びになる。

一見すると「無常」を使う心地よいフレーズも、内容を吟味すると釈尊が説く真理とは言えないのではなかろうか？

対象が実は無常であるという真理を聞いて、素直に苦しみを感じるものだろうか？

対象が実は無常であるという真理を知って、生活がどう変わるというのか？

対象が実は無常であるという真理を感じて、自分の考え方がどう変わるというのか？

どれも自分とは直接にはかかわらない他人事と感じる解釈である。

対して、「本人の望む状況が長期にわたり維持できない」という真理を聞くと、はじめのうちは信じられないが、毎日の生活の中でその意味が徐々に効いてくるのを実感する。

苦dukkhā

パーリ語のdukkhāを「苦」とするのも伝統的な解釈である。

私自身はこの「苦」という解釈によって長年、仏教と縁がなかった。

学校やお寺で習った、病気、老い、死を「苦」というのは頭では理解できた。といっても老いや死は体験していないので、なんとなくそうかも知れないが、そうでないかも知れないという程度の理解である。しかし誕生を「苦」とするのは頭でも理解できなかった。みんな誕生を祝い、パーティーまでするではないか。

そしてこの厳しくも楽しい人生を苦しみと定義することが理解できなかった。

また、後にお坊さんから、どのような「快」「楽」「喜」であってもそれらに愛着を持つことで、苦しみの原因になるのだから、「苦」である、という説明も聴いたが自分の中で実感を持てなかった。

釈尊が生や死を苦とするのは、お城の中で育ったという環境、植物や虫などの生命体とも一体感を感じることができる共感力、当時には戦争や飢饉や疫病などの厳しい現実があったからではないのか、と勝手に思い込んでしまっていた。

確かに経の中にはdukkhāが「苦」という訳が適しているところも多いが、それだけでは表層的な理解である場合もある。

例えば、この法句経の

「Sabbe saṅkhārā dukkhā」

「一切の行は苦なり」と訳されるが、漢字の「行」だと「行い」がイメージされる。しかし、この「行」は「諸行無常」の「行」と同じで、パーリ語のsaṅkhārāが原語である。

Sabbe saṅkhārā（諸行）とは、各自の認識プロセスにプログラムされたsaṅkhārāによって生じた（影響を受ける、関わりを持つ）すべてのことを意味している。

ヒトの認識プロセスは変化し続ける現象を固定化し、法則化し、一般化するクセがあり、（正確に言うと一般化するのが大脳の存在意義（お仕事））ヒトはこの認識方法に依拠しているので、すべてのものは「ありのまま」に感じることができていない、という意味を持つ。

このような文脈では、dukkhāは苦しみというよりも、完全な状態ではない、と解釈するのがいいのではないだろうか？

この世の全ての語句は文脈に依拠する。これが言語の利便性と限界である。

dukhaはsukhaの反義語となる時には「苦しみ」になるし、

Domanassānaと並べて使われる時には「肉体的」苦痛になるし、

メンタル的苦痛としてとらえられる時には「空（虚）しい」という意味もあるし、

四諦でいうdukkhaとは涅槃nibbānaの境地から見た真理なので、私たちの世俗的な語彙にはない意味になる。

三相ではdukkhaがこの世の真実の特徴としてとらえられているので、「空（虚）しい、不満、不安定、足りない、悲惨、思い通りにならない、無力」というような意味になる。

また、つまらないものであって、執着するようなものではない。最終的には捨てる程度のものだ、ということでもある。

この「Sabbe saṅkhārā dukkhā」を「一切皆苦」もしくは、「一切の行は苦なり」、と訳してしまうと、この句の意味がつかめない。

伝統的な「一切皆苦」というのは、メンタルの苦しみと肉体の苦痛が「苦」であるのはいうまでもないが、「楽」も再び得ることができなければという渇望になって「苦」に転じ、もすべては無常で生滅の変化を免れえないので「不苦不楽」も「苦」であるとされ、「皆苦」という訳にしたとも言われるが、これは異訳であろう。

参照　ウィキペディアの定義　

　

パーリ語のdukkhaは、日本語の「苦しい」という意味だけではなく、「不完全」といったニュアンスも持つ。

英語では以下のように、不満足、という解釈もある。

Dukkha　Suffering, unsatisfactoriness. One of the three basic characteristics of phenomena, along with anatta and anicca

dukkhaとは涅槃からの視点だと理解できれば、この世が苦であることにも納得できるかもしれない。

カタチ（エネルギー）があるものや生じさせるものの宿命と限界と束縛を「苦」として表している。

Dukkhaと五蘊の中にある不満

次に仏教の根本教説である四聖諦の一番目である苦諦を見てみる。

『現実の世界は苦であるという真理』

Idaṃ kho pana bhikkhave, dukkhaṃ ariyasaccaṃ: jāti’pi dukkhā. Jarā’pi dukkhā, vyādhi’pi dukkhā. Maraṇampi dukkhaṃ, appiyehi sampayogo dukkho. Piyehi vippayogo dukkho, yampicchaṃ na labhati, tampi dukkhaṃ. Saṅkhittena pañcupādānakkhandhā dukkhā.

AN3.61　Titthāyatanasutta

AN6.63 Nibbedhikasutta

DN22 Mahāsatipaṭṭhānasutta

MN9 Sammādiṭṭhisutta

MN28　Mahāhatthipadopamasutta

MN141　Saccavibhaṅgasutta

SN56.11　Dhammacakkappavattanasutta

KN　NETTI Adhiṭṭhānahāravibhaṅga

など多数

現代日本語訳
比丘たちよ、苦（ドゥッカ）の真理（サッチャ）とは以下である。
すなわち、出生は苦である、老は苦である、病は苦である、死は苦である、
怨憎するものに会うことは苦である、愛するものと別居するのは苦である、求めて得られないのは苦である。
要するに五取蘊は苦である。

これは一般の真理とは違って「ariya聖なるsacca真理」である。

仏教の真理が一般の真理と違うのは、それを完全に理解することによって、人格が全く変わってしまうからである。

この聖なる真理はただ「苦しい」というだけではない。

私たちが日常的に感じる「苦しい、空しい」というレベルの苦しみとは違うが、だからといって、私たちの感じる苦しみと関係がないわけではない。真理とは常にあるものなので、真理であるならば私たちもやはり私たちなりに感じているからである。

この苦諦でいうdukkhaとは涅槃nibbānaの境地から見た真理なので、私たちの世俗的な語彙にはない語句である。

dukkhaがこの世の真実の特徴であり、意味は「空しい、不満、不安定、苦しい」というような意味である。

つまらないものであって、執着するようなものではない。捨てる程度のものだ、ということでもある。

釈尊は「まず信じるところから始めるのではなく、事実はどういうことなのかを実際に自分で観察してみるように」と、ありのままの姿を観察することによって、どのように成り立っているのか、というこの世の仕組みがわかる、と説かれた。出典？

たとえば呼吸を観察してみると、もっと空気がほしくて息を吸う。しばらく吸うと、空気を出したくなって息を吐く。「これで完璧に満足だ」という状態はなく、生命体は「満足していないこと」を「エンジン」としてずっと変化し続けている。

これにはきりがなく、「これで終わった」ということはない。

これが観察できると、生命とはただの不満の流れであるので、だから常に変化している、ということもわかる。

つまり常に変化しているのは、満足していないからなのだ。

ゆえに結局空しい存在である。

このように考えると、生命体の存在するエネルギーは不満から生じている。

宇宙のすべては不完全である。

それらすべてをまとめて dukkhaと言う。

そしてaniccāのときと同じように、もう一段階、釈尊の教えに近づけて解釈するのであれば、

完全な状態ではない、という客観的な解釈ではなく、これでは「わたし」は満足できる状態ではない、というように解釈することで、この満足できない状態を臨場感と切羽詰まった自分自身の問題として常に気づき続けていられる。

pañcupādānakkhandhā　五取蘊

苦諦の鍵はpañcupādānakkhandhāである。

これはpanca+ upādāna＋khandhaのことで、五蘊pañcakkhandhāの真ん中にあるのがupādānaとなる。

このupādāna（「upa」+「ādāna」、ここでは「upa」は「近く」、「ādāna」は「引く」）は「引っぱって近くに置いておく」を意味する。自分が本当に望んでいるものだけを引っ張ってきて、近くに置いておこうとする。

私たちが望む行為、すなわち執着のことである。

自分のpancaupadankkhadhaには、自分の「渇望と嫌悪と妄想」が埋め込まれており、「5つの執着する集合体」とも翻訳できる。

これが「苦」の原因である、と苦諦は説いている。

自分の渇望と嫌悪が埋め込まれている認識システム（五感器官とマインドの意識）によって、対象物をそのまま感じることができず、執着のある自分が無意識のうちに勝手に対象物を編集して認識することで、「苦」を生み続けていることを指摘している。

五感と意識をそのまま使って、対象を認識すること自体が苦しみの原因である。

苦しみが無くならないはずである。

釈尊の説いた「苦しみ」の範囲

釈尊が「この世界」は苦しみで満たされていると言ったとき、この世界とは31の領域を意味する。

31領域での宇宙エネルギーの流転　　

そして、釈尊は「苦しみは常に、また存在するすべての領域にある」とは言っていない。

より高い領域（領域6〜31）では、実際には苦しみよりもはるかに多くの幸福がある。人間の領域（第5領域）でさえ、多くの人々にとって苦しむことよりも幸福がある。

これが多くの人が釈尊のメッセージを学ぼうと動機づけるのが難しい理由である。

しかし、あらゆる領域で体験できるあらゆる種類の幸福と比較すると、saṃsāra（再生サイクル）の苦しみが、はるかに強いのは、始源をたどることができない再生サイクル時間（輪廻）においては、ほとんどの生命体は、ほとんどの時間を最も低い4領域（apāyā　地獄・餓鬼・動物・阿修羅）で過ごす、と説かれているからである。出典？

仏法、法則　　dhamma

ダンマを「法」と一文字で訳しているが、ダンマにはいろいろな意味が多層にわたって解釈されている語句である。

仏教でよく使われるケースでは「釈尊の教え」としてダンマを理解することが多い。

また、水が高き所から低き所に流れるような当たり前の自然の法則や、地球の法則や、宇宙の法則をダンマということもある。

インドやビルマやスリランカの日常会話では、ダンマを「あるべき姿」や「守るべき信条」や「本質や特徴」として使われることもある。

これは、人為でつくられた法律という意味ではなく、全体性を考える場合に必要になってくるもので、不文律のはたらきのことである。

そして、最後にエネルギーを有する「ありとあらゆるもの」という意味の「ダンマ」もある。

すべての物質的エネルギー現象をダンマと呼ぶのである。

パーリ語で記述される場合には最後のａの上にラインがあるāとなりdhammāとなり、発音する時に最後の母音が長音になり、そこにアクセントがかかるので、2つを的確に見分けることができる。

しかし何事にも例外（単数の奪格Abl.）はあるので、大切なのは文脈であることには変わりはない。

物質エネルギーとしてのダンマは、文法的には複数形なので、「釈尊の教え」としてのダンマとは明確に異なる。

正確にいうと、まだ物質化するほどの密度がないエネルギーとしての存在である。

重力エネルギーの最小単位　Suddhātthaka

これが全てのモノはダンマである、と定義されている理由である。

　　

Dhammapada279　Anattalakkhaṇavatthu　　多くの英語訳や日本語訳は誤謬

Sabbe dhammā anattā'ti yadā paññāya passatiのSabbe dhammāとは、

物質エネルギーに関するすべての現象のことである。

それがanattā、すなわち無力で価値がない、ということで、涅槃Nibbānaにしか価値がないことを示唆している。

私見によると、

つまり物質エネルギーに関しては、「涅槃を経験する機能（knower）」であろうともどうすることもできない、という解釈になる。

そして、物質エネルギー界の外側、つまりメンタル界では「涅槃を経験する機能」によって関わることができることを暗示している。

この見解はまだ指示する他者を知らないので、注意が必要である。

そしてこのダンマは「意識（javana citta ）」によって生成されることについては後述のコラムを参照。

参照）パーリ語の-aで終わる男性名詞の語尾変化　　Masculine nouns -a

dhamma　

			singular　単数	plural　複数
Nom. Acc. Ins. Abl. Dat. Gen. Loc.	主格　nominative 対格accusative直接目的語 助格　instrumental 奪格 ablative 与格　dative　間接目的語 所有格　genitive 所格　locative	by/with from for　to of in/on/at	dhammo dhammaṃ dhammena dhammā, dhammamhā, dhammasmā dhammāya, dhammassa dhammassa dhamme, dhammaamhi, dhammasmiṃ	dhammā dhamme dhammehi(dhammrebhi) dhammehi(dhammrebhi) dhammānaṃ dhammānaṃ dhammasu

奪格 ablativeの「単数のダンマ」も最後のaがāに変わるので、「複数のダンマ」かどうかは文脈によって判断する。

dhammā　　エネルギーとしてのダンマ　　　物質エネルギーとしてのダンマ

dhammāがエネルギーであることについて初めて聴いた人はピンとこないと思うので、関心がある人にこのコラムで説明を試みる。

釈尊の教えとしてのダンマと混同しないために、あえて物質エネルギーのダンマと記すことにする。

量子力学では光子も素粒子の一つであると説明されるが、このdhammāは光子（photon）よりも微細で、三蔵では物質の最小単位を構成するエネルギーを指す。重力エネルギーの最小単位　Suddhātthaka

dhammāはヒトの意識でも作られる。意識が生じる心路citta vithiのjavanaステージで「因果の種」として生成されるのがdhammāである。

この世で一番小さい物質を構成する、はるかに微小な領域なので、物質というよりもエネルギーと呼ぶ理由である。

科学の１つの基準となる計測ができないので、科学的に取り扱うことを認めない人もいる。dhammāとkalāpaの関係性は？

dhammāはまだ十分な密度がないので重力もなく、当然のことながら、五感器官では察知することができない。

しかしだんだんと密度が増すことによって、このエネルギー体は、kalāpaという素粒子よりもまだずっと小さいこの物質世界の最小単位になるので、ヒトの意識や宇宙の「意」がkalāpaやその複合体である八つの元素の集合体であるsuddhātthakaを生成する。

これが「全てモノには「意(メンタル)」が先行している」

“manō pubbangamā dhammā…” 法句経 Dhammapada verses 1 and 2

という釈尊の教えの深層の意味合いである。

ヒトは五感器官から信号を遮断される環境になると、このdhammāによってランダムな思考が起こり、過去の出来事や未来の計画が心のなかで「上演」される。

このマインドの体験となる対象は何であるのか？

これこそがdhammāである。

manañca paṭicca dhammē ca uppajjāti manōviññāṇaṃ

メンタル対象を求めるエネルギーは条件が揃うと「エネルギー化された意」に変換されることで、意の識知作用が生起する。

MN 148　Chachakkasutta　　　MN 148六つの六なるものの経

MN 38　Mahātaṇhāsaṅkhayasutta　　MN38. 大いなる渇愛の消滅の経

dhammāは宇宙に遍くものなので、あらゆるrūpaの構成要素だが、密度がないのでカタチになっていないので、rūpa界（物質エネルギー界）に属しているが、エネルギーをもつにも関わらずdhammāはメンタル界に属していると定義される。

この理由や説明を私は知らない。

dhammāはsankhāraの一部であり、同様にエネルギーをもつというよりも、普遍エネルギーを動力源とするスクリュー構造の力によってエネルギーを発しているように捉えられているのかもしれない。

疑問はdhammāは密度が高まって、kalāpaのようにSuddhātthaka（8元素集合体）、すなわちbhūta領域になるのか？

もしくは、dhammāは意識反応によって思考回路をつくり、類似の回路の集合体であるgathi「性向、キャラクター、性質、特質、偏向」のsankhāraを形成する原因（トリガー）だけなのか？

素粒子より微細なのか？

bhūtaが集まり密度が高まるとdhātuと呼ばれる領域でまとめて扱われるようになる。

dhammāは行った原因（kamma）によって顕れ出てくる。

たとえば「カンマの種」のように、行sankhāraを経由した識viññānaはエネルギーを持つ「未来の設計図」として保存される。

このように意識（javana citta）によってdhammāは作成される。

dhammāは顕れては消えていくものでエネルギーであるが、「私たちの言動の記録（nāma gotta）」

（nāma：by name 　　gotta：clan；ancestry）だけはこの世で唯一のエネルギーを持たない。

宇宙創生のプロセスの霊prūshaがカタチprakritiにスポットライトを当てる前の3つの原理のバランスが保たれ、まだ時空と方向性が発生する前の状態がnāma gottaに対応し、時空が生まれてからはdhammāが対応し、ゆらぎの元になる偏向性がgatiに対応し、素粒子よりも微細な物質がbhūtaに対応し、不可視の物質が細かいdhātu、可視化できる物質が粗いdhātuに対応する。

涅槃nibbāna

　　

ちなみにgathiが育まれるとbhūtaになり、ここがsuddhāshtaka、すなわち重力をもつ物質のステージである。これ以下のモノは境界線がないとはいえ、重力をもたないエネルギーと呼ぶ。次にbhūtaがさらに密が増すことで、mahā bhūtaになる。

rūpa（物質エネルギー）界の起源は、「manō rūpa」とも呼ばれる。たとえば、私たちがマインドで視覚化することによって。過去のシーンや思考中に浮かんでくる映像や夢、すなわちイメージがmanō rūpaである。そしてこのmahā bhūtaがさらに凝縮するとdhātuになる。私たちの体は、私たちが見るすべての物質的なものと同様に、密度の高いdhātuで構成されている。

無我　　anattā

パーリ語のattan、サンスクリット語のātmanは漢字では「我」と訳され、

それに否定を意味する接頭辞an−が付いたものがパーリ語のanattan、サンスクリット語のanātmanなので

「我が無い」という意味なので、無我や非我と訳されてきた伝統や歴史がある。

Sabbe dhammā anattāを諸法無我、一切の法は無我なり、として訳されてきた。

また現代語訳で普及しているのは

「一切の事物（ダンマ）は無我（アナッタ）である」（諸法非我）と解釈されることが多い。

これは、dhammā を現象と解釈し、anattāを非我と解釈し、

「全ての現象は虚構の自我を使って感じたり理解するのではなく、我以外で感じたり理解する」

と解釈しているようである。

（私説では、上記したように、この文脈でのdhammāはエネルギーがあるものを表している。）

このようにanattāを「我が消え去った状態」「自我がなくなった状態」

と訳され、解釈され、説かれ続けて久しい。

上座部仏教や大乗仏教や瞑想センターや辞書でも同じような解釈である。

このような解釈を私は寺院で聞いたことが何度もあるし、そのように解釈している本やウェブもいろいろと読んできた。

ところがこのような解釈をするから修行者は涅槃に至ることができない、という指摘がある。

英語訳でも

Anattā Not self, egoless, without essence, without substance. One of the three basic characteristics of phenomena, along with anicca and dukkha.

とある。

英語では

“all phenomena are of no real essence.” という訳も多く見かける。これらは上記の日本語訳と大差がない。

「すべての現象は本当の実体（本質的で）はない」

しかしこの解釈であっても、まだ釈尊の言葉からは遠い。

理由はaniccaの場合と同じで、毎日の「気づきの実践」と結びついていない解釈であるからである。

そして、パーリ語経典である「三蔵」をあたってみると、このような解釈では意味が成り立たなくなる箇所が多く出てくるので後で検証してみることにする。

Anattāの実際の意味は

自我ではコントールできない。

自我では何もできず、意味がない。

「わたし（主体）」はその場でのカタチであり、仮象である。

といったものから、

「我」とは一切の関係がなく、

anattāとは、「自分の悪徳との関わりのため、閉じた輪の中ではどうしようもない（無力でしかない）」という意味である。

これは涅槃nibbānaからの視点による解釈である。

パーリ語の元来の意味を把握せず、意味とは文脈に依拠することを理解せずに、経（sutta）を単語ごとに翻訳したりanatta のような「鍵となるパーリ語」を一般的な日本語や英語の単語を使用して翻訳するのは危険である。

「anatta」のより深い意味は、実際の経典にあたってみて、これらを詳細に熟慮するのが明らかになることもあるだろう。

なぜこのような致命的な間違いを起こしてしまったのか？

この過去200年に及んで欧州のインド学者によって誤訳されてきたのには、以下の理由が考えられる。

パーリ語は文字を持たない言語なので、オリジナルは音声をアルファベットにしてシンハラ文字に記述されてきた。

例えばRhys Davids, Eugene Burnoufや Edward Muller たちの時代には三蔵Tipiṭakaはまだ他の言語には部分的にしか翻訳されておらず、シンハラ語における全訳は2005年のことである。

パーリ語を理解する時にサンスクリット語の意味を参照する傾向があったので、例えば、aniccāはサンスクリットのanityaを、anattā　は anathmaを参考にして翻訳された。

また上座部仏教から伝播した大乗仏教を参考にしたことが誤訳につながった。

また上座部仏教もアショーカ王時代から中観派の解釈の影響を受け、ブッダゴーサの時代以前から誤訳の傾向があった。

そして近代以降では、例えばMalalasekaraのようなスリランカ人の仏教徒であったとしても、彼はRhys Davidsから仏教を習った大学院生であったし、Kalupahana やJayathilakeなどのシンハラ語学者も学位を英国の大学で取得している。

そしてこれらの訳語の研究や訂正が行われないうちに大量活字出版となって普及しまったのが不幸であった。

また仏教が中国に伝えられた時の翻訳者たち（中観派仏教を学んだ鳩摩羅什Kum´raj￣vaや瑜伽唯識を学んだ玄奘）は大乗仏教を信奉しており、釈尊の教えの中核である、潜在意識に組み込まれた五蘊への渇望による無知avijja、三相の体感、瞑想方法がちゃんと翻訳した本人たちには伝わっていたが、訳されたものからはちゃんと伝達されなかった可能性が考えられる。

そして漢字を使って翻訳することから、新しい概念が漢字の字源の影響を受けてしまい、原語の語義をまずは自らが体感をせず、深く考慮もしなくなっていく傾向が漢字を使用する文化圏の歴史にはある。

パーリ語とサンスクリット語の違い

パーリ語のanattaをサンスクリット語に翻訳した時に「anātma」として翻訳してしまったことからも誤謬が生じた、という説もある。

Anattaの反義語である「atta」のさまざまな用法を注意深く調べることにより、「anatta」が「no-self」（無我・非我）として解釈されて、誤って翻訳されていく理由を確認してみる。

まずはパーリ語の本来の単語から始めてみる。

パーリ語にはattāとattaという単語ある。最後のaの母音が長音か短音に違いがある。

二つは違う意味の単語である。

まず、「attā」は、「人」を意味するために使用されている単語で、このattāを否定する「人がない」という表現はないので、attāの反義語はパーリ語に存在しない。

つまりattāの反義語として、anattaが使用されたことは一度もない。

「attā」の「人」とは、英語の「I」にあたり、「私」「主体」という意味でのみ使用されている。

同義語の自我や自己を表すパーリ語の単語には“mama“や “asmi”や“mē“がある。

次に「atta」には2つの意味がある。

1つ目の意味は日常的に使われている「自分自身」のことで、英語でいう「myself」にあたる。

２つ目の意味は「コントロールしている」または「本質を持っている」という意味であり、この反義語が三相のanatta(“na” + “atta“) になる。

したがって、「anatta」の反義語は「atta」であり、「attā」ではない。

また、パーリ語には「attha」という単語があり、これは文脈により、真実、避難所、意味深い、という意味である。　

“anattha“は“attha”の反義語なので、「真実ではない、頼り（避難所）にならない、意味がない、不利益」という意味を示唆する。

また、パーリ語には「nātha」という単語もあり、これは「唯一の避難所」を意味し、Nibbānaの別の呼び名である。

よって「nātha」を得るとはNibbānaに至ること、つまり閉じた輪（再生プロセス）から離脱することである。

「nātha」の反義語は「anātha」で避難所（価値あるもの）がないことを意味するので、この世に避難所を見つけようとすることは、本当に意味がなく、無力であることを示唆する。

したがって、パーリ語のatta（artha） / anatta（anartha）

は、「意味がある/意味がない」「力がある/無力である」「本質がある/本質がない」、「真実/偽」、「有用/役に立たない」という対語の関係にある。

視点	本質	常在と無常	楽と苦	エネルギー	特徴としての限りなさ	真理saccaの範囲
涅槃nibbāna	atta	nicca	sukha	0	0	世俗諦　sammuti
この世	anatta	anicca	dukkha	ある	始源のない輪廻	勝義諦 paramattha

Attaと anattaは、釈尊の教えの基礎となる深い概念であり、anattaという言葉は、「真実も本質も実質もない」という常に深い意味で使用されてきた。経の中でどのように使われていたか後述する。

このような anatta を本質という意味のattaの反義語ではなく、人や我や自己の意味を持つ“attā”の反義語として解釈して翻訳してきたのが重大な間違いであった。

anattaとは、この世には本質も真実も実質も存在しないことを示す、この世の性質を表現している。

次にサンスクリット語のātma とAnātmaについて考察する。

サンスクリット語のātmaは、「魂」を基本的に意味し、この魂とは死を迎えることなく、最終的にはヘブライ系の宗教の「創造主の神」に相当する「Mahā Brahmaマハー　ブラフマー」と融合する。

Anātma(「魂」は存在しない)はサンスクリット語で無我と訳される場合もあるが、釈尊によって使われたことはない。

釈尊の時代にも、「魂」の考え方について2つの相反する意見があった。

ある派は、不変の「魂」（ātma）を信じて、キリスト教やイスラム教やユダヤ教のアブラハム教と同じように、人が死ぬと魂が天国か地獄に行くと考えていた。

それに対して「魂はない」（anātma）と考え、人が死ぬと後には何も残らないと主張する派があり、今日の唯物論的見解があった。

釈尊はこれらのどちらでもなく、生命体には永続的に存在する「魂（soul）と呼ばれるもの」や「自己（self）と呼ばれる表層意識」だけの存在といったもの実在せず、実在しているのはマインドと体の両方が絶えず流動状態であり、「変わらない魂」や「変わらない自己」などはない、と説いた。

あらゆる生命体には「知る機能」があり、サバイバルの効率をあげるための自動反応回路を作成する機能がプログラミングされており、それらはkammaとして転生によって継続されることを釈尊以前のバラモン教でも説かれている。

したがって、生命体は外部刺激への対応方法を選択できるので「自己（self）と呼ばれる表層意識」はあり、「自己（self）はない」というのも、深層意識には集合意識や系統発生の意識や宇宙意識と呼ばれるものはあるので、「魂はない」というのも間違っている、と釈尊は指摘した。

さらに、釈尊は因果関係に基づいた死の連続性について説いた。

これは「個体発生」の一個体の視点にたてば老人は胎児からの成長プロセスの一部分であるが、

同じ種の世代をまたぐ「遺伝子発生」の視点にたてば、新しい生命体とは、古い生命体があって初めて成り立ち、

「系統発生」の視点では微生物から人類への変化と連続性を示すものである。

原因と結果に基づいて、すべての瞬間に変化があり、「新しいこと」は「古いこと」に依拠している。

参照　　　ヘッケルの「個体発生は系統発生をくり返す」　　　　　三木成夫の「生命形態学」

三木成夫　　「個体発生は系統発生を繰り返す」ヘッケル　　　　

これが、真理を得た者であるArahantが完全に死がないということが正しくない理由であり、Saṁyutta Nikāya 22.85　Yamakasutta　 22.85. ヤマカの経（相応部経典）では、Arahantにとっての死とは「消滅ではなく、苦しみの終わり」であることを説いている。

経の中のanattāを文脈で解釈する

経蔵増支部（「五部」Pañca Nikāyaの内の第4番目の「部」nikāya）十集　

AN 10.113　Paṭhamaadhammasutta　 10.113. 第一の法ならざるものの経 の冒頭の一節にある

“Adhammo ca, bhikkhave, veditabbo anattho ca; dhammo ca veditabbo attho ca. Adhammañca viditvā anatthañca, dhammañca viditvā atthañca yathā dhammo yathā attho tathā paṭipajjitabbaṃ.

これを従来どおりにanattāを「no self無我、非我」、attā を「self自己、自我」という伝統的解釈を踏襲して訳すと

「比丘よ、ダンマに反することはanattho「無我」に導き、ダンマに従うことはattho「（自）我」へと導くことをよく理解しなさい」

となり、筋が通らない、意味のわからない文章になる。

次にanattāを「役に立たない」「無力である」「どうすることもできない」「本質がない」として訳してみると、

「僧よ、ダンマに反することはanattā無力に導き、ダンマに従うことはattho力を得ること（Nibbānaの避難所）に導くことをよく理解しなさい」

と、今度は筋が通るようになる。

パーリ語

veditabbo　　　　　 　知るべき　should be known 　　　　veditabba　未来受動分詞

ca　　　　　　　　 　そして、　and; then; now

viditvā 　　　　　　　　知って　　原形はvindati： 知る； 見出す，所有する　　

dhammañca 　　　　　ダンマ　釈尊の教え　　宇宙の法則

adhammañca 　　　　　ダンマに反する

yathā 　　　　　　　　の如くに，　　　as； like；according to； in whatever way

tathā 　　　　　　　　そうであっても　even so tathā pi それにも拘らず

paṭipajjitabbaṃ. 向って歩く，行動する，目的に進む，遂行する

AN 10.113　Paṭhamaadhammasuttaでは、　　

釈尊はdhammaとanatthaの関係を簡潔に説いている。　

ダンマに反するadhammoに関わりを持つと将来は苦しみに導かれ、実のない徳のない閉じた輪の中では無力(anattha)であり、どうすることもできないが、　

ダンマと関わりの持つ者は、実があり意味深いものに関わりを持ち、attho避難できる（力を持つ）大切なものに導く。

前半の意味は「長いスパンで考えると、誰も自分のことを完全にコントロールすることができない。

そして閉じた輪の中に囚われて、無力でどうすることもできない。」ことを示唆し、

後半の意味は、「閉じた輪から抜け出す実践的な方法は、釈尊によって発見された避難所をみつけ、八正道を実践することである。」ことを示唆している。

したがって、ダンマに従って、避難所を持つことがatthaであり、反ダンマに従って無力になるのがanatthaである、ことを説いている。

“Katamo ca, bhikkhave, adhammo ca anattho ca? Micchādiṭṭhi, micchāsaṅkappo, micchāvācā, micchākammanto, micchāājīvo, micchāvāyāmo, micchāsati, micchāsamādhi, micchāñāṇaṃ, micchāvimutti—ayaṃ vuccati, bhikkhave, adhammo ca anattho ca“

“Katamo ca, bhikkhave, dhammo ca attho ca? Sammādiṭṭhi, sammāsaṅkappo, sammāvācā, sammākammanto, sammāājīvo, sammāvāyāmo, sammāsati, sammāsamādhi, sammāñāṇaṃ, sammāvimutti—ayaṃ vuccati, bhikkhave, dhammo ca attho ca“.

パーリ語　　　　　　　　日本語訳

Katamo 何？　What? which?

adhammo 　　　　　　　　　ダンマに反するもの

micchā 偽、嘘、誤謬、悪　untruth； falsehood； false； wrongly； wrong

Micchādiṭṭhi 偏見　固定観念　決めつけ

micchāsaṅkappo　　　　　　悪思惟 wrong Thought

micchāvācā 　　　　　　　　悪語wrong　speech

micchākammanto 　　　悪業(悪しい行為)　wrong　business

micchāājīvo 　　　　　　　　悪命(悪しい職業)　wrong　occupation profession

micchāvāyāmo 　　　　　　悪精進(悪しい努力)　wrong effort，contention

micchāsati 　　　　　　　　　悪念(悪い集中力)　wrong　mindfullness

micchāsamādhi 悪禅定wrong jhana

micchāñāṇaṃ　　　　　　 悪知識wrong　Knowledge

micchāvimutti　　　　　 悪離脱　wrong　 release； deliverance

ayaṃ 　この人　これ　this person this he

vuccati 　と言われている　 to be said to be called

aṅguttara nikāya 10,12. paccorohaṇivagga

113. Paṭhamaadhammasutta

“Adhammo ca, bhikkhave, veditabbo anattho ca; dhammo ca veditabbo attho ca. Adhammañca viditvā anatthañca, dhammañca viditvā atthañca yathā dhammo yathā attho tathā paṭipajjitabbaṃ.

Katamo ca, bhikkhave, adhammo ca anattho ca? Micchādiṭṭhi, micchāsaṅkappo, micchāvācā, micchākammanto, micchāājīvo, micchāvāyāmo, micchāsati, micchāsamādhi, micchāñāṇaṃ, micchāvimutti—ayaṃ vuccati, bhikkhave, adhammo ca anattho ca.

Katamo ca, bhikkhave, dhammo ca attho ca? Sammādiṭṭhi, sammāsaṅkappo, sammāvācā, sammākammanto, sammāājīvo, sammāvāyāmo, sammāsati, sammāsamādhi, sammāñāṇaṃ, sammāvimutti—ayaṃ vuccati, bhikkhave, dhammo ca attho ca.

‘Adhammo ca, bhikkhave, veditabbo anattho ca; dhammo ca veditabbo attho ca. Adhammañca viditvā anatthañca, dhammañca viditvā atthañca yathā dhammo yathā attho tathā paṭipajjitabban’ti, iti yaṃ taṃ vuttaṃ, idametaṃ paṭicca vuttan”ti.

Paṭhamaṃ.

従来の伝統的な解釈では、“Sabbe dhammā anattā”を

「全てのモノは無我である」もしくは

「全ての現象は無我である」と理解してきた。

ある意味で、「経典」とは一般人の常識に対して、気づきを与える非日常の指摘である。

では、誰がどのような状況で「全てのモノは我である」というようなことは思うのであろうか？

また、全ての現象は無我である、と言明する必要がどこにあるのであろうか？

SN22.14. Anatta Suttaに以下の一節がある。　　　　　SN22.14. 無我の経

“..Rūpaṃ, bhikkhave, anattā, vedanā anattā, saññā anattā, saṅkhārā anattā, viññāṇaṃ anattā“.

もしこの節のanattāを「無我」として訳すと

「僧よ、物質エネルギー作用、感覚作用、表象作用（一般化のための元型）、形成作用、意識作用の中には我がない、無我である」となるが、物質エネルギーの中に「我」があるとは、どのような状況を意味しているのであろう？

ところがanattāを「無力」「役に立たない」「本質がない」「意味がない」「Nibbānaへの道がない」と解釈すると、

「僧よ、五蘊には本質がない」

というヒトの五感器官と大脳を使う認識システムでは限界があってNibbānaへの道がないので、無力であることを示す言明になる。

一般の人は自分の認識システムや脳の働きに疑いを持っていないので、これらは利用するものではあっても、信頼するに値するものではない、という言及は大切な教えとなる。

Paṭhamanātha Sutta (AN 10.17) とDutiyanātha Sutta (AN 10.18)の中では、

釈尊はanatthaになることを避けるように比丘に助言している。

「比丘よ、実質がないことを避けて暮らすように」

“Sanāthā, bhikkhave, viharatha, mā anāthā.”

Sanāthā 　 friend? having a master, lord？

Viharatha viharati：[vi-hṛ] 住す，居住す　　その心境を維持する

mā do not

anāthā　　　　　　無力、コントロール不能、実質がない　　

ここでもanatthaを無我・非我と解釈できる可能性はない

この経では、釈尊は個々の魂と創造神との一体化やミクロコスモであるātmaとマクロコスモであるMahā Brahmaとの一体化は無駄な努力であることを説いているので、上記のような発言をしている。

Ajjhattanicca Sutta (SN 35.1), Bahiranicca Sutta (SN 35.4),  Yadanicca sutta (SN 22.15) (Anicca Vagga)の中では、

釈尊はこの世の特徴(anicca, dukkha, anatta)は互いに深い関係性があることに言及している。

 “yad aniccam tam dukkham, tam dukkham tad anatta”,

もしaniccaを非永続性（無常）、anattaを無我と従来の伝統的な解釈にして訳してしまうと、この一節は、

「もし何ものも永遠ではないのであれば、苦しみが生まれ、そのために本人は無我になる」

と全く意味の通じない文章になってしまう。

たとえば、「何もの」に具体的な「頭痛」という状況を入れてみると

「もし頭痛が永遠に続かないのであれば、苦しみが生まれ、無我になる」となってしまい、これも文章にはならない。

また、aniccaを従来どおりに「永遠ではない法則」すなわち「無常」と解釈して、これを理解することで苦しみから解放される、と言われても、

この世には、永遠であることで幸せになることは数多くある。例えば健康や富や好きな人との付き合いなどなど。

ところが、aniccaを好きなことは長期にわたっては維持できない、anattaを無力と解釈すると

「自分が満足できるように維持したりコントロールしたりできなければ、苦しみが生まれ、そのため結局の所、本人は無力であり、どうすることもできない。」

と筋の通った文章になる。

こうして釈尊は、自分の好みに合わせて何も維持できないというaniccaの性質は、「自分自身」であると思っている自分の肉体や意志でさえ、本人には実際のところは制御する能力がないanattaの性質につながっていることを簡潔に説いている。

Aniccaの解明の時に例に使ったAnattā Lakkhana Sutta (SN 22.59)の中にある、釈尊の三番目の質問はanattā の特徴をよく表現している。

“Yaṃ panāniccaṃ dukkhaṃ vipariṇāmadhammaṃ, kallaṃ nu taṃ samanupassituṃ: ‘etaṃ mama, esohamasmi, eso me attā’”ti?

“No hetaṃ, bhante”. 

「満足を保つことができず、私たちを苦しみに導き、変化し続ける特質があるものを、自分自身、または私のもの、または私のatta（実質・実体・本質）と見なすべきだろうか？」

「そう考える理由がありません、尊者」。

パーリ語　　　　　　日本語翻訳

Pan　　　　　　　　　　　　　喜歡，贊嘆

viparināma　　　　　　　　変化　

kallam 　　　　　　　　　　　善き，健全の，賢き，巧妙なる，正しき，適当なる，美しき．Cleve　healthy　proper

nu 　　　　　　　　　　　　　　かどうか，nanu ではないか，そうだろう

samanupassitum　　　　　見た　　samanupassi：[aor．of samanupassati] saw； perceived

etan　　　　　　　　　　　　　引用

ēso　　　　　　　　　　　　　　これ、この、それ、 This，this one； that　　　　 [f.； sing.] esā.

hamasmi　　　　 　　　　　私は　　　　　　　　　　Aggo hamasmi lokassa - "I am the Chief in the world

mē　　　　　　　　　　　　　　私に、私の　私のもの　 to me； my； mine．　　ahaṃ の acc．instr．dat．gen．

ここでは、Attaとその反義語であるAnattaの概念のより深い意味が説かれている。

ここで、3つの質問の順序に注意を払う必要がある。

はじめに、釈尊は、「rūpa物質エネルギー」は私たちの満足を保てないことを指摘した。したがって、そのようなrūpaへの愛着を持つことは苦しみへと導かれるので、それらに実質があると考える理由はない、と。

Aniccaはdukkhāに、そしてanattāにつながる。なぜなら、私たちはそのような（aniccaの特質を持つ）rūpaに対して「niccaのsaññā」、すなわち物質を各自の好みで保持できるという認識の元型を持ってしまっているからである。

これは SN35.1　Ajjhattānicca Sutta 　　　35.1. 内なる無常の経　で

“Yadaniccaṃ taṃ dukkhaṃ; yaṃ dukkhaṃ tadanattā”

「aniccaはdukkhaであり、そのdukkhaはanattāである。」

yadaniccaṃ　　　　　　 yad，關系代名詞 ya（who，what，which）　+　 aniccaṃ

taṃ 　　　　　　　　　　それは　三人称単数　　　tvam二人称単数

yaṃ 　　　　　　　　　　關系代名詞 ya（who，what，which）

tadanattā　　　　　　　 ta（he / it/ she；that　　+　anattā

と説かれているのと同じように、三相がこの世の特徴であることや、それらの関係性と理解する順序にスポットライトを当てている。

ここでは釈尊は一般的な「rūpa」について語っているが、これは外部にある物体やエネルギーだけではなく、自分自身の内側の体、五蘊pancakkhandha、感覚器官、感覚対象物、イメージも含まれるので、つまり「６感覚器官を介して感覚できるすべての世界」である。

「自分の内の世界であろうと外の世界であろうと、世界の全ては最終的には苦しみである」ことを説き、

3番目の質問では、「この世のすべては「attā」（実質的、実りのある、価値がある）かどうかを問い、

「自分が感覚できる世界のすべてには実質がない」、つまり、attāの反義語のanattāであることを説く。

これが「Sabbe dhammā anattā　全ての物質エネルギーに実体がない」理由である。

蛇足になるかも知れないが、記憶のアーカイブ（nama gotta）は衰退も腐りもしないが実質はないことには変わりがない。

私たちは「良いもの」を蓄積するよう努めて暮らしているが、死によってそれらすべてを置き去らなければならなくなる。

釈尊は、私たちが苦しんでいる、この終わりのない再生サイクルではプログラムを書き換えない限り、何をしても実を結ばず、成果を挙げられずに本当に無力であると説いた。 これが anattāである。

「この世」に対して間違ったaniccaの認識を持っている限り、私たち自身が苦しみの対象となり、したがって本当に無力（anattā）になってしまっている。

従来の翻訳の中にも釈尊が「self自己」と「no-self非自己」の両方を拒否したことを明確に述べている経典がある。

Channa Sutta (SN 22.90)　 22.90. チャンナの経では、釈尊がKaccānagottaに極端を避けて中道を歩むことを説いた例を、ānandaが引用している。

抜粋

“rūpaṁ kho, āvuso channa, aniccaṁ; vedanā aniccā; saññā aniccā; saṅkhārā aniccā; viññāṇaṁ aniccaṁ. Rūpaṁ anattā; vedanā … saññā … saṅkhārā … viññāṇaṁ anattā. Sabbe saṅkhārā aniccā; sabbe dhammā anattā”ti.

省略

taṁ cāyaṁ upayupādānaṁ cetaso adhiṭṭhānābhinivesānusayaṁ na upeti na upādiyati nādhiṭṭhāti ‘attā me’ti. Dukkhameva uppajjamānaṁ uppajjati, dukkhaṁ nirujjhamānaṁ nirujjhatīti na kaṅkhati na vicikicchati. Aparappaccayā ñāṇamevassa ettha hoti.

Ettāvatā kho, kaccāna, sammādiṭṭhi hoti.

Sabbamatthīti kho, kaccāna, ayameko anto.

Sabbaṁ natthīti ayaṁ dutiyo anto.

Ete te, kaccāna, ubho ante anupagamma majjhena tathāgato dhammaṁ deseti—

atthīti 存在

natthi：[na + atthi] no； not； not present．

dutiyo：Second

anto：[ind.] inside； within； inner.

ubho：a．[Sk．ubhau] ２つ、両方

ante　near，inside，within

anupagamma：adv. [an-upa-gacchati の ger.] 近づかずして.

deseti：[dis + e] points out； preaches　教示する、示す

「すべてが存在する」（常見）：それは極端である。

「すべては存在しない」（断見）：それは2番目の極端である。

これらの両極端を避けて、Tathagata（あのような行いをした如来）は中間を介してDhammaを示す。

「self自己」は一方の極端であり、「no-self非自己anatta」はもう一方の極端である。

ほとんどの上座部仏教のWebサイトは「anatta」を「no-self」と翻訳しているが、釈尊がこの「no-self非自己」の見解を拒否したことは上記のsuttaからも明らかである。

aniccaとdukkhāのため、「自己がない」または「魂がない」と言うのでは話の筋が通らないが、

「この世」に対して間違ったaniccaの認識を持っている限り、私たちは苦しみの対象となり、したがって本当に無力（anattā）になる、という解釈で筋は通る。

以上のことから

Anattaの意味は、

（i）自分の６感覚器官で認識するこの世は、いかなる「実質」「本質」または「真の幸福」をも提供できない、

（ii）したがって、このような認識から究極の真実をこの世で見つけることは意味がない（どうすることもできない、無力である）

釈尊は、この終わりのない再生サイクルでは何も実を結ばず、私たちは苦しみ、本当に無力であることをanattāと言い、

私たちが実践しなければならないことは、「Nibbānaに至るために、悪徳を避け、マインドを浄化すること」であることを示唆している。

Anattaが無我と訳されてきた論理的理由の推察　　　　　人工衛星の立場からみるanatta

この世に「モノ」を探すことで幸せが得られると思っている「わたし」がいる。

このように信じていられるのは、「わたし」という基準点に強く固執しているからである。

もし「わたし」という枠（境界線、囲い）がなければ、その時点で主体はどこにでもあるので、何も対象をわざわざ切望したり固執したりする必要がなくなっているはずである。

ということは「この世の物事を切望している限りは、「わたし」がいることになり、「わたし」がなくなれば、物事に切望しなくなることになる。

このような「わたし」がない状態である「無我」は素晴らしきものに違いなく、同時に簡単には達成することができそうもないことなので、目指すべきものとしては都合が良い。

「わかりやすくまとめる」「分析して統合する」というアプローチを踏襲する人にとっては自分の存在や自分のメソッドや自分の認識方法や自分の理性や自分の優秀性を否定しない瀬戸際で訳されたのが「無我」ではないのかと推理する。

Anattaもaniccaの時と同じように、対象を客観的に観察する人工衛星の視点と各自の自動反応回路を消去するように指導する導師の視点では解釈の違いがあるのだと推察する。

導師の立場からみるanatta

本当に困っている時には、無我の境地のようにありもしない綺麗事を話されても聞いている余裕はない。

ヒト（意識体）は「対象を獲得する努力は本当に無益である」と体感するまでは、対象を求め続ける。

短期的な見地では理解できないが、長期的な体験や何世代にもわたる体感であれば、ヒトは本当に無力でしかない境地が理解できる。

それが三蔵にあるanattaの意味である。

「長期的に見れば、自分の６感覚器官で感じるこの世には実りあるものはない」、または

「ヒトはこの再生プロセス（肉体が死んでもメンタルボディが次の受精卵に入って再生する）の中では本当に役に立たない」ことを把握することがanattaの概念である。

将来の苦しみを生む原因とその条件が揃ってしまったら、結果が生じて「閉じた輪」の中で生きることになるので、そこでは無力(anattha)であり、もうどうすることもできない。

このように、anatthaを無我という理解だけでは十分ではなく、「我ではコントロールできず無力である」という解釈により、悪徳を避ける重要性を学び、これに気づいて働き続ける必要性を実感することができる。

Sabbe dhammā anattā

を釈尊の言葉に近づけてみれば、

最終的には全てのモノ（物質エネルギー）は本質（囲い、個、カタチ、独自）が失われるので、Nibbānaに至るためにはこれらのヒトの意識が生み出したdhammā（意識が形成化されたエネルギー）に固執することには意味がない、という表現になるのではなかろうか？

それともdhammāを宇宙の普遍エネルギーだと解釈し、最終的にはこの普遍エネルギーも無明だと解釈するのだろうか？

ここにはNibbānaに至るためには明らかな決意と理解が必要である、ことを示唆している。

そして理解する内容とはsaṅkhārā、aniccā、dukkhā、dhammā、anattāの気づきと実際の体感とその継続である。

三相の関連性

三相Tilakkhanaのanattaの反義語である「atta」には究極の真実のことである。

この究極の真実とはaniccaをはじめとして三相の性質のことである。

「この世では、なにも、どこにも自分の望む満足を保ち続け、本当の幸せをもたらすことはできない」という真実である。

したがって、この世は「実質」を持たないため、追い求めるべき価値あるものは何もない。したがって、その不可能なタスクを実行しようとすると、疲れ果ててしまい、苦しみにさらされる。

この達成不可能なタスクに苦労している人は、この世はanattaの性質の影響を受けて、本当に無力になる。

つまり、ヒトが望むどおりの状態を維持できる（nicca）と勘違いして、楽しみを追い求めると、ヒトは苦しみに囚われ、追い求める本人は気がついた時にはもう無力になってしまっている。

この世に「nicca」と「atta」の性質であると思い込んで、世俗的なことを追求するときに、「十の悪徳」を為してしまう傾向がヒトをはじめ生命体にはある。

思い込むのは心の機能であり、その思い込みを創作したのも心である。

このような心が創作した、宇宙の法則に反することを実践することを「徳がない行為」と呼ぶ。

自分自身の性質やこの世がanicca と anattaであることをヒトは認識できるようになると、世俗的な事柄を追求している最中でも悪徳（ダンマに反するもの）から自然と離れてしまう。

宇宙の法則に逆らっているので長期にわたって実を結ぶ実質はなく、価値のないものを追求することに、バカらしさを感じて飽きてしまうからである。

道徳的な生活（ダンマに則する行為）を送ると、意味のないことをするのに嫌気がさし、多くの間違った見方（miccā ditthi）を捨て始め、マインドは浄化される。

ここでいう「浄化」とは、思考パターン（インプットに自動反応するアプリケーション）を取り除くという意味である。

この段階で、anicca, dukkha, anattaの本当の意味に触れると、それらを理解することができ、浄化の道を歩き始めることができる。

十の悪徳と関わり、「貴重と信じ込んでいる実のないもの」を追い求めているのが本当に無益であると心底から認識するまで、ヒトは多くのdukkha（苦しみ）にさらされる。

三相を一つにまとめた表現はYadanicca sutta (SN 22.15) をはじめ多くの経典（sutta）にある。

この3つはセットで使われるのである。

「yadaniccam tam dukkham、yam dukkham tadanattā」

この節はそれを理解するには、節句を「展開」すると意味が明らかになる。

「yad aniccam tam dukkham、yam dukkham tad anattā」

「aniccaの性質はdukkhaにつながり、dukkhaの性質はanattaの性質につながる」

yad　　　　　　　　關系代名詞 ya（who，what，which）

tam 　　　　　　　　To be distressed in body or mind 　　

yam　　　　　　　　検査（to check）　　到達する

tad　　　　　　　　三人称　　ta．pron．それ -aṅga 彼分，確かに． -anvaya 同類

仏教の前提　　　　　　

仏教を語るときには、まず世界観と使われている用語が日常会話の用語とは異なることであることを知ることが必要です。

仏教の前提

１　因果関係の範囲　　一般社会とは異なる全体性　　　「波と海」の喩え  部分と全体性　

２　潜在意識の理解　　五感器官と大脳に依拠しない認識の仕方と修正方法

３　実践と実現　　　　過去と未来の時間軸の枠から離れた生き方の提案とそのステップごとの実際の手段

仏教の基準　世界観の前提

大乗仏教の基準点

あとがき　　個人的関わりの経緯

前文として書いたがだんだんと意味合いが薄れてきたので、一番最後になってしまった。

寺や社会で聞く仏教に関する言葉を遠くに感じてきた。

自分の生活スタイルが都会に生まれ育ったためかもしれない。

その頃の時代の流れは、森・山・田舎から都会に人が流れ、郊外に住宅地が開発され、それまであったおばあちゃんの知恵は外来の理性に変わり、こころの安らぎよりも五感の刺激を求めるヒトとして、私は暮らすようになっていた。

瞑想の指導を受けた時に、使っている日本語と原文の英語との乖離が気になった。友人のアドバイスもあり、日本の伝統的な瞑想である「禅」ではどのように伝えているのかを知るために、「正法眼蔵」を訳して各巻を要約してまとめてみた。そして次世代の土台になると思い、全巻をデジタル化して誰でも使えるようにウェブサイトにした。

そして瞑想や禅の奥まで入っていこうとすると、禅の教えの日本語も漢字も、瞑想指導の原文の英語も「パーリ語」から訳されたものであり、日本語と漢字と英語とパーリ語が指し示す内容に乖離がありことに気づいた。

パーリ語は仏教を通じて1500年前から日本に入ってきている言語なので、色々と日本語訳と漢字訳があるのだが、これらを調べてみると、これまでの日本の仏教史の根底を揺さぶる誤訳、誤謬、勘違い、間違いの山に遭遇した。

あまりの量の多さにビバークする分の装備と食料しか準備していなかったので、遭難してしまいそうになっている。

ひとまず寝る時間と食べる時間以外は、このトピックにスポットライトを当てて、仮説をサポートしてくれる証拠を集めて整理することにした。

釈尊の教えは、心地よい爽やかな風となるのか激しい嵐になるのか、毎朝、自分に問うている。

今朝は嵐だった。

コラム

誤謬について

上座部仏教に伝わったもの　　　　　　

大乗仏教に伝わったもの　

五蘊とはなにか？　　　　

三相とはなにか？

三相についての誤訳　2018

サングラスをした男の喩え

正しさという迷路　　　考えるのではない、感じろ

伝統的誤謬の理由 段階的「わたし」の混同

誤謬の原因　　　　リンク集　

因果関係の範囲の詳細　　　仏教の基準　世界観の前提　　　修行の順序　　　Sotāpannaへの道

AIの捜索範囲の限界　　ヒトの気まぐれを予測する　　　　

主体（わたし）とは何か？　宇宙の構成要素と内的心理器官に関する創造原理

パーリ語の必要性

パーリ語とマガダ語

ありのままの現実をみることができない「無明」の力

無明を消すには無明があるという事実を見守っているだけ

解脱後のブッダの最初の言葉とは？　　

Namo Tassa　Bhagavato Arahato　Sammāsambuddhassa の意味

釈尊の時代にはなかった大日如来や阿弥陀如来

上座部仏教　　　伝わったもの　五蘊　　瞑想　　　

五蘊や縁起などの釈尊の教えや瞑想法を上座部仏教はしっかりと受け継いできた。

しかし現在、上座部仏教のほとんどの比丘は三蔵そしてその中にある3つのオリジナルの注釈・解説を読まない。

代わりに５世紀頃にブッダゴーサによる清浄道論Visuddhimaggaを重要な論評として受け入れ、彼のヒンドゥー教のヴェーダ瞑想を取り入れた呼吸瞑想とカシーナ瞑想が上座部の混乱の根本原因だという説もある。

また数多くある縁起説の1つの側面（akusala-mūla PS）のみを理解し、上座部仏教派がVisuddhimaggaをDhammaの基礎として採用して以来、その先にある縁起説の素晴らしい知識は隠されてきた。

釈尊の風　縁起篇　　この世とあの世を繋ぐ宇宙の法則　

これらが過去数百年にわたってNibbānaに至ろうとする人々にとって最も大きな障害となっている、とまで言い切る論者もいる。

大乗仏教に伝わったもの　　漢字の誘導

中国語経由の仏教には何が伝わり、何が伝わらなかったのか？

経典を漢字に翻訳した鳩摩羅什や玄奘は上座部仏教を学んでいたが、大乗仏教の中観派や瑜伽唯識派の仏教を信奉しており、それが翻訳にどのように影響したのか、しなかったのかは調査する価値がある。

仏典はどう漢訳されたのか 船山徹

ただ後に中国や日本で伝播された仏教は、釈尊の教えの中心である五蘊への対処の仕方や三相を常に体感する暮らし方や瞑想のテクニックに対しては上座部仏教ほどにはスポットライトを当てず、後世になると伝わらなかったものもある。

特に、五蘊への渇望のプロセスとそのメカニズムを理解することで、それらを応用したテクニックが瞑想法につながっているのだが、「漢字の仏教」では五蘊やその内容である「色・受・想・行・識」をベースにした瞑想法は伝わっていない。すなわち、その内容、その特徴、その機能、その原因と結果、その渇望の理由、その解除の方法、その順序、その到達点、それらの関係性、というマインドの浄化のために必要な情報や実践が受け継いでいたという文献や話を私はまだ知らないのである。

五蘊と縁起と三相が上座部仏教の「苦しみからの解放」のステップになるので、これらを使わないで涅槃nibbānaに至る方法を「漢字の仏教」がどのように実践していたのかどうかを調べてみたい。

もし私の仮説どおりに五蘊の限界とそれに関わる瞑想法が伝わっていなかったのであれば、各自が「苦しみからの解放」を実践する方法を模索しなければならない。また当時の社会状況が飢饉や災害や天災や戦争などのように厳しければ厳しいほど人々は救済を求めただろう。このような状況の中で「苦しみからの解放」の手段を確立していった者が、各宗派の創始者になったこともあろう。

大切なことが伝わらないことで新たなモノが創造されて、歴史は動く。

そして伝わないことの一つの要因が漢字である。

アルファベットのような音を基準にした文字に対して、漢字は意味を基準にした文字である。

つまり、漢字は象形文字であることから始まっているので、一つの漢字ごとに意味や由来のストーリーがある。

だからどのような言語を漢字に翻訳する場合は、使われた漢字の本来の意味に引っ張られるのだ。

つまり新しい概念があったとしてもそれを漢字に置き換えることで、その漢字ができた由来である字源にスポットライト当てる力が象形文字にはある。

そしてその各文字のイメージとストーリーが強いために、新しい考え方を漢字に翻訳した時点で、体感を通して新しい考え方を把握するのではなく、既存のイメージを編集して大脳皮質で学習してしまう傾向がある。

五蘊とはなにか？

釈尊が伝えた最初の談話が、転法輪経SN56.11 Dhammacakkappavattana Suttaで、「基礎的視点」すなわち仏法の本質をレイアウトしている。

「比丘よ、聖なる真理である苦諦とは何であるのか？」

「誕生は苦しみ、老化は苦しみ、病気は苦しみ、死は苦しみです。好きではないものと関係するのは苦しみであり、好きなものから離れなければならないことは苦しみです。自分の好きなものが得られない場合も苦しみです。つまり、苦しみの原因は、五蘊（rūpa, vedanā, saññā, sankhāra, viññāna）に対する渇望です。

この世で私たち人類が切望するものはすべて、pancupādānakkhandha（upādāna掴む）すなわち五蘊への渇望であることが説かれている。

他の五蘊についてのエッセイを参照にしてほしいが、五蘊とは、釈尊がヒトの苦しみの原因を解放するメカニズムを表したものなので、ヒトがこの世をどのようにイメージして捉えているかというプロセスを５つに分析することで、その解決策を論理的に説明している。

認識システムと五蘊　そこからの離脱法

上座部仏教の見解　　ヒトはどのようにして認識しているのか　　

色rūpaと色蘊rūpakkhandha

受vedanāと受蘊vedanākkhandha

想saññāと想蘊saññākkhandha

行sankhāraと行蘊sankhārakkhandha

識viññānaと識蘊viññānakkhandha

般若心経が解釈する「色と空」や五蘊とは、釈尊の真意とは違うのではないか、という問いがある。

般若心経の数学的解釈

五蘊の「色(rūpakhandha)」というのは素粒子の集まりの物質(rūpa)ではなく、各自がその物質をどのように感じているかというイメージであるので、個々によって「色(rūpakhandha)」は異なるというのが釈尊の見解である。

つまり、メンタル体のスクリーンに映るイメージはエネルギーを持つのでrūpaと呼ばれるが、それは各自の潜在意識の編集後（受vedanā、想saññā、行sankhāraにある自動反応回路）に投影（識viññāna）されたものなので、他者とは異なるものになっている。

出典？

Dīgha Nikāya 11　Kevaṭṭasutta　　英訳

2.2.3. Rūpavibhatti

SN 22.56

SN 22.57

Chachakka Sutta (MN 148)

Mahāhatthipadopama Sutta (MN 28)

Khandha sutta (SN 22.48)

三相とはなにか？　　

この世の隠された智慧なのか？　それとも、この世の恐ろしい特徴なのか？

釈尊はこの世には問題があると感じ、この世は何度も同じことを繰り返す「閉じた輪（再生の輪廻）」の中にあると説き、自身がニッバーナNibbāna（涅槃）に至ることで、この世から離脱する方法と教えを人々に伝えた。

この問題があると感じた「この世の３つの特徴」が三相である。

したがって、この3つの特徴をよく体感し、理解することで、ニッバーナに至れることを説いた。

ということは、ニッバーナに至ることが難しいのは、この世の特徴である三相がちゃんと体感できていないからである。

つまり三相が体感しにくいのは、この世の常識とはかけ離れているもので、日常の手段では理解が難しいものであるからである。

それに対してニバーナはnicca、sukha、attaの世界であり、この世の3つの性質である三相のとは反対の状態であるという。

ということで、三相を知るには、nicca、sukha、attaを知って、その反義語の意味を理解するような体感方法を実践すればいい。

Nicca　ヒトが望むどおりの状態を維持できる、好きなことが続く

Sukha　不変の楽（この世における楽sukhaは真のものではなく、dukkhaからの転々とした逃避である）

Atta　　エネルギーのない究極の真理、実体、

であるので反義語は、

Anicca　　　ヒトが望むどおりの状態を維持できるものは何もない

Dukkha　　　苦しみである

Anatta　　　真理ではない、意味がない、大事なものではない、無力でなにもない。

と、どれもヒトにとって理解などはしたくない、空恐ろしいものがこの世の性質だと釈尊は説いているのである。

釈尊はこの世を悪くは言っているのではない。

が、ヒトの勘違いは恐ろしく、とんでもないものなので、直ちにマインドの中で作り上げてしまった自動反応プログラムを除去したり、書き換えたり、解除したりして、浄化する行動を取る方法を生涯にわたり伝えた。

それが三相を体感することが、貪瞋痴を除去する日々の実践を重ねることであり、ある時は瞑想によって、「繰り返される閉じた輪」から解放される手段であると。

三相であるanicca, dukkha, anatta の性質をちゃんと理解して体感するまで、ヒトは苦しみに満ちた再生プロセスに閉じ込められている、と釈尊は説く。出典？

この体感によって解脱できるかどうかに関わるという、そんな大事な三相とはどんなものなのか？

三相はこの世の特徴と言われているが、これまでのことを考えてみると、人工衛星の視点でみたこの世の特徴のことではなく、導師からの視点、つまりヒトがどのように勘違いをし続けてこの世を捉えているかという特徴のことを指すことがわかる。

「この世」の良し悪しや、宇宙の法則や、自然の一般性などの生易しいものではなく、すぐにでも対応しなければ将来もしくは現在の生死に関わる見解の誤りについてである。

悠長に構えている暇はなく、一瞬の猶予もない切羽詰まった状態を示している。

だからこの三相を理解して心底から体感することで解脱できるというのである。

しかしだからこそ、ヒトはそう簡単にはこの三相を理解できず、勘違いはそのまま続き、解脱できないのである。

三相とは深層の領域まではそう簡単には理解できず、したがってアラハンにいたるまでは日々の精進が必要となる。

そのためにはマインドを浄化するにしたがって、この世の本質はますます明らかになるという。

それは知識ではなく、日常の生活のなかで浄化を実行しているかにかかっている。

マインドが清められ、清められたマインドから生じる「涼しい冷静さ」を体験するまでは三相をつかみ、自分の一部とすることはできない、という。

この三相とはヒトが勘違いしていることに対する叱咤激励ではないだろうか？

このような三相を学者が解釈する時に、三相を何か「ありがたいもの」、釈尊の教えや仏法（ダンマ）のようにして理解してきた歴史が人類にある。

仏さまは怒っているのか呆れているのか知らないが、この現状を悲しんでおられるかもしれない。

「わかりやすくまとめる」アプローチでは、常識では理解しづらいものを、抽象度を一つ上げて、何かありがたいものに変換することで、「わかないけれどもなにかわかった気になれる」と誤魔化すことで、大脳皮質は自分の存在意義（プライド）を維持している。大脳皮質は感覚器官を介した入力データを編集して「わかりやすくまとめる」ことを機能とし、それができないことはダメであると自らにレッテルを貼ってしまうか弱き癖と習性で生きているからである。

生命体らしく「わからない（分けない）のが一番いいのよ」とカッコよく胸を張れないのである。

このように我の塊で「おまんまを食べている（存在意義を見出している）」ので「無我」という言葉に弱い。

なんでも無我にしたがるのだ。特に翻訳となれば、門外漢にはわからないので、なんでも「無我」にしてしまう。

涅槃には4つの段階があるのだが、初めの1つ目は、預流（Sōtapanna）と呼ばれる段階で、10の「メンタルのつなぎ綱」の内の3つから解放される。全部解放されると阿羅漢と呼ばれて解脱するステージに至る。

この解放される3つの中の一つがsakkāya ditthi といって「有身見」と訳されているのだが、ウィキペディアあたりのレベルの情報だと、これにもわざわざ「 無我」であると注釈している。

私が「ある」と思ってしまう理由

「有身見」とは、自分自身と結びついている「魂」が不変で永続的なものであるという間違った見解もある。

また「わたし」とは自分の体のことだとも思っているので、体を美しく保つことが浄化つながるとする見解もある。

こういった内容と「無我」とはまったく意味が違う。

閑話休題、三相とは一般常識では理解しづらく、綺麗事では収まらないものである。理解しづらいのは当然で、唯一と思っている６感覚器官と大脳の働きによる認識アプローチでは到達できないもので、この領域を体感するには、大脳の認識システムの管轄外のアプローチから始まっているからである。

「わかりやすくまとめる」アプローチを真っ向から否定しているのではない。

「餅は餅屋」と、扱うもの（領域）によってメソッド（視点）が違うだけのことであるので、人工衛星のアプローチを否定しているわけではないので反発は必要なく、自分ができることを自分でやり、自分ができないことには口を挟まないことが混乱を避ける、と導師は提案しているのである。　

ところが、「わかりやすくまとめる」アプローチはこの提案を受け入れず、できないことまでやろうとすることで自己否定をすることになり、自己矛盾に陥るので、自我を守るために無意識のうちに誤訳せざる負えなくなり、三相を綺麗ごとにするのである。

大脳皮質の善意が自己保存（保身、サバイバル、存在）の「無明　ignorane」と結びついて、カタチになったのが歴代の誤訳である。

大脳皮質を過剰に利用することで特権を得ているトップ数％の人にとっては良い訳となるわけだが、自然の法則を大事にしないと生きていけない人たちにとっては迷惑千万であり、そのような訳をしたりそれに異を唱えずに同意してきた関係者には仏法を説明する能力に欠けるのではないか。

いや実際には私よりも本当に立派に生きておられる方が多いので、私にそんなことを言われる筋合いは全くない、ただ、できないことをしているのはそんなにカッコよくないんだぞ、ということぐらいは自覚してほしい。

ここのところをよろしくお願いいたします。

またもや閑話休題、そうです、三相がテーマです。すみません。

三相とは、つまずきの石と窪みのある崖に沿って歩くサングラスの男が、どこにも行くことができなくなった状態のことである。

サングラスの外し方は知らないし、周囲にはサングラスの暗さで見えはしないが、大きな石や窪みがあるため、すぐに転んでしまい、足元が確かでないことは感じているので、前にも後ろにも進めない、ましてや足元の崖下は岩と波しぶきである。

男の望むような転ばない幸運な状況は長続きしないので、転ぶ苦しみに襲われ続け、男は力なきみすぼらしい状態である。

三相とは、このままではどのような努力や苦労をしてもすべてが水の泡になって、何をやってもうまく行かないよ、という「愛ある？脅し」である。

釈尊の教えは、順調な人生を歩んでいる人（幸運）、自然の力の影響力が少ない時空で暮らす人（現代文明都市）、神経管で理解することを基準として生きている人（科学論理信仰）、脳を鍛える訓練を長期に受けてきた人（高学歴）、「部分」に特化した仕事をしている人（専門）、交換可能な世界を基準にしている人（紙幣への依存）、

自我の強い人（自己愛、自意識）、リベラルな思考を優先する人（表層意識）、　周囲の恩恵に気づかない人（無知）、分析できる物質や数字を仕事にしている人（理性）を基盤に暮らしている人には理解しづらい。

以上の共通点はどれもが「大脳皮質」によって編集されて作り出され世界である。

短期的視点で暮らす領域では、変化する感覚を常に求めてヒトは喜び、それによって現実のありのままの世界を見ることを避け、眼の前にある苦しみから逃げ続けて暮らしている。

上記の考え方が実在する時空では、脳がデザインした幸せの中で暮らしていける現実があるので、宇宙の法則を体感することが少なくても暮らしていけるばかりではなく、脳のルール（法則）を学習することで、社会的評価や収入や利便性などのメリットが数多くついてくる。

しかし、釈尊は断言する。

それらの考え方や生活は宇宙の法則に反しているので、大脳が作り出した幸せや満足を保ち続けることができず、

逆にそれによって不満足は苦しみに至り、この世で宇宙の法則に反して暮らせば、ヒトは無力でしかない、ことを。

そして、宇宙の法則が体感できる機会を何度でも与え、大脳の法則が支配する世界から離脱する方法を具体的に伝授する、と。

2018年に仏教書を一読したときのMatsuoの三相についての訳（解釈）

諸行無常　　

すべてのカタチになったもの、すなわち「自動的に反応して形を作り出す回路と作り出された形」は顕れては消えていく

一切皆苦　　

すべてのカタチになったもの、すなわち「自動反応回路とその生成物」は常に変化するので完全なものではない

諸法無我　　

すべてのありのままのモノ（流動するモノや現象や意識や法則や宇宙秩序）は「わたし」と調和を保ちながらも、自我がそれらのモノを勝手に自由にコントロールできるものではなく、ありのままの姿のモノはそれ自体の特性で成り立っている。

「行」の原語はパーリ語ではsaṅkhārāで、行いという意味よりも、勝手に形を作り上げてしまうもの、または条件反射や思考パターンのようなヒトの自動反射行動のことも指します。

「苦」の原語は、ドゥッカ (dukkha) であり、パーリ語の場合には単に、日本語の「苦しい」という意味だけではなく、「不完全」といったニュアンスも持ちます。

「無我」の原語は、anattāで、無我というよりも非我であり、「わたし」と対象物との調和や融解というニュアンスがあり、自我は対象物をコントロールできないという意味があります。　

「法」の原語はdhammāで、法律の法という意味ではなく、自我の色メガネによって曇っていない「ありのままの現象」、本当の教え、自然の法則、宇宙の秩序という意味です。

行　サンカーラ

サンカーラは広義の「万象」という意味と、狭義では、行動につながる「心の作用」のアウトプット、の意味がある。

広義の万象とは、潜在的な思いcetanaであり、停止することのない流れのことであり、これがサンカーラの本質である。

サンカーラを入力（インプット）と伝統的に捉えてしまうことが、五蘊を文字だけで理解して内容を理解していない原因である。

サンカーラとは狭義では認識システムの一部。

広義では宇宙の法則の一部である。

また、サンカーラとは「空」からカタチ（時空）が生じる際に、二つの境界にある自動変換回路のことである。

この回路も諸行無常、諸法無我、一切皆苦という宇宙の法則の一部なので、生起しては消滅するので永遠不滅のものではない。

そしてこのサンカーラ（回路）によって予めから決まっているカタチが産み続けられるので、この回路が産み出す「分別、カタチ、分離」に囚われることから抜け落ちることができると、あるカタチになってしまうという必然性から開放される。

従来の解釈を踏襲したひどいものである。

ヒト、具体的には「わたし」はこのようにインチキを積み重ねて、したり顔をして文章をこのように書き連ねるのである。

サングラスをした男の喩え

海岸の絶壁に沿って、サングラスをかけた年老いた男が歩いているとする。
足元には大小の窪みや転がる石が散らばり、歩みはぎこちない。

この男に、いま置かれている状態こそが「aniccā」であると伝えたとしよう。
この「aniccā」という不可解な語をどう解釈し、どう翻訳するかは、その人の立場やアプローチによって定まる。

人工衛星の視点は、周囲の環境を大局的にとらえ、全体をまとめて表現する。男の周囲を精度の高い望遠鏡で拡大してみれば、崖下から吹き上がる風と絶え間なく変化する波の様子を観察できる。
男はふと空を仰ぎ、サングラスを一瞬だけ外して雲の移ろいに「無常」を感じ、この深遠なる宇宙の移ろいに感動して再びサングラスをかける。
足元の状態を確かめることもなく。
この男は波しぶきと風の乱流を翼に感じて飛ぶ鷹のように、この自然の無常を「aniccā」と理解しているのであろうか？

これに対して、導師の視点は異なる。
老いた生命には時間も力も限度があるのだから、まずはサングラスを外し、足元を見よ、と促して、男が自ら直ちに行動を起こせるよう導くことが導師の視点である。
なぜなら、いつ崖から落ちるかわからないサングラスの男を救うには、まず状況を本人自身が気づき、行動を始める以外に方法はないからである。
導師の象徴たる釈尊ですら、直接男を救うことはできない。
できるのは「道」を示すことまでであり、その後は本人が自らの足でその道を歩むしかない。

サングラスをかけることで見たくないものを排し、滑らかなアスファルトのVR（バーチャルリアリティ）の道を男は歩いていると信じて満足している。
しかし、一方で、実際には石や窪みでつまずき続け、サングラスを外し方がわからず、前にも後ろにも進めなくなる。

この逃れられぬ「現実」と「想い」とのギャップからくる恐ろしさが「aniccā」のより深層の意味であることを受け止めることができるだろうか。

大局を分かりやすく語っているのか、それとも本人の行動を直ちに促すものなのか。
同じ状況であっても、視点によって「aniccā」の解釈は異なる。

それは翻訳者の立ち位置、現実の切迫感の理解、サングラスの男との親密度、そして自身の身につまされる心境と慈愛の深さにかかっている。

正しさという迷路　　　　考えるのではない、感じろ

オリジナルを参考にする度に起こるのが、表層で起こる「歴史の歩み」である。

「道」の世界では、「元来」に照らし合わせることを知的に求められているのではない。

オリジナルを実際に実践するかどうかである。

思考ではない、行動である。

思索とはオリジナルから離れることの象徴である。大脳皮質のメカニズムからくる限界は、循環器系器官と消化器系器官によって代行される、いや代行ではなく、それらが「生命体」の本道である、オリジナルを再体験するためには。

地球上の99.9％の生命体は大脳や五感器官を持たない。バクテリアのように。

「AIは、二進法は、記号は、大脳皮質は、カタチは、この世は、私は、心のプログラムは」

間違いを訂正する度に、正しくなれると勘違いしてしまう時空の中にある。　

間違いを発見し修正しても、その改善された箇所だけが他（の次元）に移行されただけで、これは新たな間違いを呼び込む行為でしかなく、求めていた「正しさ」はこの時空にはないということに気づくことはできない。

逆に改善されてベターな自分や環境になり、少しは正しくなったと思う分だけ、迷路に足を踏み入れたということでしかないのに。

「正しさ」の語源は、他者の村（邑）を踏みにじることであるのに。

日本仏教は、漢字を通して伝わってきたので、漢字で書かれた仏教と実際の釈尊の教えや修行の間には信じられないほどの違いが数多い。

それでも世界は動いている、正しいかどうかに関わらず。オリジナルからかけ離れていても。

これはこれで日本独自の日本教であり、TPOに相応しい大切な教えである。

日本教によって日本が救われ、日本は日本教によって成り立ってきた。

オリジナルが正しいのではない。

ただオリジナルには実践する意味がある。

伝統的誤謬の理由

「わたし」という自己は多層であり、下位であるほどバイアス（自動反応回路）を経由して実際のあるがままとのギャップが生じ、それらを混同することによって誤謬が生じた。

この文脈での「自己」の多層性は、心の９段階に相応する。心の９段階　自動反応回路化にいたる9段階

修行は自己の探求なので、無我や非我を「自己はない」と解釈するのは仏教の本義と矛盾する。

変化するものはatta（実質・実体・本質）ではない　

Anattā Lakkhana Sutta (SN 22.59)　 非我相経　英訳The Characteristic of Nonself

ダンマに反することadhammoは閉じた輪の中でanattā無力に導く　

Paṭhamaadhammasutta AN 10.113 　第一の非法経　　英訳Bad Principles (1st)

五蘊は無力anattāであるAnatta Sutta　SN22.14　　非我経　　　　英訳Nonself

実質がないこと（anāthā）　を避けて暮らすPaṭhamanātha Sutta (AN 10.17)　 第一の救護経　　英訳　Protector

self自己とno-self非自己anattaは極端である 　Channa Sutta (SN 22.90)　 チャンナ経　　英訳

自己に帰依する　　　kataṃ me saraṇa attano　　『われは自己への帰依をなした』

Mahāparinibbānasutta　DN16　20. Ānandayācanakathā　大般涅槃経　　　英訳　

他ではなく自己を避難所にせよ　Mahāparinibbānasutta　Dīgha Nikāya 16　大般涅槃経　　英訳

「自己を中洲とし、自己を避難所とし、他を避難所とせず、ダンマを中洲とし、ダンマを避難所とし、他を避難所とせずに住せよ」

Tasmātihānanda, attadīpā viharatha attasaraṇā anaññasaraṇā, dhammadīpā dhammasaraṇā anaññasaraṇā

saraṇa：[nt．] protection； help； refuge； a shelter．避難所、帰依

この文脈での自己や「わたし」は上述や下記のコラムの通り多層である。しかしこの多層性を固定したり、混同したり、集約したり、取り違えることで誤謬が発生する。

誤謬の原因　　

生命体には生来から対象をありのままに認識できないようにプログラミングされているので、誤謬を積み重ねる。

効率化、即効性、生存率、自意識化、部分化、特殊化、専門家などのバイアスがかかって対象を捉えるので、そのメリットも大きい。

ありのままに認識できない科学的理由と対処法

ヒトの認識が間違え続ける理由　

学門の可能性と限界

上座部仏教の見解　　ヒトはどのようにして認識しているのか　　

正しいものほど間違いだらけ　誤訳のある原典は信用ができる理由　　

因果関係の範囲の詳細　　　　あの世とこの世の詳細な段階

仏教の基準　世界観の前提　　　

修行の順序　　　Sotāpannaへの道

範囲と単位	エネルギー	重力
分子	あり	あり	一般科学
素粒子	あり	あり	量子力学 dhātu
ダークマター	あり	あり	bhūta
ダークエネルギー	あり	なし	dhammā
メンタル	０	なし	dhamma
0	０	なし	涅槃nibbāna

	層	コトバ	表現	話	意識	器官
１	表層	書き言葉	写実	小説	自己意識	大脳皮質
２	表層	話し言葉	アナロジー	童話・民話	意識・無意識	大脳辺縁系・脳幹
３	中層	記号・シンボル	直喩	伝説・昔話	潜在意識	心臓（循環器系器官）
４	深層	ﾎﾞﾃﾞｨﾗﾝｹﾞｰｼﾞ	隠喩	神話・教典	深層意識	小腸（消化器官）
５	層外・全層	なし	言葉ではなし	なし	非意識	体内微生物

コンピューター言語は１つの語句が１つのプログラムとしか関係性がないのとは対照的に、

あらゆる文化言語は１つの語句に多層の意味（プログラム）がある。

ただ学問や記録や文献は混同しないように、多層の理解を避ける使用法をルールにする傾向がある。

そして各個人は無意識の内に言語や方言や言い回しを使い分けて、「重層性」を表現している。

私個人で言うと、表層は日本語の標準語と英語、中層は日本語の方言とスペイン語、深層はやまと言葉と教典のパーリ語というように無意識の内に使い分けて多層性を確認して思考している。

	人生	人生の目的	美学	リズム	主体の視点	優劣	善悪	判断行動
１	青年期	理念	美・術	物理	五感と脳	優を選択	善の追求	合理性予測
２	幼児期	経済・貨幣	豊穣	神経	自動反応回路	分割１→２	善悪に分化	条件反射
３	成熟期	地域・交換	智慧	周期	振動	劣の再評価	悪の再評価	周期
４	老年期	家族・生命	静寂	自然	全体性	未分割	善悪なし	反射
５	生前死後	脱輪廻	無為	宇宙	他者

	地理	機能	アーシュラマ	大義名分	主要ツール	哲学	観点
１	都市	理性	家住期	正義	（合）理性	二元論	客観重視
２	街	感性	学生期	成長	感情・悟性	カオス	主観
３	村	智性	林棲期	義	智性（智慧）	相反一致	主観＝客観
４	森・山	脱言語	遊行期	往生	老人力	一元論	主観の禅定
５	地球内外	法性	生前・死去	再生・離脱		空論	大いなるもの

ヒトの４つの認識力

表層意識　理性　意図した意識　　　　 　大脳皮質　　　思考の連鎖　　　　　　　　　　　　　　　　　 　二つに分けて評価・判断 正の選択　 　推定・理念・理想	中層意識　智性　　意図した意識の限界 心肺　　　　　　振動、波動 負の意義　　分ける無意味さと負の再利用 非意識を全体性との関係の中で気づく 　同化・同感　　　直観
感覚意識　感性　　　　　　　　　　　　　 　大脳皮質　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　分けて察知　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　感覚器官で察知する　本能　直感感覚	深層意識と非意識　空性（脱言語）　 小腸・微生物 分けない　　潜在意識の理解 魂魄・悟り・全てとの繋がりと自立　　瞑想観

ヒトの４つの認識力

　　

表層意識　理性　意図した意識　　　　中層意識　智性　　意図した意識の限界

　大脳皮質　　　　　　　　　　　　　　　　　　　心肺　　　　　　振動、波動

　　二つに分けて正の選択　　　　　　　　　　　　　負の意義　　分ける無意味さと負の再利用

　　推定・理念・理想　　　　　　　　　　　　　　　無意識と非意識を全体性との関係の中で気づく

　同化・同感　　　直観

無意識　感性　　　　　　　　　　　　　深層意識と非意識　空性（脱言語）　意識を使わない工夫

　大脳辺縁系　　　　　　　　　　　　　　　　　　　小腸・微生物

　分ける　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　分けない

　五官　情感　本能　直感感覚　　　　　　　　　　　　魂魄・悟り・全てとの繋がりと自立　瞑想観

気まぐれという雑念　　　　AIのデータ入力の範囲の限界

同じ状況のデータを入力しても、AIの視点と気まぐれな人の視点では、評価と判断と行動が違う。

たとえばA点からB点まで来るまで向かう時、

AIは現在の渋滞の状況を処理して、近道の経路を紹介する。

人の気まぐれには、その渋滞情報を取得した後に、近くの銭湯やファミレスで渋滞時をやり過ごし、交通量が減ってから進む、ことや現在地から戻って家で過ごす選択肢もある。

　　

そのようなことも想定してプログラムすればいいというプログラマーは簡単に言うが、

うまい定食屋で検索していると、「こんばんのおすすめダイエット」とか、「ここにしかない限定の美味しいイタリアンの店」のデータは検索に引っかかってこない。

つまり、AIは「目的地」や「レストラン」で検索している時に、行かないことやダイエットの提案などの気まぐれには即座には応対できない。

こちらの深層心理、トラウマ、現在のTPO、学習してきた感性、無意識の回路をデータに入れて、いろいろな提案をするようにプログラミングするのは可能だが、この瞬間の気ままなマインドを察する探知法がないので、気が利かないだけではなく、こちらの怒りと嫌悪感を生んでしまって、プログラムを否定する可能性がある。

前世からのkamma、現世の体験による全部の回路、変化し続けている現状のTPO、これらのデータ全てを入力できていないので、各自の心にどんな雑念が浮かぶのかは、AIにも完全に想定できない。

これはテーマが違うエッセイになるので、またの機会にしよう。

主体とは何か？　　段階的わたし

釈尊は「アートマン（真我）も変化するものなので実体は持たない」「主体が対象を感覚しているのではない」、と説いたのであって、行為の主体を否定したことはない。

インド思想では、31領域のある期間の主体であるbhavaをアートマンとして変わらぬ実体としたが、

釈尊は、31領域のbhavaも変化し続けるものなので、この一時的主体であるbhavaは、絶対的主体であるアートマンではないことを説いた。

インド思想の大宇宙の構成要素と内的心理器官に関する創造原理

	宇宙マクロ	宇宙原理	宇宙具象化	宇宙我執	個ミクロ	内容
絶対者ブラフマン	Brahman				puruṣa ātman
根本自性	prakriti				prakriti
大	mahā ākāsh	時間 空間 方向
大なる実在原理 ３徳性guṇa	mahat mahat sattwa mahat jajas mahat tamas	実在 大善性 大動性 大暗性			sattwa jajas tamas
心素	chitta	大善性	宇宙心素samashti		心素 chitta
理智	buddhi	大動性	宇宙理智 samashti		理智 buddhi
我執	ahamkāra	大暗性	宇宙我執 samashti		我執 ahamkāra
微細知覚器官	jñānendriya		善性我執	５宇宙知覚器官samashti	５微細知覚器官	眼耳鼻舌身
意思	manas		善・動性 我執	宇宙意思 samashti	意思 manas
微細運動器官	karmendriya		動性我執	５宇宙運動 器官samashti	５微細運動器官	口語、手、足、排出、生殖
微細元素	tanmātrā		暗性我執	５微細元素	微細世界の万物
粗雑元素	bhūta				５粗雑元素	粗雑世界の万物

上座部仏教の９段階のcittaと宇宙創世

サーンキヤ	サンスクリット	内容	上座部仏教	説明
プルシャ	puruṣa	霊我　観照だけ	citta	変化のない実体　涅槃　出世間界
プラクリティ	prakṛti mahat	自性　 エネルギー	manō	puruṣaが観ることで平衡が崩れて「空」なる根本物質が「有」として展開する
ブッディ	buddhi	「知る」根源状態	mānasam 阿羅漢はここまで	全体性機能　paññā
アハンカーラ	ahaṇkāra	自我、　認識	hadayaṃ	様々な階層の認識に分離していく saññāの生成と、それへの執着
	jñānendriya		paṇḍaraṃ	執着に多くのエネルギーを割当てる
	manas		manōmanāyatanam	対象に受容的or憎悪的になる心
	karmendriya		mānaindriyam	レベルの範囲内で力を強化させる
	tanmātrā		viññāna	智慧は除去され世俗的な欲求・渇望
	bhūta		viññākkhandō	愛着を強め、現在の状況を評価し、将来への新しい希望と計画

次に地球における個体の生命体では

真我purusha（ātman）によって

根本自性prakritiは内部の3徳性gunaのバランスが崩れることで、

善性sattwaからは心素chitta、

動性jajasからは理智buddhi、

暗性tamasからは我執ahamkāraが生じ、

我執ahamkāraにも3徳性があるので

善性我執からは微細知覚器官jñānendriya

善・動性我執からは意思manas

動性我執からは微細運動器官karmendriya

暗性我執からは微細元素tanmātrā

微細元素tanmātrāからは粗雑元素bhūta

に具体化して、生命体になった。

これを発生した意識の順序に並べ、現代用語での表現を試みると

真我puruṣa（ātman）	真我意識	観照するだけだが、唯一の実体
根本prakrit 空prakriti （sattwa、jajas、tamas）	根本意識 真空意識	定まったカタチはなくdhammāエネルギーの塊 ３つの徳性のバランスが崩れるとカタチが創出する
心素chitta	全体性意識	善性　より微細なモノに抽象度を上げる機能をもつ
理智buddhi	分別意識	動性　　知を使って１を２にする機能
我執ahamkāra	枠組意識	暗性　　　具象化することで抽象度を下げる dhammāの塊がgatiが構成される
微細知覚器官 jñānendriya	直観意識	微細エネルギーのレベルで差異を知覚する　　　 視覚と聴覚のみで、嗅覚、味覚、触覚はない
意思manas	共通意識	２つをつなげるために共通点にスポットライトを当てる
微細運動器官 karmendriya	運動意識	微細エネルギーと身体の連動を体感
個我jīva	統合意識	アイデンティ 分類をまとめて統合する
微細元素tanmātrā 　　　　　　　 仏教でいうbhūtaのレベル	型式意識	パターン認識するアプリを作成する
粗雑元素 　　　　　　　 rūpaの中の細かいdhātu	概念意識	一般化、概念化、シンボル化する
物質rūpaの中の粗いdhātu　 五感覚器官の信号が基盤	自我意識	差異にスポットライトを当てる５感覚器官と心による認識手段
他者の意識をも信号に含有	自己意識	他者を含めた「自分」を主体として、感覚器官を通じて外界からの信号を認識する子供の意識

これをヒトの誕生から具体化する流れでの表現を試みると、

まずはヒト以前にある意識では、

ゼロ意識　　エネルギーを少しも持たない意識の外側にあるモノ

宇宙意識　　受精以前からあるエネルギーをもつ宇宙の意識

霊魂意識　　メンタル体がもつ「いのち」の意識

次のヒトの意識では、

真我意識　　受精の瞬間に生じる個がはじめて持つ純粋意識　　

真空意識　　受精の瞬間の意識　　定まるカタチはないが「いのち」そのものとなる意識

全体性意識　受精直後の意識　　　カタチはあるが境界線がまだ確定されていない意識

分別意識　　細胞分裂後の意識　　外部（母体や自分の身体）の信号を体感する胎児

枠組意識　　外界と自分の意識との間に違いがあることを内胚葉の蠕動で認識しはじめる胎児の意識　

直観意識　　眼耳鼻舌身の感覚器官からではなく、微細な波動を直截に認識する胎児の意識

共通意識　　中胚葉（循環器系器官の波動）で外部の波長と同調することで対象と共通性を感知する胎児の意識　

行動意識　　自分の微細体と肉体がつながっていることがわかり、肉体を意識的に動かす胎児の意識

統合意識　　内胚葉/中胚葉/外胚葉が器官となり、信号の差異を把握して、それらをまとめて統合する新生児の意識

型式意識　　パターン認識　　インプット信号に対応する自動反応回路で世界を認識する乳児の意識

概念意識　　シンボリズム認識　　外界の信号をシンボルとして認識する幼児の意識

自我意識　　「自分」という主体を基準にして、感覚器官を通じて外界からの信号を認識する幼児の意識　　

自己意識　　他者を含めた「自分」を主体として、感覚器官を通じて外界からの信号を認識する子供の意識

こうして自意識が発生し、概念（言語による一般化）学習もはじまる。

成長期は道具を使うことで概念が実在するものと思い概念的生物に育つ。

しかしこの自意識（理性）にはいろいろな限界があることを知り、次の段階では智性のステップへ進む。

サーンキヤ	インド哲学	意識	ヒトの誕生	唯識派
パラアートマンparamātman	ブラフマン	宇宙意識		涅槃 絶対者
プルシャpuruṣa	自己 atman	真我意識 エネルギーを持たない意識	受精の瞬間	変化のない実体　　 観照するだけ
プラクリティ prakṛti	原質、自性	真空意識　　　 根源意識	エネルギーをもつ意識の原形	超感性的な根本物質自性エネルギー
chitta	心素	全体感意識	カタチはあるが、境界線がまだ確定されていない意識
buddhi	理智	分別意識	外部（母体や自分の身体）の信号を体感する胎児	様々な階層の認識に分離する 思惟機能　識viññāna 阿頼耶識　　　　知る根源状態
アハンカーラ Ahaṅkāra	我執	枠組意識　　 複数の波動で立体的に認識	内胚葉の蠕動で認識する受精数週間後の胎児	感覚器官と心による認識 自我意識 末那識
Jñānendriya ジュニャーネンドリヤ	五感覚器官	直観意識	微細な波動を直截に認識する胎児	意識
マナス manas	意	共通意識	中胚葉の波動で認識する 新生児	意識
カルメンドリヤKarmendriya	五行為器官	行動意識	自分の意識と体がつながっていることを認識する	手足性泄発声
ジーバjīva	個我	統合意識	信号をまとめて認識する
タマントーラ Tanmātra	五唯（五境） 五大	潜在意識　　 パターン認識	外界の信号がインプットされるとアウトプットが対応する自動反応回路で世界を認識する乳児	前意識
粗雑元素bhūta　　　　　　　　　　　　 潜在意識		概念意識　　 シンボリズム　　 一般化、言語化	外界の信号をシンボルとして認識する乳児から幼児
物質rūpa		こうして自意識が目ざめ、言語学習もはじまる。	「自分」という主体を使って感覚器官を通して外界からの信号を認識する幼児

この表層意識を基準にしたままで死亡していくケースも多いが、変化し続けている環境の中で暮らしていることに気づいた者の中には、生まれてきた意識を遡っていく賢人も現れてくる。

こうして、一般的な生活者と賢人と呼ばれる修行者の生き方によって、死生観に違いが出る。

自我意識　　感覚器官を通して外界からの信号を「自分」という主体を使って認識する日常生活の意識

概念意識　　概念による過剰一般化によって世界を認識していることに気づき、それを弱体化する。

型式意識　　インプット信号に対応する自動反応回路で世界を認識していることに気づき、これを弱体化する

統合意識　　分析して統合するアイデンティティーによって世界を認識していることに気づき、それを弱体化する。

行動意識　　自分の意識が物質化することを認識し、物質エネルギー化してしまう意識を弱体化する。

共通意識　　他の生命体との共通項にスポットライト当てることで区別することを弱体化する。　

直観意識　　元素の基になる微細エネルギーを体感して、粗大エネルギーによる影響を弱体化する。

枠組意識　　イメージは定義する（枠組み）によって世界を認識していることに気づき、それを弱体化する。

分別意識　　知は分別によって世界を認識していることに気づき、それを弱体化する。

全体意識　　「ありのまま」は分けずに直観よって世界を認識していることに気づき、それを弱体化する。

真空意識　　なにもない空間から時空の点が湧き上がる刹那を感じるのを待つ意識を育み、エネルギーと関わる意識を弱体化する。　　　　　　　これがアートマン（我）だと仮定する。

真我意識　　時空とエネルギーを持たない元来の自分の意識に出遭う　エネルギーが０のパラアートマン（梵）　　

霊魂意識　　メンタル体がもつ意識

宇宙意識　　受精以前からあるエネルギーをもつ宇宙の意識

ゼロ意識　　エネルギーを少しも持たない意識

なぜパーリ語なのか？　　固定観念のない把握方法は新しい言語

基本をなす語句　　誤謬の数々　　上座部仏教　　苦　　無常　無我　　　ダンマ　五蘊　

パーリ語仏教用語

釈尊はマガダ語（マガディー語 Magadhi　）を話していた、と推定されている。

マガダ語をmagga（道）の言の葉と解釈する人もいる。

それがインド・ヨーロッパ語の一つであるパーリ語に翻訳された。

しかしパーリ語には文字がなかったので、シンハラ語を始めとした各地の音声文字（アルファベット）で書き留められた。

したがって、もし翻訳された仏典に誤訳があるのならば、釈尊の教えを理解するためにはパーリ語を理解する必要がある。

次に実践について。釈尊が弟子に教えていた実践が瞑想である。

いくつかの種類の瞑想があることが三蔵に残っているので、今日でもそれらを私たちは知ることができる。

例えば、アーナ・パーナーやサティ・パッターナやヴィパッサナーといった瞑想法などである。

このように、パーリ語の意味を学び、瞑想の実践を両翼にしてはじめて釈尊の説かれた「道」を体感することができる。

このエッセイでは、パーリ語が中国の漢字を経て日本語になる過程で言葉の意味が限定され、変化してきた事実を気にしながら、これまでに気づかなかったパーリ語の深層にある意味にスポットライトを当ててみたい。

私はこのことに気づくことが遅れてしまったので、もうそれほど先は長くないが、現代の私たちの誤解を記しておくことで、次の時代は釈尊の教えと実践がもっと体感しやすい環境になることを祈って今日も作業に当たる。　

仏典の全ての語句は私たちの日常生活ではなく、この世の閉じた輪から解放されることを前提とした、あの世とこの世がつながっている時空を基準にしている。

この基準点については後述の「仏教の基準点」という、仏教の常識、社会の非常識を参照してください。

だから日常生活の語句ではどうしても捉えることができないのが仏典の言葉である。

語句をちゃんと理解する唯一の方法は、あの世とこの世がつながっている地点に自らが立つ以外になく、そのために実践をして個人の体験を深めていなければ、経suttaを読んでも誤解に誤解を重ねることになってしまう。

また日本人にとっては、どのような分野に限らず、「事実」を学ぶにあたっても大きな弊害がある。

それは言語の問題だ。

大きなところで、漢字の限界、やまと言葉の無理解、そして翻訳の誤謬。

漢字という象形文字を使うことで、その意味に引っ張られる。

やまと言葉のバイブレーションを理解しないで使われている。

19世紀に当時の支配者階層の欧米の概念は漢字を使って翻訳されたことで語句と事実とのギャップがある。

そして今回はプラスαで、仏教という言語が通じない領域を言葉で表現するというチャレンジをしなければならない。

仏教とは「苦しみから解放」されるために、同じようことが何度も繰り返される閉じた輪の世界から離脱するための教えと実践を、自らの実際の体験を通して現実化した釈尊自身の体験からの提案である。

この実践は言語活動の時にはフルに使っている大脳皮質の機能と働きを逆に制御して抑えることで、体内の他の機能を活性化させる手段を用いる。

するとそのような状況で体験することは必然的に大脳皮質の機能では理解できるものではないし、大脳皮質によって機能している言語では表現できるものでもない。

言語を使って表現するならば、これらの実践の体験の後に、このようなものだったと過去形の比喩を使って伝えるしか方法がないのである。

固定観念のない把握方法は新しい言語

新しい概念を学ぶには「未知の言語」が適している。そしてそれが現代では使われていないものならばなお良い。というのは、ただ新しいモノにただ名前がついているだけで、それが何であるのかは、あらゆる推察を許さないので、その新しいモノが使われているできるだけ多くのTPOを直接に体験し、そこからその名前のついたモノがどんな内容なのかを察するしかないからだ。

それを始めから翻訳したもので学んでしまうと、自分の既知なるモノを使って「編集」してしまうことになり、未知なるモノが特徴的なTPOの中で周囲とどのような関係性を持っているのかという基本（基準点）に立ち返る回数が減ってしまう傾向があるからだ。

そして、現代語でなければ、現代語のsaññā（一般化する時に必要な定義の元型、概念、五蘊の一要素）がないので、現代での意味やイメージや体験に引っ張られる（影響をうける）ことがなくなる。

難解と言われる理由　　脳では把握できず修行しないとわからない世界

たとえば植物の認識システムには脳（神経管）や四感器官（目、耳、鼻、舌）（オジギソウは触感がある）はないが、外界の変化を察知して反応している。

また、多くの生命体は重力に反応するが、無脊椎動物は感知器官を持っていないが、未知の重力感知機能があると推測されている。

他にも、圧・化・水・磁・流・電気・温度・接触に対して反応する行動を生物学で走性taxisという。

たとえば、視覚を持たないミドリムシ（ユーグレナ）属は光を当てると光源に向かって移動したり、プランクトンの中には反対に光から遠ざかったりするものもいる。

また、ヒトの電磁波を感知する器官は特定されていないが、電磁波過敏症という症状は存在する。

これらのことから、神経管と感覚器官がなくても、外部の信号に反応する機能があることは明らかである。

そしてただ感知するだけではなく、外部の信号や物質を内部と融合するのが生命体の特徴である。

たとえば「消化」とはついさっきまでは他者であったものを食べることによって自分の一部にするという魔法の儀式である。

このように生命体は神経管（脳）以外でも外部と相互に交流していることは明らかである。

そして釈尊の教え。

この教えは、5感覚器官と大脳皮質を介した認識システムの外側にあるものを把握するアプローチである。

１　言動を調える

２　マインドをコントロールする

禅定、微細感覚器官で把握したものに集中することで、対象と自己が融解して一体化する訓練し、新たな認識経路を知ることができ、

大脳皮質での認識方法のギャップを体感し、これまでに信じていた「自分」や自分の認識の領域の内側と外側、

そしてシステムそのものの限界を自覚するようになる。

３　道を歩む　　　潜在意識にある回路の弱体化と削除

脳の限界に気づかない時に起こる、間違った見解（Micchā diṭṭhi 固定観念　決めつけ）に気づくことができるので、これを修正することで、苦しみから離脱する

認識システムの中のsaṅkhārāとsaññāとvedanāのタグが苦しみの原因なのでこれを除去したり、上書きしたりすることによってこれまで学んだ固定観念を変えることができる。

そのためにはこの固定観念を作った時の積極的な主格「私」ではなく、感覚の変化を受動的に待つ「知る機能　knower」でその固定観念の回路を弱体化させる。

この「知る機能」は神経学や心理学で「観察者observer」と呼ばれているもので、釈尊のいう五蘊のviññāna（識）の上位バージョンである。

心の９段階　　自動反応回路化にいたる9段階

文字では「観察」だが、これは目で見ようとしたり、ビジュアライゼーションしたりすることではない。

実際にはこの「知る機能」がしている「観察」とは、「感じること」、気づいていること、寄り添うこと、察知しているという意味である。

パーリ語は普通の言語であった

文字がなかったこと、現代では使われていないこと、多くの人にとっては学んだことのない言語であること、釈尊の教えがパーリ語で残されたこと、といろいろなことが重なることで、パーリ語が魔法の言語となった。

学習や現実や翻訳に縛られてしまった私たちは、無垢の状態からパーリ語と付き合い始めることで、これまでの学習した概念をつなぎ合わせたりして「編集」で理解していた方法を休んで、「いま・ここ」の状況で体験したことだけをベースにする方法に無意識の内に入ることができるようになり、言葉が本来もっている重層的意味にアクセスする入り口になった。

パーリ語とマガダ語

現在パーリ語は上座部仏教の経典と儀式に用いられる文語（典礼言語）として形を留めるのみであり、元来どの地方の方言であったかは不明確である。上座部仏教では自らの経典を仏の直接の教えとする観点から北東部のマガダ語と同一と見られてきた。

しかし現在ではアショーカ王碑文との比較からインド中西部のウッジャイン周辺で用いられたピシャーチャ語の一種とする説が有力である。ただし、マガダ語とパーリ語は、言語的にそれほど相違しておらず、語彙をほぼ共有し、文法上の差異もさほどないなど、むしろかなり近似的な関係にあったと推定されている。

最古の仏教文献は、釈尊の故郷であるマガダ地方の東部方言からパーリ語へ翻訳されたと推定されている。このために、パーリ語はアショーカ王碑文のうち西部のギルナールの言語に最も近いが、その中にマガダ語的な要素が指摘されている。

釈尊はマガダ国の釈尊族の王子（マガダ国の地方豪族の子）で、当時のマガダ国は現在のインドのビハール州に当たります。現在のインドで、ビハール州を中心に話されているビハリー語 Bihari のマガディー方言（またはビハリー諸語のマガディー語 Magadhi）（マガヒー語 Magahi ともいう）は、釈尊が話していたマガダ語の後裔言語（の一つ）です。

釈尊の時代の紀元前5世紀ごろのマガダ語は、当時のインド北部の話し言葉「プラークリット語（サンスクリットに対して俗語的なインド・アーリア諸語の総称）」の一方言でした。サンスクリット語は当時すでに神官が暗唱する雅語で、一般の人が普段話す言葉でありませんでした。

釈尊の時代のインドにはまだ文字がなく、初期の仏典は、弟子たちが師の言葉を話し言葉（マガダ語）で暗唱して口伝されました。釈尊の死後200年ほどたって、ブラフミー文字が（たぶんアラム文字から）作られ、アショーカ碑文が作られます。アショーカ碑文もプラークリット語ですが、多くにマガダ語の影響が見られます。同じころ、それまで口伝された仏典が、同じプラークリット語の一方言であるパーリ語で記されました。パーリ仏典の中には、マガダ語の痕跡が残っているものもあります。

口伝された経典は、何度か「仏典結集（ぶってんけつじゅう）」といわれる編集作業が行われ、そのときに、複数の弟子たちが暗唱している仏典を照らし合わせて、間違いを修正してまとめることが行われました。弟子たちはマガダ人だけでなかったので、他の方言もまざります。それをまとめる過程で、マガダ語よりパーリ語の比率が高くなり、数百年後に文字に書かれるときには、パーリ語が主体になったのです。マガダ語とパーリ語は方言関係にあり、マガダ語がプラークリット語の東部方言、パーリ語は西部方言とされています。もちろん互いに通じます。

サンスクリット語が文語として書き言葉に広く使われるようになったのは、アショーカ碑文より数百年後で、大乗仏典の多くは、サンスクリット語が文語として文字表記されるようになった紀元後１〜３世紀に書かれたものです。

マガダ語を含むプラークリット語は、その後、500年を経て、紀元5世紀ごろに、アパブランシャ語といわれる中世インド語（互いに通じない複数の方言からなる）になり、アパブランシャ語から10世紀ごろ、ヒンディー語やビハール語などの現代インド諸語が成立します。マガダ語の後裔の東部アパブランシャ語から、現代のビハール語やベンガル語やアッサム語が成立します。

釈尊の言語　釈尊の時代の正統バラモンの言語はサンスクリット語でした。西のギリシャ語に似たア−リア民族の言語で文法の整備された格式高い言語でした。インドエリ−トに相応しい言語でした。もとバラモン教徒から釈尊の弟子となった兄弟の仏弟子が居ました、釈尊の高尚なさとりの内容を卑俗な言語で説くことは仏教の冒涜になると考え、釈尊にサンスクリット語で説法するように願いました。釈尊はその要求を却け、だれでも理解できる一般民衆の言語で説くと宣言し、サンスクリット語の採用を禁止しました。この言語方針はのちに仏弟子の幹部に継承されて南伝の上座部系仏教となり、スリランカ・ミャンマ−及びタイ国ら東南アジア仏教となります。他方、釈尊後三百年以上経過した西北インドからアフガニスタン地方のギリシャ人に伝わった改革派仏教はギリシャ語に近いサンスクリット語で経典が作られ、ここに仏教に二大潮流が生じたのです。こちらを大乗仏教と呼びますが、後に詳述します。

ありのままの現実をみることができない「無明」の力

ヒトが生命体の本能に気づけないのは、自動反応回路によって、無意識のうちに行動を起こすことで問題もなく生きていけるため、ありのままの現実や本能に気づく必然性がない。

これを無明と呼び、仏教でいう存在欲の「貪瞋痴」の一つである「痴」のこと。

無明とは、自分の本能を知ることができなくなる病気のこと。

ありのままの現実を知る必然性がこの世にないことから、それを知ろうとしないのも無明の力。

無明がないことを智慧という。

無明を消すには無明があるという事実を見守っているだけ

「無明がある限り、三種類の渇愛が現れてくる」と釈尊は生命体の深層を分析した。　　出典？

常に刺激を求める欲、刺激に依存することで生きようとする欲、肉体の依存を超越しようとする欲の３つ。

欲愛kāmataṇhāとは、感覚に対する渇望

有愛bhavataṇhāとは、より高いレベルに行きたい、そして永遠になりたい、という存在欲のことで、仙人はこれを否定しない。

非有愛vibhavataṇhāとは、もう存在したくないという欲で、「存在は嫌いだ、存在しない方がありがたい」と欲すると、それは怒りのような欲になる。

AN6.106 Taṇhāsutta

DN22　Mahāsatipaṭṭhānasutta

MN9　Sammādiṭṭhisutta

「物質的な欲愛kāmataṇhā、有愛bhavataṇhā、非有愛vibhavataṇhāの3つがある限りは悟りではない。」

そこで「生命はなぜ無明を根本原因にして限りなく輪廻転生していくのか？」という事実をしっかりと観てみる。

すると、これだけで無明も、生きていたいという渇愛が弱まってしまい、最後には消えてしまい、そして輪廻転生が終わる、と上座部仏教の長老は言う。

なぜならば、無明という存在があることに気づき続けていれば、無明の最大の特徴である「自分（本人）が知らないうちに行動してしまう」という無明を存続させる武器（エネルギー）が使えなくしてしまうからである。

このように、無明は意識されないことが強みであるのに、無明にスポットライトを当て続けられると力はどんどん弱まってしまう。

解脱後のブッダの最初の言葉とは？　　

夜の終わり、これまでの永劫の過去世を観とおすことができるようになった釈尊

Dhammapada Verses 153 and 154

閉じられた輪の中の数え切れない誕生で、

一切の成果を見出すことができぬまま、

この家の作成者を探してきた。

その度々に新生の苦悩をあじわいながら。

家の建造者よ！今、あなたは見られている。

あなたは私のために再び家を建てることはもうない。

家のすべての梁（桁）は壊された、

家の整備（柱）は粉砕された。

心は自動反応回路（サンカーラ）から解放された。

（ついに）渇望が滅した中道に至った。

すべてのサンカーラは変わりゆくもの

これを深く内観すると、

苦悩から離脱することになる

これが清浄の道

Namo Tassa　　Bhagavato 　Arahato　　　Sammāsambuddhassa

これは仏教の三宝（仏、法、僧）への敬意を表す言葉です。

具体的には、「世尊（Bhagavato）」は仏陀、「阿羅漢（Arahato）」は煩悩を滅し尽くした聖者、「正等覚者（Sammāsambuddhassa）」は完全な悟りを開いた者、という意味です。

namo | tassa | bhagavato | arahato | sammāsambuddhassā

homage | to him | the worthy one | without defilements | perfectly enlightened one

namo be my adoration to．　　南無，礼拝

tassa　　　それに　　　　ta （so= he，tad = that thing，sā= she） の dat．gen．　

bhagavato = worthy one 　　　Blessed One 　　　　

bhagavā：Worshipful，venerable，blessed，holy．

This word is generally used as an epithet(別称) or name of a Buddha，in particular，Sākyamuni（釈尊族の賢者）

arahato = one who has removed all defilements without defilements

sammāsambuddhassā = perfectly enlightened one　 　　　the Fully Enlightened One

私はまだsammāsamの二度目のsamの意味を理解していない。

漢字ではsammāsambuddhaは正自覚者と訳されている。

ブッダという言葉は、智慧に達した人という意味で、解脱に達する人は誰でも智慧を完成するので、理論上はブッダ（buddha）である。

Buddhaとは、固有名詞ではなく普通名詞なので、釈尊に限定される時には、sammāsambuddhaという言葉を使うことになる。

釈尊は覚りに達する道の先駆者で、神々を越えた才能を持っていたので、言葉で語ることは不可能な、真理に達する道と解脱について、解き明かすこともできた。　　　他人の指導を受けず解脱に達したことと、その道を他人に解き明かせる能力が具わっていたので、buddhaではなくsammāsambuddha と言う。

したがって、samとは自力での解脱と、解き明かす能力の両方を指すことかもしれない。

以下の経の中で見られる。

1. sakkapañhasuttaṃ (DN 21.8)

2. piyajātikasuttaṃ (MN 87.1)

3. brahmāyusuttaṃ (MN 91.1)

4. saṅgāravasuttaṃ (MN 100.1)

5. dhanañjānīsuttaṃ (SN 7.1)

6. kāraṇapālīsuttaṃ (AN 5.194)

First, the Sakka-pañha Sutta (DN 21), in Pāḷi:

atha kho sakko devānamindo pāṇinā pathaviṃ parāmasitvā tikkhattuṃ udānaṃ udānesi —

“namo tassa bhagavato arahato sammāsambuddhassā”

sakkapañhasuttaṃ (DN 21.8)

すると、天王サッカは手で大地に触れ、三度唱えた。

「尊き者、聖なる者、正に自ら覚りたる者に敬意を表します！」

Then Sakka, the deva-king, touched the earth with his hand and said three times,

“Homage to the Worthy One, the Blessed One, the Rightly Self-awakened One!”

Second, the Piyajatika Sutta (MN 87), in Pāḷi:

atha kho rājā pasenadi kosalo uṭṭhāyāsanā ekaṃsaṃ uttarāsaṅgaṃ karitvā yena bhagavā tenañjaliṃ paṇāmetvā tikkhattuṃ udānaṃ udānesi — “namo tassa bhagavato arahato sammāsambuddhassa, namo tassa bhagavato arahato sammāsambuddhassa, namo tassa bhagavato arahato sammāsambuddhassā”

piyajātikasuttaṃ (MN 87.1)

するとパセーナディ・コーサラ王は、席から立ち上がり、上着を片方の肩にかけ、両手を胸の前で合わせ、世尊の方向に敬意を表し、三度叫びました。

世尊に敬意を表します。正しく自ら悟りを開いた、ふさわしい世尊に敬意を表します。

世尊に敬意を表します。正しく自ら悟りを開いた、ふさわしい世尊に敬意を表します。

世尊に敬意を表します。正しく自ら悟りを開いた、ふさわしい世尊に敬意を表します。

釈尊の時代にはいなかった大日如来や阿弥陀如来

如来 （にょらい）とは、パーリ語のTathāgato、サンスクリットのtathāgataの漢訳であり、語義は諸説あるが、仏教で釈尊や諸仏の称呼に用いられる。

仏陀の10の称号である十号の一つ。如来を総名として十号の内に数えない場合もある。

この上なき尊い者という意味で無上上ともいわれる

英語 One who has thus gone

中国語 日本語 如来(ピン音: rú laí/ Cantonese=yu loi)

如来Tathāgatoとは、真理に達した人、現代の日本語で言えば、「卒業者」という意味である。

如来の意味を釈尊はパーリ経典の中で定義している。

1.　過去・現在・未来に関わる一切の物事について、時期を見計らって、意義のあるものを、人の役に立つように、またありのままに語るのです。

2.　人間・神々を含む一切の生命が知るもの・考えるもの・経験しているもの全てについて、覚っているのです。

3.　自分で覚って発見している真理のみを他人に語るのです。

4.　自分が解脱に達してから涅槃に入るまで説くことは必ずその通りである、変わることはあり得ない。

Pāsādikasutta　Dīgha Nikāya 29清浄経　　英訳　An Impressive Discourse

中村元による解釈

仏教学者の中村元によれば、「タターガタ」（tathāgata）とは本来、「そのように行きし者」「あのように立派な行いをした人」という語義であり、仏教・ジャイナ教・その他の古代インド当時の諸宗教全般で「修行完成者」つまり「悟りを開き、真理に達した者」を意味した語であるが、「如来」という漢訳表現には「人々を救うためにかくのごとく来たりし者」という後世の大乗仏教的な見解がひそんでいて、初期仏教における語義とは乖離があるという^[6]。

Tathāgata (Sanskrit: [tɐˈtʰaːɡɐtɐ]) is a Pali and Sanskrit word; Gautama Buddha uses it when referring to himself in the Pāli Canon. The term is often thought to mean either "one who has thus gone" (tathā-gata) or "one who has thus come" (tathā-āgata). This is interpreted as signifying that the Tathāgata is beyond all coming and going – beyond all transitory phenomena. There are, however, other interpretations and the precise original meaning of the word is not certain.^[1]

The Buddha is quoted on numerous occasions in the Pali Canon as referring to himself as the Tathāgata instead of using the pronouns me, I or myself. This may be meant to emphasize by implication that the teaching is uttered by one who has transcended the human condition, one beyond the otherwise endless cycle of rebirth and death, i.e. beyond dukkha.

The term Tathāgata has a number of possible meanings.

予定コラム

悟っていない日本仏教　　白隠禅師　　白隠の悟りとは

乙女の瞑想の可能性と限界　　　都市文明化と自然破壊　　自分に都合の良い悟り方と他者への強制

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大乗仏教の言い分　　　系譜　進化（方向性）　菩薩　一般の救済という正義　　救済　一般化

西洋哲学　現象学の地点　　　　ニーチェの超人間とは仏教のこと？

釈尊の教えの時代を迎えて　　現代そして未来の教え